海洋安全保障情報旬報 2021年9月1日-9月10日

Contents

9月1日「新たな時代に向けたANZUSの再構築-オーストラリア専門家論説」(The Strategist, September 1, 2021)

 9月1日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、オーストラリアDepartment of Defenceの元戦略担当次官で現同Instituteのexecutive directorであるPeter Jenningsの” Reshaping ANZUS for a new strategic age”と題する論説を掲載し、ここでJenningsは9月末に開催される米豪の外務・防衛閣僚の年次会合において、オーストラリアはANZUS条約の将来について独自の構想を持ってワシントンに赴く必要があると、要旨以下のように述べている。
(1) 70年前の9月1日に締結されたANZUS条約のように同盟関係が長く続くことは珍しい。過去500年間の主要な63件の同盟のうち、40年以上続いたのはわずか10件である。その中には、NATO、ANZUS、日米同盟が含まれている。オーストラリアと米国の同盟関係が存続しているのは、それが両国の利益に適っているからで、強力な同盟関係は仲間意識ではなく、利益と相互の有用性に基づいている。アフガニスタンでの失敗から得られた明確な教訓は、米国は自助能力のない、あるいは自助に関心のない国を助けないということであり、これは、台湾、日本、韓国、オーストラリアに対する「防衛力を高めよ」という警告である。
(2) かつてNATOは、GDPの2%を防衛費に充てることを基準としていた。長年にわたる米国からの圧力がありながら、現在、NATO加盟国29カ国のうち、この基準を満たしているのはわずか10ヵ国に留まっている。しかし、オーストラリアは2%を超えている。好戦的な中国がアジア太平洋地域にもたらす課題を考えると、我々は防衛態勢を再考する必要がある。オーストラリアにとって同盟は不可欠で、国防費を2倍にしても、アジアにおける米国の展開が提供する抑止力には遠く及ばない。課題は、米国の関与を維持し、我々自身がより強くなることである。
(3) 米国は、オーストラリアから防衛上の価値を得ている。ワシントンは、オーストラリアに対して、太平洋島嶼国と東ティモールの安定化に向けた主導的な役割を期待している。さらに、東南アジアの安全保障の強力な構築者となることも望んでいる。どちらの場合も、この地域で増大する中国の影響力への対抗を意味する。米国がオーストラリアから得られる情報の価値は、パインギャップ(オーストラリア大陸中央付近:訳者注)に米豪の共同施設があることだけでなく、オーストラリアがアジア太平洋地域に関する重要な情報収集と洞察力を提供していることである。そして、戦闘準備ができているからこそ、オーストラリアは米国にとっての貴重な同盟国となっている。The Australian Defence Forceの規模は小さいが、特殊部隊から潜水艦、戦闘機に至るまで、優れた能力を保有している。その努力がワシントンへの影響力につながることを過小評価してはならない。
(4) 米国がオーストラリアを重視しているのは、その地理的条件にある。米国は、北アジアの一握りの脆弱な基地に縛られることなく、地域に広く分散できるようにするために、軍用基地ではない場所を必要としている。米国の孤立主義を防ぐ最良の方法は、我々がより強力な同盟国になることであり、さらには、米国のアジアへの関与の必要性を等しく持つ日本との連合によって、これを行うことである。
(5) 9月末にワシントンにおいて、オーストラリアの外務・防衛閣僚と米国の閣僚との年次会合が開催される。ANZUS条約は1951年、アジアの戦略が大きく変化していた時期に、オーストラリアの迅速な政策立案の結果として誕生した。通常の会合では、オーストラリアは同盟協力のための議題を推進しているが、今回の会議は、同盟を再構築する機会である。これに臨むPeter Dutton国防大臣とMarise Payne外務大臣へ対するJenningsのアドバイスは次とおりである。
a.オーストラリア北部にいる2,500人の米海兵隊を、航空兵力を含む7,500人規模の海兵隊部隊に引き上げること。その部隊には多くの船舶や航空機が必要となるが、短期的にそれらを収容できる場所はダーウィン港しかない。中国企業にダーウィン港を99年間譲渡したリース契約を破棄する時期に来ている。
b.オーストラリア北部に空軍と海軍の展開を拡大する計画を加速するよう、米国に要請すること。そして、使われなくなった遠隔の基地を早急に改修する必要がある。米国に期待するのではなく、自分たちで費用を負担すべきである。オーストラリアにおける米国の配備が大きくなれば、敵国が米国に圧力をかけようとする計画は複雑になる。この配備を、両国の主権が同等になるような合同軍にすることができる。米国の離反と中国の支配を同じように心配している隣国にとって、これほど心強いものはない。
c.オーストラリアでのミサイルの設計・製造・備蓄を共同で行う計画を前進させる必要がある。これを実現するには、政治指導者たちが早急に決定しなければならない。そうでなければ、議会がこの計画を打ち切る可能性がある。
d.ミサイル以外にも、極超音速兵器、量子コンピューター、陸海空の自律走行車などの共同プロジェクトを推進し、両国はアジア太平洋地域の脅威に対応するために、軍事力を近代化する必要がある。
(6) ここで必要なのは、スピード感、大きさ、スケール感である。標準的な防衛計画のままでは、10年間は何も起こらず、その間にアジアにおける戦略的優位性は失われる。オーストラリアは、ANZUS 条約の将来について独自の構想を持ってワシントンに赴く必要がある。これは、独自の構想に投資する意思と、時間のかかる検討を拒否する姿勢に裏打ちされたものである。そうすれば、アフガニスタン以降の米国の安全保障政策に勢いと目的を与え、わが国の国益を高めることができる。
記事参照:Reshaping ANZUS for a new strategic age

9月2日「海上自衛隊の補給艦が東シナ海でUS Coast Guard巡視船に補給―香港紙報道」(South China Morning Post, 2 Sep, 2021)

 9月2日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Japan’s supplies to US Coast Guard aimed at testing Beijing, observers say”と題する記事を掲載し、US Coast Guardの巡視船が、日本の補給艦から支援を受けたことと、それに対する中国の専門家の見解について、要旨以下のように報じている。
(1) 自衛隊の補給艦が、共同訓練中の米国の沿岸警備隊の巡視船に初めて洋上で補給を行ったことを日本は8月31日に明らかにした。これについて、中国の評論家は、中国に対抗するためのより緊密な協調と評した。補給艦「おうみ」は、8月の第4週、佐世保市にUS Coast Guard巡視船「マンロー」が寄港した後、乗組員の交流や海上法執行の訓練・演習を含む2日間の訓練中に、補給艦「おうみ」は東シナ海で「マンロー」に対し補給を実施した。「おうみ」の吉福俊彦艦長は、「(海上自衛隊の)補給艦がUS Coast Guardの巡視船に補給したのは初めてのことである。我々の相互運用性がさらに向上したと思う」と述べている。後方支援は日米間の長年にわたる協力分野であるが、最近の台湾海峡をめぐる緊張から、このような活動は中国では疑念をもたれていると、北京の軍事専門家である周晨明は述べている。
(2) 米海軍は、西太平洋において、計画されているよりも長く展開している艦艇を交代させるための十分な艦艇を持っておらず、自国のUS Coast Guardや同盟国の艦船を使用せざるを得なかったと周は言う。US Coast Guardの船艇は、海軍の艦艇に比べてミサイルや他の武器の搭載数が少なく、係争海域以外での哨戒や低強度の紛争に適していると周は述べている。一部の米軍艦艇は、中国の海洋の主権主張に間接的に異議を唱えるための航行の自由作戦など、様々な任務を遂行するために、東シナ海や南シナ海に数カ月間配備されている。
(3) 中国は日本の関与、特に日本が台湾問題でより積極的になることを警戒していると周は述べている。上海の海洋専門家である倪楽雄は、この地域の同盟国と行う米国の軍事演習は、中国が武力で台湾を奪おうとするのを抑止するために行われているとし、8月の第4週の補給協力は日米同盟の戦闘能力を高めるものだと述べた。
記事参照:Japan’s supplies to US Coast Guard aimed at testing Beijing, observers say

