海洋安全保障情報旬報 2021年6月21日-6月30日

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6月21日「台湾海峡問題へのEUの関与のあり方―フランス政治学者論説」(The Diplomat, June 21, 2021)

 6月21日付のデジタル誌The Diplomatは、フランスSciences Po(パリ政治学院)のCentre for International Studies講師Earl Wangの“The EU’s Stake in the Taiwan Strait Issue”と題する論説を掲載し、そこでWangは台湾海峡問題が近年ヨーロッパ諸国にとって重要な争点になっていることを指摘し、その現状と背景、意義について要旨以下のように述べている。
(1) 6月13日に発表されたG7首脳会談の共同声明において、初めて台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する1節が挿入された。2日後にはEU・米国首脳会談声明でも、同様の内容が含まれたが、これも初めてのことであった。このように台湾海峡の平和は、ヨーロッパにとって急速に重要な争点となっている。
(2) 2021年のG7首脳会談で注目されたのは、米国の新政権と提携国が共有する議題に何を含めるかであった。そして、その1つに台湾海峡問題が含まれたのだが、台湾海峡問題を採り上げることはこの7ヵ国にとって簡単な決定ではなかった。日本や米国が台湾海峡問題を採り上げる必要があると主張した一方、ドイツやフランスは中国を刺激しないようためらっていた。最終的にMacron大統領とMerkel首相が、台湾海峡問題を共同声明に含めることに合意したのは、首脳会談の最終日の朝になってのことであった。
(3) EUと米国における安全保障に対する認識や中国に対する取り組みが、必ずしも常に同じではないのは当然であろう。しかし、台湾海峡における平和と安定は、間違いなくEUの利益に直接つながるものである。その認識は、ここ数年の間にEUが発表してきた対中国戦略において示されてきた。
(4) 最近では、2021年4月末に発表されたEUの新たな対中国戦略に関する欧州議会の草案には、「台湾における自由民主主義の擁護」に関して、「志向を同じくするパートナーとEUの行動を調整」し、中国に対し論争の平和的解決を目指すよう促すことが提案されていた。また2020年10月に欧州評議会がEU全体の公式の立場として承認した「EUと中国:戦略的概観」によると、EUの方針次第では中国が提携相手にも競合相手にも敵対関係にもなりえるとし、EUが台湾海峡の平和と安定を求めることによってより具体的に対中国戦略を遂行すべきだとされた。この文書で示された方針は、2020年12月に発表された「変容する世界に向けたEUと米国の新たな議題(A New EU-US Agenda for Global Change)」においても確認された。台湾海峡の問題は、EUと米国が共有する民主的価値を支持し、インド太平洋における平和と安定を促進し、中国の攻勢に共同して対応するまたとない機会を提供するのである。
(5) 2016年の「EU世界戦略(EU Global Strategy )」は、「ヨーロッパの繁栄とアジアの安全保障には直接的なつながりがある」と述べており、また同年の「EUの新たな対中戦略における要素(Elements for a new EU strategy on China)」は、アジア太平洋地域全体の平和を維持するために、台湾海峡をめぐる問題に関する建設的な展開を支持するという誓約を表明した。以上の戦略や方針に示された台湾海峡の平和と安定への強い誓約は、必ずしも中国への対抗のためにアメリカ側についたことを意味するのではない。それは民主的価値観とEUの利益を擁護することの表明であり、EU自身の対中国戦略と一致するものである。
記事参照:The EU’s Stake in the Taiwan Strait Issue

6月22日「南極条約の60周年、今後の展望と課題―オーストラリア専門家論説」(The Interpreter, 22 Jun 2021)

 6月22日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、オーストラリアの国際法と極地の法律の専門家Donald R Rothwellの“A Cold War deal on ice: The Antarctic Treaty at 60”と題する論評を掲載し、Donald R Rothwellは今まで有効に機能してきたと言える南極条約は60周年という節目を迎えており、条約自体にもともと基礎的な条項の見直しを可能とすることが定められているため、一部の国、特に中国の動向に注意する必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1) 南極条約は60周年という重要な記念日を迎えた。この条約は1961年6月23日に発効した。条約締結後の最初の会合は、1961年7月10日にキャンベラの旧国会議事堂で開催された。当初は、アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、チリ、フランス、日本、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、南アフリカ、米国、ソ連、英国の13ヵ国しか加盟していなかった。現在そのリストは、中国、ドイツ、インドなどの強力な「新しい」加盟国を含む54ヵ国に増えた。この条約は、1972年の南極のあざらしの保存に関する条約、1980年の南極の海洋生物資源の保存に関する条約、1991年の環境保護に関する南極条約議定書(以下、マドリード議定書と言う)などの追加手段を含む一般に南極条約システム(以下、ATSと言う)と一般に呼ばれるものとして長年にわたって進化してきた。南極条約に関するマドリード議定書は、大陸と隣接する南洋におけるすべての鉱物採掘活動を禁止し、全面的な環境保護体制を導入した。
(2) 南極条約はATSを生み出した。しかし、驚くべきことに、この条約自体は60年間、正式な改正を受けていない。条約の重要な特徴は、30年後にいつでも「見直し会議」を招集できるという規定であった。見直し会議の結果に応じ、当事国が条約を脱退する可能性があり、条約の将来を妨げる可能性もある。1991年に「見直し会議」は招集されなかったが、その選択肢は今日も可能である。同様に、マドリード議定書は2048年に審査を受ける可能性もあり、鉱物資源採掘禁止が覆る可能性もある。オーストラリアを含むすべての主要な南極条約当事国の支援なしにそれが起こる可能性は、現時点ではかなり小さい。しかし、これらのプロセスの結果に不満を持つ当事国が条約から脱退する可能性はある。現在、 ATSを批判し、地政学と資源の緊張の組み合わせのためにATCが存続するかどうか、そして各国政府が最初に交渉されたときのものと大きく変わった時に、条約が「目的に合う」ものであるかどうかを検討することが流行っている。この議論の多くは、中国の南極とATSへの関与の増加とともに、中国の世界的な台頭によって引き起こされているものである。また、これまで明確に明らかにされていない中国の南極への野望に対する疑惑によっても促進されている。しかし、ATSに対する中国の関与は、2017年の南極条約協議会議の開催と、中国の参加する現在進行中のハイレベルの科学研究プログラムを通じて実証されている。中国が近い将来にATSを離れようとするかどうかは推測できる。この点で、中国は現在、北極評議会のオブザーバーである北極よりも、ATSの地位を通じて南極のガバナンスにおいてはるかに大きな役割を主張することができる。
(3) それにもかかわらず、中国または他の当事国が2048年マドリード議定書見直し会議を開始しようとするかどうかについて議論が続いている。2048年は、1991年と同様にATSにとって重要な「里程標」であることが証明されるかもしれない。各国政府は、ATSが多くの課題に直面していることを示しており、それらの課題に積極的に取り組んできた。その結果、ATSは過去60年間に大きな回復力を発揮することができた。この回復力を、過小評価すべきではない。ATSにはまだ国連加盟国の約4分の1しか参加していないが、国連安全保障理事会の常任理事国5ヵ国、すべてのG7加盟国、3ヵ国を除くすべてのG20加盟国が含まれている。ATSは大きな成功を収めている。世界の国際秩序は現在、国際法や制度のいくつかの側面に対する反発を経験しているが、それは一部の国からの懸念によって引き起こされている。いくつかのケースでは、一部の国は一方的な目標を追求したり、新しい体制を支援するために、長い間確立された国際的な法的枠組みや制度を放棄したりした。したがって、ATSとそれが直面する課題について、自己満足することは不適切である。過去に南極条約の見直し会議の見通しにかなりの注目が集まり、ますますマドリード議定書の見直し会議についても議論が行われているが、各国はどちらかの条約からでも脱退することができる追加の法的メカニズムを持っている。さらに、南極条約審査会議は不満を持つ国によっても招集される可能性がある。ATSは現在安定した法的な体制として提示されているが、現実として南極条約とマドリード議定書の両方が、基礎的な条項の見直しを可能にしている。このようなことから生じる可能性のある国際法の問題やグローバル・ガバナンスの問題は、過小評価されるべきではない。
記事参照:A Cold War deal on ice: The Antarctic Treaty at 60

