海洋安全保障情報旬報 2019年10月1日-10月10日

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10月3日「中国研究者、深深度にある潜水艦を探知できる航空機搭載レーザー装置を開発―香港紙報道」(South China Morning Post, 3 Oct, 2019)

 10月3日付の香港英字日刊紙South China Morning Post電子版は、“Chinese scientists develop airborne laser device that could track submarines deep underwater”と題する記事を掲載し、中国科学院上海光学精密機械研究所教授らのチームが航空機搭載のレーザー装置で深深度にある目標の探知に成功したとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国科学院上海光学精密機械研究所のチームは水深160メートル以深にある目標を機器が捕捉できたと述べている。160メートルとは現在使用されている同種機器の2倍の深度である。航空機搭載レーザーシステムの実験は4月に南シナ海で実施され、その結果は9月に公表された。「この深さに達したのは初めてであり、さらなる改良の可能性がある」と研究所はウエブサイトで述べている。「この実験は衛星レーザーリモートセンシングに有力な技術的支援を提供する」と研究所は言う。
(2) 同研究所は、ほとんどの潜水艦が行動する深度を超える水深500メートルにある目標を探知するレーザー衛星開発のための海洋探索計画に関わっている。4月の実験が海洋探索計画の一部であるかどうかは明らかではない。
(3) 陳衛標教授に率いられた上海チームはブルーグリーンレーザーと呼ばれるビームを使用した。レーザー装置は単光あるいは単一周波数の光の励起されたビームを発生させるが、緑色と藍色のビームは比較的容易に水中に入ることができるのである。
(4) 陳衛標のチームはまた、高感度の受信機を開発した。受信機は目標から反射されてきた単一の光子を拾い上げることができ、装置が深い深度に隠れる目標と同じように水面近くの明るい対象物も発見できるとチームは述べている。
(5) 研究者たちは実験が行われた場所、環境を明らかにしていない。しかし、同研究所ウエブサイトはビームが雲の上にいる航空機から発射されたことを示している。実験は通常、高度500メートルから1,000メートルで実施されている。このような光学探査は軍備競争の最前線になりつつあり、防振装置を装備した極めて静粛なエンジンを搭載した潜水艦のように音響センサーでは捕捉できない目標を探知できる。また、このような光学センサーは消磁を実施して磁気センサーでは捕捉が困難な潜水艦の追尾を支援できる。レーザーはまた移動目標が起こす波を探知でき、水中目標が引き起こす温度変化を監視することも可能である。
(6) 北京工業大学准教授宋成天は、水中での技術は何十年にもわたって軍や研究者の関心を引いてきたと言う。1つの理由は航空機に搭載されるレーザー装置は通常小型であり、その出力には限界があることである。上海チームは「おそらく重要な技術的ブレークスルーにたどり着いたのではないか」と宋成天は言う。宋成天はこの研究には参画していなかった。
(7) 国営メディアによれば、陳衛標は今年、嫦娥四号探月計画のレーザー装置を開発している。「宇宙で使用するレーザーシステムは高い信頼性、高出力、ビームの高品質が要求されるが、同時にシステムは宇宙環境での要求に合致するよう小型化しなければならない」との陳衛標の8月の発言が新華社に引用されている。
記事参照:Chinese scientists develop airborne laser device that could track submarines deep underwater

10月3日「日本政府、海洋安全保障協力を進めるためセーシェル共和国に700万ドルの資金援助―セーシェル・ニュースメディア報道」(Seychelles News Agency, October 4, 2019)

 10月3日付のセーシェル共和国のニュースメディアSeychelles News Agencyは、“High-speed patrol boats among items Seychelles will receive from $ 7 million grant from Japan”と題する記事を掲載し、日本とセーシェルの間で「海上保安能力強化計画」に関する合意が結ばれたことについて、要旨以下のとおり報じている。
(1)10月3日木曜日、日本とセーシェルは、海洋安全保障に関する協力について合意し、日本政府はセーシェルに対し、700万ドルの資金援助を行うことになった。この資金はセーシェルの麻薬取締局本部(人工島であるパーセヴァランス島にある)の再建や、高速巡視艇などの海上警察部隊の装備のアップグレード、および海賊や違法漁業を行った船舶を収容する施設の建設などに充てられることになる。
(2)この合意は、島嶼国家である双方にとって海洋安全保障が決定的に重要であるという共通認識に基づく。書簡の交換を行ったセーシェルのMacsuzy Mondon指名大臣は、海賊行為は確かに減少しているが引き続き脅威であると述べ、駐セーシェル日本大使の冨永真も、「海賊行為の数は劇的に減少した」けれども、「麻薬の密輸や兵器の密輸などの犯罪行為、また不法・無報告・無統制(IUU)漁業などは増加している」という認識を示した。
(3)セーシェルと日本が国交を樹立したのは1976年のことで、それ以降日本はセーシェルに支援を続けてきた。今年8月に横浜で第7回アフリカ開発会議が開催された際、安倍晋三首相とDanny Faure大統領の間で意見交換がなされ、それが今回の資金援助へとつながった。今後、セーシェルにおける石油・ガス開発などに日本企業が参加する形での協力もありうるかもしれない。
記事参照:High-speed patrol boats among items Seychelles will receive from $ 7 million grant from Japan

10月4日「遅れるインドの海軍力建設―印専門家論説」(The Diplomat, October 04, 2019)

