海洋安全保障情報旬報 2021年11月21日-11月30日

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11月22日「中国の砕氷船開発に米国はどう対応すべきか―米海軍将校論説」(High North News, November 22, 2021)

 11月22日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、米シンクタンクBrookings InstitutionでNavy Federal Executive Fellowshipに基づく研究員を務めるJeremy Greenwoodの“The Polar Silk Road Will be Cleared With Chinese Icebreakers”と題する論説を掲載し、Jeremy Greenwoodは中国が北極圏における存在感を拡大する一方で米国が手をこまねいている現状を指摘し、今後米国がどのような戦略を構想すべきかについて、要旨以下のように述べている
(1) US Coast Guard司令官Karl Schultzは、「北極圏における部隊の展開は影響力を意味する」と述べている。しかし米国が保有するのは、旧型の大型砕氷船「ポーラ・スター」と中型の「ヒーリー」のみである。前者は年に一度南極に派遣され、後者は海洋科学調査に利用される。どちらも、年間を通して北極圏において活動できるような船ではない。
(2) その一方、中国交通運輸部は新しい砕氷船と半潜水式重量物運搬船を開発すると発表した。既存の砕氷船は2隻あり、以前は原子力砕氷船開発が報じられたが、今回の発表はそれとは別のものである。こうした投資によって、中国は北極圏における基幹施設開発への強い決意を示したのである。
(3) 北極圏においては砕氷船以外の展開が無意味だと言いたいのではない。しかし、同地域における砕氷船の展開は、新たな戦略的競合の時代において他に類を見ない不可欠なものである。潜水艦と航空機は決定的な船舶輸送のための道を切り開かないし、石油漏出に対応できず、米国の北極圏における海の安全に資することはない。
(4) 米国は賢明なことに極海砕氷船(Polar Security Cutter)という新型砕氷船の建造に着手しているが、それが運用されるにはかなりの時間がかかりそうである。他方米国は、人間の活動の活発化に伴い紛争や自然災害が起きやすくなる北極圏での活動を確かなものにするような、実行可能な「架橋戦略」(この場合は米国が保有する北極に関連した資産と対応しなければならない事態とを結びつける戦略を指す:訳者注)を持たない。米国に今必要なのはそうした戦略である。
(5) 米国とその同盟国は、自らを「近北極国家」とする中国の主張を正当にも批判しているが、それも年々難しくなっている。というのも中国は毎年北極圏に砕氷船や調査船を派遣し、科学的・経済的投資を増大させているからである。いずれ北極圏での存在感において中国は米国を追い抜き、この地域における提携国としては好適な存在になるかもしれない。北極圏における米国の強みは、NATO加盟国を含む提携国との協調にあるが、そういった国々ですら、今後中国の役割増大を歓迎する可能性はある。
(6) 2020年、Trump政権が「北極・南極地域における米国の利益の擁護」という覚書を作成し、北極圏における実行可能な架橋戦略を構想した。そこでは、両極地における海上の砕氷船の展開を速やかに増大する方法を考えるために、省庁間の協力を指示した。しかし残念ながら、省庁間の利害対立は克服されず、議会による支出の承認を得ることもできなかった。
(7) 北極圏の通航、開発、漁業、観光や自然災害が増えている今、米国政府と議会が行動を起こすべきである。架橋戦略は、米国が年間を通じた海洋状況把握能力を維持し、救難・捜索能力を獲得し、砕氷船を利用したUS Coast Guardを訓練するというものとなるであろう。こうしたことは、基幹施設投資や新たな船舶建造の前にやっておかねばならないことである。
(8) 具体的には、外国の提携国から砕氷船を借り入れる、ないし購入することや、同盟国の海軍や沿岸警備隊との共同訓練、現在進行中の新型砕氷船建造の促進、既存の2隻が北極圏において行動可能になるための基幹施設投資が考えられる。そしてこうした構想の実現のためには、US Department of Homeland Security(国土安全保障省)やUS Coast Guard、そして議会の諸委員会が全体論的に検討する必要があるだろう。安価に済ませることはできない。しかし、世界最大の国が、北極圏に砕氷船を配備しないまま今後10年間過ごすことのほうが、それよりも高くつくのである。
記事参照:The Polar Silk Road Will be Cleared With Chinese Icebreakers

11月23日「インドネシアは無人潜水機の活動を規制すべし―インドネシア専門家論説」(The Interpreter, November 23, 2021)

 11月23日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、インドネシアUniversitas PadjadjaranのIndonesian Centre for the Law of the Sea(ICLOS)研究員Taufik Rachmat Nugrahaの“Regulating unmanned underwater vehicles in Indonesian waters”と題する記事を掲載し、Taufik Rachmat Nugrahaはインドネシアがその海域における無人潜水機(以下、UUVと言う)の活動を規制すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インドネシアのシンクタンクIndonesia Ocean Justice Initiativeによると、2018年から2021年1月にかけて、大量の中国船がインドネシアの海域内を行動中に、海上で船舶を追跡するための船舶自動識別装置のAIS受信機を「切」にし、違法な海洋科学調査を行っていた。
(2) 1982年に締結された国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)では、海洋科学調査のためのUUVの運用については言及されていないが、2010年にUN Division for Ocean Affairs and the Law of the Sea, Office of Legal Affairs(国連海洋問題・海洋法局法務部)が示した指針では、無人潜水機の使用が認められている。UNCLOSでは、沿岸国の領海、排他的経済水域、大陸棚で海洋調査を行うことを希望する第三国に対して、「同意する体制」(consent regime)を得ることを求めている。残念ながら、UNCLOSもこの指針も、民間または軍による海洋調査を区別していない。
(3) 南シナ海における領有権の主張をめぐる争いによって生じている緊張により、UUVがより広範な紛争の引き金になる可能性は無視することができない。2016年においてすでに、中国海軍はフィリピンのスービック湾北西の国際水域で、米海軍が中国の海洋活動の偵察を行っていると主張し、米海軍海洋調査船「ボウディッチ」のUUVを不法に拿捕した。米国は、中国の海域ではなく国際水域で軍事調査を行っていたとしており、これはUNCLOS及びその後の指針で認められている。
(4) インドネシア当局が、中国のUUVがインドネシアの海域に存在することに不安を感じるのは当然である。目下の論点として、オーストラリアが原子力推進技術を取得することを支援する、最近のAUKUSの発表に見られるように、潜水艦への関心が高まっていることから、インドネシアは、地域の対立が自国の海域に波及する可能性に注意しなければならない。
(5) UNCLOS第19条では、海洋科学調査を行う船舶は無害通航とはみなされないことが明記されている。この条項は、第258条が述べているように「海洋環境のいかなる区域においても、科学的調査のためのいかなる種類の施設又は機材の設置及び利用」もまたこの条約の影響下にあると認識するならば、UUVを含む機材にも適用できるだろう。「機材」という言葉は、調査船が展開するUUVとして解釈することもできるかもしれないが、これについては今後も議論が続くだろう。
(6) より良い規制が必要である。UUVは、海洋環境に対する我々の理解に革新性をもたらす手段である。特に、何千もの島々からなるインドネシアにとって、UUVの利用は科学と安全保障にとって非常に重要である。そして、インドネシアの海域をUUVの侵入行為から守るために、インドネシア当局は、事実上科学目的か軍事目的かを問わず、同国の海域におけるすべてのUUVの利用を規制すべきである。
記事参照:Regulating unmanned underwater vehicles in Indonesian waters

