海洋安全保障情報旬報 2019年11月1日-11月10日

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11月1日「中国共産党、海軍技術少将を党中央委員に昇格-香港紙報道」(South China Morning Post, 1 Nov, 2019)

 11月1日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国共産党が空母用電磁カタパルトの第一人者である馬偉明技術少将を中国共産党中央委員会委員に昇格させたとして、要旨以下のように報じている。
(1)中国共産党は馬偉明技術少将を次期国産空母のハイテク発艦装置開発の功績により昇格させた。これは中国の海軍力強化の野望を示している。馬偉明少将は中国の電磁カタパルトの先駆者と見られており、10月31日に終了した中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議で候補委員から中央委員に指名された。
(2)北京を拠点とする軍事専門・家李杰は、この動きは引き続き海軍力を増強しようとする中国の野心を示しているとして、「馬偉明少将の昇格は北京が大型艦艇、強襲揚陸艦のような戦略的兵器の開発により多くの資源を投入するというシグナルである」と言う。電磁カタパルトは人民解放軍にとって技術的なブレークスルーと見られている。Type-002と呼ばれる2隻目の中国国産空母が、より多くの燃料、兵器を搭載したより大型の航空機をより長時間の任務に対応させることができるようになるからである。電磁カタパルトシステムは40パーセント以上の燃料を節約し、より高い発艦エネルギー容量によって蒸気カタパルトよりも効率的で、保守整備がより容易であり、信頼性がより高く、よりスムーズな加速が可能である。
(3)軍近代化の最中、研究開発に重点が置かれていたため、馬偉明少将とそのチームはしばしば表彰されてきた。報道によれば、馬偉明少将は1980年代、中国が海外から潜水艦用に購入しようとしていた電機機器について、潜水艦が容易に探知されるようになるかもしれない潜在的な欠陥を指摘していた。馬偉明少将は5年間、その改修に取り組み、当該機器は、探知されにくくなるよう改良されて潜水艦に装備された。
(4)北京を拠点とする軍事専門家・周晨明は、馬偉明少将の昇格は電磁カタパルトに関する彼の業績が正式、かつ明白に承認されたからかもしれないとし「馬偉明少将が中央委員会の委員に選抜されたのは党と国家が彼の業績の戦略的な重要性を認めたからで、中国は守るべき巨大な海洋権益を有する海軍国へ拡張しつつあるからである」と言う。
(5)周晨明は、馬偉明少将の昇格は2年前になされたが、今年、欠員が生じるまで公表されなかったと言う。
記事参照:China’s Communist Party promotes man who shaped the fighting future of PLA Navy’s aircraft carriers

11月1日「南シナ海問題に対するASEANの立場はベトナムにとってどのような意味を持つか―印専門家論説」(The Diplomat.com, November 1, 2019)

 11月1日付のデジタル誌The Diplomatは、印シンクタンクObserver Research Foundation特別上級研究員Rajeswari Pillai Rajagopalanの“What Does ASEAN’s Evolving Approach to the South China Sea Issue Mean for Vietnam?”と題する論説を掲載し、ここでRajagopalanは、南シナ海問題に関するベトナムの対応の姿勢と、この問題へのASEANの立場がベトナムの方針に与える影響などについて、要旨以下のように述べている。
(1)ベトナムは現在、南シナ海における主権や領土をめぐる難題を抱えている。ベトナムにとって重要なのは、ASEANがひとつの主体としてこの問題にどのように取り組むことになるかである。
(2)近年、ある重要争点について、ASEANが提示する統一的な見解の意義や効力について疑問視されている。それは南シナ海についても当てはまる。南シナ海における中国の行動への懸念は高まっているが、南シナ海における衝突回避のため策定を目指している行動規範(以下、COCと言う)について、ASEANが意見をまとめることができるかが不安視されている。東南アジアの国々の多くは経済的に中国に依存していることも不安の種である。
(3)しかし南シナ海をめぐる緊張は高まり続けるばかりである。2018年6月にはフィリピン漁船が中国船によって沈められ、最近ではマレーシアのサラワク州沖合で行われていた石油リグ作業が中国海警局の船舶によって中断させられるということもあった。ベトナムに関しては、2019年7月以降、同国EEZや大陸棚の内側にあるバンガード堆への中国調査船の侵入などが、両国間の緊張をかなり高めた。ベトナムの対応はフィリピンやマレーシアに比べて最も強硬なもので、その対応には幅広い支持があったが、地域内外からの具体的な支援は乏しかった。
(4)ベトナムは強硬手段だけでなく、外交的解決も模索している。たとえばNguyen Xuan Phuc首相は議会に対し、南シナ海における問題について「われわれは国際法に基づく手段において戦いを続ける」と述べている。またベトナムは、ASEANを経由した問題解決も試みており、Pham Binh Minh副首相兼外相が調査船侵入問題をASEANに上程した。しかしそれに対する対応は、国際法の遵守やCOC完成に向けた努力の必要性を訴えるだけにとどまった。
(5)中国との経済的紐帯の強さを考慮すれば、ASEANが中国を直接非難することは今後ありそうにない。中国としてもASEANとしての対応が中立的である限り、特にそれに反論することはないであろう。このようにASEANを通しての問題解決という手段にはかなりの限界があるが、それでもなお、南シナ海問題解決について、ASEANの立場はベトナムにとって決定的に重要である。2020年、ベトナムはASEANの議長国となるが、ASEAN諸国の経済的・戦略的利害と自国の領土的主張のバランスをうまくとっていかねばならない。
記事参照:What Does ASEAN’s Evolving Approach to the South China Sea Issue Mean for Vietnam?

