海洋安全保障情報旬報 2021年8月1日-8月10日

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8月1日「北極海の乱獲を防ぐための新たな国際協力―日経済紙報道」(NIKKEI Asia, August 1, 2021)

 8月1日付の日経英文メディアNIKKEI Asia電子版は、“International research planned to manage Arctic fish stocks”と題する記事を掲載し、地球温暖化による北極圏での氷の減少に伴う漁場の拡大を考慮した、漁業を抑制するための国際協力について、要旨以下のように報じている。
(1) NIKKEI Asiaの調べによると、米国、中国、日本及びロシアの4カ国は北極海での乱獲
を防ぐための第一歩としての共同調査を計画しているという。9カ国とEUの代表者たちは、他地域を対象とした類似の条約を根拠にして、調査漁業に関して議論するために、2022年初めに韓国で会合を開くことを目指している。早ければ2022年までに調査漁業のルール化を始め、その後、持続可能な漁業を確保するために徐々に範囲を拡大していく予定である。これらの取り組みは、6月に発効した北極圏での無秩序な漁業を禁止する国際協定に基づくものである。北極圏の3大勢力である米国、中国及びロシアがこの協定に署名したことで、北極圏における他の計画での国際協力への期待が高まっている。地球温暖化の影響で、北極圏の氷が覆う面積は、前世紀から40%も減少している。将来性のある漁場の拡大に伴い、抑制の利かない漁獲を防ぐためのルールを打ち出すことが必要不可欠である。
(2) 今回の共同研究では、調査漁業によって北極圏の魚の種類や漁獲量を確認し、データを
共有することを目標としている。また、カナダ、デンマーク、ノルウェー、アイスランド及び韓国を含む参加国は、抑制されていない漁業の監視を可能にし、漁業紛争を解決するための資源管理機関の設立を議論する。
(3) 北極圏には、南極条約のような国際的なルールが欠如している。各国が、石油、天然ガ
ス、レアアースなどの豊富な資源を開発するために争っている。
記事参照:International research planned to manage Arctic fish stocks

8月3日「英国、南シナ海で中国に『叩頭』―米ニュースサイト報道」(Washington Examiner.com, August 3, 2021)

 8月3日付の米ニュースウェブサイトWashington Examinerは、“Britain kowtows to China in the South China Sea”と題する記事を掲載し、英海軍最新空母「クイーン・エリザベス」が南シナ海において中国の人工島から12海里以内の海域を通過しなかったことは、英国が中国に媚びへつらい、米国から距離を置いていることを意味するとして、要旨以下のように報じている。
(1) 名目上、米国の最も親しい同盟国である英国の首相は、実際にはそれほど米国に親しい訳ではない。これが、8月2日に英国の「クイーン・エリザベス」空母打撃群が、南シナ海から恥ずべき形で離脱したことに対する、唯一の確かな評価である。この打撃群が南シナ海を離れる前に何をしたか、または何をしなかったかが、非常に重要である。中国は、南シナ海のほぼ全域について、法外な権利の主張をしているからである。そこで、中国の剥き出しの帝国主義的な意図に挑むために、米海軍は中国の人工島の12海里以内を定期的に通行している。12海里というのは、国際法上の主権的境界を意味する。残念ながら、米国に加わる道徳的及び戦略的な胆力をもつ国はまだいない。
(2) Johnsonは6月のG7サミットで、英米間の特別な関係を強化することを約束した。また彼は、大西洋憲章の再活性化にまで踏み込んだのである。Johnsonは、ワシントンへの影響力を維持し、英国のEU離脱による経済的・戦略的弱体化を緩和することを望んでいる。しかし、Johnsonは今、矛盾することを同時に両立させたいようである。威勢のいいことを言い、大見得を切るが、中国に対してJohnsonは、まさに「キャプテン叩頭」なのである。
(3) 「クイーン・エリザベス」打撃群は、12海里内の通航を行わなかった。8月2日にこの打撃群は、台湾とフィリピンの間にあるルソン海峡を静かに通過した。台湾に接近したかどうかは定かではない。しかし、12海里内での通過ができなかったことを考えると、その可能性は低いと思われる。いずれにしても、中国は大きな意味ある勝利を収めた。北京の主要な西側向けプロパガンダ放送機関は、英国に対して12海里内の通行を避けるように明確に警告していた。中国の指導部は、このような通航が経済的な賄賂と強制の戦略が限界に達したことを世界に示すことになると理解していた。Johnsonは、その意図を受け取った。
(4) Johnsonは、重要な半導体インフラを北京に売ることには満足しており、最も重要なところでは、米国を独り取り残している。ワシントンは、これに留意すべきであり、そうするだろう。
(5) 英首相には、正しいことをする最後の機会がある。12月には、英国に戻る際に12海里内を通航することができる。しかし、それには英首相がこれまで見せようとしなかったもの、つまり、わずかなチャーチルのような精神が必要である。
記事参照:Britain kowtows to China in the South China Sea

8月3日「中国からの奇襲攻撃はあるか―米専門家論説」(Geopolitical Future, August 3, 2021)

