海洋安全保障情報旬報 2021年11月1日-11月10日

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11月1日「東南アジア諸国、AUKUS以前から海軍、沿岸警備隊を増強-フィリピン専門家論説」(South China Morning Post, November 1, 2021)

 11月1日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、The Asia-Pacific Pathways to Progress Foundation 及びThe University of the Philippines Korea Research Centre研究員並びにフィリピンAteneo de Manila UniversityのThe Chinese Studies Programme講師Lucio Blanco Pitlo IIIの“Even before Aukus, Southeast Asian nations have been busy shoring up their maritime capabilities”と題する論説を掲載し、Lucio Blanco Pitlo IIIはAUKUS発表が多くの人を驚かせ、東南アジア諸国は懸念を表明しているが、その東南アジア諸国はAUKUS(米英豪安全保障協力)の前から海軍力海上法執行能力の効果に取り組んでおり、Covid-19の世界的感染拡大さえもこの流れを変えることはできなかったとしたうえで、海軍力、海上法執行能力強化には国内の賛同を得ると同時に巧妙な外交が必要であると指摘し、この海洋に関わる能力強化が関係する契約者の利益となるだけでなく、友好と安定の未来を育むものでなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリアに原子力潜水艦を装備するというAUKUS協定は、多くの人々を驚かせた。東南アジア諸国は懸念を表明してきた。しかし、東南アジア諸国も近年、進展する脅威に対応して、その海軍力、海上法執行能力を増強している。世界的感染拡大でさえ、この傾向を逆転させることはなく、良くてその調達を遅らせただけである。東南アジア諸国が保有する装備を更新する際には、地域の安定の維持が重要である。東南アジアにおける海軍と沿岸警備隊近代化の勢いは増大している。東南アジア諸国は長年、海洋における能力にあまり投資してこなかった姿勢を転換し、維持に巨額の費用がかかる旧式装備を廃棄し、近隣諸国に追い付こうとしている。
(2) Covid-19は、海洋における行為の拡散に対し何らの作用を及ぼさなかった。マラッカ海峡のようなチョークポイント、南シナ海のような重要な航路の安全を確保することがより問題となってきている。隣国同士の海洋のめぐる諍いは悪化し続けている。係争中の海洋で繰り広げられる大国間の対立も勢いを増している。東南アジアの国々にとって、それぞれの海軍、沿岸警備隊の能力を強化することがますます複雑になる海洋においてそれぞれの海軍、沿岸警備隊を重視する1つの方策であることが理由のようである。
(3) 非伝統的な安全保障上の問題も存続しており、場合によっては悪化している。沿岸国は、海賊、海上における国境を越えた犯罪、穴だらけの海上国境を通過する犯罪あるいはテロ集団の動きによって存在し続ける危険に対応しなければならない。外国の違法漁業、海洋の環境破壊、海洋の権利の防衛は、大規模な海洋状況把握と頻繁な哨戒を必要とする。気候変動によるより大型で勢力の強い台風はより良い捜索救難、人道支援、災害救援能力を要求している。これら全ての要素が、沿海域諸国の間で海軍、沿岸警備隊建設の動機付けとなっている
(4) 問題に対処するため、東南アジアの国々は新造あるいは改装した水上艦船、潜水艦を調達する複数年の近代化計画を開始している。東南アジアでは1ヵ国が空母を運用しており、5ヵ国が潜水艦を装備し、もう1ヵ国が新しい潜水艦を入手しようとしている。調達の急増は地域の国々が時代の問題に対応していることを示しており、多くに国にとって外交は1つの柱であり、防衛はもう1つの柱である。
(5) 指導層の交代、大衆の意見、世界的感染拡大は防衛計画の担当者にとっては障壁である。議会と国民の賛同を得るための計画を構築することは、厳しい財政状況にもかかわらず防衛計画策定者を前進させる鍵である。しかし、海洋に関わる能力構築にはより巧妙な外交が必要である。この2本の足で立ち、成長していかなければならない。東南アジアの指導者は、防衛装備に契約者のみが利益を得るのではなく、友好と安定の未来を育む必要がある。行為者と「おもちゃ」が増えれば、誤算の機会が増していく。国々は、その軍事力開発へ投資しており、信頼醸成、危機管理、安全保障対話が強調されるべきである。
記事参照:Even before Aukus, Southeast Asian nations have been busy shoring up their maritime capabilities

1月2日「Duterteフィリピン大統領の対中宥和政策終焉、対米関係重視へ―米専門家論説」(Foreign Policy, November 2, 2021)

