海洋安全保障情報旬報 2017年4月11日-4月20日・4月21日-4月30日合併号

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11日「中国との抗争、アメリカの海洋パワーの維持、強化が不可欠米専門家論評」(War On The Rocks.com, April 11, 2017

 米シンクタンク、The Center for a New American Security(CNAS)のAsia-Pacific Security Programシニア・ディレクターDr. Patrick M. Croninは、Web誌、War On The Rocksに4月11日付で、"Maritime Power and U.S. Strategic Influence in Asia"と題する論説を寄稿し、アメリカはアジアにおける中国との抗争を覚悟し、一貫した包括的な国家安全保障戦略を必要としているとして、要旨以下のように述べている。

(1)あらゆる兆候から見て、アメリカの海洋パワーは徐々に侵食されつつある。歴史的にランドパワーである中国は、アメリカの海洋パワーに慎重に挑戦しようとしていることは明らかである。アメリカは中国の近海では量的に凌駕されつつあり、劣勢を強いられることによって、ニコラス・スパイクマンが「アジアの地中海」と呼んだ、世界で最も重要な地域におけるアメリカの将来の戦略投射能力は厳しく制約されることになろう。中国の慎重な戦略と海洋国家としての登場を阻止し、あるいは効果的に対抗するという決意は、米中関係のより大きな文脈の中で取り組まれなければならない。学者が示唆する多くの陥穽(トゥキュディデスの罠、安全保障のジレンマ、危機の激化、地域的多極化、そして勝利宣言が不可能な深刻な米中抗争など)に落ち込むことなく、特に海洋領域におけるアメリカの国力を維持する、持続可能で効果的なアメリカの外交政策を形成することができるか。

(2)もちろん、世界戦争を引き起こさず、中国の核心的利益を考慮し、エスカレーション阻止措置を組み込み、北京との協調を諦めず、そして中国軍の精密攻撃態勢に対抗するための、強力な対応策は可能である。力を通じた協調関係は、アメリカの外交政策のリアリスト達―ヘンリー・キッシンジャー、リチャード・アミテージ、カート・キャンベル、マイケル・グリーンなど―が主張する勢力均衡維持に基づく。限度を超えない抗争と力を通じた平和という確固たる原則に立つ、正統派の外交政策を形成することは可能である。もしこのようなアメリカの戦略が構想され、維持され得るとすれば、それは外交政策のリアリスト達から生まれるであろう。アメリカの目的は、中国と戦争することではなく、平和を目指すことである。オバマ前政権のアジアへの軸足移動政策は、インド・太平洋地域全域を視野に入れ、アメリカの経済力、外交力および軍事力を強化しようとするものであった。この目標は不変である。この目標を維持しなければ、世界で最も人口が多く、益々強力になりつつあるこの地域において、中国の妨害されることのない戦略的影響力がアメリカの国益を犠牲にして拡大されることになるからである。米中抗争は、戦後アメリカが主導し維持してきた地域的そして世界的な秩序体系を巡る争いである。しかし、アメリカはこれまで、この抗争に注意を向けることなく、またそのための準備が不十分であったことを認めざるを得ない。

(3)トランプ大統領は、海洋パワーにより多くの資源を振り向ける意向のようである。このことは称賛できるが、まず一貫した包括的な国家安全保障戦略を策定することが必要である。アメリカは国家として、次第に影響力を失っていくことに納得しているように思われる。アメリカが真剣で、かつ利己的であることを望むなら、中国との長期的な抗争を重視した戦略ビジョンを策定すべきである。アメリカとの新しい形の大国関係を支持する中国人の論評は減少している。代わって、中国人解説者は、「一帯一路」のような経済構想を中心とするアプローチにおける、中国の主導的な役割を強めることを好んでいる。しかし、このアプローチには、3つの海(黄海、東シナ海および南シナ海)の支配と、2つの大洋へのアクセス確保によるグローバル・リーチの実現を含む、海洋パワーを発展させるという中国の野望が織り込まれている。アメリカは、激化する抗争と協調が共存可能な要素である、現実的な米中関係を受け入れなければならない。中国との地政学的抗争は、世界第2位の経済大国の封じ込めを意味しないし、それは不可能である。しかし、この抗争は、アメリカが、望ましい経済的、政治的そして軍事的秩序を維持することを狙いとした、包括的な外交政策を展開すべきことを意味する。もしアメリカが核抑止力の維持に十分な投資すれば、軍事的抗争は抑制されたものとなろう。実際には、抑制された軍事的抗争は、緊張激化の平時環境のグレーゾーン状況下での断続的な小競り合い以上のものにはならないかもしれない。またワシントンは、モスクワのアメリカ民主主義に対する積極的な対抗措置を考えれば、モスクワとの協調に期待を抱くべきではない。アメリカは、中国との協調によるグローバルな外交政策を展開するプーチン大統領のロシアを阻止できない。プーチン大統領は、国際システムに対する未だ残るアメリカの支配を弱体化するために、中国との協調的行動を取ることによって、復活したロシアの国力を補完しようとしている。

(4)中国との抗争はインド・太平洋地域に限定されるものではないが、今後20年間を見渡せば、中国の外洋海軍能力が最大限に発揮されるところは、黄海、東シナ海そして南シナ海の支配の実現を巡ってであろう。インドは、迅速な発展に失敗すれば、インド洋を中国の支配に委ねることになろう。2つの大洋に跨がった中国の海洋パワーの拡大傾向を抑えるためには、アメリカとインドの更なる安全保障協力を促進させなければならない。米軍(特に同盟国と協調する米海軍)は、第1列島線に囲まれた近海に対する中国の支配を阻止するとともに、インド洋と西太平洋に繋がるチョークポイントを保持することができる方策を見出さなければならない。この地政戦略的な海洋能力は、潜水艦や対潜水艦戦のような重要な分野における質的な優位を維持することが不可欠である。

(5)トランプ政権の大幅な国防予算の増額要求は、政治的には難しいと思われるが、多くの必要な措置の最初のものであろう。これらの措置には、グレーゾーン状況下での小競り合いや、必要なら海洋での戦争を遂行するための海洋パワーを維持するために必要な、より多くの海軍軍需物資などの購入が含まれる。しかしながら、現在のアメリカは、自らの歴史的成功の犠牲者である。過去75年間、アメリカは海洋における優位を維持してきた。ワシントンは、第1列島線を支配し、保持し、活用して、アジアの陸上部に意のままに到達できると、漫然と想定していた。しかし、こうした想定は、益々疑問視されるようになり、将来計画の基盤とするには危険なものになってきている。米軍とワシントンの政策立案者達は、その有限の国家アセットに冷厳な優先順位を付ける不断の努力が必要である。我々は、「アジアの地中海」とスパイクマンが予見した、21世紀の最も重要な海洋戦域における中国との抗争を覚悟すべきである。さもなければ、我々はハワイの東に引き返して本国と西半球に焦点を置き、一方で自由、繁栄そして我々の基本的安全保障を犠牲にして、他者が世界の将来を左右することを容認することになろう。

記事参照:
Maritime Power and U.S. Strategic Influence in Asia

411日「トランプ、米例外主義を明確に否定米専門家論評」(China US Focus.com, April 11, 2017

 米ハーバード大学フェアバンク中国研究センター研究員Patrick Mendisは、Web誌、China US Focusに4月11日付で、"The Future of American 'Trumpire' As If China Mattered"と題する長文の論説を寄稿し、トランプは米例外主義を明確に否定した初の大統領であるとして、要旨以下のように述べている。

(1)トランプは、「アメリカ例外主義(American exceptionalism)」概念を明確に否定した最初の大統領である。「アメリカ例外主義」概念は、アメリカ建国時代にまで遡る。欧州での宗教的迫害から逃れてきた巡礼始祖は、マサチューセッツ湾植民地知事に選ばれたジョン・ウィンスロップのいう、下から仰ぎ見られる「光り輝く丘の上の町」の建設を目指した。信教の自由に対する清教徒の願いは、建国世代、とりわけトーマス・ジェファーソンに影響を与えた。建国の父達は、事実上ジェファーソン最大のライバルであったアレクサンダー・ハミルトンの構想による共和制を生み出した。ハミルトンは初代財務長官として、アメリカ統治機構の主たる設計者であり、その資本主義的経済システムの先見者であった。従って、彼は、いわゆる銀行家や資本家による不健全な影響を受けない村落の自作農からなる、ジェファーソニアンの「自由の帝国(an "Empire of Liberty")」とは対照的な、世界主義的、商業的かつ工業的国家の創造を目指した。ハミルトニアンの構想は長きにわたり、ジェファーソニアンの目的―女性や黒人、先住民、移民などの全てのアメリカ人に一層の自由と権利をもたらす―を達成するための、アメリカの繁栄の原動力であり続けてきた。ジェファーソニアンの目的は、富裕層の白人男性―そのほとんどがハミルトニアンの聖地、ウォール街出身者―が主流を占めるトランプ大統領のホワイトハウスにおいて退けられた。トランプ大統領は「アメリカを再び偉大な国にしよう」というスローガンを掲げ、「アメリカ精神を取り戻す」ことを誓ったが、ジェファーソニアンのように移民や女性、その他の民族的、宗教的少数派の存在に言及することはなかった。

(2)一方、中国では、毛沢東の死後、鄧小平は中国の経済開発と貿易戦略としてハミルトニアン的な政策を展開し、その結果として中国共産党(CPC)は、自国をアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国と位置付けるまでになった。問題は、中国がジェファーソニアンの目的を達成するために、ハミルトニアンの手法をとるというアメリカの経験に倣うかどうかである。第1次大戦以降、米中はハミルトニアンの通商関係で結ばれていたが、アメリカは、「民主主義のための安全な世界を作る」というジェファーソニアンの世界観を説き続けた。「中国の夢」を掲げて、国有企業の企業戦略を通じて「中国を復興させる」という、習近平の儒教的かつ共産主義的アプローチは不断に更新されているが、他方で、中国におけるジェファーソニアンの自由や、表現の自由と報道の自由といった諸権利は依然制限されている。習近平は2016年10月、国有企業に対するCPCの揺ぎない指導力が北京の壮大な世界戦略である「一帯一路」構想の要諦である、と強調した。中国の国有企業は、中央集権体制における儒教文化や、CPCが存続するための必要性から生まれた戦略的副産物である。

