海洋安全保障情報旬報 2021年8月21日-8月31日

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8月21日「『青い北極』は米軍の太平洋への展開にとって何を意味するのかー日専門家論説」(The Diplomat, August 21, 2021)

 8月21日付のデジタル誌The Diplomatは、The East Asia Program at the Stimson Center非常勤研究員久原苑子2等海佐の“What the ‘Blue Arctic’ Means for the US Pacific Military Presence”と題する論説を掲載し、そこで2佐は海氷の融解に伴い海水面が現れた「青い北極(Blue Arctic)」は米国の国益、繁栄にとって脅威になると同時に米海軍が抱える脆弱性を低減する機会にもなるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 北極の海氷が融解し、海表面が現れて航行可能になることを示す概念として「青い北極
(Blue Arctic)」が用いられるが、「青い北極」は大国間の対立の新たな領域となってきた。一度は宇宙のように平和な領域と考えられたが、北極は米本土防衛にとって重要な前線になっている。2020年以降、米海軍、陸軍、空軍は相前後して新しい北極戦略を発表した。このことは米国にとって戦略的問題であるが、同時に米国が同盟国、同じ考えを持つ国々、特に日本と英国と協調して米国の脆弱性に対応する機会でもある。
(2) 米国は2020年に新しい海洋戦略「海洋における優越(Advantage At Sea)」を公表した。
同戦略は中国を最も広範で長期の脅威と規定している。新海洋戦略は危険を効果的に低減するには優先順位が重要であると強調しているが、地理的制約、予算上の制限が中国に焦点を当てることを困難にしている。太平洋正面に焦点を当てることのできる人民解放軍海軍と異なり、米海軍は地理的に2正面を抱えている。そして、米艦隊の多くは大西洋岸あるいはアジアから遠く離れた場所に配備されている。世界中で展開される複数の作戦を考慮すれば、危機あるいは紛争時に中国海軍に対抗できるのは主にUS Pacific Fleetである。
(3) 米国の戦略的思考が心理的に分裂していることも問題である。米海軍は、再び攻撃的に
なってきたロシア海軍に注力するためUS Atlantic Fleetの復活を表明している。一方で同じ時期に中国が優先事項であるとしている。米国は今やいつでも、どこでも同じように効果的に作戦を遂行することはできないと認識している。そして、米国は優先順位付け、統合された部隊、同盟国、提携国との互換性を必要としている。
(4) これらの脆弱性を緩和するために、「青い北極」が鍵となる。北極における海氷の融解は
大西洋と太平洋間の往来を増加させる。海氷の融解は航海日数の減少により、より短い海上交易路を開き、米海軍にとっては危機あるいは紛争時に共同艦隊編成のために急速に艦艇を展開することができ、地理的不利を軽減する。「青い北極」はまた、両洋艦隊という戦略態勢を調整するのにも役立つ。北極が開かれることは、大国間の対立が北極に波及し、米国の利益と繁栄に脅威を及ぼすこととなろう。(北極に関わる中ロの動きは、)中ロが焦点を当てている太平洋と大西洋にそれぞれ展開する艦隊が合体するかもしれないことを意味する。北極は太平洋と大西洋の艦隊が緊密に結合することを求めている。「青い北極」と両洋艦隊の調整は効果的な予算配分と部隊の展開を可能にするだろう。
(5) この努力の流れをさらに発展させるために、重要な要素は日本および英国との協調であ
る。2021年の米北極戦略は、部隊の展開、提携、実力のある北極海軍部隊が北極における米国益の安全を保証するための目標であると結論付けている。海上自衛隊と英海軍は米海軍と最もレベルの高い相互運用性を持っており、日露戦争時に一度示されたように協調が可能であろう。自由で開かれたインド太平洋戦略では、日米は主導的役割を果たしており、法の支配、航行の自由、自由貿易の促進と確立および経済的繁栄といった開かれたインド太平洋の戦略的目的は北極にも拡大可能であり、北極における共同訓練を含む緊密な協調は平和のための部隊の展開と提携を強化することができる。
(6) 日本政府は2021年4月に、新しい砕氷船建造の計画を発表した。新砕氷船は科学のために北極を調査することを目的としているが、北極における存在感と提携にも貢献するだろう。アイスランドとともに共同主催した第3回北極科学大臣会議では、日本は北極における多国間協調の強化について重要な役割果たした。さらに海上自衛隊は、60年に及ぶ日米同盟と冷戦期における対潜戦能力への貢献を基礎に米軍の持続性を含む実力のある北極海軍部隊に対して貢献することができるだろう。北極圏における練習艦隊のような海上自衛隊艦艇の航行、共同訓練の実施はまた、米国の目的を強化するだろう。ユーラシア大陸を挟む両国の緊密な協調は北極における米国の目標達成に貢献し、米海軍の地理的脆弱性を緩和するだろう。
記事参照:What the ‘Blue Arctic’ Means for the US Pacific Military Presence

8月22日「米中はルビコン川を越えたのか―中国南海研究院非常勤研究員論説」(South China Sea Probing Initiative (SCSPI), August 22, 2021)

