海洋安全保障情報旬報 2021年9月21日-9月30日

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9月21日「2021年夏、北極圏の海氷と北極海航路の状況―ノルウェー紙報道」(The Barents Observer.com, September 21, 2021)

 9月21日付のノルウェーのオンライン紙The Barents Observerは、“Arctic sea-ice reaches this year's low, but shippers still snub Northern Sea Route”と題する記事を掲載し、2021年の北極圏の気候と海氷量や、2021年の北極海航路における船舶の通航と今後のロシアの計画について、要旨以下のように報じている。
(1) 2021年の夏は、ロシアで記録的な暖かさとなった。The Russian Federal Service for Hydrometeorology and Environmental Monitoring(Roshydromet:ロシア連邦水文気象環境監視局)によると、8月は過去最高の暑さだったという。ロシアのヨーロッパ方面各地で、気温が例年よりも2度から3度高く、8月には最大で例年よりも5度高くなった。ロシア北極圏の一部でも同様の傾向が見られた。しかし、北極圏では2021年の夏はやや冷涼で風が強く、例年のように気温が記録的に上昇することはなかった。実際のところ、北極海の海氷面積は過去10年間で最小になるという。米National Snow and Ice Data Center(国立雪氷データセンター)によると、9月15日の北極海の海氷面積は473万平方kmで、この日の衛星観測記録の中では10番目に小さいものだった。2021年の夏は奇妙な夏だったことが強調されており、気温が低い中、二夏以上融けずに残った多年氷(multiyear ice)の量は過去最低で、1980年代初頭の約4分の1になっている。また、ロシアの北極海沿岸の北側に位置する「北極海航路」には海氷が残っている。これは、ここ数年、9月にこの航路が全く氷結していなかったのとは対照的である。2021年はあと数日で最小氷量に達し、その後北極海は再び氷結し始めると予想されている。
(2) 9月は北極海航路の最盛期である。しかし、船舶会社にとって北極海航路はまだ好ましい選択肢とは決していえない。この航路の船舶通行量データを見ると、9月中旬には数隻の船舶しかこの辺境の海を航行していない。ロシアNorthern Sea Route Administration(北極海航路局)の数字によると、2021年にこの航路の航行許可を申請した船舶は合計1,055隻で、2020年とほぼ同水準である。しかし、それらの中の圧倒的な多数の船舶は、この航路を航行する航海ではなく、ヤマル半島やギダン半島、そしてタイミルに目的地がある。海運データによると、2021年上半期の北極海航路の通行量は、2020年に比べて若干増加した。ロシアAgency for Maritime and River Transport(海洋河川運輸庁)の発表によると、同航路で輸送された物資の総量は1,704万7千トンで、1,660万トンの前年同期と比較して増加している。一方で、ロシアの北極圏の港のデータでは、2020年に比べて貨物が減少している。2021年の最初の7ヶ月間で、港では全体として約2%の減少となったと同庁は報告している。
(3) ロシアは、北極海航路での船舶輸送のための壮大な計画を立てている。2024年までに貨物量を2020年の3,150万トンから8千万トンに増やす予定である。そして、この航路の貨物量を、2030年までには1億5千万トンへと急上昇させる計画である。ロシア政府の計画は、原子力砕氷船の大規模な船隊の建設と、継続的な地球温暖化とそれに伴う海氷の減少に依存している。
記事参照:Arctic sea-ice reaches this year's low, but shippers still snub Northern Sea Route

9月22日「AUKUSによる核拡散への影響―米専門家論説」(19fortyfive.com, September 22, 2021)

 9月22付けの米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは、University of KentuckyにあるPatterson School上席講師Robert Farleyの“Australia’s Nuclear Submarine Deal: Could More Nations Go SSN?”と題する論説を掲載し、Robert FarleyはAUKUSが各国の核拡散に与える影響について、要旨以下のように述べている。
(1) 核兵器に関しては、核拡散の懸念は理解できるが、管理可能である。オーストラリアは、核燃料サイクルの問題から安全に除外されることが可能である。より大きな核拡散の問題は、アジア太平洋地域の他の国々、さらには世界中国々が自国の潜水艦部隊の将来に対してどのように決意するかということである。
(2) フランスはオーストラリアに原子力潜水艦への移行の機会を提案したと報じられているが、オーストラリアはすでに契約の見通しについて嫌気がさしていた。また、フランスにとって最大の問題は、その潜水艦が潜水艦業界で評価されていないことであろう。
(3) しかし、世界の他のいくつかの国は、自国の潜水艦部隊について難しい決断を迫られている。ブラジルはすでにフランスの支援を受けて攻撃型原子力潜水艦を建造中であり、この決定はオーストラリアの考えに影響を与えていたかもしれない。韓国、日本及びカナダはいずれも、自国の潜水艦計画の将来について難しい決断を迫られている。
(4) カナダは1950年代に原子力潜水艦を検討したが、最終的に通常型潜水艦を選択した。1980年代、カナダは、フランスか英国との提携を視野に入れ、再び原子力潜水艦の取得を検討した。実際のところ、米国は1980年代にカナダの提案に反感を示していたが、その理由の1つは北極圏での衝突回避に関する懸念であり、もう1つはフランスまたは英国が関与する可能性があったからである。しかし、カナダの政治文化は依然としてオーストラリアよりも平和的なままであり、それが核技術の獲得をより困難なものにしていると思われる。一方で、カナダは中国との間で自国民が拘束されていることに関する争いがあるため、カナダの艦艇が西太平洋でオーストラリアや米国の部隊と共に軍事行動ができるようにする計画に対して、カナダ国民がより好意的になる可能性がある。さらに、米国によるオーストラリアの原子力潜水艦への支援を考慮すると、カナダの原子力潜水艦についても類似の契約に米国が反対することは非常に難しいだろう。
(5) オーストラリアのコリンズ級潜水艦は成功とはいえず、フランスの潜水艦契約における失敗の責任の大半はフランスにあるが、一部はオーストラリアにもある。潜水艦建造においてオーストラリアが担任する部分で、オーストラリアがさらなる予算超過によって建造を継続できなくなるかもしれない。また、中国からの圧力に直面したオーストラリアの新政権が、外交上の破局的な影響を伴うこの契約を取り下げる可能性もある。もしこれらの事態が発生すれば、非核保有国にとっての原子力潜水艦の魅力は間違いなく低下する。しかし、この契約がうまくいけば、オーストラリア海軍が西太平洋の主要な行為者になる見通しが開ける。これについて、ソウル、東京及びオタワのそれぞれが注意深く見守ることになるだろう。
記事参照:Australia’s Nuclear Submarine Deal: Could More Nations Go SSN?

