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    「回帰」と「革命」で揺れる民主党
論考シリーズ | No.51 | 2020.3.11
アメリカ現状モニター

【大統領選挙現地報告】
バイデンの「復活」と黒人票
「回帰」と「革命」で揺れる民主党

山岸 敬和
山岸 敬和
南山大学国際教養学部教授
ジョンズ・ホプキンス大学客員研究員

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 2月29日に行われたサウスカロライナ州(SC)での民主党予備選挙に合わせ、現地入りして聞き取り調査を行った。選挙結果は、ジョー・バイデンが大方の予想以上の大勝利を収めた。それまでの予備選挙でなかなか勢いがつかず、早期撤退の可能性もささやかれたバイデンが「復活」を果たす機会になった。

 それを受けて、予備選序盤で優勢だったピート・ブティジェッジ、そしてもう一人の候補者エイミー・クロブシャーが撤退、そしてバイデンへの支持を表明した。その他にも有力民主党議員などがバイデン支持を明らかにし、それは直後のスーパーチューズデー(14州が同日に予備選挙を行った)で、バイデンが大きく代議員数を伸ばす結果につながった。

 「もし」であるが、バイデンが大統領になるようなことがあれば、SCはバイデンにとって起死回生のための重要な場所であった、と伝えられていくだろう。本コラムでは、バイデンのSCでの勝利の背景を探るとともに、それが一般選挙にどのような影響を及ぼすのかについても最後に述べたい。

民主党と黒人票

 黒人は伝統的に民主党支持である。もともとは「リンカーンの党」の共和党を支持してきたが、フランクリン・ルーズベルトが民主党を、連邦政府の権限を拡大して社会的・経済的弱者を救済する政党にしてから、黒人は民主党の支持連合の一翼を担うようになった。最近の選挙でも黒人有権者の約90%が民主党に投票している。

 SCでは黒人が人口の30%(全国では約13%)を占め、民主党支持者に限定すると、その数字が60%(全国では約25%)となる。これは他の「Deep South」と言われる南部州も同様である。民主党の大統領候補者にとっては、民主党の指名争いに勝つため、特に南部州で勝利するために、黒人票の獲得が重要となってくる。

 そしてSCの予備選挙が注目されるのは、それが南部州の中では最初に行われるもので、その結果がその後の黒人票の動向に影響を与えるからである。1990年代以降の選挙結果を見ても、サウスカロライナ州で勝利できない候補が民主党の指名を受けるのは難しい1。

 今回のSC予備選挙では、黒人の61%がバイデンに投票し、サンダースは17%に止まった。黒人の中でのバイデンの圧倒的な強さを見せつけた結果となった。

オバマへの「回帰」 vs. サンダースの「革命」

 SCの予備選挙についての事前の世論調査では、バイデンが一貫して10〜20%程度のリードを保っていたが、2月中旬になってサンダースが差を詰め出した。そして予備選挙一週間前の2月22日には、バイデン氏が23.3%に対してサンダース氏が21%と、バイデンが敗退する可能性もある、と言われる状況になった2。
サンダースの集会に参加して

サンダースの集会に参加して

 同州コロンビア市のサンダース選挙事務所で選挙前日に行われたインタビューの中で、広報担当のマイケル・ウケラ氏は、バイデンに肉薄している要因について興奮気味に語った。彼によると、2016年にヒラリー・クリントンに47ポイントの大差をつけられてSC予備選挙で敗れた直後から、サンダースは草の根運動を始めたことが重要であったという。そして、刑法改革、マリファナの合法化、メディケア・フォー・オール、公立大学の無償化、学生ローンの免除などの政策への支持を訴えていった。それが功を奏し、「社会主義者」のレッテルに恐怖を感じていた州民も少しずつ変わっていったという。

 しかしサンダースは、SCで大方の予想以上の約29ポイント(黒人票では54ポイント)の差をつけられてバイデンに破れた。SCにおけるバイデン勝利には、州内で圧倒的な影響力を持つ下院の多数党院内幹事のジム・クライバーンが、予備選挙直前に支持を表明したことが大きい、とされる。しかし、もう少し大きな文脈での視点で見ると、それだけで人々は投票行動を変えたわけではないことが分かる。

マイケル・ウケラ氏と筆者

マイケル・ウケラ氏と筆者

 SCで民主党系の選挙・政治戦略コンサルタントをしているアントワン・シーライトは、「黒人は大胆な改革を志向する傾向があるが、黒人が『革新的』かと言われればそうとは言えない」3と言う。サンダースによって、若者を中心に様子が変わってきた部分もあるが、若者は運動には参加するが実際に投票には行かない者が多いという問題を指摘する。