(3)アメリカでは、トランプ大統領(と娘夫婦)は、「アメリカを再び偉大な国に」すべく大富豪からなるハミルトニアンの政府を率いて、宗教的寛容や移民の受け入れ、健全で自由な報道といったジェファーソニアンの要素を批判する一方で、強力な軍事力を持つ工業国家というハミルトニアンの国家観を復活させているように思われる。アメリカや世界において変化する力学を観れば、以下のような疑問が生じる。即ち、アメリカは、ハミルトニアンのためのハミルトニアンの世界を創造するという、中央集権的な儒教的力―CPCのいない中国モデル―の経験に追随するのであろうか。繁栄する文明国としての中国は、歴史の歩みの所産に違いない。アメリカは常に、ジェファーソンやその他の建国の父達が思い描いた「自由の帝国」になろうと志向し続けてきた。ジェファーソンやその他の建国の父達にとって、巨大な「自由の女神」像は、アメリカを長きにわたり中国やその他世界から隔ててきた神聖な象徴である。自由の女神は「世界を照らす自由」を表象し、あらゆる文化や宗教、国籍の人々を遍く照らしている。

(4)人類の進歩のため、アメリカの共和制を発展させるには、過去の入植者や巡礼始祖から受け継いだ、ハミルトンニアンの理念とジェファーソニアンの理念とが等しく必要とされる。トランプ大統領は、ジェファーソニアンの心情を受け入れることなく、「アメリカファースト」政策を掲げて、ハミルトニアンのアメリカ建設に乗り出した。トランプを大統領にしたのはアメリカ憲法に規定されている選挙人団だが、クリントンの「一般投票」における300万票近い勝利は間違いなくジェファーソニアン多数派の意思を反映している。建国の父達によって創設されたアメリカの制度は、混乱しても、ジェファーソニアンの要素とハミルトニアンの要素を融合させるエネルギーによって動いている。ハミルトニアンの福音主義的な熱情が一時的に政治的権力を誇示しているように見えても、「国家内部」―各分野に散在する多くの愛国的公務員や外交官、そして主流派メディア―のジェファーソニアン精神を体現した慣性エネルギーが、国家の調和を維持していく。彼らのようなジェファーソニアンは、あらゆる人にとっての「自由の帝国」というアメリカの永遠の宿命の実現に向かって進む、リーダーなき魚群のようである。最大の問題は、ジェファーソニアンのDNAの活力が世界の灯台としての「グローバル国家」という性質を維持している状況下で、ハミルトニアンのアメリカという「トランプ帝国(the "Trumpire")」―そして大統領のレトリックやバカバカしいツイート―がどの程度続くかということである。

記事参照:
The Future of American "Trumpire" As If China Mattered

413日「トランプ、350隻海軍を実現できるか米海軍退役大佐論評」(Politico Magazine.com, April 13, 2017

 米シンクタンク、The Center for a New American Security(CNAS)上級研究員Jerry Hendrix(退役米海軍大佐)とLarson O'Brien LLP共同経営者Robert C. O'Brienは、4月13日付のPolitico Magazine(電子版)に、"How Trump Can Build a 350-Ship Navy"と題する長文の論説を寄稿し、アメリカに不可欠な350隻海軍を実現する方法について、要旨以下のように述べている。

(1)オバマ政権下で対テロ戦争や予算削減のために縮小されてきた海軍は、持続的に前方展開を維持できるほどには、現在その規模は大きくない。米海軍の力によって護られている緩やかな海洋法秩序は、一旦破綻すれば、再建するのは困難であろう。従って、2016年9月の当時のトランプ候補の「350隻の水上戦闘艦艇と潜水艦を建造する」という公約と、大統領としての最近の「12隻空母海軍」に対するコミットメントは、極めて重要な意味を持つ。もし成功すれば、トランプ大統領は、海軍に対するコミットメントを通じて世界とアメリカを護ってきた、ルーズベルトやレーガンと肩を並べることになろう。海軍の再建は、「力を通じた平和」態勢の要である。艦隊を劇的に増強するには、大統領のリーダーシップと大きな投資を必要とする。現有艦隊に75隻の艦艇を増強することは、産業面でも(かつてのような多数の造船所がない)、財政面でも(財政赤字対処のため)大きな挑戦となる。しかし、もしトランプ大統領が大胆な行動をとるならば、彼の2期目の終わりまでには、非常に能力の高い350隻艦隊という彼の目標を達成できる、と筆者(HendrixとO'Brien)らは確信している。

(2)今日の現有艦隊は275隻で、2015年の271隻からわずかしか増えていない。海軍は今後8年間で、2隻の空母、17隻のArleigh Burke級イージス駆逐艦、16隻のVirginia級攻撃型原潜を含む、最新の軍艦80隻を取得することになっているが、一方で同じ期間にTiconderoga級イージス巡洋艦5隻とLos Angeles級攻撃型原潜21隻を含む、49隻を退役させる計画である。従って、今後8年間で正味31隻の艦艇が増えるが、350隻には依然44隻不足している。350隻という隻数は非常に重要である。地域戦闘軍司令官は、アメリカの国益を護るために、米海軍の継続的なプレゼンスを必要とする、世界で18の海洋戦域を認定している。もしこれらの戦域の1つで米海軍のプレゼンスが欠ければ、「航行の自由」などの国際的海洋規範の維持機能が低下し、現地のアクターによって挑戦を受けることになろう。もっとも、これら全ての戦域で空母を必要しているわけではないが、通常、1隻を常時前方展開させるためには、5隻が必要である。従って、総合的に判断して、世界の海洋コモンズにおける安定を維持することができるためには、最低でも350隻の艦艇が必要ということになる。

(3)では、350隻をどのようにして実現するか。最初の措置は、退役予定艦艇の状態を再検討することである。5隻の巡洋艦は30年間現役にあり、今後、即応予備艦隊として更に35年間「防錆保管(the "mothballed")」されることになっている。しかし、就役年数延長プログラムによって、現役期間を更に5年から10年延長することができよう。この作業には1隻当たり最高3億ドルを要するという見積もりもあるが、この選択肢は検討すべきである。また、海軍は、今後8年間に機雷対策艦艇(MCM)14隻中、9隻の退役を見込んでいる。沿岸域戦闘艦(LCS)によって穴埋めされるはずであったが、LCSに搭載される機雷掃討システムは期待通りには仕上がっておらず、海軍のこの能力には戦略的な間隙が生じる。MCMは良好な状態にあると見られており、従って、巡洋艦とMCMの現役年数の延長によって、これら14隻を加えて、現在の計画と350隻艦隊の間にあるギャップを44隻から30隻に減らすことができる。

(4)もう1つの選択肢は、レーガン政権を真似て、即応予備艦隊として「防錆保管」されている中で、能力のある艦艇を見つけ出すことである。「防錆保管」艦隊は、戦時の予備として保管されている艦艇だが、例えば、現在、古すぎて費用がかかると考えられているが、トルコ、台湾あるいはエジプトなどが取得を望んでいる、11隻のOliver Hazard Perry級ミサイルフリゲートがある。これらの実績のあるフリゲートを現役に復帰させるために、修理して対艦、対空ミサイルを搭載することが可能であり、それによってプレゼンス維持や護衛任務に貢献することができよう。更に、退役するTiconderoga級イージス巡洋艦5隻の内、3隻は艦体耐用年数を10年残している。各艦は、オバマ政権下で解撤される予定であったが、この決定は直ちに取り消すことができる。これらは巡洋艦新造価格の8分の1の5億5,000万ドルで、新型垂直発射システムを搭載するグレードアップが可能で、シリア攻撃に使われたTomahawk対地攻撃巡航ミサイルなどの多様なミサイルを装備した122VLSチューブを搭載して艦隊に復帰することができる。この火力に勝るのは唯一ロシア海軍のKirov級巡洋艦だけであり、今日の危険な世界で米海軍最強の攻撃力を持つ水上戦闘艦を退役させるのは無意味である。更に、現役復帰を検討されるべきは、最近「防錆保管」された2隻の強襲揚陸艦である。レールガン、レーザー、無人機、オスプレイ・ティルトローター機そしてF-35B戦闘機などの新兵器によって、これら強襲揚陸艦の大甲板やウェルドックは、海軍に多くの有益な機会を与えることができよう。これらの艦を改修して現役復帰させるには、そのための法案が必要だが、それでも新造するよりも安くて早い。Oliver Hazard Perry級、Ticonderoga級そして揚陸艦の半分も現役復帰させることができれば、トランプ政権第1期の終わりまでには、8隻が艦隊に加わることになり、350隻に残り22隻の新造が必要ということになろう。

(5)艦艇の新造については、現在、Ford級(空母)、Arleigh Burke級(駆逐艦)、Virginia級(攻撃型原潜)及びSan Antonio級(強襲揚陸艦)が船台に乗っているが、海軍では、これらの建艦ラインの能力をフル稼働させることを期待している。この措置は、艦隊の戦闘能力を全般的に強化することになるが、1年毎に平均4隻の新造だけでも、既に厳しい予算の中で年間平均100億ドルの追加予算が必要となる。トランプ大統領は国防省予算を540億ドル増やしたが、海軍はこの約3分の1程度しか期待できない。しかも、その大半は、オバマ政権の怠慢から放置されてきた艦艇の修理や即応態勢の強化に振り向けなければならず、大統領が望み、アメリカが必要とする艦艇の新造に充当される予算はほとんど残らない。筆者(HendrixとO'Brien)らの見解では、新規あるいは増額予算は、12隻目の空母、稼働隻数減少の危機に直面している潜水艦、そして中国がアメリカに先行している小型水上戦闘艦(フリゲートや外洋哨戒艦)の建造に投入されるべきである。海軍は、高い能力を有するArleigh Burke級駆逐艦の建造を継続すべきだが、現在のペースで進めるべきではない。2隻の駆逐艦の建造には36億ドルを必要とするが(海軍は既に64隻配備し、2024年までに80隻となる)、同じ経費で、イタリアとフランスのFREMM級の設計に基づく2隻の新型フリゲート、エジプト向けにアメリカで建造されたAmbassador級のような2隻の65メートル級外洋哨戒艦、そして高速ミサイル攻撃艦としての機能を持たせるために、新たに艦対艦ミサイル搭載した2隻の改造型統合高速輸送艦を購入できるであろう。