 8月3日付、米シンクタンクGeopolitical Futuresのウエブサイトは、地政学的予測者で戦略家George Friedman博士の” China and the Element of Surprise”と題する論説を掲載し、そこでFriedmanは、米中間で戦争の気配も出てきているが、戦争の兆候はなく政治的解決の手段が残っているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国対米国の戦争は、対等な力の争いになるであろう。それは、両国が同じ力を持っているという意味ではない。すべての国家は、地理、戦略、人員、兵器などの点で異なる。 しかし、お互いが相手を完全に打ち負かすことができるという点で、両国は同等である。戦争前の計画は、それぞれが敵の弱点を特定し、敵を迅速に打ち負かすために必要な力を展開しようとするので非常に重要である。攻撃力には、敵が降伏するか、満足のいく解決を交渉するほど強力なダメージを与えられることが要求される。そして先制攻撃が重要となる。
(2)先制攻撃を成功させるには、奇襲が不可欠である。逆に敵の意図や計画を知っていれば、あらかじめ警戒して、必要な部分に力を集中させ、その一撃を打ち破るか、もしくはかわすことができる。20世紀の主要な国家間の紛争の始まりは、ほとんどが奇襲であった。第1次世界大戦でドイツがベルギーを経由してフランスに侵攻した時、第2次世界大戦でドイツがアルデンヌ地方を経由してフランスに侵攻した時、いずれもフランスはそれを予想していなかった。日本軍は真珠湾攻撃の意図を作戦上も外交上も秘匿し、攻撃の数時間前まで米国と和平交渉を行っていた。ドイツ軍は1941年にソ連に侵攻することを秘匿して軍備を整えた。そして、米国と英国は、誰の目にもフランスへの上陸(ノルマンディー上陸作戦を指す:訳者注)が明らかであったにもかかわらず、ドイツを混乱させることに成功した。しかし、奇襲は最終的な勝利を保証するものではないし、奇襲により戦争を回避できるわけではない。
(3) 日露戦争において、モスクワは日本海軍を撃滅しての政治的解決を意図して、サンクトペテルブルクからバルチック艦隊を日本へ送った。このときロシアは出発地も目的地も隠していなかった。日本海軍は、これに備えて海軍部隊を展開し、このロシア艦隊を撃滅した。ここに奇襲の要素はなく、また、最初の攻撃により勝利が保証されることもなかった。
(4) 西太平洋における中国と米国の立場は、感覚的には戦争に近い状態にある。そして米国側から開戦となる可能性は低い。なぜなら米国の関心は、中国東部の港を通る輸送を阻止することで、それを維持できれば十分だからである。一方で、中国は米国からの危害を抑止できない。今の中国の選択肢は米国との政治的合意に達するか、自ら脆弱性を受け入れるか、敵対行為を開始するかである。
(5) 中国はその意図を明らかにしていないが、米国が外交的立場や軍事的姿勢を変えなければ、それによって戦争が引き起こされるという状況を作り出しているので、それは奇襲成功の可能性を犠牲にしている。すでに米国は軍事力を中国付近に集中させており、中国による開戦を困難にしている。さらに米国の配備は、中国にとって危険な状況になるほどに進められており、米国がその意図をどのように考えていようと、中国は米国が敵対行動を意図していると考えている。しかし米国の動きは中国よりも多くの余地がある 
(6) 中国は奇妙なことをした。戦争の開始点が台湾であることを示し、台湾を奪うことができる戦力を整えている。特定の標的を明らかにすることは、日本が真珠湾を標的としたことを米国艦隊に知らせるくらいに危険である。台湾を攻撃することは、限定的な水陸両用戦能力による上陸作戦と、その後に続く米国による経空脅威下で、100マイル離れた味方へ補給を継続するための戦備を維持しなければならない。台湾侵攻は中国にとって実は脆弱であるため、戦争の開始場所を明らかにすることは非常に奇妙である。
(7) 中国が侵攻の実施要領を含めた台湾に対する意図を絶え間なく言うことは、(台湾はもちろん、米国に侵攻に対する備えをさせ、奇襲の有利性を放棄することとなり、)文字どおり不自然である。しかし、米国が台湾侵攻に軍事的に介入し、戦争をしないと仮定すれば、それは不自然なことではなくなる。この場合、北京の台湾への執着は、米国がその立場を変えない限り、(台湾において)戦争が起こりそうだと米国に認識される一般的な戦略の一部に過ぎなくなる。
(8) 中国は最初に行動せざるをえないと感じているが、その要点は、台湾ではない。台湾を確保しても中国の戦略的問題は解決しない。重要なのは、日本からシンガポールまで、そしてインド、ベトナム、オーストラリアを含む一連の島々が、正式に米国と連携・協力をしていることである。この国々を並べると中国の海洋への出入りを妨げる列が形成される。台湾を確保することは、1つの場所で領海を得ることにはなるが、戦争の状況次第では、民間船にとって危険な通路になるだけである。
(9) 中国の戦略的問題を解決するのに、台湾へ侵攻しない選択肢は考えにくい。中国がインドネシアとフィリピンを同盟関係に引き込むことができれば、米国による対抗手段は脆弱なものとなるが、両国とも中国の勢力圏に入ることに興味を示していない。台湾への侵攻は、失敗の可能性が高いため、意味がない。台湾に焦点をあてることで米国の注意をそらそうとする考えも適切ではないし、機能しない。水陸両用戦の準備は大規模で、長時間を必要とするので、米国の偵察能力が見逃すことはない。
(10) 以上のことから、台湾に焦点を当てることは、差し迫った戦争の感覚を高め、米国とその同盟国の準備を形成することを意味している。中国がすべてを賭けて西太平洋全体を包摂する大規模な紛争を意図している可能性も考えられるが、中国がすべてを賭けることはない。つまり、残っている唯一の可能性は、中国が米国との交渉の準備をしているということである。 そもそも米国が、中国市場の平等な利用と人民元の為替操作の停止を要求したため、競争は始まったのである。米中間で戦争の気配も出てきているが、戦争の兆候はないに等しく、政治的解決の手段が残っている。
記事参照:China and the Element of Surprise

8月3日「US Coast Guard、西太平洋で中国海警との共同再開模索―香港紙報道」(South China Morning Post, 3 Aug, 2021)

