海洋安全保障情報旬報 2021年4月11日-4月20日

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4月11日「新しい戦略と多くの能力試験によるロシアの北極地域での軍事活動拡大―米国防関連誌報道」(Defense New, April 11, 2021)

 4月11日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは“Russia’s Arctic activity to increase with fresh strategy and more capability tests”と題する記事を掲載し、ロシアの北極地域における軍事活動は、新しい戦略の下で原子力潜水艦の北極氷原浮上などのさまざまな能力試験によって増強されていくであろうとして、要旨以下のように報じている。
(1) ロシア政府は、北極地域における経済的及び軍事的側面を組み合わせた北極開発に関する統一文書を間もなくPutin大統領に提出する。同大統領が2021年3月初めに作成を命じたこの文書は、ロシアが2021-2023年に議長を務める北極評議会の中で、ロシアの軍事・経済計画の議題として提示される予定である。The Stockholm International Peace Research Institute(以下、SIPRIと言う)の2021年3月の報告書によると、ロシアの天然ガスの80%と石油の17%は北極で産出されている。この地域全体は競合国間の軍事的競争と経済競争の両方の将来の戦場として見られている。Putinは、2014年に北極地域に関するロシア安全保障理事会の会合で「この地域には伝統的に、我々の特別な権益がある。実質的に国家安全保障のすべての側面(軍事、政治、経済、技術、環境、資源の面)がここに集中している」と語っている。また、初めてロシアの軍事ドクトリンに「北極におけるロシアの権益を守る」という文言が含まれた年であった。「北極での軍事活動は地域の確実な管理と権益の保護のために必要である。北極におけるロシアの軍事力強化は経済戦略の一部である。」とロシアシンクタンクThe Institute of World Economy and International Relations (IMEMO)の若手研究員Ilya KramnikはDefense Newsに語っている。2021年3月の演習では、ロシアの原子力潜水艦3隻が同時に北極の氷原に浮上した。報告を受けたPutinは、この訓練を「ソ連時代とロシア連邦の近代史の歴史の中で」前例のないものであると呼んだ。一方、The Defense Ministryは、Su-34とSu-35戦闘機だけでなく、B-200水陸両用機を含む多様な機種の軍用機を間もなく北極圏で試験すると語っている。B-200水陸両用機はしばしば消火のために使用されるが、北極での主な任務は捜索・救助活動となる。
(2) 2021年3月23日、元軍テストパイロットであったIgor Malikovはロシアの日刊紙Izvestiaに、この地域において航空機を運用する場合の主な問題は低温のためコンピュータ機器が作動不良になることであると語った。海軍の水陸両用戦部隊は最近、伝統的に狩猟のためにトナカイそりや犬ぞりを使用する地元の人々と連携し、犬ぞり等の操法の演練を行っており、「海兵隊員は長い間、北極の地元の部族の生存経験を研究してきた」とロシアの日刊紙Nezavisimaya Gazetaの軍事担当上級編集者Dmitry LitovkinはDefense Newsに語っている。北極地域で必要な装備を軍隊に供給するために、軍は北極で軍の貨物を輸送する業者の応札を求めると発表した。約4億6,400万ルーブル(600万米ドル)の価値がある入札は非公開のもので、国防省から招聘された者だけが入札できることを意味する。国防当局は2020年、船に燃料を供給するために6隻のタンカーを建造する計画を発表した。日刊紙イズベスチアによると、タンカーは2028年までに就役すると国防省は語っている。
(3) 北極地域におけるロシアの軍事力の展開は近年、より目に見えるようになってきた。ロシアは、北極地域のロシア軍を監督する北洋艦隊統合戦略司令部を設立した。2019年、国防当局は、この地域において19の飛行場が建設され、また近代化への改修が行われたと報じている。最大の飛行場はフランツヨシフ諸島にある。その飛行場はIl-76空輸機を含む異なる機種の航空機を配備することができる。それでも、この地域での軍事力増強はソ連の下で見られるものよりは少ない。Gazeta.Ruの主任軍事アナリストMikhail Khodaryonok元大佐は「ソ連時代の北極への展開ははるかに強かった。現在のロシアの展開はソ連時代のレベルには達してはいない。しかし、ロシアは経済的利益を守るためにこの地域の軍事力を強化し続けるだろう。他国と交渉することは必要である。しかしそのためには、軍事力が必要だ」と語っている。彼はSIPRIの3月の報告書と同じように「この地域での軍事活動は冷戦に比べて低いが、増加している」と述べている。他のロシアの専門家と同様に、Khodaryonok元大佐もロシアの排他的経済水域を通過する北極海ルート(以下、NSRと言う)を注意深く見守っている。ロシア政府はNSRを世界で最も使用されている航路の1つであるスエズ運河と同等の商業通商路にしたいと考えている。しかし、ロシアがNSRに対する完全な主権支配権を持つ試みは、米国による挑戦を受けている。Khodaryonok元大佐は「ロシアの立場には誰の何の支援もない。米国が航行の自由を行使するために空母グループを派遣するならば、我々は何ができようか」と言った。NSRの支配に対するロシアの関心は、2021年3月下旬にスエズ海峡を通るタンカーの動きを麻痺させたEver Givenのコンテナ船の座礁事案の後で、さらにかきたてられた。しかし、モスクワのThe HSE University上級研究員Marcel Salikhovは、国際的な貨物事業者の大半はロシアが「戦略的管理の理由からNSRへの容易なアクセスを提供する」準備ができていないので、NSRを「危険」と考えるだろうとDefense Newsに語っている。
記事参照:Russia’s Arctic activity to increase with fresh strategy and more capability tests

4月12日「米国の対ヨーロッパ・対アジア戦略に関して地図が何を教えてくれるか―米 Naval War College教授論説」(19fortyfive, April 12, 2021)

