海洋安全保障情報旬報 2019年11月21日-11月30日

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11月21日「インドのインド太平洋構想は海洋安全保障の柱―印紙報道」(The Economic Times, November 21, 2019)

 11月21日付の印紙The Economic Times電子版は、“India's Indo-Pacific Ocean's initiative aims maritime security pillar for inclusive region”と題する記事を掲載し、東アジアサミットでModi印首相が発表したインド太平洋構想は海洋安全保障の柱となるとして、要旨以下のように報じている。
(1)2019年11月4日にバンコクで開かれた東アジアサミットでNarendra Modi印首相が発表したインド太平洋構想には、地域のルールに基づく国際秩序を育成する海洋安全保障の柱に関する重要な提案が含まれている。Modi首相は、東アジア海洋安全保障ワークショップで海洋安全保障の柱を立ち上げることを提案した。インドは2020年2月に豪州とインドネシアとともに開催国として地域に対するビジョンの実現を支援する。
(2)Modi首相は、自由で開かれた、包摂的で、透明性のある、ルールに基づいた、平和で繁栄したインド太平洋地域を推進する論理的基盤としてグループを作ることを説明した。「国連海洋法条約はすべての国に平等に保証されている。航海の自由、上空飛行の自由、持続可能な開発、生態系(特に海洋環境)の保護、オープンで自由、公正、相互に有益な貿易および投資システムがすべてに保証される空間であるべきである」とModi首相は言う。首相は、インド太平洋の原則を海洋環境の共有を確保するための措置に変換するため関係国が共同していく努力を提案し、インド太平洋ビジョンの下で行動計画として説明できる「インド太平洋海洋構想」を提案した。「我々は、プラスチックごみ問題などを含む海洋を保護するために協力して取り組むべく、関心のある地域のすべての国を取り込むことが不可欠であると認識すべきである。海洋安全保障を強化し、海洋資源の保護能力を構築し、海洋資源を公平に共有するべきである。災害のリスクを軽減し、科学技術及び学術協力を強化し、そして、自由で公平で相互に有益な貿易と海上輸送を促進するべきである」とModi首相は述べた。「各セクターの作業は、1つまたは2つの国が主導し、参加国が1つまたは複数の関心分野に参加する協力国とともに作業する。これは、各国政府が世界的な課題に対する協力的な解決策を要求する世論とより良く連携することに役立つ。この構想は、真にオープンで、包括的かつ協力的である。そして、協力国の希望としての制度的基礎を段階的に発展させることができる」と述べた。Modi首相はインドが海洋安全保障の柱に着手し、災害リスクの軽減を主導するか、他の関心のある国と協力することを提案していた。「我々はオーストラリア、そしてインドネシアとともに2020年2月に第4回東アジアサミット海上安全保障ワークショップを主催するので、その日から安全保障の柱の作業を開始できる」と彼は言った。
(3)東アジアサミットにおいて、Modi首相はまた、国境を越えた最も悪辣な犯罪としてテロに言及し、特に国家により支援され、武装され、資金調達される場合にはそうであると説明した。「テロは今日地球のすべての地域に影響を与える痛みを伴う癌の阻止に失敗した最も明白な例である」と述べた。
記事参照:India's Indo-Pacific Ocean's initiative aims maritime security pillar for inclusive region

11月21日「ベトナムの中国に対する法律戦の展望と課題―台湾専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, November 21, 2019)

 11月21日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、台湾National Chengchi University研究員Richard Javad Heydarianの “Vietnam’s Legal Warfare Against China: Prospects and Challenges”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianはベトナムが中国に対し法律上の戦いを行うことが重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1)ベトナムは、待望の2020年のASEAN議長職に就くのに先立ち、数ヶ月にわたる南シナ海での海軍の対峙の最中に中国に対する法律戦の可能性を示唆した。ベトナムのLe Hoai Trung外務副大臣は11月初旬、外交だけがベトナムの自由に使える方法ではないと公然と中国に警告した。彼は外交に代わる戦略を探求する必要性を強調し、中国の海洋権益の主張に対して取りうる対策として「事実調査、調停、和解、交渉、仲裁、訴訟措置」を挙げた。中国に対する国際仲裁裁判でのフィリピンの経験を参考とすれば、ベトナムにとって、法律戦は危険であるが潜在的に実行可能な選択肢であると思われる。中国は、2013年にフィリピンが訴訟を起こしたことを罰するために多数の経済的手段を採用する考えがあることを証明した。ベトナムは、中国との貿易にフィリピンより大きく依存しているので、訴訟を起こした場合、大きな経済的損害に直面する可能性がある。しかし、その見返りはリスクに見合うだけの価値がある。法律及び法の執行の効果は、中国に対して力の絶望的な非対称性に直面している小国に独自の影響力を提供する。
(2)ここ数ヶ月、ベトナムの高官、専門家は、南シナ海紛争の解決における国連海洋法条約の中心性を繰り返し強調している。Trung外務副大臣は、「国連憲章と国連海洋法条約には、これらの法的措置を適用するのに十分なメカニズムがある。この問題で誰が正しいか、誰が間違っているかを特定する」と述べた。しかし、中国は反論し、ベトナムが紛争を「複雑化」させないよう警告している。2013年、フィリピンは中国との紛争の一部を仲裁するために、国連海洋法条約の強制紛争解決メカニズムの下に特別法廷創設を求めた。仲裁裁定は広く認識できる効果があった。中国が仲裁結果を拒否したことは事実であるが、大国は国際的な裁判所の決定に関心を持つ傾向があるため、この判決は中国の戦略に大きな変化をもたらした。2016年7月以降、中国は正式な声明では無効になった九段線の主張を避けるようになり、代わりに南シナ海で主張する「四沙」または島のグループに基づいた主権の代替解釈を推し進めた。この理論は、中国以外の有力な法律専門家にはまだ真剣に支持されておらず、南沙諸島を単一のユニットとして扱うことができないと認定した法廷によって事実上明確に拒否された。裁定後、中国はまた、フィリピンとASEANとの新たな外交努力を開始し、その損失からの打撃を回避しようと急いで動いた。中国にとって幸運なことに、この努力は仲裁裁定が出される直前にRodrigo Duterte大統領が就任したことにより恩恵を受けた。Duterte大統領は仲裁裁定を「棚上げ」することを選択し、中国との良好な経済関係を支持した。したがって、Duterte政権は中国に外交面での挽回の機会を与えた。
(3)現在、ベトナムには強制的な仲裁を使用して自国のEEZ及び大陸棚内での主権を再確認するという選択肢もある。これにはバンガード堆付近も含まれる。仲裁はまた、ベトナムの海域における中国の侵略的行為及び中国の漁師による侵害行為を非難する可能性がある。ベトナムが仲裁はまだ余りに敏感であると考えている場合、国連海洋法条約には競合する主張を解決しようとする拘束力はないが、強制的な調停委員会を設置するという選択肢もある。いずれにせよ、国連海洋法条約にはフィリピンの先例に基づいて、ベトナムの主権を肯定する可能性が高いメカニズムがある。法律に重点を置くことは、ベトナム自身の立場を強化するだけでなく、国民の大多数が2016年の仲裁決定を比政府が主張することを望んでいるフィリピンの立場も強化する。また、中国に対して提案されている共同探鉱協定が国連海洋法条約及び法廷の裁定と一致することを確保するように、フィリピンに圧力をかけるであろう。中国が2016年のフィリピンに関する失敗を繰り返すことを避けるために、面子を守る方向で行動する可能性がある。したがって、ベトナムには中国に対する法的対抗策を真剣に検討する十分な理由があり、ベトナムが法的対抗策をとった場合、南シナ海におけるベトナムの主権を中国に再確認させたり、中国を妥協させることができる可能性がある。
記事参照:Vietnam’s Legal Warfare Against China: Prospects and Challenges

