海洋安全保障情報旬報 2016年10月1日-10月31日合併号

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10月1日「中国、永興島に飲料水製造用脱塩装置設置」(Xinhaunet.com, October 2, 2016)

 中国の新華社が10月2日付で報じるところによれば、中国は10月1日、三沙市が所在する西沙諸島のウッディー島(永興島)に、住民の飲料水に供するため、1日当たり海水1,000トンの処理能力を持つ脱塩装置を稼働させた。この装置によって1日当たり700トンの飲料水が確保でき、同島の脱塩能力は1日当たり1,800トンの処理能力を持つことになった。

記事参照:
New desalinator put into use in China's Sansha

102日「米海軍戦闘艦、ベトナム戦後初めてカムラン湾に寄港」(Stars & Stripes, October 4, 2016)

 米海軍駆逐艦、USS John S. McCainと潜水艦母艦、USS Frank Cableは10月2日、ベトナム戦後初めてベトナム中部のカムラン湾に寄港し、4日に出港した。ベトナムは現在、カムラン湾をカムラン国際港として整備している。2012年に当時のパネッタ米国防長官は、ベトナムを訪問した海上輸送コマンドの輸送艦、USNS Richard Byrdの艦上で、将来の米越関係深化のカギとして、空母も寄港できる深水港であるカムラン湾へのアクセス拡大に期待を表明していた。

記事参照:
McCain, Cable first Navy warships to port at Cam Ranh Bay since war

103日「米海軍作戦部長、"A2/AD"用語の使用中止」(The National Interest, October 3, 2016)

米海軍作戦部長Admiral John Richardsonは、10月3日付のThe National Interestのサイトに"Chief of Naval Operations Adm. John Richardson: Deconstructing A2AD"と題する論説を寄稿し、米海軍は独立した略語としての「接近阻止/領域拒否 (A2/AD)」の使用を中止するとして、要旨以下のように述べている。

(1)明快な思考と明快なコミュニケーションは時代を超えて重要なものである。この点に関して取り上げたい最近の例は、頻繁に言及される「接近阻止/領域拒否 (A2/AD)」なる用語である。ある人々にとっては、"A2/AD"は、部隊が甚大な損害を覚悟しなければ進出することができない「立入禁止区域」(keep-out zone) を意味する婉曲的表現である。他の人々にとっては、"A2/AD"は、テクノロジーの結合を意味する。更に、別の人々にとっては、戦略を意味する。要するに、"A2/AD"は、正確な定義がなく、人によって様々な解釈ができる用語である。米海軍は、我々の思考の明晰さと、コミュニケーションの正確さを期するために、様々な意味に解釈される、単独の頭字語としての"A2/AD"の使用を中止する。

(2)使用中止の理由は以下の4点である。
 a.第1に、"A2/AD"は新しい現象ではない。軍事紛争の歴史は、より破壊的な兵器によって敵をより遠くで捕捉し、攻撃することによって、互いに相手より一歩でも優位に立つことを目指してきたことを示している。テクノロジーの進展に伴って、戦術もそれに対応して変化してきた。例え戦闘戦域においても、制海権の確保を目指し、戦力を投射することは、ネルソンの昔から、何も新しいことではない。

 b.第2に、例えば、"anti-access/area denial"という用語における"denial"とは、より正確にはそれが願望であるにも関わらず、あたかも既成事実のように論じられている。しばしば"A2/AD"は、中国やイランなどの国の沿岸沖に赤い弧を引いた地図で論じられる。このイメージは、赤い区域に進出した如何なる部隊も確実に敗北する、即ち"no-go"ゾーンであることを示唆している。しかし、戦闘の現実ははるかに複雑である。これらの弧は確実な危険を示してはいるが、海軍は、それに対処するに当たって非常に思慮深く、用意周到でなければならないが、克服できない脅威ではない。

 c.第3に、"A2/AD"は、本質的に防衛指向である。このことから、赤い弧の外側から作戦行動を始めなければならない、即ち"outside-in"のアプローチという考えにとらわれやすい。しかしながら、実際には、我々は、"inside-out"からでも"outside-in"からでも全方向から戦闘を遂行することができる。

 d.最後に、"A2/AD"問題は、困難な課題だが、良く理解されている。しかし、この問題に固執して、新しい未解決の問題から目を逸らすべきではない。より高いレベルの抗争と競争に対応するために、新たな発展は何かという問題を検討することができていない。

(3)潜在的な敵対者は、世界の様々な地域において我々に挑戦する。多様な地理的環境は、敵対者たちが異なる戦域において戦闘に使用する広範で多様な概念とテクノロジーを決定づける。従って、我々は、"one-size-fits-all"的アプローチによって対処すべきではない。様々な戦域にはそこに特有の課題があるため、1つの用語で全てを表現すれば、更なる混乱を生む。

記事参照:
Chief of Naval Operations Adm. John Richardson: Deconstructing A2AD

105日「南シナ海沿岸国は中国に仲裁裁定の受け入れを強要できるか米研究者論評」(RSIS Commentary, October 5, 2016)

 米タフツ大学助教Michael Beckleyは、シンガポールのS.ラジャラトナム国際学院 (RSIS)のRSIS Commentariesに10月5日付で、"Enforcing International Law in the South China Sea: Can Southeast Asia Keep China in Check?" と題する論説を寄稿し、南シナ海沿岸国が中国に仲裁裁定の受け入れを強要し得るためには、近代的な軍事力の整備のための持続的な投資と、これら軍事力を必要なら行使する政治的意志とが必要であろうとして、要旨以下のように述べている。

(1)多くの研究者は中国がやがて南シナ海を支配し、中国版モンロー・ドクトリンを実現するであろうと見ているが、果たして中国はどの程度その目標達成に近づいているのか。過去150年を見ても、東アジアで海洋覇権を実現したのは、日本(1930年から1940年代初頭まで)とアメリカ(1890年代から現在にかけて)だけである。日米の海洋覇権を可能にしたのは、この地域における海軍力の独占的地位と、海洋に取り囲む陸地における軍事プレゼンスという2つの要素であった。今日の中国は、総トン数から見れば、アジア全域のそれの30%弱だが、中国の海洋隣国は、中国の軍事支出と、近代的な海軍艦艇や巡視船の増強に直面している。

