海洋安全保障情報旬報 2019年7月11日-7月20日

Contents

7月10日、15日「北極圏を巡る露、加、米の角逐―米若手研究者論説」(Center for International Maritime Security, July 10 and July 15, 2019)

 7月10日、15日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Security(CIMSEC)のウエブサイトは、米George Mason University修士課程修了の若手研究者Tyler Crossの “Strategy On Top of the World, Pt. 1: The Outlook for Arctic Competition”、“Strategy On Top of the World, Pt. 2: Regional Arctic Perspectives”と題する長文の論説を連載し、Tyler Crossは探検家の時代と様変わりした今日の北極圏を巡る、特にロシア、カナダ、米国の戦略について、要旨以下のように述べている。
1.戦略と安全保障―ロシア連邦
(1)北極圏は、ロシアの世界観の中心である。ロシアは北極圏内に約400万人の人口を抱えているが、対照的に北極圏は米国社会や文化からはかけ離れている。安全保障上の関心や動機付けを理解するに当たって、戦略家は、こうした文化的相違を適切に評価しなければならない。世界の最北地域への関心は、米国人にとってロシア人のそれに比肩すべくもない。多分、クレムリンの指導者は、平均的なロシア人より一層北極圏への関心が高い。Putin大統領の北極圏開発計画は、Obama前米大統領の「アジアへの軸足移動」戦略に相当すると見なすことができる。前大統領が西太平洋を発展的機会と国家戦略にとって重要性を増す地域と見なしたように、モスクワの指導者も、北極圏をそのように評価している。2020年までのロシア連邦国家安全保障戦略に従って、北極圏は、2020年までにロシアの「最重要の戦略的資源基地」となる計画である。更に、クレムリンは、この戦略目標が脅かされた場合、軍事紛争の選択肢を否定していない。国家安全保障戦略文書の大部分が北極圏関係に割かれており、軍事的プレゼンスの強化計画も含まれている。北極圏は、ロシアの弾道ミサイル搭載原潜の大部分を含む、北方艦隊の管轄海域である。
(2)近年、北極圏に所在する軍事基地におけるロシア軍の戦力は増強されており、また基地の数自体も急速に増えている。北極海の海氷が縮小するにつれ、新たに露呈される極北の沿岸域を防衛するために、海軍力増強の必要性が高まろう。北極圏におけるロシア軍の増強と経済開発は、今後数十年、相互関係を強めていくであろう。ロシア軍の中枢は、ロシアの重要な収入源から遠く離れていない。ロシアのGDPの約22%が北極圏内から産み出され、またロシアの天然資源の最大90%が主としてバレンツ海とカラ海に集中している。ムルマンスクとアルハンゲリスクの2つの港は、ロシアにとって歴史的に重要な港である。両港は、バレンツ海の南端に位置し、北方艦隊の基地である。そしてムルマンスクは、同艦隊の司令部所在地である。北極海沖合の重要な天然資源は、これらロシアの最も重要な軍事基地から遠くない海域に存在している。Putin政権は、北極圏における経済開発を守るために、北極圏における「必要な戦闘能力」を維持するとしている。ムルマンスクとアルハンゲリスクからの定期的な哨戒活動が2009年から再開されており、また2015年3月には、4万5,000人の将兵、3,360両の車両、110機の航空機、41隻の水上戦闘艦艇、及び15隻の潜水艦を動員した、冷戦以後、最大の北極圏軍事演習を実施した。ロシア海軍の中核的戦力である潜水艦戦力の増強と北極海での活動も活発化している。こうした軍事力の強化は、基本的には安全保障目的のためであるが、北極圏内における石油生産の増大と軌を一にしていることも事実である。
2.戦略と安全保障―カナダの視点
(1)カナダは、ロシアとほとんど同じように、北極圏に多大の投資をしている。北極圏への関心もロシアに次いで高く、北極圏内の領域は120万平方マイルに達し、この点でもロシアに次ぐ。北極圏におけるカナダの戦略には、2つの側面がある。カナダは、外交的には受け身のアプローチをとる傾向にあるが、同時に北極圏に関する関心は一貫している。NATO全加盟国28カ国中、カナダは、北極圏におけるNATOの軍事プレゼンスに対して最も関心が薄い。カナダは、北極圏における多国籍軍事プレゼンスが高緯度地域の大部分におけるカナダの支配的地位を脅かすであろう、と見ている。カナダでは、反軍的な文化的偏見が比較的高い。カナダは、NATO の軍事志向的政策とは反対の、外交的な政府間組織の北極評議会による決定を好む。要するに、カナダは、一般的に北極圏における軍事力の展開に嫌悪感を抱いているのである。
(2)とはいえ、海氷面の縮小は、カナダ極北地方の軍事化について心変わりをもたらすかもしれない。カナダの北極政策の多くが受け身的特徴を持つが、近年、極北地方を重視してきてもいる。カナダ軍は、極寒の遠隔地方での作戦能力を強化してきた。最近、カナダ軍は、現有の6隻の砕氷船に加えて新型砕氷船1隻を購入するとともに、冬季戦闘学校と、バフィン湾に大水深港を建設した。カナダは、合法的に自国のアセットと見なすものを防衛する意志を有しているが、同時に多国間外交を追求することも好む。カナダは、限定的とはいえ、北極圏での軍事作戦能力を保持し続けるであろう。そして、このことは、北極圏におけるロシアの進出を抑制し、全般的な安全保障を強化することに資するであろう。
3.戦略と安全保障―NATO欧州諸国
(1)ノルウェーは、NATO全加盟国による先を見越した北極防衛政策を望んでいる。ノルウェーは特にロシアを脅威と見なし、その安全保障は、ロシアに対する防衛が動機付けとなっている。前NATO軍最高司令官によれば、ノルウェー領のスヴァールバル諸島は、「ロシアの北極圏地域に対する野心にとって大きな障害となって」おり、ノルウェーにとって重要な価値を持つ存在である。ノルウェーは、NATO加盟国の中で北極圏において最も活動的な軍事力を有している。ノルウェーは、北極圏を西側同盟の無防備な側面と見、常に他の加盟国に対して防衛態勢の充実を促している。ロシアは2008年からスヴァールバル諸島周辺海域における水上艦艇による哨戒活動を再開したが、ノルウェーは、これに重大な懸念を持ち、一層積極的な防衛態勢の整備に乗り出した。
(2)アイスランドは、冷戦期には不沈空母と見なされていたが、北極圏における第2次冷戦ともいうべき米ロ間の狭間で再び苦慮することになろう。アイスランドにとって理想的なのは、レイキャビクが北大西洋海上通商路の中央に位置する中継地となることであろう。アイスランドは、同国の指導者が北極圏における新たな冷戦に巻き込まれることを懸念するなら、軍事的に米国から距離を置くことになるかもしれない。
(3)デンマークは、グリーンランドとフェロー諸島を有し、北極国家である。グリーンランドは、特にデンマークが基地を提供していることでNATOの重要な防衛拠点となっている。主として弾道ミサイル早期警戒網による戦略的重要性に加えて、グリーンランドは最近、天然ガス資源の発見で一層重要性を増した。デンマークは、2009年に北極軍事コマンドを創設した。アイスランドは、公式には常備軍を持っていないが、沿岸警備隊と危機対処部隊が事実上の軍となっている。アイスランドとデンマークはNATO同盟内の同盟国同士として協力しており、アイスランドは、グリーンランドと欧州本土間を航行するデンマーク船舶の戦略的な中継地としての役割を果たしている。米国は、グリーンランドにおけるNATO基地の重要性に鑑み、デンマークを重視すべきである。
4.米国の戦略―何をすべきか
(1)NATOは、グリーンランドのチューレ空軍基地に見られるように、北極圏防衛に役立っている。同基地には、約400人のデンマーク人、50人のグリーンランド人、3人のカナダ人そして140人の米国人が勤務しており、北極圏内での同盟国間協力の好例となっている。今後、北極圏での活動が増加するとみられ、将来的には同様の基地施設が開設される可能性がある。その場合、米国にとって、アラスカ州が最適の候補地であろう。しかし、米軍は単独では北極圏全体の安全保障を確保することは不可能で、北極圏防衛の多くはNATO同盟の任務となるであろう。従って、同盟国間の協力は将来的に最重要課題となろう。
(2)ロシアの北極圏重視は、米国の安全保障戦略における主たる動機付けとなろう。2009年まで、米国は明確な北極政策を持っていなかった。しかし北極圏が新たに重要視されるにつれ、米国の戦略も強化されていくであろう。しかも、米国に届く北朝鮮のICBM開発に伴って、北極圏は新たな意味合いを持ってくる。米海軍省は、沿岸警備隊と海兵隊を含めて、北極海における航路啓開を視野に入れた合同協力戦略を開発してきた。北極圏における海軍の現在の目標は、「他の北極圏諸国、国内各省庁、国際機関及びアカデミック共同体との協力関係を促進し、維持すること、北極圏の環境に対する理解を深めること、環境変化を予測する能力を強化すること、そして海洋における安全保障の確保、維持を通じて、北極圏における不安定化を防止し、封じ込めること」である。これは好ましい方向だが、高緯度地域におけるロシアの軍事化に鑑み、これまでやや無視されてきた北極圏において更なる安全保障の強化が必要となろう。米国は、NATOにおいて主導的役割を果たす必要がある。2007年夏に、ロシア探検家が極点の海面下に自国旗を打ち込んだことに示されるように、ロシアは、北極海の公海を自国の管轄海域と主張し、高緯度地域における天然資源を独占しようと試みている。ロシアの進出と、国際的に認められた公海に対する要求を阻止するために、NATOは、協調的努力を強化することになろう。
(3)米国は、単独では北極圏におけるロシアの挑戦に対処することができないであろう。 NATO同盟諸国からの支援は十分な対抗手段となろう。北極圏における安全保障のためには、大規模部隊ではなく、装備の整った機動性の高い戦力が必要である。NATO同盟諸国との北極圏における合同演習は、合同戦闘活動に伴う諸問題を確認する上で有益であろう。フィンランド、ノルウェー、カナダ及びデンマークに加えて、他の同盟国もこうした合同演習に招請されるべきである。スウェーデンの関与は理想的で、またアイスランドのケプラビーク基地―10年以上前に閉鎖され、現在は空港となっている―の再開を検討することも賢明であろう。この基地は増強されつつあるロシア潜水艦隊を監視する上で重要な存在で、この前方監視拠点で収集される情報は海軍と空軍にとって大いに有益なものとなろう。双方の疑心暗鬼による安全保障のジレンマを避けるため、こうした軍事演習の実施に当たっては、ロシアとの対話が不可欠である。ロシアも、NATO北極沿岸国も、ともに北極評議会のメンバーであり、こうした対話には同評議会が最適の場の1つであろう。評議会での対話は、北極圏におけるモスクワとの関係を緩和する1つの手段となろう。
 記事参照:Strategy On Top of the World, Pt. 1: The Outlook for Arctic Competition
Strategy On Top of the World, Pt. 2: Regional Arctic Perspectives