6月22日「米中の間に挟まれるポルトガル―東ティモール外交官論説」(RSIS Commentaries, June 22, 2021)

 6月22日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトRSIS Commentaries は、東ティモール民主共和国の外交官Loro Hortaの“Portugal: Stuck Between Two Giants”と題する論説を掲載し、そこでHortaは近年ポルトガルで中国が経済の面で存在感を高めていることに対して米国が警戒しつつ、ポルトガルに圧力をかけていることについて、そのやり方は効果的ではないとして要旨以下のように述べている。
(1) ポルトガルは1557年にマカオを建設し、ヨーロッパ史上初めて中国に恒久的な交易拠点を持った国となった。マカオは1999年に返還され、そのときポルトガルは「中国に最初にやってきて、そして最後にここを去る」と述べている。
(2) しかしここ10年ほどの間、中国がポルトガルに経済面での存在感を高めている。2008年にポルトガル経済が危機的状況に陥ったとき、同国への大規模な投資を行ったのが中国だった。それは電力や金融などの重要部門に振り向けられた。2011年、中国長江三峡集団がポルトガル国営電力会社EDPの株式21%を27億ユーロで取得、翌年3.59億ドルでEDP子会社EDP Renewablesの株式49%を取得した。さらに復星国際はポルトガル最大の銀行Millennium Bankの株式27%を12億ユーロで取得し、2014年には同国最大の保険会社Fidelidadeを10億ユーロで買収した。2018年、中国はポルトガルに100億ドルを投資し、最大の投資国となった。
(3) しかし米国はその関係に満足していない。ポルトガルは古くからの米国の同盟国である。NATO創設時の加盟国であり、米国の空軍基地も置かれている。中国がポルトガルに投資し始めた当初、米国はさほど気にしていなかったようだが、Trump政権になってから、中国との経済的な関係を深めるポルトガルに対する批判的姿勢が強まった。
(4) 問題が大きくなったのは、2020年にポルトガルが最大の貿易港シネスを6.4億ユーロかけて近代化・拡張しようという中国の提案を受け入れたときである。これに対し駐ポルトガル米大使George Glassは、はっきりと中国との関係を再考する必要があるとポルトガル政府に抗議した。さらに彼は、もしHuaweiがポルトガルの5G市場に参入する事になった場合、それがもたらす安全保障上の重大な帰結について警告した。Glassはポルトガルに、「米国か中国かを選ばねばならない」と迫った。
(5) シネス港自体もまた米国にとって重要度が高まっている。同港は米国に最も近いヨーロッパの港であり、アメリカはそこに天然ガスターミナルを建設し、パイプラインを通じてヨーロッパの同盟国への天然ガス供給を計画している。ポルトガルとしては米中双方の提案を受け入れたいと考えており、中国も米国の参加を拒絶しているのではなさそうである。しかし米国はBiden新政権になっても、米中のどちらかを選ばなければならないとする姿勢を変えることはないだろう。
(6) 米国のこうした強硬な姿勢にポルトガルは不快感を示しており。実際のところ、中国の投資に対する米国の非難に5G問題は別にしてはっきりとした正当性はない。中国がポルトガルに投資したのは、どこもそうしなかったときのことだった。最近のポルトガルの事例が示しているのは、米中間の緊張が高まっている中、経済的な領域での競合が難しいときにはアメリカは躊躇なく圧力を加えてくるということである。しかしこうした「棍棒外交」はうまくいかないだろう。米国は棍棒を振るうだけではなく、より多くの人参をぶら下げる必要がある。
記事参照:Portugal: Stuck Between Two Giants

6月23日「米軍事海上輸送に対する主たる脅威:老朽化、チョークポイント、海上民兵―米専門家論説」(Center for International Maritime Security, JUNE 23, 2021)

