海洋安全保障情報旬報 2019年9月21日-9月30日

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9月21日「キリバスとの国交回復は中国の宇宙への野望を加速するか-香港紙報道」(South China Morning Post.com, September 21, 2019)

 9月21日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Could ties with Kiribati be a boost to China’s space ambitions?“と題する記事を掲載し、太平洋上の赤道を跨いで所在するキリバスが中国との国交を回復したことによって中国の宇宙への野望が加速されるとして、要旨以下のように報じている。
(1) キリバスが北京との外交関係を復活させたことで中国の宇宙への野望が高まった。キリバスを構成する島礁は赤道を挟んで広がっており、米国にとって重要なミサイル実験場のあるマーシャル群島の真南にある。
(2) その所在位置のため、キリバスは北京初の海外における宇宙追跡ステーションとなり、神舟載人航天飛行や北斗衛星導航系統で重要な役割を果たした。この中国航天測控場は1997年に南タラワ島に建設された。
(3) キリバスとの断交後、北京は宇宙ステーションから手を引いていたが、キリバスが台北との断交を発表し、追跡施設の基地として戻ってきた。北京はこの決定を「高く評価し」、キリバスを「中国と他の太平洋島嶼国家の関係に新たな1ページを開くファミリー」として歓迎すると述べている。「両国の関係に停滞はあったが、両国の人民は常に相手に対し好意を持っていた」と中国外交部報道官は言う。
(4) 中国は宇宙ステーションを建設し、2030年までに月に宇宙飛行士を着陸させる計画を持っているが、この任務には太平洋の赤道上を含む一連の追跡ステーションが必要である。元駐キリバス中国大使の王少華は、キリバスの基地がなければロケットと衛星を追尾し、制御するために、中国は衛星打ち上げの度に太平洋に追跡船を派遣しなければならず、この手法は陸上にある基地を使用する3倍の経費がかかると述べている。
(5)「キリバス大統領は米国がこの基地について懸念を示していると私に述べた」と王少華は2009年にオンライン上で述べている。王少華は、北京は繰り返し、この基地は軍事的な用途ではなく、「全くの平和目的」であるとキリバスに再保証しようとしてきたとも述べている。しかし、1999年にAFPの記者がキリバスの基地に入り、衛星追尾のアンテナが米軍の主要なミサイル基地のあるクェゼリン礁に指向して北に向いていることを報じたため、懸念は払拭されなかった。
(6) 台湾における米大使館に相当する米国在台協会は、キリバスが外交関係を台湾から中国に切り替えたことに深く失望したと述べている。
記事参照:Could ties with Kiribati be a boost to China’s space ambitions?

9月21日「歴史から考える米中衝突を避ける可能性―米専門家論説」(South China Morning Post, 21 Sep, 2019)

 9月21日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は米Columbia UniversitySaltzman Institute of War and Peace Studies研究員Gregory Mitrovichの“How China and the US can avoid going to war, as tensions rise over Xi Jinping’s naval ambitions”と題する論説を掲載し、ここでMitrovichは、過去の大国間関係と現在の米中関係を比較し、米国との衝突を避けるために中国は政策を変更する必要があるとして、要旨以下のように論じている。
(1)米中間の緊張は危険なレベルに達しており、米国ではDonald Trump大統領の対決政策を支持し、中国の影響力を制限するためのこれまで以上に積極的な戦略を求めて、中国に関する超党派のコンセンサスが現れた。歴史は戦争の可能性を示唆しているが、紛争が回避された例が1つある。それはパックスブリタニカの下での米国の大国としての勃興である。19世紀、米国は英国の支配、特に英海軍とその商業海運の優位性には挑戦することなく、大国に発展できることを認識していた。食物や原材料の輸入に依存している英国のような小さな国では、海洋を支配することでその生存を確保し、敵国の侵略または封鎖、ひいては英国を屈服させるという選択肢を封じた。米国では米英戦争の後、英海軍に挑戦することが可能な艦隊を築きたい「海軍主義派」と、海賊と戦うために設立される小規模な艦隊をその代わりに主張する「反海軍主義派」との間で激しい議論が起きた。10年にわたる議論の後、米国が海軍増強を強行した場合における英国の軍事攻撃という極めて現実的な懸念を利用することにより、反海軍主義派は勝利した。これは、米国の東海岸が英国の掌中に残ることを意味したが、米国は大きな脅威ではないと英国に結論づけさせることで19世紀の米国の平和的台頭を可能にした。
(2)中国は、台頭する大国と挑戦者の区別を長い間認識してきた。中国の政策が鄧小平の有名な「韜光養晦」という金言に従った結果、中国は世界第二位の経済大国として成長した。またそれは米国が中国の振る舞いを見逃すことを可能にした。権力を握った直後、習近平国家主席は「韜光養晦」を「奮発有為」という新しい戦略に置き換えた。1世紀以上前の帝国ドイツに不気味なほどに似たレトリックを使い、中国はその影響力を拡大し、西側の自由主義に挑戦するかもしれないと主張する。中国はまた、東アジアにおける米海軍の支配に異議を唱えるべく、大規模な海軍増強に乗り出している。米国は英海軍の支配に挑戦することを拒んだが、習と彼の提督たちは野心を表明し、米国の空母艦隊を沈めることを目的とした建艦プログラムと対艦ミサイルの展開を加速した。中国に対抗するため米海軍は新しい戦略、第三の相殺戦略を考案した。南シナ海でのエスカレーションの脅威だけが懸念事項ではない。2013年、中国と日本の部隊が尖閣諸島で対峙し、紛争に発展しそうになった。紛争が勃発した場合、1951年の国家間の相互安全保障条約に基づき、米国が関与することになる。多くのオブザーバーにとって、中国の政策は、第一次世界大戦に至った危機に拍車をかけたドイツの政策と不気味なほど似ており、かつ、それは拡大している。残念ながら中国の国内経済問題の増加と香港の将来に対する懸念の高まりにより、習が政策を緩和する可能性は低くなっている。
(3)これは戦争が避けられないことを意味するのか?そうではなく肯定的な面もある。この違いは重要である。
a. 米国は、生存を輸入に頼る小さな島国ではない。むしろ、それは大陸国家であり、食料とエネルギーを自給自足している。
b. 英国はその海岸から1300km以内で3つ大きなライバルに対峙したが、中国は米国の海岸線から1万500kmも離れている。
c. また、北京には、東アジア以外の地域で米国に対する重要な戦闘作戦を実行するための基礎インフラがない。
d. 英国とは異なり、米国には東アジアと世界の両方に同盟国があり、中国の自己主張の高まりを懸念する国々との関係を強化している。南シナ海で中国と対立しているベトナムなどの国々との連係は依然として中国の侵略に対する重要な抑止力である。
(4)もしも習近平がひそかに鄧正平や19世紀の米国の指導者たちのように緊迫した状況で成功した政策にひそかに戻ったとしても、帝国ドイツの破滅につながったような悲惨な戦争の恐れははるかに少ないと思われる。
記事参照:How China and the US can avoid going to war, as tensions rise over Xi Jinping’s naval ambitions 