 11月2日付の米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトは、米シンクタンクRAND Corporation防衛担当上席アナリストDerek Grossman の“Duterte's Dalliance with China Is Over”と題する論説を掲載し、ここでDerek GrossmanはDuterteフィリピン大統領が2022年6月の退任を控えて、2016年の就任以来推進してきた対中宥和政策から、最近では対米関係重視に移行してきているとして、要旨以下のように述べている。
(1) Duterteフィリピン大統領の対中宥和政策は、決して予想した程の結果を産み出さなかった。しかも悪いことに、近年北京は南シナ海に対する領有権主張を一層強めてきている。たとえば、2019年と2020年初めに、フィリピン占拠のティトゥ島(フィリピン名:パクアサ)を多数の海上民兵船で取り囲み、フィリピンによる同島の滑走路改修を阻止しようとした。また2021年1月には、中国は海警船に必要に応じて外国船籍を砲撃する権限を付与し、そして3月には、その多くが海上民兵船と見られる200隻以上の中国漁船が、係争海洋自然地形、ウィットサン礁周辺海域に停留した。これらの事案は、Duterte大統領の対中宥和政策を極めて複雑なものとする一方で、ワシントンへの再接近をより一層魅力的なものにした。
(2) アジアにおける米中間の緊張が高まり、米政府高官が中国による台湾侵攻の可能性を警告し、そして中国が南シナ海でその領有権主張を強めている時に、北京から距離を置くDuterteの姿勢は重要な意味を持ち得る。米国にとって、フィリピン国内の軍事基地への出入りは、特に南シナ海における中国の侵出を抑止する上で不可欠である。Duterte大統領は、「米比訪問部隊に関する地位協定(The U.S.-Philippines Visiting Forces Agreement: 以下、VFAと言う)」に関して、紆余曲折の末、2021年7月、最終的にVFAに対する反対を取り下げ、協定を復活させた。この間、Duterte大統領は中国から離れ始め、2020年7月には、4年も遅れたが、2016年の南シナ海仲裁裁判所裁定を認めるよう北京に要求することを外務省に許可した。2カ月後の9月に、Duterte大統領は、国連総会で南シナ海における領有権問題に直接言及し、2016年の裁定を「妥協し得ない」ものとし、裁定を蔑ろにする如何なる試みも拒絶されるであろうと言明した。
(3) 最近では、米比両国は高官の相互訪問が続き、両国の絆を再活性化させることに熱心である。しかしながら、恐らく戦略地政学的に大きな重要性を持っているのは、「防衛協力強化協定(The Enhanced Defense Cooperation Agreement: 以下、EDCAと言う)」履行への動きである。2014年に調印されたが、2016年にDuterte大統領によって非公式に凍結されていたEDCAは比国内への米軍装備の事前備蓄と建造物を認めるとともに、フィリピン国内の5カ所の基地――アントニオ・バウティスタ空軍基地、バサ空軍基地、フォート・マグサイサイ、ルンビア空軍基地及びマクタン=ベニート・エブエン空軍基地に部隊を輪番制で展開することを認めている。これらの基地への米軍部隊の出入りは、中国の如何なる挑発行為や南シナ海紛争の事態拡大に対しても、ワシントンの対応時間を大幅に短縮することになり、緊急事態において極めて重要である。米比同盟関係における雪解けのもう1つの出来事は、9月下旬にフィリピンが東南アジア諸国で初めて(しかもこの時点では唯一)、AUKUSを全面的に支持したことである。AUKUS は、明らかに中国に対抗することを狙いとしている。もしDuterte大統領が自らの対中関与政策を廃棄する決断をしていなかったなら、決してAUKUS是認を容認しなかったであろう。さらに、Duterte大統領はこれまで、Balikatan年次演習などの米国との演習の中止を求めてきたが、今や米比両国は、2022年に全面的な軍事演習再開の準備をしている。Duterte大統領は8月のテレビ演説で、数百万回分のコロナワクチンを贈与した米国に対して公的に謝意を表明した上で、このことがVFA 廃棄の中止を決定する上で主たる要因となったと語っている。
(4) 全般的に見て、Duterte大統領の対中宥和政策は終焉したか、あるいは少なくとも生命維持装置に繋がっている状態にあると思われる。Duterte大統領が2022年6月に離任するまでの間に、北京を賛美することがあるかもしれないが、その行動は、ワシントンを優先するものになる可能性が高い。しかしながら、Duterte後の見通しは依然不透明である。最近の分析によれば、7人の主要次期大統領候補の内、強固な対中取り組みを主張しているのは唯1人だが、最近の米比関係の再活性化の勢いを考えれば、たとえ現在の候補者達が公的に発言しなくても、誰が次期大統領になっても、北京よりワシントンを好む可能性が高いと思われる。
記事参照:Duterte's Dalliance with China Is Over

11月3日「米国は直ちに一貫した台湾政略を立案せよ―元NATO連合軍最高司令官論説」(Time, November 3, 2021)

 11月3日付の米誌Time電子版は、元Supreme Allied Commander of NATO(NATO連合軍最高司令官)James George Stavridis米退役海軍大将の“The U.S. Risks Catastrophe If It Doesn't Clarify Its Taiwan Strategy”と題する論説を掲載し、そこでStavridisは台湾をめぐる緊張が高まる中、米国は中国との戦争の回避を志向しつつ、一貫した対中・対台湾戦略を立案することが必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 10月下旬、Biden大統領は中国による台湾侵攻に際して米国が台湾を防衛するかどうかを聞かれ、力強く、台湾防衛を約束した。しかしWhite HouseとDepartment of Defense(国防総省)は、米国が従来維持してきた「戦略的曖昧性」の方針を変更することはないとして、Bidenの発言を半ば撤回した。その方針は1979年に制定された台湾関係法以降、米国の台湾政策を方向づけるものであり、Biden大統領が上院外交委員会の委員を務めていた時に支持した方針である。結局のところ、米国が台湾を防衛するかどうかははっきりしていない。
(2) Bidenの発言に関して、米国は「戦略的曖昧性」から「戦略的混乱」へと移行したというジョークも囁かれた。それは別にしても、米中が台湾に関してますます攻撃的になる中、米国は、米中関係全体に関する一貫した方針を必要としている。National Security Council(国家安全保障会議)のインド太平洋調整官であるKurt CampbellによればBiden政権は中国との紛争の回避を決意しているという。問題はどうやってそれを達成するかだ。
(3) 中国による台湾侵攻に際して米国がどう対応するかについて、「戦略的明確性」を求める声は大きい。また、兵器売却や高位の外交官の交換などを通じて、台湾の経済的、外交的、軍事的支援をより強化せよという声もまた聞かれる。
(4) 南シナ海が米中対立の焦点の1つである。中国は南シナ海に展開し得る海軍・空軍力を急速に増強している。米国が世界最強の軍事力を保有する国であることは間違いないが、台湾海峡周辺では中国軍が米軍を圧倒できる可能性はある。中国にはまたサイバー攻撃という選択肢もある。ミサイルの代わりに電子兵器を使い、台湾のあらゆる面に攻撃を加えることが可能である。
(5) 中国人民解放軍海軍はロシア海軍との共同作戦を強化している。10月後半、日本周辺で行われた海軍力を誇示する作戦はその一環である。台湾の海上封鎖は台湾経済だけでなく、台湾製のマイクロチップを必要とする世界各国にとって強力な圧力となろう。それに対し米国はアジアの同盟国との連携を深めてきた。たとえば日米豪印の4カ国安全保障対話(QUAD)の強化、日本の防衛予算増額やNATO諸国のアジアへの部隊派遣の推奨などがそれである。最近ではオーストラリアへの原子力潜水艦技術の供与に関する協定も結ばれた。
(6) かつて中央アジアの覇権を巡る英ロ間の戦略的構想が「グレート・ゲーム」と呼ばれたが、今日、東アジアにおいて台湾を重心とした「グレート・ゲーム」が間違いなく進行中である。米国に必要なのは、政府全体として一貫した対中国政策である。両国の経済的関係を考慮すれば、戦争は双方にとって大惨事である。必要なのは、いくつもの方向性を持つ戦略である。軍事的には中国を抑止するためのサイバーやAI、宇宙、海洋における行動能力の強化があり、外交的にはQUADの強化、あるいは民主主義や人権といった価値の尊重も重要であろう。互恵的な市場アクセスの相互承認など、経済的な取り組みも有用である。
(7) こうした取り組みの本質は単純である。対立すべきところではそうするのであり、世界的感染拡大や気候変動への対処、軍備管理など協力すべきところではそうするということである。そのためには米中間のホットラインを維持する必要がある。それは米ソ冷戦時代には存在したが、今はない。また、米中の部隊が遭遇したときにどう行動するかの手続き事項も必要な事項である。特に台湾に関しては、明確で専門的な意思疎通が不可欠である。一貫した対中戦略が必要だということでは超党派の合意がある。あとはその計画を具体化しなければならない。
記事参照:The U.S. Risks Catastrophe If It Doesn't Clarify Its Taiwan Strategy