9月22日「岐路に立つQUAD-インド専門家論説」(Vivekananda International Foundation, September 22, 2021 )

 9月22日付のインドシンクタンクVivekananda International Foundationのウエブサイトは、同財団の研究員Anil Chopra海軍中将の” At the Cross-Roads: A ‘Fleet- in- Being’ for QUAD 3.0?”と題する論説を掲載し、ここでChopraは、QUAD が広範な分野に発展する一方で、相互運用性の高い軍事力の存在を維持しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 9月24日にワシントンD.C.で開催される4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)首脳会議は、日米豪印4ヵ国の政治指導者たちが異なる道を選択しなければならない分岐点となる。特に、AUKUS(豪・英・米安全保障条約)の発表を受けて、4ヵ国がQUADの構想をより明確にし、勢いづけることができるかが注目されている。
(2) 2007年に安全保障対話(QSD)として始まったQUADは、当初南シナ海での中国の行動や攻撃性に対する懸念があったにもかかわらず、安全保障条約や軍事同盟へと発展することはなかった。QUADは、集団の平和を乱したり、共通の利益を害したりする行為者を抑制することで、この地域の安全と安定を強化することを目的とした。始まったばかりのQUAD 1.0は、中国の反発やオーストラリア、日本、インドの突然の政策転換、さらには4年に一度の選挙で集中力を失った米国の影響を受けて、すぐに影が薄くなった。それは2017年にTrump政権が誕生し、中国のさらなる暴挙に刺激されてQUAD2.0として復活するまで低迷が続いた。その間に、北京は西太平洋の地理を大きく変え、戦略的に優位に立っていた。
(3) その後、2021年に至るまで、QUADは米国が積極的に主導する形で安全保障問題に焦点を当て、インド太平洋における攻撃的行動への抑止力を提供すると認識された。QUADは、17世紀の海軍戦略に倣って「現存艦隊(Fleet- in- Being)」とも言うべき海洋・軍事的潜在力と抑止力を持つ。この言葉は、1690年に英国海軍が初めて使用したもので、軍艦が港に留まっていれば、海上の敵に向けて出撃しなくても、その海軍の影響力を示すことを意味した。敵はその艦隊の存在を継続的に監視・対峙するために部隊を投入しなければならなかった。この概念を発展させると、海軍だけでなく、QUAD諸国の軍隊が、紛争の範囲を超えて相乗的に活動できる潜在的な統合部隊となる。それは、AUKUSやインド太平洋における他の既存の軍事同盟に影響されることなく、抑止力を高めることになる。
(4) QUADは、2021年3月のオンライン首脳会議を皮切りに、QUAD3.0と呼ばれる態様に変貌しつつある。その範囲は、気候やサプライチェーンなどさまざまな問題を含み、安全保障の定義も非軍事的なものへと拡大している。抑止力に焦点を当てるのではなく、より大きな世界的な視野の中で北京を孤立させて、サプライチェーン、製造業及び基幹施設を支配されるのを防ぎ、それによって平和的に協力・競争させることが、QUADの目的となった。
(5) これは長期的かつ漸進的な戦略であり、いずれは実を結ぶかもしれないが、短期的に中国の野心を抑えるには十分ではない。中国の指導者が、20年以上も前から国民に売り込んできた「中国の夢」を達成するために、行き過ぎた判断や瀬戸際外交を行う危険性がある。QUADが形成された理由は、アジア太平洋地域における米国主導の既存の安全保障同盟が、台頭する大国を抑制するには不十分だからである。この点については、2007年から何も変わっていない。それどころか、中国は接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略で一定の成功を収め、特に南シナ海で形成した新たな地域をある意味で武器としている。さらに、中国の軍艦や陸上ミサイルなどの大規模な能力の向上によって、QUADの抑止力は低下している。
(6) AUKUSが軍事的抑止力を提供するようになるには時間がかかる。オーストラリアの原子力潜水艦の1番艦が就役し、核施設が整備されるまでには10年以上かかるだろう。短期的には、南シナ海を通過する船舶の貨物申告に関して中国が規則を発布するといった誤った行動に出る可能性がある。このような事態を防ぐには、航行の自由作戦(FONOPS)以上のものが必要である。事態に対して、即時運用できるよう配備された通常戦力の存在だけが、中国の誤った行動を抑止できる。
(7) 現状では、アフガニスタン以降、米国と西洋諸国は衰退の一途を辿っており、深刻な問題に対処するための政治的意志、意欲、結束力を見出すことはできない。インド太平洋地域の提携国も同様である。軍事同盟ではないにもかかわらず、緊張状態にある地域にQUADの資産が投入される可能性があるとすれば、中国はより高次の挑戦を思いとどまるだろう。そのためには、QUADの固い安全保障の結束と軍事力を維持する必要がある。
(8) QUAD 3.0がより広範な有志連合に発展する一方で、マラバール演習やその他の演習で進められているように、相互運用性の高い軍事力を整備し、それを実証することで、海洋における軍事的潜在力を強調し続けることには利点がある。このためQUAD 3.0は、「現存艦隊(Fleet- in- Being)」を維持しなければならない。
記事参照:At the Cross-Roads: A ‘Fleet- in- Being’ for QUAD 3.0?

9月22日「原子力潜水艦の提供はオーストラリアに向けてであって、日本あるいは韓国ではないのか―東アジア専門家論説」(The Diplomat, September 22, 2021)

 9月22日付のデジタル誌The Diplomatは、東アジアの国際政治、安全保障の専門家A. B. Abramsの“Why Provide Nuclear Submarines to Australia, But Not South Korea or Japan?”と題する論説を掲載し、A. B. Abramsは原子力潜水艦が日本や韓国では無くオーストラリアに提供されるのは脅威と目される中国・北朝鮮・ロシアから距離があり、比較的安全であると同時に攻勢作戦では戦力を投射するのに十分な距離があるためであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米英がオーストラリア海軍の原子力潜水艦調達計画を支援するという9月15日の発表は、東アジアの安全保障にとって2021年の最も重要な進展の1つである。報じられるところでは、オーストラリアの原子力潜水艦の1番艦は2039年末までに進水するという。オーストラリアは、原子力潜水艦を運用する世界で7番目の国になるだろう。その潜水艦は兵器用ウランを使用した米国製原子炉を使用することとなろう。前例のない計画は、オーストラリアが最終的に核兵器を購入することによるのか、ヨーロッパの同盟国が行っているような共有協定によるのかによって、核兵器が拡散する懸念を引き起こしている。後者の可能性は戦時にオーストラリア軍に譲渡される米核兵器、この場合は巡航ミサイルである。ヨーロッパの同盟国が米国の非誘導型核爆弾の取扱法を訓練しているのと同じようにオーストラリア海軍も事前に巡航ミサイルの取扱法の訓練を受けることになる。これら全ては憶測の段階のままであり、オーストラリアが原子力潜水艦を遠距離兵力投射の戦力として純粋に従来の形で配備する可能性も残っている。
(2) オーストラリアに対する原子力潜水艦の提供は、米国の同盟国へは次なのか、オーストラリア海軍が原子力潜水艦を提供される最初の、そして唯一の対象なのかという疑問を引き起こしている。このことは次のことから部分的に説明が可能である。原子力潜水艦という米英の提案は12隻の通常型潜水艦というフランスの提案を改善することでフランスが得ていた契約を、米英が獲得できる鍵であったようである。
(3) 日本および韓国の防衛予算はオーストラリアよりもはるかに大きく、原子力潜水艦を取得する予算的余裕ははるかに大きいだろう。しかし、多くの理由から日韓は同じような技術を提供されるとは考えられていない。日韓両国ははるかに工業化されており、通常型潜水艦を国産する潜水艦技術を長きにわたって保有してきている。特に「たいげい」のような日本の潜水艦は西側の通常型潜水艦よりもはるかに静粛である。
(4) 防衛産業の大きな違いを超えて、米国が原子力潜水艦を広めて対応しようとする安全保障問題を考慮したとき、日韓の地理的位置は原子力潜水艦を配備するのにはおよそ適していない。両国は西側が主導してきた秩序の永続に挑戦している国々に近い位置にある。その国々は中国、北朝鮮、ロシアである。兵力投射に理想的な原子力潜水艦の高い滞洋力の有用性も距離の短い地域的な作戦には必要以上のものであり、通常型潜水艦は満足以上のものと考えられている。通常型潜水艦は建造、運用の両面における費用対効果が高いだけで無く、一般的により静粛で探知されにくいため、長期滞洋力が求められないときには好まれるかもしれない。
(5) このことは、将来、特に韓国において変わるかもしれない。韓国は北東アジアを越えて戦力を投射しうる空母打撃群の建設に動いており、長期滞洋力のある原子力潜水艦は米空母打撃群で行っているように空母打撃群に価値のある護衛を提供している。韓国はまた潜水艦発射弾道ミサイル配備の非核保有国として第2段階の戦略抑止力開発に向けて動いている。
(6) 原子力潜水艦を取得するというオーストラリアの動きは、キャンベラの安全保障の議論の方向性と矛盾してはいない。2018年から2019年のいくつかの報告書は、オーストラリアは核兵器の取得を考慮しており、B-21爆撃機の取得も考慮されていたことを示している。
(7) 日本および韓国はもちろん、グアム、ウェーク島にある米軍基地も、中国、北朝鮮の新世代兵器に対してますます脆弱になってきていると考えられており、オーストラリアの重要性は高まってくるだろう。その距離は、かつて冷戦期にグアムがそうであったように距離に見合った安全性を提供しているが、攻勢作戦にとって価値のある展開基地として十分に近い距離にある。原子力潜水艦の提供はこのように、東アジアを狙った西側の戦力投射努力の中心的部分として浮上してきたオーストラリアに向けての幅広い流れの一部分であり、オーストラリアはこの目的のために基幹施設と戦力を受け入れている。
記事参照:Why Provide Nuclear Submarines to Australia, But Not South Korea or Japan?

