海洋安全保障情報旬報 2016年5月11日~20日

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5月11日「東シナ海における日本版A2/AD網構築の必要性」(The National Interest, May 11, 2016)

日本戦略研究フォーラム (JFSS) 上級研究員Grant Newsham(退役米海兵隊大佐)は、釜山大学校客員教授Ryo Hinata-Yamaguchi、S.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) 研究員Koh Swee Leanとの連名で、5月11日付のThe National Interest(電子版)に、"Japan Should Steal a Strategy from China's Playbook"と題する論説を寄稿し、東シナ海において日本版A2AD戦略を構築し、陸海空自衛隊の統合作戦能力を強化すべきとして、要旨以下のように述べている。

(1)東シナ海では、中国は尖閣諸島周辺海域に海警局の武装巡視船を投入する一方で、中国軍は、東シナ海を越えて西太平洋の公海までを視野に入れて、東シナ海における空海軍の戦力投射能力の増強を続けている。中国海軍は新たな空母能力の取得に取り組んでいるが、中国軍は既に、2つの広範な戦略目標のために中国本土の基地からの戦力投射能力を増強しつつある。第1の戦略目標は、東シナ海有事において、アメリカの介入と日本の軍事作戦に対抗するために接近阻止/領域拒否(A2/AD)能力の覆域を確保するためであり、2つ目目標は、中国の太平洋へのアクセスを拡大するとともに、より広範な国家の海洋権益を護ることである。しかもこうしたA2/AD能力の強化に加えて、中国空海軍は、日本の南西諸島周辺の東シナ海の公海を航行し、西太平洋に入るために定期的に国際水路、特に宮古海峡やその上空を通航(飛行)して、自国のEEZを越えた「域外」での訓練任務を恒常化している。長期的には、北京は東シナ海における軍事プレゼンスをより堅固にしようとしていることは明らかで、最近の活動は南西諸島に特に関心を持っていることを示している。

(2)東シナ海における中国軍の急激な能力の増強は悩みの種だが、自衛隊も同様に、東シナ海や西太平洋における中国軍の活動を困難にする独自の防衛態勢を構築することができる。自衛隊は、南西諸島から東シナ海に向けて、地上基地対艦、対空ミサイル、潜水艦、対潜哨戒機、水上戦闘艦艇、「スマート」機雷や通常機雷、及び戦闘機から構成される、侵入困難な多層防衛ネットワークあるいは「扇型防衛網」を構築することができる。沿岸監視隊が南西諸島最南端の与那国島に最近配備されたことは、日本の実効的なA2/AD戦略への最初の一歩と見ることができる。今後、南西諸島全域への監視部隊の配備が計画されている。また、これらの前哨部隊には、日本のA2/AD能力を強化するために、移動式対艦ミサイルと防空システムが配備されることになっている。しかしながら、南西諸島とより広域の東シナ海に備えた日本のA2/AD戦略は、実際に実行するとなれば容易なことではない。自衛隊はこれまで、運用上も、また指揮統制機構の面でも、効果的な統合作戦能力を持ってこなかった。自衛隊は、技術的に高度でプロフェッショナルだが、即応能力の欠如と三自衛隊間の統合の不備に直面している。このことは、東シナ海における日本の実効的なA2/AD戦略構築のために、是正されるべき問題である。

(3)統合即応能力整備のためには、

a.第1に、自衛隊は、統合作戦調整に対する、三自衛隊の長年にわたる政治的、官僚的抵抗を克服する必要がある。更に、自衛隊は、南西諸島とより広域の東シナ海に備えた常設統合部隊、「南西諸島統合任務部隊」を新編すべきである。

b.第2に、「統合」運用手順の開発と三自衛隊間の即応能力のギャップを埋めることは、具体的な統合運用能力の向上とともに、三自衛隊の実力を強化することになろう。南西諸島の地理的特性から空海防衛能力は日本の防衛態勢の要となるが、南西諸島には重要な島が点在していることから、陸上自衛隊の任務も不可欠である。従って、陸自は、島嶼防衛能力や、必要な場合の奪回能力を強化する必要がある。

c.最後に、三自衛隊は、戦域機動能力や作戦即応能力を強化するために、運用ドクトリンや手順を改善し、統合する必要がある。

(4)最近の「日米防衛協力のための指針」や平和安全保障法制の整備といった一連の出来事は、これらの成果を実際の能力に転換するための、自衛隊の運用ドクトリンの大幅な改訂を必要とする。日米同盟の文脈から見れば、東シナ海における日本の立場は、日米両国の部隊が可能な限り密接に協働することによって大幅に強化される。密接な協働態勢の整備は、日本の弱点を補うための同盟ではなく、多重的な戦力態勢を増強するための同盟として発展させていくために、日米双方にとっての最優先課題でなければならない。日本にとって、東シナ海における簡単な解決策はない。中国は引き続き、軍隊を後方に控置したまま、海警局巡視船や漁船(特に海上民兵が乗船した漁船)を投入する「グレイゾーン」における挑発によって、日本の決意に圧力をかけ、疲弊させようとするであろう。従って、自衛隊を真の「統合」部隊に変えるとともに、最終的に南西諸島における実質的な軍事プレゼンス―実効的なA2/ADネットワークを構築するための日本の取り組みは不可欠である。歴史の経験則は、もし人々が自らを護る能力と覚悟があるならば、実際にそれを行う必要が少なくなることを示している。