11月4日「海軍の拡大だけでなく、大きな商船隊が必要-米専門家論説」(Brookings, November 4, 2021)

 11月4日付、米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトは、同Instituteの執行研究員Jeremy Greenwood及びU.S. Army Center for Law and Military OperationsのCoast Guard 研究員Emily Miletelloの” To expand the Navy isn’t enough. We need a bigger commercial fleet.”と題する論説を掲載し、ここで両名は米国が大型外航船を建造、維持、修理する産業能力の多くを失っており、今後サプライチェーンを守るために商船隊と造船能力に投資し、米国船籍であることが不都合にならない立法措置を行わなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国が中東での活動を縮小し、太平洋へ軸足を置き始めたことで、中国海軍の拡大と中国の遠洋漁業船団の活動は、国家安全保障上の懸念事項の一番に浮上し、米国の戦略家たちを悩ませている。中国の軍事的野心は多く語られるが、商業的海洋活動について世界各地で造船や港湾基幹施設への投資を劇的に増加させていることは忘れられている。同時に世界的な商業活動に従事する米国の船舶の数はかつてないほど少なくなっており、これは国家安全保障上の脆弱性にほかならない。
(2) 米国での過去数十年で最大規模の基幹施設支出法案をめぐる交渉の中で、商業海上輸送能力の強化や造船能力向上の必要性については、真剣な議論がなされていない。それどころか、米国の海上基幹施設は見過ごされ続け、商船隊は競争相手に遅れをとっている。米国は、艦艇の建造には積極的に取り組んできたが、戦力を支える民間の海事産業にはわずかな投資も行っていない。米国は本来、海洋国家である。しかし、米国籍船の船舶は世界の0.4%しかない。それは 2021年7月現在、43,000隻を超える世界の船舶のうち、約180隻である。
(3) 「便宜置籍国船籍」とは、船主が実質的に関係のない国に船籍を置き、税金や規制が少なく、安い労働力を利用するという世界の海運に特有の概念である。競争の激しい国際海運の世界では、安価な船籍国を探すことで、企業は数百万ドルの経費削減が可能になる。第2次世界大戦後、これは海運業界の標準的な慣行となり、国内貿易を行うために必要な小さな市場以外で米国船を建造、運航する必要性はほとんどなくなった。その結果、米国は大型外航船を建造、維持、修理する産業能力の多くを失い、それに伴い、船員の大規模な訓練と教育の機会も失われた。
(4) 世界最強の海軍を保持していても、米国籍の商船隊を活用できることは国家の安全保障にとって重要である。ホワイトハウスは、1989年の「民間貨物船の海上軍事輸送への転用に関する国家安全保障指令」の中で、米国籍船隊を維持することの重要性を表明した。米国籍船隊は、前方防衛戦略及び戦時経済の維持に不可欠であり、米国の国家安全保障戦略を支えるために、十分な軍民の海上資源が利用できるように能力を構築する必要があるとした。
(5) 今日、米国の海上輸送能力を管理するMaritime Administration(以下、MARADと言う)は、深刻な資金不足に陥っており、管理する船隊も老朽化している。これでは競争が激化するアジア太平洋の作戦地域で米国の軍隊を移動させ、維持することができないかもしれない。太平洋でのいかなる紛争も、海軍だけでは維持できない。わが国の地上軍は、海外で戦うために軍民の海上輸送能力に依存しているが、現在の海上輸送能力で太平洋の地上軍を維持できるかどうかは不明である。
(6) 米統合軍の海外輸送を調整するUnited States Transportation Command(米輸送軍司令部)は最近、外国船を購入して米国旗を掲げることを最優先事項として発表した。同盟国から中古の外国船を購入することは良いことではあるが、それは解決策でもなければ、長期的な戦略でもない。海に関わる基幹施設に持続的な投資が必要なのは明らかである。昨年の議会証言で、当時のMARAD長官Mark Buzby元海軍少将は、1990年代の米国には商船を建造する7つの大規模造船所があったが、その後、3つが閉鎖され、残る4つのうち、商船を建造しているのは1つだけ、他は修理・整備のみを行っていると指摘した。
(7) 中国は海軍と企業の両方を通じて、海洋進出を急速に拡大している。中国の海軍、海警総隊、遠洋漁船団(いわゆる「海上民兵」を含む)の規模と成長についてはよく知られているが、民間造船業や世界各地の港湾・海洋インフラへの投資については、あまり知られていない。中国は、世界で建造される大型外航船の40%以上を建造し(年間1,000隻以上、米国は年間約10隻)、北京はこれらの船舶のかなりの数を中国籍に登録している(2020年1月1日時点で4,569隻)。
(8) 2021年の時点で、中国は世界の大きな50のコンテナ港のうち少なくとも30の港の所有権を保持しており、世界的感染拡大関連で、2020年に経済が約18%縮小したパナマのように、被害の大きかった経済圏に足場を築いている。パナマ運河を通過する貨物の60%以上が米国向けであることからも分かるように米国がパナマ運河の主要な利用者であり、恩恵を受けていることを考えると、中国がパナマ運河周辺の港湾基幹施設を支配するようになれば、米国のサプライチェーンにとって深刻な脅威となる。さらに中国によるパナマへの経済投資には裏があり、2017年に中国とPanama Canal Authority(パナマ運河庁)が覚書を交わした後、パナマは台湾の外交的承認を取り下げた。つまり、中国は米海軍戦略家Alfred Mahan提督から、「海上交通と海軍の優位性による海の支配は、世界の支配的な影響力を意味する」という教訓を学び、米国はそれを忘れてしまった。
(9) アフガニスタンからの撤退が完了し、米国は太平洋へ軸足を置きつつある。最近では、AUKUSにおける潜水艦建造の合意により、「自由で開かれたインド太平洋」を維持するためには、海洋活動の分野が重要と強調された。しかし、この新しい戦略的競争の時代に、軍備増強だけでは勝てない。造船能力を高め、米国の商船隊に投資することは、米国のサプライチェーンに対する脅威を軽減するだけでなく、中国が拡大し、攻撃的になっていく海洋での野望に対して釘を刺すことになる。現在のように、重要な貿易を外国船に依存していることは、必要なときに海外で持続的な紛争を起こすことができないという点で、国家安全保障上の危険性があると同時に、国内にとってはサプライチェーン上の脆弱性でもある。
(10) 米国のサプライチェーンを守るために、グローバリゼーションを終わらせる必要はないし、そうすることもできない。しかし、世界の海を航行する米国籍の商船の数を大幅に増やし、国内の造船基盤を強化することで、危機に際しての行動の自由を守ることはできる。それは侵略に対する大きな抑止力になる。必要なときに必要な場所に海上で軍隊を移動させ、維持する能力がなければ、米国及びその同盟国は地域の安定と平和を確保する能力を失う。海洋国家は、海洋における所要を外注してはならない。米国は船隊と造船能力に投資し、少なくとも米国船籍であることが不都合にならないような立法措置を行わなければならない。
記事参照:To expand the Navy isn’t enough. We need a bigger commercial fleet.