 10月4日付のデジタル誌The Diplomatは、印シンクタンクObserver Research FoundationのNuclear and Space Policy Initiative部門長、Dr. Rajeswari Pillai Rajagopalan特別研究員の“The Trouble with India’s Slow Naval Buildup”と題する論説を掲載し、ここでRajagopalanは印海軍では潜水艦建造計画を始め多くの事業が大幅な遅れを生じているが、その背景には予算配分の偏重、意思決定手順、調達手順の問題があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インドは、自らの必要性の認識と戦略的環境における傾向に対する理解から過去数年以上、海軍力強化を強力に図ってきた。しかし、ニューデリーの努力にもかかわらず、強化の作業はゆっくりとしたペースで継続している。
(2) 実例はインドの潜水艦計画である。印海軍のScorpene級潜水艦2番艦が9月28日に海軍に編入された時点で再び注目されている。1番艦は2017年に就役、3番艦は2018年1月に進水して海上公試を実施中である。2番艦は2005年の印仏2国間合意に基づき、国内造船所で約260万ドルで建造された。新潜水艦の導入は、インドの潜水艦部隊の規模がここ数年減少してきているという事実を偽って示すものである。Scorpene級潜水艦はインドの海軍力に重要な増強であるが、その取得は6年以上も遅れている。同級の導入について多くの高級当局者からの意気揚々としたコメントは聞かれるが、インド太平洋を巡る海軍および海洋安全保障の問題を考えれば増強は十分ではない。潜水艦の就役に際し、印国防相Rajnath Singhは潜水艦の調達は主としてパキスタンへのメッセージと規定したが、潜水艦の就役に際しては潜水艦と印仏防衛協力の重要性を述べている。しかし、Scorpene級潜水艦は近代的な魚雷を搭載しておらず、1967年にドイツが開発したSUT 21インチ長魚雷を使用して任務を遂行しなければならない。インドは2004年にイタリアのFinmecannica社の子会社WASSが主にScorpene級潜水艦用に開発したブラックシャーク長魚雷の交渉を破棄している。さらなる問題として非大気依存推進システム(以下、AIPと言う)の開発の遅れがある。スコルペヌ級潜水艦の5、6番艦は国防研究開発機構(以下、DRDOと言う)が開発したAIPを搭載する予定であったが、DRDOの遅れのため、AIPはProject 75-Iの下で開発される次期潜水艦6隻に搭載されるだろう
(3) Project 75-Iもまた進展が遅い。Project 75-Iでは、インドは6隻の先進的な通常型潜水艦を外国企業と共同で建造する計画である。しかし、同計画も困難に立ち至っている。スウェーデンの軍需産業SAABはインドが国内企業との提携に関して提起したやっかいな条件のために入札を撤回し、代わりに韓国の大宇造船所が競争に参入してきた。Modi首相の最近の訪ロで、Putin大統領は政府間合意によって「通常型潜水艦の共同設計、開発」の実施に同意した。しかし、それはProject 75-Iが始まって10年以上経っており、これら潜水艦が印海軍に編入されるには何年もかかるだろう。
(4) 長く、厳しいインドの海軍力構築は潜水艦計画に限られたものではない。Scorpene級潜水艦の編入と同じ9月28日、印海軍にとって重要な2つの開発が行われた。P-17A型フリゲート1番艦の進水とムンバイ海軍工廠内のドライドックの完成である。マサゴンドック社のトップRakesh Anandによれば、新フリゲートは「改善された残存性、耐洋性、ステルス性および運動性」という新しい設計思想で建造されるという。新しいドライドックは印海軍最大のもので、印空母も入渠可能である。しかし、ドックの完成には10年以上がかかっている。
(5) インドの海軍力建設が遅いというのは、インドの予算の多くは陸軍に向けられており、ずっと水をあけられて2番目に空軍であり、海軍は最も少ない3番目であることの産物であることがよく知られている。そして、海軍力の建設には時間がかかり、資本集約型であるとこから、中国がより迅速に前進しているように対立者である他の国に比較して海軍力建設が引き続き遅いペースであることに、ニューデリーは立ち往生しているのである。
(6) 解決策もまた、よく知られている。そのうちのいくつかは手順が関係している。例えば、相対的な能力の凋落を止めるため、インドは意思決定手順と複雑な調達過程を変更する必要がある。見通しに関連した他の事項として、インドは自らを大雑把に見つめたままにしておいて、結果として安全保障上の脅威を過度に拡大するのではなく、正しく焦点を当てる必要がある。これらの解決策を適用させるのか否か、あるいはただ見つめているだけに留めるのか。それまで、インドの海軍力建設はお題目に見られる徐々に増加する利得とは関係なく遅い作業であり続けるだろう。
記事参照:The Trouble with India’s Slow Naval Buildup

10月4日「米豪は南太平洋における中国の外交攻勢にどう対応するのか?-米専門家論説」(South China Morning Post, 4 Oct, 2019)

