海洋安全保障情報旬報 2023年07月01日-07月10日

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7月4日「AUKUS推進のために東南アジア諸国の信頼を確保せよ―インドネシア国際法専門家論説」(East Asia Forum, July 4, 2023)

 7月4日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUMは、Universitas Indonesia.国際法講師Aristyo Rizkaの “Australia’s defence ambitions need Southeast Asian trust”と題する論説を掲載し、そこでAristyo Rizkaは、オーストラリアはAUKUSに関する東南アジア諸国の懸念を払拭しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年9月に発表されてから、AUKUSはオーストラリアおよび東南アジアで激しく議論されてきた。AUKUSに関して、オーストラリアは3つのことを考慮に入れる必要がある。第1に、東南アジア諸国との信頼関係の構築である。第2に、AUKUSが国際法に従っていることを明確にすべきである。第3に、中国と平和的かつ安定的な関係を構築すべきである。
(2) AUKUSに関して、それがアジア太平洋の安定を強化するという肯定的意見がある一方、西洋の同盟国よりもアジア太平洋の隣国と戦略的安全保障協力を推進すべきだという否定的な意見がある。特に東南アジア諸国のAUKUSに対する懸念は重要である。彼らのAUKUSに対する態度はさまざまで、フィリピンはそれを歓迎しつつ、インドネシアやマレーシアは批判的である。後二者は伝統的に外部の軍事力の展開拡大には慎重な態度を示してきたためである。
(3) 信頼性の構築のためには、意思疎通の強化と透明性の確保が重要である。前者に関して、オーストラリアは2023年2月にインドネシアと外相・国防相会談を実施し、AUKUSについて優先的に議論した。2023年3月にはRoyal Australian NavyトップのMark Hammondが東南アジア諸国を歴訪し、Indonesian Navyトップと会談もした。それを受けて、インドネシア側は若干批判的な色彩を和らげることになった。透明性の確保についても、オーストラリアは最新の国防戦略レビューでAUKUSについて概要を言及するなど、その努力を続けている。
(4) 国際法の遵守について、オーストラリアは調達する原子力潜水艦に核兵器を搭載しないこと、核不拡散条約(以下、NPTと言う)やInternational Atomic Energy Agency(国際原子力機関:以下、IAEAと言う)の保障措置に従うと強調してきた。ただしNPTやIAEAの問題に関しては、オーストラリアに核物質を運搬することが、そうした条約等に違反している可能性が懸念されている。この問題に加え、オーストラリアは潜水艦の通航に関するUNCLOSにも従わなければならない。オーストラリアの潜水艦はインドネシア周辺海域を通航することになるだろうが、それがインドネシアを悩ませている。UNCLOSの下、潜水艦は平時であれば群島水域を通航できるが、場所によっては浮上し、国旗を掲揚する義務がある。
(5) 中国との関係について、オーストラリアは、地域への展開に均衡を取ろうとすることが有益である一方、平和的関係を構築することもまた重要である。AUKUSの発表直後、マレーシア首相のIsmail Sabri Yaakobは、AUKSUによって中国などが「特に南シナ海で」、「もっと攻撃的姿勢を採るようになる」かもしれないと懸念を表明している。中国との対立を拡大させることは、避けなければならない。
(6) AUKUSは地域における中国の攻撃的姿勢に対する解決策の1つかもしれないが、中国は東南アジア諸国の最も重要な経済的提携国の1つである。オーストラリアと中国の紛争は、地域にとっての大惨事となりかねない。
記事参照:Australia’s defence ambitions need Southeast Asian trust

7月5日「英仏との軍事交流には積極的な中国―香港紙報道」(South China Morning Post, July 5, 2023)

 7月5日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Chinese military holds strategy talks with UK, France in first since Ukraine war to boost ‘understanding and trust’”と題する記事を掲載し、中国軍の代表団が英国とフランスを訪問し、安全保障問題について見解を交換したことを受けて、中国の専門家が中国とヨーロッパとの軍事交流を訴えていることについて、要旨以下のように報じている。
(1) 中国軍の代表団が最近、「戦略協議」のために英国とフランスを訪れたことは、中国政府が米政府との対話に関心を示さないのとは対照的に、ヨーロッパとの意思疎通の道筋を開いておく努力をしていることを示していると中国の専門家は述べている。
(2) 中国軍の代表団が6月24日から7月1日にかけて、ヨーロッパの2ヵ国を訪問したのは、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻以来、初めてのことである。声明では、中国側は相手国の参加者と「2国間の防衛関係の発展、共通の懸念である国際的および地域的な安全保障問題について詳細な見解を交換した」と述べ、「相互理解と相互信頼が深まった」と付け加えた。議論の内容には「ウクライナの状況」、「南シナ海と台湾」といった問題が含まれていたとロイター通信は報じており、英国のMinistry of Defence報道官からの声明によると、この対話は英国がロンドンで開催した2国間の防衛戦略対話の一部として行われ、ヨーロッパ諸国は、中国にウクライナでのロシアの戦争を助けないように圧力をかけるという米国と協調した姿勢を示した。しかし、中国は中立的な立場を保つと主張し、この危機の調停に建設的な役割を果たすことを明言している。
(3) 英国とフランスは近年、紛争のある南シナ海の水域に艦艇を派遣しており、これによって中国政府の怒りを買っている。また、ヨーロッパ諸国が自治を行っている台湾への公的な支持を示したときも、中国政府は憤慨した。しかしながら、専門家達はこのような緊張にもかかわらず、通常の軍事に関わる意思疎通は影響を受けないだろうと述べている。北京大学の海洋戦略専門家である胡波は「(中国とヨーロッパの間の軍事関係には)実質的な矛盾や直接的な軍事的利益の衝突はなく、話し合いが行われることに問題はない」と述べている。清華大学の戦略与安全研究中心の上席研究員である周波は、中国とこれら英仏は、世界的感染拡大後に人的交流を再開する必要があると話している。
(4) 6月、シンガポールでのアジア安全保障会議では、中国の国防部長李尚福と米国の国防長官Lloyd Austinとの間に握手以上のことは何もなかった。米国の制裁対象である李尚福は、Lloyd Austinとの話し合いを拒否した。6月、米国の国務長官Antony Blinkenは訪中している間に2国間の軍における直接的な意思疎通の必要性を「繰り返し」提起したと述べているが、「今のところ、中国はそれを推進することに同意していない」と北京で中国の習近平国家主席との会談後の記者会見で記者たちに語っている。
記事参照:Chinese military holds strategy talks with UK, France in first since Ukraine war to boost ‘understanding and trust’

7月5日「米比防衛指針とフィリピンの独自外交の追求―フィリピン専門家論説」(China US Focus, July 5, 2023)