記事参照:
Japan Should Steal a Strategy from China's Playbook

5月13日「南シナ海における米の『航行の自由』作戦、一石三鳥の狙い―中国人専門家の見解」(China US Focus.com, May 13, 2016)

北京大学客員研究員、海波平は、Web誌、China US Focusに5月13日付で、"Three Birds, One Stone: FON Operations in South China Sea"と題する論説を寄稿し、アメリカによる「航行の自由 (FON)」作戦は、一石三鳥の狙いがあるとして、要旨以下のように述べている。

(1)まず、FON作戦は、アメリカの強硬な姿勢の誇示である。FON作戦は、「過剰な海洋権利の主張国」に対してアメリカが抗議する際の口実として使われてきた。このFON作戦は、1979年に当時のカーター政権によって始められたもので、アメリカの「海洋の自由」を維持するとともに、軍事力の世界的展開を可能にする海洋国家としてのアメリカの立場に対して、沿岸国が過剰な海洋権利主張によって挑戦することを阻止することを狙いとしたものである。中国はアメリカのFON作戦の主たる目標で、アメリカは中国の「過剰な海洋権利主張」に対して何度もFON作戦を実施してきた。これまでのアメリカのFON作戦は、比較的目立たない軍事行動であった。

(2)しかしながら、南シナ海における最近のFON作戦は、公に喧伝するなど、かなり挑発的である。

a.その真の狙いは第1に、中国に対して、アジア太平洋における優位を維持するというアメリカの決意を宣言することにある。アメリカは、中国による「現状の変更」に「抵抗」するために、より強固な狙いを定めた措置をとる明確に決意した。

b.第2に、FON作戦は、中国との海洋紛争当事国であるベトナムとフィリピン、そして他の国を支援する狙いある。アメリカは、FON作戦によって南シナ海における中国の活動を阻止できないことを承知している。ベトナムやフィリピンは、自らの力だけで中国の軍事行動に対抗できないことを承知しており、アメリカからの包括的な支援を熱心に求めている。このため、アメリカは、伝統的に目立たない軍事行動であるFON作戦が派手に宣伝されるようにした。かくして、アメリカは、ベトナムとフィリピンを支援し、南シナ海において中国と対決するために、「見かけ上中立で、水面下で行動する」政策から、「公に介入し、直接的に対決する」政策へと変換を遂げた。

c.そして第3に、FON作戦は、アメリカ国内における政治的主導権を確保する狙いがある。中国は、アメリカにおける国内政治抗争のツールになっている。財政問題によってアメリカの戦略防衛計画と国防予算が再調整を強いられる状況下で、軍産複合体は、既得権益を護り、更に大きな権益を手に入れるために、中国問題、特に中国の脅威を誇大に宣伝している。オバマ政権の任期が最後の数カ月に入り、「政治的遺産」が中心的課題となってきた。南シナ海問題は、アジア太平洋に対するアメリカの政策の重要な一部として、オバマ政権の政治的遺産における不可欠の要素と見なされるようになってきた。公に喧伝されたFON作戦は、オバマの政治的遺産を大きくし、彼の実績に箔をつける。

(3)FON作戦を巡る見解の相違は、国連海洋法条約の解釈の違いに由来する。アメリカは、軍事力を世界的に展開させる海洋戦力の活動領域を拡大するために、「航行の自由」海域を拡大することを望んでいる。他方、中国も海洋パワーの到達距離が延伸するにつれ、中国海軍の海洋における作戦運用能力は、他国のEEZの管轄権に突き当たり制約されることになるかもしれない。この点に関しては、今後中国とアメリカは、懸念を共有することになるかもしれない。従って、中国は、適切な時期にアメリカとの協力を検討すべきである。例えば、中国は、南シナ海における「航行の自由」を護るという名目で、アメリカやその他の国を、中国海軍と協働する合同軍事演習や合同哨戒活動に招請することも考えられるかもしれない。そうすることで、中国とアメリカは、「航行の自由」についての共通言語を徐々に発展させていけるかもしれない。

記事参照:
Three Birds, One Stone: FON Operations in South China Sea

【関連記事1】「南シナ海における『航行の自由』作戦は十分ではない―3人の専門家の見解」(Foreign Policy.com, May 16, 2016)

米Hofstra University特別教授Julian Ku、マサチューセッツ工科大学准教授M. Taylor Fravel、シンガポールのThe Institute of Southeast Asian Studies上級研究員Malcolm Cookは、5月16日付のForeign Policy(電子版)で、南シナ海でアメリカが行っている「航行の自由 (FON)」作戦は十分ではないとして、それぞれ要旨以下のように述べている。

