海洋安全保障情報旬報 2019年9月11日-9月20日

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9月11日「北極圏航路全体でマイクロプラスチックが発見-ノルウェー紙報道」(High North News, Sep 11 2019)

 9月11日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWS電子版は、“Scientists Found Microplastics Along the Entire Northern Sea Rout”と題する記事を掲載し、北極海航路全体でマイクロプラスチックごみが発見されたとして、要旨以下のように報じている。
(1) 9月9日の週のロシアの新聞イズベスチアは、Transarktika 2019海洋調査の結果について報告している。2019年8月25日に科学調査船Professor Multanovskiyは、ウラジオストクから北極海航路を通り、9月8日にムルマンスクに到着した。航海全体を通じてボトル、包装袋、その他のプラスチック廃棄物などの捨てられたごみが海面で発見された。科学者たちが心配しているのは、マイクロプラスチックが発見されたことである。バレンツ海だけでなくカラ海においてもマイクロプラスチックの大きな堆積が発見された。マイクロプラスチックとは、大きさが1〜5ミリメートルのプラスチックごみである。「多数のサンプルを取り、船の実験室で調べた。主にバレンツ海とカラ海でさまざまな大きさのマイクロプラスチックを発見した。しかし、我々はまだ特定の数字をあげることはできない」とRussian State Medical University,Institute of Ecology and Biological Resources准教授のAlexandr Yershovはイズベスチヤに語った。調査の結果は約2か月後に完成する予定である。北極海航路全域でマイクロプラスチックのサンプルが採取されたのはこれが初めてである。したがって、最終的な研究結果では、世界で最もアクセスしにくい海域のいくつかが、海洋のマイクロプラスチックというグローバルな問題についてどのような影響を受けているのかについて、重要な情報が得られる可能性がある。
(2) 北東航路とも呼ばれる北極海航路は、ロシアの北方を通過するヨーロッパとアジアを結ぶ航路の名前であり、長さは約5,500キロメートルである。北極海航路を使用すると、ヨーロッパからアジアへの航海が2週間短縮することができるが、年間で航海できる期間は2〜4か月に制限されている。航路の一部では砕氷船の助けが必要である。航路全体は北極圏に位置し、ロシアの排他的経済水域内にある。気候変動と氷の融解により、北極海航路は以前よりも通航し易くなった。イズベスチヤによると、2018年に2,000万トンの貨物が北極海航路を経由して輸送され、これは今までで最高の記録である。
(3) Yershovは、調査で見つかった海洋汚染は、北極海航路を航行する船から船外に投げ捨てられたボトルやごみによるものだと言う。ごみは、オホーツク海、ベーリング海峡近くのチュクトスキー海及びバレンツ海で最も多く発見されていた。
記事参照:Scientists Found Microplastics Along the Entire Northern Sea Rout

9月12日「『海洋状況把握』に関するインドの支援、スリランカにとって必要か―スリランカ専門家論説」(The Diplomat.com, September 12, 2019)

 9月12日付のデジタル誌The Diplomaは、スリランカのシンクタンクThe Regional Centre for Strategic Studiesの研究員Natasha Fernandoの “India’s Reach in Maritime Domain Awareness: A Hit or Miss for Sri Lanka?”と題する論説を掲載し、ここでFernandoはインドのインド洋地域における覇権的野心を考えれば、スリランカは海洋安全保障におけるインドの支援を求めることに慎重であったとして、要旨以下のように述べている。
(1)海洋へのアクセスを有し、国際貿易と通商を主として海洋に依存する如何なる国にとっても、海洋安全保障の確立は最優先目標である。こうした国々にとって、主要なシーレーンの安全保障は、戦略的にも、また経済的にも最重課題である。インド海軍は、1990年代後半からその規模と能力の両面において強化され、今や南アジアにおいて唯一の外洋能力を持つ海軍となっている。インドの海軍近代化努力が継続されるにつれ、インド洋地域の様々な地域に及ぶインドの技術援助を通じて、インド洋の「海洋状況把握」(MDA)におけるインドの関与が増大してきた。
(2)「違法・無報告・無規制」(IUU)漁業は、インドとスリランカの間の対立の根源であった。インドの覇権主義的野心に対する不安から、スリランカのような国は、海洋安全保障に対するインドの支援を受けるに当たって用心深くならざるを得ない。インド南部のタミルナドゥ州のトロール漁船によるインド・スリランカ間の国際海洋境界ライン(IMBL)を越えてのスリランカ水域への不法侵入は、スリランカに対する重大かつ絶え間ない脅威となっている。不法侵入のトロール漁船によるスリランカ水域での IUU 漁業は、スリランカにとって年間2億3,000万~8億2,000万ルピー(3,230万~1億1,540万ドル)に及ぶ直接的な損失をもたらしているといわれる。IUU 漁業を阻止するために、スリランカ海軍は、MDAと正確なリアルタイムの報告のために、定期的な哨戒と不法操業船拿捕に乗り出さなければならない。
(3)海軍は、何時の時代も常に MDA に携わってきた。これは斬新な概念ではない。今日、MDAは、情報を収集するとともに、敵味方双方の艦艇、潜水艦能力そして海洋輸送に伴うあらゆる局面といった、多くの問題を分析するなど、多岐に亘る。MDAは、海賊行為、海洋テロ、船舶のハイジャックや強盗、不法移民、そして密輸などを含む、海洋安全保障の脅威に対処する上で、特に有益である。この概念は、海洋状況におけるこうした「脅威」に適用されるだけでなく、漁業管理などの経済的目的にも有益である。MDA能力強化のために投資し、他国の海洋安全保障当局と調整することは、スリランカの海洋安全保障部門にとって依然、今日的課題である。更に、もし正確な統計、分析そしてリアルタイムの映像があれば、確かな証拠に基づいて不法操業容疑のトロール漁船の拿捕も可能になる。
(4)インド海軍は、インド太平洋地域における沿岸監視レーダー網を確立するという野心的なプロジェクトに着手しており、既にセーシェル、モルディブ、モーリシャス及びスリランカに設置されている。このネットワークは、合同運用センターを通じて調整されることになっている。インドの安全保障機関は、IUU漁業などの非伝統的な安全保障上の脅威とは対照的なテロ対処をより重視し、より強化され、調整された沿岸域安全保障アーキテクチャのためのより強力な沿岸域規制ゾーンと責任分担の明確化を求めている。米国の覇権に挑戦する台頭する中国という認知された脅威に対処するために、インドがこうしたプロジェクトを押し進めているというのが一般的な見方である。それ故、インドの新たな海洋安全保障目標は、フランスや米国などの国によって支持されているのである。例えば、インド宇宙研究機構(ISRO)とフランスの国立宇宙研究センター(CNES)との間の「合同MDA活動」協定や、米国からの無人戦闘航空機(UCAV)や海洋監視ドローンなどの先端装備の取得を見ればよい。
(5)IUU 漁業という重大な問題を考えれば、スリランカの隣国であるインドのMDAに対する支援は、スリランカにとって常に現実的課題である。しかしながら、コロンボは、インドの覇権主義的野心を恐れ、また中国を苛立たせることから、協力を深化させることに躊躇している。それにもかかわらず、 スリランカにとってIUU 漁業問題は、オーストラリアや日本などの国との3カ国安全保障関係に踏み込むことを余儀なくしてきた。スリランカがMDAに対する援助に反発せず、その強さと弱点を共に完全に認識することで、海洋安全保障問題の包括的な解決のために、こうした協定に参加し、それを履行することは依然重要である。
記事参照:India’s Reach in Maritime Domain Awareness: A Hit or Miss for Sri Lanka?