 8月22日付の北京大学南海戦略態勢感知計画 のウエブサイトは、中国南海研究院非常勤上級研究員Mark J. Valencia博士の”Have US and China Relations Crossed the Rubicon?” と題する論説を掲載し、ここでValenciaは米中はまだ引き返せるところにあるが、ルビコン川を渡るところに近づいていることは確かであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ルビコン川を越えるとは、引き返せない地点を通過することを比喩している。米中はルビコン川を超えて、最終的に武力衝突になるとも言われている。
(2) 中国と米国の戦争は避けられなくはないが、勃発する可能性は高まっている。両者は、イデオロギー、野心、国際秩序への考え方の違いから、根本的なところで衝突している。妥協と共存は可能かもしれないが、そのためには中国が核心的利益の一部を放棄するか、米国がその一部を受け入れる必要がある。どちらもそうする気はないようだが、紛争は望んでいないと主張している。しかし、関係が急速に悪化しているにもかかわらず、どのようにして紛争を回避するかについての合意はない。その結果、南シナ海を中心に、いわゆるチキンゲームの状態になっており、この地域の安全保障に重大な影響を及ぼしている。
(3) 両国家間の意見の違いは歴然としている。Joe Biden米大統領の考えは次のとおりである。
a.世界は歴史の転換期にある。
b.民主主義と米国人の基本的な信念や生活様式が長期的に存亡の危機にある。
c.中国やロシアのような独裁国家は、21世紀の巨大で複雑化する課題に対処するための自分たちの組織が、民主主義国家に勝っている方に賭けている.
d.中国やロシアは、複雑な権力の抑制と均衡の組織を持つ民主主義国家が、これらの課題に対処するために、効率的かつ効果的に機能することはできないと考えている。
f.中国やロシアは、西洋の自由主義的な個人の自由、その結果としての混沌とした個人の不安ではなく、継続性、安定性、予測可能性、ひいては個人の安全を提供することで、国民の満足を得られると考えている。
(4) (Harvard Universityの政治学者)Graham Allisonは「ワシントンは、米国が取り仕切る法に基づく国際秩序を受け入れるよう他国に求めている。しかし中国の目には、米国が規則を作り、他の国はワシントンの命令に従っているように映る」と述べている。そして中国の習近平国家主席は、「いじめられない、抑圧されない、征服されない」と述べ、他国が決めた方向には進化しない」としている。仮に中国が一時的な戦術として悪質な行動を控えたとしても、米国と対等な国家・民族として尊重されるという目標を妨げるものではない。
(5) 中国の王毅外交部長は、7月26日に天津で行われたWendy Sherman 米国務副長官との会談で、中国の3つの基本方針を述べており、それは以下のとおりである。
a.米国は、中国の統治のやり方を覆そうとすべきでない。
b.米国は、中国の発展を妨害すべきでない。
c.米国は、主権の侵害や領土保全を害してはならない。
しかし、米国はこの3つ全てを実行し続けている。
(6) そして、謝朋外交副部長は、次のように述べている。
a.中国と米国の関係は膠着状態にあり、深刻な困難に直面している。
b.現実であれ想像であれ、中国の脅威が米国の外交・軍事計画及び政策を動かしている。
c.米国は、中国に対して政府全体で圧力をかけている。
d.不公正な経済活動、知的財産の侵害、政府と連携したサイバーハッキング、新疆ウイグル自治区での少数民族への過酷な扱い、香港での政治的弾圧、南シナ海での活動など様々な事柄を理由に、米国は中国に対する制裁措置を講じている。
e.最も危険なのは、米国が台湾との外交・軍事関係を強化していることである。
(7) さらに謝は、Shermanとの会談後に次のように述べている。
a.Covid-19、台湾、新疆、香港、南シナ海の成り立ちに関する米国の誤った発言や行動に対して、中国は強い不満を抱いている。
b.米国は、気候変動、イランの核問題、北朝鮮の核問題について、中国の協力と支持を求める一方で、中国の利益を害する行動をとっている。これではうまくいかない。
(8)米国の目標は、アジアにおいて日本、オーストラリア、インド及び韓国、そしてヨーロッパにおいて英国、ドイツ、フランスと、中国を封じ込めるために志を同じくする民主主義国が政治的、軍事的に重なり合った連合体を構築することである。中国の宿敵である日本がこの連合体に加わることで、戦争の可能性は飛躍的に高まる。日本はすでに中国の越えてはならない一線に近づいている。日本は2021年度の防衛白書で、自国の安全保障にとって台湾が重要であることを初めて明示した。日本の防衛大臣は、「民主主義国家である台湾を守らなければならない」と述べ、麻生副総理は、「中国が台湾に侵攻すれば日本の生存が脅かされるので、日本と米国は協力して台湾を守らなければならない」と述べた。中国の専門家の中には、これは日本政府内に台湾独立派が台頭してきたことを反映していると考える人もいる。これに対し中国は、いかなる国も台湾問題に介入することを許さないと警告した。
(9) 日本は、東シナ海での「中国の脅威」を対象とした軍事演習への参加をオーストラリアに求めている。さらに、日本はともに軍事演習を行う国の数を増やし、東南アジアの海洋権益を守るための能力を高めることに力を注いでいる。
(10) 台湾、東シナ海及び南シナ海は、どちらかが一方的に行動すれば戦争になりかねない地域である。そして、台湾、東シナ海が最も危険な状況にある。しかし、越えてはならない一線が明確であるので、中国、日本及び米国は、当面この地域での物理的な衝突を避けるだろう。一方で、南シナ海は越えてはならない一線が曖昧でありながら、現実味を帯びている。南シナ海には危険な力学が働いていて、地域支配をめぐる米中の戦略的争いの核心となっている。中国にとって南シナ海は、海南島の玉林に配備されている報復攻撃用原子力潜水艦の聖域となっている。これらの潜水艦は先制攻撃に対する保険であり、南シナ海の越えてはならない一線の根底にある。中国の政治は、ますます民族主義的になってきており、国家が面目を失い、その結果、指導者への敬意が失われれば、越えてはならない一線を超えた反応が引き起こされる可能性がある。
(11) Donald J. Trump前大統領の下で米中関係は、南シナ海で急速に悪化した。両者は好戦的な文言と軍事的な姿勢で状況を拡大させ、相互不信に陥った。それぞれが相手に対抗していると主張し、どちらも事態を収拾するための最初の一手を打とうとしなかった。そして衝突の可能性が明らかになり、両軍は最悪の事態に備えて準備を始めた。Biden政権は、この軍事的な姿勢を継続し、さらに強化している。米国は、中国の大きな自己主張には、積極的な武力行使で対応すると主張している。
(12) Lloyd Austin米国防長官は東南アジア訪問の前に、海洋の自由への誓約を強調し、南シナ海における中国の根拠のない主張をけん制する意向を以下のように示した。
a.変化する侵略と強制の形態に取り組むために、米国の能力と提携国の能力をどのように更新・近代化し、どのように手を取り合って統合的抑止力の新しい形態を追求するかについて、提携国と緊密に協力していく。
b.米国は台湾と協力して、脅威や強制を抑止する能力を強化している。
 中国にとって、この一連の挑発行為は、まさに面と向かって行われているもので、挑戦を意味している。中国も同様に対応するに違いない。
(13) シンガポール初代首相、故Lee Kuan Yewは、米国が台頭する中国に対して平和的に適応できるかどうかを疑っており、「米国が西太平洋の地で、長い間軽蔑してきたアジアの人々に追いやられることは、感情的には非常に受け入れがたく、米国の文化的優越感が、その適応を最も困難にするだろう」と述べている。米国の共和党上院議員Marco Rubioもこれを認め、「もし失敗すれば、100年の屈辱が待っている」と警告している。彼と同じような米国の政治家にとって、アジアで米国の優位性が失われることは、自由民主主義の失敗を意味する。このため、彼は中国が強くなる前に紛争を起こすことを望んでいる。
(14) この状況をより危険なものにする要因があるとすれば、それは「中国の軍事力が高まれば米国は戦わない」と中国が考えるようになることである。このことは、南シナ海での米国の軍事的挑発行為に対する中国の対応を厳しくしている。同様に心配なのは、米国のような覇権国はその支配力を維持しようと必死になると、これまで以上に対立的で暴力的になるという説である。米中関係はまだルビコン川を越えていないかもしれないが、急速にそれに近づいていることは確かである。
記事参照:Have US and China Relations Crossed the Rubicon?