11月4日「各国によって意味合いが異なる『海洋安全保障』という概念―AMTI報道」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, November 4, 2021)

 11月4日付の米シンクタンクCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、“Conceptualization of “Maritime Security” in Southeast Asia: Convergence and Divergence”と題する記事を掲載し、各国によって異なる「海洋安全保障」という概念の定義を明らかにするために、専門家たちが会議を行ったことについて、要旨以下のように報じている。
(1)「海洋安全保障」(maritime security)は、東南アジアの政策の語彙における中心的な概念として浮上している。しかし、世界の大半の場合でそうであるように、この言葉の正確な意味は常に明確ではない。どのような課題や国家活動が海洋安全保障に分類されるべきで、どのようなものが別の領域の要素とみなされるべきかは、通常あいまいである。あいまいなまま放置された用語は、仮の意味をもつようになる。たとえば、多くの東南アジアの人々は、現代の米国人が話題にする海洋安全保障は、「海での大国間競争」としてより理解されている何かを薄く覆っているものと見なしている。したがって、最も穏やかな新たな取り組みでさえも、域外の大国間の均衡を取ることを目的とした地域的な計算に織り込まれている。この地域内では、語彙的な違いによるずれのために、政策の意図や外交上のシグナルに関して、問題のある誤解を招く可能性もある。
(2) 東南アジアにおける海洋安全保障の多様な概念化と定義を理解するために、Rajaratnam School of International Studiesは、専門家による円卓会議を開催した。専門家たちは、フィリピン、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、インドネシア、シンガポール及びタイの東南アジアの主要沿岸国7ヵ国、多国籍機関であるASEAN、そしてQUAD構成国オーストラリア、日本、インド及び米国において海洋安全保障がどのように定義され、使用され、概念化されているかを評価した。この構想の主要な目的は、共通の基準点を提供することで意思疎通を改善することだったが、実際の政策上重要な発見もあった。
(3) この構想では、各国の海洋安全保障の概念化と、この用語の定義がこの地域において多様なことであることについての議論を、AMTIで14本の連載記事によって公開する。
(4) 最初の3本の記事は以下から利用可能である。
Evolving Conceptualizations of Maritime Security in Southeast Asia by John Bradford
The Philippines’ Conceptualization of Maritime Security by Jay Batongbacal
Vietnam’s Conceptualization of Maritime Security by Nguyen Nam Duong
記事参照:Conceptualization of “Maritime Security” in Southeast Asia: Convergence and Divergence

11月5日「石油タンカー拿捕について説明を求めるベトナム政府―米通信社報道」(The Diplomat, November 5, 2021)

 11月5日付のデジタル誌The Dilomatは、米通信社Associated Pressによる“Vietnam Seeks Information From Iran About Seized Oil Tanker”と題する報道を転載した。その記事は、10月末に起きたイランの武装勢力によるベトナム船籍の石油タンカーの拿捕について報じるもので、イラン政府と米政府の主張には隔たりがあり、またイラン政府の行動の理由がはっっきりしていないとして、要旨以下のように報じている。
(1) イランの準軍事組織であるIslamic Revolutionary Guard Corps(イスラム革命防衛隊)は、10月24日、ベトナム船籍の石油タンカー「MV ソティス」を拿捕した。米海軍はこの動向を監視していたが、最終的に船がイランの領海に入ったために特に行動を起こさなかった。ベトナム政府はこの問題について、今月4日、イラン側に情報を求めると同時に、乗組員の安全確保のためにイラン政府と緊密に協力して動くことを約束した。
(2) この出来事は、イランの核開発をめぐって米国との間で緊張が高まっているさなかに起きたものである。11月3日は、1979年にテヘランの米国大使館が占拠されてから42周年の前日であるが、この日、国営テレビはこの船舶の拿捕を大々的に報道した。国営テレビによればイランによる行動は、米海軍によるタンカーの拿捕という侵略行為を妨害することに成功したものだった。
(3) 米Department of Defense(国防総省)のJohn Kirby報道官は、このイランの主張を「インチキ」なものとして退けた。Kirbyは、イランによる石油タンカーの拿捕は、「航行の自由と通商の自由」を侵害するものとして非難した。イラン政府は船舶の詳細や、海軍がそれを狙った理由について説明していない。
(4) イラン国営テレビは、Islamic Revolutionary Guard Corps の部隊がタンカーを制圧する映像を公開した。またそれは、同部隊が甲板設置型の機関銃を、米海軍のミサイル駆逐艦「サリバン」に向けている様子を写していた。「サリバン」が同海域にいたことは、米海軍の発表とも一致する。
(5) 海運データベースによると、「MV サティス」の所有者はベトナムの会社であることが判明した。同社の従業員に取材をしたが、はっきりとした回答は得られなかった。この「MV サティス」の活動は、イランの行動を監視する米団体United Against a Nuclear Iranの目に留まっていた。同団体によると、「MV サティス」は6月、「オマーン・プライド」というタンカーから石油を受け取っていたという。その「オマーン・プライド」は、米Department of Treasury(財務省)によれば制裁対象のイラン産石油の密輸に使用されているものだという。
(6) 貿易される石油の20%が通航するホルムズ海峡や、その近くのオマーン湾では、同様の襲撃事件や爆発事件が多発しているが、今回の事件はその最新のものである。今年だけでも、イスラエルが関係する石油タンカーへの攻撃で2人の乗組員が死亡し、数ヵ月前にもパナマ船籍のアスファルト・タンカーが襲撃を受けた。米国はこうした行動についてイランを非難したが、イラン政府はそれを自国の行動と認めていない。しかし、2018年に当時のTrump大統領がイランとの核協議から離脱し、イランに制裁を科して以降、この海域では同様の争いが繰り広げられている。
記事参照:Vietnam Seeks Information From Iran About Seized Oil Tanker