9月2日「中国海上交通法、南シナ海の緊張を激化させる―フィリピン専門家論説」(Asia Times.com, September 2, 2021)

 9月2日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、フィリピンthe Polytechnic Universityの地政学教員職にある、南シナ海問題専門家Richard J. Heydarianの “China’s foreign ship law stokes South China Sea tensions”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianは中国が9月1日から施行した「改正海上交通安全法」が南シナ海における緊張を激化させるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、北京が領有を主張する海域に入域する各種の外国籍船舶に対して航行の自由を意図的に規制する新たな海洋法規の施行によって、南シナ海に対する支配戦略を強化した。この法律、改正海上交通安全法(以下、MTSLと言う)は、南シナ海の係争海域における地政学的対決温度を上昇させ、中国を米国とその4カ国枠組みであるQUADの参加国インド、オーストラリア及び日本との新たな衝突針路に導きかねない。MTSLは石油タンカーや潜水艦を含む各種の船舶に対して中国人水先案内人の乗船を義務付けており、中国の9段線主張が南シナ海全域の3分の2以上を包摂していることから、中国が同法をどのように施行するつもりかについて新たな疑念を提起している。
(2) US Department of Defenseの報道官は、「国際法の下で全ての国が享受している権利を侵害する」と警告し、MTSLを南シナ海の航行と通商の自由に対する「深刻な脅威」として、「米国は、如何なる沿岸国の法律や規制も、国際法の下で全ての国が享受している航行と上空飛行の自由の権利を侵害してはならないと確信している」と述べ、さらに「南シナ海の事例を含む、違法で包括的な海洋主張は、航行と上空飛行の自由、自由貿易と妨害されない合法的通商、そして南シナ海やその他の沿岸諸国の権利と利益を含む、海洋の自由に対する深刻な脅威をもたらす」と強調した。8月末に東南アジア訪問中のHarris米副大統領は、「南シナ海の大部分に対する」中国の広範な海洋主張を「違法」と批判し、この海域における北京の「高圧的」行動に対して同盟国や域内の提携国諸国に味方すると言明した。さらに、副大統領は米国と他の主要なインド太平洋諸国間の協力体制の強化はこの地域における自由で開かれた秩序を維持するために不可欠であると強調した。
(3) 北京が南シナ海などで前例のない頻度で海軍演習を続けているのに対して、ワシントンとそのQUAD参加国も対抗措置を採りつつある。中国がMTSLを施行する数日前、QUAD参加国の海軍は8月26日~29日までグアム沖で共同演習を実施し、中国に対して力を誇示した。この演習では、日本の海上自衛隊が特殊部隊、対潜ヘリコプター、哨戒機、機雷敷設艦及び3隻の護衛艦を派遣し、米海軍も同様に特殊部隊、3隻の駆逐艦、対潜ヘリコプター、P-8哨戒機を派遣した。オーストラリアは特殊部隊、対潜ヘリコプター、フリゲート1隻を派遣した。こうした演習は、外交に裏打ちされている。Biden米大統領と政府高官は、1月の政権発足以来、インド太平洋全域の主要な交渉相手と複数回のオンラインと対面の会談を行ってきた。QUAD各国の政府高官は8月中旬に、QUADの新たな目的を明確にし、世界的な安全保障問題に対する協力を強化し、中国の威嚇的行動に対抗する具体的な方策を検討するために、オンライン会議を開催した。ワシントンによれば、この会議の目的は、「インド太平洋における威嚇的行動に対して脆弱な国々」を支援する多国間機構を強化することであった。日本の外務省は、より広範な「地域の平和と繁栄に対する展望と、コロナ後の世界におけるQUADの重要性が高まっている」として、会議を歓迎した。
(4) 近年、中国がますます強引な外交政策を展開するとともに、隣接海域における海軍力の誇示を強めている状況下で、QUADは一時の停滞から脱し、再び活性化してきた。現在では、オーストラリアに加えて、フランス、イギリス、ドイツを含むインド太平洋の有志諸国は、南シナ海と西太平洋における戦略的、軍事的協力を強化してきた。中国は、最近のグアム沖でのQUADによるMalabar海軍演習などの各種演習に対して、中国の台頭を「封じ込める」努力として厳しく非難してきた。それでも、QUADは、数カ月から数年先に向けて防衛、戦略協力を一層拡大する予定である。オーストラリアは、2023年のThe Exercise Talisman Sabreにインドを正式に招待する。インド海軍は最近、ミサイルフリゲート、対潜コルベット、ミサイル駆逐艦及びミサイルコルベットをQUAD演習のために西太平洋に派遣したが、これについてインド海軍は声明で、「インド海軍艦艇の展開は、海洋領域における良好な秩序を確保し、インドとインド太平洋諸国との間の既存の絆を強化するために、友好的な諸国とともに、作戦行動範囲、平和的展開そして連帯を強化しようとするものである」と強調している。また、声明によれば、海軍部隊は、インドネシア、オーストラリア、シンガポール、ベトナム及びフィリピンの各国に友好訪問するとともに、当該各国海軍と合同演習を実施する計画である。
記事参照:China’s foreign ship law stokes South China Sea tensions

9月2日「米軍のアフガン撤退が東アジア情勢に及ぼす影響―米アジア太平洋専門家論説」(Real Clear Defense, September 2, 2021)