 6月23日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトは、元米海軍軍人で現American Military University学生Nicholas AyrtonとThe University of California, Davis学生Brandon Wallsの“OBSOLESCENCE, CHOKEPOINTS, AND THE MARITIME MILITIA: FACING PRIMARY THREATS TO U.S. SEALIFT”と題する論説を掲載し、両名は米国が世界の大国の地位を維持するためには大規模な軍事海上輸送部隊に支えられた海軍が必要であるが、米軍事海上作戦部隊は老朽化、チョークポイント、中国の海上民兵という3つの脅威に直面しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 強力な海軍力の展開と米国の軍事的抑止を確実なものにすることは、紛争がどこで起こ
ろうとも米部隊が依存する補給を受けることが保証されていること意味する。世界中のどこでも危機が発生した場所に殺到する部隊の主たる提供者としてUnited States Transportation Command (以下、USTRANSCOMと言う)は、21世紀に直面するかもしれないいかなる、そして全ての問題に取り組まなければならない。特に中華人民共和国の台頭する海洋力に対応しなければならない。この点に関してUSTRANSCOMが直面する問題は3つある。米軍事海上輸送部隊の老朽化と能力不足、紛争時における戦略的チョークポイントに対する米軍事海上輸送部隊の脆弱性、中国海上民兵の多様性と強さである。
(2) 米国が軍事海上輸送に利用できる船舶が老齢化することはおそらく最も明確で、最も危険な問題の1つであろう。平均船齢は40年を超えており、多くの船舶は旧式であるか、近代的な部隊の基準を維持するために改造が必要である。加えて部隊規模が大幅に縮小してきている。部隊規模の減少の一端は第2次大戦終了に伴う艦隊規模の縮小によって説明されるが、最近の艦隊規模は主要な紛争時に米軍が必要とする規模を満たすものではないと現USTRANSCOM司令官が述べている。戦時に米国は単純に船舶を拿捕することもできるだろう。それでも拿捕した船舶を運用する能力のある乗組員が必要であり、紛争時の重大な脆弱性に対する半分の解決策でしかない。経費のかかる提案は、軍事海上輸送部隊への予算を増額することによって再起動させ、米国の造船工業界を活性化させる多大な努力が必要となる過程を始めることである。ある見積ではこの取り組みには数十年を要し、その間の政権で引き継がれ、議会から途切れることなく予算が供給される必要がある。これを加速する1つの選択肢は多額の補助金である。補助金の運用は世界市場への悪影響が指摘されるが、できるだけ短期間で軍事海上輸送能力を維持、拡大したいのであれば、米国は選択肢として真剣に考慮すべきである。戦闘艦艇の不足は同時に後方部隊の護衛の不足につながる。あるいは貴重な輸送船を数隻失うことを許容するためにはより多くの軍事海上輸送に従事する船舶を海軍は必要とするだろう。
(3) 世界のチョークポイントは米国の軍事海上輸送を制約し、紛争時には容易に攻撃できる場所となる。2個所のチョークポイントは特に懸念される。1つはマラッカ海峡である。インド洋に展開する米Maritime Pre-positioning Ship Squadron TWO(第2事前集積船隊)に属する船舶、太平洋戦域に輸送される物資は紛争時、係争海域を航過する際に護衛艦艇の不足に直面するだろう。(インド洋から太平洋への物資の移動を)さらに難しくしているのは、人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)である。PLANは大規模な空母部隊を保有していないが、南シナ海の島礁に攻撃機やミサイル部隊を配備しており、南シナ海の様々なチョークポイントを航行する軍事海上輸送船舶に脅威を及ぼすことができる
(4) メキシコ湾及び米東海岸にある42隻の軍事海上輸送船舶がその積載貨物を迅速に太平洋に輸送するためにはパナマ運河を利用する必要がある。米国が地域における影響力を維持しようとする時、このチョークポイントは特に死活的に重要である。最近、パナマは事前に米国に通告することなく、中国を支持して台湾の承認を取り消したことは、米国の戦略的目標と利用に関し不可欠な(パナマ運河という)基幹施設に対する米国の影響力が問題に直面していることを示している。紛争の際に、運河に対して軍事的、政治的妨害が間接的に行われた場合、米東海岸から東アジアへの部隊あるいは物資の輸送は大きく阻害され、船舶は南アメリカ南端を回らざるを得なくなり、展開が大きく遅れることとなる。太平洋における危機の際にパナマ運河地帯が別の紛争地帯にならないよう、米国は裏庭での影響力の低下に立ち向かい、重要な基幹施設を擁する国が確実に友好国であるよう行動しなければならない。
(5) 米海軍は、中国の海上民兵の問題に立ち向かわなければならない。海上民兵は、主として準軍事組織として行動しており、中国の海洋に関する主張を強化するため、ある海域に信じられないほどの隻数を集結させ、海洋で活動する他の組織を締め出すことで特定の海域に圧力をかけることができる。彼らは他の海域のおける民間の活動を破壊することができる。紛争時、民兵の船舶は後方支援に当たる船舶に執拗に触接して悩ませ、威嚇し、その位置を通報するかもしれない。この地域にある米軍への補給を試みる米軍事海上輸送の船舶は脅威を受けるかもしれない。重要な軍事資材を輸送する脆弱な船舶は、脅威が現れれば一般の商船の流れに紛れ込む敵海上民兵部隊によって混乱させられるだろう。武装商船の復活が解決になるかもしれない。共通規格の既製品をもって製造されたコンテナ化した武器システムを開発し、その武器システムを操作する若干の人員を乗り組ませることで、輸送船は軽武装の敵船舶から自衛することができ、護衛艦艇の不足によって生じる薄く引き延ばされた問題は中国海上民兵に関しては軽減することになるだろう。
(6) 米国が地球上のあらゆる所で影響力を発揮する能力を持つ世界の大国であり続けたいのであれば、大規模な軍事海上輸送部隊に支えられた、強力でよく装備された海軍が必要である。想定される紛争の中で軍事海上輸送は多くの問題に直面している、しかし、前向きな思考で解決を見出すことはできる。
記事参照:OBSOLESCENCE, CHOKEPOINTS, AND THE MARITIME MILITIA: FACING PRIMARY THREATS TO U.S. SEALIFT

6月24日「強襲揚陸艦『海南』がヘリコプター訓練―カナダニュースサイト報道」(The EurAsian Times, June 24, 2021)

 6月24日付のカナダ英字ニュースサイトThe EurAsian Timesは、“With An Eye On Taiwan, China’s Amphibious Assault Ship ‘Hainan’ Conducts ‘Invasion’ Drills”と題する記事を掲載し、最近就役した中国海軍の強襲揚陸艦「海南」が行ったヘリコプター訓練について、要旨以下のように述べている。
(1) 中国国営中央電視台(以下、CCTVと言う)の報道によると、中国海軍初のType075強
襲揚陸艦「海南」は、非公表の海域でヘリコプターの離着陸訓練を行った。「海南」は4月23日に就役して以来、艦艇と航空機による高度な統合訓練を行っている。これは、この軍艦が、非常に早く運用能力を獲得していることを示していると評論家たちは述べている。
(2) 中国の雑誌『船載武器』の編集長は、Z-8ヘリコプターに加えて、艦載機であるZ-20多
用途ヘリコプターや武装偵察ヘリコプター・ドローンがType075の主要な航空装備の一部になる可能性があると環球時報に語っている。軍事専門家でテレビのコメンテーターでもある宋忠平は、「海南」は南海艦隊に配属され、南シナ海だけでなく台湾にも関わる任務が可能であると環球時報に語っている。「海南」の政治委員周延東大佐は、CCTVの報道によると、「海南の就役は、国家の主権、安全保障及び開発の利益を守るための強力な支援となる」と述べている。さらに2隻のType075が進水しており、間もなく中国海軍に加わる予定である。
(3)最近中国軍は、台湾を望む、南シナ海の福建省沖の紛争海域で、上陸演習を行った。この動きは、75万回分のCovid-19のワクチンを運ぶ軍用輸送機で、米国の3人の上院議員が台湾を訪問したことに対する中国の反応だと考えられている。
記事参照:With An Eye On Taiwan, China’s Amphibious Assault Ship ‘Hainan’ Conducts ‘Invasion’ Drills

6月24日「中国の『攻撃的抑止』の概念とは―オーストラリア戦略研究家論評」(The Strategist, June 24, 2021)