9月23日「インド太平洋へ方向転換するカナダ―豪太平洋問題アナリスト論説」(The Interpreter, September 23, 2019)

 9月23日付の豪シンクタンクLowy Instituteが発行するウェブ誌The Interpreterは、太平洋・インド・カナダを専門とする豪アナリストGrant Wyethによる“Canada’s Indo-Pacific pivot”と題する論説を掲載し、ここでWyethは近年のカナダがその政策上の焦点を西に移しつつある事実とその背景、およびそれに対してオーストラリアがどう向き合うべきかについて、要旨以下のとおり述べている。 
(1)「海から海へ」をモットーとするカナダであるが、現実には、その外交的、軍事的、文化的、経済的焦点は北大西洋に向けられていた。それは、カナダにとって米国と欧州(特に英国とフランス)との関係がきわめて重要であったからである。
(2)しかしこの傾向に近年変化が見られつつあり、特にここ数ヵ月、インド太平洋地域におけるカナダのプレゼンスは増大している。それを端的に示すのが、2週間前、カナダ海軍のフリゲート艦HMCS Ottawaが、北朝鮮に対する制裁監視活動のあと、台湾海峡を通ってタイに向かったことに示されている。この動きは中国を刺激するものであるが、同時に中国の脅威をカナダは恐れていないことを示すものでもあった。7月にはHMCS Reginaが、南シナ海において日本との共同訓練を行い、ベトナムに寄港している。
(3)このようにカナダの外交的焦点の比重は太平洋に傾きつつあるが、それは国内の人口動態の変動や政治情勢によって刺激されたものでもある。カナダ西部諸州を基盤とするカナダ同盟と中道右派政党の合流によって2003年に保守党が誕生したが、同党の方針はカナダの重心を西側に移動させること、具体的にはトロントなどを擁する東部のオンタリオ州をアジア太平洋に利害関係を持つ州にすることであった。保守党の元党首Stephen Harperが首相を務めた時期、保守党は、トロント郊外に住むアジア系の有権者たちに訴えかけることで、この戦略を推し進めた(抄訳者注:その結果、2011年の総選挙において保守党はオンタリオ州で大勝した)。
(4)自由党は2015年の総選挙でオンタリオ州での優勢を取り戻したが、彼らは、カナダの重心が西へと傾きつつある現実に適応しなければならない。カナダの移民入国者数は年間33万人にのぼり、その多くがアジア系である。最大の受け入れ州はなおオンタリオ州であるが、近年アルバータ州やブリティッシュ・コロンビア州などの割合が増えている。アルバータ州の経済規模はケベック州を若干下回る程度にまで成長し、バンクーバーはカナダ最大の港湾都市になった。加国内の人の移動も、経済的機会を求めて西に向く傾向がある。TPPについても、当初それへの態度はあいまいであったが、いまや参加に積極的であるが、これは以上のような動向を反映したものであろう。
(5)冒頭で述べた最近の加海軍の行動は、インド太平洋地域の安全保障への関与を深める意図を反映しているように思われる。オーストラリアは、同地域におけるカナダのプレゼンス増大を前向きに捉えるべきであろう。カナダ国内の地理的・政治的バランスの変化を把握し、インド太平洋地域のパートナーとして協力関係を強化していくことは、オーストラリアにとって重要なことである。
記事参照:Canada’s Indo-Pacific pivot

9月24日「タイ『クラ運河』構想を巡る論議―シンガポール専門家論説」(The ISEAS –Yusof Ishak Institute, September 24, 2019)

