海洋安全保障情報旬報 2017年1月1日-1月10日

Contents

11日「中国、南シナ海で気象予報開始」(The Maritime Executive.com, January 2, 2017

 中国は1月1日、南沙諸島の滑走路を建設している3つの人工島、ミスチーフ礁(美済礁)、スービ礁(渚碧礁)、ファイアリークロス礁(永暑礁)の3カ所に加えて、西沙諸島のウッディー島(永興島)と中沙諸島のスカボロー礁(黄岩島)に設置された観測所から得た、波高、風向き、潮流、海表面温度、台風情報や海洋災害警報などの観測データを提供する。中国国家海洋局は、気象観測や大気観測は南シナ海の海洋環境保護、海難防止、海洋科学調査及び航行の安全に貢献するためである、と強調している。

記事参照:
China Starts Weather Forecasts from South China Sea
国家海洋局南海予報センター:
http://g.hyyb.org/systems/yb/SCS/

11111「中国空母『遼寧』、南シナ海で演習」(Reuters.com, January 3, and Various Sources, January 3~11, 2017

 防衛省の発表や各種報道によれば、中国海軍空母「遼寧」はその随伴艦とともに2016年12月25日に第1列島線を越えて初めて西太平洋に出、台湾の東側を通過して12月26日に台湾とフィリピンの間のバシー海峡を通過して南シナ海に入り、12月30日までに海南島三亜の基地に到着した。「遼寧」打撃群は、三亜の基地に短期間停泊した後、1月1 日から、南シナ海で「遼寧」艦載機、J-15(殲15)の発着艦訓練を実施した。その後、1月11日に台湾海峡を抜け、1月13日に本来の母港である山東省青島に帰港した。この航海は、台湾を一周した「遼寧」の初めての遠洋航海として注目された。

(1)中国の新華社によれば、「遼寧」打撃群は、1月1日から、南シナ海で「遼寧」艦載機、J-15(殲15)の発着艦訓練を実施した。「遼寧」には13機のJ-15が搭載されており、公海でのJ-15(殲15)の発着艦訓練は2013年に南シナ海で実施して以来、2度目である。中国海軍Webサイト、Navy.81.cnは、一連の訓練画像を公表し、「渤海や東シナ海に比べて、南シナ海の海洋気象と海洋環境は非常に複雑であり、発着艦訓練を実施する艦載機搭乗員にとっては大いなる挑戦となった」と述べている。空母航空団副司令は、多様な海洋での訓練を通じて、「遼寧」打撃群は教育訓練艦隊から戦闘即応態勢艦隊に進歩してきた、と強調した。中国中央電視台(CCTV)は渤海湾での発着艦訓練のビデオを公開しているが、この時のJ-15は兵装も、外部増槽も装備していない。(South China Mourning Post.com, January 3, 2017)

(2)今回の「遼寧」打撃群の行動について、米国防省は、「中国海軍の最近の活動について特にコメントしないが、活動を注視している」「米国は、国際法に従って、全ての国に保証されている、公海における航行の自由や上空通過の自由を認めている」と述べている。アメリカの海軍専門家は、「今回の演習は、近い将来、中国が空母打撃群をどのように運用するかについて、多くの示唆を与えるものである。中国は、空母打撃群を、遠海域における戦力投射任務より、少なくとも当面は、主として域内における威力誇示に活用すると見られる」「中国の空母は、国内向けに、そして国際的に中国の国力の重要なシンボルである。空母航空団の技量が向上するにつれ、空母は、南シナ海の係争海域における軍事力と航空戦略を大きく強化することになろう」と語った。(USNI News, January 3, 2017)

(3)報道によれば、「遼寧」打撃群は1月11日、台湾海峡を航行し、母基地である青島に向かった。

13日「ロシア海軍対潜艦、マニラ寄港」(USNI News, January 4, 2017

 ロシア太平洋艦隊のUdaloy級対潜駆逐艦、Admiral Tributsと艦艇給油艦、Boris Butomaは1月3日、4日間の予定でマニラに寄港した。ロシア艦隊司令官のMikhailov少将は記者会見で、ロシアは海賊やテロ対処でフィリピンを支援する用意があると述べた。また、駐マニラのロシア大使は1月4日、「モスクワはフィリピンに対して各種の新品の兵器を供与するとともに、フィリピンと新たな信頼できるパートナーになる用意がある」「モスクワとの関係はフィリピンの他国との関係を排除するものではない」と語った。これに対して、米国防省報道官は4日、「米比両国は長年に亘って同盟関係にあり、アメリカはフィリピンの求めに応じて各種の防衛支援を提供してきた」「マニラとモスクワとの緊密な関係は米比軍事関係の重要性に影響するものではない」と述べた。

