海洋安全保障情報旬報 2017年3月11日-3月20日・3月21日-3月31日合併号

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312日「スリランカ・ハンバントータ港、中国の軍事活動禁止を明記中国との協定草案」(The Sunday Times, March 12, 2017

 スリランカ紙、The Sunday Times(電子版)は3月12日付で、同紙が入手したスリランカ港湾庁(The Sri Lanka Ports Authority: SLPA)と中国のコンテナターミナル・オペレーター、招商局港口(CM Port)との間で調印される予定のハンバントータ港の民営化に関する協定草案について、この協定は同港における海軍戦闘艦艇や潜水艦の停泊/錨泊地、軍装備品の備蓄、通信施設の設置などを含む、あらゆる種類の軍事活動を明確に禁止するとともに、国家安全保障の観点から同港の資産を監視する委員会設置を規定している、と報じた。75頁に及ぶ草案に依れば、同港資産は厳格に商業目的のみに供され、CM Portは、一定の条件下で、スリランカ政府の管轄下で港湾運営に従事することになっている。草案によれば、監視委員会は、スリランカ海軍、スリランカ警察、SLPA及び戦略開発国際貿易省の代表から構成される。

記事参照:
Hambantota Port deal prohibits military activity

313日「ソマリア沖でタンカー、ハイジャック」(BBC.com, March 14, 2017

 ソマリア沿岸沖で、2012年以来5年振りに、タンカーがハイジャックされた。ハイジャックされたのは、コモロ籍船でアラブ首長国連邦の船社所有のタンカー、MV Aris 13で、乗組員はスリランカ人8人である。該船は、ジブチからソマリアの首都、モガディシュまで原油を積載して航行中、13日にソマリアのプントランド自治州沖で武装した2隻の高速ボートに接近されてハイジャックされ、その後、同自治州のカルーラ港で拘留された。同自治州の海賊対処機関議長は、「ハイジャッカーは、海賊ではなく、不法操業に苦しめられている漁民だと主張しており、現在確認中で、船舶と乗組員の即時釈放を求めている。近年、海賊事案が激減したことは事実だが、ソマリア沖における不法操業が引き起こしている問題については無視できない。漁民は、長年に亘って不法操業に不満を抱いてきた」と語った。

記事参照:
Somali pirates suspected of first ship hijacking since 2012

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「タンカー、解放」(Fox News.com, AP.com, March 16, 2017

 ソマリア沖でハイジャックされた、コモロ籍船タンカー、MV Aris 13は3月16日、4日ぶりに解放された。プントランド自治州の治安当局によれば、同自治州の海上部隊が該船を銃撃して制圧し、解放した。乗組員も無事であった。該船をハイジャックした海賊は、当局に対して、地元漁民の生活を脅かす不法操業に対する抗議が該船を拘束した唯一の理由であり、身代金要求が動機ではないと主張しているという。

記事参照:
Somali pirates who seized oil tanker release it without conditions

315日「中国、西沙諸島で新たな埋め立て活動開始」(Reuters.com, March 15, 2017

 ロイター通信が3月15日付で報じるところによれば、3月6日の衛星画像は、中国が西沙諸島の宣徳群島のノース島(北島)で埋め立てによる土地造成と港湾建設の準備をしていることを示している。また、1月に撮られた衛星画像は、付近のツリー島(趙述島)でも埋め立て作業をしていることを示している。オーストラリアの南シナ海問題専門家、Carl Thayerは、「南シナ海を支配しようとする中国の取り組みにおいて、西沙諸島は極めて重要な存在になりつつある。将来的には西沙諸島の軍事化が予想される」と指摘している。西沙諸島は中国の南シナ海におけるプレゼンスにとって重要である。中国は近年、西沙諸島のウッディー島(永興島)に地対空ミサイルや戦闘機を配備しており、ノース島はウッディー島に対する防壁となる環礁群の一部を構成する。そして、ウッディー島を中核とする西沙諸島は、中国の核戦力基地である海南島の防衛にとって重要である。中国は、1974年に当時の南ベトナム海軍を撃退して以来、西沙諸島を全面的に占拠し、中国の固有の領土と主張している。

記事参照:
China begins new work on disputed South China Sea island

317日「米中両国は衝突コースに入っている米専門家とのQ&A」(The Diplomat.com, March 17, 2017

 米ノートルダム大学政治学部准教授Sebastian Rosatoは、米中両国の安全保障抗争は不可避であり、両国は衝突コースに入っている、との論を展開していることで知られている。Web誌、The Diplomatは3月17日付で、"Sebastian Rosato on the US-China 'Collision Course'"と題するRosato准教授とのQ&Aを掲載した。

(1)アメリカと中国は衝突コース(collision course)に入っていると教授は主張しているが、何故、そう確信しているのか。

Rosato:私は、中国が現在の水準で軍事と経済を強化し続け、最終的にアメリカの真の競争相手(a genuine peer competitor)となれば、どのようなことが起こるのかについて興味がある。米中両国が互いに相手側に対して壊滅的な打撃を与え得る軍事力を持つようになれば、両国が安全保障抗争(security competition)を繰り広げるかどうかは、相手の意図をどう判断するかによって大きく左右されよう。もし双方とも相手が自国に害を及ぼそうとしていない、つまり悪意のないことを相互に確信できれば、両国は協調する可能性が高い。しかし、相手に悪意がないかどうかが不明な場合、両国は、激しい安全保障抗争を繰り広げる可能性が高い。安全保障抗争が不可避である理由―私(Rosato)の言い方では、米中両国が衝突コースにあるとする理由は、大国は常に相手の意図が不明確であると相互に非難し合うからである。これには幾つかの理由がある。

 a.第1に、国家の意図は、一握りの重要な意思決定者の頭の中にあり、これを推し量ることは事実上不可能である。しかも国家の意図は最上級の国家安全保障問題であることから、これらの少数の人々は自らの意図を隠蔽するために最善を尽くす。

 b.第2に、国家は、他の国家が安全であることを望んでいるということを確かに知っている。しかし、問題は、安全保障は2つの全く異なる方法で実現できるということである。安全保障を追求する国家は、(無害な意図を持っている可能性がある)他の国家と協力することを決心する場合もあれば、反対に、(有害な意図を持っている可能性がある)他の国家を打ち負かそうと決心する場合もある。言い換えれば、他の国家が安全保障を追求しようとしていることを知っても、その意図についてはほとんど何も分からないということである。当該国家の行動も、その意図をあいまいに窺わせるだけである。もしある国家が武装すれば、これは敵意があり、攻撃を計画しているためか、あるいは、それは無難なもので、自衛を可能にすることを望んでいるだけなのか。これはまさに、第1次世界大戦前の数年間、ヨーロッパの大国が直面した相手の意図を巡る解釈の問題であった。