7月11日「ロシア、インドのP75I計画による潜水艦建造に参入希望。インドにはScorpene級より優れた潜水艦が必要-印デジタル紙報道」(The Print, 11 July, 2019)

 7月11日付の印デジタル紙The Printは、“Russia wants to build P75I submarines, says India needs better vessels than Scorpene”と題する記事を掲載し、ロシアはインドのP75I計画による新潜水艦建造受注に強い意欲を示しているとして、要旨以下のように報じている。
(1)ロシアは印海軍の次世代通常型潜水艦建造を注目している。8兆ルピーに上る超大型契約で、モスクワは政府間合意の下、共同設計、建造を強力に申し出ている。ロシアは、Project75Iに関する情報依頼書に応じた4カ国の1国である。Project75Iは非大気依存型推進装置(以下、AIP)を装備した通常型潜水艦6隻を建造するものである。
(2)ロシアの提案は、共同設計と「インドはScorpene級潜水艦より優れた潜水艦が必要」として売り込みにかかっている。「我々は新しいAIP技術を開発しており、インドには我々が開発した最良の2案から選択できるよう提案している。我々は政府間合意が潜水艦建造にとって良策と考えている」とUnited Shipbuilding Corporation社社長Alexei Rakhmanovは印メディア代表団に述べている。P75I計画では潜水艦は印国内の造船所で建造されることとされており、ロシアは提携の可能性のあるL&T造船所、印国営Hindustan造船所と協議しつつある。「印政府が指定したいかなる造船所とも一緒にやっていく準備はできている」とRakhmanovは言う。
(3)ロシアは、インドの新しい潜水艦の設計、建造の基本型としてlada級潜水艦を使用したいと考えている。他に類を見ない通信システム、武器システムおよび乗組員の快適さを備えた4+世代の潜水艦について我々は協議している。Scorpene級潜水艦はこれら3項目中2項目について要求を満たしていないとRakhmanovは言う。共同で市場に出すこともできる潜水艦を共同開発する完璧なときだとRakhmanovは付け加えている。ロシア最大の通常型潜水艦の設計局Rubin Design Bureauは印海軍が設定した要求性能に合致する潜水艦は世界にはないと言う。「印海軍はScorpene級潜水艦より優れた潜水艦を手にするに値する。Scorpene級潜水艦は隠密性、通信能力、武器の能力においてAmur級(Lada級潜水艦の輸出型)潜水艦よりも遙かに劣っている。我々は、Amur型潜水艦は通常型潜水艦では印海軍のどのような要求も満足することができる先進的通常型潜水艦であると考えている。しかし印海軍には具体的な要求があり、したがって我々は、P75Iは新たに設計し、建造されなければならない計画であると言ってきている。しかし、この潜水艦の原型はAmur級潜水艦である。Amur型で得た経験はP75Iに移転されるだろう」とRubin Design Bureauの副CEO Andrew Baranovは言う。印海軍に16隻の潜水艦を納入したAdmiralty造船所は、新しい契約について楽観的である。「Amul級潜水艦は世界で最も進んだ潜水艦の1つであり、技術的問題解決策の一部は世界に類のないものである。例えば、ソナーの捜索能力と自艦の雑音レベルは現時点で比類ないものである。同級は一般的なディーゼエルエンジンと鉛蓄電池を搭載しているが、非常に長い滞洋力を有している」とBaranov副CEOは言う。
「搭載装備品は省電力化されており、滞洋力の長期化を可能にしている」とAdmiralty造船所のAndrey A. Veselovは言う。
記事参照:Russia wants to build P75I submarines, says India needs better vessels than Scorpene

7月12日「ASEANの海洋ゴミに関する新しい合意から期待できるもの―オランダ専門家論説」(The Diplomat, July 12, 2019)