 4月12日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは、米Naval War College海洋戦略教授James Holmesの“What Maps Can Tell Us About U.S. Strategy For Europe And Asia”と題する論説を掲載し、そこでHolmesは客観的に思われる地理・空間の認識がいかに主観的なものである場合があるかについて、要旨以下のとおり述べた。
(1) Darrell Huffは1950年代に『統計でウソをつく法』という著作を発表した。彼によれば数字は中立であるが、それを人々がどう利用するかは主観的かもしれないとして、読者に警告を与えた。同じことが視覚的イメージにも言える。地図のような一見客観的な視覚イメージでさえ、事実だけでなく政治的メッセージを伝達するものでもある。
(2) 2012年にObama政権がアジアへの「回帰」を宣言したときの大騒ぎを振り返ってみよう。ヨーロッパ贔屓の人々は即座に、この方針がヨーロッパに背を向けるものであり、重大な過ちであると抗議した。しかし、それは米大陸を中心としてユーラシア大陸を左右に分断して描写する、メルカトル図法の世界地図に基づく誤った認識である。
(3) その地図は、米国は大西洋をまたいでヨーロッパに向き合うか、太平洋をまたいでアジアに向き合うかのどちらかしか選択できないという印象を与えている。しかし米大陸中心でない地図を見ればその印象が間違っていることはすぐ理解できるし、北極点から見下ろしてみれば、海の交通がユーラシア大陸の両側から太平洋やインド洋へとたくさん向かっていることが理解できよう。
(4) つまり、米国から西の方角に日本、台湾、中国に向かうことができるのと同様に、東の方角にアジア、特に南アジアへ向かうこともできるのである。実際に米国の遠征部隊は東海岸の港湾を出発して大西洋を横断し、ジブラルタル海峡を通って地中海に入り、スエズ運河、紅海、バブ・エル・マンデブ海峡を経てインド洋へと向かうルートを定期的に通航している。したがって、アジアへの「回帰」は必ずしもヨーロッパに背を向けたことを意味するのではなかったのである。
(5) こうした見方は、1970年代に「メンタルマップ」の概念を提唱した、米Tufts University The Fletcher School名誉教授Alan K. Henriksonにとっては何も新しいことではない。それは、客観的な地理・空間に関する認識上の地図であり、世界に関する「アイデア」だとHenriksonは言う。それは時間や速度などに影響を受けて変化するものでもある。たとえば、私の家からロードアイランド州ニューポートにあるNaval War Collegeまでの距離は23マイルで、そこにいくまで1時間ほどかかる。他方コネティカット州ミスティックまでの距離は75マイルだが、かかる時間は同じく1時間程度だ。したがって、私の主観ではニューポートとミスティックまでの距離は同じようなものである。このようにメンタルマップは客観的認識に一致する必要もなければ、しばしば実際に一致していない。
(6) メンタルマップという概念が重要であることを理解するために、一枚の政治的地図を取り上げてみよう。これは1940年代後半に書かれたと思しきもので、米国の脅威が具体的になっていたときのソ連の世界観を描写したと言われているものだ。地平線の向こう側からのしかかるようにして姿を見せる巨人のアンクルサムが、ユーラシア大陸の中心に座っている小さなテディベア(ソ連)をにらみつけている絵だ。この絵が描いているのは、ソ連がいかに米国を巨大な脅威として認識していたかであろう。
(7) この絵がさらに示しているのは、米国の「封じ込め戦略」に対するソ連側の主観的な認識である。「封じ込め」は、米外交官George Kennanによって提唱され、大なり小なり米国の政治・軍事指導者に支持されていた戦略である。Kennanによれば、自由諸国がソ連の地理的膨張を長期にわたって食い止め、封じ込めることができれば、ソ連のイデオロギー的熱情は冷めるか、あるいは共産主義は崩壊するだろうと考えた。Kennanは「封じ込め」を、共産主義による転覆工作に直面する友好国に政治的・経済的支援を与え、それに耐えさせるためのものと考えた。しかし、米政府は1940年代以降、NATOやSEATO、日米同盟に代表されるような軍事同盟の構築に躍起になった。
(8) 件の地図は、ユーラシア周辺の米国の同盟国がソ連を包囲している状況を描いており、それ自体は「封じ込め」の妥当な解釈であろう。しかしながらそれは、米国の同盟国および米国が大西洋を超えて、ソ連の内側に向かっていく矢印を描いている。このようなソ連を「押し返そう」という描写は、米国の戦略の客観的評価とは言えない。確かに米国は何十年と続く冷戦の間に、ときとしてソ連を押し返そうという考えを思いついたことがあるが、公式の方針となったことはないのである。また上述した軍事同盟もまた、概して防衛的なものである。すなわち、もしもこの政治地図が冷戦初期ソ連の世界観を正確に表しているのだとしたら、モスクワは常に最悪のケースを恐れていたということを意味するのである。
(9) Henriksonのメンタルマップの概念は、こうしてその説得力をなお維持している。第2次世界大戦中、Roosevelt大統領は米国民に地図を開き、戦略的地理について考えるよう求めた。われわれも地図を開き、それを批判的な目で見てみようではないか。
記事参照:What Maps Can Tell Us About U.S. Strategy For Europe And Asia

4月13日「仏アジア太平洋方面統合軍司令官、フランスのインド太平洋に対する計画を語るーデジタル誌報道」(The Diplomat, April 13, 2021)