8月23日「Biden政権のインド太平洋戦略の方向性―米国防専門家論説」(Nikkei Asia.com, August 23, 2021)

 8月23日付の日経英文メディアNikkei Asia電子版は、米シンクタンクRAND Corporationの国防担当上席分析員Derek Grossman による“Biden's Indo-Pacific Policy Blueprint Emerges”と題する論説を掲載し、そこでGrossmanはBiden政権のインド太平洋戦略の方向性を最近の政府高官などの発言から推測し、それが米中間の緊張を拡大させるようなものではないとして、要旨以下のとおり述べた。
(1) Biden政権は今までのところ、公式のインド太平洋戦略を提示しておらず、その方針ははっきりしていない。今年3月に、暫定国家安全保障指針が発表され、同盟や提携の強化による中国との競合を訴えたが、その具体的な目標や、目標達成の詳細な計画は記されていない。Biden政権はどのようなインド太平洋戦略を立案していくのだろうか、
(2) 来年初めに最初の国家安全保障政策の発表が予定されているらしいため、それを待っても良い。だが、ここ最近の政府高官によるインド太平洋地域への訪問や実質的な関与などの動向から、Biden政権のインド太平洋政策が持つ含意を導き出すこともできる。ここではそれを3点まとめてみよう。
(3) 第1に、民主主義や人権尊重など価値観重視の姿勢である。以前、筆者はそうした価値観の共有を利益の共有に優先させるBiden政権の姿勢が長続きするかどうかを疑問視した。なぜならその取り組みが、インド太平洋諸国の専制主義的ないし半専制主義的な体制からの反感を招きうるからである。ところがBiden政権は、価値観重視の姿勢を洗練させたように見える。すなわち、民主主義を重視する国々との間の排他的な協力を構築するのではなく、価値観を共有しようという意思を持つ国を包含しようという姿勢を見せているのだ。7月にシンガポールを訪れたAustin国防長官や、インドを訪問したBlinken国務長官は、真の民主主義の達成は困難であり、米国もまたそれに向けて歩み続けていることを強調したのである。
(4) 第2に、Trump政権は中国との対決に焦点を当てて同盟国や提携国との間で政策を一致させてきたが、Biden政権はそうした方向性から移行している。たとえば、シンガポールでAustin国防長官は米国がインド太平洋の国々に、米国か中国のどちらかを選べと迫るものではなく、中国に影響を受けた東南アジア諸国の「権利と生活」に注目しているのだと述べている。Blinken国務長官もまた、オンライン方式でのASEANの会合で、中国への言及を避け、パンデミックや気候変動など地域横断的な課題に焦点を当てた。
(5) 第3に、Biden政権は米中間の緊張がかなり高まっていることは認めつつも、その統制が失われてはならないとも考えているようだ。Wendy Sherman国務副長官は7月に中国を訪問し、気候変動や北朝鮮問題、アフガニスタン問題などについて米中は協力できると訴えた。Austin国防長官もまた、中国人民解放軍とのホットラインの開設によって緊張のエスカレートの回避を目指していると述べた。米中間競合がインド太平洋地域にネガティブの影響を与えるリスクは今後減っていくだろう。
(6) Biden政権におけるインド太平洋戦略の方向性は以上のごとくまとめられる。端的に言えばBiden政権はTrump政権と異なり、米中のつながりを縁辺へ追いやろうとはしていない。Biden政権のインド太平洋戦略には以上のような柔軟性があり、インド太平洋にとっては前向きな展開である。ただし、米国の価値に基づく取り組みと、結果的に悲劇を引き起こしたそのアフガニスタン政策との間の矛盾にどう対処するか、今後の注目点である。
記事参照:Biden's Indo-Pacific Policy Blueprint Emerges

8月23日「日本の台湾政策は変わったのか―米専門家論説」(Brookings, August 23, 2021)

 8月23日付、米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトは、同シンクタンク非常勤上席研究員Adam P. Liffの“Has Japan’s policy toward the Taiwan Strait changed?”と題する論説を掲載し、ここでLiffは台湾に紛争が発生した場合の日本の対応は未知数であるが、政府関係者の発言や防衛白書から、この地域が重要な地域になることは明らかであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 7月5日、麻生副総理は「中国が攻撃してきたら、日本は台湾を守ることを約束する」かのような発言をした。米中摩擦と台湾海峡の緊張が高まる中、米国の重要な同盟国であり、台湾の隣国であり、約5万人の米軍兵士を受け入れている日本の閣僚による台湾に関するこの発言は、世界的に大きな注目を集めた。この発言は、個人的な政治資金集めの場で行われたものであるが、日本の公式な政策として誤解されかねない。日本政府はこれまで、台湾を防衛することや、台湾で紛争が発生した場合に、米軍の対応に関して支援を明確にしたことはない。そして、この発言は日本の台湾海峡に対する公式姿勢が大きく変わることを示すものではない。
(2) 日本の政策は、台湾にとっても米国にとっても大きな意味を持っている。米国政府は台北と強固な非公式関係を維持し、1979年の台湾関係法に基づき、平和的手段以外で台湾の将来を決定しようとすることは西太平洋地域の平和と安全に対する脅威であり、重大な懸念と考えている。ここ数カ月、米国の政府関係者や学者たちは北京が軍事力を使って、民主的な台湾の統一を強要するのではないかという懸念を強めている。米国は日本と強固な安全保障条約を結んでおり、日本国内に大規模な軍隊を駐留させている。米国政府が台湾を防衛することになった場合、日本に支援を求め、駐留米軍に大きく依存することになると分析されている。
(3) 台湾に対する日本の公式見解は何十年もの間、曖昧である。1972年、東京は北京の共産党政府を唯一の合法的な中国政府と正式に認め、台北の国民党政府との外交関係を終了した。しかし、日本は、北京が主張する台湾に対する主権は認めなかった。台湾の地位について、東京は明確な立場をとっておらず、北京の姿勢を「十分に理解し、尊重する」とだけ述べている。東京は伝統的に、北京が台北に強制しようとしていることへの批判に消極的で、中台問題が平和的に解決されることへの希望を強調してきた。
(4) 現在、米国の様々な政府高官が、中国の台湾に対する攻撃的な行動を度々批判している。しかし、日本の政府高官は公式の場で、北京を公に非難することを避けるのが一般的である。また、日本は台湾との軍事協力を避けている。ワシントンは台北に防衛用の武器を売って抑止力を高めているが、日本は売っていない。さらに、米国政府が台湾へのさまざまな支援を約束する台湾関係法のような法律も日本には存在しない。
(5) このような慎重な姿勢を反映した日本政府の公式声明は、数多く発表されている。特に4月には、菅義偉首相がBiden大統領とともに台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を訴えた。これは1969年以来、日米首脳会談の声明で初めて台湾海峡に言及したという歴史的に重要な意味を持っているが、比較的平凡である。これまでの米国の単独声明や、昨年の米豪閣僚会議の声明とは異なり、台湾そのものへの明確な言及はない。
(6) 最近の東京の言動は、両岸の摩擦に対する懸念の深まりと、米国や他の民主主義の提携国を含めた、北京へ抑止力のシグナルを強化したいという願望を明示している。日本の最西端の島は、台湾の東海岸から100マイルも離れていない。そして、日本は長い間、非公式ではあるが、台北と緊密な関係を築いてきた。しかし、東京は台湾に対する公式見解を変えてはいないし、未だに両岸有事の際の対応を曖昧にし続けている。
(7) 日本と米国は緊密な同盟関係にあるが、米国のみが関与した両岸の紛争において、日本が米軍をどのように支援するかは、憲法や国内法の複雑な問題を引き起こす。東京の答えは、最終的には、紛争の原因、具体的な状況、日本の平和と安全への影響に関するトップレベルの政治的判断となる。また、現在の協定では、米国政府が地域的な戦闘行動のために在日米軍を派遣しようとする場合、ワシントンは東京と事前協議を行うことになっている。
(8) 最近の日本の指導者たちの発言は、中国が攻撃してきたときに台湾を守ると約束したわけでも、米国が関与した場合に米国を軍事的に支援すると約束したわけでもない。また、日台関係法の制定を目指しているわけでもない。しかし、台湾に関わる文言の変化は、戦略的、外交的、政治的な空白の中で起こっているわけではない。東京では、中国の勢力拡大と民主的な台湾に対するものを含む強圧的な政策に対する懸念が急激に高まっている。また、米国やその他の米国の同盟国との安全保障関係を強化するための努力も見られる。さらに、日米の対台湾実務協力も深まっている。先月、日本から3回目のコロナウイルスワクチンが台湾に到着したのもその一例である。
(9) 最近の麻生発言に加え、岸信夫防衛大臣が6月に「台湾の平和と安定は日本に直結している」と発言したことや、新たに発表された日本の防衛白書で台湾と両岸の動きがこれまでになく詳細に取り上げられていることから、この地域が重要な地域になることは明らかである。
記事参照:Has Japan’s policy toward the Taiwan Strait changed?