11月5日「台湾には核兵器が必要-米専門家論評」(19FortyFive, November 5, 2021)

 11月5日付、米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、米シンクタンクAmerican Enterprise Instituteの常駐研究員Michael Rubinの” Yes, Taiwan Needs Nuclear Weapons To Deter China”と題する論評を掲載し、ここでRubinはUS Naval War CollegeのHolmes教授の台湾に核兵器は不要とする論説に対して、必要であるという反対論を要旨以下のように述べている。
(1) Holmesの議論の核心は、抑止戦略は核抑止を必ずしも必要としないし、核兵器が台湾に降りかかる可能性が最もなさそうな核攻撃を別にした様々な攻撃を抑止するというのは全く理解できない。しかし、台湾が核武装を必要とするのは、従来のやり方では中国にかなわないからである。そうでなければ、台北は南シナ海や香港の次の「サラミの一切れ」(中国がこれまで採ってきた小さな既成事実の積み重ね:訳者注)に過ぎないものになる。
(2) Holmesは歴史が示しているように、核兵器は通常兵器での攻撃を抑止する可能性がほとんどないと主張しているが、私(Rubin)は同意しない。歴史の教訓は逆で、通常の攻撃に対する抑止力として、核兵器に勝るものはない。これは冷戦時代には確かにそうだったし、イスラエルの核戦力の背景にある考え方も同様である。イランが核兵器を保有する可能性について米国が懸念しているのは、イランの指導者たちが核抑止力によって、通常兵器による責任を問われないと考え、結果的にテロ行為を平気で行うことである。
(3) Holmesは、低烈度の侵略に対する報復として上海に核攻撃をするという脅しはあり得ないと説明するが、台湾が直面しているのは低烈度の侵略ではなく、存亡の危機である。
(4) Henry Kissinger元国務長官の抑止の3要素の話の後、Holmesは「台湾は核兵器を保有することができる。しかし、中国共産党の指導者たちはこの島の核兵器と意志の強さの誇示に説得力を感じるだろうか」と述べている。The American Enterprise Instituteの人口統計学者 Nicholas Eberstadtの研究によれば、数十年にわたる中国の一人っ子政策と、男性に偏った男女の比率が原因で、中国は人口動態の不均衡が問題となっている。そして軍隊は、高齢化社会の経済的幸福の唯一の保証人である若い男性に依存しているので、中国はこの問題が顕著になってから、大きな戦争をしていない。何万人、何十万人もの若者の死を招くような戦争は、中国の社会構造と安定に大きな影響をもたらす。すなわち、台湾の核抑止の意志に説得力があると中国の指導者は思うはずである。
(5) 中国共産党創始者の毛沢東は、核を張り子の虎と揶揄した。四半世紀前、中国共産党のある将軍は、ワシントンがロサンゼルスと台北を交換することはないと冗談を言った。これが問題の核心で、どのような同盟であっても、ロサンゼルスと交換する価値があるかが要点である。米国が同盟国を守ることを拒否すれば、結果的にロサンゼルスを脅かすような侵略を招くことになる。北京が強気なことを言っても、台湾をめぐって核戦争を引き起こす可能性は低く、むしろ台湾への主張を行動可能なものではなく、理論的な領域に押し戻す可能性が高い。
(6) 戦略家たちはKissingerを崇拝するのではなく、長期的な成功よりも短期的な利益を優先することを繰り返したと非難すべきである。Kissingerが、Nixon、Ford両政権時代にも、その後も、中国の共産主義者たちにそのような甘さで接していなければ、米国とアジアはこれほど強力な敵に直面することはなかっただろう。とはいえ、George W. Bush政権とObama政権が南シナ海での中国の侵略に対抗できず、中国が条約上の約束を破り、香港の自由を阻害したことでTrump大統領の政策チームが無力と証明され、台湾の自由を維持する戦略は低迷していることを認識すべきである。台湾に核兵器は必要である。
記事参照:Yes, Taiwan Needs Nuclear Weapons To Deter China.
関連記事:10月9日「台湾は中国を抑止するために核兵器が必要か-米専門家論説」(19FortyFive, October 9, 2021)
Does Taiwan Need Nuclear Weapons To Deter China?

11月9日「ANZUSと地域安全保障における主体性の維持―オーストラリア法学専門家論説」(The Strategist, November 9, 2021)