 10月4日付の香港日刊英字紙South Chine Morning Post電子版は、米Hawaii Pacific University, Chaminade University, and the University of HawaiiのSharp Research and Translation and taught East Asian politics所長Bill Sharpの “How the US and Australia can counter China’s charm offensive in the South Pacific”と題する論説を掲載し、ここでSharpは南太平洋島嶼国への中国のアプローチは米豪のシーレーンを脅かす可能性もあり、カリブ海地域へのコミットメント強化なども含む総合的な対応を取る必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1) より多くの太平洋島嶼国が台北から北京へと外交関係を切り替えるドミノ効果は、豪州のシーレーンを脅かし、米国のインド太平洋戦略を破壊する可能性もある。米豪両国はこの地域の友好的な同盟国を確保するため、より多くの貿易、資金及び気候変動への対応に資源を投資すべきである。元米国務省東アジア太平洋担当次官Kurt Campbellは、米国は南太平洋を見過ごしており、アジアにおける米国の防衛態勢との地理的戦略的関係を見逃したと彼の著書中で主張している。米国はピボットから「インド太平洋戦略」に移行し、地政学的観点からこの地域をさらに重要なものとみなしている一方で、中国は第二次世界大戦中の日本と同様、その防衛が不可欠であると考えているということである。
(2) 中国が南シナ海から西太平洋、ハワイまでのシーレーンを確保すべく「インド太平洋戦略」に風穴を開けようとしているのは驚くには当たらない。ソロモン諸島とキリバスが外交関係を台北から北京に移すことは間違いなくそうした目標を前進させる。ツバルでもソロモン諸島とキリバスに追随する動きが見られる。豪州の安全保障は中国の軍事施設の建設も懸念される太平洋島嶼国の動きによって深刻な課題に直面している。中国の影響を強く受けている太平洋島嶼国のドミノ効果が起こる懸念があり、このような事態によって豪州は米国及びその他の地域への輸送ルートを遮断されることになるが、これは潜在的に豪州の援助を受ける米軍にとっても障害となり得る。
(3) 米豪両国はこのような状況に対応するためにより大きな努力を注ぐこともできたはずである。例えば米国は、ソロモン諸島が台湾との断交の可能性に言及するまで同国大使館の再開について協議しなかった(現在は在パプアニューギニア米国大使館がソロモン諸島とバヌアツを兼轄)。こうした太平洋島嶼国における台湾から中国への外交関係のシフトへの米豪両国の対応の遅れは偽善的でもある。2011年から2017年にかけて、米国はこの地域に9,800万米ドルの資金援助を行い、豪州も同期間中、どの国よりも多い合計65億米ドルを拠出した。しかし、この地域には豪州の文化的無関心について燻っている感情も存在する。北京はソロモン諸島に対し台湾との断交を説得するため、5億米ドルの融資と助成金を提供したと伝えられている。その大部分は中国土木建設公司が実施するインフラプロジェクトに充てられ、一定の金額は個々の政治家に送られたとも言われている。ただし島民の意見は分かれており、住民の8割と議員の5割が台湾との外交関係断絶に反対したとされ、議会の支持も十分ではないことから、Sogavare首相は11月まで議会を休会としている。いずれにせよ米国で審議中のいわゆる「台北法」に関する情報も、ソロモン諸島やキリバスの台湾との断交を阻止は出来なかったのである。ただし、一方ではソロモン諸島住民の一部が台湾からの奨学金、農業支援、医療サービスなどの恩恵を受けている事実もある。これはマライタ州で特に強力であり、同州では台湾との関係断絶に際し独立を宣言しようとする動きも見られたところである。こうした政治的不安定のため、Sogavare首相は国連総会出席を取りやめ、Jeremiah Manele外相を代理派出せざるを得なかった。
(4) このような事例の教訓は南太平洋島嶼国に限定されるものではない。ハリケーンで荒廃したカリブ海諸国の多くは中国がその影響力を強める機会を提供しており、特に貧しく、インフラ開発が切実に必要とされるハイチは次のターゲットとなる可能性もある。カリブ海における中国の影響力の高まりを考慮すれば、ハイチはキューバからドミニカ共和国の東端に伸びる三日月形の壁の形成を支援し、パナマ運河と建設中とされるニカラグア運河へのアクセス確保のために利用され得るだろう。米国はキューバ、ハイチ、ドミニカ共和国での長い歴史において、プエルトリコの統治やパナマ運河の管理という形で同じことをやってきた。ハイチが米大陸の脆弱な中心部に位置していることを考慮すれば同国と中国との外交関係は米国にとって安全保障上の脅威ともなり得るだろう。「台北法」には実効性がなく米国を「張り子の虎」のようにも見せている。こうした状況の下での米国の安全保障を支え、「インド太平洋戦略」を促進するのは、何よりも貿易、資金、気候変動への関心である。太平洋を横断する諸国とのパートナーシップと同様、カリブ海地域におけるパートナーシップも重要である。米国は特に、これら地域にとって優先課題である地球規模の気候変動問題にもっと積極的に取り組む必要があるだろう。
記事参照:How the US and Australia can counter China’s charm offensive in the South Pacific

10月8日「フィリピンによる南シナ海開発へのロシア企業誘致の意味―香港紙報道」(South China Morning Post.com, October 8, 2019)

 10月8日付の香港日刊英字紙South China Morning Postは、“Philippines’ hopes for South China Sea exploration deal with Russia depend on Moscow’s ties to China, experts say”と題する論説記事を掲載し、フィリピンが南シナ海における石油・ガス開発にロシア企業を誘致したことを受け、その意味をめぐる解釈およびロシア側の思惑について、要旨以下のように報じている。
(1)フィリピンのRodrigo Duterte大統領は、中国との間で主権を争う南シナ海における石油・ガス開発に、ロシアの巨大国営石油企業Rosneftを誘致するよう試みている。駐ロ比大使Carlos Sorretaによれば、ロ企業との間に石油・ガス開発について何らかの契約が結ばれたとしても、それは南シナ海におけるフィリピンの権利を損なうものではないとのことである。
(2)こうしたフィリピンの試みは、ベトナムのやり方を模倣しているという見方がある。中国とベトナムは、中国の調査船が南シナ海のヴァンガード堆を航行したことをきっかけに緊張状態にある。中国は同海域における権利を主張し、かつベトナムに対し外国企業との石油・ガス開発を行わないよう圧力をかけてきた。実際にベトナムはスペイン企業Repsolとの石油・ガス掘削を停止し、上記中国の調査船「海洋地質8号」の派遣は、ヴァンガード堆近くにおけるベトナムとRosneftよる石油リグ作業の妨害の試みであった。
(3)しかし、広東省にある曁南大学の東南アジア専門家の張明亮によれば、「中国はロシアの石油開発計画を、スペイン企業のそれと同じようには扱っていない」という。このことは、中国との関係が深いロシアを開発計画に誘致することで、ベトナムがロシアを中国に対するカウンターウェイトとしていることを示唆している。そして上述のように、フィリピンの最近の動きは、こうしたベトナムのやり方に続いているように考えられているのだ。
(4)一方ロシア側については、中国と事を荒立ててまで南シナ海におけるプレゼンスを拡大しようとは思っていないという観測がある。ロシアにとってベトナムは長年にわたるパートナーではあるが、ロシアは中国との関係も深く、南シナ海をめぐる係争については中国寄りの姿勢が見られる。ウラジオストクにあるFar Eastern Federal UniversityのArtyom Lukin准教授によれば、モスクワは南シナ海を「暗黙裡に中国の地政学上の影響圏と認識している」という。Lukinは「ロシアは南シナ海にある程度の利害を持ち、したがって中ロ間に対立点はあるものの、それが中ロの「戦略的パートナーシップ」を不安定化させる可能性は低い」と指摘している。
(5)フィリピンがロシアを中国への対抗勢力に利用しようという見方には疑問もある。8月にDuterteは北京を訪問し、中国とフィリピンは石油・ガス共同開発に関して合意しているのである。この合意の内容については定かではないが、こうした動きからも、フィリピンがただ中国への対抗を狙ってロシア企業を誘致しようとしていると考えるのは尚早だという研究者もいる。
記事参照:Philippines’ hopes for South China Sea exploration deal with Russia depend on Moscow’s ties to China, experts say

