海洋安全保障情報旬報 2017年2月1日-2月28日合併号

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21日「ベトナムの領域拒否戦略が目指すもの在ハノイ専門家論評」(Geopolitical Monitor.com, February 1, 2017

 在ハノイの防衛アナリスト、Nicolas Jouanは、Webサイト、Geopolitical Monitorに2月1日付で、"Vietnam's Area Denial Strategy and the South China Sea Dispute"と題する論説を寄稿し、ベトナムが目指す領域許否戦略について、要旨以下のように述べている。

(1)初めて「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」なる用語が広範囲に使用された場所は南シナ海で、実際に領域拒否戦略を展開してきたのはベトナムであった。ベトナムはここ数年間、南シナ海、特に西沙諸島と南沙諸島における海洋権限主張を巡って中国と対立し、東アジアにおける主たる発火点となってきた。問題は単純であるが、解決は難しい。即ち、中国はより大きく豊かで、人口も多く、その挑戦的行動はベトナムの利益に脅威を及ぼしている。このため、ベトナムは隣国に対し均衡を図ることを選択した。ロシアから購入した6隻のKilo級潜水艦の1番艦が2013年にハノイに到着した時、ある専門家は大胆にも、ベトナムがA2/AD戦略を採用したと指摘した。それから4年後、最後の6番艦がカムラン港に到着した。こうしたベトナムの通常戦力による抑止戦略は何を意味するか。

(2)国防の視点から、領域拒否は、2つの異なった側面―在来型脅威と非在来型脅威―から検討されなければならない。ベトナム海軍の能力は6隻のKilo級潜水艦によって強化されたが、これは、海洋における在来型脅威に対抗し、紛争生起の場合には少なくとも一定期間、ベトナム海軍と中国海軍との明らかな戦力格差を相殺することを狙いとするものである。言い換えれば、ハノイは、いかなる敵対者に対しても海洋紛争において大きなコストを強いることによって、在来型の抑止力を強化したわけである。これは最悪の事態を想定したものであるが、軍事専門家はむしろ、伝統的な国家間の紛争管理が及ばない、海上民兵、いわゆる「ブルーボート」の脅威に注目している。

(3)中国は「主権を護る」ために強力な「ブルーボート」部隊を運用しているが、政府との関係はしばしば意図的に不明確にされている。端的に言えば、南シナ海紛争における「ブルーボート」の役割は、隣国の漁業活動や海運を妨害することで隣国の経済活動を阻害することである。この脅威に対するベトナムの回答はその詳細が秘匿されている。ベトナムが公式に海上警察を沿岸警備隊と改称し、ハノイの安全保障政策においてより大きな役割を担い始めたのは、僅かに2013年からに過ぎない。海賊や密輸といった国家の枠組みを超えた脅威は、ベトナム沿岸警備隊の発展を促してきた。安倍総理は最近のハノイ訪問で、グエン・スアン・フック首相との間で、日本の対越投資や開発借款の増加、ベトナム沿岸警備隊への新巡視船6隻の提供に合意した。これは、ベトナムが南シナ海における監視能力を強化し、非在来型脅威に対応する上で役立つであろう。

(4)ハノイの核心的利益は、海上における総力を挙げた中国の攻撃を想定し、それに備えることより、むしろ漁業や海上交通の安全の確保にあることが明らかになってきている。 従って、海洋における監視活動と法令執行活動に対する投資は、瀬戸際政策という非難を回避しながら、国家の海洋におけるプレゼンスを増大させる便利な手法となっている。ベトナムの領域拒否戦略の将来が、南シナ海における地政学的均衡を維持することに利益を見出す国々との2国間のウイン・ウイン関係を発展させるとともに、非在来型脅威を監視し、対応する能力を目指していると理解すべき所以である。

記事参照:
Vietnam's Area Denial Strategy and the South China Sea Dispute

【関連記事1

「ベトナム、海洋拒否戦略から対中侵略代価強要戦略へ―RSIS専門家論評」(The National Interest, February 16, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)研究員Koh Swee Lean Collinは、2月16日付の米誌The National Interest(電子版)に、"Vietnam's Got a New South China Sea Strategy"と題する論説を寄稿し、ハノイは伝統的な海洋拒否戦略から中国に対する侵略の代価を吊り上げる戦略に徐々にシフトしてきたとして、要旨以下のように述べている。

(1)かつての938年の南漢と1288年の元による2度に亘る中国のベトナム侵攻を、ハロン湾のバクダン川河口で撃退したのは、強大な敵に対するベトナムの巧妙な非対称戦闘によるものであった。この戦闘は、ベトナムが海上での戦いに本質的に陸上の戦術を用いて撃退した稀な成功例であった。しかも、バクダンの海上戦闘は、南シナ海の広闊な海域ではなく、元軍のジャンクが自由に運動できない、ベトナム沿岸域の浅海域での戦いであった。しかし、ベトナムは1988年3月、係争中の南沙諸島の公海における中国との海上戦闘では敗北した。この戦闘は、公海での海上戦闘に慣れておらず、艦艇の隻数と火力で劣るベトナムより、海戦に関しては中国海軍の方が上手であることを証明した。この戦闘は、ハノイが南沙諸島で主権を主張する領域への中国の侵出阻止を狙いとしたものであったが、ベトナム軍はベトナム沿岸から遠く離れた海域に展開し、迅速かつ十分な増援ができなかったため、この戦闘の結末は短時間で決定的なものとなった。ベトナムは、彼らの海軍力の限界を認識させられた。ベトナムは、かつてのバクダンの成功例を繰り返す以外に術がなかった。故に、中国とベトナムの海軍力における大きな、しかも拡大しつつある非対称性を考えれば、ハノイが海洋拒否戦略(sea-denial strategy)に固執しなければならないということは、ほとんど所与のものと考えられてきた。本質的に、海上拒否戦略は、利害のある海洋領域への敵対者のアクセスを拒否または妨害することを想定している。

(2)しかしながら、ベトナム人を運命論者と見ることは間違いであろう。ベトナムは、以前から伝統的な海洋拒否アプローチの限界を認識しており、従って南シナ海における中国の軍事侵略を阻止するための戦略を強化しようと努めてきた。ハノイは6隻のロシア製Kilo級潜水艦を受領して潜水艦隊の編成を完了し、2017年内の運用開始を目指していることから、ベトナムの海軍戦略が海洋拒否を重視したものとのイメージが依然強い。確かに、潜水艦、特に通常推進潜水艦は一般的に海洋拒否戦力と見られているのは事実だが、ベトナムの場合は、この特性を超えて見る必要がある。6隻のKilo級潜水艦はすべて、魚雷や機雷といった通常の海洋拒否用兵装だけでなく、最大300キロ離れた目標を攻撃可能なロシア製のKlub-S潜水艦発射対地攻撃巡航ミサイル(SLCM)も搭載している。オーストラリアのベトナム軍事専門家Carlyle Thayerによれば、ベトナムのSLCMは、中国本土南部の沿岸都市を攻撃するより、むしろ海南島三亜市の海軍基地などの、中国の港湾や飛行場に対して使用されるであろうという。この反撃能力の役割はハノイの戦略的な守勢抑止戦略の範囲内にあるが、このような攻撃的能力の取得は、海洋拒否アプローチから逸脱していることは確かである。ベトナムにとって、北京に対する侵略の代価を吊り上げる手段を持たないで、中国の侵略を抑止することは望めない。三亜市の前方展開海軍部隊を破壊する可能性がそのような事例の1つである。