11月21日「増強される中国の水陸両用戦部隊-専門家論説」(The Diplomat, November 21, 2019)

 11月21日付のデジタル誌The Diplomatは、Patterson School of Diplomacy and International Commerce准教授Robert Farleyの“China’s Growing Amphib Fleet: A Cause for Long-Term Concern?”と題する論説を掲載し、ここでFarleyは中国が軍事的効果よりも政治的影響力に注目して水陸両用戦部隊を増強してきているとして要旨以下のように述べている。
(1)次の10年のうちに中国は、これまで米国が完全に優位を保ってきた政治的影響力のある兵器を巧みに使うようになるかもしれない。退役した米海兵隊将校であるGrant Newshamは最近のAsia Timesに増強される中国の水陸両用戦艦艇について記事を寄稿し中国の水陸両用戦部隊の主たる影響は戦時の武器として使用されることではなく、政治的含意を通じてもたらされると主張している。考慮しなければならないより重要な事項は、この水陸両用戦部隊がインド太平洋地域のあらゆる場所で中国がその影響力を最大化し、あるいは拡張することを可能にしていることというである。
(2)The DiplomatのRick Joeが言うように、中国は2025年までに少なくとも3隻のType075 強襲揚陸艦を保有し、さらに2030年までに8隻を保有するだろう。また、Joeが指摘するように、中国はまもなく8隻のType071ドック型揚陸艦も運用できるようになる。しかし、このドック型輸送揚陸艦がさらに何隻導入されるかは不明である。中国の水陸両用戦強襲部隊に関する議論の多くは高烈度、中烈度の作戦で果たすであろう役割に焦点を当ててきており、後者は日本、フィリピン、ベトナムに支配された島嶼奪還を、前者は台湾に対する全面侵攻を想定している。強襲揚陸艦とドック型揚陸艦の支援部隊は中国が不幸な隣国に対して領域を奪取し、それを既成事実化することを可能にする。
(3)米海軍は世界にまたがる政治的な影響力のための兵器として水陸両用戦部隊で卓越してきた。これには2004年のインド洋大津波以来の人道支援・災害救援、重大な軍事的効果を得るための作戦が含まれる。「両棲(抄訳者注:両用を意味するamphibiousは中文では两栖と訳されている)海軍」の有用性について明白に政治的見地から考えている兆候がある。2018年5月に封切られた映画「紅海行動」は人民解放軍海軍が中国国民、そして国際社会が将来の部隊をどのように予想することを望んでいるかを示している。
(4)もちろん、中国の新しい水陸両用戦艦艇が利用できるただ一つのものではない。オーストラリア、日本、韓国など地域のいくつかの海軍は水陸両用戦艦艇を調達している。2004年のインド洋大津波の経験は地域全域で水陸両用戦艦艇への関心を掻き立てたかもしれない。しかし、中国だけが最終的には米海軍に対抗できる能力のある部隊を建設しつつある。
記事参照:China’s Growing Amphib Fleet: A Cause for Long-Term Concern?

11月21日「中国による人工島建設提案を拒絶し、台湾とのつながりを維持するツバル―英通信社報道」(Reuters, November 21, 2019)

 11月21日付の英通信社Reutersは、“Tuvalu rejects China offer to build islands and retains ties with Taiwan”と題する記事を掲載し、中国による人工島の建設案をツバルが拒絶したことについて、要旨以下のように報じている。
(1)南太平洋に浮かぶツバル共和国は気候変動に伴う海面上昇の危機に直面している。そのツバルに対して中国企業が人工島の建設と、そのための4億ドルの支援をもちかけていた。しかし、ツバルはその提案を断った。ツバルのSimon Kofe外相は、「中国はわれわれの島を買い、そこに軍事基地の建設を構想しているのだろう。それは我々にとって懸念すべき問題だ」と述べた。
(2)中国の南太平洋への影響力拡大は、一つには同地域における台湾の影響力低下を狙ったものであった。2016年に蔡英文が台湾総統の座についてから7つの国が台湾との外交関係を解消してきた。2ヶ月前にはソロモン諸島とキリバスが台湾から中華人民共和国へと外交承認を切り替えた。台湾によれば、それは中国の航空機支援や開発支援に促されたものだという。
(3)また、中国の太平洋における影響力拡大は、アメリカや日本、オーストラリアやニュージーランドなどの国々を警戒させている。ソロモン諸島のマライタ州知事によれば、アメリカやその同盟国が大水深港の建設支援を約束し、またその国々は周辺地域の哨戒活動に招かれることになるだろうという。そうした動きは、中国の投資増大に対する警戒を反映したものである。この文脈において今回ツバルが中国による開発支援を拒絶したことは、太平洋における中国の影響力拡大を牽制するものと見てよい。
記事参照:Tuvalu rejects China offer to build islands and retains ties with Taiwan

11月21日「中国の軍事戦略観と南シナ海での軍事目標―豪専門家論説」(Australian Institute of International Affairs, November 21, 2019)