10月8日「ブラジルのインド太平洋への戦略的拡張-豪専門家論説」(The Diplomat, October 8, 2019)

 10月8日付のデジタル誌The Diplomatは、豪シンクタンクFuture Directions International客員研究員Balaji Chandramohanの “Brazil’s Strategic Expansion in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでChandramohanはブラジルが戦略的な野心からインド太平洋への戦略的進出を考えているとして、要旨以下のように述べている。
(1) ブラジルは、地政学的野心からインド太平洋地域への戦略的な進出を目指している。南アメリカの地域大国から太平洋を越えアフリカ西岸にまで影響力を延伸させようと動き出している。新興国の一員とされているものの、ブラジルは2015年以降に深刻な不況と政治的混乱に陥っているが、2019年1月に就任したJair Messias Bolsonaro大統領は、戦略的優先事項を勝ち取るための強硬姿勢をとることが予想されている。防衛面についてみれば、ブラジルは南アメリカで1番の軍事力を有するが、ここ数十年間は大きな戦闘もなく軍隊は戦闘経験を欠いている。ブラジルの脅威は、歴史的に見て海からではなく陸上から及ぶ。そのことは、戦略的文化を形成し、軍隊の構成にも影響を与えている。そのような地政学的思考にも関わらず、近年ブラジルは陸軍兵力を保ちつつ更に海軍と空軍の増強に力を入れつつある。軍事独裁政治が終わって以降この30年間で、ブラジルは成熟した民主主義国家となっているが、インド太平洋への壮大な野望は、外交と防衛政策にも表れてくるだろう。
(2) ブラジルのインド太平洋への拡張戦略は、実は2003年から2010年までのLuiz Inácio Lula da Silva大統領の施政下で育まれていた。ブラジルの夢は、アフリカから西太平洋にまで広がっている。ブラジル政府は、アフリカでの影響力を得てそれをアジアにまで拡大することを企図し、アンデス山脈を越える鉄道を建設し両洋の港を結びつける計画を立て、そのため、中国との連携を図ろうとしている。このプロジェクトは、中国等からの船舶がペルーに入りブラジルから鉄道で運ばれた貨物を積み込むことを可能とするものである。これにより、中国や他の国からの物品がパナマ運河から大西洋に抜けブラジルの港に入る航程をショートカットすることができる。そのため、ペルーのイロ港からブラジルのサンパウロまで、太平洋と大西洋を結ぶ広大な鉄道インフラを建設する計画が生まれ、チリ、ペルーなどが参画を表明している。この計画は、中国の一帯一路構想と連携されている可能性がある。ブラジルが構想するアフリカを経てインド・太平洋に至る地理上にはポルトガル言語圏が連なる。アンゴラ、カーポベルデ、赤道ギニア、モザンビークなどがブラジルの軍事、経済そして政治的進出を手助けするだろう。アジアの東チモールは更なる機会を提供するだろう。エクアドルの首都キトに本部を置くSouth American School of Defenseはブラジルのアフリカ進出を促進させており、ブラジル海軍はアフリカ連合を支援しカーポベルデやナミビアと協力してアフリカ各国との戦略的連携を進めている。
(3) ブラジルは南大西洋に最長の海岸線を有する国であり、シーパワー(抄訳者注:原文はmaritime power)を投影できる可能性を持っている。そのシーパワーを支えるのはブラジルの持つランドパワー(原文はcontinental power)であり、米国と同じように戦略的縦深を与えている。ブラジルの海軍力は近海防衛に留まる情況であるが、やがてシーコントロールやシーディナイアルの力を持つことが予期できる。ブラジルは1990年代の時期にドイツからの潜水艦開発のための支援を得ていたにもかかわらず、経済混乱の中で戦略的なプレゼンスを拡大することができなかった。ブラジルの海軍拡張計画の進展は、2008年のフランスとの戦略的同盟関係樹立が契機となった。5隻の潜水艦が建造され、2019年までには原子力潜水艦の導入を予想する向きもある。ブラジルはオーストラリアと同様に潜水艦建造にフランスの専門的知識を活用しようとしている。2018年12月にはScorpene級潜水艦が進水し2019年9月に海上試験を開始している。ブラジル海軍では空母Sao Pauloをいずれは退役させる。米国が2008年に第4艦隊を復活させたとき、当時のda Silva大統領は「ラテンアメリカに向けた艦隊の再建は米国のブラジルの石油埋蔵量に関心を示すものだ」との考えを示した。この時期からブラジルの潜水艦建造計画が加速することになった。潜水艦建造だけでなく、フランスは乗員の訓練も支援している。サンパウロのブラジル海軍技術センターにおける海軍原子力プログラムでは、原子力潜水艦技術開発も進められている。仮にブラジルが原子力潜水艦艦隊を整備すれば、それは中国やロシアのいわゆる「要塞海洋戦略」とは異なる目的を持つものとなるだろう。ブラジル海軍の原子力潜水艦は南大西洋からインド・太平洋へと拡大するブラジルの戦略の道筋を描くものとなるだろう。
(4) 一方でブラジルは、海洋能力の開発に向けてコロンビア、チリ、メキシコ、そしてペルーに太平洋同盟への積極的参加を求める可能性がある。太平洋同盟の総人口は2億2500万人で、同地域の対外直接投資の38%を占めている。太平洋同盟は、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイを結ぶ地域貿易ブロックである南米南部共同市場と協力関係にある。今後、ブラジルの経済的影響力と地政学的地位が高まれば、アフリカ更には、インド太平洋地域への戦略的拡大が進む可能性がある。ブラジルの野心は、革新的な海洋戦略と海軍近代化計画によって促進され、南米南部共同市場や太平洋同盟のような地域構造への更なる積極的参加によって補われるだろう。
記事参照:Brazil’s Strategic Expansion in the Indo-Pacific