 7月5日付の香港のChina-US Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、フィリピンのシンクタンクThe Asia-Pacific Pathways to Progress Foundation 研究員Lucio Blanco Pitlo III の “Philippines-US Bilateral Defense Guidelines: Updating an alliance does not displace diplomacy”と題する論説を掲載し、ここでLucio Blanco Pitlo IIIは5月3日に改訂された「米比2国間防衛指針(The United States and the Republic of the Philippines Bilateral Defense Guidelines)」*は外交の代替になり得るものではなく、両国がそれぞれの国益と外交政策目標を追求する上での選択肢を狭めるものではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) この「米比2国間防衛指針(The United States and the Republic of the Philippines Bilateral Defense Guidelines)」(以下、指針という)によって、米国は、「今後5年間の優先すべき艦艇、航空機と部隊用装備一括供与を特定するための安全保障分野支援道程表の策定」などを含め、フィリピン政府の軍事力近代化への関与を拡大していくことになる。こうした動きは、たとえば、スウェーデン製多目的戦闘機Saab Gripenよりも米国製戦闘機F-16への支持を有利にするなど米国の航空宇宙・防衛産業を優先することで、フィリピン政府が着手したばかりの防衛装備の購入先多様化の試みを逆転させかねない。フィリピンはDuterte前政権下で、印ロ共同開発のBrahMos巡航ミサイルを購入するなど価格競争と装備供給源を限定したくないとの願望から、こうした装備購入先の多様化を推進してきた。
(2) 同盟は、相互運用性には高額な値札が伴うという観念を払拭しなければならない。最新ではなくても改良された艦艇、航空機でも、あるいは日本、韓国やNATO加盟国の装備でも代替が可能である。米政府は営業担当である以上に、フィリピン政府の数十年にわたる願望、自力防衛態勢(Self-Reliant Defense Posture : 以下、SRDPと言う)計画の真の提携者でなければならない。「安全保障分野支援道程表」は、SRDPと一体化することで、フィリピン政府が自前の防衛産業を発展させるための道筋を描くことができる。日本、韓国そして台湾など、米国のアジアの同盟国や提携国は、強固な自前の軍産複合体を持っている。これによって、これら諸国は自らの安全保障の所要の多くを充足するとともに、地域の平和と安定を維持するための負担の公平に寄与することができる。第1列島線におけるフィリピンの戦略的な位置を考えれば、フィリピンの防衛産業の未発達は、フィリピンとこの地域全体の弱点となっている。
(3) 米国は、長年の同盟国であるフィリピンに対して、旧式の艦船や老朽化した貨物機を供与する以上のことができる。5年間の道程表と期限10年の更新された防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)は、自前の防衛・民生部門を育成するという、マニラの長い間延期されてきた計画にとって重要な時間設定となろう。たとえば、米民間金融会社が2022年に買収したスービック湾の造船所は、Philippine Navy やPhilippine Coast Guardの艦船、あるいは商船を建造するために米国や他の同盟国からの有力企業を招請する必要があるが、全盛期に世界第4位の造船能力を誇った施設は閉鎖されて4年以上経つが、未だ再開されていない。このような防衛産業協力は、米比双方と地域にとって永続的な経済と安全保障の配当を生み出すことになるだろう。
(4) 指針はまた、少国間主義に基づく安全保障に関する新たなフォーラムについて、「共有する懸念と利益に対する共通の諸問題に対処する、3国間およびその他の形態の多国間協力を優先する」としているが、この点で、QUADやAUKUSなどの米主導の枠組みに対するフィリピン政府の前向きな姿勢は有益である。さらに、両国は「米比2国間の防衛活動に対する他国軍からの参加や観察のための適切な機会を設定する」としており、最近の米比演習への日本の参加などはその最たる例である。
(5) 指針はまた、米比相互防衛条約義務を迅速に発動できる武力攻撃の敷居を下回る脅威の増加を認識し、「(脅威が)非対称、ハイブリッド、および非正規戦とグレーゾーン戦術の形をとる可能性があることを考慮し、通常の領域と非通常の領域の両方で相互運用性を構築する」としている。さらに、より迅速な情報の共有と、南沙諸島のフィリピン管轄海洋自然地形に対する海上哨戒と補給能力の強化に対する支援は、南シナ海の海洋紛争に対するフィリピンの態勢を強化することになる。無人機や無人水中器はフィリピンの海洋状況把握能力を強化し、サイバーセキュリティ能力を高めるための支援は重要基幹施設を攻撃から守るのに役立つ。
(6) 同盟関係の強化は、必ずしも近隣諸国との関係を緊張させたり、外交活動の余地を狭めたりすることにはならない。指針は、「国際連合憲章に認められる固有の自衛権を損なうことなく、いかなる国の領土保全または政治的独立に対しても武力による威嚇または武力の行使を控えるという国際法における相互の義務を再確認」している。この一節は、台湾に面したルソン島北部の3ヵ所の新しくEDCAに基づき追加された基地を含む全てのEDCAで対象とする基地を攻撃目的で使用することを認めないとするMarcos Jr.大統領の言明と軌を一にしている。その含意は明確で、非平和的な手段によって達成される海峡両岸の変化に対して米比同盟は副次的存在に過ぎないということである。
(7) 最後に、米比両国は、「国際法に従って、それぞれの国益および独立した外交政策目標を追求する能力を保持する」としている。実際、Marcos Jr.大統領訪米の数日後、米中両国の代表団はウィーンで会合し、6月初旬には、Kritenbrink東アジア太平洋担当国務次官補とBeran国家安全保障会議中国・台湾問題担当上席部長が北京を訪問した。最近では、Blinken国務長官が訪中した。フィリピンでは、中国海軍練習艦がマニラを親善訪問し、歓迎された。フィリピンは、中国との2国間協議機構とASEAN中国間の「行動規範(COC)」交渉に引き続き関与している。新たな危険と脅威に直面して同盟関係を近代化することは、意見の相違に対処するための対話と外交に取って代わるものではない。指針がこのことを反映しているのは注目に値する。
記事参照:Philippines-US Bilateral Defense Guidelines: Updating an alliance does not displace diplomacy
備考*:以下のURL参照
https://www.defense.gov/News/Releases/Release/Article/3383607/fact-sheet-us-philippines-bilateral-defense-guidelines/

7月6日「非戦闘員の退避作戦はいつも厄介である―米国専門家論説」(Foreign Policy Research Institute, July 6, 2023)