(2)もちろん、中国の軍事力は、東南アジアのどの国よりも遙かに巨大だが、東南アジア諸国は、それぞれが領有権を主張する南シナ海海域へは中国よりも地理的に近い。従って、南シナ海有事の際には、中国は、中国南部から遙かに遠隔の戦闘戦域と沿岸国の多数の小規模な基地群との間で戦力を反復展開させる必要があろう。対照的に、東南アジア諸国は、自国本土を作戦基地として利用できる。南シナ海の西部ではベトナムが、また南側ではインドネシアとマレーシアが、それぞれ軍事力の強化に努めている。他方、南シナ海の東側では、事情が異なる。フィリピンは軍事費の多くを国内治安維持に使っており、中国への対応はアメリカに期待している。しかしながら、歴史的に見れば、アメリカは、自国の死活的な国益が危機に曝されない限り、リスクを冒すことはないであろう。東アジアにおける中国版モンロー・ドクトリンの実現はこれに当たるが、中国によるフィリピンの漁業権に対する侵害はそうではないであろう。フィリピンは信頼できる攻撃能力を整備しない限り、自国沿岸域への中国の侵出は続くであろう。

(3)要するに、東南アジア諸国は、中国に対して南シナ海仲裁裁判所の制定受け入れを要請することはできるが、それを実現するためには、近代的な軍事力の整備のための持続的な投資と、これら軍事力を必要なら行使する政治的意志とが必要となろう。

記事参照:
Enforcing International Law in the South China Sea: Can Southeast Asia Keep China in Check?

106日「南シナ海における中ロ合同海軍演習、その戦略的含意豪専門家論評」(East Asia Forum, October 6, 2016)

豪Griffith University 上級講師Huiyun Fengは、Web誌East Asia Forumに10月6日付で、"Power play in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、南シナ海における中ロ両国が9月に合同海軍軍演習や米中間の抗争がこの地域の冷戦の始まりを意味するかもしれないとして、要旨以下のように述べている。

(1)中ロ両国は9月、中国広東省沖で、2国間合同海軍演習"Joint Sea-2016"を実施した。この演習は2012年以来5回目だが、初めて南シナ海で行われた。この演習実施は、中国が拒否した7月の南シナ海仲裁裁判所の裁定公表後に発表されていた。英紙が指摘するように、この演習は、「この地域におけるアメリカの影響力に対抗する、世界第2位と世界第3位の軍隊間の益々緊密化する絆」を示すものであった。アメリカという共通の脅威に直面して、中ロ両国は、軍事協力を通じて、両国間の戦略的パートナーシップを強化してきている。この合同海軍演習は両国にとって戦略的利益であり、中国にとっては、南シナ海における中国の立場に対するロシアの支持を意味する。ロシアにとっては、この合同海軍演習は、プーチン大統領による「アジアへの軸足移動 (a 'pivot toward Asia')」政策の一環である。

(2)中ロ両国は緊密なパートナーシップを共有しているが、幾つかの潜在的な問題が存在する。中国にとって、ウクライナ危機は、新疆ウイグル自治区、チベット及び台湾における国内の分離独立の問題の深刻さを、指導者に再認識させたかもしれない。ロシアにとっては、中国とのエネルギー貿易はロシア経済の利益になるが。中国に対する天然資源の供給国になることは望んでいない。また、ロシアは、中国の「一帯一路」構想を通じて、中央アジアにおける中国の影響力が浸透するのを傍観しているつもりもない。更に、ベトナムやインドとのロシアの密接な軍事関係や兵器供与は、中国の指導者にとって頭の痛い問題でもある。

(3)ユーラシア大陸やアジア太平洋地域における「チェスボード」は依然、複雑で、極めて抗争的環境である。中ロ両国間の協調的なジェスチャーにかかわらず、地政学的な抗争と戦略的不信感は依然、この2国間の戦略的パートナーシップの制約要因となっている。しかしながら、アメリカという共通の脅威は、密接な軍事協力関係へ、あるいは同盟関係にさえ向けて、中ロ両国に対して戦略的そして歴史的障壁を克服するよう促す要因になるかもしれない。南シナ海における中ロ合同海軍演習や米中間の抗争は、この地域における冷戦の始まりを意味するかもしれない。ASEANは、南シナ海を大国間の抗争の場としないよう、努力すべきである。アメリカ、中国そしてロシアを含む全ての大国は、自らの地域戦略を再考する秋である。

記事参照:
Power play in the South China Sea

107日「沿岸警備機関船舶へのCUES適用の可否―RSIS専門家論評」(East Asia Forum, October 7, 2016)

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際学院 (RSIS) 顧問Sam Batemanは、Web誌East Asia Forumに10月7日付けで、"CUES and coast guards"と題する論説を寄稿し、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (CUES)」は本来海軍艦艇に適用されるもので、沿岸警備隊船舶にまで拡大するのは問題があるとして、要旨以下ように述べている。

(1)「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (The Code for Unplanned Encounters at Sea : CUES)」は拘束力のない協定で、洋上において不慮の遭遇をした海軍艦艇や航空機が従う安全手順と基本的な通信、運用要領を定めたものである。CUESは2014年4月に、中国や、ASEAN諸国を含む21カ国が参加した「西太平洋海軍シンポジウム」で承認された。米中両国の海軍は現在、定常的にCUESを運用しており、2015年末頃、中国はCUSEの運用についてASEANとの共同訓練を提案した。

(2)現在、CUESは、海軍艦艇にのみ適用されているが、各国の沿岸警備隊船舶にまで拡大するようしばしば提案されてきた。2016年初めに中国を訪問した、シンガポールの外相は、中国に対して「CUESは海軍艦艇、沿岸警備隊船舶の両方に適用するよう拡大すべきだ」と提案した。フィリピンも、CUESの適用範囲に、沿岸警備隊船舶やその他の海上部隊を含めることを提案している。アメリカも、CUESの適用範囲を、米沿岸警備隊や中国海警局の船舶に拡大することに関心を示してきた。CUESの適用範囲を沿岸警備隊船舶にまで拡大することへの関心は、南シナ海における海洋事案の大半が沿岸警備隊船舶や海洋法令執行機関の船舶によって対処される事案であるという事実に基づいている。2010年から2016年にかけて南シナ海で確認された45件の大きな海洋事案の71%に、少なくとも1隻の中国海警局巡視船かその他の海洋法令執行機関の船舶が関与していた。