11月24日「AUKUSに対抗して東南アジア非核兵器地帯条約の締結を早めたい中国―香港紙報道」(South China Morning Post, November 24, 2021)

 11月24日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China backs nuclear weapon-free zone in Southeast Asia in move to ‘contain Aukus’”と題する記事を掲載し、中国はできるだけ早い時期に東南アジア非核兵器地帯条約(以下、SEANWFZと言う)に署名する意思があり、豪英米の安全保障条約であるAUKUSの登場により、この過程が加速する可能性があるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 評論家たちによると、中国は東南アジアに非核兵器地帯を設けることについて支持を表明しているが、これは新しい安全保障条約であるAUKUSへの懸念に押されて、地域の提携を強化しようとしているためである。中国政府は20年以上前から、核兵器をこの地域に持ち込まないというASEANのこの条約の議定書に署名する意思を示しているにもかかわらず、まだ署名を行っていない。しかし、オーストラリア、英国、米国の間の新しい提携による圧力によって、この過程が加速される可能性があると、彼らは述べている。習近平国家主席は11月21日、ASEAN首脳に対し中国は非核兵器地帯の構築に向けた取り組みを支持し、条約の議定書に「できるだけ早く」署名する意思があると発言した。1995年にASEAN諸国が署名したSEANWFZは、この地域に核兵器やその他の大量破壊兵器が存在しないことを誓約するものである。北京は、数年以内に条約の議定書に署名する意向を示したが、現在のところ、中国、米国、ロシア、英国、フランスの核保有国5ヵ国はいずれも署名していない。議定書の下では、核兵器を開発せず、製造せず、保有せず、そのためのいかなる支援も受けないことが義務づけられる。
(2) 広州にある曁南大学フィリピン研究センターの代帆によると、特に南シナ海や台湾海峡において中国政府と米政府の間の緊張が高まる中、ASEAN諸国はこの議定書が締結されることを望んでいるという。また、インドネシアとマレーシアはAUKUSによってオーストラリアが原子力潜水艦を取得することに強い反対の意思を表明しており、彼らの姿勢は「中国の立場と一致している」と彼は指摘した。代所長は、北京は非核兵器地帯を推進することで緊張を緩和し、「AUKUSを封じ込める」ことを目指していると述べている。
(3) 北京のCarnegie-Tsinghua Centre for Global Policyの核政策に関する上席研究員趙通は、中国の関心は地域的な結びつきに移っており、米国との敵対関係を考慮すると、他の核保有国との連帯にはあまり関心がないとして、「中国は技術的な観点から議定書に実質的な提案をしていない。しかし、米国をはじめとする他の核保有国は、議定書によって自国の核兵器の運搬手段の配備が制限されるのではないかと懸念している。議定書への支持を表明することは、ASEANとの緊密な関係を築くための方法でもある」述べている。
記事参照:China backs nuclear weapon-free zone in Southeast Asia in move to ‘contain Aukus’

11月24日「中国に白旗を揚げるのは早すぎるーオーストラリア専門家論評」(The Strategist, November 24, 2021)