(6)では、これら全ての措置はどの程度の費用を要するか。2016年度の海軍予算は、前年度比わずか1.5%増の1,600億ドルであった。350隻海軍を実現するには、この予算は必要な投資額には程遠い。目標達成のためには、今後8年間の艦艇建造予算として年度平均70億ドルの増加が望ましい。また、空母航空団の攻撃戦闘機の不足に対処し、強力な長距離攻撃能力を再導入するために、今後8年間にわたり航空機調達予算として平均35億ドルの増額が必要であろう。その結果、海軍の運用維持費も、現在の484億ドルから570億ドルに増加することになろう。また人件費も、トランプ政権2期目の終わりまでには、年間82億ドルの純増が必要となろう。全体として、筆者(HendrixとO'Brien)らの提案する海軍予算は、2024年度までに、1,600億ドルから1,900億ドル以上に増加することになろう。

(7)歴史は、ローマ時代から繰り返されてきた教訓、即ち、戦争を実際に戦うより、戦争を抑止する方がはるかに安価であるということを教えている。一部の人々は、古い艦艇への投資は、接近阻止/領域拒否(A2/AD)兵器の時代においては金銭的な損失であるというであろうが、海軍の軍事行動の90%は、平時のプレゼンスやアメリカの決意の誇示を通じて戦争の発生を防止することにある。我々が退役させた古いフリゲートや、新型のフリゲートあるいは外洋哨戒艦は、この目的のためには十分である。一部の反対論者は、ミサイル搭載高速艦や外洋哨戒艦は、敵の攻撃に対してあまりにも脆弱だと主張するだろう。しかし、これらの艦は、相手の計算を複雑にさせ、アメリカのパワーを投影し、同盟国を安心させる安価な手段なのである。実際、中国のロシアも、北極海、南シナ海そして台湾海峡などの重要海域におけるプレゼンスと制海任務のために、新型のミサイル艇や外洋哨戒艦を建造している。艦艇の建造には2年から5年を要し、2017年度予算で建造される艦艇は、トランプ大統領の2期目の就任式までに就役することは恐らくないであろう。行動する時は今である。

記事参照:
How Trump Can Build a 350-Ship Navy

414日「スカボロー礁の中国占拠長期化の阻止、米比両国の強固な措置が必要米専門家論評」(Forbes.com, April 14, 2017

 米誌The Journal of Political Risk発行人でリスク分析専門家Anders Corrは、米誌Forbes(電子版)に4月14日付で、"Take Defense Treaty Action For Philippine Sovereignty In South China Sea"と題する長文の論説を寄稿し、2016年6月にスカボロー礁周辺海域を視察した経験を踏まえ、中国のスカボロー礁(黄岩島)実効支配が長引けば長引く程、中国によるスカボロー礁軍事化の可能性が高まる一方で、フィリピンが同礁を取り戻す可能性は益々低くなろうとして、要旨以下のように述べている。{ロイター通信は4月10日付でスカボロー礁周辺海域の状況を報じている(注:旬報4月1日-4月10日参照)。}

(1)筆者(Anders Corr)は2016年6月、フィリピン活動家グループ、The Kalayaan Atin Itoが組織した、「自由な航行(a "Freedom Voyage")」に同行して、フィリピン独立記念日にスカボロー礁を視察した。軽砲を装備した2隻の中国海警局巡視船(2,580トン)ともう1隻の中型巡視船が我々の30メートルの木造漁船の行動を妨害し、中型巡視船は時に4メートル近くまで接近してきた。フィリピンの5人の活動家がフィリピン国旗と国連旗を持って環礁に向かって泳ぎ始めたが、中国巡視船から発進した2隻の高速ボートが彼らの周りを回って、3フィート以内にまで接近し波しぶきを浴びせたが、何度もやられたら殺されていたかもしれない。結局、およそ1時間に及ぶ執拗な妨害の後、中国の高速ボートが離れた間隙を縫って、1人の活動家がフィリピン国旗を環礁に掲げた。このグループの行動は、公式なものではなかったが、愛国心の最大限の発揚行為であった。それは、フィリピンの人々が中国の領有権主張と侵略を黙認しないこと、そしてフィリピン政府に行動を促すことを示す行為であった。スカボロー礁に対するフィリピンの主権主張と、中国の「9段線」内のその他のフィリピン領土とEEZを護るためには、フィリピン政府が中国の行為を黙認しないことが肝要である。

(2)2016年7月の南シナ海仲裁裁判所の裁定は、スカボロー礁を国連海洋法条約(UNCLOS)にいう「高潮高地(岩)」とした。従って、米海軍大学James Kraska教授によれば、スカボロー礁は、どの国の主権に属するとしても、12カイリの領海を有する。2012年のスカボロー礁での中国漁民の環境破壊的な操業を巡る中比両国の対峙以降、中国は、スカボロー礁を実効支配している。一部の中国人専門家は、中国が実際に戦火を交えることなく領土を得る、漸進的なサラミスライス戦術として、これを「スカボロー礁モデル」と呼んだ。現在、スカボロー礁では、中国からの240億ドルの援助とインフラ建設と引き替えに、ドゥテルテ大統領が仲裁裁判の裁定凍結を表明したことから、少数のフィリピン漁民の操業が認められている。スカボロー礁に対する中国の管轄権行使は、同礁に対するフィリピンの主権の直接的な侵害である。前出Kraskaは、「フィリピンは、スカボローに対する主権を有している」「同礁に対する領有権は、スペインの広範な領域支配を通じてフィリピンに継承された。スカボロー礁に対するフィリピンの領有は、同礁を在比米軍の射爆演習場として使用していたアメリカによって認められていた」と指摘している。中国によるスカボロー礁での大型漁船による環境破壊は、同礁に対するフィリピンの主権行使ができないためである。Kraskaは、「これはUNCLOS、更に言えば国際法全般に共通する問題で、全ての国が中国を規制することで利益を得る集団的行動が必要だが、どの国もそうするためのコストを負担したくない」と指摘している。

(3)スカボロー礁に対するフィリピンの主権行使が不可能なことで、3つの分野で問題が生じている。

 a.第1に、アメリカがスカボロー礁に対して強い行動をとらないことで、フィリピンにおけるアメリカのコミットメントに対する信憑性が低下し、結果的に米比同盟を弱体化してきた。

 b.第2に、2012年以降のスカボロー礁を含め、咎められることなく南シナ海支配を益々強めていく中国の能力は、一層強化され、促進されてきた。中国が世界で最も強力な全体主義体制であることを考えれば、これは民主主義体制に対する脅威である。

 c.第3に、フィリピンがスカボロー礁に対する中国の占拠による主権問題に対処するための如何なる独自の法的手段も持たないという事実は、国際法とその施行における全般的な欠陥である。中国の同意がなければ、フィリピンは、主権紛争に関して国際司法裁判所(ICJ)に中国を提訴することはできない。これは主権紛争に関する国際法の弱点である。このことは、主権問題は、他の当事国が平和的な仲裁に従わなければ、武力によるか、あるいは力による威嚇(例えば経済制裁や海上封鎖)を通じてしか解決できないことを意味する。従って、スカボロー礁は、「岩」としての法的地位が意味する以上に、国際的に非常に重要である。

(4)アメリカとその同盟国は、スカボロー礁を1990年代半ば頃の原初形状に戻すよう、中国に合同で圧力をかけなければならない。原初形状について論議がある場合には、アメリカとその同盟国は、中国に対してICJの仲裁を受け入れさせるために、経済制裁やスカボロー礁周辺海域における強力な海軍のプレゼンスを含む、取り得る全ての手段を活用すべきである。不作為は、アジアにおけるアメリカの意図に対する疑念を募るだけである。南シナ海における漸進的侵出がスカボロー礁にまで及ぶことになれば、中国をより強固に、そしてより大胆にさせることになり、アメリカの国家安全保障が阻害されることになろう。スカボロー礁は、アジアで最も重要な海軍基地であり、アメリカが歴史的に利用してきたスービック湾から250キロの位置にある。もしフィリピンとの関係が改善されれば、アメリカはスービック湾を一層活用できるであろう。中国がスカボロー礁に軍事基地を建設すれば、海軍基地としてスービック湾の価値は、その防衛能力を大幅に低下させることになろう。

(5)アメリカは、1951年の米比同盟条約によって、フィリピンの側に立っている。同条約第4条は、両国のいずれかが太平洋地域で第三国に攻撃された場合、双方の憲法上の手続きに従って、相互支援することを規定している。スカボロー礁を含む、南シナ海におけるフィリピン領土を護るという条約上のコミットメントを、アメリカが回避したり、裏切ったりするようなことがあれば、フィリピンに対しても、また世界に対しても「アメリカ頼りにならず」を印象付けることになろう。中国が海警局巡視船によってスカボロー礁を管轄する期間が長引けば長引き程、中国と国際法の専門家は、スカボロー礁を、事実上中国の主権下にある領土と見なし始めることになろう。諺にいう「現実所有は所有権決定の9分の勝ち目」と。スカボロー礁は、中国沿岸からは864キロも離れているが、フィリピンからはわずか223キロであり、UNCLOSの規定によれば、フィリピン沿岸から200カイリ(370キロm)のEEZ内にある。フィリピンは、長年に亘って、スカボロー礁とその周辺海域を伝統的漁場としてきた。中国漁民が環境破壊的な操業を始めたのはつい最近のことである。従って、フィリピンとその同盟国は、フィリピンの主権と領域、そしてスカボロー礁における環境を護るために、積極的に行動する法的義務がある。そうするために、フィリピンは、中国のスカボロー礁占拠に反対し続けなければならない。米シンクタンク、CSISのGreg Polingは、「マニラが取り得る最善の措置は、異議を唱え続けているという法的記録を残すために、中国の主権を認めることに継続的に反対し、拒否することである」と指摘している。前出Kraskaは、「フィリピンは、中国を懲らしめるために法律を効果的に活用してきたが、これからも引き続きそうすべきである。例えば、ベトナムに対して同様の訴訟を起こすよう慫慂できるかもしれない」と語った。