 9月24日付のシンガポールThe ISEAS –Yusof Ishak Instituteウエブサイトは、同研究所の上席研究員Ian Storeyの “Thailand’s Perennial Kra Canal Project: Pros, Cons and Potential Game Changers”と題する長文の論説を掲載し、Ian Storeyは①クラ地峡を横断する運河建設を巡る賛否は何世紀もの間論議されてきた、②2014年のバンコクでのクーデター以降、運河賛成派は、事態を変える可能性がある3つの出来事―すなわち、新タイ国王の即位、中国の「一帯一路構想」(BRI)、そしてタイの20カ年国家戦略―に注目する、③しかし、Prayut首相は、複雑な国内状況、経済的及び地政学的要因を考慮して、運河構想に慎重に対応している、④結局、現在のところ、タイにおける政治的不安定、王室の支援の欠如、そして世界的な景気減速の故に、クラ運河建設は依然現実性に乏しいプロジェクトであるとして要旨以下のように述べている。
(1)クラ運河賛成派は、タイにとっての経済的、戦略的利益を指摘する。賛成派は、全長100キロの運河建設、そして港湾、工場や精油所といった関連産業インフラが、何万人にも及ぶタイ労働者の雇用を生み、経済を活性化し、そして長期的には、運河通航料による高額の定収入を生み出す、と主張する。軍事的に見れば、クラ運河は、有事におけるタイ海軍艦艇の迅速な海域移動を可能にするであろう。更に、クラ運河はインド洋から南シナ海への迅速かつ安価なルートとなり、益々混雑し、「海賊行為が多発する」マラッカ海峡に代わる迂回ルートとなろう。これに対して、反対派の主たる主張は、クラ運河が商業的に益しないということである。すなわち、海運会社は(特に原油価格が安い時に)2日から3日程度の航海日数を節約するために通航料などの追加料金を負担することに気が進まないであろうから、巨額の建設費は通航料収入からは回収できないであろう。この点で、数週間の航行日数が節約できる、スエズ運河やパナマ運河とは状況が異なる。戦略的利益に関して言えば、反対派は、タイはその隣国から如何なる脅迫にも直面しておらず、運河は国を2つに引き裂き、それによって最南部の分離主義者を勢いづかせるであろう、更には運河の所有権と運営を巡って必然的に大国間の抗争に巻き込まれるであろう、と主張する。
(2)2014年のクーデター以降、クラ運河建設提案は再び浮上した。今回、プロジェクト賛成派は、主として3つの理由から運河構想にとって好ましい環境にあるとしている。第1に、タイ王国は前国王の遺産を受け継ぐ必要がある新しい君主を迎えた。第2に、中国は、BRIの一環としてクラ運河プロジェクトのような、地域インフラ計画に投資することを熱望している。そして第3に、タイ政府は、グローバルな接続性イニシアティブの重要性を強調する、20カ年国家開発戦略を公表した。以下、この潜在的なゲームチェンジャーについて検討し、運河構想の将来を展望する。
(3)運河推進派である、The Thai-Chinese Culture and Economic Association(TCCEA)と、The Thai Canal Association for Study and Development(TCASD)は共に、運河建設を支持する、これまで言いふらされてきた理由―すなわち、運河建設はタイ経済にとって起爆剤となり、マラッカ海峡に代わるより短縮された、より安全な選択肢を運輸会社に提供する―を繰り返すも、運河建設支持派はまた、3つの潜在的なゲームチェンジャーがクラ運河をこれまでより実行可能な提言にしてきたことを示唆した。
a.第1に、タイの新国王の即位である。2016年12月、Vajiralongkorn 国王が Chakri 王朝第10代の王となった。クラ運河建設という王国の3世紀に及ぶ夢の実現は、特にもし運河の名称が新国王の名を冠するとすれば、新国王の遺産となろう。しかしながら、新国王はこれまで一度も運河プロジェクトに公に言及したことがないことから、運河プロジェクトが国王の個人的な支持を得られるかどうかは不確定である。もし国王が支持すれば、タイの支配層エリートは、運河プロジェクトをより真剣に受け止めることになるかもしれない。
b.第2に、中国の「一帯一路構想」(BRI)である。大陸東南アジアの中心にある地理的位置から、中国は、総額1兆ドルの世界的なインフラ建設計画において、タイを重要な結節点と見なしている。2014年のクーデター以降、Prayut政権は、BRI を強く支持してきた。しかしながら、タイにおける中国の最も注目されるBRI プロジェクト―高速鉄道(HSR)ネットワークは、資金調達、技術及び運用上の諸問題を巡る意見の相違によって、何度も計画が遅延してきた。国内的には、HSRは、資金超過、透明性の欠如、そして中国への過度の依存を招くとして、厳しい批判に晒されてきた。それにもかかわらず、TCCEA と TCASDは共に、中国のBRI が目指す6本の経済回廊の1つ、「中国インドシナ半島経済回廊」(the China-Indochina Peninsula Economic Corridor)の1部として、中国はクラ運河建設資金を調達する可能性を示唆してきた。クラ運河についての中国の見解は不透明である。北京は、公式に一度も運河を BRI プロジェクトとして売り込んだことはない。にもかかわらず、タイの多くのアナリスト達の見立てでは、北京は、運河建設を支持する中国企業を密かに後押ししている。
c.3つめの潜在的なゲームチェンジャーは、タイの20カ年国家開発戦略である。2017年憲法によって義務付けられ、The Office of the National Economic and Social Development Board(NESDB)によって2018年10月に公表された「国家戦略」は、2018年から2037年までのタイ王国の社会経済開発のビジョンを述べたものである。全ての政府の政策は国家戦略と一致しなくてはならず、そして上院はその履行を監視する。「国家戦略」は、タイと世界を連接する高品質のインフラを開発することを提案している。そこでは特にクラ地峡を横断する水路について言及していないが運河は高品質の連接性プロジェクトと見ることができる。TCASD はこの機を捉えて2017年12月にクラ運河建設提案をNESDB に提出した。
(4)クラ運河建設への新たな気運に対するPrayut 首相の対応は慎重であった。同首相は、それを支持もしなければ、拒絶もしなかった。Prayut首相の慎重な対応には、幾つかの要因が挙げられる。
a.第1に、首相は、この提案を退けることによって、産業界や軍部のかつての同僚を含む運河建設支持派を遠ざけることを望んでいない。
b.第2に、2014年以降、Prayut首相は、軍部による支配を固め、それに反対するものを排除する、新たな政治機構を構築することに力を入れてきた。2019年3月24日の総選挙は、このプロセスにおける集大成であった。従って、首相は、運河建設の賛否両論を評価する時間をほとんど持ってなかった。
c.第3に、そして最も重要なことに、Prayut 政権は、このような大規模で論議の多い建設プロジェクトを推進する前に、多くの複雑に絡み合った経済的、国内的そして地政学的要因を検討する必要がある。当然ながら、最も重要な問題は経済的要因で、如何にして運河建設資金を調達するのか、そして運河は経済的に有益なのか。中国への依存―例え、北京が200~300億ドルのメガプロジェクトを引き受ける用意があるとしても―は、HSR と中国製潜水艦の購入を巡る論議を考えれば、国内的には不評なものとなろう。もし運河建設提案に対する国内的支持を得るつもりなら、運河建設は、中国主導ではなく、タイの全面的なイニシアティブによるものと見なされなくてはならない。中国の BRI の一部としてのクラ運河は、「債務の罠外交」としてトランプ政権がBRIを批判していることから、タイの同盟国である米国から否定的な対応を招来することになろう。タイの戦略アナリスト達は、運河建設プロジェクトが19世紀の英仏の抗争に巻き込まれたと同様に、クラ運河も米中抗争の対象になるかもしれないことを懸念している。
(5)クラ運河の建設に対する賛否の論議は、再生産され続けるであろう。潜在的なゲームチェンジャーは、論議の文脈をほんの少しが少し変えただけで、決定的なものではなかった。もし運河プロジェクトが先に進むとしたら、それには国王の認可を必要とするであろうが、これまでのところVajiralongkorn 国王は、運河建設を支持する何の意向も示していない。中国資金による水路は、タイ国内では激しい論議の的となるであろうし、2014年のクーデターから回復し始めたばかりの米国との関係を後退させることになろう。運河建設を前進させる重要な要因は、国家戦略において、これが重要なインフラ計画であると確認されることであろう。しかしながら、Prayut政権は、政治的諸問題、国家予算の赤字の増大、そして世界経済が(既に劇的に船舶需要を減らしている)米中貿易戦争に起因する激しい逆風に直面していることなどに専念せざるを得ず、タイのクラ運河建設という夢を実現するために、政治的意志も、そして財源も、現在にところいずれも実現可能な状況にはない。
記事参照:Thailand’s Perennial Kra Canal Project: Pros, Cons and Potential Game Changers

