海洋安全保障情報旬報 2019年6月11日-6月20日

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6月11日「米国のインド太平洋戦略報告は誰のためのものか?―デジタル誌The Diplomat編集委員論評」(The Diplomat, June 11, 2019)

 6月11日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌編集委員Ankit Pandaによる“The 2019 US Indo-Pacific Strategy Report: Who’s It For?” と題する論評を掲載し、そこでAnkit Pandaは米国防総省が最近発表したインド太平洋戦略報告の内容とその特徴について要約し、文書中で応分の負担の共有を求められた同盟国やパートナー国がそれに応じるのには慎重であるべきだとして要旨以下のように述べている。
(1)6月初旬に米国防総省(DOD)はインド太平洋戦略報告(以下、IPSRと言う)を発表した。その発表は、シンガポールで行われた今年のアジア安全保障会議において、米国防長官代理Patrick Shanahanが演説を行ったのとほぼ同じタイミングでのことであった。
(2)IPSRはインド太平洋と呼ばれた戦略的な巨大地域について深く検討した初めての文書である。米国の概念におけるその地域は、インドの西海岸からアメリカの東海岸までを包含するものであり、日本のインド太平洋戦略やインドのインド太平洋概念とも異なるものである(当然重なるところもあるが)。この文書で提示された米国のインド太平洋戦略は、Obama政権期の「ピボット」や「リバランス」を土台とするものでありつつ、それとの違いを含むものである。以下その連続性や相違点を確認しておく。
(3)第一に、IPSRは、中国を戦略的競合国と位置づけた2017年の国家安全保障戦略と2018年の国防戦略文書を踏襲し、中国を「現状修正国」と規定した。これは中国との明白な対決を回避しようとしたObama政権の方針とは異なるものである。
(4)第二に、IPSRは同盟国やパートナー国に注目し、とりわけインド太平洋戦略の追求における負担の平等化に関心を払っている。IPSRはインド太平洋戦略の追求に際して、準備・協調・ネットワーク化された地域の促進という方針を提示したが、これはObama政権末期における、アジアにおける「原則に基づくセキュリティ・ネットワーク」を踏襲するものである。他方IPSRは、同盟国への負担の分配についてTrump大統領の志向を強く反映するものあった。それは米国の同盟国やパートナー国によるイニシアチブに強い関心を向けているのである。ここにObama政権の方針との違いがあるだろう。
(5)IPSRのいまひとつの特徴はインド洋に対する関心が相対的に低いことだ。このことはインドの関係者たちに、アメリカは依然、インド太平洋と言いつつも本質的に太平洋志向であり続けているのではないかという懸念を抱かせるものである。インド洋地域に関する限り、IPSRは、インドやスリランカ、モルディブ、バングラデシュ、ネパールなどのパートナー国に頼ることを明確にしている。太平洋地域については力強く野心的な言葉で論じていたこととは対照的であった。
(6)同盟国やパートナー国に対する期待は、これまでTrump政権が発表してきた戦略文書に比べて明確ではあるが、他方で、IPSRはそれらと本質的に異なるものではない。国家安全保障戦略や国家防衛防戦略をよく読み込んでいれば、IPSRに表明されたことのほとんどは予想されたことなのである。
(7)Trump政権においてインド太平洋地域がきわめて重要な場所であることは言うまでもないことである。とはいえ、資源に限りがあるなか、その重要性に見合った資源が同地域にどの程度振り分けられるのか、この問題について真正面から取り組んでいるようには思われない。Obama政権下の「リバランス」政策においても、結局のところヨーロッパや中東、北アフリカに対して多くの資源が投じられたのであり、Trump政権になってもそれらの地域における諸問題が解決したわけではない。したがって、同盟国・パートナー国は、この文書がインド太平洋地域を最も重要な地域と述べたことについて、あまり真に受けないほうがよい。今回はこれまでと違う、と断言できるような根拠はほとんどないのである。
記事参照:The 2019 US Indo-Pacific Strategy Report: Who’s It For?

6月12日「北極の海氷の後退により、米海軍は北に目を向ける-米メディア報道」(National Public Radio, June 12, 2019)