9月12日「安倍首相の南シナ海に対する懸念―在米日専門家論説」(Hudson Institute, September 12, 2019)

 9月12日付の米シンクタンクHudson Instituteのウエブサイトは同研究所客員研究員の長尾賢の“Nightmare Scenario in the South China Sea: Japan’s Perspective”と題する論説を掲載し、ここで長尾は南シナ海が「北京の湖」になることへの懸念について日本の観点から、要旨以下のように論じている。
(1)安倍晋三首相は、南シナ海が「北京の湖」として中国海軍が核弾頭を搭載したミサイルを発射可能な原子力潜水艦を基地に配備するための十分な深さの海になるかもしれないと懸念していた。2012年、安倍首相は、2度目の首相就任の1日前に発表(編集注:実際には就任翌日に掲載)された「アジアの民主主義安全保障ダイヤモンド」という題名の記事で南シナ海についての彼の考えを伝えた。記事の中で、彼は「もし日本が屈服すれば、南シナ海はさらに要塞化されるだろう」と書いた。この記事では「南シナ海は『北京の湖』になり始めているようである。アナリストたちは、それは中国にとって、ソビエトロシアにとってのオホーツク海のようなものだと言う」と書かれている。中国が南シナ海に核兵器を搭載した潜水艦を展開し始めたとき、手に負えなくなる恐れがある非常に危険な状況を作り出した。もし南シナ海で米国と中国の間に紛争があり、米国がそこで中国の施設を攻撃した場合、本格的な核戦争へエスカレートすることが現実味を帯びる。
(2)南シナ海に核兵器を搭載した潜水艦を展開するために、中国がどのような状況を作り出す必要があるかを考慮することが重要である。中国が抑止力を確立したいのならば、その潜水艦がいかなる外国艦船、航空機又はセンサーでも探知されないことを確実にする必要がある。したがって、中国は、中国の潜水艦を探知できるすべての外国艦船が南シナ海の勢力圏下に入るのを防ぐ必要がある。中国はその能力を1歩1歩拡大している。中国の最初のステップは、潜水艦の基地となる三角形の聖域を形成するための人工島を建設することである。2番目のステップは、中国の潜水艦を発見することが可能な他の外国の艦船や航空機を排除するためにミサイル、爆撃機、戦闘機及び軍艦を配備することである。そして最後のステップは、核ミサイルを搭載した潜水艦を配備することである。中国は、スカボロー礁に人工島を建設していないため、ステップ1又は2を達成していない。しかし、中国がすでに構築した人工島を使用することで、中国は外国の艦船や航空機を撃退できる対艦ミサイルと対空ミサイルを配備し、核兵器の搭載が可能な長距離爆撃機を哨戒機として配備している。さらに、中国は、この区域の中国軍に電力を供給する原子力発電所を建設するつもりである。中国が原子力発電所を設置した後、他の国々は放射能漏洩の懸念から、それを攻撃することをためらう。
(3)中国がその海岸線を守るために南シナ海で人工島の存在を利用する。そして、中国がそうするための正当な理由があることは事実である。中国の海岸沿いにある多くの都市や工業地帯は、中国の経済発展にとって重要である。南シナ海での中国の活動は、新しいタイプの「万里の長城」のようなものだと想像することができる。しかし、同じ論理により、中国は、東シナ海と台湾にも同様の要塞を建設する。2013年11月、中国は、東シナ海に新しい防空識別圏を設置した。これにより、中国は海軍艦艇に防空網を与え、勢力範囲を拡大することが可能になる。さらに、中国はこの地域に石油掘削装置も建設しており、その多くがレーダーを備えている。
(4)中国は他国の艦船や航空機が探知可能な場所にミサイル搭載原子力潜水艦を隠すことはできない。したがって、潜水艦、対潜艦艇及び対潜哨戒機の展開は、中国が増強している海軍の影響力を失速させるのに非常に効果的である。この地域では、米国が最も影響力のある海軍を持っているが、英国、フランス、カナダ、オーストラリア、インド及び日本のような米国の同盟国も艦艇、航空機及び潜水艦を送ることが可能であり、インドはベトナムで新しい潜水艦部隊を訓練することが可能である。したがって、これらの国は協力しなければならず、海軍、空軍及び陸軍とともにこの地域でのプレゼンスを示すことに積極的でなければならない。
記事参照:Nightmare Scenario in the South China Sea: Japan’s Perspective