 4月13日付のデジタル誌The Diplomatは、“French Joint Commander for Asia-Pacific Outlines Paris’ Indo-Pacific Defense Plans”と題する記事を掲載し、同誌安全保障・防衛問題担当Abhijnan RejがフランスArmed Forces in the Asia-Pacific(アジア太平洋方面統合軍)司令官Jean-Mathieu Reyへのインタビューの内容を要旨以下のように報じている。
Q:インド太平洋において年間を通じ仏軍が計画している行動の意義について。
ベンガル湾におけるラ・ペルーズ演習について。「QUADプラス」の事業としての重要性について。
A:インド太平洋国家として、フランスはこの地域で行動し、常駐する7千名、艦艇15隻、航空機38機の部隊に感謝している。これら部隊の主任務はフランス領域の防護であり、定期的に本国から特別部隊によって増援されている。この枠組みの中で「シャルル・ド・ゴール」空母打撃群は、2019年には太平洋で、最近はインド洋で行動している。数週間前には攻撃型原子力潜水艦「エムロード」がツーロンを出港し、太平洋での長期展開を実施してフランスの地域に対する責任を強調した。インド太平洋はほとんどが海洋であるが、フランスの行動には航空機の展開を含まれる。強襲艦「トネール」、フリゲート「スルクフ」から成るジャンヌ・ダルク任務群は現在、インド太平洋を行動中であり、候補生の訓練とインド太平洋におけるフランスの戦略の一部として定期的な展開を確実にし、地域における提携を強化するという2つの任務を負っている。フランスの主要提携国、日米豪印との相互運用性を強化するため、ジャンヌ・ダルク任務群がラ・ペルーズ演習をベンガル湾において実施した。我々の2国間、多国間の提携を強化し、我々がこの地域で行動できることを示すことを企図したこのような訓練はそれぞれの国の部隊がともに訓練する絶好の機会である。しかし、フランスはQUADの参加国ではない。ジャンヌ・ダルク任務群はこの海域で3ヶ月間行動し、日本において日米の部隊とともに重要なARC21水陸両用戦訓練に参加する。これにより、地域におけるフランスの存在感を高め、フランスと日米間の協調と相互運用性を示すメッセージを発信することになる。
Q:この地域において仏軍が焦点を当てる領域について。対テロはインド太平洋におけるフランスの戦略態勢の重要な要素であるが、地域の主要国と協調する方策について。
A:太平洋におけるフランス統合軍指揮官として、私の第1の関心事はフランスの領域、国民、利益の防護を確実にし、全ての人に有益な安全な環境を維持するためフランスの行動能力を維持することである。これこそ、私の第1優先事項である。「インド太平洋におけるフランスの国防戦略」2019年版はこの考えの一部である。私の第2の目的は、フランスの海外領土を取り巻く地域の安全保障に寄与することである。航行の自由を支持し、核の拡散と戦い、地域の安定を維持し、違法な人身売買、海賊、環境及び気候災害、乱獲、サイバー及び海上テロを含む組み合わされた現在する脅威と戦う地域の国々を支援するために肝要な他国湾枠組みを強化することを意味している。同時に起こる様々な脅威に直面して、フランスは海洋状況把握に関する協力に全面的に取り組んでいる。アジア太平洋における海上活動に関する可能な限り最良の知見を得るために、フランスは2国間あるいは多国間の提携に意欲的に取り組んでおり、例えばシンガポール、インド、マダガスカルに設置された情報融合センター(Information Fusion Center)に設立当初から連絡将校を派出している。海洋関係の団体、外交界、さらにはアジア太平洋において行動中の艦艇、航空機によってこの知見は強化される。フランスは2016年にMaritime Information Cooperation & Awarenessセンターを設立しており、同センターは国際的な海洋ネットワークを介して、世界の海洋情報、分析を永続的に共有することを目的としている。フランスはまた、地域において戦略的対話に地域の諸国と出席しており、全ての地域も問題、特にテロ対策について議論するため多くに地域の組織に参加している。例えば、
・インド洋海軍シンポジウム(Indian Ocean Naval Symposium)
・アジア安全保障会議
・参謀長会議(CHODs [chief of defense staff] meetings)
・西太平洋海軍シンポジウム(Western Pacific Naval Symposium)
・太平洋及びインド洋海運(Pacific and Indian Ocean Shipping)作業部会
である。
Q:フランスのインド太平洋戦略の軌跡に対する評価及び今後について。
A:2018年のシドニーにおけるMacron大統領の演説、2019年のアジア安全保障会議におけるフランスのインド太平洋国防戦略の発表以来、フランスのインド太平洋の安全保障に対する誓約は非常に強固で明確である。また、フランスは国際的な責任を力強く引き受けるつもりである。拡大する米中対立の戦略的な文脈の中で、フランスは国連安全保障理事会常任理事国という地位、主権下にある領域、インド太平洋に恒久的に駐留し、定期的に本国から配備される部隊、資源によって補強されている部隊の配備や主権下の領域などによって東南アジアの多くの国々にとって信頼性のある代替案となるかもしれない。加えて、フランスの協調の伝統は多くの協力の行動を意味している。日米豪印だけでなくシンガポール、ニュージーランド、マレーシア、韓国、インドネシア、フィリピン、ベトナムとの提携は地域において対話を促進し、紛争の平和的解決に重要な多国間の取り組みを通じてフランスの行動を強化している。地域の安定を維持することは、相互運用性を発展させ、北朝鮮沖で国連安全保障会議決議の実行を支援して行われているような協調行動を可能にする。我々は、人道及び環境の安全保障を支援するためより一層行動している。これにはフランス・オーストラリア・ニュージーランド合意のような機構による人道支援・災害救援における協力やマララ演習、クロワ・ドゥ・シュッド演習のような多国間演習によって太平洋島嶼国家との行動が含まれる。
Q:地域とインド太平洋における目的にとって「パリ・デリー・キャンベラ枢軸」は決定的に重要と Macron大統領が述べている、フランス軍とオーストラリア軍、インド軍との共同の状況について。
A:インド太平洋におけるフランス軍の組織から始めなければならない。ALPACI (太平洋方面統合軍)指揮官として、私は太平洋におけるフランスの統合作戦の計画と実施の責任を負っている。インド洋で対応する人物は、アブダビに居るALINDIEN(インド洋方面海軍部隊)指揮官である。特に彼は、インドとの軍事的関係について責任を負っている。オーストラリアに関して、この数年に間に仏豪の2国間協力は著しく進展したことは事実である。フランスは今やインド太平洋における共通の利益と分析を考慮して、オーストラリアとの戦略的関係と信頼を得ている。我々はまた、北朝鮮の核拡散に対する努力に見られるように我々の努力を効果的に調整するため、恒常的な幕僚間対話、指揮官間対話を通じて計画の調整過程を大幅に強化した。それらの行動が国内的なものであっても、オーストラリアのような提携国と密接に調整している。太平洋島嶼国家に関連して、人道支援・災害救援への取り組みを調整するためのフランス・オーストラリア・ニュージーランド合意の一員として、フランスは人道支援・災害救援に対して特別な投資をオーストラリアと共有している。
Q:仏軍がインド太平洋において利益を維持しているヨーロッパの他の大国との協力していく計画について。
A:他の多くの欧州諸国が最近、インド太平洋に一層の関心を示していることは事実である。そして、これはフランスから見れば良いニュースである。最近のドイツ及びオランダの戦略文書は、ヨーロッパにおけるインド太平洋への戦略的関心を強調している。英独の海軍部隊派遣計画は、私の見方では地域における多国間枠組みによる取り組みを促進する絶好の機会である。仏独英が2020年9月に発出した非常に積極的な「仏独英3カ国口上書」について述べておきたい。口上書はインド太平洋における我々の戦略的状況の分析が極めて近しいものであることを国際社会に示す有力なシグナルである。さらに、ヨーロッパの共通の計画は既に現実のものとなっている。特に「アジアにおいて、アジアとともに安全保障協力を強化(Enhance Security Cooperation in and with Asia)」と「インド洋における重要な海上交通路(Maritime Routes Indian Ocean)」によって海洋の安全に関する計画は現実化している。我々はヨーロッパの共通の戦略を近い将来持つことになるだろうか?その決定は私の責任の範囲外である。しかし、EU創設の国の1つとしてフランスはいかなる共通の構想も強力に支援するだろう。特にフランスが関わっている防衛に関しては特にそうである。
インド太平洋におけるヨーロッパ台頭は確認する必要がある。しかし、共通の関心及び見方は明らかである。当該地域に恒久的な軍事的展開を行っている唯一のEU加盟国として、フランスはいかなる共通の取り組みにも提供できる実際の知見を有しており、その知見を提供できれば喜ばしいことである。
記事参照:French Joint Commander for Asia-Pacific Outlines Paris’ Indo-Pacific Defense Plans

4月13日「米情報機関報告、中国を最大の脅威と位置づけ―米紙報道」(The New York Times, April 13, 2021)