(1)Hofstra University特別教授Julian Ku

a.最近のアメリカのFON作戦は、過去2回と同様に、中国の主権主張に挑戦することを避けようとしたものであった。米海軍は、「無害通航」の原則に従ってFON作戦を実施したことで、外国軍艦に自国領海に入る前に事前通知を求める中国の国内法に挑戦しただけに終わった。今回のFON作戦に対する中国の反応もこれまでとほぼ同じものであったが、今回は中国の主張に2つ注目すべき変化があった。そしてこの変化は、中国のこの地域における拡張主義的行動を抑止するためにFON作戦に頼ることには限界があることを示している。

b.1つは、中国国防部が、FON作戦の継続は南シナ海における中国による「防衛施設」の建設を正当化する、と示唆し始めたことである。もう1つは、中国外交部が、外国軍艦に対する事前通知要求を無視するアメリカの法的主張に直接反論し始めたことである。中国外交部報道官は、商船と軍用艦艇を区別して、「アメリカを除くどの国も、国際法に違反して、軍艦がどの海域でも航行できるとは考えていない」と述べた。更に報道官は続けて、国連海洋法条約 (UNCLOS) について、「他国の領海での外国船舶による無害通航は認められているが、軍艦がこのような権利を有すると述べている具体的な表現はない」と強調し、幾つかの国がUNCLOSに対する中国の解釈に同意していると指摘した。確かに、幾つかの国がUNCLOS第19条の無害通航権は軍艦に適用されないと主張しており、この点では中国は間違っていない。しかし、これについては長年にわたって論争が続いている。

c.アメリカは、FON作戦を放棄すべきではないが、中国の埋め立てや拡張主義的行動に対して挑戦するためには、別の方策をとる必要がある。FON作戦は十分ではない。

(2)マサチューセッツ工科大学准教授M. Taylor Fravel

a.領海や海洋管轄権を巡る紛争に第三国が介入する手段としてFON作戦が利用されたことは、これまでなかった。FON作戦の目的は、他国による海洋管轄権の「過剰な権利主張」がUNCLOSにおける「公海の自由」に反して「航行の自由」を規制したり、妨害したりする場合に、「航行の自由」を主張するためである。FON作戦は、「航行の自由」に対するアメリカの宣言政策を誇示するために軍艦を使用する作戦行動であるが、他国の海洋管轄権主張を阻止する行動ではない。つまり、FON作戦は、第三国によって表明された過剰な海洋の権利主張を、アメリカが認めないことを示すための対応措置である。南シナ海でのFON作戦は、中国が造成した幾つかの人工島に対する海洋管轄権主張に挑戦するために実施することができよう。南シナ海での最近のFON作戦は積極的に喧伝されてきたが、こうした宣伝広報は、第三国の海洋紛争におけるFON作戦の効果を制約する可能性がある。何故なら、FON作戦は軍事行動と見なされていることから、米国防省は、特定のFON作戦について、その詳細をほとんど明らかにしていない。米国防省は毎年末に、FON作戦の対象とした国とその過剰な海洋権利主張をリストアップしたレポートを発表するが、個々の作戦についての情報は公開していない。

b.特に宣伝広報された最近3回の南シナ海でのFON作戦は、これまでの慣行を逸脱したものである。このような宣伝広報は、2つの理由で裏目に出るかもしれない。1つは、これらのFON作戦は中国の海洋主張に対する挑戦として実施された見なされることから、宣伝広報は中国の対応を招くことになるからである。北京の観点からすれば、FON作戦は中国の主権主張に対する直接的あるいは間接的挑戦に見える。もし中国指導部が対応しなければ、彼らは、国内でアメリカに対して弱腰と見られる危険がある。中国の対応は慎重に計算されたものであったとしても、そのレトリックは、中国の立場を硬化させ、紛争をエスカレートさせかねない。2つ目の理由は、Julian Kuが指摘しているように、UNCLOSの解釈を巡って中国の強固な反撃を招くからである。アメリカは、南シナ海におけるFON作戦を継続すべきだが、それは定期的に、しかし静かに実施すべきである。

(3)The Institute of Southeast Asian Studies上級研究員Malcolm Cook

a.Julian Kuが指摘しているように、FON作戦は、中国の拡張主義的行動を抑制するには十分ではない。最近の報道が正しければ、中国の人工島造成活動は、フィリピンのルソン島から123カイリ沖合にあるスカボロー礁(黄岩島)にまで拡大される可能性がある。これは中国による紛争のエスカレーションであり、中国の行動の抑制を求める域内諸国のアメリカへの圧力を高めることになろう。

b.中国の行動を抑制する措置としてのアメリカのFON作戦の最大の欠点は、アメリカと行動を共にする国がないことである。最大の問題は、アメリカだけがFON作戦を実施し、中国の予測される反発を受け止める意志があるということである。海洋東南アジア諸国、日本及びオーストラリアは南シナ海の利害関係国であるは間違いないが、これら諸国はFON作戦を実施する意志はない。最近のアメリカのFON作戦を支持する海洋東南アジア諸国の態度もアンビバレントで、その支持表明も公式の場や中国が出席する国際会議においてではなく、非公式の場で表明するに過ぎない。他国からの明快な支持がないことは、アメリカのFON作戦による中国へのメッセージ効果を減殺する。