 c.第3に、大国は、自らの意図について、他国を欺く強力な動機を持っており、そして相手もそれを持っていることを知っているということである。攻撃的な意図をもっている大国について考えてみよう。当該大国は、狙いとする相手を油断させるために、攻撃計画を隠蔽しようとするか、あるいは害を与える意図を持っていないように見せかけようとするであろう。全ての大国がこのことを承知しているが故に、大国は、相手の平和的宣言や協調的行動に疑念を抱くのである。

 d.最後に、国家は、意図とは変わる可能性があることを知っている。例えある国家が今のところ無難な意図を持っているとしても、その指導者は心変わりするかもしれないし、あるいは違った意図を持った新しい指導者が権力を握る可能性もある。米中両国も、この例外ではない。

(2)教授は紛争の不可避性に言及する時、「紛争("conflict")」という用語には軍事紛争も含まれるのか。

Rosato:私の議論は、もし中国がアメリカの真の競争相手になれば、その場合には、安全保障抗争が不可避であるということだ。そして、安全保障抗争は軍事紛争の形をとることもあり得る。国家がパワーを巡って争う場合、双方は時には軍事的危機や戦争にすら、つまり軍事紛争に引き込まれることもある。しかし、抗争は、軍事紛争よりも広いカテゴリーを意味し、軍事費の増強、軍隊の強化、軍拡競争、そして同盟国獲得を巡る争いといった、他の行動も関係する。要するに、抗争は不可避であり、そうした抗争の1つとして、軍事紛争の可能性もあるのである。

(3)中国の習近平国家主席は、数年前に、台頭する大国と既存の大国との間の紛争を回避する狙いから、新しい形の大国関係というアイディアを提唱した。このアイディアについて、教授はどう考えるか。

Rosato:このアイディアは、紛争や対立のない、相互の核心的利益を尊重する、互恵的な協力関係を強調したものだが、中国の意図についてアメリカを安心させるものではない。確かに、この声明は、中国がアメリカに対して害のない意図を持ち、協力関係のみを望んでいる証拠として解釈することもできよう。しかし、この声明はまた、中国が妨害されることなく、アメリカとその同盟国に対して対等の力を持つ大国の地位へと台頭できるような国際環境を作為しようとする中国の試みと解釈することも可能である。要するに、中国の意図は曖昧だということである。

(4)米中両国政府による今後の米中関係の管理について、どのように考えているか。

Rosato:私は、アメリカと中国が厳しい安全保障抗争を回避できるという意味では、両国がその関係を管理できるとは考えていない。重要な問題は、現在両国とも相手に対して害のない意図を持っており、そして将来とも害のない意図を持ち続けるということを、両国とも相互に確信させることができないということである。こうした状況は悲劇的である。実際には、アメリカも中国も共に害のない意図を持っているとみられるが、両国はこの事実を相互に確信させることができず、将来的にもそうであろう。全ての大国と同様に、米中両国の声明と行動も相互の意図について曖昧な情報を提供するだけで、両国とも、相手が自らの真の意図を隠す、あるいは欺瞞する動機を持っていることを知っており、従って、相手の意図が変わる可能性があると考えるべき多くの理由があることを承知している。

(5)一部の専門家は、ヨーロッパにおけるアメリカのプレゼンスは域内諸国が相互に安全保障抗争に陥ることを阻止する上で役立つと考えている。同様の議論はアジアにも当てはまる。アジアにおけるアメリカのプレゼンスは中国、日本そしてロシアの抗争を阻止している。このことは、1極構造の方が2極構造よりも安定していることを意味するのか。

Rosato:この質問は、安全保障抗争がないことと安定とを同一視しているように思える。もしそうならば、1極構造が安定の根源であったということについては疑いない。確かに、冷戦終結以来、ヨーロッパとアジアにおけるアメリカのプレゼンスは、これらの地域における安全保障抗争を抑えることに役立ってきた。しかし、このことは、1極構造においても依然として多くの安全保障抗争が存在するということを示している。アメリカは現在、ロシアと中国との安全保障抗争に巻き込まれており、また、インドとパキスタンも相互に安全保障抗争に陥っている。中東の幾つかの国々もそうである。

記事参照:
Sebastian Rosato on the US-China 'Collision Course'

318日「中国海南島潜水艦基地、米軍は攻撃できるか米専門家論評」(The Diplomat.com, March 18, 2017

 米シンクタンクStrategic Sentinel研究員Damen Cookは、Web誌、The Diplomatに3月18日付で、"A Closer Look at China's Critical South China Sea Submarine Base"と題する長文の論説を寄稿し、Strategic Sentinelが注視してきた、中国海南島の潜水艦基地、楡林東について、要旨以下のように述べている。

(1)中国海南島の潜水艦基地、楡林東は、兵站支援インフラに取り囲まれている。基地の地理的な配置に加えて、多くの道路、パイプライン、通信塔そしてトンネルは、この基地の目的と重要性を象徴している。潜水艦桟橋の数と規模、武器弾薬の巨大な輸送網、そして花崗岩の山の下に防護された大規模な地下施設から見て、中国は、楡林東にできるだけ多くの弾道ミサイル搭載原潜(SSBN)(そして/あるいは攻撃型原潜(SSN)も)の収容を計画していることを示している。「晋」級SSBNの後継艦、「唐」級SSBNも楡林を基地とする必要があろう。「唐」級SSBNは24基のJL-2弾道ミサイルを搭載するといわれるが、これが過大評価であるにしても、「唐」級SSBNは「晋」級よりも大型化し、より広い地下係留施設が必要となろう。中国は、楡林を主要な指揮統制中枢にするために、必要な部隊組成を集約し、有事に備えて十分な防護措置を施している。楡林と楡林東の両基地は、2個空母打撃群に加えて、多くの原子力潜水艦を収容することができる。