(3)ロシアは、2015年後半のシリアでの軍事行動で、小規模の海軍部隊が限定的な遠距離戦力投射を実行できることを実証した。Kilo級潜水艦Rostov-on-Donは、内陸部に対する縦深攻撃においてSLCMを発射した最初の通常型潜水艦となった。しかしながら、ロシア軍は、GLONASS衛星誘導システムなどのC4ISR能力を活用することで、SLCM攻撃を成功させた。ベトナム軍は、無人航空機や遠隔検知超小型衛星を中心とした自前のC4ISR計画を進めているが、現在の衛星ベースのターゲティング機能は、商業衛星画像に依存しており、内陸部への攻撃には有用ではない。とはいえ、この欠陥は、沿岸域の目標に対するベトナムの反撃能力を損ねるものではないであろう。戦略的縦深性とそれを護る自然な地形がなければ、中国の三亜海軍基地は、縦深侵攻攻撃のためのこれらのようなC4ISR標的機能を必要としない、水面を超えるミサイル攻撃の脅威に晒されている。更に、ハノイは、潜水艦以外にも、北京に対する侵略の代価を吊り上げる能力の強化を目指している。ベトナムは、伝統的な海洋拒否アプローチから脱却し、より堅牢な介入阻止戦略を具体化しようとしている。例えば、海兵隊は南沙諸島における島嶼奪還訓練を実施しているが、これは1988年当時では思いもよらなかったことである。また、ベトナムは2016年5月、ロシアとの間でGepard 3.9級軽誘導ミサイルフリゲートの追加購入する交渉を行っていると報じられた。ハノイはGepard 3.9級軽誘導ミサイルフリゲートにKlub SLCMの搭載を望んでいるとされ、特に注目される。Kilo級潜水艦Rostov-on-Donと同様に、Gepard 3.9級と同じ大きさのロシア海軍カスピ海小艦隊のコルベットは、小型水上戦闘艦がSLCMによる対地攻撃を実施できることを実証した。ハノイがこのことに触発されたことは、明らかである。ハノイは、伝統的な海洋拒否戦略から中国に対する侵略の代価を吊り上げる戦略に、徐々にシフトしてきた。2017年の潜水艦艦隊の発足は、正にこの方向への最初の主要なステップといえよう。

記事参照:
Vietnam's Got a New South China Sea Strategy

【関連記事2

「ベトナムの最後の6隻目のキロ級潜水艦、就役」(Tuoi Tre News, March 1, 2017

 ベトナムがロシアから購入したKilo級潜水艦の最後の6番艦の就役式典が2月28日、首相や海軍司令官をはじめ関係者の列席の下にベトナム中部のカムラン湾基地で行われた。同艦の艦名はHQ-187 Ba Ria - Vung Tauといい、2014年から2015年にかけて引き渡された4隻、HQ-182 Hanoi、HQ-183 Ho Chi Minh City、HQ-184 Hai Phong及びHQ-185 Khanh Hoa、2016年2月に引き渡されたHQ-186 Da Nangとともに、ベトナムの沿岸防衛の主力となる。Kilo級潜水艦は、満載排水量3,000~3,950トン、全長74メートル弱で、最大潜航深度300メートル、52人の乗組員で45日間、6,000~7,500カイリの航行能力を持つ。

記事参照:
Vietnam completes commission of six Kilo-class submarines

23日「トランプ政権の南シナ海政策と北京の対応米専門家論評」(Asia Times.com, February 3, 2017

 元米海兵隊大佐で日本戦略研究フォーラム上級研究員Grant Newshamは、2月3日付のWeb誌Asia Timesに"What has Beijing achieved in the South China Sea?"と題する論説を寄稿し、トランプ政権の登場によってアメリカが自国の利益を護る意欲があるように思われる現在、第1列島線内での中国の強みは戦略的な優位にはならないかもしれないとして、要旨以下のように述べている。

(1)ティラーソン米国務長官は上院承認公聴会で南シナ海の中国の人工島へのアクセス拒否を示唆して物議を醸したが、アメリカの圧力に直面して後退することは中国にとって屈辱的であり、共産党政権の存続を脅かしかねない。アメリカが事実上傍観している内に、中国は、南シナ海に対する支配を事実上確立し、第1列島線内における態勢を大幅に強化した。これによって第1列島線内における敵対勢力の作戦活動は極めて困難なものとなろう。しかしながら、アメリカが自国の利益を護る意欲があるように思われる現在、第1列島線内における中国の強みは、戦略的な優位にはならないかもしれない。

(2)地理は不変の要素であり、従って、アメリカとパートナー諸国がいざとなれば、中国軍を第1列島線内に閉じ込めることができるという可能性がある限り、この地理環境は中国に有利とはいえない。そして、必要なら、第1列島線内における中国軍の活動を非常に難しくすることもできる。この地理環境は、第1列島線を効果的な障壁としている。第1列島線には「アクセス(または出口)ポイント」が比較的少ないし、通り抜けようとする敵からアクセスポイントを防衛するのは容易である。陸上基地と艦艇搭載の対艦ミサイルと長距離精密砲、機雷、対空システム及び対潜兵器など組み合わせて活用すれば、全てのポイントを防御し、封鎖することができよう。これらの兵器の大半は、第1列島線内にも同様に十分に届くし、また西側から「中に届く」ベトナムの能力も忘れるべきではない。日本は既に、琉球列島にこのような防衛ネットワークを導入し始めている。加えて、第1列島線の封鎖に使用できる、アメリカの海軍水上戦闘艦艇、潜水艦、航空戦力、海兵隊そして偵察監視能力が存在している。米海兵隊退役大佐TX Hammesが唱える、「オフショアコントロール」概念は、トランプ政権にとって検討に値する有益な構想といえる。

(3)中国の威圧的な行動は、どの国も中国の行動に抵抗する能力も意志もないと見なしているかのようであった。しかし、習近平の高圧的な行動は、日本が防衛にこれまで以上に真剣に取り組むという、歴代の米政権さえできなかったことを、思いがけず実現させてしまった。恐らく、北京がアメリカは「何もしないであろう」と信じたのには理由があった。フィリピンと中国の船舶同士が2012年にスカボロー礁周辺海域で対峙した時以降のアメリカの行動、例えば、北京が人工島の造成を本格化させた状況下でも、RIMPAC演習に中国海軍を招待したこと、更に2016年7月の南シナ海仲裁裁判所の裁定後のフィリピンに対する不十分な支援などが、北京をそのように信じさせることになった。従って、トランプの当選は、アメリカの黙認に頼った北京の威圧的な行動に対する阻害要因となった。

(4)アメリカの政策の変化は歓迎されるかもしれないが、東アジアの支配を目指す中国に対抗していくことは、容易なことでも、またリスクを伴わないことでもない。アメリカの利益を護るには、中国に対して長期的にその行動に対する代価を強いることが必要である。一方、中国は、アメリカの力と全面的に対決して、資源と労力を消耗してまで、東アジアとその国際水域や他国の管轄海域を支配するという試みを追求する価値があるかどうかを判断する必要がある。結局、アメリカと志を同じくする国家の適切なアプローチによって、中国は、その過程で国家のイメージを損ね、日本が防衛に真剣に取り組む動機付けとなる、南シナ海の人工島基地建設を継続することが大きなコストがかかるだけで、それ以上の展望が開けないことを悟ることになるかもしれない。

記事参照:
What has Beijing achieved in the South China Sea?