記事参照:
Russia Wants to Sell Arms to the Philippines, Hold Joint Naval Drills

13日「中国海軍潜水艦、マレーシアに初寄港」(The Wall Street Journal.com, January 6, 2017

 中国海軍の通常型潜水艦「長城」と潜水艦救難艦「長興島」は1月3日、南シナ海に面したマレーシアのサラワク州コタキナバルに入港した。中国海軍の潜水艦がマレーシアに寄港したのは今回が初めてである。中国国防部は1月7日、この事実を確認し、ソマリア沖とアデン湾で海賊対処活動を終えて帰投の途次、1月3日から4日間、乗組員の休養のため同港に滞在したことを認めた。(People's Daily Online, January 9, 2017)米紙、The Wall Street Journal(電子版)は、1月6日付で中国海軍潜水艦のマレーシア寄港について、要旨以下のように報じている。

(1)中国潜水艦の外国訪問は2014年にスリランカのコロンボ港訪問が確認されているが、衛星画像が示唆するところによれば、この2年間に何度かパキスタンを訪問している。新年早々、中国とロシアの海軍艦艇のマレーシアとフィリピンへの訪問が見られたが、マレーシアとフィリピン両国とも、南シナ海の大部分に対する中国の領有権主張に対応して、アメリカとの防衛関係を強化してきた。中国海軍艦艇のマレーシア訪問はこれまでもあったが、潜水艦の寄港はその意味するところが全く異なるとして、豪シンクタンク、The Lowy InstituteのEuan Grahamは、「潜水艦の運用は極めて機密性の高いものであるが故に、受け入れ国に対する信頼も高いレベルが要求される」として、今回の寄港は中国がマレーシアの承認の下で南沙諸島を含む南シナ海南端海域において潜水艦を運用している可能性を示唆している、と指摘している。コタキナバルは、マレーシアが保有する2隻のフランス製Scorpène級潜水艦の母港である。米海軍の艦艇や潜水艦もこの基地を利用しており、南シナ海における運用拠点となっている。

(2)2016年7月の南シナ海仲裁裁判所の裁定以降、中国は、特にフィリピンとマレーシア両国との関係強化を求めてきた。マレーシアのラザク首相は2016年11月の北京訪問で、中国との経済、防衛関係を拡大するとともに、中国から4隻の沿岸哨戒艇を購入することに合意した。フィリピンのドゥテルテ大統領は、南シナ海の領有権紛争を棚上げし、中国との関係を強化する意向を示してきた。中国とロシアは、アメリカとこれら諸国との防衛関係を弱体化することで利益を共有しているが、一方で新たな武器輸出市場を巡って競合している。ロシアはベトナムに、他方中国はバングラデシュ、ミャンマー及びパキスタンに、それぞれ潜水艦を輸出している。シンガポールのThe Institute of Southeast Asian StudiesのIan Storeyは、「アジアにおけるロシアの主たる関心は武器売却であり、ドゥテルテのアメリカ離れは、武器市場としてのマニラにアクセスするチャンスをモスクワに与えた」と見ている。

記事参照:
Chinese Submarine's Malaysian Port Call Signals Regional Power Shift

13日「トランプの『力を通じた平和』概念の課題米専門家論評」(Real Clear World.com, January 3, 2017

 米シンクタンクStratforのアジア太平洋・南アジア担当アナリストRodger Bakerは、1月3日付のWebサイト、Real Clear Worldに、"Understanding America's Global Role in the Age of Trump"と題する論説を寄稿し、トランプ次期大統領が冷戦期のレーガン大統領の「力を通じた平和」政策を踏襲しようとしていることについて、要旨以下のように述べている。

