石井正子(2018年7月現在)
2013.04.23
  • フィリピン南部

年表:フィリピン南部の紛争

 

1968.3:ジャビダ事件発生。軍事訓練を受けていたムスリム青年最大70名が殺害

1970前後:モロ民族解放戦線(MNLF)結成。分離独立運動を展開

1976.12:マルコス政権とMNLF、トリポリ協定(Tripoli Agreement)に署名。トリポリ協定に至る過程でMNLFは闘争の要求を独立から自治確立に変更

1977.5:イスラム諸国会議機構(OIC, のちにイスラム協力機構に改称)、MNLFにオブサーバーの地位を与える

1977 :マルコス大統領と国会は自治地域設立のための法整備に動く。その結果、1979年に南部の2地域に自治地域設立。MNLFは否認、武力闘争再開

1984 :モロイスラム解放戦線(MILF)、MNLFより正式に分派(実質的には1977年より分派)

1986.5:コラソン・アキノ大統領、ホロ島(スル州)でMNLFのヌル・ミスアリ議長と会談

1987.1:アキノ政権とMNLF、ジェッダ協約(Jeddah Accord)に署名。ミンダナオ、バシラン、スル、タウィタウィ、パラワンに完全な自治を付与することを継続協議することで一致

1989.11:アキノ政権、同年に施行したムスリム・ミンダナオ自治地域組織法(共和国法第6734号)にもとづき、住民投票を実施。MNLF、MILFは住民投票をボイコット。1990年2月に南部の4州にムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)政府発足。

1991頃:アブサヤフ(Abu Sayyaf Group)結成

1996.9:ラモス政権とMNLF、最終和平合意(Final Peace Agreement)に署名。MNLFのミスアリ議長がARMMの知事に就任

1996.10:ミスアリ議長、南部フィリピン平和開発評議会(SPCPD)の議長に就任

1997以降:政府軍とMILFとの戦闘発生。一方、和平交渉もスタート

2000.3:エストラダ大統領「全面戦争宣言」。MILFの最大基地を攻撃。国内避難民100万人発生

2000.4:アブサヤフ、マレーシアのシパダン島で21人誘拐(うち19人は外国人)

2001.3:ムスリム・ミンダナオ自治地域組織法(共和国法第6734号)を改正し、住民投票にもとづきARMMを拡大する共和国法第9054号施行

2001.4:MNLF幹部15名が中心となり「15エグゼクティブ・カウンシルExecutive Council of 15 (EC15)」とよばれる指導体制を結成。EC15は、ミスアリを「名誉議長Chairman Emeritus」とよび敬意を表したが、ミスアリ議長は受け入れず

2001.6:アロヨ政権とMILF、2001年トリポリ和平協定に署名

2001.8:MNLF、ARMM住民投票の実施を2003年に延期することを希望。受け入れられず、住民投票が実施され、11月に5州1市にARMM政府が設立

2001.11:ホロ島とサンボアンガ市でMNLFミスアリ派600人ほどが政府軍施設などを攻撃。死傷者多数発生

2002.11: MNLFミスアリ議長、上記の蜂起を扇動した容疑でマレーシアにて身柄拘束。翌年1月にフィリピンに身柄移送、のち拘禁

2003.2:政府軍、アメリカ指定のテロ組織「ペンタゴン」を攻撃するとの理由で、MILFの最大拠点を攻撃。国内避難民40万人発生

2003.7:MILF創設者ハシム・サラマト死亡。翌月、ムラド・イブラヒムを議長に選出

2008.4:MNLFのEC15がムスリミン・セマを議長に選出。ミスアリ派は否認

2008.4:ミスアリ初代議長、保釈。のち無罪放免

2008.8:アロヨ政権とMILFとの間で署名される予定であった「先祖伝来の領域に関する合意覚書(MOA-AD)」に対し最高裁判所が一時差し止め命令を発令、のち違憲と判断。武力衝突拡大。国内避難民60~75万人発生

