海洋安全保障情報旬報 2019年7月21日-7月31日

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7月21日「南シナ海での緊張の高まりの中で中国近隣諸国が沿岸警備能力を強化―香港紙報道」(South China Morning Post, July 21, 2019)

 7月21日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China’s neighbours bolster their coastguards as stand-off stokes tensions in disputed South China Sea”と題する記事を掲載し、フィリピンとベトナムは、ヴァンガード礁での中越のにらみ合いの後、自国の沿岸警備能力の強化に動きだすことになったが、このように沿岸警備隊はアジアで最も複雑な領域での紛争において大きな役割を担っているとして要旨以下のように報じている。
(1)南シナ海の領域紛争において中国が海警を活用している情況に対応し、近隣諸国も沿岸警備能力の向上合戦を繰り広げている。軍事力を用いず領域紛争を有利に進めようとする中国の対応は、地域の緊張を高めるとの見方がある。7月17日、フィリピンが仏製の沿岸警備艇を12月に導入すると報道した。この84メートル級の警備艇はフィリピンで最大のものとなる。ベトナムは領海以遠において沿岸警備艇が任務を遂行することを認める法令を成立させた。南シナ海の緊張は、中国の海警2隻とベトナム沿岸警備艇4隻が南沙諸島のヴァンガード礁で睨みあいを始めてから一気に高まっている。専門家の多くは、この睨み合いの膠着状態が、沿岸警備艇による行動を更に強めることになると見ている。これまでは、沿岸警備隊よりも海軍を重要視してきたが、現状は海軍力を増強する中で沿岸警備艇を増大させていることが見て取れる。中国は明らかに、南シナ海と東シナ海での紛争に海軍艦艇ではなく海警を活用している。2012年、中国はスカボロー礁でのフィリピン漁船に対して海警で対応し管轄を奪い取り、それ以降、両国の関係は最悪の状態となった。2014年、南シナ海における中国のオイルリグの展開を巡っての紛争でも中国巡視船がベトナム沿岸警備艇を排除し、以降、ベトナムでは反中抗議がエスカレートした。
(2) 中国政府による南シナ海での非軍事力、特に海警の活用は、他の紛争当事国にそれが有効な手段であると認識させることになっている。理論的には沿岸警備隊を使うことによって非軍事的であり安定を求めているように受けとめられが、しかし、実際には、非軍事力であっても強制的な力を用いていることに変わりはない。フィリピンのDuterte大統領は他の南シナ海諸国に対中国に対する結束を呼び掛けているが、その一方で沿岸警備隊の増強を図っており、2月には日本から12メートル級の高速艇2隻を受け取っている。またフィリピン沿岸警備隊は5月に米沿岸警備隊との共同訓練を実施している。ベトナムは、沿岸警備能力向上を目指して米国、日本そして韓国と共同している。過去2年間、米国はベトナムの沿岸警備隊に18隻の巡視船を提供しており、日本の安倍首相はベトナムが新しい沿岸警備艇で海上法執行力を強化することを支援すると約束している。専門家は、沿岸警備の船が増えると、遭遇時における規範が取り決められていない現状において、偶発的な衝突を起こす危険性が潜んでいると警告する。沿岸警備に当たる巡視船の行動規範が作られない限り、危険な行動の相互作用により紛争海域はより紛争の危険性が高まるだろう。
記事参照:China’s neighbours bolster their coastguards as stand-off stokes tensions in disputed South China Sea
(関連記事)

7月23日「中国の増大する影響力に対抗するため米国は太平洋における行動を拡大―香港紙報道」(South China Morning Post, 23 Jul, 2019)

 7月23日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、Meridian InstituteのMeaghan Tobinの“US steps up its activities in the Pacific to counter China’s growing influence: Coast Guard chief”と題する論評を掲載し、ここでTobinは米沿岸警備隊司令官Karl Schultz大将が太平洋において、そこが米国の領域であるとしても北京がプレゼンスを増大させている「明らかな兆候」があると述べ、米沿岸警備隊は地域の国々がそれぞれの主権的利益を守ることを支援すると同時に沿岸警備隊自身が地域の国々によって「選ばれたパートナー」として地域において行動する計画であると述べている。
記事参照:US steps up its activities in the Pacific to counter China’s growing influence: Coast Guard chief

7月21日「南シナ海行動規範をめぐる交渉の進展と今後の展望―香港紙報道」(South China Morning Post, July 31, 2019)