 11月24日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、 同Institute常任理事で元オーストラリア国防省戦略担当国防次官Peter Jennings の“Too soon to be waving the White flag on China”と題する論評を掲載し、Peter Jennings は11月22日付のオーストラリア日刊紙 The Australian  に掲載されたAustralian National University名誉教授Hugh Whiteの論説に反論して、8つの理由を挙げて、中国に屈するべきではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) Australian National University名誉教授Hugh Whiteは、11月22日付のオーストラリア日刊紙 The Australian で「中国との戦争に向かうことは米国の指導力を打ち砕くことになりかねない。核戦争の可能性は『極めて高い』。そして、米国が勝利する可能性は非常に低い」と指摘し、Whiteはさらに「米国が勝利する可能性が低いということは、中国が米国の脅しと呼ぶ危機を引き起こす可能性が高い」と述べている。そのような敗北という悲惨な予想に直面して何を為すべきか?Whiteによれば、権威主義国に対する民主主義国を支援することが必要不可欠であるか否かを検討しなければならない。「戦争を回避すべき決定的な理由がある。戦争の対価は、中国が主導する新しい地域の秩序の下で生活していくための対価よりもはるかに高いからである」とWhiteは言う。
(2) 香港、新疆ウイグル、チベット、さらには中国本土全てに適用されている習近平のレーニン主義的権威主義について我々が知っていることを考えると暗い将来になるだろう。共産中国に支配された地域におけるオーストラリアの生活はどのようなものだろうか?2020年に中国当局者がオーストラリアの報道陣に手渡した14項目の抗議のリストを見れば事が足りる。11月20日、中国駐オーストラリア大使代理王晰寧は抗議のリストはメディアのねつ造だと主張し、抗議項目は14項目以上になるべきだと11月19日付の英紙The Guardianに語っている。そして、責任はオーストラリアのせいにしているのはもちろんである。
(3) このような世界は我々の未来であってはならない。Whiteは、中国、米国、地域、軍事
力の均衡について誤った方に向かっており、オーストラリアについても間違っている。ここに8つのその理由がある。
a. 第1に、米国はアジア太平洋から離れつつあるわけではない。米経済は依然世界最大である。購買力平価において中国が首位にあることは、ハードパワーを生み出す能力の指針とはならない。中国が豊かになる前に高齢化しているという見込みに直面している時に、米国の革新的な能力と若い世代が中心にある人口構成が芯となる強さを維持している。
b. 第2に、米軍事力はどの視点から見ても依然戦略的に支配的である。そのことが、中国が米国及びその同盟国から国防上の知的財産を盗もうとする理由である。中国は台湾に関して地理的優位を保持している。しかし、その優位が持つ鋭さは紛争においては急速に鈍化するだろう。そして、中国はそのことを知っている。
c. 第3に、キビキビとした観閲行進に騙されてはいけない。人民解放軍は急速に増強されている。しかし、依然2番手の軍隊である。中国の軍事文献は、隠身性からジェットエンジン、統率の失敗、実戦経験の欠如まであらゆることの欠陥に焦点を当てている。行動中であっても中国の潜水艦乗組員は毎日、何時間も政治将校の指導の下、習近平思想について学ばなければならない。人民解放軍は、米国やオーストラリアのような第1級の軍の能力、柔軟性、革新、訓練に到達するためには長い道のりが必要である。
d. Whiteが誤っている第4の理由。Whiteは、「オーストラリア、あるいは日本でさえも戦闘に参加するか否かで大きな差異はない」として同盟国は重要ではないと述べている。しかし、民主主義国が共同することによって生じる圧力は、真の同盟国を持たない中国をはるかに超えている。中国が急速に核保有量を増大させていることを考えると、11月22日に行われたASEANに対する習近平の演説で非核地帯を支援するとする表明したが、ASEANがその姿勢を受け入れる可能性は低い、
e. 第5に、抑止は今日まで機能してきた。中国は、米国の力に非常に慎重であるため、いわゆるグレーゾーンに全力を傾注しており、対応行動を招くことなくどの程度グレーゾーン作戦から離脱できるかを見ている。通常兵器による紛争への一線を越えることは、北京にとって新たな、厳しい段階となるだろう
f. 第6の点は、中国はその経済における深刻な構造的弱点に直面しており、抑圧的で腐敗した政治的階層とイヤイヤ服従している大衆に悩まされている。中国共産党が最も重視するのは支配の継続である。中国共産党は自国民の恐怖の中で暮らしている。習近平は危険な愛国主義の波に乗っており、その波は台湾に関しては習近平を支援するかもしれないが、容易に党を崩壊させるかもしれない。
g. 第7の点は、習近平が68才ということである。習近平が永遠に存在することはなく、中国の多くの友人を失った戦狼外交という馬鹿げた考えのような政策の誤りを説明するために呼び出される(すなわち、被告人席に立たされる:訳者注)かもしれない。
h. 最後に、オーストラリアは役に立たないわけではない。オーストラリアは政策を策定し、国際的な支援を勝ち取る能力がある。これが、中国の5G技術の導入を拒否し、Covid-19について正確な説明を求めて挑んでくるオーストラリアを罰したいと中国が考える理由がまさにこれである。
 オーストラリアが十分に明敏であれば、中国を押し返すためにオーストラリアはその軍事力を強化し、地域の抑止力を補強し、友好国、同盟国の連合を形成することができる
(4) これらはいずれも容易ではない。Hugh Whiteが紛争の対価を懸念することは正しい。しかし、オーストラリアは屈服する必要はない。オーストラリアには、国と生活様式に重要なことのために立ち上がる自信、闘志、意欲が必要である。
記事参照:Too soon to be waving the White flag on China

11月26日「オーストラリア政府による南極飛行場建設計画破棄が持つ意味―オーストラリア防衛問題専門家論説」(The Interpreter, November 26, 2021)