 8月3日付の香港日刊英字紙 South China Morning Post電子版は、“US Coast Guard renegotiating deal with China for joint enforcement, even as it bulks up presence in western Pacific”と題する記事を掲載し、米国が北太平洋地域で中国とのシップ・ライダー合意を復活させることは、非常に難しいとしながらも肯定的な分析も交えて、要旨以下のように報じている。
(1) US Coast Guard(以下、USCGと言う)のKarl Schultz司令官は、7月最後の週の記者会見で、違法、無通告、無規制(以下IUUと言う)の漁業を追跡するために米中両国のUSCGと海警が締結していたシップ・ライダー合意が失効して1年以上が過ぎており、この何年にもわたって、北太平洋を包摂してきた協定について再交渉していると述べた。このシップ・ライダー合意に基づき、双方は哨戒中に互いの巡視船等に搭乗することができる。さらに中国当局は、USCGが彼らに代わって行動を起こすことを許可することもでき、その逆も可能である。
(2) ブリスベンで開催された2018 ASEAN 地域フォーラムにおいて、中国海警総隊(以下、CCGと言う)国際協力事務所所長の趙建副が語ったところによると、20年以上にわたり、USCGの巡視船に搭乗したCCG職員は109人にのぼり、北太平洋海域で違法な流し網漁を行っていた21隻の船の押収に貢献したという。しかし、2国間関係が悪化する中、USCGは昨年、CCGを世界最大の遠洋漁船隊(推定17,000隻近く)を保有しているため、IUU漁業の加害者と認定した。
(3) 中国南海研究院海洋法律与政策研究所所長の閻岩は、これを、「USCGが中国に対して行動を起こすための助長的な雰囲気を作ろうとしている。米国は2019年以降、中国のグレーゾーンにおける戦術に対抗するため、南シナ海にUSCGの船を派遣した。USCGは米国土安全保障省の下で活動しているので、国防省を支援する命令を遂行可能である。そのため、これは将来の米国政権の南シナ海政策の手段として重要な選択肢である」と論文に記した。
(4) 前述のSchultzは、「CCGの船や民兵船が紛争地域で、他の地域の漁師を追い詰めており、そのような行動は、USCGの活動・行動と一致していない」とCCGを非難した。この発言は、西太平洋のグアムに常駐する3隻のセンチネル級即応型巡視船が就役した直後になされており、「この巡視船がIUU漁業を抑制するだけでなく、自由で開かれたインド太平洋を守り、ミクロネシア地域における国家安全保障上の目標達成に大きく貢献する」と述べている。
(5) 即応型巡視船は、5日間の洋上滞在が可能で、北マリアナ諸島などの米国領土やバヌアツ、キリバスなどの独立した太平洋島嶼国を含むオセアニア地域に配備され、それはUSCGの活動範囲を拡大するものである。米国はすでに太平洋島嶼国11カ国とIUU漁業対策のためのシップ・ライダー合意を結んでいる。この地域は、米国と太平洋を結ぶ重要な海底通信ケーブルが設置されており、米国とオーストラリアなどの同盟国が中国の影響力をめぐってますます争いが増加している場所である。
(6) 続いて、Schultzは、次のように述べている。
a. 現在ハワイに駐留している3隻の巡視船と、C-130を近いうちに南シナ海や東シナ海に派遣することはない。これらの水域で追加の仕事をするなら、それは3,000tのバーソフル級大型保安巡視船によって達成される。このUSCG最大の巡視船は、現在ハワイには2隻しか配備されていないが、最終的に11隻が建造される。b. USCGは太平洋地域での東南アジアの提携国との協力関係を継続する。ベトナムにハミルトン級巡視船2隻を供与し、そこに連絡士官を常駐させる。ベトナムが、この地域の脅威を阻止するために、これらの巡視船をどのように使用するかを見守りたい。c. フィリピン沿岸警備隊が過去10年間で、5,000人から現在の約15,000人にまで強化されたのはUSCGによる貢献である。
(7) シンガポールに拠点を置くISEAS-Yusof Ishak Instituteの上席研究員Ian Storeyは、「USCGが米国防総省の指示の下で、航行の自由作戦(FONOP)を実施する、あるいはASEAN諸国とシップ・ライダー合意を結ぶことで、南シナ海の紛争に変化をもたらすことができる。USCGはこれまで台湾海峡でしかFONOPを行っていない。USCGの軽武装の船は、重武装の軍艦よりも挑発的ではないと見なされるので、USCGは物理的な破壊と外交の間の重要な位置にある。」と述べた。
(8) シップ・ライダー合意は、南シナ海でのIUU漁業に対処する法的権限をUSCGに与えるものであるが、それによって中国の怒りを買おうとする東南アジアの国はないであろう。
(9) 前述の閻岩は論文の中で、「米国は南シナ海に領土を持たず、領土から発生する海洋上の権利を享受していないため、USCGが南シナ海で法執行活動を行うことはできない。このため、USCGに残された唯一の選択肢は、ASEAN諸国とシップ・ライダー合意を結ぶことであり、ベトナムが最初に参加する可能性がある。ハノイは、南シナ海の紛争が続いている中で、北京に対して最も大きな主張をしている。南シナ海のほとんどの沿岸国は、中国と米国のどちらかを選択することを厭わないが、米国と共同法執行活動を行う最初の国は、おそらくベトナムであろう。しかし、米国と他国のシップ・ライダー合意は非紛争水域を対象としており、実際には紛争水域であるにもかかわらず、その排他的経済水域(以下、EEZと言う)の権利を米国に譲ることは合法的ではない。」と述べたが、中国が北太平洋における米国とのシップ・ライダー合意を更新するかどうかについては言及しなかった。
(10) シンガポールのS. Rajaratnam School of International Studiesの研究員Collin Kohは、次のように述べた。「USCGがこの地域でより大きな存在感を示すことは可能である。しかし、USCGが南シナ海の東南アジア沿岸国のEEZにおいて海上法執行業務を行うことは想定されていない。この問題は、自国のEEZを取り締まる沿岸国の管轄権に関わるデリケートな問題である。USCGがFONOPに参加した場合、中国は、状況をエスカレートさせたり複雑にしたりしていると非難するだろう。中国はすでに南シナ海でのUSCGの活動を非常に警戒しており、近年はフィリピン沿岸警備隊とUSCGの演習を影で注視している。」
(11) マニラ在住の安全保障アナリストChester Cabalzaは、「中国が今年初めに海警法を改正し、中国の管轄下にある海域で外国船に発砲できるようにしたのは、USCGがこの地域でより大きな役割を果たすことを想定してのことだ。中国は、高度に軍事化された海の長城を築き、近隣諸国や周辺の大国にまで恐怖心を与えている。南シナ海に2つの支配者が存在することはないだろう。」と指摘した。
(12) 前述のStoreyは、「USCGの巡視船がこの水域でFONOPを行う可能性は非常に高い。たとえ緊張感が高まるとしても、南シナ海はIUU漁業と乱獲より漁業資源が崩壊寸前なので、何か手を打たなければならない。しかし、米国が北太平洋地域で中国とのシップ・ライダー合意を復活させることは、今日の米中関係の悪化を考えると、非常に難しい」と述べている。
(13) 一方で前述のKohは「中米間の緊張が続いていても、北太平洋の共同漁業取締りの経験と善意が蓄積されているのでシップ・ライダー合意が更新される可能性はある」と楽観的な見方をしている。
記事参照:US Coast Guard renegotiating deal with China for joint enforcement, even as it bulks up presence in western Pacific

8月4日「インド洋を網羅する新たな海上監視網を構築すべし-オーストラリア専門家論説」(The Strategist, 4 Aug 2021)

 8月4日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、The Australian National University のThe National Security College 上席研究員 David Brewsterと同College研究員Samuel Bashfieldの“Building a new maritime surveillance network across the Indian Ocean”と題する論説を掲載し、両名はオーストラリアとその提携国はインド太平洋において中国海軍の野望を抑止あるいは制約するために戦略的優位を活用するため、施設の相互利用、後方支援協力等を通じインド洋全域を網羅できる新たな海洋監視網が構築されつつあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド洋の戦略的環境は、ますます対立が激しくなってきている。拡大する中国海軍の展開は北京が米海軍の支配に挑戦する可能性を高め、地域における拮抗する海軍軍備競争が勃発するかもしれない。これはオーストラリアにとって大きな懸念であり、インド太平洋の多の優先地域から限られた国防資産を移転させなければならないかもしれない。オーストラリアとその提携国はインド太平洋において中国海軍の野望を抑止あるいは制約するために我々の戦略的優位をいかに活用するかを考えなければならない。
(2) オーストラリアとインド洋における提携国の最大の優位の1つであり、中国の最大の脆弱性の1つは海洋状況把握である。姿を消す消滅させる。もし、我々が敵海軍を発見でき、敵は我々の艦船を発見できなければ、勝算は我々に有利である。中国海軍は既にインド洋で重大な不利を抱えている。母港から遠く離れ、限られた後方支援の中で行動しており、母港へは東南アジアの狭隘な海峡を航過することによってのみ到達しうる。その狭隘な海峡では中国海軍は容易に探知、追尾される。中国はまた、インド洋に重要な部分についてさえ、総合的な海洋状況が欠落している。
(3) オーストラリアや米国、インド、フランスのような提携国は既に、単独で哨戒機やUAV、施設を含む重要な能力を保有している。これらを共同の情報収集網として結合すれば、インド洋のほとんどを網羅する総合的な海洋監視が可能となる。そのような海洋監視網によって達成される海洋状況把握のレベルは、紛争時に中国海軍の展開を極めて脆弱なものとするだろう。このような情報収集網は情報共有、海洋監視を支援する施設の共同使用を必要とする。重要なことは、インド洋の適切な航空哨戒の範囲は地域全域に設定された哨戒機の配備点と施設への出入りにかかっている。米国とその同盟国は、それぞれの施設の利用と後方支援の手はずは既に整えている。P-8I哨戒機部隊を増強し、インド洋に跨がる哨戒点を拡大しつつあるインドは、総合的な地域の情報収集網構築にとって緊要な提携国である。
(4) 過去数年間で、インドは米国、フランスと相互後方支援合意に達している。2020年の豪印相互後方支援協定の署名は、協定網構築の大きな進歩であり、地域全体における施設の相互利用の可能性を開くものである。しかし、豪印協定はいまだ実行段階にはいたっていない。
(5) インドは、主としてインド洋北部においてチェンナイ近傍のラジャリ基地、ゴアのハンサ基地、アンダマン・ニコバル諸島の航空基地に配備したP-8I哨戒機をもって監視を実施している。インドのP-8I哨戒機はまた、インド洋西部においてセイシェル、モーリシャス、フレンチ・ユニオンなどの地域の提携国の施設を利用している。インドのP-8I哨戒機はまた、モーリシャスのアガレガ諸島にインドが建設した新しい飛行場から間もなく運用が可能になると考えられている。アンガラ諸島はモザンビーク海峡の北端にある。
(6) オーストラリアはインド洋東部において独自の力を保有している。少なくとも1980年代以来、オーストラリア空軍は北西接近ロ、マラッカ海峡、ベンガル湾における航空哨戒を実施している。P-8Aを運用するオーストラリア空軍は、インドと地域全域で施設と後方支援を共有する機会を提供している。オーストラリアはインド洋東部にいくつかの施設を保有しており、これら施設はインドの行動範囲を大きく拡大するだろう。インドのP-8Iがダーウィンのオーストラリアの施設、もしかすると西オーストラリアの2ヵ所の空軍基地も使用するという提案がオーストラリアからなされている。オーストラリアのココス諸島にある空港をインドが使用することについて既に討議されてきている。
(7) インド海軍によるオーストラリア施設の使用が定常化されれば、オーストラリア空軍がベンガル湾全域、さらにインド洋西部にまで協力の範囲を拡大する機会となるだろう。オーストラリア空軍がインドのタミル・ナードゥ州、ゴア州などの基地から行動できる能力はインド洋中央部あるいは西部でオーストラリアの行動範囲を拡大する助けとなるだろう。これらインドの基地からは米海軍のP-8が行動しており、3カ国間の共同の機会を提供することになろう。アンダマン諸島のポート・ブレアは、今1つの可能性のある展開点である。これまで同施設を外国軍が使用する承認は稀であった。2020年10月、米海軍のP-8が初めてポート・ブレアで燃料補給することを認められた。マレーシアのバターワースをオーストラリアが利用していることを考えると、ポート・ブレアの施設はオーストラリアにさらなる柔軟性を加える一方、インド本土の施設に利用はさらに有利であろう。これら施設の全ては、米豪印およびその他の提携国が利用できる新しい航空配備網および施設網の一部と考えられている。これは、協調的海洋監視システムを支援し、地位において損害をもたらす海軍軍備競争を抑止するのを助けるかもしれない。
記事参照:Building a new maritime surveillance network across the Indian Ocean