10月8日「ベトナムに対する中国の圧力、その要因とリスク―比専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, October 8, 2019)

 10月8日付の米シンクタンクCSISのWebサイトAsia Maritime Transparency Initiative は、比シンクタンクThe Asia-Pacific Pathways to Progress Foundation の研究員Lucio Blanco Pitlo III の “Drivers and risks of China’s pressure on Vietnam”と題する論説を掲載し、ここでBlanco は中国のベトナムに対する厳しい対応の要因とそれが内包するリスクについて、要旨以下のように述べている。
(1)地域的及び国内的要因が融合して、ベトナムに対する南シナ海での中国の圧力の強化を引き起こしているが、この戦略は北京にとって重大なリスクを内包しており、度が過ぎれば裏目に出るかもしれない。現在のところ、ハノイによる対応の選択肢は限られているが、北京の威圧的戦術がASEANと国際社会におけるベトナム支援の声を高めれば、ベトナムは力付けられるかもしれない。
(2)中国はこれまで、小国の領有権主張国、特にベトナムに対する圧力を強めてきた。これには幾つかの要因を指摘できる。
a.1つには、フィリピンと中国との間の共同開発提案を巡る交渉は、フィリピンでは依然論議を呼んでいるが、政府の最高レベルの支持を得ており、それが牽引力となっているようである。フィリピンとベトナムは共に半閉鎖海(南シナ海)に対する中国の過度の領有権主張に最も強固に反対する領有権主張国であり、1つの国(フィリピン)との合意進展の可能性は、北京にとってもう1つの国(ベトナム)に対する重点指向を可能にすることは確かである。
b.2つ目の要因は、中部ベトナム沖の大規模なBlue Whale開発プロジェクトに関与している、米国テキサス州に本拠を置くExxonMobil社が、投資を継続するかどうかの判断時期に近付いていることである。エネルギー需要を高める急速な経済成長のために、Blue Whale開発プロジェクトは、ベトナムにとって不可欠であり、そして恐らく画期的なものでさえある。ExxonMobil社が最近、ノルウェーの資産を処分し、その資産をメキシコ湾に集約していることから、北京はベトナムからも同社の投資を引き上げさせようと策動しようとしたのかもしれない。中国の対応は同社の判断に大きな影響を与えるかもしれない。
c.3つ目の要因は、中国の圧力はNguyen Phu Trongベトナム共産党書記長兼国家主席が予定している2019年末頃のワシントン訪問に影響を及ぼすこと狙ったタイミングであったかもしれないことである。ベトナムのエネルギー安全保障、国内経済、及び同国の大陸棚における海洋経済権益の継続的な行使に及ぼす潜在的な影響を考えれば、Blue Whale開発プロジェクトは、恐らく米越会談の議題となろう。ExxonMobil社の現地パートナー、国有PetroVietnamの担当者も訪米代表団に加わると見られている。
d.4つ目の要因は、ベトナムは2020年のASEANの持ち回り議長国となり、したがってハノイは、南シナ海における中国の高圧的な行動に対抗するためのより強固な地域的コンセンサスを作り上げるために、おそらくこの機会を利用するであろうということである。現在交渉中の「行動規範」(COC)の早期合意は、領有権主張国が南シナ海における自国の立場を劇的に強化しようとする機会を閉ざすことになろう。
e.さらに、2021年の中国共産党結党百年が近づいており、北京は、領土、海洋権益及び国家安全保障に対する中国の拡大された概念を守るという、党の決意を誇示することを狙ったのかもしれない。中国はまた、投資家が(中国の圧力を怖がって)逃げ出さないようするために、ベトナムは2014年の紛争(中国の石油掘削リグの設置に続く中越の海洋紛争)の再現を回避するであろう、と計算しているのかもしれない。
(3)ベトナムのような隣接沿岸国の水域に調査船を派遣するという中国の決定は、より大きなリスクにも耐えるという意志を表徴するものである。しかしながら、このアプローチも度が過ぎると、幾つかの面で裏目に出るかもしれない。例えば、このアプローチは、海洋経済権益を守るハノイの決意を一層固めさせ、中国の圧力を挫くため米政府をしてExxonMobil社を支援させ、そして自国の沖合におけるエネルギー開発プロジェクトへの外国資本の投資を排除しようとする中国の圧力に対して、ASEAN諸国を結集させることになるかもしれない。
(4)ハノイの対応の選択肢は限定されているが、薄弱な法的根拠に基づく中国の領有権主張は依然弱みであり、2013年にフィリピンが仲裁裁判所に提訴したように、ベトナムがこの事案を国際機関に持ち込む可能性もある。フィリピンの提訴に対する仲裁裁定は、中国の悪名が高い「9段線」主張とそこにおける歴史的権利を無効とした。さらに、裁定が南シナ海には国連海洋法条約に規定する「島」(EEZと大陸棚を有する)の存在を認めず、しかも海洋権限が島嶼群全体ではなく、個々の「島」自体に由来するものであることから、島嶼群全体に基づく領域や海洋資源に対する主張も、成り立たないであろう。
(5)一方、領有権主張国とASEANは、係争海域で中国が展開する圧力戦術が中国自身の利益にとってだけでなく、平和と安定を求める地域の期待にも有害なものであることを、北京に説得し続けるべきであろう。中国は、海洋における商業活動(石油と天然ガスプロジェクト)や軍事的関与(ASEANと他の大国間の演習)を、他の大国に中国近海における利益を阻害する足がかりを提供するものとして、深刻な懸念を抱いているかもしれないが、他方でASEANもまた自らの自立性を失い、1つの大国の前に過度に身を晒すことについて、同じように、あるいはそれ以上に懸念していることを、中国は認識すべきである。東南アジアの南シナ海沿岸諸国は、自らの商業活動や、他の国や大国との安全保障関係が北京に対抗することを狙いとしたものではないことを、中国に保証すべきであろう。
(6)北京は、代価を強いられることなく、南シナ海において隣国を威圧することができると思われるかもしれないが、実際には、ベトナムに対する威圧的行動の継続には明確なリスクが存在する。北京からのある程度の緊張緩和と協力に向けての真摯な提案がなければ、地域内外の対中姿勢は厳しいものになるであろう。そうなれば、ハノイにとって、ASEANと国際社会の両方から対中批判を盛り上がることはより容易くなろう。
記事参照:Drivers and risks of China’s pressure on Vietnam