(3)ある程度当然のことながら、域内の沿岸警備機関は、CUESの適用範囲の拡大に難色を示してきた。沿岸警備機関の機能と責任範囲は海軍のそれらとは異なり、また巡視船の運用方法も異なる。最大の兵力を投入しようとする特質の軍と、通常はより慎重で最小規模の部隊を投入しようとする非軍事機関の海洋法令執行機関との間には、基本的な違いがある。沿岸警備機関は、日常の海洋法令執行活動の一環として部隊を運用している。しかも、海洋法令執行活動を遂行する沿岸警備隊船舶の通常の行動には、放水銃の使用、接舷規制、更には警告射撃などが含まれている。しかしながら、こうした行動は、CUESでは避けなければならないとされている。その上、不慮の遭遇をした場合の対応も異なる。海軍艦艇は通常、不慮の遭遇をした場合には距離を置こうとするのに対し、沿岸警備の船舶は相互に接近しようとする場合がある。CUESに定められた安全手順の大半は沿岸警備の船舶にも妥当なものではあるが、CUESの別紙に規定された詳細な通信手続や運用要領に関しては、極めて「海軍」的であり、ほぼ間違いなく沿岸警備の船舶にとって妥当するものではなく、また容易に理解されるものでもない。

(4)多国間の協調体制は、各国海軍間におけるよりも、沿岸警備機関同士の間でより必要かもしれない。各国海軍は明確な職分を持ち、協調について長い歴史を持っている。しかしながら、沿岸警備機関の役割は国によって大きく異なる。こうした事情から、岸警備機関同士の間で、非軍事機関の海洋法令執行機関の船舶が関与する事故を予防し、管理するために、CUESのような取極が必要ではないというものではない。しかしながら、こうした取極は、海上での安全と海上における法令執行活動に対する共通認識に基づいたものであるべきである。

記事参照:
CUES and coast guards

1013日「中国、南シナ海に海洋調査センサー展開」(South China Morning Post.com, October 13, 2016)

 香港紙、South China Morning Post(電子版)が10月13日付で報じるところによれば、中国は、国際観測ネットワークの一環として、南シナ海に8基の国産浮遊式センサーを展開した。それによれば、中国は、自国の衛星システムと連携した水深2,000メートルまでの海洋環境をモニターするために、2017年初め頃までに軍民両用の総計20基のセンサーを稼働させる計画である。中国の全てのセンサーは、30カ国以上の国が参加しているグローバルな観測体制、ARGOの一環を構成する。ARGOは、全世界の海洋に展開する3,800基以上のリアルタイム・センサーで構成されており、観測情報は参加国で共有されることになっている。

記事参照:
Beijing deploys sensors in South China Sea to boost scientific data in disputed waters

1015日「米陸軍のアジアにおける『"A2/AD"の傘』構想」(The Diplomat.com, October 15, 2016)

在ニューヨークの東アジア安全保障を専門とするフリーランサーSteven Stashwickは、10月15日付のWeb誌、The Diplomatに、"The US Army's Answer for an A2/AD Shield in Asia"と題する論説を寄稿し、中国の接近阻止/領域拒否 (A2/AD) 網に対する対抗措置として、米陸軍が構想する'Multi-Domain Battle (MDB)'構想について、要旨以下のように述べている。

(1)接近阻止/領域拒否 (A2/AD) の本来の狙いは、敵対勢力による特定領域の利用や占拠を阻止し、その行動の自由を拒否するために、長距離センサー、巡航ミサイル、更には通常弾頭の戦域弾道ミサイルなどの各種システムを構成することにある。太平洋における紛争事態を想定すれば、米軍艦艇と航空機による第1列島線内の海空域の使用を拒否するとともに、グアムの米軍基地など、更に遠海の第2列島線付近の部隊をも脅かすことを狙いとする、中国のA2/ADシステムによる多正面攻撃に対する、前方展開米軍の対応ということになる。アメリカ版A2/ADの傘という概念はあまり検討されてはいないが、米陸軍は、'Multi-Domain Battle (MDB)'* 構想を通じて、A2/ADの傘を実現するための将来の能力構築に取り組んでいる。米陸軍協会の最近の会議では、MDBは、全ての領域おいて他の軍種と協同で作戦行動を行う超統合陸軍 (a hyper-joint Army) と説明された。これは、地上部隊を、空、海、サイバー、宇宙そして電磁波の全てのスペクトラムにわたる軍事行動に活用しようとするものである。陸軍のMDB構想は、敵のA2/ADの傘と類似のものではなく、むしろ、敵のA2/ADの傘に対処する攻撃的なもので、その目的の1つは、「敵の接近阻止/領域拒否網を打ち破る」ことにある。

(2)A2/ADを打破するMDBの能力には、例えば、①地上軍の作戦領域における防空の狙いとする敵の対空部隊を攪乱するためのサイバー空間への侵入、②空海軍部隊のために敵の地上配備対空、対艦戦力を無力化する地上部隊、③空海部隊を支援する長距離火力支援が可能な地上部隊、④在日、在グアム米軍基地を攻撃可能な中国のDF-26通常弾頭弾道ミサイルなどの接近阻止兵器に対抗する陸軍対空、対ミサイル防衛部隊などがある。しかし、この攻撃的なMDB構想は、結局のところ事実上のアメリカ版A2/ADの傘を目指すものである。即ち、陸軍は、「陸から外部に戦力を投射し」、より直接的に表現すれば、「陸軍によって敵の艦艇を撃沈させ、もってシーコントロールの一翼を担わせる」ことが期待されているのである。これらは、空軍の一部戦力とともに、これまでほぼ海軍単独の責任だった任務である。

(3)この地上部隊による海空領域への戦力投射は、西太平洋の第1列島線から戦力を投射し得るアメリカの信頼できるA2/AD能力となる。従って、このMDB構想は、敵のA2/ADシステムから空海域を防衛するために、陸軍が貢献し得る防衛的手段といえる。中国の濃密なA2/ADシステムを攻撃的に打破するにはあまりにハイコストである場合、結果的にこのMDB構想は、アメリカが配備し得るより広範なA2/ADシールドの構成要素の1つになると見なすことができよう。もしこうしたアメリカの能力が現実化した場合、一部の専門家が予想するように、西太平洋は、現在のアメリカの「コモンズの支配 ("command of the commons")」環境から、有事においていずれの側も海空域における自由な行動を制約される、双方のA2/ADの傘が対峙する戦略環境へと、徐々に変質して行くであろう。