24日「中国の軍事活動は認められず、スリランカ・ハンバントータ港」(Colombo Page.com, February 4, 2017

 スリランカ紙Colombo Page(電子版)が2月4日付で報じるところによれば、スリランカのKodituwakku駐中国大使は2月4日に北京で、スリランカのハンバントータ港の運営に関しては株式の80%を中国の会社が保有することになっているが、同港における中国の軍事活動は認められていないとして、「スリランカは、中国の投資家に対して、同港を軍事目的に使用することは認められないと明確に通告している」と確言した。2016年12月の合意によれば、同港の運営に関しては、株式の80%、金額にして11億2,000万ドルを中国の会社が保有するが、残りはスリランカ港湾庁が保有することになっている。

記事参照:
No Chinese military activity at Hambantota Port in Sri Lanka, envoy assures

27日「ロシア、北極圏でのプレゼンスを強化」(Center for International Maritime Security, February 7, 2017

 マルタ共和国のBugeja Geopolitical ConsultingのSteve Micallefは、2月7日付のCenter for International Maritime Securityのサイトに、"Russia's Evolving Arctic Capabilities"と題する論説を寄稿し、ロシアは数年前には想像もつかなかったレベルにまで北極圏でのプレゼンスを強化しているとして、要旨以下のように述べている。

(1)北極点周辺を巡る沿岸各国の領有権主張の歴史を遡れば、カナダが1925年に北極圏の広大な領域に主権を主張したのが最初である。次いで、ソ連が1926年に、ムルマンスクから、東はチュクチ半島まで、北はメンデレーエフ・ロモノソフ海嶺を含む北極点までの領域に主権を主張した。そしてアメリカ、ノルウェー及びデンマークも後に続いてが、いずれの国の主張も国際的に承認されていない。国連海洋法条約(UNCLOS)、北極海の海氷面の縮小、そして膨大な海底鉱物資源埋蔵の可能性が、今日の北極圏における領有権紛争の根源である。

(2)UNCLOSの下で、各国は、加盟から10年以内に、200カイリのEEZの外縁の延伸を申請できる。ロシアは1997年に加盟し、2007年までに外縁の延伸申請を行った。ロシアは、北極圏を常にロシア領の不可欠の一部と見なしてきた。北極圏に対するロシアの野心を復活させたのはプーチン大統領だった。ロシアは2001年12月、ロモノソフ海嶺がシベリア大陸棚の延長であり、従ってロシアは北極圏でより大きな領有権を主張できるとして、管轄海域の拡大を申請した。しかし、これは未承認で、国連大陸棚限界委員会(CLCS)は更なる調査が必要として、ロシアの申請を拒否も受け入れもしていない。ロシアは2002年以来、ロモノソフ海嶺に対する主張を裏付ける調査のために遠征隊を派遣し、2007年にはロシア国旗を北極点真下の海底に打ち立てた。そして、プーチン大統領は、北極圏におけるロシアの軍事プレゼンスを強化するための大胆な一歩を踏み出した。

(3)北極圏におけるあらゆる能力の要石となるのが砕氷船である。ロシアは、原子力推進と従来型の砕氷船を最大40隻ほど保有している。それらの多くは旧ソ連時代に建造された老朽船だが、ロシアは現在、様々なタイプの砕氷船を約14隻建造中である。この内、特に注目されるのは、LK-60Ya原子力砕氷船(3万3,540トン)と、Arc-7 LNG砕氷タンカー(8万200トン)である。LK-60Ya原子力砕氷船は3隻建造中で、1番船が2018年に就役予定で、他の2隻は2019年と2020年に就役予定となっている。ロシアにとって特に経済的関心の高い分野である、北極圏におけるLNGと石油を運ぶ砕氷タンカーの建造は、韓国の大宇造船海洋との合弁で進められている。

(4)軍事面では、ロシアは、冷戦時代の軍事基地を改修し、再使用を開始した。ロシアは、原子力砕氷船の母港で、数少ない不凍港の一つであるムルマンスクの入渠施設を改修している。また、2015年以来、北極圏の本土領域と北極海の島の両方で、6カ所の新しい空軍基地施設を開設した。更に海軍は、コテリヌイ島(ノヴォシビルスク諸島)に恒久基地を設け、2016年にはアレクサンドラ島(フランツヨーゼフランド)の新施設の使用を開始し、北極圏での海軍力のプレゼンスを強化した。海軍は、捜索救難活動や、北極圏で活動する他のロシア軍種を支援する(主に潜水艦による)ことに加えて、北極圏におけるロシア領海や管轄海域への他国の侵入阻止を任務としている。モスクワは、ノヴァヤゼムリャ島に長射程のS-400対空ミサイル部隊を、レナ川河口のチクシ港周辺に短射程のPantsir-S1対空ミサイル部隊を配備し、また北極圏の基地には数は不明ながらP-800 Oniks超音速対艦ミサイル部隊も配備されている。地上軍も北極圏に配備されている。これらの全ての戦力は、2014年12月に創設された、ロシアの北極圏統合戦略司令部の指揮下に置かれている。この司令部は、全戦闘部隊、レーダー施設、飛行場及び支援部隊を含む、北極圏に所在する全ロシア軍部隊の訓練と作戦運用を担当する。コテリヌイ島に配備された北方艦隊の部隊も同司令部隷下にある。

(5)ロシアは今後も引き続き、新しい軍事施設を建設していく予定である。ノヴォシビルスク諸島では、年間を通して使用可能な大規模な航空基地が建設されており、今後Tu-95MSとTu-160爆撃機、及びPAK DAステルス爆撃機の配備が可能になろう。更に10カ所の北極圏捜索救難センター、16カ所の深水港、12カ所の新しい飛行場、そして10カ所の防空レーダー施設の建設が計画されている。ロシア国防省は最近、2017年末までに100カ所以上のインフラ施設を北極圏に建設すると発表した。これらの部隊や施設がネットワーク化されれば、ロシアは、鉱物資源の開発や、将来的には北方航路の海上輸送を含め、北極圏全域に監視の目を光らせることができるようになろう。ロシアは、数年前には想像もつかなかったレベルにまで、北極圏での能力を強化してきた。しかも、これで終わりという兆候もない。プーチン大統領は2016年11月、北極圏での更なる開発を加速することを宣言している。