 9月2日付の米軍事、国防関連ニュースサイトReal Clear Defenseは、米保守系シンクタンクHudson Instituteのアジア太平洋安全保障議長Patrick M. Croninの“The Afghan Effect: U.S. Afghan Withdrawal To Accelerate Alliance Change”と題する論説を掲載し、そこでCroninは米軍のアフガニスタン撤退が東アジア情勢に長期的にもたらす影響として同盟関係の変容と軍備競争の激化を挙げ、要旨以下のように述べている。
(1) アフガニスタンから米軍が撤退するという決定は、米国の信頼性を損なわせるものではあったが、それはいつかは下されなければならない決定であった。考察されるべきは、それが今後、朝鮮半島情勢に長期的な影響を及ぼすかもしれないということである。いわゆる「アフガニスタン効果」は、朝鮮半島をめぐる同盟の変容、ないし地域の軍備競争を加速させるであろう。
(2) アフガニスタンでの戦争は、国際テロ組織の弱体化という達成可能な目標ではなく、新たな国家建設という遠大な目標を掲げていたことで、史上最長の戦争となった。いつしか米国の目標は弱体な政府が転覆されないようにすることになり、米軍の撤退によって政権は崩壊した。
(3) アフガニスタンの政権崩壊の速度は、韓国などの同盟国を恐怖させたかもしれない。しかし、アフガニスタンと韓国は違う。もし米国が朝鮮半島から全軍を撤退させたとしても韓国は持ちこたえるであろうが、米韓統合軍司令部がなければ、北朝鮮は奇襲をしかけるかもしれない。米軍の存在は、朝鮮半島における誤算の可能性を大幅に減らし、平和的秩序の維持に大きく貢献している。
(3) アフガニスタン効果の第1の側面は、米韓同盟のあり方の変容が加速することである。アフガニスタン政権の崩壊によって、韓国は抑止力強化のために自衛能力の向上を目指すようになるであろう。そして韓国軍の強化は、戦時作戦統制権の移譲の条件に近づくことを意味する。戦時作戦統制権の移譲における重要な問題は、どのような時期にというより、有事の際に対処する能力があるかどうかである。そして、地域全体の平和と安定の維持に対して、韓国が果たすべき役割がより大きくなるであろう。
(4) アフガニスタン効果の第2の側面は、北東アジアがなお、最先端の軍事力が相争う舞台だということである。中国は近年、軍備拡張を進め、米本土を危険にさらしつつ、北東アジアおよびその周辺の米国の同盟国に対して大規模な精密攻撃を行えるだけのミサイルを配備している。海軍の配備拡大によって、黄海や済州海峡などにおいて韓国の主権を脅かすこともできる。ロシアはPutin大統領の主導で戦略兵器への大規模投資を行い、北朝鮮もまた核兵器やミサイル兵器の増強を進めている。
(5) 民主主義の同盟国も事実上、ミサイル競争に積極的に参加している。米国は分散配備した抗堪性のある長距離精密攻撃兵器を増強し、オーストラリアは大規模ミサイル計画に着手し、日本も抑止力強化のための攻撃能力の拡大を模索している。また米国は、韓国のミサイルの射程を制限していた指針を撤廃し、無誘導爆弾を精密誘導兵器へと変容させる統合直接攻撃弾(JDAM)の大量売却を進めてきた。
(6) アフガニスタン効果は、この傾向をさらに助長する可能性がある。北朝鮮は軍備管理に一切の関心を見せず、中国もまた東アジアから米国を追い払う機会をうかがっている。軍拡の激しさの危険性を指摘する声もあるだろうが、競争の速度に追い付いていかないことにも危険が伴う。民主主義諸国は、全面的な軍事作戦を遂行できることを証明し続ける必要がある。それには、8月の机上演習だけでは十分ではない。Covid-19の世界的感染拡大は大きな制約となっているが、大規模な実動演習を行う必要もある。
(7) アフガニスタン効果の波及は避けがたいかもしれないが、そこから多くの利点が生まれるかもしれない。韓国軍の強化は韓国にとっても米韓同盟にとっても有益である。北朝鮮は、中国への依存の代償は大きすぎると考えるかもしれない。最終的に米国は、北東アジアとインド太平洋に焦点を当てつつ、複雑な課題を世界規模で対処するための信頼性と能力を高めることができるかもしれない。
記事参照:The Afghan Effect: U.S. Afghan Withdrawal To Accelerate Alliance Change

9月3日「台湾はアフガニスタンではない-米専門家論説」(China US Focus, Sep 03, 2021)

 9月3日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、米シンクタンクThe Cato Institute上席研究員Ted Galen Carpenterの“Taiwan Is Not Afghanistan”と題する論説を掲載し、Ted Galen Carpenterは米国のアフガニスタンからの撤退が同国の対外政策の誓約に対する信頼性に致命的な打撃を及ぼすと考えられており、中国はこの機に台湾に対し外交的、軍事的圧力を強めているが、米国にとって周縁のアフガニスタンと台湾とではその重みは大きく異なり、台湾から撤退することはなく、中国指導部の見方は幻想に過ぎないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 混乱の中での米国の撤退は、ワシントンの他の対外政策の誓約の耐久性と信頼性について世界中で憶測を呼んでいる。米国や一部の同盟国では米国の信用が致命的な打撃を受けたとして懸念が広がっている。ロシアや中華人民共和国(以下、中国と言う)を始め、米政府が敵対者と見なす国々でも同様の結論を表明している。中国と米国における熱心な台湾支持者の双方でますます一般化しつつある議題は、台湾を守るという米国の暗黙の誓約が今や重大な疑念となってきていることである。台北の米国の友人達は、アフガニスタンの大失敗が北京を大胆にし、台湾に対して外交的、軍事的圧力を強めるだろうと警告している。台湾の指導者に独立を放棄し、再統一への真剣な交渉を行うように圧力をかけるという中国の目標は、Biden政権のアフガニスタンでの無謀さのおかげで実現が可能になってきた。American Enterprise Institute 研究員Michael Rubinは、台北はもはや米国の保護が期待できないので、自由を維持したいのであれば核兵器を保有するしかないとさえ主張している。
(2) 中国国営メディアは、米国のアフガニスタンからの撤退について同様の見解を示している。中国国営メディアは、危機時に台北は米国の継続的な支援を期待することはできず、北京と再統一について合理的な協定を結ぶことが台湾にとって最良の、そして唯一可能な選択肢であると警告している。「環球時報」は民進党に対し、「アフガニスタンで起こったことから一度戦争が台湾海峡で起これば、台湾の防衛力は数時間で崩壊し、米軍は来援しないと民進党は認識すべきである」と釘を刺している。上述のような分析は、米国が支援したアフガニスタン政府がそうであったように、台湾政府も一般の支持を得られていないとして、そのような正統性のない政権は、Ashraf Ghani政府と同じように北京が十分な圧力をかければ、速やかに、かつ完全に崩壊するだろうと主張している。
(3) 台湾とアフガニスタンを比較することは見当違いであるだけでなく、本質的に非常に危険である。中国の指導者はそのような幻想に陥ることを避けなければならない。第1に、米国にとって台湾はアフガニスタンよりもはるかに重要である。アフガニスタンからの撤退が米国の世界的な安全保障上の誓約全てを不確実なものにしたという考えは全くの誤りである。一部の利益と誓約は明らかに他のものよりも中心的なものである。米国にとって周縁的な重要性しかない地域での報いの得られない事業を米国が終了したからといって、重要な利益のある地域で脅威が発生した場合に米国の指導者が無関心のままであることを意味しない。日本、韓国、台湾はワシントンにとって最優先される国々である。第2に、政治的実体であり、軍事的行為主体である台湾はアフガニスタンとはおよそ比較にはならない。台湾は近代的で、明確なアイデンティティを持つ結束した社会である。社会の大多数は中国に吸収されることに反対している。
(4) 台湾とアフガニスタンの決定的な相違は、2つの重要な結論を導き出す。アフガニスタンにおける現実から遊離した国造りから遅ればせながら撤退したように台北との関係から離脱することはほとんどあり得ない。もし、中国が台湾の事実上の独立に対し、軍事的に挑戦してくれば、ワシントンは間違いなく最大限の海空軍力を西太平洋に展開し、対応するだろう。その結果は恐ろしい破壊を伴う米中の戦争であり、誰にとっても利益とならない。さらに、台湾は中国の攻撃に対し熾烈な対応をするだろう。台湾指導層は、アフガニスタンのような崩壊が起こるという考えを当然のことながらあざ笑っている。台湾住民の間では台湾人というアイデンティティの高まりが、1党支配の共産主義国に吸収されることに抵抗する決意とともに持続する断固とした抵抗を掻き立てるだろう。台湾の軍と政府がアフガニスタンのように崩壊するだろうという中国指導部の考えは、希望的観測とアフガニスタンの状況と台湾の状況の決定的な違いを理解できていないことに由来する幻想である。米国で様々に警告している人達は、Biden政権がアフガニスタンの泥沼から米国を開放するという決定は台湾を放棄するものだという主張を止めるべきである。さらに重要なことは、中国は米国が台湾への誓約から撤退し、国内の支持を得られていない米国の傀儡である台湾政府がカードの家のように崩壊するという一対の空想の産物にふけることを止めなければならない。そのような空想にふけることは非常に醜い、現実世界の結果をもたらすだろう。
記事参照:Taiwan Is Not Afghanistan

9月5日「中台間の緊張に関わりを深める日本―米専門家論説」(East Asia Forum, 5 September 2021)