11月4日「アジア太平洋地域における島嶼の戦略的価値の高まり―シンガポール専門家論説」(RSIS Commentary, 04 November 2019)

 11月4日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトRSIS Commentariesは、S. Rajaratnam School of International Studies,Maritime Security Programme教授Geoffrey Tillの“The Growing Strategic Significance of Islands”と題する論説を掲載し、ここでTillはアジア太平洋の島々の戦略的重要性が高まっており、これらの島々に関する問題には慎重に対応する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1)南シナ海の管轄権を巡る継続的な紛争はさておき、最近のアジア太平洋地域の発展は、島々が戦略的重要性を増しているという事実を強調している。島々は攻撃又は防御作戦の拠点となり、ディエゴガルシアのようにこの地域全体で活動している海空軍部隊に貴重な後方支援を提供することができる。陸上及び海洋配備ミサイルシステムの射程と精度向上が「距離の専制」による戦略的効果を相対的に低下させ、そうしたミサイルの射程内にある島々の位置に関する戦略的な優先順序の大幅な再考が求められている。
(2)例えば、オーストラリアでは中国の経済進出及び海軍力の展開、特に南太平洋島嶼国におけるそれらの拡大が戦略家たちをして、豪本土はもはやこの地域の緊張から戦略的に隔離されてはいないと主張させている。オーストラリアは自国を脅かすかもしれない脅威に対する「空と海の間隙」と考えられてきた群島を最大限に活用する前方展開部隊に対して資源を集中投資すべきである。海軍は質の高い戦争遂行能力開発を強調しており、前方展開部隊への資源の投資は本土からある程度離れた「一方的に利用ができない」島嶼環境で海軍をより効果的に運用することを可能にする。全部隊は、新世代の補給艦によって支えられる。最近、豪海軍は、陸海空3軍の全ての領域を最大限に活用するタスクフォース機能の開発に重点を置いている。例を挙げて説明すれば、海軍は最近、1945年以来豪統合軍が実施した最大の水陸両用戦演習「タリスマン・セイバー」を実施した。これには、カナダ、日本、ニュージーランド、米国及び英国が参加した。また、同様の戦略的関心はパプアニューギニアのマヌスの古い基地を再開したことに見られるとおり、南太平洋の島々に対しても見えている。オーストラリアの防衛費は現在、GDPの2%近くまで増加しており、さらに増加すると予想されている。政府はまた、主に「継続的な構築プログラム」を通じて、防衛産業発展の目的で多額の投資を行ってきた。これらは全て、キャンベラがオーストラリア北方の島々で前方防衛を行うために重視している戦略的な優先事項を例示している。
(3)同様のことは北東太平洋地域でも見られ、米国の戦略アナリストや軍司令官たちは、「列島線防衛」と呼ばれる能力の再構築にさらに集中するだろう。これは陸海空海兵隊4軍の全てが、第一、第二列島線によってもたらされる海洋プレッシャーの戦略的な機会を活用するべく連携する作戦の概念である。この種の戦略では、対象地域において展開された機動部隊と分散配置された複数の地上部隊を必要とし、それは初期攻撃に対抗し戦略的に重要である縦深防御のために、域外から迅速に展開し得る海空軍及び水陸両用部隊により必要に応じ補充される。特に米国がINF条約から撤退した今、こうした軍事行動が中心的役割を果たす可能性が高い。例えば最近、米陸軍と海兵隊により広く配備されている新型高機動ロケット砲システムなども重要な役割を果たすだろう。
(4)これに中国による南シナ海の軍事化も追加される。他のいくつかの権利主張国と近年日本で示された南西諸島の防衛に対する関心の高まりにより、アジア太平洋地域の島々の戦略的重要性の増大が明らかになった。しかし、これは諸刃の剣である。戦時中のシンガポールの経験が示すように、戦略的なポテンシャルを有しながら十分防衛されていない島嶼国は、それらが最大限開発された場合に脅威になると感じている人々にとって脆弱で魅力的な標的となる可能性があり、そのことにより彼らが防ごうとしている紛争を引き起こすのである。また、歴史的な経験から言えば、島嶼は国家主義的な人々にとって政府の業績を評価する指数になりやすく、本来より重要なものになる可能性がある。そして、そのような島を所有する、あるいはそこで生活している人々は他の大国の戦略的計算に関わらされていることに憤っているかもしれない。このように、島嶼の戦略的重要性の拡大はアジア太平洋地域の海洋領域において政治的、軍事的な危険をはらんでおり、関係国が特に慎重に取り扱っていく必要がある。
記事参照:The Growing Strategic Significance of Islands

11月5日「インドの対近隣諸国外交―豪専門家論説」(The Interpreter, November 5, 2019)