 11月21日付の豪国際問題シンクタンクAustralian Institute of International Affairsのウエブサイトは、Australian National UniversityのStrategic and Defence Studies Centre非常勤教授 James Goldrickの“Chinese Military Strategic Perspective And Its Military Aims in The South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでGoldrickは中国の軍事戦略に関して、海上と陸上とを分けて考えるべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1)南シナ海における中国の軍事戦略には確信的なテーマと矛盾がある。多くの点で南シナ海の人工島に貼られた「砂の万里の長城」という米国のラベルは、中国の思考の重要な要素を要約している。万里の長城を生み出した、外部の脅威から中国を守りたいという同じ願望が南シナ海に広がっている。南シナ海に人工島などの施設を建設することにより、中国人は防御境界線を効果的に第一列島線の端まで、そして少なくとも南及び南東に押し広げた。
(2)中国は今や海洋領域への新たな依存に対し、複雑なままである大陸の懸念とのバランスを取る必要がある。中国は海からの攻撃から身を守る必要性に常に目を向けているが、中国が脆弱な部分は潜在的な侵略や砲撃以外にももっと多くのものがある。中国の世界貿易のほとんどは海上輸送である。さらに、中国は原材料の海上輸送に大きく依存している。特にエネルギー資源、中東の石油から液化天然ガスまでそうである。中国が世界規模で関与していくということは、不安定な地域でその国民の安全とその投資の保護にも配慮する必要がある。これは過去数百年の間、主要な海洋国家であった国々にとって新しいものではないが、中国にとっては新しいものである
(3)中国の海軍戦略家たちがAlfred Thayer Mahanの業績に注目していることは驚くべきことではない。Mahanは英国などの島国がこの要素で成功する方法だけでなく、その最大のライバルであるフランスが成功しなかった理由にも関心があった。大陸及び海洋の大国であるフランスは、イギリスとは異なり、陸と海のバランスをとる必要があった。フランスの例は重要である。なぜならば、中国の戦略立案者たちは大陸の防衛と海洋権益の保護という2匹の馬に乗らなければならないからである。海洋領域においては一方で敵が海を経由し中国に接近することを阻止し、他方でより広い海域において古典的なシーコントロールと戦力投射を実行することができる軍組成を開発するという同時に進行する努力から見ることができる。南シナ海の人工島の建物は、その例である。資源が流れ続ければ、遠洋展開能力の拡大は続くだろう。しかし、中国の経済が停滞したとしても、中国海軍は空軍やロケット軍などの他の軍種と連携して、中国の防衛的野心の尖兵であることを目指すだろう。
(4)危険なのは、新しい軍事施設を「海の万里の長城」とすることを真剣に考える大陸主義者たちが、彼らと本土の間にある海域を中国の領土と見なす間違いを犯していることである。南シナ海が中国の「藍色国土」であるという仮定が「九段線」に囲まれた海域内の商業活動あるいは軍事行動から他の国々を排除しようとする結論にいたるなら、南シナ海に接する他の諸国家と中国との関係の影響は悲惨なものになるであろうが、それこそが中国の強い歴史的な主張であるのかもしれない。
(5)大陸と海洋の違いを理解した合理的な中国の軍事戦略が追求されるべきであるが、必ずしも常にこれ追求されている必要はない。人工島を監視拠点及び艦艇、航空機の基地として設置することにより、非常に高いレベルの海洋に対する意識を達成するという軍事的意図は達成に向け順調に進んでいる。中国は達成したことに満足すべきであり、むしろ今では他の沿岸国を宥める方法について真剣に考えるべきである。
記事参照:Chinese Military Strategic Perspective And Its Military Aims in The South China Sea

11月22日「『4カ国安全保障対話(the Quad)』に対する中国の認識―インド専門家論説」(The Diplomat, November 19, 2019)

 11月22日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNetは、インドのThe Institute for Defence Studies and Analyses研究員Dr. Jagannath Pandaの “Beijing’s ‘Asian NATO’ Maxim on Quad is Structural”と題する論説を掲載し、ここでPandaは「4カ国安全保障対話(the Quad)」をアジアのNATOと見なす中国の真意について、要旨以下のように述べている。
(1)中国の戦略問題専門家は15年前に、「アジア版NATO」を構築しようとしているとして、米国を非難した。それ以来、中国の専門家は、オーストラリア、インド、日本及び米国の4カ国からなる「4カ国安全保障対話(Quad 1.0)」を、しばしば形成過程の「アジア版NATO」と指摘してきた。このような中国の認識は、Quad 1.0 が頻繁な公式会議や大臣級会合を伴う Quad 2.0として再浮上してからも根強く見られる。確かに、中国の分析に明白なように、「4カ国安全保障対話」(the Quad)をアジアの「NATO」と見なすのは、軍事中心的な見方である。しかし、「4カ国安全保障対話」に対する中国の認識をこうした限定的な見方だけとするのは不適当であろう。重要なことは、「4カ国安全保障対話」に対する北京の認識が域内の多くの構造的なパラメータと密接に関連しているということである。
(2)第1に、北京は「4カ国安全保障対話」の再浮上が中国の地域的リーダーシップに対する確実な挑戦となることを認識している。中国の政策立案者は、近隣諸国とインド洋地域諸国を中心とする、「パートナーシップのグローバルネットワーク」を重視してきた。「一帯一路構想」(以下、BRIと言う)における6本の経済回廊は、この「ネットワークを構築するパートナーシップ」モデルに基づいている。中国の指導部は、「公正」、「公平」そして「開発」を強調することで、域内諸国と北京の協力関係を強化しようとしてきた。換言すれば、北京は、「4カ国安全保障対話」が持つ、域内における北京の指導的役割の強化に影響を及ぼす、中国のパートナーシップネットワークを抑制することになる総合的な経済的力量を意識している。
(3)第2に、そしてより重要なことは、北京は、「4カ国安全保障対話」の再浮上を、域内におけるインドのステータスを公認することによって、アジアの現状に挑戦するものと見なしている。中国の専門家は、「4カ国安全保障対話」の再浮上の背景にある主たる要因として、域内におけるインドの「政策調整」と、米国の外交政策において重きをなしてきたというインドの戦略的自信にしばしば言及してきた。主たる防衛パートナーとしてのインドの登場、ハイエンド防衛技術へのインドのアクセス、そして先進的な兵器システムは、中国を神経質にさせている。中国は長い間、「インドの台頭」を無視してきた。北京の懸念はこの20年に亘って自ら構築してきたインドに対する構造的バランスを失うことに関わっている。中国の急激な台頭は、世界的ではないにしても、中国をアジアにおける守護者としての地位に押し上げてきた。「4カ国安全保障対話」の再浮上は、こうした中国のイメージを台無しにすることになる。
(4)第3に、「4カ国安全保障対話」のプロセスは、アジアにおける国家主義日本の再登場を可能にし、そしてより重要なことは、安倍首相の「2つの海の交わり」と題する演説(2007年8月22日、インド国会)で繰り返し言及された「より広範なアジア」という概念を強化するものである。「4カ国安全保障対話」のプロセスは、日本の米国との「同盟構造」の枠組みを強化するだけでなく、軍事から非軍事分野に跨がる安全保障関係の新たな領域を構築しようとする東京の試みをも強化するものでもある。更に、北京は、自国における中国のプロジェクトを再検討しようとするオーストラリアの最近の試みを懸念している。
(5)第4に、中国の専門家は、「4カ国安全保障対話」の再浮上を、中国に対して一層対決的なアプローチを追求する、安全保障の提供者としてのアジアにおける米国の役割の強化するものと見なしている。これら専門家は既に、「4カ国安全保障対話」のプロセスを、「アジア再保証イニシアティブ法」(the Asia Reassurance Initiative Act: ARIA、2018年12月)、「ビルド法」(the BUILD Act、2018年10月、抄訳者注:米の海外支援を新設の国際開発金融公社に一本化)、「インド太平洋透明性イニシアティブ法」(the Indo-Pacific Transparency Initiative Act、抄訳者注:2018年11月のAPECサミットでPence副大統領が公表、域内の良好な透明性の高いガバナンスの促進に対する支援)、The Infrastructure Transaction and Assistance Network (ITAN)(抄訳者注:海外のインフラプロジェクトにおける米企業を支援する米政府のインフラ輸出ツール)、及びThe Blue-Dot Network(抄訳者注:米、豪、日3国によるインド太平洋におけるインフラ開発支援ネットワーク)を含む、インド太平洋地域に対する米国の諸施策(いずれも中国のBRIを視野に入れた施策と見なす:抄訳者)と密接に関連付けている。更に、北京は、「4カ国安全保障対話」のプロセスを、米国が依然、享受しているアジアにおける堅牢な枠組み―豪・日・米枠組み、及び日・印・米枠組みの3カ国ネットワークを強化するものと見なしている。
(6)北京にとって、「4カ国安全保障対話(Quad 2.0)」の再浮上は、地域の安全保障アーキテクチャに対する中国のビジョンへの戦略的挑戦である。「4カ国安全保障対話」のプロセスが中国に課す挑戦を考えれば、これに対する北京の認識は、完全に反動的なものでも、また単なる軍事中心的なものでもない。どちらかと言えば、「4カ国安全保障対話」に対する中国の認識は、より構造的なものであり、アジアが経験しつつある地政学的変動に関連づけられる。こうした地政学的変動は、中国に対して、自らの地域に対するアプローチを再考し、米国主導の概念として「インド太平洋」を忌避するのであれば、「アジア太平洋」における自らの「4カ国安全保障対話」を追求することを促していると言えよう。
記事参照:Beijing’s “Asian NATO” Maxim on Quad is Structural