 6月24日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、同サイト編集長のBrendan Nicholsonの“China’s ‘offensive deterrence’ and avoiding war”と題する論評を掲載し、そこでNicholsonは同じ日にASPIに掲載された「中国を抑止するために」という表題の論考に言及し、その内容について要旨以下のとおりまとめた。
(1)    「中国を抑止するために」という論考を書いたのは、中国を専門に研究する米陸軍中佐
Kyle Marcrumと米Air University のChina Aerospace Studies Institute所長のBrendan S. Mulvaney博士である。この論考を皮切りに、一連の研究計画プログラムが始められた。それは、中国共産党と中国人民解放軍(以下、PLAと言う)にとって「抑止」がどのような意味を持つかについて、そして民主主義国と中国がどのように抑止政策に取り組んでいるかについて、より深い理解に到達することを目的とする計画である。
(2) Marcrum中佐ら著者がまず指摘するのは、中国に対してどのような行動が効果的かを考えるときに重要となるのが、中国における「抑止(deterrence)」が、西側諸国における「抑止」ではなく、「強制(coercion)」ないし「攻撃的抑止(offensive deterrence)」とほぼ同義であると認識することだという。政策決定者は、中国が米国やその提携国を抑止するために、戦争へと事態を拡大させる意図なしに限定的な攻撃をしかける可能性があることを理解しなければならないと彼らは言う。たとえば、2018年12月に羅援退役海軍少将は次のように述べている。「米国が最も恐れているのは犠牲を出すこと」であり、2隻の米空母を撃沈させるだけで、米国を南シナ海や東シナ海から追い払うには十分であろうと。
(3) 著者によれば、中国は以上のような抑止概念を持っているが、実際にそれが期待されるほどの抑止効果は持たないだろう。なぜなら、そうした攻撃的抑止から戦争へと事態が拡大する危険はきわめて高いからである。それゆえ、中国の抑止を模索する際、また中国がわれわれの行動に対してどう反応するかを検討する際には、以上のことを考慮に入れねばならないと著者は言う。
(4) この論考では、そもそも「抑止」のさまざまな定義を説明している。たとえば「強制」理論の父Thomas Schellingは「暴力は、それが強制的な性質を持つためには、予測されたものでなければならず、またそれは妥協によって回避可能なものでなければならない」と言う。また、中国国防大学の趙錫君は、攻撃的抑止の特徴として「先制攻撃」を用いることを挙げ、「大規模な戦争を避けるために小規模の戦争を利用する」のだと論じている。
(5) また、この論考では現在の状況と冷戦期米ソの関係性とが比較されている。冷戦期の米ソはほとんど関わり合いを持たず、貿易もわずかで、地理的な勢力圏においてもほとんど重なるところがなかった。そのうえで彼らは直接の大規模な紛争を避けるよう努力をし、それは成功した。なぜなら彼らは世界をどう見るかに関する基本的な理解を共有し、発展させていたためである。当時の米国はソ連の考え方を研究し、よく理解した。そして相互に、相手が送っているシグナルが持つ意味を理解できた。
(6) しかし現在の状況は冷戦期とは大きく異なる。「中国共産党の世界の理解、世界への取り組み方は、西洋諸国とは大きく異なる。正しいとか間違っているとかではなく、ただ認識が異なり、西側の自由民主主義国に共有されていないものなのである」。
(7) オーストラリアや日本、韓国などの米国の同盟国ないし提携国は、中国に関する理解を深めることに貢献し得る国々である。しかし2001年以降、米国とともにテロとの戦争に注力し、中東での紛争の対処に専念してきた。Trump政権の後半になってようやく、米国は本当の意味で中国の対処に政権全体で対応し始めた。しかし、いかなる領域においても、十分な能力を持つ専門家集団の形成には長い年月がかかるものであり、中国の理解を深めるための土台はまだ確立されていない。
(8) もし中国との衝突の回避を望むのであれば、米国およびその同盟国・提携国は、中国の世界の見方について、深い理解を共有しなければならない。それは長い時間を必要とするものであり、そのために必要な専門知識を有する同盟国との協力を要するものであろう。そしてわれわれは、中国のものの考え方を理解しようとするとき、われわれ自身のそれを重ね合わせてはならない。われわれは粘り強く中国共産党のイデオロギーの理解を深め、それによって、たとえば「抑止」概念における彼らとわれわれの間のズレを理解しなければならない。そうすることによって、われわれは戦略目標を達成する機会を最大化することができるのである。
記事参照:China’s ‘offensive deterrence’ and avoiding war
関連記事:To deter the PRC・・・
https://s3-ap-southeast-2.amazonaws.com/ad-aspi/2021-06/To%20deter%20the%20PRC_0.pdf?VersionId=xJRull.lDIaj25r2eU41bJ0MY18XgebL
Strategic Insights, The Australian Strategic Policy Institute (ASPI), June 24, 2021
By Lieutenant Colonel (P) Kyle Marcrum, a U.S. Army Foreign Area Officer specialising in China, and currently serves as the Senior Country Director for China at the Office of the Secretary of Defense, China Policy

6月27日「米、東南アジアにおける中国の影響力増大に如何に対応できるか―米専門家論説」(Lawfare Blog, June 27, 2021)

 6月27日付のオーストラリアLawfare InstituteのBlogは、米The University of DenverのCollin Meisel調査員ら5名による連名で、 “How the United States Can Compete with Chinese Influence in Southeast Asia”と題する論説を掲載し、ここで筆者らは最近の研究報告書を基に、東南アジアに焦点を当て、中国の影響力の増大と米国の影響力の相対的な低下の状況を解説し、米国がこの相対的な低下に対処する処方箋を提示し、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は世界的な影響力競争に勝利しつつあるか。このような質問に答えることは困難である。何故なら、この種の主題に関する記事や詳細な研究は、より広範な趨勢を分析するよりも、特定の国や問題領域に焦点を当てたものが多いからである。本稿の筆者ら(Collin Meisel他)は、The Formal Bilateral Influence Capacity (FBIC) Index**(以下、FBIC指数)を使用して、The Atlantic CouncilとThe University of Denverによる最近の報告書*から米中間の競争を分析した。FBIC指数とは、国際システムにおいて他国に影響を与える特定国家の能力を測定するために、当該国が経済、政治そして安全保障の領域に及ぶ他国に対する依存度とともに、2国間の相互関係の規模を把握するものである。FBIC指数では、影響力とは、2つの主要な要素から構築される。即ち、1つは「bandwidth(帯域幅)」、あるいは2国間の相互関係の規模。もう1つは「dependence(依存度)」、あるいは特定の国が他国に依存しているか。例えば、米国と中国について見れば、特に両国間の膨大な貿易量を考えれば、互いに大きな「帯域幅」を持っているが、いずれの国も他方に経済全体や安全保障関係において一意に依存しているわけではない。対照的に、ツバルのような多くの小さな海洋諸国は、多くの場合、その規模のために他国との「帯域幅」が小さいが、一方で、援助、貿易、安全保障関係面で、主要な大国に大きく依存しているのが一般的である。
(2) 世界的に見て、中国の影響力の高まりは長年にわたる米国の地域的優位を侵食してきた。以前は米国の影響力の牙城であった東南アジアでは、過去数十年に及ぶ変化は劇的なものであった。たとえば、FBIC指数ではインドネシアとマレーシアでの米国の影響力は1992年の時点で中国のそれより約10倍大きかったが、今では中国の影響力が米国のそれを上回った。現在、ASEAN加盟国間の中国の影響力の総計は、域内全体における米国の影響力を上回っている。したがって、米国は同盟国と提携国の影響力を集団的にまとめ、これを梃子に中国に対抗すべきである。たとえば、米国は、米国、オーストラリア、インド、日本および韓国で構成される「QUADプラス」、あるいは米国、日本、台湾及び韓国で構成される「Semi-QUAD」などの実現を目指せば、状況は米国にとってより好ましいものになるであろう。さらに、米国の政策立案者は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」などの多国間貿易パートナーシップへの更なる統合を通じて実現することのできる影響力の増大を検討すべきである。また、米国は米国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド及び英国の5ヵ国による情報共有パートナーシップ、「“Five Eyes”」に、日本を「a “sixth eye”」として加えることによって、多国間主義をさらに受け入れ、日本との関係を強化することができよう。
(3) ASEANなどの地域機構やその加盟国に対する支援を通じて地域的影響力高めることも、米国にとってもう1つの重要な政策の優先課題となり得る。ASEAN加盟国の影響力の総計は、米国や中国が個々の加盟国に対して及ぼす影響力の総計を大幅に上回っている。ASEANが集団的に行動する能力を強化することができれば、域内の安全保障と経済の連接を支配しようとする外部勢力の努力に対してより効果的に抵抗することができよう。米国は、ASEANのほとんどの加盟国でその影響力が中国より劣勢と見られることから、中国の影響力と直接競おうとするのではなく、影響力のある同盟国――特に日本と韓国との協力を目指すことで、この地域における独自の強力な内部相互依存関係の発展を促すべきである。とは言え、この取り組みには、中国がそれぞれの国家の国益とその関連対価に及ぼす課題の程度と深刻さに対する国家間の認識の差異を埋めるという難題が付きまとう。たとえば、韓国にとって、近接する中国に楯突くことに伴う対価は、米国にとってよりもはるかに高く、報復の脅威も深刻なものとなる。日本の指導部も、輸出入ともに中国に対する依存度が大きいので、中国に対するより厳しい姿勢に伴う対価を慎重に検討しなければならない。中国の影響力を相殺するための集団的行動による長期的利益が如何に大きいかを、日本政府に示す責任はBiden政権にある。
(4) 本稿での我々の勧告は東南アジアに焦点を当てているが、我々の研究は事実上、世界の全ての地域においても中国の急速かつ実質的な影響力の増大は、絶対的とは必ずしも言えないが、米国の影響力の相対的な低下をもたらしているという同じ趨勢を示している。米国の政策立案者は、米国が依然優位を維持している影響力の特定の要素を梃子に外交政策を調整することで、こうした変化する趨勢に対応することができる。この戦略における核心は、提携国の影響力を梃子とすること、あるいは単にそれに依存することである。対照的に、米国による一方的な取り組みは失敗する可能性が高い。一国主義が長年に亘って米国の標準的な戦略であった中東と北アフリカでは、世論の動向は中国に大きく傾いている。ロシアの復活とイランの影響力の増大と相まって、中東における「米国の時代」は終わった。もし米国が東南アジアでも一国主義を貫くならば、次は東南アジアとなろう。
 記事参照:How the United States Can Compete with Chinese Influence in Southeast Asia
備考*:China-US Competition: Measuring Global Influence
備考**:FBIC | International Studies (du.edu)