9月13日「タイ、中国からType071揚陸艦購入で合意―米通信社報道」(UPI, September 13, 2019)

 9月13日付の米通信社UPIのウエブサイトは、“Thailand agrees to buy amphibious landing ship from China”と題する記事を掲載し、タイが2億ドルでType071Eドック型揚陸艦を購入することで中国国営船舶重工業集団と合意したとして、要旨以下のように報じている。
(1) タイは、中国の造船所から完成したドック型揚陸艦を購入することで合意し、購入価格は2億ドルであるとタイ海軍司令官Leuchai Rudditは9月2日の週に発表、12日にはこの取引は中国からの贈与ではなく購入であると明らかにした。
(2) 国営中国船舶重工業集団が輸出目的のType071E揚陸艦の建造を手掛けるのは初めてである。Type071E揚陸艦は、兵員800名以上、車両、上陸用舟艇、ヘリコプターを搭載可能であり、車両甲板、ウェルデッキ、揚陸デッキ、格納庫を備えている。
(3) タイは、米国と提携しており、2003年には非NATO同盟国に指定されているが、中国の海空軍と共同訓練を実施している。タイ軍は、中国製の戦車や装甲兵員輸送車を運用し、中国製の潜水艦購入を考えている。
(4) タイ向け揚陸艦の建造には3年を要すると見込まれている。タイはこの種の艦艇4隻を除籍しており、空母1隻を保有している。タイ海軍の艦艇は、主として人道支援、災害救援に使用されている。Ruddit司令官は、艦の大きさ、性能要目から言って購入価格は妥当であると言う。
記事参照:Thailand agrees to buy amphibious landing ship from China

9月13日「ロシア海軍が北極海航路の貨物船を立ち入り検査―ノルウェー紙報道」(The Barents Observer, September 13, 2019)

 9月13日付のノルウェーのオンライン紙The Barents Observerは、“Russian Navy commandos boarded a cargo vessel on Northern Sea Route”と題する記事を掲載し、ロシアの北方艦隊が初めて北極海航路で商業船を停止させた状況について、要旨以下のように報じている。
(1)ロシア北方艦隊は、北極海航路の航行規則に違反している疑いのある船を停止させた。北方艦隊がこの区域の商業船に対してこのような行動をとったのは初めてだと考えられている。北方艦隊によると、この作戦は、タイミル半島の最北端のソルネチャヤ湾で行われた。駆逐艦Vice-Admiral Kulakovの海兵隊員たちは、貨物船S. Kuznetsovに乗船するために高速艇を使用し、立入検査を行った。この行動は沿岸警備隊と協力して実施された。S. Kuznetsovがどのような違反を疑われていたのかは不明である。
(2)北方艦隊によると、この船舶に対する立入検査には、スタッフと貨物の施設の管理、船の証拠書類及び個人に関する乗組員の書類が含まれていた。S. Kuznetsov はNorthern Shipping Companyが所有し、当面この区域を航行するために必要な許可を持っている。北極海航路局の文書から判断すると、この船は2020年2月20日まで北極海を航行する許可を得ており、アイスクラスの「Arc4」をもっている。当時セヴェルナヤ・ゼムリャ諸島の一部であるボリシェヴィク島で貨物を配送していた。人里離れた群島は、新しくアップグレードされた軍事基地の開発のための場所である。ロシア海兵隊によるこの作戦は、Vice-Admiral Kulakovを旗艦とする戦隊が継続していた航海中に行われた。           
(3)ロシア連邦保安庁(以下、FSBと言う)の指揮下にある沿岸警備隊が、この区域の法執行の主な責任を負っている。2016年に署名された法案は、FSBに区域の法執行機関の全権限を与える。権限が正式化されたことで、FSBはロシアの北極海岸に沿って運航する船舶に対して自立的に行​​動を起こすことができるようになる。
記事参照:Russian Navy commandos boarded a cargo vessel on Northern Sea Route

9月13日「中国の機雷戦は米海軍にとって深刻な脅威-米専門家論説」(The National Interest, September 13, 2019)