8月4日「米国が必要とする新たな大国間競合戦略とは―米国際政治学者論説」(The Strategist, August 4, 2021)

 8月4日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、米Harvard University教授Joseph P. Nyeの“America needs a new great-power strategy”と題する論説を掲載し、そこでNyeは米国が現在の大国間競合の時代と冷戦時代が異なるものであることを意識した大戦略を立案する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 冷戦期、米国の大戦略はソ連の封じ込めにあった。ソ連崩壊から10年、2001年9月11日の同時多発テロ事件の後、Bush大統領は「テロとの戦い」を展開した。しかし、それは明確な指針を持ったものではなく、アフガニスタンやイラクなどの周辺的な地域における長い戦争に導いただけであった。2017年以降、米国は大国との競合に回帰した。今度の相手は中国である。
(2) 大戦略としての大国間競合の利点は、米国の安全と経済、価値に対する主要な脅威にだけ焦点を当てることにある。それに対してテロとの戦いの場合、テロリズムが米国にとって脅威であったのは確かなのだが、他方でそれに対処するための対価との均衡に見合っていなかった。大国間競合への回帰は、米国がどこに焦点を当てるべきかを改めて考え直すことに貢献するものだ。
(3) しかし2つの問題がある。この戦略は、中国とロシアという型の異なる2つの国を一緒くたにしてしまっている。ロシアは衰えつつある大国で、中国は台頭しつつある大国である。第1次世界大戦前夜のオーストリア=ハンガリー帝国のように、衰えつつある大国は大きな危険性を受け入れ易いものである。ロシアはなお豊富な資源を保持しており、軍縮からサイバー戦争などさまざまな問題において、議論の方向性を左右し得るだけの力がある。したがって、米国はロシアが中国に取り込まれないような対ロシア戦略を必要としている。もう1つの問題は、大国間競合という戦略が環境問題や世界的感染拡大のような、われわれが新たに直面している地球規模の脅威を過小評価する傾向があるということである。US Department of Defenseの予算は、US Centers for Disease Control and Prevention(米疾病予防管理センター)の100倍、The National Institutes of Health(米国立衛生研究所)の25倍にもなる。
(4) 米国は中国とどう向き合うべきか。米中対立を「新冷戦」と呼ぶ者もいるが、こうした考え方は米国が直面している戦略的課題を見誤らせる。冷戦当時、米ソ間の経済的・社会的な接触はほとんどなかった。しかし現在の中国は米国にとって重要な貿易相手国であり、人的交換も盛んである。Huaweiを5Gネットワーク事業から排除するように、安全保障上の危険性を切り離すことはできたとしても、中国との貿易をすべて停止するのは対価が大き過ぎる。仮にそれが可能だとしても、環境問題などの気球規模の課題への対処において、中国との協働は不可欠である。米国は、南シナ海問題などで中国と対立しながらも、気球規模の課題において協力しなければならない。
(5) 必要なことは、全体的な評価を慎重に行うことである。過小評価も過大評価もあるべきではない。中国の経済力は世界第2位であり、2030年代には米国のGDPを追い抜くと観測されている。とはいえ、中国国民のひとりあたり収入はアメリカ国民の4分の1程度であり、その経済成長率も鈍っている。政治的同盟国も多くない。米国は、日本やヨーロッパの同盟国などと政策を調整することによって、中国の台頭にうまく対処できるはずである。
(6) 元オーストラリア首相Kevin Ruddは、中国との大国間競合の目標は、相手を徹底的に打ち負かすことではなく、その対立・競合を調整することにあると言う。米国やその同盟国は、中国を悪魔のように見なすのではなく、お互いの関係を「協調的な敵対関係」と見るべきであろう。こうした観点を持ち、かつ現在の状況が20世紀の大国間競合とはまったく異なるものだと理解すれば、われわれはうまくやっていけるはずである。
記事参照:America needs a new great-power strategy

8月5日「インド太平洋における法に基づく海洋秩序の推進―米専門家論説」(PacNet. Pacific Forum, CSIS, AUGUST 5, 2021)