(6)これらは取り得る重要な法的手段ではあるが、中国は、南シナ海仲裁裁判への参加と、その裁定の受け入れを拒否して、国際法を無視した。従って、より強固な手段が必要となろう。主権紛争を管轄するICJへの付託を中国に同意させるために、例えば、スカボロー礁周辺海域での米比両国の沿岸警備隊と海軍による合同哨戒活動を実施すべきである。更に、ミスチーフ礁(美済礁)やセカンドトーマス礁(仁愛礁)などのフィリピンEEZのフィリピンの主権と領域保全を護るために、同様の戦術を活用すべきである。もちろん、こうした合同哨戒活動が中国と紛争にエスカレートしないようにするために、中国の戦術に習って、漸進的に強化していかなければならない。

記事参照:
Take Defense Treaty Action For Philippine Sovereignty In South China Sea

【関連記事】

「スカボロー礁の現況、仲裁裁定の事実上の履行はアメリカの不安を取り除くか米ジャーナリスト論評」(The Diplomat, April 14, 2017

 東アジアの安全保障と海洋問題を専門とする在ニューヨークのフリーランサーSteven Stashwickは、Web誌、The Diplomatに4月14日付で、"Can the US Be Reassured by China's Quiet Compliance With Court Ruling at Scarborough Shoal?"と題する論説を寄稿し、フィリピン漁民は今やスカボロー礁における「炭鉱のカナリア」となっているとして、要旨以下のように述べている。

(1)ロイター通信の記者らが4月初めに2012年から中国が実効支配しているスカボロー礁のラグーンに初めて入り、「スカボロー礁は未だに中国の漁民と海警局の巡視船の管轄下にあるが、フィリピンの漁民は環礁内外であまり妨害されることなく操業している」と報じた。2016年7月の南シナ海仲裁裁判所の裁定は、スカボロー礁の帰属については管轄外としたが、漁業権を持つフィリピン漁民を中国が不当に妨害しているとして、中国にフィリピン漁民の入漁を認めるよう求めた。中国は裁定の合法性に異議を唱えているが、ロイター通信の報道は、中国が要求を事実上受け入れていることを示している。スカボロー礁は米中間の潜在的な紛争発火点であるが、同礁におけるフィリピン漁民の存在は、アメリカにとって中国の意図に対する戦略的再保証となるものであり、同時に中国の意図が変わった場合には介入の可能性を高めるものでもある。スカボロー礁は、フィリピンのルソン島から120カイリ、首都マニラからでも200カイリ足らずの位置にある。その近接性と中比間の紛争生起の可能性は、米比相互防衛条約発動の引き金ともなり得るものである。多くの専門家は、南沙諸島と西沙諸島の基地と共にスカボロー礁は中国による南シナ海全域への戦力投射を「戦略的トライアングル("strategic triangle")」を構成すると分析している。

(2)確かに、中国は、先のロイター通信の報道などによると、フィリピンのみならずベトナム漁民の入漁も認めているようである。これに関して、中国外交部は、スカボロー礁は中国の主権下にあるもののフィリピン漁民に配慮しているが、これは仲裁裁定とは無関係であるとの立場をとっている。中国による外国漁船への取り計らいはアメリカの不安を取り除きたいがための強いシグナルと見られるが、もちろん完ぺきに不安を晴らすのもではない。スカボロー礁のフィリピン漁民たちは、中国の不吉な企みを警告する「炭鉱のカナリア("canaries in the coal mine ")」(注:有毒ガスの発生を検知するために炭坑内に飼育されるカナリアの意)である。もし中国が外国漁民の環礁への立ち入り許可を取り消すことがあれば、それは、アメリカに対して、中国がスカボロー礁で建設活動に取り掛かる前に、外交、軍事的対応をとるべきことを警告する明確な戦略的シグナルとなろう。

(3)このことは、中国が南沙諸島で実施したように、人工島建設を既成事実化することが不可能であることを意味する。中国が2012年にフィリピンを締め出したときとは、戦略的な背景が全く異なっている。中国が2012年にスカボロー礁を奪った時、軍事化ではなく、漁業権と経済権に対する主権的権利を主張しているように思われた。中国は、南沙諸島の海洋自然地形を占拠した時も、直ぐには埋め立てを行わなかった。埋め立てを開始し、建造物の建設に取り掛かったのは3年近く経ってからであった。今、南沙諸島の施設建設は完了した。中国がスカボロー礁において埋め立てや建造物建設の賭けに出るとすれば、アメリカは、その意図を極めて明確に理解するであろう。もし中国がスカボロー礁からフィリピン漁民を再び閉め出し、埋め立てや建造物建設開始の前兆ともとれる動きを示すならば、アメリカは、介入し、以前にも増して強固な姿勢を示すであろう。このことを理解しているが故に、中国は、成功の見込みがなく、アメリカとの危機を高めるだけの行動に出るとは思えない。

記事参照:
Can the US Be Reassured by China's Quiet Compliance With Court Ruling at Scarborough Shoal?

417日「中国、ジブチで港湾建設に投資」(South China Morning Post.com, April 17, 2017

 香港紙、South China Morning Post(電子版)は、中国がジブチでの港湾建設に大規模な投資を計画しているとして、要旨以下のように報じている。

(1)北京は2015年、国連平和維持活動、アデン湾とソマリア東岸沖での海賊対処活動、そして人道支援活動に視するためとして、ジブチに中国最初の恒久的な海外基地施設を建設することを確認した。基地施設は2017年遅くにも完成する見通しで、今後、アフリカにおける中国の増大する経済的プレゼンスを護る上で中心的役割を果たしていくと見られる。習近平主席が2013年にタンザニア、南アフリカそしてコンゴ-ブラザビルを訪問した際、2015年までにアフリカに200億ドルを投資すると約束した。

(2)中国の軍事施設は完成に近づいているが、その近くで中国は5億9,000万ドルを投資して、Doraleh多目的港を建設している。国際通貨基金(IMF)が4月初めに公表した報告書によれば、2015年から始まった大規模なインフラ整備プロジェクトは、ジブチの経済成長を牽引してきた。ジブチ政府は、インフラ整備によって東アフリカの地域輸送ハブを目指しているが、その資金はほとんどが中国からの投資である。

(3)The Djibouti Ports and Free Zone Authority議長のOmar Hadiは、「ジブチは商業にも、軍事にも絶好の位置にある」「ジブチは東アフリカへのゲートウェーであるばかりでなく、ヨーロッパへのゲートウェーでもある」「我々は国として絶好の地理的位置にある。我々はこれを最大限に利用して、最大のインフラを整備し、開発して、陸封国家のエチオピア、南スーダンそしてウガンダと鉄道と道路で連接する必要がある。港湾インフラを整備すれば、市場と需要が生まれる」と強調した。現在、中国資本で、48平方キロに及ぶアフリカの最大の国際的な自由貿易地区の造成を計画している。このプロジェクトは、「一帯一路」構想に繋がっている。

記事参照:
How a Chinese investment boom is changing the face of Djibouti

418日「台湾、南沙諸島の占拠地形の軍事力強化へ」(UPI, April 18, 2017

 台湾紙、蘋果日報が4月18日付で報じるところによれば、台湾軍は、南沙諸島で占拠する太平島(イツアブ)の軍事力強化を求めている。台湾国防部の軍事力強化案では、上陸阻止能力を持つ遠隔操作多連装ロケットシステムが沿岸防衛の中核を構成する。台北はまた、T-75 20ミリ砲2門を含む、短距離自動防空システム、XTR-102システムの配備の可能性を検討している。このシステムは台湾製で、遠隔操作である。台湾は現在、太平島に40ミリ高射砲、120ミリ迫撃砲、AT-4対戦車ロケットを配備している。

記事参照:
Taiwan to increase military presence on South China Sea island

418日「裁定後の南シナ海、幾つかの不確実要因仏専門家論評」(China US Focus.com, April 18, 2017

 仏国立東洋言語文化学院(INALCO)准教授Sébastien Colinは、Web誌、China US Focusに4月18日付で、"The south China Sea Since the Arbitration: Between changes and Continuity"と題する論説を寄稿し、2016年7月の南シナ海仲裁裁判所の裁定以後の南シナ海情勢について、幾つかの不確実要因を挙げ、要旨以下のように述べている。

(1)2016年7月の南シナ海仲裁裁判所の裁定から8カ月余を経た今日、中国とその他の当事国、就中、フィリピンとの関係は改善されてきたようである。一方、ベトナムは、中国に対して法的行動をとらず、中国共産党との良好な関係維持を目指す政策と、領有権主張や海洋権益を自国で防衛することを目指す政策との間で分裂している。ASEANによる合同努力の焦点は、海洋安全保障に対する取り組みを目的とした文書の作成にあった。2016年9月6日から8日にかけてビエンチャンで行われたASEANサミットと東アジアサミット(EAS)において、東南アジア諸国と中国は、「海上における不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)の南シナ海への適用に関する共同宣言」に加えて、「海上での緊急事態に対応するホットライン運用指針」を採択した。また、2002年の南シナ海における関係諸国行動宣言(DOC)の完全履行や、南シナ海行動規範(COC)の締結を目的とした交渉継続にも同意した。COCは最終的に、環礁や「低潮高地」への「攻撃的兵器」の配備を阻止するとともに、南シナ海における商船の自由航行を護る、拘束力を持つ危機管理メカニズムの形をとることになるかもしれない。

(2)2000年代初頭にDOCが採択され、中国とASEANの友好協力条約が調印された際のように、2016年7月12日の仲裁裁判所裁定は、図らずも中国とASEANの融和に向けた動きを促したのではないだろうか。もっとも事態の推移の背後には、積み上げた成果をいつ何時損ないかねない不確実性がある故に、この問いに確たる回答をすることは難しい。主たる不確実性の1つは中比関係である。両国関係が過去数カ月間に改善したことは確かだが、短期的な実利を追求して妥協したこともあり、得られた利益が一時的なものとなってしまうリスクが認められる。またフィリピン大統領府と国防省の声明が往々にして矛盾するといったことが物語るように、フィリンピン政府内部における対中政策と対米政策の不一致は中比接近の限界点を示している。3月下旬に発表された中比領有権紛争に関する2国間交渉の再開と、北京による比沿岸警備隊に対する訪中要請は、中国外交部報道官の「海上協力を進展させ」「両国関係に新たな活力を吹き込む」という発言に見られるように、中国側の狙いは明らかである。中比両国の沿岸警備隊による対話の定例化は、将来的な両国軍間の対話への布石と見なすことができるが、フィリンピンに根深い対中不信感を一掃する上で重要な措置となることは間違いない。