 11月5日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのブログThe Interpreterは、豪Griffith UniversityのGriffith Asia Institute教授Ian Hallの “India’s clever alliances with island states”と題する論説を掲載し、ここでHallはオーストラリアにとってインドによるインド洋近隣諸国への多面的援助は、中国による支配を中和するのに役立つ教訓を提供しているとして、要旨以下のように述べている。
(1)インドは近隣諸国に対する中国の経済的、外交的影響を上手く扱うのに尽力しており、最近、インド洋の4つの重要な島国であるモーリシャス、モルディブ、セイシェル及びスリランカとのより強固な関係の構築を進めている。何が行われ、何が機能したかは、太平洋におけるオーストラリアの立場の強化に大きく影響する可能性がある。これらの関係を改善するには、時間がかかり、インドの指導者たちの外交的努力及び多大な投資が必要となっている。
(2)最近では経済問題が主な論点となっている。インドは、4カ国すべてとの間でかなりの貿易黒字を計上し、特にスリランカにおいては地域の貿易自由化が経済規模の小さな国々に悪影響を与える可能性という懸念も生み出している。しかし、近年、ニューデリーを最も懸念させ、その4つの国家との関係で最も摩擦が生じているのは中国との関係である。インドは、10年以上にわたり北京が南アジア及びインド洋地域全体でより大きな影響力を獲得するという見通しに思い悩んでいる。スリランカのハンバントタ港開発における中国の役割は、2008年に始まり、ニューデリーをいらいらさせている。ハンバントタ港は北京が南シナ海から東アフリカまで伸びる一連の基地を確保する目的を支えており、部分的にインドに対する囲い込みでもある「真珠の数珠つなぎ」といった見方に拍車を掛けている。また、2013年後半以降、一帯一路構想が公表された。これには中国が「海洋シルクロード」と呼んでいる一連の新しい投資が含まれる。ニューデリーは北京と同額の資本を集めたり管理したりできないことは認識されている。特に2014年5月に選出されたNarendra Modi政権下、インドはモーリシャス、モルディブ、セイシェル、スリランカとの関係を改善するために、調整された非対称戦略を追求した。そして興味深いことに、中国の資金が獲得する可能性がある影響力を考慮した場合、それは効果をもたらしているように見える。
(3)インドのアプローチには3つの側面がある。最も明白なのは外交である。Modi政権は近隣諸国の指導者、閣僚との定期的な会議を確保している。この外交上の緻密さは、防衛と安全保障へのより深い関与と同時に進行している。最後に、インドは地域的な開発支援と技術協力を強化してきた。これらの動きは、少なくともインド洋地域で、「すべての地域の安全と成長」を高めるというModi政府の目標を前進させたように見える。ニューデリーとこれらの4つの国家との関係は、中国の影響力の増加と時折の外交論争にもかかわらず、以前よりも遥かに強固に見える。
(4)単にインドのためというだけでなく、これらの改善から学ぶべき教訓があるかもしれない。第1に持続的で敬意を込めたリーダーレベルの外交は「協力の機会」を広げることができる。第2に、小規模、中規模国家は中国に対する安全保障上の懸念を共有していることは明らかであり、もしもそうした懸念が、例えば中国の漁船団に対するものだけであれば、小規模、中規模国家が自力で取り組めばよい。あるいはインドがフランスとインド洋に焦点を当てた戦略的なパートナーシップを構築したように、より強力なアクターである他国と協調して対処することもできる。そして第3に、経済的、財政的支援に照準を合わせることは費用がかかり、時には中国に関係した負債の結果であるにもかかわらず、外交的な利益を生むことができる。
(5)もちろん、インドは、これらの複数の島国において近い将来に逆流に直面する可能性がある。スリランカは特に懸念事項である。Gotabaya Rajapaksaは次の選挙で大統領になる可能性があるが、中国の利益との彼の一族のつながりを考えた場合、彼はこの国を中国へと引き戻す可能性がある。これは、インドのアプローチとそれが築いた関係の耐性のテストになるだろう。
(6)キャンベラとしては、中国がスリランカの選挙に干渉する懸念を考慮し、その状況を注意深く監視しておく必要がある。そして、協調的外交、地域的な懸念への対応、よく調整された支援の結果として、インドが比較的わずかな投資によってインド洋で達成したことをより注意して見るべきではないだろうか。
記事参照:India’s clever alliances with island states

11月8日「インドネシア大統領の海洋政策、事後検証―インドネシア専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, November 8, 2019)