 8月5日付の米シンクタンクPacific Forum,の週刊デジタル誌PacNetは、同フォーラムの海洋安全保障問題の責任者であり、東京国際大学准教授のJeffrey Ordaniel による“Advancing a Rules-Based Maritime Order in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、そこでJeffrey Ordanielは法に基づく海洋秩序に関する地域的合意にもかかわらず、なぜ緊張が高まり続けているのかについては、中国の誠実さの欠如、多国間機構の固有の弱点、「大国間競争」を取り巻く政治的問題という3つの答えがあるとして要旨以下のように述べている。
(1) 多くの人々は、過去10年間にインド太平洋の海洋部における法の支配を強く求めてきた。米国、日本、オーストラリアから東南アジア諸国の首脳や政策立案者は国際法及び海洋問題に取り組む2国間および多国間協力を強調している。ASEANは、1982年の国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)を含む普遍的に認められた原則による紛争の平和的解決を追求する必要性について、同じことばを繰り返してきた。2021年4月、Joe Biden米大統領と日本の菅首相も「東シナ海の現状を変えようとする一方的な試み」に対する反対を表明し、UNCLOSと合致する「国際法に支配される自由で開かれた南シナ海への共通の関心」を繰り返した。しかし強力な法に基づく海洋秩序は達成困難と思われる。
(2) 法に基づく海洋秩序の恩恵に関する明らかな地域的合意にもかかわらず、なぜ緊張が高まり続け、地域の海洋空間に対する国際規則や規範の適用性は弱まり続けているのか。Pacific ForumのウエブサイトIssues & Insights が編集した“Issues & Insights Vol. 21, SR 2 — Advancing a Rules-based Maritime Order in the Indo-Pacific”の著者たちは、誠実さの欠如、地域の多国間メカニズムの固有の弱点、「大国間競争」を取り巻く政治的問題の3つの領域の答えを用意している。第1に、一部の国は有能で権威ある国際裁判所によって国際法の下で、無効または根拠がないと既に宣言された海洋の主権を主張し続けている。つまり、関連する国際法の体制に対する誠実な遵守の欠如がある。南シナ海では、中国は9段線を主張し、UNCLOSの附属書VIIによりハーグ国際仲裁裁判所で2016年7月に却下されたことを今でも主張し続けている。中国は司法手続きなどの平和的手段ではなく、東シナ海での強制的な作戦を通じて、日本の尖閣諸島の領有権を認めないでいる。この国際法に対する誠実さの欠如と露骨な無視は、中国が海上民兵を乗せている漁船を、9段線の中の近隣諸国の排他的経済水域に派遣していることで明らかである。中国はまた、海警総隊や他の公船を、多くのインド太平洋の沿岸国の長年の管理と管轄権を無視し、現状を変えるために使用している。海洋安全保障上では、これらの行動は攻撃の段階にまでは上がらないが、安全保障や政治的目的を達成するのに十分な結果をもたらす活動であるグレーゾーン作戦と呼ばれている。地域の国々は、このような活動に対応するのに苦労している。米国の同盟国にとって、米国の安全保障上の誓約は、グレーゾーンではなく「武力攻撃」によって引き起こされる。したがって、集団防衛による抑止は困難である。例えば、フィリピンは1995年にミスチーフ礁、2012年にスカボロー礁を失った。日本は尖閣諸島の海域への中国公船の侵入について懸念を表明している。例えば、国際法の下で主権免除を享受し、尖閣諸島の領海に入り、離脱を拒否する中国公船にどう対応するかは明らかではない。いくつかの行動は戦争を引き起こす可能性がある。他の地域の国々では、海洋領域の認識が不十分で、沿岸での法執行能力が弱いなどの要因により、海域における中国の展開の増加に対処することはより困難となっている。
(3) 第2に、ASEAN主導の機構はインド太平洋地域で法に基づく海洋秩序を進めるために依然として重要であるが、特に大国を含む緊張度の高い安全保障問題に取り組むようには設計されていない。不干渉と合意による「ASEANの手法」は、海洋紛争に対処する際の地域機構の有効性を制約している。いくつかの機能面における協力的な取り組みについて議論を可能にするが、法の支配を強化する方向で戦略的環境を作ることはしない。例えば、1995年以来、ASEANと中国の間で数え切れないほどの会合が行われたにもかかわらず、いわゆる南シナ海行動規範は実現しなかった。畠山京子がIssues & Insightsの中で議論しているように、4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)は4つの参加国が異なる脅威認識、優先順位、取り組みを持っているので、法による海洋の管理を維持するために必要な統一戦線を達成するために苦労してきた。最後に、米中の「戦略的ライバル関係」、または「競争」の一環として海洋問題を扱うことは問題解決には逆効果となっている。地域の多くの国々はその競争に参加したくない。その結果、米国またはその同盟国や提携国が国際法の遵守を主張すると、一部の地域諸国は反中的な感触を受け取る。「中国との競争」の代わりに、米国とその同盟国と提携国はすべての国が恩恵を受けることができる規則に基づいた海洋秩序に焦点を当てるべきである。
(4) “Issues & Insights Vol. 21, SR 2 — Advancing a Rules-based Maritime Order in the Indo-Pacific”は、複数の視点からインド太平洋における多面的な海洋課題を解剖し、より法に基づく海洋秩序を進めるための政策の選択肢を探っている。Shuxian Luoは、尖閣諸島をめぐる日中の6つの海上危機、そして竹島をめぐる日本と韓国の間の6つの海上危機を調査し、危機防止が優先されるべきだと主張した。石井由梨佳は、日本の国家安全保障法の独自の構造が、海上保安庁と海上自衛隊の切れ目のない対応と日米間の効果的な同盟関係を妨げていて、どのように課題が生まれているのかを説明している。兼原敦子は、海洋安全保障について、「法の支配」は国際法に基づく主張を明確に行い、武力や強制力を使って主張を促進することなく、平和的手段によって紛争解決を求めるという3つの原則から成り立つと主張している。Nguyen Thi Lan Huongは、国際法の重要性を強調している。彼女は中国の新しい海警法と国際法への適合性を評価する。畠山京子は、中国を排除することなく繁栄した地域をつくるという2つの矛盾した目標を合わせることは、協力の枠組みを作り、明確な目的を設定することを困難にすると主張し、QUAEに焦点を当てている。Virginia Watsonは、いくつかの提言を提案し、「大きな経済力に起因する地政学的及び安全保障条件を国際システムに強制的に組み込もうとする、中国の世界的な努力の激化」は、米国の伝統的な同盟国へのアプローチを効果がないものとしていると主張している。最後に、John Bradfordはインド太平洋の多面的な課題に取り組む鍵は、地域の沿岸諸国間の統治能力の向上であり、特に海洋統治能力の構築は日米同盟の優先事項であるべきだと主張している。
記事参照:Advancing a Rules-Based Maritime Order in the Indo-Pacific
関連文書:“Issues & Insights Vol. 21, SR 2 — Advancing a Rules-based Maritime Order in the Indo-Pacific”
Issues & Insights, Pacific Forum, CSIS, JULY 30, 2021
https://pacforum.org/publication/issues-insights-vol-21-sr-2-advancing-a-rules-based-maritime-order-in-the-indo-pacific

8月7日「ドイツの寄港要請に対する中国の態度が意味すること―香港紙報道」(South China Morning Post, August 7, 2021)

