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論考シリーズ | No.38 | 2019.07.08
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米大統領選、民主党候補第一回公開討論から
(かろうじて)見えてきたもの

中山 俊宏
中山 俊宏
慶應義塾大学総合政策学部教授

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 二日間に分けてそれぞれ十人が登壇した民主党候補の第一回公開討論会が終わった。民主党全国委員会が設定した基準をクリアした二十人の候補者たちが登壇、それぞれ120分に及ぶ議論が二晩続けて行われた。開催場所は接戦州のフロリダ、今回はNBCが舞台を準備し、レスター・ホルト、チャック・トッド、レイチェル・マドーなどが交代で仕切った。二日目の視聴者数は歴代の民主党の公開討論会の中では最も多く、ストリーミングを除きテレビだけで1,800万人を超えた。

 二十人が合計4時間に渡って議論を繰り広げ、一人の候補が長くてもせいぜい10分程度しか話せなかったため(少ない候補は4分台)、なにかが決定的に明らかになったわけではないが、それでもある種の傾向を読み取ることはできた。

 なによりも民主党全体がかなり左傾化したことがあげられる。医療保険問題にしても、不法移民問題にしても、数年前と比較して格段に左傾化した。前者についてはユニバーサル・ヘルスケア(国民皆保険)に対する許容度が格段に上がったこと、そして後者については、「まずはボーダー・セキュリティから」という議論は後退し、ともすると「オープン・ボーダー」(これは共和党が、民主党は不法移民に甘い、ということを批判する際に使う用語である)を訴えているのでは、と思わせてしまうような立場をとる候補が目立った。こうした傾向は本選挙を視野におさめた時、手痛いしっぺ返しをくらう危険性を呼び込む。ある意味、左傾化への懸念が杞憂ではなかったことを示す形となった。

 ホースレース的な観点からいえば、初日の勝者はウォーレン、ブッカー、カストロの三人あたりだろう。オルークは経験不足を印象づけてしまった。初日の登壇者の中では唯一二桁の支持を獲得していたウォーレンが議論のトーンを設定した。支持率が1%にも満たない候補たちは、モデレーターの制止を振り切り議論に介入しようと試みたが、構図を反転させるにはいたらなかった。

 乱戦ぶりは二日目の方が激しかった。際立ったのはハリス。サンダースは語気激しく、ブティジェッジはいつも通りの落ち着きぶり、トップランナーのバイデンは手痛い失点をした。バイデンはなによりも覇気がなかった。ハリスから、かつてセグリゲーショニスト(人種差別主義者)とも協力したという自身の発言を厳しく批判され、当然想定できたシナリオであったにも関わらず、準備ができていないとの印象を強く与えてしまった。女性候補としては珍しく、ダークカラーで統一したハリスは、予定通り、そして被告に迫る検察官(ハリスは元検察官だ)のように、バイデンを問い詰めていった。このことが二日目の報道のヘッドラインになったことはいうまでもない。

 討論会後、すでに6つ1の全国を対象とした調査(7月4日時点)が実施されているが、そこから読み取れる傾向は一貫していない。その違いは、調査手法や設問の違いによるところが大きく、一般化は困難だ。Quinnipiacの調査では、バイデンは急落、急上昇したハリスは2ポイント差に迫っている。ただし、3つの調査(Politico/Morning Consult, ABC News/Washington Post, The Hill/HarrisX)では、バイデンが二位のサンダースと10ポイント以上の差をつけてトップを維持している。あえて一般化すれば、依然としてバイデンがリードはしているものの失速気味、ハリスは急上昇し、サンダースとウォーレンと二位のポジションを争い、ブティジェッジ・フィーバーは若干勢いを失ったものの、第2四半期の資金集めの数字(およそ2,500万ドル)がよく、これから巻き返しを狙う。ここまでがトップ5だろう。これまで勢い(ノリ)だけに頼ってきたオルークは、自分のイメージを立て直す必要がある。討論会でのパフォーマンスが目立ったブッカーはオルークを抜き、主要候補入りを狙う。その他の候補にとっては急な上り坂だ。ただし、この時点での全国対象の世論調査はあてにならず、あくまでスナップショット程度のものだと理解する必要がある。