 7月6日付の米シンクタンクForeign Policy Research Instituteのウエブサイトは、同Institute評議員でAfrica Program責任者Charles A. Rayの‶Noncombatant Evacuation Operations Are Always Messy″と題する論説を掲載し、ここでCharles A. Rayは20世紀後半以降最近までに米国等が経験した非戦闘員の退避作戦について、現地採用職員や協力者を守るのが極めて難しいとして、要旨以下のとおり述べている。
(1) 2023年4月、在スーダンの米国大使館職員は、同国内で敵対する軍事勢力間の戦闘が激化したため、大使館職員と米国市民の避難を準備した。機密文書や機密機器の破壊に加え、米国のビザを申請していたスーダン人のパスポートや身分証明書もシュレッダーにかけた。また、スーダンの現地雇用者を特定する書類も破棄された。報道では、米国と同様に破棄したフランスを除き、他の大使館は避難前にこれら書類をキャビネットに格納したという。
(2) スーダンのビザ申請者たちは、この事態に動揺している。これらの申請者は、全員がスーダンを出て米国に向かうことを望んでいたに違いない。今、彼らは戦争で荒廃した国に閉じ込められ、新しいパスポートを取得できる見込みもない。素人目には、無慈悲で非情なことのように聞こえるが、外交官たちの行動には、やむを得ない理由がある。
(3) 非戦闘員退避作戦(Noncombatant Evacuation Operations:以下、NEOと言う)とは、民間の非戦闘員や必要でない軍人を、海外の危険な場所から安全な避難場所、通常は米本土内に命令や許可によって退避させることである。NEOは通常、現地の状況に応じ、いずれかの軍種によって実施される。これらの活動は、U.S. Department of StateとU.S. Department of Defenseの覚書の権限に基づいて行われ、大使などの在外公館長がその国の治安情勢から判断し、U.S. Department of Stateに避難を要請した場合に開始される。ほとんどの場合、U.S. Department of StateはU.S. Department of Defenseに支援を要請する。
(4) どの国の危機も同じでないように、NEOもそれぞれ異なる。たとえば、1996年4月にリベリアの6年間の内戦が一転して悪化した時、米国人の避難が決定された。U.S. Army Special Forces(米陸軍特殊部隊)の一団がヨーロッパからシエラレオネのルンギ空港に飛び、そこに中間準備基地が設けられた。陸軍部隊に代わって、強襲揚陸艦「キアサージ」から海兵隊遠征部隊が派遣され、数千人の米国人とその他の国民がヘリコプターでシエラレオネの空港に避難した。1987年、タイのチェンマイにあるU.S. Consulate Generalが、地元麻薬組織の脅威によって避難を余儀なくされたとき、領事館員は全員バンコクに空輸され、脅威が収まるまで1ヵ月間滞在した。
(5) 米国のすべての大使館および領事館は、大使館等の避難に関する事項を含む緊急行動計画を最新に整えることが義務付けられている。外交使節団や領事公館が避難する際に必要なことの中には、機密・機微な機器、資料等の保全や破棄がある。人事記録、財務情報、パスポートなど機密情報の処分は、情勢や所在地によって異なる。たとえばアフガニスタンやスーダンのような国、あるいは米国大使館や領事館に関係する現地国民が報復の標的にされる可能性がある国では、関係者を特定できる文書を安全な場所に持ち出すことができない時は、破棄される。渡航書類を持たずにその国に取り残された個人にとって、苦難が生じるかもしれないが、米国人とのつながりが理由で投獄されたり、拷問を受けたり、殺されたりするよりはましである。また、パスポートが悪人の手に渡れば、テロリストや犯罪者に利用される可能性がある。
(6) 2023年のハルツームの大使館の事件でも、大使館職員が機密情報を残すことを良しとしたとは思えない。1979年にテヘランの米国大使館が学生によって占拠された後、武装勢力はシュレッダーで裁断された機密文書を復元した。それらの文書は対米プロパガンダに利用されたが、米国への渡航ビザを申請していることが特定された現地職員等も被害を受けたと思われる。1975年にサイゴンの米国大使館が退去し、共産党に占領された後、南ベトナム政権や米国人を支持した人たちが、検挙され、再教育キャンプに送られた。
(7) 海外に赴任した全ての米国の外交官は、任務の一環として、緊急避難に備え、米国市民やその他の非戦闘員の避難準備をしている。外交使節団が避難する際には、国家安全保障に影響を及ぼす可能性のある機密文書や機器は、撤去または破棄しなければならない。医療記録や人事記録、ビザ申請書、パスポートなど機密性の高いもの、個人を特定できる情報を含むものも、保全または破棄しなければならない。キャビネットに保管するのは、治安が完全に崩壊した状況では有効な対策とは言えない。
(8) 大使館や領事館は、定期的にすべての機密物件の目録を作成し、緊急避難の際に持ち出せない品目の破壊時間を見積もることが義務付けられている。いずれも、保全や破棄に失敗すると、国家や関係者に大惨事をもたらす可能性がある。スーダンの状況では、無傷のまま残されたものは、それを狙う者なら誰でも利用できるという前提に立たなければならない。避難は、米国市民が最優先され、指定された外国人がそれに続く。ビザ申請者は避難の優先リストに含まれない。申請者が渡航書類を持たずに残されるのは残念だが、名前が悪人の手に渡って報復を受ける一覧表に載るよりはましである。
(9) スーダンの在外公館が避難した場合、ニュース報道を見る限り、米国とフランス以外の国への渡航ビザを申請している人々は、秩序が回復して公館が再開されれば、書類を取り戻して渡航できるであろう。最終的に秩序が回復したとき、その人たちがパスポートを手にする可能性はある。暴力と無秩序に終わりが見えないことを考えれば、彼らが渡航できるかどうかは未解決の問題である。交戦中の勢力が争いを止め、話し合いの席につくまで、外国大使館にパスポートを預けたスーダン人は、残念ながら、同じ船に乗ってパドルなしで小川を上ることになる。
記事参照:https://www.fpri.org/article/2023/07/noncombatant-evacuation-operations-are-always-messy-affairs/

7月7日「中豪対立で揺らぐソロモン諸島の安全保障―ニュージーランド専門家論説」(The Interpreter, July 7, 2023)

 7月7日付のオーストラリアのシンクタンクLowi InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、ニュージーランドのMassey UniversityのCentre of Defence and Security Studiesの上席講師で、太平洋島嶼地域の地政学と安全保障の専門家Anna Powlesの“Geopolitical duel in the Pacific: Solomon Islands security at risk as Australia and China compete”と題する論説を掲載し、Anna Powlesはソロモン諸島が競合する豪中両国に安全保障上の提携を両賭けしており、このことが平和と安全保障の取り組みを圧倒し、弱体化させる可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリアのRichard Marles副首相は先週、ソロモン諸島の首都ホニアラ訪問前日、オーストラリア主導のSolomon Islands International Assistance Force(ソロモン諸島国際支援部隊:以下SIAFと言う)が任務の有効期限である2023年12月を超えてソロモン諸島に留まる可能性があることを示唆した。2022年に中国との安全保障協定に署名して以来、ソロモン諸島のManasseh Sogavare首相はRichard Marlesの訪問中に、SIAFの展開の根拠となっているオーストラリアとソロモン諸島の2国間安全保障条約の見直しを求めたが、この規定の下で、オーストラリアとともに部隊等をソロモン諸島に派遣しているニュージーランドとフィジーについては、Manasseh Sogavare首相はオーストラリアとの2国間安全保障条約のどの側面について見直すことを望んでいるかは言及していない。
(2) ソロモン諸島では、2019年に外交承認を台湾から中国に切り替えて以来、地政学的対立が激化している。この対立は、ソロモン諸島が2つの競合する安全保障の提携を両賭にし、オーストラリアと中国が優位性、影響力、存在感を求めて争うため、国の安全保障部門で最も顕著に表れている。
(3) ソロモン諸島は、安全保障上の利益を得るために地政学的対立をうまく活用してきた。オーストラリアは長い間ソロモン諸島の治安部門を支配してきた。2022年、Manasseh Sogavare首相はオーストラリアを「最適な安全保障上の提携国」と呼んだが、ソロモン諸島が安全保障上の所要を満たすためには、提携国の多様化が必要であると続けている。
(4) 2022年、中国は太平洋における「勢力圏」を求めていないが、南太平洋の安全保障における直接の利害関係者であると発表した。ソロモン諸島と中国は、2021年11月の暴動を受けてソロモン諸島への中国警察連絡チーム(China Police Liaison Team to Solomon Islands:以下CPLTと言う)の駐留を正式に定めた警察協定、その他の一連の安全保障協定に署名した。
(5) それ以来、安全保障部門における競争は拡大しており、地政学的対立が地域の安全保障の力学とどのように交差し、悪化させているかについての懸念が高まっている。これらの懸念には、地元の警察への不信感が含まれている
(6) 11月に始まるパシフィックゲームズ(4年に1度開催される主として南太平洋諸国が参加する総合体育大会:訳者注)などは、摩擦が起きる可能性が懸念されている。オーストラリアと中国はそれぞれ、2023年一杯、ソロモン諸島で安全保障の「展開任務」を維持し、2024年まで延長される可能性もある。現在、ソロモン諸島に展開している豪中両国の警察が、特に指揮の統一に関してどれほど効果的に協力できるかについて、オーストラリアは懸念を表明している。中国の市民と財産、特にパシフィックゲームズの基幹施設などの主要計画の保護は、ソロモン諸島における中国の安全保障協力の中核的な考えである。
(7) その中で、各国は地政学的競争が太平洋の安全保障部門に与える影響について地域内で提起された懸念に注意する必要がある。「太平洋諸島フォーラム太平洋安全保障見通し2022-2023」は、安全保障上の提携国による関与の速度の高まりを強調している。同報告書は、対立し、同盟関係にない安全保障上の提携国は、平和と安全保障の取り組みを圧倒し、弱体化させる可能性があることを示唆している。
記事参照:Geopolitical duel in the Pacific: Solomon Islands security at risk as Australia and China compete

