海洋安全保障情報旬報 2021年12月21日-12月31日

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12月21日「インド太平洋における包括的な戦略を持たないイタリア―イタリア専門家論説」(9DASHLINE, December 21, 2021)

 12月21日付のインド太平洋関連インターネットメディア 9DASHLINEは、イタリアUniversity of Macerataで国際法の准教授兼Interdepartmental Research Center on the Adriatic and Mediterraneanセンター長Andrea Caligiuriの”ITALY’S NON-STRATEGY IN THE INDO-PACIFIC”と題する論説を掲載し、ここでCaligiuriは地理的に遠く、米国と中国の間で激しい競争が繰り広げられているインド太平洋地域で、イタリアが主要な役割を果たすには、EUの一員として欧州の抑止力と防衛を強化することへの関与を増大することであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年9月15日、イタリアのLorenzo Guerini国防相は中国に対抗する米国主導の航行の自由作戦などの作戦に参加してインド太平洋に軍事的に関与することは、イタリアの戦略的利益にならないと述べた。しかし、この地域での経済・産業を目的とした使節団に参加し、潜在的な買い手にイタリア製の武器を展示する可能性までは否定しなかった。イタリアはEUの主要海洋国家であるにもかかわらず、インド太平洋に関する独自の包括的な戦略を持っていない。この地域が海洋地政学、安全保障、貿易、環境活動の中心的な海域となっていることから、フランスは2018年にインド太平洋に関する国家戦略を採用し、ドイツとオランダも2020年に追随している。対照的に、2017年以降、イタリアの安全保障戦略は、「拡大された地中海」(Mediterraneo allargato)という概念に焦点を当てている。この概念は、バルカン半島からサヘル、ギニア湾、アフリカの角、アデン湾、西インド洋までの広い地理的領域と関連しており、イタリアの外交政策の3つの柱の1つである。ちなみに残りの2つはヨーロッパ主義と大西洋主義である。
(2) エネルギーと商業に焦点を当てた「拡大された地中海」に関するイタリアの戦略は、中国の一帯一路構想を補完するものである。2019年3月、イタリアがG7諸国の中で初めて、そして唯一、大規模な商業投資を誘致することを期待して中国政府と一帯一路合意文書(BRI-MoU)を締結した。しかし、中国との経済関係の拡大は、イタリアがG7内において、国連海洋法条約に沿って、東シナ海と南シナ海の海洋紛争を平和的に解決し、海上交通路の安全を守ることが重要とする姿勢を妨げるものではない。
(3) 1970年に中国を承認して以来イタリアは、一つの中国を厳守しており、最近の台湾海峡の緊張にあっても、その姿勢は変わらない。インド太平洋における包括的な戦略がないからといって、イタリアが長年にわたってこの地域での外交・安全保障政策の発展のために何もしなかったわけではない。イタリアは、2国間および地域的にインド太平洋の提携国との協力関係を強化しようと取り組んできた。
(4) 2021年は、イタリアの対太平洋外交の転機となった。G20の議長やCOP26の共同議長を英国とともに務め、またBiden政権の新政策と和解したことで、イタリアはインド太平洋の主要国と政治・経済関係を構築・強化した。イタリア政府は、インド太平洋地域とより緊密な経済協力の形を定めるためのEUによる先導を促進し、それを支援する上で積極的な役割を果たしてきた。たとえば、2020年にイタリアはEUとASEANの関係を戦略的提携の段階に格上げし、ベトナムと自由貿易協定(以下、FTAと言う)を締結するというEUの決定に賛成した。同様に、2021年にブリュッセルがFTA交渉を再開し、ASEANとの包括的航空輸送協定に署名し、インド太平洋における協力のためのEU戦略を採択することをイタリアは支持した。
(5) イタリアの外交政策の重要な目的の1つは、多国間協力のための国際構造を強化することである。そのため、2019年にイタリアは、Indian Ocean Rim Association(環インド洋協会:以下、IORAと言う)に加盟した。IORAは、地域構造における重要な関係国の集まりで、気候変動、持続可能な開発、海洋安全保障などの世界的な課題に取り組むための理想的な提携先と認識されている。また、2020年にイタリアはASEANの「開発パートナー」の地位を獲得し、政治・安全保障問題、接続性・経済関係、社会文化交流、農業・環境、保健、人道協力などの主要分野における実践的な協力を推進している。さらに2021年、太陽エネルギー生産技術の開発と、加盟国への太陽エネルギーの迅速かつ大規模な展開によるパリ気候協定実施のための共同基盤であるInternational Solar Alliance(国際太陽光連盟:ISA)に加盟した。
(6) 2021年以降、イタリアはインド、日本と3ヵ国間対話を行っており、共通の民主主義的価値観を共有し、経済・貿易関係を強化することから始めて、インド太平洋における多国間協力を推進している。この3ヵ国は、海と空の平等な利用と航行、上空飛行の自由の保証、国際法に基づく紛争の平和的解決の促進といった基本原則に基づいたインド太平洋地域の理想的な将来の姿を共有している。
(7) G20の構成国であるインドネシアとオーストラリアも、この地域の重要な関係国である。2009年、イタリアとインドネシアは両国の関係を事実上の戦略的パートナーシップに格上げした。現在の協力関係は、製造業、エネルギー、農業、食品、観光、通信、防衛産業、知的財産の保護・促進、創造的経済にまで及んでいる。これと並行して、イタリアは、サービスや調達を含む多くの分野での広範な交流の基盤となる、EUとインドネシア間のFTA交渉を支持している。
(8) イタリアとオーストラリアの関係は、友好的と言われているが、経済、安全保障、政治的関与の面では不足している。現在のところ、唯一の重要な要素は、科学技術における2国間協力の強化、特に南極での科学調査に関するものである。しかし、インド太平洋における新たな地政学的シナリオは、特に中国に対抗するためのAUKUS協定の観点から、2国間関係の再評価するものとなった。
(9) イタリアは、国際海上貿易の主要航路で、アジアからの貨物が多く到着する地中海の安全を守るために、インド太平洋への関与を拡大している。多国間レベルでは、2016年以降、フランスやドイツとともに、この地域で最も重要な政府間安全保障フォーラムであるアジア安全保障会議に参加している。さらに、マレーシアやベトナムと具体的な覚書を締結し、インドや韓国と協定を結び、防衛分野における2国間協力の形態を発展させてきた。これらの協定では、合同軍事演習、情報交換や士官の交流、技術交換の協力、訓練などの軍事協力が行われている。また、インドや韓国との協定では、安全保障・防衛政策における協力が規定されており、より深い対話と相互関与を展開しようとする意図がうかがえる。
(10) イタリアの安全保障政策の重要な要素は、イタリアの輸出品の大部分がアジアとの国際航路で取り扱われていることから、西インド洋とアデン湾での船舶に対する海賊や武装強盗対策に強く取り組んでいることである。そのため、イタリア軍はソマリア沖のEU海軍部隊の作戦やNATOの作戦に参加している。さらに、この地域の戦略的重要性に鑑み、2002年に締結され、2020年に更新される防衛協定(未批准)に基づき、ジブチに軍事支援基地を保持している。イタリアは海賊対策・防止に積極的な役割を求めているが、インド太平洋の海上交通路の安全性向上の手段として、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)への加盟は検討していない。
(11) 全体として、イタリアはインド太平洋の主要国と多くの政治的・経済的関係を持ち、特にベトナムとインドネシアとは特別な関係にある。しかし、インド太平洋全体に対する包括的な戦略がないことは、深刻な問題となる可能性がある。
(12) イタリアがインド太平洋における包括的な戦略を持たないことは、イタリア政府が中国との露骨な対立を望んでいないことを示しており、むしろ中国政府との現実的な取り組みを求めている。最近、イタリアのLuigi Di Maio外相は、テロとの戦い、気候変動、地域の危機管理などの問題について、中国との関係において「選択的関与」の概念を適用する必要があると強調した。これは、イタリアが米国との戦略的な「価値観の同盟」を疑うことを意味するものではない。さらに、インド太平洋における包括的な戦略を持たないことは、軍隊の海外展開を国連、EU、NATOの庇護の下での国際任務の枠組みの中で考え、国益のための力の投射としては考えないという、イタリアの伝統的な政策によって正当化されている。したがって、イタリア海軍がインド太平洋に直接関与するのは、この地域におけるEUの海軍活動の一部としてとなる。
(13) イタリアの戦略シナリオの進化は、EU内のより緊密な政治的統合の枠組みの中で、欧州の抑止力と防衛を強化することへの関与の増大を意味している。これは、イタリアの外交・安全保障政策の主要なものとなるべきで、このような手段があって初めて、地理的に遠く、米国と中国の間で激しい競争が繰り広げられている地域で、イタリアは主要な役割を果たすことができる。
記事参照:ITALY’S NON-STRATEGY IN THE INDO-PACIFIC.