11月22日「改良型Kilo級潜水艦、11月にロシア太平洋艦隊に編入―デジタル誌編集員論説」(The Diplomat, November 22, 2019)

 11月22日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌上席編集委員Franz-Stefan Gadyの“First Project 636.3 Kilo-Class Attack Sub to Enter Service With Russia’s Pacific Fleet This Month”と題する論説を掲載し、ここでGadyは改良型Kilo級潜水艦の1番艦が11月にロシア太平洋艦隊に編入されるとして、要旨以下のように述べている
(1)ロシア国防省は声明で、太平洋艦隊が改良型Kilo級潜水艦を11月25日に導入すると発表した。「改良型Kilo級潜水艦1番艦を太平洋艦隊に受領する式典が11月25日にサンクトペテルブルグのAdmiralty Shipyardで行われ、ロシア海軍旗セントアンドリュー旗が潜水艦に翻る」と声明は述べている。この潜水艦が太平洋艦艇でいつ作戦稼働となるかは明らかにされていない。2番艦、3番艦が11月初めに起工されている。Admiralty shipyardは2025年までに太平洋艦隊向けに6隻の改良型Kilo級潜水艦を建造すると見られている。
(2)既に報じられたように2010年8月から2016年11月の間に、Admiralty shipyardはロ黒海艦隊向けに6隻の改良型Kilo級潜水艦を建造している。このうち5隻は地中海東部に配備されており、報じられるところによれば少なくとも2隻がシリアの地上目標に対しSS-N-24対地巡航ミサイルによる攻撃を実施している。
(3)改良型Kilo級潜水艦は基本的には対潜戦、対水上艦戦用に設計されている。同級潜水艦はその静粛性で知られており、ロシアの最も進んだ潜水艦技術に特徴付けられている。しかし特筆すべきことは、改良型キロ級潜水艦は非大気依存型推進装置(以下、AIPと言う)を搭載していない。Rubin Design Bureauによれば、ロシア製AIPは2021年あるいは2022年まで試験を行う準備ができていない。改良型Kilo級潜水艦は、乗組員52名、水中哨戒日数45日以上、最大潜航深度約300メートル、航続距離約1,200Kmであり、魚雷と巡航ミサイルを搭載している。巡航ミサイルは6門ある533mm発射管の1門から発射される。
記事参照:First Project 636.3 Kilo-Class Attack Sub to Enter Service With Russia’s Pacific Fleet This Month

11月22日「中国はUUVの軍事利用競争にも参入―米専門家論説」(The Diplomat, November 22, 2019)