 9月5日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物East Asia Forumは、米The Council on Foreign Relations上席研究員Sheila A Smithの“Japan leans forward on China–Taiwan tensions”と題する論説を掲載し、Sheila A Smithは近年、日米首脳会談共同声明、麻生発言に見られるように日本が台湾への関わりを深めているが、その結果は重大であり、中国の台湾への武力行使を抑止するために、日本は外交的な連合を構築する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 今日、中国が隣国との関係に影響をもたらすはるかに多い軍事力を保有しており、人民解放軍による台湾への圧力を強めていることはワシントンや東京に、北京の意図についての懸念を抱かせている。2021年3月の日米安全保障協議委員会(日米2+2)における共同声明で明らかなように、日米同盟にとって中国は今や最優先事項である。4月の日米首脳会談における声明はアジア太平洋における緊張の高まりに対する共通の懸念を表明している。日本に選択肢はないであろうが、台湾海峡における紛争の場合における自国防衛に備えるだろう。台湾は地理的に日本に近く、台湾における紛争の可能性は自衛隊にとって重大な関心事である。さらに、沖縄は相当程度の米軍を受け入れており、台湾防衛を支援する米国の展開地となるだろう。7月5日の麻生発言は、紛争時に自衛隊の他国軍との共同への基盤を定めた安全保障関連法に合致するものである。
(2) しかし、東京の台湾に関する意思決定の結果は重大である。中国は依然、日本の最大の貿易相手国の1つであり、人民解放軍は日本周辺の海空域で定期的に行動している。地域における軍事上の均衡は中国優位に変わってきつつある。尖閣諸島をめぐる日中の衝突は、領有の主張を補強するために海軍、海警両方の海上部隊を使用する意思であることを示している。
(3) 台湾に対する中国の軍事行動は、米国の軍事的対応を引き起こすだろう。多くの専門家は台湾に対する直接的な攻撃から中国が得るものは少ないと主張する。人民解放軍の台湾への攻撃に対する米国の対応はその脅威の質に応じて調整されるだろう。中国の台湾に対する圧力はグレーゾーン戦術あるいはサイバー攻撃として発現するかもしれない。どちらも台湾の経済的活力と領域保全にこれまでにない問題を引き起こすだろう。
(4) 米中衝突の烈度とは関係なく、東京は事態対応に自衛隊、米軍がいかに協力するかという難しい意思決定に直面するだろう。日本の役割は明らかに次の2つである。第1に、日本は米国の作戦支援を求められるだろう。第2に、自衛隊は紛争の間、日本の領域をいかに守るかを考える必要がある。驚くことではないが、日本における意見は分かれている。台湾に対して中国が軍事力を行使した場合には、日本は米国とともに役割を果たすべきであると考えている人達がいる。日本の政治指導者、政権与党の自民党の中でさえ、次にどのような段階を踏むのか定かではない。菅総理は、麻生副総理より慎重な姿勢を取ってきている。台湾海峡および日本領域周辺における中国の行動の評価を日米が完全に共有していることは無視することができない。しかし、目下の政治が同盟への準備に必要なものを第1に考えるように注意しなければならない。
(5) 同盟の協議は年末までに進展するだろう。そして、日本は3つの領域で選択肢を準備しなければならない。第1に、台湾の不測事態においてどの基地、施設を米軍が利用可能なのか、第2にどの優先順位、共同軍事行動の原則を適用するのか、第3に危機時における共同対応において自衛隊は何を提供することが求められるかである。言うまでもなく、危機の回避が東京にとって最良の取り組みである。中国が軍事力を行使する可能性の抑止に加えて、日本の強点は米国のものと同じようにそのような危機を抑止する戦略の内にある。ここに多くの日本の選択肢がある。台湾の自治を確保する目的の外交上の連合構築の重要な戦略は日本の意図を発信するのに大いに役立つだろう。日本は台北の政府を公に支援することを独自に実証してみせることを考慮し、国際的支援を台湾が必要としていることを同じように認める外交上の連合を構築しなければならない。日本は中国と深い経済的つながりを持っているかもしれない。しかし、そのことが台湾企業との交易、投資関係の強化を妨げるものではない。日台貿易は日中貿易の約十分の一であり、成長の道を追求すべきである。
(6) 台湾本島に住む2,400万人の人々は、その民主主義と自治のために日本の支援の強点を与えられるべきである。東京は、台北と共有する利益、長年にわたる友誼について率直に、留保を付けることなく話すことができる。日本の次世代と近隣諸国との関係は強化することが可能である。日米台によって始められたグローバル協力訓練枠組み(The Global Cooperation and Training Framework)は、台湾の人々が繁栄し、安全の将来を楽しみにし続けることができることを確実にする構想の良い見本である。
記事参照:Japan leans forward on China–Taiwan tensions

9月6日「アフガニスタンにおける米中協調の必要性―中国専門家論説」(China US Focus, September 6, 2021)

 9月6日付の香港China-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focus は、上海社会科学院中国学所研究員の王震の“U.S. Needs China’s Help in Afghanistan”と題する論説を掲載し、そこで王震は米軍撤退後のアフガニスタンの平和と安定の回復のために米国だけでできることには限界があり、中国との協調が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 8月26日、カブールで起きた連続自爆テロによって180人の死者が出た。そのうちの13人が米兵であった。この事件が明らかにしたのは、タリバン復権後のアフガニスタンが平穏からは程遠い状況にあるということである。アフガニスタンに関する限り、他国との協調、とりわけ強力な隣国である中国との協調が必要である。
(2) 第1に、Biden政権がアフガニスタンに関して抱える問題は、まさにそこから撤退したがゆえに今後も続くであろう。Biden政権はこの決定に関して内外から批判を受け、政権の支持率は50%を割った。2022年の中間選挙が近づくなかで、民主党政権に対する圧力は今後も強まると考えられる。アフガニスタン国内は今後も分断されたままだろうし、深刻な人道危機や大規模テロがいつ起きてもおかしくない。そうなれば米国のソフトパワーは損なわれるであろうが、米軍が撤退した今、Biden政権が直接介入できる余地は小さい。
(3) 第2に、米軍すべてがアフガニスタンから撤退したとしても、米国がアフガニスタン問題において完全な第三者になることはできない。政治的に、もしアフガニスタンが真に包括的な政府を形成できなければ、それは地域的な紛争に発展する可能性を秘めており、したがって米国の提携国にとって脅威となり得る。経済的に、米国がタリバンへの制裁を継続するのであれば、アフガニスタンの経済は破綻するかもしれない。テロとの戦いに関して、タリバンが米国と結んできた約束を守る意思と能力を持つかどうかも不透明である。
(4) こうした状況において、米国は中国とウィンウィンの協力関係を築けるはずである。中国はアフガニスタンの安定に利害を有し、アフガニスタンの平和的な再建を促進する資源と意図の双方を持つ数少ない国の1つである。米中の戦略的対立にかかわらず、アフガニスタン問題に関して米中は真の提携者になることができよう。
(5) しかし、アフガニスタンに関する米中の協調関係は自動的に成立するものではなく、双方の努力が必要である。Biden政権は、アフガニスタン問題について中国が信頼に足る提携国であることを理解し、中国に対して協力する意図があることを示さねばならない。テロリズム問題などに関してダブルスタンダードを維持しながら、中国との協力を引き出せると考えてはならない。米国にとって競合しつつ協力するのはありえるのかもしれないが、中国がそれを受け入れる可能性は小さい。
(6) 中国の側も、アフガニスタン問題に関してはできる限りのことをすべきだろう。これまで、中国は外国の国内問題に足しては不干渉を貫いてきたが、適切な介入によって、自国にとっての利益を促進することができるはずである。さらに、米中間の協力はアフガニスタンの平和と安定での維持だけではなく、地域の発展および人類の平和に大きく貢献するであろう。
記事参照:U.S. Needs China’s Help in Afghanistan

9月7日「トルコ、イラン、パキスタンがアフガニスタン難民の入国規制を強化―日経済紙報道」(NIKKEI ASIA, Sep 7, 2021)