 7月21日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“‘Major progress’ on South China Sea code of conduct talks even as Beijing warns other countries against ‘sowing distrust’”と題する記事を掲載し、南シナ海に関する行動規範(以下、COCと言う)をめぐる交渉が一歩進んだことを受け、今後の展望について要旨以下のとおり報じている。
(1)中国の王毅外交部部長は、中国とASEAN諸国の間で、COCの交渉草案の第一回検討会議を予定より早く終えたと発表した。この作業は「三年以内(抄訳者注:2018年に交渉草案が完成してからの意)に協議を終えるという目標に向けた重要なステップである」と王外交部部長は述べた。王外交部部長はまた、米国を念頭に起きつつ、南シナ海域外の国々がむやみに関与するべきではないと牽制した。
(2)南シナ海に関して中国は、ベトナムやフィリピン、台湾、マレーシア、ブルネイなどとの間で領有権をめぐって係争中である。中国は係争海域において、環礁を埋め立て、滑走路その他軍事施設を建設するなど、攻撃的な行動を押し進めてきた。
(3)2019年7月に入り、中国がベトナムの領海内に位置するヴァンガード礁において海洋調査を行ったことで両国の緊張は高まっている。両国は2014年にも、ベトナム沖において中国船舶が掘削作業に従事したことにより、ベトナムで反中国暴動が起きるような状況に陥っていた。ベトナムは近年中国の動きに対抗し、その領土的主張のために、領海における人工島の建設などを進めてきた。
(4)2019年6月、中国漁船がフィリピン漁船に激突しフィリピン人船員を置き去りにするという事件が起き、フィリピン人の対中国感情が悪化するとともに、中国に対し強気に出ないRodrigo Duterte大統領に対する非難も強まった。7月29日になって、Delfin Lorenzana国防大臣は中国を非難する声明を発表したが、フィリピンの中国に対する態度は、必ずしも強硬なものではなかった。フィリピンは南シナ海の領有権について国際仲裁裁判所に提訴し、2016年に概ね勝利を収めたが、Duterte大統領はその遵守に特に関心を示さなかった。つい最近、中国漁船がフィリピンの排他的経済水域において操業することを認める発言をしたほどである。
(5)中国は2021年までにCOCを完成させることを目指しているが、より時間がかかるという見方もある。タイ外相顧問であるPornpimol Kanchanalakは、作業の完了は2021年よりも先になるかもしれないと地元メディアに述べた。彼女は議論が長引くことが必ずしも悪いことではないと主張したが、タイにはタイの思惑もあるようだ。タイのNaresuan UniversityのPaul Chambersによれば、現在ASEAN議長国であるタイは、このセンシティブな問題を任期中に解決したいとは考えていないという。議論を先送りすることで、問題の解決を次の議長国であるベトナムへと委ねるつもりだというのだ。
(6)中国が2021年までのCOCの完成を目指すのも思惑がある。現在、ASEAN・中国間の対話を調整する役割を担っているのはフィリピンであり、それは2021年までのことである。中国に強硬姿勢をとらないフィリピンが調整役であるうちに交渉を終えることで、COCが中国にとって有利なものになることを期待していると考えられるのである。
記事参照:‘Major progress’ on South China Sea code of conduct talks even as Beijing warns other countries against ‘sowing distrust’

7月22日「地域限定の海上拒否:南シナ海における中国の攻勢への対抗-米海兵隊中佐論説」(Center for International Maritime Security, JULY 22, 2019)

 7月22日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Security (CIMSEC)のウエブサイトはRoy Draa米海兵隊中佐の“Localized Sea Denial: Countering Chinese Aggression in the South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでDraaは南シナ海などにおける対応を念頭に米海兵隊遠征部隊に海上拒否のタスクを与えるべきであるとして要旨以下のように述べている。
 (1)米国が南シナ海について実行可能な海洋戦略を欠いていることに疑いはなく、この重要な地域における中国の勢力拡大に効果的に対応する海洋アセットも存在しない。超党派の国家防衛戦略委員会は最近の議会への報告書でこのことを明らかにした。海軍、海兵隊は紛争海域における沿海域作戦(LOCE)と遠征軍の前方基地作戦(EABO)の基礎的なコンセプト(抄訳者注:LOCEとEABOの概要については後掲の関連記事を参照)を有しているが、米国は財政状況も考慮し、海軍の規模拡大ともに上記コンセプトの実践を通じて南シナ海における中国の軍事化に直接対抗しようとしている。下院軍事委員会のMike Gallagher議員も「海兵隊のEABOコンセプトは良いスタートを切ったと言えるが、南シナ海への対応はこれにとどまらず軍事力の恒久的配置を含む方策を追求する必要がある。すなわち、海上アセットは運用概念を更に洗練し、不安定な安全保障環境に適合するよう革新を図る必要がある」と最近表明したところである。
 (2)南シナ海で進行、拡大中の問題に対して多少なりとも実現性のある軍事的な解決策は、中国の違法行為に対して直接抗議することと、これに対応することの中間に位置している。この解決策はHal BrandsとZack Cooperが推奨する「集団的圧力」戦略の一部であり、米国はこの地域における中国の影響力を相殺すべく、そのコミットメントを示すため地域的な安全保障協力に焦点を当てて、あらゆる側面でパートナー諸国(フィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアなど)との外交的および経済的関係を強化するということである。しかし、この構想の中心となるのは信頼できる抑止力を提供し得る戦術的ソリューションであり、主要海域で海上拒否を実行する、より大規模な統合任務部隊(JTF)の展開を担保する部隊を確保することである。
 (3)この6か月間、米海兵隊教育訓練コマンド戦闘クラブ(TWC)はLOCE / EABOの文脈からこの課題について検討して来たが、2019年7月、予備的な調査結果を発表した。TWCは市販のシミュレーションソフトウェアを使用して、南シナ海における人民解放軍海軍(PLAN)により想定される限定的な攻撃に対し、現在の米海軍及び海兵隊のドクトリンと組織編制は有効ではないことを確認した。一方、TWCは特別に編成された“inside-force”(抄訳者注:LOCE / EABOにおいて戦域の島嶼に展開する支援部隊を指している)を使用し、フィリピンのパラワン島などの主要地点に展開する海兵隊大隊の周辺に陸海空マルチドメイン任務部隊(MD-MAGTF)を構築する海上拒否シミュレーションを何度か実施した。シミュレートされたMD-MAGTFは陸上配備対艦ミサイル、武装(電子戦を含む)無人航空機システム(UAS)、水上無人機(USV)を駆使するとともに太平洋艦隊の前方展開部隊によって レイテ湾の水平線の彼方からも支援を受けたが、このシミュレーションにおいてMD-MAGTFは友軍の損失を最小限に抑えつつ中国海軍及び航空部隊に対して戦術的にも後方の側面からも行動を制約することができた。
(4)この“inside-force”の戦力化には、いくつかの重要な課題がある。
a.対空/対艦ミサイル、武装UAS機能などの重大なギャップに対処するための米海兵隊の任務変更と再編。軍種毎訓練(SLTE)から移行し、海軍及び沿岸警備隊から所要の支援を得る必要がある。
b. MD-MAGTFは、相手国の政治的及び軍事的支援なしには効果的に訓練も運営も出来ないため関係国の支援が不可欠である。例えば、米インド太平洋軍(INDO-PACOM)と第3海兵遠征軍(III MEF)の計画担当者はパラワン島とフィリピン西部沿岸部での二国間の自由な演習実施に向けてフィリピン軍と協力しなければならない。
c.またレイテ湾で活動する遠征任務グループ(TF76/31MEU)は、MD-MAGTFに対し水平線以遠からの航空支援、後方支援を提供する必要がある。これは、INDO-PACOMの現在の共同演習リストに比較的簡単に組み込むことができる。
d.UAS / USVを含むユニットに対する航空/後方支援が可能な遠征輸送用ドック型船舶の展開も必要である。 海軍及び海兵隊は、このクラスの支援船を両用戦部隊(ARG)の付属物として運用し、広範な実験を実施した。標準的な遠征打撃部隊(ESG)の編制にこれらの揚陸艦(L-class)以外の船舶を追加または置換するには、さらなる実験が必要である。
 (5)結論として、「海上拒否」は現在の米海兵隊のタスクとして明確に扱われていないものの、概念自体は決して新しいものではなく海軍の複合戦ドクトリンとも合致している。TWCのシミュレーションの初期結果に基づいて言えば、現代の地上配備のMD-MAGTFは、より大きなJTFの展開に不可欠なコンポーネントとして、南シナ海における中国の攻勢に対抗する効果的な海上拒否力として機能する可能性がある。
記事参照:Localized Sea Denial: Countering Chinese Aggression in the South China Sea
(関連記事)