12月21日「フランスのインド太平洋戦略―フランス・タイ専門家論説」(The Diplomat, December 21, 2021)

 12月21日付、デジタル誌The Diplomatは、フランス太平洋軍(ALPACI)所属の海軍中佐で、シンガポールInformation Fusion Centre(IFC)の連絡士官を務めるJérémy Bachelier及びタイResearch Institute for Contemporary Southeast Asia (IRASEC)非常勤研究員Eric Frécon博士の”France’s Defense Strategy in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここで両氏は海事産業のすべての関係者間で、安全な航行を維持する目的のために、海洋状況把握(MDA:Maritime Domain Awareness)情報の共有を改善することが重要になっているとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋は、東アジア首脳会談やASEAN国防相会議プラスなど、外交的な面だけでなく、経済的にも世界の均衡を考える上で中心的な地域となっている。この地域は38ヵ国で構成され、世界の面積の44%、人口の65%、GDPの62%、貿易の46%を占めている。グローバル化と海洋化により、世界はインド太平洋に原材料や消費財の自由な流通に大きく依存していることから、この地域の海洋安全保障は世界全体にとって重要な問題となっている。
(2) マラッカ海峡やシンガポール海峡の海洋安全保障、及び南シナ海やベンガル湾の平和と安定は重要な課題である。漁業資源の乱獲、海難救助、海上テロ、麻薬取引、さらには不法移民などのインド太平洋における課題は、世界的な影響を及ぼしている。例えば、シンガポールのInformation Fusion Centre(情報融合センター:以下、IFCと言う)によると、2021年にはシンガポール海峡で船舶等に対して44件の攻撃が行われ、その数は2016年から常に増加し続けている。また、気候変動が人類にもたらす脅威は、世界のすべての国、特にアジア太平洋地域のすべての国に関係している。このような状況において、海洋関係者間の海洋状況把握(MDA)を改善することは必須であり、フランスはそれに貢献できる。
(3) フランスは、欧州諸国の中で最初にインド太平洋地域における戦略を正式に定めた。2018年5月、フランス大統領は地域政策の枠組みとして、対話と多国間主義による紛争の解決、地域の海洋安全保障への貢献、国家主権強化への支援、気候変動との戦いを掲げた。2019年、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議、いわゆるシャングリラ対話で、フランス国防相は「インド太平洋におけるフランスの防衛戦略」を発表し、2021年7月の第5回フランス・オセアニア首脳会議でこれを確定させた。また、フランスは、EU諸国の中で唯一、インド太平洋に補給品等を永続的に事前集積して、定期的に水上艦艇、潜水艦、航空機を配備し、インド、日本、米国、インドネシア、シンガポール、ベトナムなどの戦略的な提携国と、高官級の交流を組織的に行っている。フランスには、この地域の海洋安全保障に積極的に参加できる資産がある。それは世界規模の海運を展開する船主会社CMA-CGMや弾道ミサイル搭載原子力潜水艦4隻、空母1隻、世界中に海軍基地5か所を有する第一級の海軍であり、さらに、「海洋における国家行動」と呼ばれる独自の海洋ガバナンスの様式である。「海洋における国家行動」は、この地域の多くの国が自国の海洋ガバナンスの効率性を疑問視している中で、適切な沿岸警備隊を保有する代わりに、海外県の県知事(または海外領土総督)あるいは海事局長(maritime prefect)の権限下での調整に依拠するものである。
(4) フランスは、同国のMaritime Information, Cooperation, and Awareness Centre(海洋情報・協力・把握センター:以下、MICAと言う)と船主、傭船者、運航者との間で、アジア太平洋の海洋の問題に関わるすべての人にとって有益な2者協定を確立している。フランス海軍は、船主、傭船者、運航者との間で情報を共有する自発的な取り組みを通じて、20年にわたって海運業界と密接に連携してきた。2020年10月には、フランス太平洋軍がフランス領ポリネシアでインド太平洋海運(PACIOS:Pacific and Indian Ocean Shipping)作業部会を開催し、海洋安全保障とMDAの専門知識に関して関係者間で共有した。このように、MICAは海洋協力の新たな推進力を維持している。そして、海洋関連事業者に価値ある情報を提供することは不可欠であり、これはMICAとIFCに連絡士官を配置することで、日常的な連携と海事関係者の世界的なネットワークにより促進されている。
(5) フランスは、この地域でのMDAを推進するために、さらなる関与を求めている。この目的のために、シンガポール、インド、マダガスカルと2国間、多国間での提携を積極的に支援してきた。毎年インド太平洋で行動している7,000人の軍人、約15隻の艦艇、40機の航空機と、この地域の33カ国に駐在する18人の駐在武官で構成される外交・軍事ネットワークもフランスのMDAに貢献している。フランスは、海外を含めた海洋事業との協力関係を海事協力協定によって発展・加速させ、国や地域のMDAセンター等との信頼関係とネットワークの構築に積極的に参加する意向である。
(6) EUもまた重要な提携者である。ASEANとEUは、不法移民、麻薬密売、タンカーの違法清掃による海洋汚染、海上飛行、海上テロ、サイバー脅威など、同じ課題に直面している。このような共通の課題があるからこそ、海洋分野では多くの協力の道が開かれる。
(7) 海軍と海洋事業の関係は、この地域において絶対的な中心となっており、沿岸警備隊や海軍、そして船主、傭船者、運航者、保険会社、NGOなど海洋事業のすべての関係者との間で、安全な航行を維持するという共通の目的のために、MDA情報の共有を改善することが重要になっている。フランス、フランス太平洋軍、そしてMICAは、この精神に基づいて、すべての提携者と信頼関係を保ちながら活動を続けていく。
記事参照:France’s Defense Strategy in the Indo-Pacific

12月23日「台湾はむしろ孤立を―米防衛問題専門家論説」(NIKKEI Asia, December 23, 2021)