8月25日「The Mediterranean’s Compliance Committee、南シナ海のCOC遵守のひな形になり得る―シンガポール専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, August 25, 2021)

 8月25日付の米シンクタンクCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiative は、The Centre for International Law at National University of Singapore上席研究員Vu Hai Dangの“THE MEDITERRANEAN’S COMPLIANCE COMMITTEE: A MODEL FOR THE SOUTH CHINA SEA?”と題する論説を掲載し、ここでVu Hai DangはThe Mediterranean’s Compliance Committeeが南シナ海COC遵守のひな形となるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海の「行動規範(以下、COCと言う)」に関する交渉は、主としてコロナ禍のために、2019年以来停滞しているが、コロナ後に交渉が正常化されたとしても、COCの交渉担当者は協定の地理的範囲、協力義務、第3者の役割、そして特に領有権紛争の解決など、多くの厄介な問題に直面しなければならないであろう。しかも、これまで十分な注意が払われてこなかったが、COCを効果的なものにするために不可欠の問題は、規範遵守の確保である。2002年の「南シナ海における行動宣言(DOC)」は、規範遵守の機構がなかったことから、どの当事国も他の当事国の違反を告発できる方策を持たない手段となってしまった。COC交渉において、その実行を監視するための外相あるいはその代表者によって主導される委員会の創設が提案されてきた。本稿では、他の海域で実行されている規範遵守を確保するための実行可能なひな形を掲示する。それは、海洋汚染から地中海を保護するためのバルセロナ条約の下で設置されたThe Mediterranean’s Compliance Committee(地中海条約義務遵守委員会)で、同様のモデルをCOCの下で創設すべきである。
(2) バルセロナ条約として知られる、「地中海の海洋環境と沿岸地域の保護のための条約(The Convention for the Protection of the Marine Environment and the Coastal Region of the Mediterranean)」は、地中海の海洋汚染を防止し、海洋環境を保護することを目的とする地域条約である。バルセロナ条約は地中海沿岸域の21ヵ国が加盟し、2008年には、条約及び議定書に基づく義務の履行を担保し、促進するための枠組みの下に、「コンプライアンス委員会」が設置された。条約義務遵守委員会は、加盟国によって選出された、加盟国国民で、条約及び議定書に関連する諸問題の専門家である7人のメンバーで構成され、少なくとも年1回の会合が義務付けられている。
(3) 条約義務遵守委員会は、任務遂行に当たって、4つの情報源から情報を受け取る。第1に、バルセロナ条約事務局は委員会に対して条約不履行事案を照会することができる。第2に、委員会は受け取った関連情報に基づいて、加盟国がその義務遂行に当たって遭遇するあらゆる障害を検討することができる。第3に、加盟国は自らの不履行事案に関する情報を委員会に提出することができる。そして第4に、加盟国は他の加盟国の不履行事案に関して、当該加盟国と協議したが、解決できなかった事案に関して、情報を提出することができる。条約義務遵守委員会は、不履行事案に関する情報を受け取った後、当該不履行国に更なる情報提供を求めるとともに、当該国の同意を得た上で、当該国の領域において追加情報を収集することができる。当該国は、委員会の議論に参加し、意見表明の権利を有する。委員会は、その調査結果に対する合意を得ることに努めなければならないが、不可能な場合、委員の4分の3の同意に基づいて調査結果を採択しなければならない。条約義務遵守委員会の主たる役割は、条約義務遵守を達成するために、不履行国に対して助言と支援を提供することである。委員会は、不履行国に対して、行動計画を策定し、条約義務遵守を達成するための取り組みに関する進捗報告書を提出するよう要請し、かつ支援することができる。委員会は、不履行国に対する処罰権限を有しておらず、対処不能事案に関しては、条約加盟国会議に勧告する。加盟国会議は、重大かつ進行中の、あるいは繰り返される不履行事案に対して、制裁を課すことができる。
(4)地中海における条約義務遵守委員会に類似した委員会の設置は、南シナ海の環境から見て、幾つかの重要な利点がある。
a. 第1に、著名な専門家を含む条約義務遵守委員会は、条約義務遵守過程における専門性と技術的専門知識のレベルを引き上げる。このことは、こうした委員会の権威性、公平性、及び一定の程度の独立性を担保するのに役立つ。COC交渉者は、委員会に対して一定の程度の監督権限を付与したいと望むなら、バルセロナ条約の加盟国会議に相当する高官級の政治的機構に不履行国に対して課す諸措置を決定する権限を付与することができる。
b. 第2に、前述のように、条約義務遵守委員会の役割は、不履行国が条約義務遵守を達成するのを支援することである。告発された不履行国は、委員会の審議に参加し、その調査結果案に対して意見を表明できる。委員会の審議と委員会に通報される情報は秘密が維持される。海洋問題が極めて敏感な問題であり、面子を維持することが非常に重要となる南シナ海のような地域では、こうした意見表明の権利や秘密保持の保証は、不履行国に対して条約義務遵守の達成を促す上で役立つ。
c. 最後に、当事国が他の当事国の不履行状況を委員会に告発できるという事実は、従来の紛争解決手段に頼ることなく、当事国間での紛争解決に役立つ。現在、紛争解決はCOC交渉における課題である。1部の国は唯一の紛争解決手段として協議と交渉を主張しているが、他の国は独立した第3者の利用を考えている。規範遵守委員会は、国際裁判所や仲裁裁判所に提訴する前に、関係当事国間での紛争解決に役立つ。したがって、委員会は、当事国間で対立点を解決するためのより友好的な場となり得る。
(5) COCは、南シナ海の特異な側面に合わせた規範遵守委員会を設立することができよう。たとえば、COCの規範遵守委員会の委員には、必ずしも11カ国の全COC交渉国の専門家を含める必要はないが、全ての南シナ海の「公式」領有権主張国(中国、フィリピン、ブルネイ、マレーシア及びベトナム)に加えて、その他の関係当事国からの代表者が含まれていなければならない。規範遵守委員会の監督権限は、重大かつ持続的な、あるいは繰り返される不履行事案に対して制裁を課す権限を付与された、「ASEAN拡大外相会議プラス中国(ASEAN Post Ministerial Conference+1 Meeting with China)」に委ねることができる。規範遵守委員会は、合意の実現不能による行き詰まりを回避するために、過半数に基づく決定方式を採用すべきである。ASEAN事務局は、バルセロナ条約事務局と同様に、規範遵守委員会の事務局機能を遂行できるが、中国はASEAN加盟国ではないために、平等性を確保するためのもう1つの選択肢として、中国とASEAN加盟国双方の当局者で構成される独立した合同事務局も可能である。最後に、南シナ海問題の機微な性質に鑑み、不履行事案の申し立てに関する全ての情報は秘密にしておく必要があるが、当事国の規範遵守を促進するためには、繰り返される、あるいは持続的な不履行事案の事例を公表するための手続きを確立しておくことも必要がある。
(6) 結論として、南シナ海の環境に合わせた規範遵守委員会は、COCの遵守を確実にするための効果的な機構となり得ると言えよう。
記事参照:THE MEDITERRANEAN’S COMPLIANCE COMMITTEE: A MODEL FOR THE SOUTH CHINA SEA?