(2)軍事基地に対する攻撃の選択肢を検討するに当たっては、基地周辺の拠点防御システム以外のものについても考慮しなければならない。海南島のような戦略的に重要な中国領土の中心にある楡林のような目標に対しては、拠点防御システムは脅威計算のほんの一部に過ぎず、より広範で大規模な紛争の文脈の中で考えなければならない。もしアメリカが、あるいは中国が相手に対して懲罰的一撃を加えようとする場合、ハワイや海南島のような目標を選択しないであろう。海南島のように人口が多く、十分に防御された、中国の主権下の領土に対する攻撃は、大国間の大規模な戦争の場合のみにおける作戦行動であろう。楡林東基地に対する攻撃(それは米中戦争を意味するが)は、実施可能ではあるが、困難である。米軍は、海南島に至るまでに、南シナ海に展開する中国軍の統合防空システム網を突破しなければならない。南シナ海の人工島には間もなくS-400対空ミサイルが配備されると見られる。海南島はJ-11戦闘機を含む中国海空軍の航空機の根拠地で、これら航空機は攻撃意図を持って近接してくる米軍機を捕捉次第、直ちに迎撃に向かうであろう。しかしアメリカが敵のレーダーに捕捉されるずっと前に敵航空機を攻撃するよう設計されているF-22ステルス戦闘機を海南島攻撃の任務に振り向ければ、J-11戦闘機は何によって攻撃されたのか知る由もないであろう。とはいえ、海南島周辺の電子戦環境は益々濃密になってきており、F-22ステルス機の航空電子機器は、この戦域で悪戦苦闘することになるかもしれない。アメリカは超高性能のEA-18電子戦機を支援のため投入できるかもしれないが、そうすれば、作戦上の隠密性は大きく損なわれるであろう。米軍機が一度、中国の統合防空システム網を突破し、敵の迎撃機を排除し、骨の折れる電子戦環境下を飛行する方法を見つけてしまえば、楡林東の拠点防御システムも同様に突破できよう。アメリカは、海南島のような侮り難い目標を攻撃する場合、最強力な戦力、F-22ステルス戦闘機やB-2戦略爆撃、そして恐らくF-35ステルス戦闘機を投入するであろう。

(4)楡林東の山に潜水艦の出入り口となるトンネルを穿つという中国の決定は、そこに収容されている潜水艦を脆弱な状態に置くことになろう。B-2爆撃機が中国の濃密な防空網を突破し、2発の大型貫通爆弾(Massive Ordnance Penetrator: MOP)を投下し、それらが計画どおりの性能を発揮すれば、楡林東の潜水艦の聖域は鳥かごになってしまうであろう。複数のトンネルはこの脆弱性を軽減するであろうが、基地周辺の湾は水中の出入り口を建設するには浅過ぎるようであり、また海南島の南シナ海に面する側にトンネルを穿つことは現在のトンネルよりも困難であり、経費がかかるであろう。明らかに戦略上の欠陥と見えるものは、むしろ計算されたリスクと見られ、中国の第二撃力を担保する「晋」級SSBNはトンネル内にできるだけ短い時間しかいないであろう。そして有事には、当然ながら中国は、原子力潜水艦を、楡林基地のような明らかに目標となるところからはできるだけ遠く離れた海域に広く散開させるのはきわめて当然であろう。

(5)では、米軍のMOPは楡林東のトンネル出入り口を破壊できるかどうか。5,300ポンドの炸薬を装填した3万ポンドのMOPの性能要目については、米空軍も製造元のボーイング社も、地表からどの程度の深さまで貫通するのか、どの程度の補強されたコンクリートを貫通できるのか、あるいは花崗岩をどの程度貫通できるのかなどについて、その正確な諸元を公式には発表していない。例えば、アメリカが想定する先制攻撃の主たる潜在的目標の1つである、イランのFordowは高密度の花崗岩によって核施設が防護されている。米空軍は、イランの核開発計画による緊張激化に備えて、2013年にMOPの性能強化に新たに経費を投入した。Fordowは80メートルの花崗岩層で護られているが、楡林はその半分以下の花崗岩層で護られている。トンネルから30メートル入ったところで、山の標高は丁度35メートルである。Fordow攻撃用に設計されたMOPは、楡林のトンネルを攻撃する十分な能力を持つであろう。更に、国防省は2015年にMOPの一層の性能強化に着手している。従って、国防省は、必要ならこの基地を最終的には無力化することができるであろう。

(6)Strategic Sentinelは、新たな潜水艦が配備されてくるので、今後も楡林東を注視し続けていく。原子力潜水艦は完成すれば、造船所を離れるので、分析者は、地下施設が何隻の潜水艦を収容できるのかについての判断材料を得やすい。衛星画像やその他の公開情報を精査することで、この基地にどのような拠点防衛システムが配備されているのか、どのような艦級の水上艦艇が北側の桟橋に係留されているのか、そしてどのような工事が行われ、どの程度進行しているのかについて、判断できる。楡林東は将来的に、アジア太平洋地域で最も戦略的に重要な軍事基地の1つとなるであろう。Strategic Sentinelが楡林東を監視し続ける所以である。

記事参照:
A Closer Look at China's Critical South China Sea Submarine Base

320日「トランプが目指す19世紀型世界と同盟国の対応米専門家論評」(Lowy Institute, March 20, 2017

 米Brookings研究員Thomas Wrightは、豪Lowy InstituteのWebサイトに3月20日付で、"Trump takes allies back to 19th century global order"と題する論説を寄稿し、トランプ米大統領の「アメリカ・ファースト」の外交政策は同盟国にとって多くの課題を突き付けているとして、要旨以下のように述べている。

(1)アメリカは戦後70年以上、同盟体制、開放されたグローバル経済、ルールや制度の重視、そして民主主義や人権の普及を主軸とした、リベラル国際秩序を牽引してきた。アメリカの同盟国や友好国は、アメリカによるリベラル秩序の維持とリーダーとしての役割こそが自身の安全保障と繁栄を支えるものであるとの認識から、アメリカとの関係を維持してきた。しかし、現在アメリカは、トランプ大統領のレトリックを額面通り受け取るなら、これまでとは対照的に、より内向的で狭義の利益にのみ重点を置く、「普通の」大国になろうとしている。トランプ大統領は、リベラル秩序に強く反対する戦後初めての米大統領として、「アメリカ・ファースト」政策を掲げる。