(1)1980年代に当時のレーガン米大統領によって提唱された「力を通じた平和("Peace Through Strength")」概念が現在、トランプ次期大統領とその政策チームによって大きく取り上げられている。「力を通じた平和」概念は、冷戦真只中のレーガン政権の基本的理念であった。この概念は、アメリカのパワーへの挑戦の無謀さを認識させることで国際的な平和と安定を保障するためには、経済的にも軍事的にも強いアメリカが必要であるとするものである。しかし、当時は時代背景が現在とは大きく異なっていた。レーガン時代は米ソを盟主とする東西両陣営の2極対立であり、「力を通じた平和」概念は、ソ連によるアメリカとその同盟国に対する通常戦力と核戦力による攻撃を抑止することを主眼としたものであった。レーガン大統領は1983年の「一般教書」演説で、「力を通じた平和」概念はアメリカの強い経済力と軍事力の2つの要素を基盤とするものであると強調した。トランプ次期政権は、この2つの要素を重視し、「力を通じた平和」概念を復活させた。従って、政策の重点は、国内経済の再建と、核能力の増強を含む軍事力の強化である。しかしながら、レーガン政権当時とは時代背景が大きく異なる点に留意する必要がある。

(2)レーガン大統領の「力を通じた平和」は、アメリカは既に偉大な国家だが、幾つかの課題に直面しているという認識に立ったものであった。レーガン大統領の政策は、民主主義を広めるというアメリカの広範な使命を遂行し得るためには、アメリカは国内外で強い存在でなければならないというものであった。「アメリカ例外主義」は、長らくアメリカの外交政策と国内政策の基本的理念であった。アメリカの指導者間の論議は、アメリカが半ば孤立した、しかし他国が追従できるような明かりをともす丘の上の灯台であるべきか、それともアメリカの理念や制度を世界に積極的に広める活発な宣教師であるべきか、ということを巡って展開されてきた。レーガン大統領は決して孤立主義者ではなく、国際主義を推進し、西側諸国のリーダーとして何をすべきなのかということを念頭に、民主主義の普及を進め、アメリカが世界を牽引する存在であることを目指した。トランプ次期政権の「力を通じた平和」には、少なくとも表面上、この究極的な使命感が欠落しているようである。その目標がアメリカを偉大にするということであっても、レーガン大統領のそれとは異なり、偉大になったアメリカが達成すべき最終的な目標が明確になっていない。

(3)従って、現時点での最大の課題は、現代世界においてアメリカのパワーがどの程度のものであるかを理解することである。冷戦期には、米ソ間や東西両陣営間に明確な力の差があった。ところが、現在は、アメリカの総体的な強さが必ずしも衰退しているわけではないが、特に中国の台頭やロシアの再興などによって、こうした格差が小さくなりつつある。今や、世界秩序を主導する理念と権利を主張するアメリカの能力は、国内外から益々疑義を呈されるようになってきている。相対的な力関係から見れば、アメリカの力は特に冷戦期初期のそれと比較すれば低下しているといえる。しかしながら、このことは、いずれか1国が間もなくアメリカに取って代わるであろうということを意味するわけではない。アメリカは依然、世界最強の経済大国であり、軍事大国である。恐らく問題は、アメリカが強さを維持しているかどうかではなく、その強さをどのように活用するのか、そしてアメリカがそのためのビジョンを持っているかどうかである。

記事参照:
Understanding America's Global Role in the Age of Trump

14日「南シナ海係争海域における『海洋保護区』の設定、紛争解決に繋がるか」(RSIS Commentaries, January 4, 2017

 インドのThe Observe Research Foundation主任研究員PK Ghoshは、1月4日付のシンガポールのS.ラジャラトナム国際学院(RSIS)のRSIS Commentariesに、"South China Sea Disputes: Nearing a Solution-Or Is It?"と題する論説を寄稿し、フィリピンのドゥテルテ大統領が検討中とされるスカボロー礁周辺海域を海洋保護区に指定する構想が南シナ海紛争の解決に繋がるかどうかについて、要旨以下のように述べている。

(1)2016年7月の南シナ海仲裁裁判所の裁定はフィリピンの勝訴という結果に終わったが、中国は裁定を無視し、南シナ海への進出を続けており、一方のフィリピンも勝訴を大々的に祝ってはいない。仲裁裁判所の裁定は、南シナ海を巡る状況を安定させたとも、緊張を低減させたとも言い難い。北京とマニラの南シナ海を巡る対立は、主権、即ち海洋境界を巡るもので、漁業で生計を立てる両国の漁民の生活に密接に関わっている。かくして、2012年以来、スカボロー礁(黄岩島)周辺海域における漁業権は、両国間の幾つかの係争要因の1つとなっているのである。スカボロー礁はフィリピン沿岸から約100カイリの位置にあり、従って当然ながらフィリピンのEEZ内にあるが、中国は、この環礁周辺に海警局巡視船を展開させて、フィリピン漁民の接近を阻止してきた。しかしながら、ドゥテルテ大統領の2016年10月の訪中を契機に、フィリピン漁民はこの環礁周辺の豊かな漁場で操業ができるようになっている。