 4月13日付けの米日刊紙The New York Times電子版は、“China Poses Biggest Threat to U.S., Intelligence Report Says”と題する記事を掲載し、同日に米Office of the Director of National Intelligence(米国家情報長官室)が公表した年次報告書の概要について、要旨以下のように報じている。
(1) 4月13日、米Office of the Director of National Intelligenceが米国に対する脅威に関する年次報告書を発表した。それは、中国が米国にとって最大の脅威の1つであるとしている。また、ロシアか中国のどちらかとの軍事的衝突を予想するものではないが、それらの国々によるグレーゾーン戦略やサイバー攻撃、そして影響力を拡大する試みが拡大していくだろうと予測している。
(2) 同報告が提示するのはBiden政権にとってのチャンスでもあり、問題でもある。たとえば、イランによる核開発を前進させていないことはBiden政権にある程度の行動の余地を提供する。他方でそれは、アフガニスタンにおける和平交渉の不吉な未来を予測しているが、報告書公表の前日に、Biden大統領がアフガニスタンからの米軍の撤退を9月までに行うと発表したばかりであった。
(3) 同報告書の大部分が伝統的な国家安全保障上の課題について述べる一方で、それまでと比べると気候変動や世界的な健康問題にも関心を向けている。Biden政権の情報機関幹部たちは、これら非伝統的な安全保障上の課題にも目を向けることを約束していた。
(4) 同報告は、中国が「グローバルパワー」に向けて突き進んでいることを脅威のリストのトップに位置づけている。それに続くのがロシア、イラン、北朝鮮である。こうした評価については、これまでと大きな違いはない。同報告は、「北京、モスクワ、テヘラン、平壌は、世界的感染拡大下にもかかわらず、米国とその同盟国を犠牲にしつつ、自国の利益を拡大させる能力と意図を持っていることを示して」おり、なかでも「中国はますます米国と同等に近い競合相手になりつつある」と述べている。
(5) 中国の戦略は米国と同盟国の間に楔を打ち込もうとするものであるという。また、COVID-19世界的感染拡大との戦いでの成功を利用して、自国のシステムがいかに優れているかを示そうとしてきた。また同報告は南シナ海や台湾における緊張のさらなる高まりを予測するが、直接的な軍事衝突に至るとまでは述べていない。加えて、中国が自国の軍事力の近代化を制約するような軍備管理には関心を持っておらず、今後10年間で核備蓄を2倍にするとも予想している。また同報告は中国によるサイバー戦争の脅威を指摘し、それが国内の異論の封殺だけでなく、外国の基幹施設などへの攻撃に利用される可能性を警告している。
(6) ロシアに関する評価について、これまでの報告書と変わるところはそう多くない。すなわち、多くの人々はロシアが衰退しつつあると見ている一方で、米国の情報機関はロシアのハッキング能力の高さを大きな脅威と評価している。ロシアは米国との直接対決は考えていないだろうが、影響力拡大キャンペーン、傭兵を利用した作戦行動、そして軍事演習を利用して、自国の利益を促進し、敵対国の利益を毀損しようとしている。13日にBiden大統領はPutin大統領と電話会談を行い、首脳会談を呼びかけつつ、ウクライナとの国境地帯やクリミア半島でロシアが軍備を増強していることについて牽制した。ロシアは米国との協調を模索しつつも、国内問題に介入しないよう釘をさしてくるだろう。
(7) サイバー空間における脅威は、これまでは独立した項で論じられてきたが、今年の年次報告では、より包括的な脅威の全体像の中に織り込まれている。また今年の報告書は、気候変動や世界的な健康問題が国家安全保障問題に対して持つ含意を提示している点である。たとえば、コロナ危機に加えて、中央アメリカにおいて2020年にハリケーンが多発したことや、ここ数年間に嵐や干ばつが繰り返し起きたことによって生じた経済的低迷は、それら地域の人々の移民の波を生じさせるだろう。同報告書はコロナ危機が今後数年にわたって政治的・経済的影響を及ぼし続け、たとえば世界全体で飢餓状態に陥る人々が、2019年の1億3500万人から3億3000万にまで増えると予測している。
(8) 通常、米国家情報長官は脅威評価について議会で証言し、それと同時に報告書が発表される。しかし、2020年には公開されなかった。情報機関がTrump大統領の怒りを買うことを恐れたためである。2019年に国家情報長官であったDan Coatsは、イランと北朝鮮、イスラム国について大統領の見方とは異なる脅威評価を証言したことで、Trump大統領を激怒させたことがあった(Dan Coatsは2019年7月に同職を辞している:訳者注)。14日と15日に、国家情報長官のAvril D. Hainesら情報機関トップが議会で証言する予定である。Hainesは、「米国市民は、わが国が直面している脅威について、そして市民を守るために情報機関が何をしているかについて、可能な限り知るべきである」と述べている。
記事参照:China Poses Biggest Threat to U.S., Intelligence Report Says

4月15日「花盛りを迎える日米同盟―米アジア太平洋専門家論説」(The Hill, April 15, 2021)

 4月15日付の米政治専門紙The Hill電子版は、米保守系シンクタンクHudson Instituteのアジア太平洋安全保障議長Patrick M. Croninの“US-Japan alliance in full bloom”と題する論説を掲載し、そこでCroninは日米首脳会談の開催を受け、日米同盟がきわめて強固な状態にあること、そして種々の領域についてどのような協力を進めていくべきかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 4月16日、菅義偉首相が米国のBiden大統領と会談を行った。Biden大統領就任以降ホワイトハウスを訪れた外国指導者としては、菅首相が最初である。これは日米同盟の強固さを示していよう。この同盟における中心的な争点は中国の存在である。中国との競合は主に経済および技術分野におけるものだが、安全保障や人権の領域にもまたがることがある。
(2) 経済的に、米国の景気は回復傾向にあり、日本との協力によって半導体チップなどきわめて重要な物品のサプライチェーンの弾力性が強化されるであろう。また日米は2年前にデジタル貿易協定を締結しており、それをテコに、サイバー時代における財務と通商に関する国際基準の確立を目指すことができる。こうした状況において、半導体生産を牽引し、APECとWTOの加盟国でもある台湾は、サプライチェーンの強化とデジタル貿易基準の双方において大きな役割を担うことになろう。
(3) 21世紀の経済において最も重要なのは技術分野である。日米は中国との経済協力に関心を持っている一方で、5GやAI、量子コンピュータなどの最先端技術に関しては激しく競争している。菅首相とBiden大統領はこれらの分野における技術革新に対して強いコミットメントを示すべきであり、具体的には、5GのO-RAN(Open Radio Access Networks)への投資拡大を協働して目指すべきである。
(4)日米同盟においてサイバーセキュリティ分野での協力も重大な問題である。日米2+2において強調された5つの争点のうち、サイバースペースは最も伝統的な国家安全保障上の問題である。日本は、米英加豪ニュージーランド5カ国間の情報共有に関する協定であるファイブアイズの事実上の6番目のメンバーになる道を模索しており、Biden政権はそれを後押しするべきである。
(5) 菅首相は、人権を重視する日本の民主的な声を挙げようとしているので、その同盟は政治的に強力になるだろう。中国は、新疆ウイグル自治区のウイグル人に対して国連ジェノサイド憲章に違反するような非道行為を行っているが、それは「国内問題」であるとして、批判する者を黙らせようとしている。Biden大統領と菅首相は、とりわけ個人の自由を保護することで、民主国家が専制国家よりも優れていることを示さねばならない。
(6) 軍事的な観点では、日米同盟が直面する重要な課題は中国に武力行使に訴えさせないようにしつつ、中国のグレーゾーン戦略にどう対抗すべきかであろう。首脳会談でBidenは日本の防衛に関する安保条約第5条を確認するであろう。菅首相はそれに対し互恵的な立場をとり、日本におけるいかなる米軍に対する攻撃も日本への攻撃と同義だと強く宣言するべきである。尖閣防衛のための準備は台湾防衛の準備にも役立つであろう。
(7) 中国はたしかに首脳会談において最大の問題であろうが、恐れすぎてはならない。むしろBiden大統領と菅首相は、習近平を皆にとっての明るい将来に巻き込むよう駆り立てるべきである。そのためにたとえば、より早期のカーボンニュートラルの達成を中国に勧め、クリーンエネルギー技術開発競争が双方にとって有用になるように方向づけるという手段があろう。
記事参照:US-Japan alliance in full bloom

4月15日「米仏空母打撃群、ペルシャ湾安定化に向け共同 ―米国防関連誌報道」(Breaking Defense, April 15, 2021)