 11月8日付の米シンクタンクCSISのウェブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、CSISのインドネシア人研究員Evan Laksmanaの“Indonesia as ‘Global Maritime Fulcrum’: A Post-Mortem Analysis”と題する論説を掲載し、ここでLaksmanaはインドネシアのJokowi大統領が2014年の就任時に公約した海洋政策「世界の海洋の要」(the “Global Maritime Fulcrum” : 以下、GMFと言う)について、同大統領の2期目の就任演説からGMFが消えたことに着目したGMFの事後検証を試み、要旨以下のように述べている。
(1)インドネシアのJokowi大統領は2014年、インドネシアをインド洋と太平洋の間に位置するGMFとすることを公約して就任した。Jokowi大統領は、2014年11月の東アジア首脳会議で、海洋文化、海洋資源、インフラ、外交及び防衛を基盤として構築されるGMFを提唱した。その3年後、GMFは成文化され、「国家海洋政策に関する大統領令」によって政策化された。各国はGMFを真剣に受け止めた。中国の当局者は、「一帯一路構想」(BRI)をしばしばGMF と関連付けようとしてきた。またMattis米国防長官(当時)は2018年のジャカルタ訪問時、インドネシアを「インド太平洋における海洋の要」と認めた。しかしながら、Jokowi大統領が10月に最後の任期となる2期目の就任宣誓をした時には、就任演説からGMFが消え、「海洋」とか「外交政策」といった言葉は1度も使われなかった。GMF は、事実上、消えたように思われる。GMFは、Jokowi大統領の2期目のドクトリンでもなければ、当面のインドネシアの大戦略でもないであろう。以下は、GMFの事後検証である。
(2)GMFは、最初から十分に検討された大戦略ではなく、長年に亘る調査と論理構成によって裏付けられたものではなかった。むしろ、GMFは、2014年の大統領選挙においてJokowiを売り込むための素晴らしい選挙公約に過ぎなかった。それにもかかわらず、GMFの論理と哲学は、世界最大の群島国家に適合した健全なものであった。残念ながら、Jokowi大統領は、日々の政策アジェンダとしてGMFに力を入れることはなかった。大統領は主として開発プロジェクトに力を入れ、国家海洋政策は1つの枠組みの下に各省庁に跨がる既存の計画を集約するというより、それらを結びつけるだけの官僚文書に過ぎなかった。Jokowi大統領は、国防政策と軍民関係を、彼の顧問達―その多くは陸軍退役将官―による政策形成、言うなれば軍の自治に任せる、「自動操縦装置」に依存していたことから、GMFの海軍関連施策は具体化されることはなかった。一方、Retno 外相が官僚的な改革に時間を使い、ASEANなどの既存の多国間機構を過度に重視したことから、GMFの外交政策面についても同様であった。
(3)かくして、インドネシアの地政学的利益は、官僚的惰性と国内政治の特異性から後景に押しやられた。例えば、外務省は米中間の戦略的抗争によるインパクトを緩和するとともに、南シナ海の領有権紛争とインドネシア水域への中国の侵入に効果的に対処するための戦略と政策を展開する上で、GMFを基本方針として活用することができたであろう。そうする代わりに、外務省は、不備な「インド太平洋に関するASEANの見解」を成立させるために外交的努力を傾注することで責任転嫁した。
(4)更に、海洋政策分野に責任を有する政府各省庁も、分立したままであった。Jokowi大統領は2014年末に、海洋警備庁(以下、Bakamlaと言う)を格上げし、インドネシアの沿岸警備隊としての機能を持たせた。しかしながら、大統領は1ダースを越える省庁が縄張りを争う海洋政策部門を根本的に再編したり、あるいは統合化を図ったりすることはなかった。漁業省は、しばしば他省庁と揉めるインドネシアの不法操業取り締まり政策について、根本的な改編を試みてきた。漁業相が大統領直属の特別委員会(以下、Satgas 115と言う)の新設を必要としたことは、海洋の安全保障を巡る官僚的な内輪揉めの典型である。海軍もまた、インドネシアの広大な水域を哨戒するために、時に漁業省、Satgas 115そしてBakamlaと協力する必要があった。海洋分野における2つの異なった調整機関の存在が、更に問題を悪化させてきた。「法律、安全保障及び政治問題担当調整省」(the Coordinating Ministry for Legal, Security, and Political Affairs)は海軍と外務省の調整を担当することになっているが、漁業省―現在では独自の不法操業取り締まり部隊を有する―は、「海洋問題担当調整省」(the Coordinating Ministry for Maritime Affairs)の下に残された。Jokowi大統領自身も、「国家安全保障会議」(a National Security Council)に相当する中核的な戦略政策集約機能を持っていないことから、政策調整の困難に直面してきた。
(5)GMFは群島国家インドネシアにとって最も概念的に整理された大戦略であったと言えるが、Jokowi大統領は最初の任期の半ばまでにこれを放棄したことでGMFは忘れ去られた。2期目の現在、Jokowi大統領は他の全てを犠牲にして、インドネシアの地政学的利益を含む経済とインフラ開発に精力を注ごうとしているように思われる。
記事参照:Indonesia as “Global Maritime Fulcrum”: A Post-Mortem Analysis

11月8日「なぜ北極海航路企業宣言に署名するのか?―ノルウェー研究者論説」(High North News, November 8, 2019)