10月8日「気候変動がアラスカのベーリング海の漁業に大きな打撃を与えている―フリーランスジャーナリスト論説」(Arctic Today, October 8, 2019)

 10月8日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウェブサイトは、フリージャーナリストYereth Rosen の“Climate change will hit some of Alaska’s Bering Sea fisheries harder than others”と題する記事を掲載し、ここでRosenは気候変動がアラスカのベーリング海の漁業に大きな打撃を与えているとして要旨以下のように述べている。
(1) ベーリング海の海水温が高まり酸性の度合いが大きくなると、メバル、カレイ、ズワイガニはこの変化に対し極めて弱いと国立海洋大気庁(NOAA)の科学者は述べている。商業的に重要なスケトウダラとマダラは水温の低い北の海域に移動することができるので、少なくとも今のところは脆弱ではないとの研究結果がある。Global Change Biology誌に掲載された調査では、ベーリング海東部の36種の海中生物を分析し、気候変動への感度と脆弱性をランク付けした。分析した要素には、海面温度、深度別の温度、塩分、海洋酸性度及び植物プランクトンが増加する時期が含まれている。この研究では、海中生物の商業的価値については言及していないが、NOAAの関係者たちは、分析した海中生物がアラスカと米国にとって経済的に非常に重要であることを認めている。2016年のベーリング海とアリューシャン列島の漁獲量は米国の商業漁業の水揚げ量の58パーセント、着船渡し価格の29パーセントに相当し、その重要性は単に金額のみではないとNOAAアラスカ水産センターの研究責任者であるRobert Foyは声明で述べている。「過去数年間、海水温は平均よりもはるかに高く、このような研究の必要性が増大している。生態系の変化を分析し、短期的及び長期的な予測を提供して、漁業、レクリエーション(釣り)、自給自足のコミュニティに影響を与える変化を予測して対応してもらうには、現場と実験室の両方の調査研究が重要である」ともFoyは述べている。
(2) 海中生物は気候変動に対する感度とその変化に対する脆弱性によってランク付けされる。NOAA漁業生物学者であり、この研究の中心であるPaul Spencerによると、2つの指標は異なるものの関連しているという。「感度とは、海中生物が気候変動の影響を受ける度合いを指す。露出とは、海中生物が気候変動(すなわち、環境または生物学的条件の変化)にさらされる度合いである」と彼は指摘する。「脆弱性は感度と露出の両方で決定される。例えば、ある種類の海中生物は気候変動に非常に敏感であるが露出はほとんどないと予想され、別の種類の海中生物は気候変動にさらされるが感度が低い場合がある。これらのいずれの場合でも脆弱性は低いとランク付けされる。気候変動への感度の尺度で最高位にランク付けされている海中生物は、数の増加が少なく、産卵サイクルが制限されている。カニの場合、海水の酸性化に敏感である。マダラ、スケトウダラ及び大きなミズタコは海中を移動する能力、主要な生存域での分散する力、比較的高い増加率を持っているため、気候変動に対する感度は低いとランク付けされた。この研究の目的は、ベーリング海の底魚、サケ、カニの主要なグループの代表的な種類を含めることであった」とSpencerは述べた。この研究結果は、連邦漁業規制当局が2018年12月に承認したベーリング海生態系計画に使用できると彼は述べている。
(3) ベーリング海の温度が上昇すると、北方の種がさらに北に移動するという証拠がある。証拠の中には、NOAAアラスカ水産科学センターの研究者による新しい研究結果がある。この研究では、2017年に北ベーリング海で見つかったマダラと、ベーリングのさらに南で見つかったマダラの遺伝的つながりが解明された。「我々の研究は、気候変動によりマダラを含む多くの亜寒帯種の生息域が拡大しているという仮説を支持している」とEvolutionary Applications誌に掲載された研究では述べられている。ベーリング海のズワイガニの個体数には問題がある。数量は落ち込んでおり、2020年10月6日にアラスカの漁業局は2020年の収穫を中止した。これは2019年の中止に続くものである。「ベーリング海地域の成熟オスのバイオマス(一定範囲内の生物の現存量)は、漁業の開始に必要な値を下回っている」と同局は発表した。他のベーリング海のカニの一部も、通常よりも低い状態にある。漁業局は、St. Matthew島付近の海域でのタラバガニの2020年収穫及びPribilof諸島周辺の海域でのタラバガニの収穫も中止した。しかし、ズワイガニは比較的良好な状態にあり、漁業局は収穫割当を増やすことができた。
記事参照:Climate change will hit some of Alaska’s Bering Sea fisheries harder than others

10月8日「中国の軍事外交の増加―米海軍協会報道」(USNI News, October 8, 2019)

