海洋安全保障情報旬報 2021年7月1日-7月10日

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7月1日「ロシアはなぜQUADを不安視するのか―ニュージーランド・ロシア専門家論説」(The Strategist, July 1, 2021)

 7月1日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、元駐ロ大使で現ニュージーランドMassey University兼任教授Ian Hillの“Why is Russia worried about the Quad?”と題する論説を掲載し、そこでHillはロシア外相Sergey Lavrovのアジア歴訪に言及し、それがQUADに対するロシアの懸念を反映した動きであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ここ最近、米ロおよび欧ロ関係に注目が集まっているが、他方でロシアがアジアにおいて厄介な困難に直面していることについては、あまり関心が持たれていない。2021年3月半ばに日米豪印4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)の首脳会談が実施されたが、その直後、ロシア外相Sergey Lavrovが中国、韓国、インド、パキスタンを歴訪し、ロシアとの継続的な関係性を強調した。
(2) インドにおいて、Lavrovは印ロ関係の強化を狙いつつ、QUADへの懸念を繰り返した。彼によればQUADは米国主導の「反中国」ブロックのようなものであり、印ロ関係を弱体化させ、またASEANの中心性を弱めるものである。ロシアがQUADを強く批判するのは、それがアジアにおける形勢を一変させ、ロシアの立場と戦略を妨害するとロシアが認識しているためである。
(3) 2014年のクリミア問題によって米国やヨーロッパとの関係が悪化して以降、ロシアはアジアへ重心を移してきた。その中で最も重要な関係が中国との関係である。近年、中ロ関係はますます緊密さを増しているが、それは両国の政治的親近感の反映であり、経済的にお互いに利益があるためである。ただし、その関係は実利的で、取引上の関係に留まっている。さらに中ロの間では力の均衡が中国に偏っているため、ロシアは中国の従属的な相手方のような立場になっている。この均衡をとり、自立した立場を維持するために、ロシアは中国以外との関係の拡大を模索している。
(4) インド以外に日本やASEANとの関係強化をロシアは模索している。しかし日本については、北方領土問題が障害となり、関係改善の道のりは険しい。他方、ベトナムやインドネシアなどとは、エネルギーや武器取引を通じて、ゆっくりとではあるが経済関係を強化させている。また、こうした2国間関係の強化のために、ASEANやAPECなどアジアの地域機関に関わり、信頼を高めようと試みている。ロシアはこのようにアジアを軸にしつつ、「大ユーラシア・パートナーシップ」構想を打ち出している。それは、ロシアを介してアジアとヨーロッパをより深く結びつけようとするものである。
(5) アジアへの関わりを深めるなかで、ロシアが懸念しているのは、インド太平洋という戦略概念の登場と、QUADがより安全保障協力の枠組みになっていることである。インド太平洋という枠組みは海を中心としたもので、ロシアが主導的役割を担うであろうユーラシア大陸を中心とした枠組みとは対立するものである。また、QUADは米国主導で中国に対抗する安全保障協力の枠組みと見なされているが、ロシアが中国あるいはインドなどアジアの重要な国々との間で均衡を取ろうとするその努力の障害になることも懸念されている。もし、QUADが韓国やASEANなどの他の行為者を巻き込むことがあれば、ロシアはより孤立し、中国に依存せざるをえなくなってしまうだろう。
(6) インドは特にロシアにとっての懸念の対象である。インドは近年中国の経済的・軍事的拡大に不安を強めており、それゆえQUADへの関わりを深めている。ロシアはインドがこのまま米国とさらに協力を深め、逆に印ロ関係が相対的に弱まってしまうのではないかと恐れている。それに対してインドは、インド太平洋はあくまで原則を基礎にした包括的な概念であることを強調し、ロシアの懸念を弱めようとしてきたが、あまりうまくいっていない。
(7) そうした状況の中、Lavrovがパキスタンを訪問したことはインドに対する明確な警告であった。パキスタンでの会談では、Lavrovはパキスタンへの安全保障上の支援の拡大を議論した。ロシアは自国が地域で孤立することに敏感であるため、今後、バングラデシュやミャンマーなど、他のアジアの提携国との関係構築に努めていくであろうし、インド洋における軍事的展開も拡大していこうとするだろう。しかしQUADの重要性が今後も高まっていくであろうことを考慮すれば、こうしたロシアの試みは簡単なものではない。
記事参照:Why is Russia worried about the Quad?

7月2日「東南アジアへの関与を再び深める英国―マレーシア・アジア専門家論説」(The Interpreter, July 2, 2021)

 7月2日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、University of Malaya 上級講師Rahul Mishraの“Playing catch-up: Britain’s re-engagement with Southeast Asia”と題する論説を掲載し、そこでMishraは6月下旬に英外相Dominic Raabが東南アジア諸国を訪問したことに言及し、英国の東南アジアおよびインド太平洋政策の背景と狙いについて、要旨以下のとおり述べた。
(1) 英外相Dominic Raabは、6月下旬にベトナム、カンボジア、シンガポールを訪問した。それら3ヵ国は、ブレクジット後の英国の貿易にとって大きな重要性を持つものである。Raabは2020年にマレーシアも訪問しており、そこでジョンソン政権の「グローバル・ブリテン」構想を宣伝した。これは、ブレクジット後の英国が、アジア、さらにはインド太平洋地域への自国の影響力を拡大させようとしている動きの反映である。
(2) 英国の目的の1つはアジアとの貿易の拡大である。英国はベトナムやシンガポールに加え、日本やオーストラリアとも貿易協定を結び、さらに環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への参加も約束している。また英国は地域の安全保障上の存在感の増大も目指している。Raabの東南アジア訪問中に、英海軍の「クイーン・エリザベス」が南シナ海に向けて出港した。英国の狙いは自国の軍事力を誇示し、自由の航行作戦における米国への支援を行い、かつ法に基づく秩序の原則を承認する立場をはっきりと示すことにある。
(3) インド太平洋への英国の関与の深まりはASEANには歓迎されるだろう。早晩、英国はASEANの対話相手となり、東南アジアへの関与を深めていくだろう。さらに英国は、英国、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、シンガポールが加盟する5ヵ国防衛取極という枠組みを通じて、シンガポールとマレーシアとの協調を強め、東南アジアへの関わりを深めていくことであろう。
(4) しかし、英国がEU、特にフランスやドイツが東南アジアやインド太平洋において確立している影響力に追いつくのは容易なことではない。フランスはすでに独自のインド太平洋戦略を発表し、その海外領土ゆえにれっきとしたインド太平洋国家のひとつである。歴史的にも東南アジアとの深い関係を有しており、近年、活発に東南アジア諸国を含むインド太平洋諸国との提携を強化している。ドイツもまた中国、日本、インドというアジアの経済大国と確固とした経済関係を有しており、2020年のASEANへの最大の輸出国でもある。Raabが訪問した国が、フランスと歴史的関係を有するベトナムとカンボジア、そしてASEAN諸国のうちEU最大の輸出先であるシンガポールと第二位のベトナムであったのは偶然ではないであろう。
(5) 英国がインド太平洋への展開を強化しようという方向性は間違っていない。しかし、今後具体的な計画が必要になってくる。この点においてCPTPPへの参加は大きな意味を持つであろう。Raabの東南アジア諸国訪問は、今後英国が東南アジア、さらにはインド太平洋へと地歩を拡大していく土台づくりと考えられる。EUのそれを超えてインド太平洋へと浸透していくには、さらなる努力が必要であろう。
記事参照:Playing catch-up: Britain’s re-engagement with Southeast Asia

7月4日「台湾東海岸沖の水測状況に変化:中国の潜水艦戦に影響―香港紙報道」(South China Morning Post, 4 Jul, 2021)