 11月8日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWS電子版は、同大学研究員のAlexandra Middletonによる“What are the motives of the Arctic Shipping Corporate Pledge signees?” と題する論説を掲載し、ここで Middletonは、最近NIKEが北極海航路企業宣言に署名したことに言及しつつ、これら企業がなぜ北極海に関心を寄せるのか、その環境保護への姿勢がどれほど真摯なものかという点について、要旨以下のように述べている。
(1)10月23日、NIKEは北極海航路企業宣言(以下、ASCPと言う)に署名した。ASCPは1972年にワシントンDCに創設された環境保護団体Ocean Conservancyがイニシアチブをとって考案した北極海航路の不使用宣言である。
(2)現在までにNIKEを含むいくつかの企業がこれに署名しているが、その業種は大きく分けて服飾業界と外航運輸業界であり、前者はNIKE、Bestseller、Columbia、GAP、H&M、PVH、Li & Fung、Keringの8社、後者はCMA CGM、Evergreen、Hapag-Lloyd、Mediterranean Shipping Company(MSC)の4社がASCPに署名している。
(3)服飾業界と北極海にどのような関係があるのか。これら企業は製造拠点としてアジアに大きく依存しており、その商品は、船舶により全世界に発送されている。近年、船舶から排出される「ブラックカーボン」(船舶の排気ガスなどに含まれる黒い微粒子)が地球温暖化の重要な原因として注目されており、それは北極海の氷の減少をもたらしている。現在、北極海航路を経由したコンテナの輸送・積み換えは行われていないが、もしも多くの船舶が北極海を通行することになれば、その環境への影響は大きいだろう。
(4)しかし、上記服飾企業が、環境問題にどれだけ真剣に取り組もうとしているかは議論の余地があろう。これらの多くはいわゆる「ファストファッション」系の企業であり、それは多くの消費を促し、多くのゴミを生み出すビジネスモデルである。この業界は、近年その労働環境の悪さや賃金の低さについて注目が集まっている(たとえばバングラデシュのRana Plaza工場が崩落し、少なくとも1132人が犠牲になった)。そのような企業にとって、北極海の航行にノーを言うことは、自社の道徳的優越性を訴えるためにきわめて効率的なやり方と言えよう。他方、これらの企業は既存のビジネスモデルの修正や輸送ルートの利用についての調整を宣言したわけではないのである。
(5)外航運輸業界のこの宣言への署名企業は、この業界を代表する大企業で4社合わせて41%の市場シェアを占めている。そしてやはり、これらの企業もまた、見せかけの環境保護、すなわち「グリーンウォッシング」しているだけなのではないかと見る向きもある。これら企業は当然利益の極大化に関心があり、CMA CGMやHapag-Lloydなどは、その収益を増大し続けている。ある研究によれば北極海が通行可能な日が増えるほど北極海の航路を利用する企業の方が大きな利益を得られることを明らかになっており、これら企業が将来その利益に関心を向ける可能性がある。
(6)また宣言への署名企業は、北極海へのクルーズ事業に関しては沈黙している。MSCの子会社にはMSCクルーズという株式非公開の企業があるが、それは北極海方面(グリーンランドやアイスランドなど)へのクルーズ・ツーリズムを展開しているし、また、Hapag-Lloydは、新造客船HANSEATIC natureでの北極海クルーズを売りに出している。
(7)北極海は近年注目を集めている場所で、その環境保護を主張することは企業にとって良い広告になる。しかしASCPへの支持について企業はその動機を明確にしているわけではない。北極海の環境保護をより意味あるものにするには、以後より実際的な対策や研究、つまりブラックカーボンの削減や、より環境に配慮した船舶への投資、持続可能なビジネスモデルの構築などを考える必要があろう。
記事参照:What are the motives of the Arctic Shipping Corporate Pledge signees?

11月9日「中国の科学者が南シナ海向けの無人潜水艇の試験を実施―香港紙報道」(South China Morning Post, 9 Nov. 2019)

 11月9日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Chinese scientists test underwater drone designed for South China Sea”と題する記事を掲載し、中国の科学者が南シナ海向けの自立型水中航走体の試験を行ったことについて要旨以下のように報じている。
(1)2019年11月5日、中国科学アカデミーは、自律型水中航走体Sea-Whale 2000が最近 南シナ海で航続距離2,011kmの37日間連続航走の試験を完了したと発表した。試験海域は公表されなかったが、それだけの航続距離であれば、隣国と紛争になっている西沙諸島と南沙諸島付近まで航行して、海南島の三亜海軍基地に戻ることは容易である。魚雷型の自律型水中航走体は、長さ約3メートル、重量200キログラムで、海中温度、塩分、電流、微量の化学物質、水中視界、海中生物の活動を検出する人工知能技術と広範なセンサーを備えている。水面下2,000メートルまで潜航し、最大毎秒1.2メートルの速度で巡航可能である。「Sea-Whale 2000の開発は、南シナ海における長期の深海移動調査のニーズを満たすことである」と、中国科学アカデミーの黄岩博士が率いる研究チームは発表した。この自律型水中航走体は「1回の航行で数週間にわたる長期滞洋任務を遂行でき、複数の作業モードの任務を達成できる」と研究チームは言う。研究チームは、中国が南シナ海向けの自律型水中航走体を建造している理由について詳しく説明することを拒否した。
(2)Sea-Whale 2000は航続距離が世界最長の自立型水中航走体ではない。しかし、中国は 自立型水中航走体の開発競争に向けて準備を進めている。自立型水中航走体の航続距離を延長するために、黄岩博士とそのチームはエネルギー消費を節減するため異なるモードで航走するハイブリッド構造を考案した。従来の潜水艦のように航走したり、グライダーのように深度変換したりすることが可能であるし、漂流するボトルのように水中で静止し、潮の流れに乗ることもできる。
 (3)もちろん中国だけが南シナ海での軍事力展開に関わっているわけではない。ここ数十年に亘り米国とその同盟国はこの地域に広範な監視ネットワークを確立しており、艦艇及び科学調査船が南シナ海の紛争地域で情報収集のため定期的なパトロールを実施している。約10年前、中国は南シナ海で最大となる海洋監視ネットワークを立ち上げた。中国海軍と多くの民間研究機関は、海底に係留された多数のブイと監視所を設置している。その密度は、米国や他の国々が運営する同様の施設よりもはるかに高いと中国の研究者は述べている。しかし、これらの固定施設は南シナ海全体をカバーすることはできず、メンテナンスに費用もかかる。偶発的または意図的な損傷を受けたものもある。
(4)中国海洋大学の海洋生物科学者、劉曉收は、Sea-Whale 2000の生物センサーは藻類の繁殖などの生態学的な問題に関するデータを収集できると述べた。彼は、他のセンサーによって収集された情報と合わせれば生物システムの進化をより大規模に再構築することができると言う。「自分の研究でこの技術が使用できることを願っている。新しい技術はその価値を証明するのに多くの時間を必要とするため、無人潜水艇の大規模な展開はすぐには起こらないかもしれない。自立型水中航走体によって収集されたデータは、他の方法によって収集されたデータと慎重に比較して、精度と品質を判定する必要がある」と劉曉收は述べている。
記事参照:Chinese scientists test underwater drone designed for South China Sea