記事参照:
Russia's Evolving Arctic Capabilities
Map 1:
Overlapping Arctic claims and resources (TheTimes.co.UK)
Map 2:
Russian military installations proximate to the arctic

210日「インドネシア・シンガポール海洋境界画定条約、発効」(Today Online.com, February 10, 2017)

 インドネシアとシンガポールは2月10日、海洋境界画定条約を発効させた。シンガポール外務省で行われた式典で、両国外相は、2014年9月に締結された、シンガポール海峡東部海域の領海を画定する条約の批准書を交換した。同条約によって、1973年と2009年に締結された条約とともに、シンガポール海峡の67.3キロに及ぶインドネシアとの海洋境界が画定された。

記事参照:
Indonesia, Singapore bring maritime treaty into force

213日「中国国産空母2番艦の発艦装置、スチームカタパルト方式に香港紙」(South China Morning Post.com, February 13, 2017

 香港紙、South China Morning Post(電子版)は、2月13日付で、中国が建造中の国産空母2番艦の発艦装置は従来型のスチームカタパルト方式になるであろうとの専門家の見方を紹介し、要旨以下のように報じている。

(1)軍事専門家の見るところでは、中国海軍の国産空母2番艦の艦載機発艦システムは、極めて先進的な電磁カタパルト発艦技術(抄訳者注:最新型米空母USS Gerald R. Ford級に採用)を採用せず、代わりに従来型のスチームカタパルト方式になるであろう。「遼寧」と大連で完成間近のType 001Aに次いで、中国にとって3番目の空母となるType 002は、少なくとも3基の従来型のスチームカタパルトを装備すると見られる。従来型とはいえ、Type 002はこのタイプの発艦システムを使用する中国で初めての空母となる。この専門家は、「空母に原子力推進システムを採用するには依然幾つかの技術的問題があり、そのためType 002は発艦システムとして、スチームカタパルトを使用することになろう」と語った。しかし、「遼寧」やType 001Aがスキージャンプ方式を採用していることに比べれば、Type 002のスチームカタパルト方式は大きな進歩である。

(2)元国防大学戦略研究所長金一南は2016年12月に、「新空母は進水してから戦力化されるのに2年はかかるであろう。艦載航空部隊のパイロットを訓練するのに2、3年かかるからである」と語っている。Type 002は2015年3月に上海の長興島造船所で建造が開始された。香港を拠点とする軍事専門家によれば、中国は2隻のType 002を建造する計画であり、それぞれ排水量が8万5,000トンになると見ている。これは中国の空母としては最大で、「遼寧」は5万5,000トン、Type 001Aは7万トンである。同専門家によれば、最初のType 002は2021年頃に進水すると見られる。

(3)当初、Type 002は原子力推進システムで、発艦システムとして電磁カタパルト方式を採用するとの予想があった。北京を拠点にする軍事専門家李杰は、数年間で全く新しい世代の空母を開発することは不可能であるとし、「異なるシステムには異なる技術が必要である。技術者もパイロットもそうである」「例えば、Type 001Aは間もなく進水する予定であるが、空母戦闘群として戦力化されるまでには更に数年かかるであろう」と語っている。 一方、『漢和防務評論』のAndrei Changは、Type 001Aは「遼寧」の完全なコピーであると指摘していた(「遼寧」は、再艤装される前は、1970年代に旧ソ連でKuznetsov級として起工されたVaryagで、その後中国に売却された)。しかし、李杰は、Type 001Aの外観は「遼寧」に似ているかもしれないが、その配置、内部の装備品そして全体の運用構想は「遼寧」よりも先進的であると見ている。

(4)李杰によれば、Type 001Aと「遼寧」との違いは、1つにはスキージャンプ方式甲板の傾斜角度が「遼寧」の14度に比べ、Type 001Aが12度になっていることである。12度の傾斜甲板は、船体構造を強靱にすると同時に、艦載機が発艦するための滑走距離を短くし、燃料を節約し、従って兵器搭載量を増大させる。また、「遼寧」とType 001Aでは運用構想も異なる。李杰は、「Varyagの設計を基礎にして、『遼寧』は武器体系と航空機に等分に比重を置いて配置するよう設計された。しかし、Type 001Aは艦載機をどのようにより機能的に配備するかを米空母に学んできた」と語った。李杰によれば、J-15戦闘機をより多く搭載できるよう、Type 001Aでは一部の兵器を排除している。格納庫も「遼寧」と比較して6~8機多く格納できるよう拡張された。李杰は、「飛行甲板上にヘリコプターと固定翼早期警戒機を繋止できるように艦橋構造物は10%縮小され、後甲板の武器システムを撤去し、武器システム用張り出しを4ヶ所加えた」と指摘している。李杰によれば、装備については、Sバンド(2~4GHzのマイクロ波)レーダーの4基の巨大なアンテナが艦橋構造物のトップに装備されたが、このシステムは中国で最も先進的なもので、360度捜索し、数十の対空目標、対水目標を同時に捕捉する能力がある。また、Type 001Aには、24連装のHQ-10短射程対空ミサイルシステム4基が新しい艦に導入されているが、この武器体系は海軍で最も先進的なType 052D駆逐艦、Type 056軽型護衛艦にも装備されている。

(5)しかしながら、マカオを拠点とする軍事専門家Antony Wong Dongは、艦載機J-15の限られた製造能力はType 001Aの戦力化計画を遅らせることになるかもしれないと指摘している。それによれば、「『遼寧』は1個飛行連隊あるいは24機の艦載戦闘機を搭載するように設計されていた」「しかし、同艦はこれまでのところ20機のJ-15を搭載しているに過ぎない。これは、国有企業である航空エンジン会社がロシア製のエンジンAL-31の信頼できる代替エンジンを開発できていないためである」「Type 001Aも『遼寧』と同じような問題に直面するかもしれない」と見られる。

記事参照:
No advanced jet launch system for China's third aircraft carrier, experts say
Graphic:
The current understanding of how China's second aircraft carrier will look

214日「中国のSSBN戦力は誰が指揮するのか米研究員論評」(The Diplomat, February 14, 2017

 米プリンストン大研究員David C. Loganは、Web誌、The Diplomatに2月14日付で、"Who Will Command China's New SSBN Fleet?"と題する長文の論説を寄稿し、創成期にある中国のSSBN戦力に対する指揮統制機構の在り方について、要旨以下のように述べている。

(1)過去10年の間に、中国の核戦力近代化計画は配備核弾頭数を大幅に増強し、公にされた信頼できる推定では、中国の配備核弾頭数は160発から260発の間と見られる。量的な変化よりも質的な変化の方がはるかに重大である。質的な変化の中で最も重要なものの1つは、中国初の信頼できる弾道ミサイル搭載原潜(SSBN)、晋級SSBNの開発と配備である。創成期の中国の海洋配備核抑止力は、長期にわたって核戦力を運用していく上での幾つかの新たな課題を提起することになろう。就中、ポジティブ・コントロール(望んだ時に何時でも発射できる能力)とネガティブ・コントロール(望まない時には決して発射させないこと)との間で適切なバランスを維持するための、新たなSSBN戦力に対する指揮統制機構をどのように構築するかという課題である。筆者(Logan)は、米国防大学に提出した新しい報告書の中で、中国のSSBN戦力の指揮統制機構について可能性のある幾つかの選択肢と、それがアメリカとの戦略的安定に及ぼす含意について分析した。