 4月15日付の米国防関連デジタル誌Breaking Defenseは、”French, US Carrier Strike Groups’ Ballet For Persian Gulf Stability”と題する記事を掲載し、ペルシャ湾安定化のために各国の軍艦による共同が実施されていると要旨以下のように報じている。
(1)米「ドワイト・D・アイゼンハワー」空母打撃群(以下、CSGと言う)と仏「シャルル・ド・ゴール」CSGは、これまでほとんど実現しなかった統合レベルでの共同任務を遂行している。このきっかけは、The United States Central Command(米中央軍)司令官が、フランス陸軍の空陸作戦担当副司令官に要請したことであり、フランス軍海上航空部隊が3月31日から4月24日までUS Naval Forces Central Command(米中央軍海軍部隊)の任務部隊CTF-50の指揮を執ることになったと仏軍関係者は述べている。これは、米国、フランス、ベルギー及び日本の4カ国の海軍による多国間海上訓練Group Arabian Sea Warfare Exercise (以下、GASWEXと言う)の流れにある。GASWEXは、3月19日から22日にかけてアデン湾で行われたフランス海軍主導の共同演習である。
(2) このような相互運用性は、同盟国間の純粋な軍事的観点からだけでなく、両国の緊密な関係を示す強い政治的メッセージでもある。フランス軍将校は、米仏両国がこの地域におけるテロの脅威について、同じ視点にあることを強調した。
(3) フランス海軍は、2017年にフリゲート3隻を個々にCTF50に参加させおり、2015年12月から2016年3月までの4ヶ月間は、空母がCTF50の旗艦を務めている。
(4) 仏海軍の空母がCTF50の旗艦を務めるのは2回目であり、今回の任務は、前回と変わらずISISとの戦いである。現在の脅威は、2015年のときほど高くはないが、ISISは地下に潜伏しながら、イラク北部やシリアでのテロ攻撃を継続しており、戦いの終わりにはほど遠い状況にある。
(5) ペルシャ湾岸地域だけでなく、ヨーロッパやアフリカにも影響するテロへ対抗するためには、状況の認識と海軍による空爆が不可欠である。Daesh(ISに代わる表記:訳者注)との戦いに加えて、フランス海軍の駐留戦略はイランとの緊張緩和、地域の緊張緩和への貢献、NRBC兵器の拡散とドローンやミサイルの脅威の増大を視野に入れた航行の自由という原則により進められている。
(6) 「シャルル・ド・ゴール」CSGは、2月21日にフランスのトゥーロンを出発して、3月6日まで地中海に滞在、エジプト海軍のフリゲートとともにスエズ運河を通過、そして紅海に展開するという4ヶ月間の行動の途中にある。現在は、クレマンソー 21と呼ばれる任務を遂行中で最終的にインド洋に到達する予定である。そこにはベルギーと米ミサイル駆逐艦、ギリシャ及びベルギーのフリゲートなども参加している。さらに、ヘリコプターや原子力潜水艦も含まれており、前述のGASWEXのような多国間演習を行うことが可能である。
(7) 興味深いのは、この力の誇示がその時々の政治的情勢に合わせて微調整されていることで、イランを刺激しないように、2隻の空母は同時に近くに配備されることはなく、1隻はイラン近くに、もう1隻はアラビア海に留まっている。
記事参照:French, US Carrier Strike Groups’ Ballet For Persian Gulf Stability

4月16日「US First Fleet復活構想―米軍コミュニティウエブサイト報道」(Military, April 16, 2021)

 4月16日付の米軍コミュニティウエブサイトMilitaryは、“A Resurrected First Fleet Is the Weapon the Navy Needs to Counter China, Former SecNav Says”と題する記事を掲載し、US First Fleetを復活させるという提案とその背景について、要旨以下のように報じている。
(1) Kenneth Braithwaite前米海軍長官が、50年近く活動していない太平洋でのナンバー艦隊(艦隊の名称にUS Seventh Fleetのように数字が付与されている艦隊を指す:訳者注)を復活させるというアイデアを最初に提案したとき、誰もが賛成したわけではなかった。Braithwaiteは2021年4月の第3週、海軍の課題を検討した結果、「この部門の構造を再構築する必要がある」と述べた。2020年11月には彼は、中国に対抗するため、インド洋と太平洋の間にUS First Fleetを復活させる計画を発表した。Donald Trump大統領の任期最後の8カ月間に海軍長官を務めたBraithwaiteは、海軍省内でこの構想に対する支持を高める必要があったと述べている。初期の抵抗にもかかわらず、Braithwaiteは、このアイデアは今ではある程度の支持を得ていると述べている。彼は、海軍がこの艦隊を復活させることを提唱し続けている。そして、海軍長官在任中に中国が米国にもたらす脅威について率直に語っており、10月に彼は中国を「我が国の歴史上、比較にならないほどの脅威」と呼んでいる。
(2) 後にUS First Fleetとなる海軍部隊は1943年から活動しており、(1950年、US First Fleetに名称変更され、)1973年まで存在していた。US Seventh Fleetは現在、アジア太平洋地域唯一のナンバー艦隊である。日本を拠点とし、50から70隻までの艦船と潜水艦が任務を行う海軍最大の前方展開している艦隊だが、インドから南は南極まで、日本を通り越して北に広がる広大な地域を担当している。「したがって、実際には(US Seventh Fleetの責任範囲には)空白がある」とBraithwaiteは述べた。彼は、将来のUS First Fleetがどこに拠点を置き、どのような艦船と人員を配置すべきかという詳細ついては、依然として「細部が肝心である
と述べている。US Indo-Pacific Command Phil Davidson司令官は3月、U.S. Pacific Fleet司令官John Aquilino大将がこれらの点について研究していると述べている。Braithwaiteは、この地域の同盟国や提携国はインド、シンガポール及び日本を含めてこの考えを受け入れていると述べている。
記事参照:A Resurrected First Fleet Is the Weapon the Navy Needs to Counter China, Former SecNav Says

4月19日「南シナ海の米中対立を大国間のパワーゲームにしてはならない―中国南海研究院院長論説」(South China Morning Post, April 19, 2021)

 4月19日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国南海研究院院長呉士存の“US-China rivalry in South China Sea must not turn into a great power game”と題する論説を掲載し、そこで呉士存は南シナ海が米中の大戦略がぶつかり合うきわめて重要な場所であるなか、域外の国々による関与の深まりが種々のリスクを高めているとして、要旨以下のように述べている。
(1) ここしばらくの間、南シナ海は米中間の戦略的競合の中心的舞台となっている。米国は同地域における中国の攻勢の激化を、インド太平洋における既存の秩序に対する深刻な脅威とみなし、その封じ込めと対抗のために同盟国や提携国との連携を強め、加えて自国の抑止力の強化を続けている。お互いが軍事力を強化し、南シナ海での活動を活発化することによって、武力衝突の危険が高まり続けている。
(2) 南シナ海は、単なる個別の論争の舞台としてではなく、米中の大戦略がぶつかり合う場とみなされるべきであろう。その競合にはいくつかの側面があるが、その1つは地域のガバナンスにおける主導的役割をめぐる対立である。南シナ海における行動規範をめぐる交渉は、米国にしてみれば地域の秩序構築過程から自分たちを排除しようとする試みに見え、他方中国は米国がその交渉を妨害していると見ている。
(3) 米中対立のもう1つの側面は南シナ海におけるシーパワーをめぐるものである。中国の海軍力の強化や岩礁地帯の埋め立て等を通じて、地域における力の均衡は明らかに中国に傾きつつある。米国は同盟国や提携国と連携して軍事力の展開を拡大し、力の均衡を元に戻そうと試みている。そうした米国の動向が中国にしてみれば自国の利益を封じ込める活動に見える。こうして、米中の指導者の間の相互不信はより悪化していってしまうのである。
(4) 南シナ海における力の均衡の変化は、米国の同盟システムにも重大な意味を持つ。近年、地域外の米国の同盟国や提携国が、南シナ海に対する関与を深めている。たとえばオーストラリアや日本、英国、フランス、インドは、南シナ海において米国や東南アジア諸国との軍事協力および関与を深めてきた。つまり南シナ海における米中対立がグローバル化し、多くの海洋大国間の競合として形を変え、複雑化しているのである。
(5) 南シナ海は太平洋とインド洋をつなぐ結節点として決定的な重要性を持ち、それは特に中国にとってそうである。中国の対外貿易の64%と、輸入される石油の60%が南シナ海経由なのである。そうした経済的利害に加え、南シナ海をめぐる論争が国家の主権やプライドをめぐるものである限り、中国が自国の主張を取り下げる可能性は低く、それに対して米国はますます同盟国の関与を求めるであろう。しかしながら南シナ海を多国間の戦略的競合の舞台にしてしまってよいのか、検討されねばならない。
(6) 上述したように、近年オーストラリアや日本、インドに加え、英国やフランスが南シナ海への関与を深めており、中国の攻勢を封じ込めることに共通の利益を見出している。しかしそうした利益の共有が今後も続くかどうかはわからない。そして、ASEANの中心性といった問題を考慮するとき、域外の国々が関与を深めていくことは必ずしも望ましくないものであろう。なぜならそれが、地域におけるASEANの相対的な力の欠如という問題を悪化させるためである。
(7) 南シナ海の安定は世界全体にとって重要である。そのうえで、米中2国間の戦略的競合と、多くの国々が関わる戦略的競合との間には明確な違いがあることを頭に入れておくべきであろう。南シナ海の安定化のために、米中は軍事活動の抑制や軍事対話の実践、行動規範に関する交渉の促進など、危機回避の仕組みをともに構築すべきである。米中戦略競合は、それだけで十分複雑なものであり、それが新たな多くの海洋大国が関わる多国間競合になることは望ましいものではない。
記事参照:US-China rivalry in South China Sea must not turn into a great power game