 7月4日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Changing Taiwan ocean conditions could affect PLA’s submarines”と題する記事を掲載し、黒潮の水測状況が変化し、中国が台湾侵攻する際の潜水艦戦を阻害する一方、新たな攻撃機会を提供するとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国軍は台湾東海岸沖の海流と水温が変化していると警告してきている。これは、台湾
侵攻時の潜水艦戦計画をこの変化に適用させなければならないことを意味する。匿名のソーシャル・メディア・アカウント南海浪潮に掲載された最近の報告は、黒潮の変化が中国の侵攻の試みを阻害する一方、新たな攻撃機会を提供すると述べている。台湾本島の東側は、中国本土からの攻撃が難しく、台湾軍の主要基地が多く所在することから、人民解放軍の侵攻計画の鍵となっている。
(2) 南海浪潮の報告は、沖縄近傍の海底における火山活動の活発化が、台湾東海岸沖合の海
水温度を変化させ、海流に影響を及ぼしているとしている。報告は潜水艦が攻撃を実施する際には助けとなるが、中国本土に向け回避する場合には向かい潮となり、回避が困難となると言っている。
報告はまた、反流と向かい潮は魚雷の航走に影響を与え、修正しなければ目標に命中させられないかもしれないとも述べている。
(3) シンガポールのS Rajaratnam School of International Studies研究員Collin Kohは、人民解
放軍海軍潜艇学院は10年以上にわたって潜水艦戦に対する黒潮の影響について研究してきたと言い、「人民解放軍海軍は、台湾事態の際に米国及びその同盟国部隊により介入に対する作戦を効果的に実施することを潜水艦に期待するだろう。もちろん、潜水艦は台北を真綿で首を絞めるように締め上げることを目的に外部からの援助、貿易、通商を遮断する対台湾封鎖において死活的に重要な役割を果たすだろう」と述べている。元台湾海軍軍官学校教官呂禮詩は「台湾有事の場合には、東海岸が重要な戦場ととなり、台湾は北東海岸に蘇澳鎮基地を保有しており、ノックス級フリゲートを含む168th Fleetが根拠地としている。人民解放軍は台湾東海岸近傍の1,000m以上の海域で潜水艦訓練を実施してきた」と述べている。
(4) 4月、人民解放軍海軍は「遼寧」空母打撃群が台湾東海軍沖合で「戦闘訓練」を実施し、
この種訓練は将来、定例の訓練となると発表している。
(5) マカオを拠点とする軍事専門家黄東は、人民解放軍海軍建軍記念日の行事でType094
原子力潜水艦、Type075強襲揚陸艦、Type055駆逐艦が姿を現したことは、台湾東部を攻撃する水陸両用戦部隊の編成についてヒントを与えているとして、「Type075強襲揚陸艦とType055駆逐艦は米艦艇の模倣であるが、Type094A原子力潜水艦の加入は水陸両用戦部隊をより強力なものとするだろう。台湾海峡を跨ぐ戦争に米国が介入するという計算が、強力な水陸両用戦部隊編成の裏にある主たる理由である。中国海軍陸戦隊が上陸でき、大型艦艇が行動できるのは水深の深い東海岸だけである」と言う。呂禮詩は、起こるかもしれない戦争に備え、中国、台湾、米国の全てが台湾東海岸の水測状況把握のために艦船を派遣してきている。
(6) 水圧、水深、水温、潮流、塩分濃度、その他海水の現象全てが艦艇のソナー・システム
に影響を及ぼすだろう。
(7) Collin Kohは、台湾軍は米国支援を受けて何十年にもわたって対潜戦の訓練を実施して
きたが、最近の何十年間かの人民解放軍の海軍力の急速な増強が新たな問題をもたらしているとして、「台湾海軍の小さな潜水艦部隊は老朽化している。そして、人民解放軍海軍は展開できる潜水艦部隊に関し、隔絶した優位を享受している。この増強は、間違いなく台湾の潜水艦戦能力に明確な問題を突き付けている」と述べている。
記事参照:Changing Taiwan ocean conditions could affect PLA’s submarines

7月4日「台湾独立は台湾人だけでは決められない―台湾通信社報道」(Focus Taiwan, July 4, 2021)

 7月4日付の台湾通信社中央社の英語ニュースサイトFocus Taiwanは、“Independence cannot be decided by Taiwanese alone: DPP heavyweight”と題する記事を掲載し、今は台湾独立を宣言する時期ではないという与党民進党重鎮の邱義仁の談話について、要旨以下のように述べている。    
(1) 7月4日、陳水扁元中華民国総統のラジオ番組に出演した与党民進党の重鎮邱義仁は、
台湾が正式に独立を宣言するかどうかは、中国や米国の可能性のある反発を考えた場合、台湾人だけでは決められないという現実を直視しなければならないと語った。しかし、邱は民進党の最終的な政策目標は台湾独立を推し進めることであり、その目標は党の綱領に明記されているとも述べ、独立を追求することが党の最終的な理想と夢であるため、台湾独立条項を軽々しく修正すべきではないと付け加えた。それにもかかわらず、邱は「今は台湾独立を宣言するのに適切な時期ではない」と強調した。「実際には、我々はまだ国内で(この問題について)コンセンサスが得られておらず、今独立を宣言すれば、緊張が高まるだけだ」と述べた。さらに、現時点で独立を宣言すると、中国軍の侵攻を招く可能性があるだけでなく、米国の支持も得られないとも述べている。
(2) 邱はまた、2020年10月12日に米Georgetown Universityが主催したセミナーで台湾史上
最も独立派の総統と広く認められている陳でさえ、2000年から2008年の2期のその任期中に台湾独立を宣言しようとはせず、台湾海峡の両岸を別の国として明確に区別するために、総統任期中に「一辺一国」という考えを提唱したと述べている。「全体として、我々は、(台湾独立に向けて)2歩前進し、(国際的な支持が得られず)1歩後退した」と陳は語っている。陳は、台湾の将来は台湾人が決めるべきだとし、最終的な目標にいつ到達できるかはわからないが、今は諦める時ではないと強調した。
記事参照:Independence cannot be decided by Taiwanese alone: DPP heavyweight

7月6日「米国は今こそ『1つの中国、1つの台湾』政策を進めよ―米台湾専門家論説」(The Hill, July 6, 2021)