(2)中国は、核戦力については、伝統的に作戦の柔軟性よりも厳格な政治的統制を優先させ、歴史的に比較的抑制的な核態勢を維持してきた。北京は、弾頭とその運搬手段であるミサイル本体とを切り離して、弾頭を別の場所に保管してきたといわれる。中国における最高の軍事意思決定機関、中央軍事委員が核攻撃を命令できる唯一の組織である。しかしながら、中国のSSBN戦力は、こうした核運用の慣習を変えることになろう。中国のSSBNの指揮統制に関する公開情報はあまりないが、米中専門家のこれまでの予測では、SSBNは第2砲兵の後継組織で、最近創設された人民解放軍ロケット軍の統制下に入るであろうと見られてきた。しかしながら、中国の公式文書や、現在のロケット軍の指揮統制機構から見て、そうした見方は間違っているようである。

 a.第1に、ある中国の専門家が指摘するところによれば、中国の公式文書での核戦力に関する記述は、海洋配備の核抑止力に対する指揮統制は伝統的に人民解放軍海軍に付与されてきたことを示唆している。2013年の中国国防白書によれば、「東風」弾道ミサイルと「長剣」巡航ミサイルのみが当時の第2砲兵に属する。「巨浪」潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に関する記述が国防白書から欠落しているのが目立つ。軍指導部によって厳しく吟味され、中国軍の戦略的思考を表していると見なされる人民解放軍の教科書、2013年版『軍事戦略学』では、海軍に対してSSBN戦力の整備を明確に指示している。

 b.第2に、ロケット軍は、SSBN戦力を指揮する組織も能力も欠けているようである。現在の大規模な軍事改革では人民解放軍各軍種の「統合」強化が追求されているにもかかわらず、ロケット軍の指揮機構は、他の軍種からも、また新しく編成された戦域軍からも切り離されている。また、ロケット軍には、海洋配備プラットフォームに対する教育課程や指揮手順を示すものはないし、潜航中の潜水艦との通信を行うためのVLF(超長波:3KHz~30KHzの周波数帯の電波)通信所などの、不可欠の施設を運用する部隊もない。むしろ、海軍がSSBNを指揮していると見る方が、機構上妥当である。一世代前の「夏」級SSBNは核抑止任務に出動することは決してなかったにもかかわらず、このSSBNは海軍の乗組員によって運用されていたと見られる。青島にある海軍潜艇学院は1年間のミサイル原子力潜水艦の専攻科目を開設し、同学院は定期的にSSBNに関する文献を発刊しているようである。要するに、ロケット軍によるSSBNの指揮は過去にもなかったようだし、近未来においてもなさそうである。

(3)中国指導部は、初めての信頼できる海洋配備核抑止力の導入を、核戦力に対する指揮統制機構を根本的に再編成する好機と見るかもしれない。その際、中国は、3つの概念的な指揮統制機構―それらのいずれもが、海軍とロケット軍に程度の差はあるが指揮権限を付与するものである―の内、いずれか1つを実行するかもしれない。

 a.第1の指揮統制機構では、中国指導部は、SSBNの全面的な指揮統制権限を海軍に付与するであろう。海軍指導部は、「夏」級SSBNを含む潜水艦の運用経験から、SSBNを指揮するのが適任であると主張するであろう。この場合、海軍は潜水艦とミサイルの双方に人員を配置し、運用することになろう。人民解放軍は、海軍とロケット軍の間のターゲッティングの調整メカニズムを開発する必要があろう。

 b.第2の指揮統制機構では、中国のSSBNは独占的にロケット軍に指揮下に置かれる。ロケット軍は、潜水艦の運用経験はないが、核弾頭の取り扱いと保安、要員の審査を含む、核任務についての態勢が整っている。このモデルでは、海軍は潜水艦と乗組員に対する管理上の統制を行うが、作戦の実施権限はロケット軍に与えられることになろう。このモデルでは、ロケット軍のVLF施設の建設と、ロケット軍指揮下のSSBNと海軍の他の艦艇との運用上の調整を可能にする組織の確立が必要となろう。

 c.第3の混合型モデルでは、指揮統制権限は、海軍とロケット軍の双方で分担される。混合型には、幾つかの形態が考えられる。例えば、潜水艦の指揮は海軍に、ミサイルの指揮はロケット軍に付与する形態、あるいは、核の発射権限を、海軍のSSBN艦長と当該SSBNに特別配置されたロケット軍要員との両者の同意を必要とする、二重指揮構造を制度化する形態である。

(4)SSBNの指揮統制機構に関して、中国が如何なる選択をするかは、幾つかの作戦運用上、官僚制度上、そして政治的考慮によって左右されるであろう。

 a.例えどの軍種が指揮することになっても、中国のSSBNは作戦運用上、その高い雑音と中国特有の好ましくない海洋地勢を考えれば、海軍の他の艦艇や航空機から相当程度の支援を必要としている。専門家は中国がSSBNを聖域に潜ませるか、あるいは外洋に進出、展開させるかを論議してきたが、本土沿岸域に潜んだSSBNを護るにせよ、あるいは危険なチョークポイントを抜けて外海の安全な海域に進出するにせよ、その実施には他の海軍艦艇の護衛が必要である。

 b.軍種間の対立を含む官僚的影響力も、指揮統制機構の選択を左右するであろう。海軍とロケット軍が通常任務と核任務のいずれを制度上どの程度優先しているかは不明である。ロケット軍では、不釣り合いな程多くの高級指揮官達が、通常戦力部隊が管理するミサイル基地勤務から栄進してきている。一方で、海軍の指導部は、大半が水上戦闘艦出身の将校で占められている。

 c.最後に、中国が政治的、戦略的に核兵器のネガティブ・コントロールを重視していることは、指揮機構の決定を左右しよう。このことは、事故による発射、あるいは誤判断による発射の可能性を低下させるために、指揮権限の分散化を図る方向への動機付けとなり得るであろう。以上のようなことから、混合型指揮統制機構が議論されることになろう。

(5)いずれにしても、指揮統制機構に関する中国の選択は、アメリカとの戦略核戦力の安定に重要な影響を及ぼすことになろう。米中間の戦略的安定の維持は、生き残り可能な第2撃能力と、ポジティブ・コントロールとネガティブ・コントロールとの適切なバランスの維持に依拠している。混合型モデルが中国の核兵器に対するネガティブ・コントロールを強化し、指揮統制機構における権限分散を強化し、そして通常戦力と連動する可能性を低減する限り、混合型指揮統制機構は、米中間の戦略的安定に積極的に貢献することになろう。しかしながら、中国が如何なる指揮統制機構を選択するにせよ、米中間の戦略的安定を促進するために実施できる更なる幾つかの措置がある。第1に、SSBN計画に関わる全ての人員に対する信頼性ある審査プログラムの実施である。第2に、誤識別や誤認識の機会を減少させるため、SSBN部隊と他の艦艇、特に通常型潜水艦との間に作戦上の防火壁を設定することである。これには、重複した通信システムや作戦根拠地の分離態勢が含まれる。第3に、中国はSSBN部隊に対する慎重な取り組みが必要で、SSBNの生き残り能力を確実なものにするまで、核抑止任務におけるSSBNの役割を強調することは避けなければならない。

記事参照:
Who Will Command China's New SSBN Fleet?