 7月12日付のデジタル誌The Diplomatは、オランダUtrecht University国際法修士課程で海洋環境と海洋法を専攻するFachry Hasani Habibの“What to Expect From ASEAN’s New Agreement on Marine Debris”と題する論説を掲載し、ここでHabib はASEANの海洋ゴミに関する新しい枠組み合意は、法的拘束力がなければ実質的な効果はないとして要旨以下のように述べている。
(1) 過去数年間南西アジアの海で、海洋汚染に関するいつくかの驚くべき出来事があった。2018年6月、タイで死んだゴンドウクジラの胃の中から重さ8キロにもなる80個ものプラスチックゴミが見つかった。このような例はその後も後を絶たない。ASEANは海洋汚染で非難にさらされている。インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイが最も海洋を汚染している。ASEANは、長い間この問題の解決に取り組んできた。2019年6月にタイで開催された第34回ASEANサミットでは、海洋環境の保護に関する2つの重要な文書が発表された。ASEAN地域での海洋ゴミ対策に関するバンコク宣言と海洋ゴミに関するASEAN行動枠組みは、東南アジアの海洋ゴミと戦うための2つの重要な文書である。今は、地域全体にとって海洋汚染との闘いを行う重要な時である。シンガポールのLee Hsien Loong首相は、現在の多くの環境問題は国境を越えており、どの国も単独で問題を解決することは不可能だと指摘した。
(2)行動枠組みには、いくつかの重要な特徴がある。この枠組みは、ASEAN加盟国とパートナーの間の共同行動を強化し、海上及び陸地の活動の両方から発生するがれきを含む海洋ゴミを大幅に削減することを目的としている。海洋汚染の最大の原因である産業廃棄物や不適切なゴミ投棄が陸地から出ているため、枠組みに陸上活動を含めることが不可欠である。さらに、ASEANは、ASEAN海洋ゴミ対策センターを設立する可能性を行動枠組みに盛り込んだ。実現すれば、この地域の重要な機関になる可能性がある。センターはASEAN加盟国の情報源として機能することができる。ASEAN海洋ゴミ対策センターの設立は、ASEAN加盟国間の協力を強化し、世界の海洋汚染の解決にも大きく貢献するだろう。
(3)しかし、大きな問題は、ASEAN加盟国が法的枠組みを作って、それによって行動枠組みを行動に移すことができるのか、それとも法的拘束力のない枠組みとしてのみ行動するのかということである。過去を振り返ってみると、ASEANは環境問題との戦いに積極的でないことで知られている。問題の一部は、環境保護のための拘束力のある法的手段を作成する組織の欠如である。顕著な例の1つは、この地域の大気汚染に対するASEANのアプローチである。1997年と1998年の間及びその前に、この地域ではさまざまな煙害があった。「環境災害」と見なされるほど深刻であった。ASEANの不作為に対する批判は大きく、ASEANの事務総長自身もASEANの有効性に疑問を呈していた。ASEAN加盟国は、東南アジアで最も激しい煙害の期間を記録した1998年以降になって初めて、煙害問題を解決する法的拘束力のあるメカニズムの確立に同意した。国境を越えた煙害汚染に関する協定は、2002年に拘束力のある協定として調印された。
(4)国際協定の有効性は、法的に拘束力を持つかどうかに必ずしも依存しないが、それにもかかわらず、それは依然として明確な取り組みを求め、国家の行動を問題に向けて変えさせる要因となる最も伝統的方法である。ASEAN加盟国が法的拘束力のある文書をさらに作成することを望まない場合、これは将来の行動枠組みの実施にも影響を与える可能性がある。拘束力のある文書の作成に同意するために、各加盟国からの積極的な取り組みがなければならない。ASEANは、海洋ゴミの国際問題を解決するための積極的なアプローチを必要としている。ASEAN加盟国間の強固な協力と取り組みは、引き続き行動枠組みの実施のための重要な要素である。ASEAN加盟国間で共通の理解を得るためには、誠実に絶えず交渉を行わなければならない。
(5)枠組みを定めた文書に多くを期待できないことは明らかである。そこには法的拘束力のある方法についてではなく、特定の事項よりも一般的な事項が長々と述べられている。ASEANの他の諸国は、ASEANの4カ国が最大の海洋汚染者であると考えており、この枠組み文書から肯定的な結果を期待しているものの、おそらく、この最新の合意は法的拘束力のない枠組みだけのものとなるだろう。行動枠組みの中で示された優れた政策の実施について法的な明確さがなければ、残念な結果に終わるだろう。
記事参照:What to Expect From ASEAN’s New Agreement on Marine Debris

7月12日「インド太平洋におけるインドの立ち位置―日印関係専門家論説」(South China Morning Post, July 12, 2019)

 7月12日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、日本戦略研究フォーラム研究員Rupakjyoti Borahの“Not the US, not China. India holds the cards in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでRupakjyoti Borahは、近年ますます存在感を強めるインドが、米中が競合するインド太平洋地域においてどのような立ち位置をとってきたか、また、今後どのような立ち位置をとっていく可能性があるかについて、要旨以下のとおり述べている。
(1)今年6月に開催されたG20において、インドは日米および中露との間でそれぞれ三ヵ国会談を行った。このことは、経済力と軍事力を強めるインドが、Donald Trumpが大統領になって特に流動的な状況にあるインド太平洋地域において、きわめて重大な影響力を保持していることを示している。すなわちインドは、勢力のバランスをいずれかに傾けることのできる「スウィング・ステート」なのである。他方でインドは、伝統的な「戦略的自律」という方針のもと、また自国の経済成長を希求する姿勢のもとで日米側、中露側双方との密接な関係を維持するよう努めてきた。
(2)ワシントンとの関係は必ずしも安定したものではなかったが、補給に関する協定の締結や、日米との間でマラバール演習を実施するなど、その距離は近年縮まっている。また、5月2日にアメリカ政府がイラン産原油禁輸措置の適用除外措置を撤廃した後、インドはイランからの石油輸入を止めた。このことは、イラン産石油の主要輸入国であったインドにとっては重大な方針転換であった。しかし、6月にアメリカ政府がインドを一般特恵関税制度の対象から除外した後、インド政府がアメリカからの輸入品に対して報復関税を科したことなど、なお両国間の関係には調整が必要な諸問題が横たわっている。
(3)Narendra Modi政権になって以降、日本との関係は劇的に改善された。それは日本の安倍晋三首相がインドとの協調に熱心なためでもあろう。とはいえ、その経済的な紐帯は相対的には弱いと言える。日印の貿易額が2017年から2018年にかけて157億米ドルであったのに対し、中印の貿易総額は844億ドルにものぼっている
(4)ロシアはインドにとって主要な兵器供給国であり、そのことはアメリカ政府を苛立たせる要因のひとつである。他方、ロシアはイランのようなインドが経済的利害を有している国々に対して影響力を保持し、また、インドの隣国や長年にわたる敵対国に対してさまざまな提案を行い、接近を試みている。
(5)中国との関係については昨年、武漢でModi首相と習近平国家主席の間で非公式首脳会談が行われるなど、常にコミュニケーションの回路は開かれているし、アジアインフラ投資銀行(AIIB)などにおけるパートナーでもある。ただし中印の間には未解決の国境問題があるし、パキスタンを根拠地とするテロ指導者のMasood Azharに対する国連の制裁について中国が反対してきたことなどに見られる中国とパキスタンの関係をインドは快く思っていない。しかし今年5月になって中国はこの反対意見を撤回したが、それはインドへの配慮による決定かもしれない。
(6)インドはいまや「スウィング・ステート」として、インド太平洋地域の勢力のバランスを決定づけるほどの影響力を持っている。しかし、日米との距離を縮めているとはいえ、インドがどちらか一方の勢力にコミットする可能性は低い。インドが今後「スウィング・ステート」として行動するかどうかは、中国がインド太平洋地域における現状の変化を誘発するかどうか次第であろう。
記事参照:Not the US, not China. India holds the cards in the Indo-Pacific