 9月7日付の日経英文メディアNIKKEI ASIA電子版は、” Turkey, Iran and Pakistan raise entry bars for Afghan refugees”と題する記事を掲載し、アフガニスタンからの難民を受け入れる国はわずかで、近隣各国が難民の流入を阻止しようとする中で現実的に流入が続く各国の様子について、要旨以下のように報じている。
(1) タリバンによるアフガニスタンの占領は、予想される難民の流入を食い止めるために、地域内外の国々が厳しい措置を取るきっかけとなった。パキスタン、トルコ、イラン各国政府は、カブールの新政権から何十万人もの人々が逃げ出すことを想定して、国境規制を強化している。このような行動や欧米諸国による抑制策は、アフガニスタン難民に対する国際的な同情と現場との間に生じている緊張感を浮き彫りにしている。各国政府は、難民の流出が始まり、過去に流入した難民が引き起こした政治的・社会的問題を悪化させるのではないかと懸念している。この問題の渦中にいるのは、家族を連れて国境を越え、さらに遠くへ行くためにイランに逃れてきたアフガニスタン人である。
(2) 10年以上前にイランに来たAzizは、アフガニスタンにいる家族の安全を心配している。しかし、家族が無事に国境を越えて合流できるかどうかはわからない。イランで市民権を得ているこの男性は、NIKKEI Asiaの取材に対し、「タリバンは民間人を殺し、力ずくで財産を奪う。誰も安全ではない。」と語っている。また、大学で教育を受けた繊維労働者のAbdollahは、アフガニスタンとパキスタンの国境で業者に金を支払いイランに入国した。そして、彼はトルコにたどり着き、亡命を果たし、アフガニスタンの都市ヘラートにいる妻と3人の子供の亡命を求めたいと考えている。
(3) AzizとAbdollahは、この地域の政府が排除したいと考えている人物である。トルコは、アフガニスタンとはイランを挟んで2,000kmもの距離があるにもかかわらず、彼らのような存在を最も危惧している国の1つである。トルコはすでに400万人以上の難民を受け入れている。そのうち360万人は隣国シリアの戦争によるもので、これ以上の難民を受け入れたくないと考えている。アンカラは、2017年に建設を開始したイランとの560kmに及ぶ国境の一部に建設されている高さ3mの壁を強化している。計画では、壁の全長を約155kmから242kmに延長し、深い溝やカミソリのようなワイヤー、赤外線カメラ、追加の兵士で補うことになっている。トルコは壁の建設経験があり、シリアとの国境911kmのうち837kmを完成させている。タリバンがカブールを占領した8月15日、Recep Tayyip Erdogan大統領は「トルコでは、イラン経由でやってくるアフガン移民の波がますます激しくなっている」と述べている。
(4) 難民の流入を避けようとしているのは、トルコだけではない。テヘランの新聞によると、イランはアフガニスタンとの国境を封鎖し、難民を追い返した。パキスタンの軍隊は、アフガニスタンからの不法な越境をすべて阻止したと主張しているが、国内メディアは国境を越えた人身売買の増加を報じている。トルコのように、大量の難民を受け入れることで、国内で反発を招くケースもあり、さらに、COVID-19で経済的に打撃を受けている国にとって、難民の増加は、国や救済機関にとって大きな負担となっている。タリバンがすべてのアフガニスタン人の流出を阻止しようとしない限り、米国のアフガニスタンへの関与が終わると、1980年代にソ連に占領されていたときに何百万人もの難民を生み出した国から、さらに多くの難民が生まれることになる。
(5) 国連難民高等弁務官のFilippo Grandiは8月30日、「大きな人道的危機が始まったばかり」と述べた。Office of U.N. High Commissioner for Refugees(国連難民高等弁務官事務所:以下、UNHCRと言う)は、本年中に最大50万人のアフガニスタン人が逃亡する可能性があると予測しており、同氏は国境を開放し、多くの国が難民救済のための人道的責任を共有することを求めている。イランとパキスタンには、すでに220万人のアフガニスタン人が登録されている。特にイランは、世界的感染拡大の影響で危機的な状況にあるため支援を必要としているとGrandiは述べた。
(6) 公式には確認されていないが、テヘランのメディアが報じたところによると、シーア派が大多数を占めるイランは、タリバンがアフガニスタンの少数派であるとは言え、イランの全人口に匹敵するシーア派を殺さないと約束する代わりに、スンニ派が多数を占めるアフガニスタンとの国境を閉鎖することで合意したという。しかし、国境が閉鎖されたとしても、トルコに入国してヨーロッパへの亡命を希望するアフガニスタン人がイランに流入する可能性は残る。
(7) パキスタンもまた、米国からの受け入れ要請を断ったにもかかわらず、難民の数が増えることになる。タリバンに近いとされるイスラマバードは、数百万人の難民に加えて、さらに多くの難民を維持するための費用を負担できないとしている。しかし、ビザの有無にかかわらず、何千人ものアフガニスタン人が国境を越えている。パキスタンの国境管理局の関係者によると、日曜日だけで約8,000人のアフガニスタン人、それはビザや国民IDカードを持っているアフガニスタン人、以前にパキスタン政府に難民として登録された人が渡れるチャマン・クロッシング(国境にある交差点の名称:訳者注)を通ってパキスタンに入国したという。
(8) アフガニスタンに関心を持つこの地域のいくつかの国は、限定的かつ短期的な支援を提供している。アラブ首長国連邦は、カタール、サウジアラビアとともにアフガニスタンの平和と政治的安定を求めており、米国の要請を受けて、第3国に避難する5,000人のアフガニスタン人を一時的に受け入れることに合意した。
(9) 過去20年間、アフガニスタンの再建に関わってきたもう1つの国がインドで、昔から1万5千人以上のアフガニスタン難民を受け入れている。2021年3月現在、UNHCRインドに登録されている難民・亡命者は合計41,315人で、そのうちアフガニスタン人は37%と、ミャンマー出身者の54%に次いで2番目に多い。ニューデリーは、アフガニスタンの少数民族であるヒンドゥー教徒とシーク教徒のインドへの渡航を支援すると同時に、相互開発、教育、人的交流等で貢献のあった多くのアフガニスタン人を支援すると、8月16日の外務省の声明で述べている。ただし、ヒンドゥー教徒とシーク教徒のほとんどは米国や西欧諸国に亡命を望み、インドに長く滞在することを望んでいないので、インドは入国を優先しているという分析もある。
(10) 他の国が新しい家を提供してくれず、難民がアフガニスタンに帰れなくなった場合、難民の一時的な滞在が準永久的なものになってしまう懸念がある。トルコにいる400万人近いシリア人は、EUへの踏み台になると期待していた人もいたが、行き場のない難民の一例である。ヨーロッパの指導者たちは、2015年に100万人以上のシリア人がトルコから入国した時のように、難民が大量に流れ着くことを警戒している。その結果、EUはトルコとの間で締結していた60億ユーロ(71億ドル)の契約を打ち切り、ヨーロッパへの非正規移民の流入を制限することになった。
(11) EUは、アフガニスタンで差し迫った危険にさらされている人々を見捨てることはできないとしながらも、内務大臣らは先週の声明で、EU加盟27ヵ国が「過去に直面した無秩序な大規模不法移民の動きの再発を防ぐために、協調的かつ秩序ある対応を準備することで、共同で行動する決意を固めた」と述べた。
(12) トルコでは、COVID-19の影響でインフレ率が20%近くに達し、失業率が22%に達するなど経済が低迷する中、移民排斥の動きが強まっており、難民問題がErdogan大統領を圧迫している。主要野党である共和党議長のKemal Kilicdarogluは、同党が政権を取った場合、「難民問題を2年で解決する」と公言している。2023年6月には大統領選挙と議会選挙が予定されているが、最近の世論調査でErdogan大統領とその党の支持率は過去最低となっており、政府にとって非常に難しい状況となっている。
(13) Suleyman Soylu内務大臣が8月25日にアルジャジーラのテレビ・チャンネルで次のように語っている。
a.トルコは過去3年間で125万人の不法移民の入国を阻止した。
b.2016年以降、アンカラは40万人のアフガニスタン人を捕まえ、そのうち15万1,000人は空路で国に戻した。
c.8万人が国際保護を受けてトルコに滞在し、さらに2万人が居住許可を得た。残りは不法に海外に行った。
(14) Erdogan大統領は、野党が最大150万人と見積もっているのに反して、30万人のアフガン人しか受け入れていないと述べている。また、Mevlut Cavusoglu外相はアフガン難民について、2015年のシリア人に関する協定のような協定をアンカラとEUが結ぶことができるかどうかについて、「これは我々が一緒に取り組むべき共通の課題だ」と答えた。さらに彼は「トルコに何かを求めるだけでは問題は解決しない。トルコは新たな難民の波を肩代わりすることはできない。」と述べており、同日、Erdogan大統領はテレビ番組で、トルコには 「ヨーロッパの難民倉庫になる義務も責任もない」と語っている。
記事参照:Turkey, Iran and Pakistan raise entry bars for Afghan refugees