 10月8日付のU.S. Naval InstituteのウェブサイトUSNI Newsは、“Chinese Warship Visit to Japan Part of Growing Military Charm Offensive”と題する記事を掲載し、中国が海上自衛隊の観艦式に艦艇を派遣したことを事例として軍事外交を重視していること、また、それに関連する最近の中国海軍の動向について、要旨以下のように報じている。
(1)軍隊を活用して外交目的をさらに進めるための継続的な取り組みの一環として、中国海軍はめったにない日本への寄港を含む親善訪問に2隻の艦艇を派遣することで、この秋、地域における微笑攻勢に乗り出している。10月第2週に中国国防部が発表した声明によれば、中国海軍のミサイル駆逐艦「太原」は相模湾での国際観艦式に参加する予定である。同時に、中国の国防部によると、中国の海軍練習艦「戚継光」は、受け入れ国を訪問する2カ月間の訓練航海の一環として、東ティモールのディリ港に寄港した。中国海軍によって行われたこれらの10月の寄港は、中国ウォッチャーと地域の専門家たちが中国外交にとってますます不可欠な部分であると述べている軍事外交の最新の例である。
(2)軍事外交とは、中国の主権、保安、安全保障及び開発利益を守るということである。Center for Strategic and International StudiesのChina Power ProjectディレクターBonnie Glaserによると、約5年前、中国の習近平国家主席は、国の経済目標を促進するために軍隊を使用する方針を明らかにした。「それ以来我々は、中国の軍事外交が本格的に増加しているのを見てきた」とGlaserは述べている。The China Power Projectは最近、中国による他国への軍事的関与が増加していることに関する詳細な分析を発表した。2003年から2016年の間に中国は、ロシアといくつかの大規模な軍事演習を実施した。ただし、The China Power Projectの研究によると、この期間に中国で最も頻繁に軍事交流を行ったパートナーは米国だった。実際には、軍事外交とは、中国軍が二国間または多国間の演習に参加し、世界中の軍との間での高級レベルの会合に軍指導部の幹部を派遣し、そして艦艇を各国の港へ親善訪問させることを意味する。「軍事外交は、世界と交流する中国の全体的な戦略の一部として非常に重要になった」とGlaserは述べた。
(3)太原を東京での海上自衛隊観艦式に参加させることにより、中国海軍は最新のミサイル駆逐艦の1隻を誇示した。英国、インド、オーストラリア、カナダ、シンガポール及び米国からの海軍艦艇は、10月14日に予定されている観艦式に参加する予定である。2018年12月に就役した「太原」は、排水量6000トンの新しいタイプのミサイル駆逐艦であると中国によって説明されている。
(4)「太原」の東京訪問は、人民解放軍海軍建軍70周年記念行事参加のため海上自衛隊の護衛艦による中国訪問に引き続いて行われた。「軍事外交は軍事力のソフトパワーの側面の一部を世界と共有するために効果的な方法として中国は見ていると私は考えている」とGlaserは言う。
記事参照:Chinese Warship Visit to Japan Part of Growing Military Charm Offensive

10月8日「蔡英文総統による新南向政策に対する見解―台湾ニュースサイト報道」(Focus Taiwan, October 8, 2019)

 10月8日付の台湾国営中央社の英字ニュースサイトFocus Taiwanは、“China’s isolation of Taiwan hinders regional stability: Tsai”と題する記事を掲載し、台湾の蔡英文総統とカナダの元首相Stephen Harper による新南向政策に関する演説について、要旨以下のように報じている。
(1)10月8日、蔡英文総統は、このような抑圧が地域の平和を妨げると述べて、この国を国際的に孤立させる中国による現在進行中の取り組みを非難した。「台湾を孤立させる中国の取り組みは地域の繁栄と安定を妨げることしかしていない」と彼女は主張した。彼女は、より志を同じくする国々が台湾のそばに立ち、インド太平洋地域におけるその重要な役割を認めることに前向きであることに感謝している。中国に対する総統の批判は、玉山フォーラムの開会式でのスピーチの中で登場した。今年で3年目を迎えたこの年次会議は、台湾の地域的地位を促進し、その新南向政策(以下、NSPと言う)の対象国との広範な関係を築くための政府の取り組みを支援するため、2017年に第1回が始まった。蔡は、ASEAN加盟国、南アジア諸国、オーストラリア及びニュージーランドとの交流を強化しようとする2016年5月の政策の開始以来、いくつかの大きな成果があったと述べた。
(2)総統によると、昨年、NSPの対象国から5万人の学生が台湾で勉強し、今までで最多記録となる2万人の台湾人学生がこれらの国で勉強した。蔡は、就任以来、双方向の旅行、貿易及び投資の進歩も指摘した。2018年には、台湾とNSPの国々の間で500万回の訪問が行われたが、その中には台湾への旅行者による260万回の訪問があり、2015年と比較して70%増加している。貿易と投資の面では、台湾のNSP諸国との貿易総額は2017年に初めて1000億米ドルを超え、2018年には1100億米ドルに達した。また、台湾の企業は過去4年間で100億米ドル以上をNSP諸国に投資している。中国と米国の間の貿易戦争が続くにつれて、蔡は世界中のより多くの国が生産拠点を南及び東南アジアに移動することを選択することを予測していた。
(3)フォーラムの基調講演者、カナダの元首相Stephen Harperは、NSPを称賛した。彼は、農業、商業、観光及びインフラ、18カ国に及び幅広い地理的範囲を包含する多様な範囲で、インド太平洋地域での協力を促すという野心的な意図を褒め称えた。Harperはまた、特に西側諸国におけるポピュリズムの台頭についての考えを話し、それが近年、世界に「混乱」をもたらしたと述べた。技術革新と政治的不満という主なトレンドの結果として、Harperはインド太平洋地域が3つの教訓を学ぶべきであることを提案した。それは、経済成長を包括的にすること、貿易に相互利益を確保すること、そして、慎重な政策により国境をコントロールすることである。
記事参照:China's isolation of Taiwan hinders regional stability: Tsai

10月9日「ロシア海軍は小型で静粛なAIP推進の特殊戦用潜水艦を企図―米専門家論説」(The National Interest, October 9, 2019)