7月12日「インド太平洋におけるドイツ:安全保障上の新たな行為者となるか―シンガポール研究員論説」(RSIS Commentary, July 18, 2019)

 7月12日付のシンガポールThe S. Rajaratnam School of International Studies のウエブサイトRSIS Commentaryは、同所Centre for Multilateralism Studies (CMS) 客員研究員Dr. Frederick Kliemの “Germany in the Indo-Pacific: New Security Actor?” と題する論説を掲載し、ここでKliemはドイツが軍事的にインド太平洋に展開することはまだ困難であるとして要旨以下のように述べている。
 (1)ドイツと日本には多くの共通点がある。両国は紛れもなく第2次世界大戦の主犯であり、戦後は軍事的に及び腰であるが、経済的な強国として浮上した。そして、米国の軍事的および経済的支援により戦後の復興が促進された。本質的にどちらの国もアメリカの保護にただ乗りしてきた。両国は、国内世論と自国の憲法の両方に代表される軍事への大きな反感に苦しんでいる。しかし、そのような感情は「1975+世代」とともに徐々になくなりつつある。さらに重要なことには、これまで疑いの余地のなかったアメリカの安全保障が不確実になってきている。日本はすでに「普通の国家」になるための行動を始めており、ドイツは徐々に追いつこうとしている。
(2)貿易立国であるドイツは、国連海洋法条約と規則に基づく秩序を擁護している。独政府は、違法な軍事行動と違法な貿易慣行に反対している。EUは、中国の不公平な貿易慣行に対して言葉と行動を徐々に強化してきたが、ロシアがクリミアを併合したとき、無気力のままだった。ベルリンでは、台湾海峡などの遠方の海域での独海軍の展開について国防省高官が議論しているという話が広まっている。これは、ドイツが国際的責任を果たすための一歩となるかもしれないが、残念ながらその時期は熟していない。中期的にベルリンが克服しなければならない必要性と可能性の間に少なくとも2つのギャップがある。それは、国民感情のギャップと能力のギャップである。
(3)第2次世界大戦におけるドイツの拡張主義は、社会に長く続く傷痕を残している。軍への国民の一体感はとても低く、軍の象徴的意味は受けが悪く、愛国者と呼ばれることを不快と思う人さえいる。特に、緑の党と左派党は、政治的主張の中心に反軍国主義を置いている。そして皮肉なことに、いわゆる「反米主義」は、世界中の米国の軍事介入に対する疑義を表明した。これらの軍に懐疑的な政党は、35%という高い支持率を記録した。緑の党の支持率は特に高い。さらに、軍事作戦は議会によって明確に支援されなければならず、「ドイツのための選択肢」(AFD)も同じように直接の自国防衛以外の支出や展開の増加を支持する可能性は少ない。ドイツ市民の間では、特に都市部の若者や高齢者がこのような軍事への懐疑を支持している。
 (4)反軍的な世論とより軍事に前向きな利害関係者の間の深いギャップのため、ドイツは軍事支出と能力構築を段階的に増加させることができなくなっている。その結果、ドイツの防衛費は他のNATO加盟国よりも大幅に少なく、GDPのわずか1.2%しか支出していない。深刻な資金不足、軍の貧弱な政治的駆け引き、軍隊への国民の支持の低さが、独連邦軍に深刻な能力のギャップを残している。多くの場合、運用可能な状態にあるドイツの戦闘機、支援ヘリコプター、戦車、潜水艦は全体の半分以下である。ドイツは軍事兵器の世界第4位の輸出国であることを考えると、これは皮肉である。独海軍が最終的に台湾海峡を航海したならば、それはより国際的に責任のある国になるための顕著な一歩となるであろう。特にドイツが実質的な貿易関係を享受し、伝統的には慎重であった中国に対して、ビジネス関係が悪影響を受けないようにしている。もちろん、軍事的配備は万能薬ではないが、もし配備を行ったならば、ドイツは同盟国にただ乗りの精神を克服し、規則に基づく秩序を守る信頼できるパートナーになったことを知らせることができる。米国への合図であるだけでなく、フランスへの合図でもある。
(5) しかし残念ながら、これは当分の間は起こりそうにない。 2つのギャップは大きすぎる。独政府のエリートたちは、国民と国会議員の両方に国際展開の必要性を説明し、2%のNATO支出目標の達成に向けて迅速に努力しなければならない。戦備レベルを着実に向上させている連邦軍の進歩を止めることは不公平であろう。しかし、進歩は遅すぎる。そのため今のところ、欧州関係国で協力して配備することが唯一の回答であろう。フランス、あるいは英国は持続的にインド太平洋で意味のある軍事力を展開する手段を持っていないようである。欧州の数ヵ国間の協力は、能力のギャップを解消し、インド太平洋地域での規則に基づく秩序の維持に有意義な貢献をし、安全保障関係者としてのEU の役割を促進できるだろう。特に、英仏独伊西の主要EU5カ国間の調整された小規模な多国間枠組みが望まれる。常設の軍事協力枠組みや欧州防衛基金などのイニシアチブは、正しい方向への一歩である。しかし、もっと重要なことは、国防支出、能力開発、展開の面でドイツが一段と前進しなければならないことである。しかし、当分の間、歴史はドイツがインド太平洋における意義のある軍事的行為者になることを妨げている。
記事参照:Germany in the Indo-Pacific: New Security Actor?

7月15日「米国による台湾への武器売却の意義―米専門家論説」(South China Morning Post, 15 Jul 2019)