7月23日「北極圏からのミサイル攻撃の脅威―米専門家論説」(USNI News, July 23, 2019)

 7月23日付のU.S. Naval InstituteのウェブサイトUSNI Newsは、Navy Timesの元編集長John Gradyの“NORTHCOM Says U.S., Canada Must Maintain ‘Clear-Eyed’ View of Arctic Threats”と題する論説を掲載し、ここでGradyは米北方軍司令官が語ったロシアによる北極圏からのミサイル攻撃に対処する必要性について要旨以下のように述べている。
(1)米国とカナダは、ロシアの潜水艦が北極圏から巡航ミサイルを発射する能力を含む北極圏における新しい安全保障上の課題について「明敏な」見解を維持しなければならないと米北方軍司令官Terrence O’Shaughnessy米空軍大将は7月22日に述べた。彼は、Center for Strategic and International Studiesで、この地域はロシア人が利用する「接近路」になる可能性があると述べている。そして、巡航ミサイルを搭載するロシアの能力向上型潜水艦と同国の極超音速兵器の開発について、すべての地域司令官が直面している懸念が高まっていると明確に述べた。その目的のため、空、陸及び海の部隊がこの地域の過酷な条件下でどのように作戦行動をするのかを理解するべく「適切な装備、適切な経験」を持つことが重要であり、同地域でのより多くの演習を要求した。この地域での沿岸警備隊の役割について尋ねられた際、彼は「特に重要な砕氷任務のための能力に依存している」が、古い大型砕氷船はすでに耐用年数を超え、新型の砕氷船の能力を必要としており、その取得を加速しなければならないと述べた。
(2)ロシアが北極圏やヨーロッパで、あるいは中国が太平洋で使用する可能性がある極超音速兵器への対抗ないし抑止について、O’Shaughnessyは「それが飛行する軌道」が対処上の問題であると述べた。彼は、カナダとの二国間組織であるNorth American Aerospace Defense Command(以下、NORADと言う)の司令官も務めている。彼は安全保障戦略に関して、両政府はモスクワと北京によってもたらされる国際的課題を評価することについて連携していると述べた。彼は、「NORADはこれまで以上に強力である」と付け加えた。一方で、O’Shaughnessyは、既存の、ないしは計画中の弾道ミサイル防衛が北朝鮮からの脅威に対処することに自信をもっているが、さまざまな範囲を飛行することができるミサイルの大量備蓄があるロシアあるいは中国によってもたらされる課題に対処するようには意図されていないと述べた。ミサイル防衛に関しては、巡航ミサイルや弾道ミサイルの攻撃を破壊する際に「ポイントではなくエリアを守る」必要がある。
(3)実際、モスクワと北京への対処において抑止の問題は変わったのである。彼はかって米国の対応は現実の行動を伴うものでなければならない訳ではなく、むしろ攻撃者を抑止するためのコンピューターを使用した情報空間であると述べた。また米国が、「敵が我々の意図を理解していることを確認」し、敵がある領域で米国を攻撃する場合、その対応は同じ領域でなされるとは限らないのを知っているということが重要である。より多くの国では、情報空間が商業用、政府機関用及び軍事用に向けられるため、この課題は宇宙でより大きくなってきた。サイバー空間はまた、悪意のないユーザーや潜在的な敵にさらされる「機会と脆弱性」により、より複雑になっている。我々は、宇宙空間のすべての層だけでなく、将来には海中、水上及び陸上における「状況を把握する必要がある」。O’Shaughnessyは、商業化されているか、ニッチ市場での使用を満たす以外のより広範な使用のため民間部門で開発される可能性のある「(センサー)テクノロジーをどのように活用できるか我々が把握できれば」これが実行できると述べた。現時点では、より広く定義された重要なインフラを抑止及び防衛するための「技術の進歩に我々はついていけていない」と彼は述べた。
記事参照;NORTHCOM Says U.S., Canada Must Maintain ‘Clear-Eyed’ View of Arctic Threats