 12月23日付の日経英文メディアNIKKEI Asia電子版は、米シンクタンクRAND Corporationの上席防衛アナリストDerek Grossmanの“Taiwan Would Be Better Off Alone”と題する論説を掲載し、そこでGrossmanは近年台湾と断交し、中国と国交を結ぶ国が増えていることについて、むしろ台湾がなすべきは自身から小国との外交関係を断ち、外交的資源をより大国との関係維持に振り向けるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年12月、ニカラグアが台湾から中国へと外交関係を切り替えたことによって、台湾と外交関係を持つ国は14になった。2019年にはソロモン諸島とキリバスが同様の決定を下している。中国のこうしたやり方は、台湾の士気を低下させ、主権国家としてのイメージを損なうことに成功している。こうした中、台湾がなすべきことは実は、「国家の威厳を守るため」に、既存の外交関係をむしろ台湾の側から断つことだと考える。
(2) 問題は、台湾と外交関係を持つ国のほとんどが、パラオやセントルシアのように、地理戦略的重要性があまりない小国だということである。蔡英文総統は否定しているが、こうした国々との関係をつなぎとめるために、台湾はドル外交を実践してきた。しかし、蔡英文が総統に就任して以降、中国は台湾から提携国を奪う攻勢を強めてきた。以前私は、台湾はその攻勢をはね返し、外交関係を取り戻せると書いたけれども、どうやらうまく行きそうになく、ホンジュラスなどが外交関係の切り替えをしそうだという報道もある。その中でむしろ台湾のほうから外交関係を断ち切ることで、経済的な中国の依存を軽減するために時間と資源を費やすことができる。
(3) 小国との外交関係を解消したあと、台湾は、「新南向政策」を推進し、オーストラリアやインド、日本、ニュージーランドや東南アジア諸国との関係を強化すべきであろう。それに加えて、米国や英国、フランスやドイツなどの主要国との関係を強化することに外交資源を振り向けるべきである。折しも2021年のG7首脳会談では、これまで前例のなかった台湾支援の声明が発せられたのである。加えて台湾は、Biden大統領が主催した民主主義首脳会談などへの参加を通じて、非公式ながら国際的な関係を強化できるだろう。
(4) 台湾が本当になすべきことは、中国への経済的依存を減らし、中国に対する抑止力を強めることにあり、また、地域および世界的な立場を強化することにある。そのために、小国との外交に投じている資源を効率的に活用すべきである。外交関係を結ぶ国をあえて減らすことには批判もあるだろうが、たとえば2020年の台湾総統選において、国民党の候補者の韓国瑜のように、より「実践的で現実的な」政策を求める声が上がっているのも事実である。2019年、台湾はニカラグアへの1億ドルの援助を検討したことがあり、結局は実行に移さなかったが、こうしたドル外交によって関係をつなぎ止めようとする方針に対する不満の声が上がっている。
(5) 既存の外交関係を切り離すことで、台湾の主権が喪失するという懸念がある。しかし、すでにごくわずかな国からの外交承認しか受けていないことを考慮すれば、現状がさらに悪化するとは考え難い。台湾から断交を進めることは、たしかに中国に利するところがあるだろう。しかし台湾にとっての利点も大きい。台湾は勝ち目のない競争から解放され、中国を抑止するために本当の意味で助け合える国との関係を強化することに焦点を当てることができるのである。
記事参照:Taiwan Would Be Better Off Alone

12月23日「オーストラリア潜水艦部隊の急速拡大に中古の日本潜水艦を―元中国駐在ジャーナリスト論説」(The Strategist, December 23, 2021)

 12月23日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、2004年から2020年まで北京を拠点に活動してきた防衛問題ジャーナリストBradley Perrettの“Second-hand Japanese boats could rapidly expand Australia’s submarine force”と題する論説を掲載し、Bradley Perrettは計画する原子力潜水艦が導入されるまでの潜水艦戦力低下の懸念に対応するため、日本で除籍され始めるおやしお型潜水艦を導入することによって、安価にかつ迅速にオーストラリアの潜水艦部隊を補強することができるとして、要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリアはこの10年間の防衛力を改善し、計画する原子力潜水艦の準備のためにその潜水艦部隊を非常に安価で取り急ぎ拡張する方策を考える必要がある。日本から状態の良い中古の潜水艦を購入することでこれを成し遂げることができるかもしれない。可能性には問題があり、事実実行不可能の余地もある。しかし、この方策には大きな利点があり、達成できるかどうか真剣に検討してみることが必要である。常識から逸脱しており、管理上複雑だとして安易に破棄すべきではない。
(2) オーストラリア初の原子力潜水艦はアデレードで建造されるとして、2040年まで即応体制にはならないだろう。輸入すれば、2031年あるいは2030年にまで早めることができるかもしれない。しかしその間、潜水艦部隊は現状のまま、2020年代の能力不足の状態で取り残されることになり、これは非常に危険である。
(3) オーストラリアにはまた、原子力潜水艦乗組員養成の問題がある。潜水艦の保有数が多ければ多いほど、たとえそれが通常型潜水艦であっても乗組員養成はより容易であろう。訓練の問題に対応する1つの提案は、つなぎとして新しい通常型潜水艦を購入することである。理想的には現有のコリンズ級潜水艦の設計を使用した潜水艦である。この解決策には3つの重大な問題点がある。コリンズ級潜水艦の派生型であっても2030年代までに日の目を見ないだろう。建造費は高額であり、小型艦では非経済的である。長い間、能力不足と見なされてきた推進装置の形式を搭載した潜水艦ではオーストラリアは行き詰まってしまうだろう。
(4) これに対し、中古の日本の潜水艦は非常に迅速に、かつ安価に調達できる。そして、その運用可能年数が7年残っていれば、2060年代まで当てにならない艦艇として無為に過ごすことがなくなる。海上自衛隊は毎年1隻の潜水艦を就役させている。潜水艦は通常、30年は運用可能であるので、他の海軍であれば約30隻の潜水艦部隊を編成できる。しかし、海上自衛隊はそれほど長く運用する予算を与えられておらず、早期に潜水艦を除籍している。オーストラリアが手に入れようとしている潜水艦はコリンズ級潜水艦と同世代である。おやしお型潜水艦は1998年から2008年に就役している。おやしお型潜水艦の滞洋力と航続距離はオーストラリアの任務にはおそらく不十分であろう。静粛性とセンサー性能は二流ではない。しかし、乗組員の数はやや大きく70名である。
(5) オーストラリアにおいておやしお型潜水艦は航続距離がより長いコリンズ級潜水艦よりもより本国寄りの海域で運用されることになろう。おやしお級潜水艦はオーストラリア大陸への接近路である群島内の海峡に配備され、そこを通峡してくる目標への対処に役立つだろう。
(6) (おやしお型潜水艦の1、2番艦は練習潜水艦に艦種変更されており、現役として残る9隻のうち)最も古い「うずしお」が2023年に利用可能になると考えられる。「うずしお」、そして残り8隻も毎年除籍されていくので、オーストラリアは日本に(譲渡を)求めることができる機会がある。日本はより緊密な防衛関係や、譲渡潜水艦を支援するビジネスを手に入れるかもしれない。
(7) オーストラリアのおやしお型潜水艦の導入は、2029年に7隻に達し、艦齢30年と仮定すると2031年までその状態が維持され、その後、年1隻の割合で減少していく。都合の良いことに、これは輸入する原子力潜水艦の導入予定と同じ割合である。すなわち1隻が除籍され、1隻が参入する。この提案により、オーストラリアは破棄したアタック級潜水艦の契約に基づく12隻の通常型潜水艦よりも25年早く13隻の通常型潜水艦を保有できることになる。
(8) 中古のおやしお型潜水艦は任務稼働率の点でコリンズ級潜水艦よりも良いであろう。コリンズ級潜水艦のように2年もの大規模改装工事を必要としないからである。(これまでに経験のない)型式の潜水艦を支援することは好ましくない提案ではあるが、不可能ではない。コリンズ級潜水艦でも海軍の潜水艦部隊では見ることのないシステムや武器で満たされている。
(9) 支援の問題は日本の熟達した造修施設に依存することで大きく軽減することができそうである。必要なときはいつでも導入したおやしお型潜水艦を保守整備のために日本に送り返し、同潜水艦を扱い慣れた技術者、工員に委ねることで長期行動中の我々の自信を向上させることができるだろう。保守整備のために導入したおやしお級潜水艦を日本へ送ることは、極めて経済的でもある。オーストラリアは精緻な国内支援基幹施設を造り上げるための工場と訓練のために経費を支出しなくても良いだろう。ちょっとした修理であれば、日本の造船所やシステム提供者が人員をオーストラリアに駐在させることで支援できるだろう。
(10) 日本はこの点に関し、間違いなくオーストラリアにとって信頼できる提携国である。日豪両国は同じ戦略的問題を抱えている。中国である。この提案の大きな不明点は、日本の潜水艦を、23年を越えて運用し続けることがどれほど大変かということである。日本から除籍される時の物理的な条件が問題なのではない。おやしお型潜水艦の現在の保守整備計画はおそらく段階的に実施されているため、各潜水艦は除籍の時点でさらなる作業を受けることになっている。したがって、おやしお型潜水艦各艦はオーストラリア海軍に就役させる前に改装期間が必要になるだろう。可能性のある重大な問題は、古い電子機器、ソフトウエアが艦齢30年まで支援されているかどうかである。この点に関しては、若干の更新で対応できるだろう。そして、それを含めてもなお、おやしお型潜水艦はお買い得である。
(11) 運用開始するに当たって、オーストラリアは日本に完全な編成の乗組員のチームの借り受けを要請することができるだろう。完璧な英語力が求められるが、この乗組員チームはオーストラリア乗組員予定者を訓練し、オーストラリアの乗組員が潜水艦の操法に習熟するに従い徐々に帰国していくことになるだろう。日本は多くの潜水艦を保有しているのであるから、もう1チームをそれほど困難もなく派出することができそうである。取扱説明書は英語に翻訳しなければならないだろう。しかし、電子機器に取り付けられている説明板の文章はその必要がないだろう。そのような些細なものまで翻訳することは不必要に作業を複雑化するからである。たとえば、戦闘指揮システムのディスプレイに表示される日本語で書かれた一覧を見るオーストラリアの乗組員の理解は問題があるかもしれないが、世界中の軍人は輸入装備を操作するために英語を学ばなければならない。オーストラリアの乗組員が日本語を学ぶことができない理由はない。
(12) おやしお級潜水艦が2023年から毎年導入されるとして、訓練に利用できる時間は短いだろうが、納期が非常に魅力的であるため、作戦能力の達成が遅いことは許容されるだろう。オーストラリア政府は早急にこの可能性を検討すべきである。そして、オーストラリア海軍とDepartment of Defenceは中古の日本の潜水艦を運用することの問題点を見るだけでなく、解決策を模索すべきである。
記事参照:Second-hand Japanese boats could rapidly expand Australia’s submarine force