 11月9日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、オーストラリアのUniversity of Tasmania法学部parliamentary law, practice and procedure course長Richard Herrの“ANZUS and agency in regional security”と題する論説を掲載し、そこでHerrはASPIが同日公表した報告書の内容を要約し、ANZUSと太平洋島嶼諸国が今後取り結ぶべき関係について、要旨以下のように述べている。
(1) 11月9日、ASPIはSliding-door moments: ANZUS and the Blue Pacificと題する報告書を発表した。それは結成から70年の間にANZUSが太平洋島嶼地域にもたらした教訓について調査するものである。
(2) 太平洋の国々は、自分たちの安全がその地域で展開される複雑な地政学的環境に影響を受けていることを理解しつつ、いかなる場合でも大国の手先のような存在になりたくはないと考えている。しかし、QUADやAUKUSといった枠組みが台頭しつつある中、彼らは自分たちが安全保障に関して主体性を喪失しているのではないかと恐れている。それはオーストラリアでさえこれまでそうであったことを、AUKUSは明らかにしたのである。
(3) ANZUSにおける負担共有の問題は計算しにくい問題であった。Joanne WallisとAnna Powlesが主張するには、オーストラリアとニュージーランドは、ソフトパワーを含めた非軍事的な貢献を通じて、米国が認識するよりも安全保障上の均衡に貢献してきた。太平洋の国々が自国の安全保障環境に関する主体性をどの程度要求できるかは、2018年9月にPacific Islands Forumが発したボエ宣言で強調された人間の安全保障と域外の国々が求めるより物理的な防衛とをいかに切り離せるかにかかっていよう。
(4) 太平洋諸国はそれぞれ限定的な軍事力しか持っていない。なぜならそれは、元宗主国が安全保障利害を共有し、相対的に穏やかな過程を経て独立を達成し、外部にわかりやすい脅威が存在しなかったためである。13ヵ国のうち、公式の国防軍を保有するのはフィジーとトンガだけであり、相互の安全保障協定などを結んでいる国はない。これは、10ヵ国中6ヵ国が国防軍を保有するカリブ海の状況とは対照的である。国防軍を持たない国であっても、軍事力を持つ国との相互協力協定が結ばれている。国防軍の保有と防衛協定の存在は、大国との安全保障に関する議論を主体的に進めるうえできわめて重要なものである。
(5) カリブ海と太平洋の国々は地政学的な環境も異なるため、単純な比較は公正ではないし、実際に太平洋諸国が安全保障問題について主体性を持つために軍事化が必要だと主張したいのでもない。軍事力を持たずとも、地域の安全の維持のために共有すべき負担はある。テロとの戦いの間、太平洋諸国ができたのはパスポートの売買やマネーロンダリングを通じたテロリストの成長を阻害することであった。ANZUSの観点からは、彼らに求められた貢献は地域の安全保障に関する全体像を共有し、それぞれが自国の領土を他国の脅威にならないようにすることであった。したがって、Pacific Islands Forumの元事務局長Meg Taylorが述べたように、もし太平洋諸国がさらに小地域に分かれてしまえば、大国の地理戦略的な利害によって争うように仕向けられ、全体としての太平洋諸国の利益は失われてしまうだろう。
(6) 報告書は、ここにANZUSのチャンスがあると言う。ANZUSは、インド太平洋というより広い安全保障上の枠組みにおいて、太平洋諸国の関心や懸念を代表できる唯一の公式の安全保障上の取り決めである。彼らが求めているのは外部機関による軍事的な安全保障の提供ではなく、気候変動などグローバルな課題に対する国際的支持である。冷戦期においてANZUSとの正式な提携を考えた太平洋の国もあったようだが、現在の状況ではそれは複雑な問題を提起するだろう。
(7) 報告書の主張では、地域の安全保障に関する合意を得るためには、2つの重要な課題を克服しなければならない。ひとつはANZUSは数十年の間、欠いてきた同盟としての機能回復の必要性である。もうひとつは、太平洋諸国は域内の行政的な権限をめぐる調整よりも、ボエ宣言に示された目的を確保し、「青い太平洋」の共同管理への決意を新たにすることの重要性を示すことである。
記事参照:ANZUS and agency in regional security

11月9日「人民解放軍は台湾の海空補給路を遮断可能:台湾国防報告―香港紙報道」(South China Morning Post, November 9, 2021)

 11月9日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“PLA able to cut Taiwan’s sea and air supply lines, island’s military reports”と題する記事を掲載し、9日に公表された台湾「国防報告2021」から、人民解放軍は台湾の海空輸送路を遮断する能力を既に有していると警告する一方、台湾は非対称戦能力を強化するとともに、国内防衛生産能力を向上させ、部隊訓練に励み、台米間で人的軍事交流を密にしているとして、要旨以下のように報じている
(1) 中国軍は既に、台湾の主要港湾、空港、外部へ向かう空路を封鎖する能力を有していると台湾国防部は11月9日に公表した「国防報告2021」で述べている。台湾海峡両岸での緊張が高まる中で公表された報告は2年ごとに発表されるもので、過去2年間に現役軍人による米台軍事交流が380以上の交流事業で、2,700名以上の軍人が参加したと報じている。これは、米台の防衛協力の詳細が初めて公にされたものである。
(2) 人民解放軍が毎日のように台湾へ軍用機を送り込んで嫌がらせをすることで台湾と中国間の緊張は、ここ数か月燃え上がっており、米国の専門家は台湾海峡における紛争の可能性について警告している。台湾国防部の報告によれば、「人民解放軍は、部隊対抗演習、統合上陸演習、サイバー空間でのハッカー攻撃、台湾に対して実施する可能性のある作戦に備えた、あるいは台湾を単に恫喝するための長距離機動訓練を実施しつつある。」
(3) 部隊の近代化が進むにつれ、台湾に対する北京の軍事的脅威は高まってきていると報告は言い、中国軍は封鎖を含め6つの型の作戦能力を開発していると付け加えている。「現在、人民解放軍は台湾の航空路、SLOCを遮断し、軍需品、後方支援物資の流れと台湾の継戦能力に影響を与えるため、台湾にとって重要な港湾、空港、外部への航空路に対して局所的に封鎖することが可能である」と報告は述べている。このことは、人民解放軍海空軍の対空能力、シー・コントロール能力、地上目標攻撃能力の強化及び精密打撃と戦略的掩蔽能力向上のため人民解放軍ロケット軍に新型ミサイルを急速に配備したことが要因であると報告は述べている。報告はまた、台湾の軍事活動、戦場準備を含む台湾に関する情報収集改善のため人民解放軍が配備する最新の衛星、情報収集船、ドローンについて強調している。人民解放軍の弾道ミサイル、巡航ミサイル、空中発射型地上攻撃ミサイルは全て、台湾本島の政治的、経済的、軍事的目標を攻撃することが可能である。さらに、人民解放軍は徴用した民間コンテナ船を伴った水陸両用戦艦艇をもって台湾に対する統合上陸作戦を実施する能力を有しており、中国の国産北斗衛星導航系統及び指揮統制データリンクシステムをもって、台湾に対する米国の支援を含む台湾及び他国に関する戦場での情報を取得する能力もあると報告は述べている。
(4) 台湾国防部戦略計画司国防政策処処長鄧克雄は、人民解放軍の作戦能力の増大によってもたらされる問題は過去2年間の台湾非対称戦能力強化を加速してきており、「台湾の非対称戦の強化に加えて、台湾軍は戦闘部隊の訓練を強化し、国内防衛生産能力の開発を統合し、軍予備の組織を改編した」と鄧克雄は述べている。
(5) 強大な人民解放軍の高まる脅威に直面し、台湾軍は中国との軍事拡張を競うに当たって「革新的で非対称な思考」が必要と報告は指摘している。台湾はまた、中国軍の作戦上の結節点を打撃することで中国の戦争計画を妨害し、作戦の進展速度を乱し、戦闘力を麻痺させることを助長するため台湾海峡の天然の障壁を活用する必要がある。防衛力強化の一環として、台北は1979年の米台湾関係法に従って、現役軍人による米国との密接な協調を行っている。2019年9月から2021年8月の間に、台湾とアメリカの交流件数は合計384件、延べ2,799名であったと報告は明らかにしている。
記事参照:PLA able to cut Taiwan’s sea and air supply lines, island’s military reports