記事参照:
The US Army's Answer for an A2/AD Shield in Asia
備考*:
'Multi-Domain Battle' Concept To Increase Integration Across Services, Domains
併せて以下も参照:
3/4「対中抑止のための『列島伝いの防衛網 ("Archipelagic Defense")』の構築と米陸上部隊の役割―米専門家論評」(『海洋情報季報』第9号(2015年1月-3月)、38~41頁)

1016日「海上自衛隊の能力、アジアで最良」(The National Interest, October 16, 2016)

安全保障問題を専門とする米のフリーランサーKyle Mizokamiは、米誌、The National Interestのブログに、10月16日付けで、"Sorry, China: Why the Japanese Navy is the Best in Asia"と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

(1)アジア最良の海上自衛隊は総数114隻の艦艇と4万5,800人の人員を擁する。海自の主要な戦力組成は46隻の駆逐艦とフリゲート(護衛艦)―英仏両国の配備隻数の合計よりも多い―からなる艦隊である。護衛隊群に編成された日本の護衛艦部隊は日本を侵略から防衛し、日本の領域を奪還するのを支援し、海上交通路を保護するよう設計されている。水上戦闘艦で最も強力なのは「こんごう」級ミサイル搭載護衛艦である。同級の基本的な船型や兵装は、米海軍のArleigh Burke級Flight Iを基礎としている。Arleigh Burke級と同様に、艦の中枢となるのはイージス戦闘システムである。このシステムは、エリア防空における脅威を追尾し対処することができ、また日本全土の弾道ミサイル防衛システムでもあり、「こんごう」級護衛艦で日本のほとんどを防衛可能である。その兵装は第一義的には防衛的である。「こんごう」級の兵装はSM-2MR対空ミサイルとSM-3 Block IB弾道ミサイル迎撃ミサイル(まもなくSM-3 Block IIAに換装予定)である。もう1つの強力な艦種が「いずも」級で、満載排水量2万7,000トン、全長800フィートを超え、全通型飛行甲板、飛行作業を管制するアイランド型艦橋、航空機を昇降するためのエレベーター、そして格納甲板を艦の全長にわたって有している。日本はこの艦をヘリコプター搭載護衛艦として称しており、実際、固定翼ジェット戦闘機を搭載することはできないが、14機の各種の多用途ヘリコプターを搭載可能で、多様な任務に対応できる柔軟なプラットフォームである。

(2)潜水艦部隊は海自のもう1つの主要な構成要素で、増強される中国海軍に対抗するため潜水艦戦力を22隻態勢に強化しつつある。艦隊は2つのクラスの潜水艦から成る。最新型の「そうりゅう」級潜水艦は、非大気依存型スターリング推進装置を搭載しており、水上速力13ノット、水中速力20ノットである。「そうりゅう」級は、前部に533ミリ発射管6門装備し、89式魚雷と米製のハープーンミサイルを合わせて20基搭載でき、海峡を封鎖するために機雷を敷設することもできる。

(3)更に、3隻の「おおすみ」級揚陸艦(海自では「輸送艦」)は小型空母に類似した艦型で、130メートルの全通飛行甲板があるが、航空機昇降用のエレベーターと格納庫を装備していない。「おおすみ」級輸送艦は、最大1,400トンの貨物と10式戦車または90式戦車14両、そして陸上部隊を最大1,000人輸送可能で、ウェル・デッキとLCAC (Landing Craft Air Cushion) 2隻搭載している。この能力は、仮想の敵が占拠した島嶼を奪還する水陸両用戦部隊を必要とする、日本の新しい動的防衛戦略の観点から特に有用である。

記事参照:
Sorry, China: Why the Japanese Navy is the Best in Asia

1016日「米沿岸域戦闘艦、シンガポール到着」(The Diplomat, October 19, 2016)

 米海軍 Independence級沿岸域戦闘艦 (LCS)、USS Coronadoは10月16日、シンガポールのチャンギ海軍基地に到着し、LCSのローテーション展開が始まった。Independence級LCSの東南アジアへのローテーション展開は初めてで、Freedom級LCS、USS Freedom USS Fort Worthに続くものである。USS Coronadoは、LCSとしては初めて超水平線射程の対艦ミサイル発射能力を持ち、4基のAdvanced Harpoon Weapon Control System (AHWCS)発射システムからRGM-84D Harpoon Block 1Cを発射できる。

記事参照:
Conventional Deterrence: Littoral Combat Ship Arrives in Singapore

1017日「中国の東アジア政策の狙いと制約要因豪専門家論評」(East Asia Forum, October 17, 2016)

オーストラリア国立大教授Evelyn Gohは、10月17日付のWeb誌、East Asia Forumに、"Does China Get What it wants in East Asia"と題する論説を寄稿し、中国の東アジアの発展途上国に対する経済開発支援を通じて影響力を拡大しようとする政策について、要旨以下のように述べている。

(1)東アジア地域秩序は転換期にある。中国は、これまでしばしば無視されてきた発展途上国を動員することで、地域的影響力のバランスを変えようとしている。しかし、実際のところ、これら諸国の選択や政策に対する中国の影響力はどの程度のものなのだろうか。アメリカが安全保障重視のアプローチをとってきたのとは対照的に、中国は、アジアの発展途上国との絆を強化することで、これら諸国の国内的正当性、即ち国内支配体制の継続を保証する主たる手段として、経済の成長と発展に対する強力なコミットメントを重視する。それ故、これら諸国と中国との安全保障関係は、より広範な政治的、経済的関係の中に包含されることになる。しかも、経済関係は、アメリカや日本と違って、中国の国営企業が域内への投資を主導するために、戦略的に融通が利く。