9月23日「AUKUSに対する太平洋島嶼諸国の反応―香港紙報道」(South China Morning Post, September 23, 2021)

 9月23日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Pacific Island nations uneasy over Aukus deal, amid nuclear proliferation, climate change fears”と題する記事を掲載し、新たに発表された英米豪の安全保障協力の枠組みであるAUKUSに対する、アジア太平洋、とりわけ太平洋島嶼諸国の反応について、それが大部分懐疑的なものであるとして、その背景と原因について、要旨以下のように報じている。
(1) 英米豪の新協定AUKUSは、オーストラリアが原子力潜水艦を調達する内容を含むものであり、それが太平洋島嶼諸国の不安をかきたてている。オーストラリアの原子力潜水艦によって、彼らは中国と西側諸国との対立における最前線へと位置づけられるのではないかという不安に加え、彼らは第2次世界大戦後に繰り返された核実験の苦い記憶を抱いている。パプアニューギニアのブロガーで政治活動家のMartyn Namorongは、太平洋に住む「多くの人々がAUKUSの原子力潜水艦の取引を懐疑的に見ている」と述べている。
(2) サモアでは、最大の新聞社グループがAUKUSについて、太平洋の人々の声を代表しておらず、太平洋における紛争の危険性を高めていると批判した。バヌアツでは元外相で現野党指導者Ralph Regenvanuが、AUKUSは太平洋の将来に不安を投げかけるものだと懸念を示した。バヌアツの元議員Robert Bohn Sikolは、多くの太平洋島嶼諸国に見られる反射的な反応は反核の立場を取るだろう、しかし、時間が経つにつれ、その態度は微妙なものになるだろうと述べている。Sikolによれば、南太平洋の国々はどちらかと言えば西側になびく可能性があるが、基本的にはどちらか一方に肩入れすることを望まないという。
(3) AUKUS協定によってオーストラリアは原子力潜水艦を8隻取得することになるが、それについてScott Morrisonオーストラリア首相は、1950年代のANZUS締結以来最も重大な安全保障上の展開だとしている。Morrisonは、オーストラリアの原子力潜水艦取得は同国の核不拡散の方針に影響を与えないし、国内の原子力産業の発展につながるものでもないと強調した。
(4) AUKUS協定の発表は、アジア太平洋の国々の間にさまざまな反応を惹起した。日本やフィリピンはそれを歓迎し、インドネシアやマレーシアは軍拡の可能性に懸念を表明した。インドは公的には論評していないが、中国への対抗勢力が拡大することを歓迎すると観測されている。中国は、当然それをこき下ろした。ニュージーランドは、自国の海域への原子力潜水艦の入域については従来の方針に照らして認めないと発表している。太平洋島嶼諸国は、公式にはまだAUKUSに対する論評を発していない。
(5) 核拡散は多くの太平洋島嶼諸国にとって、核実験の歴史ゆえに繊細な問題であり続けている。米国は1946年から58年にかけてマーシャル諸島で60回以上の核実験を実施し、英国も1950年代にキリバスで、フランスも1990年代までフランス領ミクロネシアで核実験を繰り返した。1985年、オーストラリアとニュージーランドおよび11の太平洋島嶼諸国はラロトンガ条約に調印した。それは、南太平洋の広範囲において、核兵器の利用、実験、保有を禁止するものである。
(6) 南太平洋はその戦略的な位置ゆえに、影響力をめぐる競争の舞台にもなってきた。中国は太平洋島嶼諸国にこの10年間で18億ドル相当の貸付や支援を提供し、2019年にはソロモン諸島とキリバスが台湾から中国に外交承認国を切り替えた。そうした動向に対抗して、オーストラリアはこれまで「太平洋ステップアップ」という計画に何十億ドルも投じてきたのである。2021年7月にはオーストラリアの通信会社Telstarが、南太平洋の主要モバイルキャリアであるDigicelの買収を検討していると発表したが、それはDigicelが中国の手にわたらないようにするためのものであった。
(7) Vanuatu Daily Post紙の元編集員Dan McGaryによれば、太平洋島嶼諸国はどちらか一方に肩入れすることには躊躇している。中国は彼らがそうした路線を維持するよう求めるだろうが、一方で中国はまた、オーストラリアが自分たちに肩入れするように太平洋島嶼諸国に強く働きかけるのを黙ってみているだろうということだ。オーストラリアがそうすることでむしろ太平洋諸国が離れていくことを期待してのことだという。パプアニューギニアの政治活動家Namarongは、太平洋の人々は西側に傾いているとはいえ、重要な貿易相手国であり、発展のための提携国である中国の重要性に対する認識も強めていると指摘した。また太平洋島嶼諸国は、自分たちにとって最大の懸念である気候変動問題に、オーストラリアがどの程度真剣に取り組むかどうかを注視しているとパプアニューギニアのDivine Word University講師Bernard Singu Yegioraは言う。
「太平洋島嶼諸国は、気候変動が地域の全ての国にとって最大の脅威であるとする2018年のボアエ宣言に同意している」とBernard Singu Yegioraは述べている
記事参照:Pacific Island nations uneasy over Aukus deal, amid nuclear proliferation, climate change fears

9月23日「AUKUSはQUADにどのような影響を与えるか―インド安全保障問題専門家論説」(The Diplomat, September 23, 2021)