6月28日「国内および国境を越えた犯罪に対抗するインドネシアの海洋訓練センターに米国が資金提供 -香港紙報道」(South China Morning Post, 28 Jun, 2021)

 6月28日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、”US funds Indonesian maritime training centre at edge of South China Sea to counter ‘domestic and transnational crime’”と題する記事を掲載し、インドネシアのように米中両国との良好な関係を維持しようとする試みは、地域全体に波及しており、その結果はおおむね成功していると、要旨以下のように報じている。
(1) インドネシアと米国は、南シナ海とマラッカ海峡の戦略的な接点に350万ドル規模の海上訓練センターの建設を開始した。これは、東南アジアにおける影響力をめぐって中国との争いが続く中で、米国がインドネシアにとって最高の防衛提携国であることを再確認させるものである。この訓練センターは、インドネシアの広大な領海と排他的経済水域を監督する機関のひとつCoordinating Ministry for Political, Legal, and Security Affairs(政治・法務・治安調整省)を母体とするMaritime Security Agency(インドネシア語の略語でBakamla:以下、Bakamlaと言う)の所管で運用される。
(2) The Indonesian military’s International Cooperation CentreのTatit Eko Witjaksono海軍少将によると、Bakamlaは海上での安全と安心の確保という課題に対応する人材の育成にこの訓練センターを活用する。訓練センターには、教室、事務室、vessel launch ramp(搭載艇の発進台)があり、最大で50人の学生と12人の教官を収容できる。
(3) Sung Y Kim駐ジャカルタ米大使は、US Indo-Pacific Commandのウエブサイトに次のような声明を発表した。
a.インドネシアの友好国、提携国として米国は、インドネシア国内および国境を越えた犯罪に対抗することで、地域の平和と安全を推進するインドネシアの主導的役割を支援することに引き続き尽力する。
b.2014年にBakamlaが設立されて以来、米国は国境を越えた犯罪と戦うためにインドネシアと継続的な提携の一環として、Bakamlaに機材、援助、訓練及び技術支援を提供してきた。
(4) インドネシアCentre for Strategic and International Studiesの研究者Gilang Kembaraは、この訓練センターについて、次のように述べている。
a.訓練センター設立は、米国がインドネシアにとって防衛および安全保障の提携国であるという長年の地位を明確に示すものである。
b.米国による援助は金銭的なものだけでなく、訓練センターの建設、武装部隊の訓練、Bakamlaの海上における法執行の支援などの実質的な援助もある。
c.この訓練センターは、Bakamlaの将来性を高めるものである。
d.インドネシア海軍は、国家の主要な海上における法執行機関であるBakamlaに権限が与えられることで、これを通じて自らの警察機能を強化している。新しい政府機関Bakamlaは、その主な任務を遂行するために、より多くの訓練を受け、より多くの資産を獲得する必要がある。
(5) US Department of State(米国務省)によると、米国は2020年にインドネシアに対して軍事教育・訓練のほか、軍事資金や安全保障などに3,900万米ドル弱を支援した。さらにインドネシアは2016年から2020年の間に、海洋安全保障の強化を含む防衛機関の能力構築支援として500万米ドル以上を得ている。
(6) シンガポールのInstitute of Defence and Strategic Studies研究員Collin Kohは、次のように述べている。
a.この新しい訓練センターは、資金、訓練、及び基幹施設整備などについての、さまざまな外国の援助をインドネシアが歓迎していることを表している。
b.ジャカルタの意図は、このような外部からの能力開発支援の恩恵を受けようとしている以上のものではない。
(7) 東南アジアの近隣諸国と同様に、インドネシアもここ数年、米中競争激化の渦中にあり、インドネシアは中立・非同盟の立場を貫く自由で積極的な外交政策を放棄することなく、両大国との良好な二国間関係を維持することに成功している。
(8) さらにKohは、次のように述べている。
a.インドネシアは経済的には中国への依存度が高いが、防衛・安全保障分野では米国への依存度が高い。最近ではインドネシアと米海兵隊による共同訓練が相次いで行われている。
b.中国はインドネシアとの防衛・安全保障関係を強化しようとしており、最近では中国海軍が、沈没したインドネシアの潜水艦の回収作業を支援するなどしているが、これらの取り組みは米国に比べて遅れている。
c.中国は防衛援助が少ない分、投資と貿易で補っている。中国は昨年48億ドルの投資をインドネシアに対して行い、シンガポールに次いで、インドネシア第2位の外国人投資家となった。さらに中国は2020年、インドネシアにとって最大の貿易相手国となり、貿易総額は714億米ドルで、インドネシアが米国との間に計上した272億米ドルの貿易額を大きく上回っている。
 d.米中両国との良好な関係を維持しようとする試みは、地域全体に波及し、ASEAN諸国は、その規模の大小にかかわらず、一貫して自国の権限を行使し、戦略的自律性を主張することを求め、それは概ね成功している。例えば、シンガポールは中国との経済的な結びつきが強く、米国との安全保障上の緊密なパートナーシップを維持している。
記事参照:US funds Indonesian maritime training centre at edge of South China Sea to counter ‘domestic and transnational crime

6月29日「黒海における英ロ衝突の事例が浮かび上がらせる南シナ海の危険性―香港紙報道」(South China Morning Post, June 29, 2021)