(2)地域秩序に対する中国の増大する影響力を考察するに当たっては、以下の5点に注目する必要がある。
 a.第1に、中国は、近隣の発展途上の小国に対して、経済発展の必要性を梃子に、これら諸国政府の多くが望む迅速かつ不透明な2国間投資を供与することで、影響力を行使している。

 b.第2に、中国の戦略的意図は、アジアにおける将来の影響力の拡大を狙ったものである。

 c.第3に、中国は、例え小国相手でも、その狙いを安易に実現しているわけではない。中国の影響力の拡大は、これら近隣諸国の反中グループの存在など、国内政治状況に左右されるからである。

 d.第4に、アジアにおける中国の影響力の拡大は、国際機関、法や規範などの構造的要因にも左右される。

 e.第5に、中国が影響力を行使する方法も制約要因となっている。中国の実務家や研究者は、域内の発展途上の小国に対する場合、同じ問題に対する中国の寛容な影響力の行使と、時に威圧的な行動がもたらす負の効果との関連性を見落としがちである。

(3)中国が発展途上国に対して迅速な借款やインフラ投資を行うことで、戦略的狙いが容易に達成できるかどうかは不明である。いずれにしても、アジア全域における中国の戦略的な開発至上主義的政策の展開は、アメリカや他の域内大国との関係の複雑さと相まって、引き続き注目していく必要がある。

記事参照:
Does China Get What it Wants in East Asia?

1017日「インド、『核の3本柱』保有を認める」(The Hindu.com, October 18, 2016)

 インド国防省筋が10月17日、The Hinduに語ったところによれば、核ミサイル搭載の国産原潜、INS Arihantが8月に正式に就役し、これによってインドは陸、海、空の核運搬手段からなる「核の3本柱」を保有することになった。同筋によれば、秘密を維持するために、これまでINS Arihantについては言及されなかった。同艦は核弾頭ミサイルを搭載でき、海軍はSSBNに分類している。インドは、核ドクトリンにおいて「先行不使用」政策を堅持しており、従って、第2撃能力の保持が不可欠である。INS Arihantは満載排水量6,000トン、83メガワット加圧水型軽水炉を搭載している。搭載ミサイルは、射程750キロのK-15 Sagarikaミサイルで、最終的には現在開発中の大幅に射程が延伸されたK-4に代替されることになっている。

記事参照:
Now, India has a nuclear triad

1020日「南シナ海における漁業管理体制の実現が急務米専門家論評」(Nikkei Asian Review, October 20, 2016)

米Atlantic Council上級研究員Robert A. Manning は、10月20日付のNikkei Asian ReviewのWebサイトに、"The South China Sea enigma: The Fish Imperative"と題する論説を寄稿し、中国の強引な漁業活動が海洋汚染や資源の枯渇、そして領土紛争をもたらしているとして、要旨以下のように述べている。

(1)中国の歴史的権利主張が南シナ海仲裁裁判所の裁定で否定されたにもかかわらず、北京は、南シナ海全域への権利主張を止めず、人工島の造成も続けている。北京の動機の一部は明らかである。即ち、北京は、東アジアにおける優越を実現し、アメリカが中国の行動を確実に妨害できない地域であると誇示したいと望んでいる。また、北京は、海洋大国であり、有事におけるアメリカの介入を阻止し、あるいは介入のコストを吊り上げるために、第1列島線を支配しようとしている。しかし、中国の海洋政策の動機付けとなっている、適切に評価されていない別の要素がある。即ち、漁業である。中国は、ほぼ20万隻の近海用漁船と、南アフリカやアルゼンチンなどの遠海域の他国の200カイリEEZ近くにまで進出可能な遠洋漁船2,460隻からなる、世界最大の漁船団を保有している。中国の漁業は、世界最大の水産加工産業を含め、約1,440万人を雇用している。中国は、世界の漁業生産の約3分の1を占める世界最大の生産国であり輸出国でもある。魚介類の輸出は、2014年に約200億ドルに達した。

(2)漁業は食料安全保障において重要視されているが、沿岸域と200カイリEEZ内での乱獲は、中国の漁業資源を枯渇させた。中国漁業の半分以上は養殖だが、水質汚染、消費者の懸念そして過剰生産によって、増産は制約されている。従って、中国が自国管轄海域外での遠洋漁業を奨励してきたことは驚くに足らない。中国は、南シナ海の係争海域での操業のために、特別の「南沙諸島補助金」を漁民に提供している。北京のこうした政策は東シナ海や南シナ海の係争海域における操業を加速しているが、他方で中国の海洋におけるこうした強引な活動は、海洋環境の汚染と領土紛争を引き起こしている。

(3)海洋環境の汚染や領土紛争を別にしても、中国の漁業政策は自滅的でもある。中国は、自国の管轄海域における漁業資源を枯渇させた上に、今や域内の海域や世界の海域で乱獲している。中国漁船団の到達海域の拡大は東シナ海や南シナ海における海洋プレゼンスの維持や海洋権利の主張を強化しているかもしれないが、他方で、海洋での衝突事案の増大に加えて、その意図に対する域内の懸念を高め、結果的に域内の多くの国によるヘッジ戦略を促しているのも事実である。また、経済的にも逆効果である。短期的には、中国の水産加工を間違いなく増加させるが、今後5年先、10年先を考えると、魚種資源の枯渇と漁民の失業を招き、結果的に全てを失うことになろう。

(4)国連食糧農業機構 (FAO) は6月に29カ国とEUが署名した、新しい画期的な国際漁業協定が発効したと発表した。この協定は、持続可能な漁業管理体制のために、違法操業を抑制し、グローバルな規範を作ることを目的としている。しかし、中国は加盟国ではない。中国が南シナ海における持続可能な漁業管理体制や漁業権を割り当てなどの関する取り決めや、石油・天然ガス資源の共同開発のための2国間や多国間の取り組みの実現に努力すれば、域内の緊張を緩和し、また中国のイメージの回復に役立つであろう。

記事参照:
The South China Sea enigma: The Fish Imperative

1021日「米海軍、南シナ海で『航行の自由』作戦実施」(USNI News, October 21, 2016)