9月25日「シンガポールは米国との基地協定を改定する―シンガポールジャーナリスト論説」(South China Morning Post, 25 Sep. 2019)

 9月25日付の香港英字日刊紙South China Morning電子版は、シンガポールを拠点とするジャーナリスト、Dewey Sim の “Singapore renews military bases pact with US amid deepening defence ties with China”と題する論説を掲載し、ここでSimは、シンガポールが中国との防衛関係を深化させつつある中、米国との基地協定を更新し、米軍は今後もシンガポールの基地を使用できることとなったとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米軍がシンガポールの海軍基地、空軍基地を使用することを許可する米国とシンガポール間の30年も続いた古い基地協定改定は、ワシントンがシンガポールを今後のアジア戦略の重要な部分と考えていることを示している。ある海洋問題専門家は、アジア太平洋地域での前方展開を強化しようとする米国の努力のなかで、1990年に結ばれた旧協定の改定は、中国にある種の警戒をもって見られる可能性が高いと述べた。シンガポールのLee Hsien Loong首相と米国のDonald Trump大統領は、2019年9月23日、シンガポールの施設使用に関する1990年の合意文書の改定に署名した。改定された協定に基づき、米国は2035年までシンガポールの海軍基地及び空軍基地施設を使用できることとなった。国連総会出席のため米国に滞在しているシンガポールのLee Hsien Loong首相は、ニューヨークでの署名後、協定は二国間の「防衛問題における非常に良い協力関係」を反映していると述べた。Trump大統領は、米国はシンガポールとその指導者と「特別な関係」を持っていると述べた。
(2) シンガポールの海軍専門家であるCollin Kohは、この合意により米国がシンガポールを「主要な安全保障パートナー」と見なしていることを示したと述べた。強力な軍事関係にもかかわらず、両国はお互いを「同盟国」とは呼んではいない。また、シンガポール防衛当局もシンガポールの米国施設を「米軍基地」とは呼んでいない。原子力潜水艦や空母機動部隊などの米国海軍艦艇は、西太平洋における米海軍の燃料補給と補給の拠点として機能するシンガポールのチャンギ海軍基地に頻繁に訪れている。軍事オブザーバーによると、シンガポールは米国が定期的に「航行の自由作戦」を行っている紛争中の南シナ海への米軍の重要な出発点として機能していると見ている。Collin Kohは、Trump政権は大西洋よりアジアに米軍の前方展開部隊を集中させることを目指したObama前大統領の基本的な考え方である「アジア回帰」戦略の上に築きつつあると語った。シンガポールの初代首相 Lee Kuan Yewの任期中の1990年に、シンガポールが初めて米軍の受け入れに合意したとき、東南アジアの隣国から懸念があったが、これらの国々がこの地域に米軍が存在することの価値を彼らも認めたため、その懸念はなくなったとCollin Kohは述べている。シンガポールは、フィリピンのスービック湾海軍基地とクラーク空軍基地が閉鎖された直後から西太平洋における米軍の兵站支援の役割を引き受けている。
(3) International Institute for Strategic Studiesの上級研究員William Choongは、協定の更新はシンガポールと米国の安定化の願望を反映していると語った。米国にとって、この協定は東南アジアの「非常に重要なハブ」への継続的なアクセスを認めたもので、1990年代に米国がフィリピンの基地を放棄した後、さらに重要になったと述べた。一方、シンガポールや他の貿易依存国は、米国の存在が輸送ルートの安全を保証してくれるという利益を得て、中国もシンガポールの立場を理解するだろうとWilliam Choongは述べている。「(中国人は)必ずしもそれに同意するとは思わないが、シンガポールにはこれらの米海軍艦艇が存在しているという事実に慣れてきたと思う。中国人はこれを前向きに見ないだろうが、戦火が燃え上がるとは思わない。これは事態の自然ななりゆきである」と彼は言った。
(4) シンガポールは、長い間、米国との強力な戦略的、経済的関係はアジアの隣国(中国)に対抗して米国に味方していることを意味するものではないと主張してきた。2019年5月、シンガポールと中国の国防相は軍事関係を深めるための「実質的なプログラム」に同意した。両国は2018年に同様の演習を実施した後、2020年に2回目の合同海軍訓練を開催する予定である。
記事参照:Singapore renews military bases pact with US amid deepening defence ties with China

9月26日「国連気候変動に関する政府間パネルの新しい報告書が北極圏の融氷による海洋、氷域、地球への影響の劇的な変化を詳述―フリージャーナリスト論説」(Arctic Today, September 26, 2019)