 9月13日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、U.S. Naval War Collegeの The China Maritime Studies Institute (CMSI)准教授Lyle J. Goldsteinの“Chinese Sea Mines Are Threatening the U.S. Navy”と題する論説を掲載し、 ここでGoldsteinは中国の機雷戦能力は米海軍にとって引き続き大きな脅威となっているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 太平洋戦争末期、米戦略家たちはB-29長距離爆撃機により数千発の磁気音響機雷を日本周辺の港湾水路に敷設することで日本経済を混乱させ継戦意志をくじく「対日飢餓作戦」を遂行したが、この試みは非常に効果的であったことが証明されている。にもかかわらず、米国海軍も巧みに実施される機雷戦においては「受け身」の立場であり、この状況は今日でも変わっていない。今や機雷戦は中国海軍の主要ドクトリンとなっている可能性があるが、例えば、RAND研究所の「米中軍事スコアカード」など米中間の軍事能力に係る分析においても機雷の脅威は軽視されがちである。機雷は対艦弾道ミサイル、超音速対艦巡航ミサイルなどの北京が指向する極超音速兵器ほど魅力的ではなく、これらの武器システムのように米国の空母に対する直接的な脅威となる可能性はないだろう。しかし、大量かつ巧みに敷設された機雷は、西太平洋で生起する海戦の初期段階において作戦上の致命的な齟齬を来す可能性も否定できない。
(2) 数年前、中国軍事誌「兵工科技」に興味深いインタビューが掲載された。これは青島の潜水艦学院教授によるもので潜水艦の機雷敷設戦がテーマであったが、そのこと自体、中国の海上作戦における機雷の重要性を示唆していると言える。同教授は、1988年にイランの敷設した機雷によって損傷した米海軍フリゲート艦Samuel B. Robertsの例を引用しつつ、改造漁船でも簡単に機雷敷設が可能であると強調する。そして彼は、潜水艦が機雷敷設の最も理想的な手段であると主張し、特殊な外部装備を付加することによって潜水艦の機雷搭載量を現状の2倍近くまで増強することも可能と指摘するのである。このインタビューは潜水艦による機雷敷設が米中の海軍間紛争において最も不快で致命的なインパクトをもたらす可能性を示唆するものである。また筆者は中国潜水艦が米国の「柔らかな肋骨」である海上輸送ノードを攻撃する可能性について指摘したこともある。青島潜水艦学院教授が示唆するように、1隻の潜水艦が50発を超える機雷を搭載して展開し、中部及び東部太平洋沿岸の米国の主要港湾に対して攻勢機雷原を構築したならば、これらの港湾が1週間以上に亘って封鎖されるという事態は非常に厄介なものとなる可能性が高い。
(3) 更に我々を困惑させるのは、海軍雑誌「現代舰船」2015年8月号に掲載された中国の機雷戦に関するレポートであり、この記事では台湾の独立宣言の発出時に実施されるであろう中国の機雷封鎖を想定した中国国防大学の研究が引用されている。この研究では第1段階として4〜6日間で5〜7,000発の機雷が敷設され、その後、第2段階として更に7,000発の機雷が敷設されるとされているが、これは冒頭で触れた米国の対日飢餓作戦の規模を超えるものである。この記事では中国の艦船及び航空機にとって1日あたり2,000個の機雷を敷設することは比較的容易とされているのである。また、この記事では上記の二次に亘る機雷敷設とは別途、第1列島線内の海上交通を阻害すべく、艦船、航空機及び改造漁船による機雷敷設が計画されていることにも言及されている。また、中国の機雷戦について注目すべきもう一つの記事は、2014年刊行の「水中発射機雷のレーザー誘導技術に係るフィージビリティスタディ」と題する技術研究報告であり、これは標的を感知すると至近距離でミサイルを浮上させ発射して攻撃する機雷である。このタイプの機雷は水上艦の対処時間を大幅に縮減する効果を持つほか、より厄介なのは、これが航空機を対象として使用される可能性もあり得るという点である。いずれにせよ、経験豊富な中国軍ウォッチャーの間は、北京が機雷戦を含むさまざまな分野で軍事技術開発の最先端に進みつつあるという認識を共有しつつある。
(4) 米海軍の最近の対機雷戦に係る取り組みは必ずしも十分なものではなかったという点を改めて強調しておく必要がある。湾岸戦争における米国海軍の公式戦史は、対機雷戦の問題をこの戦争における軍種としての重大な欠陥であると指摘しており、報告書には「朝鮮戦争とベトナム戦争における対機雷戦は海軍にとっての警鐘とはならなかった。掃海ヘリコプターと水上部隊が当該任務を円滑に処理しているように見えたのは作戦が比較的容易だったためであり、これらのプラットフォームとその指揮統制能力の欠陥は健在化しなかったのである」と記載されており、機雷戦艦艇の老朽化などの問題は機雷戦専門家の間でも問題視されている。
(5) もちろん、中国の機雷戦に対応する別の方法としては、米国の機雷敷設戦能力を高めるという手段もあるだろう。これは例えば、アジア太平洋地域において機雷敷設能力を有する米空軍爆撃機の能力を演習などの形で示威するということであり、既に一部実施されてもいる。実際、中国海軍及びその巨大な海上貿易全体が機雷に対し脆弱であるというのも事実であり、これをもってして「大きな棍棒を持ってソフトに話しかける」というアプローチは不安定なアジア太平洋地域の平和を維持するために必要な措置かもしれない。
記事参照:Chinese Sea Mines Are Threatening the U.S. Navy

(関連記事)
9月14日「戦艦の撃沈法:機雷は何故、海軍艦艇にとって脅威なのか?―米専門誌解説」(The National Interest, September 14, 2019)