218日「南シナ海における『航行の自由』作戦、多国間で実施すべき米研究員論評」(East Asia Forum, February 18, 2017

 ハワイのThe Pacific Forum研究員Jeffrey Ordanielは、Web誌、East Asia Forumに2月18日付で、"Beyond unilateralism in South China Sea FONOPs"と題する論説を寄稿し、トランプ大統領が標榜する「アメリカ・ファースト」による一国主義は南シナ海におけるアメリカに益するかどうかについて、要旨以下のように述べている。

(1)トランプ大統領が標榜する「アメリカ・ファースト」による一国主義は南シナ海におけるアメリカの利益に役立つか。南シナ海問題は、アメリカを再び偉大にするというトランプ大統領の公約にとって、チャンスでもあり、挑戦でもある。アメリカは、安定した、法の支配による国際的海洋秩序に対するその公約を誇示する場として、南シナ海を利用することができよう。このことは、南シナ海における中国による「航行の自由」の規制を容認しないことを意味することでもあり、反対に、ワシントンは、中国の圧力に屈し、確立された国際的海洋規範から北京を免除し、そして結果的に海洋東南アジアにおける主導権を中国に譲ることもあり得よう。そうなれば、地中海、メキシコ湾、日本海そして世界の他の全ての海域に適用される国際的な海洋規範が南シナ海だけには適用されないことになり、その結果、南シナ海は実質的に「中国の湖」になろう。

(2)国連海洋法条約(UNCLOS)は、恐らく最も公明正大な国際法といえる。国力の大小や、軍事力あるいは国際的な政治的影響力に関係なく、UNCLOSは、全ての沿岸国に同等の海洋権限を付与している。南シナ海が法に基づく国際航路であり続けるためには、南シナ海仲裁裁判所の2016年7月の裁定は履行されなければならない。トランプ政権のアジア政策を形成していく上で、南シナ海は重要な政策課題であり続けよう。マチス国防長官は最初のアジア訪問で、「『航行の自由』は絶対的なものであり、商業海運であれ、米海軍であれ、我々は、合法的に国際海域で活動し、通航する」と言明した。米海軍は今後も単独で、中国が造成した人工島周辺海域を含む南シナ海で「航行の自由(FON)」作戦を継続して行くであろうが、ワシントンは、「航行の自由」問題に関して、太平洋における条約上の同盟国やパートナー諸国を巻き込む新たなメカニズム―2国間と多国間によるFON作戦―を構築すべきである。要するに、ワシントンは、過剰な海洋権利主張に対抗することに加えて、将来、当該沿岸国による新たな不法な規制を課される恐れのある他の海域における法の支配を強化するためにも、同盟国と当該地域のパートナー諸国が関与する、新たな制度を設けるべきである。

(3)オーストラリアとフィリピンは、2国間あるいは3国間で実施するFON作戦の理想的なパートナーである。キャンベラは、1970年代から南シナ海における「上空飛行の自由」作戦を実施してきており、従って、FON作戦への参加は、中国にとってそれほどの驚きではないであろう。一方、マニラは、領有権紛争の当事国で、かつアメリカの条約上の同盟国である。しかし、ドゥテルテ大統領は、アメリカとの合同哨戒活動を中止した。1951年の米比相互防衛条約第5条に従って、南シナ海におけるフィリピンの艦船を防衛するというアメリカのコミットメントを明確にすれば、益々予測し難くなってきているマニラをして、再びワシントンを信用し始めるよう促すことになろう。トランプ政権の誕生は、2つの同盟国の関係をリセットする機会を提供している。

(4)更に、南シナ海のみならず、東アジア全体における海洋コモンズを護るためにも、多国間メカニズムは多国間FON作戦を調整することができよう。この多国間メカニズムは、「封じ込め」とか、あるいは北京に対するアメリカと同盟国による「集団行動」といった、如何なる誤解をも避けるために、中国に対して開かれたものでなければならない。アメリカは、ASEAN地域フォーラムやその他のASEAN諸国との対話で、どの関係国の領有権主張にも影響を及ぼすことのない、東アジアの海洋コモンズに対する開かれた、安全で、そして妨害されることのないアクセスを維持するという目的を持った、海洋アジア太平洋における信頼醸成措置として、この多国間メカニズムを提案することができよう。「航行の自由」を米海軍単独のFON作戦だけで護ろうとすれば、南シナ海問題は、容易く大国間抗争のスパイラルに巻き込まれ、そして法の支配の重要性は脇に追いやられることになろう。東アジアの海洋コモンズに対する国際法の遵守はアメリカの死活的な国益であるが故に、ワシントンは、東アジア全体を巻き込むべく、主導権を発揮しなければならない。単独主義は、労多くするだけである。

記事参照:
Beyond unilateralism in South China Sea FONOPs

220日「世界の武器移転の現状、SIPRI報告書」(SIPRI Press Release, February 20, 2017

 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は2月20日、世界の武器移転に関する最新の報告書を公表した。それによれば、2012年から2016年の間における世界の主要な通常兵器の移転が2007年から2011年の間におけるそれに比べて8.4%増加し、1989年の冷戦終結以来、最大規模になった。SIPRIは単年では変動幅が大きいため、5年分の武器移転量で比較している。SIPRIのプレスリリースによれば、世界の武器移転の概要は以下の通りである。

(1)アジア・オセアニア地域における武器輸入は、2007年~2011年と2012年~2016年の間に7.7%増加し、2012年~2016年における世界の全輸入量の43%を占めた。この間の最大の武器輸入国はインドで、世界全体の13%を占めた。2007年~2011年と2012年~2016年の間におけるインドの武器輸入量は43%増であった。SIPRIの担当者は、中国は輸入武器を次第に国産の武器に代替しつつあるが、インドはロシア、米国、欧州諸国、イスラエル及び韓国を含む多くの武器供給国に依然依存している、と指摘している。他に、2012年~2016年における中国の輸入量は世界全体の4.5%、オーストラリアは3.3%、パキスタンは3.2%、そしてベトナムが3%であった。東南アジア諸国の武器輸入量は、南シナ海の南沙諸島の領有権を巡る中国と対立を背景に、軒並み増加しており、特にベトナムは202%増で、世界全体に占める割合も2007年~2011年の29位から10位に急上昇している。

(2)中東地域では、2007年~2011年と2012年~2016年の間における武器輸入が86%増加し、世界全体の29%を占めた。特に、サウジアラビアは2012年~2016年の間における第2位の武器輸入国となり、2007年~2011年に比して212%増となった。カタールの武器輸入量は同245%増であった。その他の中東地域での武器輸入国の2012年~2016年における世界に占める割合を見れば、アラブ首長国連邦が4.6%、トルコが3.3%、そしてイラクが3.2%であった。SIPRIの担当者は、この5年間、中東のほとんどの国は最新武器の輸入先を米国や欧州諸国に変更したと指摘している。