11月9日「中国はホルムズ海峡の警戒監視活動を実施すべきか?-米専門家論説」(The National Interest, November 9, 2019)

 11月9日付の米隔月誌The National Interest電子版は、United States Naval War CollegeThe China Maritime Studies Institute教授Lyle J. Goldsteinの“Should China Police the Strait of Hormuz?”と題する論説を掲載し、ここでGoldsteinはペルシャ湾の緊張状況にかんがみ、中国海軍の同海域派遣の可能性が取りざたされているが、最終的には派遣が実施されるとしても中国は予想される紛争には直接的に関与せず賢く立ち回るであろうとして要旨以下のように述べている。
 (1)2019年、米国はイランとの間で危機的状況を何度も行きつ戻りつしている。何隻かのタンカーが攻撃を受け、6月には米国無人機がイランに撃墜されている。そして9月にはサウジの石油施設に対する攻撃が行われた。ワシントンの多くのタカ派はペンタゴンがそうした挑発に対しテヘランに壊滅的な教訓を与えるのを許可されていないことに立腹している。彼らは、世界中で米国への信頼性が揺らいでいると主張するのである。一方でハト派、非介入主義者は、米大統領が中東地域における新たな戦争を望んでいないことを歓迎している。彼らはシリアからの一部撤退を支持し、また、イランとの現在の緊張が米国の核合意離脱に起因するものであるということにも留意している。いずれにせよ、今般のイスラム国指導者Abu al-Baghadadi殺害は米国の「勝利」を宣言する絶好の機会となるかもしれない。
 (2)だが、こうした一連の動きの中で、米国の戦略家達は一部を除いて国際秩序の将来に係る重要な変曲点を見逃しているのかもしれない。6月下旬のペルシャ湾における危機に際し、米大統領は驚くほど率直な意見を述べた。「中国は原油の91%、日本は62%、その他の多くの国も同様にホルムズ海峡を経てこれを輸入している。それなのになぜ米国は何の補償もなく他国のシーレーンを防護するのか?これらの国家はすべて、自国の船舶を防護すべきである」と。このような声明は一見、中国に対しペルシャ湾への軍事力派遣を要求しているようにも受け止められかねないことから、Trump政権内の多数派であるドラゴンスレイヤー(抄訳者注:米国政界における反中派の比喩)の間でも混乱を生じている。一方で中国は、「ワールドパワーの聖杯から直接飲む」というこの魅力的な招待状により何を得るのであろうか? 詳細な分析が2019年夏の中国海軍誌「現代艦船」に「中国はホルムズ海峡の船舶護衛を実施すべき」と題する論説記事として掲載されている。
 (3)この記事はまず中国の原油輸入の91%がホルムズ海峡を経由しているとするTrumpの主張に異議を唱えている。同記事は中国の主要石油輸入先10カ国中の5カ国がペルシャ湾内に位置していることを認めつつも、実際の比率は約44%であり、むしろ日本は88%、韓国は82%であり中国より比率が高いと指摘している。また、同記事はホルムズ海峡を通過する船舶に対する暴力的事件により中国人船員が殺害され、あるいは重傷を負った事例を一覧表で示している。また、同海峡は沿岸国が容易に封鎖可能であり、そうなれば商船は通航出来なくなると分析、過去の同海域における紛争に際しては175隻の米海軍艦艇が配備されたが、通航船舶の保険料は3倍になったとも解説されている。
 (4)同記事によれば、多くの西側諸国専門家がホルムズ海峡への人民解放軍海軍の展開の可能性を指摘しており、一部は明らかに中国が同海域に海軍を派出するように「促している」として、米国の元情報当局者による「中国は対価を払わずに我々が提供する航行の安全を享受している」といった強い批判を引用されている。また、オーストラリアの研究報告を引用し、アデン湾における海賊対処作戦やジブチの基地にも言及しつつ、中国は「豊富な護衛作戦の経験を有する水上艦艇部隊を有している」とも指摘している。さらにホルムズ海峡における警戒監視活動の実施は「国際公益」のための活動として、「国際的な舞台におけるプレゼンスの発揮」という貴重な経験を中国にもたらすだろうと指摘されている。
 (5)一方で、同記事の筆者は「ホルムズ海峡における護衛作戦はそれほど単純なものではない」とし、これをアデン湾の海賊対処と比較して論ずるのは単純過ぎるとも指摘する。脆弱で対処が容易な海賊とは異なり、ホルムズ海峡における哨戒活動を実施する場合に想定される脅威が何かと言えば、最も深刻な要因はワシントンとテヘランの緊張ということである。著者はさらに「ホルムズ海峡で護衛作戦を実施する場合、湾岸諸国の一つ、あるいは複数の国家間での紛争が発生する可能性が高い」とも指摘している。中国海軍は最終的にはこの任務を受諾する可能性が高いが、それでも中国は米国の対イラン制裁を支持することも、イランの核計画を支持することもないだろうし、サウジアラビアとイランの紛争に巻き込まれることも避けたいであろう。確かにそうした紛争が勃発した場合に中国が軍艦の派出を検討する可能性も指摘されてはいるが、 しかし現状において北京はロシア及び中央アジアからのエネルギーの輸入を増加することでペルシャ湾への依存度を減少させることに概ね満足しているようだ。しかし同時に、中国は「海峡を支配しようとする域外の大国に抵抗し、その影響力を低下させるべき」という主張も行っている。
 (6)同記事によれば、中国はイランの軍事力が「急速に増加しつつある」と見なしているが、イランによるホルムズ海峡の封鎖の可能性は大きくないと見ているようだ。著者の主張は明確である。「中国は同地域への軍事介入を急いで行うべきではない」と。そしてこの著者は、同海域の海底地形や海況への精通など、平時からの準備について提言するとともに、北京政府に対しても、この世界で最も不安定な地域における危機に対応する「緊急警報」システムを設定するよう提言している。そのような点からして、少なくとも現状では中国は極めて賢く立ち回っており、この先の何十年かは中東の流砂に足を取られるようなことはないであろう。
記事参照:Should China Police the Strait of Hormuz?

