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論考

No. 112
2022/1/17

コロナ禍で試された日本の留学生誘致政策の本気度
―アメリカの現状との比較から―

山岸 敬和
南山大学国際教養学部教授

新型コロナウイルスの感染拡大は大学にとって大きな影響を及ぼしたが、国境が閉ざされ人的往来ができなくなった状況で外国人留学生は窮地に追いやられた。日本では留学生の新規受け入れのためのビザの発給を原則的に停止した。感染者数が落ち着いた昨秋には、国費留学生についてはビザ発給を再開し、順次それを拡大していく方針が政府から示された。しかしオミクロン株の拡大によってそれも間もなく撤回された。

筆者が国際センター長を務める南山大学でも、2020年4月に入学して以来一度も渡日できないままオンライン授業のみで学生生活を送っている留学生がいる。他方、多くの国で留学生の渡航を再開しており、アメリカもその一つである1。アメリカでは、学位取得のための留学生のみならず交換留学生へも門戸を開いた。その結果、南山大学では2021年秋からアメリカの協定校に送り出しが可能になっているものの、依然としてアメリカからの留学生を渡日させられない状態が続いている2

本コラムでは、このような違いがなぜ生まれるのかについて、アメリカの大学における留学生の位置付けが日本とは大きく異なる背景に注目してお話ししたい。

留学生受け入れの現状

2020年初頭から始まったコロナ禍によって、アメリカでも連邦政府が留学開始を予定していた学生へのビザの発給を停止した。コロナ禍までは、アメリカにおける大学への留学生数は上昇傾向が続き、2015年は100万人を超えた。しかし2020〜2021年にはその数は大きく減少し、91万人となり新規の留学生に限定すれば、45%の減少となった3。2021〜2022年にはビザ発給が再開されたことで、2021年の留学生数は前年度と比べて4%増となっている4

ビザが発給されるに至った背景には、留学生数の減少を受けて危機感を持った大学や国際教育に関係する団体の働きかけがあった。日本でも2021年12月になって私立大学連盟が要望書を文部科学省に提出したが、アメリカと比べると動きが遅くその運動の規模も小さい5。それではなぜこのような違いが生まれるのか。

大学財政への影響

世界からアメリカに来る留学生(特に学部留学生)は、大学財政にとっては大きなプラスになる。留学生の多くは授業料を全額支払う。それが私費の場合もあるし、母国で奨学金をもらう学生も多い6。例えば現在のメリーランド州立大学カレッジパーク校の授業料は年間38,636ドル(約440万円)で、同じ州の私立大学のジョンズ・ホプキンス大学では58,720ドル(約675万円)と高額であるが、留学生の多くはこの金額を支払うのだ。

他方、アメリカ人でこれを全額支払う学生は相対的に多くなく、多くの学生が大学から何らかの奨学金を得る。いくつかの大学に応募してより多くの奨学金を提供してくれる大学を選ぶ学生が多いということも、この背景にある。アメリカの大学は優秀な国内の人材を獲得するために奨学金を提供するのである。また、州立大学には州民への授業料の特別割引制度もある。「in-state tuition」と呼ばれるものである。前出のメリーランド州立大学では州民は通常の授業料(out-of-state tuition)の4分の1になる7

その結果、授業料を全額払ってくれる留学生からの収入が、国内の学生への奨学金や、州民への授業料割引の原資として使われる。2019〜2020年で、留学生からの授業料収入は387億ドルとなっている8。留学生がもたらす授業料収入はその意味で大学財政にとって重要な存在なのである。

アメリカとは逆に、日本では学部留学生に奨学金をつける、授業料を割引するなどして誘致することが多い。

地方経済へのインパクト

アメリカの大学の「定員」の概念も、日本のものとは異なる。日本では学部・大学ごとに定員が政府によって定められている。他方アメリカでは、基本的に大学の財政状態や施設の収容能力によって大学ごとに定員を決める。したがって、大学財政にプラスに働く留学生が減少することは大学の定員減につながり、それは大学がある街の雇用にも悪影響を及ぼす。

NAFSAという国際教育関連団体による調査によると、7人の留学生によって3つの雇用が生み出されると言われている。前述の授業料に加え、裕福な留学生が生活する中で地元に落とすお金の額は大きい。全国規模で言えば、2017〜2018年の統計で、アメリカの留学生は、416,000もの雇用を支えていることになる9。特に「キャンパスタウン」と呼ばれる大学がその中核を担う街は、留学生が減少することで大きな打撃となる。

人的資源インパクト

日本では、留学生が減少するとキャンパスの多様性が損なわれるということが強調されるが、それで大学の学問レベルが下がる、ましてや国力が減退するというような議論はあまり聞かない。しかしアメリカは、歴史的に移民の一世、二世たちが高等教育の質を向上させてきた。

そして、その「ベスト・アンド・ブライテスト」は卒業後にアメリカの企業に就職し、または起業し、アメリカの経済を支えている。 アントニー・ブリンケン国務長官が2021年7月に以下のように発言していることは象徴的である。「アメリカが世界の留学生にとって最高の行き先であることは国益なのである」10