12月26日「2022年、米中対立の展望―米退役海軍大将論説」(NIKKEI Asia, December 26, 2021)

 12月26日付の日経英語メディアNIKKEI Asia電子版は、元NATO連合軍総司令官James Starvridisの“2022 look ahead: Arms race will dominate U.S. - China competition”と題する論説を掲載し、そこでStavridisは2022年には米中対立がさらに激化し、東アジアでの紛争の可能性が高まるとして、軍拡競争と外交の観点から要旨以下のように述べている。
(1) あらゆる観点から見て2021年は厳しい1年であった。東欧、中東、台湾海峡における緊張が高まる中、対立の焦点は東アジアに当たっているように思われる。それでは2022年には米中関係において何が起こるのだろうか。問題は、北京オリンピックが終わってからのことであろう。それまでは中国も論争を大きくする動きは見せないだろうし、米国も外交的ボイコットでことを収めるはずである。2つの次元における米中の対立の激化の可能性について考えてみたい。1つは技術的な軍拡競争と、もう1つは外交である。
(2) 軍備競争に関しては、3つの面で中国が有利な立場にいる。第1に、米国にとって最も大きな懸念は、中国による超音速ミサイルの試験と最終的な完成である。米国はそれに効果的に対抗する方法をまだ持っていない。第2に、中国はその戦略核の戦力を急激に増強している。核弾頭の数では米ロに大きく水をあけられての3位であるが、中国は良質な弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を建造し、地上発射型式の多弾頭型ICBMを数多く製造している。米ロは現在の均衡維持と中国のSTARTへの参加を望んでいるが、中国はそのどちらも望んでいない。第3に、中国は海軍力増強の速度を上げている。すでに艦艇数では米国を抜き、原子力空母や原子力潜水艦の建造によって質的な溝も埋めようとしている。中国共産党大会を前に、習近平国家主席はこうした成果を大きく宣伝し、さらなる任期の継続を望むことであろう。
(3) 米国も対抗策を講じている。最も重要なのは超音速兵器に対する抑止および対抗措置であるが、それはまだ存在しない。すでにサイバー攻撃能力は高いものがあるが、その強化を進めることによって、特に紛争が生起した場合にその初期段階で効果を発揮するだろう。宇宙に関しては、米国は中国よりも優位に立っており、さらにその分野に資源を投じることが示唆されている。
(4) 外交的には、米中は既存の関係の強化を目指していくだろう。中国にとっては天然資源の宝庫であるロシアとの関係強化が重要である。また、一帯一路構想に基づき、インド洋を横断する交易路への影響力を強め、かつ海外基地の建設を拡大して、世界的な海軍力の展開の強化を模索することであろう。米国は、日米豪印4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)の関係強化を引き続き継続し、米軍部隊や兵站の拠点をアジア全域に配備することに焦点を当て、またベトナムやシンガポール、韓国などにQUADへの参入を促すことであろう。ヨーロッパについてはNATOの同盟関係を強化し、同盟国に対し南シナ海への配備を奨励していくと思われる。
(5) 軍事技術、そして外交における米中の対立は激化していくはずである。ホワイトハウスは年明けに待望の中国戦略を打ち出す意向である。米中ともに優位性を模索し、直接的な軍事衝突は望んでいないが、それでも競争が激化するなかで誤算の可能性も高まる。2022年は、東アジアにとって危険な1年になるかもしれない。
記事参照:2022 look ahead: Arms race will dominate U.S. - China competition

12月27日「台湾は差し迫る嵐に備えよ―米台湾問題専門家論説」(Taipei Times, December 27, 2021)

 12月27日付の「台湾時報」の英語版Taipei Times電子版は、米シンクタンクBrookings Institution上席研究員Ryan Hassの“Steadying Taiwan for a storm on the horizon”と題する論説を掲載し、そこでHassは2021年に中国の勢いはやや衰えたものの、今後の台湾総選挙に向けて中国は台湾への圧力を強めることが予測され、それに対抗する政治的安定が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Lowy Instituteが実施したAsia Power Index調査によれば、2021年は米国の力が増大し、中国の力が小さくなった1年であった。こうした調査結果は、米国はもはや衰えており、中国こそが未来を象徴しているという中国の戦略的説明の説得力を損なうものであろう。
(2) 2021年の米国は、国際的指導力を回復し、国内の基幹施設投資を活性化して、米経済を上向きにさせた。Foreign Affairsのある記事によれば米国は2030年までに、COVID-19の世界的感染拡大前に予想されていたよりもその経済力を大きくすると観測されている。2021年に実施された民主主義首脳会談は、米国がなお各国を引きつける力を持っていることを示したと言える。
(3) 他方、中国に目を向けてみるとその勢いには停滞が見られる。中国は一帯一路構想への支出を削減し、自分たちの利益に挑戦していると思われるような国々に対して批判を繰り返している。その結果、発展途上国における中国に対するイメージは悪化の一途をたどり、天安門事件以降で最低の水準だという。経済成長の速度も鈍化し、人口、特に労働者人口が減っている。生産性に関する成長も鈍化傾向である。もち論、成長自体は続けているし、軍事力も拡大させ、世界中で軍事的な足がかりを獲得してきた。中国は厳しい情報統制により、上述した戦略的説明を国内では維持し、習近平は国家主席3期目に突入することが確実視されている。
(4) 中国の指導者たちは自国の成長についてまだ自信を維持しており、そのことが台湾問題に関する長期的な解決のために戦略的忍耐を習近平が求めたことを正当化している。しかし、だからと言って中国が短期的な解決、すなわち軍事侵攻という手段をとらないとは限らないため、注意は必要である。この数ヵ月間、中国は前例のない多くの航空機を台湾の防空識別圏に送り込んでいる。
(5) 2024年の台湾での総選挙に向けて、中国は台湾への政治介入を強め、中国に望ましい政治環境を構築しようとするであろう。中国はまず間違いなく、中国にとって望ましくない候補者を妨害するであろう。それは2023年に実施され、総選挙の動向に影響を与えうる地方選挙で具体化するかもしれない。こうした中国の圧力は台湾の指導者たちの胆力を試すものである。幸い蔡英文は冷静な指導者であり、この嵐も乗り越えられるだろう。同様に今後の台湾指導者もこの圧力をどう切り抜けるか、その能力を問われることになるだろう。
記事参照:Steadying Taiwan for a storm on the horizon