 7月6日付の米政治専門紙The Hill電子版は、米政策提言機関Global Taiwan Instituteの諮問委員会委員Joseph Boscoの“America now has a 'One China, One Taiwan' policy: TIFA and TIPA will strengthen it”と題する論説を掲載し、そこでBoscoは台湾政策に関してBiden政権がTrump政権を引き継ぎ、経済関係の強化と台湾の安全保障への誓約をさらに進展させるべきだとして、要旨以下のとおり述べた。
(1) Biden新政権は台湾との関係強化という点においてはTrump前政権の方針を引き継いでいる。Bill Clinton政権において明示された「3つ(実質4つ)のノー」を、両政権はともに放棄しようとしている。「3つのノー」とは、台湾の獨立を認めない、2つの中国(1つの中国と1つの台湾)という考えを認めない、台湾の国際機関への参加を認めない、というものである。
(2) 米国は6月末、台湾との間の貿易投資枠組み協定(以下、TIFAと言う)に関する協議を再開したが、これによって台湾とのさらなる関係強化が進むであろう。この協定は1994年に締結されたが、米国産牛肉・豚肉の輸入問題などがあり、交渉が停滞していた。2020年、蔡英文総統が牛肉と豚肉の輸入規制緩和を決定したことで、交渉が進展するかに見えた。しかし、Trump政権はそのとき中国との貿易に関する交渉を重要視しており、米台関係の強化に難色を示す中国をなだめるために、米台のTIFA交渉は停滞していた。
(3) TIFA交渉の行き詰まりは、台湾のWTO加盟がその申請からかなり遅れたときのことを彷彿とさせる。中国は、WTOへの加盟については中国が先に認められるべきであり、また台湾は国家ではなくあくまで「台湾・澎湖・金門・馬祖独立関税地域」として加盟せねばならないと主張した。当時上院外交委員会副委員長を務めていたJoe Bidenは、中国と台湾のWTOへの同時加盟が台湾海峡の緊張緩和に寄与するだろうと期待していた。
(4) Trump大統領は、大統領選挙を前に、中国との間の歴史的な貿易協定の締結という外交的成果を熱望した。その状況を利用し、中国側の交渉チームは米国側を疲弊させるほどに強気に出たため、交渉はなかなか進展しなかった。結果としてTrumpが選挙活動においてその成果をアピールすることはできなかった。Biden政権になると、米国は中国の機嫌を取る必要がなくTIFA交渉を再開させることができるようになり、その見通しは明るい。
(5) 一方、Trump政権末期に米国議会に提出されたが議論が進まなかった「台湾侵略防止法案(以下、TIPAと言う)」については、2021年2月に再提出されたがBiden政権においてもまだ進展は見られない。これは、「武力行使から台湾を守り、防衛する目的での軍事力行使の権限を大統領に与える」ものである。中国による台湾への全面的な軍事侵攻は「きわめて起こる可能性が小さい」と見られているが、TIPAが目的とするのはそうした軍事侵攻の抑止だけでなく、台湾が実効支配するいかなる島嶼領土の占領の抑止、そして「台湾の実効支配領域における台湾軍兵士ないし市民の命を危険に晒す」中国の行動の抑止である。
(6) もし同法が議会を通過すれば、米国は「戦略的曖昧性」という従来の方針を転換することになろう。これもClinton政権期に初めて表明されたものであるが、中国が台湾に武力行使したときに米国がどう対応するかをあいまいにしておくことによって、中国の武力行使を抑止するというものである。もし実際に台湾に中国が武力行使を行う、ないしそれが差し迫っている場合に、議会は大きく動揺し、議論が長引くことになろう。しかしTIPAは中国の軍事行動が本格化する前に議会が速やかに予備投票を行うことを規定しており、米国の対応に関する議論の無駄を省くことができるであろう。
(7) TIPAには次のように書かれている。「大統領は、台湾を中国のいかなる行動からも守り、保護することが米国の方針であることを公式に宣言すべきである」と。Biden政権が、あらゆる前任者らと同様に、台湾の安全保障への明確なコミットメントによって手を縛られることを警戒しているのは無理もないことだ。しかし、戦略的な明確さを欠いたままでは、中国は、台湾全土ないしその一部への攻撃を行っても乗り切ることができると考え続けるであろう。
(8) 中国共産党100周年記念大会において習近平は、中国をいじめようとする外国勢力は「頭を強く叩かれる」ことになるだろうと警告した。共産党の機関紙Global Timesは、習が「再統一に対する鉄のごとき硬い意思と自信を表明した」と述べた。中国の姿勢がこうしたものである中、TIFAとTIPAこそが、米国がとりうる最良の政策である。
記事参照:America now has a 'One China, One Taiwan' policy: TIFA and TIPA will strengthen it

7月7日「ドイツ艦艇の南シナ海派遣を受けた独中国防相の会談―香港紙報道」(South China Morning Post, 7 Jul, 2021)

 7月7日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: Chinese, German defence ministers discuss Beijing’s claims over waterway”と題する記事を掲載し、ドイツが南シナ海を行動する予定の艦艇を派遣することについて、ドイツと中国の国防相による会談が行われたことを、要旨以下のように報じている。
(1) ドイツは8月にフリゲートを紛争中の南シナ海に派遣する予定であり、ドイツの艦艇
がこの地域を航行するのは2002年以来のことである。これに関して、中国とドイツの国防相は、意見交換を行った。ドイツBundesministerium der Verteidigung(連邦国防省)の発表によると、7月6日のオンライン会談でAnnegret Kramp-Karrenbaueドイツ国防相は、中国国防部長魏鳳和上将に、南シナ海の一部の海域に対する中国の主張を制限した2016年の国際仲裁裁定を支持するよう求めた。ロイター通信によると、ドイツ国防相は中国の新疆ウイグル自治区に住むウイグル人の人権問題についても言及した。これは、欧米の民主主義諸国が北京に対して次第に提起している問題である。中国国防部の声明によると、魏上将は最近の共産党創立100周年記念式典に焦点を当て、ベルリンに対し対話を通じて「意見の相違を適切に管理する」よう要請した。魏上将は「ドイツが中国と共に多国間主義を支持し、コロナウイルスの世界的感染拡大を政治的に利用することなく、(地政学における)ゼロサム・ゲームを拒否し、世界の正義を守ることを望む」と述べている。
(2)ドイツ、そして英国やフランスのようなヨーロッパの同盟国は、各国のインド太平洋指針に基づいて、この地域での軍事的展開を高めることを明言している。米国は、南シナ海で定期的に「航行の自由」作戦を実施しているが、このような哨戒行動は国際的な海域の利用の自由を主張していると考えられているため、NATOの同盟国による関与を称賛している。ベルリンが3月にフリゲートを南シナ海に派遣すると発表した後、北京はどの国でも国際的な海域を航行できるとしながらも、それは「沿岸諸国の主権と安全を損なう口実にはならない」と警告した。
記事参照:South China Sea: Chinese, German defence ministers discuss Beijing’s claims over waterway

7月7日「中国の南シナ海政策、圧力と法律戦のミックス―ベトナム専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 7, 2021)

 7月7日付の米シンクタンクCSISのWebサイト、Asia Maritime Transparency Initiative は、ベトナムThe University of Social Sciences and HumanitiesのDr. Nguyen Thanh Trungによる“China’s Plan for the South China Sea: A Mixture of Pressure and Legal Approaches”と題する論説を掲載し、ここでNguyen Thanh Trungは南シナ海に対する中国の計画について、圧力と法律戦をミックスしたものであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海における中国の海洋主張の大半は法的根拠や妥当性を有しないとした(2016年7月12日の)南シナ海仲裁裁判所の仲裁裁定から5年が経過し、その間、域内の環境は大きく変化したが、肯定的なものではなかった。仲裁裁定は、海洋における中国の高圧的な行動を抑制する、中国に対する世界的な外交圧力になると期待された。しかしながら、国際情勢は過去5年間、中国に有利に推移してきた。フィリピンにおけるDuterteの大統領選出は、仲裁裁定の力学を劇的に変えてしまった。その後のコロナ禍もまた、中国に優位をもたらした。その結果、中国の行動はほとんど変化しておらず、依然、南シナ海ではほとんど何の拘束も受けずに行動し続けている。
(2) とは言え、域内環境に及ぼす仲裁裁定の重要性を再検討することは、依然有意義なことである。南シナ海における国際法の無視は、北京に対してASEANがグループとして1つの声で発信する能力にとっても、またASEANの安全保障政策にとっても、戦略的に重要である。ASEAN内の現実政策支持者間における根本的な意見の相違を考えれば、南シナ海問題に関してだけでなく、ブロックの主張を発信する真に統合された共同体の確立に向けても、加盟国間のコンセンサス成立の可能性は依然として低い。一方、中国は、暗黙の制裁や投資の削減を通じて、中国に楯突くことは自国経済を損なうことになる、ということを大部分の東南アジア諸国に得心させることに成功しているようである。フィリピンのDuterte大統領が仲裁裁定を棚上げした理由が、中国からの制裁を回避するためであったかどうかについては、よく分からない。
(3) 中国に関与し続けるというDuterte大統領の政策の結果、この5年間、仲裁裁定裁カードは使われないままであった。フィリピンが喧伝する「棚上げ」取り組みは、他の多くのASEAN加盟国が共有するところとはなっていない。専門家は、この取り組みをフィリピンの領土保全とASEANの連帯性よりも、経済的利益を優先するものとして批判してきた。ASEAN内の亀裂が露わになった時、中国はこの亀裂を拡大し利用できることを悟った。北京は長年にわたって、ASEANに対して「アメとムチ」という取り組みを採ってきた。中国は、「ムチ」はいかようにも伸ばせることを隠してこなかった。中国はここ数年、造成した人工島の軍事基地に新しい軍事装備を配備してきた。しかし、北京がその高圧的政策を強化しつつあるという兆候は、これだけではない。中国はまた、自国の領有権主張を補強するために、数多くの海上民兵漁船団を活用してきた。2019年と2020年には、中国は海警船や海上民兵に護衛された海洋調査船「海洋地質八号」を派遣し、マレーシアとベトナムのEEZ内での両国の天然ガス開発計画を妨害した。2020年には、中国は南シナ海に空母「遼寧」を派遣し、海軍演習を実施した。中国は、グレーゾーン戦術と増強された外洋海軍部隊の展開とを併用することで、「懲罰的行為」を押し進めるに十分な能力を保有していることを誇示してきた。
(4) その上、現在進行中の「行動規範」に関する交渉は、中国が仲裁裁定の法的妥当性から国際的な注目を逸らし、自らの野心を押し付けるために、あらゆる外交手段を総動員してきたという事実を覆い隠している。こうした手段の1つが、ASEAN加盟国10ヵ国と中国が合意できる国際条約の提案である。北京は、2016年の仲裁裁定に代わるものとして、南シナ海における「行動規範」の早期締結を推し進めている。現在、交渉は第2ラウンドを終え、次のラウンドが最終になる可能性がある。しかし、非当事国などにも、多くの懸念が見られる。たとえば、インドは中国が国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)と連携していない「行動規範」を持ち出して、南シナ海で実施される演習への第三国の参加を除外するのではないかと懸念している。しかも、中国は国際法を蔑ろにするだけでなく、国内法の適用範囲を国際的に拡大しようとしている。中国は2021年2月、許可なく中国の水域に入る外国船舶に対して発砲することを海警総隊に認める、新しい海警法を可決した。このことは、中国が南シナ海の大部分を自国水域と主張していることから、地域的に深刻な意味を持つ。さらにこのことは、地域秩序を再構築するために、独自の規則と法的解釈を成文化し、執行するという中国のより大きな目的に直接に役立つ。
(5) ASEANは、中国との交渉において仲裁裁定の法的妥当性を適切に取り上げないことから、グループの共通利益と国際法を損なうばかりか、加盟国間の姿勢を分裂させるという危険を冒している。仲裁裁定を取り込まないままに「行動規範」を成立させれば、それは、東南アジア諸国に対する新たなもう1つの梃子を中国に与えることになり、南シナ海における中国の海洋主張を一層確固たるものにしよう。同時に、ASEANはUNCLOS違反を是正するよう中国に圧力をかける機会を奪われることになろう。
(6) こうした危険を考えれば、ASEAN加盟国は「ゴルディアスの結び目」に直面している。これら諸国は、最大の貿易相手国である中国との対立を望んでいないが、同時に、中国がこの地域の秩序を取り極めることも望んでいない。残念ながら、東南アジア諸国はこのジレンマを自力で一刀両断するには弱過ぎる。期待は、南シナ海における中国の違法な主張に異議を唱え、法の支配を支持する態勢を整えられ得るBiden政権にかかっている。2016年の仲裁裁定とこれまでその適用に失敗してきたことは、国際法がこの地域の安全と繁栄にとって如何に不可欠であるかを思い起こさせるものである。国際法がなければ、国際秩序の再構築に対する中国の野望が野放しになり、この地域の情勢は急速に悪化するであろう。
記事参照:CHINA’S PLAN FOR THE SOUTH CHINA SEA: A MIXTURE OF PRESSURE AND LEGAL APPROACHES