(3)今1つの重要な不確実性は、2017年4月の米中首脳会談後における米中関係である。米中両国は海洋安全保障に関する対話チャンネルを築き上げてきたが、両国が南シナ海で戦略的対立関係を抱えている現実は変わらない。こうした両国関係は、とりわけ領海内の無害通航権や他国のEEZにおける軍事活動の規制に関する、これまでの意見の不一致に現れている。

(4)最後の重要な要因は、南シナ海における中国の戦略の複雑さである。その理由は、①同海域の地理的形状が半閉鎖状態であること、②中華民国時代からの領有権主張を引き継いでいること、③現時点で経済的な権益や安全保障上の権益が存在していること、④国家海洋政策に関わる関係各機関関係者間に利害対立があること、⑤法的な理由よりもイデオロギー上の理由から調印した国連海洋法条約(UNCLOS)の一部条文が自国の国益と必ずしも合致しないためである。南シナ海における中国の戦略は、伝統的な領有権主張を継続しながらも、徐々に係争海域での軍民双方のプレゼンスを向上させていく長期的なものである。また、自国の権益と安全保障に脅威を与え得るフィリピンやベトナムのような係争国やアメリカが関与する動きの機制を制し対抗する戦略も用いている。

(5)もう1つの南シナ海における中国の戦略の特徴は、経済協力と「地域の連結性」を推進する一方で、主権と国益を護らなければならないという両面性にある。中国が南沙諸島で埋め立て工事を開始(あるいは始めようと)しながら、一方で21世紀海上シルクロード構想を2013年に打ち出したことはその証左である。実際のところ、中国の主要課題の1つは、主権と安全保障に対して断固たる姿勢を堅持しつつも、中国脅威論を解消することにある。この点については、2017年2月14日に国務院法制弁公室が公表した海上交通安全法の改正案をめぐる問題が有益な事例となっている。南シナ海仲裁裁判所による裁定から数カ月を経て公表された改正案は、1984年1月1日施行の現行法を合理的に更新したものである。2017年2月15日付の大公報に掲載された記事によると、法改正の主たる目的は、「国家の海洋力を完成させること」などにある。法案には、海難救助や海事労働、安全基準に関する規定に加え、海洋における権利保護についての条項も定められている。海洋における権利保護では、特に中国当局の事前承認を受けていない外国軍用艦艇に領海の無害航行権を付与することを拒否しているほか、「国家管轄権の対象海域」における不審船や違法操業船の訴追権を海上法令執行機関に付与している。しかしながら、「国家管轄権の対象海域」という用語を南シナ海に適用することには疑義が呈されるであろう。というのも同法案で中国当局は、内水や領海、接続水域のみならず、EEZや大陸棚、及び「その他中華人民共和国の管轄権下にある海域」を法的に位置付けることになるからである。この最後の点は、「権限」が及ぶ具体的な範囲と、間接的には「9段線」の範囲に関して改めて疑問を提起するものである。この法案の最終版が重要なことは明確である。UNCLOSが定める規定と海上交通安全法における表現の差異がとりわけ注目される。もっとも決定的かつ南シナ海の趨勢を決める要素は同法がどのように運用されるかにある。

記事参照:
The South China Sea Since the Arbitration: Between Changes and Continuity

420日「ロシア海軍艦船、マニラ訪問」(Reuters.com, April 20, 2017

 ロシア海軍太平洋艦隊旗艦、誘導ミサイル巡洋艦RFS Varyagは4月20日、給油艦Pechengeを随伴して、マニラに寄港した。ロシア艦のマニラ寄港は過去3カ月間で2度目である(注:前回は2017年1月3日から4日間)。ロシア艦は4日間の滞在中、フィリピン海軍と合同演習を実施する。ロシア艦の寄港はドゥテルテ比大統領が進める「自主的外交政策」の一環で、比海軍広報官は、演習を通じて多くを学ぶことを期待していると語った。一方、ロシア訪比艦隊の司令官は、寄港が両国関係の強化と地域の安定維持に「大いなる貢献」を果たすことになろうと語った。

記事参照:
Russian navy visits Philippines as Duterte tightens ties with U.S. foes

420日「中国海軍、インド洋西部でのプレゼンス強化米専門家論評」(China Brief, The Jamestown Foundation, April 20, 2017

 米The George Washington University客員教授David Shinnは、Web誌、China Briefに4月20日付で、"China's Power Projection in the Western Indian Ocean"と題する論説を寄稿し、中国海軍がインド洋西部でのプレゼンスを強化しているとして、要旨以下のように述べている。

(1)中国海軍は2000年に、タンザニアと南アフリカの港湾を友好訪問することで、初めてインド洋西部に進出した。2002年には、中国海軍は、2隻の戦闘艦でスエズ運河を通航してアレキサンドリア(エジプト)に寄港するなど、世界一周航海を実施した。以後、中国がアデン湾沖での海賊対処活動に参加した2008年までの6年間は、インド洋西部海域への中国海軍の寄港はなかった。2008年以降、通常2隻の戦闘艦と1隻の給油艦から編成される中国海軍の海賊対処派遣部隊は、現在第25次派遣部隊が任務遂行中である。この間、中国海軍の海賊対処派遣部隊は、アルジェリア、バーレーン、ジブチ、エジプト、インド、ケニヤ、クウェート、モロッコ、モザンビーク、オマーン、カタール、サウジアラビア、セイシェル、スリランカ、タンザニア、アラブ首長国連邦、及びイエメン各国の港湾に60回以上寄港した。

(2)中国海軍の海賊対処派遣部隊の当初の目的は、アデン湾沖での海賊対処であった。多国籍の派遣海軍部隊との協調による海賊制圧作戦は大きな成功を収め、2012年を最後に2017年3月まで、海賊による商船襲撃の成功事例はなかった(注:3月に2012年以来5年振りにタンカーがハイジャックされた)。中国は2014年に、海賊対処派遣部隊に、潜水艦を初めて随伴させた。そして2015年には、原子力潜水艦をアデン湾沖での活動に随伴させた。潜水艦は海賊対処という本来の任務にそぐわないが、潜水艦の随伴は、運用と要員を訓練する機会となった。中国は2016年には、海賊対処活動と人道的支援、そして地域の平和維持に貢献するためと称して、ジブチに恒久的な「兵站根拠地」の建設を開始した。米アフリカ軍司令官を含む、多くの中国以外の専門家は、この施設を、中国初の海外軍事基地であるとともに、中国の遠距離戦力投射戦略の一環と見なしている。中国海軍唯一の空母、「遼寧」は、南シナ海では行動したが、インド洋には未だ姿を現していない。米太平洋軍のハリス司令官は、中国の空母戦闘群がインド洋で行動するのを妨げるものは何もないが、米空母のように昼夜を分かたず行動することはできないであろう、空母の運用ではインド海軍の方が中国海軍よりはるかに多くの専門知識を備えている、と語った。

(3)中国は現在、世界最大の石油輸入国であり、その約52%が中東から、22%がアフリカからの輸入である。そして中国の輸入石油の約82%がマラッカ海峡を経由し、一方、約40%がペルシャ湾のホルムズ海峡を経由する。中国の海上貿易の約40%がインド洋経由である。ある中国の専門家は、ジブチで軍事施設を建設し始める前の2014年に、「中国は、インド洋に2つの目的―即ち、経済的利益とシーレーンの安全保障―しか持っていない」とし、中国はインド洋へのアクセスに関心を持っているが、基地には関心がない、と強調していた。しかしながら、ジブチで建設中の施設は、インド洋地域への中国の軍事的関与に関する疑念を誘発した。中国国防大学戦略研究所副所長の徐弃郁上級大佐は、インド洋における中国の主たる関心はシーレーンへのアクセス、核保有国であるインドとパキスタンとの良好な関係、地域的安定、そして中国の利益と国民の保護である、と主張している。中国最大の船社、国営中国遠洋運輸集団(COSCO)は、スエズ運河北端のポートサイドで、スエズ運河コンテナー・ターミナルを運営、管理するための合弁事業に、1億8,600万ドルを投資した。更にその後、国営中国港湾工程は、ポートサイドで埠頭を新設するために2億1,900万ドル、運河南端のアドビーヤに新たに埠頭を建設するために10億ドルをそれぞれ投資した。こうした投資の目的は、インド洋を経由して紅海から地中海に至る中国の海洋通商路への信頼できるアクセスを確保するためである。この通商路には、中国パキスタン経済回廊へのアクセスが含まれ、既にCOSCO運用船は、パキスタンのグワダル港に寄港している。その上、あまり言及されることはないが、中国は、インド洋の海底資源にも関心を持っている。中国は2011年に、マダガスカル南方海域に、海底資源探査のために国際海底機構との間で1万平方キロの海底の15年間リース契約に調印している。

(4)米印両国は、中国がインド洋で覇権を追求しないことを望んでいる。しかし、インド、パキスタンそして中国はいずれも核保有国であり、海洋核戦力を強化しつつある。中国は、この面でパキスタンを支援している。結局にところ、これら3国は、インド洋に核兵器を配備することになろう。こうした動向は、インド洋地域を不安定にし、アメリカの利益にもならない。中国がインド洋西部で自国の利益を護る能力を強化し、そこから更に地中海や南アフリカの周りで影響力を行使するための拠点にしようとしていることは、疑いない。これまで、中国のこうした方針は、インドを例外として、インド洋西部沿岸域の各国で重大な懸念を引き起こしてこなかった。しかし今や、中国の戦略は、インドに加えて、アメリカの専門家の間でも疑念を高めている。

記事参照:
China's Power Projection in the Western Indian Ocean

421日「北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル能力、急速な進展、米紙報道」(The Washington Free Beacon.com, April 21, 2017

 米Web紙、The Washington Free Beaconは4月21日、北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル能力について、要旨以下のように報じている。