(2)これは中国側の姿勢が軟化したことを示すものであるが、ドゥテルテ大統領は近く、スカボロー礁の周辺海域の一部を、全ての漁民を閉め出す海洋保護区に指定する行政命令を宣言すると見られる。この宣言は、フィリピン漁民の漁業権を一方的に禁止することになり、当然ながらフィリピン漁民からの強い非難を招くことになろう。しかし、大局的観点から見れば、海洋保護区の設定といった動きは、中国とフィリピン双方にとって一石二鳥の効果を生むことになるかもしれない。

a.第1に、フィリピンは仲裁裁判で勝ったが、ドゥテルテ大統領は、妥協に向けて北京を慫慂するために、控えめな態度をとってきた。中国は、大規模な人工島の造成によって、南沙諸島における海洋環境を破壊してきたとの強い批判に晒されてきた。このことは、世界の環境を保護する発展途上大国としての中国のイメージを損ねてきた。海洋保護区の設定は、環境保護に対する中国の支持を示すことになろう。

b.第2に、戦略レベルにおいては、南シナ海紛争を解決するための最良の方法が2国間対話であることを示すことになろう。

(3)事実、係争海域を保護区に指定することは、地域の緊張を緩和する自然なエスカレーション・リスクの低減措置として、これまで専門家によって提唱されてきた。その最初は、合同海洋科学調査団(The Joint Oceanographic Marine Scientific Research Expedition: JOMSRE)に参加したベトナムとフィリピンの科学者たちによって提唱された、係争海域における"Marine Transborder Peace Park" 構想であった。この構想は、国連海洋法条約の主旨に適ったものであったが、中国やラオスを加入させることができず、失敗に終わった。今や中国は、こうした構想を根付かせることによって、フィリピンをはじめとする関係諸国を取り込むとともに、国際法体系や仲裁裁判裁定に対する遵守圧力を旨く躱すことができることができるかもしれない。しかしながら、全ての関係国の究極の目的が地域の平和と安定であるが故に、こうした構想によって、南シナ海紛争が漸進的ながらも根本的な解決に結びつくかどうかを判断するには、今後の展開を待たなければならない。

記事参照:
South China Sea Disputes: Nearing a Solution - Or Is It?

15日「中国の新たなインド包囲網インド専門家論評」(South China Analysis Group, January 5, 2017

 在ニューデリー戦略問題アナリストBhaskar Royは、シンクタンクSouth China Analysis GroupのWebサイトに1月5日付で、"China: Strategic Encirclement of India's Core Interests"と題する論説を寄稿し、「真珠の数珠繋ぎ("String of Pearls")」戦略によってインドを南アジアに閉じ込めておくことに失敗したことから、中国はインドの総合国力の成長と南アジアを越える影響力の拡大を阻止する新たなイニシアチブに乗り出したとして、要旨以下のように述べている。

(1)インドの近隣諸国の中でも、パキスタンはこの地域から湾岸地域や中央アジア地域に至る中国の頼みの綱となってきており、今や中パ両国は、印ロ関係の弱体化を狙って、ロシアを仲間に引き込もうとしている。「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」のためのパキスタンへの460億ドルの投資計画、軍事プロジェクトとしてのグワダル港の運営管理、兵器や防衛装備の主たる供給国、そして最近の中国の複合企業体によるパキスタン株式市場の40%の取得を通じて、パキスタンは、急速に中国の宗主権下の国になりつつある。パキスタンは間もなく、「一帯一路(OBOR)」構想が想定するルートに沿って中国のソフトパワーとハードパワーの双方を投射するためのプラットフォームになるかもしれない。中国は、パキスタンを「核心利益」の1つと宣言することはないであろうが、既に実質的にはそうなっている。