 11月22日付のデジタル誌The Diplomatは、米の海軍専門家David R. Strachanの“China Enters the UUV Fray”と題する論説を掲載し、ここでStrachanは中国建国70周年記念軍事パレードで展示されたHSU001水中無人機について、詳細な性能要目などは不明であるが、これが海中における無人機運用を巡る戦いの嚆矢になるかもしれないとして、要旨以下のように述べている。
(1)2019年10月1日、中華人民共和国は建国70周年の軍事パレードに際し、高度な技術に基づく極超音速ミサイルやステルスドローンなどのほか、軍事用として特別に開発されたHSU001と表示された2機の水中無人機(以下、UUVと言う)を展示した。HSU001は大型のUUV(以下、LDUUVと言う)であり、海洋環境調査や対潜戦などの任務のために設計された米国海軍のLDUUV、Snakeheadに酷似している。桟橋から発進し、機雷や海底センサー、小型UUVなどの特殊なペイロードを搭載しての複雑な長距離ミッション向けに開発された米海軍の超大型UUV(XLUUV)である全長約7メートルのOrca(抄訳者注:Orcaについては以下の関連記事を参照:214日「米海軍、ボーイング社に超大型無人潜水艦Orcaを発注)の半分以下のサイズである。HSU001にはこのような大型ペイロード搭載の能力はないものの、外部ハードポイントを介して超小型UUVや他の小型センサーなど、一定のペイロードの搭載も可能なようである。これにはOrcaのような何千海里もの航行に十分なエネルギー源は搭載されていないが、それでも数週間から数ヶ月単位の長期耐久ミッションも可能であろう。また、LDUUVであるHSU001は桟橋からの発進も可能であろうが、533ミリ魚雷発射管からの発射には大き過ぎるため、水上艦ないしは潜水艦のドライデッキ・シェルター(DDS、抄訳者注:潜水艦の甲板上に搭載可能なモジュールであり、水中で潜水員及び小型潜水艇を発進収容可能)を介して運用される可能性が高い。
(2)世界中に配信された中国中央電視台のライブ映像で見る限り、HSU001は他国の軍用UUVと同様に、さまざまな任務を実行可能な柔軟なプラットフォームであることを示唆しているが、それらが正確に何であるかは推測の域を出ていない。例えば、電気、光学及び電磁的なセンサーと思われる折りたたみ式デュアルマストにより、このHSU001は情報・監視・偵察に最適化されているように見受けられる。また、そのツインスクリュー式推進システムは、船体の垂直及び水平安定性、高度な機動性を念頭に設計されていることを示しており、港湾進入、対機雷戦、ケーブルタッピング(抄訳者注:ここでは海底の通信ケーブルなどに接触しての情報収集の意)などの沿岸作業にも最適であろう。そして、その大きな球根状の先端部分には敵潜水艦音源を収集するための高度なパッシブソナーアレイが収容されている可能性があり、また、垂直安定装置上の使途不明の装置は曳航式ハイドロホンアレイ、デコイないしは妨害操作用の音響エミッター、または潜水艦の存在を確認する磁気検出器であるのかもしれない。また、このHSU001は対機雷戦にも最適化されており、サイドスキャンソナーアレイによって海底下にある物体の探知、類別も可能である。さらに弾頭を搭載した場合、HSU001は水上、水中及び海底下のあらゆるターゲットを攻撃可能な自律的な機雷そのものにもなり得る。
(3)HSU001は自律型UUVと呼ばれているが、それでもHSU001に人工知能がどこまで統合されているかは特定できない。 確かに中国はAI部門において大きな発展を遂げているが、たとえそうであったとしてもHSU001はせいぜい「半自律」という程度であり、実際、その運用は定期的な通信に大きく依存している。そして、より差し迫った問題は人民解放軍海軍の操作員がHSU001と通信できるかどうか、どの程度まで通信ができるのかということである。 2017年、新華社は中国科学院が南シナ海で運用している12機の海翼(Haiyi)型水中グライダーのネットワークとリアルタイムでうまく通信できたと報じた。これが真実であるならば、非常に重要な技術的突破であり、中国の海底戦争能力の大きな変化をもたらす可能性がある。
(4)HSU001のサイズと運用上の柔軟性を考慮すれば、これは、2015年に中国国家造船公社が提唱したコンセプトである「海中の万里の長城」の一角を担うのに最適である。南シナ海に構築中とも言われる「海中の万里の長城」は、冷戦期にソ連潜水艦を探知、監視するため米国によって構築された海底ハイドロホンアレイのネットワークであるSound Surveillance System(SOSUS)に似ているが、ただし、中国版には水中固定アレイのネットワークだけでなく、水上のセンサー、UUV、電力及び通信ケーブル、更にデータプロセッサなども含まれる。 こうしたHSU001のネットワークが、より広範なグリッドにおける静止センサー、有人戦闘員、空中及び宇宙資産、陸上ミサイルとして動作すると、中国のASWおよび対水上戦能力が大幅に強化されることになり、南シナ海その他の水域で、しかしで、中国は海の利益を守ることを望んでいます。
(5)オープンソースはこれら全ての機能が実現可能であることを示唆しているが、HSU001の実際の機能と運用状況はまだほとんど不明のままである。実際、中国が10月1日に中国が展示したUUVは、まだ初期段階のプロトタイプないしはモックアップに過ぎない可能性もある。しかし、たとえそうであったとしても、HSU001によって北京は重要なプロパガンダ上の勝利を確保し、中国に敵対する集団に一矢報いることができたとも言える。HSU001のメッセージは、その準備ができているかどうかにかかわらず明確である。中国は海底支配の戦いに参加したのであり、今後はUUVによる海底の紛争の時代の到来が予想されるのである。
記事参照:China Enters the UUV Fray

11月24日「アブダビ、欧州海軍部隊司令部を受け入れ-英通信社報道」(Reuters, November 24, 2019)

 11月24日付の英通信社Reutersは、“France says Abu Dhabi to host HQ for European naval mission for the Gulf”と題する記事を掲載し、アブダビの仏海軍基地が欧州主導の海軍部隊の司令部として機能することになるとして、要旨以下のように報じている。
(1)アブダビの仏海軍基地がまもなく稼働する湾岸海域防護のため欧州が主導する特設部隊司令部として機能することになると11月24日に仏軍事相が述べている。ワシントンがイランを非難する2019年初めのタンカー攻撃後、ホルムズ海峡の安全な航行を確保するため欧州主導の海軍部隊が編成されるのに際し、フランスは主要な役割を果たしている。
(2)「11月24日朝、我々は指揮所を首長国領域内に設営することを正式に決定した」と仏軍事相はアブダビの仏海軍基地で記者団に語っている。指揮所は関係する約12カ国の代表を受け入れることになるだろうとも軍事相は言う。仏軍事相は次回、基地を訪問するときには任務が稼働していることを期待するとしており、アラブ首長国連邦の支援に謝意を表した。11月23日、仏軍事相はこの構想は2020年早々に開始され、欧州および非欧州の約10カ国が参加する予定であり、議会の承認が保留されていると述べている。
(3)この計画は7月に最初の発表があり、米主導の海洋安全保障構想とは一線を画している。既に緊張が高まっている海域での航行の安全を確保するために2つの任務が調整されると仏軍事相は言う。
(4)「我々は、そこに係争があると知っている海域、重大な事件が既に何件も生起している海域においてできるだけ航行の安全に貢献することを期待している」と仏軍事相は言う。11月21日、9月に起こったサウジアラビア石油施設に対する攻撃後、リヤドの支援要請を受け、パリは低高度攻撃に対応するための防衛装備をサウジアラビアに送ったと仏軍事相は述べている。11月22日には、アラブ首長国連邦からは同じような要請を受けていないとも言う。
記事参照:France says Abu Dhabi to host HQ for European naval mission for the Gulf

11月26日「今世紀半ばに北極海の氷は溶ける?―加メディア報道」(CBC News, November 26, 2019)