4月20日「EUが採択したインド太平洋戦略の10のポイント―ベルギー専門家論説」(The Diplomat, April 20, 2021)

 4月20日付のデジタル誌The Diplomatは、The Vrije Universiteit BrusselsのThe Centre for Security, Diplomacy and Strategy上級日本研究員Eva Pejsovaの“The EU’s Indo-Pacific Strategy in 10 Points”と題する論説を掲載し、ここでEva Pejsovaは4月19日にEUが採択した 「インド太平洋における協調のためのEU戦略(EU Strategy for cooperation in the Indo-Pacific)」の主要な10のポイントについて要旨以下のように述べている。
(1) 連携の促進は、インド太平洋に対するEUの取り組みの中核をなすものである。これは、欧州の価値観を共有する友好国や同盟国だけでなく、相互利益のための第三国との協力や、ASEANを中心とした機構The Asia-Europe Meeting(アジア欧州会合:以下、ASEMと言う)など、地域の多国間組織の協力強化にも当てはまる。柔軟で実用的な協力は、ブリュッセルが戦略的自律性を高め、インド太平洋におけるEUの利益促進のための努力の一環である。
(2) 中国が問題の一部であるならば、解決策の一部でもある。中国と協力する必要性は、EUと中国の包括的投資協定(CAI)や、北京が参加しているASEMに言及することで示される。多くの点で、これはドイツとオランダが最近発表した政策指針や英国のIntegrated Review2021(統合的見直し)と同様に、共通の関心事について中国と関与する必要性を認識している。
(3) 多くのEU戦略がそうであるように、この文書は、名指しで非難することを避けている。通常の容疑者や犯人を明確にする代わりに、地政学的競争、サプライチェーンや技術・政治・安全保障分野における緊張、人権に対する脅威という形で、地域の安定に対する課題を指摘している。行動すべき対象ではなく、原則を重視することで、より一貫性を持たせ、変化に強く、その時々の試練に耐えうる戦略となっている。
(4) 気候変動、生物多様性の損失、COVID-19の世界的感染拡大の社会経済的な影響などの地球規模の問題に対処する必要性は、欧州にとって最優先事項の1つであり、インド太平洋に対する最高の付加価値の一部となっている。男女共同参画からパリ協定の支援となるCO2排出削減協力、持続可能な海洋ガバナンスから保健分野での協力まで、EUは2国間および多国間でU.N. Sustainable Development Goal(国連持続可能開発目標)を率先して推進することを目指している。
(5) 自由で開かれた安全な海上交通路は、世界最大の貿易圏であるEUの重要な戦略的関心事である。フランスと英国に加えて、ドイツとオランダもインド太平洋での海軍の存在を高めることを検討しており、EU加盟国全体の利益と海洋意識の向上に貢献している。2008年にアデン湾に海賊対策のために派遣されて以来、海洋状況把握能力の向上を通じた重要な海上交通路の保護はEUの焦点となっており、インド洋・東南アジアでも推進される。
(6) 2018年のEUの「欧州とアジアをつなぐ戦略(Strategy for Connecting Europe and Asia)」では、持続可能で透明性が高く、規則に基づいた連携実現のための原則が示された。これは日本、インド、ASEANといった志を同じくする国々との連携に加え、既存の取り組みと結びつけることで、今後、より顕著になる成長中の課題である。
(7) 欧州は経済的利益を守るために、より野心的で積極的になっている。日本、韓国、シンガポール及びベトナムとの間で締結された自由貿易協定に続き、ブリュッセルは他の地域の提携国との経済関係を深め、インド太平洋地域での競争を決意した。
(8) 国境を越えた安全保障上の課題に取り組むことは、EUのDNAの一部である。ブリュッセルは、デジタルガバナンス、データ保護、サイバー空間での協力を推進することで、その規制力を示してきたが、これは新戦略の下でも継続される。この戦略は、インド太平洋の地理的周縁部における既存の取り組みと連携し、アフリカの提携国や太平洋島嶼国とも協力して、海洋ガバナンス、災害の防止と復興、海賊、サイバー犯罪、人身売買など、国境を越えた問題に取り組むことを目指している。
(9) この戦略では価値観が重要な意味を持っている。民主主義、法の支配、人権、国際法の促進は、地域社会の安定と回復に不可欠であるだけでなく、インド太平洋におけるEUの長期的な戦略的利益と全世界的な安全保障を実施する主体としてのEUの役割に貢献する。
(10) 理事会による結論は、EU加盟27カ国の同意を示すものである。この戦略の発表は、日本が初めてインド太平洋の概念を打ち出してから10年以上が経過しており、加盟国の戦略的優先順位の違いや、地域の安全保障上の課題に対するブリュッセルの認識の変化、さらには外交政策上のEUの性質を反映した長期わたる内部での議論の結果である。
記事参照:The EU’s Indo-Pacific Strategy in 10 Points

4月20日「アフリカ大陸で拡張される中国の軍事施設―The U.S. Naval Institute報道」(USNI News, April 20, 2021)

 4月20日付のThe U.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、“AFRICOM: Chinese Naval Base in Africa Set to Support Aircraft Carriers”と題する記事を掲載し、中国が行っているアフリカ大陸での軍事施設の拡張について、要旨以下のように報じている。
(1)米下院軍事委員会で証言したUS Africa Command司令官Stephen Townsend陸軍大将は、ジブチの中国海軍基地に言及し、中国軍は中国が所有する商業深水港に隣接する既存の海軍基地を拡張しており、同海軍基地に最近完成した埠頭は空母を支援するのに十分な大きさであると指摘し、また、この大陸の別の場所にも他の軍事基地使用の選択肢を求めていると述べている。
(2)アフリカ大陸にある中国唯一のこの基地は、アデン湾での対海賊任務を支援するために開発され、2017年に正式に開設されたが、新しいType075強襲揚陸艦や国内で設計されたType002空母のような、外洋海軍としての中国海軍の主力艦のための兵站補給ハブとしての機能を含めて拡張されたと分析されている。最近10月に、商業衛星画像によってジブチの軍事基地の埠頭建設が確認された。USNI Newsの寄稿者H I Suttonの5月のレポートでは、1,120フィートの新しい埠頭は、「中国の新しい空母、強襲揚陸艦、又はその他の大型艦艇を収容できる長さである。必要であれば、中国の攻撃型原子力潜水艦4隻を容易に収容できる可能性がある」と述べている。この基地は、アデン湾から紅海への入り口であり、スエズ運河や地中海へ向かう海上交通の主要なチョークポイントであるバブ・エル・マンデブ海峡の近くにある。中国の基地の周辺には、米国とフランスの軍事施設がある。
(3)Townsendは、この委員会に対し、中国は「海軍基地と空軍基地を建設する意図」を持って、アフリカの他の場所を検討していると述べている。ジブチの基地は、中国がアフリカ大陸に進出していることを示す最も明白な兆候のひとつだが、Townsendは中国は民間のルートを通じてアフリカで存在感を高めていると述べており、「彼らは、多くの重要な基幹施設を建設中である」と述べている。
記事参照:AFRICOM: Chinese Naval Base in Africa Set to Support Aircraft Carriers