12月27日「中国の空母、世界の海で活動:元中国軍大校談―香港誌報道」(South China Morning Post, December 27, 2021)

 12月27日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国軍元大校の周波の“China’s aircraft carriers will operate in the world’s oceans, ex-colonel says”と題する論説を掲載し、周波は中国が本物の外洋海軍(real blue-water navy)を作るという積極的な計画を持っており、中国空母打撃群は将来間違いなく世界の公海上に現れるであろうと語っているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国軍元大校周波は、中国は海外における利益が増大しているため近海での作戦所要よりも多くの艦船を建造していると語っている。周波は、2021年12月26日に「空母とはそもそも外洋で戦闘するための艦艇である。このような大型空母を設計、建造しながら自国に留めておくことは中国にとって不可能である。したがって、将来、中国の空母は間違いなく世界の公海に現れるであろう。中国空母の太平洋での訓練はさらに遠くに進み、第1列島線を越えていくであろう」と中国国営メディアである中国環球電視網で語っている。
(2) 中ロ海軍艦艇が共同して日本の海峡を通過したことは初めてである。周波は、中国が直面している主な安全保障上の脅威は主に海洋からのものであったと述べ、海軍の重要性が高まっていることを強調し、「台湾海峡、南シナ海、さらにインド洋からのものであろうと、脅威は現実的である」と語っている。中国海軍は「遼寧」と「山東」の2隻の現役空母を保有しており、3隻目の空母の完成も間近に迫っている。ウクライナの空母を改造した「遼寧」は2021年12月、太平洋での訓練のため出港し、日本列島からマレー半島まで続く第1列島線を越えた。防衛省は、「遼寧」の率いる中国艦隊が宮古海峡を通過し、その後、台湾の東側の海域を航行し、2021年12月25日に東シナ海に入ったと述べた。他の国々も、中国海軍の増強と空母の広い海域での運用に対し懸念を表明している。インド空軍の元参謀総長Bipin Rawatは2021年8月、中国空母は太平洋や南シナ海での運用のためだけではなく、インド洋などにおける運用も予想されるので、他国はその脅威に対抗する必要があると指摘している。
(3) 中国は本物の外洋海軍(real blue-water navy)を作るという積極的な計画を持っている。2035年までに少なくとも6つの空母打撃群を編成することを目指している。US Department of Defenseの報告書は、2021年11月、中国海軍は355隻の艦艇を持つ世界最大の海上兵力であるとし、中国海軍は今後4年間で420隻、2030年までに460隻に増強される見込みだと述べている。2021年12月23日、071Eドック型揚陸艦1隻と054型フリゲート2隻が上海近郊の滬東造船所で進水した。中国は近年、独立志向にある台湾と南シナ海に脅威を与えるため以前よりも多くの艦艇を配備している。周波は、中国軍は過去においては陸軍と空軍に重点を置いており、1974年の西沙諸島の戦いに参加した4隻の中国艦艇のトン数の合計は、南ベトナム最大の軍艦よりも小さかったと指摘した上で、「南シナ海の安全であろうと台湾問題であろうと、国境付近の問題を解決するだけなら、それほど多くの軍艦は必要ない。空母建造を含め、多くの軍艦を保有しているのは外洋に進出するためである。これは中国の巨大な国益と主要国としての国際的責任に関連している」と述べている。
(4) 周波は、「中国の海軍増強は、米国と英国がオーストラリアの原子力潜水艦の取得を支援する協定であるAUKUSを考慮に入れているが、それは大きな問題ではない。太平洋諸国の軍事的発展を評価する際にはこの要因を考慮に入れなければならないが、それは決定的ではない、たいしたことではないと思う。海賊対処という単一の任務が8ヶ月間も続くアデン湾での活動に中国海軍は13年間も参加したことにより、中国の海軍士官は国際的海域の状況に精通するようになった」と述べている。しかし、彼は米国の海外任務が米国の優位を求めているのとは対照的に、中国の海外任務は人道上の必要性と平和維持活動に必要な場合に実施されていると述べ、ジブチの中国軍基地以外にも中国が多くの海外軍事基地を建設するかもしれないという懸念は大げさに考えるべきではないとした。
記事参照:China’s aircraft carriers will operate in the world’s oceans, ex-colonel says

12月27日「南シナ海の行動規範をめぐる駆け引きが激化―香港紙報道」(South China Morning Post, December 27, 2021)

 12月27日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea code of conduct may miss 2022 deadline, PLA adviser warns”と題する記事を掲載し、中国とASEANは、南シナ海での行動規範案に関しては、多くの側面でまだ合意していないが、米中の大国間競争によって、交渉における駆け引きや域外からの干渉が激化するとして、要旨以下のように報じている。
(1) 係争中の南シナ海に関する中国・ASEANの行動規範は、2022年の期限を過ぎる可能性が高いと人民解放軍退役少将姚雲竹は警告している。姚雲竹は、規範の領域と範囲に関する未解決の論争、米中の地政学的対立の激化、COVID-19の世界的拡大がこの遅れの原因だと指摘する。「交渉が深まるにつれ、駆け引きが激しくなり、米国やその他の域外国の干渉が強まり、合意形成がより困難になる」と姚雲竹は述べている。
(2) この規範は、資源が豊富で戦略的に重要な水路である南シナ海の緊張を管理することを目的としており、ここでは、中国といくつかのASEAN諸国からの重複する主権の主張が交差している。しかし、2017年以来の交渉の進展は、コロナウイルスの世界的拡大が主な原因で、過去2年間は停滞していた。1月に交渉を再開し、8月には中国とASEAN10ヵ国は規範の序文について合意したと発表した。北京は、南シナ海の領有権問題をめぐる緊張を管理するのに役立つとして、行動規範の早期締結を推進しているが、評論家たちは、米国を遠ざけようとしているのではと懸念している。
(3) Joe Biden大統領の下、米国は1951年の条約に基づきフィリピンを防衛するとした明言を含めて、南シナ海での姿勢を着実に強めている。米政府はヨーロッパの主要な同盟国とともに南シナ海における艦艇の航行を増大させる以外にも、9月にはオーストラリア及び英国との3国間軍事提携、AUKUSを発表した。中国政府は、米国主導の中国封じ込め戦略の一環であるとしてこれを非難した。米中両国が軍事的展開を高める中、南シナ海はこの地域における主要な潜在的火種となっている。2021年12月の第4週、中国共産党機関紙人民日報は、中国の空母「山東」が南シナ海での「戦闘重視の演習」のために出港したと報じた。一方で、米軍も南シナ海上空からの対中監視活動を増大させている。
(4) 人民解放軍空軍退役大校周波は、南シナ海で中国と米国の艦艇が衝突する危険性が危険なまでに高まっていると述べている。周は12月26日、国営中国国際電視台に対し、拘束力のない2014年に署名された「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準」などの既存の機構は、現実の状況では機能しないかもしれないと語り、「海での偶発的な衝突を防ぎ、安全な距離を保つことができるようにするため、定期的な演習が必要である」と述べている。
記事参照:South China Sea code of conduct may miss 2022 deadline, PLA adviser warns

12月28日「AUKUS、台湾防衛への意義―米台湾安全保障問題専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, December 28, 2021)