8月26日「日米同盟によって推進されるべき東南アジアの海洋安全保障強化政策―シンガポール海洋安全保障専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, August 26, 2021)

 8月26日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNet は、シンガポールNanyang Technological UniversityのS. Rajaratnam School of International Studies 上席研究員John Bradfordの“Southeast Asia’s Maritime Security Should be a US-Japan Alliance Agenda”と題する論説を掲載し、そこでBradfordは東南アジアにおける海のガバナンス強化のために日米が協力してなすべきことについて、要旨以下のように述べている。
(1) 東南アジアの繁栄の維持のためには法の支配が絶対的に必要である。しかしながらこの地域では、国家ないし非国家主体の活動がガバナンスの弱さを悪用し、合法的に海を活用している人々の安全と生活を脅かしている。主権をめぐる論争だけでなく、「違法・無報告・無規制」漁業や海賊行為などが共同体に脅威を突きつけており、それらは、国家間の緊張の高まりや、漁獲量の減少や自然災害の頻発などによって、世界的な危機へと変貌する潜在性がある。このリスクを小さくするためには、海のガバナンスを強化する必要がある。
(2) こうした課題に対処するため、そして国益を守るために、日米など同盟で結ばれた豊かな国々は、この地域の海洋ガバナンス能力の構築のために共同し、構築を優先して進めるべきである。この戦略は軍事的観点も維持すべきであるが、一方で、沿岸国が優先的に取り組むべき、海洋ガバナンスに関連する課題を克服するための活動を幅広く行うべきである。
(3) 法の支配に従わず、海の秩序を弱める国は多いが、中でも中国は最も攻撃的である。強大な力によって中国の直接的な行動を抑止することは可能であるが、こうした場合に中国はいわゆる「グレーゾーン戦略」を採用する。こうしたやり方は、ガバナンスの弱さを利用するものであるため、これに対抗するためには非国家犯罪に対処するような能力の向上が重要となる。こうした能力は他の領域においても運用可能であるから、資源の非効率な利用を回避することにもつながる。こうした重要な能力のひとつが海洋状況把握である。
(4) 日米はすでに東南アジアにおける能力開発に多くの投資をしてきたが、協力することによってもっと多くのことを達成できるはずである。投資を追加するよりも必要なのは、情報を共有したり、活動を調整したりすることによって効率性を向上させることである。しかし、こうした動きに向けての対話は限定的であった。問題のひとつは、日米の指導者たちが何に焦点を当てるかについて、その持続性が欠落していることだ。海の安全保障能力の構築についてはObama大統領と安倍晋三首相によって優先事項とされたが、Trump大統領の時代になってそうではなくなってしまった。現場の人々は努力をしているが、トップからの後押しもなく、また、現場とトップの間にいる人々が別の優先目標を持つことによってその努力は妨げられる。
(5) 海洋ガバナンス能力構築を効率よく進めるためには、以下の4つを日米の協力作業の議題に組み込むべきである。第1に、海の基幹施設、環境保護、資源管理、状況把握や法執行を調和させることに焦点を当てた計画に焦点を当てるべきである。ただし、軍事力の重要性を軽視してはならない。沿岸諸国は米中対立に巻き込まれることなく安全保障を維持することを模索しているのであり、そうした国にとって「第3の選択肢」として日本があるためには、海洋ガバナンス能力の1つとして軍事力を考慮すべきである。
(6) 第2に、巨大な官僚機構における実行段階のエネルギーを維持し、部署間の機能不全を克服するために、高官級の調整委員会のような機関を設立すべきである。第3に、現場段階の調整機関が、ワシントンや東京ではなく沿岸諸国の首都などに置かれるべきである。それによって沿岸諸国の優先順位を理解することが必要である。
(7) 最後に、以上のことが実行に移された後に、新たな国や組織を提携者として加えるべきである。最初から関わる国が多いと、焦点がぼやけ、達成される成果が最小公倍数的なものになってしまうだろう。同様の能力構築に焦点を当てた試みは、南アジアや太平洋においても重要であろう。しかしその場合、インドやオーストラリアとの調整はそれぞれ個別に行われるほうが良いだろう。
記事参照:Southeast Asia’s Maritime Security Should be a US-Japan Alliance Agenda

8月26日「日本のFive Eyes参加に必要なことは―日専門家論説」(East Asia Forum, August 26, 2021)

 8月26日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUM は、日本大学危機管理学部教授小谷賢の“Japan’s Five Eyes chance and challenge”と題する論説を掲載し、そこで小谷は日本のFive Eyes参加をめぐる議論が前進している一方で、なお課題を残しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) Five Eyesとは、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによる機密情報共有に関する同盟である。この同盟への日本の参加については従来かなり困難であると考えられてきたが、近年劇的に状況は変わっている。2020年、英国のJohnson首相は日本のFive Eyes参加に前向きな発言をし、元国務副長官のRichard Armitageも日本はFive Eyesに参加すべきだと主張している。また2020年自民党は、「経済安全保障戦略策定に向けて」という提言を行い、日本のFive Eyes参加を訴えた。しかし、具体的な対話はこれまでほとんど見られない。
(2) 第2次世界大戦後の日本は、世論の否定的な印象もあって諜報機関を設立してこなかった。また、日本は緊急事態においては米国の諜報に依存できるため、CIAのような海外で活動する諜報機関も設立されていない。これらのことは、日本が西側の安全保障同盟に諜報の点で貢献することを困難にしてきた。
(3) しかしここ数十年で、日本は情報収集能力を着実に向上させてきた。現在、日本政府は7基の情報収集衛星を運用し、2020年に発射された最新型は宇宙から人の頭を判別できるほどの精度である。政府はさらに10基体制での情報収集を計画しており、それはFive Eyesの情報収集能力を向上させることが期待されている。また日本の衛星は、東アジアの情報収集において利点を有している。運用レベルでも、2018年以降日本は、シュリーバー演習(Five Eyes構成国とフランス、イタリアによって実施される宇宙での訓練)に参加している。海外の無線情報通信に関しては、防衛省の情報本部が収集を行っている。
(4) 日本の諜報システムには依然、弱点があるが、2013年には特定秘密保護法を制定するなどして、機密保持の強化に努めてきた。また国際的には、「軍事情報包括保護協定」を2007年に米国と、2012年にオーストラリアと、2013年に英国との間で締結した。こうした国内の法整備や外国との協定の積み重ねによって、Five Eyesとの情報共有、機密維持を確実にすることが期待されている。
(5) 衛星写真や軍事無線通信情報をFive Eyesに提供することは、それへの参加の必要条件ではあるが十分条件ではない。日本では非軍事的な無線通信情報やサイバースペースにおける情報収集が認められていない。日本とFive Eyesが手を結び、将来の情報共有のための見通しがたつとしても、なお未成熟な情報収集活動と強固な法的制約が、その参加の妨げになるかもしれないことを、日本は理解しなければならない。
記事参照:Japan’s Five Eyes chance and challenge