7月25日「インドは中国海軍の動向に注目している:インド海軍高官談話―印紙報道」(The Hindu, July 25, 2019)

 7月25日付の印日刊紙The Hindu電子版は、“India is keeping a close watch on China’s focus on navy, says Indian Navy chief”と題する記事を掲載し、インドが中国海軍の動向に注目していることと造船業に力を入れていることについて紹介し、要旨以下のように報じている。
(1)2019年7月24日に北京で発表された「新時代の中国国防」と題された白書は、インド、米国、ロシア及び他の国の軍事開発に触れていた。その発表の翌日、インド海軍参謀長のKarambir Singh大将は、「多くの資源が中国の他の軍種から海軍に移されている。これは明らかに中国がグローバルな大国になるという意図に沿ったものである」と造船に関する国際セミナーに参加していた記者団に語った。インドにとって2隻目となる国産航空母艦に関する質問に答え、Singh参謀長は「我々の計画は、おそらく電気推進とCATOBAR方式(カタパルトを使用して航空機を発艦させ、アレスティング・ワイヤーを使用して着艦時の制動を行う方式)の65,000トンの空母を建設すること」と語った。海軍予算に関する質問に対しては、「我々は海軍を建設するために長期的な財政支援を要求している。政府は、2024年までに5兆米ドルの経済を軌道に乗せる計画を発表した。そして、造船業はこの計画に大きく貢献できると思う」と述べた。
(2) Singh参謀長は「海軍は国産の造船エコシステムを開発しており、『Make in India』が国家目標になる50年前の1964年、海軍の中に中央設計事務所を設立し、それに向けて一歩を踏み出した」と主張した。海軍はこれまで19の異なる艦種の90隻以上の軍艦を設計している。インド初の国産軍艦Ajayが1961年に建造されて以来、インドの造船所では130隻以上の艦艇が建造され、海軍の造船はインドの成功物語の1つとして数えられている。「これは、海軍と産業界の相乗効果の証でありインド経済自立への関与でもある。しかし、「『買う海軍』から『造る海軍』への移行過程は骨の折れるものであった」とSingh参謀長は述べた。資本集約的活動である造船業は、一部の人々により海軍の艦艇建造への予算の配分が経済を枯渇させるという談話を生んでいると彼は述べ、「私は海軍における艦艇建造への投資は流出ではなく、大きな理由は利益を再投資していること」と述べている。そして「少なめの見積もりでも、海軍に費やされたすべての資金の非常に大きな割合がインド経済に還元されている。そもそも海軍予算の60%以上が資本支出に充てられている。この資本予算の70%が国内の調達に費やされており、過去5年間でほぼ66,00億ルピーに達している」とSingh参謀長は述べている。
(3)海軍における艦艇建造の2番目の貢献は、雇用創出及び技術開発の触媒としての役割であり、これはインドが現在直面している課題でもある。個々の技術とは別途、海軍のプロジェクトは造船所内の新しい能力の創造にもつながる。これらは経済にとって重要なスピンオフであると彼は指摘する。例えば「Cochin造船所で建造中のインド最大のドライドックは、プロジェクトの主要な目標の1つである航空母艦のほかに、大型商用船の整備を可能にする」と彼は言った。Singh参謀長は、このプロジェクトは国の戦略的成果にも貢献すると述べた。「我々は皆、国内企業によって建造され、海軍と沿岸警備隊によって運用されている多種類の最先端技術の艦船が、インド洋地域及びそれ以外の地域でのインドの海洋権益を守るために重要であることを知っている。さらに、インド海軍の外交的関与と能力開発の努力により、いくつかの友好国がインドの造船能力を利用できるようになった。セイシェル、モルジブ、スリランカなどの友好国の防衛能力を、軍艦を輸出することで高めることができる。インド造船業が成熟するにつれて戦略的パートナーシップを構築し、インドを軍艦輸出と友好的な外国による軍艦修理のための戦略的ハブに変える可能性が大いにある」とSingh参謀長は語った。
記事参照:India is keeping a close watch on China’s focus on navy, says Indian Navy chief

7月26日「インド太平洋におけるフランスの影響力拡大に関する制約―シンガポール専門家論説」(The Interpreter, July 26, 2019)