日本への含意

今、日本への留学を夢見た多くの学生が足止めされている。しかし彼らの声は政治に届かない。コロナ禍は、日本政府のこれまでの留学生誘致政策の本気度がそれほど高くないことを露呈させてしまった。

本コラムでは、日本では留学生の位置付けが、大学にとっても、経済的にも、国家の人的資源の観点でも「軽い」ことを述べてきた。さらに、留学生を積極的に誘致しても、アメリカとは逆に、日本では留学生への奨学金や授業料の割引の負担を日本人学生がするという構造がある。また政府による定員管理が厳格なため、留学生を入れると日本人学生の枠が確実に食われることもあり、日本人にとって大学にとって留学生を受け入れることにうま味がなく、それを「国益」だとする発想も生まれにくい。

アメリカだけでなく、イギリスやお隣の韓国もポスト・コロナに向けて留学生の誘致に躍起になっており、入国の条件、入国後の隔離等のルールを示しながら積極的に留学生を受け入れている11。日本の大学に入学したものの渡日できない学生が韓国の大学に移籍するような話も聞く。近年の政府による留学生誘致政策にもかかわらず、世界の科学やビジネスの先端を担うような人材が、他国よりも日本への留学を目指すまでには至っていなかった。コロナ禍の前にすでに他国に遅れをとっていた日本は、コロナ禍でさらに水を開けられた感がある。

まずは日本で学ぶために入国後に厳格な自己隔離をすることに合意し、それにかかる費用を自己負担しても構わないという学生の新規入国を認めるべきである。また中長期的に大学に留学生受け入れのインセンティブを与えるために、能力が高い、授業料を全額支払う等一定の基準をクリアする留学生を積極的に受け入れる大学には、定員のある程度の増加を認めるべきである。

感染拡大防止のための水際対策も重要であるが、国境を閉ざすことが水際対策の全てではない。入国を禁止することで日本が失ったのは、日本語を学んで留学の準備をしてきたのにも関わらず留学の機会を逸した学生だけではない。国境を閉ざしてきた日本を見て、留学を夢見る海外の若者が外国語学習で日本語を選択する割合が減少していることも容易に想像される。コロナ禍によって、日本の留学生誘致政策にとっては「失われた10年」程度の停滞を経験する可能性が高い。日本が世界の優秀な若者が高等教育を受ける国、そしてその後就職するための国に本気でなろうとするならば、今こそ大きな政策転換が必要である。

(了)

1 オミクロン株の感染拡大で再停止した国もある。(本文に戻る)

2 アメリカの大学の中でも留学生の受け入れを独自に停止している大学も存在する。(本文に戻る)

3 新規留学生にはオンラインで講義を受けることを余儀なくされたものも含む。(本文に戻る)

4 Susan Svrluga, “After decades of increases, a drop in the number of international students in the United States,” The Washington Post, November 15, 2021,
<https://www.washingtonpost.com/education/2021/11/15/international-college-student-enrollment-covid/> accessed on January 10, 2022. (本文に戻る)

5 一般社団法人日本私立大学連盟「留学生の入国に関する要望」2021年12月16日、<https://www.shidairen.or.jp/files/user/20211217ryugakuseinyukokuyobo.pdf>,(2022年1月10日参照)。2021年10月にはアメリカの日本研究者ら656人が要望書に署名して在ニューヨーク日本領事館総領事に手渡されるという動きもあった。隅俊行「『留学生の入国制限の解除を』米の日本研究者ら656人が署名」『毎日新聞』2021年10月22日、<https://mainichi.jp/articles/20211022/k00/00m/030/159000c>(2022年1月13日参照)。(本文に戻る)

6 Institute of International Education, “Economic Impact of International Students,” n/d, <https://www.iie.org/Research-and-Insights/Open-Doors/Economic-Impact-of-International-Students> accessed on January 9, 2022.(本文に戻る)

7 アメリカの大学の授業料については以下を参照。“U.S. News Best Colleges,” U.S. News <https://www.usnews.com/best-colleges> accessed on January 9, 2022.(本文に戻る)

8 NAFSA, “Sustain International Student Enrollment at U.S. Colleges and Universities Impacted by COVID-19,” November 2020, <https://www.nafsa.org/policy-and-advocacy/policy-resources/sustain-international-student-enrollment-us-colleges-and-universities-impacted-covid-19> accessed on January 8, 2022.(本文に戻る)

9 Ibid.(本文に戻る)

10 Dan Friedell, “How Do Americans View International Students?” VOA Learning English, October 16, 2021, <https://learningenglish.voanews.com/a/how-do-americans-view-international-students-/6272279.html> accessed on January 8, 2022.(本文に戻る)

11 アメリカ、イギリス、ドイツの状況については以下を参照。Jan Kercher, “International student mobility in the wake of COVID-19,” University World News, November 22, 2021, <https://www.universityworldnews.com/post.php?story=20211122121828241> accessed on January 8, 2022.(本文に戻る)

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