9月7日「中国は東シナ海に『長城』を建設するだろうか?―日インド太平洋専門家論説」(9dashline.com, September 7, 2021)

 9月7日付の、インド太平洋関連インターネットメディア9dashline.comは、米シンクタンクThe Hudson Institute研究員長尾賢の“WILL CHINA BUILD A “GREAT WALL” IN THE EAST CHINA SEA?”と題する論説を掲載し、そこで長尾は中国による東シナ海の要塞化について、その利点および中国がそれに本格的に着手しない理由について、要旨以下のように述べている。
(1) 2013年に中国が南シナ海で人工島の建設を始めたとき、東シナ海でも同様のことが起きると警告されていた。同じ2013年に中国は東シナ海上空に防空識別圏を設定する意図があると発表し、同海域の石油リグの上にレーダーを設置した。もし、中国がこのレーダーのネットワークと航空機を連結させれば、南シナ海だけでなく東シナ海もまた中国の次なる「長城」へと変貌するかもしれない。
(2) 防空識別圏設定の宣言にもかかわらず、中国は東シナ海での活動に全力を尽くしてきたわけではなかった。しかし2021年になって、中国が尖閣諸島周辺に人工島を建設する計画を立てているという報道がなされた。2万人が収容可能な大きさであるらしいが、それはおそらく軍事基地であろう。ここで3つの問題が提起される。1つは、中国が東シナ海を要塞化したい理由は何か、第2に、中国がまだ公式にはこの計画に着手していない理由は何か、第3に、将来何が起こるのか、ということである。
(3) 東シナ海の要塞化は、中国に3つの安全保障上の利益をもたらす。第1に、それによって、中国の経済発展の原動力となっている沿岸諸都市を防衛することができる。中国は周辺海域から外国勢力を追い払うために南シナ海を要塞化してきたのであるが、東シナ海の要塞化なしに沿岸部の防衛は完全には達成されない。第2に、外国勢力による東シナ海と南シナ海の利用を拒否することによって、台湾により大きな圧力をかけることが可能になる。第3に、東シナ海の要塞化によって中国は日本の南西諸島に軍事的圧力をかけることができるようになる。中国は台湾侵攻に際して同諸島の米軍の駐留部隊を懸念している。
(4) これら多くの利点にもかかわらず中国がなお公式にこの事業に着手していない理由として、中国がそれを実行に移せる能力を欠いている可能性がある。東シナ海は南シナ海よりも深く、尖閣諸島以外に人工島を建設するための島や環礁がない。加えて、南シナ海において存在する力の真空状態が存在しないのである。日本の航空戦力は、尖閣諸島周辺の領空に侵入しようとする中国人民解放軍空軍の軍用機の活動を妨害する行動能力を有している。
(5) 現時点で中国が東シナ海を要塞化する能力を欠いているのかもしれないが、今後はどうなるのか。Stockholm International Peace Research Instituteによれば、2011年から20年にかけて中国は軍事支出を76%も増やしたが、日本のそれは2.4%増にとどまっている。この傾向が続けば、東シナ海に対する中国の圧力は強まるかもしれない。しかしながら、中国の挑発的行動ゆえに、日米と台湾の間の協力が昨今劇的に深まっている。2020年の防衛白書において、台湾の安全については「中国」に関する節で触れられたが、2021年版では「台湾」に関する独立した節が設けられた。このように、中国が行動を拡大させればさせるほど、日米台の安全保障協力が制度化されていき、そのことが中国による東シナ海の「長城」建設を困難にするであろう。
記事参照:WILL CHINA BUILD A “GREAT WALL” IN THE EAST CHINA SEA?

9月8日「ロシアの北洋艦隊は自動C2システムと極超音速攻撃システムを統合する―米専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, September 8, 2021)