(2)トランプの世界観は、アメリカは他国、特に友好国と同盟国によって利用され、衰退しているというものである。トランプは、1980年代半ば以降、以下の3つの信念を繰り返し語ってきた。即ち、第1に、アメリカの同盟国に対する疑心が強く、直接的な見返りがなければ、アメリカは他国を一方的に支援すべきでないこと。第2に、戦後アメリカが調印してきた如何なる自由貿易協定にも反対し、より重商主義的なアプローチを支持してきたこと。そして第3に、ロシアのプーチンのような権威主義的指導者を好んでいること。しかし、トランプ大統領の船出は順調ではなかった。こうした信念は抽象的で、具体性を欠き、しかも時に相互に矛盾をきたす。アメリカの外交政策エリートや多くの共和党議員は一致して反対している。「アメリカ・ファースト」政策は、トランプ政権内のほんの一部に支持されているに過ぎない。国務省、国防省そして財務省の各長官やマクマスター大統領補佐官などは主流派で、アメリカの同盟体制とグローバル経済を支持している。しかしながら、トランプ政権の重大なリスクは、政権の核心が最高司令官である大統領にある以上、危機に直面した場合、トランプの「アメリカ・ファースト」支持派が大きな影響力を持つ可能性があるということである。

(3)このようなトランプ政権中枢部における外交政策の方向性を巡る意見の対立を見て、当然ながら同盟国も困惑の色を隠せない。特にアジアの同盟国は、これまで同様にアメリカと密接に連携した政策を展開すべきか、あるいは距離をとる方向に政策を転換し、中国との協調路線を模索すべきか、という選択の間で揺れ動いている状態にある。しかし、その際、同盟国が留意すべきことは、外交政策における選択は、価値観や国益、そして住みたいと望む世界のあるべき姿を巡る選択であるということである。2017年の時点では、選択し得る2つの世界が存在する。

 a.1つは、ソ連の崩壊後に構築されてきた、リベラルな国際秩序を中心とした世界である。

 b.もう1つは、19世紀型の多極化した世界秩序、即ち、東アジアでは中国が、東欧ではロシアが、そしてアメリカ大陸ではアメリカが、それぞれの地域において卓越した存在として自らの影響圏を構築する世界である。この多極化世界では、それぞれの地域の大国は、直接的な脅威に晒されるか、あるいは対外介入によって利益が得られる場合を除いて、自らの影響圏に閉じ籠もる。全ての国家は、ルールを無視してそれぞれ自国の狭い国益を追求する。19世紀型の世界は、重商主義、帝国、支配そして紛争の世界であった。

(4)トランプ大統領の政策志向に鑑みれば、トランプは19世紀型世界の推進役となるであろう。しかし、トランプは国内で強固な反対に直面している。議会では、大統領の言動に対する超党派の強固な批判があり、政権内の主流派を支えようとする協調的な努力が見られる。他方、同盟国側にもジレンマがある。トランプ大統領の政策に反対し、アメリカと距離を置くことは、即ちトランプ大統領が目指す19世紀型世界秩序の推進を後押しすることになるからである。従って、より現実的な政策路線は、トランプ政権内の主流派と呼ばれる人々と協調しつつ、オーストラリア、日本あるいはインドなど、域内の民主主義諸国間で共同歩調をとりながら時間を稼ぎ、その間、トランプ政権の動向を注視することであろう。

記事参照:
Trump takes allies back to 19th century global order

322日「米・スリランカ海軍協力」PacNet, Pacific Forum, CSIS, March 22, 2017

 在ハワイPacific Forum研究員Lt. Sean Quirk 米海軍大尉は、Pacific Forumの3月22日付 のPacNetに"On the Maritime Superhighway: US-Sri Lanka Naval Cooperation"と題する論説を寄稿し、米海軍とスリランカ海軍との協力について、要旨以下のように述べている。

(1)米海軍高速輸送艦Fall River(USNS T-EPF-4)は2017年3月7日、米海軍が主催するインド・太平洋地域最大の年次人道支援・災害救助演習、Pacific Partnership 2017に参加するためスリランカのハンバントータ港に入港した。スリランカは、アジアと中東を結ぶインド洋の海洋スーパーハイウエー上に位置し、自由交易の利益を享受し得る地政学的位置にある。25年に及ぶ内戦終了後、スリランカは、米海軍との協力関係を発展させてきており、2016年2月から2017年2月までの1年間に7回の米海軍艦艇の寄港を受け入れている。米海軍は、2017年度の2国間海上即応合同訓練(The bilateral Coordinated Afloat Readiness and Training: CARAT)で同国海軍との訓練を予定している。米沿岸警備隊も、創設間もない沿岸警備隊との間で、海洋ガバナンスの実践について協議を始めている。

(2)インド洋の中央に位置するスリランカは、商船や海軍艦艇にとって燃料補給する上で都合の良い位置にある。周辺海域の安定を維持することは、インド洋の物流に依存する全ての国にとって、またスリランカの安全保障を強化する上でも重要である。2国間あるいは多国間の情報共有センターを設置するための関係各国の協調は、インド洋における海洋醸成識別能力(MDA)を強化することになろう。こうした情報ネットワークの構築は、スリランカと関係諸国にとって、南アジアにおける海賊、違法難民そしてテロ活動を監視する上で役立つであろう。アメリカもまた、スリランカから非対称的な海上戦闘や対テロ訓練について学ぶことができる。スリランカ海軍は、自爆ボートや高速艇、更には手製の潜水艇などを使っていた、反政府勢力との30年に及ぶ戦闘を経験して、強い戦闘能力を培ってきた。スリランカは内戦を通じて得た非対称戦闘を学ぶコースを開設しており、現在のところ少なくとも1人の米海軍将校がこのコースに学んでいる。

(3)スリランカの国際的役割の重要性を認識しているのはアメリカだけではない。中国は、スリランカがインド洋における戦略上重要な地理的位置にあることを知っている。 中国によるハンバントータ港の施設整備や海軍戦闘艦のコロンボ港への寄港は承知の事実である。しかしながら、スリランカは外国による過度の影響力を排除しており、中国は、ハンバントータ港における排他的な権利を認められていない。スリランカは、戦略的に重要な海上交通路に位置していることを自覚し、海洋資源管理から航行の自由に至る全てを規定する、国連海洋法条約(UNCLOS)と国際法を遵守する政策を堅持している。皮肉なことに、中国による港湾建設支援は、スリランカにとって航行の自由の重要性を再認識させることになった。スリランカは、世界で最も重要な海上交通路に位置する海洋国家であり、平和的な交易、安定したグローバルコモンズとしての海洋、そしてUNCLOSから多大な利益を得ている。従って、スリランカは、全ての国に対してUNCLOSが規定する航行の自由の遵守を求めている。