8月28日「中国、『戦略防衛線』を設定—インド英字紙報道」(The EurAsian Times, August 28, 2021)

 8月28日付のインド英字ニュースサイトThe EurAsian Timesは、“Taiwan Row: China Sets-Up ‘Strategic Defense Perimeter’ To Repel Attack By Foreign Forces – Military Experts”と題する記事を掲載し、中国が多数の軍事演習を複数の海域で実施し、「戦略防衛線」(strategic defense perimeter)を設定したとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国の軍事専門家たちによると、中国軍は「戦略防衛線」を設定し、同時異方向の戦闘
と対峙する準備が現在十分に整ったという。これに伴い、中国海事局は8月23日、近日中に、実弾射撃による軍事演習を行うために、南シナ海、黄海北部及び渤海海峡で3つの独立した航行規制水域を発表した。
(2) これに先立ち、中国はこれらの海域で少なくとも120回の軍事演習を行った。「渤海と
黄海では、5月下旬以降、少なくとも48回の訓練が行われており、他の海域に比べて最も軍事演習の数が多い区域となっている」と評論家は環球時報に語った。これ以外にも、台湾軍は過去3カ月間に、台湾の近くで行われた39回の中国軍の訓練を報告している。専門家達によると、このような訓練は2020年から一般的になっており、台湾の分離独立派や外国軍を抑止するための中国軍による準備を示している。彼らは、このような演習の実際の数は、台湾の国防当局が報告しているものよりも多いかもしれないと述べている。報道によると、南シナ海ではこの3カ月間に少なくとも26回の中国軍の演習が行われており、中でも8月上旬に行われた大規模な演習では、進入禁止区域が海南島よりも広かった。
(3) また、北京のシンクタンクである南海戦略態勢感知計画の監視によると、紛争中の南シ
ナ海では、頻繁に行われている米国の近接偵察演習、米艦艇の中国領海への侵入、米英空母の通航など、外国軍の展開が確認されている。中国軍は、台湾の北に位置し、中国と日本が領有権を主張している尖閣諸島がある東シナ海で、少なくとも7回の演習を行っている。北京の軍事専門家は、「これは、敵軍が行動を起こす前に躊躇するよう、中国軍が海岸沖に戦略的な海洋防衛線を確立したことを意味する」と環球時報に語っている。
記事参照:Taiwan Row: China Sets-Up ‘Strategic Defense Perimeter’ To Repel Attack By Foreign Forces – Military Experts

8月30日「ミャンマーを経由する中国の新たな交易路―タイ月刊英字/ビルマ語紙報道」(The Irrawaddy.com, August 30, 2021)

 8月30日付のタイ月刊英字新聞/ビルマ語新聞The Irrawaddy電子版は、“China Opens Rail Line With Access to Indian Ocean via Myanmar”と題する記事を掲載し、一帯一路の一部として、中国が推進するミャンマーを経由する交易路について、要旨以下のように報じている。
(1) 中国がミャンマーを経由してインド洋にアクセスするための新しい鉄道路線が、8月25日に中国側の国境で開通した。この鉄道路線は、四川省の省都成都から、ミャンマー北東部シャン州の国境貿易都市チンシュエホーの向かいにある中国雲南省の地級市臨滄に至る。この鉄道路線により、中国はシンガポール港からミャンマーを経由して貨物の積み替えが可能になる。積み荷は、シンガポール港からヤンゴン港へ運ばれ、そこから道路を通ってコーカン自治区のチンシュエホーまで輸送され、臨滄から成都まで鉄道で輸送される。在ミャンマー中国大使館によると、臨滄から成都まで鉄道での所要日数は3日である。
(2) このルートは、中国西部とインド洋を結ぶ初めての交易路であり、内陸の雲南省へ貨物を運び込むのに要する時間が大幅に短縮される。この交易路は、ミャンマー側のマンダレー、ラーショー、センウィを経由する。この交易路は、中国とミャンマーの国際貿易の生命線となると期待されていると同時に、ミャンマーの軍事政権の収入源にもなる。一方で、北京の「一帯一路構想」の一環として、チンシュエホーに国境経済協力区域を設立する施策が進行中であり、計画されている区域は雲南省の輸出入を仲介する経済拠点となる。在ミャンマー中国大使館によると、8月第4週に行われた鉄道開通式で、臨滄の中国共産党書記は、臨滄は一帯一路構想と「エコノミック・ピボット」の推進に責任を持ち続けると述べている。
(3) 中国は、ラカイン州のチャウピュー・タウンシップで深海港の開発に取り組んでいる。中国・ミャンマー経済回廊の一部である「チャウピュー経済特区・深海港計画」は、中国の貿易が、シンガポールの近くに位置する混雑したマラッカ海峡を迂回することを可能にし、内陸の雲南省の開発を促進することが期待されている。中国は、雲南省とチャウピューを結ぶ直通鉄道の一部として、シャン州の国境の町ミューズとマンダレーを結ぶ鉄道路線の建設に取り組んでいるが、ミャンマー軍と民族武装集団との戦闘によって遅れている。
記事参照:China Opens Rail Line With Access to Indian Ocean via Myanmar

8月31日「気候変動はインド洋安全保障にとって最大の脅威である―インド専門家論説」(The Diplomat, AUGUST 31, 2021)