 6月29日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea risks highlighted by Britain-Russia encounter in Black Sea”と題する記事を掲載し、黒海において起きた英ロ間の衝突に言及し、南シナ海において同様の事態が生じた場合に中国の対応の仕方に対する意見を取りあげ、要旨以下のように報じている。
(1) 6月下旬、黒海において英国艦船とロシアの艦船および航空機の間で衝突が起きた。ロシア国防省によると、英駆逐艦「ディフェンダー」がクリミア半島沖を通航中に、自国の領海内に入ったとしてロシアの巡視船が警告射撃を行い、また上空を飛んでいたジェット機が英艦の針路に爆弾を投下したという。しかし英国側は、射撃も爆撃もなかったと主張した。事実がどうあれ、この事例は、南シナ海において中国とそれ以外の国の間に同様の衝突が起きる可能性を提起した。中国人民解放軍がロシアのように強い対応をとるとする意見もあれば、より穏当な手段をとるという意見もある。
(2) 南シナ海は、中国や台湾およびいくつかの東南アジア諸国が領有権を争い、また米国やフランス、ドイツ、英国などが軍事的展開を拡大している海域である。米国は自由の航行作戦を展開し、英空母「クイーン・エリザベス」もインド太平洋海域を航行中である。
(3) タカ派的姿勢で知られる中国のSNSアカウントのSouth China Sea Waveのある論評は、2013年12月の事例に言及した。それは、中国空母「遼寧」と米艦「カウペンス」が南シナ海で接近するという事件である。このときは「遼寧」の護衛艦艇によって、米艦は衝突を回避するための行動を採らざるを得なくなった。South China Sea Waveは、今後もし、中国が領有権を主張する島々の領海内に英空母が侵入することがあれば、それを追い払うために強硬な行動に出るかもしれないと述べている。
(4) 危険性の大きさを強調するこうした主張がある一方で、中国とそれ以外の国の間の衝突の危険性は小さくなってきているとする主張もある。それは特に、2001年に中国人民解放軍海軍のJ-8戦闘機と米国のEP-3E偵察機が衝突し、中国のパイロットが命を落としてからそうであるという。それ以後中国海軍は外国船の探知能力の向上や、外国の軍隊との通信経路の構築を図ってきた。
(5) また、マカオの軍事専門家黄東は、ロシアが行ったような警告射撃や爆撃という手段を、中国が外国船を追い払うために採ることはありそうにないと主張する。北京軍事科学シンクタンク遠望智庫の研究員周晨明は、その代わりに中国軍が採用するのは、警告のために領海に侵入していると思われる外国船の上空に航空機を飛ばすことだと指摘する。中国は、戦争へと事態を拡大する衝突の危険性を回避することに十分な注意を払っているということである。
記事参照:South China Sea risks highlighted by Britain-Russia encounter in Black Sea

6月29日「北極圏における米沿岸警備隊の重要性―米軍ウエブサイト報道」(Military.com, June 29, 2021)

 6月29日付の米軍コミュニティウエブサイトMilitaryは、“Coast Guard Considers Arctic FONOPs As Russian Activity Increases in Region”と題する記事を掲載し、北極圏をめぐる国際秩序や米露関係における、米沿岸警備隊の重要性について、要旨以下のように述べている。
(1) 6月28日、北極圏は米国が「航行の自由作戦」を実施する次の地域になる可能性がある
と米沿岸警備隊のトップが語っている。米沿岸警備隊司令官Karl Schultz大将は、米シンクタンクBrookings Institutionが主催するオンライン・ディスカッションで、北極圏には推定1兆ドル相当の希少鉱物、世界供給量の3分の1を占める液化天然ガス、そして回遊魚種が存在し、特に国内総生産の20%から24%をこの地域から得ているロシアからの貨物輸送が増加していると述べている。ロシアはこの地域の「正当な利用と権利」を有しているが、ロシアや中国のように北極圏に関心をもつ別の国が北極で「責任ある行為者」として振る舞わない場合、米国は「法に基づく国際秩序」を守る義務があるとSchultzは語っている。
(2) その一方で、米沿岸警備隊は北極圏を哨戒するのに必要な資源を持っておらず、
運用されているのは大型砕氷船「ポーラー・スター」1隻のみだとSchultzは述べている。彼は、「北極圏では存在感は影響力に等しいが、現時点において、我々はひどく不足している」と述べた。US Department of the Navyは1月に「Strategic Blueprint for the Arctic」を発表し、「米海軍は日々の競争に勝つために、北極圏でより積極的に活動しなければならない」と指摘した。
(3) 海軍の任務と法執行機関としての権限をもつ米沿岸警備隊は、この地域における米国
の代表として特異な立場にあるとSchultzは言う。「我々が懸念しているのは、(ロシアが)この地域でどのように行動するかということである。これは、法に基づく国際秩序とその遵守、近代的な海洋ガバナンスについての我々の懸念と同じである。沿岸警備隊は、多くの『信用』(street cred)をもたらしてくれる。つまり我々は、これらの行動を遵守し、模範としていると世界中で認識されている」とSchultzは述べている。
(4) 一部の北極圏の専門家たちは、ロシアが、(ある程度中国と連携して)北極圏での活動
を活発化させているのは、「大国」として認識されるための計画というよりも、実際には、冷戦時代よりもはるかに優れた装備を持つ敵対者たちと直面しているにもかかわらず、冷戦時代の活動を再開させているのだと考えている。Carnegie Endowment for International Peaceのロシア・ユーラシアプログラムの責任者であるEugene Rumeと、同シンクタンクの非常勤上級研究員であるRichard Sokoloskyは、現在の状況を「両当事者間の利益の衝突」(clash of the two parties’ interests)と表現している。彼らは、3月に発表されたレポートで、外交及び抑止力によってこの問題に対処するよう提言している.
(5) 6月18日のJoe Biden米大統領とVladimir Putin露大統領による会談では、Bidenによる
と「北極を紛争ではなく協力の地域にする」方法について話し合われ、Putinはこの地域を「相互理解のための地域」(zone of understanding)と表現した。Schultzによると、米沿岸警備隊は、この地域での協力関係を改善するための役割を果たしているが、同時にロシアの行動も見張っている。
記事参照:Coast Guard Considers Arctic FONOPs As Russian Activity Increases in Region

6月30日「NATO、極北で対潜訓練実施―ノルウェー紙報道」(High North News, Jun 30 2021)