 7月26日付の豪シンクタンクLowy InstituteのブログThe Interpreterは、シンガポールのフリーライターQi Siang Ngの“The limits to French grandeur in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでSiangはフランスが大国としての地位を取り戻すため、インド太平洋地域における影響力を拡大するというMacron大統領の試みは前途多難であるとして要旨以下のように述べている。
(1)フランスは現在、1954年のジュネーブ協定(抄訳者注:第一次インドシナ戦争を終結させるための合意)以降で初めて、現在インド太平洋と呼ばれている地域に目を向けた。同地域に対するパリの関心の更新は、台頭しつつあるアジアの富を活用したいという願望を反映しているだけでなく、フランスの大国の地位を取り戻したいというEmmanuel Macron大統領の願望も反映している。しかし、その壮大さを取り戻そうとするフランスの試みが、持続可能な冒険的事業を示すかどうかは疑わしい。
(2)インド太平洋における現代のフランスの関心は、貿易と経済関係を通じてフランスの停滞した経済を活性化する目的で、主に追求されてきた。かつてフランスのNicolas Sarkozy大統領は、武器貿易を通じてアジアの経済を切り開くことを求め、François Hollande大統領は、より広範な地域の国家との関与の発展を求め、記録的な数のアジア諸国を訪問した。
(3)フランス自体は、正確に言えばインド太平洋にある。この地域にいくつかの海外領土を保有し、150万人の仏国民と仏排他的経済水域(EEZ)の90%がインド洋と太平洋にある。フランスがこの地域に戦力投射を行うことを可能にする「空母」として機能するこれらの島々は、約8000人の部隊で構成される仏軍の強力なプレゼンスを特徴としている。さらに、太平洋のEEZは、漁業資源や炭化水素など貴重な資源へのアクセスをフランスに提供する。
(4)しかしパリは、中国のインド太平洋地域における野心の高まりに懸念を抱いている。フランスは、貿易と人権に関する北京の前科に対しEUと懸念を共有しているだけでなく、南シナ海における北京の主張を航行の自由に対する脅威とみなしている。したがってMacronは、シドニーでの2018年の演説でオーストラリアとインドとの新しい戦略的同盟を提案し、北京の地域的野望を阻止しようとして日本との安全保障関係を追求した。彼はまた、フランス唯一の空母打撃群を南シナ海に展開し、航行の自由作戦を実施した。これは、中国の台頭を「封じ込める」試みと北京に見なされる可能性の高い動きである。
(5)このような動きは、自立した外交政策を通じてフランスの大国としての地位を回復しようとした、Charles de Gaulle仏大統領の壮大な政策を復活させようとするMacronの試みを反映している。力強く上手くいく外交政策は、国内の政策失敗への歓迎される転用としてだけでなく、分裂した国を統一するための強力な再結集のシンボルとしても役立つだろう。
(6)しかし、フランスはその地域的影響力を拡大しようとする試みにおいて多くの障害に直面しており、ますます混迷するインド太平洋の戦略的環境においては特にそうである。インド太平洋地域の経済的及び戦略的重要性が高まるにつれて、ロシアや韓国などの大国及び中堅国は、地域の影響力を求めてますます激しく争っている。フランスのような長期不在の中堅国がこの競争のある地域でその関わりを取り戻すためには、大国としてのその地域の影響力と大国としての認知を強化するために、地域国家に国際公共財(すなわち自由貿易)又は外交的な寛大さ(対外援助)を提供しなければならない。
(7)しかし、パリはインド太平洋地域でのプレゼンスを維持するのが難しいと感じるかもしれない。長年の経済成長の鈍化により、フランスは政府の弱い財政、低い競争力を体験しただけでなく、特に海洋の戦力投射のための海軍能力に関して、仏軍と他の地域大国との間に軍事能力の大きな格差が存在する。アフリカでの既存の安全保障上のコミットメントにより(次第にアジアに資源を向き直しているが)、フランスがインド太平洋地域のプレゼンスを維持するための経済的及び軍事的資源を持っているかどうかは疑問である。
(8)EUと協力することでフランスの外交的影響力が増大する可能性がある一方、EUの外交政策を決定する上でコンセンサスが必要になるため、フランスの経済外交に対する術策の余地が制限される可能性もある。そのため、フランスは自由貿易協定(FTA)などの経済的寛大さをこの地域の発展途上国に迅速に分配することができないが、それでは魅力的な地域パートナーとはなり得ない。さらに、中国に対してバランスをとるフランスの能力は、北京との協力関係を維持するという経済的責務によって制約される可能性がある。
(9)Macron が見習おうとする壮大な政策は、実際には強さよりも弱さの象徴であり、衰退する大国のプライドを救うために意図された政治劇場の一形態であったことは皮肉である。Macronの野望にもかかわらず、重大な構造的現実がフランスのインド太平洋の影響力の拡大を妨げている。
記事参照:The limits to French grandeur in the Indo-Pacific

7月27日「スリランカに米が基地開設との噂、米中抗争の場となる危険―香港紙報道」(South China Morning Post, June 27, 2019)