(2)CPECは、中国の物流循環システムをより遠く、広範なものにするOBOR構想の旗艦プロジェクトである。そして極めて重要なことは、この構想が習近平国家主席の威信をかけた計画であり、万難を排しても遂行すべきものとなっていることである。中国はまた、ネパールとバングラデシュに至る、そしてこれら両国を経由するOBOR構想を推進しようとしている。中国は、両国による説得を通じて、インドが善隣友好政策のためにOBORに参加することに同意することを期待している。もしインドが同意しなければ、中国は、インドを締め付けるためにインドの隣国で新たな政策を追求するかもしれない。中国の『環球時報』は既にこうした政策の選択肢を仄めかしている。

(3)北京は、「原子力供給国グループ(NSG)」からインドを引き続き締め出しておくことを決意している。中国は、インドの核弾頭搭載可能な射程5,000キロのAgni V 弾道ミサイル発射実験(2016年12月16日に実験成功)に抗議した。中国外交部報道官は、インドとパキスタンの核実験後の1998年6月6日に採択された国連安保理決議第1172を持ち出して、この実験を厳しく非難した。安保理決議第1172は、米中両国が主導して採択されたもので、インドとパキスタンに対して、更なる核実験を停止し、核兵器計画を取り止め、核分裂物質の生産を停止し、核兵器運搬可能な弾道ミサイルの開発を中止するよう求めたものである。この安保理決議は拘束力を持たないが、これ以降、インドは、核実験の停止を発表し、核兵器の先制不使用政策を宣言し、そして米印民生用原子力取引に署名した。しかしながら、インドは将来とも、原子力、核兵器の分野における中国の圧力に対抗していかなければならないであろう。中国外交部報道官は、「中国は、南アジアにおける戦略バランスと安定を維持することは域内各国の平和と繁栄に貢献するという立場を堅持する」と述べている。こうした中国の主張の真意は、自国の核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイルや他の兵器を棚に上げて、南アジアやその周辺地域の戦略的バランスを不安定化させてきたのはインドだと指弾することにある。中国の軍事力の開発は防衛的なものであり、如何なる国をも目標としたものではないというなら、インドの公式立場もそうである。

(4)しかし、もしCPECやOBORが躓くようなことになれば、インドと中国間の諸問題は悪化するかもしれない。このことは、習近平主席の政策と中国共産党の「核心」指導者としての地位に密接に関連している。2017年秋に予定される第19回中国共産党大会では、指導部の大幅な交代が行われるであろう。習近平主席は、弱みを見せるわけにはいかない。

記事参照:
China: Strategic Encirclement of India's Core Interests

16日「グワダル港、中国にとっての戦略的価値とはシンガポール専門家論評」(RSIS Commentaries, January 6, 2017

 シンガポール国立大学のThe Institute of South Asian Studies (ISAS)研究員Rajeev Ranjan Chaturvedyは、S.ラジャラトナム国際学院(RSIS)の1月6日付のRSIS Commentaryに、"China's Strategic Access to Gwadar Port: Pivotal Position in Belt and Road"と題する論説を寄稿し、中国にとってのグワダル港の戦略的価値について、要旨以下のように述べている。

(1)グワダル港は、「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」の玄関口そして拠点として、インド洋とアラビア海への中国の戦略的アクセスに関して、専門家の関心を高めてきた。グワダル港は、中国の野心的な「一帯一路(OBOR)」構想のパイロット・プロジェクトであるCPECの中心的地位を占めている。何故、グワダル港は、パキスタンと中国にとってそれほど重要なのか。

(2)グワダル港の開発は、2つの段階で進められてきた。第1段階は中国国営企業によって進められてきた巨大港の建設で、ほぼ完了し、運用が開始されている。第2段階は現在進展中である。グワダル港は「CPECの宝石」とされ、パキスタンの将来の貿易と物流活動の拠点になることが期待されている。パキスタンにとって、グワダル港の経済的価値は、世界の石油の40%が通過するホルムズ海峡に近い位置にあることである。しかし、中国の場合、グワダル港から得られる経済的利益は限られているように思われる。環球時報は、「グワダル港は、中国にとってペルシャ湾岸諸国との貿易のハブにもならないし、マラッカ海峡の代替ルートにもならないであろう」と指摘している。それなら、中国がこうした巨額の投資を行ったのは何故か、この計画を推進しているパキスタンと中国の利益は何か。パキスタンは中国の「全天候型の友人("all weather friend")」であり、グワダル港建設への投資は、インド洋における中国の増大する海軍力にとって好都合である。一部の中国の戦略家は、商業的利益と地域安全保障を護るために不可欠の海外における港湾や基地施設の確保を主張してきた。中国は、グワダル港の40年間の運営管理権を取得しており、インド洋に拠点を確保した。中国もパキスタンもグワダル港の海軍基地化の憶測を否定しているが、近年の両国の緊密な戦略的関係と海軍協力の拡大を考えれば、軍事基地化の可能性は排除できない。