 6月30日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、“NATO Practicing Submarine Tracking in the High North: “Requires Advanced Training””と題する記事を掲載し、6月28日から開始されたNATO年次対潜訓練「ダイナミック・マングース」の意義について、主催国ノルウェー海軍司令官の発言を軸に以下のように報じている。
(1) 6月28日に開始されたNATO年次対潜訓練「ダイナミック・マングース」では、NATO
加盟国海軍はノルウェー沖の水深の深い海域で潜水艦の探知、追尾訓練を実施する。2021年は、潜水艦の運用に関するNATOの能力向上を図る本訓練をノルウェーが主催する。「10年前、加盟国海軍の多くはより南の海域で海賊を追いかけ、あちこちの海域で安全保障のための行動に忙しかった。しかし近年、NATOの集団防衛が再活性化してきている。対潜戦は優先事項の1つである」とノルウェー海軍司令官Rune Andersen少将はいう。
(2) 「対潜戦は自然によって能力が試される。海空部隊で極めて高度な訓練と調整が求めら
れる。センサーを作動させようとするとき、異なる海域ではしばしば異なる特性を有している」とAndersen司令官は述べている。水深、水温、海底の形状など海域の特性は音波伝搬とどのようにセンサーを使用するかに影響を与える。「海域特性の変化は、我々が異なる海域で演習、訓練を実施することを求めている。各海域の特性を知ることは我々にとって死活的に重要である」とAndersen司令官は付け加える。
(3) 「ダイナミック・マングース」はNATO、ロシア双方にとって戦略的に重要な海域で実
施されている。6月28日に NATO Allied Maritime Command(以下、MARCOMと言う)が実施した記者会見で、Andersen司令官はダイナミック・マングースのような演習の重要性は北大西洋において増大する軍事活動のためにますます高まってくると説明している。
NATO加盟国がノルウェー沖で共同して作戦を実施できることは、ノルウェーにとって重要であるとAndersen司令官は述べており、連合海上部隊の北大西洋への展開は通常の状況であると考えていると付け加えている。
(4) High North Newsの演習は対ロシアを念頭に置いたものかとの質問に対し、MARCOM副
司令官Didier Piatonフランス海軍中将は、演習は特定の国を対象としたものではないと述べ、「我々の普段の任務は抑止である。我々は乗組員を訓練し、抑止に信頼性を加えるためにここにいる」と付け加えている。Andersen司令官は、この演習は何年も実施されてきており、西側とロシアの関係に直接、関係するものではないと指摘した上で、「この演習はNATOの通常の演習の1つであり、NATOが実施するべきことの1つ、集団防衛の演練である。演習は他を挑発するような方法では行われておらず、明確に防衛的性格のもので、ノルウェーの排他的経済水域内で行われ、ロシアからは遠く離れている」と締めくくっている。
記事参照:NATO Practicing Submarine Tracking in the High North: “Requires Advanced Training”

6月30日「米国とオーストラリアがインド太平洋のグレーゾーンで真の提携国になるには ―米専門家論説」(The Strategist, June 30, 2021)

 6月30日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Japan Forum for Strategic Studies等の上級研究員Grant Newshamの”How the US and Australia can be real partners in the Indo-Pacific grey zone.”と題する論説を掲載し、そこでNewshamは、グレーゾーンへの攻撃は一対一で行うべきではなく、できるところに力をかけ米国とオーストラリアが一緒に活動をすべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国は、自らを「太平洋の国」と考えている。米国の西海岸はグアムまで続いている。現在、米国はこの地域の安全保障に不可欠な存在で、それを取り除いたならば、中国の支配に耐えられる国はない。また、米国の存在は、他の国がお互いの首を絞めることを防いでいる。
(2) 中国海軍には約350隻の船があるが、中国海警や海上民兵を含めると700隻以上になる。米海軍が全世界をカバーするために保有するのは300隻弱であるが、中国は米海軍が1隻建造するごとに4隻の船を進水させている。この状況を10年(あるいはそれ以下)続けると、何か変化がない限り、中国軍は第1列島線をはるかに超えて力を発揮することになる。
(3) 米国は、多くの場所で活動するために、多くの艦船や航空機を必要としており、中国の巨大なロケット部隊に対抗するために、多くのミサイルを必要としている。しかし、米国が単独で中国に対処することはできない。数を増やすだけでは十分ではない。米国が必要としているのは、一緒に行動し、必要に応じて戦うことができる真の提携国である。そのため、中国市場と深く結びつき、北京を恐れているこの地域の国々は、苦渋の選択を強いられる。
(4) 米国の戦略的意思疎通は非常に悪く、外交的展開は重要な場所の多くで限られているか、もしくは存在していない。米国は基盤となるものがあるとはいえ、本気で太平洋の国、少なくとも太平洋の力であり続けようとするならば、適切な資金、規模、能力、場所を備えた軍隊を整備し、経済力と商業力を結集して展開し、戦略的意思疎通を学び直し、自分自身とその影響力を売り込む必要がある。そして、これらすべてを真の提携国と一緒に行う必要がある。
(5) 互いの領域を政治的・経済的に強化するために、米国とオーストラリアは並行して、以下のことを行うべきである。
a.戦略的意思疎通を再学習する。
b.NATOの「あるメンバーへの攻撃はすべてのメンバーへの攻撃である」という規定に似た、経済上の取り決めを導入する。
c.中国市場への依存をなくす。
(6) 北京の計画を阻止するために、米国とオーストラリアは以下のことができる。
 a.かつてのCoordinating Committee for Multilateral Export Controls(多国間輸出管理調整委員会)のような、本格的な輸出管理の取り組みを導入する。
 b.自由貿易協定、渉外担当者の交流、人道支援や災害救助のための共同訓練などを手始めに、台湾を支援する。台湾が北京に落ちれば、米国はインド太平洋での地位を維持することが困難になる。
c.中部および南太平洋地域の官民一体となった本格的な基幹施設整備計画を策定する。この取り組みは、日本や必要に応じてインドも参加することで、4カ国安全保障対話(QUAD)を強化できる。2019年にソロモン諸島とキリバスが台湾から中国よりに政策を変えたことからもわかるように、現在の取り組みはうまくいっていない。
 d.インドと防衛・経済面での協力を実施する。
 e.責任を回避することなく、インド太平洋の全体を検索し、関与できる場所を探す。働きかけを重複させることで、脆弱性や機会を見落とさないようにすることができる。
(7) 軍事的な取り組みにあっては、米国とオーストラリアはオーストラリア大陸北方のダーウィンに多国籍の水陸両用統合任務部隊を設置することができる。それは、その場しのぎや一時的なものではなく、常設部隊となる必要がある。そして、日本と自衛隊にも特別な注意を払う必要がある。今はまだないが、自衛隊としっかりと結びついていなければ、我々の将来は暗いものになる。オーストラリアは、日本に空軍の飛行隊を配置すべきであり、場所はおそらく米海兵隊の岩国航空基地になるであろう。そして日本の海上自衛隊と陸上自衛隊をこの水陸両用統合任務部隊に参加させるべきである。
(8) 中国は、政治・経済の領域と軍事の領域が、グレーゾーンの活動、軍事及び準軍事と融合している。さらに、敵対国を犠牲にして自国の利益を押し付ける経済的、政治的、外交的、心理的な活動のすべてがある。中国が台湾から外国を引き離し、パプアニューギニア南部に漁港を計画し、ニューカレドニアで独立運動に拍車をかけているのは、すべてグレーゾーンの作戦である。これらは、すべて中国により計算されたものである。中国がグレーゾーンで大きな成功を収めているのは、それに対抗する挑戦がないからである。これに対抗するには、中国の漁船団が中国国家の一部ではないと主張する法的詭弁や、海上民兵が想像の産物であると主張する法的詭弁を無視しなければならない。
(9) たとえば、米国やオーストラリア(および日本)の戦闘機を台湾空軍機に同行させ、台湾周辺を飛行する中国軍の航空機を迎撃する。そのためには、北京の怒りを心配するよりも、リスクを負うことを厭わない姿勢が必要となる。中国が強くなればなるほど、リスクは大きくなり、早く反撃すれば勝率は上がる。また、グレーゾーンへの攻撃は1対1で行うべきではない。中国の漁船500隻がトレス海峡(オーストラリア最北端とニュ-ギニア島間の海峡:訳者注)に現れたとしても、オーストラリアの漁船500隻を送り込んで、彼らに対抗させる必要はない。それよりも反撃は、できるところに圧力をかけた方が効果的である。
(10) 中国銀行の米ドルの扱いを一時的に停止させ、中国指導者の親族の居住許可を取り消し、銀行口座に先取特権を与え、中国共産党の腐敗に加担した人々を暴露して公表する手段もある。
(11) 米国とオーストラリアは、一緒にグレーゾーンの活動をすべきである。Antony Blinken米国務長官は、中部太平洋諸国の代表者を前に、中国の強引な貸し付け行為を批判したが、代替案は示さなかった。これは、中国のグレーゾーン問題や、その一部である戦略的意思疎通への我々の対応状況をよく表している。10年後に米国がインド太平洋の役割を維持している確率はおそらく五分五分である。しかし、ワシントンが腹をくくり、知恵を絞り、日豪印を真の提携国として協力すれば、その確率は大幅に向上する。
記事参照:How the US and Australia can be real partners in the Indo-Pacific grey zone.