 9月14日付の米隔月誌The National Interest電子版は上記記事に関連し、同編集部による“How to sink a ‘Battleship’: Why Sea Mines Can Sink Any Navy in a War”と題する解説を掲載し、中国の機雷の脅威に対抗する手段の一つとして水中無人機(UUV)による対機雷戦システムの開発も進められていることなどを紹介している。
記事参照:How to sink a ‘Battleship’: Why Sea Mines Can Sink Any Navy in a War

9月15日「なぜ中国軍は東アジアの2つの海峡を支配したがるのか―デジタル誌編集委員論説」(The Diplomat, September 15, 2019)

 9月15日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌上級編集員Franz-Stefan Gadyの“Why China's Military Wants to Control These 2 Waterways in East Asia”と題する論説を掲載し、ここでGadyは中国海軍にとってのバシー海峡と宮古海峡の重要性について、要旨以下のように述べている。
(1) 過去4年間、中国人民解放軍は東シナ海と南シナ海への出入り口となる2つの戦略的に
重要なバシー海峡と宮古海峡周辺での演習実施の周期を早めている。この 2つの海峡は、千島列島からボルネオ島に至る東アジアの海岸線を囲む主要な群島線の一部を形成している。南シナ海と西太平洋をつなぐバシー海峡は、フィリピンのルソン島と台湾の蘭島の間にある。東シナ海と西太平洋をつなぐ宮古海峡は、宮古島と沖縄の間の日本の排他的経済水域である。同時に国際水域、国際空域でもある。過去2か月間、2つの海峡及び海峡上空及び周辺で中国軍のさまざまな活動が行われた。
(2) 政治的には、2つの海峡での中国軍のプレゼンスの増加は、抑止のメッセージを台湾、日本、米国に送っている。また、中国は「藍色国土」を防衛するという決意を表してもいる。しかし、なぜ2つの海峡が中国軍にとってそれほど軍事的に重要なのだろうか?宮古海峡とバシー海峡は、軍事戦略家が「第一列島線」と呼んでいるものに沿って位置している。1980年代から、元中国海軍司令員であり、元中央軍事委員会副主席であった劉華清の支援の下、中国軍の戦略家たちは、米国と地域の同盟国による中国の戦略的包囲を克服するためには「第一列島線」が戦略的に重要であると強調し始めた。「中国の戦略家たちは、これらの海峡が第一列島線を越えて部隊を展開するために重要であると考えている」と、米空軍の戦略研究グループ、チェックメイトオフィスの中国問題顧問で、中国の政治、安全保障を専門とするBen LowsenはThe Diplomatに述べた。Lowsenは「中国は海上交通路の安全に依存していることから、中国海軍が空母打撃群を中核とした外征軍、外洋海軍として、東アジアの「近海」を越えて人民解放軍海軍が「遠海」と呼ぶアジアを越えた海域に定期的に派遣するという中国の長期計画にとって第一列島線を抜けることは重要である」と指摘する。
(3) 第一列島線という考え方は東アジアで軍事紛争が発生した場合の2つの海峡の重要性を理解するために重要である。RAND Corporation防衛問題上級分析官Derek Grossmanによれば、バシー海峡と宮古海峡は「現実的な戦闘条件の下で訓練する中国に、絶好の訓練の機会を与える。将来の米中戦争で最も頻繁に想定される開戦のきっかけは、尖閣諸島の領土紛争に関する衝突または南シナ海での米軍との衝突である。この衝突により中国軍は第一列島線を越えて兵力を展開するであろう。そうでないとしても、第一列島線を突破し、その東側で敵となる台湾と日本に対抗し、米軍の基地であるグアムを脅かす能力を持つことで中国は新たな攻撃能力を持つ」と語った。中国軍の軍事ドクトリンは、紛争が発生した場合、米国と同盟国の海軍に2つの海峡を通過させないようにすること、米軍の航空機及び艦艇を黄海、南シナ海、東シナ海に入れないことを義務付けていると伝えられている。逆に言えば、米国とその同盟国は、2つの海峡を使用して近海に中国軍を封じ込めることができる。この地域(沖縄)に米空軍基地が存在することを考えると、宮古海峡は、中国軍の戦争計画立案者にとってより大きな問題となるであろう。東シナ海に点在する島々に沿って防衛力を強化する日本の努力によって、さらに問題は複雑になる。例えば、日本は宮古海峡全体をカバーすることができる沖縄県の島々に新しい対艦ミサイルの部隊を配備している。中国軍は、紛争で海峡を物理的に制御する必要はないだろう。彼らは、他者がその海峡を使用できなくさせるだけでよい。多くの場合、中国は戦争の際に南シナ海と東シナ海を封鎖できると想定されているが、Stephen Biddle とIvan Oelrichによる最近の分析は必ずしもそうでないことを示唆している。中国のA2 / AD能力の現在および将来の限界に留意しつつ、彼らは、将来の米中戦争は2040年に起こるかもしれないと予測している。「第一列島線上の海域とその上空は、米中どちらの側にとっても通航または飛行の自由と安全が確約されないものとなるであろう」と述べている。
(4) バシー海峡及び宮古海峡の周辺を含む中国の長距離爆撃機の飛行を分析した2018年の米シンクタンクRand Corporationの報告は、「日本の論者は一般的に、中国の爆撃機の飛行は尖閣諸島に対する主権を主張する中国の試みの次のステップであると評価している。台湾の論者は一般に、中国の爆撃機の飛行は中国の発展と台湾海峡の関係の両方の産物であると評価している」と述べている。2019年に中国空軍と中国海軍航空部隊がバシー海峡および宮古海峡周辺の飛行訓練を増やしているのには、より差し迫った実際的な理由もある。Derek Grossmanは「中国軍には訓練する場所が他にあまりない。ヒマラヤ上空の飛行は中国軍が経験しようとする戦闘シナリオに合致するものではなく、中国が必要と判断した抑止のメッセージを適切に送るものでもない」と述べている。今確かに言えることは、中国軍の近代化、特に中国海軍の近代化が進むにつれて、2つの海峡の戦略的重要性がますます増大していくということである。
記事参照:Why China's Military Wants to Control These 2 Waterways in East Asia