 9月23日付のデジタル誌The Diplomatは、印シンクタンクObserver Research Foundation のCentre for Security, Strategy & Technology センター長Dr. Rajeswari (Raji) Pillai Rajagopalan の“Does AUKUS Augment or Diminish the Quad?”と題する論説を掲載し、そこでRajagopalanは、新たに発表された英米豪の安全保障協力枠組みであるAUKUSについて、それがQUADの重要性を減じるかもしれないという不安が囁かれているが、実際にはQUADの重要性を強化するだろうとして、要旨以下のとおり述べた。
(1) 最近発表された英米豪の安全保障協力枠組みであるAUKUSは、近年インド太平洋において少数国間提携が数を増やしている流れに位置づけられるものである。オーストラリアが原子力潜水艦を調達することを内容に含めるAUKUSは即座に論争を起こしたが、より重要なことは、それがQUADなど他の少数国間提携のさらなる強化につながるかどうか、ということである。AUKUSに対するインドの公式の反応のひとつとして、Harsh Vardhan Shringla外務次官はメディアへの特別会見において、「QUADに関係がないだけでなく、QUADの働きになにがしかの影響を与えることもない」と述べている
(2) しかし、実際にAUKUSは、2つの理由から、QUADと関係があるし、その文脈において重要でもある。1つは、英米豪の指導者たちが、ASEANやQUADなど既存の提携の重要性を強調したこと、もう1つの理由として、QUADが自由と法の支配の尊重という構想を共有しているのと同じように、AUKUSもまた同様の構想に基づいて創設されたということが挙げられる。
(3) 近年、インド太平洋において少数国間の提携が数多く創設されてきた。興味深いことに、新たに創設された提携は、QUADの1国ないし2国と、そうではない1国ないし2国による提携であり、したがって、中国との均衡を図るための組織網を拡大することにつながっている。これらの多くは政治的かつ外交的な提携であるが、相互運用性を高めるための共同演習なども実施されている。
(4) AUKUSは軍事的提携の色彩が濃いが、その長期的目標はQUAD、その他日豪印、日米印、豪仏印、日印伊などの少数国間提携を補強することにある。すなわち、より多くの国をQUADの組織網に引き込み、地域的かつ戦略的利益を共有させようという試みの1つなのである。こうした試みはより幅広い政治的・戦略的合意を生み出すことにつながる。さらにそれが、オーストラリアの原潜獲得など中国を抑止するための軍事力強化につながるのであれば、その動きは地域全体にとって歓迎されることになるであろう。たとえばフィリピンはAUKUSを歓迎すると公式に発表している。
(5) 他のASEAN諸国の反応はさまざまである。たとえばマレーシアは、AUKUSに対する中国の反応を確かめるために国防大臣を中国に派遣することを決めた。マレーシアは、南シナ海問題や、周辺海域・空域への侵入などをめぐって中国に対してかなりの不満を抱えており、オーストラリアとの関係を「包括的戦略パートナーシップ」へと格上げしたにもかかわらず、そうした対応をとったのである。インドの戦略を考える集団の間にもAUKUSへの懐疑的な声はあるが、AUKUSは今後、QUADの重要性を減じるのではなく補強するはずだという声もある。
(6) AUKUSは、インドにとって重要な戦略的提携国であるオーストラリアの軍事力を強化する意義のある展開である。軍事的に強力なオーストラリアはインドにとって利益である。そしてAUKUSは、対中国政策でははっきりした立場をとってこなかったイギリスが、中国への対抗により深く関わることを示したという点においても重要であろう。
記事参照:Does AUKUS Augment or Diminish the Quad?

9月28日「AUKUSをインド太平洋の文脈に位置づける―オーストラリア核不拡散問題専門家論説」(The Strategist, September 28, 2021)

 9月28日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、Australian National University名誉教授のRamesh Thakurによる “Integrating AUKUS into the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、そこでThakurは新たに発表された英米豪の安全保障協力の枠組みAUKUSについて、それをインド太平洋の戦略的環境の文脈においてどのような意味を持つか、それをどう変容させる可能性があるかについて、要旨以下のように述べている。
(1) Economist誌はAUKUSについて、地政学的な地殻変動であると論評した。それがオーストラリアの防衛にとってどのような意味を持つか、その地域および地球規模の影響がどのようなものになるかについてはこれまで多く論じられてきたし、これからもそうであろう。本稿はそうした問題ではなく、地域的な問題に対処する数多くの集団にAUKUSを位置づけてみたい。
(2) 第2次世界大戦によって英国は影響力を喪失し、オーストラリアとニュージーランドはANZUSによって米国との軍事的紐帯を深めた。1980年代に米国が、両国に反核を貫くか核抑止を中心とした防衛体制を選択するかを迫ったとき、ニュージーランドは渋々ながら後者を選び、オーストラリアは米国との軍事的紐帯をさらに強化することになった。
(3) AUKUSは、米国の関心と資源配分が北大西洋からインド太平洋へと転換したことを象徴しており、また、オーストラリアの軍事能力向上に向けた転換点である。これはFive Eyes情報共有協定のなかに小集団を構築するものであり、カナダやニュージーランドの上にオーストラリアの立場を位置付けることとなった。またAUKUSは米国の戦略的優越の喪失を意味し、ブレクジット後の英国が掲げた「グローバル・ブリテン」をインド太平洋へと再び方向付けるものである。
(4) 日米豪の3ヵ国は、「インド太平洋」という概念枠組みを用いて、インドを自由・公開原則と民主的価値観を共有する戦略的枠組みに統合した。ただし日本と特にインドは、過度に反中国的な安全保障協力の枠組みに引き込まれることを躊躇している。そのことと、インド太平洋地域の安全保障環境が悪化していることが合わさり、オーストラリアは英米という歴史的あるいは1945年以後の安全保障の提供者との提携を再び選択したのである。それゆえ、日本とインドは今後、QUADの重要性を再評価する必要が出てくるだろう。この両国は、ある面ではAUKUSがインド太平洋に対する米国による誓約の強化を示すものとして歓迎するだろう。
(5) 今後、日本が原子力推進装置を獲得することがないのであれば、英米印がQUADの枠内で新たな小集団を構成することはあるだろうか。あるいは、新たな戦略的協力枠組みにインドを加えるということがあるだろうか。
(6) フランスは太平洋に領土的利害を持つ唯一のヨーロッパの核保有国である。そのフランスにとってオーストラリアとの潜水艦取引は、単なるビジネス以上の意味を持つインド太平洋戦略の一部であった。オーストラリアとの関係を通じた太平洋への誓約の強化の道が絶たれた今、可能性があるのは、インドや東京を通じたそれである。この可能性は特に、ここ数十年の間フランスとの関係を深めているインドにとって魅力的であろう。フランスにとってインドがインド太平洋への出入り口であると同時に、インドにとってフランスが(英国ではなく)ヨーロッパへの出入り口となるのである。
(7) オーストラリア海軍の原子力機関獲得は、東アジアにおける軍拡競争を促進する可能性がある。Trump政権期の米国は、高濃縮ウランと原子力潜水艦技術の共有という韓国の要求をはねつけていたが、それをオーストラリアに提供するということは、米国の同盟国の間の序列を確立したようなものだと指摘されている。AUKUSは、東アジアにおける外交や軍事的つながりを再編成することにつながるかもしれない。
(8) AUKUSは今後、東南アジアが米中対立の戦場になるのではないかというASEANの不安に向き合うことになるであろう。インドネシアの元外相Marty Natalegawaは、AUKUSが地域の安全保障環境を不安定化させるものであると警告した。彼によれば、AUKUSはASEANが現在の地政学的環境においてどっち付かずであり続けたことの代償をASEANに痛感させるものだという。彼はASEANに、自分たちがその問題に深く関わっているのだということを思い起こすべきだと主張した。
記事参照:Integrating AUKUS into the Indo-Pacific