7月8日「サプライチェーン強靱化構想の構造的限界―インド・アジア問題専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, July 8, 2021)

 7月8日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNet は、インドManohar Parrikar Institute for Defence Studies and Analyses 研究員Jagannath Pandaの“The Structural Limits of the Supply Chain Resilience Initiative”と題する論説を掲載し、そこでPandaは2021年4月に発表された日豪印サプライチェーン強靱化構想に言及し、それが推し進められている背景とその前進にとっての障害について、要旨以下のように述べている。
(1) 世界的な経済活動および大国間の緊張の結節点であるインド太平洋において、昨今、少数国間の協力関係が増加している。4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)が代表的であるが、それ以外にも日米印、日豪印、仏豪印などの3ヵ国間協議が形成されている。なかでも2021年4月に発表された日豪印のサプライチェーン強靱化構想(以下、SCRIと言う)は、こうした動きの最新のものであろう。
(2) 現在、世界的なサプライチェーンにおける中国への依存度はかなり高い。COVID-19の世界的感染拡大は改めてその事実を浮き彫りにし、サプライチェーンの持続可能性に不安を突きつけた。SCRIの目的は、中国中心のサプライチェーンが抱える弱点を克服し、そのネットワークを再編成することにある。それによって、今回の世界的感染拡大のような、いわゆる「ブラックスワンイベント」と呼ばれる連鎖反応を引き起こす予期せぬ出来事が将来起きた時でも、世界的なサプライチェーンの強靱性を保つことを目指している。さらにSCRIは、志向を同じくする国々との間で、さらなるインド太平洋における経済安全保障に関する対話を促進し、また急速に拡大する中国の影響力を均衡させることにも貢献するだろう。
(3) さまざまな利点にもかかわらず、SCRIはいくつかの構造的限界に直面している。第1の問題は、SCRIは本質的に中国に対抗的な動きではないものの、インド太平洋における大国間競合が激化するなかで、反中国的な戦略であるとみなされがちである。そうした認識がSCRIの焦点を失わせてしまっている。確かに中国に過度に依存したサプライチェーンは多くの国にとって懸念であるが、SCRIは既存のそれの全面的な再構築を目指す、言い換えれば中国の完全な経済的な連接の切断を目指すものではない。それは実現可能性も低ければ望ましくもない方向性である。むしろSCRIが目指すのは、過度な依存を減らし、リスクを分散し、将来的な市場の崩壊を回避するための代案の構築である。さらにSCRIは「自由で公正、包括的で非差別的であり、透明性のある、予測可能かつ安定した貿易と投資の環境」の構築という原則に基づいており、たとえ中国であっても、この原則に賛同するあらゆる国の参加を想定するものである。
(4) 第2の問題は、SCRIが野心的とすら言えるもので、その実現が困難そうだということである。確かに日豪印の間には、中国に関して関心や懸念を共有するところが多い。他方で、世界的なレベルでの貿易や経済に関する展望についてはかなりの溝があり、そのことはSCRIの進展を阻害する要因となりうる。たとえば日本はG7を拡大してインドやオーストラリアを関わらせることに消極的である。また、日本は貿易国家であるため、サプライチェーンは経済成長にとって決定的に重要であるが、製造業とイノベーションに優先順位を置くインドにとってはそうではないのである。
(5) 第3の問題は、日豪印の間に、今後SCRIをどう形作っていくかに関する指針のような文書が作成されていないことである。これはQUADなどについても言えることであり、また、アジア・インフラ投資銀行(以下、AIIBと言う)や地域的な包括的経済連携(RCEP)についても同様の問題が浮上した。たとえばAIIBに関して、インドやオーストラリアはそれに参加することになったが、米国や日本はそれに反対している。こうした事例が示しているのは、SCRIが何を目指し、どのような展望を持っているかについてまとめた憲章のような文書が必要ということである。それに基づいて、日豪印という最初の3ヵ国の間で理解が共有されるだけでなく、さらにそれを拡大していく方向性が示されるであろう。また公式文書を作成することによって、それが反中国的な枠組みであるという批判を和らげ、むしろ中国の参加を促し、かつその枠組において中国の行動を制約することもできるかもしれない。
(6) 第4の問題は、参加国がなお日豪印に限定されていることである。世界的なサプライチェーン構築のためには米国の参加が必須になってくるだろう。米国のBiden大統領もまた、「強靱性と多様性があり、堅実な」サプライチェーン構築の必要性を最近訴えた。米国の参加によって、SCRIはインド太平洋という概念を強化することになるはずだ。さらにSCRIはASEANやEU(特にフランス)、英国などの主要な経済大国や経済ブロックとの関わりを模索すべきである。彼らもまた中国への依存度を減らし、強靱性のあるサプライチェーンの再編成を望んでいるが、それに向けた統一的な努力はなお存在しない。SCRI自体はアジア的な試みかもしれないが、多様性と強靱性があり、包括的なサプライチェーンを構築しようというその試みは、世界中のあらゆる場所の、大規模かつ中規模な経済国家・ブロックの参加を認めるものなのである。
(7) SCRIの成功は、それがどれだけASEANに浸透できるかにかかっているだろう。SCRIは包括性と多極性を重視しつつ、なおそれはアジアないしインド太平洋中心的な試みである。ASEANとの連携を強化することは経済的な利益が大きく、SCRIの展望を促進することにつながる。
(8) それが持つ多くの利点にもかかわらず、SCRIには上記のように構造的な制約がある。しかし現在、SCRIへの期待は非常に大きく、そうした期待に応えるために、日豪印3ヵ国は、直面する課題を認識し、それを克服するために協働しなければならない。
記事参照:The Structural Limits of the Supply Chain Resilience Initiative

