- フィリピン南部
新バンサモロ基本法の起草にあたるバンサモロ移行委員会の挑戦
ガザリ・ジャアファ(Ghazali Jaafar)バンサモロ移行委員会議長へのインタビュー
2017年9月9日マギンダナオ州スルタン・クダラト町にて
聞き手:石井正子(立教大学・教授)
2017年2月24日、新たにバンサモロ基本法案(BBL)を起草するために、バンサモロ移行委員会(Bangsamoro Transition Commission: BTC)のメンバーが再編成された。その目的はムスリム・ミンダナオ自治地域に代わる新たな自治政府を設立するためである。BTCは、2017年6月16日にBBLを起草し、7月17日にドゥテルテ大統領に提出した。しかしながら、2017年9月現在においても大きな進展はみられない。
Q: 新しいBBLを起草するにあたって、最も困難な局面は何でしたか?
ガザリ・ジャアファ議長
BBLを起草するにあたり、私たちが経験した最も困難なことは、第一に、さまざまな分野からの意見が出されたことです。それはBTCの委員のメンバーの構成によるものです。
BTCのうち、11人がMILF関係者です。11人のうち7人はMILF中央委員会のメンバーですが、4人は違います。もっとも彼らはMILFによって推薦された者たちです。
政府側には10人の委員がいます。ホセ・ロレナ(Jose Lorena)委員は何年もマラカニャン(大統領府)で働いていました。フシン・アミン弁護士は、元国会議員でありホロ市の市長でもありました。彼らは討論に長けた人たちでした。
つまり政府側の10人の委員たちはさまざまな分野の人たちでした。彼らはいろいろな意見を持っており、これが難しかったことの一つです。
BTCの議長として、私がそのような立派な人たちと議論し合うのは簡単なことではありませんでした。彼らは私より立派で頭の切れる人たちだと思いました。そこでまずはじめに、私はBTCの議長としての権限を行使しようと思いましたが、そうはしませんでした。最初に彼らが委員としてどのような働きをするのか見た方がよいと決心し、彼らが多くの会合で討論できるようにしました。
Q: あなたは彼らの討論の仕方をまず観察したのですね。
ガザリ・ジャアファ議長
そうです。そして彼らとやっていく最良の方法は彼らと兄弟のように付き合うことだとわかりました。
Q: なるほど。
ガザリ・ジャアファ議長
結局私たちはさまざまなグループからの異なった経歴の者たちです。私の経歴はゲリラ戦闘員でした。彼らが私のようなゲリラ戦闘員の経験に言及したことはなかったと思います。それで私は彼らに兄弟として接したのです。最初私は、BTC議長として私の責任は、大統領に任ぜられたようにBTCに方向性を示すことだと述べました。私は彼らに、共に働き、お互いに協力し合おうと訴えました。私たちは政府を設立するのです。MNLFやMILFのではなく、人びとの政府をです。私は彼らに一緒に人びとのために仕事しようと訴えました。彼らが討論したり、話し合ったりしたい時にはいつもそうすることを許しました。そして私は必要な時に間に入りました。
【領域の課題】
Q: BTCには5つの常設委員会がありましたね。最も難しかったのはどの問題でしたか?
ガザリ・ジャアファ議長
全てです。
Q: 中心領域(Core Territory)についての話し合いはどうでしたか。MNLFの委員たちは、1976年のトリポリ協定で自治政府を設立すると約束された13州と9市を含むよう議論してきたのではないでしょうか。
ガザリ・ジャアファ議長
それは、それほど難しくはありませんでした。ます最初に、私たちはBTC内で以前のBBLをワーキングペーパーとすることに同意しました。
第二に、私たちが起草するBBLはバンサモロ包括的合意(Comprehensive Agreement on the Bangsamoro)に準ずることに同意しました。
第三に(前回起草した)BBLの条項を改定する必要があるのなら、改定の目的は条項の内容を高め、改善することという条件に同意しました。
しかしMNLFの兄弟たちに対してフェアであるべく、私たちは彼らの提案をBBLの条項に盛り込むことを考慮しました。
MNLFの兄弟たちは、中心領域の外部ではあるがモロが住んできた地域が、住民投票によってバンサモロに含まれることを可能にする条項を提案しました。
彼らは、「opt-in」すなわち、入ることを選択できる、という提案をしました。中心領域の外部に住んでいるモロは、バンサモロ政府に加入するための請願書を提出することができます。BBL制定から5年後、およびその後25年にわたって5年ごとにバンサモロ政府に加入できなかった市町や自治体で、バンサモロ政府への参加の是非を問う住民投票を行うこととしました。
【先住民の課題】
Q: 先住民の問題についてはどうでしたでしょうか。前回のBBLでは、先住民は主に3つの点を含むように要求していました。それらは、(1)彼ら独自のアイデンティティ、(2)彼ら独自の先祖伝来の領域、(3)先住民権利法(Indigenous Peoples’ Rights Act: IPRA)です。どのように話し合われたのですか?