 6月12日付の米公共ラジオネットワークNational Public Radioウエブサイトは、“As Polar Ice Cap Recedes, The U.S. Navy Looks North”と題する記事を掲載し、気候変動により北極の海氷が融解してきていることに伴い、米海軍は北極に目を向けてきているとして要旨以下のように報じている。
(1)米海軍は目を北に向けている。気候変動によって氷が融解してきたことで、軍は極北、特にアラスカ沿岸沖の海域でプレゼンスをどのように拡大するかを検討しつつある。アラスカにおける海軍のプレゼンスは長い間に盛衰があった。陸空軍は十分な兵力が展開しており、沿岸警備隊は各所に配備されている。海軍はアラスカの北岸沖で海氷下の潜水艦の訓練を実施している。国防総省は北極における軍事紛争の脅威は低いとみている。しかし、中ロの北極における活動の増加が警鐘を鳴らしている。米会計検査院の2018年11月の北極における海軍の役割に関する報告書は海氷の融解により天然ガス、鉱物資源、漁業資源のような豊富な天然資源に、より容易に手が届くようになりつつあり、「対立的な主権の主張」が持ち上がっていると指摘している。
(2)2018年までほぼ30年間、米空母は北極圏内で危険を冒して行動することはなかった。空母Harry S. Trumanが2018年10月に1991年以来初めてノルウェー海での演習に参加した。2019年5月、Theodore Roosevelt空母打撃群がNorthern Edge演習参加のため陸、海、空、海兵隊及び沿岸警備隊の人員を乗せ、アラスカ沖に向かった。空母戦闘群司令官Daniel Dwyer少将は、「気候変動は北極海域における海上活動の増大によってこの種の訓練に新たな緊急性を加えている。北極の海氷が減少し、海上交通路が開かれ、この海域を航過する海上交通が増加している。これらの足音の中で米国を守ることが米海軍の責任である」と述べている。
北極地域において海軍に期待されていることを考慮し、乗員がその任務を遂行できるように他国海軍と同じように訓練され、装備されていると海軍は述べている。「日中、夜間、好天、悪天候、平穏な海、荒天と言った環境に関係なく、常に同じ手順だ」と飛行甲板に着艦するヘリコプターと同じように甲板から離陸するジェット戦闘機について、Dwyer少将は言う。
(3)2019年の米沿岸警備隊士官学校の卒業式で、軍は北極において米国の影響力を「再び主張する」一翼を担うと安全保障担当大統領特別補佐官John Boltonは言う。「我々は、極北が何人も軍事力の建設や経済的搾取によって他国を強制することのない、緊張の低い地域であることを望んでいる」とBolton特別補佐官は卒業生に語った。
(4)Trump政権は6月のある時点で新しい北極戦略を公表すると考えられる。減退する氷は確実に北方海上交通路を開き、それによってアジアから欧州への海上輸送の時間と費用を削減するが、船舶の交通量を増加させる原因ともなると予想されている。軍は、温暖化は海氷が長く閉ざしていた交通路を開くと率直に述べている。にもかかわらず、現時点で米海軍のプレゼンスは最低限である。ベーリング海、アラスカ側北極を含む北太平洋を責任範囲とする米第3艦隊司令官John Alexander中将は、「隣人になりたければ、隣にいなければならない。これらの海域で自由で開かれた航路があることを確実にしなければならない」と述べている。
(5)海軍は北極と同じくらい厳しい海洋環境の中でプレゼンスを拡大するために大きな障害に直面している。米会計検査院の報告書によれば、海軍のほとんどの水上艦艇は氷海で行動するよう設計されていない。同報告書は、契約造船所は冬季装備を施し、氷海で行動可能な水上戦闘艦艇、水陸両用戦艦艇の設計能力に欠けていると海軍当局が指摘していることに言及している。数年にわたる検討を経ても、国防総省は強力な海軍のプレゼンスを恒久的に維持できる北極周辺の戦略港の位置と設計をまだ得ていない。軍隊が北極で行動できるとしても、そこに到達しなければならない。現時点で、北極の海域は年間を通じ氷に覆われている。沿岸警備隊によれば、ロシアは40隻以上の砕氷船を有し、うち3隻は新しい大型原子力砕氷船で北極海航路に沿って航行できるよう設計されている。対照的に米軍が稼働できる砕氷船はわずか2隻である。
記事参照:As Polar Ice Cap Recedes, The U.S. Navy Looks North

6月13日「オマーン湾での石油タンカー攻撃事件に見る米政府への信頼性の問題―豪ジャーナリスト論説」(The Interpreter, June 13, 2019)

 6月13日付の豪シンクタンクLowy Instituteが発行するウェブ誌The Interpreterは、同誌編集長のDaniel Flittonによる“Oman: credibility gulf will test White House”と題する論説を掲載し、そこでFlittonは、オマーン湾における石油タンカー攻撃事件に見られる米政府への信頼性低下の問題と、そのような中で報道機関が何をすべきかについて、要旨以下のとおり述べている。
(1)オマーン湾で石油タンカーが攻撃を受けるという事件があった。経済的および戦略的に重要な場所でのこうした事件は非常に重大なものであったが、それについて米国政府が即座にイランを非難したこともまた重大であろう。Donald Trumpは世界を納得させることができるのだろうか。
(2)英語の国際ニュースサイトではこの事件を大きく扱っていたが、オーストラリアのメディアでは若干扱いが小さかった。ここで言いたいのは豪メディアの報道姿勢についてではなく、この問題について明らかになっていないことが多いということである。どのような兵器による攻撃だったのか、誰が乗員を助けたのか、そうした問題についてさまざまな推測がある。それにもかかわらず、米国政府は即座にイラン政府を非難したのだ。くり返し言うが、これは重大な問題であろう。
(3)このニュースに対する豪メディアの関心が相対的に低かったことは、ホワイトハウスの権威や信頼性の低下を示唆しているように思われる。最近のメキシコへの関税賦課の問題やシリアからの軍撤退問題、あるいは北朝鮮に対する「炎と怒り」の威嚇の後の展開に見られるように、Trump政権は強烈な言葉を放った後にすぐそれを退けるのである。
(4)信頼性の低下の問題はTrump自身や彼の政権だけのものではない。イラクのSaddam Husseinの大量破壊兵器保有に関する米情報機関の過ちがあったがゆえに、今回のケースにおいてPompeo国務長官が自身の主張の正当性を裏づけるために情報機関に言及したとき、人びとはうんざりするのである。諸々の世論調査は一貫して米国に対する信頼性が低いことを示している。
(5)とは言え信頼性の問題は相対的なものだ。果たしてイランの言うことが信用できるのか、あるいは他の国々の主張はどのようなものであろうか。報道機関がやるべきことは、関係者にインタビューを行いながらさまざまな物語を継ぎ合わせ、ひとつの独立した評価を提示することであろう。報道はまず関心を持ち、抱かれた前提を疑うことから始めるべきであろう。
記事参照:Oman: credibility gulf will test White House