 11月26日付のカナダ放送協会のウェブサイトCBC Newsは、“We'll see an ice-free Arctic this century, latest research says”と題する記事を掲載し、北極海がいつ不凍状態になるのかという議論について、University of CaliforniaのCenter for Climate Scienceによって最近発表された論文に言及し、同論文の結論と手法およびその評価について、要旨以下のように報じている。
(1)気候変動に伴う温暖化によって、北極海がいつ不凍状態になるかについて、これまでさまざまな予測が提示されており、その幅は2026年から2132年までさまざまであった。しかし、最近University of CaliforniaのCenter for Climate Scienceの研究員らによって発表された論文によれば、もし温室効果ガス排出がこのままの規模で続けば、北極海は2044年9月までに「機能的に不凍状態」になるという。これは必ずしも北極海から氷が消えることを意味しないが、おおよそその面積が100万平方キロメートル程度になるとされる。現在、最も暑い時期の氷で覆われた面積が600万平方キロメートルである。
(2)地球温暖化によって海氷の減少が促進されるわけだが、それはさらに温暖化を促進すると考えられている。海氷にはアルベド効果、すなわち太陽光を反射する効果があるとされる。氷に覆われていない海は太陽光エネルギーの90%を吸収するが、海氷が吸収するのはわずか20%である。したがって海氷が減れば減るほど、地球の冷却機能が弱まるのである。この論文の第一著者であるChad Thackerayは「それゆえ、その(抄訳者注:北極海における、という意味)変化は気候システムに関して重大な含意がある。北極海における変化だけではない」と言う。
(3)北極海の不凍状態の到来を予測するためには、正確なモデルをつくりあげることが重要である。これまでいくつものモデルが提示されており、それが予測結果の多様性をもたらしてきた。Thackerayらは予測の正確性を高め、その幅を狭めるために新たな手法を用いた。まずひとつの基準として、季節の海氷の溶解に関する衛星データ30年分を抽出し、それを既存の23のモデルと比較した。その後、基準となるデータとマッチしないモデルを排除すると、6つのモデルが残った。それらを総合して、北極海がいつ不凍状態になるかに関するより正確なデータを導き出したのである。
(4)ただしこの方法は完全というわけではない。まず海氷の動向について利用した地域が北緯70度から90度に限定されており、また、カナダ北部の島嶼部の多くを計算に入れていない。その地域の海氷は周辺の陸地に影響され、その溶解状態についてはより複雑な様相を呈している。Thackerayによれば「その諸島群やグリーンランド北東部のように、氷がきわめて厚く、夏であっても溶けることのない多年氷で覆われている地域がいくつもある」という。とはいえ、温室効果ガス排出がこのまま続けば不凍状態が拡大する傾向にある、というのがこの論文の趣旨である。
(5)この研究では、温室効果ガスの削減が結果にどの程度影響を及ぼすかについては考慮しなかった。設定した道筋とは異なるプロセスがとられることによって、北極海の溶解は遅らせられるか、あるいは完全に止められるかもしれない。「重要なことは、われわれがどの道筋を選ぶか、そしていかに早く選ぶかである」とThackerayは述べた。
(6)University of ColoradoのNational Snow and Ice Data Center上級科学研究員であるWalt Meierによれば、Thackerayらの研究は必ずしも新しいことを指摘したわけではないという。しかしこのような研究に関して、不確実性のために明確な日付あるいは日付の幅を提供する研究が少ないなか、合理的な手法と理由に基づいて、まさにその明確な日付を提供したことに大きな意味があるとMeierは述べた。
記事参照:We'll see an ice-free Arctic this century, latest research says

11月27日「中国・ロシア・南アフリカによる初の共同海軍演習の実施―香港紙報道」(South China Morning Post, November 27, 2019)

 11月27日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China, Russia and South Africa team up for first joint naval drill”と題する記事を掲載し、中国、ロシア、南アフリカによって初めて実施された海軍共同演習について、要旨以下のように報じている。
(1)11月25日から29日にかけて、中国、ロシア、南アフリカの海軍による共同演習が実施された。この3ヶ国による合同海軍演習の実施は初めてのことである。中国人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)はその演習にミサイル・フリゲート「濰坊」を派遣した。
(2)南アフリカ軍によれば、それは「海洋の安全保障上の脅威に対する対応、対抗のための多国間機動部隊」の訓練が目的だという。より具体的には、水上射撃訓練、ヘリコプターの他艦への着艦訓練、海賊対策、災害対処訓練などが実施予定である。南アフリカ海軍の海軍少将Bubele Mhlanaは、「1国が支配するには海洋は広すぎる。我々は言語の壁にかかわらず、相互運用性を向上させるために一致協力する」と述べた。
(3)PLANの艦隊がインド洋を南下し、赤道を初めて越えたのは2年前のことである。この訓練は大規模ではなかったが、その文脈に位置づけられるべきものであろう。北京を拠点として活動する海軍専門家李杰によれば、この共同演習は世界中で拡大する中国の利益を守るために外洋海軍になろうとするPLANの努力の重要な一歩である。中国国営放送は、この訓練をとおしてPLANは「第一級の海軍になる」ための技能を学びたいという、「濰坊」に乗り組んでいる政治委員の言葉を引用した。
記事参照:China, Russia and South Africa team up for first joint naval drill

11月29日「ベトナム、タイ、フィリピンへの米国の影響力の現状―比専門家論説」(South China Morning Post, 29 Nov, 2019)