7月8日「中国、無人潜水艇からの魚雷攻撃実験に成功-香港紙報道」(South China Morning Post, 8 Jul, 2021)

 7月8日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China reveals secret programme of unmanned drone submarines dating back to 1990s”と題する記事を掲載し、中国は約10年前には無人潜水艇から人間が全く介在せずに疑似水中目標への魚雷攻撃に成功していたとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国の研究チームが、人間が介在しないで敵潜水艦を探知、追尾、攻撃できる無人潜水
艇を明らかにしていた。軍が資金提供した秘密の計画が6月28日の週に一部が報告書によって秘密解除された。報告書は10年以上前に台湾海峡で実施されたと思われる無人潜水艇の実海域試験の内奥を垣間見させるものである。中国がなぜ今、詳細の秘密を解除したのか明らかではない。しかし、台湾海峡の緊張はここ何十年かの間で最も高くなっている。日米のような国は、中国が軍事力をもって台湾を奪取しようとすれば、介入する可能性が高まっている。
(2) 中国の潜水艦研究機関の首位に立つ哈爾浜工程大学の梁国龍教授とその同僚達によれ
ば、無人潜水艇は現時点では多くの場合、個々に運用されているが、技術の進歩とともに群れを成して哨戒に当たることになろう。7月1日、研究者達は哈爾浜工程大学学報で「将来の潜水艦戦の所用は無人機の新しい開発機会である」と述べている。無人潜水艇においては、「情報所得、目標探知、評価、状況と限界の制御のようなサブシステムは完全に独立した意思決定能力を持っていなければならない」とし、伝統的な潜水艦技術の一部は無人潜水艇には役に立たないと梁国龍は報告書で述べている。
(3) 無人潜水艇は水深10mを事前に設定された針路で哨戒するよう計画されていた。他の場所では、研究者が潜水艦の雑音を発信する疑似目標を発進させ、無人潜水艇が遠距離で目標の信号を探知するや、戦闘モードに切り替わった。研究者達によれば、無人潜水艇は六角形の航走パターンで哨戒して、各種音源にソナーアレイを向け、人工知能は背景雑音を除去するように努め、目標の特性を決定する。無人潜水艇から発射された魚雷は、疑似目標に命中した。2010年に実施されたこの試験は、実環境下で人間が全く介在せずに潜水艦の追尾、撃沈を想定した中国初の試みであったと梁国龍は報告書に記している。
(4) 無人潜水艇は誤作動、誤判断をするかもしれない、そして操作員との間の通信が敵の
妨害に遭うかもしれない。ロボット兵器が人類を狩り、殺すことを解放するか否かは倫理上の問題である。しかしながら、米国は超大型無人潜水機「オルカ」をBoeing社に発注しており、ロシアは都市を消滅させるに十分な火力を持つ原子力無人潜水機を発進させることのできる潜水艦を配備した。梁国龍によれば、他にイスラエルとシンガポールが似たような無人機を外洋で試験し、あるいは配備している。
(5) 中国の無人潜水艇の計画は1990年代初めに開始されており、AIが流行するはるか以
前である。無人潜水艇が実戦で使用された記録はないが、中国の無人潜水艇はソナー技術、AI、通信の向上とともに進化を続け、潜水艇が部隊としてその運動を調整し、同一目標に対する異方向からの同時攻撃が可能となっていると梁国龍は報告書に記しており、新世代の電力供給は敵を待ち伏せるために長期間対敵することができると付け加えている。無人機は、常識を覆すAI技術をもって世界の海洋で他国の支配に挑戦する中国の取り組みの一部である。中国の無人艦船、航空機は配備されているか、建造中である。これには無人水上艦船、情報収集のため海洋を横断することのできる長距離滑空体、南シナ海の深海底に設置された調査拠点、飛行、水中巡航の両方が可能なUFOのような無人機が含まれている。
記事参照:China reveals secret programme of unmanned drone submarines dating back to 1990s

7月8日「湾岸地域の多様性には独自の力学-インド専門家論説」(Vivekananda International Foundation, July 8, 2021)

 7月8日付、印シンクタンクVivekananda International Foundationのウエブサイトは、元インド外交官で 同財団の特別研究員Anil Trigunayatの”The Divergences in the Gulf Have Their Own Dynamic”と題する論説を掲載し、そこでTrigunayatは経済的危機と競争の激化に伴う亀裂を許容範囲内に抑えることが課題として、要旨以下のように述べている。
(1) 西アジアにおけるイエメン、リビア、シリア、イラクで進行中の紛争は国際的に関心を
持たれ、「アラブの春」の影響はアルジェリア、レバノン、スーダン、チュニスやエジプトに残っている。イラン、サウジアラビア、トルコ、イスラエルは、地域的・地政学的な優位を確保するために、国内的にも対外的にも互いに争いを続けている。最近のGulf Cooperation Council(湾岸協力理事会、以下GCCと言う)内での意見の相違や紛争は、互いに排他的な政策を取るようになったことで、より大きな意味を持つようになった。
(2) カタールやクウェートのような小国が、地域および地域外の問題において仲介的な役割を果たすことが、顕著になってきた。最近では、サウジアラビアとUAEの間の疑惑の相違が懸念材料となっているが、一方でサウジアラビアとイランの間の和解に向けた努力や、ユダヤ人国家をスンニ派アラブ世界に近づけるアブラハム合意が、さらなる正常化への希望を生み出している。
(3) UAEとサウジアラビアは、2017年に戦略的二国間同盟を結んでおり、地域内外で共同して活動している。エジプト、イラク、シリアなどのかつての強国が不遇な立場に置かれたことで、豊かな湾岸諸国の君主たちがこの地域で台頭してきた。サウジアラビアとUAEは、Sunni Arab alliance(スンニ派アラブ同盟)を結成し、フーシ派の反乱を鎮めようとしたが、5年で限界を悟った。UAEは、サウジアラビアと提携するSouthern Transition Council(南部移行評議会:イエメン国内で政府と対立していた:訳者注)を支援し、融資を行ってきたが、イエメン国境から軍を撤退させることを決めた。
(4) UAEとサウジアラビア、特に2人の若い指導者であるUAEのSheikh Mohammed ZayedとサウジアラビアのMohammed Bin Salmanは、Trump前大統領、特にその息子であるJared Kushnerがイスラエルとの正常化のプロセス全体の舵取りをする中で、アブラハム合意の最終段階において高級レベルでの戦略的接触を維持し、頻繁に協議を重ねた。これは、Trump政権の外交政策上の大きな成果となった。
(5) Joe Biden大統領になってから、事態は一転した。Biden大統領が中東で重視しているのは、イランの核の野望を抑え、JOINT COMPREHENSIVE PLAN OF ACTION JCPOA(包括的共同作業計画:いわゆるイラン核合意。以下、JCPOAと言う)へ復帰することである。Obama大統領時代と同様、イスラエルやサウジアラビア、UAEなどのスンニ派諸国は、これに反対している。イスラエルのNetanyahu首相は、JCPOA+にならない限りイランとの核取引に反対すると公言し、さらにはイランの核施設や科学者を秘密裏に攻撃したとも言われている。しかし、イランはこれらの挑発をかわし、フーシ、ハマス、ヒズボラなどを通じて間接的に圧力をかけ続けた。Bidenと彼の外交・安全保障の専門家たちは、ウィーン会談に臨む際、イスラエルと親Trumpのアラブの友好国に対して、平然とした態度を貫いた。これは、親Trumpのアラブ諸国に明確な合図を与えたが、外交政策上の彼らの重要性を損なうものではなかった。
(6) 国がKhashoggi氏殺害に関する文書を公開したことは、サウジアラビアへの圧力であった。UAEへの戦闘機F-35の売却やサウジアラビアへのミサイルの売却が延期され、米国とサウジアラビアとの協議はBidenとMohammed Bin Salman ではなく、BidenとSalman国王が対応することになり、(就任後の)米国大統領がイスラエル首相に最初の電話をするという伝統的な出来事が1ヶ月以上も保留されていた。しかし、その後、第4次ガザ紛争が起こり、米国は不本意ながらこの地域に関心を持たざるをえなくなった。
(7) 一方で、米国の関心がインド太平洋地域に向けられていることを受けて、中国とロシアは、湾岸地域への働きかけを強化し始めている。そして、湾岸地域の主要国はモスクワと北京の両国との間で補完的で、競争的な関係を築いている。ロシアは、OPEC+の重要な一員であり、石油生産と価格設定において重要な役割を担っている。
(8) 60年の歴史を持つOPECが減産とその撤回を行ったことで、サウジアラビアとUAEの2つの主要生産国の間で対立が明らかになった。COVID-19の世界的感染拡大の影響で石油需要が減少し始めると、主要生産国の間で減産の継続や、OPECの体制と独裁に対する意見の違いが強調されるようになった。リヤドとアブダビ間の緊張関係は、アブダビが割り当て量を超えて生産を続け、リヤドから批判を受けたことで表面化した。UAEは、不公平な割り当てや生産上限に不満を持っている。サウジアラビアは、8月から12月にかけて段階的に合計日量200万バレルの増産を希望しており、OPEC+の減産措置を予定どおり4月に失効させるのではなく、2022年末まで延長したいと考えている。しかし、UAEは減産延長の議論を先延ばしにしたいと考えている。UAEのSuhail Al-Mazroueiエネルギー相は、OPECが最近の市場の上昇を警戒して弾力的に対応しようとしている中、まずは増産を延期する必要性を皆が納得し、やり残している供給削減を実施すべきだと述べている。
(9) サウジアラビアとロシアにとっては、減産によって国際市場を下支えすることができ、収入が増えれば財政赤字を埋めることができる。しかし、減産の合意が崩れると、効率的な計画に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、インドや中国などの消費国では、独自のカルテルを設立し、より良い交渉を行うことを求めている。また、自然エネルギーや水素を利用したプロジェクトなど、代替エネルギーの開発にも意欲的である。
(10) 最近では、サウジアラビアがウイルス感染を理由にUAEへの旅行と航空機の運航を禁止した。サウジアラビアとUAEは経済活動や投資の拡大を目指して競合しているため、リヤドはUAEの輸出を阻害するようなルールを設けている。
(11) シリア、イエメン、イラン、トルコ及びその政治的なイスラム教などは、地域的な脅威に対する取り組みについても意見が分かれている。リヤドとテヘランは、ある種の友好関係を築いており、近々、大使を交換する。ドーハとリヤドは、2021年1月の第41回GCC首脳会談以来、より緊密な関係を築いてきたが、サウジアラビアの主導にもかかわらず、カタールとUAE間の問題は完全には解決していない。同様に、トルコとサウジアラビアは、イスラムの指導者としての野心が正常化への動きを妨げ続けているにもかかわらず、対立を解消しようとしている。UAEは、トルコを大きな脅威、そして競争相手と見なしている一方で、テヘランとの適切な関係の重要性を理解している。
(12) 2国間、地域、OPECやOPEC+での衝突や対立は新しいものではない。これらは時間の経過とともに、あるいは各国の指導者の介入によって解決されることが多い。しかし、政治的、経済的な優先事項の戦略的方向性や、自国や地域に対する理想的な未来の継続的な変化は、他の領域にも波及する傾向がある。しかし、地域的な紛争解決機構は無力で機能しないので、取り返しのつかない事態を避けるため早い段階で全体的な認識を共通にしなければならない。経済的危機と競争の激化に伴い、亀裂が生じることは避けられないが、それを許容範囲内に抑えることが課題である。
記事参照:The Divergences in the Gulf Have Their Own Dynamic