6月14日「比大統領、日本重視に転換―比専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 14, 2019)

 6月14日付の米シンクタンクCSISのWebサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、比De La Salle University准教授Richard Javad Heydarianの “Duterte’s Pivot to Japan”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianはDuterte比大統領の外交政策について、戦略的な軸足を日本に移してきているとして要旨以下のように述べている。
(1)Duterte比大統領の外交政策で最も過小評価されている分野の1つは、日本との関係強化を実現したことである。Duterte大統領は、過去3年足らずの間に3度も東京を訪問し、両国間の戦略的絆の深化を実現した。大統領は、東京訪問中に60億ドルの対比投資約束を取り付け、また、大統領の故郷、ミンダナオ島の和平促進プロジェクトや開発プロジェクトに対する2,950万ドルの支援も取り付けた。しかしながら、最も重要なことは、両国が南シナ海問題を話し合い、海洋安全保障上の懸念を共有したことである。中国の台頭と地域秩序に対する中国の破壊的影響は、この地域の2つの米国の同盟国同士の関係を、かつてない緊密なレベルに押し上げた。
(2)日本の安倍首相は、米国のこの地域に対する政策の将来的な不確定性を視野に入れて、フィリピンとの貿易と投資関係を強化するだけでなく、拡張主義的な中国に対抗するために同国の海洋安全保障能力の強化を支援することによって、「自由で開かれた」地域秩序に積極的に貢献している。また、日本は、中国本土において上昇する労働賃金、技術の盗用や投資環境の悪化から、「チャイナプラスワン」戦略の下でその経済政策の重点を東南アジアに移してきた。フィリピンは近年、世界で最も有望な新興市場の中でも、日本からの製造業投資の主たる投資先になってきた。実際、日本はすでに、フィリピンの主たる投資国であり、輸出先であるとともに、海外からの開発援助の最大の提供国となっている。また、日本は、Duterte大統領の野心的な “Build, Build, Build” インフラ計画における最大の国際的パートナーでもある。しかしながら、経済的利益の共有だけが日本との2国間関係の強化をもたらしているわけではない。Duterte大統領は、マニラの唯一の条約同盟国である米国、あるいはフィリピンの最大の貿易相手国である中国への戦略的依存に対する最大のヘッジとして、東京との結び付きを強化してきた。日本は、フィリピンにとって、(中国のように)フィリピンの領有権を脅かすことなく、あるいは(西側諸国のように)フィリピンの人権状況を批判することなく、米中に代わる投資と安全保障援助の提供先となっている。
(3)安倍政権は、海洋安全保障の領域、特に南シナ海における協力関係を促進するために、Duterte大統領との特異な建設的関係を利用してきた。東京での首脳会談で、両首脳は、「航行と上空通過の自由、通商及びその他の合法的な活動の自由、領有権紛争における自制と平和的解決の促進、といった諸原則の堅持に対するコミットメント」を繰り返し強調した。安倍首相は、Duterte大統領に対して周辺海域における中国の海洋侵出によってもたらされる脅威を、穏やかだが首尾一貫して警告してきた。従って、北京に友好的なDuterte大統領が東京での日経フォーラムにおける基調演説で、「(南シナ海の)全海域に対する(中国)の要求は合法的か」と不平を漏らしたとしても、何ら不思議ではない。実際、フィリピンは日本がこの地域において枢要な安全保障の提供国に転換したことの最大の受益国となってきた。近年、日本は、フィリピンの沿岸警備隊に巡視船を、そしてフィリピン軍にTC-90練習機を提供した。これは、東南アジア沿岸域諸国の基本的な海洋監視能力と抑止能力を強化する、東京のより広範な政策の一貫である。また、日本は、より多くの米比合同演習にも参加するようになった。更に、海自の護衛艦は、定期的にフィリピンの港、特にスービック湾を訪問するようになった。5月には、フィリピン、日本、米国及びインドは、南シナ海において航行と上空通過の自由の維持を狙いとした、前例のない4カ国海軍演習を実施した。
(4)将来的には、フィリピンと日本は、先進的な兵器と装備の供与とともに、フィリピン領土内への日本の軍事プレゼンスのローテーション展開、そして定期的な合同演習への道を拓く、より包括的な防衛協定を検討することになるかもしれない。もっとも、これが実現するためには、日本の平和憲法の基本的な修正を必要とするであろう。それにもかかわらず、安倍政権は、新たに制定された安全保障法制の下で、志を同じくする諸国との防衛協力の深化を妨げる障害を積極的に排除しつつある。フィリピンの駐日大使は、日本を南シナ海紛争においてフィリピンを支援する用意がある、「世界で最も重要なパートナー国」だと述べている。もし安倍政権が戦後日本の平和主義的外交政策を上手く転換させることができれば、そして特にこの地域における日本の好ましいイメージと中国の台頭に対する共有する懸念を考えれば、日本のフィリピンとの防衛協力は全く新たな次元に入ることになろう。
記事参照:Duterte’s Pivot to Japan