9月28日「タリバンのカブール制圧とインド・イラン・アフガニスタン・ウズベキスタン通過回廊への影響―イラン専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, September 28, 2021)

 9月28日付の米シンクタンクThe Jamestown Fondationが発行するEurasia Daily Monitorのウエブサイトは、テヘランの中央アジアとカフカス研究の専門家であるVali Kaleji博士の“The Taliban Takeover of Kabul and Implications for the India-Iran-Afghanistan-Uzbekistan Transit Corridor”と題する論説を掲載し、Vali Kalejiはインド洋に直接進出できるイランの唯一の港チャバハール港を通過する交通路の整備計画が、タリバンのカブール制圧によるアフガニスタンの状況により先行き不透明となっているが、インドを中心とする関係国の努力により経済性実効性を保つべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1) イランのシスタン州とバルーチスターン州のマクラン海岸に位置するチャバハール港は、オマーン湾に近く、ホルムズ海峡の河口に位置し、インド洋に直接進出できるイランの唯一の港である。戦略的な位置と南北の通路への連接の良さのおかげで、それは内陸のアフガニスタンと中央アジアへの「ゴールデンゲート」と呼ばれている。イランとその北東部の隣国だけが、チャバハール港の成功に深い関心を持つ唯一の関係国なのではない。すなわち、インドにとってもイランの「唯一の海に面する港」は地域横断的な交通貿易戦略の重要な要素でもある。
(2) チャバハール港に程近いパキスタンのグワダル港で中国とパキスタンの協力の発展を目の当たりにしたインドは、地域のライバルであるパキスタンと中国の領土を「迂回」しつつ、イラン、アフガニスタン、中央アジアとの貿易を促進するためにチャバハール港の輸送能力の発展を促進することに焦点を当てている。インドとイランは、2003年にシャヒード・ベヘシュティ―港をさらに発展させる計画に最初に合意したが、イランに対する国際的な制裁体制を考慮して、当時はその目標をほとんど達成しなかった。10年後の2016年5月24日、インドはアフガニスタンを通る「輸送回廊」の重要な地点として、イランの戦略的港であるチャバハール港を開発する歴史的なインド・イラン・アフガニスタン3ヵ国協定に署名した。2017年10月までに、インド初のアフガニスタンへの小麦の出荷がチャバハール港を通じて送られた。この3ヵ国協定は、インド企業がパキスタンを迂回し、西側に世界市場へ進出することを可能にしただけでなく、インド洋地域における中国の影響力の拡大に対抗するものである。
(3) インド・イラン・アフガニスタン3ヵ国協定の成立の直後、米Trump政権は2018年5月18日にイラン核合意から一方的に脱退した。米国政府はその後、イランに対する広範な制裁を再び進めた。しかし今回は2003年とは異なり、インドは経済的制裁の一括項目からチャバハール港を除外するように米国政府を説得することに成功した。そして2018年12月、インドが港の管理運営を引き継ぎ、イラン政府に対する米Trump政権の「最大限の圧力政策」(2018-2020年)の最盛期でさえ、チャバハール港とインド・イラン・アフガニスタン3ヵ国協定は生き残ったのである。2020年末までに、イランは国境を越えるKhaf–Herat鉄道をアフガニスタンまで完成させ、両国とインドの間の海上と鉄道の輸送リンクをさらに強化した。
(4) Shavkat Mirziyoyev大統領の政権発足後、ウズベキスタン政府はチャバハール港経由の地域横断交通路へのアクセスにも関心を示し始めた。前任者の故Islam Karimov大統領とは異なり、Mirziyoyev大統領はイランに対する「デタント」政策を進めてきた。しかし、イランと中央アジアの間の陸上輸送を長年妨げてきたイランとトルクメニスタンの間の緊張もウズベキスタン政府を動かした。結局、2020年12月14日、ウズベキスタン、イラン、インドはチャバハール港で最初のオンライン「3国間作業部会」を開催した。会議は12月11日に行われたインドのModi首相とウズベキスタンのMirziyoyev大統領のオンライン首脳会談の決定に続いたものである。しかしイラン、インド、アフガニスタン、ウズベキスタンの4つの地域提携国間で緊密な協力と合意を可能にしたこれらの条件は、アフガニスタンのAshraf Ghani政権の崩壊とタリバンによるカブール制圧の後、根本的に変化した。タリバンとパキスタンの緊密な関係を考えると、インドはアフガニスタンで大きな敗北を喫したと言える。そして間違いなく、大きな犠牲はインドがパキスタンに先んじてアフガニスタンと中央アジアに通じるインド製品のルートを開く機会を与えることを意図したチャバハール港の計画が無駄になりそうなことである。Ashraf Ghani政権の崩壊直後、インド当局は「タリバンが支配するアフガニスタンは、イラン南東部のチャバハール港を使用するインド・イラン・ウズベキスタン協定の一部ではない」と宣言している。
(5) タリバンのカブール制圧に続くアフガニスタンの状況は、ウズベキスタン・アフガニスタン・イラン・インドの4ヵ国を混乱させることは間違いない。彼らが共同で開発していた7,200km以上の交通路は、アフガニスタンを通過する。しかし、イランやウズベキスタンを含む世界のどの国も、タリバンによって作られたアフガニスタンの政府をまだ承認していない。パキスタンと同一歩調をとるタリバンのインドとカシミール地方に対する政治姿勢は、アフガニスタンとインドの間の暫定協定についての見通しを不透明にしている。このような状況下で、チャバハール港の整備計画はすでに遅延し始めている。インドは2021年から2022年の全体の輸出を4,000億ドル押し上げる目標を達成する可能性があるが、2020年のインドと中央アジア地域全体と貿易額は、2020年に161億ドルに過ぎず、インドの年間総貿易額のわずか2%に過ぎない。
(6) タリバンがパキスタンと同じく、競合する中国・パキスタン経済回廊(CPEC)を支持しチャバハール港ルートを弱体化することを望むことは明らかである。CPECの枠組みの中で、中国はすでにパキスタンとの国境の東約100kmに位置するパキスタンのグワダル港に多額の投資を行っている。したがって、チャバハール港の経済的な実行可能性を保つことは、この地域における影響力を求める中国との競争に直面するインドにとって、懸念事項となっている。
(7) このような状況で、トルクメニスタンは4ヵ国間のチャバハール港の使用協定についてアフガニスタンに取って代わる可能性が高い。しかし、それにはまず、天然ガスをめぐるイランとトルクメニスタの紛争と共有の国境を越えるイランの交通制限を解決する必要がある。この件についていくつかの肯定的な動きがすでに見られている。2021年9月17日Ⅱ開かれた上海協力機構首脳会談の際に、イランのIbrahim Raisi大統領とトルクメニスタンのGurbanguly Berdimuhamedov大統領は、2国間の天然ガスに関する紛争の解決に合意した。しかし、この好感に値する合意文書が、実際の政策転換に変わるまでどれくらいの時間がかかるかが重要である。そのような変化は、イランのチャバハール港を経由してインドから中央アジアへの海上と陸上を合わせた交通路が、長年にわたる経済地政学的な約束を果たす前に、起こらなければならない。
記事参照:The Taliban Takeover of Kabul and Implications for the India-Iran-Afghanistan-Uzbekistan Transit Corridor