7月7日「中国・キューバの接近が米国の国家安全保障に与える影響―米・中南米専門家論説」(The Conversation, July 7, 2023)

 7月7日付のオーストラリアのニュースサイトThe Conversationは、Florida International University のJack D. Gordon Institute of Public Policyの所長補佐Leland Lazarusの“China’s ties to Cuba and growing presence in Latin America raise security concerns in Washington, even as leaders try to ease tensions”と題する論説を掲載し、そこでLeland Lazarusは中国がキューバと接近している最近の動向に言及し、中国のラテンアメリカおよびカリブ海地域での存在感の拡大が米国の国家安全保障を脅かし続けているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国とキューバの関係強化、およびラテンアメリカにおける中国の存在感の拡大は、米政府の懸念を高めている。最近、米中の指導者の間には2国間関係を元の軌道に戻そうという機運がある。2023年6月にはBlinken国務長官が中国で習近平と会談し、7月初めにはYellen財務長官が4日間中国に滞在した。しかし関係改善への道のりは長そうである。
(2) 6月20日、中国とキューバが、キューバに中国用の電子通信傍受施設および軍事訓練施設を建設する取り決めを結んだという報道があった。これは、カリブ海やラテンアメリカで自国の存在感を拡大しようという中国の動きを反映している。米政府は、キューバからやってくる中国のスパイの存在や、2019年にキューバにある中国の通信傍受施設を改修していたことを認識している。以下ではこうした中国の動きの意義について述べる。
(3) キューバの新たな施設はどちらも、グアンタナモ湾にある米海軍基地の近くに建設されるだろう。同基地はU.S. Central Commandなど多くの部隊の拠点となっている。その近傍での通信傍受施設を用いて、中国は、米軍各司令部間でやりとりされる機密情報や、米海軍艦船や商業船の移動を監視できるようになる。さらに、米市民を対象に情報を収集する電子通信網を、中国はフル活用できるようになるだろう。
(4) こうした動きに中国企業が密接に関わってきた。華為技術有限公司(以下、華為と言う)などの電子通信企業は世界中に通信網設備を構築し、現地指導者や市民の動向に関する情報を中国政府に提供していると疑われている。また中国港湾工程有限責任公司などは、中南米およびカリブ海諸国において大水深港の建設を進めてきた。中国の工作員はそこから米艦船の動きを見張っている。さらに、中国企業は南アメリカで12もの宇宙研究施設を運営している。それは合法的な研究のための施設だが、米政府はそれが米国の衛星をスパイするのに使われていないか懸念している。
(5) 中国の警察組織の配置が世界中で拡大している。2023年4月、FBIは、ニューヨークのチャイナタウンで違法な警察署を運営していたということで、2人の中国人を逮捕した。こうした施設が世界中に100は存在すると考えられており、そのうち14施設が、中南米およびカリブ海諸国の内8ヵ国に存在する。さらに中国は地域の国々の法執行機関の強化に協力している。装備の寄付や、法執行機関関係者の訓練などの提供、華為などによる顔認証技術などの技術供与などがなされている。公的にはこれは地域の国々の犯罪防止に使われるのだが、現地の米政府関係者のスパイに使われている可能性が懸念されている。
(6) 中国を出発点とする麻薬の蔓延も問題である。2023年4月、Biden政権は、麻酔や鎮痛のために使われるフェンタニルの蔓延が米国の国家安全保障にとって脅威となっていると宣言した。そのサプライチェーンの起点は、しばしば中国の製薬会社の研究所だと言われている。米財務省と司法省は、フェンタニルの前駆体をメキシコの麻薬カルテルに流したとして、中国のさまざまな製薬企業およびその個人に刑罰や罰金を科した。
(7) 以上のように、中国とキューバの最近の関係強化の動きは、これまで数十年の間で中国が中南米とカリブ海で影響力を拡大してきたその一部にすぎない。そうした試みは多岐にわたる。そしてそれは、今後も米国の安全保障に大きな影響を与えるだろう。
記事参照:China’s ties to Cuba and growing presence in Latin America raise security concerns in Washington, even as leaders try to ease tensions

7月8日「ASEAN各国は台湾の有事に備えて自国民の本国送還計画が必要となっている―オーストラリアおよびシンガポール専門家論説」(The Diplomat, July 8, 2023)

