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論考

2019/12/5

民主党の候補者問題とアイオワ党員集会
「バーチャル・コーカス」導入中止

渡辺将人(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)

 2020年大統領選挙の民主党について、党内の流派やイデオロギーにかかわらず、民主党幹部、議会筋はある共通した本音の見解を持っている。それは、今回の選挙には「良い候補者が1人もいない」「B+候補ばかりでAランクがいない」というものだ。無論、民主党連邦議員にも民主党戦略家にも、「誰ならましか」「誰が予備選で勝ちそうか」と好みを聞けば、それぞれの立ち位置から「ウォーレン」「バイデン」云々と答える。しかし、それは決して強い「支持」ではなく、いずれも「消去法」での選択だ。「1992年のビル・クリントン、2008年のバラク・オバマに匹敵する、カリスマ性と実力を備えた強い候補が存在しない」と民主党の関係者は考えている。

 民主党穏健派は骨太の候補を輩出できず、党内がリベラル一本槍に傾斜している中で、そのリベラル内も一致できていない。労組基盤のリベラル派はシェロッド・ブラウンに期待していたが、不出馬を受けてウォーレン支持に渋々合流した。サンダースは依然として危険分子である。サンダースの主張の骨子が反既存政治、反民主党のマグマを活性化する性質を有しており、サンダース支持者は本選で棄権や第三候補を選びがちだからだ。「誰が候補者になっても本選で必ず民主党に投票する。棄権も第三候補も選ばない」という民主党の2020年の基本戦略に逆行しかねず、サンダースだけは予備選で勝たせてはならない、という考えが民主党リベラル派にはある。今年初頭には期待の声が大きかったカマラ・ハリスも足踏みの末に撤退を表明した。「ハリスとブッカーはタイミングを失った。何度も輝けるチャンスが早期にあった。自業自得だ」という辛口評価が大勢を占める。

 10月以降アイオワ州の現場を現地で観察して感じたのは、選挙キャンペーンと「社会運動」を兼ねているサンダース事務所以外では、活動家が熱心でキャンペーンに活気があるのはブティジェッジやハリスの事務所だったことだ。だが、活動家の情熱と候補者の評価は必ずしも比例していない。

 ウォーレンを渋々盛り上げる方向に旋回をした民主党内では、穏健派もバイデンがどこまで粘りを見せるかを注視しつつも、下院の中道的1年生議員の成長を待ち、今回のサイクルでは大統領候補として穏健派を擁立することを諦めつつある。バイデン以外の穏健派候補に短期的には大きな期待を見せていない。リベラル派はウォーレンの強さを、経済ポピュリズム、若年層、女性、キャンペーン組織の強度、資金、独自のカリスマに収斂させていく戦略で、「政治家ではない」「高齢」「大学教授的」というマイナスを「アイオワ、ニューハンプシャー連勝で打ち消すしかない」として「緒戦2連勝シナリオ」を描く。ウォーレンの最大の弱点は黒人票で、サウスカロライナ以降失速することが予見されているので、黒人人口が多い州が来る前に、フロントランナー感を確定させることが必須である。

 ウォーレンに関する根本的な民主党政治インサイダーの不安は、「彼女がどこまで政治家になりきっているのか」という点にある。オバマは憲法学を講師として講じてはいたが、コミュニティ活動家で早期から政治を意識した野心家だった。州議会議員も経験して連邦議員になった。ウォーレンは最近上院議員になったばかりの生粋の法律学者である。政治よりも法律への関心が強く、専門性が強い一方で興味のない問題に関心が薄いとされる。「大きなビジョン」を掲げ、「駆け引き・取引も仕事のうち」でないと成果を出せない政治家としてはマイナスと見られている。巨大IT企業分割への執着もその一つだが、それによりどんなアメリカ社会を実現できるのかのビジョンが欲しいと、リベラル派にもウォーレン案への冷ややかな目線は強い。また、メディケアの財源確保のために中間層増税が必要なジレンマの中、医療費削減などのトータルな世帯コスト抑制政策を駆使して、増税を納得させる手腕もない、として批判が多い。

 また、オバマ政権下でウォーレンはTPP潰しの中心的人物だった過去がある。民主党戦略家のサイモン・ローゼンバーグは、ウォーレンが「アメリカの雇用喪失の理由はオートメーションではなく、貿易政策の過ちによって生じている」と述べていることを批判している。「彼女のグローバルな貿易政策への無知と、全般的に孤立主義的な外交政策を我々は憂慮すべきだ」と手厳しい。ただ、「第三党候補」の性質が強いサンダースが熱烈な支持者以外を集めにくい中、現時点で複数の候補者に分散しているリベラル系有権者も第二希望としてウォーレンを支持する可能性がある。その点では、1回目の投票(支持表明)で、全体の15%に届かなかった候補の支持者が2回目の投票(リアラインメント)をすることができるアイオワ党員集会では最終票で有利だ。