 9月8日付の米The Jamestown Foundationのデジタル誌Eurasia Daily Monitor のウエブサイトは、同Foundationの上席研究員でロシアと中央アジアの防衛、安全保障問題の専門家Roger N. McDermott の“Russia’s Northern Fleet Integrates Automated C2 and Hypersonic Strike”と題する論説を掲載し、Roger N. McDermottはロシア軍は北洋艦隊演習と西部軍管区戦略演習(ザパッド2021)において、さまざまなC4ISRシステムと最新の極超音速巡航ミサイルTsirkon 3M22を含む既存の極超音速システムの統合の試験を行うことによって攻撃能力を著しく向上させており、それは米軍にとっても大きな脅威となるであろうとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年8月上旬ロシア北洋艦隊は大西洋北東部で大規模な海軍演習を行い、再びTsirkon 3M22極超音速巡航ミサイルシステムを試験した。Tsirkon 3M22は2022年に水上艦と潜水艦のため調達される予定である。しかし、この演習はTsirkon 3M22を試験しただけでなく、海軍の新しい自動管制システム(以下、ASUと言う)の革新的な試験を行った。ASU と極超音速巡航ミサイルシステムのこの結合はロシアの海洋攻撃能力と非探知撃ちっぱなし攻撃能力の急激な向上をもたらす結果となった。
(2) 北洋艦隊の演習は敵の海上交通に対する同時模擬攻撃を円滑にするため、新しいASUの試験に焦点を当てていた。ミサイル発射は原子力潜水艦「オレル」、巡洋艦「マーシャル・ウスチーノフ」、フリゲート艦「アドミラル・フロータ・カスタノフ」が行った。
(3) Tu-142偵察対潜機の2機の搭乗員は、仮想敵に関するデータを(水上部隊)指揮官に転送し、数百km離れた目標に向けミサイルを発射した。ASUは、指揮統制を情報、監視、偵察(以下、ISRと言う)の過程に統合し、標的に対する照準、攻撃を即時に実施する能力を提供した。ASUは、航空機からISRデータを受信するだけでなく、地上レーダー、衛星、無人航空機(UAV)を利用したデータを受信する。また、ASUはTsirkon 3M-22の使用における意思決定速度を高める能力を提供し、Tsirkon 3M-22をKalibr、Vulkan、Yakhontなど他の精密打撃システムと同様に機能させている。Tu-142航空機は指揮所と攻撃予定目標の両方から数百km離れて飛行し、敵の位置情報を送信した。一方、ロシア国防省筋によると、ASU自体が最も重要な目標を特定し、それらを破壊する方法を「決定」した。ロシアの軍事専門家は、このASUの開発は射撃能力、標的探知の速度、海上目標破壊能力を大幅に強化し、ロシア海軍の能力を明らかに向上させていると考えている。
(4) ロシアMinistry of Defense(国防省)当局者は、海軍のASU使用における革新的な部分は、目標探知と同時に標的選択にシステムが関与したことにあると述べている。実際、この演習の実施に関する報告は、演習においてASU自体が目標を「選択」すると同時にASUを通して様々な兵力がまとめられたことから、この演習の実施報告はASUが人工知能(AI)の役割を持つことを強く暗示している。ASUは、主にTsirkon 3M22とともに使用するために設計されている。その2つのシステムは非常に強力な組み合わせとなる。Tsirkon 3M22の試験が開始されてから、ロシア海軍の指揮官は、海洋能力を根本的に向上させるため、他の極超音速システムでも使えるかについて考慮しつつ、これらのシステムを見てきた。しかし、海軍の新しいASUと統合され、これらの極超音速システムはロシア軍の運用能力と抑止において非常に大きな役割を果たすであろう。
(5) Sergei Shoiguロシア国防相は、最近のTsirkonミサイルの実験に言及し、これらのミサイルは海上目標への発射において極めて高い精度を示しており、「敵に生き残るチャンスはない」と述べている。Alexei Krivoruchko国防副大臣はまた、国によるテストは2021年に完了する予定であり、2022年にはロシア海軍の最新の極超音速攻撃システムが連続して納入され始めることを確認した。軍事専門家Vladislav Shuryginによると「ロシアは世界で初めて極超音速兵器を装備する。その強みをすべて完全に発揮するためには新しいASUが必要である。同時にASUはレーダーと衛星から目標情報を入手する。目標を探知した後、極超音速ミサイルは目標までの距離が数百kmであっても、ほんの数分でそれを攻撃することを可能にする。飛行中、目標の艦艇は単に遠くに移動する時間はない」と付け加えた。
(6) ロシアのメディアは、Tsirkonのような極超音速システムに対する米国の防衛関係者の間に懸念が高まっていることにも注目している。例えば、宇宙と極超音速技術に関する最近のシンポジウムで、US Strategic Command司令官Charles Richard海軍大将は、ロシア軍がNATOにとって深刻な課題であることを認めている。Charles Richard司令官は「Tsirkonにより海上で起こりうる武力紛争においてロシア海軍は無条件の優位に立つであろう。米軍の現在の地上および宇宙空間のセンサーシステムでは、これらのミサイルを探知して追跡できない可能性がある。ロシアが極超音速技術の世界有数の国であることを認めなければならない。米国の防衛産業企業が短時間で彼らに対抗する方法を見つけなければ、NATO諸国の艦艇は脆弱になるだろう」と警告している。
(7) 北洋艦隊の新しいASUの試験実施時期は偶然ではないようである。ロシアとベラルーシは、西部軍管区戦略演習(ザパッド2021)を実施し、2021年9月10日から9月16日の間は実動訓練の期間に入る。ザパッド2021の間に検証されるロシアの軍事力と戦備は多くの場面で、様々な自動化された指揮・統制システムが顕著に機能するであろう。総参謀部の幕僚がこれらのシステムがいくつかの大規模な作戦の中でどうのように統合されるかを検証する。それには実施段階と開発段階の両方のASUシステムの検証が含まれる。2021年8月上旬の北洋艦隊演習では、海軍の自動化されたC4ISRシステムと、Tsirkon 3M22を含む既存の極超音速システムを統合して、ザパッド2021に関連するそれらのシステムを検証することの重要性を確認した。また、この北洋艦隊演習は西部、南部、北洋艦隊の3つの統合戦略軍を中心に行われたことも明らかにされた。
記事参照:Russia’s Northern Fleet Integrates Automated C2 and Hypersonic Strike

9月9日「後方支援協定によって拡大するインドの軍事的行動範囲―インド安全保障問題専門家論説」(The Diplomat, September 9, 2021)

 9月9日付のデジタル誌The Diplomatは、インドシンクタンクObserver Research Foundation のCentre for Security, Strategy & Technology 局長Dr. Rajeswari (Raji) Pillai Rajagopalanの“India’s Military Outreach: Military Logistics Agreements”と題する論説を掲載し、Rajeswari  Pillai Rajagopalanは近年インドが多くの国々と後方支援に関する協定を結んでいることの背景と、インドにとっての意義について、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋における中国の積極的な行動は、インドがさまざまな提携国と後方支援に関する協定を締結する主要な動機である。今後数ヵ月のうちに、ロシアとの間で互恵後方支援相互提供協定(以下、RELOSと言う)が締結されるだろう。これは、米国との間で締結された後方相互提供合意覚書(以下、LEMOAと言う)に似たもので、お互いがお互いの国の軍事施設を利用することを認めるものである。
(2)米国とLEMOAを締結することに関しては、10年ほどの間論争があった。しかし2016年に締結に至ってから、インドは他の国々とも同様の協定を結んできた。日本、オーストラリア、フランス、シンガポール、韓国などとはすでに締結済みであり、イギリスやベトナムとも協議が前進している。
(3) 後方支援に関する協定によって、インドの軍事的な行動範囲が広がり、インドにとって戦略的に重要な地域における影響力が拡大する。実際の場面では、後方支援協定は各国の部隊が人道支援、災害救援、あるいは2国間共同演習に参加するために他国を訪問した際、各国軍がしなければならない経費処理業務に関し長期にかかる膨大な時間を節約し、全体の経費を削減する。この種の協定は、燃料、糧食、予備部品の補充や、寄港や共同演習の際に軍艦や軍用機などの停泊や整備を促進し、その過程を単純化するものだ。
(4) 軍種のなかで、国外での活動が最も活発な海軍は後方支援協定から得るものが最も多いだろう。この種の協定は、軍艦の外国港湾への寄港において入港からから出港までの時間を短縮し、公海における提携国海軍との相互運用性を向上させるものである。海洋問題専門家Anil jai Singh准将も、後方支援協定の有用性について次のように述べている。すなわち、近年のインド海軍は12隻から15隻の艦艇を個別にインド太平洋全域に配備し、さまざまな活動に従事させているが、それぞれの艦に補給支援艦船を随行させることはできないため、友好国の港で補給や整備を受けられることが決定的に重要になってくると言う。
(5) インド・ロシア間の後方支援協定は、当初、2019年にModi首相がウラジオストクを訪問した際に妥結すると考えられたが、それは先送りにされてきた。しかしロシアのSergei Shoigu国防大臣がここ数ヵ月のうちに訪印し、その際に協定が結ばれると観測されている。報道によると、RELOSによって、インドは北極圏におけるロシアの軍事施設の利用権を得ることになるという。
(6) インドはすでに志向を同じくする国々との間に結んできた後方支援協定によって、軍の行動範囲を拡大させてきた。たとえばLEMOAによってインドは、ジブチやディエゴ・ガルシア、グアム、スービック湾にある米国の軍事基地を利用できる。またフランスとの協定はインド洋南西部まで、オーストラリアとの協定は、太平洋西部やインド洋南部までインドの行動範囲を拡大させた。これら協定は、2017年に中国がジブチに初めての海外基地を開設して以降、特に重要な意味を持っている。
記事参照:India’s Military Outreach: Military Logistics Agreements

9月9日「中国軍が南シナ海で島を奪取するための訓練を実施―香港紙報道」(South China Morning Post.com, September 9, 2021)