6月14日「北極を巡る中東でのタンカー攻撃の影響と児童虐待対策―ノルウェー紙報道」(High North News, Jun 14, 2019)

 6月14日付のノルウェー国立NORD UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North Newsの電子版は、“Newsletter: Attacks on Ships in the Middle East May Mean Increased Traffic Along the Northern Sea Route”と題する記事を掲載し、最近の中東におけるタンカー攻撃事案の北極海航路への影響と北極圏における児童虐待対策について要旨以下のように報じている。
(1)北極海航路の将来については、非常に楽観的なものからスエズ運河を通る輸送に代わるものとしての北極海航路を完全に拒否するものまで、非常に異なる予測が存在する。特に移動時間と燃料費についての計算は、物品が東から西へ輸送される場合に北極海航路に有利になる発言となる。
(2)懐疑的な人々は、安全でない氷の状態、準備不足及び短い航海可能期間について議論することで、これらの計算に対抗している。北極海航路に沿った中国の膨張する野心はいうまでもなく、国際的な海運会社からの莫大な投資は、その反対方向へと状況を導いている。安全保障政策に関する議論では、最近の中東における海運への攻撃が影響を及ぼす可能性がある。国際海運への攻撃が続けば、保険会社はもちろん多くの関係者たちは、現在の航海パターンへの選択肢を検討する必要があるだろう。
(3)もし北極海航路沿いの交通量が増えれば、ロシアとともに中国は、国際貿易の中心となるだろう。米国防総省は、北極圏の「戦略的レース」における潜在的な脅威として中国とロシアの両方を指摘しているが、これら2つの大国は、どちらも西側諸国とは異なり、北極圏ですでに軍事戦略を実行している。中国の海運会社、中国海運集団有限公司は、今年、北極海航路沿いの航海で過去最高の数の船を送る予定である。そしてデンマークのMaerskは、北極海航路の彼らの移動の途中でロシアの港を通過するだけではなく、それらへの配送のために、ロシアのAtomflotとの協力も含めて野心を拡大している。
(4)政治的な現実の反対側で、我々は北極圏の一部において子供たちが如何に弱い立場になる可能性があるかについて定期的に報告している。ノルウェーのトロムス県で進行中の裁判では、虐待がいくつもの訴訟になっていることを示している。元県知事のSvein Ludviksenは、若い亡命希望者たちと性交を行うために彼の権力を乱用したと告発されている。デンマークの選挙に関連して、グリーンランド人は、政府に北極担当大臣を置くという彼らの強い要望を表明している。進行中の政府交渉において、イヌイット友愛党からのグリーンランドのAaja Chemnitz Larsenは、虐待の犠牲者であるグリーンランドの子供たちに救済基金を設置するよう要求した。
記事参照:Newsletter: Attacks on Ships in the Middle East May Mean Increased Traffic Along the Northern Sea Route

6月15日「中国にとって新たな異常なこと:南東アジア海域におけるヨーロッパ諸国の哨戒行動―比専門家論説」(South China Morning Post, 15 Jun, 2019)