 また、サウスカロライナ大学のトッド・ショー准教授は、オバマ時代への向き合い方で今回の投票行動が分かれるだろうと述べた。彼は次のように言う。「オバマ時代に対して批判的で、それよりも改革を進めるべきだと考える者はサンダースを支持する。オバマを尊敬する人、オバマ時代に回帰したいと思うものは、バイデンがその選択肢となる」4。

 さらに、現地調査から感じ取れたことが2点ある。一つ目は「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」という言葉がよく出てくる、ということである。8年のオバマ時代、その後のトランプ政権を経ても生活の質が良くなった、と言う実感はあまりない。これを打開するための大胆な方策が必要である、と多くの人が口にする。二つ目は、トランプ政権への倦怠感や怒りを持っている、ということである。ショー准教授は、「黒人はバージニア州シャーロッツビルで起こったことをずっと覚えている」と言う5。黒人は生活の質を向上させるためにサンダースが主張するような「革命」を支持する理由も持ちながらも、SCの結果は、バイデンが言うようなオバマ時代への「回帰」によって、黒人であることの誇りを取り戻そうとする側面がより強く出たことを示したのではないか。

「Electability」のジレンマ

 SCの予備選挙で黒人票を獲得することは、民主党で指名を受けるためには重要であることを述べたが、一般投票になると南部州での黒人票は、その重要性が大きく低下する。なぜならば、南部州は共和党が優勢の州がほとんどで、その中では黒人票は結果に影響を与えないからである。

 今回民主党候補がトランプ大統領に勝てるかどうかは、2016年にラストベルトで失った白人労働者をどれだけ取り戻せるかが鍵となる。もともと民主党支持者であった白人労働者階級が少しずつ民主党から離れていったのは、オバマ時代でもそのQOLが改善しなかったからである。

  バイデンは「トランプに勝てる(Electabilityが高い)候補者」として注目されている。彼が「オバマ=バイデンの時代」に回帰することを全面に押し出せば、黒人票は伸ばすことはできるかもしれないが、それで失望した白人労働者を民主党に取り戻すことは難しいだろう。

バイデンの勝利演説に参加して

バイデンの勝利演説に参加して

 民主党候補者が必要なのは「回帰」と「革命」を巧みにつなげ、2008年にオバマが起こしたような熱狂を民主党内で起こし、そして無党派層に広められるかどうかである。スーパーチューズデーが終わった時点ではその可能性が見えてきていない。

(了)

  1.  ジョン・エドワーズ(2004年)が例外。ただエドワーズはその後ジョン・ケリーの副大統領候補になっている。
  2.  RealClearPolitics, “South Carolina Democratic Presidential Primary,” February 29, 2020,<https://www.realclearpolitics.com/epolls/2020/president/sc/south_carolina_democratic_presidential_primary-6824.html>, last accessed on March 8, 2020.
  3.  対面インタビュー(SCコロンビア市、2020年2月27日)。
  4.  対面インタビュー(SCサウスカロライナ大学、2020年2月28日)。
  5.  南北戦争時のロバート・リー将軍像を撤去する動きへの抗議として極右集会が行われた。これには多くの白人至上主義者が参加した。それに反対する人々もシャーロッツビルに集まり、両者の間で衝突が起こり死傷者を出した事件。この事件へのトランプ大統領の当初の消極的な対応が非難された。

「SPFアメリカ現状モニター」シリーズにおける関連論考

  • 渡辺将人「【大統領選挙現地報告】民主党主要候補集会の特質分析②サンダース、ブデジェッジ」
  • 渡辺将人「【大統領選挙現地報告】民主党主要候補集会の特質分析①バイデン、ウォーレン」
  • 渡辺将人「民主党の候補者問題とアイオワ党員集会『バーチャル・コーカス』導入中止」
  • 中山俊宏「恋する民主党」
  • 山岸敬和「消え去らない老兵:SuperAgersによる大統領選挙」
  • 渡辺将人「民主党大統領候補としてのジョー・バイデン」
  • 山岸敬和「討論会で見た民主党の苦境―医療保険改革のジレンマ―」
  • 中山俊宏「米大統領選、民主党候補第一回公開討論から(かろうじて)見えてきたもの」
  • 渡辺将人「バーチャル・コーカス?:アイオワ民主党の党員集会制度変更と含意」
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