ガザリ・ジャアファ議長
それらは最初に委員会レベルの会合で話し合われました。会合の過程で先住民のリーダーたちが時々いくつかの提案を出しました。そして私たちは、それらに真正面に対応してきました。それらの提案はできるだけBBLの条項に含まれるよう配慮されています。しかしながら全ての懸念事項が私たちの間で合意されたわけではありません。それゆえ、それらについて2017年9月18日、ダバオのフォーラムで討論するつもりです。
Q: BBLがIPRAを含むことができない理由は何ですか?
ガザリ・ジャアファ議長
私たちはIPRAがBBLの条項に含まれる必要はないと思っています。なぜならBBLはIPRAの権利の多くを包摂していますから。
Q: しかし、あなた方が先住民にBBLはIRPAよりも多くの権利を保障すると説明しても、彼らはまだそれを要求し続けています。なぜ彼らは要求し続けると思いますか?
ガザリ・ジャアファ議長
それは、IPRAがBBLに含まれることを強く要求する団体があるからだと思います。
Q: 先住民のアイデンティティの問題についてはどうですか。先住民のなかには独自のアイデンティティを認めてほしいと思っている人もいます。しかしBBLの定義によると、ただ一つのバンサモロのアイデンティティがあるにすぎません。もちろん先住民の選択の自由は認められていますが。
ガザリ・ジャアファ議長
問題ありません。私たちは彼らが自分たちのアイデンティティをもつことに寛容です。
Q: あなた方が2017 年7月17日にBBLを大統領に提出して以来、その進展についてのよいニュースが聞こえてきません。第一に大統領施政演説ではBBLの即時通過が言及されませんでした。第二にBBLを議会に法案として提出する議員はまだいません。第三にBBLは優先審議法案のリスト、つまり立法行政開発諮問評議会(Legislative Executive Development Advisory Council: LEDAC)によって承認された28の優先審議法案のリストに入っていませんでした。2017年9月4日に大統領と会ったときの話し合いはどのように進展しましたか。
ガザリ・ジャアファ議長
野外に配備されている私たちの兄弟(MILF兵士)、支持者、そして関係者は、その状況を憂慮しています。メディアもその理由を聞いてきますが、私たちは不確かな答えを返すことはできません。それゆえ、私たちは大統領との会合を要求しようと決意したところです。
Q: それでは大統領との会合を要求したのはあなた方のほうだったのですね。
ガザリ・ジャアファ議長
はい、そして私たちは大統領が即座に我々の要求を認めてくれたことに感謝しました。大統領の説明では、BBLが議会で進展していないのは、大統領が私たちのことやミンダナオの人びとへの約束を忘れていたからではないということでした。大統領はBBLを法案として議会に提出してくれる議員について考えているところだといいました。さらに私たちは、アキリノ・ピミンテルIII世(Aquilino Pimentel III)上院議長と、パンタレオン・アルバレス(Pantaleon Alvarez)下院議長同席のもと、2017年9月14日、この件について話し合うため、大統領に再び会う予定です。
【過激派グループの台頭について】
Q: 最後になりますが、マラウィ市包囲の事件について質問いたします。過激派グループの存在がMILFにとって新たな懸念になっています。この新たな懸念にどう対処するおつもりですか。
ガザリ・ジャアファ議長
私たちが展開してきているような闘争や革命において、一般的な原則はおそらく、兄弟たちと話し合いを持ち、彼らに止めるように説得することです。彼らには私たちと同じように一つの関心事があるのです。その関心事とはバンサモロ政府を設立することであり、それはまた我々の関心事でもあるのです。
Q: しかし彼らはイスラム国を設立したいのであり、その考えはフィリピンの国民国家を否定するものですね。
ガザリ・ジャアファ議長
そう言われています。しかしこの主張に関してはまだその見方に信憑性があるか証明できていません。ISISが外からの支持と後方支援を彼らに与えるためにこのことを利用していた可能性があります。
Q: ありがとうございました。
ガザリ・ジャアファ議長
ありがとうございました。
立教大学・教授