 8月7日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Why China is not saying yes – or no – to the German navy’s port call request”と題する記事を掲載し、ドイツのフリゲート「バイエルン」が東アジアに向けて出港したことに言及し、同艦が南シナ海を通行すること、中国に対して上海への寄港許可を求めていること、それらに対する中国の対応の意味について、要旨以下のように報じている。
(1) ドイツ海軍のフリゲート「バイエルン」が、インド太平洋地域に向けて出港した。6ヵ月におよぶ航海において、「バイエルン」は、国連による対北朝鮮制裁の執行の支援活動を行い、地域諸国の海上演習に参加し、またいくつかの国への寄港を予定している。重要なこととして、同艦は南シナ海を通行する予定であるが、それはここ20年で初めてのことである。
(2) ドイツのこうした動きは、一部米国の要求に応えたものであろう。ただ、ドイツは中国との関係も天秤にかけている。それを示しているのが、寄港先のひとつに上海を予定し、中国に許可を求めていることである。中国はそれを容認も拒絶もしていないが、ドイツに対して航海の目的を明確にすることを求めているという。それがはっきりされない限り、上海への寄港は議論の俎上にものぼらないと中国外交部は述べている。
(3)中国国際問題研究院の欧州部長崔洪建によれば、ドイツによる寄港の要求と中国の今後の対応は、Angela Merkel首相が退任すると見られる9月の選挙後の独中関係に影響を与える可能性がある。2020年、ドイツが採択した新たなインド太平洋指針は、特定の1カ国への依存を深めることを回避し、地域の国々との多様な協力関係の構築を訴え、また、中国をインド太平洋地域の大国として、そして「国際秩序のルールを疑問視する」国として描いていた。
(4)また、より広い文脈で言えば、ドイツによる寄港要請は、中国とヨーロッパ全体との間で緊張が高まりつつあるなかで寄せられたものであった。中国とEUは新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐってお互いに制裁を課す動きを見せていた。とはいえドイツと中国はお互いに完全に距離をとろうとしているのではない。2021年7月のビデオ会議において、Merkel首相とMacronフランス大統領は、習近平が独仏中の協力関係を深めていくべきだと述べている。
(5) 崔はこうしたドイツの取り組みは長く続くものではないと批判的に分析する。崔にしてみれば、ドイツは、最大の貿易相手国との緊密な関係を維持しつつ、人権などについて志向を同じくする国々との協力を深めようとしているが、中国がそうした取り組みを受け入れることは考え難い。今回、南シナ海を航行し、上海への寄港を求めているのも、そうしたドイツの取り組みを反映している。
(6) ベルリンのシンクタンクGlobal Public Policy InstituteのThorsten Benner所長は、中国がドイツにその意図を明確にせよと求めるのは「奇妙な」ことだと述べた。彼に言わせれば、ドイツは中国政府の機嫌を損ねることを避けつつも、国際法を支持する姿勢を見せるという点においてその態度を明確にしているのである。中国は物事をよりはっきりさせることを好んでいるようである。しかし、もしそれを追求するならば、ドイツには中国に対し、旗幟を鮮明にしない人もいれば、わずかだが中国の側につくべきと主張する者もいるにもかかわらず、強硬姿勢で臨むべきだという声に勢いをつけることになるだろう。
記事参照:Why China is not saying yes – or no – to the German navy’s port call request

8月7日「中国の南シナ海支配戦略、その真意を見抜け―US Naval War College教授論説」(19fortyfive.com, August 7, 2021)

 8月7日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは、US Naval War College教授James Holmesの、“China’s Strategy To Control The South China Sea: Defense Of The Indefensible”と題する論説を掲載し、ここでJames Holmesは南シナ海に対する中国の支配戦略について、狡猾で虚偽に満ちた言辞の真意を見抜くことの重要性を指摘して、要旨以下のように述べている。
(1)中国共産党の外交攻勢を解釈し、それに対応するに当たっては、言語上の解毒作業が必須である。共産党幹部は、彼らの動機や行為に対する外国の懸念を和らげるために、頻繁に狡猾で虚偽に満ちた言辞を弄する。尖閣諸島、台湾、そして南シナ海の80~90%を占める北京の「9段線」主張など、北京にとって重要度が高ければ高いほど、精緻な言い回しが重要となる。拳むき出しの容赦ない(bare knuckles)外交は、これらの目標を達成するための中国共産主義者が選択する手段である。彼らはそのための戦略を持っている。彼らにとって、外交は流血を伴わない戦争である。狙った獲物を得るために、中国の高官は休みなく「三戦」を遂行している。「三戦」は、心理作戦を通じて相手を落胆させたり、メディアを通じて自らに好意的な意見を醸成したりするもので、更に、武器として法律を駆使する。
(2)例えば、王毅外相は8月3日の中国・ASEAN閣僚会合で、「南シナ海における中国の主権と利益は、国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法に準拠している。中国は、新たな権限主張を一度もしたことがないが、一貫した立場に固執する。中国とASEANの共同努力により、南シナ海は、全般的に安定した状況が維持され、航行と上空飛行の自由は法によって保護されている」と語った。5年前、仲裁裁判所は、中国の南シナ海の大部分に対する「議論の余地のない主権」主張を退けた。王毅外相の巧みな言い回し――「中国は新たな権限主張を一度もしたことがない」とは、UNCLOSに基づく海洋管轄権に対する自国の権利維持を決意している東南アジアの係争相手を宥めることを意図している。北京の立場は、古くから南シナ海(、そしてそこの天然資源)に対して主権を有しており、しかも、考古学上及び文献史料の証拠がそれを証明している、というものである。王毅外相の発言は、中国の古くからの一貫した――しかし非合法な立場を繰り返しただけである。結局のところ、海洋空間に対する中国の「歴史的権利」は、中国が以前から加盟している、「海の憲法」、即ちUNCLOSに準拠しているわけではないのである。
(3)では、「航行と上空飛行の自由」については、どうか。UNCLOSが実際に保証しているのは、17世紀に遡る法的基本原則、即ち「海洋の自由(“freedom of the sea”)」である。航行の自由は、海洋の自由の一部である。海洋の自由の枠組みにおいては、商船及び軍艦は全ての沿岸国の管轄を超えた「公海」では自由に行動できる。沿岸国の沖合200カイリまで伸びる「排他的経済水域(以下、EEZと言う)」においても、ほぼ同じことが言える。UNCLOSは、他国のEEZ内における上部水域や海底の天然資源の密猟の自制を求めているだけである。航行の自由とは、「無害通航(“innocent passage”)」を意味する。UNCLOSの下では、「無害通航」は、厳しく制約された条件の下で、沖合12海里までの沿岸国の「領海」を通航する船舶の権利を保証するものである。UNCLOSは、特に軍事活動を取り上げて、領海におけるその活動の範囲を規制している。無害通航権を行使する船舶は他国の領海を通航はできるが、その間、事実上何もできない。
(4) 北京は、この基本原則を地域的な立法として、9段線内全域に適用したいと望んでいる。それが許されるのであれば、中国は主要な海上交通路においてUNCLOSで定められた海洋の自由を廃止し、次は黒海におけるロシアの悪しき前例を創ることになろう。そして中国の国内法は、南シナ海において外国の海軍艦艇、沿岸警備隊巡視船及び商船ができる行動を規制することになろう。歴代の米政権がこれらの問題について、航行の自由という狭い意味ではなく、全体概念としての海洋の自由の擁護者として、自らの立場を明確にしてきたのは、以上のような理由からである。多くの友好国政府も米国の立場に追随している。航行の自由の擁護者は、外交対話において、自らの言語を明快にしなければならない。彼らは、中国の対話者に沈黙して耳を傾けるのではなく、自ら主張しなければならない。さもなければ、海洋国家は、中国の解釈を黙認するように思われ、その過程で「三戦」の主導者に簡単に勝利を与えことになろう。
(5) 「南シナ海行動規範(a “South China Sea Code of Conduct”)」に向けた交渉については、断続的だが進展している。これもまた、狡猾で虚偽に満ちた言辞を弄するに適した問題である。王毅外相は、前出のASEANとの閣僚会合で、「行動規範」に関する協議は「勢いを維持している」と言明した。しかし、ASEAN諸国政府が、中国が海洋主権の探求を放棄することを求める、どんな「行動規範」にも同意するであろうと思い違いしないことを願っている。習近平主席は、国の主権を回復すると何度も繰り返し誓い、南シナ海を主権領土と規定している。それは、習近平の「中国の夢」の中核をなすものである。愛国的な中国人は、習近平が約束を果たさなければ、恐らく醜い方法で彼に責任を負わせるであろう。習近平は、ベトナムやフィリピンと和解するために、自らの立場を犠牲にするつもりはない。
(6) 中国が近隣諸国との合意を望むなら、南シナ海における行動規範は既に存在している。それはUNCLOSである。しかし、中国は、平気で日常的にUNCLOSを無視し、外交交渉において近隣諸国の権利を踏み躙っている。習近平と中国共産党が近隣諸国と友好的な関係を望むならば、今日にも緊張緩和が実現しよう。北京の指導者は、東南アジア諸国のEEZから中国海警総隊巡視船、海上民兵そして漁船を呼び戻し、UNCLOSを遵守する姿勢を示すことができよう。しかし、北京はそうしなかったし、恐らくこれからもそうすることはないであろう。結局のところ、王毅外相は、ASEANとの閣僚会合で、中国の「三戦」を新たな戦線で追求しただけと言える。抗争相手が何を目論んでいるかを認識することは、知恵の始まりである。
記事参照:China’s Strategy To Control The South China Sea: Defense Of The Indefensible