7月9日「海にあふれるマイクロプラスチックを人工衛星で追跡可能に―米専門家論説」(The Conversation, July 9, 2021)

 7月9日付のオーストラリアニュースサイトThe Conversationは、米University of MichiganのChristopher Ruf教授の”The ocean is full of tiny plastic particles – we found a way to track them with satellites”と題する論説を掲載し、そこでRufはCYGNSS衛星搭載レーダーの測定から洋上のマイクロプラスチック濃度を計算することができ、この研究が、マイクロプラスチック汚染の追跡と管理を根本的に変革する要因になるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 世界中の海に漂うゴミの中で最も多いのがプラスチックで、その多くは波や太陽光によって分解され、マイクロプラスチックと呼ばれる5ミリ以下の小さな粒子になる。マイクロプラスチックの汚染が海にどのような影響を与えているかを理解するためには、マイクロプラスチックがどのくらい存在し、どこに蓄積されているかを知る必要がある。マイクロプラスチック濃度のデータのほとんどは、商船や研究船がプランクトンネットと呼ばれる海洋微生物を採取するために設計された、非常に細かい網目を持つ長い円錐形の網を曳航して得られている。
(2) しかし、これでは狭い範囲しか採取できないため、本当のプラスチック濃度を過小評価している可能性がある。一部の海域を除いて、科学者たちはマイクロプラスチックの標本採取をほとんど行っていないし、これらの粒子の濃度が時間とともにどのように変化するかについての情報もほとんど持っていない。このような疑問を解決するために、NASAのCyclone Global Navigation Satellite System(以下、CYGNSSと言う)を使って、宇宙からマイクロプラスチックの濃度を検出する新しい方法を開発した。
(3) CYGNSSは、2016年に打ち上げられた8機の小型人工衛星によるネットワークで、熱帯地方の風速を分析することでハリケーンの予測を支援している。風が海面をどのように荒らすかを測定することから、これが大量のマイクロプラスチックの検出と追跡にも利用できると考えた。
(4) 世界のプラスチックの年間生産量は、1950年代から毎年増加し、2018年には3億5,900万トンに達した。その多くは管理されていない埋め立て地に捨てられ、河川の排水溝に流れ、最終的には世界の海に流れ込んでいる。CYGNSS衛星に搭載されているレーダーは、海上の風が水面をどのように荒らすかを測定することで、間接的に海上の風を測定することができる。浮遊物が多いと、風による水面の荒れが少ないので、同じ速さの風が平穏な海上に吹いていた場合の、測定結果が示す水面の滑らかさを計算した。
(5) 海面が異常に滑らかに見える場所は、マイクロプラスチックの濃度が高いことがわかった。滑らかさの原因は、マイクロプラスチックそのものである可能性もあれば、マイクロプラスチックに関連する何か他のものである可能性もある。CYGNSS衛星が世界を周回しながら行ったすべての計測を組み合わせることで、北大西洋や南の大洋のマイクロプラスチック濃度が高い地域を容易に確認できる。CYGNSS衛星は風速を常時観測しているため、1年分の画像をアニメーション化することで、これまで知られていなかった季節的な変化も明らかになった。
(6) その結果、世界のマイクロプラスチック濃度は、北半球の夏季に北大西洋と太平洋でピークを迎える傾向があることがわかった。すなわち6月と7月は、濃度が一番高い時期となる。南半球では、夏季である1月と2月に濃度がピークに達する。両半球ともに冬場の濃度が低いのは、海流が強くなってマイクロプラスチックの柱が壊れたことと、表層と深層の水の交換する垂直混合が増えてマイクロプラスチックの一部が海面下に運ばれたことが原因と考えられる。
(7) この方法は、より小さな地域を短期間で対象とすることもできる。清掃活動をより効果的に行うためにこの研究はいくつかの用途が考えられる。すでに海のゴミや破片の回収、リサイクル、廃棄を行っている2つの団体と話し合いを始めている。また、マイクロプラスチックが海中をどのように移動するかを、海洋循環パターンを用いて追跡しようとする数値予測モデルの検証や改良にも、宇宙からの画像が利用される可能性があり、学者たちは、そのようなモデルをいくつか開発中である。
(8) 観測した海面の粗さの異常は、マイクロプラスチックの濃度と強く関係しているが、濃度の推定は、物理的関係に基づいているわけではないので、粗さの異常はマイクロプラスチックの存在と相関のある別の何かによって引き起こされている可能性もある。ひとつの可能性は、海面上の界面活性剤で、洗剤などに広く使われている液状の化学物質が、マイクロプラスチックと同じように海中を移動し、風による海の荒れを抑えていることである。確認した滑らかな部分がどのようにして発生するのか、また界面活性剤によって間接的に引き起こされているのであれば、その移動の仕組みがマイクロプラスチックとどのように関係しているのかを正確に理解するためには、さらなる研究が必要である。この研究が、マイクロプラスチック汚染の追跡と管理を根本的に変革する要因になることを願っている。
記事参照:The ocean is full of tiny plastic particles – we found a way to track them with satellites.