(1)国連専門家委員会のレポートによると、北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイルと搭載潜水艦の開発は急速に進展している。8人の専門家から構成される国連専門家委員会は、「短期間で迅速な技術的開発が行われ、潜水艦発射弾道ミサイル・システムの実用化に向けて重要な進展が見られた」と指摘している。レポートは、北朝鮮の北極星1号(KN-11)と称される潜水艦発射弾道ミサイルの開発について、「KN-11が液体燃料から固形燃料エンジンに替わったことは大きな技術発展である。これによって、ミサイルの安定性と、迅速な発射準備とより長い燃料貯蔵が可能になった」と述べ、発射プラットフォームであるゴルフ級潜水艦(注:新浦級潜水艦、旧ソ連のゴルゴ級をリバースエンジニアリングしたもの)の画像を掲載した。画像によれば、この潜水艦は発射プラットフォームとして1本の発射管の安定性を強化するための改良が施されている。

(2)北朝鮮の計画は、アメリカの第1世代の潜水艦発射ミサイル計画、ポラリスを模倣しているようである。KN-11は、発射し、海面上に飛び出し、エンジンに点火し、ミサイルの姿勢を制御し、そして目標へ飛翔するといった一連の流れから見て、1960年代のポラリスと同様の技術を利用している。レポートは、国連加盟国に対して、潜水艦発射ミサイル計画を促進させることになりかねない民間の両用技術製品の輸出を避けるべきことを勧告している。韓国政府が2016年12月に発表したところによれば、潜水艦の部品用に北朝鮮が利用し得る民間の両用技術製品として、60品目がリストアップされている。これらには、板金、音響製品そして水中通信システムなどが含まれている。

(3)KN-11は2016年中に5回の発射の実験が行われた。レポートによれば、北朝鮮は、潜水艦のミサイル発射管からミサイルを海面上に飛び出させるために、ミサイルの底部に装着するガス発生器を開発した。更に、専門家委員会のメンバーによれば、潜水艦発射ミサイルが開発されている、新浦の造船所では、複数の潜水艦発射弾道ミサイルを搭載できる、より大きな潜水艦が建造されていると見られる。

記事参照:
North Korean Submarine Missile Program Advances

421日「比国防相、南沙諸島訪問」(The New York Times.com, April 21, 2017

 フィリピンのロレンザナ国防相は4月21日、南沙諸島でフィリピンが占拠する海洋自然地形、パグアサ(ティトゥ)を軍のC-130輸送機で訪問した。中国は、C-130輸送機に対して、少なくとも4度無線で警告した。ロレンザナ国防相は、この警告を、中国が領空と見なす空域を飛行する航空機に対する儀礼的な問い合わせのようなものとして、あまり問題視しなかった。パグアサは、約14の岩礁と十余の環礁や砂洲からなる。国防相は、パグアサの施設を視察するために訪問したとし、滑走路の修復や埠頭の強化が必要だと語った。フィリピン政府は、滑走路の修復とは別に、漁港、発電所、脱塩装置、無線ステーション及び製氷装置の整備のために、3,200万ドルを計上している。また、海洋保護区も計画されており、国防相によれば、フィリピン政府はこの海域を観光地にすることを望んでいる。現在、パグアサは、パラワン州に属する島嶼自治体とされており、軍要員が駐留しており、選挙で選ばれた市長が管轄している。

記事参照:
Philippines Sends Defense Chief to Disputed South China Sea Island

426日「中国の国産空母1番艦、進水米紙、台湾紙の見方」(The New York Times.com, April 25,and Taipei Times.com, April 28, 2017

 中国が遼寧省大連で2013年11月から建造していた初の国産空母が4月26日、進水した。この国産空母1番艦は今後、海上公試などを経て、就役するのは2020年頃と予定されている。国産空母1番艦は、未だ正式な艦名が発表されておらず、一時的にType 001Aと呼称されている。以下は、国産空母1番艦の進水を巡る、米紙と台湾の報道である。

1.国産空母1番艦進水の意義(The New York Times.com, April 25, 2017)

 (1)国産空母1番艦の進水について、米シンクタンク、The Center for a New American Securityのパトリック・クローニン研究員は、他のアジア諸国が太刀打ちできない海軍力を建設するという中国の意図の現れと指摘している。米海軍大学のアンドリュー・エリクソン教授によれば、中国海軍は習近平主席が進める軍改革の核心であるとし、「中国は、長年に亘って、外洋海軍の建造を進めてきた。空母だけでなく、空母を支援する多くの補助艦船や、護衛する戦闘艦を建造している。これまで建造された艦船や、現在建造中の隻数から見て、最大4隻の空母を支援し、護衛するのに十分な隻数である」と見ている。

 (2)国産空母1番艦のサイズや能力が現有空母「遼寧」の延長線上にあることから、中国は、技術的なリスクを回避しながら、段階的かつ着実に海軍戦力を近代化し、拡充している。中国の海軍専門家は、国産空母の進水を「全体的な国力の強化と成長」の表れとしながらも、「我々が大きく前進したことは確かだが、我々は、英仏両国の空母を凌駕する程の技術力を持っているとはいえない。空母技術をマスターすることは、我々が想像したほど簡単でなかった」と語っている。

 (3)中国は依然、空母と空母戦闘群の運用経験を蓄積中であり、「遼寧」も国産1番艦も同じ「スキージャンプ甲板」から艦載機を発艦させる。中国の2隻の空母は、米海軍の原子力空母にはその能力で大きく劣るが、域内、特に南シナ海における力の誇示には適している。空母はミサイルと魚雷には脆弱とされるが、中国人民解放軍のニュースサイトは、空母は戦力投射に不可欠のプラットフォームであり、「依然として、海洋において運用される最も強力で価値のあるプラットフォームである。空母に替わるものはないし、またそれを凌ぐことは更に難しい」と強調している。

記事参照:
China, Sending a Signal, Launches a Home-Built Aircraft Carrier

2.台湾の見方(Taipei Times.com, April 28, 2017)

 (1)中国の国産空母Type 001Aは「遼寧」よりも優れた能力を備えているが、カタパルト発艦システムを備えていない。台湾の国防部や立法院そして軍事専門家は一致して、Type 001Aの脅威に対しては、ミサイルの射程延伸と潜水艦によって十分対処できると見ている。国防部当局者は、台湾海軍は必要なら、雄風III対艦ミサイルと潜水艦隊による「重層防御」によって安全を確保できる、と語った。潜水艦については、台湾は自力生産を計画しており、1番艦を2025年以降に運用することを見込んでいる。

 (2)民主進歩党の蔡適應立法院議員によれば、「遼寧」からType 001Aをリバースエンジニアリングしたことは、中国が今や空母を国産する能力を備えていることを意味するという。蔡議員は、空母戦闘群の維持には膨大な経費がかかり、また中国の空母が米海軍の空母よりも一世代から二世代も遅れているとはいえ、中国の空母は台湾有事における米軍の来援を遅延させることができようと指摘している。一方、国民党系のシンクタンク、国家政策財団の揭仲研究員は、Type 001Aの進水が中国の造船技術の向上を示してはいるが、同艦の艦載機発艦システムは「遼寧」と同じスキージャンプシステムで、航空戦力に制約があり、空中早期警戒管制や対潜機能はヘリコプターに頼っていると指摘している。

 (3)蔡議員は、台湾のミサイル戦力の大部分が短射程と中射程の防御用ミサイルであり、今後攻勢的な兵器の取得を目指さなければならず、雄風III対艦ミサイルの製造と、射程1,000キロを超える先制攻撃が可能なミサイルの研究開発を進めるべきである、と主張している。蔡議員は、このような兵器によって、台湾は初めて中国に対する効果的抑止力を確保し、中国が武力に訴えることを阻止できる、と付言した。国立中興大学の蔡明彥教授は、中国の空母計画は未だ揺籃期にあり、空母の攻撃能力は完全に発揮し得る段階にはなく、潜水艦と対艦ミサイルに対して脆弱であり、従って、台湾は命中精度の高いミサイル開発に加えて、潜水艦とミサイル搭載艦艇の自力建造に注力すべきであると主張している。

記事参照:
Taiwan could counter Chinese carrier: analysts


170411-2.pngのサムネイル画像 トピック 『トゥキュディデスの罠』 ~ 米中はそれを回避できるか ~ 170411-3.pngのサムネイル画像

 アメリカの国際政治学の泰斗で、かつてカーター米大統領の国家安全保障担当大統領補佐官を務めた、ズビグニュー・ブレジンスキーは5月に亡くなったが、彼は20年前の1997年の著作(邦題『ブレジンスキーの世界はこう動く』)で、「中国はアジアで圧倒的な力をもつ大国になり得るし、世界の大国の地位を目指すようにもなってきたが、実際にその力の及ぶ範囲がどこまでになり、どこまでならアメリカが許容できるのか」という問題を提起した。

中国が強大化する軍事力を背景に地域的覇権、「アジアの首座」ともいうべき立場を目指していることが明らかになりつつある今日、それは、敵対的覇権国の台頭阻止というアメリカの伝統的なアジア政策の核心に対する明らかな挑戦と受け止められるのは間違いなかろう。従って、20年前にブレジンスキーが提起した「どのような中国なら受け入れられるか」という命題は、今日、アメリカにとっても、また日本、オーストラリア、インドそしてASEAN諸国などの中国周辺国家にとっても、喫緊の課題といえよう。

とはいえ、東アジアの将来秩序を展望する上で、中国の軍事的侵出が何処までなら許されるかということについて、どのような形で中国に認知させておくかは、アメリカとその同盟国にとって困難な課題であろう。同様に、アメリカとの「アジアの首座」を巡るパワーゲームを通じて、自らの力を背景とした侵出が何処まで可能かについて感知することは、中国にとっても困難な課題であろう。何故なら、台頭する新興国が既存の覇権国に挑戦する過程では、紀元前5世紀におけるアテネの台頭とそれに対するスパルタの恐怖と警戒がペロポネス戦争を不可避とした、いわゆる「トゥキュディデスの罠」の危険性が内在しているからである。

 「トゥキュディデスの罠」の危険性を長年に亘って研究してきた米ハーバード大教授のグラハム・アリソンは、以下に紹介する2017年4月に米誌に寄稿した論文で、「『トゥキュディデスの罠』とは、台頭する大国が支配する大国に対して取って替わられるという恐れを抱かせる時に起こる、深刻な構造的ストレス(the severe structural stress)である」と定義している。