 7月15日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、元米国防総省職員のDrew Thompsonの“US arms sales shows Taiwan’s security is non-tradable to US and key to its Indo-Pacific strategy”と題する論説を掲載し、ここでThompsonは米国による台湾への武器売却に含まれる意味合いについて要旨以下のように述べている。
(1)Trump政権は、台湾に22億米ドル相当のM1A2Tエイブラムス戦車108両とスティンガーミサイルを売却する意向を米国議会に通知した。中国は予想通り激怒したが、この最近の武器売却は台北とワシントンによる合理的な計算を反映しており、それはこの売却がそれぞれの利益のためにしっかりとしたものであると結論付けられた。重要なことに、この通知は、台湾の安全保障は、ワシントンと北京の間の全体の交渉における交換材料ではないが、Trump政権が忠実にそのインド太平洋戦略を実行しているという重要な指針であることを明らかにしている。
(2)新しい戦車とそれらを守るための防空手段を獲得するという台湾の合理性は明らかである。中国の軍隊は急速に近代化しており、台湾の侵略をますます現実的な脅威にしている。中国軍の脅威に対抗するためには、台湾は、新たな非対称的能力を開発することが必要である。M1エイブラムス戦車とスティンガーは、賢明な軍事的選択であり、台湾の“Overall Defence Concept”の不可欠な要素である。台湾の参謀総長李秀明海軍大将による構想は、非対称的かつ革新的な能力、機動性および生存性を強調し、その沿岸戦闘能力を向上させることによって台湾の防御的な強みを最大化する。一部の人間は、米国から提供された武器は射程が短く防御的であり、台湾関係法の下での義務と一致すると述べている。これらの品目は、両国間の軍事バランスを混乱させたり、米中の政治力学を変えたりすることはない。
(3)最も重要なのは、台湾への武器売却は、政治的抑止戦略の重要な側面であることである。この売却は、米国の台湾へのコミットメントについての北京への合図と、両岸間の不和を平和的に解決することへの合図であり、これはおそらく武器売却の最も価値のある特性である。
(4)この売却はまた、重要なパートナー諸国のために中国に立ち向かう米国のコミットメント、信頼性及び意欲について、この地域における同盟国やパートナーにとって重要な兆候である。それは、関係を深め、パートナーと同盟国の軍事力を向上させることを強調する米国のインド太平洋戦略を支えている。
(5)北京は、台湾への武器売却と米国のインド太平洋戦略を異なった観点で見ていることは疑いないが、その見方は計算法の本質を見逃している。中国と米国の貿易関係を交渉する一方で、Trump政権による台湾に戦車を売却するという決定は、米国の利益にまさに焦点を当てていることを反映している。また、米国が台湾を使って中国を封じ込めたり、中国を害したりしているという説の誤りを証明しているだろう。
(6)台湾の安全保障と引き換えに経済的譲歩を手に入れることは道理にかなわない。台湾の安全保障、中国の武力行使の抑止及び両岸間の紛争の平和的解決は、大豆や市場へのアクセスのために取引することはできないし、そうすべきでない米国の重要な利益である。
(7)台湾への武器売却は、中国が武力行使を放棄し、和解のための平和的手段のみを追求するまでは常に米中関係の一要素であり、重要であり続けるだろう。それは、台湾が自らを防衛し、相対的な安全保障の状況から両岸関係を管理することを確かにするという米国の国益において堅固であり続ける。長期的な平和と繁栄を促進する選択を支援するというこの概念は、インド太平洋戦略の中核である。米国は、台湾の安全保障へのコミットメント、そして同盟国とパートナーの防衛を実証するためのより多くの機会を間違いなく持つだろう。台湾は、新しいF-16V戦闘機を、老朽化したF-5戦闘機の代わりとして要求しており、その決定は保留されていると伝えられている。Trump政権がその利益に焦点を当て、台湾の安全保障は取引可能な商品ではなくインド太平洋戦略の不可欠な側面であることを認識し続ける限り、米中関係の台湾要因は管理可能であり続けるだろう。
記事参照:US arms sales shows Taiwan’s security is non-tradable to US and key to its Indo-Pacific strategy

7月17日「ホルムズ海峡沖で行方不明となった石油タンカー、イランは救助と主張―米紙報道」(The Washington Post, July 17, 2019)

 7月17日付の米紙The Washington Post電子版は、“Iran says it aided foreign oil tanker in the Strait of Hormz”と題する記事を掲載し、7月13日にホルムズ海峡で行方不明となった石油タンカーをめぐる問題について、要旨以下のとおり報じている。
(1)7月13日、ドバイのプライム・タンカーズが運航するパナマ船籍の小型石油タンカーRiahが、ホルムズ海峡のイラン領海内で行方不明となった(Riahの所有者についてはいくつかの報道がある)。イラン外務省報道官によれば、外国籍のタンカーが遭難信号を発したためにそれを救助したという。しかしアメリカとアラブ首長国連邦の政府関係者は、同タンカーが遭難信号を発した事実はないと主張している。
(2)16日、次期米国防長官Mark Esperは、上院における彼の承認に関する公聴会で、ペルシャ湾周辺海域の哨戒行動であるセンチネル作戦を実施すると述べた。これは、最近ホルムズ海峡において少なくとも6隻の船舶が攻撃を受けたことへの対応である。
(3)10日にはイギリスの石油タンカーが、ホルムズ海峡を通航途中、イランの革命防衛隊の妨害にあう寸前であったが、タンカーを護衛していたフリゲート艦がそれを追い払うという事件があった。イランは関与を否定しているが、今月始め、シリアに向かっていたイランの石油タンカーがジブラルタル海峡でイギリス軍に拿捕されたことに対し、イランはイギリスの船舶に対する報復を予告していた。イギリスによればイランの行動はシリアに対するEUの制裁違反に当たるものだが、イランはシリアに対する経済制裁とは関係ないと主張している。
記事参照:Iran says it aided foreign oil tanker in the Strait of Hormz

7月17日「湾岸を航行する船舶は非武装の警備員を配乗へ-英通信社報道」(Reuters, July 17, 2019)

 7月17日付の英通信社Reutersは、“Seeking to avoid escalation, ships deploy unarmed guards to navigate Gulf”と題する記事を掲載し、ペルシャ湾、オマーン湾での船舶攻撃事案を受け、同海域を航行する船舶に非武装の警備員を民間警備会社から雇用、乗船させる事例が増えつつあるとして要旨以下のように報じている。
(1)海運会社は湾岸地域で相次ぐ攻撃後、追加の安全措置として湾岸地域を航行する際、非武装の警備員を雇用しつつあると関係する警備会社は言う。事態拡大のリスクが高まるため、海運協会は海運会社にホルムズ海峡を含む重要海域において民間の武装警備員を使用することを避けるよう促している。ある海運会社は船長への助言から水線上の船体に爆発物がないかを注意深く監視することまで広い範囲にわたって支援するため経験豊かな警備会社に乗り換えつつある
(2)英海洋警備会社Ambrey社は、紅海やインド洋を航行する船舶に600名の警備要員を乗船させており、通常彼らは武装していると運用部長Gavin Lockは言う。しかし、過去3週間、ペルシャ湾およびホルムズ海峡を航行する船舶に80名から120名の非武装の警備員を追加、配備した。海洋警備員は今この瞬間にも状況に対応しており、すべての乗組員に目が配られているわけではない。したがって、それは船長に対する保証であるとAmbrey社のLockは言う。「重要なことは、ホルムズ海峡を航行する船舶は速やかにイランの舟艇である可能性がある目標を識別し、その視認を当局に報告し、近接する舟艇にすでに視認していることを明らかにすることである」と警備会社MAST社社長Gerry Northwoodは言う。
(3)武装警備チームを派出している民間警備会社は湾岸地域で警備任務に就いているが、これは海賊対処に限って認可されているものである。非武装専門チームには同じような制限ない。海上警備会社PVI社社長Jim Hiltonは、乗組員は見張りを増員したり、船の巡回を定期的に実施することを含めた職務を実施できると同時に、外部からの支援は心理的な効果があると述べ、「ある会社が非武装のブリッジでの助言者、あるいは非武装の警備員を選択してリスクの低減を図ることは、船内の正規の手続きを履行することを支援し、会社が通商を継続することを可能にする」と付け加えている。PVI社は、場合によっては「一度、武器を陸揚げし」、乗船し続ける警備員を派出してきたとHiltonは言う。
(4) 海運会社によっては契約時に安全上の配備に対する意見を辞退してきたものもある。「Maersk Tankers社は状況を注視しており、旗国と業界の指針に沿って予防措置を執っている」とデンマークのグループは声明で述べている。海運会社は、たとえ燃料を余分に消費しても外海の迂回航路を選択するか、リスクの一部として最低限の対価を払って航程を維持するかであると業界筋は言う。スーパータンカーが7日間航行する場合、追加の保険料は10倍となり10万ドルが価格に加算されると海上保険会社は付け加える。
記事参照:Seeking to avoid escalation, ships deploy unarmed guards to navigate Gulf