 米海軍は10月21日、南シナ海で中国が占拠する海洋自然地勢の周辺海域で「航行の自由 (FON)」作戦を実施した。米国防省広報官に発表によれば、誘導ミサイル駆逐艦、USS Decatur (DDG-73)は、ベトナム沿岸沖の西沙諸島にあるトリトン島(中建島)とウッディー島(永興島)周辺海域でFON作戦を実施した。広報官は、「USS Decatur (DDG-73)は単艦で、事故もなく、通常の合法的な航行を行った」と語った。同艦のFON作戦は、いずれの島の12カイリ以内の海域も航行しなかったが、西沙諸島周辺の直線基線から12カイリの海域を中国の領海と主張する、国際法上認められない過剰な海洋権利主張に挑戦したものであった。今回の南シナ海でのFON作戦は5月以来で、2016年では3回目であった。

記事参照:
U.S. Warship Conducts South China Sea Freedom of Navigation Operation

1027日「南シナ海紛争における小国と大国、その視点と対応の相違比専門家論評」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, October 27, 2016)

比Ateneo de Manila University講師Lucio Blanco Pitlo IIIは、米シンクタンク戦略国際問題研究所 (CSIS) のAsia Maritime Transparency Initiativeのサイトに、10月27日付で "Of Claims and Freedoms: Diverging Perspectives on the South China Sea"と題する論説を寄稿し、南シナ海紛争における小国と大国もそれぞれの視点と対応の相違について、要旨以下のように述べている。

(1)国家間のパワーの差異は、南シナ海紛争に対する当該国家の考え方や対応の仕方に影響を与えている。小国は、それを、半閉鎖海の全てまたは一部に対する一方的な領有権主張や海洋権利主張と見なす。他方、大国は、それを、より戦略的な枠組、即ち重要な国際航路の支配を巡る抗争の中で考える。小国が資源へのアクセスなどに対する直接的な脅威を重視するが、大国は、航行および上空飛行の普遍的な自由を重視する。権利主張と普遍的自由を一括りにすれば、南シナ海紛争の解決を複雑にする。しかし、それらを分離して考えれば、この紛争の諸問題に個別に取り組むことができるかもしれない。

(2)権利主張と普遍的自由の問題を分離すれば、直接的な領有権紛争当事国に加えて、普遍的自由の観点から、アメリカ、日本そしてオーストラリアといった海洋国家も、この紛争の当事国であることが見えてくる。更に、権利主張の観点から、南シナ海は、国連海洋法条約 (UNCLOS) で認められたEEZや伝統的漁業権の主張が重複する隣接沿岸諸国間で必然的に発生した紛争でもある。UNCLOSは、このことを見越して、協調的かつ平和的な紛争の解決を促進する条項を定めている。これらの既存の紛争解決メカニズムや確立された国家的慣行を考えれば、権利主張に起因する紛争は、普遍的自由に起因する紛争よりも管理が容易である。加えて、権利主張を巡る当事国が隣接国であるという事実は、紛争解決への、あるいは少なくとも管理へのインセンチブを高めている。

(3)対照的に、航行の自由を巡る紛争は、主として海軍大国間の抗争と見なされる。そして、外部の大国が権利主張を巡る紛争に対して厳正中立を維持しているのと同様に、権利主張の当事国である小国も、大国間の地政学的抗争に対しては公平性を維持するように努力している。大国間の抗争を管理するメカニズムはほとんどなく、抗争は当該大国間の関係の現状に左右される。大国と小国は、意図するにせよ、しないにせよ、自国の利益を促進し、政策決定における選択の幅を確保するために、権利主張と普遍的自由の境界線を不鮮明にしている。力の非対称性を補うために、弱小で軍事的に不利な東南アジアの権利主張国は、ASEANや、アメリカ、日本、オーストラリア及びインドのような域外のアクターに支援を求めている。逆に、これらの大国は、中国との自らの地政学的抗争における梃子として、これら小国の存在を利用する。他方、大国であり、かつ権利主張国でもある中国は、域内大国の干渉を阻止するために、南シナ海問題を、権利主張国との直接的な2国間交渉を介して対処されるべき問題と考えている。

(4)権利主張を巡る大国と小国間の関係悪化は、小国をして、外部の支援を求め、2国間協議を控えるよう促す。当該小国は、相手の権利主張大国からのより高圧的な行動を避け得る限り、普遍的自由の問題に便乗するであろう。国際社会が小国に対して大きな結束と共感を見せる場合、権利主張を巡る紛争の「国際化」は、最も良く機能する。そうでなければ、その効果は乏しくなる。常に小国は、大国間の抗争の中で、行動の余地を見つけ出そうとする。大国間の穏健な関係は行動の余地を広げる可能性があるが、大国間の摩擦や抗争の激化はそれを小さくさせる。グローバルな、そして地域的な経済的インセンチブと、小国の独自の国内需要は、大国間の抗争を、軍事分野から、インフラ投資のようなより生産的な分野(例えば、インドネシアの高速鉄道に対する日中間の入札競争など)に、仕向けることもできる。特に隣接する大国と小国の関係は、必ずしも一方通行ではなく、また安全保障や政治分野に限定されない。むしろ、それは、関係の他の側面をも考慮した、広範かつ包括的なものと見るべきである。小国は、両サイドから最大限の成果を引き出すために、大国と別の大国が争うように仕向けることができる。同時に、小国は、普遍的自由を巡る抗争が南シナ海を大国間紛争の舞台に変えることを阻止する役割をも果たすことができる。

記事参照:
Of Claims and Freedoms: Diverging Perspectives on the South China Sea

1028日「中国初の国産空母の意義米専門家論評」(The National Interest, Blog, October 28, 2016)

米ケンタッキー大上級講師Robert Farleyは、米誌The National Interestのブログに10月28日付で "Everything We Know About China's New Aircraft Carrier"と題する論説を寄稿し、中国初の国産空母建造の意義について、要旨以下のように述べている

(1)中国初の国産空母は、ゆっくりとだが着実に完成に向かっている。この空母は2015年に起工され、2017年か2018年に進水すると見られており、2020年前後に戦列に加わるであろう。空母建造プロジェクトに関する透明性の不足が、様々な憶測をかき立てている。中国初の空母「遼寧」(CV-16) の場合がそうであったが、初の国産空母も艦名について様々な推測がなされているが、現在のところ、多くの専門家は"CV-17"と表記している。では、CV-17について何処まで分かっているのだろうか。