 7月8日付のデジタル誌The Diplomatは、The Australian National UniversityのNational Security College博士課程院生Abdul Rahman YaacobとシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic StudiesのRegional Security Architecture Programme研究員Muhammad Faizalの “ASEAN Needs a Repatriation Plan for a Taiwan Contingency”と題する論説を掲載し、ここで両名は台湾には現在73万人以上のASEAN諸国からの労働者が働いており、ASEAN諸国の政策決定者は突発的に中台紛争が起きることに備えて、各国が協力して、台湾にいる自国民の本国送還計画を策定するべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国が独自の軍事近代化計画の中で台湾に対する文言を強めている。これに関連して、多くの専門家は、軍事紛争が今後数年間で中国により開始される可能性があると警鐘を鳴らしている。ASEAN諸国は中立を維持することもできるが、台湾は北東アジアと東南アジアの間のシーレーンと航空路の結節点にまたがっているため、台湾海峡において生起する紛争から生じるいかなる有害な結果から免れることはできない。さらに、ASEAN諸国は、特に米国が台湾に直接軍事援助を提供することを決定した場合、この紛争に関与するようにと米中両国から圧力を受けるであろう。
(2) ASEAN諸国に影響を与える可能性のある主な懸念事項の1つは、台湾で働く自国民の安全である。台湾Ministry of Laborの統計によると、2023年4月現在、台湾には73万人以上の東南アジア労働者がいる。インドネシアから255,874人、ベトナムから253,800人、フィリピンから154,027人、タイから67,911人となっている。緊張が徐々に高まれば、紛争が勃発する前に本国送還が可能になるかもしれないが、突然の軍事紛争が起これば、少なくとも73万人のASEAN国民が台湾で立ち往生するかもしれない。
(3) ASEAN諸国は、これら自国の労働者や他の労働者を台湾から本国に送還するべきという国内の圧力に直面するであろう。しかし、台湾から自国民を本国に送還する作戦は、いくつかの問題を考慮するとかなり複雑になる。最初の大きな問題は、本国送還作戦の発動時期を決定することである。しかし、本国送還をいつ開始するかについて明確な決定があったとしても、ASEANの政策立案者は、さらに他の問題も検討する必要がある。
(4) 第1に、ASEAN諸国は台湾のASEAN加盟国代表部が紛争が発生した場合に、台湾に所在する自国民を保護するための避難調整と危機における通信の計画を策定するための制度上の着想として「危機的状況にある第三国におけるASEAN代表部による緊急援助の提供に関するガイドライン(Guidelines for the provision of Emergency Assistance by ASEAN Missions in Third Countries in Crisis Situations)」を活用することを検討する必要がある。
(5) 第2に、台湾での軍事紛争は南シナ海に波及し、現在の航空路と海上交通路に影響を与える可能性がある。したがって、空と海の避難経路はASEAN諸国の領海にできるだけ近く設定する必要がある。そのため、本国送還に関与するASEAN諸国は、次の問題を検討する必要がある。自国民を避難させるための最も安全な経路は何か?自国民は母国に移送される前に、まず台湾に地理的に近いフィリピンに移動するべきか?フィリピンは他のASEAN国民を受け入れることに同意するか?紛争当事者は本国送還作戦を実施することに同意するか? 台湾と防衛協力強化協定(EDCA)に基づくフィリピンの軍事基地間を移動する米軍が避難経路に近い場合、ルソン海峡において複雑な事態が生じる可能性がある。ASEAN諸国の間での情報共有と協力的な哨戒は、南シナ海の海域と空域を越えた自国民の避難を監視し、保護するために重要である。
(6) 第3に、台湾にかなりの数の自国民がいることを考えると、ASEAN諸国は、可能な限り短い時間で、自国民を大量に移動させるのに適した海軍または空軍の基地を持っているかという問題を検討する必要がある。たとえば、シンガポールには台湾で働くほど多くの自国民はいない。しかし、Singapore Armed Forces(シンガポール国軍:以下、SAFと言う)には水陸両用戦能力がある。一部のASEAN諸国は、SAFに支援を求める可能性がある。このシナリオは、いくつかのASEAN諸国の軍隊が、おそらく「ASEANマイナスX」の公式で、共同作戦のために協力することを意味する。このような作戦は、2023年9月に予定されている南シナ海近郊での海上安全保障と救助に焦点を当てたASEAN合同軍事演習への参加に合意するなど、ASEAN諸国が団結を示すことができる場合にのみ可能でとなるであろう。
(7) ASEAN諸国は、ASEAN国防相会議で、より実践的な措置を講じる必要があるかもしれない。そのために、ASEAN諸国は、「人道支援と災害救援に関するASEAN即応群(ASEAN Militaries Ready Group on Humanitarian Assistance and Disaster Relief)」の標準運用手順(standard operating procedures )の使用を検討するべきである。より重要なことは、ASEAN諸国は自国民だけではなく、他のASEAN諸国の国民の避難を支援するために同時に困難な国内問題にも取り組む必要がある。それには、軍人を危険にさらす必要性、紛争地帯の近くに彼らの軍事施設が存在することが戦争の霧の中で米中のいずれかによって誤解される危険性、大国間の紛争が発生したときにASEANという機構を支援することが国益となるのかが含まれる。自国民の本国送還計画は極めて複雑な問題となるであろう。現在のところ、この計画については、解答よりも多くの質問がある。
記事参照:ASEAN Needs a Repatriation Plan for a Taiwan Contingency

7月9日「より多くの艦艇の収容を目指して基地改修を進める中国―香港英字紙報道」(South China Morning Post, July 9, 2023)

 7月9日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China ramps up naval base works to accommodate rapidly growing fleet”と題する記事を掲載し、中国海軍が保有艦艇数を増やすことに平行して海軍基地の改修を進めているとして、要旨以下のように報じている。
(1) ここ最近中国が海軍基地を改修していることが、衛星写真の分析によって明らかになっている。現在、米国に次ぐ世界第2位の規模を持つ人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)は、今年中に少なくとも10隻の水上艦艇を進水させると見込まれている。これにより現役の艦艇数は600隻を超え、基地の改修は拡大する艦隊の収容、支援が目的である。
(2) 艦艇建造の速度に対し、大型の桟橋等の建設速度は遅い。Google Earthなどの衛星写真によると、中国は現在3つの海軍基地において新たな建設作業を行っている。たとえば海南島南部に位置する楡林の海軍基地では、少なくとも2つの巨大桟橋の建設作業が昨年から始まった。また衛星写真は、より多くの艦艇を停泊させるために、楡林基地における係留方法がこれまでと異なり、埠頭に船尾をつける、いわゆるとも付方式で、狭い係留場所により多くの船舶を停泊させることができ、地中海で何世紀もの間採用されている方式である。
(3) 広東省南部の湛江における南海艦隊の基地では、楡林とは異なる、空間を活用した停泊の方式が見られる。ここでは3隻の艦艇が、いわゆる目刺し方式で小さな桟橋に平行して横並びに停泊している。専門家によるとこれは艦船や乗組員にとって安全なやり方ではなく、このような係留方式によって、限られた係留空間に多くの艦艇を収容することはできるが、これは一時しのぎであり、巨大な桟橋をつくることが長期的な解決策だと指摘されている。
(4) 別の建設作業は、遼寧省の葫芦島造船所と渤海潜水艦工場で進められている。
(5) 楡林や湛江の基地は、アデン湾やソマリア沖で海賊対策作戦に参加する艦隊に、兵站上の支援を提供する。こうした作戦の拠点として2017年に開設されたアフリカのジブチ基地でも、400mの滑走路と330mの桟橋が建設された。それによってジブチは遼寧のような巨大空母も収容できるだろう。
(6) 専門家は、艦艇の新造よりも基地の拡大や改修のほうが複雑で長い時間を要すると指摘する。PLANは平和維持活動に積極的であり、後方支援のための海外基地の設置が必要である。現在、中国の海外基地はジブチのみである。ジブチのほかに、パキスタンのグワダルにある大水深港も、中国海軍の基地として利用可能なのではないかと専門家は懸念している。
記事参照:China ramps up naval base works to accommodate rapidly growing fleet