 10月9日付の米隔月刊誌National Interest 電子版は、軍事、安全保障に関する同誌寄稿者Michael Peckの “The Russian Navy Wants Tiny, Stealth Commando Submarine”と題する論説を掲載し、ここでPeckはロ海軍が小型で、静粛性の高いAIP搭載の特殊戦用潜水艦を開発しているとして要旨以下のように述べている。
(1) ロ海軍の潜水艦はますます小さくなり、潜水員を上陸させるための潜水艦を探知することは難しくなるもしれない。ロシアの2つの設計局は、空気に頼らない推進力で動く、静かで敵が探知しにくい潜水艦を提案している。ロシアのRossiyskaya Gazeta誌によると、ロ国防省の代表者は、原子力潜水艦と同様の利点(編集注:長期潜航が可能という趣旨か?)を持つ、より小型で静粛な新しいタイプの潜水艦を保有したいという事実を隠していない。Rubin Central Design Bureau of Marine Engineering は、数年前から空気に依存しない発電機を備えた潜水艦の建造計画に取り組んでいる。
(2) 1930年代にドイツの科学者によって考案されたAIPは、原子力潜水艦ができる前のディーゼル潜水艦の問題点を解決することを目的としていた。ディーゼル潜水艦は推進力維持と乗員の生命維持のため空気を取り込む必要があり、探知されやすいスノーケル航行のために頻繁に露頂しなければならなかった。AIPは、燃料電池やクローズドサイクルエンジンのように外気の取り込みに依存しない動力源を使用して機能する。これにより、通常型潜水艦は原子力潜水艦のように潜航したまま航行できるようになる。潜航時間の延長に加えて、AIPには重要な側面での利点もある。それは、原子力潜水艦の精巧な機器よりもはるかに静粛なエンジンである。静粛性が高いので、米国海軍は、イランのような国によって運用されているAIP潜水艦を探知できないかもしれないと心配している。
(3) ロシア海軍は、Rubin Central Design Bureau とMalakhit design bureau の競合する2社から設計案を得ている。Rossiyskaya Gazeta誌によると、Malakhit design bureau は水中航続距離1,200マイル、最大潜航深度300メートル、行動日数30日以上、乗組員18〜20名、16人の特殊戦潜水員チーム用の潜水艦を提案している。その要目は、革新的なクローズドサイクルガスタービンエンジンに基づいた無酸素性として知られる非大気依存型推進システムを搭載した潜水艦での条件を基礎としている。Rubin Central Design Bureau は非大気依存型推進システムの実例とリチウムイオン蓄電池と併用したAIPユニットを実験するための特別な航走体の建造計画に携わっている。Malakhit design bureauが提案している潜水艦はそれほど大きくなく、全長約66メートルで、米国バージニア級攻撃型原子力潜水艦の全長の約半分である。
(4) 米海軍の分析者によれば、代表的な原子力潜水艦の推進システムの出力が20,000馬力であるのに対し、最新のAIP機関の最大出力は400馬力(300キロワット)程度である。ロ海軍は米海軍に比べより沿岸防衛型の海軍であり、AIP搭載潜水艦が適合している。海軍の特殊戦にとって、鍵となるのは静粛に特殊部戦隊員を発進させ、収容し、離脱することであり、小型のAIP搭載潜水艦はこれにおあつらえ向きである。
記事参照:The Russian Navy Wants Tiny, Stealth Commando Submarine

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Maritime Gray Zone Tactics: The Argument for Reviewing the 1951 U.S.-Philippines Mutual Defense Treaty
https://www.csis.org/maritime-gray-zone-tactics-argument-reviewing-1951-us-philippines-mutual-defense-treaty
CSIS, October 1, 2019
Adrien Chorn, a former research intern with the Southeast Asia Program at the Center for Strategic and International Studies (CSIS)
Monica Michiko Sato, a research intern with the CSIS Southeast Asia Program
 10月1日、米Center for Strategic and International StudiesのAdrien Chorn とMonica Michiko Satoは、同シンクタンクのウェブサイトに、" Maritime Gray Zone Tactics: The Argument for Reviewing the 1951 U.S.-Philippines Mutual Defense Treaty "と題する論説を連名で発表した。ここで彼らは、1951年8月31日に米国とフィリピン共和国との間で結ばれた米比相互防衛条約(以下、MDTと言う)における、いわゆるグレーゾーン問題を取り上げ、南シナ海で係争中の海域におけるフィリピンの資産への攻撃に関する米国のMDTへのコミットメントは条約締結以来不明であると指摘し、グレーゾーン戦略を採用する相手国は従来とは異なる手段を用いて攻撃目標を設定する可能性があるが、通常はMDTを介して共同で対抗措置が取れるのに対し、それが難しくなると指摘している。そして、中国のグレーゾーン戦略に対抗するためにも、フィリピンは同戦略の脅威がもたらす新たな現実に対応すべくMDTの改定を提唱する必要があると述べ、このようなフィリピンの断固たる行動は、米比関係を改善し、かつ、地域における中国の好戦性に対抗するためのより効果的な戦略になりうると主張している。
 
(2) Just Say Diesel: Should The U.S. Buy Diesel Attack Submarines?
https://nationalinterest.org/blog/buzz/just-say-diesel-should-us-navy-buy-diesel-attack-submarines-85776
The National Interest, October 4, 2019
By James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the U.S. Naval War College
 10月4日、米海軍大学教授のJames Holmesは米隔月誌The National Interest電子版に“Just Say Diesel: Should The U.S. Buy Diesel Attack Submarines?”と題する論説を寄稿し、①過去5年ほどの間、米海軍が通常型攻撃潜水艦(以下、SSKと言う)を建造又は購入することを強く要求しているが、これは海軍の原子力潜水艦建造を専門とする少数の造船所に余分な負担を課すことなく、管理可能なコストで即座に新しい潜水艦を追加する方法を提供する、②SSK部隊は、米国防総省が「重要度の高い戦域」(priority theater)と呼んでいる地域(特にインド太平洋地域)で、米国の戦略を実行するための理想的な道具である、③ロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)は潜水艦として運用できなくなるまで使用することで除籍を緩やかにし、同時に後継のバージニア級SSNをロサンゼルス級SSNを代替するのに十分なペースで就役させれば、すべてが計画通りに進む場合、66隻の原子力潜水艦の艦隊を構築する途中で除籍される潜水艦のペースを追い抜くことになる。海軍指導者たちは造船所が追いつかないかもしれないと懸念している、④潜水艦建造の優先事項は、2つの重要な海軍の機能を互いに対立させる、つまり、核抑止力を与えることが多くの作戦の中でも制海(command of the sea)に優先される、⑤しかし原子力弾道ミサイル潜水艦による抑止力には、恐ろしい機会費用が伴う、⑥哨戒任務にSSNは必要なく、それらは外洋でシー・コントロールの任務を行う一方、安価なSSKは通常の抑止力を強化する、⑦沿岸海域向けの新しいテクノロジーをSSKに搭載し、そのような海域を守るなどと述べ、米海軍はSSKを導入し、それらとSSNを用途や地理によって使い分けることが効率的であるという趣旨の主張を展開している。