9月28日「ナツナ諸島を巡るインドネシアと中国の角逐―ニュージーランドジャーナリスト論説」(Asia Times.com, September 28, 2021)

 9月28日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、ニュージーランドのジャーナリストJohn McBethの “Indonesia, China go toe-to-toe in gas-rich Natunas”と題する論説を掲載し、ここでJohn McBethは南シナ海の天然ガス資源が豊富なインドネシア領ナツナ諸島(中国の9段線の南端と同諸島のEEZの北端が重複する:訳者注)を巡る角逐について、要旨以下のように述べている。
(1) 中国の調査船と2隻の海警船が南シナ海のインドネシア領、ナツナ諸島北部の排他的経済水域(以下、EEZと言う)に侵入し、3週間以上に亘って有望な天然ガス開発サイト周辺に滞留し続けているが、インドネシア政府はこれまでのところ、この中国の行為に対して抗議していない。ある専門家は、侵入した3隻の中国船が巡回する6隻のインドネシア海軍艦艇とBAKAMLAの巡視艇3隻に付きまとわれているとしながらも、「これ(中国船の侵入)はこれまでになかった最も長くかつ最もあからさまな侵略であるにもかかわらず、全く対応していない」と語っている。インドネシアForeign Ministryの報道官は、「この問題に関してインドネシアと中国との間に外交的な接触があるかどうかについては、確認も否定もできない」と述べたが、その前に本紙(Asia Times)に、「重要なことは、開発鉱区における探査活動が(中国船によって)妨げられていないことである」と語っている。
(2) 広州市に籍を置く調査船「海洋地質10号」は、8月下旬に2隻の海警船に随伴されてインドネシアのEEZに侵入した時点で船舶自動識別システム(以下、AISと言う)を作動させたが、それまではいずれの船も海南島の母港、楡林を出港して以来、AISを作動させていなかった。専門家によれば、調査船は格子状のグリッドパターンを描いて航行しており、これは、英石油会社Premier Oil とロシア国営Zarubezhneftとの合弁会社Harbour Energyが6月から評価掘削プログラムを開始した海域の近くで、海底地図を作成していたことを示していると言う。中国は、ベトナムやマレーシアが主張する海域での石油探査活動に対して、しばしば嫌がらせをしてきたが、中国の一方的な「9段線」主張がインドネシアの海洋領域に食い込んでいる海域でのこうした行為は初めてである。これまで、北京は中国とインドネシア両国とも加盟国である国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)の下では認知されていない概念だが、(「9段線」の南端とインドネシアのEEZの北端が)重複する海域での伝統的な漁業権の行使のみを求めてきた。
(3) マレーシアから借り上げた石油掘削リグNoble Clyde Boudreauxは、6月下旬にナツナ諸島の北300kmにあるHarbour EnergyのTuna Blockで掘削を開始し、約3年前に最初に発見された天然ガス田の規模を判定する。2つの評価井は、現在1兆立方ftの天然ガスを埋蔵していると見られるガス田の範囲を測定することを目的としている。中国の海警船CCG 5202がAISを再稼働させ、Tuna Blockの掘削リグの南東に所在していることが確認されたのは7月中旬になってからであった。この海域に派遣された3隻のBAKAMLA巡視艇はその後、海軍給油艦「ボンタン」、さらには英国製コルベット「ジョン・リー」、「ブン・トモ」と合流した。8月中旬、海警船CCG 5202はCCG 5303と交代し、CCG 5303は8月31日にCCG 4303と合流し、「海洋地質10号」のインドネシアEEZ侵入を護衛し、以来、「海洋地質10号」はこの海域でマルチビーム音響測深システムを使用して長さ110km、幅10kmの範囲を探査している。興味深いことに、その検索パターンは掘削リグが配置されているEEZのすぐ内側の15〜20kmの領域に限定されており、この海域は現在、中国の曖昧な「9段線」の南端と見られる海域とほぼ一致している。2021年1月には、中国の調査船「向陽紅3号」は、インドネシアのスマトラ島沖の領海内で無許可の海底地図作成を実施しているのが探知された。潮流、水深及び塩分濃度の調査は、潜水艦の活動に役立つ。「海洋地質10号」の活動の最初の1週間、地元の漁師は、中国海軍のType052駆逐艦「昆明」とその他の5隻の中国海軍戦闘艦を目撃したと報告しており、明らかに当時、掘削リグの西方約80kmの海域に居た米海軍空母「カール・ビンソン」を監視していたようだ。艦船の動向を追跡する観察者は、同空母存在と、9月5日から12日の間の係争中の南沙諸島の人工島、ミスチーフ環礁(美済礁)への12隻の中国艦の集結との関連性を指摘している。
(4) 中国海警船の多くは現在、この海域で良く視認されている。たとえば、海警船CCG 5303は、2019年にベトナムのEEZ内の掘削リグ周辺で視認された6隻の海警船の1隻であった。4,000トン級のCCG 5303は、2020年7月にサラワク沖のマレーシアのカサワリ鉱区周辺でも石油探査作業の嫌がらせに関与した。最近、新たに何隻かの海警船が北海海区指揮部及び東海海区指揮部から海南島の南海海区指揮部に移管された。中国海警総隊は世界最大の沿岸警備隊で、130隻の大型海警船、20隻以上の強襲任務に充当しうる高速海警船、及び400隻の沿岸巡視任務に充当される海警船、海監船、海巡船で構成され、海上民兵と協働して中国の海洋主権主張を実効あらしめることを主たる任務とする。5,5000トン級から1万2,000トン級の大型巡視船は、76ミリ速射海軍砲や連装対空砲、重機関銃などを装備している。
(5) この地域のある専門家によれば、中国海軍の唯一の役割は監視し、事態の拡大を抑止し、そして必要なら介入することである。これにより、中国はまず海警、海軍の展開を確立し、その展開を常態化し、そして最終的には係争海域でそれを使用するという、段階的な戦略によって武力を活用することができる。このような強圧的な戦術は、自国の領域と主張する海域内での火力使用を含む、外国船舶を停戦させるための「必要な全ての手段」の使用を容認する、2021年1月に可決された中国の新しい海警法と相まって、一層懸念される。
記事参照:Indonesia, China go toe-to-toe in gas-rich Natunas

9月29日「AUKUSの奥深さ―米専門家論説」(East Asia Forum, 29 September 2021)