11月9日「中国は南シナ海の緊張緩和のために欧州が学んだ教訓を活用することができるか―香港紙報道」(South China Morning Post, 9 Nov. 2019)

 11月9日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、 “Can Beijing use lessons learned by Europe to ease South China Sea tensions?”と題する記事を掲載し、「中国は南シナ海の緊張緩和のためEUに学びたい」とする中国の姿勢について、肯定的な意見がある一方、同じ解決法を使っても成功しないとする否定的見解があるとして要旨以下のように報じている。
(1) 2019年10月末、EUと中国の海洋安全保障専門家セミナーにおいて、中国南海研究院(以下、NISCSと言う)院長の呉士存 は、国際協力のメカニズムを確立したEUの成功は、中国が従うべきモデルを提供し得ると語った。彼は「EU及び欧州諸国は、海洋ガバナンスに関する成功事例を持ち、地中海、バルト海、北海、黒海で国際協力メカニズムを構築した豊富な経験を蓄積しており、中国はそこから学ぶことができる。」と述べた。NISCSとEUが共同で開催したこのイベントには、約40人の専門家と職員が参加した。
(2)中国は南シナ海の約90%の主権を主張しているが、資源が豊富なこの海域において複数の領土紛争が起きている。領土紛争に加えて、米国及びその他の国は、南シナ海での「航行の自由」作戦を強化した。NISCS 海洋経済研究所所長楊力は、EUが海洋環境の保護や漁業資源の保護などの問題をどのように処理したかも知りたいと語った。しかし、防衛・安全保障問題に関するフランスの主要なシンクタンクFoundation for Strategic Researchのアジアプログラムの責任者Valerie Niquetは、南シナ海の緊張を緩和するための最大の障害は中国と各国の間の信頼の欠如であるとして、「欧州の海洋紛争は制度的なメカニズムだけではなく、欧州諸国間で解決する意志があるからこそ解決できる。中国は海洋を含む領土問題を国家の中核的利益としている一方、各国が自国の主権の正当性を主張しているアジアでは状況が異なる」と彼女は述べている。
(3)スウェーデンのWorld Maritime Universityの海洋法と海洋政策の准教授Henning Jessenは、中国とそのライバルたちが既存のEUのメカニズムを適用することはできないと述べた。「EUは南シナ海の誠実な調停者として、そして絶え間ない政治対話と地域交渉がおそらく利用可能な最高の外交手段であるという事実の参考としてのみ行動できる。中国とASEANがすでに数年間議論してきている行動規範という考えがおそらく最善の方法である。これらの専門家の見解を出発点とし、そこから交渉を通じて政治レベルに変換することである。個人的な見解としては、これがこの地域の政治的緊張を緩和する最も有望なアプローチである」とJessenは言う。しかし、インドのJawaharlal Nehru UniversityのSchool of International Studies研究者Pooja Bhattは中国が海洋紛争の解決に関してEUから学ぶ意欲があるという呉士存の提案を歓迎すると述べた。「中国は海洋問題を共通の利益として受け入れ、隣国とパートナーとして協力し、国際紛争解決メカニズムにより多く参加しなければならない」と Bhattは述べている。
記事参照:Can Beijing use lessons learned by Europe to ease South China Sea tensions?