 11月26日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、オーストラリア政府で20年にわたり上席分析官を務めたClaire Youngの“Opportunity lost: Australia’s Antarctic aerodrome cancelled”と題する論説を掲載し、そこでYoungはオーストラリア政府が南極大陸における飛行場建設計画を破棄したことに言及し、南極大陸への影響力を中国とロシアが強めようとしている中で飛行場建設計画破棄がどのような意味を持つか、オーストラリアは今後どう行動すべきかについて、要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリア政府は、南極大陸においてオーストラリアが領有権を主張する領土のDavis基地近くに小型飛行場を建設する計画を立てていたが、それを破棄すると発表した。その理由として政府は環境への懸念を強調したが、実際には費用や技術的困難さが大きいのであろう。飛行場建設計画破棄が意味するのは、オーストラリアが南極関連の会議などにおける影響力拡大や南極への出入り拡大の機会を諦めたということである。
(2) 1959年の南極条約の下、実際にはいかなる国も南極大陸に領有権を主張することはできない。したがって、もし仮にオーストラリアが諦めた場所に中国やロシアが何かを建設するようなことがあれば、それを止めることはできないし、その機会の喪失が持つ含意はより大きなものとなるだろう。
(3) ただし、そうした飛行場が中国にとっての軍事資産になるかもしれないという懸念には、あまり根拠はない。南極から何らかの攻撃を展開するには、気候変動を踏まえてもその環境は厳しい。中国は、南極を飛び越えてアメリカを攻撃できる超音速ミサイルを実験したと伝えられているが、南極周辺海域からそうしたミサイルを中国軍艦が発射するとしても、南極大陸の基地からの補給を必要とすることはないだろう。
(4) オーストラリアが飛行場建設計画を破棄したことによって、環境被害を懸念する方面からの批判を避けることができるだろうし、単独でそれを実施したことによって条約の精神に違反しているという批判を受けずに済むことになろう。中国やロシアなどが、特に漁業に関する南極の「活用」を主張し、南極条約システムにおける諸制限を取り払おうとしている時、条約遵守を大事にしているという評判はオーストラリアにとって重要である。
(5) 中国は必ずしも南極条約システムを望ましいとは思っていないが、あくまでその枠組の内側での諸々の修正を目指しているのである。中国は「南極の海洋生物資源の保存に関する委員会」(以下、CCAMLRと言う)による新たな海洋保護区の設定を妨げるため、その設定に関して、より科学的で複雑な手順を求めている。また中国は南極での漁業制限を緩和することで、世界の別の場所で同様な制約が課されないように試みているのである。
(6) ロシアは現在、CCAMLRにおいて南極条約システムそのものを動揺させる可能性のある動きをしている。今年ロシアは、サウスジョージア島周辺のメロ漁における漁獲制限に関する合意を妨げた。ロシアの意図は、同島が英国とアルゼンチンに領有が主張されているので、その論争をかき乱すことにあるのかもしれないという指摘がある。合意がなされなければ、両国はその論争を外部の調停に委ねなければならなくなるが、それは全体として南極条約システムに影響を及ぼすかもしれない。なぜならそのシステムは、自説を言い立てたり、正統性を疑われるような主張ではないものの上に成り立っていたりするからである。そうした中国やロシアの動きを、CCAMLRの多くの加盟国が批判しているのは喜ばしいことである。オーストラリアは英国とアルゼンチンとの間に立って何らかの合意を促進すべきだろう。
(7) 南極におけるオーストラリアにとっての利益は、同大陸の非軍事化、そして天然資源および漁業資源を保護することなどである。条約が失効したときに長期的な戦略的価値を持つ飛行場建設をオーストラリアが諦めたのは残念なことだが、オーストラリアの今の課題は、条約システムが機能不全にならないように外交と科学を駆使することである。
記事参照:Opportunity lost: Australia’s Antarctic aerodrome cancelled

11月27日「5ヵ国防衛取極(FPDA)50周年の意義-オーストラリア専門家論説」(East Asia Forum, November 27, 2021)

 11月27日付、Australian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUMは、同大学National Security College博士候補Abdul Rahman Yaacobの” Keeping the Five Power Defence Arrangement relevant at 50”と題する論説を掲載し、ここでYaacobは、米中の緊張が高まる中、マレーシアとシンガポールは、中国との貿易関係の重要性と、5ヵ国防衛取極(FPDA)の防衛関係の重要性を再評価しなければならないと、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年11月、オーストラリア、英国、ニュージーランド、マレーシア、シンガポールの5ヵ国防衛取極(以下、FPDAと言う)が50周年を迎えた。今後は、オーストラリアとインドネシアの防衛関係や、豪英米の3ヵ国による安全保障協力AUKUSとの関連から、その将来性が問われることになるであろう。
(2) FPDAは1971年に締結されたが、その背景には英国の東南アジアからの撤退とインドネシアによる潜在的な安全保障上の脅威があった。1970年代から1980年代にかけて、インドネシア、マレーシア、シンガポールの関係が良好になるにつれ、FPDAは締結国の関係を維持するために発展していった。
(3) 冷戦時代最後の10年間、マレーシアとシンガポールはソ連からの新たな安全保障上の脅威に対処しなければならなかった。ソ連はベトナムのダナンやカムラン湾の軍事施設を利用できるようになると、インド洋や南シナ海で強固な軍事的存在感を示すようになった。ソ連の戦闘機がマレーシアとフィリピンの領空に侵入し、さらに南シナ海で米空母を攻撃する演習を行っていたことが、機密文書の開示により明らかになった。加えて、ソ連はマレーシアとシンガポールの海上交通路を脅かす存在として、この海域で多くの潜水艦を運用していた。
(4) FPDAは1980年代、変化する安全保障上の脅威に対応するため、軍事演習の範囲を拡大し、マレーシアとシンガポールの防衛能力を強化した。1980年代後半、FPDAの演習には潜水艦戦と電子戦が含まれていた。冷戦が終わった後、FPDAはその妥当性を維持するために、別の形の安全保障上の脅威を検討し始めた。その結果、FPDAは非対称的な脅威やテロリズムなどの非伝統的な課題に目を向けるようになった。
(5) 近年、東南アジアの戦略環境は大きく変化し、インド太平洋地域では米中の対立が激化している。中国は、南シナ海の大部分を自国の海域と主張して滑走路やミサイルを備えた人工島をいくつも建設し、それはブルネイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムとの領土問題になっている。中国の軍事力増強とこの地域への軍事力の展開に対し、米国は2011年、Obama前大統領によるアジアへ軸足を転換する政策を皮切りに、北京との対峙に力を注ぐようになった。この流れは現在も続いており、Biden政権ではアフガニスタンへの軍事的関与を縮小し、AUKUSを結成した。
(6) 東南アジアの安全保障状況が変化する中、FPDAは次のように重要な役割を果たしている。
a. マレーシアとシンガポールの軍隊に交流と協力の場を提供し、両国の軍隊間の信頼醸成の機構として機能している。マレーシアとシンガポールの関係は、安全保障の分野で時折、不安定な状況が起きている。例えば、2018年末から2019年初めにかけて、シンガポール西方沖の海洋紛争を巡って、両国の警備艇が対峙した。最近では2021年9月、マレーシア警察のヘリコプターがシンガポールの領空に無許可で侵入したことに対し、シンガポールはF-16戦闘機を緊急発進させた。2国間の紛争がこれ以上拡大しないようにするためには、マレーシア軍とシンガポール軍の間で信頼と信用を築く必要がある。 
b. FPDAは、オーストラリア、英国、ニュージーランドが東南アジア防衛上のつながりを維持し、マレーシアとシンガポールの防衛力に脅威を与えない形で貢献するための土台を提供している。
c. マレーシアにおけるオーストラリアの軍事的展開は、主に「ゲートウェイ作戦」を通じて、この海域におけるマレーシアの監視能力を向上させた。また、オーストラリアは、南シナ海やインド洋の状況が認識できるようになったことで、この協定の恩恵を受けている。シンガポールにとって、東南アジアに友好的な欧米の軍事力を持つことは、この地域における力の均衡の地位を確保するための戦略の一環である。
(7) マレーシアとシンガポールにとってFPDAは有用であるにもかかわらず、いくつかの課題を抱えている。
a. インドネシアの一部の指導者は、FPDAがインドネシアの潜在的な冒険主義を抑止するために設立されたことから、FPDAを刺激的なものと考えている。オーストラリアは、FPDAへの関与と、インドネシアとの関係を深めたいという願望を両立させる必要がある。インドネシアのFPDAに対する認識を改善する一つの方法は、インドネシアがFPDAの軍事演習にオブザーバーとして参加することであり、最近シンガポールのLee Hsien Long首相がそれを提唱している。
b. 懸念事項として、米中の対立が激化していることがある。マレーシアもシンガポールも、中国と強い経済関係にある。AUKUSの結成は、それを脅威と見なす中国から非難を浴びた。FPDAの加盟国であるオーストラリアと英国は、AUKUSの加盟国でもある。米中の緊張が高まり、2つの超大国間の関係が崩壊するというシナリオでは、オーストラリアと英国が、米国を支持する可能性が高い。マレーシアとシンガポールの防衛関係は、オーストラリアと英国との2国間関係またはFPDAを通じた関係であるが、中国に監視されることになる。その場合、マレーシアとシンガポールは、中国との貿易関係の重要性とFPDAの西側諸国との防衛関係の重要性を再評価しなければならない。
(8) 最終的に、どちらかを選ばなければならないということは、マレーシアとシンガポールが避けようとしていることである。FPDAが今後50年にわたって有用であり続けるためには、この現実を認識する必要がある。
記事参照:Keeping the Five Power Defence Arrangement relevant at 50.