(3)一方、最大の武器輸出国は米国で、2007年~2011年に比して21%増となり、世界全体の33%を占めた。米国の武器輸出先は中東諸国がほぼ半分を占めた。SIPRIの担当者によれば、米国の武器輸出先は世界の少なくとも100カ国に及んでいる。2番目がロシアで、2007年~2011年に比して4.7%増となり、世界全体の23%を占めた。ロシアの武器輸出先の70%は、インド、ベトナム及びアルジェリアであった。世界全体に占める中国の武器輸出の割合は、2007年~2011年の3.8%から2012年~2016年には6.2%に増大した。この間のフランスの割合は6%、ドイツは5.6%で、中国は世界第3位である。以下、英国が4.6%、スペインが2.8%、イタリアが2.7%、ウクライナが2.6%、イスラエルが2.3%となっている。

(4)その他の注目すべき国としては、アルジェリアがアフリカ諸国で最大の武器輸入国となり、2012年~2016年におけるアフリカ諸国の輸入量の46%を占め、世界全体では、中国についで5番目、3.7%を占めた。サブサハラ・アフリカ諸国では、いずれも紛争国のナイジェリア、スーダン及びエチオピアが最大の武器輸入国となった。米州諸国では、全体として2007年~2011年に比して18%増となったが、コロンビアでは19%増、メキシコでは184%増であった。欧州諸国の武器輸入量は、2007年~2011年に比して36%増となった。

記事参照:
Increase in arms transfers driven by demand in the Middle East and Asia, says SIPRI

223日「日本とインド、不確実性時代の関係強化―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, February 23, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)准研究員Tan Ming Huiと調査アナリストNazia Hussainは、2月23日付のRSIS Commentariesに、"Japan and India: Deepening Ties in Age of Uncertainty"と題する論説を寄稿し、不確実性の時代における日印関係の強化について、要旨以下のように述べている。

(1)2月10日、11日両日の安倍首相とトランプ大統領との日米首脳会談は、安倍首相にとって、多くの面において、成功であったと見てよい。日米の長期に亘る同盟関係は多少の外交的軋轢は乗り越えられることは間違いないが、トランプ大統領の対外政策には不確実性が付きまとう。日本にとっては、その不確実性によって戦略的判断ミスをおかすという危険性があるため、自助努力や同盟を超えた他の安定化措置が必要になるであろう。このような環境下で、他の地域諸国との関係改善を図ることは日本の利益になるであろう。日本は、自然なパートナーとして、インドとの関係の深化を追求していくことになろう。日本もインドも、トランプ政権の予測困難な外交政策について懸念を共有している。

(2)2016年の日印首脳会談は、この地域における両国のより重要な役割を明らかにするものであった。日本とインドは、歴史的な負の遺産や目立った対立要因がなく、自然な同盟関係であり、両国間で経済、戦略そして防衛面での協力の幅を広げられる土台が整っている。事実、日本は、インドが政治的にセンシティブな自国東北地域における社会経済開発プロジェクトへの投資を認可している唯一の国である。日本政府は、1981年からインド東北部におけるエネルギー分野、水資源の供給や市街地の開発プロジェクトにODAを提供し続けている。また、インド政府は戦略的に重要なアンダマン・ニコバル諸島への外国からの投資を初めて認め、日本と協力して同諸島の民間インフラの向上に取組んでおり、その最初のプロジェクトとして南アンダマン島に15メガワットのディーゼル発電所を建設することで協議が進んでいる。しかも、アジア太平洋地域の安全保障環境が、両国の同盟関係を後押ししている。2016年の日印首脳会談での共同声明は、核技術協力、対テロ、地域問題への協働、防衛産業協力といった問題への共通の認識を明らかにした。更に、日本は、核拡散防止条約に加盟していないインドとの間で2016年に民間核技術合意を結んでいる。一方、トランプ大統領もまたインドとの緊密な関係構築に熱心なように見える。トランプ大統領はインドとモディ首相に積極的な秋波を送っているが、米印関係構築の促進については確固たるものでないかもしれない。その理由の1つが、インド人のアメリカでの就労に影響を及ぼすH-1Bビザ・プログラムに対するトランプ大統領の審査強化措置である。H-1Bビザを最も利用しているのはインド人であり、2014年の統計ではH-1B申請者全体の70%がインド人であった。

(3)ASEAN加盟国の一部は、南シナ海を巡って中国と緊張状態にある。こうした中国との緊張関係と、アメリカがこの地域における役割を減じていく可能性とが相俟って、一部の諸国は、中国がこの地域における唯一のリーダー国となる展望にナーバスになっている。こうした環境下での日本とインドの関係強化は、時宜に適ったものであり、中国が支配的地位を確立することに対する選択肢となるものである。より強固な日印協力関係は、中国の高圧的行動に対するカウンターバランスとして歓迎されるであろうが、中国に対抗するバンドワゴニングは逆効果となろう。そのため、地域の安定を確保するためには、日印両国は、地域における紛争の平和的解決を目指して中国との関与を進めていかなければならない。インドはアジア太平洋地域においてより積極的なリーダーシップを発揮しようとする政治的意欲に欠けるとの見方もあるが、インドは、伝統的にインドの影響圏にあるインド洋沿岸諸国に対する中国の進出を牽制する動きを強めている。インド政府は当面、台頭する中国に如何に対応するかについて振れ幅の大きいアメリカ政府に期待することはないであろう。モディ首相は、アジアにおける自然な同盟関係を求めて、先を見越した予防的な政策をとることになろう。今のインドには、そうした政策を追求していこうとする十分な政治的意欲を読み取ることができる。このことは、安倍首相にとっても歓迎すべきことであろう。

記事参照:
Japan and India: Deepening Ties in Age of Uncertainty

224日「覇権国として中国の台頭、国際社会の文化的適応は長期的かつ厄介な課題―RSIS研究員論評」(RSIS Commentaries, February 24, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)訪問研究員Victor R Savageは、2月24日付のRSIS Commentariesに、"China as the Rising Hegemon: Need for Global Cultural Adjustment?"と題する論説を寄稿し、グローバルな覇権国としての中国の台頭に対する国際社会の文化的適応は長期的かつ厄介なものとなろう、また長年の西側支配を考えれば、中国の「文化」は東西関係の政治的摩擦の主たる要因になるかもしれないとして、要旨以下のように述べている。

(1)中国の台頭に国際社会が適応することが必要な側面は、政治、経済そして安全保障面のみならず、西側の胸中にある心理的懸念を高める文化的な側面である。中国は、この30年の間、国有化とそれによる経済的繁栄によって、資本主義経済システムを何の問題もなく吸収してきた。しかし、中国の文化や社会に西側が適応していく問題は、長期的で厄介な命題になる可能性が高い。