7月18日「人工雪が南極の氷床を救うか-英通信社報道」(Reuters, July 18, 2019)

 7月18日付の英通信社Reutersは、“'Artificial snow' could save stricken Antarctic ice sheet – study”と題する記事を掲載し、独研究者たちが沿岸都市を水没させる危険のある西南極氷床融解を「人工雪」によって食い止めることができるかもしれないと発表したとして要旨以下のように報じている。
(1)7月17日に公表された研究によれば、政府機関は西南極氷床を「人工雪」で覆うという最後の頼りとする技術で、同氷床が大洋に滑り落ち、沿岸都市が水没することを止めるかもしれない。新しい研究の著者は12,000基の風力タービンを使用して1,500メートル上空に海水を汲み上げ、そこで海水は凍って氷床がこれ以上崩壊するのを止めるよう氷床を圧するのに十分な「雪」となると考えている。
(2)科学者たちは、地球温暖化によってすでに南極では融解が進んでおり、巨大氷床は崩壊への道を辿っている。そして、このことは何世紀をもかけ、やがて世界の海面が少なくとも3メートル上昇するきっかけとなるとしている。独Potsdam Institute for Climate Impact ResearchのAnders Levermann教授は氷床に関して「我々は何もしなければ引き返すことのできないところに来てしまっている。我々はちょっとした干渉で安定した状態に引き戻すことができる。後日に延ばせば大きな干渉によってこれを引き戻すことになる」と言う。気候変動に伴う干ばつ、洪水、山林火災が世界的に広がっており、一部科学者は数年前でさえ非現実的として一蹴されていた介入を真剣に考え始めている。Levermannと共著者はコンピューターモデルを使用し、パイン・アイランドとスウェイツ氷河周辺に最低でも7,400メガトンの人工雪を10年以上にわたって堆積させることで西南極氷床を安定させることができると計算している。この報告書はこのような介入にかかる対価は示していない。Levermannは政府が対応するだろうと述べている。
(3)他の多くの気候科学者の声を反映して、Levermannは最も優先しなければならないことはパリ協定の平均気温上昇の抑制目標を達成できるよう炭素排出量を急ぎ削減することであると言う。Levermannは、西南極氷床の崩壊によって起こる最大限の海面上昇は数百年のうちには起こらないだろうと言うが、低地帯に住む人々の運命に対する懸念を表明するためにこの報告書を出したと言う。グリーンランド、北極における氷床の融解、世界中での氷河の後退は問題を悪化させ、各国がパリ協定の実行をうまく行ったとしても、究極的には海面は少なくとも5メートル上昇するとLevermannは警告する。
(4)気候科学者たちは、例え西南極氷床を人工的に支えることができると理論的に予測されても、それを排出削減を遅らせる理由としてはならないと注意喚起している。しかし、報告書が南極の重要性を強調していることは歓迎している。
(5)「しかし、計画はそのものではないにしても西南極氷床上に我々の都市を覆う巨大ドームを建設するか、あるいは人々がこの地球に与える問題を回避するために人類が住めるように改造した火星に移住させるような(荒唐無稽な:訳者注)ものである」とPlanetary Science Institute in Tucson, ArizonaのJeffrey S. Kargel上席研究員は言う。「我々が何を置いても必要としている将来を見通した考えは、我々の文明を化石燃料への依存から脱却させることができるのもは何かである」とKargelは言う。彼は、Levermannらの研究に参画していない。
記事参照:'Artificial snow' could save stricken Antarctic ice sheet – study

7月19日「カナダ、遅ればせながら違法漁業防止寄港国措置協定に参加―加メディア報道」(CBC, July 19, 2019)

 7月19日付のカナダ放送協会のウエブサイトCBCは“After long delay, Canada joins global pact to stop illegal fishing trade”と題する記事を掲載し、カナダの違法漁業防止寄港国措置協定加盟は大きな効果が期待できるとして要旨以下のように報じている。
 (1)今やカナダも違法漁業と戦う国際協定締約国であり、カナダの港に入港する外国船舶は密輸品の魚を捜索するためのより多くの検査実施が期待される。7月18日土曜日、カナダは全世界で230億ドル規模に達する違法漁業に歯止めをかけることを目指す港湾都市国家間の協定に加盟する。これについて自由党下院議員で漁業大臣政務次官の Sean Caseyは、カナダはほぼ10年前の提案時にこの協定に署名したが、前保守党政権がこれを実行するための法律可決に5年を費やし、更に自由等政権も所要の規制を導入するために何年も費やしたと述べた。カナダは同協定の62番目の批准国となるが、Caseyは、ほとんどの施策は既にカナダが実施している事項を強化するだけだと述べている。全世界では約2600万トンの魚が違法に漁獲され、報告されていないと推定されているが、Caseyはその中のどれだけがカナダに入ってくるかについては不確実であると述べた。
 (2)この協定が発効すると、カナダでも船舶が登録され、魚が荷揚げされた際のカナダ港湾での監視を強化することにより、違法に漁獲された魚を運ぶ船舶の入港を拒否する権限がカナダ当局に与えられる。Caseyは同協定の重要な部分である他国との情報共有についてもカナダは正式参加すると述べている。また、Caseyはここカナダで漁師が違法漁業を頻繁に実施していることはないが、彼が参加したすべての国際漁業会議でこの件が議題になっていると述べた。また、この協定の批准に合わせ、カナダ政府は違法な魚を運んでいる疑いのある船舶を遠隔で特定して追跡する海上監視用の3つの新しい衛星を打ち上げた。
記事参照:After long delay, Canada joins global pact to stop illegal fishing trade

7月19日「米国による有志連合の提案に飛びつかない同盟諸国―英通信社報道」(Reuters.com, July 19, 2019)