 9月9日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: Beijing ramps up drills and tests its ability to seize an island”と題する記事を掲載し、島を奪取するための中国軍の演習は、南シナ海での航行の自由を主張する米軍との緊張関係の高まりと重なるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国軍は、南シナ海で米国との軍事的摩擦があるにもかかわらず、この地域の展開を高め、島の奪取能力を強化している。中国の海事局の通達によると、「実弾演習」のため9月9日と9月10日は雷州半島の西側一帯の通航が規制されるという。これとは別に、中国国営メディアは9月8日、中国の南部戦区の海軍分遣隊が、早朝に南シナ海で上陸作戦の演習を行ったと報じた。「近年、この(海軍)分遣隊は大規模な演習と共に目標を絞った演習を計画しており、揚陸艦と他の戦闘部隊との深い統合を加速させている」と中国中央電視台の放映では述べられている。今回の演習は、(台湾侵攻への:訳者注)中国海軍の姿勢が強まっていることを反映したもので、中国海軍は2021年、島(台湾を指す:訳者注)を占領する能力を高めることを目的とした一連の訓練を計画している。香港在住の軍事評論家で元中国軍教官の宋忠平は、上陸して島を奪取する演習には、彼らが一度失った島を取り戻すという強く明確なシグナルが込められていると指摘している。
(2) サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙がまとめたデータによると、中国は2021年前半だけで、島の奪取の要素を含む海軍演習を20回行っており、2020年に行われた13回の演習を遥かに上回っている。中国が領有権を主張し、フィリピンとベトナムも権利を主張しているミスチーフ礁の近くを米海軍ミサイル駆逐艦「ベンフォールド」が航行した後に、最近の演習は行われている。国際仲裁裁判所は2016年、この海域における中国の権利の主張の大半には法的根拠がないと裁定した。北京が8月下旬に、中国が領海と主張する海域に入る全ての外国船に事前通告を求める規則を導入後、「ベンフォールド」の事件(「ベンフォールド」が9月8日に中国が導入した事前通告要求を無視して、中国が権利を主張する海域を航行したことを指す:訳者注)によって、中国と米国の間で新たな一連の非難が始まった。超大国間の摩擦のさらなる証拠として、中国は8月下旬に一連の海軍演習を開始した。これは、グアム沖で行われた米国と4ヵ国安全保障対話の他の参加国による共同訓練の直前だった。
記事参照:South China Sea: Beijing ramps up drills and tests its ability to seize an island

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) THE RETURN OF GREAT-POWER PROXY WARS
https://warontherocks.com/2021/09/the-return-of-great-power-proxy-wars/
War on the Rocks.com, September 2, 2021
Frank Hoffman, Ph.D., a fellow at the Institute for National Strategic Studies at National Defense University
Andrew Orner, a student at the University of Pennsylvania, where he is a student fellow at Perry World House. He is also affiliated with Institute for National Strategic Studies. 
 2021年9月2日、米Institute for National Strategic Studies at National Defense UniversityのFrank Hoffman研究員と米University of Pennsylvaniaの院生Andrew Ornerは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに、" THE RETURN OF GREAT-POWER PROXY WARS "と題する論説を発表した。その中でHoffmanとOrnerは、冒頭で「米国が中国やロシアと戦うとしたら、どんな戦争になるだろうか」と問題提起を行い、大国間の競争は必ずしも直接的で長期的で激しい戦争となるわけではなく、過去の歴史を通じて言えることは、冷戦期もそうであったように、大国はしばしば代理となる国家の軍事力を支援することで競争を繰り広げてきたと指摘した上で、それは中国やロシアも同様であり、実際にそうした間接的な取り組みを採用してきた歴史があるし、現在も両国には明白かつ直接的な軍事衝突において米国と競合することを避ける正当な理由があると述べている。そしてHoffmanとOrnerは、米国の政策立案者や当局者は代理戦争が米国が大国の敵対国と戦う上で最も採用する可能性の高い方法の一つであることを認識すべきであり、したがって米国の戦略や外交基本政策は、この戦略的現実を反映すべきだし、米国は自国のライバルの大国のために代理となって活動してくれている国家をしっかりと支援すべきであると主張している。

(2) Afghan debacle cedes Eurasia to the dragon and bear
https://asiatimes.com/2021/09/afghan-debacle-cedes-eurasia-to-the-dragon-and-bear/
Asia Times, SEPTEMBER 6, 2021
By SPENGLER
 9月6日、香港のデジタル紙Asia Timesは“Afghan debacle cedes Eurasia to the dragon and bear”と題する記事を掲載した。その中で、①アフガニスタンの米国の代理政権がタリバンの非正規軍に敗れたことにより、この地域はロシア、中国、中央アジア及び中東のジハード主義者たちの結集地となるだろう。②ジハードが制御不能なものになるかもしれないため、中国とロシアが介入する以外に選択肢はない。③東南アジアと南アジアのイスラム教徒は、今世紀末には20億人に達する。④イランを上海協力機構に正式加盟させたのは、アフガニスタンの崩壊が目前に迫っていることに対する中ロの最初の対応であり、現在、イランは中ロの安全保障構造の一部である。⑤アフガニスタンでの失敗は、国境でジハードを阻止するために、中ロの同盟を強固なものにした。⑥2013年からロシアのイスラム教徒が大量にシリアのスンニ派ジハードに参加し、ロシアのPutin大統領は特にチェチェンから何万人ものイスラム教徒が、訓練されたテロリストとしてロシアに戻ってくることは脅威であると述べた。⑦ワシントンは、CIAが訓練したシリアのジハード主義者がアサド政権を打倒するのを支援し、その結果、スンニ派のジハードを生み出し、ロシアを中東に引き戻した。⑧数千人の中国のウイグル人もシリアで戦っているが、中国の懸念は中国国内の2千万人のイスラム教徒にとどまらず、東南アジアの膨大な人口のイスラム教徒にまで及んだ。⑨2015年、中国の羅援退役海軍少将は中国の情報機関が、米国のイラク司令官が訓練したジハード主義者たちが中国に再び潜入するのを追跡していたと話している。⑩2001年9月11日以降、中国は米国が東トルキスタン・イスラム運動(以下、ETIMと言う)をテロ組織に指定する見返りに、米国のイラク侵攻を黙認したとメディアは報じているが、2020年12月にMichael Pompeo米国務長官(当時)がETIMをテロリストのリストから削除し、中国は激怒した。⑪中国はまた、PompeoがBiden米大統領の敗北に先立つ和平交渉の一環として、タリバンの過激派5千人の釈放を手配するのを見ていた。⑫今やロシアと中国は互いの相違を脇に置き、中ロの提携はユーラシアにまたがる。といった主張を述べている。

(3) The Russia-China Strategic Partnership and Southeast Asia: Alignments and Divergences
https://fulcrum.sg/the-russia-china-strategic-partnership-and-southeast-asia-alignments-and-divergences/
Fulcrum, September 10, 2021
By Dr Ian Storey, Senior Fellow at ISEAS – Yusof Ishak Institute
 2021年9月10日、シンガポールのシンクタンクInstitute of Southeast Asian Studies (ISEAS)– Yusof Ishak InstituteのIan Storey主任研究員は、同シンクタンクが発行するウエブサイトFulcrumに、" THE RETURN OF GREAT-POWER PROXY WARS "と題する論説を発表した。その中でStoreyは、中ロ関係は過去10年間でかなり強化され、かつ脅威認識の共有と相互利益の増大に支えられてきたが、モスクワと中国は、米国の優位性が自国の国益に反し、体制の存続を脅かすと考えており、両国間の信頼関係の向上は両国の合同軍事演習の範囲、頻度、高度化、防衛技術、衛星航法システム、対ミサイルシステム、宇宙探査などの様々な機微な分野における協力の拡大といった形で現れていると評している。そして、Storeyは今後、米ロ、米中の戦略的対立が深まれば、中ロの結びつきは強まり、両国が条約上の正式な同盟国になることはないだろうが、軍事協力や外交協調は増加するだろうとし、東南アジアでは、ロシアと中国は米国の覇権に反対し続け、地域の米国の同盟や提携を弱体化させようとするだろうと主張している。