9月15日「欧州諸国はアジア・太平洋と南シナ海への関与を維持する意思を固めた―香港紙報道」(South China Morning Post, 15 Sep. 2019)

 9月15日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“European nations ‘determined to stay relevant’ in Asia-Pacific, South China Sea”と題する記事を掲載し、英仏独等の欧州諸国がアジア太平洋への関与を強めているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 幾人かの評論家が、英国やドイツ、フランスなどの大国は自らが単なる貿易相手国以上の存在であることを示したがるものであると論じている。紛争地域に軍艦を派遣することもまた、米中の地政学的対立に対して欧州の影響力を示すものであり、欧州の主要各国は南シナ海での航行の自由作戦などを通じその存在感を高めようとしているとの見方がある。オランダのClingendael Institute 上級研究員Frans-Paul van der Puttenは、「欧州諸国は、数年前までは東アジアの安全保障問題に関わることには消極的であったが、米中の地政学的対立が自国に関係するとの考えから南シナ海に艦艇を展開するなど積極的に関与する姿勢を示しだしている」と分析する。中国は、南シナ海の大部分を領有すると主張し、マレーシアやベトナムなどの隣国と紛争を生じさせている。先月、英国、フランス、ドイツの3国は共同声明で、南シナ海情勢は地域を不安定化しているとし、当事国に緊張を緩和する措置を講じることを求めた。米国は域外国ではあるが、南シナ海をインド太平洋戦略に基づき中国の太平洋とインド洋への軍事的拡張を封じ込める海域と見做している。英国は、ますます好戦的となる中国に対し米国や豪州と足並みを揃えて対抗する姿勢を示しており、2月に南シナ海で米国と合同演習を実施し、また、2021年には空母Queen Elizabethをアジア太平洋地域に派遣すると報じている。また、フランスは昨年、南沙諸島周辺に艦艇を派遣し航行させている。これに対して、中国の駐英国防武官である蘇廣輝少は、「米国と英国が中国の領域保全を脅かすことがあれば、それは敵対行為とみなされる」と発言している。ベトナムのLe Thi Thu Hang外務省報道官は「紛争海域での航行と上空飛行の自由を主張するあらゆる行動を支持する」と述べている。
(2) 軍事面での協力とは裏腹に、米国と欧州の間では経済面での対立が見られる。欧州中央銀行がここ3年間で最大の利下げと経済刺激策を発表したのに対し、米国のTrump大統領はツイッターで「強いドルに対しユーロを減価償却し米国の輸出に損害を与えようとしている」と怒りを露わにした。経済面で米国と対立する一方で、欧州連合は中国国内での欧州企業への不公平な取り扱いに対して中国と厳しい交渉を続けている。2019年の年初、欧州委員会は欧州連合の首脳陣に対し中国を「経済的競争相手」、「ガバナンス代替モデルを促進するシステマティックなライバル」などとする10項目の行動計画を採択するように求めている。ドイツでは、Heiko Maas外相が香港の民主活動家と会談したことから、中国政府の強い反感を受けている。
(3) 英International Institute for Strategic StudiesのSarah Raine地政戦略研究員は、「欧州諸国が南シナ海紛争に関与し、アジア地域での影響力を拡大したいと考えるのは驚くべきことではない」、「アジアでは欧州諸国は貿易相手国に過ぎず、戦略的問題には無関係であるという認識がある」と語っている。また、スウェーデンのSIPRI上級研究員Siemon Wezemanは「欧州諸国はアジアの紛争海域の主要なプレーヤーでることを示し、それによって中米両国との関係を強めようとしている」と述べている。そこには南シナ海で事件が起こればヨーロッパの産業にも影響が生じるとの認識も働いていることは確かである。
記事参照:European nations ‘determined to stay relevant’ in Asia-Pacific, South China Sea

9月17日「ハンバントタ港とタイ・ラノーン港の港湾間協力協定締結―キプロス海洋メディア報道」(Hellenic Shipping News.com, September 17, 2019)