 9月29日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUMは、米Stanford UniversityのShorenstein Asia-Pacific Research Center 南アジア担当研究員で米National Bureau of Asian Research 非常駐上級研究員を兼ねるArzan Taraporeの” AUKUS is deeper than just submarines”と題する論説を掲載し、ここでTaraporeは
中国との戦略的対立においては、重なり合う幅広い提携が重要であり、AUKUSの加盟国はフランスとの関係を修復すべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリアの原子力潜水艦の事案は、オーストラリア、英国、米国の3ヵ国による新たな安全保障条約AUKUSの発表の中で、最も目を引くものであった。この8隻の新型潜水艦は、オーストラリアの潜水艦部隊の航続距離、耐久性、武器を大幅に向上させ、オーストラリアの原子力に関する禁忌を打ち破ることになる。そして、米国と英国によるインド太平洋における戦略的対立への参画を示している。これにより、AUKUSは海軍力に対する真剣さを示すだけでなく、同盟関係に対してもそれ以上の真剣さがあることを示した。この3ヵ国条約は、既存の情報同盟であるFive Eyesを、最先端の防衛技術と産業の分野に拡大しようとするものである。AUKUSは、はるかに深いところに向かっているが、すべてを行うことはできない。
(2) Biden政権は、中国との戦略的対立を優先するため、同盟関係を再活性化させることを約束した。そして最も注目すべきBiden大統領の実績は、オーストラリア、インド、日本、米国で構成される4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)を首脳会談に引き上げたことである。しかし、AUKUSはQUADとは質的に異なる。たとえば潜水艦の事案だけでも、米国と英国は何十年にもわたってこの地域に巻き込まれていく。AUKUSは、潜水艦以外にも、防衛関連の科学技術、産業、サプライチェーンの資源を蓄積して統合することで、中国との技術競争に勝つことを目指している。これがAUKUSの今後数十年にわたる目的である。
(3) このような技術統合は画期的な着想である。各国が軍事技術を共有することはよくあり、中には価値の高い技術もある。その中で核技術は別格で、米国が原子力潜水艦の技術を共有した国は、冷戦時代の英国だけである。中国との競争にさらされている米国は、オーストラリアとこれを共有することになった。AUKUSの中心となる技術は、科学研究の最先端であり、軍事力において前例のない優位性をもたらすことが期待されている。潜水艦計画は、このような新しい協力関係を推進する役割を果たすことになるであろう。潜水艦の核技術のうち、どの程度がオーストラリアと共有されるかはまだ不明であるが、オーストラリアの防衛関連の企業等は、海洋認識や敵対勢力の追跡・回避のためのセンサーやデータ処理システムなど、核技術以外の最新技術を入手することができるであろう。
(4) 英国とオーストラリアがワシントンの最も重要な技術提携国である。その理由は、この2ヵ国がFive Eyesの加盟国であり、数十年にわたって情報収集の責任を果たし、収集した情報を共有するためのシステム、組織及び過程を開発してきたからである。過去20年間のテロとの戦いや、イラクやアフガニスタンでの戦争などを通じて、相互信頼と協力関係が培われたのは重要なことである。また、英国とオーストラリアは、他のFive Eyesの加盟国であるカナダとニュージーランドに比べて、自由で開かれたインド太平洋という戦略的な未来像を維持することも明らかにしている。
(5) AUKUSは、ワシントンが最も親密な情報提携国にしか委託しないような極めて機密性の高い情報及び関連技術を扱うため、根本的な統合が可能である。AUKUSが優先的に取り組む技術として掲げている人工知能、量子コンピューティング、サイバーは、諜報の最前線に位置する技術である。フランスがこのグループから除外された理由は、この地域で同じような利害関係を持ち、軍事力や活動力を持っているにもかかわらず、Five Eyesを特徴づけるシステムや関係性を共有していないからである。今後、AUKUSが防衛技術やデータを、フランスをはじめとする他の提携国と共有できるようになれば、AUKUSは地域に受け入れられ、実用的なものとなるだろう。
(6) AUKUSは提携国間の最も緊密な統合を象徴しているが、すべてをこなすことはできないし、他のグループに取って代わることもできない。この地域には新しい安全保障構造が必要であるが、それはNATOのような冷戦時代の傘とは異なり、複数の重なり合うグループで構成され、それぞれが異なる役割と強みを持つ必要がある。AUKUSの技術共有は非常に重要だが、それには限界がある。一方、QUADは中国に対抗できる最も強力な地域の競合相手として戦略的な政策を考え出し、地域秩序の共通の未来像を示し、広範囲な協力関係の中核として重要なグループである。日本時間の9月24日開催された初の首脳会談では、自由で開かれたインド太平洋を推進するという幅広い未来像が改めて示された。
(7) フランスやインドは、AUKUSに含まれることはないが、AUKUSにはできない別の役割を担っており、必要不可欠な存在となっている。両国はそれぞれ大きな軍事力、地理的優位性、継続的に影響するネットワークを持っている。また、オーストラリアとの2国間および3国間の提携を含め、この地域に積極的に関与している。したがって、AUKUS加盟国は、フランスとの関係を修復するために努力すべきである。なぜなら、中国との戦略的対立においては、重なり合う広範囲の提携が重要となるからである。ただし、すべての地域的課題が、広範で包括的な取り組みを必要とするわけではない。AUKUSが宣言している目標は、米国の同盟関係の中でも、またこの地域でも見たことがないような急進的で、さらに排他的であるからこそ可能なのである。
記事参照:AUKUS is deeper than just submarines

9月30日「国家理性を追求したオーストラリアによる原潜調達の決定―オーストラリア防衛・外交専門家論説」(The Strategist, September 30, 2021)

 9月30日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、防衛・外交問題担当の元記者であるGeoffrey Barkerの“The raison d’état behind Australia’s submarine decision”と題する論説を掲載し、そこでBarkerはオーストラリアがAUKUS協定による原子力潜水艦調達を決定したのは、国家の生存の追求と勢力均衡という伝統的な外交方針に従ったものであり、それはフランスにとっても馴染み深い考え方であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 最近発表されたAUKUS協定において、オーストラリアが英米との協力によって原子力潜水艦を調達する計画が示されたが、それはフランスとの協力により通常型潜水艦を建造するという計画の破棄を伴うものであった。その決定がフランスの怒りを惹起するのは当然のことであり、豪仏関係は深い傷を負った。しかしながらこのオーストラリアの決定は、究極的には、フランスにとって馴染み深い2つの考え方に基づくものであった。それは、国家理性と勢力均衡である。
(2) 端的に言えば、国家理性とは、生存という国家の最優先の目的に基づいて、たとえ誠実さや公正さを欠くものであっても、その対外政策を正当化するという考え方である。勢力均衡は、ある国ないし国家集団が、潜在的大国に対抗するために力を合わせることである。オーストラリアはこれまで常に、潜在的敵国との国力を均衡させ、それを抑止するために強力な同盟に安全保障を求めてきた国である。
(3) 2016年にオーストラリアがフランスの設計による潜水艦を調達するという決定は、南シナ海における中国の攻勢や香港の抑圧、台湾への威圧、南太平洋への影響力拡大によって少しずつ挑戦を受けてきた。さらに中国は海上および海中の戦力を着実に増強し、地域の航行の自由を脅かしてきた。今回のオーストラリアの決定は、ひとえに、さらなる中国の強大化を背景に、国家の生存と中国との均衡を目的としたものであった。
(4) フランスのオーストラリアに対する怒りは妥当なものであるが、歴史を振り返ってみれば、オーストラリアはフランスの外交的伝統に沿って行動していることがわかるだろう。Henry Kissingerは著書Diplomacyにおいて、国家理性を容赦なく追求したのは17世紀フランスのRichelieuであったと述べている。Kissingerによれば、Richelieuは国民国家とは正しい行いではなく、必要なことを実践できるほど強くなることで信頼を得るものだと述べたという。オーストラリアはまさに、強大な中国を背景に、正しいことではなく必要なことを行ったのである。
(5) オーストラリアの決定が最終的に勢力均衡をもたらすかは不明瞭である。重要なことは、Kissingerが問うたように、国家の利益が満たされたと思われるまでに、その国はどこまで行くのかということである。具体的に言えば、オーストラリアが原子力推進装置を得た先に、同国の核武装があるのかどうかということである。この先どうなるかはわからないが、現時点においてオーストラリアに選択肢はほとんどなかった。
(6) フランスの怒りに直面したオーストラリア国民のなかには、第1次大戦の西部戦線におけるオーストラリアの犠牲を持ち出す者もいるが、これは若者の悪口に等しい反応である。当時、オーストラリアが戦ったのは自分たちのためであった。われわれはこれまで常に生存と安定を求めてきたのであり、そのために友人を傷つけてしまうことがある。
記事参照:The raison d’état behind Australia’s submarine decision