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Warmer, shorter winters have turned permafrost regions from carbon sink to source
https://www.arctictoday.com/warmer-shorter-winters-have-turned-permafrost-regions-from-carbon-sink-to-source/
Arctic Today, November 4, 2019
By Yereth Rosen, Independent journalist based Alaska
 11月4日、米ジャーナリストYereth Rosenは、環北極メディア協力組織Arctic Todayのウェブサイトに“Warmer, shorter winters have turned permafrost regions from carbon sink to source”と題する論説を寄稿した。彼女はこの記事の中で、①永久凍土は、人間がこれまでに生成した炭素よりも多くの炭素をその中に保持しており、長い間、その炭素は北極圏の冬の凍結に安全に閉じ込められていたが、新しい研究によると、もはやそうではない、②暖かくて短い北極の冬は夏季の生育期に吸収されるよりも多くの二酸化炭素を地域に放出し、地中の変化を引き起こしている、③温暖化は、北半球の約4分の1を占める永久凍土の領域を、地球規模の炭素吸収源から地球規模の炭素源に変換している、④永久凍土層とその上の活動層は、蓄積された植物や動物の分解物の形で固体炭素を保持するが、微生物がその固形物質を消費すると、微生物はそれをガス状の二酸化炭素に処理し、土壌が暖かいほど微生物は活発になる、⑤人間が生成した炭素の排出と地球の温暖化が続くことにより、温暖化した永久凍土からの二酸化炭素の排出が加速するだろう、⑥温暖化が進むと、永久凍土はより多くの二酸化炭素を放出し、人間の行動はそれが起こる程度に影響を与える、⑦北極圏は世界の海岸線の34%を保有しているが、その侵食が炭素循環に果たす役割は見落とされている、⑧北極の永久凍土の海岸に沿った環境変化の速いペースは沿岸領域において二酸化炭素の生成を促進及び増加させ、永久凍土の炭素循環を強化する可能性がある、などの主張を展開している。
 
(2) Being There Counts: Forward Naval Presence and a Theory of Influence
http://cimsec.org/being-there-counts-forward-naval-presence-and-a-theory-of-influence/42231
Center for International Maritime Security (CIMSEC), November 6, 2019
Captain R. Robinson (Robby) Harris, USN (ret.)
 11月6日、米海軍退役大佐のR. Robinson (Robby) Harrisは、米シンクタンクCenter for International Maritime Security (CIMSEC)のウェブサイトに、" Being There Counts: Forward Naval Presence and a Theory of Influence "と題する論説を発表した。この冒頭でHarrisは本稿の目的を、前方に展開する海軍力が陸上の出来事や関係者にどのような影響を及ぼすかについての理論的理解を構築することだと述べた上で「影響力」という概念について考察している。例えば、手段としての軍事的「影響力」は、政治的・経済的目的だけでなく、軍事的目的を達成するためにも使用されるが、同様に、政治的・経済的「影響力」が軍事目的達成に役立つこともある、などと指摘している。そして結論として、前線に展開する海軍力は、相手国のポジティブな行動に対する報酬の約束と、ネガティブな行動に対する罰の脅威という両方の影響力を行使する存在だと主張している。
 
(3) US-China Competition Will Heat up the South China Sea
https://thediplomat.com/2019/11/us-china-competition-will-heat-up-the-south-china-sea/
The Diplomat, November 08, 2016
By Wu Shicun, president and senior research fellow of China’s National Institute for South China Sea Studies
 11月8日、中国南海研究院の呉士存院長は、デジタル誌The Diplomatに" US-China Competition Will Heat up the South China Sea "と題する論説を発表した。ここで呉士存は米国の「インド太平洋戦略」の最大の関心事は、中米両国のシーパワーの均衡が中国に有利な方向に発展することを防ぐことであり、その戦略は、南シナ海を含む広大なインド太平洋地域における中国の影響力を弱め、米国の圧倒的な力の優位を維持することを目的としていると断言している。そして、「インド太平洋戦略」のために、中国と米国の同盟国・パートナー制度との間の争いはますます激しくなるだろうし、それがゆえに、南シナ海における安全保障の諸相は、中米という主要国間の競争へと発展しつつあると指摘している。そして最後にこの状況を打開する策として、まずは中国とASEAN諸国が安定的かつ効果的な制度整備にコミットすべきであり、南シナ海行動規範(COC)文書の協議を重要な機会と捉え、かつ、その際には、国際法の規定に基づく航行及び上空飛行の自由、地域の安全保障状況及び海洋権益の安定などに関する域外国と域内国との立場の違いを考慮しなければならないと述べている。