 9月17日付の在キプロス海運会社HELLENIC AND INTERNATIOAL SHIPPINGのオンライン日刊紙Hellenic Shipping Newsは、“China-run Hambantota port in Sri Lanka links with Thailand’s Ranong”と題する記事を掲載し、現在中国の管理下にあるとされるスリランカのハンバントタ港がタイのラノーン港と港湾間協力に関する協定を結んだことを報じ、それが今後持つ意味について要旨以下のとおり報じている。
(1)ハンバントタ国際港湾グループ(HIPG)がタイのラノーン港との間で港湾間協力に関する協定を結んだ。今後、ベンガル湾を経由した航路開発のための合同作業部会が設立されるであろう。ラノーン港は最近インドのクリシュナパットナム港とも協定を結んでおり、HIPGのCEOであるRay Renは、このたびの協定締結を「ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアチブ(BIMSTEC)」の一部と位置づけている。
(2)Renによれば、ハンバントタ港は幅広い地域における「貨物の輸送を促進する結節点となる」ものであり、実際、ハンバントタ港はすでにアフリカその他の地域に対するインド製車両の積み換えなどを行っている。また、ハンバントタ港近くの産業地帯のポテンシャルにも期待が高まっている。
(3)中国はマレー半島を横断するタイの運河建設の構想を復活させた。もし完成すれば、インドやスリランカから中国、日本への輸送時間は短縮し、マラッカ海峡というチョークポイントを迂回できるようになる。そのとき、今回の協定の重要性もより高まることになるであろう。
記事参照:China-run Hambantota port in Sri Lanka links with Thailand’s Ranong

9月19日「チリ港湾へのアクセスは、中国の南極における開発を加速する-香港紙報道」(South China Morning Post, 19 Sep. 2019)

 9月19日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Chinese access to Chilean port may give Antarctic exploration activities a boost”と題する記事を掲載し、中国がチリ最南端の港湾都市プンタ・アレーナスへのアクセスについてチリ政府と協議中であり、それが可能になれば、南極における中国の活動が加速されるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 南極に近いチリの戦略的港湾への中国のアクセスは専門家によれば、資源豊富な南極地域における中国の開発を加速する。専門家は、中国が着実に南極における存在感を拡大しているが、その活動の大半は商業ベースであり、南極に軍を展開するような計画は公には行っていない。チリ外務省の声明によれば、北京は「南極大陸にある中国の基地での計画実現のため」南米最南部のプンタ・アレーナス港(抄訳者注:チリ共和国最南部マガジャネス・ イ・デ・ラ・アンタルティカ・チレーナ州の州都である港湾都市)へのアクセスについてチリ政府と協議中である。チリ外務省はさらに、中国は「海路、空路両面からの資材と人員の輸送基地として」プンタ・アレーナスの使用を希望していると述べている。
(2) 上海社会科学院の胡志勇は、「大洋の航海、特に科学目的の航海には多くの補給品が必要であり、南極に近い国が中国船により多くの便宜を図ってくれれば、航海はより容易」になり、マゼラン海峡に面するプンタ・アレーナスは南極を目指す中国の調査船にとって理想的な発動点であると胡は言う。
(3) Australian National UniversityのElizabeth Buchananは、プンタ・アレーナスは豪タスマニア州の州都ホバートよりも南極に近いため、中国が南極での活動のためどこに基地を設営するかについて北京により多くの選択肢を提供すると指摘する。南極での活動の基点となる基地を設営するために港湾の選択肢を多様化できることは、ホバートあるいは他の通路が何らかに理由で制限されたとしても、北京は南極大陸へのアクセス能力を依然保持し、ある意味では中国のアクセスを遮断することがより難しくなることを意味するとElizabeth Buchananは言う。チリやオーストラリアのような南極における重要なアクターとの広範な関係によって北京は南極における政治的影響力を手に入れるかもしれない。その政治的な影響力は中国が「世界的な南極における大国としてのアイデンティティ」を確立することを助けるかもしれない。
(4) 中国は、1983年に南極条約に加盟し、石油と鉱物資源が豊富な南極地域に利害関係を有している。中国は南極条約システムを票決について諮問に関わる立場にある。南極は世界で最も人の手が入っていない自然を求める裕福な中国旅行者にとって人気の行先となってきている。2018年には8,273名が南極を訪れており全体の16パーセントを占めている。
記事参照:Chinese access to Chilean port may give Antarctic exploration activities a boost

9月20日「インドとオーストラリアの関係強化の動向―印防衛専門家論説」(The Diplomat.com, September 20, 2019)

 9月20日付のデジタル誌The Diplomatは、印シンクタンクObserver Research Foundationの特別上級研究員Rajeswari Pillai Rajagopalanの“India and Australia Defense Relations: Towards a Common Vision of an Open Indo-Pacific Region?” と題する記事を掲載し、ここでRajagopalanは近年の印豪間の戦略的協力関係の深まりについて、要旨以下のとおり述べている。
(1)近年、インドとオーストラリアの関係強化が進んでいる。このことは、両政府高官の相互の訪問や、両国の合同軍事演習が多く実施されていることに示されている。たとえば昨年9月にはインド海軍のトップが訪豪し、またインド防衛相Rajnath Singhが今年11月に訪豪予定である。印豪の関係強化は、中国の脅威に対する懸念が共有されているためである。
(2)しかし、中国の何を脅威とするか、あるいは印豪がお互いの主張を認め合うかと言えば必ずしも意見は一致していない。オーストラリアは太平洋における中国の膨張を懸念し、インドはインド洋におけるそれを懸念しているという違いがある。たとえば、ある豪専門家は、「オーストラリアは、インドがインド洋における『支配的な』役割を担うという主張を積極的に承認しようとはしていない」と述べている。
(3)とはいえ、印豪両国にとって、より幅広いインド太平洋概念という観点から、法の支配や法に基づく秩序構築を共同で模索していくことが重要であることは間違いない。印豪海軍の合同軍事演習であるAUSINDEXは、今年4月の実施で3回目を数え、これまでで最大規模であった。あるインド政府の声明によれば、「規模のますますの増大は、その訓練の重要性をはっきりと示している」のである。
(4)必ずしも早いペースではないが、インドとオーストラリアの戦略的協調は深まっており、中国の脅威がすぐにはなくならないであろうことも考慮すれば、今後とも益々深まっていくであろう。それはたとえば、海洋安全保障だけでなく、ブルー・エコノミーの構築やインフラ整備、連結性の強化、戦略的産業における協力など、さまざまな分野にまたがることが期待される。
(5)上述のように、今年11月にはインド防衛相の訪豪が予定されているが、報道によれば両国は重要な多くの協定に署名する可能性があるという。そのなかには、ここ数年間に議論されてきた相互ロジスティクス支援に関する協定もある。インドは2016年にアメリカとの間にロジスティクス交換覚書(LEMOA)を締結して以降、同種の協定締結に積極的であり、最近では韓国との間に協定を結んだ。この協定は、相互の軍事施設の利用プロセスを簡素化するものである。ある報道によれば、これを含む諸々の協定の締結は、印豪の「幅広い相互運用性へとつながり、戦略的パートナーシップへの格上げの一助となるであろう」。インドとオーストラリアは、緩やかかもしれないが着実にその協力関係の強化を進めているのである。
記事参照:India and Australia Defense Relations: Towards a Common Vision of an Open Indo-Pacific Region?