 11月29日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、比シンクタンクAsia-Pacific Pathways to Progress Foundationの研究員Lucio Blanco Pitlo IIIの“Philippine, Vietnam and Thailand; the new frontiers in US-China battle for influence”と題する論説を掲載し、ここで Blancoは、東南アジアへの影響力をめぐる米中の争いに関連してMark Esper米国防長官のベトナム、タイ及びフィリピン訪問の意義などについて要旨以下のように述べている。
(1)米国はかつての敵国であるベトナムとの関係で新しいページを開いたが、フィリピンやタイという長年の同盟国との関係の亀裂は東南アジアでの外交政策に課題を示している。この地域の歴史的な同盟を強化し、新しいパートナーを獲得する努力は、戦後の影響力を行使するためのハブアンドスポーク型のシステムを維持するワシントンの能力を試すものであると同時に、中国の増大する経済的、政治的な影響力に対抗する試みでもある。11月初めの東南アジア訪問に際し、Mark Esper米国防長官は中国の影響力を押し戻そうとするワシントンのコミットメントについて同盟国とパートナーを安心させた。この訪問は過去3カ月間で地域の複数の国々を訪れる2度目のもので「自由で開かれたインド太平洋」という米国の概念にとって、この地域が戦略的に重要であることを発信するものである。
(2)新しい地域パートナーの設立に関しては、意外なことに米国とかつての冷戦の敵であるベトナムとの関係が最も有望である。問題は残るが、安全保障やエネルギー問題から航空路の問題まで、二国間関係は明るい進展を示している。ハノイでの国防長官に対するハイレベルでの歓迎は、2016年の武器禁輸解除と昨年の米空母Carl Vinsonの訪問に特徴付けられる近年の両国関係の大きな転換を物語っている。ベトナムの石油と天然ガスの開発に対する中国の妨害に対して米国の支援を得ることに加えて、ハノイは2隻目のHamilton級巡視船も受け取っている。11月初旬、Wilbur Ross商務長官は貿易交渉団を率いてベトナムの首都を訪問し、数十億ドルの取引をまとめた。この取引にはベトナム沖の石油開発について米韓企業が開発資材や技術等を提供し、そこで産出した石油を米韓企業と越国営企業間で分配する契約が含まれている。このインフラストラクチャは世界最大の石油とガスの生産者としての2018年に米国が再登場したことにも後押しされ、ベトナムのエネルギー源を多様化することができる。貿易関係は大幅に改善し、米国はベトナム最大の輸出市場になったが、しかし貿易赤字の拡大とハノイによる通貨切り下げの疑いからワシントンは同国を通貨操作国と見なし、制裁によって脅しているのである。
(3)Esper国防長官は拡大ASEAN国防相会議に参加のためタイを訪問し、同地域の国防相等と会合した。タイでは2014年の軍事クーデター以来、中国の影響力が強くなっており米国はタイで中国の影響力を押し返すのは容易ではないと気づくだろう。米国は2014年のクーデター後、タイへの軍事援助を抑制したが、これらの制限を解除する決定により、タイは米国製のストライカー装甲兵員輸送車を調達することが可能になった。しかし2019年には既に、中国が幅広く艦艇、戦闘車両等をタイに売却する契約を締結しているため、米国の防衛産業は追いつくためにやることがある。さらに、Donald Trump大統領が世界中にある共和党海外支部の支部長Michael DeSombreを次期駐タイ大使として任命したこともやはり不必要なシグナルを送った。DeSombreは、1975年以来、バンコクの役職に就いた最初の政治的任命者になる。この任命は、1833年、ワシントンが正式な外交関係を結んだ最初のアジアの国の米大使館の重要性を低下させるものとみなされるかもしれない。また中国は近隣のカンボジアに海軍及び空軍施設の確保を試みているため、タイにおける足場の確保は米国にとって重要である。
(4)フィリピンで米国が直面する課題は、マニラが北京とモスクワとの緊密な関係を築いてきているので、新たな安全保障上の課題に対処する1951年の相互防衛条約の力に対する疑念を緩和するとともに、同盟の永続的な価値を印象付けることである。Esper国防長官はこの訪問で比国防相Delfin Lorenzanaと会談し、南シナ海におけるフィリピンの主権の問題に対する同条約の有効性を繰り返した。さらに共同声明の中で、米国部長官と比国防相はフィリピンの軍隊、特に海軍力及び空軍力近代化の支援も約束した。Lorenzana比国防相の条約見直しの要請はまだ対処されていないが、条約が適用される範囲が明確にされたことによりマニラが紛争中の海域で攻撃を受けた場合に米国が対応するための備えがあるのかという懸念は緩和された。
(5)冷戦終結から30年近く経て、同盟国とパートナー諸国はワシントンの戦力投射と世界的なリーダーシップにとって依然として重要である。大国間の対立の時代、これら同盟国は捨て去ることができないものとなってきている。しかし、書く同盟国が代理人から完全な行為主体、様々な利益を持つ主権的な行為主体へと成長するにつれ、それらに対処するための技量と配慮が求められるのである。
記事参照:Philippine, Vietnam and Thailand; the new frontiers in US-China battle for influence

11月30日「台湾は通常型潜水艦国産計画を破棄するとき-米専門家論説」(The Diplomat, November 30, 2019)

 11月30日付のデジタル誌The Diplomatは、米Schar School of Policy and Government at George Mason Universityの准教授Michael A. Hunzekerと同博士課程学生Joseph Petrucelliの“Time for Taiwan to Scrap the Indigenous Diesel Submarine”と題する論説を掲載し、ここで両名は台湾の通常型潜水艦国産計画は限られた予算を消費するだけで中国の侵攻を抑止することはできず、台湾は「全体の防衛構想」に基づき、ドローン、高性能機雷、人工知能等の非対称兵器の整備に重点指向して潜水艦国産計画を破棄すべきであり、また、米国はこれを支援すべきとして要旨以下のように述べている。
(1)台湾は現に存在する脅威に直面している。中国共産党は台湾を政治的に支配することは「神聖な任務」と長く信じてきており、習近平はいらだちを募らせ、台湾を次世代の「課題」とする意思がないことは明らかである。
(2)台湾国軍はいかにして防衛するかという点でいつも特に創造的であったわけではない。その考え方は2つの仮定に依拠している。第1には米国が介入するまで持ち応えなければならないということであり、第2には中国との戦争において台湾を防衛する意思と能力があることを発信するために旧式の兵器を台湾に売却する米国の意思である。中国の何十年にも及ぶ軍近代化の努力と広範囲に及び接近阻止能力はこの2つの仮定に疑問符を付けている。
(3)台湾の新しい「全体の防衛構想(以下、ODCと言う)」は国軍の陳腐な文言に挑戦する蔡英文総統の意思の重要な結果として際立っている。ODCは台湾が中国の戦闘機には戦闘機で、艦艇には艦艇で対抗する余裕はないと認めていると元参謀総長の李喜明退役海軍大将は言う。しかしODCは対艦ミサイル、ミサイル艇、機雷等の廉価な兵器を大量に使用することで侵攻を受容できないほど困難なものにし、中国を抑止しようとしている。ODCは策定されたばかりで、正しい方向への創造的ステップであり、台湾の比較的規模の小さい国防予算を運用するのに賢明な方策である。ODCはこれまでの国防計画よりもはるかに信頼性がある。
(4)不幸なことにODCが成功するというのは定まった結論ではない。反対が依然ある。特に受け継がれた高価な計画はわずかな台湾の国防予算を消費してしまう恐れがあり、非対称兵器への投資を阻害しつつある。
(5)特に通常型潜水艦国産計画が問題を示している。最初に挙げられる問題は価格である。最初の4隻の設計と建造だけで50億ドルがかかり、これには長期の保守整備費用とその後の4隻の経費は含まれていない。通常型潜水艦国産計画のような受け継がれた計画とODCのような本当に変革的な構想の両方に予算を振り向ける余裕は台湾にはない。
(6)潜水艦が台湾海峡を越えてくる侵略を抑止する最良の選択肢でないことは明らかである。第1に、時は台湾の側にはない。今、台湾海峡で信頼できる抑止が必要である。実行可能な国産通常型潜水艦を展開するには台湾は何年もかかるであろう。加えて、台湾が建設できる限られた隻数の潜水艦では中国が侵攻に成功するという認識を変えることはなさそうである。考えられる侵攻のシナリオは台湾国軍に対する先制攻撃で開始され、国産通常型潜水艦は優先順位の高い目標となるだろう。交替と整備の所要を考えると、8隻の国産潜水艦部隊では常続的に展開できるのはわずかな隻数、おそらく2、3隻であり残りは港で脆弱な状態におかれる。
(7)こうした運用上の欠点にもかかわらず、国産通常型潜水艦を支持する少なくとも1つの説得力のある政治的な議論がある。計画は台湾の造船業界に利益をもたらし、国内の重要な利益団体から支持されている。しかし、期待されている利益は誇張されている。初期価格の30パーセント以上が海外に流出するのである。
(8)純粋に政治的な見方からでも、台湾の限られた国防予算をより効果的に使用する方策がある。ODCを実践する上で必要とされる非対称な兵器の多くは、台湾経済界が既に生産に長けている分野への投資を必要としているだろう。ドローン、高性能機雷、人工知能などはまさにODCを現実のものとする革新的技術である。蔡英文総統は台湾国軍がより持続可能で信頼性のある国防体制を採用するよう促し続けている。ODCは台湾の精力的で創造的な軍指導部が蔡英文総統の指導に従い、適切な考えを持っていることを証明している。米国はこれを支援することができる。ODCの優先順位に適合しない国産通常型潜水艦の建造から米国製の主力戦車や自走砲の購入などの計画は破棄されなければならない。さらに、米国は台湾が製造する非対称兵器をある数量購入することで台湾における防衛装備の国産能力を支援することを考慮すべきである。台湾の危険は現実である。時代遅れの計画は台湾がその国防の変革を実現するために必要な資源を浪費するものであり、米国がODCを後退させるには利害関係は重大である。ODCはそれだけ重要なものなのである。
記事参照:Time for Taiwan to Scrap the Indigenous Diesel Submarine