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Time to End the Gamesmanship
https://www.chinausfocus.com/foreign-policy/time-to-end-the-gamesmanship
China US Focus, Jun 21, 2021
By He Yafei(何亜非), former vice minister of foreign affairs and senior research fellow at the Chongyang Institute for Financial Studies at Renmin University of China(中国人民大学重陽金融研究院高級研究員)
 6月21日、中国人民大学重陽金融研究院高級研究員である何亜非が、香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focus に“Time to End the Gamesmanship”と題する論説を寄稿した。その中で、①現在、世界は大きな変化を目の当たりにしており、主要国の関係は緊張しているが、特に、深みにはまっている米中、中印の関係を憂慮すべきである、②これらの関係において競争が激化しているにもかかわらず、協力の余地はあるが、反対や対立の視点で見ている人たちが、中国の発展に対して深い疑念と不安を抱いている、③この状況を打開する方法は以下のようになる:a. 最低限の戦略的相互信頼性を再構築するため、意見の相違を認め、ゼロサム・ゲームのような悪質な戦略的競争をやめ、対話と交渉を通じた協力を追及する、b. 相互尊重に基づいて、真摯で実務的な対話と交渉を行い、気候変動、サイバーセキュリティ、世界的感染拡大などの分野で協力し、戦略的相互信頼性の再構築への道を開く、c. 相互尊重とは、まず、両国が偏見なく相手を見ることであり、相手を尊重し、不一致については、対等な立場で解決策を話し合うことが肝要である、d. 中国とインドは、「開発の機会は脅威にはならない」という基本的な判断に基づき、互いの目的を正しく分析し、互いの核心的利益と重大な関心事を尊重し、配慮すべきである、e. 米中印は、競争を客観的かつ現実的な視点から捉え、2国間の関係において、競争関係が悪意のあるものではなく、良識的なものであることを保証するよう努める、④最後に、米中及び中印関係がどのように悪化しても、対話と時宜にかなった意思疎通を強化することが常に必要である、といった主張を行っている。

(2) To deter the PRC
https://s3-ap-southeast-2.amazonaws.com/ad-aspi/2021-06/To%20deter%20the%20PRC_0.pdf?VersionId=xJRull.lDIaj25r2eU41bJ0MY18XgebL
Strategic Insights, The Australian Strategic Policy Institute (ASPI), June 24, 2021
By Lieutenant Colonel (P) Kyle Marcrum, a U.S. Army Foreign Area Officer specialising in China, and currently serves as the Senior Country Director for China at the Office of the Secretary of Defense, China Policy
Dr Brendan S. Mulvaney, the Director of the China Aerospace Studies Institute
 2021年6月24日、米陸軍の中国問題専門家Kyle Marcrum中佐と米シンクタンクChina Aerospace Studies Institute(CASI)のBrendan S. Mulvaneyは、Australian Strategic Policy Institute(APSI)のStrategic Insightsに、" To deter the PRC "と題する論説を発表した。その中で両名は、この報告書はCASIとASPIとの共同研究の成果であるとし、今後数カ月の間に、我々の研究協力者と共に、抑止の概念や、民主主義国家と中華人民共和国の双方がどのように抑止にアプローチしているか、自由民主主義国が中国を抑止するために何をしているか、そして、中国がそれをさらに抑止するために何をしているかを検討し、その取り組みの影響を評価するものであるなどと報告書の性質を述べた上で、米ソ冷戦当時、両国は相手が 「レッドライン」 を越えることをどのように阻止するかについてかなり明確に理解していたが、現在はそれとは異なり、中国の世界観、ひいては世界に対する取り組みは、西側の見方とは大きく異なるものであり、それは正しいことでも間違っていることでもなく、西洋の自由民主主義国では一般的ではない見方であると指摘している。そして、そうした違いを乗り越え、米国とその同盟国・友好国が、中国との紛争回避に成功することを望むのであれば、中国共産党と中国政府が世界をどのように見ているのかについてのより深い理解を共有する必要があるが、それには数年間にわたる継続的な努力だけでなく、必要不可欠な専門的知識を持つ協力者や同盟国との提携が欠かせないと主張している。最後に、MarcrumとMulvaneyは、本報告書が示す最大の含意は、「攻撃的抑止(offensive deterrence)」 の概念と、それが中国の抑止の試みにどのように現れるかにあるとし、中国は、米国、オーストラリア、あるいはその同盟国を抑止するために、われわれの資産への攻撃―極端な言い方をすれば、アメリカ人やオーストラリア人への攻撃―を行うかもしれないが、それは、中国が求めたり期待したりする抑止効果を持たず、そのような行為から拡大するリスクは極めて高いなどと主張している。

(3) GRADUALLY AND THEN SUDDENLY: EXPLAINING THE NAVY’S STRATEGIC
BANKRUPTCY
https://warontherocks.com/2021/06/gradually-and-then-suddenly-explaining-the-navys-strategic-bankruptcy/
The War on the Rocks, JUNE 30, 2021
By Chris Dougherty, a senior fellow in the Defense Program and co-lead of the Gaming Lab at the Center for a New American Security. 
 2021年6月30日、米シンクタンクCenter for a New American SecurityのChris Doughertyは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに、" GRADUALLY AND THEN SUDDENLY: EXPLAINING THE NAVY’S STRATEGIC BANKRUPTCY "と題する論説を発表した。その中でDoughertyは、米海軍は現在戦略的な破産の危機に瀕していると述べ、その理由として、米海軍では艦艇の新規導入と従来の艦艇の保守・整備の実施が頻繁に繰り返されているため、運用可能な艦隊の規模が、世界に展開する米海軍の日々の需要を満たすには十分ではなく、緊急時の増強にも対応できない状態にあるからだと指摘している。そして、米海軍の予算は、中国の軍事的挑戦に対応するためには 「大規模かつ緊急の変更」 が必要であるにもかかわらず、最近の予算要求では中規模な変更しか行われていないと懸念を示した上で、中国の脅威に対する見積もりや対処の仕方については米国内でも様々な見立てがあるため、米海軍の戦略や必要となる予算などに関する合意を達成するのは容易ではないが、しかし、米政権内での協調的な努力がなければ、米海軍は戦略的な破産に向かって徐々に下降を続け、債務の期限が突然到来するリスクが高まるだろうと警鐘を鳴らしている。