 12月28日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNetは、ニューヨークにあるTaiwan Security Analysis Center所長のFu S. Meiによる“AUKUS’ short- and long-term implications for Taiwan”と題する論説を掲載し、そこでFuは、AUKUSの結成が台湾防衛にとって持つ意味について、なお不透明なことはあるものの、中国の抑止に大きく貢献するものであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 英米豪3ヵ国による防衛協定(以下、AUKUSと言う)は、単なる潜水艦に関する協定を超えて、中国との対立を念頭に入れて、この3ヵ国が中国の台湾侵攻を抑止するための米国主導の秩序を強化しようというものである。したがってAUKUSは台湾防衛にとって大きな意味を持つ。
(2) 原子力潜水艦を獲得することによって、オーストラリアは台湾海峡への潜水艦の展開を維持できるだけの航続距離や航行速度を手に入れることができる。また、AUKUSの下で構想されているトマホーク巡航ミサイルや、米豪による超音速ミサイルの共同開発などのさらなる長距離攻撃能力は、オーストラリアの軍事力を強化し、台湾有事に際して米国の軍事作戦を支援する能力をオーストラリアに提供するだろう。またAUKUSは、英国がインド太平洋の安全保障に強く誓約していることを示すものでもある。これらは、Biden政権が打ち出している「統合的抑止」の強化に貢献するものである。
(3) しかしながら、この協定は台湾を励ましたであろうが、台湾はAUKUSが持つ意味については慎重な姿勢を維持している。もし本当に英米豪が中国侵攻の抑止に誓約したのだとしたら、たとえば英国が台湾に課している兵器輸出制限など、対台湾政策の再検討がなされなければならない。オーストラリアの誓約についても、同国と中国との経済関係を考慮して、台湾は楽観的ではない。
(4) 米国は台湾防衛の強化に向けて着実に前進しており、台湾との安全保障協力に関する制限緩和を一部同盟国に呼びかけているようである。とはいえ、英米豪の3ヵ国は中国による台湾侵攻の可能性が最も高まると予測されている2027年まで、台湾海峡の勢力均衡を変更するような軍事力の再配備を行うことはないだろう。オーストラリアが原子力潜水艦を獲得するのも10年以上先のことであるし、英国が巨大な軍事力をインド太平洋に維持する意図があるか、またその余裕があるかは不透明である。AUKUSが台湾安全保障にとって持つ意味は、このように長期的なものである。
(5) では短期的な観点から何がなされるべきか。AUKUSは台湾有事のシナリオに焦点を当てた野心的な安全保障協力の意図を推進すべきである。戦略的には統合の戦争計画を立案し、作戦レベルでは相互運用性強化のための統合機動部隊の編成を考慮するとよいだろう。また、防衛システムや関連技術を利用した台湾支援に関する議論を前進させるべきである。
(6) 以上のように課題はあるものの、それでもAUKUSは、中国の軍事的主張に対して真剣に対抗する意思を主要国が持つことを台湾に知らせるものである。それによって台湾の指導者は自国の防衛と生存のために戦う決意を固めるであろう。そうしたことこそが、中国の軍事的冒険主義に対する抑止力強化にとって重要なのである。
記事参照:AUKUS’ short- and long-term implications for Taiwan

12月28日「中国シンクタンク『南シナ海で米軍に対する警戒を怠るな』―香港紙報道」(South China Morning Post, December 28, 2021)

 12月28日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: think tank calls for Beijing vigilance as US steps up surveillance of disputed waterway”と題する記事を掲載し、中国のシンクタンクが南シナ海で活発に活動している米軍を注視し、警戒を怠らないよう警告を発しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米国は2021年に南シナ海での中国への監視を強化したと、北京を拠点とするシンクタンク南海戦略態勢感知計画が発表し、同海域をめぐるリスクの高まりに警戒を怠らないよう中国政府に求めた。南海戦略態勢感知計画の主任胡波は、2021年に米国は大型哨戒機による監視任務を1,200回実施し、2020年の1,000回を上回っており、これには中国政府が主張する領海の基線から20海里までの接近も何件か含まれていたと語っている。胡は、「南シナ海では毎日、両国の間で海や空での遭遇が何度も起きている。不適切な処理や事故があれば、深刻な事態につながるかもしれない」と述べている。11月、南海戦略態勢感知計画は米軍機が11月に係争海域で94回の偵察飛行を行い、その作戦の80パーセントがP-8哨戒機によるものであったと述べている。米国は11月4日、「カール・ヴィンソン」空母打撃群がこの水域を通航したと同じ頃に、10機の航空機をこの係争海域上空に送った。北京は繰り返し抗議し、また自国の軍艦や航空機をこの海域での訓練のために展開した。中国空軍退役大校の周波は、軍艦が「安全な距離を保つ」ための訓練を提唱し、2014年に署名された「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準」のような拘束力のない既存の機構が実際の状況下で機能しない可能性があると述べている。
(2) 胡は、他の国も南シナ海での軍事的プレゼンスを高めていると警告し、12月初めにこの水域に派遣されたドイツのフリゲート艦「バイエルン」の例を挙げた。独海軍総監のKay-Achim Schonbach中将は、ドイツはアジアでさらなる軍事配備を行うつもりだとした上で、胡は「現段階では、南シナ海で中国に大きな軍事的脅威を与えることができる国や軍隊は米国だけである。中国は米国を注視し、予防策を講じなくてはならない。しかし、その他の国の動きを侮るべきではない」と述べている。
記事参照:South China Sea: think tank calls for Beijing vigilance as US steps up surveillance of disputed waterway

12月29日「潜水艦輸出に見る中国の影響力の増大―潜水艦専門家論説」(Naval News. December 29, 2021)