(2)そして、この文化的な分裂は、様々な理由で拡大される可能性が高い。

 a.第1に、中国の政治文化は、自由主義的、個人主義的、ウェーバー的合理的な西側のパラダイムとは異なるため、西側は中国を誤解することが多い。中国の儒教精神と共産主義システムは、西洋を基盤にした民主的政治が適応することが難しい、トップダウンの統制システムをもたらす。

 b.第2に、西側は、ローマ帝国時代から断続的に世界の政治的景観を支配してきた。特に発展途上国では、400年以上にわたる西側植民地主義を通じて、市民は西側の行政、法律、土地保有制度及び教育に慣れ親しんできた。その結果、ほとんど全ての発展途上国は、ヨーロッパ文化の移転を表徴する多くのヨーロッパ言語を話す。

 c.第3に、何世紀にも亘って、世界は西側からグローバルな覇権国家が出現するのを見てきた。そして、パックス・ブリタニカとパックス・アメリカーナの時代は、支配的な言語の英語とともに、社会文化的に比較的類似した存在であったことから、グローバルな覇権国家の交代が比較的円滑に行われた。この200年に及ぶ英米のグローバルな覇権は世界の大部分に及び、覇権の交代に伴う文化的な調整はほとんど必要がなかった。従って、超大国としての中国の登場は、長年に亘る西側覇権の後に来る、グローバルな地政学における大規模な文明的裂け目といえる。それは、部分的にはサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」論、即ち「非西欧」(文明)の刺激に対する西側の文化的調整という主題、あるいはエドワード・サイードの「オリエンタリズム」における「我々」対「よそ者」という主題に通じるものである。

(3)中国の世界的なインパクトを一層大きくしているのは、中国が「びっくり箱」のような状況に長年閉じ込められてきたが、今や蓋が開かれ、台頭する竜が飛び出してきて、失われた時間を積極的に取り戻そうとしているためである。現在の中国の指導部はグローバル・パワーとして認知されることを切望しているが、その長い文明の歴史にもかかわらず、現在の中国のパワー・エリートたちは、尊大で自己中心的な成金趣味文化の権化のように振る舞う。中国の文化的影響は2つの方法で浸透する。

 a.第1に、中国語は文化交流における国際的共通語ではないため、中国の政治的行動は、国際社会にとって依然として慎重な対応を要する領域である。中国語が世界中に広がるよりも、むしろ英語が中国において急速に普及しているようである。皮肉なことに、より多くの中国人が英語を習得すればする程、国際社会で中国語を学ぶ傾向が弱まる。従って、中国は、その言語が容易には普及し、理解されないため、国際社会において文化的に不可解で、政治的に不透明なままであるかもしれない。

 b.第2に、中国の共産党体制は、より開放的で民主的な国際社会にとって、依然異常な存在である。中国は、その専制主義政治体制に世界が馴染むことを益々期待するようになっている。中国は、全ての国民国家の平等な代議制度を口先では支持しているが、現実には、大、中、小国の階層秩序(北京による秩序)を信じている。中国では中華帝国メンタリティーが支配的で、中国は、近隣諸国を従えたかつての朝貢システムを復活させたいと願っている。

(4)西側の民主主義体制と資本主義体制は、依然国際的な政治的、経済的規範ではあるが、今やイスラム主義政治と中国の台頭の両方から挑戦を受けている。中国独特の国家重商資本主義は西側の自由放任の貿易相手方に不快感を与えており、そのグローバルな政治は「核心的利益」によって推進されている。歴史的に、中国は、その至高の文明的立場に慣れている。問題は、中国が、自らが描くグローバルな覇権構想において、その文化的なソフトパワーを利用できるかどうかである。中国政府が国内の大衆文化や個人の自由を抑圧しているため、西側諸国は、映画、音楽、芸術、舞踊そして文学などの文化的なソフトパワーにおいて優位にあり、今後を継続するであろう。国内における文化的な抑圧政策は、発展した地位を目指す上で不可欠の創造性とイノベーションの花を咲かせようとしている、中国指導者の願望をかえって損なうことになろう。 東西関係の未来は、繊細な文化的摺り合わせを必要とすることになろう。

記事参照:
China as the Rising Hegemon: Need for Global Cultural Adjustment?


【補遺】 旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. Reinforcing the Front Line: U.S. Defense Strategy and the Rise of China
Center for Strategic and Budgetary Assessment (CSBA), February 1, 2017
Evan Montgomery is a Senior Fellow at the Center for Strategic and Budgetary Assessments.

2. Navy Force Structure and Shipbuilding Plans: Background and Issues for Congress
Congressional Research Service, February 2, 2017
Ronald O'Rourke, Specialist in Naval Affairs

3. Taking Stock of China's Growing Navy: The Death and Life of Surface Fleets
The Foreign Policy Research Institute, ORBIS, Spring 2017, February 3, 2017
By James R. Holmes and Toshi Yoshihara
James R. Holmes and Toshi Yoshihara are professors of strategy at the Naval War College, Newport, RI.

4. Backing Into World War III
Foreign Policy.com, February 6, 2017
By Robert Kagan, Robert Kagan is senior fellow at the Brookings Institution and the author of The World America Made.

5. Has China Been Practicing Preemptive Missile Strikes Against U.S. Bases?
War On The Rocks.com, February 6, 2017
Thomas Shugart is a Senior Military Fellow at the Center for a New American Security and a submarine warfare officer in the U.S. Navy.

6. The Paracels: Beijing's Other South China Sea Buildup
Asia Maritime Transprancy Initiative, CSIS, February 8, 2017

7. China's Naval Shipbuilding Sets Sail
The National Interest, February 8, 2017
Dr. Andrew S. Erickson is professor of Strategy in the Naval War College's China Maritime Studies Institute, and an Associate in Research at Harvard University's John King Fairbank Center for Chinese Studies.

8. RESTORING AMERICAN SEAPOWER
A NEW FLEET ARCHITECTURE FOR THE UNITED STATES NAVY
CSBA, February 9, 2017

9. U.S. Policy Toward China: Recommendations for a New Administration
Asia Society, Center on U.S. China relations, February 2017
Task Force on U.S. China Policy

10. Japan-U.S. Relations: Issues for Congress
Congressional Research Service, February 16, 2017
Emma Chanlett-Avery, Coordinator, Specialist in Asian Affairs
Mark E. Manyin, Specialist in Asian Affairs
Rebecca M. Nelson, Specialist in International Trade and Finance
Brock R. Williams, Analyst in International Trade and Finance
Taishu Yamakawa, Research Associate

11. A Look at China's SAM Shelters in the Spratlys
Asia Maritime Transprancy Initiative, CSIS, February 23, 2017

12. An Analysis of the Navy's Fiscal Year 2017 Shipbuilding Plan
CONGRESSIONAL BUDGET OFFICE, February 2017

13. Checking China's Maritime Push
Carnegie Endowment for International Peace, House Foreign Affairs Committee, February 28, 2017
Michael Swaine, Senior Fellow, Asia Program, Carnegie Endowment for International Peace


編集・抄訳:上野英詞
抄訳:秋元一峰・倉持一・高翔・関根大助・向和歌奈・山内敏秀
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