(2)まず、大連造船所で建造中のCV-17の画像は、同艦が中国初の空母「遼寧」に酷似していることを示している。CV-17は「遼寧」とほぼ同じ大きさで、スキージャンプ式の甲板を有しており、明らかに通常動力の推進装置となっている。公になっている幾つかの模型から推測して、米海軍大のAndrew Ericksonは、CV-17はガスタービンまたはディーゼル/ガスタービンを使用しているかもしれないと見ている。なお、「遼寧」の推進装置についての情報は依然錯綜しており、不確かであるが、多くの専門家は、ロシア式の蒸気タービンを使用していると推測している。ある意味で、CV-17は、最近堂々と英仏海峡を通峡したロシア海軍唯一の空母Admiral Kuzetsovの異母妹になるであろう。中国が少しは原設計に改良を加えると思われるが、艦の骨幹部分は旧ソ連の黒海の造船所で1990年に建造された艦と非常に類似している。これは1つの設計にこだわり続けるように見えるが、米海軍のNimitz級原子力空母も40年にわたって同じ基本設計によって建造されている。

(3)CV-17は、中国の造船所がこれまで建造してきた艦艇の中でもずば抜けて大きな艦である。世界中の造船所の中で、空母を建造できる造船所の数は極めて少ない上に、建造に必要な技能を持つ工員の数も急速に減少している。その意味で、CV-17の建造は、軍にとって有用であると同時に、中国造船工業界にとっても有益である。CV-17の建造によって得られた経験は、より近代的で、効率的な設計になると見られる次の空母建造に役立つ。しかし、中国の造船所は、第一級の空母を建造する前に幾つかのハードルを乗り越える必要がある。中国の造船所は、実戦で使用できる水上艦用の効果的な原子力推進装置のモデルを開発するか、あるいは現存の通常動力装置を進化させる必要がある(中国のエンジン製造は信頼性の向上に苦心してきた)。また、中国の造船所は、スチーム・カタパルト(非常に複雑な工程が必要である)を装備するのか、あるいは一足飛びに電磁カタパルト装置を採用するのかを決定しなければならない。一部の報道では、CV-17は、スキージャンプに加えてカタパルトを装備すると見られているが、現在の造船工業界の能力の面から注目される。

(4)十中八九、CV-17はJ-15戦闘機を搭載するであろうが、いずれJ-31ステルス戦闘機を搭載することになるかもしれない。しかしながら、現時点では将来の艦載航空隊については全く想像の域を出ない。ロシア海軍の空母Admiral Kuzetsovと同様、CV-17は、大型の早期警戒機を発進させるためには能力不足で、このため戦闘空間の全体像を得るためには陸上地基早期警戒機や他の各種センサーに頼らざるを得ない。このことは、「遼寧」よりも遠海への進出を期待されているにもかかわらず、CV-17は遠征戦闘群の中核になり得ないことを示している。CV-17の艦載航空機は、航続距離、搭載量、そして独立した遠征作戦を遂行するのに必要な指揮統制システムが不足している。CV-17は、Admiral Kuzetsovと同様に、全般的な性能から見れば、米海軍のNimitz級やFord級空母よりも、むしろAmerica級強襲揚陸艦の1番艦により似通っている(抄訳者注:筆者のFarleyは、America級をlight carrierとしているが、現在のAmerica級は強襲揚陸艦 (Amphibious Assault Ship) で、艦種記号もLHAであり、その満載排水量は約4万6,000トンである。なお、先代のAmerica級はKitty Hawk級空母の3番艦で満載排水量は約8万4,000トンで、艦種記号はCVAまたはCVであった。ちなみにAdmiral Kuzetsovの満載排水量は約5万9,000トンである)。

(5)大半のチャイナウォッチャーは、中国海軍がCV-17より後の空母ではより大型で、より先進的な設計に移行すると見ているようである。その場合の新機軸としては、米空母に取り入れられているスチーム・カタパルトか電磁カタパルト、そして原子力推進装置のような多くのシステムが含まれるであろう。そうだとすれば、CV-17は次期空母への踏み台であり、CV-16が中国海軍に基本的な空母からの飛行技能を開発する機会を与えたように、CV-17は中国の造船工業界により大型の艦船を建造する経験を与えることになろう。では、CV-17はどのように運用されるのであろうか。インド海軍は性能要目が全く異なる空母3隻を保有しているが、中国海軍がインド海軍と同じ道を辿らないのであれば、CV-17の次の空母が空母戦闘群の中核となるであろう。従って、CV-17は、比較的旧式なCV-16と同じ戦闘群を構成し、二義的な作戦行動を実施することになろう。「遼寧」はその艦齢を考えなければならない時期が近づいており、しかもその特殊な建造の歴史を考えれば、やがてはCV-17が「遼寧」に代わって訓練任務に就くことになるかもしれない。そのことを念頭に置けば、CV-17の建造は中国の海洋への強い願望に向かっての依然分岐点にあり、CV-17は、「遼寧」とともにより大型でより高性能の空母建造への扉を開き、中国の海軍航空部隊の発展を加速することになろう。中国がCV-17のどのような艦名付けるか注目される。

記事参照:
Everything We Know About China's New Aircraft Carrier

1029日「中国沿岸警備隊の新型巡視船、海軍フリゲートへの短期間の改装可能な設計米海大准教授論評」(The National Interest, Blog, October 29, 2016)

米海軍大学准教授Lyle J. Goldsteinは、The National Interestの10月29日付のブログに、"China's New Coast Guard Vessels Are Designed for Rapid Conversion into Navy Frigates"と題する論説を寄稿し、中国沿岸警備隊巡視船が海軍のフリゲートに短期間で改装できるように設計されているとして、要旨以下のように述べている。

(1)この数年間、アジア太平洋情勢と複雑な南シナ海紛争を注視している専門家にとって、中国海警局の沿岸警備隊 (Chinese Coast Guard: CCG) は大きな関心事となっている。米海軍情報部は2015年の報告書で、CCGを世界最大の沿岸警備隊と位置付けた。中国の大規模な巡視船隊は、2012年の北京とマニラの間で生起したスカボロー礁(黄岩島)を巡る対立から、2014年春に西沙諸島沖で北京とハノイの間で生起した海洋石油掘削リグの設置を巡る危機まで、幾つもの紛争海域で活発に活動してきた。中国における一部の戦略分析で公然と議論されているように、これらの従来よりも大型の「白い船体」は、北京の新しい海洋戦略の「槍の刃先」となっている。従来の西側の解釈では、CCGは、国威を発揚し、近隣諸国の漁民を乱暴に取り締まり、そして他国の海上法令執行船舶をあらゆる手段を行使して恫喝するために、所要のトン数、航続距離、通信そして機構を整備発展させてきた。