(4)スリランカとアメリカの戦略的パートナーシップの展望は明るい。ハリス米太平洋軍司令官は、スリランカ海軍が2016年にコロンボで主催した会議に参加した。アメリカ海軍大将のスリランカ訪問はほぼ10年ぶりであった。スリランカの国内の安定と安全保障は、インド洋の海洋スーパーハイウエーにとって極めて重要な意味を持つ。スリランカ海軍は、沿岸防衛海軍から近海防衛海軍への変換を進めており、世界最強の米海軍は、同国海軍に寄り添って、共に航行していくべきである。

記事参照:
On the Maritime Superhighway: US-Sri Lanka Naval Cooperation

322日「タイ、中国から潜水艦3隻導入」(The Nation.com, March 23, 2017

 タイ紙、The Nation(電子版)が3月23日付で報じるところによれば、ジャンオーチャー首相は22日の記者会見で、タイは中国から3隻の潜水艦を導入するが、購入するのは2隻のみで、残りの1隻は無償供与される、と語った。3隻の潜水艦は、中国海軍の「元」級Type 039 Aを基にタイ海軍仕様に開発されるものである。この潜水艦には、最新の緋大気依存(AIP)システムが装備されることになろう。

記事参照:
PM confirms Thai Navy to get three Chinese submarines

323日「インドネシアの『海洋政策』インドネシア専門家論評」(Asia Maritime Transprancy Initiative, CSIS, March 23, 2017

 ジャカルタの戦略国際研究所(CSIS)研究員Evan Laksmanaは、米CSISのWebサイト、Asia Maritime Transprancy Initiativeに3月23日付で、"Indonesian Sea Policy: Accelerating Jokowi's Global Maritime Fulcrum?"と題する論説を寄稿し、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が2014年に提唱した海洋ドクトリンを発展させるために新たに発表した「海洋政策」について、要旨以下のように述べている。

(1)インドネシアのジョコウィ大統領は3月1日、インドネシアの海洋政策に関する待望久しい大統領令第16号を発表した。この新たな大統領令は、2014年に同大統領が提唱したドクトリン、「世界の海洋の要(Global Maritime Fulcrum: GMF)」を発展させることを狙いとしている。当時、大統領は、このドクトリンについて、海洋国家インドネシアを2つの大洋、即ちインド洋と太平洋の間にある国家として位置付けること以上の説明をしなかった。そして、この海洋ドクトリンは、海洋文化の再構築、海洋資源の保全、海洋インフラと海洋による連結性の発展、海洋外交の促進、そして海上防衛力の強化という5つの柱から構成されるとしたが、これらの内容を具体的に明記した文書は存在しなかった。

(2)今回発表された新たな海洋政策は、GMFの内容を成文化することで、これまで各省庁がそれぞれ管轄してきた様々な海洋に関する政策を1つの枠組みの中で管理、規制するためのものである。GMFは、「インドネシアの国益に基づいて、この地域と世界の平和と安全の積極的に貢献し得る、発展し、強力な主権海洋国家」のためのビジョンと定義された。前記5つの柱は、①海洋及び人的資源の開発、②海洋防衛、海洋安全保障及び海上における安全、③海洋ガバナンスの制度化、④海洋経済、インフラ及び福祉、⑤海洋環境保全及び海洋空間管理、⑥海事文化、⑦海洋外交、の7項目に拡充された。更に、これら7項目は、多くの省庁によって所管される76事業425案件に細分化されている。

(3)しかしながら、新たな海洋政策は、インドネシア政府がGMFをどのように履行し、発展させていくかについては、未だ不透明な部分もある。

 a.第1に、「海洋」と銘打った数多くの政策事業があるが、これらを調整された事業に纏め上げる関係省庁の上に立つ権限ある単一機関が存在しない。新たな海洋政策でも、各種事業の計画立案、予算化そしてその実行は、依然として各省庁任せである。目新しい特徴としては、ジョコウィ大統領の盟友、パンヂャイタン海洋問題調整相に対して、各省庁の政策が海洋政策に適合しているかどうかを、(直接統制するわけではないが)監視し、調整し、評価する任務が付与されたことである。

 b.第2に、海洋政策はGMFの骨子を集大成したものだが、政策の多くは国内に目を向けたものである。425案件の内、全体の42%、181件が運輸、産業、及び海洋漁業の各省所管の案件であり、外務省所管はわずか23件に過ぎない。しかも、これら案件も、「規範形成」や一般的な多国間海洋外交に関するものであり、南シナ海問題といった具体的な問題に関してはほとんど言及されていない。他方、軍事問題については、その案件の多くはより広範な海洋安全保障防衛計画の下で推進され、その主たる目標は、2019年までにインドネシア水域における違法操業を減らすことにある。従って、これらの案件は、海洋における犯罪、特に違法、無規制、無通告操業に対処するために、省庁間の合同哨戒活動の実施を重視したものである。

 c.第3に、海洋政策文書は官僚的縄張り意識が過ぎた文書で、各省庁間に跨がる既存の政策や事業を結びつけたものに過ぎず、新たな計画を打ち出したものではない。より重要なことは、既存の事業や案件が拡大されたGMFのビジョンを具体化していけるかどうかという点についても、不透明なことである。

(4)海洋政策文書はジョコウィ大統領のGMFを発展させていく上で重要だが、このドクトリンが地政学的なゲームチェンジャーになり得るかどうかについては、今後を見守っていかなければならない。

記事参照:
Indonesian Sea Policy: Accelerating Jokowi's Global Maritime Fulcrum?