11月28日「中国の軍備増強に対して米国はどう対応すべきか―米核・国家安全保障問題専門家論説」(The National Interest, November 22, 2021)

 11月28日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、Center for Arms Control and Non-Proliferation上席研究員John Isaacsの“The Pentagon’s China Report: Reading Between the Lines”と題する論説を掲載し、そこでIsaacsは11月初めにUS Department of Defenseが発表した報告書に言及しつつ、中国の軍備増強に対して米国は軍事力という観点からだけではなく、包括的な方針を立案する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年11月初めに、US Department of Defense(米国防総省:以下、DODと言う)は、「中華人民共和国に関する軍事・安全保障の展開」という報告書を発表した。それは、ここ数年の中国の軍事的増強とそれが突きつける安全保障上の脅威について列挙するものであり、将来の危険な軍事的衝突を予言するようである。しかし、冷戦期のような対決志向でのみ、それを解釈することは危険である。
(2) この報告書に関するメディアの報道は、それが突きつける危険を煽っているようである。たとえばNew York Times紙は、「中国、2030年までに核弾頭を1,000発保有、DOD報告」という見出しをつけている。Washington Post紙やFoxニュースなども同様である。
(3) しかし、新しい報告書それ自体も、それに関するメディアの報道も、そうした事実の背後にある重要な側面を見過ごしてしまっている。たとえば報告書は、アメリカが現在保有する核弾頭の数が3,800発であることに言及していない。また、中国はたしかに核弾頭を増やすことができるかもしれないが、おそらく高額になるそうした計画を本当に推進するかどうかは明らかではないのである。
(4) 海軍に関する記述も同じ傾向がある。報告書は、中国が「数の上では世界最大の海軍力」を持つとし、水上艦艇と潜水艦を合わせて355隻の戦闘艦艇を保有していると述べる。「数の上では」そうなのだろうが、Brookings InstitutionのMichael O’Hanlonが指摘するように、大型かつ先端的な艦船に関して言えばアメリカのほうが中国よりも多くそれらを保有しているし、中国海軍の行動能力が近海に限定される一方でアメリカのそれは世界的規模なのである。空母発艦の航空戦力についても、アメリカの戦力は中国の10倍と見積もられる。
(5) さらにDOD報告は、中国の経済成長を過大評価している。ここ数十年の間のそれは確かに目覚ましいものであったが、近年その勢いに陰りがあるという指摘もされている。たとえば米シンクタンクAmerican Enterprise Instituteの2人の研究者がForeign Policy誌に投稿した論文によれば、中国の2007年の経済成長率は14%であったが、2019年には6%に低下し、さらに現在2%まで落ちているという研究もある。
(6) またこの論文が指摘するのは、近年の中国の攻撃的方針や人権蹂躙政策が多くの国の否定的反応をもたらし、結果的に中国にとっての市場がどんどん狭められているという事実である。そうした市場は、これまで中国が堅調な経済成長のための淵源としてきたものである。
(7) 潜在的な脅威に対して慎重に向き合い、最悪のシナリオを検討するのは確かにDODの任務である。しかし、われわれはそれを最終警告と受け止めるべきではない。われわれは歴史から学ぶことができる。たとえば1980年代末のDODによるソ連の評価報告書は、ソ連の軍備拡張が突き付ける脅威を強調したが、しかしソ連はその3年後に解体したのである。
(8) 同様に中国が早晩内部崩壊すると言いたいのではない。私が言いたいのは、政策を決定する際に安全保障に関する狭い分析だけに依存し過ぎてはいけないということである。冷戦は、軍事支出によってだけではなく、同盟の強固さ、自由な市場、民主的価値において勝利した。中国の軍備増強に対する方針も、核兵器や艦艇の数だけに目を取られるのではなく、関連するあらゆる政策を考慮に入れて立案されねばならない。
記事参照:The Pentagon’s China Report: Reading Between the Lines

11月29日「Duterte後、フィリピン、米国寄りに回帰へ―フィリピン専門家論説」(China US Focus, November 24, 2021)