(2)そして現在、北京は「槍の刃先」を一層鋭いものにしようとしている。船番46301の新型巡視船がまもなく就役予定である。この注目すべき巡視船が画期的なのは、これが中国海軍のType 054フリゲートの巡視船型であることが確認されたからである。Type 054フリゲートは強力な兵器とセンサーを装備しているため、海軍分析家の間では高い評価を得ている。アメリカと同盟国の海洋戦略家たちを当惑させているのは、この大型巡視船が搭載武器を含めCCGの能力レベルを新たな水準に引き上げるだけでなく、更に憂慮すべきは、ほぼ間違いなくこの大型巡視船が比較的短期間に本物の海軍戦闘艦に転換できるように設計されており、従って海軍の予備戦力を構成することになるという現実的な可能性である。実際に、この新型の大型巡視船、Type 818の設計をかなり詳細に解説している、中国の海軍雑誌、『艦船知識』2016年8月号の図表では、キャプションで「・・・戦時において、この船舶は迅速にフリゲートになるという隠れた機能が組み込まれている」と断言している。この図表によれば、この大型巡視船は、全長134メートル、排水量3,900トンで、76ミリの主砲、2門の重機関砲、4門の高圧放水銃、そして1機のZ-9 ヘリコプターを装備している。そして、この雑誌では、第2次世界大戦において米沿岸警備隊のカッターが、大西洋においてドイツのUボートを沈めたことが説明されている。

(3)中国の雑誌『現代の艦船』2016年7月号の記事と関連の図表は、4隻のType 818の建造契約が2013年12月に締結されたことを含め、更に詳細な説明を加えている。この記事によれば、Type 818とType 054Aフリゲートの主砲と火器管制システムは同じである。この記事の筆者である退役海軍提督によれば、海洋における警察任務のための軽武装の巡視船開発に当たって、フリゲートと巡視船の船体設計を共有する構想が生まれた。同提督は、この巡視船の前甲板は十分な予備空間を持つため、国際的な緊張が高まれば、「垂直発射システム (vertical launch system: VLS) を組み込むことは問題ではない」と指摘している。更に、電気システムを強化し、対空捜索レーダーを追加し、曳航式ソナー・アレイ・システムや、パッシブとアクティブのソナー・システムの装備も可能である。また、30ミリの機関砲を取り除き、近接防御火器システム (Close In Weapon System: CIWS) に置き換えることもできる。

(4)筆者 (Goldstein) はこれまで、中国の海洋法令執行船隊の「漸進的な近代化」について指摘してきたが、今やこのプロセスは完了に近づいているようである。実際、数カ月以内に、真の海軍戦闘力に変換できるCCGは、中国の海洋戦略に関する新たな懸念を高めている。結局のところ、護衛艦対潜水艦という激しい消耗戦では、隻数が大きくものをいい、より多くの艦船は中国有利にバランスを変化させることになるかもしれない。しかしながら、中国は、沿岸警備隊を予備海軍戦力として展開する最初の海洋国家ではない。実際、アメリカ、そして日本も、こうした方法をとっている。中国をして海洋紛争の更なる軍事化に駆り立てるような対決を辞さないアプローチではなく、アメリカとその同盟国は、より拡充され、行動範囲が拡大されたCCGを、海洋環境保護という現在の差し迫った任務とともに、特にかってない航行量を誇るこの海域での捜索救難任務を含め、世界のすべての海洋における「好ましい海洋秩序」を実現し得る有力なパートナーと見なすのが賢明である。

記事参照:
China's New Coast Guard Vessels Are Designed for Rapid Conversion into Navy Frigates


【補遺】 旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書など

1. Chinese Perceptions of the "Third Offset Strategy"
China Brief, The Jamestown Foundation, October 4, 2016
By Peter Wood, Peter Wood is a Program Associate for China at The Jamestown Foundation and also serves as the Editor of China Brief.

2. Taiwan's Defense Policy Under Tsai
China Brief, The Jamestown Foundation, October 4, 2016
By Oriana Skylar Mastro, Dr. Oriana Skylar Mastro is an assistant professor of security studies at Georgetown University.

3. Transcript: U.S. Strategy in Asia: Is the Pivot Working?
John B. Hurford Memorial Lecture: U.S. Strategy in Asia: Is the Pivot Working?
Council on Foreign Relations, October 6, 2016

4. Over the Line: Tracking Energy Competition in the East China Sea
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, October 14, 2016

5. China May Be Rising, But America Is Not in Retreat
The National Interest, October 20, 2016
Rajan Menon, Rajan Menon is Anne and Bernard Spitzer Professor of International Relations at the Powell School, City College of New York/CUNY and senior research fellow at the Saltzman Institute of War and Peace Studies, Columbia University.

6. The PLA Navy
CSIS, October 24, 2016
By Anthony H. Cordesman with the assistance of Joseph Kendall

7. Chinese Military Aviation in the East China Sea
China Brief, The Jamestown Foundation, October 26, 2016
By Peter Wood, a Program Associate for China at The Jamestown Foundation and also serves as the Editor of China Brief.

8. Downsizing the PLA, Part 1: Military Discharge and Resettlement Policy, Past and Present
China Brief, The Jamestown Foundation, October 26, 2016
By John Chen, John Chen is a research intern at the National Defense University. The author would like to thank Dr. Phillip C. Saunders, Dr. Joel Wuthnow, David C. Logan, Dennis J. Blasko, and Ken Allen for their invaluable insights and generous assistance.

9. Downsizing the PLA, Part 2: Military Discharge and Resettlement Policy, Past and Present
China Brief, The Jamestown Foundation, November 11, 2016
By John Chen, John Chen is a research intern at the National Defense University. The author would like to thank Dr. Phillip C. Saunders, Dr. Joel Wuthnow, David C. Logan, Dennis J. Blasko, and Ken Allen for their invaluable insights and generous assistance.


編集・抄訳:上野英詞
抄訳:秋元一峰・倉持一・高翔・関根大助・向和歌奈・山内敏秀
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