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Australia’s nuclear-weapons debate: shifting the focus
https://www.aspistrategist.org.au/australias-nuclear-weapons-debate-shifting-the-focus/
The Strategist, September 13, 2019
Albert Palazzo, the director of war studies in the Australian Army Research Centre
9月13日、豪Australian Army Research CenterのAlbert Palazzoは、Australian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategist上に、" Australia’s nuclear-weapons debate: shifting the focus "と題する論説記事を発表した。ここでPalazzoはオーストラリアで核兵器保有の是非をめぐる議論が再燃していることを取り上げ、第一に、現在は第二次世界大戦における米国の日本への二度の原爆投下の状況とは異なり、全面核戦争へのエスカレーションが現実的であって人類を含む種の絶滅を招くこと、第二に、現在の議論で問われるべき問題は核兵器が気候変動の安全保障上のリスクを軽減する上でどのような役割を果たせるかということであり、その側面においては、オーストラリアにとって核兵器は役に立たないこと、などを理由に挙げつつ、この議論を否定的に捉えている。
 
(2) What the US-Led Naval Buildup in the Persian Gulf Tells Us!
https://www.vifindia.org/2019/september/13/what-the-us-led-naval-buildup-in-the-persian-gulf-tells-us
Vivekananda International Foundation, September 13, 2019
Rajesh Soami, a Research Scholar from Jawaharlal Nehru University currently pursuing PhD in International Relations
9月13日、印Jawaharlal Nehru Universityの研究員Rajesh Soamiは、印シンクタンクVivekananda International Foundationのウエブサイトに“What the US-Led Naval Buildup in the Persian Gulf Tells Us!”と題する論説記事を寄稿した。この記事では、主に①オーストラリア、英国及びバーレーンがペルシャ湾の米国主導の海洋安全保障イニシアティブの任務に参加している一方で、インドは2隻の艦艇を展開したが、それは独立した行動である、②米国は今回、同盟国の嫌気に直面し、コアリションを構築することは難しいと感じた、③米国の一方的な振る舞いは欧州に独自の外交及び安全保障政策の展開を余儀なくさせている、④米国は世界中にハードパワーを投射する能力を保持している唯一の国家であり、欧州は米国からの支援なしに彼らの基地から遠く離れて展開するための海軍の能力を持っていないかもしれない、⑤アングロサクソンの英国とオーストラリアが現在米国との同盟を尊重している一方、米国のNATO同盟国はその点で大きく異なる、⑥中国の台頭と中ロ間の親密さの高まりは、地政学的な世界秩序を変化させているが、米国は欧州諸国との相違にもかかわらず世界で最も強力な同盟システムを有する、⑦世界の大国はインドを主要なプレーヤーとして徐々に認め始め、ニューデリーは米国との関係を劇的に改善し、フランスとの関係にも取り組み、それでいてロシアとの関係も犠牲にしておらず、中国との関係をうまく管理している、⑧世界は多極的な世界秩序に向かっている可能性があり、インドは将来、そのような秩序においてより大きな役割を果たすかもしれない、といった主張が述べられている。
 
(3) Beijing’s South China Sea Aggression Is a Warning to Taiwan
https://foreignpolicy.com/2019/09/16/beijings-south-china-sea-aggression-is-a-warning-to-taiwan/
Foreign Policy.com, September 16, 2019
David Santoro, director and senior fellow for nuclear policy at Pacific Forum
9月16日、米シンクタンクPacific ForumのDavid Santoro主任研究員は、米ニュース誌Foeign  Policyのウエブサイト上に、" Beijing’s South China Sea Aggression Is a Warning to Taiwan"と題する論説記事を発表した。ここでSantoroは、中国が南シナ海問題などで採用しているとされる、戦争とは直接的には結びつかない一連の漸進的な行動をとることによって自国に有利な現状へと徐々に変えていこうとする「サラミ戦略」を取り上げ、この戦略が主眼とする時間をかけた既成事実化は台湾にも有効だとし、台湾だけではもはや中国との戦争に勝つことはできないが、不断の努力で防衛力を強化し、中国の人民解放軍に対抗して侵攻を遅らせる能力を開発することで、台湾は効果的に中国の台湾侵攻を思いとどまらせることが可能だと論じている。