 ブッカーまでを含めた七人のイデオロギー的立ち位置を大雑把に見ると、バイデンが中道左派、民主的社会主義を名乗るサンダースが最左翼、ついでウォーレン、ハリス、ブッカーがプログレッシブ・ウィング、そしてちょうど左派とバイデンとの間にブティジェッジが位置しているというようなイメージだろうか。オルークは実際のところよくわからない。ブティジェッジは、バイデンと左派がつぶしあいをし、その間隙を縫うというようなイメージで選挙戦を見渡しているだろう。サンダースがいることで得をしているのがウォーレンだ。というのも、ウォーレンはサンダースではないということを強調するかたちで、「社会主義」というラベルをかわすことができるからだ。現に彼女は、自分は「マーケット」を信頼し、自らを「キャピタリスト」だと述べている。

 いま勢いということでいうと、ウォーレンとハリスが元気がいい。ウォーレンは、早々と名乗りをあげたものの、なかなか勢いに乗ることができなかったが、最近、勢いを増している。それは彼女があらゆる問題に対して「解決策を持っている」という印象が定着してるからだ。それは政策の中味そのものというよりは、「解決策を持っている」というイメージに対する支持だ。ハリスも、オバマ的な多様性の党である民主党を引き継ぐという意味で魅力的な候補であることは皆頭ではわかりつつも、なぜハリス自身が大統領になりたいのか、これまでそのメッセージが伝わってこなかった。しかし、今回のディベートでそのことを雄弁に語ったともいえる。

 「アンチ・トランプ」の軸はいくつかある。とにかく変化をということでいえばサンダース(16年同様、サンダースは「革命」を唱えている)、経験・安定ということでいえばバイデン、世代ということでいえばブティジェッジ、人種・ジェンダーでいえばハリス。政策の有無という次元でいえばウォーレンという軸がある。今回のディベートではハリスが目立ったが、ウォーレンも確実にポイントをあげた。「彼女ならそれに対する答えがある(She has a plan for that)」をスローガンにしているウォーレンは、自身の立場を脱イデオロギー化し、政策ベースで支持者を取り込んでいく、という方向でキャンペーンを組み立てていくだろう。

 最後に、国際情勢についての議論は、イランをめぐる情勢が直前まで急迫していたにもかかわらず、本格的な討議はなかったといってもよい。イランについても、せいぜいJCPOAへの復帰を唱える程度の内容でしかなかった。過去のデータ2を見ても、民主党の討論会で国際情勢が本格的に論じられたことは少ない。イラク戦争が、共和党批判と不可分だった2004年と2008年は例外的なケースだ。それでも、アメリカにとって最大の脅威はなにか、というやりとりの中で中国の存在が繰り返し浮上したことは印象に残った。ほかに、ロシアや気候変動もアメリカへの脅威としてあがっていた。フロアからのもっとも強い反応があったのは気候変動だ。しかし、トランプ外交に対する一般的な批判は繰り返されたものの、民主党独自のアメリカン・インターナショナリズムのかたちが提示されたかといえば、それはなかった。

 今回の討論会で、何人かの泡沫候補は事実上、振り落とされたと思われる。しかし、上位ではまだ混戦が続いている。民主党の左傾化傾向が明らかになり、混戦が続くとすると、これはトランプ大統領を利するかたちになる。討論会直後、北東アジアに出向き、G20に出席、米中会談、米朝会談とこなしたトランプ大統領は米メディアを圧倒した。大統領にとっては、悪い一週間ではなかったはずだ。

[2019年7月4日]

  1.  "2020 Democratic Presidential Nomination", Real Clear Politics, https://www.realclearpolitics.com/epolls/2020/president/us/2020_democratic_presidential_nomination-6730.html accessed on July 5, 2019.
  2.  C.K. Hickey and Maya Ganghi, "11 Charts That Track the Weight of Foreign Policy in U.S. Primary Debates", Foreign Policy, June 26, 2019, https://foreignpolicy.com/2019/06/26/11-charts-that-track-the-weight-of-foreign-policy-in-us-primary-debates-presidential-election-2020/accessed on July 5, 2019.
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