 9月26日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウェブサイトは、フリージャーナリストYereth Rosenの“A new IPCC report details sweeping changes to oceans, ice and the global impacts of Arctic melt“と題する論説を掲載し、ここでRosenは国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、以下IPCSSと言う)による新しい評価レポートを受けて、要旨以下のように述べている。
(1) 急速な気温上昇や北極の融氷が地球の海洋システムに大きく影響を及ぼしているとのIPCSSレポートは、人類起因の炭酸ガス排出による温暖化が北極では他の地域に比して2倍の速度で進んでおり、それが地球全体の気候に大きな影響を与えていると述べている。今回のレポートは地球の最も高い山岳域や最も深い深海域での調査も踏まえたものであり、温暖化の影響がそれらの地域・海域にも現れているとし、二酸化炭素と熱を吸収してきた海洋が飽和状態となり、既に吸収できなくなっているとも述べている。中でも、北極海の融氷がこの1000年間で前例がない速度で進んでいることに警戒を呼び掛けている。2015年のパリ協定が目指す目標値が達成されたとしても、今世紀終わりには北極海は氷がない世界となっていると予測している。仮に温暖化が現在の速度で進めば、今世紀半ばには北極海の氷は9月には無くなっていると警告する。
(2) グリーンランド、南極、北極や山岳地帯の氷河の融解は海面上昇を加速していると述べている。20世紀には海面が15センチ上昇したが、現在は年間3.6ミリ上昇を続けており、たとえ温室効果ガスの排出が減少したとしても今世紀末には海面が30~60センチ上昇し、もし温室効果ガスの放出が現在のままであればその2倍の海面上昇が予測される。地球全体に大きな影響を及ぼすであろう北極圏では、永久凍土の温度が記録的に高くなっており、今世紀末にはすべて溶解すると予測されている。グリーンランドでは、氷床が大きく減少しており、産業革命以前の40%になっているとされる。北極圏全体では、降水量が増加しており淡水の海洋への流入により海洋システムに変化を及ぼすことが予測されている。大西洋温帯域に生息するサバが北極海方面に移動し、タラはバレンツ海の北側に移動する兆候が認められている。海中温度上昇は海洋生物に真菌感染症を蔓延させることも危惧されている。海洋の酸性化は大気中の二酸化炭素吸収が要因の1つであり、また、海洋潮流循環の変化もまた北極圏の融氷による淡水化と海中温度上昇が遠因となっていることが指摘されている。海洋以外の陸上への影響も明らかにされた。温暖化によって北極域の先住民の間に病気が広がるリスクが指摘され、対策の必要性が提唱されている。また、パリ議定書で求められる二酸化炭素の排出量が達成されず、現在の状態が続くと、北極圏の南に位置するアラスカの氷河の融解は現在の2倍の速度で進むだろうと予測されている。
記事参照:A new IPCC report details sweeping changes to oceans, ice and the global impacts of Arctic melt

9月27日「アイスランドへの軍艦派遣が示唆する米海軍の北極海への関与強化――米北極専門家論説」(High North News, September 27, 2019)

 9月27日付の、ノルウェー国立NORD UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North Newsの電子版は、米シンクタンクThe Arctic Institute上級研究員Malte Humpertの“U.S. Navy Steps Up Arctic Engagement, Sends Cruiser and Destroyers to Iceland”と題する論説を掲載し、ここでHumpertは、9月初めの米海軍艦船のアイスランド派遣と、米海軍の北極海への関与強化の関係について、要旨以下のとおり述べている。
(1)9月初め、米海軍は4隻の軍艦をアイスランドに派遣した。その部隊は目的地に到着すると、SAG(抄訳者注:Surface Action Group、空母を含まない水上艦艇からなる部隊)を結成した。この部隊は、ロシアの脅威に対抗するために活動を再開した第2艦隊の一部である。第2艦隊の幕僚約30名は、アイスランドのケフラヴィクに、臨時海上作戦センターを創設した。同センターはSAGの活動と連携することになろう。
(2)近年米国は、北極海におけるロシアや中国の脅威を強調してきたが、具体的な行動を伴うものではなかった。その意味で今回のアイスランドへの艦隊派遣は、ようやく米国が北極海におけるプレゼンス増大に向けて具体的に動き出したことの表れといえる。退役海軍准将David Titleyは、「北極海はこれから数年、あるいは数十年先まで、ますます戦略的な水路になっていくということを、米海軍将校も理解するようになるだろう」と、アイスランドへの艦隊派遣について肯定的にコメントした。
(3)米国は、北極海における海上活動の経験を決定的に欠いてきた。それと同時に、北極海における活動を可能にするような補給や医療支援のためのインフラ設備もまったく十分ではない。今回の艦隊派遣は、そうしたこれまでの欠点を補うものになるであろう。「アイスランドは重要な同盟国である……アイスランドからの作戦活動はわれわれのパートナーシップを強化すると同時に、遠方での作戦のための訓練の実施を可能にする」と、第2艦隊司令官Andrew Lewisは述べている。
(4)2019年6月に米海軍は北極戦略概観を発表したが、多くの専門家は、その文書に具体性や本当の意味でのコミットメントの欠如を見た。米海軍は砕氷能力に関しては沿岸警備隊に依存してきたが、気候変動によって北極海での活動が容易になりつつある現在、米海軍は北極海での作戦をいかに行いうるかについて研究をしてきた。そうした研究によれば、現在アイスランド周辺で活動するBurke級駆逐艦については、比較的軽微なアイス・コンディションで行動できるようにアップグレードが可能だという。こうした研究もまた、北極海でのプレゼンス増大に向けた具体的な動きの表れと言えよう。
記事参照:U.S. Navy Steps Up Arctic Engagement, Sends Cruiser and Destroyers to Iceland

9月27日「インド洋におけるオーストラリアの戦略的重要性―米専門家論説」(The Interpreter, September 27, 2019)