7月10日「NATO、インド太平洋戦略ではなく、地中海インド太平洋戦略を―イタリア専門家論説」(The National Interest, July 10, 202)

 7月10日付の米隔月刊誌The National Interestの電子版は、Europe and Euro-Medの地域担当部長Thibault Muzerguesの“NATO Doesn’t Need an Indo-Pacific Strategy; It Needs a Med-Indo-Pacific Strategy”と題する論説を掲載し、Thibault MuzerguesはNATOのインド太平洋への関わりについて、Emmanuel Macron大統領のNATOの対象は北大西洋であるとする発言に代表されるようにNATOが積極的にインド太平洋に関与していくことは見通しうる将来、難しいとする一方、中国の地中海方面における港湾獲得に見られるような進出はヨーロッパ、特に南ヨーロッパの大きな懸念となっており、地中海がインド太平洋へ連接することを考慮すれば、NATOにとってインド太平洋戦略は受け入れがたいものであってもなく、地中海インド太平洋戦略がヨーロッパを動かす鍵となるかもしれないとして、要旨以下にように述べている。
(1) 7月11~12日にビリニュスで開催される2023年のNATO首脳会談における議題の3分の1以上はインド太平洋に係わるものであるとリトアニア当局は発表している。これはリトアニアの開催国にとっては大胆な動きのように見えるかもしれないが、独裁政治に対処した彼らの経験は、ヨーロッパとインド太平洋の前線が相互に関連していることを彼らに伝えている。
(2) Ingrida Šimonyte政権が台湾駐在員事務所の開設に同意した後、中国政府は経済的圧力を利用してリトアニアを元に戻すことを試みは、リトアニア政府が経済的抗堪性を構築したため、この動きはリトアニアと台湾の関係を強化することに成功しただけであった。
リトアニアは、ウクライナと台湾が密接に関連しており、どちらも国際秩序の強靱さの試金石であることを十分に理解している。もしウライナと台湾のうちの1つが倒れれば、独裁政治が再び優勢になり、リトアニアがその存在そのものを依存している世界的な法に基づく秩序が脅かされることになる。リトアニアは中国とロシアがもたらす二重の脅威を理解しているため、NATOにインド太平洋の検討を推奨する傾向がある。
(3) フランスとドイツだけでなく、他の国々も、少なくともヨーロッパで戦争が激化している間は、NATOの目をインド太平洋に向けさせることにそれほど熱心ではない。これは、フランスのEmmanuel Macron大統領が2023年4月に北京からの帰りの飛行機の中でのインタビューで伝えた意図であり、Emmanuel Macron大統領は最近、東京にNATO事務所を開設することに反対することで、自らの言葉を裏付けている。これは、フランスが突然中国の友人になったとか、台湾海峡の現状を支持しなくなったということでもない。むしろ、フランスは緊張が高まる中、インド太平洋内の同盟に巻き込まれることを望んでいない。Emmanuel Macron大統領は、米国と中国が全面的に対立した場合、Marine nationale(フランス海軍)はインド洋のマヨットとラレユニオンから南太平洋のニューカレドニアとフランス領ポリネシアに及ぶインド太平洋の領土を守ることに集中しなければならず、他のことに資源を割くことはできないことを十分に理解している。
(4) このように考えているのはEmmanuel Macron大統領だけではない。ほとんどのヨーロッパの国々の政府は、中国との直接の紛争に引き込まれることを心配しており、世論も明らかに同じである。これは、ヨーロッパ人が中国について心配していないということではない。しかし、ヨーロッパの人々にとって、中国の野望と世界に跨がる攻撃的な行動はウクライナよりもはるかに遠い問題として認識されている。フィンランドとスウェーデンは、中国を恐れて中立を放棄したのではなく、潜在的なロシアの拡張主義から領土を保全するための政策変更である。現段階では、少なくともロシアの脅威が続く限り、インド太平洋におけるNATOの域外作戦に同意するのは難しいだろう。
(5) 中国との武力紛争が起こった場合、インド太平洋におけるヨーロッパ諸国の軍事的貢献は象徴的なものとなるだろう。台湾海峡をめぐる紛争は、おそらく膨大な艦艇、航空機、弾薬、補給品等を必要とする海軍の問題である可能性が最も高い。 そしてこれは、ヨーロッパ諸国が保有する現役海軍の装備は不十分であることを意味する。
(6) NATOの存在意義は、Hastings Lionel Ismay卿によって、ドイツ人を押さえ込み、アメリカ人をヨーロッパに引き入れ、そしてロシア人をヨーロッパから遠ざけると説明されている。NATOがその地理的範囲をインド太平洋に拡大する可能性は低く、これは同盟の存在意義を大きく変えることになるだろう。さらに、中東でのNATO域外作戦の記憶は、ヨーロッパ諸国にとって未だ新しい苦いものである。
(7) インド太平洋で直接活動するNATOは少なくとも見通しうる将来、忘れられるのが最善の夢である。しかし、これはNATOが中国に対するその役割を新たに担うことはないということを意味するものではない。この場合、中国人を排斥するというだけでなく、むしろヨーロッパの姿勢を変えるというのにほど遠いというのでもない。これは、中国のヨーロッパ経済への経済的浸透に関するヨーロッパ人の懸念を利用し、戦略的には中国をヨーロッパ近傍の火薬庫に留めておくになるだろう。中国を排斥することは、中国が最近ヨーロッパの南の近隣に侵入したことで、確かにヨーロッパの戦略に関わる問題である可能性がある。アフリカや中東の一部の陸上だけでなく、人民解放軍がインド洋と紅海の間のチョークポイントであるジブチに中国初の海外基地を建設したのは偶然ではない。
(8) アジアが発展し、ロシアが西側に敵対し続ける限り、地中海は、ローマ帝国や大英帝国の時代のように、東西間を戦略的に連接する戦略的な場所として戻ってきている。ジブラルタルからマラッカ海峡まで、その間の海域の多くが地中海であるが、そこにあるチョークポイントの支配が中国とヨーロッパの間の問題となってきており、特に地中海における領有権の主張が激しくなっていることを考えると、実際に対立も起こってきている。中国が最近、軍事的存在感を高めるためにロシアと共同海軍作戦を行っている理由であるだけでなく、この地域での経済力の展開に大きな関心を示している理由でもある。これら中国進める港湾買収等の動きには、少なくとも今のところ、直接の軍事的要素はないが、この戦略がヨーロッパの南の裏庭で港の軍民両用に転じ、商業協定の武器として利用されることは容易に想像できる。そして、このことは地中海の北側と南側で米国の利益を脅かすことになる。
(9) ロシアと中国をヨーロッパの南と東の国境から追い払うことを決意しているNATO戦略を提唱することにヨーロッパでは異議はほとんどないであろう。そして、地中海とインド太平洋の間の重要な商業的つながりを考えると、それはより身近な戦略的地域を介して、アメリカの世界戦略にヨーロッパが巻き込まれる道となるだろう。NATOにとって、インド太平洋を対象とすることに合意は難しいかもしれないが、地中海インド太平洋戦略は、米国がヨーロッパを動かすための鍵となるかもしれない。
記事参照:NATO Doesn’t Need an Indo-Pacific Strategy; It Needs a Med-Indo-Pacific Strategy