328日「南シナ海行動規範、実現への課題ベトナム専門家論評」(Maritime Awareness Project, March 28, 2017

 ベトナム国立大教授Hong Thao Nguyenは、Maritime Awareness Projectのサイトに3月28日付で、"A Code of Conduct for the South China Sea: Effective Tool or Temporary Solution?"と題する論説を寄稿し、南シナ海紛争を管理するためには拘束力のある「行動規範(COC)」の合意が必要であるとして、要旨以下のように述べている。

(1)南シナ海紛争は2013年までは、主として2002年の南シナ海に関するASEANと中国の「行動宣言(DOC)」の履行を通じて管理されてきた。DOCは、関係当事国に対して、南シナ海における紛争を複雑化させたり、エスカレートさせたりすることで、域内の平和と安定に影響を及ぼす諸活動の実施を自制することを求めている。ASEANと中国は、2013年9月に江蘇省蘇州で開催された第9回ASEAN・中国合同作業部会で、南シナ海における「行動規範(COC)」に関する交渉を加速することに合意した。それ以来、中国の人工島造成とその軍事化など、南シナ海での様々な出来事は、DOCはより包括的で拘束力のあるCOCに代替されるべき時がきていることを示してきた。中国の全人代会期中の2017年3月8日、王毅外交部長は、COCの枠組みの原案が合意に達し、「中国とASEAN諸国はこれに満足している」と発表した。しかし、中国は、交渉のテーブルの外では、依然として南シナ海全域に対する領有権主張を確立するために様々な行動を継続している。

(2)2017年はDOCから15年、そしてASEAN創設50周年であり、COCを実現することはASEANの主要な優先目標の1つである。COCは、国際法、特に国連海洋法条約(UNCLOS)の履行を通じて域内の平和と安定を維持する上で、ASEANの中心的役割を再確認するのに役立つ。フィリピンのデルロサリオ前外相が提案しているように、最終的なCOCが南シナ海仲裁裁判所の裁定を組み込むことができれば、これは実現可能である。しかし残念ながら、ASEANは、部分的な成果を切望するあまり、ASEAN首脳会議での議論から仲裁裁定を除外するという要求に屈する可能性が高い。また、ASEANは、中国が、時間を稼ぎ、仲裁裁定の重要性を軽視し、国内のナショナリズムを満足させることを優先させ、外部からの干渉を排除する規則の確立を試み、そして人工島の軍事化を完了するために、戦術的な行動を起こすことも認識しておかなければならない。しかし他方で、中国としても、「一帯一路」構想への支援を確保するために、ASEAN諸国の信頼と信用を取り戻す必要がある。こうした明らかに多様な目的から判断すれば、COCの最終的な全体的枠組みは、DOCの規定との大きな違いがほとんどないものとなろう。

(3)南シナ海紛争の解決は2国間交渉によるとの中国の立場を考えれば、新たなCOCの調印はどのような方式とするかも論議となろう。ASEANと中国間の調印か、それとも中国とASEAN加盟10カ国との個別の調印となるのか。こうした手続き上の問題以上に、新たなCOCに取り込まれるべき、少なくとも6つの実質的な問題がある。

 a.第1に、原則に関する問題である。DOCと同様に、COCは南シナ海の領有権紛争を解決する機能を持たない。COCは、南シナ海の領有権問題に対する関係各国の主張を損ねない形での海洋協力と危機管理の枠組を構築する、一連の信頼醸成措置で構成される。COCは、DOCに規定された諸原則を継承すべきだが、DOCの代替ではなく、合意された諸原則により強い拘束力を付与することで、DOCの欠点を修正すべきである。2012年7月20日に公表された、南シナ海に関するASEANの6原則の内、①UNCLOSを含む、国際法で広く認められた諸原則の完全な尊重、②全ての当事国による自制と武力の不行使の継続的な実行、③UNCLOSを含む、国際法で広く認められた諸原則に基づく紛争の平和的解決、これらはCOCに盛り込むことができる。一方、中国は、南シナ海紛争に対する外部干渉の排除や、争点の少ない問題を最初に、そして領有権問題は最後に取り組むという段階的アプローチなどを含む、望ましい諸原則の導入を試みるであろう。その他の諸原則には半閉鎖海である南シナ海の海洋保護、持続可能な開発協力が含まれるが、仲裁裁定がCOCに取り込まれるかどうかは疑問である。

 b.第2に、COCが対象とする領域の範囲である。もし南シナ海仲裁裁判の裁定を尊重するなら、西沙諸島以外の係争領域は、スカボロー礁や南沙諸島のような領有権主張が重複する海洋自然地形の領海に限定されるべきである。そうなれば、南シナ海の中心部に出現するはずの人類共通の財産である公海とその海底は海洋の自由が適用される水域となり、従って、もしCOCの対象範囲が南シナ海の全水域を含むものとなれば、域外国も新しいCOCに参加する権利を保証されることになる。しかしながら、中国が南シナ海全域に対する領有権主張を撤回する可能性はないと見られ、関係当事国の相反する領有権主張は、COCの対象範囲に関する合意は何時までも期待できず、従って、領有権主張国が共通の解釈を適用できない限り、COCの履行は実現しないであろう。

 c.第3の問題は、紛争のエスカレーションを管理し、自制を促す措置の必要性である。ASEANと中国は、禁止されるべき、そして自制義務の対象となるべき多様な活動に関するガイダンスを策定しなければならない。

 d.第4に、自制、信頼醸成措置の実施そして協力を保証する、拘束力のある規定の作成である。もしCOCに効果的な強制機能がなければ、DOCと同じ道を歩むことになる。ASEANと中国は、合同作業部会の断続的な作業に替えて、選択されたプロジェクトを実施するための常設機関を設置すべきである。COCは、見込みのある海洋資源の合同開発のための法的根拠となるものでなければならない。

 e.第5に、COCには、ホットライン、照会、協議及び国際法に規定されているその他の手段を含む、紛争解決のための適切なメカニズムが組み込まれていなければならない。また、通常の外交チャンネル以外に、他のトラックが動員されるべきである。

 f.第6に、南シナ海における海洋の自由を享受する関係国の参加問題がある。この権利は、南シナ海に公海とその海底の存在を認めた仲裁裁定によって支持される。台湾は、重要な当事国であるが、「1つの中国」政策の故に、その領有権主張にもかかわらず、交渉に参加することができないであろう。アメリカ、日本及びオーストラリアなど、全ての南シナ海の海上交通路の利用国もまた、参加を招請されることはないであろう。北京は、中国とASEANは対話を通じて、そして外部の国の関与を必要とせずに、彼らの間で平和的に紛争を解決するための全能力を持っている、と繰り返し強調している。

(4)中国が合意に達したと主張しているCOCの枠組み草案の内容は公表されていない。しかしながら、この新しい文書には、上記の諸問題に対する詳細な回答が欠けている可能性が高い。この枠組みは、将来のCOCの目次草案と見なされるべきである。DOCと同様に、この枠組みは、緊張の激化を防ぐための拘束力はないが、一縷の望みを与える。議論することは、力の行使や軍事化の促進よりも望ましい。この枠組みは、最終的なCOCに至る交渉の期限を示さなくてはならない。拘束力のあるCOCの実現は依然として長く困難な道のりである。ASEANがその立場を前進させ、中国に交渉を強要するために連帯しなければ、COCは一編の学術論文に終わるであろう。

記事参照:
A Code of Conduct for the South China Sea: Effective Tool or Temporary Solution?