記事参照:
Freedom of Navigation Operations in the South China Sea Aren't Enough

【関連記事2】「『航行の自由』作戦を巡る問題の本質―米専門家論評」(The Diplomat, May 20, 2016)

米イェール大学上級研究員Graham Websterは、Web誌、The Diplomatに5月20日付で"South China Sea: The Real Questions About US 'Freedom of Navigation' Operation"と題する論説を寄稿し、アメリカが展開する「航行の自由 (FON)」作戦を巡る問題の本質について、要旨以下のように述べている。

(1)アメリカは、FON作戦の狙いについて、国際法を遵守し、世界の水域における過剰な海洋権利の主張に挑戦することが目的である、と主張する。他方、中国側は、アメリカのFON作戦を「非合法」な行動であり、中国の安全保障と主権的利益を脅かすものであり、南シナ海問題を軍事化し、緊張を高めている、と批判する。双方の相違点は明白である。即ち、アメリカは国際法の遵守を強調し、他方中国の主張は薄いベールを被せた力の誇示と見る。どちらの主張にも弱点がある。例えば、アメリカは、国連海洋法条約 (UNCLOS) を遵守するというが、そもそもUNCLOSに加盟していないために、UNCLOSの紛争解決手段を活用することはできない。他方、中国側の軍事化に対する批判も、他の領有権主張国に対する自らの威嚇的行動には口を拭っている。

(2)FON作戦を巡るアメリカの論争は「無害通航」原則の意味合いを巡る論議が中心になってきたが、それとは別に大きく4つの論点がある。

a.第1に、軍事的なFON作戦は、UNCLOSに対するアメリカの立場を強調するためには必要な行動なのだろうか。アメリカ政府が「航行の自由」に対する自国の立場を知らしめるとともに、他国の慣行を黙認しないことを明示するための唯一の方法が、戦艦を航行させることであるとは思えない。

b.第2に、国際法上の主張とは別に、FON作戦によって如何なるメッセージを発信しようとしているのか。FON作戦がアメリカの法的立場を平和的に誇示するものであるとしても、FON作戦を遂行する誘導ミサイル駆逐艦のプレゼンスは暗黙の力の行使と見られるであろう。もし軍事プレゼンスとアメリカの決意を誇示することが発信したいメッセージの1つであるならば、法的な観点からよりも、そのためのFON作戦の適否について論議すべきであろう。

c.第3に、FON作戦による法的あるいはその他の効果は、喧伝されているように成功しているのだろうか。これは非常に重要かつ難しい問題である。南シナ海におけるアメリカのFON作戦に対して中国は危険な対応を繰り返しており、FON作戦の恒常化を主張する論者が期待しているように、中国がアメリカのFON作戦を受け入れる可能性は現時点では低いと考えられる。

d.最後に最も基本的な問題は、アメリカ政府が南シナ海に対する政策を通じて何を達成したいのかということである。2015年10月以来のFON作戦はアジア太平洋地域におけるアメリカの優先課題を巡る包括的な論議を背景に実施されてきたが、こうした論議には、南シナ海における中国の行動に対して「代価を強要すべき」あるいは単に「何かをすべき」という声があった。FON作戦の実施によって、それで十分かという点に論点が移り、包括的な戦略的論議が下火になった。今後はアメリカ政府がどのような目標を念頭に行動していくべきだろうか、我々はこの点について改めて議論していく必要があるだろう。

記事参照:
South China Sea: The Real Questions About US 'Freedom of Navigation' Operations

5月13日「米国防省、中国の軍事動向に関する年次報告書公表」(U.S. DOD, Office of the Secretary of Defense, May 13, 2016)

米国防省は5月13日、2016年版の中国の軍事動向に関する年次報告書を公表した。以下は、主な内容である。

(1)南シナ海における人工島の造成

a.中国は2014年から2年間、南シナ海で占拠する7つの海洋地勢における埋め立て活動を加速し、その面積は3,200エーカー以上(約13平方キロ)に及ぶ。フィリピンやベトナムなどの他の領有権主張国が同時期に埋め立てた面積は僅か50エーカー(0.2平方キロ)に過ぎない。中国は、これら人工島を、南シナ海におけるプレゼンスを大幅に強化し、これら人工島自体と周辺海域に対する支配を強化するための軍民共用拠点として利用することができるであろう。