 6月15日付の香港日刊英字紙South China Morning Post 電子版は、マニラを拠点とする研究者であり著述業のRichard Heydarianの“China’s new abnormal: European patrols in disputed Southeast Asian waters”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianは南東アジア海域における欧州諸国、特にドイツの行動を紹介し、要旨以下のように述べている。
 (1)中国が周辺海域で急激に軍事力を増大させた結果を反映して、米国の戦略家Edward Luttwakは、正式なものではないが中国に対抗する同盟が形成されることは避けられなくなったと述べた。Luttwakは、彼の2012年の『中国の台頭vs戦略のロジック』の中で、我々は「かつては注意深く中立を保ってきた列強が中国に対し再編成されること、かつての中立国が敵になり、古くからの敵と新しい敵が過度に台頭してきた者に対して公式にも非公式にも連携する場面」を目の当たりにしていると書いた。欧州の産業大国であるドイツが東アジアの海洋紛争に加わることは、戦略的な急激な変化である。中国は、米国からの抵抗に直面するだけでなく、インド太平洋地域に戦略的な関心を持つ米国と欧州諸国の連合に対抗しなければならない。アヘン戦争の暗い時代を想起させるように中国は再び西側列強に包囲されている。
(2)ドイツは、この紛争に加わる最後の国となる。過去2年間、かつてインド太平洋地域に植民地を持っていた英国とフランスは、中国沿岸における海軍による圧力を強化してきた。2019年4月、フランスはフリゲートVendemiaireに台湾海峡を航行させたことにより、中国を激怒させた。仏艦艇を追跡した人民解放軍海軍の艦艇は「中国の主権と安全保障を堅く守るであろう」と中国国防部部長は警告した。フランスは、この航行は合法であり、緊張の高まっている海域での航行の自由を守る幅広い努力の正当な一部であると主張した。英国は、2019年1月17日に南シナ海で米国と初めて数日にわたる共同訓練を行い、中国を怒らせた。英国は、訓練は地域の安全保障と繁栄に貢献するものであると述べた。数週間前には、英国は、中国が実効支配しているParacel諸島付近の海域で、米国と日本の海上自衛隊との三か国の対潜戦を目的とする共同訓練を実施した。中国の抗議に対して、英国は、今後数年のうちに空母Queen Elizabethを南シナ海に展開すると発表した。その上、英国とフランスは米国の同盟国、特に日本、インド、オーストラリアとの防衛協力を深めつつ「航行の自由」作戦を強化していった。その結果、中国の台頭に対して軍事的な相互運用性と情報共有と戦略的な関心を深めるインド太平洋に関係する同じ考え方の国々が事実上ひとつのチームとなった。
(3)米誌Politicoの6月5日のレポートによると、今ではドイツもこの海域に入ろうとしており、限定的ではあるが強力な海軍艦艇を西太平洋の中国の海軍力を監視する勢力に貸し出そうとしている。この海域の論争についての控えめな態度から大きく変化したドイツは、まもなく中国、台湾、アメリカの間で緊張を生み出している台湾海峡に海軍艦艇を派遣するだろう。この変化は3つの点で注目すべきである。第一に、ドイツの第二次世界大戦後の海外派兵に関する無関心と著しい対照をなしている点である。ドイツは2011年のリビアのQaddafi政権に対する西側の共同軍事作戦にも、数年前のイラクとシリア国内のISに対する共同軍事作戦にも参加しなかった。アフガニスタンの戦争後には厳しい交戦規定の下に最小限の平和維持軍を派遣しただけで、米英にタリバン勢力との戦いの大部分を任せた。第二に、フランスや英国とは違って、ドイツはインド太平洋に直接的な領土と海洋に関する利害関係は持っていない。ドイツBudestag外交委員会のある上級委員が筆者に語ったところによると、この海域の問題はまだ「主要な地理的関心」の段階にとどまっている。第三に、ヨーロッパの強国の中で、ドイツは最も中国と経済的に相互依存している。双方の経済関係の深さは、ドイツと中国の間で定期的に共同閣僚会議が行われていることからも説明できる。米中の貿易戦争に対抗して、ドイツの会社が中国での投資を増やそうともしている。2018年、二国間の貿易額は、2,257億ドルに達した。中国はドイツの技術と機械の主要な輸入国先である。にもかかわらず、ドイツは、近年東アジアの問題についてますますはっきりとものを言う立場をとるようになっている。
(4)2015年、ドイツのMerkal首相が北京を訪問した際、「南シナ海の領土紛争」は「深刻な衝突」であると公然と宣言した。たとえば、フィリピンがハーグ国際司法裁判所へこの地域の意見の相違を提訴することを決定したことについて中国が熱心に反対していたとしても、Merkal首相は「なぜこの件について、国際裁判所で話し合うことが解決の選択肢になってはいけないのか、いつも少し驚いている」とまで語った。Merkal首相はまた、ドイツは海上貿易ルートが「自由かつ安全」な状態になっていることに関心を持っていることを明らかにした。ドイツが南シナ海と台湾海峡に軍艦を派遣することは、中国を踏んだり蹴ったりの目にあわせるだけかもしれない。しかし、中国は周辺海域で、ヨーロッパの勢力の軍事的プレゼンスの高まりに再び取り組まなければならない。一連のドイツの行動は、中国にとって新たな異常なことなのである。
記事参照:China’s new abnormal: European patrols in disputed Southeast Asian waters

6月17日「大いなる期待:ASEAN とインド太平洋コンセプト―仏専門家論説」(The Diplomat.com, June 17, 2019)