 7月19日付の英通信社Reutersは、“Allies play hard to get on U.S. proposal to protect oil shipping lanes”と題する記事を掲載し、中東の航路を守るために米国が提唱している有志連合の呼びかけに対して、同盟諸国は参加に慎重であるとして、要旨以下のように報じている。
(1)イランとの緊張が高まるとの懸念から、米国は、重要な中東石油輸送航路の監視強化の構想に対する同盟国の支持を獲得するのに苦心していると報道されている。7月9日、ワシントンはイランとその代理の者たちによるタンカーへの攻撃について非難し、イランとイエメンの沖の戦略海域を守るための取り組みを強化することを提案した。イランはその嫌疑を否定している。しかし、ワシントンの同盟国は新型の兵器類や戦闘部隊を送ることに消極的であるため、米国の目的は軍事同盟を結成することではなく、商業船舶輸送に対する攻撃を抑止するためにこの地域を「懐中電灯」で照らすことであると米国防総省の高官は語った。対立のおそれがあるため、米国の同盟諸国による関与は、ペルシャ湾のホルムズ海峡と紅海のバブ・エル・マンデブ海峡付近にすでに配置されている海軍要員と装備に限定される可能性が高いと情報筋は述べている。
(2)「米国人は将来の攻撃に立ち向かう『有志連合』を構築したい。誰もその対決の路線に進むことや米国がイランに対抗する動きの一部になることを望んでいない」と西側外交官は述べている。
a. ワシントンの提案では、米国が艦艇の運用を調整し、監視の取り組みを主導する一方で、同盟国はその近隣水域をパトロールし、自国籍の商船を護衛する。
b. イランは、域外大国はテヘランやこの地域の他の国々に向かう海上輸送路の安全確保を止めるべきであると述べている。
c. アラブ首長国連邦に海軍基地を持つフランスは、テヘランがフランスを反イランと見なして船舶の護衛を計画しておらず、米国の計画を緊張の緩和に逆効果であると考えていると当局者が述べている。
d. 英国の安全保障筋は、すべての商業船舶を護衛することは現実的ではないと述べており、これは他のいくつかの国々と共有されている見解である。
e. 北京で勤務している西側高官は、中国がこのような海洋同盟に参加することは「あり得ない」と述べた。
f. 韓国関係者は、ワシントンはまだ公式の要求をしていないと述べている。
g. そのような構想に参加するという日本の決定は海外への自衛隊派遣をめぐる日本の世論の分裂を煽る可能性がある。
h. インドは、6月20日以来、インド籍船を守るために2隻をペルシャ湾に展開している。
i. 他のアジアの石油輸入国は、連絡官の派遣のような象徴的プレゼンス以外には何も行いそうにないと当局者と外交官は述べた。
(3)イランの革命防衛隊が燃料を密輸している外国のタンカーを拿捕したと述べた結果、7月18日に緊張がさらに高まった。米国のDonald Trump大統領が2018年、イランが経済制裁の緩和と引き換えに核計画を縮小することに同意した、2015年の核合意を離脱して以来、緊張が高まっている。海洋安全保障構想への支援を確保できなければ、米国とその同盟国であるスンニ派のサウジアラビアとアラブ首長国連邦による中東のシーア派であるイランとイランが支援する中東の勢力を孤立させる努力に対して打撃となるだろう。サウジアラビアとアラブ首長国連邦が、イランが支援するフーシ派と闘っている同盟を牽引しているイエメン沖の海岸線で、両国はすでに哨戒活動を実施している。
(4)「彼ら(米国)もまた、経済的負担を負うことを望んでいない」と、ペルシャ湾の情報筋は述べた。バーレーンに本拠を置く米第5艦隊により、何十年にもわたって船舶輸送路を守ってきた米国には、警備の負担が大きくかかるだろう。米国はまた、この地域で安全保障と対海賊のための作戦を遂行する33カ国の連合海上部隊も率いている。英国はオマーンに基地を持ち、中国はバブ・エル・マンデブ海峡にあるジブチに軍事基地を持っている。北京はイランとサウジアラビアの両国と緊密なエネルギー関係をもっているため、この地域では穏やかに踏み込まなければならなかった。
(5)強力な従来型の海軍部隊を欠いているが、多くの高速艇、携帯型対艦ミサイル発射装置及び機雷を保有しているリヤドとアブダビは、イランに対する米国の制裁措置を支持している。西側の武器を多数購入している湾岸諸国は、海軍の装備よりも空及び陸上における能力に投資しており、大規模な海軍の任務を調整する経験はほとんどない。International Institute for Strategic Studiesのミリタリーバランス准研究員であるTom Waldwynは、これらの大半の艦艇は長期任務に苦労する小型艇とコルベットであると語った。米国防総省高官は高速小型艦艇が特に役に立つと示唆し、いくつかの国がこのイニシアチブに関心を示していると述べたが、その名前は挙げなかった。
記事参照:Allies play hard to get on U.S. proposal to protect oil shipping lanes

7月20日「南シナ海における中国の『軍事化』が求める米比同盟の見直し-比専門家論説」(South China Morning Post, 20 Jul, 2019)

 7月20日付の香港日刊英字紙South Chine Morning Post電子版はマニラを拠点に活動する研究者Richard Heydarianの“Why China’s ‘militiasaiton’ of the South China Sea needs a review by the Philippine-US alliance”と題する論説を掲載し、ここで Heydarianは南シナ海における中国のグレーゾーン戦略に効果的に対応し得るよう米比相互防衛条約を見直す必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1)Richard Heydarianは、最近のリード礁の事例のようなグレーゾーン事態への対応も念頭に米比相互防衛条約を見直すべきであると指摘する。「良い危機を無駄にするな」とは英国のWinston Churchill首相の名言であるが、Rodrigo Duterte大統領は中国との和解を決断するよう圧力をかけられている。6月に海上民兵の疑いのある中国船がフィリピン漁船を沈めたリード礁危機はフィリピンと米国の同盟の改善を主張する人々を勢いづかせた。最新の調査は南シナ海におけるより厳しい姿勢と、中国に対抗し伝統的同盟国との関係強化を支持するフィリピン国民が増加していることを示している。
(2)今月、米比両国は1951年に署名された相互防衛条約の年次見直しを公式に開始するが、
今回の見直しは冷戦終結以降で最も重要なものになると思われるだろう。それはDelfin Lorenzana比国防大臣が同盟の有効性について公然と疑問を呈したからである。彼は「条約が締結された時は冷戦下であったが、冷戦は現在も続いているのか、この条約は現在の安全保障状況に寄与しているのか?」と述べ、同盟廃棄の可能性まで口にした。同盟の包括的な見直しを求めるLorenzanaの主張はフィリピンに対するコミットメントとアジアの変化する地政学的環境に対する米国の「二律背反」への懸念である。この見直しプロセスの中核は相互防衛委員会と安全保障委員会であり、これは比国防省と比軍の高官による一連の安全保障関連会議である。
 (3)皮肉なことに中比友好の流れの中で生起したこの事件はDuterte政権を揺るがし、北京との関係改善に対する広範な反発を引き起こした。中国との良好な関係の維持を追求してきたDuterte大統領は、反対者や独立的立場の議員のみならず、支持層であった議員からも厳しい批判を受けている。注目すべきは2022年の大統領選候補者である有力政治家のPanfilo Lacson上院議員もフィリピン周辺海域における中国の拡張主義に対抗すべく、米比相互防衛条約の適用を主張しているという点である。就任から3年が経過するDuterte政権は、中国の攻撃的行動のために米比同盟をアップグレードするプレッシャーを受けているのである。
 (4)フィリピン独立記念日の6月12日、Lorenzana国防大臣はフィリピンの排他的経済水域内で、かつ、中国の主張する九段線内であるリード礁で衝突事件の後、中国船の「不適切な行動」を公に非難した。この事案に際し、中国船は全く救助を行うことなく現場から去り、22人のフィリピン漁民はベトナム船が通りかかるまで海上に放置されたのである。ところがDuterte大統領は数日間の沈黙の後、これを「小さな海難事故」と発表し事件の矮小化を図ろうとしたのである。さらに彼は、習近平国家主席との間で中国船がフィリピンの排他的経済水域内で運航できるよう口頭了解したとも述べた。これはフィリピン憲法が海洋資源の保護を求めているのを無視したということでもある。その後、沈没したフィリピン漁船の船長の妻を含む批判勢力がDuterte大統領の弾劾を求めたため、政治的な危機状態が続いた。
(5)このリード礁の事件は以下の3点を明らかにした。第一に、Duterte は本来の政治基盤を犠牲にしてでも彼の戦略的守護者である中国との関係維持に固執している。第二に、北京に対する反感はフィリピンの政治的エリートから一般大衆の間にまで広まっている。そして何より今や南シナ海問題において中国の「軍事化」という明確な脅威が存在するということである。これはリード礁の問題に限らず、スプラトリー諸島に海上民兵と思われる漁船団を配備したことからも明らかであろう。これらはまさに中国の「海上における人民戦争」戦略なのである。
 (6)フィリピンに対する中国の脅威の高まりを背景に、米国防総省と国務省はフィリピンに対する米国のコミットメントを徐々に明らかにしつつある。結果的にリードバンク危機はフィリピンの防衛当局者が中国に対抗して伝統的同盟国である米国とのより緊密な協力を推進することとなった。米比両国は今年、280の防衛交流活動を予定しているが、これは米インド太平洋軍司令部の責任範囲の中でも最も多い。この防衛協力協定の下、ワシントンとマニラは相互運用性と共通の脅威への対応強化を目的とした12のプロジェクトを予定している。近年、米国も参加する南シナ海におけるゲームは、スカボロー礁を含むフィリピンの排他的経済水域内における米空母の展開や「航行の自由」作戦のより頻繁な実施が見られるようになった。このほか、米比両国の沿岸警備隊間の協力も深化している。更に国防総省が新たに発表した「インド太平洋戦略報告」では「強固な年次協力により我々は危機の時代に対応するのに十分なレベルの相互運用性を維持できる」と宣言している。
 (7)更に重要なのはフィリピン防衛当局がワシントンの戦略的明確性の高まりを歓迎しているということである。今年初め、Mike Pompeo米国務長官は、南シナ海は太平洋の一部であり「ここでのフィリピン軍艦、航空機、または公船に対する武力攻撃には相互防衛義務が適用されるだろう」と述べている。Sung Kim在米国フィリピン大使もリード礁危機の白熱化に伴い、フィリピンの船舶等に対する中国海上民兵の攻撃を含む「あらゆる武力攻撃」が相互防衛条約の対象とされることを示唆した。以前の米政権はフィリピンに対する米国のコミットメントについて南シナ海に特に言及しておらず、この曖昧さがフィリピンの防衛当局を悩ませていたのである。
 (8) Lorenzanaが指摘したとおり、マニラとワシントンは新たな脅威である「グレーゾーン」事態における中国の海上民兵部隊の攻撃に対応すべく、それぞれの政府の能力を強化する改訂ガイドラインを導入する可能性が高い 。そして、そのような方向性には先例もある。
2000年代初頭、世界的な対テロ戦争において非国家主体による新たな脅威が出現する中、米比両国は同盟を強化し、より緊密な対テロ協力のためフィリピンの主要拠点への米特殊部隊のアクセスを拡大する新たなガイドラインを策定したのである。今日、米比両国は特に南シナ海における新たな脅威を対象とした新たなガイドラインを導入することができる。将来的にフィリピンは、紛争地域であるスカボロー礁に近いバサ空軍基地やスプラトリー諸島に最も近いバウティスタ空軍基地への米国の装備の事前集積を最終的に許可することになるであろう 。こうした施策は南シナ海における中国のグレーゾーン事態の脅威に的確に対応し得る同盟へのアップグレードに向けたブレークスルーとなるだろう。南シナ海は中国の本格的な「軍事化」に直面しており、このことは今後の米比同盟見直しの焦点となるはずである。
記事参照:Why China’s ‘militiasaiton’ of the South China Sea needs a review by the Philippine-US alliance