b.2014年までに埋め立てを完了した4つの人工島(ジョンソンサウス礁、ヒューズ礁、クアテロン礁及びガベン礁)は、通信・監視システム、兵站支援システムを含む、インフラ建設の最終段階にある。残りの3つの人工島(ミスチーフ礁、スビ礁及びファイアリークロス礁)は2015年10月までに大規模な造成作業が完了し、インフラ建設段階へ移行している。これら3つの人工島には、それぞれに約3,000メートルの滑走路を持つ飛行場が建設されており、現在、大規模な港湾も建設中であり、更に通信・監視システムや兵站支援システムを含む、インフラが建設中である。

c.更に、中国は、以上の7つの占拠海洋地勢に加えて、2012年から中沙諸島のスカボロー礁を海警局巡視船で取り囲み、実効支配している。また、南沙諸島のミスチーフ礁南方のセカンド・トーマス礁では、フィリピンが1999年以来、揚陸艦を座礁させて軍要員を駐留させているが、海警局巡視船が周辺海域に常続的プレゼンスを維持している。

(2)ロケット軍

a.中国の短距離弾道ミサイル(SRBM)の保有基数は約1,200基で、射程800~1,000キロのCSS-11(DF-16)が配備され、既に配備されているCSS-5(DF-21C/D)準中距離弾道ミサイル(MRBM)の通常弾頭搭載対地及び対艦攻撃型とともに、台湾のみならず、その他の地域に対する中国の攻撃能力を強化している。これらの弾道ミサイルは、射程150キロを超えるCJ-10地上発射巡航ミサイル(GLCM)によって補完される。中国は、CSS-5 MoD 5(DF-21D)対艦弾道ミサイル(ASBM)を含む、通常弾頭搭載型MRBMの配備数を増強している。CSS-5 MoD5は、射程1,500キロで、西太平洋における米空母を含む対艦攻撃能力を持つ。

b.2015年9月の軍事パレードで公開された、DF-26中距離弾道ミサイル(IRBM)は、配備されれば、地上目標に対する精密攻撃が可能で、アジア太平洋地域の戦略的抑止力となる。DF-26の核弾頭搭載型は、中国にとって初めての戦域目標に対する核精密攻撃戦力となろう。

c.中国は、サイロ配備の大陸間弾道ミサイル(ICBM)に加えて、残存能力の高い移動式ICBMを配備することで、核戦略の近代化を進めている。中国のICBM戦力は75~100基で、サイロ配備のCSS-4MoD 2(DF-5)、複数弾頭型(MIRV化)Mod 3(DF-5B)固体燃料道路移動型CSS-10 Mod 1、Mod 2(DF-31、DF-31A)、及び射程が短いCSS-3(DF-4)からなる。CSS-10 Mod 2は射程が1万1,200キロを超え、米本土の大部分を攻撃できる。また、中国は、CSS-X-20(DF-41)MIRV搭載の道路移動式新型ミサイルを開発中である。

(3)核抑止力の発展

a.中国は、ロケット軍のICBM戦力に加えて、海軍では、晋(Type 094)級弾道ミサイル搭載原潜(SSBN)が4隻配備され、現在、少なくとも1隻が建造中である。搭載ミサイル(SLBM)は射程7,200キロCAS-N-14(JL-2)で、中国にとって初めての信頼性の高い水中核抑止力で、恐らく2016年中にSSBNによる初の核抑止哨戒作戦が実施されると見られる。

b.中国は、長距離戦略爆撃機の開発を継続しており、中国国内の報道や出版物などによれば、長距離「ステルス」戦略爆撃機を開発する意図を持っていると見られる。そうなれば、中国は「核の三本柱」を開発することになる。

(4)海軍力の動向

a.中国は、過去15年間大規模な海軍近代化計画を推し進め、現在では各種艦艇300隻以上で、アジア最大の隻数となっている。最近の中国の国防白書によれば、その任務は、「近海」防衛から、第1列島線を超えた「遠海」防衛任務に徐々にシフトしつつある。中国は現在も、海賊対処活動のためにアデン湾への3隻編成の艦隊派遣を継続している。また2015年には、インド洋への潜水艦派遣を継続するとともに、ロシアとの海軍合同演習後、ベーリング海と米アラスカ州のアリューシャン列島付近の米領海を通航した。

b.中国は潜水艦戦力の近代化を重視しており、4隻のSSBNに加えて、5隻の攻撃型原潜(SSN)、53隻の通常型潜水艦を保有している。2020年までに69~78隻にまで増強されると見られる。

c.海軍は2008年以来、誘導ミサイル駆逐艦(DDG)と誘導ミサイルフリゲート(FFG)を含む、各級水上戦闘艦艇の建造を進めてきた。2015年には、最後の旅洋Ⅱ(052C)級DDGが就役し、同級DDGは6隻となった。また、2隻目の旅洋Ⅲ(052D)級が就役した。より大型の055型「駆逐艦」(誘導ミサイル巡洋艦(CG)の方が相応しい)の建造が始まっている。他方、江凱Ⅱ(054A)FFGの建造が続いており、現在20隻就役しており、更に5隻が建造中である。更に、中国は、特に南シナ海や東シナ海での沿海域戦闘能力を強化しており、25隻の江島(056型)級コルベットが就役している。また、「近海」防衛用に双胴型の紅稗(022型)級ミサイル艇が60隻就役している。