 12月29日付のフランスの海軍関連ウエブサイトNaval News、潜水艦専門家H I Suttonの“China’s Surprise Submarine Move Shows Its Growing Power”と題する論説を掲載し、H I Suttonは中国がパキスタン、バングラデシュ、タイ、ミャンマーに潜水艦を売却することによって、一帯一路構想の基幹施設関連の各種計画のように、影響力の増大を図っているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 潜水艦売却は国際的な力と影響力の戦いにおいて強力な武器となる。中国は、地政学的状況を形作るような方法で、潜水艦売却と一帯一路構想をますます密接に組み合わせている。最新の驚くべき潜水艦売却の状況はそれを示している。中国の潜水艦が2021年12月20日にマラッカ海峡に入りインド洋に針路をとった時、どこに向かっているのかという憶測が飛び回った。その潜水艦が2021年12月23日にミャンマーのヤンゴン川に引き込まれたときに答えが出た。文字どおり次の日に、それはミャンマー海軍潜水艦「ミンイェ・チョーテイン(Minye Kyaw Htin)」としてミャンマー海軍において就役した。この売却(移転)は事前には発表されていなかった。このことは、この地域における中国の影響力の増大と地政学的分野における潜水艦売却が果たす役割を表している。そして、中国が世界の潜水艦市場に与える影響は大きくなっている。中国は現在、4ヵ国に潜水艦を提供している。
(2) 潜水艦を購入することは、車の買い手が、車種を選択し性能カタログから車を選ぶというようなものではない。買い手は在庫品をすぐに買い取るようなものではなく、性能要目を決める必要がある。潜水艦が建造される場所、買い手の注文に応じて作る程度、乗組員の訓練、継続的な修理などは、すべて典型的な取引の一部である。そして、地政学的な側面は常にあり、多くの場合、政府間の交渉にもなる。潜水艦売却は単に商業的なものではない。売り手の政府は、買い手の国との同盟の締結または同盟の強化を支援するために潜水艦を売却することがある。あるいは、少なくとも今後の良好な国家間の関係を期待する。これは、潜水艦が無料で提供されている場合、または大幅な値引きで提供されている場合に、特に当てはまる。潜水艦売却を行う1つの方法は、自国の古い潜水艦を自国の在庫から提供することである。それは将来政治状況が変わっても、両国にとってウィン・ウィンの関係となり、紛争の危険性を制限できる可能性がある。
(3) ミャンマーへの中国潜水艦売却は、多くの売却事例よりもより複雑である。中国は長年にわたりミャンマーへの主要な武器輸出国であったが、潜水艦はその枠組みにはなかった。その代わりにミャンマーは、潜水艦についてはインド、ロシアと関係を持っていた。ミャンマーが中国から潜水艦を購入することは、対外的には、インドの努力への裏切りと見えるかもしれない。ミャンマーは、約20年間潜水艦能力を確立しようと努力してきた。ミャンマー海軍は、ちょうど1年前の2020年12月24日、最初の潜水艦を就役させた。重要なのは、その潜水艦はインド洋海域における中国の現在のライバルであるインドから移転されたということである。インドから購入した潜水艦も中国から購入した潜水艦もどちらも比較的古いタイプで、どちらも中古である。中国からのものはType035潜水艦であり、インドからのものはロシア製のキロ級潜水艦である。後から到着したにもかかわらず、中国の潜水艦はインドが提供した潜水艦に対し、改良された点はほとんどない。実際に、機器調整の正確な詳細を突き止めることは性能上難しいが、キロ級潜水艦は一般的に優秀な潜水艦と考えられている。そのため、ミャンマーが突然古い型の中国の潜水艦を購入したことはミャンマーの潜水艦能力の近代化を意味するものではない。これはもっと大きな計画の一部である。中国はおそらく、ミャンマーが今後引き続き注文を出し、より近代的な潜水艦を購入することを期待している。そして、その過程においてベンガル湾での中国の地政学的地位を固めることを期待している。中国は過去に非常によく似たようなことをしてきた。2017年にバングラデシュに2隻のType035潜水艦を提供している。
(4) 過去数十年間、潜水艦の輸出市場はフランスとドイツが優位を保ってきた。これらの大きな輸出国はすでに挑戦を受けている。韓国、スペイン、日本などが新規参入し、スウェーデンのような再浮上してきた国もある。そしてもちろん、ロシアは潜水艦輸出に利害関係を持っている。今、中国が加わり、急速に首位の座に向かって進んでいる。中国は、すでに4ヵ国に合計12隻の潜水艦を提供している。最大の、そしておそらく最も高度な取引は、パキスタンとのものである。パキスタン海軍は8隻の元級潜水艦として知られるType 039B潜水艦を中国から取得しており、4隻が現地で建造されている。タイは、S26Tと名付けられたType 039B潜水艦を1隻取得しようとしている。中国は他の国、特にナイジェリアに潜水艦を売ろうとしていることは知られている。ロシアと同じように、中国は西側が提供しそうにない国に潜水艦を喜んで売却しようとしている。しかし、ロシアとは異なり、中国の新しく建造する潜水艦はAIPが付いている。それは古典的な一帯一路構想と一緒になって、国際的に孤立した政府にとって特に魅力的なものになるかもしれない。西側の関係する潜水艦建造業者も中国の動向を見守っている。一方では、中国潜水艦の購入を考えない多くの見込み客もいる。とはいうものの、潜水艦市場は間違いなく中国と西側の両方に開かれており、多くの国において重複している。中国潜水艦はますます西側の潜水艦に対して直接、競争力を増すであろう。
(5) 戦いは単に価格に関することだけではなく、戦略的な影響力と戦略的な位置に関係するものとなるであろう。中国にとっては一帯一路構想の側面が追加されている。これは世界中の主要な基幹施設開発に投資する中国政府の戦略である。中国のこのような大きな構想に巻き込まれた国のひとつがミャンマーである。一帯一路構想の計画は基幹施設関連が中心であるが、多くの人はその計画と潜水艦売却との間の境界線は非常にあいまいであることを見出すであろう。別の言い方をすると潜水艦売却はどちらがより大きな影響力を持つかという戦いと戦略的位置づけの一部である。潜水艦は、港湾や造船所の計画と同様の方法によって利用することができる。ミャンマーの場合、潜水艦売却の状況を見ていくことは興味深いであろう。さらに、ミャンマーが中国に払う確かに安価でいわば無料のような潜水艦の購入価格だけでなく、中国が将来ミャンマーにどのような制限を課していくのかを見ていくことは興味深いであろう。
記事参照:China’s Surprise Submarine Move Shows Its Growing Power

12月30日「『統合抑止力』への依存、国家戦略における誤った考え―米専門家論説」(The Heritage Foundation, December 30, 2021)

 12月30日付の米The Heritage Foundationのウエブサイトは、同財団 Center for National Defenseの長Thomas W. Spoehr米陸軍退役中将の“Bad Idea: Relying on “Integrated Deterrence” Instead of Building Sufficient U.S. Military Power”と題する論説を掲載し、ここでSpoehr元中将は十分な米軍事力を構築する代わりに、「統合抑止(“Integrated Deterrence”)」に依存することは誤った考えであるとして、要旨以下のように述べている。
なお、本記事は2021年12月3日付の米シンクタンクCSISのウエブサイトDefense360に掲載されたものをThe Heritage Foundationが転載したものである。 
(1) Austin米国防長官は2021年夏、Biden政権が軍事侵略を回避するために提案した新しい概念を説明するために、「統合抑止(“Integrated Deterrence”)」という用語を使用した。国防長官は、統合抑止を「同盟国や提携国との緊密な連携によるあらゆる軍事的、非軍事的手段を活用する」ものと要約した。この考えは一見、魅力的に聞こえるが、政策立案者はこの概念を慎重に見るべきである。一方で、国力のあらゆる要素を使って紛争を抑止することは、米国の国家戦略における一貫した取り組みであった。しかし歴史はまた、経済制裁や外交的非難といった非軍事的手段も、確信的な敵対者による紛争挑発を抑止する上で限定的ながらも有用であることを証明してきた。米国は利用可能な全ての手段を動員すべきだが、紛争を抑止する最も確実な手段は、同盟国と協調した十分な軍事力を構築することである。十分な軍事力は、力の行使によって目的を達成できるかどうかについて、敵対者を確実に疑心暗鬼にさせよう。
(2) 米国が敵対者を如何に抑止するか、これが核心的課題である。抑止についての定義は多いが、単純明快な定義は「敵対者による武力行使の決心を阻止する」ことである。米国の国防戦略において、中国あるいはロシアからの軍事行動を抑止することは、祖国防衛に次いで、最も重要な任務であることは間違いない。したがって、最も効果的で信頼性の高い抑止戦略を考案することが特に重要である。敵対者をどのように抑止するかを検討する上でよくある誤りは、敵対者の立場から検討するのではなく、米国の視点から検討することである。ある程度、Biden政権の統合抑止概念も、経済制裁、国際的非難、あるいは法的制裁といった非軍事的手段を、伝統的な軍事的手段を補強する有益な手段と見なすことで、米国の視点から安全保障問題を見るという罠に陥っている。こうした手段は全体的な抑止態勢に貢献し得るが、こうした手段に頼って軍事侵略の愚かさを敵対者に納得させようとすることは、特にそれが十分な米軍事力の構築に必要な投資に対する制限を正当化するために利用されるならば、潜在的に危険である。
(3) 実際、米国の2つの主たる潜在的敵対者――中国とロシアは、非軍事的制裁をほとんど気にしない。2014年のウクライナ侵攻などに見られたように、モスクワは自国に対する世界的な評判を気にしていないが、中国もそうである。たとえば、北京は2016年の南シナ海に関するPermanent Court of Arbitration(常設仲裁裁判所)の裁定を「くず紙に過ぎない」と一蹴したし、ウイグル人の迫害や香港での違法な弾圧に対する国際的な懸念に対しても無関心である。非軍事的手段が中国やロシアを抑止するであろうとする考えは、国際的評判や支持に大きな価値を置くという国際関係に対する米国の偏見をある程度反映している。中国とロシアはそうではない。経済制裁や外交的非難などの非軍事的手段が独裁的な敵対者の意思決定過程に及ぼす影響を予測することは不可能であることから、こうした手段に依存することは賢明ではないであろう。実際、抑止力の核心は軍事的機能である。突出した軍事力とそれを行使する意志の誇示だけが、受け入れ可能な対価で自己の目的を達成し得ると考える敵対者の心中を疑心暗鬼にさせる力を持っているのである。非軍事的手段は信頼できないが、拒否的抑止とも呼ばれる敵対者の目的達成を拒否することを狙いとする、戦力構成とその態勢の相乗効果に基づくことで、軍事的成果は効果的に予測することが可能である。長年にわたって、拒否的抑止は、敵対者を阻止するための不可欠の要件と認識されてきた。
(4) US Department of Defenseの「統合抑止」体制は、同盟国を非常に重要視している。確かに、同盟国は力の総合的な相乗効果に貢献することができる。したがって、中国とロシアを抑止するに当たって、米国は強力な提携関係を構築するためにあらゆる努力を傾注すべきである。しかしながら、こうした努力に当たっては、同盟国の貢献には限界があるという現実を受け入れなければならない。実際、ほとんどのNATO加盟諸国は、GDPの2%という国防費の目標を満たしていない。
(5) 米国は侵略を抑止するために、国力の全ての要素と同盟国の貢献を動員する必要があるか。確かに、この取り組みは国家レベルで採用され、国家安全保障戦略に明確化されるべきである。しかしながら、効果的な抑止態勢を構築するためには、US Department of Defenseは非軍事的手段への依存や、同盟国に対する非現実的な期待を避けなければならない。そうする代わりに、US Department of Defenseは敵対者の目的達成を拒否するために、十分な量の適切な要素からなる軍事力の開発に、その努力と国家防衛戦略の目的を絞るべきである。十分な米軍事力を構築する代わりに、統合抑止という概念を使用することは、国家安全保障における誤った考えである。
記事参照:Bad Idea: Relying on “Integrated Deterrence” Instead of Building Sufficient U.S. Military Power