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Failing or Incomplete? Grading the South China Sea Arbitration
https://amti.csis.org/failing-or-incomplete-grading-the-south-china-sea-arbitration/
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, July 11, 2019
7月11日、米シンクタンクCenter for Strategic and  International StudiesのウェブサイトAsia Maritime Transparency Initiative(AMTI) は、" Failing or Incomplete? Grading the South China Sea Arbitration "と題する論説を掲載した。その中では、2016年7月12日にハーグの常設仲裁裁判所が、フィリピンが提起した南シナ海における中国の主張に対してフィリピン側有利の判断を下したが、中国はこの仲裁裁判への参加を拒否し同裁判所の決定を拒絶したことを取り上げ、AMTIが独自に実施した中国の同判断への対応度の評価が行われている。それによれば、中国は、仲裁裁判所が下した判断ポイントに対し、UNCLOS(国連海洋法条約)の規定と合致しない中国独自の境界概念である九段線を国家管轄海域の根拠として今なお堅持する一方、今次仲裁裁判の判断では南沙諸島のスカボロー礁などは法的には岩であるとされたことから、中国はEEZや大陸棚の権利を、少なくとも南沙諸島では明確には行っていないなど、かなり不明瞭な対応を行っていると評されている。
 
(2) It Isn’t All About Europe: The Impacts of China’s Missile Forces on Russian Threat Perceptions and the INF Architecture
https://jamestown.org/program/it-isnt-all-about-europe-the-impacts-of-chinas-missile-forces-on-russian-threat-perceptions-and-the-inf-architecture/
China Brief, The Jamestown Foundation, July 16, 2019
By Martin Andrew retired from the Australian Defense Force after 28 years of service and holds a Ph.D. in Political Science from Bond University
7月16日、豪退役軍人で政治学の博士号を有するMartin Andrewは、The Jamestown FoundationのCHINA BRIEF(ウエブ版)に" It Isn’t All About Europe: The Impacts of China’s Missile Forces on Russian Threat Perceptions and the INF Architecture "と題する論説を発表した。ここでAndrewは、2018年12月、米国政府はロシアのINF条約(中距離核戦力全廃条約)違反行為を非難し同条約から脱退すると発表したが、一部報道で、2019年4月下旬、Donald Trump米大統領が、ロシアおよび中国との新たな軍備管理協定を推進するよう関係部署に指示したと伝えられたことを取り上げ、中ロ両国の核ミサイルの戦略的重要性などを検証していると指摘する。そして彼は、2018年の米ロ両国の行動に鑑みればINF体制はもはや過去のものとなったことは疑いがないとした上で、今後新たな核兵器管理体制を目指していく際には、中国という核兵器大国の交渉参加が欠かせないと指摘している。
 
(3) China Risks Flare-Up Over Malaysian, Vietnamese Gas Resources
https://amti.csis.org/china-risks-flare-up-over-malaysian-vietnamese-gas-resources/
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, July 16, 2019
2019年7月16日、Center for Strategic and International Studies(CSIS)のウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiative(AMTI)は、“China Risks Flare-Up Over Malaysian, Vietnamese Gas Resources”と題する論説を発表した。同論説において、①過去6週間で2回、同じ中国海警が南シナ海を跨いだ海域でベトナムやマレーシアといった近隣諸国による石油やガスの操業に対してハラスメント行為を行った、②一方で中国国有船は、ベトナム沿岸沖の石油やガスのブロックの地震調査を始めており、これによって、調査船を護衛している中国海警と海上民兵のボートの派遣隊とその海域に派遣されているベトナム船のグループとの間で対立が生じる危険性がある、③この状況は、北京が、南シナ海におけるその権利主張の境界と定めている「九段線」内のいかなる場所でも、近隣諸国によって行われている石油・ガス活動を妨げるために尽力しているにもかかわらず、争われている海域において炭化水素を調査し開発するというダブルスタンダードを明らかにしている、④5月以降のマレーシア及びベトナム沿岸沖での中国の行動は、北京が強制と武力の脅威をますます用いる意思があることを示している、などの主張が展開されている。