 11月24日付の香港China-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、フィリピンPolytechnic University of the Philippines准教授で南シナ海問題専門家Richard J. Heydarianの “After Duterte: Is the Philippines Pivoting Back to the U.S.?”と題する論説を掲載し、ここでRichard J. HeydarianはDuterte後のフィリピンが米国よりに回帰すると見、要旨以下のように述べている。
(1) Duterte大統領の就任当初からの対中宥和政策は上々のスタートを切ったが、2つの重要な要因によって損なわれた。第1に、北京の大規模な基幹施設投資の約束がほとんど果たさなかったことから、批判者は中国を「約束不履行」として非難し始めた。懐疑的な国民世論、規制の不確実性、そして契約条件と金利に関する慢性的な意見の相違が相まって、大規模な中国資本による計画が頓挫した。第2に、フィリピンが2016年の仲裁裁判所裁定を持ち出しても、北京が「9段線」主張に固執するために、中比双方は法的見解の相違を超えて、南シナ海における協力を深化させる如何なる合意も達成できなかった。さらに、2019年の中国海上民兵船によってリード堆(中国名:礼楽礁)でフィリピン漁船が沈没させられたことや、2021年のウィットサン礁(中国名:牛軛礁)を巡る数カ月に及ぶ対峙など、一連の主要な事案も中国との協力に対するフィリピン国民の懐疑的な見方を一層強めさせることになった。
(2) 対中経済協力の深化の挫折、南シナ海における緊張の激化、そして中国に対してより強い姿勢を求める国民世論に直面して、フィリピンの国家安全保障担当者達は、米国との捻れた関係を回復する機会を捉えた。長年にわたり、その多くが米国で訓練を受けた、伝統的に米国志向のフィリピンの防衛・外交政策当局者は、南シナ海における中国との防衛協定や協力協定の締結に抵抗してきた。実際、フィリピンの戦略エリートは、2019年に米国と281回の2国間軍事演習を実施するなど、長年に亘って米国防省との防衛協力の拡大を着実に推進してきた。 退役将官で元駐米武官のLorenzanaフィリピン国防相とHarvardUniversity出の弁護士でジャーナリストのLocsin Jrフィリピン外相は、米国との防衛協力の維持とさらには拡大さえも一貫して支持してきた。両大臣は、しばしば多彩な表現でフィリピン海域への中国の侵入を公然と批判してきた。
(3) フィリピン防衛担当者による絶え間ないロビー活動の前に、Duterte大統領は7月下旬のAustin米国防長官のマニラ訪問時に、米国との「米比訪問部隊に関する地位協定(The U.S.-Philippines Visiting Forces Agreement: 以下、VFAと言う)」について、完全復活することに合意した。その直後、フィリピンの国防、外務両相は、比米関係の要石である「比米相互防衛条約(以下、MDTと言う)」70周年を記念してワシントンを訪問した。比米両国の外務、国防両相は、2021年後半に2国間戦略対話を再開し、2022年初めに外務、国防両相による2プラス2閣僚会議を実施し、更には海洋安全保障協力を強化するための新たな防衛枠組みについて交渉することにも合意した。
(4) VFAの復活に成功した両国は、現在、米軍部隊に南シナ海に近接した枢要な軍事拠点における装備や戦略物資の事前備蓄を認める、「防衛協力強化協定(EDCA)」の完全履行を重視している。実際、2021年のワシントンでの講演で、Lorenzana国防相は域内の緊張激化に鑑み、海洋安全保障協力を一層深化させるために、MDTの大幅な強化を提案した。比米2国間関係が急速に改善されつつある中で、新たに任命されたフィリピン軍最高司令官のFaustino Jr将軍は最近、南シナ海の大々的な2国間軍事演習が近い将来「本格的」に再開されるであろうとし、2022年には300回以上の共同訓練が予定されていると語った。あらゆる兆候から見て、2022年半ばに新たなフィリピン大統領が就任する前から、比米両国は、急速に前世紀からの同盟関係を復活させつつある。
記事参照:After Duterte: Is the Philippines Pivoting Back to the U.S.?

11月29日「US Department of Defense、世界規模の態勢見直しの終了を発表―US Naval Institute報道」(USNI News, November 29, 2021)

 11月29日付のThe U.S.Naval Instituteのウエブサイトは、“Pentagon Announces Completion of Global Posture Review”と題する記事を掲載し、同日完成が発表されたグローバル戦力配備レビューの内容の一部と、それが海軍戦力の変更にとってどのような意味を持つ可能性があるかについて、要旨以下のように報じている。
(1) 11月29日、米Department of Defense(国防総省、以下DODと言う)は「世界規模の態勢見直し」(Global Posture Review:以下、GPRと言う)の終了を発表した。この文書の内容は公開されないが、その要点だけが政策担当国防次官代理のMara Karlinによって明らかにされた。
(2) Karlinによれば、米軍の優先的地域はインド太平洋になる。GPRは、インド太平洋における同盟や提携国との協調の強化を求めている。それは、中国の軍事侵攻の可能性や北朝鮮の威嚇に対応するためである。具体的には、オーストラリアやグアムを含めた太平洋島嶼部における弾薬貯蔵庫、飛行場、兵站施設などの基幹施設改善や、オーストラリアにおける輪番による航空機配備などが含まれる。
(3) GPRはインド太平洋地域以外に関しては、ドイツにおける米軍駐留を指摘している。Trump政権期に決定された在独米軍の削減を、Biden大統領が撤回したのである。また、ドイツとベルギーにおける7つの米軍施設を維持することになるであろう。GPRは中東と中南米についても述べているが、Karlinはほとんど言及しなかった。
(4) DODは、GPRが海上戦力にどう影響を及ぼすかについての詳細を示さなかったが、海軍作戦部長のMike Gildayが4月に述べたところによれば、①GPRは海軍の戦力配備に変更をもたらすだろう。②Austin国防長官は国防戦略を更新しようと考えており、GPRはそのための重要な指針になるであろう。③このとき最も重要なのは空母の存在であろう。としている。なお今後の艦隊編成について、DODと海軍は別々に研究を行っている。
(5) Gilday作戦部長は、更新された国防戦略は米軍が世界的にどう展開するか、そして中国の潜在的脅威に対してどう準備するかについて、われわれに指針を与えてくれるだろうと述べている。そしてそれは、地域的にも国内的にも戦力配備の変更につながるであろう。
記事参照:Pentagon Announces Completion of Global Posture Review