 8月31日付のデジタル誌The Diplomatは、The Takshashila Institution研究員Arjun Gargeyaの“Climate Change Is the Biggest Threat to Indian Ocean Security ”と題する論説を掲載し、Arjun Gargeyaは休眠中の環インド洋地域協力連合(IORA)は気候変動による災害を含むインド洋諸国の安全保障上の懸念を話し合うための枠組みとして機能する必要があり、早急に目覚めさせるべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1) The Indian Institute of Tropical Meteorology(インド熱帯気象研究所)の気象学者Swapna Panickalは、最近発表されたIntergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル:以下、IPCCと言う)の報告書に基づき「インド洋は世界中のどの海洋よりも速い速度で温暖化している」ことを明らかにした。IPCCは世界とインド洋地域が今後数十年で直面する可能性のある災害を取り上げた。これは、インド太平洋に関する問題の氷山の一角に過ぎない。この地域の多くの島国の自然災害による危機の脅威には、現在の状況に取り組むための共同の行動計画が必要である。休眠中のThe Indian Ocean Rim Association(環インド洋地域協力連合:以下、IORAと言う)は、気候危機に対する地域の利益を守る上で主導権を握る能力があり、そうする必要もある。多国間主義と多国間機関の衰退は、世界的な課題に対応する上での国家間の説明責任の欠如につながっている。多国間機関が協力を促進できるようになるには時間が必要である。気候変動とインド洋地域にもたらす可能性のある大損害はIORAを休眠から目覚めさす呼びかけとして役立つ可能性があり、またそれに役立たなければならない。IORAは地域全体に関する他の長年の問題に対処するための基盤としても使用されなければならない。
(2) 地球温暖化とそのインド洋地域への影響は、取り組まなければならない最も重要な問題である。インド洋は温暖化のレベルは太平洋の3倍と推定されており、沿岸地域では海面が継続的に上昇し、深刻な沿岸部への浸水が発生する可能性がある。その結果、低地で頻繁に洪水が発生するであろう。インド洋は年率3.7mmで海面が上昇しており、猛烈な海洋災害がほぼ毎年予想されている。最近のIPCC報告書はインド亜大陸での南西モンスーンが気候変動により軌道をどのように変えるかについても言及している。この地域のモンスーンは、夏にはすぐに強まり、さまざまな場所で集中豪雨をもたらす。モルディブ、モーリシャス、セーシェルなどの島国はIORAの一部であり、IORAにとって最優先の国々でなければならない。これらの島国は差し迫った変化に対して非常に脆弱であり、気候変動の影響を軽減するための支援を提供する必要がある。タイやインドネシアなどの東南アジア諸国もIORAの一部であるが、2004年の津波で最大の被害を受け、依然として洪水が起こりやすい国である。IORAは、近い将来の大規模な環境災害に対処するために、地域に必要な他の危機管理計画(contingency plan)とあわせて、一括した枠組みを策定する必要がある。インド洋地域は数百万種の動植物が生息する生物多様性の自然環境でもある。環境汚染の段階の上昇は、乱獲と相まって、熱帯雨林、海礁及び地域の他の生態系に大きな脅威を与える。環境汚染の脅威は、漁業共同体にも重大な影響を与える。何百万人もの漁師は、生活のために現在危機に瀕している地域の天然資源に依存している。これらの問題は、アフリカ西部諸国からオーストラリアに至るまで、膨大な協力的な努力を必要とする。地域全体の国々を含むIORAは、環境保全と持続可能性プロセスにおいて統一的な役割を果たすべきである。同時に、海洋資源に依存する共同体に代替の解決策を提供する必要がある。
(3) IORAの重点分野の一つは、適切な安全保障対策を提供するとともに、地域における海洋の利益(国家安全保障、海洋環境、人間の安全保障)を保護することである。2013年に中国の「一帯一路構想」が実施され、地域全体で中国の海洋インフラ整備計画の資金調達が急速に増加した。東南アジアの港からアフリカ東海岸のジブチまで、中国の海洋への展開はインド洋全体で徐々に増加している。COVID-19感染拡大は、中国が南シナ海での攻撃性を示す機会を提供しており、中国の海上民兵はインド洋地域の安全保障にも大きな脅威を与える可能性がある。IORA加盟国のインドとオーストラリアはQUADと呼ばれるグループの一員でもあり、すでに海軍協力のための「共同指針」に署名している。2国間の軍事的関与は、インドとベトナムの海軍が最近この地域で海洋演習を行うなど、COVID-19感染拡大後、急増している。海洋における国家安全保障の保護を確保するための小規模な手段が講じられているが、地域は他の国による脅迫を防ぐためにすべての手段を準備する必要がある。IORAは、すべての環インド洋諸国が安全保障上の懸念を話し合うための枠組みとして機能する必要がある。それは、地域の覇権を目指すパワーのバランスを取るための効果的な戦略として機能することができる。
(4) インド洋地域は世界人口の3分の1を占めており、世界の石油貿易にとっても重要である。また、インド、バングラデシュ、タイなど、世界で最も急成長している経済の本拠地の1つである。しかし、国家間の経済的関係は依然として初歩的であり、COVID-19感染拡大により事実上、国内経済成長は停止した。これはIORAなどの多国間の公開討論会を通じて修正できる。機能するアフリカ諸国とアジア諸国の経済関係の改善に積極的な関心が寄せられているが、IORAは最適な討論の機会として機能するだろう。南アフリカは最近、バングラデシュの経済成長を称賛し、両国間のより大きな関係発展を求めた。オーストラリアが2,500万ドルを投資する海外基幹施設計画、The South Asia Regional Infrastructure Connectivity initiative(南アジア地域基幹施設連接構想)は、この地域の交通・エネルギー部門の発展を目指している。バングラデシュはIORA加盟国に経済協力の強化を促している。さらに、ロシアのPutin大統領はロシアがIORAに加わることに公然と関心を示している。これは、すでにIORAの一員である国にとって大きな経済的な後押しとなる可能性がある。IORAはインド洋諸国間の貿易と経済関係を発展させる環境を作り出すために、これらの動きに基づいて構築する必要がある。環太平洋パートナーシップと地域包括的経済連携はすべての加盟国に対して、相互に有益な経済連携を交渉するためのIORAの潜在的な枠組みとなるべきである。
(5) インド洋地域とインド太平洋全般は、複数の国家による集団的な組織で取り組む必要がある多くの問題に直面している。多国間のグループは、COVID-19感染拡大、経済の低迷、潜在的な気候災害と戦うために共同の努力を保証することができる。IORAは経済成長と環境保全の両立をとらえ、インド太平洋地域にBlue Economyを確立するために大きな飛躍を遂げるべきである。IORAにはグローバルで重要な諸問題に対処するために、多くの異なる国々を結集させる能力がある。気候変動による自然災害に直面する見通しはIORAの協力を強化するための焦点となるべきである。
記事参照:Climate Change Is the Biggest Threat to Indian Ocean Security

8月31日「領海内の通航規制を強める中国―香港紙報道」(South China Morning Post, August 31, 2021)