8月7日「東欧諸国は今の東アジア情勢をどう見ているか―オーストラリア中国研究者論説」(The Interpreter, August 7, 2021)

 8月7日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、University of Sydene上席講師Josh Stenbergの“‘I Am a Taiwanese’: Eastern Europeans See a Cold War in East Asia”と題する論説を掲載し、そこでStenbergは最近東欧の国々が東アジア情勢に関心を寄せ、特に苦境にある台湾に対して共感を覚えることの背景として、冷戦期における抑圧的支配を受けた記憶の影響があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) バルト海沿岸諸国の政治的状況が東アジアにおいて注目されることはあまりないが、2020年10月、リトアニア首相に選出されたIngrida Šimonytėが、新連立政権は台湾において「自由のために戦う」人々を支援すると宣言した時、にわかに脚光を浴びた。この声明は中国を警戒させただろうが、その後リトアニアは台湾との距離を縮め続けている。
(2) 1年以上COVID-19の感染を抑え込んできた台湾だが、2021年5月に感染爆発が起きた。ワクチンの調達が遅れている台湾に対し、6月、リトアニアは2万発回のワクチンを供給している。その返礼として、例えばリトアニアの小児がん支援組織に6月だけで5万ドルの寄付が送られた。普段の寄付平均額は1月300ドル程度である。7月にはリトアニアに事実上の大使館である「台湾代表処」が設置されたが、「台湾」という名前を冠した事務所の開設はヨーロッパでは初めてのことである。
(3) さらにリトアニアは台湾支援の姿勢と並行して、中国に対する強硬な姿勢を示すようにもなっている。リトアニアは新疆ウイグル自治区におけるウイグル人弾圧をジェノサイドと認定する動きを見せ、また、中国と中東欧諸国の協力枠組みであった17+1を離脱した。中国は、しばしば欧米諸国の植民地主義や帝国主義を批判するが、それゆえに、中東欧の小国による中国に対する同様の批判は、中国にとってかわすことが容易ではない。
(4) 多くのリトアニア人にとって専制主義との戦いは身近なものである。リトアニアは隣国ベラルーシのLukashenko独裁政権の対抗勢力を支持するヨーロッパで数少ない国の1つであり、また冷戦の記憶もある。リトアニアは、ベラルーシの独裁政権や、台湾に対する中国の姿勢に冷戦期のソ連を想起しているのである。
(5) 台湾の動向に関心を払っている東欧の国はリトアニアだけではない。2020年9月、チェコの上院議長Miloš Vystrčilは、大統領の反対にも関わらず公式に台北を訪問した。それは、前任者が計画していたものであったが、彼の急死によって見送られていたものであった。Vystrčilの訪問に対し、中国の王毅外交部長は、上院議長は「重い代償」を払うことになるだろうと述べた。そうした強い言葉に対し、チェコの隣国スロバキア大統領が反発し、また独仏外相がVystrčilの訪問を支持するという声明を発表した。
(6) 近年の地政学的環境と米ソ冷戦時代の間の類推がなされ、それに対する論評がさまざまある中で、東欧の小国の多くが最近まで独裁的な大国の支配下、ないしそれに近い状況で生きていた記憶を持っていることを想起するのは重要であろう。Vystrčilによる台湾議会での「私は台湾市民である(I am a Tiwanese)」という宣言は、「私はベルリン市民である(Ich bin ein Berliner)」という1963年のJohn F. Kennedyによるベルリン演説を思い起こさせた。この声明は、ソ連の支配を受けていた東欧の国が、いかに現在の状況を冷戦的観点で眺めているかをこれ以上ないほどに示したのである。冷戦下の記憶ゆえに、東欧諸国は中国からの強まる圧力を受ける台湾に親近感を覚えるのであろう。
記事参照:‘I Am a Taiwanese’: Eastern Europeans See a Cold War in East Asia

8月9日「マイクロプラスチックが魚類の成長と生殖にもたらす悪影響―米シンクタンク報道」(EurAsia Review、August 9, 2021)

 8月9日付の米シンクタンクEurasia Reviewのウエブサイトは、“A Sea Of Microplastic Troubles: Long-Term Ingestion Harms Growth And Reproduction In Fish”と題する記事を掲載し、マイクロプラスチックの摂取が魚類にどのような影響を及ぼすかに関する最近の研究成果の内容について、要旨以下のように報じている。
(1) フランスのInstitut national de recherche pour l’agriculture, l’alimentation et l’environnement(国立農業・食料・環境研究所、 INRAE)とInstitut Français de Recherche pour l'Exploitation de la Mer (海洋開発研究所、Ifremer)、そしてフランスDordeaux UnivertityとスウェーデンのOrebrö Unviersityによる共同研究の成果が発表された。それは、魚類がマイクロプラスチックを長期間摂取することによって、とりわけその成長と生殖にどのような影響を受けるのかに関する研究である。近年、海や河川におけるマイクロプラスチックの量が増え続けており、それが食物連鎖に与える影響が懸念されている。
(2) 研究に用いられたのは、淡水魚のゼブラフィッシュと、メダカの中でも海に棲息するメダカである。使用されたマイクロプラスチックは、ポリエチレン(以下、PEと言う)とポリ塩化ビニル(以下、PVCと言う)であり、それぞれ、汚染物質が吸着したものとそうでないものとが用いられた。また吸着した汚染物質としては、プラスチックの難燃性物質として使用されることの多いペルフルオロオクタンスルホン酸、紫外線吸収物質としてよく使われるベンゾフェノン3(以下、BP3と言う)、そして石油製品などに用いられるベンゾピレン(以下、BaPと言う)が研究に使用された。研究は4ヵ月間行われ、その成果はJournal of Hazardous Materialの2021年8月5日号に掲載された。
(3) 全体として、マイクロプラスチックの摂取は魚類の成長と生殖に影響を与えることが分かった。まず成長に関しては、魚の種類やプラスチックの種類にかかわらず、大きさや重さの成長率の減退が観察された。摂取の期間が長いほど影響は大きかった。この結果は、この問題に関する長期的な研究の必要性を強調している。またこの傾向は、オスよりもメスのほうに顕著に見られた。
(4) 生殖についても、通常と比較して最大50%の繁殖率の低下が見られた。その度合いは魚の種類、プラスチックの種類、汚染物質の種類によって異なった。ゼブラフィッシュについては、BaPが吸着したPVC(PVC-BaPのように表記する)やPVC-BP3を摂取したものには放卵の遅れが見られ、汚染物質が吸着していないPVCを摂取したものやPE-BP3を摂取したものは放卵数の減少が見られた。海のメダカについては、ほとんどすべてのマイクロプラスチックの摂取に関して放卵数の減少が見られた。また、PVC-BP3を摂取した魚から生まれたものは、幼生段階における行動障害が観察された。また、影響度の大きさについては、PVCのほうがPEよりも大きく、またBP3はペルフルオロオクタンスルホン酸やBaPよりも大きいことがわかった。
(5) 以上の結果は、マイクロプラスチックの摂取が魚類の成長と生殖に悪影響を与えるはっきりとした証拠である。マイクロプラスチックの増加は魚類に悪影響を与え、そのことが環境全体に深刻な影響を及ぼすことが考えられる。今後必要なのは、物質の大きさや化学的組成がマイクロプラスチックの毒性にどのような影響を与えるか、そして添加物がどのような役割を果たすかに関する調査である。こうした研究を進めることによって、規制の優先順位を決めることができるだろう。
記事参照:A Sea Of Microplastic Troubles: Long-Term Ingestion Harms Growth And Reproduction In Fish