7月9日「米ロ間ではすでに新しい冷戦が始まっている―米専門家論説」(The Dispatch.com, July 9, 2021)

 7月9日付の米オンライン政治誌The Dispatchは、米シンクタンクThe American Enterprise Institute上席研究員 Leon Aronの“Welcome to the New Cold War”と題する論説を掲載し、Putinが過去20年間にわたり軍や秘密警察を立て直し、国民に平時から軍事的な愛国心を植え付けたことにより、米ロ間ではすでに新しい冷戦が始まっているとして要旨以下のように述べている。
(1) 2021年6月16日のジュネーヴにおける米ロ首脳会談において「核戦争に勝者はなく決
して戦われてはならない。近い将来に戦略的安定対話を行い、予測可能性を確保する」という内容の140文字の約束が、Biden大統領とPutin大統領が書面で書き込むことに合意した唯一のものであった。核ミサイルの数と核爆弾の数が、再び米ロ関係の関心の中心となった。ゴルバチョフ以前の時代に戻ったのである。「これは冷戦ではない」というスローガンは使われなくなってきている。もはや「冷戦である」と認めるべきである。確かに、現在の西側民主主義諸国の敵は、マルクス主義によって支配された共産主義全体主義国家のソ連ではない。しかし、Putin政権のイデオロギーはソ連時代のイデオロギーよりも毒性は低いが、ソ連時代よりも扇動的である。現在の西側民主主義諸国とPutinが根気強く築いた現在のロシアとの間の溝は、すでに冷戦時代と同じくらい深い。一般的な見解とは逆であるが、Putinの国内体制は単にプロパガンダ、政治的操作、抑圧に基づく腐敗した独裁政権ではないと私は考えている。そのような表現は過度の危険な単純化であり、Putin大統領の国民を結束させる能力を過小評価している。過去20年間、Putinはロシアの国家アイデンティティを絶えず体系的に再構築した。彼が「精神的な絆」と呼ぶ自国の正当化神話の数々の要素を彼は新しくし、国民を目覚めさせ、何千万人もの国民に深く満足できる方法で展開した。ロシアを愛するよりもはるかにソ連を愛しているPutinは、1980年代後半から1990年代初頭のソ連・ロシアの民主的な革命家は、彼らが信じていたものの喪失によってロシア人に与えられた根深いトラウマを無視する傾向があると感じ取った。ロシア人はソ連時代にあったソ連の社会主義大国としての任務の消失、米国への対抗意識、社会主義的な道徳、強大な軍隊の喪失を悲しんでいた。Putinは、自分の使命としてその「喪失したものの回復」を選び、外交政策の中心にそれを置いた。
(2) Putinは、ソ連のアイデンティティの他の2つの中心的要素も身につけた。それは「恐
怖を伴う尊敬」と「侵略を伴う自己認識」である。2014年のクリミア紛争の3ヶ月後、ロシアの有力な政治社会学者であり、ロシアの唯一の独立した国家世論調査会社Levada Centerの所長であるLev Gudkovは、ロシア国民がPutinは「ロシアに対する西側の尊敬を回復した」と思ったことに気づいた。ロシア国民は彼を非常に高く評価している。世論調査は、ロシア人の10人に9人近くが、自国が他国に恐れられていると信じており、4人に3人が「それが良いことだ」と考えていることがわかった。「精神的に締め付けるもの」の中で最も効果的で最も不吉なものは軍国主義的な3つの要素である。「ロシアの栄光」はロシアの軍事的勝利にあり、「ロシアの偉大さ」はロシアの軍事力の代名詞であり、「ロシアの核兵器」は世界がロシアに払う尊敬の基礎である。ロシアは第2次世界大戦のことを「大祖国戦争」と呼んでいるが、それはロシアの歴史の中で最も重要な出来事となった。スターリンが大祖国戦争に勝利したことは、今や彼の犯罪を帳消しにしている。5月9日の独ソ戦勝利の日は、今でも主要な公式の休日である。当然のことながら、秘密警察、Federal Security Service of the Russian Federation(ロシア連邦保安庁)、大統領と並んで、ロシア軍は今日ロシア国民の間で「最も信頼できる」機関である。Putinは冷戦に必要な決定的な要素を復活させ、国家の信頼の一部にした。Putinのロシアと西側諸国の間の紛争は、大規模な国家間の競争と特定の問題に関する時折の摩擦に関するものではない。ソ連指導部がそうであったように、ロシア政府は今日、グルジア、シリア、ウクライナのどこであれ、米国主導の「西側」諸国との闘いをどこででも起こる世界的なものであると認識している。そのことは恒久的であり、ロシアを弱体化させようとする西側の努力は容赦ないとロシアは考えている。エイズがCIAによって「発明」されたのと同じように、COVID-19は米国によって「遺伝子操作」で作られたとロシアでは考えられている。ロシア国会議長Vyacheslav Volodinは、Putinも出席した議会で2ヶ月前にそう言った。さらに厄介なことに、西側に対する敵意はソ連の時代に表されたものを上回り始めた。冷戦の最も暗い時代でさえ、スターリンも彼の後継者も連合軍の勝利へのソ連の貢献を否定したことはない。2021年5月の勝利の日のスピーチで、Putinは、ソ連が「単独で」第2次世界大戦を勝利したと語った。敵意が高まったことを示す別の例では、ロシアは英駆逐「ディフェンダー」 に威嚇射撃を行い、同艦が黒海のロシアの領海に侵入したので「その針路上に」爆弾を投下したと主張した。ただし、英Ministry of Defenseは射撃と爆撃を否定している。ロシアで最も人気のあるプライムタイムのトークショーでは、Vesti Nedeliと Dmitri Kisilev(ロシアの主要な外国放送サービスであるスプートニクの社長でもある)は、この行動は、英国が米国によってそそのかされて、ロシアとの戦争を引き起こすために行ったものであると聴衆に語った。次回は「挑発を繰り返したいと思う英国軍艦は沈める」と警告した。2日後、何百万人ものロシア人が見守る毎年恒例の記者会見で、Putinは「我々は自分たちのために、我々の未来のために戦っている」と語った。  
(3) ソ連のプロパガンダの限度を越えることは、2国間の過去の冷戦体制との違いの兆候で
ある。ソ連の政治体制は、マルクス主義的歴史的唯物論の「科学」に対する揺るぎない信念、つまり「腐敗した帝国主義」に対する社会主義の「優れた社会組織」の避けられない勝利に対する信頼にかかっていた。同様に重要なのは、第2次世界大戦の勝利者ソ連は、アメリカと同等の核超大国であり、ソ連政治局の長老たちは証明することもなく、ソ連の栄光に依拠することができた。戦争の恐ろしさを直接知っていた彼らは、西側との直接対決を引き起こすことを警戒していた。これとは対照的に、Putinはクリミア半島での紛争の最中に大統領に再選された2014年以来、戦争や戦争の脅威が彼の政権の正当性の鍵となっている。私のロシアの同僚が「平時における軍事的愛国心」と呼んだものは、ロシア政府のプロパガンダの主要テーマとなった。Putinの虎は定期的に新鮮な肉を与えられなければない。新しい冷戦は、元の冷戦よりも発火しやすく生起しやすいことが判明するであろう。
記事参照:Welcome to the New Cold War

7月10日「ロシア潜水艦、英空母『クイーン・エリザベス』を追尾―英紙報道」(Mail Online, 10 Jul 2021)