(3)中国は今日、その歴史上かつてない程、海に依存している。従って、北京は、インド太平洋地域における海洋秩序の維持に、外交的にも軍事的にも大きく関わらざるを得ない。グワダル港建設への関与は、中国の海洋における利益と影響力の着実な拡大の好例である。グワダル港への中国の戦略的アクセスは、外洋海軍建設の意図に合致している。戦略的アクセスと戦力の前方展開のための政治的取り決め持たずして、戦力投射が可能な外洋海軍を建設した大国はない。優れた立地条件により、グワダル港への戦略的アクセスは、中東や南西アジア全域に経済的、政治的影響を拡大するための新たな強力な跳躍台となるばかりでなく、この地域の軍事バランスを根本的に変えることにもなろう。

記事参照:
China's Strategic Access to Gwadar Port: Pivotal Position in Belt and Road

【関連記事】

「グワダル港、水不足」(The Maritime Executive.com, January 2, 2017

 グワダル港は、「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」の拠点として期待されているが、拠点港として発展して行くためには、1つの大きな障害を克服しなければならないであろう。グワダル港は砂漠地帯の中にあり、年間降雨量は平均約90ミリに過ぎない。グワダル港の荷役量が増えるにつれ、人口も増大し、1日当たり約5,700万リットル必要な生活用水の供給が困難になっている。パキスタン政府は、この問題をコストのかかる真水製造の脱塩システムによって解決しようとしている。グワダル港に隣接する工業団地には、1日当たり約760万リットルの真水製造能力を持つ脱塩システムが2015年に完成したが、これは生活用水に流用されることになっている。パキスタン政府は最近、1日当たり約1,900万リットルの処理能力を持つ、2基目の脱塩システムの建設を承認した。

記事参照:
China's New Strategic Port Faces Water Shortage

19日「パキスタン、初の潜水艦発射巡航ミサイル実験を公表」(Channel News Asia.com, Reuters, January 9, 2017

 パキスタン軍は1月9日、初めての潜水艦搭載巡航ミサイルの発射実験を行ったと発表した。発射された巡航ミサイルは核弾頭搭載が可能なBabur-3で、射程450キロである。軍の声明は、「パキスタンは、巡航ミサイル開発を、信頼できる最小限抑止力の構築に向けての重要な前進と見ている」と述べている。声明によれば、Babur-3は「各種タイプの弾頭を搭載でき、抑止力を強化する信頼できる第2撃能力となるであろう。」Babur-3は、地上発射型のBabur-2の海洋発射派生型で、発射実験は2016年12月にインド洋海域で実施された。

記事参照:
Pakistan fires 'first submarine-launched nuclear-capable missile'


【補遺】 旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. The U.S. Army's Biggest Fear: Getting Crushed in a Devastating Land War to Russia or China
The National Interest, Blog, January 5, 2017
Kris Osborn, the Managing Editor of Scout Warrior.com

2. China's MSR: A Strategic View from India
Darshana M. Baruah, a research analyst with Carnegie India

3. Japan's Coast Guard and Maritime Self-Defense Force in the East China Sea: Can a Black-and-White System Adapt to a Gray-Zone Reality?
The National Bureau of Asian Research, January 2017
Céline Pajon, a Research Fellow in the Center for Asian Studies at the Institut français des relations internationales (Ifri)

4. Does China have an effective sea-based nuclear deterrent?
CSIS China Power Report

5. U.S.-Sino Relations in the Arctic
A Roadmap for Future Cooperation
CSIS, January, 2017
Editor: Heather A. Conley, Senior Vice President for Europe, Eurasia, and the Arctic; and Director, Europe Program


編集・抄訳:上野英詞
抄訳:秋元一峰・倉持一・高翔・関根大助・向和歌奈・山内敏秀
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