 6月17日付のデジタル誌The Diplomatは、仏Institut français des relations internationales のアジア研究センター准研究員Sophie Boisseau du Rocherの“Great Expectations: ASEAN and the Indo-Pacific Concept ”と題する論説を掲載し、ここでRocher はASEAN による新たなインド太平洋構想を紹介して要旨以下のように述べている。
(1) ASEANがついにインド太平洋に関する構想を発表しようとしている。ASEANの役割は、この地域のバランスをとることである。6月23日にバンコクで行われる第34回ASEANサミットにおいて、加盟国は「ASEANインド太平洋構想」が発表されることを期待している。利害関係国の間で、ASEANだけがこの新たに提起され議論されている概念について見解を正式に表明していない。ASEANが今までに行ったただ1つのコメントは、新たなスキームが「ASEANの中心性を尊重しなければならない」というものである。このコンセプトは、インド太平洋のまさに中心に位置するASEANの将来にとって主要な関心事となることは明らかであり、ASEANは意図的に回答を作成するために時間をかけて、承認されていない論理や事業に束縛されることを回避してきた。しかし、それだけが作成が遅れたことの理由ではない。加盟国の間でインド太平洋に関する地理的範囲や目的や野心の違いがASEANの影響力の限界、新たな勢力配置の複雑さ、伝統的なパートナーに重大な誤解を起こさせるリスクに同時に反映されている。
(2)実行の限界となっているのは自己制約である。ASEANが自分で主張した「中心性」について配慮を求めているため、域外のパートナー諸国の期待は、ASEANの構想に実体を伴わせるASEANの能力に関する疑念とともに持ち上がっている。確かにASEANはインド太平洋の「自由」と「開放」が試される橋、玄関口、十字路などと呼んでいる自己の地理的位置を利用しようと望んでいる。ASEANの連結性に関する基本計画は好意的に支持されるかもしれない。しかし、ASEANの「中心性」とは、地図を一瞥しただけで明らかなひとつの地政学的な地域の中心に位置しているということだけではない。ASEANの議論では「中心性」とは、地域のハブであることからより広い地域のためのテーマや規則を設定することまで、多くの意味を持つのである。
(3)インド太平洋地域のすべての関係国が、東南アジア諸国にとって適切な地域的枠組みとしてのASEANの付加価値を承認し、彼らが協力を促進し緊張を緩和するという幅広い目標に同意するとしても(誰もこのことには反対できないだろう)、それでも、グループとなることの本当の有効性について懐疑的である。確かに緊張が明らかな衝突になることはなく、武力の行使はほとんど避けられてきたが、それはある種の非難をやり返すことを弱めたり、ASEANへの信頼を減らすという代償を払ってきた。ASEANのいわゆる柔軟性は、主要な問題について発言することなく、弱さ(あらゆる形態における多様性)を強さに変えてきた最良のコミュニケーションツールである。インド太平洋構想はこの外交コミュニティの究極の具現化あるいはその拡大であり、終わりのない認識の探求かもしれない。過去20年間、Jurgen Haackeが正しく見てきたように、ASEANは東アジアの地域秩序だけでなく、ASEANと関係する大国もASEAN化することを試みてきた。しかし、その成功例は限られていた。「中心性」の問題を先延ばしにしてASEANは解決策をより困難で不確実なものにしてきた。事実、この地域の勢力分布はASEANの平和、安定、繁栄のエコシステムを徐々に無効化する潜在力を持つ軍事力と現実の国際政治によって定められてきた。
(4)ASEANの責任ある適切なリーダーシップを疑うことはインド太平洋コミュニティにとって重要な問題である。2018年11月シンガポールでの第33回ASEANサミットで承認された5つの原則、すなわち、開放性、透明性、規則に基づく秩序、中心性及び包含性は、期待と今後の課題に答えられるのか?ASEANがインド太平洋の正統性のある指導者とみなされるために、その主張は中国との「行動規範」のための現在行われている交渉よりも説得力がなければならないだろう。インドネシアは、このASEANインド太平洋構想の起草の原動力となっており、ASEAN の論理の持つリスクを評価しなければならない。ASEAN 外交の進行の遅さは、インド太平洋における新たな原動力にとって不適切であることを証明するだけでなく、最も強力な存在のために海域を開かれたままにすることで逆効果を生み出すであろう。一部の専門家は、現在の地域のパワー構成と潜在的あるいは顕在化している緊張により、ASEANの「中心性」及びASEANウェイが、今までよりも貴重なものになっていると主張している。ASEAN がMely Caballero-Anthonyが定義した「高い中立性」を利用したならば、用語の曖昧さがその役割を誤って伝え、その真の影響を逸脱するかもしれない。議事から離れると、東南アジアを含む多くの外交官は、地域のメカニズムの非効率と限界について不満を言い続けている。長年の、しかし一度も対処されてこなかった曖昧さはインド太平洋で脆弱で可逆的な方法が残っているものを無効化する可能性を秘めているだけでなく、大国が行動する余地を増大すると同時にASEANの現実の影響力を歪める逆効果を生むかもしれない。それはまた、表面上はASEAN の「中心性」を維持するという中国と米国による共通の立場があるという点に至るかもしれない。
(5)ASEAN は現在、「法の支配」と混同しないよう、「規則に基づいた秩序」を主張している。 この違いは、中国を除いたASEAN とすべての主要なインド太平洋地域の関係国との間の大きな隔たりとなる可能性がある。北京は同じ選択肢を支持し、国際法は地域の問題を解決するのに適切ではないと主張し、地域の特性を備えた地域メカニズムを通して管理されるべきであると主張している。中国国防部部長、魏鳳和はASEAN の認識を受けて、2019年5月31日から6月2日の間に開かれたアジア安全保障対話で別の地域秩序のビジョンを擁護した。そしてもう一つの重要な問題がまだ残されている。南シナ海での解決策を見出すため、中国の圧力に負けずにASEANは規則を基盤とした秩序へ移行するのか、それとも彼らの利益を傷つけないように中国がASEANの慣行を共有するのか? いずれにせよ、インド太平洋共同体の将来だけでなくASEAN の「中心性」も試されているのである。
記事参照:Great Expectations: ASEAN and the Indo-Pacific Concept

6月18日「中国は南シナ海での戦略を南太平洋にも適用するのか?―豪国防関係誌編集員論説」(The Strategist, June 18, 2019)