 7月27日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版、は “US naval base rumours in Sri Lanka spark alarm as Washington and Beijing tussle for influence in Indo-Pacific”と題する記事を掲載し、米国がスリランカに軍事基地を開設するという噂について、要旨以下のように報じている。
(1)スリランカ当局は、自国内に恒常的な外国軍のプレゼンスを認める慎重な計画を進めているという噂を、ここ何カ月間も打ち消そうとしてきたが、ほとんど効果がなかった。スリランカは、米国との間で秘密の取引をしているという非難に直面している。スリランカを注視する戦略アナリストはメディアに対して、当局による度重なる否認にもかかわらず、こうした非難は外国の軍事基地を市民が国益を損ねるものと強く感じていることを示している、と指摘した。スリランカは、米中両国がともにインド洋におけるプレゼンスを強化しようとしている最中にあって、ますます両超大国間の戦略的抗争の場になってきている。
(2)中国は、スリランカに15億ドルを投資して、ハンバントータ港の管理運営権を取得しているが、同港に海軍施設を建設する権利を持っていない。米国の一部の外交政策シンクタンクは、スリランカの巨額の対中負債が同国の対中依存をもたらしていることに留意し、米国の外交の傘の中にコロンボを引き入れるよう―すなわち、同国をインド太平洋戦略の重要な歯車とするよう―ワシントンを急き立ててきた。中国は、インド太平洋戦略を、米国が友好的なアジア諸国の支援を得て中国を封じ込める手段と見なしている。
(3)6月下旬にスリランカ国内の地方紙は、コロンボとワシントンの間に結ばれた(訪問外国軍の地位に関する)「地位協定」(SOFA)のコピーと称するものをリークした。これに対して、同国のWickremesinghe 首相は、如何なる国にも国内に恒常的軍事基地を認める計画はないと強く否定した上で、ワシントンとの間で、SOFAと同様の機能を持つ、1995年の協定見直しを協議している、と語った。同国駐在米国大使も、メディアに対して、米国はスリランカに軍事基地を求めてはいないが、ワシントンは既存の協定の改定を求めている、と語った。Wickremesinghe 首相は、親欧米派と見られているが、同国のSirisena 大統領とは政治的に対立している。首相は米国とのSOFA交渉を中止しようとはしていないが、大統領は「国を裏切る」ものとして如何なる協定にも署名しないと宣言している。
(4)米国がスリランカ国内に基地を求めているという噂に共通しているのは、米国が同国北東の港湾都市、トリコマリーに海軍基地を望んでいるというものである。同港は、世界最大の天然の大水深港の1つである。Wickremesinghe は、米海軍は「トロール漁船団ではない、彼らは(スリランカ)国内に如何なる基地も必要としていない」と反論している。ワシントンのシンクタンク、The Centre for Naval Analysesの戦略政策分析部長は、現在のスリランカ国内での論議は首相と大統領との根深い対立に原因があるとした上で、2015年以来の米国との防衛関係の進展から見て、SOFAは「当然来るべき次のステップ」であるが、「大統領と首相の間の現在の政治的緊張関係は、防衛関係のような問題が大いに政治問題化する可能性があることを示唆している」と指摘している。Wickremesinghe 首相は、新しい協定案は政府が「受け入れることができない」条項を含んでいたと議会で語ったが、それがどのようなものであるかは明示しなかった。
(5)インドの専門家は、SirisenaとWickremesinghe との間で争われると見られる今年後半に迫っている大統領選挙でどんな結果になろうとも、コロンボは恒久的な軍事プレゼンスを求める如何なる外国の要請も拒絶するであろう、と語った。インドのシンクタンク、The Observer Research Foundationの専門家は、「今日、中国が既にスリランカ国内のハンバントータ港の99年間の租借権を有していることから、外国が同国内に軍事基地あるいはそれに近い施設を持つことは、スリランカ国内のみならず、隣接するインド洋海域において危険で予想し難い状況を引き起こす可能性がある」と指摘している。その上で、この専門家は、スリランカが周辺地域に悪影響を及ぼす米中間の戦略地政学的抗争の場を提供しないよう求め、さもなければ、「スリランカが、不用意に、あるいは愚かにも、冷戦時代にもなかった、米中間の新たな冷戦における現実の、そして直接的な戦場となるであろう。しかもコロンボはそれを左右する如何なる力も持っていないのである」と強調している。
記事参照:US naval base rumours in Sri Lanka spark alarm as Washington and Beijing tussle for influence in Indo-Pacific

7月29日「中国に対抗するために冷戦の教訓を活かす―米国際関係学者論説」(Foreign Policy, July 29, 2019)

 7月29日付の米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトは、米Harvard University国際関係論教授Stephen M. Waltの“Yesterday’s Cold War Shows How to Beat China Today”と題する論説を掲載し、ここでWaltは、米中「新冷戦」において、米国は米ソ冷戦の教訓を活かすべきだとして要旨以下のとおり述べている。
(1)近年の米中関係を新しい「冷戦」と評する声が多い。われわれはそうした見方に慎重であらねばならないが、その一方で、米国がソ連に冷戦で勝利したという歴史から得られる教訓もある。しかし現在、Donald Trump政権はその教訓をすべて無視している、あるいはそれに反する行動をとっている。
(2)米国がソ連に勝利した理由のひとつは、市場経済がソ連的な計画経済よりも大規模かつ効率的で多様性があったことであり、さらに重要なことに、その経済システムが米国の主要な同盟国をソ連の同盟国よりも豊かにしたことであった。これこそがGeorge Kennanが提唱した封じ込め政策の根本的目的であり、西側全体としての優位性を導いたのである。
(3)ソ連が攻撃的な姿勢を維持し、世界革命の拡大を公式には放棄したわけではないことも、米国に有利に作用した。すなわち、ソ連との距離がきわめて近い西側諸国は、そのような姿勢をとるソ連に対する脅威認識を強め、米国との同盟強化を強く求めるようになったのである。また冷戦期、米国は東側諸国に対して「分割支配(divide and rule)」政策を採用し、東側の弱体化を図った。共産主義諸国が一枚岩であるという認識を改めたのである。それについて最も重要な決定は1972年のNixon訪中であった。
(4)Trump政権は、こうした冷戦の教訓に反して、国際的な協調を促進しようとしない事例を提供し続けてきた。TPPからの離脱、アジアの同盟国を含むあらゆる国々への貿易戦争の展開、あまりに安易な北朝鮮への接近などがそれである。また、防衛負担をめぐって欧州諸国との関係も微妙になっている。欧州諸国が自国の防衛により責任を負うべきだとするTrumpの考え自体は間違ってはいないが、そのやり方が正しいとは思えない。イスラエルやエジプト、サウジアラビアなどへの甘い態度も、アメリカに利益をもたらしているとは考えられない。
(5)Trump政権はまた、ロシアへのアプローチに関してObama政権の非効率な方針を継続しており、それによって、「分割支配」どころか中国とロシアの関係強化をもたらしている。むしろロシアがNATOとEUに対して「分割支配」政策を採用しているのだ。米国は冷戦の教訓を忘れてしまっているが、ロシアはそれをしっかりと理解している。
記事参照:Yesterday’s Cold War Shows How to Beat China Today