 ところでそのアイオワでは、あと2か月に迫ったアイオワ党員集会の運営方針をめぐり、小さな波乱があった。アイオワ州民主党中央委員会が4月に満場一致で決めた新制度案を、民主党全国委員会が許可しなかったのだ。アイオワ州民主党が導入を計画していたのは、多人数通話式の電話によるテレカンファレンスや、スマートフォンなどのモバイル端末で参加できる「バーチャル・コーカス」であり、本論考シリーズでも4月に紹介した(拙稿参照1。この「バーチャル・コーカス(virtual caucus)」は、高齢者施設や職場などの小規模会場で拡張的に開催する「サテライト・コーカス(satellite caucus)」とは異なる。旧来の党員集会では「その日その時間にその場に参加する」ことが条件であり、参加への障壁が高い。2016年に実施済みの「サテライト・コーカス」はあくまで「ミニ・コーカス」であり、特定の会場で決まった時間に参加しなければいけない点では同じだった。「バーチャル・コーカス」はこの問題を一定程度克服する画期的な方法と期待された。おなじく党員集会方式を採用しているネバダ州とも連携し、あとは全国委員会の正式承認を待つだけであった。しかし、全国委員会は正式な承認をずるずると引き延ばしたあげく、最終的に「セキュリティ上の理由」で、この新方式を認めない決断を下した。

 民主党全国委員会の技術担当局は、技術専門家との検討を重ねた結果、2020年の党員集会開催までの短期間に、ハッキングを絶対に起こさせないだけのセキュリティを担保したシステムを完備するのは不可能だと判断した。全国委員会は、この決定をメモランダムにして外に見える形で公表している。文書内でロシアによる2016年大統領選挙への介入の問題にも言及し、民主党のサイバーセキュリティへの取り組みもアピールした2

 アイオワ州民主党では、この新方式が全国委員会でも認められると思い込んでいただけに、却下への不満が渦巻いている。「バーチャル・コーカス」はデラウェア大学政治学部長のデービッド・レドロスク教授らアイオワ党員集会を専門にする政治学者の知見を中心に設計されたもので、行き当たりばったりの策というわけではなかった。アイオワ民主党関係者の中には「セキュリティ」を口実だと見る向きもある。多くの州が党員集会方式から予備選方式に切り替える中、全国委員会としては、民意の反映の仕方に偏りがでやすい党員集会方式を最終的にはやめさせたいと考えている。そうした中「バーチャル・コーカス」の導入で党員集会方式の問題が一部是正されると、州党委員会の問題改善努力を評価する必要が生じて党員集会潰しがしにくくなる、という見立てまで、アイオワ州民主党内には存在する。

 アイオワ州民主党の運営関係者は「あくまで電話参加であり特別なハイテクを用いるものではない」「技術的な詳細は未決なのに、どうして危険だと決めつけるのか」と不満を漏らすが、現在では、電話はスマートフォン中心で固定電話とは違うセキュリティを要するし、契約ベンダーをどう選ぶのかなどの課題を考えると全国委員会の判断も一理ある。なにしろアメリカ大統領を決める選挙の指名争い緒戦であり、技術上のトラブルは許されない。しかし、最大の要因は、民主党のどの候補者陣営からも「バーチャル・コーカス」擁護の声が出なかったことだ。全体の10%しか影響力を持たないことに加え、導入によって、どの層の票獲得にメリット・デメリットがあるのか、各陣営が損得を分析しきれなかった様子だ。紆余曲折の末、2020年アイオワ党員集会は旧来通り、当日の現場参加のみで行われる(2016年に引き続き、小規模会場での「サテライト・コーカス」は実施予定)。

(了)

1 渡辺将人「バーチャル・コーカス?:アイオワ民主党の党員集会制度変更と含意」SPFアメリカ現状モニター、2019年4月16日<https://www.spf.org/jpus-j/spf-america-monitor/spf-america-monitor-document-detail_22.html> 2019年12月3日参照。 

2 民主党全国委員会メモランダム、2019年8月30日 <https://democrats.org/wp-content/uploads/sites/2/2019/08/DNC-Technology-and-Cybersecurity-Recommendation-regarding-Iowa-and-Nevada-Delegate-Selection-Plans-.pdf> 2019年12月3日参照。

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