d.空母「遼寧」への艦載航空団の配備は2016年中と見られる。中国は、最初の国産空母の建造を開始し、今後15年以内に複数の空母が建造されると見られる。

e.中国は、海洋紛争において、海洋法令執行機関の政府公船を多用している。中国海警局の巡視船戦力の大型化と近代化が続いており、過去5年以内に、100隻以上の外洋型巡視船が就役しており、外洋における哨戒能力が強化されてきている。更に、今後10年以内に、巡視船戦力が25%増強されると見られ、東シナ海と南シナ海における哨戒能力が大幅に強化されることになろう。

記事参照:
ANNUAL REPORT TO CONGRESS
Military and Security Developments Involving the People's Republic of China 2016
U.S. DOD, Office of the Secretary of Defense, May 13, 2016

5月16日「アジアにおける潜水艦軍備拡張競争―米専門家論評」(Nikkei Asian Review, May 16, 2016)

米The Fletcher School of Law and Diplomacy at Tufts University学長、James Stavridis(退役海軍大将)は、5月16日付のNikkei Asian Reviewに、"Asia's arms race dives underwater"と題する論説を寄稿し、アジアにおける潜水艦戦力の現況について、要旨以下のように述べている。

(1)アジアの軍備拡張競争は最終段階に入り、各国は潜水艦戦力を急速に増強している。オーストラリアは、フランスから先進的な通常型潜水艦、4,700トンのShortfin Barracuda級12隻を購入することに決定した。

(2)アメリカは現在、14隻の弾道ミサイル搭載原潜、4隻の通常弾頭巡航ミサイル搭載原潜、53隻の攻撃型原潜を保有している。潜水艦戦力の約60%が定常的に太平洋に展開しており、必要とあればパナマ運河を経由して全潜水艦戦力を太平洋に展開できる。アメリカは、統合コンピューターシステム、数百カイリ先の潜水艦の信号を捕捉できる極めて鋭敏な曳航式センサーシステム及びP-8対潜哨戒機を含む、先進的な対潜戦システムを導入してきた。P-8は、非常に長い航続距離を持った民間用ジェット機から開発された哨戒機で、広大な海域で潜水艦の音を捕捉できる。これらのシステムによってアメリカが中国との水面下での戦いにおいて優位を維持できるかどうかは、引き続き観察が必要である。

(3)ロシアは、13隻の弾道ミサイル搭載原潜、50隻の攻撃型潜水艦を保有している。ロシアは、2020年までに8隻の原潜調達を計画している。ロシアはまた、より静粛でより深い深度帯で作戦行動可能な第5世代の通常型及び原子力潜水艦の設計作業を開始している。ロシアは、潜水艦戦力への国防予算の配分比率を増加させるとともに、潜水艦の展開を冷戦期のパターンに戻しつつある。ロシアは大西洋と北極海に潜水艦を展開させるとともに、太平洋、特にその北部ではより積極的な哨戒活動を実施している。

(4)中国は、4隻の弾道ミサイル搭載原潜、約50隻のほとんどが通常型潜水艦を保有している。中国は、高いレベルの力量が要求される状況下での潜水艦運用経験をあまりしてきていないが、急速に改善されつつある。中国潜水艦隊の主たる目的が台湾有事おいて米空母を発見し、撃沈することであることを考えれば、広範な海域における目標捕捉能力と潜水艦部隊の攻撃可能範囲における大幅な強化が必要である。

(5)日本は、より小型の通常型潜水艦を運用しているが、卓越した訓練プログラムと効果的な潜水艦運用の長い歴史から、日本の潜水艦戦力はトップグループに属する。しかも、日本は、相当な国内建造能力を有しており、次の10年の間に通常潜水艦部隊の規模を少なくとも50%増強させることができると見られる。

(6)13隻のハイテク通常型潜水艦を保有する韓国にとって、明白な挑戦は敵対する北朝鮮の潜水艦である。北朝鮮は86隻の潜水艦を持つが、そのほとんどが小型で航続距離は200カイリ以下であり、また搭載するのは特殊戦部隊と相対的に性能の低い魚雷である。一部は炸薬を搭載し、港湾の入り口、あるいは重要なタンカーの舷側で爆発させるような自殺的な任務に使用されるかもしれない。これまでのところ、北朝鮮は、その潜水艦戦力を、原則として特殊戦部隊を南へ投入するか、あるいは韓国の水上艦船に対する魚雷攻撃に使用することを意図している。朝鮮半島の周辺海域では、北朝鮮の潜水艦は、既に韓国や米海軍艦艇に対する大きな脅威になっている。また北朝鮮は、潜水艦発射型弾道ミサイルを開発しつつある。このミサイルは最終的には核弾頭を装備し、非常に危険な潜在的脅威となるであろう。