2009.11:翌年5月の総選挙におけるマギンダナオ州の知事選をめぐって「マギンダナオ虐殺」発生。57名殺害

2010.8:東京近郊でベニグノ・アキノIII世大統領とMILFのムラド議長が会談

2010.12:バンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)、MILFから分派

2012.10:アキノIII世政権とMILF、最終和平までのロードマップを記したバンサモロ枠組合意(FAB)に署名

2012.12:行政命令(Executive Order)第120号により、新自治政府設立の法律草案を起草するバンサモロ移行委員会(BTC)設立

2013.2:「スル王国軍」を名乗る勢力がマレーシアサバ州ラハダトゥでマレーシア治安部隊と衝突

2013.2:アキノIII世政権とMILF、移行期の取り決めと措置に関する付帯文書に署名

2013.7:アキノIII世政権とMILF、歳入創出と富の分有に関する付帯文書に署名

2013.9:サンボアンガ市においてMNLFと政府軍の衝突。戦闘はバシラン島にも拡大。死傷者数200人以上、国内避難民11万人以上

2013.12:アキノIII世政権とMILF、権力分有に関する付帯文書に署名

2014.1:アキノIII世政権とMILF、正常化に関する付帯文書に署名

2014.1:アキノIII世政権とMILF、バンサモロ海域と相互協力ゾーンに関する追補合意に署名

2014.3:アキノIII世政権とMILF、バンサモロ包括的合意(CAB)に署名

2014.4:バンサモロ移行委員会、バンサモロ基本法(BLL)の草案を起草

2014.9:バンサモロ移行委員会、BBL草案を大統領府に提出。BBL草案は下院では9月11日に(下院法案第4994号)、上院では15日に法案として提出される(上院法案第2408号)。

2015.1:ママサパノ事件発生。国家警察特殊部隊44人を含む60名以上が死亡

2015.4:バンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)の指導者アメリル・オムブラ・カト、死亡

2015.5:下院特別委員会、バンサモロ基本法案(下院法案第4994号)の代替法案(下院法案第5811号、バンサモロ自治地域基本法案)を可決、下院本会議に提出

2015.8:上院地方自治委員会、バンサモロ基本法案(上院法案第2408号)の代替法案(上院法案第2894号、バンサモロ自治地域基本法案)を可決、上院本会議に提出

2015.9:MILF、代替法案は受け入れられないとの声明

2015.10:上院・下院本会議で代替法案を審議。政権末期の国会においては、法案への関心も支持も集まらず、ママサパノ事件の影響もあり、アキノIII世政権は法案を可決せずに幕引き

2016.7:ドゥテルテ大統領、「バンサモロ平和と開発ロードマップ」を承認、発表。連邦制実現と立法による権限付与を同時平行で進める、という方向性を打ち出す

2016.11:行政命令第8号により、前政権期15人だったバンサモロ移行委員会のメンバーを21人に拡大結成することが決定

2017.2:行政命令第8号が発令されてから約3か月後に、ようやく21人のバンサモロ移行委員会メンバーが発表され、24日に発足式開催

2017.5:マラウィ市で政府軍と「マウテグループ」が衝突。ドゥテルテ大統領、戒厳令布告。5か月にわたり激しい戦闘。死者1100人以上、国内避難民30万人以上発生

2017.6:バンサモロ移行委員会、BBL草案を仕上げ、7月17日に大統領府に提出

2017.7:ドゥテルテ大統領、施政方針演説でBBLの即時通過に言及せず

2017.8月半:大統領府、ようやくBBL草案を国会に提出

2017.9:和平プロセスが進まないことに懸念を抱いたMILF幹部が大統領に面会を要請。ドゥテルテ大統領と二度話し合いを行う(4日と14日)

2017.9:パンタレオン・アルバレス下院議長他がBBL草案を第6475号法案として提出

2018.1:フアン・ミゲル・F・ズビリ上院議員がBBL草案を第 1646号法案として提出

2018.7:国会、バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域組織法(Organic Law for the Bangsamoro Autonomous Region in Muslim Mindanao, 通称バンサモロ組織法、Bangsamoro Organic Law: BOL)可決。ドゥテルテ大統領承認。

作成:石井正子

地図:「バンサモロ政府」設立の是非を問う住民投票を実施が予定されている中心領地(グレー) 出所:International Crisis Group (2012b), “The Philippines: Breakthrough in Mindanao,” Asia Report No. 240. 5 December. International Crisis Group.*ただし、地図の表記案内のCore areaはCore Territoryの誤り

MASAKO ISHII石井 正子

(立教大学)

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