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) The long game
China’s grand strategy to displace American order
https://www.brookings.edu/essay/the-long-game-chinas-grand-strategy-to-displace-american-order/?utm_campaign=Foreign%20Policy&utm_medium=email&utm_content=147142620&utm_source=hs_email
The Brookings, August 2, 2021
By Rush Doshi was the director of the Brookings China Strategy Initiative and a fellow in Brookings Foreign Policy. He is currently serving in the Biden administration.
 2021年8月2日、米シンクタンクThe Brookings InstituteのChina Strategy InitiativeのディレクターRush Doshiは、同シンクタンクのウエブサイトに“ The long game China’s grand strategy to displace American order ”と題する論説を発表した。その中でDoshiは、まず米中の競争が地域秩序や世界秩序をめぐるものであることを説明した上で、中国主導の秩序がどのようなものになるかを概説し、なぜ大戦略が重要なのかを取り上げ、中国が大戦略を持っているかどうかについての対立する見解を議論している。Doshiは、中国は、軍事的、政治的、経済的レベルで進められてきた3つの連続した 「追放戦略(strategies of displacement)」を通じて、地域的、世界的秩序から米国を追い出そうとしてきたと主張しており、具体的には、第1の戦略は、米国の秩序を地域的に鈍らせようとするものであり、第2の戦略は中国の秩序を地域的に構築しようとするものであり、拡大戦略とも言える現在の第3の戦略は、第1と第2の戦略の両方をグローバルな規模で行おうとするものだと指摘している。

(2) A Tale of 2 Navies: India and China’s Current Carrier and Escort Procurement
https://thediplomat.com/2021/08/a-tale-of-2-navies-india-and-chinas-current-carrier-and-escort-procurement/
The Diplomat, August 04, 2021
By Rick Joe is a longtime follower of Chinese military developments, with a focus on air and naval platforms.
 8月4日、中国軍事問題の専門家であるRick Joeはデジタル誌The Diplomatに“A Tale of 2 Navies: India and China’s Current Carrier and Escort Procurement”と題する論説を寄稿した。その中で、①インド海軍の3隻の空母「ヴィクラマディティヤ」、「ヴィクラント」、「ヴィシャル」は、インド海軍が西海岸と東海岸にそれぞれ1隻ずつ空母を配備し、3隻目の空母は保守整備を行うという交替制を可能にするために提案された、②しかし、インド海軍は当面、3隻目の空母を購入するかどうかを決定していないため、潜水艦や原子力潜水艦などの代替の調達が、優先順位が高いことが判明する可能性もある、③予測に基づけば、2030年末から2030年代初頭にかけて、インド海軍はほぼ確実に「ヴィクラマディティヤ」と「ヴィクラント」の2隻の空母を就役させ、中国海軍は少なくとも「遼寧」と「山東」、そしてType003の3隻の空母を就役させる可能性が高く、最大で6隻の空母を運用することになるだろう、④インド海軍の現在の護衛艦隊は、駆逐艦8隻、フリゲート13隻の計21隻で構成されているが、高性能の対空戦能力を備えているのは、コルカタ級駆逐艦3隻のみであり、生産が計画どおりに進み、古い艦艇の退役がなければ、2025年末までに駆逐艦12隻とフリゲート24隻を含む36隻に拡大し、高性能の対空戦能力を持つ多目的駆逐艦と大型フリゲートの14隻となる、⑤中国海軍の現在の護衛艦隊は、大型駆逐艦3隻、駆逐艦36隻、フリゲート30隻の計69隻で構成され、これらの護衛艦のうち28隻は高性能の対空戦能力を備えており、古い艦艇が退役しないと仮定すると、2023年末までに、大型駆逐艦8隻、駆逐艦42隻、フリゲート30隻以上からなる少なくとも80隻の護衛艦隊に拡大し、これらの艦艇のうち、高性能の対空戦能力を持つ多目的大型駆逐艦と駆逐艦が39隻となる、などと述べている。

(3) THE PORCUPINE IN NO MAN’S SEA: ARMING TAIWAN FOR SEA DENIAL
https://cimsec.org/the-porcupine-in-no-mans-sea-arming-taiwan-for-sea-denial/
Center for International Maritime Security, AUGUST 4, 2021
By Commander (select) Collin Fox, U.S. Navy, is a Foreign Area Officer serving as a military advisor with the Department of State.
 2021年8月2日、US Department of State軍事問題補佐官Collin Fox中佐(昇進予定)は、米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイト上に、" THE PORCUPINE IN NO MAN’S SEA: ARMING TAIWAN FOR SEA DENIAL "と題する論説を発表した。その中でFoxは、精密誘導兵器の登場と普及は、その有効性や有益性が故に、現代の海戦は防衛を強く意識した極端に動きの鈍いものへと変化させたと話題を切り出し、現在の戦闘部隊は、隠密状態を維持、ないしは敵の索敵・攻撃圏外にいることで生き残り、効果的に反撃しなければならず、いわば、報復攻撃のために身を潜めるようになっていると指摘している。その上でFoxは、米軍は自らの兵力投射の支配的考え方に対する中国の接近阻止・領域拒否(A 2/AD)戦略に対して、特定の同盟国や提携国が戦闘にもたらす地政学的に欠かせない特徴ある貢献を見過ごし、自らの兵力のみで全てを実施しようとしているが、今後米国は、太平洋における中国の侵略を抑止するためにも自国の兵力だけに頼るのではなく、台湾に対する大規模な軍事的対外援助を開始し、台湾をハリネズミのような海上要塞に変えるべきであるなどと主張している。