7月10日「ロシアの武器輸出の顧客を奪う中国―米専門家論説」(Defense News, July 10, 2023)

 7月10日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、RAND Corporation政策研究助手Weilong Kongの“Russia’s war could reshape the global arms market in favor of China”と題する論説を掲載し、Weilong Kongはウクライナ戦争により、ロシアの国際市場への武器供給能力が弱まったため、中国がロシアの市場占有率を奪う絶好の機会を得ているとして、要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナにおける戦争は、制裁と戦場での消耗の両方が原因で、ロシアが国際市場に武器を供給する能力に大きな痛手を与えている。これらの変化がロシアの防衛産業基盤に長期的な影響を及ぼす場合、他の供給国が国際武器市場の状況を再形成する機会が生まれる。そして最も恩恵を受けるのは中国である。
(2) ロシアの兵器輸出の流れの逆転は、ウクライナ戦争とCovid19世界的感染拡大以前に遡る。2016年まで、ロシアは国際武器市場における市場占有率の拡大および維持を成し遂げつつ、中国への販売依存度を低下させていた。2016年以降、公開されているデータによれば、ロシアはインドと中国を除くほぼすべての顧客に対する武器輸出の額を大幅に減らし始めた。大量の装備の損失を補うために生産が戦場に振り向けられているため、ロシアは一部の国々の武器市場の支配をさらに失う可能性がある。これはすでに、一部の国々が他のどこかで購入を始める原因となっている。ロシアはすでに、主要な顧客であるカメルーンとインドに対する装備品と保守整備に関わる役務の納期を逃しており、ロシアはウクライナで使用するために自国の輸出品を買い戻している可能性さえある。
(3) 世界で最も大きな防衛企業15社のうち6社は中国の国有企業である。中国には国内需要を満たしながら、増々高度になるシステムや艦艇、航空機などを大量に受注し、海外の購入者に納入する製造能力がある。
(4) 中国は能力の格差に取り組むための絶好の位置にある。多くの高度な中国製システムはロシアの対応品から派生しており、中・長距離の防空システムはロシアの顧客にとって引く手あまたな装備品の1つである。これらは、西側が類似の装備品の輸出を渋る国々、たとえばセルビアに、中国はロシア製のものよりも優れた性能の装備品を提供している。さらに、中国がドローンの展開と輸出において急速に進歩しており、ドローンはロシアだけでなく、米国も存在感を示している市場に中国が足場を築くのに役立っている。たとえば、過去10年間で、中国の武器販売は、米国の最大の軍装備輸出先であるウジアラビア、ロシアの兵器輸出先の上位を占めるエジプト、アラブ首長国連邦に対して、誘導兵器と組み合わせたUAVによる無人空対地攻撃兵器だけにほぼ集中していた。米国がサウジの武器市場を支配している一方で、米政府はこれまでにサウジアラビアへのUAVの販売をためらってきた。これが中国に市場の機会を提供した。サウジアラビアは、中国と共同でUAVを生産することさえ選択した。UAVの需要は増え続ける可能性が高く、これは中国にとって有望である。
(5) パキスタンやミャンマーのような一部の兵器輸入国は、中国製品の重大な品質上の欠陷について不満を言い始めている。ロシアの損失によって提供される可能性のある利益を完全に現実にするためには、中国はその製品の品質についての悪評を克服する必要があるかもしれない。
(6) ウクライナでの戦争はロシアの防衛生産を圧迫し、それがロシアの武器輸出能力に悪影響を及ぼしている。これらの課題は、戦争後に軍事関連の在庫を再構築する必要がある場合、何年も何十年もの間、ロシアを悩ませる可能性がある。中国にはロシアの損失から利益を得る機会、やる気、能力がある。ロシアが世界の武器市場の占有率をさらに放棄する中、中国の成功を妨げるものはあまり存在しない。
記事参照:Russia’s war could reshape the global arms market in favor of China

7月10日「米中の病院船による太平洋の島々での競争の激化は害をもたらす―オーストラリア専門家論説」(The Interpreter, July 10, 2023)

 7月10日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、Australia New Zealand Gastrointestinal International Training Association (オーストラリア・ニュージーランド消化器国際研修協会:ANZGITA)のソロモン島共同調整者Eileen Natuzziの” Military hospital ships from China and the US are plying across Pacific Islands. But this growing competition can do more harm than good”と題する論説を掲載し、ここでEileen Natuzziは、米中による軍事医療使節団の競争は、訪問する米中の軍医療関係者が優れており、現地の医療提供者が劣っているとみなす二層構造を助長し、さらに太平洋諸島地域の不安定化を助長する危険性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は最近、軍用病院船「和平方舟(同船の人民解放軍海軍における船名は『岱山島』であり、『和平方舟』は称号と言われている:訳者注)」を太平洋諸島に派遣すると発表した。この2年間、米国と中国の地域間競争が激化していることを考えれば、これは驚くべきことではない。3月にソロモン諸島Manasseh Sogavare首相の要請を受けたU. S. Navyは、2023年11月太平洋での演習中の、病院船「マーシー」をホニアラに寄港させることに同意した。「和平方舟」と「マーシー」の行動は、米中間の緊張を拡大させる新たな段階、すなわち軍事医療使節団の競争を引き起こしている。
(2) 重要なことは、このような軍事医療使節団が長期的にどのような利益をもたらすのかということである。中国海軍によれば、「和平方舟」の任務は、中国と南太平洋諸国との結びつきを強化することを目的とした現実的な行動である。U.S. Navyの「パシフィック・パートナーシップ」は、病院船の訪問と名付けられ、地域の交流と災害対応能力を支援し、地域の安全と安定を高め、インド太平洋における新たな永続的な友好関係を育むことを目的としている。それは、軍と民間の医療専門家からなるチームが、あらかじめ選ばれた国々を訪問し、決められた期間、診療所を開く。手術は、整形外科医、耳鼻咽喉科医、一般外科医によって、通常は船上で行われる。
(3) 中国と米国の医療使節団はいずれも、診療所で診察を受けた人の総数、実施された手術の件数、完了した計画を報告している。これらの数字は使節団の努力を反映している。このような任務が開催される理由は明らかである。太平洋島嶼国の沖合に到着する白い船体の大型船は、大きな宣伝効果がある。一方でAmerican College of Surgeons(米国外科学会)が定めた知識と手術症例数の基準を満たす外科医の割合の低さにも対処するためでもある。手術を含む任務は、外科医の手術経験を増やす方法であるが、これには倫理的な問題があるとも言われている。
(4) どの国が提供するかにかかわらず、軍事医療使節団は、太平洋島嶼国に住む人々が現在直面している重大な保健システムの問題に対処するものではない。これらの問題には、長期的な取り組みが必要で、その問題は、2023年4月に開催されたPacific Community Pacific Heads of Health meeting(太平洋共同体の太平洋保健首長会議)で強調された。
a.重要基幹施設の脆弱性:太平洋島嶼国の病院のうち推定で58%は、海面上昇やサイクロン、高潮などの異常気象による被害に対して脆弱で、人口の63%が病院を失う危険にさらされている。地域保健部長は最近、医療施設基幹施設への適応と抗堪性のための支援を優先課題とした。
b.医療労働力:患者に対する医師の比率の低さ、医療従事者の偏在、高度医療教育の利用の制約などは、太平洋諸島全体の課題である。サービス能力とスキルを向上させるためには、島内・島外の両方で医療従事者の訓練計画が必要である。
c.医療供給と医薬品不足:医療サプライチェーンは、正確な在庫、タイムリーな発注、流通、港湾の遅延を防ぐための滞納金の支払いなど、管理の問題によって破綻する。質の悪い医薬品や偽造医薬品も問題の一因となっている。
d.同様に重要なのは、医療記録、医療在庫、データのデジタル化、遠隔医療接続に関する課題である。このような技術は、重要な患者情報、サプライチェーン発注、集団健康データの共有を促進する。
(5) 遠隔医療は、遠隔地の医療施設と医療紹介センターをつなぎ、医師や看護師が他国の専門医と相談できるようにする。海底ファイバー・ブロードバンドと双方向の静止衛星を結ぶハイブリッド接続を利用すれば、離島での利用も容易になる。Asia Development Bank(アジア開発銀行)は、アジア太平洋地域のためのデジタルヘルス導入ガイドを提供している。
(6) 米中両海軍の病院船が競争を繰り広げるだけでは、これらの課題は解決されない。このような使節団は、太平洋島嶼国の保健の現状を持続的に変えることはないだろう。むしろ、このような競争は、来訪する軍艦が優れているとみなされ、慢性的に資金不足に陥っている現地の医療提供者が劣っているとみなす二層構造を助長する。最も重要なことは、軍事医療使節団の競争は、太平洋諸島地域の不安定化を助長する危険性があるということである。
記事参照:Military hospital ships from China and the US are plying across Pacific Islands. But this growing competition can do more harm than good