(7)その他の諸国は小規模の潜水艦部隊を保有しているが、特段の技能、経験に基づいて運用されてはいない。これらは一般的にはミサイル発射能力のある通常型潜水艦で、ベトナムは6隻、シンガポールは4隻、台湾が4隻、インドネシアとマレーシアはそれぞれ2隻保有している。その内、ベトナムとシンガポールは、適度な能力のある6隻から12隻規模の通常型潜水艦が部隊を運用することになると思われる。

記事参照:
Asia's arms race dives underwater

5月19日「南シナ海、米中の軍事的衝突回避が至上課題―米海大教授論評」(China US Focus.com, May 19, 2016)

米海軍大学教授Joan Johnson-Freeseは、Web誌、China US Focusに5月19日付で、"On Tip-toe in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

(1)南シナ海は、中国の大国への野望がアメリカの軍事力に遭遇した場所である。南シナ海では複数の国々を巻き込む政治的、法的問題があるが、米中両国にとって、軍事的衝突回避が最重要課題である。アメリカにとって、「航行の自由」の権利の擁護者として、この海域における「航行の自由」が主たる関心事である。従って、アメリカは、この権利を誇示するために、この海域で海軍力を誇示することを躊躇していない。このことは、米中両国軍の近接遭遇事案を急増させることになった。例えば、USS John C. Stennis空母打撃群は2016年4月に南シナ海で「通常」の作戦行動を実施した際、しばしば中国海軍艦艇に付きまとわれた。5月には、米海軍駆逐艦USS William P. Lawrenceが中国の人工島、ファイアリークロス礁の12カイリ以内の海域を航行した。この時、中国は、2機の海軍の戦闘機と1機の空中早期警戒機、そして3隻の艦艇を派遣し、同艦を追尾し、警告を発した加えて、南シナ海ではなく中国の200カイリEEZ内でも、2009年に起きた米海洋観測艦USNS ImpeccableやUSNS Victoriousが関係したような近接遭遇事案が発生している。中国潜水艦の増強も、2009年6月に起こった中国潜水艦と米駆逐艦の曳航式ソナーの接触事故のような事故の危険性を増大させている。従って、中国の危険な行動は軍事的衝突に繋がりかねないと想定することは、的外れではない。米中の武装アセット同士の誤解、誤算、あるいは単純な誤報であっても、砲火を交えたり、急速に制御を失って意図しない軍事衝突にエスカレートしたりする結果になるかもしれない。

(2)米中関係は台頭しつつある国と既存の支配大国との関係であり、従って、こうした関係における固有の対立、抗争問題を平和的に解決することは、両国にとって最善の戦略的利益となる。故に、米中間における意思疎通の回線は、平時でもまた危機の際にも不可欠である。これまで、アメリカは危機に際しての意思疎通に熱心であったが、中国側の意欲は薄弱であった。5月に行われた、ダンフォード米統参議長と中国軍の房峰輝総参謀長とのビデオ会談で、両者はともに、もし呼び出しがあれば「責を負うべき部署にいる者が応答し、話を聞く」と断言した。あらゆるレベルにおける意思疎通は、害意のない行動であることを示し、意図しない結果を回避するために緊要である。Navy Times紙の報道によれば、USS John C. Stennis空母打撃群の駆逐艦USS Chung-Hoonの艦長は、中国海軍艦艇と艦橋間の通信について、プロフェッショナルな意思疎通であった、と評価している。

(3)米中間の意思疎通の強化は、1988年に締結された軍事海洋協議協定 (MMCA) の実施に向けて有益であろう。この合意は、艦艇や航空機の間の事故の危険を減少させるための「交通規則 ("rules of the road")」を確立するために、かつての米ソ海上事故防止協定 (INCSEA) のようなものを意図している。MMCAはこれまで機能してはいないが、今や機が熟しているかもしれない。また、利用可能な多国間枠組みのメカニズムや手順が存在する。1988年に設立された「西太平洋海軍シンポジウム (WPNS)」は2年に1回、米中両国や、ラオスとビルマを除くASEAN加盟国の海軍のトップが集まり、海上の安全について討議するものである。2000年に開催されたWPNSは、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (CUES)」に合意した。CUESは2014年のWPNSで改訂された。

(4)米中間の意思疎通における新たな「未知数」は、フィリピン大統領としてのドゥテルテの今後の言動である。例えば、フィリピンの無分別な行動が中国との軍事的対峙を引き起こすようなことがあれば、アメリカは、1951年の米比相互防衛条約によってこうした対峙に巻き込まれるかもしれない。南シナ海における米中間の軍事的衝突の回避は最重要課題である。意図せざる米中衝突の結果は悲惨なものとなろう。米中関係における危機管理の維持が重要である。アメリカは大統領選挙の年であり、候補者がこれまで以上に選挙民に迎合した姿勢を明確にしており、他方中国においても、経済成長が望めない中で、益々多くを求める大衆を宥めなければならず、従って両国の指導者にとって、両国関係の安定こそが最大の関心事でなければならない。