7月30日「インド、ミャンマーへ潜水艦譲渡準備-印紙報道」(The Economic Times, JUL 30, 2019)

 7月30日付の印紙The Economic Timesは“Taking it to next level, India readies submarine for Myanmar”と題する記事を掲載し、インドはミャンマーに対しKilo級潜水艦を2019年内に譲渡することで準備をしているとして、要旨以下のように報じている。
 (1)インドは、Kilo級潜水艦を国内で改修の後、2019年内に初めてミャンマーへ譲渡する準備をしている。ミャンマー海軍は訓練目的で独自の潜水艦部隊取得に目を向けている。
譲渡予定のKilo級潜水艦は現在、改修中であり2019年末に完工の予定であると情報筋は言う。必要な許可は原生産国であるロシアから取得しており、ミャンマー海軍を訓練するための国内システムが付加されることになるだろうと情報筋はThe Economics Timesに語った。
(2)ミャンマー国軍司令官Min Aung Hlaing上級大将の最近のインド公式訪問を含めてインド、ミャンマー間ではここ数ヶ月間一連の高級レベルの意見交換、会合がもたれてきた。印国防省はHlaing上級大将との会談は防衛協力を強化し、共同演習とミャンマー軍に提供する訓練の見直し、共同監視による海洋安全保障の強化、能力構築および新インフラ開発が目的であったと言っている。潜水艦の譲渡は軍事力強化のためインドからミャンマーに提供される信用供与とともに実施されるようである。インドの構想はミャンマーの防衛上の所要を理解するため過去4年以上にわたって行われたミャンマー指導部との拡大会議の後まとめられたものだと情報筋は言う。
(3)潜水艦譲渡の合意は、中国が地域の各国に対し水中武器システムを供給する努力をしているその時になされた。情報筋によれば中国はミャンマーにより旧式の潜水艦を提供する協議を行っていた。2017年、バングラデシュは旧式の明級潜水艦2隻を受領したが、隣国の中国への依存が強まっているものとしてインドは注視していた。ミャンマーとの協定には、今後数年のうちにより規模の大きな部隊を隣国が準備するための重要な訓練計画が含まれている。
(4)2019年3月、ミャンマー海軍参謀長Moe Aungは、まもなく潜水艦を取得すると発言している。高級将校は、潜水艦の調達は少なくとも4年はかかる乗組員の訓練を含む長期計画の一部であると述べている。
記事参照:Taking it to next level, India readies submarine for Myanmar

7月31日「中国はホルムズ海峡を守るべきだとの米国の提案に用心するべきである―中国研究院の米国人専門家論説」(East Asia Forum, 31 July 2019)

 7月31日付の豪 Crawford School of Public Policy at the Australian National Universityのデジタル出版物EASTASIAFORUM は、中国南海研究院の非常勤上級研究員Mark J Valenciaの“China should be wary of US proposals to protect the Hormuz Strait”と題する論説を掲載し、ここでValenciaは中国がもしホルムズ海峡を守ったならば海洋法に関する彼らの立場が損なわれる可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1)米国はホルムズ海峡で「航行の自由」を保護するための「有志連合」を提案している。しかし、中国などのいくつかの国は、もし参加したならば、海洋の法的問題に関する彼らの立場が損なわれる可能性がある。米国とイランでは、海峡におけるイランの領海の範囲に関する国際法の解釈が異なる。イランは、海峡に接する海岸に沿った直線基線を主張し、この基線から海峡の北側3分の1とペルシャ湾に向かう指定航路帯を包摂する12海里の領海を主張している。また、イランは海峡のすぐ西にある3つの島の領有を主張し、航行可能な海域の多くとペルシャ湾への出入双方向の指定航路帯を包摂する3つの島の周囲の12海里の領海を主張している。最も狭いところでは、ホルムズ海峡の幅員はわずか21海里しかない。この時点で、海峡を使用する船舶および航空機はイランまたはオマーンが領有権を主張している領海を通過しなければならない。しかし、米国は、イランが主張している海峡の領海の全部をイランの領海とは認めていない。
 (2)通常、海峡の航行の方法は国連海洋法条約によって定められる。しかし、米国もイランも国連海洋法条約を批准していない。イランの立場は、国連海洋法条約の締約国のみが条約の権利を享受する権利があるということである。これにはホルムズ海峡のような海峡を通過する際に、国連海洋法条約が義務付けた通過通航権が含まれる。イランとオマーンは、海峡の領海には無害通航のみが適用されると主張している。両国とも、軍艦は領海を無害通航するための事前許可を要求している。米国は国連海洋法条約の締約国ではないが、これらの海峡の通過通航に関する規定は現在、国際慣習法であることを表していると主張している。しかし、イランは、多くの発展途上国と同様に、国連海洋法条約は1つのパッケージとして捉えられ、各国がある分野で要求を主張する代わりに、他の分野で譲歩するという取引が
行われたと主張している。国連海洋法条約に至る交渉では、海洋国に対する通過通航を含む大まかな航行の自由が国家の管轄権外の大陸棚の資源への優先的なアクセスと共有と引き換えに発展途上の沿岸国によって合意された。特に、米国と他の海洋国は、通過通航権と引き換えに12海里の領海に同意した。しかし米国は条約を批准しなかった。国連海洋法条約で規定されるまで「通過通航制度」はなかった。海峡の領海内にある既存の航海制度は無害通航であり、イランはまだ適用できると主張している。イランによるホルムズ海峡上空の米海軍RQ-4グローバルホークの撃墜は追加的な法的問題を提起する。米国は、ホルムズ海峡南部にあるイランの「正当な」12海里の領海外の「国際水域」でRQ-4が撃墜されたと主張し、イランはイランの領空で撃墜したと主張している。法的に、米国が「国際水域」と主張したようなものはない。これは、「航海の自由」が適用されると考えられる地域を指定するために使用される米国海軍の用語である。これに国際法的地位はなく国連海洋法条約では使用されていない。イランの領海の許可なしでの飛行は、その主権の侵害になる。しかし、ドローンが通過通航中であったとしても、国連海洋法条約によれば、海峡に隣接する国家の主権、領土保全、または政治的独立に対するいかなる脅威または武力行使も控えなければならない。
(3)状況から推察すると、米国の無人機がイランの軍事施設に関する情報を収集している場合、攻撃の準備と見なされる可能性がある。無人機がイランの200海里の排他的経済水域(EEZ)を超えていたとしても、イランはその中及びその上の外国の軍事活動に関して権限がある。中国と他の何カ国かはイランの法的地位の一部を共有している。中国、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、インドネシアを含む多くの国では、外国の軍艦が領海を行動する場合、許可を取ることを要求している。インド、マレーシア、タイは、イランと同様に200海里のEEZ内での軍事活動に制限を設けている。もちろんこれらの制限は海洋国によって反対されるが、中国のような国が彼らの行動によってこれらの問題について米国と暗黙のうちに一致するならば、それは彼ら自身の安全を保護するために作られた彼らの法的地位を損なうであろう。
 (4)法的にも政治的にも、中国はイランと米国の間の紛争に関与することにほとんど関心がない。中国及びその他の「有志連合」に参加しそうな国々は「有志連合」への参加が集団的であれ、個別的であれ、彼らの参加が彼らの主張する海域における同様の問題に対する彼らの立場をいかに損なうかを慎重に検討すべきである。彼らはタンカーと法的地位を保護するために海峡沿岸国イランとオマーンと協定を締結できるよう、直接交渉することが勧められる。
記事参照:China should be wary of US proposals to protect the Hormuz Strait