アリソンは2016年9月の米誌の論文で、下表のような、「過去500年のヨーロッパとアジアにおける『首座』を巡る覇権戦争」のケース・スタディを行っている。アリソンによれば、このパターンに合致する大部分の事例は最悪の結果となった。即ち、下表に示したように、過去500年の間、主要な台頭する国家は、16件も支配する大国に取って替わる恐れがあった。(アリソンは、日本が関連する事例を3件挙げており、日清・日露戦争、日米戦争に加えて、冷戦期における日ソ関係も覇権戦争の一例として取り上げている。)そしてその内、12件の結果は戦争であった。他方、戦争に至らなかった4件の事例でも、挑戦国だけでなく、挑戦された覇権国も国際システムやルールの改変などの大きな代償を強いられた。アリソンは同じ論文で、「現世代における世界秩序を左右する問題は、アメリカと中国が『トゥキュディデスの罠』を回避できるかどうかである」「現在の趨勢から判断すれば、今後数十年間における米中間の戦争の蓋然性は、現時点で認識するよりもはるかに高い。歴史が示すところによれば、戦争になる確率が高い」と警告している。そしてアリソンは、台頭する新興国とその挑戦を受ける既存の覇権国との関係において、台頭する新興国の意図よりも能力に着目している。意図は巧妙に隠蔽・偽装されるのが常であるが、能力はある程度把握が可能であり、隠蔽・偽装された意図をよく反映するからである。

以下、アリソンが2017年4月に米誌に寄稿した論文と、RAND研究所のティモシー・ヒースとインディアナ大学のウイリアム・トンプソン教授による反論の抄訳を紹介する。(上野英詞)

412日「米中両国は『トゥキュディデスの罠』を回避できるか―G.アリソン論評」(The National Interest, April 12, 2017

 米ハーバード大教授Graham T. Allisonは、米誌、The National Interest(電子版)に、"How America and China Could Stumble to War"と題する長文の論説を掲載し、北京とワシントンは「トゥキュディデスの罠」を回避できるかについて、要旨以下のように述べている。(なお、この論説は、5月30日発刊のアリソン教授の近著、Destined for War: Can America and China Escape Thucydides's Trap? からの抜粋である)

(1)かつて毛沢東は、1950年に中華人民共和国義勇軍を朝鮮半島に派遣して、戦争開始時の南北朝鮮境界線にまで米軍を素早く押し戻した。38度線は現在も南北朝鮮の境界であり、結局戦争が終わるまでに、3万6,000人の米軍を含む、ほぼ300万人が死んだ。そして1969年には、中ソ国境紛争で、圧倒的に優越した核戦力を持つ国(ソ連)に対して先制攻撃を行った。この行動は、「積極防衛」が中国の教義であることを世界に示した。毛沢東は、誤解しようのないメッセージ―即ち、例え地図から中国を一掃し得る程の敵対勢力に対してさえも、中国は決して脅迫に屈しない―を発信した。

(2)では、今後何年か先に、米中いずれも望まない米中戦争を引き起こしかねない、南シナ海における米中の軍艦同士の衝突、台湾における独立に向けての勢いの高まり、あるいは誰も居住したくないような島嶼を巡る中国と日本との争奪戦が起こるであろうか。こうした事態を想像するのは難しいと思われるかもしれない。何故なら、どちらの側も達成したいと期待し得る如何なる成果よりも、戦いの結果は不相応なものになることが明らかだからである。主に海空戦域で戦われる非核戦争でさえ、米中双方で何千もの戦闘員が死ぬことになろう。更に、このような戦争の経済的影響も甚大となろう。2016年のRAND報告書*が明らかにしたように、アメリカのGDPが最高10%、中国のGDPが大恐慌期の平均を上回る35%程度下落することになろう。そして、もし戦争が核戦争になれば、米中双方は壊滅的被害を受けるであろう。米中の指導者は、核戦争を起こしてはならないことを承知している。

(3)しかしながら、米中戦争は、賢明ではないし、望ましくもないが、可能性がないとはいえない。指導者が回避しようと決心した時でも、戦争は起こる。アテネは、スパルタとの戦いを望まなかった。ドイツ皇帝は、英国との戦いを求めなかった。毛沢東は最初、反動を恐れて、1950年の韓国に対する金日成の攻撃に反対した。しかし、事態は、悪いか、より悪い危険かの間の選択をしばしば指導者に迫る。そして、一旦軍事機構が動き出せば、誤解、誤算そして困惑は、いずれの指導者の最初の意図をはるかに越えて対立をエスカレートさせることになる。これらの危険性をよりよく理解するために、ワシントンと北京は、シナリオ、シミュレーションそしてウォーゲームを発展させてきた。これらは、しばしば予想外の事件または事故から始まる。これらの演習参加者は、小さな火花がしばしば、そして簡単に大規模な戦争につながるかを発見して、繰り返し驚くことになる。

(4)戦争シナリオでは、アナリストは、米森林警備隊によるよく知られた基本的な概念を使う。放火犯は、ごくわずかな火事だけを引き起こす。背景状況(background conditions)は、どの火の粉が火事になるかをしばしば左右する。例えば、「あなただけが山火事を防止できる」という喫煙者に対する警告がキャンパーとハイカーに火の粉の危険を教えるが、森林警備隊は、長期に及ぶ乾燥期や暑い期間の後では、さらなる警告を掲示し、時にはリスクの大きい地域を閉鎖する。今日、米中関係に擬えれば、関連した背景状況には、地理、文化そして歴史が含まれる。ヘンリー・キッシンジャーが言うように、「歴史」は「国家の記憶である。」中国の記憶は、国家のアイデンティティの中心的部分を作っている屈辱の世紀である。また、最近の戦争は、それぞれの国に息づいている記憶の一部でもある。朝鮮戦争と中ソ国境紛争は、中国の戦略家に、より強力な敵を前に後へ引かないことを教えた。更に、米中両国の軍は、アメリカが第2次世界大戦以降、参加した5つの大きな戦争の内、4つに負けたか、あるいは少なくとも勝つことができなかったことを承知している。

(5)しかしながら、最も適切な背景状況は、「トゥキュディデスの罠」であり、中国とアメリカが完全に合致する、台頭する大国と支配する大国の症候群である。「トゥキュディデスの罠」とは、台頭する大国が支配する大国に対して取って替わられるという恐れを抱かせる時に起こる、「深刻な構造的ストレス(the severe structural stress)」である。このパターンに合致する大部分の事例は、最悪の結果となった。過去500年の間、主要な台頭する国家は、16回も支配する大国に取って代わる恐れがあった。そしてその内、12回の結果は戦争であった。(下表参照)台頭国家症候群(the rising power syndrome)は、認知と尊厳を勝ち取りたいとする自意識を高める。他方、支配国症候群(the ruling power syndrome)は基本的にそのミラーイメージ、即ち、既存の大国は「衰退("decline")」の兆しに直面して、恐怖と不安感を強めるのである。そして外交の場でも、国際会議の場でも、両者の関係を反映した場面が展開されるようになる。高まる自惚れの感覚は、認知と尊厳への期待となり、影響力の増大要求につながる。これに対して、既存の大国は当然ながら、台頭する国の主張を、失礼で、恩知らずで、そして挑発的あるいは危険とすら見なすことになる。誇張された自意識は、傲慢、不合理な恐怖、パラノイアを引き起こす。

(6)マッチをガソリンに近づけるように、触媒は、偶発的な衝突または第三者の挑発を戦争に変え得る。クラウゼヴィッツが言う「戦場の霧(the "fog of war")」というものによって、触媒の一群は把握できる。トゥキュディデスが「可能性の問題("an affair of chances")」として戦争を洞察していることを敷衍して、クラウゼヴィッツは、「戦争は、不確実性の領域である。戦争における行動が基づく要因の4分の3は、大小の不確実性の霧に包み込まれている」と指摘した。この重大な不確実性は、指揮官または政策担当者に、一連の事態がより慎重な対応を求めている時に、攻撃的な行動に走らせることになり、そして逆もまた同じである。「衝撃と畏怖("shock and awe")」を引き起こす破壊的な武器の出現は、更に霧と不確実性を悪化させる。指揮統制システムへの攻撃によって、敵は、国家指揮司令系統を麻痺させることができる。「砂漠の嵐」作戦では、米軍は、このオプションのバージョン1.0を誇示した。米軍は、サダム・フセインの情報網を破壊し、前線の彼の指揮官との通信リンクを切った。その結果、米軍パイロットによれば、孤立した彼の部隊は「樽詰めの魚」を撃つように破壊された。

(7)衛星攻撃兵器は、軍のプランナーがどのような米中紛争でも大きい役割を演ずると期待している触媒の1つである。今日では、こうした兵器は、衛星を機能できないようにするために、目標衛星を物理的に破壊するための運動エネルギーから、衛星を妨害したり、「目くらまし("dazzle")」したりするために、レーザーを使うより静かなシステムに至るまで、現実化されている。中国は、2007年に気象衛星の破壊実験に成功し、その後、あまり目立たない形で対衛星能力を定期的に実験している。弾道ミサイル発射の早期警戒から、作戦行動のための画像と天気予報に至るまで、衛星は、ほとんどあらゆる米軍行動に不可欠のリンクを形成している。GPS衛星は、米軍のほとんど全ての精密誘導兵器を「精密」にするもので、そしてGPSによって艦艇、飛行機そして地上部隊が自らの位置を知ることができる。アメリカはどの競争相手よりも、このテクノロジーに依存しており、従って、中国軍のプランナーにとって完全な目標となっている。しかしながら、サイバー空間は、決定的な優位を提供し得る破壊的な技術革新のためのより多くの機会を提供しているが、他方で管理不能なエスカレーションの危険をももたらしかねない。対衛星攻撃手段のように、サイバー兵器は、現代の軍隊が依存する指揮命令系統と目標情報を遮断することによって、流血なしで戦いにおける決定的な優位を生み出す。これは危険なパラドックスでもある。即ち、攻撃者が紛争を抑止すると信じる行動そのものが、犠牲者にとっては向こうみずで挑発的に見える。同様に、通信を遮断するサイバー攻撃は、誤算の可能性を増やす混乱を生み、「戦場の霧」を濃くするであろう。アメリカと中国は、相手の第1撃から生き残り得る、第2撃報復核攻撃能力を保持しているが、米中いずれも、自国のサイバー兵器が相手の重大なサイバー攻撃に耐え得るとは確信できない。例えば、米軍のネットワークに対する大規模な中国のサイバー攻撃は、ワシントンの対応能力を、あるいは重要な指揮統制監視システムの一部を操作することさえ、一時的に麻痺させることができよう。これは、双方がその能力が無力化される前に他のコンピュータ・ネットワークにおける主たる結節点を攻撃する誘因を持つ、即ち、やるかやられるかの危険な力学を生む。