 9月27日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、米シンクタンクCenter for Naval Analyses(CAN)のStrategy and Policy Analysis programディレクターであるNilanthi Samaranayakeの“A US view on Australia’s role in the Indian Ocean”と題する論説を掲載し、ここでSamaranayakeは米国の西太平洋以外での戦略においてオーストラリアの果たす役割の重要性について、要旨以下のように述べている。
(1)インド洋の管理に対するキャンベラの外交的、法的及び軍事的アプローチは、米国の利益にとって不可欠である。オーストラリアは、インド洋の戦略的安定性を維持する上で重要な役割を果たしており、経済、外交、防衛及び情報の問題において米国の最も親密な同盟国の1つである。キャンベラは、「インド太平洋」概念の公式化における思想的リーダーだった。しかし、米国の政策の焦点がアジア太平洋からインド太平洋に移行したとしても、米国の地域の優先度は西太平洋にしっかりと定着したままである。その結果、ワシントンにとって、インド洋地域の管理にアプローチする方法に関してオーストラリアが戦略的思考のリーダーである必要がある。
(2)Barack Obama前大統領のアジアへのリバランスとDonald Trump政権下での大国間競争への回帰にもかかわらず、ワシントンは中東に外交政策の重要な関心を注ぎ続け、そしてホルムズ海峡における航行の自由に対する脅威を管理しなくてはならない。バーレーンは西インド洋での海軍作戦の重要な拠点を提供する。ディエゴ・ガルシアの基地はインド洋における米国の兵站支援の中心である。モーリシャスの法的、外交的な運動の成功が高まっているにもかかわらず、チャゴス諸島の英国の主権に対する米国による容認は、インド洋でのプレゼンスを維持するという継続的な米国の決意を示している。
(3)オーストラリア大陸は太平洋とインド洋の間に位置しているため、両地域に直接利害関係をもっている。その結果、インド太平洋地域のインド洋地域の管理に対するキャンベラの外交的、法的及び軍事的アプローチは、米国の利益にとって引き続き重要である。3つの明確な例がある。
a. 第1に、米国の国際法の解釈に対するオーストラリアの支援である。特に、オーストラリアが、英国がチャゴス諸島を離れる必要があるという国際司法裁判所の勧告的意見を支持する2019年5月の国連総会決議の拒否である。フランスやドイツのような多くの米国の同盟国はこの決議を棄権し、国連での投票は圧倒的に英国に反対し、賛成が116票であったのに対し、反対はたったの6票であった。
b. 第2に、オーストラリアのインド洋での軍事作戦は、地域の安定を確保するという米国の目標を推進する。インド洋西部では、オーストラリアは、海賊対策及びテロ対策タスクフォースに参加し、それを指揮した共同海洋部隊のメンバーである。キャンベラは、ホルムズ海峡における商船の安全な航行を確保するための新しい任務への貢献に同意することにより、ワシントンへ重要な支援を行った。
c. 最後に、オーストラリアは環インド洋連合(以下、IORAと言う)やインド洋海軍シンポジウム(以下、IONSと言う)のような地域機構を推進するためにその大きな役割を生かしている。IORAの対話パートナーであり、IOSでオブザーバーの地位さえない米国は、これらの各機関での立場の限界を理解している。したがって、地域アーキテクチャへの参加におけるオーストラリアの役割は、自由で開かれた地域という米国のビジョンを促進するために重要である。米国は、地域の安定を維持するための支援について、オーストラリアとの条約同盟に引き続き依存するだろう。
(4)新たな問題は南極であり、オーストラリアは特に中国の高まる要求に関して、近くの南極海において今後の安全保障問題の概念化について積極的な役割を果たしている。西太平洋以外の区域でこの戦略的役割を果たし続けているオーストラリアは、インド洋及びその他における安定という米国の目標を推進している。
記事参照:A US view on Australia’s role in the Indian Ocean

9月27日「南シナ海の特定の海域で公然とAIS信号を発信する中国海警:主権の主張か?-香港紙報道」(South China Morning Post, 27 Sep. 2019)

 9月27日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Chinese coastguard ships ‘deliberately visible in South China Sea to assert sovereignty’”と題する記事を掲載し、中国海警船舶が南シナ海のルコニア礁、セカンド・トーマス礁、スカボロー礁周辺海域においてのみ公然とAIS信号を発信しているが、これは競合する他の国の漁船等を排除し、中国の規制に従わせ、中国の主権を主張するためであるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 南シナ海に展開する中国の海警の一部は計画的に自動船舶識別装置(以下、AISと言う)の追跡信号を活性化することで自らを可視化していることについて、その動きを分析している専門家は、これを中国がその主権を主張する試みと捉えている。CSISのAsia Maritime Transparency Initiative(以下、AMTIと言う)が発表した報告書は14隻の海警船舶が過去1年以上にわたってルコニア礁、セカンド・トーマス礁、スカボロー礁を哨戒しつつAISの信号を発信していることを確認したとしている。
(2) 軍艦あるいは法執行機関の公船はAIS信号をいつどこで発信するかは自由裁量に任されている。AMTIはこれに付け加えて、南シナ海の他の海域を哨戒する中国海警は出入港の時だけAISの信号を発信していると言う。しかし、前述の3つの海域を哨戒する海警はまるで発見されるよう務めているようにも見受けられる。ルコニア礁での1隻は365日のうち258日間AISの信号を発信しており、セカンド・トーマス礁では215日、スカボロー礁では162日である。
(3)「中国海警の展開は永続的であり、中国が領有権について対立している国々にその展開を知っていてほしいと明確に望んでいる他の海域ではそのようなことは起こっていない。北京はルコニア礁、セカンド・トーマス礁、スカボロー礁に特に関心を持っており、もし中国海警が十分な期間、半恒久的な展開を維持できれば地域の国々が中国によるこれらの海域の実質的支配に同意するということに賭けているようにも見える。スカボロー礁では議論の余地はあるかもしれないが、既にそれが達成されており、ルコニア礁、セカンド・トーマス礁でこの戦略が成功すれば、他の島礁を跨いで拡大する中国の支配への説得力のある設計図となるだろう」と報告書は述べている。
(4) 中国海警の展開によって、中国は恒久的な施設を持っていないが、主権を主張している海域において目に見える展開を創出することができるようになった。ルコニア礁等3つの海域を哨戒する海警は重武装しておらず、放水銃と小火器だけであるが、南シナ海で権利を主張する対立する国の法執行船あるいは海軍艦艇よりも大型である。「この事実は中国海警に強力な部隊を使用せずに衝突すると脅し、あるいは要すれば体当たりをして他国の船舶を追い払うという作戦をちらつかせている」とAMTIの報告誌は指摘している。石油が豊富な南シナ海を巡って中国と隣国との緊張は高まってきている。中国海警の大規模な部隊が調査船を護衛した。このことは海警が南沙諸島に中国が建設した港湾に出入りしていることを示している。
(5) シンガポールのS Rajaratnam School of International StudiesのMaritime Security Programmeの研究員Collin Kohは、海警を可視化するのは管轄権に基づく支配を誇示してみせることであると述べている。中国海警がその海域にあってAIS信号を公然と発信しているという単なる事実は非国家行為主体、特に旗国政府の開示期間から効果的な保護を享受あるいは期待できない排他的経済水域で操業する他国の漁民を排除する効果を持つかもしれない。AIS信号を公然と発信することは確かに権利を主張している他の国の漁船を排除するか、それら漁船を中国の規制に従わせる効果がある」Collin Kohは言う。
記事参照:Chinese coastguard ships ‘deliberately visible in South China Sea to assert sovereignty’