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) AUKUS, Australian SSN Program and Their Implications
http://www.scspi.org/en/dtfx/aukus-australian-ssn-program-and-their-implications
South China Sea Probing Initiative (SCSPI), September 21, 2021
By Dr James Bosbotinis, a specialist in defence and international affairs, the Book Reviews Editor for The Naval Review (the UK’s professional journal for the Royal Navy)
 9月21日、英国の防衛問題専門家James Bosbotinisは、北京大学の南海戦略態勢感知計画のウエブサイトに“AUKUS, Australian SSN Program and Their Implications”と題する論説を寄稿した。その中で、①AUKUSの下での最初の主要な構想は、フランス設計のアタック級ディーゼル潜水艦12隻を取得するという計画に代わり、オーストラリア海軍のために「少なくとも8隻」の原子力潜水艦を取得することである、②オーストラリアは2025年頃から潜水艦を建造する予定であるため、それが就航するのは2030年代となるが、暫定的な能力の提供や訓練のために英国または米国の原子力潜水艦をリースするという選択肢もある、③AUKUSの共同首脳声明では「達成可能な最も早い時期にオーストラリアの能力を提供する」とされていることから、オーストラリアは既存の設計、おそらく米国のバージニア級原子力潜水艦を取得する可能性が高い、④アタック級計画に割り当てられていた660億ドルは、バージニア級を12隻調達し、必要な支援基幹施設の整備、建設、メンテナンスを行うのに十分な費用である、⑤オーストラリアは、英国よりも多くの原子力潜水艦とType26フリゲートを運用するつもりである、⑥この新たな提携とアタック級プログラムの中止について、フランスが反発し、インドネシア、マレーシア、そして中国が懸念を示した、⑦日米同盟とQUADが中心的な役割を果たしていることや、Five Eyesへの参加に対する日本の関心、そして日本の地政学的な位置を考えれば、東京の役割が強化されることを否定できない、⑧英語圏(Anglosphere)に根差しているAUKUSは、永続的な2国間同盟関係に基づく提携を米国に提供し、戦略的環境の変化に応じてさらに発展させることができる、といった主張を述べている。

(2) THE INDO-PACIFIC IS CALLING ISRAEL
https://www.9dashline.com/article/the-indo-pacific-is-calling-israel
9dashline, 27 September 2021
By Tuvia Gering is a research fellow at the Jerusalem Institute for Strategy and Security (JISS) specialising in Chinese politics and foreign policy, and emergency and disaster management.
 2021年9月27日、イスラエルのシンクタンクJerusalem Institute for Strategy and Security (JISS)のTuvia Gering研究員は、インド太平洋関連インターネットメディア9dashlineに" THE INDO-PACIFIC IS CALLING ISRAEL "と題する論説を寄稿した。その中でGeringは、8月上旬に開催されたASEAN主導の東アジアサミット(EAS)に米国のAnthony Blinken国務長官が出席したことは、10年前に米国がアジアに「ピボット」を宣言したHillary Clinton元国務長官と同様の動きであったが、その後、「アジア太平洋」の概念はより広範に定義される 「インド太平洋」 へと発展し、2017年の国家安全保障戦略(2017 National Security Strategy)および2019年のインド太平洋戦略(2019 Indo-Pacific Strategy)の発表を通じて、米国の外交政策および安全保障の最前線に登場することになったと指摘した上で、米国やその同盟国が、包括的な「自由で開かれたインド太平洋」と「法に基づく国際秩序」への誓約を確認する一方で、中国側はこうした動きを中国の一帯一路構想に対抗する「中国封じ込め戦略」であると、ますますみなすようになっていると述べている。そしてGeringは、次第に世界中のより多くの米国の同盟国が独自のインド太平洋戦略を採用することの重要性に気付き、最近ではEUもその動きに加わっているが、対照的に、イスラエルはすでに2017年までに「明確で目的を持った手法(clear and purposeful way)」でこの地域に軸足を移し、アジア太平洋戦略の枠組みを早くから採用したが、今後イスラエルが米国や欧州から中国やインドへと外交の重点を拡張しようとするならば、特にインドネシアとの関係を正常化することによって、日本、韓国、台湾、ASEAN諸国との関係を強化しなければならないと指摘し、たとえ世界最大のイスラム国家であるインドネシアがまだイスラエルを承認する機が熟していなくても、イスラエルの太平洋地域の同盟国、すなわちオーストラリアを通じてつながりを促進することができるだろうと主張している。

(3) THE U.S.-AUSTRALIAN ALLIANCE NEEDS A STRATEGY TO DETER CHINA’S
GRAY-ZONE COERCION
https://warontherocks.com/2021/09/the-u-s-australian-alliance-needs-a-strategy-to-deter-chinas-gray-zone-coercion/
War on the Rocks.com, September 29, 2021
By Ashley Townshend, director of foreign policy and defence at the United States Studies Centre, University of Sydney, and founding co-chair of the Track 1.5 U.S.-Australia Indo-Pacific Deterrence Dialogue
Thomas Lonergan, an intelligence officer in the Australian Army with previous operational experience in Afghanistan, East Timor, and the Philippines
Toby Warden, a non-resident research associate at the United States Studies Centre, University of Sydney
 2021年9月29日、オーストラリアUniversity of SydneyのThe United States Studies CentreディレクターAshley Townshend、オーストラリア陸軍情報将校のThomas Lonergan、およびオーストラリアUniversity of Sydneyの客員研究員Toby Wardenは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" THE U.S.-AUSTRALIAN ALLIANCE NEEDS A STRATEGY TO DETER CHINA’S GRAY-ZONE COERCION "と題する論説を寄稿した。その中でLonerganらは、オーストラリアが最近、豪英米(AUKUS)の防衛技術協力を通じて原子力潜水艦を取得することを決定したことなど、現在、中国の軍事的台頭を多国間協力のもとで抑止する努力がなされているが、中国が採用する、明らかな武力行使無しに戦略目標を達成するための非対称戦略、いわゆる「グレーゾーン戦略」が、今日のインド太平洋秩序を侵食していることは間違いないと指摘した上で、オーストラリアの潜水艦が就役するのは早くても2030年代後半になってからであり、それまでの間に自国の安全保障上の利益を効果的に守り、良好な戦略環境を形成するためには、中国のグレーゾーン戦略を阻止するためのより積極的な戦略を米国とオーストラリアが共同して追求すべきであると主張している。そしてLonerganらはこの米豪同盟が、中国のグレーゾーン戦略がもたらす様々な課題に適応できれば、インド太平洋の秩序を維持し、中国の高圧的な勢力範囲拡大の動きを抑止する上でますます重要な役割を果たすことになると指摘した上で、そうでなければ、この地域における国家間競争の最も重要な側面が失われ、同盟国の安全保障上の利益が損なわれることになるとし、戦略的創造性とリスクテイクへの意欲が、米豪同盟がこの課題にどの程度うまく対処できるかを左右すると主張している。