(8)アリソンは、「これらの背景状況を考慮すれば、潜在的な火の粉は、驚くほど速くエスカレートし得る。以下の3つのシナリオは、米中両国が、どちらも避けたいと望む戦争に、如何に簡単に引き摺り込まれるかを示している」として、3つのシナリオ―①南シナ海における米中の軍艦同士の衝突、②台湾における独立に向けての勢いの高まり、③尖閣諸島を巡る中国と日本との争奪戦―に言及している。(3つのシナリオの詳細は省略)

(9)米中戦争は不可避ではないが、可能性としては考えられる。実際、3つの戦争シナリオが示すように、中国の台頭によって生じた「構造的ストレス」が、偶発的な、あるいは些細な一連の出来事を、大規模な紛争にエスカレートさせることになりかねない状況を生み出している。この500年間の「トゥキュディデスの罠」の事例は下表の通りだが、16の事例の内、4回は戦争を回避できた。しかしながら、戦争を回避することは、一世紀前のアメリカの台頭に対処した英国人や、あるいは戦火を交えることなくソ連の攻勢に対処する冷戦期の戦略を考案した賢人達に匹敵する、巧みな政治的手腕を必要とする。米中両国の指導者達が、この難題に立ち向かって成功することができるかどうかは、未だ不確実である。確実に言えることは、世界の命運はこれら指導者の返事に如何にかかっているということである。

記事参照:
How America and China Could Stumble to War
備考*:
RAND Report: War with China; Thinking Through The Unthinkable

過去500年のヨーロッパとアジアにおける「首座」を巡る覇権戦争のケース・スタディ

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Source: Graham T. Allison Jr., "The Thucydides Trap: Are the U.S. and China Headed for War?," The Atlantic.com, September 24, 2016

【関連記事】

「米中緊張は戦争には至らない、アリソン論文への反論―RAND専門家」(The National Interest, April 30, 2017

 RAND研究所の上席アナリストTimothy Heathとインディアナ大学教授William R. Thompsonは、アリソン論文に対して、米誌、The National Interest(電子版)に、4月30日付で、"U.S.-China Tensions Are Unlikely to Lead to War"と題する反論を寄稿し、米中間の緊張は戦争には至らないとして、要旨以下のように反論している。

(1)アリソンは、誤認と官僚的な機能不全が、米中が関わる軍事的危機を、如何に加速的に双方とも望まない戦争に至らしめるかについて、論じている。しかしながら、何よりも戦争の蓋然性を高める主要な政治的、地理戦略的要件を無視しているが故に、この論議は説得力に欠けている。こうした要件を考慮しなければ、危機が偶発的に戦争にエスカレートする危険は、はるかに低くなる。米中関係は今日、緊張激化の方向に進んでいるかもしれないが、相対的な安定性と、全体的に双方の敵意が低いレベルにあることから、戦争に至る偶発的なエスカレーションの可能性は極めて低いと見られる。

(2)アリソンは、南シナ海、台湾そして東シナ海シナリオで、米中両国とその同盟国が関わるフラッシュポイントが、如何に望まない戦争にスパイラルしていくかを示している。アリソンの論議は、台頭する国と現状維持国との間の戦略的な抗争という文脈で見れば、組織的、官僚的な誤判断が予想外のエスカレーションの可能性を高めるとしている。アリソンによると、「中国の台頭によって生じた構造的ストレスが、偶発的な、あるいは些細な一連の出来事を、大規模な紛争にエスカレートさせることになりかねない状況を生み出している。」この議論は、一見説得力があるが、何よりも戦争の蓋然性を高める政治的、地理戦略的要件を明示していないことから、結局、説得力に欠ける。アリソンの分析では、アメリカと中国は1960年代初期のソ連とアメリカの関係に類似した状況にあることを意味する。しかしながら、冷戦期には、米ソ両国は、戦時態勢に近い対峙関係にあり、他に対する優越を目指して、激しい地理戦略的、イデオロギー的抗争を繰り広げた。米ソ両国は、一連の軍事的危機を経験し、代理戦争を通じて相互に繰り返し戦った。誤判断が危機を極めて危険なものにするのは、こうした文脈においてである。

(3)対照的に、今日の米中関係は、相互の敵意や脅威感は非常に小さい。米中両国は緊張の高まりを感じているかもしれないが、両国関係は依然として、1960年代初期の米ソ関係を特徴付けた、厳しい抗争関係からはほど遠い状況にある。今日、ワシントンも北京も、互いに主敵とは見なしていない。トランプ大統領と習近平主席との最近の首脳会談に見られるように、双方とも、互いに抗争相手と見なしているかもしれないが、例えば北朝鮮などに対する懸念を共有し、また重要な貿易相手国とも見なしている。米中間の軍事的抗争は強まるかもしれないが、冷戦期の米ソ間の絶え間ない対峙状況よりも、厳しさのレベルがはるかに低い。しかも、冷戦期の米ソ軍事対峙と異なり、米中両国軍は、相互に大規模戦争を戦う態勢で対峙してはいない。

(4)米中双方とも大規模戦争対峙態勢にないことから、両国の指導者と官僚機構は、予期せぬエスカレーションをもたらす危機的状況において、判断を誤る可能性は少ない。むしろ、2001年の海南島沖上空における米海軍EP-3哨戒機衝突事故、また2009年の米海軍調査船、USNS Impeccableに対する妨害事案などに見られるように、今日、両国の政治指導者と官僚機構は、不必要なエスカレーションを回避できるような方法を見出さなければならない、強い誘因に直面している。実際、危険な軍事的危機が生起する可能性は、高まっているかもしれない。更に、主たる政治的、地理戦略的な動向は、危機において指導者にエスカレーションの可能性を高める選択肢を取らせるかもしれず、従ってこのことはアリソンのシナリオの蓋然性を高めることになるかもしれない。

(5)米中関係を敵対関係に追いやる最も重要なドライバーは、国際システムにおける経済的、技術的、そして地理戦略的なリーダーとして、米中間の力が拮抗しつつあることであろう。米中両国間はその経済規模において肩を並べつつあるが、アメリカは依然として、国力のあらゆる次元で実質的な優位を維持している。現在の米中抗争は、アジア太平洋地域に限定した地域的なものであるが、グローバルな抗争にエスカレートする大きな可能性を内包している。第2の重要なドライバーは、相互に他を主たる脅威と見なす世論の高まりであろう。そしてそれに伴って、双方の指導者が、公に主たる敵対的脅威と見なすことであろう。こうした動向は、双方の解決し難い紛争を燃料に、深刻な軍事的危機に加速されやすい。こうした危機が重なれば、米中関係は、如何なるフラッシュポイントも急速に戦争にエスカレートしかねない、1960年代初期の米ソ関係に似た関係となろう。しかしながら、例え米中関係がより敵対的な方向に向かったとしても、現在の両国関係におけるユニークな特徴から、過去の教訓を適用するには、無理があるかもしれない。21世紀の経済的相互依存は、過去のそれとは非常に異なっている。更に、両国の核戦力も16世紀の銃剣とは異なって、全面的な核交換は地球の破滅を意味する。こうした特徴は、双方の指導者の意志決定に大きな影響を及ぼす。

(6)概して、「トゥキュディデスの罠」についてのアリソンの分析は、戦争の危険性を誇張していると批判されるかもしれない。「台頭する国」と「支配する国」との間で戦争の可能性が高いと主張するに当たって、アリソンは、その用語を明確にせず、より危険な抗争関係と、あまり暴力的でない抗争関係とを区別していない。例えば、陸上における覇権を目指す抗争は歴史的に最も紛争になり易いことが証明されてきたが、他方、対照的に海上における優位を目指す抗争はそれほどでもなかった。抗争関係は、時間とともに盛衰し、戦争の危機レベルも変化する。注意深く観察すれば、ほとんどの戦争は抗争関係から発展するが、戦争に至らない多くの抗争関係もあることが分かる。

(7)誤認と戦略的な事故は、依然として国際政治の特徴である。そして、そうした間違いは、相対的な力関係の変動期において、致命的なものになり易い。台頭する国は、これまで優位にあった国との間で、現状変更について調整するという問題に直面する。例えそうであっても、中国とアメリカとの間の戦争の可能性は、アリソンのケース・スタディ(表参照)に示される、75%(16例中の12例)よりはるかに低いことはほぼ間違いない。米中両国の指導者が敵対的な抗争に向かう趨勢を弱める方策を見出し、双方の相違を管理するために十分な協力関係を維持し続けることができるならば、戦争の危険性が更に低くいなることが十分期待できる。

記事参照:
U.S.-China Tensions Are Unlikely to Lead to War


【補遺】 旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. Hotspots along China's Maritime Periphery
Testimony before the U.S.-China Economic and Security Review Commission
April 13, 2017

2. America and China's strategic relationship
The Economist.com, April 22, 2017

3. Testimony before the Senate Committee on Armed Services
Hearing on U.S. Policy and Strategy in the Asia Pacific Region
April 25, 2017

4. Playing Chicken in the East China Sea
Asia Maritime Transprancy Initiative, CSIS, April 28, 2017

5-1. Hainan's Maritime Militia: China Builds a Standing Vanguard, Pt. 1
Center for International Maritime Security, March 25, 2017
Conor Kennedy is a research associate in the China Maritime Studies Institute at the U.S. Naval War College in Newport, Rhode Island.
Dr. Andrew S. Erickson is a Professor of Strategy in, and a core founding member of, the U.S. Naval War College's China Maritime Studies Institute.

5-2. Hainan's Maritime Militia: Development Challenges and Opportunities, Pt. 2
Center for International Maritime Security, April 10, 2017
By Conor M. Kennedy and Andrew S. Erickson

5-3. Hainan's Maritime Militia: Development Challenges and Opportunities, Pt. 3
Center for International Maritime Security, April 26, 2017
By Conor M. Kennedy and Andrew S. Erickson


編集・抄訳:上野英詞
抄訳:秋元一峰・倉持一・高翔・山内敏秀・関根大助・熊谷直樹
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