4月20日「中国軍の隠れた弱点―米海兵隊情報将校論説」(The Diplomat, April 20, 2021)

 4月20日付のデジタル誌The Diplomatは、米海兵隊情報将校・海兵隊中国研究グループ軍事分析担当官Steve Sacksの “China’s Military Has a Hidden Weakness”と題する論説を掲載し、ここでSteve Sacksは個人的見解として、中国軍のハイテク新装備は有用であるが、現在の不十分な軍事改革の故に、こうした装備類を運用する中国軍の能力が阻害されているとして、中国軍の隠れた弱点について、要旨以下のように述べている。
(1)政策立案者は、中国の強さと弱点の両方について明確で包括的な全体像を知ることによって、主たる抗争相手に関する質問に対して、政策決定者により良い情報を提供することができる。強さだけに焦点を当てた分析は、証拠の半分しか取り込んでいない。中国軍の強さだけを強調して不安を煽り立てないように、専門家と政策立案者は中国の軍事力の評価が予想される強さと現在の欠点を等しく取り込んだものであることを保証しなければならない。筆者(Steve Sacks、以下同じ)は本稿で、現在の中国の軍事力分析に通底する強さだけを強調するというアンバランスを指摘すると共に、専門家が軍事力評価に組み込むべき現存する弱点について補完的な評価を提供する。
(2)人民解放軍(以下、PLAと言う)の強さと弱点のバランスを欠く警戒過剰な分析の1例は、米インド太平洋軍司令官の2021年3月の上院軍事委員会での証言である。Davidson司令官は書面による証言で、最初の空中給油可能な爆撃機H-6N、海軍により大きな機動性と柔軟性をもたらすType052Dミサイル駆逐艦など、空海軍の新型の先進的な艦艇・航空機の就役に加えて、電磁レールガン、極超音速滑空体及び対地・対艦超音速巡航ミサイルを含む、多様な先進装備の開発を指摘し、PLAの脅威の増大を強調した*。こうしたミサイルや先進艦艇、航空機は、敵対勢力との対等を目指すPLAの努力の一部に過ぎない。筆者は、これらを「軍事力の近代化(“military modernization”)」と分類している。しかし、PLAの戦力構成の再編や、統合作戦による現実的な訓練の重視など、筆者が制度的進化によって定義される「軍事改革(“military reform”)」と称している、軍事力進化を評価するもう1つの基準がある。「軍事力の近代化」はPLAの強さを表象し、注目を集めるが、「軍事改革」はむしろ現在のPLAの弱点の表れを見られやすい。現在の不十分な軍事改革は、中国の戦略的、政治的目標を達成するに当たって、先進的な装備を運用するPLAの能力を妨げている。PLAの強さと弱点についてバランスのとれた分析を行うためには、専門家と政策立案者は、軍事力の近代化による強さだけでなく、軍事改革における弱点も評価することを重視すべきである。
(3)PLAの近代化と改革の最新の事例は、習近平党中央軍事委員会主席が指摘した、「5つの能力不足」――即ち、2035年までに軍事力近代化を達成し、2049年までに世界クラスの軍隊になることを妨げている、現在のPLAの弱点――を重視したものである。これらの取り組みにおける中核的要素は、敵対勢力の重要資産を危険に晒すことができるとともに、PLAが中国本土以外にも影響力を拡大できる、信頼できる戦闘装備システムを開発し、配備することである。軍事力の近代化は、中核的な国益の「積極防衛」という中国の戦略を効果的に遂行するために必要な装備システムでPLAを武装することである。さらに、軍事力の近代化はまた、中国の在外利益と海外に居住する市民を保護するために、PLAが中国の力を投射する世界的な軍事活動を行うことができるようにすることを目指している。
(4)習近平主席は、新しい装備を導入しても、高能力の戦力を支えるために包括的な改革を実行する必要性を認識していた。習主席は2015年後半、情報化条件下の局地戦争遂行の所要を満たすために、最初に軍事改革に着手した。習主席はまた、効果的な統合作戦を実施できない時代遅れの指揮機構と横行する汚職によって、PLAが重大な機能低下に陥っていることを認識した。さらに、PLAは、贈収賄が横行する人事システムに悩まされ、教育を受けた人材の拡充にも苦労した。このような状況下で、習主席はその後5年間、PLAをプロ集団とするために全面的な改革を推進してきたのである。これらの改革は、PLAを世界クラスの軍隊に近づけるよう意図されたものであった。最初の大きな改革の1つは、大軍区制を米軍の地域統合軍に類似した「戦区」に改編したことであった。習主席の改革はまた、情報化条件下での現実的な戦闘訓練が不十分あることにも向けられた。さらに、軍事改革によって、PLAに3つの新たな軍種――即ち、旧第二砲兵から改編されたロケット軍、情報作戦・宇宙作戦・サイバー作戦担当の戦略支援部隊、及び統合兵站支援部隊が生まれた。しかしながら、これらの新しい軍種は、創設に伴う苦しみを共有してきた。戦略支援部隊は、これまで別々であった組織を単に合体しただけで、結束力に欠ける。統合兵站支援部隊は、遠征作戦行動を支援する兵站能力の開発が緒に就いたばかりである。ロケット軍は、戦区による統合作戦への統合要請と北京による中央官制との間で、調整を余儀なくされている。
(5)習主席の2015年軍事改革運動は2020年に終結したが、質の高い人材の育成、統合作戦の推進、現実的な戦闘訓練の強化など、特定されたPLAの能力不足の改善が続けられている。中国共産党は、2020年10月の第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、習主席の軍事力近代化のための三段階発展戦略の新たな実現目標を2027年に設定した。PLAが機械化、情報化(広範な偵察能力と精密攻撃装備によって遂行される作戦)、及びIT化(意思決定の結節を短縮するために人工知能による戦闘システムを通じて遂行される作戦)を組み込んだ軍を目指す、2つ目の実現目標は2035年である。習主席の3段階計画の最後の実現目標は、PLAが世界クラスの軍隊の地位を実現する2049年である。習主席がこれらの目標を達成するためには、腐敗防止キャンペーンを継続し、兵員の能力管理と定着計画を改善し、訓練と演習の両面で複雑な合同統合作戦能力が要求されることになろう。2027年と2035年の実現目標に近づくにつれて、これらの分野における進展を示すよう、PLAに対する党中央からの圧力が高まる可能性が強い。PLAはまた、米国の軍事能力と同等、そして最終的には凌駕していくことを確実にするために、特にUnited States Indo-Pacific Command(米インド太平洋軍)管轄領域における米軍の近代化に引き続き細心の注意を払って行くであろう。
(6)習主席と党中央軍事委員会は、訓練と管理面で不十分な軍に高度な先進装備を導入しても、PLAが党の戦略的目標を達成できることにはならないことを認識している。しかしながら、北京は新しい装備の導入によって、継続的な軍事改革不足を隠蔽しながら、予想される軍事的強さのイメージを永続させることができよう。米国の軍事専門家と政策立案者は、PLAの軍事力近代化と改革キャンペーンの両面における進展に対して明確かつ包括的に評価するために、習主席が認識するPLAの重要な弱点全般にわたる改善の兆候を注視していくべきである。軍事専門家や政策立案者が、長距離ミサイル、高性能の艦船、ステルス航空機といった、新しい装備の調達だけを重視していくならば、PLAの背丈の半分しか見ないリスクを犯すことになる。
記事参照:China’s Military Has a Hidden Weakness
備考*:https://www.armed-services.senate.gov/imo/media/doc/Davidson_03-09-21.pdf