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) India Is Becoming a Power in Southeast Asia
https://foreignpolicy.com/2023/07/07/india-southeast-asia-china-security-strategy-military-geopolitics-vietnam-philippines-indonesia/
Foreign Policy July 7, 2023
By Derek Grossman is a senior defense analyst at the Rand Corp.
2023年7月7日、米シンクタンクRAND Corporationの国防問題専門家であるDerek Grossmanは、米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトに" India Is Becoming a Power in Southeast Asia "と題する論説を寄稿した。その中でGrossmanは、近年、インドはベトナムとの武器取引を成立させ、南シナ海の主権問題では中国を差し置いてフィリピンの味方をし、インドネシアとは防衛協力を強化するなど、国際関係の教科書どおりの勢力均衡政治を見せており、中国に対抗するための米国のインド太平洋戦略をますます補完していく可能性があると評している。そしてGrossmanは、こうしたインドの政策は、たとえそれが現在のレベルでしか維持されないとしても、中国政府をさらに弱体化させるのに役立つだろうし、それは、米国とアジアの同盟国にとって大きな勝利であると主張している。

(2) Why Vietnam’s Naval Bases Do Not Change the Dynamic of Vietnam-China Relations
https://thediplomat.com/2023/07/why-vietnams-naval-bases-do-not-change-the-dynamic-of-vietnam-china-relations/
The Diplomat, July 7, 2023
By Khang Vu is a doctoral candidate in the Political Science Department at Boston College.
7月7日、米Boston Collegeの博士課程院生Khang Vuは、デジタル誌The Diplomatに“Why Vietnam’s Naval Bases Do Not Change the Dynamic of Vietnam-China Relations”と題する論説を寄稿した。その中で、①ベトナムはアジアで最高の海軍基地をいくつか持っており、これらの基地は米国の「基地ではなく利用に適した場所」戦略の主要な候補地である。②これらの基地は良質で、南シナ海を巡回する艦船に必要な避難所を提供できるが、ベトナムと中国の関係の政治的力学を変えることはできない。③ベトナムが海軍基地を米国や他の国に租借すると、海での中国との闘争において一定の優位性を得ることができるが、中国が陸上でベトナムを罰する対価はそれを上回ることが確実である。④したがって、ハノイが中立的な外交政策の下で、全ての大国に対して港を開放し続ける決意は理解できる。⑤ベトナムは、過去の経験から港に外国の海軍が存在することは、中国の威圧的な行動から逃れる助けにならず、海の主権を守ることもできないことを知っている。⑥ベトナムが最善の解決策として見つけたのは、全ての外国からの定期的な港湾訪問を含む、カムラン湾や他の海軍基地の排他的な利用を拒否することである。⑦これはベトナムの外交政策の多様化と多国間化を反映している。⑧ベトナムの海軍基地は、特に中国との関係において正しい政治的決定を下す限り、軍事的に有用であるといった主張を展開している。

(3) ANARCHY IS A BRIDGE: RUSSIA AND CHINA ARE PUSHING NATO AND JAPAN TOGETHER
https://warontherocks.com/2023/07/anarchy-is-a-bridge-russia-and-china-are-pushing-nato-and-japan-together/
War on the Rocks, July 10, 2023
By Matthew Brummer, an assistant professor at the National Graduate Institute for Policy Studies (GRIPS) in Tokyo and a Policy Innovations Fellow at Harvard University’s Program on U.S.-Japan Relations
Wrenn Yennie Lindgren, a senior research fellow and Head of Center for Asian Research at the Norwegian Institute for International Affairs (NUPI) and an associate fellow at the Swedish Institute of International Affairs 
2023年7月10日、政策研究大学院大学のMatthew Brummer助教授とノルウェーのシンクタンクNorwegian Institute for International Affairs (NUPI) のWrenn Yennie Lindgren上席研究員は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rocksに" ANARCHY IS A BRIDGE: RUSSIA AND CHINA ARE PUSHING NATO AND JAPAN TOGETHER "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、日本とNATOはこれまで70年間近く遠ざかっていた両者の関係を急速に復活させつつあるとし、NATOの日本事務所開設計画が発表されたことは1つの里程標だが、それに加え、岸田首相は7月11日、リトアニアで2日間にわたって開催されるNATO首脳会議に出席するなど、日本とNATOは関係を戦略的パートナーシップへと変化させ始めており、軍事的、非伝統的、経済的安全保障の面で双方に多くの潜在的利益が見込める状況であると指摘している。その上で両名は、協力関係は深まりつつあるが、海外での武力行使を制限する日本の憲法第9条やNATO憲章の第5条、第6条の境界線規定などの制約により、両者の関係は革命的というよりは進化的な変化に留まるだろうとし、NATOと日本が完全に制度化された国際的な同盟関係を結ぶことはまだ遠い将来の話であるが、今日それはかつてないほど身近なものとなっているし、さらなる関係強化の機運と共通の利害を考えれば、NATOと日本との今後の関与のあり方は希望に満ちたものであり、また不可欠なものであると主張している。