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Inside China’s “People’s War” Plan for the South China Sea
https://nationalinterest.org/blog/buzz/inside-chinas-peoples-war-plan-south-china-sea-99152
The National Interest, November 23, 2019
By James Holmes, J. C. Wyler Chair of Maritime Strategy at the Naval War College
 11月23日、米Naval War College教授James Holmesは、米隔月刊誌The National Interest電子版に“Inside China’s “People’s War” Plan for the South China Sea”と題する論説を寄稿した。ここでHolmesは、①2018年、中国国防部長常万全将軍(当時)が「海上人民戦争」(people’s war at sea)の準備をするように国に要請した、②国際海洋法裁判所による南シナ海に関する北京にとって不利な裁定は「小さな警棒外交」の根底にある準合法的な議論を崩壊させ、中国のアプローチに危機的な打撃を与えた、③毛沢東の紅軍は日本の侵略者や国民党から土地を奪取するため人民戦争を戦ったが、現在の中国は力でライバルを打倒すべき沖合の戦場として南シナ海を同様の観点から考えている、④軍事力だけではなく、北京は海警、海上法執行機関又は非公式の海上民兵である漁船隊を多くの問題を抱えた海域から撤退させず、それらは政府が運用する複合的な全兵力の一部として南シナ海にとどまっている、⑤海上人民戦争戦略が対峙する米国をはじめとする寄せ集めの連合の構成は、その連合を破壊するための機会を北京に提供するだろう、⑨毛沢東が人民戦争に関して体系化した概念である「積極防御」は戦略的な防御的軍事行動のために戦術的な攻撃を活用することであり、中国軍は時間とともに敵を弱体化させ戦術的な敗北を負わせることができる、⑩中国がその教義を如何にして沖合の舞台に移す可能性があるか、そしてまとまりにくい連合が如何にしてそのような挑戦に打ち勝つことができるかは、海洋の自由の支持者に問われる問題であるといった主張を展開している。
 
(2) Making the Case for Increased US Basing in the Pacific
https://thediplomat.com/2019/11/making-the-case-for-increased-us-basing-in-the-pacific/
The Diplomat, November 28, 2019
By Lt Col Matt Tuzel, an active duty Air Force officer and a National Security Affairs Fellow at the Hoover Institution
 11月28日、米シンクタンクHoover InstituteのMatt Tuzel空軍中佐は、デジタル誌The Diplomatに、" Making the Case for Increased US Basing in the Pacific "と題する論説を発表した。ここでTuzel中佐は、米国のアジア太平洋戦略に関し、残念なことに米国の空軍基地は限定されており、韓国に空軍基地を有してはいるが北朝鮮との戦争の準備と抑止に重点を置いており、また、日本にも空軍基地を有しているが、東シナ海や南シナ海における米国の利益を確保する位置にあるのは沖縄の嘉手納飛行場のみであると指摘している。特に、米国はグアムにも基地を有しているが、そこに兵力が集中しているため、敵の作戦の主要な標的となっていることに懸念を示し、米国の利益を守り、中国を牽制するには、より強固な基地網を確立する必要があると主張している。特に、パラオとマリアナ諸島に米国の空軍基地があれば、米国はフィリピン海から台湾、沖縄における米国の主要な権益への安全なトラフィックを確保できるし、また、今後もしフィリピンが中国との関係を強化する場合、パラオの基地は、マリアナ諸島と沖縄、台湾とを結ぶ航空路を含む米国西部を守る役割を果たすことができると指摘している。
 
(3) The Icebreaker Gap Doesn’t Mean America is Losing in the Arctic
https://warontherocks.com/2019/11/the-icebreaker-gap-doesnt-mean-america-is-losing-in-the-arctic/
War on the Rocks.com, November 28, 2019
Paul C. Avey, assistant professor for political science at Virginia Tech
 11月28日、米Virginia TechのPaul C. Aveyは、米University of Texasのデジタル出版物であるWar on the Rockに" The Icebreaker Gap Doesn’t Mean America is Losing in the Arctic "と題する論説を発表した。ここでAveyは、北極の温暖化はより寒冷な地域安全保障環境を生み出す可能性があると切り出し、米国が北極戦略でいかに出遅れているかを示す最も一般的で一貫した指標の一つは、米国、ロシア、中国の砕氷船の数の比較であるとして、ロシアは少なくとも40隻の砕氷船を保有しているが、中国と米国はそれぞれ2隻ずつしか保有していないと指摘している。しかし、北極における戦略的競争状態の重要な指標として、相対的な砕氷船隊規模を用いることには欠陥があるとも指摘しており、その理由として、Aveyは、砕氷船は北極における重要なプラットフォームではあるものの、砕氷船それ自体が北極の防衛上の課題となったり、課題解決に役立ったりすることはほとんどないとして、専門家は特定の能力を比較するのではなく、北極における軍事的リスクの性質、同盟国とパートナー国の役割、より広範な地政学的文脈における経済的利益に焦点を当てるべきであると主張している。