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) THE UNITED STATES CONSIDERS REINFORCING ITS ‘PACIFIC SANCTUARY’
https://warontherocks.com/2021/04/the-united-states-considers-its-pacific-sanctuary/
War on the Rocks.com, April 12, 2021
Lt. Gen. (ret.) Wallace C. Gregson, Jr., a former commander of III Marine Expeditionary Force in Japan, and former assistant secretary of defense for Asian and Pacific security affairs
Jeffrey W. Hornung, a political scientist at the nonprofit, nonpartisan RAND Corporation
 2021年4月12日、沖縄県に駐留する米III Marine Expeditionary Force(海兵隊第3海兵遠征軍)の司令官を務めたWallace C. Gregson, Jr.退役中将と米シンクタンクRAND CorporationのJeffrey W. Hornungは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに、" THE UNITED STATES CONSIDERS REINFORCING ITS ‘PACIFIC SANCTUARY’ "と題する論説を発表した。その中でGregsonとHornungは、Lloyd Austin国防長官が就任直後に米国の国家戦略を支えるのに適切な規模となる、世界規模の兵力展開を確保するための態勢の見直しを命じたことを取り上げている。その中で、両名はこの見直しの一環として、米国は条約上の同盟国と協議し、同盟への誓約を検討することになると指摘した上で、インド太平洋地域では、米国の展開は日本に集中しており、約56,000人の現役軍人と四つの軍種のすべてが展開しているが、米国は沖縄に駐留する米海兵隊の数などを徐々に減少させるなどその展開を低下させてきたにもかかわらず、日本の米国の国家戦略に対する継続的な誓約と日本政府の安全保障分野に対する一層積極的な姿勢の高まりによって、Lloyd Austin国防長官が命じた態勢見直しが完了した後、日本が米国の艦船、兵力、さらには長距離攻撃ミサイルといった軍事力の配備を増大させる役割を果たす可能性があると主張している。そして最後に、「日米関係は極東の安定の要であり、世界の安定の礎であった」との故Mansfield上院議員の言葉を紹介し、日米同盟の重要性を強調している。

(2) ASEAN Navigates between Indo-Pacific Polemics and Potentials
https://www.iseas.edu.sg/articles-commentaries/iseas-perspective/2021-49-asean-navigates-between-indo-pacific-polemics-and-potentials-by-hoang-thi-ha/
ISEAS Perspective, ISEAS – Yusof Ishak Institute, April 20, 2021
Hoang Thi Ha, Fellow and Lead Researcher (Political-Security) at the ASEAN Studies Centre, ISEAS –Yusof Ishak Institute
 2021年4月20日、シンガポールのシンクタンクThe ISEAS -Yusof Ishak InstituteのHoang Thi Ha主任研究員は、同シンクタンクのウエブサイトに" ASEAN Navigates between Indo-Pacific Polemics and Potentials "と題する論説を発表した。その中でHoangはインド太平洋地域の安全保障に関するASEANの動向を考察し、その結論として①ASEAN諸国は2019年に「インド太平洋に関するASEANアウトルック」を公表したにもかかわらず、インド太平洋地域の安全に関する一致した見解を得られていない、②ASEAN諸国は、中国やロシアからの外圧を要因として程度の差はあれど反目し合う関係になっている、③Biden政権は、特に第1回日米豪印4カ国安全保障対話首脳会談を通じて、米国のインド太平洋戦略を強化しようと積極的な動きを見せており、より広範、かつより積極的な協議事項によって、インド太平洋の対話にさらなる活力を吹き込んでいる、④ASEANおよびその加盟国は、インド太平洋という概念を引き続き活用して、自らの利益を促進し、守るべきであるなどと主張している。

(3) Northern expedition: China’s Arctic activities and ambitions
https://www.brookings.edu/research/northern-expedition-chinas-arctic-activities-and-ambitions/?utm
The Brookings Institution, April 2021
Rush Doshi, Former Brookings Expert, currently serving in the Biden administration
Alexis Dale-Huang, Research Assistant at The Brookings Institution
Gaoqi Zhang, Fellow at The Brookings Institution
 4月に、米シンクタンクThe Brookings InstituteのウエブサイトBrookingsは、同シンクタンクの専門家で、現在Biden政権で勤務するRush Doshi、同シンクタンクの研究助手Alexis Dale-Huang、同シンクタンクの研究員Gaoqi Zhangの“Northern expedition: China’s Arctic activities and ambitions”と題する中国の北極圏政策に関する報告書の要約を掲載した。その中で、①中国は、「極地大国」(polar great power)になることを目指しているが、中国の対外的な文書ではこの目標について言及されることはほとんどない、②中国は、北極圏を統治されていない空間と見なし、対外的な言説の中には競争の抑制の必要性を強調するものと競争に備える必要性を強調するものがある、③対外的な中国の文章の中には、北極圏での軍事的競争のリスクを軽視するものがあるが、軍事的な文章では逆の見方をしている、④対外的には、中国が自国の利益と世界の幸福のために科学研究を追求すると述べているが、中国の科学者と共産党の幹部は北極圏での影響力と戦略的地位を強化するという目的を明確にしている、⑤中国は、既存の北極圏統治メカニズムを公には支持しているが、非公式には不満を抱き、この地域の資源から排除されることへの懸念を示している、⑥ノルウェーやスウェーデンのように、中国の北極圏での野心に便宜を図っても、持続的な好意が得られることはほとんどない、⑦北極圏における対中貿易の依存度は誇張されることが多く、貿易の流れは他の大国と比べて小さい、⑧中国は過去20年、地位の高い人物を米ロ以外の北極圏の国々に派遣し、北極評議会のオブザーバーになるよう強く働きかけ、他の多くのトラックツーのフォーラムで存在感を示している、⑨中国の北極圏での軍事的な注目度が高まっており、そして、砕氷船の開発といった科学的な取り組みも戦略的な利点をもたらしている、⑩北極圏における中国の科学・衛星施設の設立や新しい科学技術の実験場としての利用は、中国に運用経験と北極圏への出入りをもたらしている、⑪中国による北極圏における経済的利益がほとんどない基幹施設計画のいくつかは、戦略的動機や軍民両用能力に関する懸念を引き起こしている、⑫中国の北極圏における商品投資は実績があるが、いくつかの重要な成功例にもかかわらず、多数の投資が失敗しているといった主張が述べられている。