11月30日「通常型潜水艦で中国に対抗-米専門家論説」(The National Interest, November 30, 2021)

 11月30日付、米隔月刊誌The National Interest電子版は、U.S. Naval War College海洋戦略教授James Holmesの” Diesel Submarines Can Help Resist China”と題する論説を掲載し、ここでHolmesは米国が通常型潜水艦を導入して西太平洋の紛争に備えるべきと、要旨以下のように述べている。
(1) 米海軍が通常型潜水艦(以下、SSKと言う)の艦隊を保有する必要性として、以下のようなものが挙げられる。
a. 西太平洋での紛争にあっては、米国の回復力をSSKにより示すことで、戦争を抑止できる。抑止力とは、能力とそれを使用する目に見える決意から生まれ、加えて、それを持続する力にある。敵は、敵対者の温存能力を鈍らせることができないと判断すれば、戦いを始めることを躊躇する。万が一、戦争になったとしても、SSK部隊は、米国とその同盟国、特に日本が戦争に勝つために有用である。
b. SSKは同盟国の艦隊の中核となり得る。海上自衛隊と共通のSSKを調達し、共同部隊を編成し、それを戦域に常駐させることで、米国が日本を守る任務に参加していると示すことができる。日本政府はそのような艦隊に信頼を置くことになり、同盟は強化される。
(2) 同盟国や友好国との信頼関係を維持することが、米政府にとってどれほどの価値があるかは、いくら強調してもし過ぎることはない。アジアに基地がなければ、アジアにおける米国の戦略的地位はない。米海軍の一部を多国籍艦隊に統合することは、多国籍の連帯感を強く主張することになり、基地の利用を保証することにもつながる。
(3) SSKは、この地域の戦略的環境に適している。同盟国の海洋戦略が、中国やロシアの船舶を第一列島線内に封じ込めることを目的としているのであれば、その傾向はさらに強くなる。核兵器推進派は、海峡や狭い海域を閉鎖するには、SSKは不向きだと主張し、原子力潜水艦(SSN)がSSKよりも優れている点として、長期の水中滞在や高速巡航を挙げている。しかしSSKはSSNに匹敵する必要はなく、その任務を遂行するのに十分な性能を持ち、大量に購入できるほど安価であればよい。第2次世界大戦中、米海軍太平洋艦隊の潜水艦部隊は日本本土、そして日本海軍を苦しめた。冷戦時代、海上自衛隊はソ連や中国の船舶に対して同様の戦術を展開した。どちらの海軍も島嶼を上手く使用した戦略を効果的に遂行していたが、その際に運用されていたのは現在よりも初歩的なSSKだった。
(4) 連合軍の潜水艦部隊は島の周辺を守るために、猛烈な速度と無限の水中持続力を持つSSNを必要としない。SSNは外洋での戦闘には優れているが、監視任務には過剰な能力で、コスト高、つまり無駄が多い。日米の艦隊は、水陸両用部隊、島に駐留するミサイル部隊、上空を飛行する航空機、適切に配置された機雷原と連携して障壁を守る潜水艦を必要とする。その潜水艦は、島々に沿って静かに待機し、攻撃のチャンスを待たなければならない。SSKならそれが可能である。十分な数の潜水艦が常に見張っていることを保証するためには、多くの潜水艦が必要であり、また、喪失した場合に哨戒線を補完する予備艦も必要である。
(5) 日米の潜水艦は、琉球列島に沿って配備されるのであれば、充分に輪番を維持できる。海上自衛隊のSSKは19隻で運用されているが、指導者たちはもっと増やしたいと思っている。十数隻の米国のSSKを合わせて運用すれば、黄海や東シナ海、オホーツク海の船舶を襲撃するような攻撃的な任務にも十分な隻数を備えた潜水艦隊ができる。これは時代に合った戦力であり、SSNに比べて低価格で手に入れることができる。
(6) 日本の最新「そうりゅう」型の価格は、6億3,100万ドルで、米海軍の最新バージニア級SSN(32億ドル)の5分の1である。SSN1隻分の価格でSSK4隻を手に入れると仮定した場合、米海軍はバージニア級3隻分の費用で12隻の艦隊を編成できる。あるいは、SSNではなく、攻撃能力の低い沿岸作戦用の戦闘艦(LCS)と比較すれば、SSKと1対1で交換できる。最新のLCSが6億4,600万ドルであるのに対し、「そうりゅう」は6億3,100万ドルである。
(7) SSKの増強は、同盟関係の政治、戦略的環境、予算の現実との適合性が示す以上に説得力がある。また、「最も早く戦闘力を回復できる戦闘員が、戦争で最も勝利する可能性が高い」という説もある。これはAlfred Thayer MahanやJ. C. Wylieの意見と同様である。2人の理論からすると、大国間の戦争、つまりTrump元大統領が指示したタイプの戦争では、米国は序盤で大敗することになる。
(8) 軍隊と防衛産業は、序盤で中国やロシアの攻撃を受けても、壊滅されずに乗り切れるだけの能力を蓄え、一旦はぐらついても、米軍が強烈な一撃を繰り出せるように、大量かつ迅速に戦力を回復させなければならない。米海軍は潜水艦を失った場合、新しい潜水艦を大量生産する必要がある。しかし、造船所が老朽化し、オハイオ級に代わる新しい弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を建造している状況では、損失に応じて新たにSSNの建造を強化する余力があるかどうかは疑問である。
(9) SSKは、必要に迫られて外洋での戦闘に参加することになるかもしれない。米国の海洋戦略の責任者は、新しい従来型推進船体を短期間に大量に建造するためのインフラと方法を探さなければならなくなる。米国の造船所が最後にSSKを建造したのは1950年代である。したがって、米海軍の指導者たちは、日本のSSK購入について話を始めるべきである。米国の造船所で、日本企業と共同でSSKを建造することも可能である。あるいは、海軍と造船会社がその両方を行うこともできる。
(10) 戦力の再構築は、今後の米国の艦隊構造のキーワードとなるべきである。予備戦力を増強することの利点は、艦隊司令官が戦争勃発時に、部隊を温存して慎重に行動するのではなく、既存の艦隊を積極的に運用できることにある。Chester Nimitz提督が1942年に真珠湾艦隊の残存部隊を艦載機による日本本土空襲作戦へ投入したように、1943年から太平洋海域に新しい米海軍艦艇が到着することを知っていれば、司令官はリスクを回避することができる。余裕があれば、手元にあるものを使って大勝負に出るべきではないか。
記事参照:Diesel Submarines Can Help Resist China