9月30日「アフリカにおける中国の「一帯一路(BRI)」に基づくインフラプロジェクトの理解-米シンクタンク報告書」(The Brookings Institution, September 30, 2019)

 9月30日付の米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトは同所主任研究員David Dollarの“Understanding China’s Belt and Road infrastructure projects in Africa”と題する報告書を掲載し、同報告書のEXECUTIVE SUMMARYにおいてDollarはアフリカにおける中国の「一帯一路(BRI)」に基づくインフラプロジェクトの実態を単純化して理解するのは困難であるとしつつ、西側先進諸国は国際通貨基金や世界銀行を通じアフリカのインフラプロジェクトを支援することがより望ましいとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2013年、習近平国家主席は中央アジアとヨーロッパを跨ぐ「シルクロード経済ベルト」と南シナ海とインド洋から中東、ヨーロッパをつなぐ「21世紀海上シルクロード」の創設を提案、北京はこれらの2つのビジョンをまとめて「一帯一路」(以下、BRIと言う)と名付けた。これは一見、地域的な経済回廊を対象としているように見受けられるが、実際にはグローバルな経済的、戦略的利益に動機付けられている。中国は BRIによって過剰な資産と建設能力をより効率的に活用し、貿易を拡大し、関係国との経済および外交関係を強化し、米国が支配するルートを迂回する経済回廊を通じて中国のエネルギーその他の資源輸入の多様化を企図しているのである。
(2) BRIは特に発展途上国で注目されている。これら途上国はインフラストラクチャの不足とそれを克服するためのリソース不足に直面しているが、BRIは様々なセクターによるインフラ構築のための大規模な融資を通じ、そうしたギャップを埋め、経済成長を促進することで、これら諸国に大きな利益をもたらす可能性がある。一方でBRIは、先進工業国からは融資条件が開発途上国における新たな債務危機を引き起こしていること、また、開発プロジェクトの環境的、社会的な保護手段が不十分であることなど、さまざまな批判も受けている。
(3) この報告書は入手可能な情報からアフリカ諸国におけるBRIのインフラストラクチャプロジェクトの実態を検証し、アフリカにおけるBRIの実績は非常に不均一であると結論付けている。主要債務国の中には持続可能性の問題を抱えている国もあれば、中国の融資を健全なマクロ経済プログラムへの統合に成功した国もある。 また、これらの債務国の一部には人権への考慮が乏しい独裁的な国もあるが、大部分は民主的国家である。 したがって、アフリカのBRIについて単純な一般化をすることは困難であるが、これらのプロジェクトがよりうまく機能するよう、西側先進諸国がBRIのレトリックを緩和するように対応することが賢明である。西側諸国が国際通貨基金により多くの支援を提供し、これらの債務国が借入を的確に管理するのを助け、世界銀行がより多くのインフラ資金を提供してアフリカの発展途上国の選択肢を増やすことは、これら諸国にとっても大いに助けになるであろう。
記事参照:Understanding China’s Belt and Road infrastructure projects in Africa
Full Report:
https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2019/09/FP_20190930_china_bri_dollar.pdf

9月30日「中国は無人潜水艇によって対潜能力を向上させている―香港紙報道」(South China Morning Post, 30 Sep, 2019)

 9月30日付の香港英字日刊紙South China Morning電子版は、“Glimpse of underwater drone ‘signals China is ramping up anti-submarine powers’”と題する記事を掲載し、中国は無人潜水艇(UUV)によって対潜能力を向上させているとして要旨以下のように報じている。
(1) 中国建国記念日の軍事パレードのリハーサルで撮影された潜水艇は、中国海軍が対潜水艦戦能力を向上させていることを示している。リハーサル中に、無人潜水艇(UUV)が6輪の運搬車両の上で海軍迷彩の布で覆われているのが見られた。他の多くのUUVと同様に、このUUVも魚雷型の胴体と尾翼を備えているが、直径は約1メートル(3.2フィート)、長さは5メートルを超える。中国当局はこの兵器についてコメントしていないが、軍事専門家は、全般的な海洋データの収集と水中の軍事情報収集のための潜水艇になる可能性があると述べた。「用途は、米国の超大型UUVに似ている」と、ある軍事アナリストは言う。米海軍は2019年、ボーイング社にディーゼル電気推進の超大型UUV Orcaを発注した。それは、長さ15.5メートルで中国のUUVの3倍である。この超大型UUVは、数千マイルを超えて自立航行が可能で、魚雷などの武器専用搭載区画を備え、対機雷戦、対潜戦、対水上艦戦、電子戦などの任務を実行するように設計されている。
(2) 軍事アナリストによると中国のUUVはこれより攻撃能力が小さい可能性があるとの意見もある。しかし、シンガポールのRajaratnam School of International StudiesのMaritime Security Programme 研究員Collin Kohによると、この大型UUVの開発は、中国が対潜水艦戦能力の発展に多くの注意を払っていることを意味している。「この兵器は、中国にとっての敵である米国海軍や、東シナ海や南シナ海などの中国沿岸近くの海域での同盟国の水中の活動への大きな脅威となる可能性がある」とCollin Kohは述べている。このような大型UUVは長期にわたる対潜水艦監視や、より攻撃的な意味を持つ遠海での情報収集活動に使用できるとも述べた。
(3) 中国は、海洋研究、海底地形、海洋科学などの分野でも無人潜水艇の能力を向上させている。7000メートル以上潜ることができる有人潜水艇「蚊竜」も建造した。
記事参照:Glimpse of underwater drone ‘signals China is ramping up anti-submarine powers’