11月9日「中国に対抗してインド港湾企業がスリランカに投資―インド専門家論説」(The Interpreter, November 9, 2021)

 11月9日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、インドのシンクタンクISASの研究員Chulanee Attanayakeの“India’s answer to China’s ports in Sri Lanka”と題する論説を掲載し、Chulanee Attanayakeはインドの港湾管理会社による、スリランカの港湾への投資について、要旨以下のように述べている。
(1) 9月30日、インド最大の民間港湾管理会社Adani Groupが、スリランカに新しいコンテ
ナ埠頭を建設する7億米ドルの契約に署名したと報じられた。これは、スリランカ最大の上場企業であるJohn Keells HoldingsとSri Lankan Ports Authority(スリランカ港湾局:以下、SLPAと言う)が共同でColombo West International Container Terminal(CWICT)を開発する契約であり、35年間の「建設・運営・譲渡」の取り決めの下で機能する。埠頭の共同経営会社の株式をAdani Portsが51%、John Keellsが34%、SLPAが15%の割合で保有する予定である。
(2) スリランカ初のインド系港湾管理会社として、またスリランカの港湾産業における最大
の外国投資として、この契約は地政学的な意義をもっている。コロンボ港は主にインド市場を扱う地域のハブ港であったにもかかわらず、インドの投資家たちは中国が参入してくるまでスリランカの港湾産業への投資に関心を示さなかった。スリランカは今、南アジアにおけるインドの中国との競争において、目立った戦場になっている。港湾投資はその最新の兆候である。
(3) 今回の投資は、中国の国有企業である招商局港口控股とスリランカの複合企業Aitken
Spenceが2011年にSLPAと35年間の利権契約を結び、Colombo International Container Terminal(CICT)として知られる南のターミナルを、今回と同様に建設・運営・譲渡モデルで運営してから10年後に行われたものである。招商局港口控股のグローバルな経験と効率性は、コロンボ港の競争力を向上させた。コロンボ港は数倍に成長し、2018年上半期に世界で最も急成長した港となった。さらに2017年、招商局港口控股は、島の南岸にあるハンバントタ港も99年のリースで引き継いだが、これはすぐに物議を醸すことになった。スリランカの港湾産業における中国の影響力が高まり、中国の「債務の罠外交」(debt-trap diplomacy)に関する誤解を招くような談話がある最中、Adaniによるこの西のターミナルへの投資は、大きな変革をもたらすものと見なされている。ニューデリーは、スリランカの港湾に対する北京の大規模な投資には戦略的な意図があると考え、警戒を強めていた。
(4) 入手可能な統計によれば、商業的には、コロンボ港からの積み替えビジネスの70%以上
がインド市場と結びついており、その多くがアダニ港のターミナルを利用している。Adani Groupは、同社がインドで最も急成長していると自負するムンドラの港の管理会社でもある。ムンドラ港はここ数年で急成長を遂げているが、コロンボ港に比べると遅れを取っている。これは主に、コロンボ港が自国内の輸送を自国籍船に限定するというインドのカボタージュ規制の恩恵を受けており、インド籍の船舶のみが現地航路での定期運航を許可されているためである。インド各州がこの規制を徐々に見直すにつれ、コロンボはより大きな競争に直面することになるだろう。
(5) 戦略上、スリランカは世界で最も交通量の多い航路の1つに沿って位置しているため、
外国企業、港湾業者及び物流業者と協力する際にこの国に恩恵がある。インドにとって、Adaniによる投資は、コロンボ港における中国の動きに並走することで、その動向を注視できるという利点がある。また、イランのチャーバハール港やオマーンのソハール港で行ったように、戦略的に重要な商港に投資するというインドの方針がある。
(6) 港湾は、単なる商業的資産というよりも、戦略的資産として考えられるようになってき
ている。非常に重要な港湾を管理し、容易に利用できることで、各国は海外の軍事基地を所有したり、莫大な費用をかけたりしなくても、パワー、影響力及び前方防衛能力を示すことができる。
記事参照:India’s answer to China’s ports in Sri Lanka

11月10日「台湾は2027年まで安全かどうか―米防衛問題専門家論説」(NIKKEI Asia, November 10, 2021)

 11月10日付の日経英文メディアNIKKEI Asia電子版は、米シンクタンクRand Corporationの上席防衛アナリストDerek Grossmanの“Taiwan is safe until at least 2027, but with one big caveat”と題する論説を掲載し、そこでGrossmanは2027年に中国による台湾攻撃の可能性があるという観測に関して、中国による台湾侵攻が必ずしも差し迫ったものではないが、2024年の選挙の結果が中国による攻撃の時期を早める可能性もあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2027年は、中国人民解放軍創設100周年にあたる。2021年3月、当時退任間近であったU.S. Indo-Pacific Command司令官Philip Davidsonは、議会の公聴会で、2027年に中国による台湾侵攻の可能性があると証言した。それは賛否両論を巻き起こした。
(2) Davidsonの予測の正しさを立証するように思われる理由もあるが、留保も必要である。たとえば、習近平は台湾を屈服させたいと明らかに考えており、場合によっては武力を用いるとしているが、他方で「平和的再統合」をより望ましい手段と位置づけて、攻撃が行われるのではないかという噂を抑え込もうとしている。これについて、習近平が奇襲を考えている可能性も確かにあるが、より可能性が大きいのは、2024年の総統選挙において親中国的な国民党が勝利するのを待つことであろう。
(3) 台湾は、中国の優先順位の上位に位置づけられているわけではない。2005年の反分離法は、なお更新されておらず、主要な共産党大会の演説において台湾への言及を避け、社会的・経済的発展に焦点を当ててきた。そもそも、台湾に対する上陸作戦が成功するかどうかはかなり不透明である。歴史的に上陸作戦とは困難なものである。中国が軍の近代化を急速に進めているのも事実だが、それだけで戦場での成功が約束されているわけではない。中国は1979年の中越戦争以降、実戦を経験していない。実際、中国人民解放軍は特に戦場の司令官級での人的能力の不十分さを強調してきた。そのため実際に台湾に作戦を展開する前に、東沙諸島への作戦を実施する可能性がある。
(4) 以下の点を指摘するのも公正であろう。ここ数年間、中国による台湾への挑発行為はひどいものではあったけれども、中国がやろうと思えばできたことに比べれば控えめなものであった。1995~96年の間の台湾海峡危機の際に中国がミサイルを発射したことを想起するとよい。また中国は、台湾が「1992年コンセンサス」と呼ばれる「ひとつの中国」に関する原則の再確認を拒否したにもかかわらず、馬英九総統時代の2010年に締結された海峡両岸経済協力枠組協定の継続を決めている。もしそれを廃止すれば、台湾に対するかなりの経済的圧力になっていただろう。
(5) 以上に示した全てのことが、2027年までの台湾の安全にとっては良い兆候である。しかし次の総統選挙において、William Laiとして知られる頼清徳副総統が民進党の総裁候補となって選挙で勝利すれば、中国による台湾攻撃の可能性は高まる。頼は、2018年に行政院長として、「台湾の独立のために働く」ことを強調していた人物である。ただし、2024年まで同じような状況が続くわけではない。米国の支援もさらに続くであろうし、台湾もまた米国に、独立を目指すことはないと約束することもありうる。
記事参照:Taiwan is safe until at least 2027, but with one big caveat