 6月18日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategistは、Australian Defence Magazineオンライン編集員であるEwen Levickの“Is China using its South China Sea strategy in the South Pacific?”と題する論説を掲載し、ここでLevickは南シナ海における中国の行動を南太平洋に投影する必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1) Australian Strategic Policy Institute(ASPI)が最近出したRichard Herr; Graeme DobellそしてJohn Leeの太平洋に関するレポートは、地域のダイナミックな変化に対するオーストラリアでの議論の広がりを反映している。しかしながら、いずれも中国が南シナ海での占領の成功を南太平洋に如何に移し替えるかを考えてはいない。中国の南太平洋へのプレゼンスの拡大には多面性があり、グローバルパワーとしての自然な成り行きを反映しているとも言えるが、それが“Left of Launch”(いわゆる「発射の残骸」、すなわち(オーストラリアの同盟国の)「先制無力化」)となり、同盟国の第2列島線へのアクセスを無効にする可能性がある。中国にとっては南シナ海と南太平洋には4つの共通点がある。重要資源の存在、海底ケーブルに近い無人島嶼の散在、メラネシアのビスマルク群島海域などの重要な海洋チョークポイント、そして多くの貿易パートナーの存在である。これらの類似点は、中国をして地域の状況認識を改善するために同盟国の「先制無力化」を仕掛ける方向に向かわせるかもしれない。
(2) 中国による軍民両用の科学技術は主に科学院深海科学与声学研究所によって開発されており、そこで潜航潜水艦を追尾できる海中グライダー「海翼」が作られた。「海翼」は昨年10月にグアム沖で潜水艇「深海勇1号艇」から放された。「海翼」に加えて米潜水艦の動向を探る音響センサー2セットのうちの1つを設置した可能性がある。「深海勇1号艇」は青島海洋科学技術研究所に属する中国国家造船公社によって成西造船所で建造された。青島海洋科学与技術試点国家実験所は南シナ海から世界の海に海中音響ブイを設置する任務を有している。また、青島の海洋地質研究所も国家実験所に属しており、ここでは中国海洋鉱産資源研究開発協会に代わって海底資源の探査に従事し、キリバス、クック諸島、ニューカレドニア周辺のポリメタルとコバルトの結節、ビスマルク海の硫化物堆積物を発見している。そして、国務院が所有する国営企業が海底資源開発用の船舶等を建造している。
(3) その他にも軍民両用技術の使用例がある。中国遠洋研究艦隊の艦船2隻がマヌス島とグアムの間の海域で潜水艦の音響測定にも適用できるデータを収集している。うち1隻は南シナ海での音響測定に従事していた。海上民兵を兼ねる中国漁船が太平洋に進出している。人民解放軍は監視船を漁船に偽装させることがよく知られている。また、以前、海警と中国海洋鉱物資源研究開発協会を統括していた旧国家海洋局が新たに設立された天然資源部に編入されており、さらに軍民両用技術の使用を活発化させる可能性がある。中国政府は科学的な研究と資源探査を通じて状況認識を改善し、兵器と組み合わせて同盟国の第2列島線内での活動を侵食する事態が危惧される。
記事参照:“Is China using its South China Sea strategy in the South Pacific?”

6月20日「イランは米国を挑発しているのか?―米ニュース誌報道」(Foreign Policy, June 20, 2019)

 6月20日付の米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトは“Did Iran Just Invite a U.S. Attack?”と題する記事を掲載し、イランによる米国の無人機撃墜の背景について要旨以下のように報じている。
(1)6月20日、イランはホルムズ海峡付近で米国の偵察用無人機を撃墜し、フーシ派のロケット攻撃で重要なサウジアラビアの給水施設を狙ったことにより、米国との対決において意図的に危機の度合いを引き上げた。イランに起因すると考えられるオマーン湾での石油タンカーへの一連の攻撃の後に起きたこれらの攻撃と、2015年の核取引の下での遵守義務のいくつかをやめるというテヘランの決断は、この膠着状態を完全な対立へと傾ける危険にさらしている。
(2)「イランは非常に大きな間違いを犯した!」と米国のDonald Trump大統領が20日にツイートした。Trumpは中東での終わりのない戦争における米国の関与を終わらせる活動をしていたと彼は述べた。「しかし計画を台無しにされた」とTrumpは記者団に語った。Trumpはイランによって行われたとされる過去6週間の6隻のタンカーへの攻撃を「非常に軽微」と片付け、これらは米国の軍事的対応を引き起こさないと述べていた。
(3)現地時間の20日早朝、イランのイスラム革命防衛隊が、最新の米国の偵察無人機を撃ち落とした。これは先月、米国による激しい経済的圧力キャンペーンに関して地域のライバルたちを激しく非難し始めて以来、米国のアセットに対する最初の攻撃だった。イランは、無人機がイランの空域を侵害したと述べた。これはイランが厳しい対応を促すことが確実視されるレッドラインである。米国防総省は無人機がイラン海岸線から20マイル以上離れた国際空域を飛行していたと述べ、国際海域での無人機の破片回収に取り組んでいると述べた。米中央軍空軍司令官のJoseph Guastella中将は、「これは任務中のいかなる時もイランの空域を侵害しなかった米国の監視アセットへのいわれのない攻撃であった」と述べた。
(4)米国の議員は、政権のタカ派がイランとの戦争を推進するかもしれないと懸念している。Trump政権当局者たちとTrump自身は、過去1ヶ月間、ペルシャ湾の近くでイランの侵略にどう対応するかについてもめている。米国の安全保障担当特別補佐官John Boltonはタカ派の口調で、20日のドローン撃墜後、再び3%以上石油の価格を急激に引き上げた重要な海運ルートへのイランの妨害を容認しないだろうと警告した。Mike Pompeo国務長官は、米軍人の死亡につながるいかなる行動も、直ちに米軍の対応を促すとイランに個人的に警告した時、最も明確なラインを引いたようだ。無人機を意図的に標的にすることは、その敷居を低くし続けるためのイランによる計算のようである。「明らかに、最も憂慮すべきことは、手に負えないエスカレーションである。しかし、イランと米国の双方が、非常に慎重な動きをしているようだ」と米シンクタンクWashington Institute for Near East PolicyのFarzin Nadimiは述べた。
記事参照:Did Iran Just Invite a U.S. Attack?