 8月31日付の香港英字紙South China Morning Postは、“South China Sea: China demands foreign vessels report before entering ‘its territorial waters’”と題する記事を掲載し、中国が新たに施行した改正海上交通法について、その内容の概略と、法律改正の背景と意味について、要旨以下のように報じている。
(1) 中国は9月1日、改正海上交通法を施行した。それは、中国が領海であると主張する海域を通行する外国船に対し、船舶の情報や積荷に関する情報の報告を義務づけるものである。報告が義務づけられているのは、潜水艦、放射性物質を運搬する船、石油や化学物質その他有害物質を大量に運ぶ船などである。報告する内容は、船舶の名前とコールサイン、位置、積荷などである。もし必要な報告を怠った場合、中国海事局は関連する規制や法律を適用するとしおり、この法律は2021年4月に改正されている。
(2) この法律が施行されたのは、中国と南シナ海で主権を争う国々との間の緊張が高まっている最中のことである。また米中間の緊張も高まっており、米国は南シナ海の軍事的展開を拡大している。2021年7月、中国人民解放軍(以下、PLAと言う)の南部戦区司令部は、西沙諸島周辺を中国政府の許可なしに通航した米艦を追い払ったと発表している。同司令部によれば米艦の行動は中国の主権と南シナ海周辺の安定を深刻なまでに脅かしたとされている。
(3) 元PLA教官で軍事評論家の宋忠平は、改正海上交通法の施行は中国の主権と安全を守る能力を改善することになると述べている。また中国南海研究院海洋法律与政策研究所副所長の康霖によれば、この新法は、軍事目的に利用できる民間船も含まれるとのことである。2021年4月、中国東方沖で無人船が情報収集を行っているのを中国漁船が発見し、曳航した。しかしこれまで、民間の商業船を隠れ蓑にして軍事的活動を行っている船舶の管理は見過ごされてきたのである。
(4) 同法には罰則に関しては詳しく述べられていないが、康霖によれば海事局は中国海警法を含む然るべき法律が適用されるだろうとのことである。場合によっては強制退去などの措置もとられるだろう。
記事参照:South China Sea: China demands foreign vessels report before entering ‘its territorial waters’

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) A Strategy for Avoiding Two-Front War
https://nationalinterest.org/feature/strategy-avoiding-two-front-war-192137
National Interest, August 22, 2021
By A. Wess Mitchell, a former Assistant Secretary of State for European and Eurasian Affairs and now a principal and co-founder at The Marathon Initiative, a think-tank dedicated to the study of great power competition. This essay draws upon elements of a report that he prepared for the Pentagon Office of Net Assessment in fall 2020. 
 2021年8月22日、米シンクタンクThe Marathon Initiative の共同設立者でTrump前政権の元高官のA. Wess Mitchellは、米隔月刊誌The National Interest電子版に、" A Strategy for Avoiding Two-Front War "と題する論説を発表した。その中でMitchellは、全面核攻撃を除いて21世紀の米国が直面している最大のリスクは、最強の軍事ライバルである中国とロシアがかかわる2正面戦争であるが、そのような紛争への対処は、国家の大規模な努力を必要とし、かつ極めて大きな危険を伴い、そして、事実上、ユーラシア大陸のほぼ半分を占める国家資源と米国とを戦わせることになると指摘した上で、このようなリスクの高さを考えると、中国やロシアとの2正面戦争を回避することは、現在の米国の大戦略の最重要目標の1つとなるが、実際には、米国はこの危険性を理解するのが遅れており、ましてや米国の政策にどのような影響があるのかを理解できていないと主張している。そしてMitchellは、ロシアの対中依存が深まることは、将来の紛争において米国にとっては悪い前兆であるとし、2正面戦争を回避するためにも、米国は、2つの脅威に対する軍事的負担を増やすために、1つまたは両方の地域に同盟国と提携国の効果的な連携を構築し、運用することなどが重要だと主張している。

(2) DRIVING A WEDGE BETWEEN CHINA AND RUSSIA WON’T WORK
https://warontherocks.com/2021/08/driving-a-wedge-between-china-and-russia-wont-work/
War on the Rocks.com, August 24, 2021
By Sergey Radchenko, the Wilson E. Schmidt Distinguished Professor at the Henry A. Kissinger Center for Global Affairs, School of Advanced International Studies, Johns Hopkins University
 2021年8月24日、米Johns Hopkins UniversityのSergey Radchenko特別教授は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに、" DRIVING A WEDGE BETWEEN CHINA AND RUSSIA WON’T WORK "と題する論説を発表した。その中でRadchenkoは、米中関係の改善につながり、冷戦の重要な転換点となったHenry Kissingerの中国への激動の秘密訪問から50年、これまで信じられてきた、米国が中ロ間にくさびを打ち込めるという仮定には欠陥があると指摘し、その根拠として、①過去とは異なり、中ロ関係は上下関係ではない、②両国はお互いに同じ世界観を受け入れることを期待していない、③中ロは両国間の摩擦を第3国に利用されることを望んでいない、ことを挙げ、中ロはお互いにいがみ合っているよりも、良き隣人でいる方がずっと良いということを過去の教訓から学んでいると評している。そしてRadchenkoは、中ロ関係に対する米国の取り組みは、ロシアがこれまでになく強大な中国に対して劣勢に立たされていることを恨み、そのような恨みと中国の意図に対するロシアの不信感を利用して利益を得ることができるという前提に基づいているが、そうした見解は誤りであるとし、転換の必要性を主張している。

(3) STORY TELLING AND STRATEGY: HOW NARRATIVE IS CENTRAL TO GRAY
ZONE WARFARE
https://mwi.usma.edu/story-telling-and-strategy-how-narrative-is-central-to-gray-zone-warfare/
Modern War Institute, August 24, 2021
By Dr. David Knoll, a senior research scientist at CNA, a nonprofit research and analysis organization located in Arlington, Virginia
 8月24日、米連邦調査分析組織Center for Naval Analyses(CNA)の上席科学者David Knollは、米シンクタンクModern War Institute のウエブサイトに“STORY TELLING AND STRATEGY: HOW NARRATIVE IS CENTRAL TO GRAY ZONE WARFARE”と題する論説を寄稿した、その中で、①グレーゾーン戦として、2015年以降中国は、チベットだと主張している区域に3つの新しい村を築いたが、それは実際にはブータンに位置し、中国の目的は、ブータン北部で奪った土地を、より戦略的な場所に位置するインド北部国境沿いの土地と取引することである、②中国のブータン戦略の鍵となるのは、その領土が中国の一部であるという説明(ナラティブ:narrative)、又は少なくとも双方の主張に利点があるという説明を確立することである、③成功した説明は、グレーゾーン活動の日常性を強調し、最終的には認められる、又は競合する解釈となる、④グレーゾーンには4つの要素があり、1つ目は、その活動は、行為者や意図を隠蔽する曖昧な方法で行われ、国際社会が共通の説明を確立するのを妨げ、一部の国家やその内部の集団にとっては行動しない口実となる、⑤2つ目は、グレーゾーンの活動は激しくも抑制されている訳でもなく、通常の戦争には到らないが、日常的な国際関係よりも激しい競争を伴う、⑥3つ目として、グレーゾーン活動とは、通常の軍事的反応を引き起こす可能性が低い烈度や範囲で行われる活動である、⑦4つ目として、グレーゾーンでの個々の行動による影響が小さいが、それが集合すると戦略的な効果をもたらす、⑧米国への含意として、国家レベルでは、米国は信じがたい反証を突き崩し、「程良い」(Goldilocks)競争の本質を明らかにし、敵の累積的行動が戦略的な影響をもたらすことを説明することに力を注ぐべきである、⑨軍事レベルでは、第1に、米軍は敵国のグレーゾーン活動の言い逃れができないように、敵国の行動の証拠を集めるのに適した立場にある、⑩第2に、米軍は提携国や同盟国と関わり合い、敵国に合図を送り、米国の説明を強化し、敵の説明を弱体化する必要がある、⑪第3に、法の支配を支援するといった米国の説明を損なうような作戦が提案された場合、米軍の指導者はその作戦が戦略レベルの目標に対する危険であると考えなければならない、などの主張を述べている。