328日「中国の台湾ジレンマ、時は北京の味方にあらずマレーシア専門家論評」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, March 28, 2017

 マレーシアのマラヤ大学客員教授Dato Muthiah Alagappaは、ハワイのPacific Forum (CSIS) の3月28日付のPacNet に、"China's Taiwan dilemma: Beijing must rethink its ideas of nation, state and sovereignty"と題する論説を寄稿し、台湾統一という核心的目標にとって、時はもはや北京の味方ではないとして、中国の台湾ジレンマについて、要旨以下のように述べている。

(1)台湾の中国ジレンマは、台湾の経済的繁栄が本土と複雑に絡み合っており、独立宣言は台湾が享受している事実上の独立をかえって危険に晒す中国の武力行使を招くという考え方に根差している。北京は、時は味方なりと見て、経済的相互依存と心情的愛着が台湾と中国本土の統一と併合を促進することを期待しているが、依然として軍事力は北京の台湾政策の重要な要素であることには変わりがない。しかし、北京の台湾政策は長期的に持続不可能であり、次第にジレンマに直面しつつあるのは台湾ではなく、むしろ中国である。中国は、最終的には中国とある程度の親近感を共有する分離した民族と国家として、台湾を受け入れなければならないであろう。これが平和的に起こるためには、民族、国家そして主権に対する中国の概念や思考を変えなければならない。北京は、1つの中国民族と国家という概念から離れ、1つ以上の中国民族と国家が存在し得ることを受け入れなければならないであろう。

(2)経済的相互依存の増大、軍事力による脅威、そして「一国二制度」の原則が、北京の台湾政策における重要な要素である。この政策は、経済的相互依存の増大が両岸関係の政治的緊張を最小限に抑え、北京に時間を与え、そして最終的には台湾を本土に統合することに繋がるであろう、との前提に立っている。事態は前提通りにならなかった。経済的相互依存の増大は、一時的に両岸の政治的緊張を緩和したが、主権独立国家への台湾の強い願望を挫くことにはならなかった。逆に、経済交流の緊密化は、台湾における本土に対する反感を生み出し、主権独立国家への願望を強めた。親中国の馬英九前総統さえ、北京との緊密な政治対話を実現できなかった。更に、経済的相互依存の増大は、台湾において依存への懸念を生み出した。その結果、台北は、国際経済関係の多様化を追求している。中国経済の減速も、北京の台湾政策における経済要素を弱めている。

(3)同様に、統一を実現するための軍事力行使の脅威も、台湾政策の持続的な要素ではなくなりつつある。依然として軍事力の脅威が台湾の指導者の独立宣言を抑えると見なされてはいるが、中国による武力行使は、国際的および国内的に大きなリスクを伴うであろう。北京は、台北に対するアメリカの暗黙の支持を考えれば、台湾に対する武力行使の成功に確信が持てない。また、例えアメリカの軍事的支援がなくても、台湾は、中国に抵抗できるかもしれない。国際政治における力の役割は変化しており、現在では、征服に対する防衛と抑止が支持されている。台湾に対する軍事的冒険が首尾良く行かなかったり、失敗したりすれば、中国共産党の統治の正当性が損なわれるであろう。

(4)経済関係の緊密化と武力行使が中国の台湾政策における持続的な要素ではなくなっているとすれば、平和的解決が不可避となる。しかしながら、北京は、「一国二制度」の原則に固執することによって、かえって平和的解決を困難にしている。この原則は香港とマカオの問題を解決する上で効果があったが、その後の北京による「一国二制度」の強引な適用は、香港における民主主義者を敵に回し、台湾では恐怖を生み出している。「一国二制度」の原則は、中国人国家は唯1つ(一国)であり、1つの中国人主権国家が存在するのみであるとの前提に立っており、台湾との関係において欠陥がある。「二制度」とは、1つ以上の中国人主権国家が存在し得ることを受け入れるには不十分である。従って、この原則は、自治以上の要求には対処できない。

(5)もし北京が台湾問題を平和的に解決しようとするならば、北京は、主権と同様に民族と国家に関する概念を再考しなければならない。北京は、1つ以上の中国民族と国家が存在し得ることを受け入れなければならない。そうすることで、北京は、より緊密な関係を可能にする文化的近親性を共有する、分離した民族主権国家としての台湾を受け入れることができるであろう。中国が民族、国家そして主権に対する概念を再考することができなければ、台湾との紛争を長引かせ、北京にジレンマをもたらすことになろう。 中国の台湾政策は、台湾の統一という核心的目標を達成できないだけでなく、軍事紛争や中国の暴力的な分裂にさえ繋がる可能性もある。時はもはや北京の味方ではない。分離し、民主主義が根付いた存在としての台湾の存続は、その国家意識の高まりとともに、台湾が主権国家として国際的承認を得るチャンスを高めることになろう。中国におけるナショナリズムの高揚は、北京に迅速な行動を強要することになるかもしれないが、北京の現在の政策ツールではこの任務を遂行することはできないであろう。

記事参照:
China's Taiwan dilemma: Beijing must rethink its ideas of nation, state and sovereignty

328日「南アジアにおける新たな『グレート・ゲーム』インド専門家論評」(Yale Global, March 28, 2017

 英King's College教授でインドのThe Observer Research Foundation研究員Harsh V Pantは、Web誌、Yale Globalに3月28日付で、"Resurgent Russia Joins Great Game in South Asia"と題する論説を寄稿し、ロシアが再び南アジアにおける「グレート・ゲーム」に参戦しようとしているとして、要旨以下のように述べている。

(1)ロシアは、アメリカの影響力の減退に乗じて、グローバルな安全保障アクターとして伸し上がろうとしているが、その新たな戦域は南アジアとなろう。ロシアは最近数カ月間で、南アジア政策を刷新した。ロシアは、新たな戦略的パートナーである中国の支援を得て、この地域におけるアメリカの優位を切り崩そうとしている。しかし、こうしたロシアの動きは、伝統的に強固な絆を維持してきたニューデリーの警戒感を高めた。この地域の新しい力関係は、長期的な意味合いを持つことになろう。