6月20日「衝突事案は南シナ海行動規範の必要性を強調-香港紙報道」(South China Morning Post, 20 June, 2019)

 6月20日付の香港日刊英字新South China Morning Post電子版は、“Collision highlights need for South China Sea code ”と題する論説を掲載し、中国船と比漁船の衝突事案にもかんがみ、南シナ海行動規範策定への努力を加速すべきとして、要旨以下のように報じている。
(1)南シナ海において天然資源をめぐって対立する関係各国の主張は、海上において抗争や事故を引き起こす。重大な紛争に発展する事故や誤解の可能性は、それを回避し、あるいは封じ込めるための枠組みが地域の平和と安定にとって最優先事項であることを示している。
(2)適切な事例はリード礁における中国船と比漁船の衝突による予期せぬ影響である。この事案は係争中の海域における船舶、航空機に対する行動規範を完成させる呼びかけとして貢献している。6月20日から23日にかけてバンコクで行われるASEANサミットでこの件が討議されることが望まれる。
(3)事故と誤解を避け、航行の自由を確保するため中国とASEAN諸国が協議してきた行動規範草案が早急に必要とすれば、この事案はそのことを思い起させる。行動規範策定に合意して17年、法的拘束力を持たせるか否かの問題が障害として残っている。関係国は、その障害を克服する努力を倍加しなければならない。一方、すべての関係国が規範の信頼と善意の基礎を試すような事故を回避する努力をしなければならない。
記事参照:Collision highlights need for South China Sea code

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) What Are China's Intentions in Antarctica?
https://thediplomat.com/2019/06/what-are-chinas-intentions-in-antarctica/
The Diplomat, June 14, 2019
By Nengye Liu, a senior lecturer at Adelaide Law School, University of Adelaide, Australia
6月14日、豪州Adelaide Law School, University of AdelaideのNengye Liu 講師は、デジタル誌The Diplomatに" What Are China's Intentions in Antarctica? "と題する論説を発表した。その中で彼は、2019年が1959年12月1日に12カ国の署名によって成立した南極条約60周年であることをきっかけとして、中国の南極戦略について取り上げている。特に中国が領土主張などを行うのであれば、それは明確な南極条約違反であり、もしそのような主張を行いたければ同条約から脱退すべきだと主張している。また、中国は1983年に初の南極観測を開始し、その後、同大陸とその周辺海域における存在感を徐々に拡大していったことからしても、中国は今後南極大陸に何らかの利益獲得の機会を見いだせるのであれば、これ幸いと挑戦してくるだろうと指摘している。
 
(2) The Case for Maritime Security in an Era of Great Power Competition
http://cimsec.org/the-case-for-maritime-security-in-an-era-of-great-power-competition/40586
Center for International Maritime Security, June 17, 2019
Joshua Tallis, a research scientist at the Center for Naval Analyses and holds a PhD in international relations from the University of St Andrews
6月17日、米国の研究機関Center for Naval Analyses(CNA)の科学研究員Joshua Tallisは、米シンクタンクCenter for International Maritime Security (CIMSEC)のウェブサイトに“The Case for Maritime Security in an Era of Great Power Competition”と題する論説を寄稿した。そこでTallisは、①「海洋安全保障」という言葉と不明瞭なその任務は、9.11以降広範に使用されていたが、課題の優先順位が明確ではないまま、米国防総省と米海軍は大国間の競争へその指向を転換した。②しかし、非伝統的な脅威によって突き動かされる沿海域と沿岸海域での作戦は、米国の外交政策において継続的な役割を果たすだろう、③今後世界の人口の大部分が、ネットワーク化された都市による密集した沿岸コミュニティに集中することが示唆されているが、人がいるところで争いは起こる、④混雑し貧弱で野蛮な沿岸地帯も、ネットや交通等の結合によって周囲の世界とつながるため、戦略的に重要なままである、⑤技術発展により、非国家の脅威に関して「戦争と犯罪、国内と国際の出来事の区別」がほとんどなくなるにつれて大国間競争という単一の課題に集中することが可能になり、戦略家達にとっては不透明で非伝統的な課題を回避することが魅力的になるかもしれないが、それは間違いである、⑥どのように海洋戦力がそれらの課題に対処するかは混乱した海域を守るという制約に対する彼らの注意力によって決定づけられるだろうと主張している。
 
(3) The Evolution of the U.S. Navy
https://nationalinterest.org/feature/evolution-us-navy-63457
The National Interest, June20, 2019
By James Holmes, J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College
6月20日、米海軍大学のJames Holmes教授は、米隔月誌The National Interest電子版に" The Evolution of the U.S. Navy "と題する論説を発表した。その中でHolmesは、第二次世界大戦後の米海軍と海兵隊との関係性について取り上げ、米海軍と海兵隊は、多数のミサイル搭載潜水艦と哨戒艇を背景に巨大な水上海軍を盛んに配備している人民解放軍などの潜在的な敵と効果的に競争しようとするのであれば、自らの 「グレート・リラーニング(Great Relearning:再学習)」 に着手しなければならないと主張する。そして彼は、それはつまり、ますます競争が激化する海洋世界の管理を米国が再開するには、公海上での戦いという本来の海軍力の機能を再学習し、再装備しなければならないが、いずれにしてもそれは基本への立ち返りであると説明している。