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) South China Sea: will Aukus affect Asean’s code of conduct talks with Beijing?
https://www.scmp.com/week-asia/politics/article/3156694/south-china-sea-will-aukus-affect-aseans-code-conduct-talks
South China Morning Post, November 21, 2021
 11月21日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: will Aukus affect Asean’s code of conduct talks with Beijing?”と題する記事を掲載した。その中で、①11月22日に中国・ASEAN特別首脳会議が開催されるが、南シナ海における行動規範の交渉が暗礁に乗り上げてから2年が経過し、北京は交渉の進展を望んでいる、②しかし、豪英米による安全保障協定であるAUKUSの創設が、ASEANと中国との間の話し合いにおいて、新たな障害となる可能性がある、③ASEAN諸国は、AUKUSを含めることで交渉を複雑にしたくなかった、④行動規範に関する協議は、「主権のある程度の放棄」を意味するより繊細な問題に移行したため行き詰った、⑤米国はAUKUSがインド太平洋の提携国とのより多くの安全保障協定への道を開くものだと考えている、⑥米国と協力関係にある国は、中国からの厳しい反応を恐れるだろうが、それによって米国やその同盟国とより緊密に連携する可能性もあると報じている。

(2) Asia's quiet militarization threatens to turn the region into a powder keg
https://edition.cnn.com/2021/11/19/asia/china-taiwan-asia-us-militarization-intl-dst-hnk-ml/index.html
CNN, November 22, 2021
 2021年11月22日、米ニュースチャンネルCNNのウエブサイトは" Asia's quiet militarization threatens to turn the region into a powder keg "と題する論説を掲載した。同記事はその中で、現在、上海江南造船所で建造中の中国最新鋭空母が就役することは、地域全体の危険度が増すことであると指摘した上で、それだけでなくアジア地域では①台湾海峡の危機感が高まっていること、②日本や韓国が急速に軍備を近代化していること、③中国、インド、パキスタンの競争関係が激化していること、④南シナ海の領有権問題は依然として懸念材料であることなどが具現化していることを指摘し、こうした環境に加え人民解放軍の近代化の加速と、中国外交の強硬姿勢の強まりが生じている一方で、米国はTrump前大統領の下での「アメリカ・ファースト」政策と相まって、米国のアジア地域への関与への信頼を損なったことを指摘している。そして同記事は、Bidenは大統領に選出されて以来、この地域への積極的関与を明言してきたが、2024年の第2次Trump政権誕生の可能性の増大とアフガニスタンからの米軍撤退による混乱という政治情勢を受けて、日本、韓国、フィリピンなどといったアジアの米国の安全保障提携国は、いかなる事態にも備えるべく自国軍を強化しており、これが新たな中国の軍備増強を呼び起こすなど、アジア地域は軍拡競争の時代に入っており、もはやアジア諸国はどのような形の平和、安全が必要なのかを選択すべき時が来ていると、警鐘を鳴らしている。

(3) The ASEAN-China Comprehensive Strategic Partnership: What’s in a Name?
https://www.iseas.edu.sg/wp-content/uploads/2021/10/ISEAS_Perspective_2021_157.pdf
ISEAS Perspective, November 24, 2021
By Hoang Thi Ha, Fellow and Lead Researcher (Political-Security) at the ASEAN Studies Centre (ASC) and Co-coordinator of the Regional Strategic and Political Studies Programme (RSPS), ISEAS – Yusof Ishak Institute
 2021年11月24日、シンガポールのシンクタンクThe ISEAS -Yusof Ishak InstituteのHoang Thi Ha研究員は、同シンクタンクのウエブサイトに" The ASEAN-China Comprehensive Strategic Partnership: What’s in a Name? "と題する論説を寄稿した。その中でHoangは、2021年10月に開催された第24回中国・ASEAN首脳会議では、「Comprehensive Strategic Partnership(包括的戦略パートナーシップ:以下、CSPと言う)」 の創設が提唱されたが、2003年以来、中国とASEANは、長期にわたる戦略的パートナーシップ関係を維持しており、CSP自体はASEANの対話関係における新たな枠組みとは言えないだろうと指摘した上で、①ASEANとの関係をCSPに格上げするという中国の提案は、中国が積極的な近隣外交を展開している動きの一部であり、米中関係の緊張と西側諸国からの中国の疎遠化によって、さらに重要性と緊急性が増している、②CSPの提案は、中国がASEANとの関係を積極的に再構築し、ASEANの交渉相手国における主導的存在としての中国の地位向上を促進し、地域秩序における中国の指導力と影響力を強化するという、先見的な中国の戦略を示している、③ASEANは中国とのCSPについて、他の対話関係と比べて特段地位が高いとは考えておらず、中国およびオーストラリアとCSPを設立するという決定は、すべての主要国との関係において、均衡状態を維持しつつ、包括的かつ多極的な地域秩序を育成するというASEANの方針を示している、④ASEANと中国との関係は、CSPという新たな枠組みによって定義されるのではなく、これまで同様、肯定的な側面と論争的な側面を併せ持って定義されるため、ASEANと中国の今後は、経済面での強力な協力関係の拡大と、相互の信頼関係の欠如という、逆説的な2つの側面の隔たりを埋める双方の能力にかかっている、などと指摘している。