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) “JAUKUS” and the emerging clash of alliances in the Pacific
https://pacforum.org/publication/pacnet-59-jaukus-and-the-emerging-clash-of-alliances-in-the-pacific
PacNet, Pacific Forum, CSIS, December 22, 2021
By Artyom Lukin is Deputy Director for Research at the Oriental Institute – School of Regional and International Studies, Far Eastern Federal University (Vladivostok, Russia).
 12月22日、ロシアFar Eastern Federal UniversityのResearch at the Oriental Institute副所長Artyom Lukinは、米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNetに、““JAUKUS” and the emerging clash of alliances in the Pacific”と題する論説を寄稿した。その中で、①AUKUSに対するロシア政府の姿勢は、何よりもまずロシアと中国の関係によって決まる、②ウクライナ問題を考えると、当面はロシアと米国が相違点を解決する可能性は低いが、同時に、中国政府と米政府の対立が激化しているため、ロシア政府と中国政府の結びつきは強くなる、③ロシア政府は繰り返しAUKUSへの不支持を表明し、習近平はNATOがロシア国境への拡大を止めるべきという「ロシアの要求を支持」した、④おそらく中国は独自の同盟網を構築しようとし、ロシアはその中心になるだろう、⑤軍事面では、ロシアは中国に3つの利益をもたらすことが可能で、第1に、ロシアは中国軍にとって最も重要な軍事技術の外部供給国である、第2に、ロシアは欧州戦域で米政府の注意をそらし、西太平洋でのその対応能力を弱めることができる、最後に、ロシアは、台湾をめぐる対立が発生した場合、中国を支援することができる、⑥すでに日本が非公式に参加している可能性がある「JAUKUS」は、主に海軍の提携であるため、中国にとって北太平洋にあるロシアの資産が役に立つ、⑦ロシアは中国の戦力を増強させる様々なものを提供することが可能であり、例えば、中国の潜水艦はロシアのオホーツク海を聖域として利用することができる、⑧ウクライナ危機が深刻化して、欧米がロシアに大規模な制裁を加えれば、ロシア政府は中国が経済的に頼みの綱であるため、その見返りとして、太平洋での戦争に巻き込まれた場合、ロシア政府に選択の余地はない、⑨北朝鮮もまた中国を中心とする同盟網の候補であるため、今後数年間で、「RUCNDPRK」提携がJAUKUSへの対抗勢力となる可能性がある、といった主張を行っている。

(2) Stuck in Second Gear: Indonesia’s Strategic Dilemma in the Indo-Pacific
https://www.iseas.edu.sg/wp-content/uploads/2021/11/ISEAS_Perspective_2021_170.pdf
ISEAS Perspective, The ISEAS – Yusof Ishak Institute, December 28, 2021
By Evan A. Laksmana, Senior Research Fellow at the Centre on Asia and Globalisation at the National University of Singapore’s Lee Kuan Yew School of Public Policy
 2021年12月28日、シンガポール・National University of Singapore’s Lee Kuan Yew School of Public PolicyのEvan A. Laksmana主任研究員は、同国のシンクタンクThe ISEAS–Yusof Ishak Instituteのウエブサイトに" Stuck in Second Gear: Indonesia’s Strategic Dilemma in the Indo-Pacific "と題する論説を寄稿した。その中でLaksmanaは、インド太平洋の中心に位置するインドネシアは、地域の安定やASEAN主導の地域秩序を脅かしつつある大国政治への対処のみならず、国境を越えた組織犯罪や違法漁業活動などに対する日々の懸念に至るまで幅広い関心を有しているとした上で、①インドネシア外交当局は、外交資源を「ASEAN・インド太平洋に関する概観(ASEAN Outlook on the Indo-Pacific)」の実施に集中させてきたが、ジャカルタの戦略的資源と政治的指導は内向きであり、インド太平洋地域の戦略的課題に対処するためにASEAN以外の選択肢に投資する余地はほとんどない、②インド太平洋地域に対するインドネシアの戦略的対応は、関係省庁によって採用された地域問題に対する縦割りの取り組みという問題に加え、大統領府の下に、課題横断型や省庁横断型の政策決定過程を管理・調整するハブ組織が存在しないことによって、対処が分断され、支離滅裂なものとなっている、③インドネシアは、インド太平洋地域における自国の利益を守るために、戦略的な政策立案を見直し、ASEANおよびASEAN以外の国を通じて、地域パートナーと2国間協定を含む協力関係を構築する必要がある、などと指摘している。

(3) THE UNMET PROMISE OF THE GLOBAL POSTURE REVIEW
https://warontherocks.com/2021/12/the-unmet-promise-of-the-global-posture-review/
War on the Rocks, December 30, 2021
By Becca Wasser, a fellow in the defense program and co-lead of the Gaming Lab at the Center for a New American Security
 2021年12月30日、米シンクタンクCenter for a New American SecurityのBecca Wasser研究員は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" THE UNMET PROMISE OF THE GLOBAL POSTURE REVIEW "と題する論説を寄稿した。その中でWasserは、米国のリバランスあるいはピボットと呼ばれる政策がいかに「言行不一致」であるかを考える必要があると述べた上で、Trump政権下で軍事力の再配置などが行われたが、中国との競争が激化する中で、米軍の残存性を高め、先進的な能力を追加することで抑止力を強化するために、この見直しはインド太平洋地域におけるより多くの兵力と基地を意味するとの期待が高まったが、Biden政権の誇大宣伝にもかかわらず、米国の世界的な安全保障態勢は結局のところ大きな変更を必要としなかったことが示されており、特にインド太平洋地域ではそれが顕著であり、失望が広がっていると指摘している。そしてWasserは、国防総省はぐずぐずしている余裕はなく、姿勢を変えるには時間がかかるかもしれないが、Biden政権は今すぐ行動を起こし、同盟国や提携国になぜ今対中戦略の変更が必要なのかを理解させ、より迅速な実行を通じて「言行不一致」の解消に注力すべきであり、そうしなければ、米国は将来直面するかもしれない課題に対し常に準備不足の状態が続いてしまうと警鐘を鳴らしている。