(2)ロシアは1960年代以来、南アジアにおいてインドの緊密なパートナーであった。この関係は、冷戦が終わってグローバルな力関係が大きく様変わりした時でも、その試練に耐えた。印ロ両国は、互いの必要性を認め続けた。世界最大の武器輸入国としてのインドは、大部分が旧ソ連時代の軍備の更新を必要としている。ロシアはアメリカに次いで世界第2位の武器輸出国であり、2016年には、インドとの間で総額数十億ドルに上る武器輸出契約に調印した。アメリカにとってインドは魅力的な武器輸出市場だが、ロシアは伝統的に、自国国防産業を育成するためのインドの自国生産政策に協力してきた。インドの国防生産基盤育成のためには、インドに対して重要な戦略的技術を売却してくれる唯一の国である、ロシアを無視するわけにはいかない。

(3)インドは近年、中国との関係を緊密化し、またパキスタンに傾斜するロシアに対して、懸念を強めてきた。プーチン大統領は、西側とロシアの地政学的抗争というプリズムを通して南アジアを見ようとしており、アメリカのパキスタンとの関係が逆境にある今が、パキスタンに肩入れする時と判断したのかもしれない。世界の武器市場は、中国がロシアから購入するより自国生産に切り替えたことから、ロシアにとってこれまで以上に厳しいものになっており、モスクワは新たな買い手を必要としている。モスクワとイスラマバードは、2016年9月に初の合同軍事演習を実施し、12月には地域問題を協議する2国間会議を開催した。ロシアは2014年にパキスタンに対する武器輸出禁止を解除し、2017年には4機の攻撃ヘリを売却する。また、中国の新疆とグワダル港を結ぶ中国・パキスタン経済回廊は、ロシアを中心とするユーラシア経済連合と連携することになろう。しかし、ニューデリーを本当に驚愕させたのは、パキスタンをグローバルに孤立させないとすることで、中国と協調するモスクワの決定である。また、ロシアは、アフガニスタンの将来に関して、2016年12月に中国とパキスタンとの3国間協議を開催し、2017年2月にはインド、イラン、パキスタン、中国及びアフガニスタンとの6カ国協議をモスクワで開催するなど、アフガニスタンにおいても積極的な役割を果たそうとしている。アフガニスタンでは、2014年に大部分のNATO軍が撤退したが、8,400人の米軍兵力が依然残留している。モスクワは、この紛争が絶えない国における主導的なパワーブローカーとしての地位を確立してきた。スカパロッティNATO軍最高司令官は最近、「タリバンとの連携、更には補給支援さえ供与するといった形で、最近、ロシアの影響力の伸張が見られる」と警告している。

(4)ロシアは、中国と協調して、複数の正面でアメリカの戦略的な優位に挑戦している。そして南アジアのような戦域は、この地政学的抗争の矢面に立っている。南アジアにおける新しい「グレート・ゲーム」は始まったばかりである。

記事参照:
Resurgent Russia Joins Great Game in South Asia


【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. Snapshot: China's Eastern Theater Command
China Brief, The Jamestown Foundation, March 14, 2017
By Peter Wood, the Editor of China Brief

2. AVOIDING A STRATEGY OF BLUFF
THE CRISIS OF AMERICAN MILITARY PRIMACY
CSBA, March 20, 2017
Hal Brands, a Senior Fellow at the Center for Strategic and Budgetary Assessments and is also Henry A. Kissinger Distinguished Professor of Global Affairs at Johns Hopkins University's School of Advanced International Studies (SAIS).
Eric S. Edelman, Counselor at the Center for Strategic and Budgetary Assessments.

3. China-Russia Military-to-Military Relations: Moving Toward a Higher Level of Cooperation
U.S.-China Economic and Security Review Commission, March 20, 2017
Staff Research Report

4. Understanding China's Belt and Road Initiative
Lowy Institute, March 22, 2017
Peter Cai is a Nonresident Fellow at the Lowy Institute for International Policy.

5. A Vision of Trump at War
How the President Could Stumble Into Conflict
Foreign Affairs.com, March 22, 2017
Philip H. Gordon, Senior Fellow, Council on Foreign Relations

6. China Naval Modernization: Implications for U.S. Navy Capabilities--Background and Issues for Congress
Congressional Research Service, March 23, 2017
Ronald O'Rourke, Specialist in Naval Affairs

7. CRITICAL ASSUMPTIONS AND AMERICAN GRAND STRATEGY
CBA, March 24, 2017
Hal Brands, a Senior Fellow at the Center for Strategic and Budgetary Assessments
Peter Feaver, a Professor of Political Science and Public Policy at Duke University
William Inboden, Executive Director at the William P. Clements Jr. Center for National Security at the University of Texas-Austin
Paul D. Miller, the associate director of the Clements Center for National Security at The University of Texas at Austin.

8. China's Big Three Near Completion
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, March 27, 2017

9. Preventing a Defense Crisis: The 2018 National Defense Authorization Act Must Begin to Restore U.S. Military Strength
The Heritage Foundation, March 28, 2017
Thomas W. Spoehr, director of the Center for National Defense at The Heritage Foundation
Rachel Zissimos, Research Assistant at The Heritage Foundation

10. China's Third Sea Force, The People's Armed Forces Maritime Militia: Tethered to the PLA
China Maritime Report No. 1, March 2017
China Maritime Studies Institute, U.S. Naval War College
By Conor M. Kennedy and Andrew S. Erickson

11. Arctic Imperatives: Reinforcing US Strategy on America's Fourth Coast
Council on Foreign Affairs, March 2017
20 independent experts jointly presided over by Thad Allen, a retired admiral and former commandant of the US Coast Guard, and Christine Todd Whitman, a former governor of New Jersey

12. Multilateral Counter-Piracy Cooperation in Southeast Asia: the Role of Japan
Pacific Forum, CSIS, March 2017
By Miha Hribernik, a Beijing-based consultant at Verisk Maplecroft and a Non-Resident WSD-Handa Fellow at Pacific Forum CSIS.

13. The Indo-Asia-Pacific's Maritime Future: A Practical Assessment of the State of Asian Seas
The Policy Institute at King's College London, March 2017
Edited by Kerry Lynn Nankivell, Jeffrey Reeves and Ramon Pacheco Pardo



編集・抄訳:上野英詞
抄訳:秋元一峰・倉持一・高翔・関根大助・向和歌奈・山内敏秀
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