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) What AUKUS means for European security
https://pacforum.org/publication/pacnet-51-what-aukus-means-for-european-security
PacNet, Pacific Forum, CSIS, November 3, 2021
By Marie Jourdain is a visiting fellow at the Atlantic Council’s Europe Center. She worked for the Ministry of Defense’s Directorate General for International Relations and Strategy in Paris.
 11月3日、米シンクタンクAtlantic CouncilのEurope Center客員研究員Marie Jourdainは、米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNetに、“What AUKUS means for European security”と題する論説を寄稿した。その中で、①豪英米(AUKUS)安全保障協定は、フランスだけでなく、ヨーロッパの問題である、②第1に、AUKUSの交渉と発表のやり方は、信頼の危機をもたらし、ヨーロッパにとっては、契約を失ったことよりも、フランスがどのように扱われたかが問題だった、第2に、AUKUSはインド太平洋の安全保障構造に直接影響を与え、ヨーロッパのオーストラリアとの協力関係の深化を複雑にし、欧州諸国はインド太平洋地域との関与をより一般的に制限する気にさせられる可能性がある、③AUKUSはヨーロッパの人々への警鐘であり、彼らは自身の戦略的利益を守るためにもっと努力しなければならない、④今後のためには、第1に、インド太平洋地域における協力のためのEU戦略は、共有ビジョンを強化するための重要なステップであり、将来の戦略コンパス(2022年3月に発表予定)を特徴付けるものである、第2に、ヨーロッパは、EUが望む世界的な行為者となる用意があることを示さなければならない、第3に、EUは、ヨーロッパの安全保障について米国と抜け目のない議論を行わなければならない、第4に、オーストラリア、英国及び米国との信頼を回復することは、さらなる協力のために不可欠であり、EUとQUADの間で協力の道を切り開くことは、前向きな一歩となる、⑤ヨーロッパ人は、自国の戦略的利益を確保するためだけでなく、インド太平洋地域を含む、より効果的な大西洋横断関係の更新に関与するためにも、進歩しなければならない、といった主張を行っている。

(2) BEYOND COMPETITION: WHY THE U.S. MUST COOPERATE WITH CHINA
AND RUSSIA FOR MARITIME STABILITY
https://cimsec.org/beyond-competition-why-the-united-states-must-cooperate-with-china-and-russia-for-maritime-stability/
Center for International Maritime Security, November 9, 2021
By Jan Stockbruegger, a Dean’s Faculty Fellow at Brown University’s Department of Political Science
Christian Bueger is a Professor of International Relations at Copenhagen University and the Director of SafeSeas
 2021年11月9日、米Brown Universityの学部長付研究員Jan StockbrueggerとデンマークCopenhagen University のChristian Bueger教授は、米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトに" BEYOND COMPETITION: WHY THE U.S. MUST COOPERATE WITH CHINA AND RUSSIA FOR MARITIME STABILITY "と題する論説を寄稿した。その中でStockbrueggerとBuegerは、国連安保理で行われた海洋安全保障に関する高官級会議では、予想通り、海洋の基本的な規則と規範をめぐる意見の相違が議論を支配したと述べ、具体的には、米国はロシアと中国が航行の自由を不法に制限していると批判する一方、中国は米国が南シナ海で紛争を激化させていると非難したことを挙げている。にもかかわらずその上で両名は、今回の議論は主要国が海洋の脅威について共通の見解を持っていることも示しており、実際、米国は海賊、密輸、気候変動といった脅威に対し、世界的な海上貿易を保護するためにも関係各国は緊密に協力する必要があることを主張したが、これには中国とロシアも合意していると指摘した上で、この合意を実現すべく米国は海洋安全保障を強化するため、そして、海洋における犯罪及び環境の脅威に対処するため、中国、ロシア及びその他の国と多国間で対策に取り組むべきであり、こうした海洋安全保障問題は、Biden政権が外交政策の指針において、強大な権力をめぐる争いから脱却する必要があることを示している、などと主張している。

(3) Who Wants to See a War Over Taiwan?
https://thediplomat.com/2021/11/who-wants-to-see-a-war-over-taiwan/
Diplomat, November 9, 2021
By Mu Chunshan, a Beijing-based journalist
 2021年11月9日、北京を拠点に活動するジャーナリスト木春山は、デジタル誌The Diplomatに" Who Wants to See a War Over Taiwan? "と題する論説を寄稿した。その中で木春山は冒頭で、中国は台湾を侵略しようとしているわけではないが、中国、台湾、米国の中には事態がそうした方向に進むことで利益を得ている勢力があると話題を切り出し、すべての当事国が合理的である限り、地域における戦略的均衡は簡単に崩れることはないと述べ、実際、米国は明らかに戦争ではなく戦略的均衡を維持することで自国の利益を最大化することができるし、中国共産党は台湾の防衛力を過小評価してはならないと強調しているが、民進党の蔡英文政権も、中台両岸戦争で現在以上の利益を期待することはできないのだから、現状維持が彼らにとって最善の選択であると指摘している。その上で木春山は、北京、ワシントン、台北、その他の関係国はすべて落ち着く必要があり、特に事態を沈静化させ、現在の厳しい雰囲気を和らげるためには、例えばシンガポールのようなすべての関係国の立場を調整する仲介者が必要だと指摘しつつも、最後に、いずれにしても、中国は戦争に備えるというよりは、相手国に最大限の圧力をかける政策をとっており、未来に戦争が起こるかどうかは、台湾と西側の対応にかかっていると主張している。