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) China’s Defense White Paper Means Only One Thing: Trouble Ahead
https://nationalinterest.org/blog/buzz/china%E2%80%99s-defense-white-paper-means-only-one-thing-trouble-ahead-69911
The National Interest, July 29, 2019
Dr. Andrew S. Erickson, a professor of strategy in the China Maritime Studies Institute and the recipient of the inaugural Civilian Faculty Research Excellence Award at the Naval War College. He is currently a visiting scholar at Harvard University’s John King Fairbank Center for Chinese Studies.
7月29日、米海軍大学のAndrew S. Erickson教授は、米外交誌The National Interest(電子版)に" China’s Defense White Paper Means Only One Thing: Trouble Ahead"と題する論説記事を発表した。ここでEricksonは、7月初旬に人民解放軍が南シナ海で実施した対艦弾道ミサイルの発射実験を「これは偶然ではなくメッセージだ」と捉えた上で、中国が7月24日に4年ぶりとなる国防白書「新時代における中国の国防」を発表したことを取り上げている。Ericksonによれば、同白書は矛盾に満ちた表現が散見され、同白書で言及された「中国は常に世界平和の創造者である・・・・。国際秩序の擁護者である・・・・。」との内容に世界は同意しないだろうと指摘している。そして、同白書は明らかに習近平国家主席の独断的な時代観、戦略、目標、改革、レトリックを体現したものだと指摘し、その中核にあるのは、中国を再び国内外で偉大な国にする一方で、国内外のいかなる敵にも、この自らが任命した歴史的使命を破壊することを許さないという、中国共産党主導の取り組みである、と述べている。
 
(2) How an accelerated warming cycle in Alaska’s Bering Sea is creating ecological havoc
https://www.arctictoday.com/how-an-accelerated-warming-cycle-in-alaskas-bering-sea-is-creating-ecological-havoc/
ARCTIC TODAY, July 31, 2019
By Yereth Rosen, Independent journalist
7月31日、米ジャーナリストのYereth Rosenは、環北極メディア協力組織Arctic Todayのウエブサイトに“How an accelerated warming cycle in Alaska’s Bering Sea is creating ecological havoc”と題する論説を寄稿した。ここでRosenは、①ベーリング海峡地域では海氷が消え去り、海洋環境に混乱が起きているが、最も印象的な兆候は海岸線にあり、小さな貝から巨大なクジラに至るまで死んだ動物が散乱している、②暑さはベーリング海峡地域の海洋生物の死亡と混乱の論理的な原因かもしれないが、考えられるメカニズムの1つは、暖かい条件で増殖する藻類ブルームからの毒素の拡散、そして別の可能性は水温が上昇するにつれて、ベーリング海南部により低脂肪な種が北に移動し、北のより高脂肪な種の土地を奪ったというものだ、③スワード半島では多くの火災が発生して大気環境が危険なレベルであり、葉を食い荒らす昆虫の毒蛾が大量に群がっているのも温暖化が関連する、④この地域の永久凍土の急速な解凍も深刻な影響があり、スワード半島では冬でも解凍されたままのタリクと呼ばれる土壌が多く発見されている、⑥この地域の長期的傾向は、継続した地中の温暖化、大気の温暖化、そして海氷の減少であり、すべて互いに悪影響を及ぼしている、などの主張を述べている。