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Sihanoukville’s big gamble: the sleepy beach town in Cambodia that bet its future on Chinese money
https://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/3025262/sihanoukvilles-big-gamble-sleepy-beach-town-bet-its-future
South China Morning Post.com, September 24, 2019
 9月24日付の香港英字日刊紙South China Morning電子版は、“Sihanoukville’s big gamble: the sleepy beach town in Cambodia that bet its future on Chinese money”と題する論説を掲載した。この記事では、①カンボジアのシアヌークビルは、かつて漁村と観光の街だったが現在は中国の都市のようになり、開発の大部分はチャイナ・マネーによって推進されたホテルやカジノを含む巨大な建設現場が多数ある、②政府は中国からの外国投資を求め、中国人は3年前の移民規則の緩和により、そのコミュニティはカンボジア人と同数である8万人に増加している、③この都市では、違法な賭博、売春及び麻薬密売が蔓延し、中国の建設工事の品質と安全性に対する反発が生じ、家賃上昇は最貧層をこの都市から追い出し、建設ブームは深刻な環境悪化にもつながっている、④カンボジアでのギャンブルは違法であるため、市内に建設された膨大な数のカジノのうち48カ所は中国人が運営し、すべてが外国人を対象としており大きな社会問題になっている、⑤2月に世界的な監視機関である「マネーロンダリングに関する金融活動作業部会」(Financial Action Task Force on Money Laundering)は、マネーロンダリング及びテロ資金供与と戦う能力の「戦略的欠陥」を認定した後、カンボジアを監視リストに載せた、⑥製造業者は、カジノに労働者が集まるため、人手不足である、⑦中国はカンボジアの最大の投資国であり、2016年の36億米ドルの外国からの投資の30%を占めている、⑧一部の地元の人々はチャイナ・マネーの流入を受け入れているが、当局は大きな建物とビジネスについてだけ考えており、貧しい人々が無視されている、といった内容が述べられている。
 
(2) Taiwan: Select Political and Security Issues
https://fas.org/sgp/crs/row/IF10275.pdf
Congressional Research Service, September 26, 2019
Susan V. Lawrence, CRS
 9月26日、米Congressional Research ServiceのSusan V. Lawrenceは、同ウェブサイト上に、" Taiwan: Select Political and Security Issues "と題する論説記事を発表した。ここでLawrenceは、Trump政権の対台湾政策を取り上げ、歴代政権と同様にTrump大統領も基本的に「一つの中国」という考えに従って行動しているが、台湾への武器売却など強硬な立場を見せており、これに対して中国の習近平政権は南洋諸島の国などとの外交関係樹立で圧力をかけるといった応酬が続いていると解説している。
 
(3) U.S. Military Forces in FY 2020: The Strategic and Budget Context
https://csis-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/190930_Cancian_FY2020_v3.pdf
The Center for Strategic and International Studies (CSIS), September 30, 2019
Mark F. Cancian (Colonel, USMCR, ret.), a senior adviser with the International Security Program at the Center for Strategic and International Studies in Washington, D.C.
 9月30日、米Center for Strategic and International Studies(CSIS)のMark F. Cancianは、同ウェブサイト上に、" U.S. Military Forces in FY 2020: The Strategic and Budget Context "と題する論説記事を発表した。その中では米国の国防予算などについて以下のとおり分析が行われている。
 2020年度予算案では、米軍を大国間での競争に重点を置いた国防戦略(NDS:National Defense Strategy)に整合させるため、国防費の増額が続けられている。この戦略では、単なる物量よりも能力の面に重点が置かれている。このため、2020年度予算案では中国やロシアに対抗するための軍近代化を優先しており、2017年度から2019年度までの予算で達成された高い即応性レベルを堅持している。しかし、それはパワーバランスをわずかに変化させるだけである。やはり、防衛力整備にも限界があり、何某かのトレードオフが生じてしまう。他方、継続的な紛争、危機対応、同盟国の安全保障問題への関与のための米軍の日々の作戦は、依然として米軍に高い需要をもたらしている。このような、絶え間ない運用上の要求には戦力の再構成が必要である。現在のNDSは、米国内でも広く支持されているものの、資金不足や攻撃的すぎるとの批判があり、また、2020年度予算案はNDSと整合するための十分な修正を行っていないとの批判もある。また、将来的には、戦力計画を維持する上で、①将来的にも国防予算が実質的には伸びない、②国民の支持がややゆるんでくる、などといったことが想定される。2018年版NDSの方針は明確であるが、実際には、現実的な危機への対応、旧来からの資金投入のマンネリズム、新しい能力の開発に必要な長いスケジュール、などに直面するため、実際には同方針を実施することは困難である。このように、今回の予算案はJames Mattis国防長官が2017年に述べた国防予算の優先事項を継続するものの、妥協の必要性と格闘している。
 特に、国家間の力の関係を少し変更するという戦略に関しては、これは、予算を一定の分野に集中させるという意識的な調整を行うことを意味する。しかし、中東および東欧で継続中の作戦、パートナーや同盟国を支援するための世界的なプレゼンス、および北朝鮮、イラン、ベネズエラなどの脅威に対する危機対応を維持するため、米国では日々の高い軍事力需要が続いている。こうした安全保障上の緊張は、即応性、近代化、戦力構成の間のトレードオフから逃れることはできないことを示している。すべて強化できることが望ましいがそうはいかない。理想的な世界では、軍隊は非常に即応性が高く、完全に近代化され、大規模であり、戦闘の急増と日々の展開の両方の需要を満たすことができる。しかし、予算の大幅な増額にも限界があり、そのためには量なのか能力なのかという選択肢が必要となる。Trump政権は、少なくとも理論的には、以前のオバマ政権と同様に能力を選択している。
 2011年の予算管理法では、2021年にまでの10年間の予算の上限が定められた。最新の予算案には2021年も含まれているため、同法の上限はついに取り除かれることになる。この上限は、財政赤字タカ派が強力で、国民が債務の増加を懸念していた時期に設定されたものである。現在では、財政赤字タカ派の影響力ははるかに小さい。大統領、上院の共和党議員、下院の民主党議員はみな、財政赤字を懸念するよりも、自分たちの関心ある(防衛など)事業への資金提供を重視することを明らかにしている。ただし、多くの評論家は、これは長期的に持続可能ではないと指摘しており、実際、議会予算局の予測は、財政赤字と債務の増加を示している、しかし、国家として、アメリカは今、政府支出の恩恵を受け、この問題を私たちの子供たちや孫たちに手渡すことに決めた。