Putin submarine stalks Big Lizzie: Royal Navy drops sub-hunting buoys into the Mediterranean to find Kremlin craft that tailed UK flagship as she sailed off Cyprus last month
https://www.dailymail.co.uk/news/article-9774711/Royal-Navy-drops-sub-hunting-buoys-Mediterranean-Kremlin-craft-tailed-UK-flagship.html
Mail Online, 10 Jul 2021
 7月10日付の英紙デイリー・メール電子版は、英空母「クイーン・エリザベス」が地中海東部においてソ連潜水艦の追尾を受けたとして、要旨以下のように報じている
(1) 英空母「クイーン・エリザベス」、地中海東部において、ロシア潜水艦に追尾された。
(2) 空母及び同打撃群の追尾に対し、ロシア潜水艦捜索のためMerlin Mk2ヘリコプターが発
艦した。Merlin Mk2ヘリコプターはロシア潜水艦が放射する音を探知するためにソノブイを投下した。英空母打撃群とロシア潜水艦の追いかけっこは、報じられたとこによれば1月27日、英フリゲート「ディフェンダー」が黒海でロシア軍部隊との衝突に巻き込まれた4日後のことである。
(3) ロシア潜水艦は黒海艦隊の属するキロ級通常型潜水艦と考えられている。
(4) 元英海軍潜水艦乗組員Ryan Ramseyは、The Telegraph紙に「潜水艦は探知されないように
している。探知されれば、任務を達成することができない。潜水艦にとってMerlin Mk2ヘリコプターのような能力のある敵と対峙したとき、回避は非常に難しいものである。英国は水上艦艇、潜水艦、航空機を使用した対潜戦において常に実戦への備えができていた。私が潜水艦指揮課程を教えていたとき、艦長役の学生が最も気にかけていたのはMerlin Mk2ヘリコプターであった。敵も同じだったと確信している」と語っている。
(5) ロシアは、2015年9月からシリアにおいて軍事作戦を展開しており、発生月日は2021年
6月27日と考えられている事件が発生した。それは、ロシアが地中海における全面的な軍事行動を開始した直後であった。それはロシア外務副大臣Sergei Ryabkobが米英両国に対してロシアは軍事力を含む「全ての可能な手段」をもって国境を防衛すると警告し、黒海で紛争を扇動しようとしていると非難した時であった。モスクワはまた、ロシアが併合したクリミアの沖合を英海軍が挑発的行動と呼ばれる行動を繰り返すのであれば黒海にある英艦艇は空爆を受けると英国に警告していた。
(6) 英国防省は「我々はこの種作戦に関わる事項についてはコメントしないが、空母『クイー
ン・エリザベス』とその打撃群を防護するために採られる多くの方策を確認している」と述べている。 報じられた事件後、「クイーン・エリザベス」とその打撃群はスエズ運河を航過し、就役後初の展開の一部として紅海に入った。英空母「クイーン・エリザベス」とその打撃群は、近年、イランとその代理人と西側同盟国が人目を引かない戦いを繰り広げる危険な海域に入っていった。その航路はまた、ジブチに所在する中国唯一の海外基地に近づくものでもある。
記事参照:Putin submarine stalks Big Lizzie: Royal Navy drops sub-hunting buoys into the Mediterranean to find Kremlin craft that tailed UK flagship as she sailed off Cyprus last month

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Offshore Balancing with Chinese Characteristics
https://thestrategybridge.org/the-bridge/2021/7/2/offshore-balancing-with-chinese-characteristics
The Strategic Bridge, July 2, 2021
By Andrew Latham, a professor of International Relations at Macalester College in Saint Paul, Minnesota, USA, and Research Associate with the Centre for Defence and Security Studies, Winnipeg, Canada. 
 2021年7月2日、米Macalester CollegeのAndrew Latham教授は、戦略安全保障関連組織The Strategic bridgeのウエブサイトに、" Offshore Balancing with Chinese Characteristics "と題する論説を発表した。その中でLathamは、今日、中国は世界の覇権を達成することにコミットしているとワシントンは考えているが、しかし、その通念は過去数十年間の中国の経済成長が今後も衰えることはないという疑わしい前提に基づいていると話題を切り出し、しかし、現実は全く異なっており、中国は経済大国として華々しい台頭を続ける運命にはなく、実際に中国経済は失速し始めていると指摘している。その上でLathamは本来このような状況では、たとえ現在の指導部が強硬な外交政策を続けても、国際秩序を覆すような修正主義的な政策を追求することは難しいのだが、中国の指導者たちが過去の中国の最盛期をベースに政策立案をおこなっているため、米国の外交政策当局は、中国の台頭が終わりを迎えようとしているという基本的な現実を出発点にした米国の大戦略の将来についての検討を開始する必要があると主張している。

(2) Beijing Eyes New Military Bases Across the Indo-Pacific
https://foreignpolicy.com/2021/07/07/china-pla-military-bases-kiribati-uae-cambodia-tanzania-djibouti-indo-pacific-ports-airfields/
Foreign Policy.com, July 7, 2021
By Craig Singleton, an adjunct China fellow at the Foundation for Defense of Democracies and a former U.S. diplomat
 7月7日、米シンクタンクFoundation for Defense of Democraciesの非常勤研究員Craig Singletonは、米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトに、“Beijing Eyes New Military Bases Across the Indo-Pacific”と題する論説を寄稿し、中国が海外における新しい軍事施設として、タンザニア、カンボジア、アラブ首長国連邦(以下、UAEと言う)、キリバスを狙っているとしている。その中で、①現在中国は、ハワイにある米軍施設から約1,800マイル離れた場所にあるキリバスの6千ftの滑走路を海外の軍事基地として目をつけている。②中国は、タイ湾に面したカンボジアのリアム海軍基地に軍事拠点を設置することに関心を持っている。③中国がUAEに基地を設置すれば、ホルムズ海峡や紅海を含む重要な海上交通のチョークポイント周辺での中国軍の海洋における行動圏が大幅に拡大する。④米国にとって大きな障害の1つは、国境を越えた基地問題が、国防総省の組織図のどこにも当てはまらないことである。⑤中国の大戦略を弱体化させるためには、基地を受け入れる国の政府に影響を与え、北京の基地建設の提案に対する受け入れ態勢を弱めることが重要な要素となる。⑥米国は、これらの基地問題に関する公私の外交を大幅に強化し、受け入れ国の指導層との既存の個人的関係を活用すべきである。⑦US Department of Defnseは、他の米政府機関と連携して、中国の利己的な基地建設に反対する地元市民を組織し、育成し、拡大させることができる立場にある。⑧US Department of Defnseのこれらの基地設置に対する任務が、組織的な惰性や不十分な計画の犠牲になるべきではない。といった主張を行っている。

(3) Remembering the Geography in Geopolitics and Indo-Pacific Discourse
https://thestrategybridge.org/the-bridge/2021/7/7/remembering-the-geography-in-geopolitics-and-indo-pacific-discourse
The Strategic Bridge, July 7, 2021
By Benjamin Mainardi, a postgraduate student in the Department of War Studies at King’s College London where his research centers on naval affairs in the Indo-Pacific
 2021年7月7日、英King’s College Londonのポスドク研究員Benjamin Mainardiは、戦略安全保障関連組織The Strategic bridgeのウエブサイトに、" Remembering the Geography in Geopolitics and Indo-Pacific Discourse "と題する論説を発表した。その中でMainardiは、米国が21世紀を新たな大国間競争の時代と認識するようになるにつれ、地政学ないし戦略地政学は、米国の外交政策論争において議論の主要概念として大きな復活を見てきたと指摘した上で、国家安全保障政策の専門家は現代の科学技術が地理的な位置や物理的な特徴の重要性を排除したと考えがちであるが、物理的な地理的条件は依然として国家安全保障の実際の中核をなしており、大国間の競争が激化するにつれ、より厳しいものとなるだろうと述べている。そしてMainardiは、米国のような世界的な超大国は小規模な兵力を迅速に海外に展開することができるが、そのような兵力を維持するという兵站上の要求は、同じ地域内の国家よりも大きなコストを負担することになり、かつ、より大きな国際的な暗黙の了解を必要とすることになるため、米国は地域の同盟国を意味ある安全保障上のパートナーとして育成し、支援することが不可欠であり、この事実は、大国間の競争が新たな時代を迎える中で、さらに重要になっていると主張している。