記事参照:
On Tip-toe in the South China Sea

5月20日「比新大統領ドゥテルテの課題、米比関係を損なうべきではない―比専門家論評」(RSIS Commentaries, May 20, 2016)

フィリピンのThe Centre for Intelligence and National Security Studies (CINSS) 所長、Rommel C. Banlaoiは、S.ラジャラタナム国際関係学院(RSIS)のRSIS Commentariesに5月20日付で、"Duterte Presidency: Shift in Philippine-China Relations?"と題する論説を寄稿し、6月末にフィリピン大統領となるドゥテルテの政策課題について、経済発展のために中国との関係修復を目指すとしても、アメリカとの安全保障関係を犠牲にすべきではないとして、要旨以下のように述べている。

(1)ドゥテルテ次期大統領は、対中関係におけるパラダイムシフトを図ろうとしているようである。ドゥテルテは、南沙諸島問題について、これまでのフィリピンの方針を転換して2国間協議に戻るとの意向を示している。ドゥテルテの選択は中比関係改善の機会をもたらすかもしれないが、そのためには、ドゥテルテは2つの大きな障壁を克服しなければならない。

a.1つは、近く出される南シナ海仲裁裁判所の裁定の行方である。裁定がフィリピンの完全な勝訴にならなくても、裁定は国内的、国際的に一定のインパクトを持とう。政治に何がしかの政治的意味合いもたらすはずである。ドゥテルテは、裁定を政治的梃子として中国との2国間対話の促進に結び付け用とするかもしれないが、それは中国の望むところではないであろう。ドゥテルテは、裁定をしばらく棚上げにして、中国との関係修復を図ろうとするかもしれない。しかしながら、裁定の棚上げは国内的にも国際的にも無理である。国内的には、議会や最高裁などがそれを黙認するはずがないし、また国際的にも、フィリピンの同盟国であるアメリカや、日本、オーストラリアそしてEU主要国などが裁定を支持すると見られるからである。しかし、もし中国との2国間対話がフィリピン国民、特に漁民が満足する結果を得られないと見られる場合には、ドゥテルテは裁定を梃子として利用するかもしれない。そうなれば、中国としても、フィリピンとの関係改善に乗り出す必要が生じるであろう。

b.2つ目は、アメリカとの間の防衛協力強化協定 (EDCA) の履行である。EDCAは、既に合憲と判断されており、履行する義務がある。しかも、フィリピンは、アメリカの同盟条約国であり、EDCAは同盟関係強化のツールである。ドゥテルテは、EDCAの履行を拒否しないとしても、アキノ政権のように対中関係を犠牲にしてまで米比同盟関係を強化するような、強い親米姿勢をとることはないであろう。

(2)結局、ドゥテルテは、アメリカとの安全保障同盟を強化しながら、他方で中国との経済的、政治的関係を維持するという、ヘッジ戦略を追求することになろう。この戦略は、ドゥテルテ独自の政策ではなく、既に他の東南アジア諸国も追求している政策である。例えば、タイは、アメリカの条約上の同盟関係にありながら、経済的理由から中国に擦り寄っている。インドネシア、マレーシア、シンガポールそしてベトナムも、経済的には中国と相互依存関係にあり、台頭する中国との良好な政治的関係を維持することに関心を持っている。同時に、これら諸国は、唯一グローバルな軍事展開能力を持つ既存の超大国、アメリカとの安全保障関係を維持する必要性を認識している。中国との密接な関係を持つカンボジア、ラオスそしてミャンマーでさえ、アジアにおける安全保障の提供者としてのアメリカの役割を歓迎している。

(3)ドゥテルテの中国への傾斜は、10世紀にまで遡る中国との歴史的な絆を考慮に入れた、現実的な選択と言える。中国は、世界最大の外貨保有国として、ドゥテルテが目指す、インフラの改善、対中2国間貿易の促進、観光振興、雇用増大、貧困層の救済といった公約を実現する機会を与えてくれるかもしれない。しかしながら、ドゥテルテは、アメリカとの同盟条約国であるという現実を直視しなければならないであろう。アメリカとの同盟関係は、フィリピンの対外関係において最も重要な要素である。ドゥテルテがアメリカとの同盟を廃棄しない限り、アメリカは、フィリピンの対外関係における最優先国であり続けよう。ドゥテルテは、中国との密接な関係を求めつつも、アメリカとの安全保障関係を継続的に強化することによる戦略的な利点を見失ってはならない。対中関係の改善は、米比関係を犠牲にして追求すべきではない。

記事参照:
"Duterte Presidency: Shift in Philippine-China Relations?"

【補遺】旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. The Human and Organizational Dimensions of the PLA's Unmanned Aerial Vehicle Systems
China Brief, the Jamestown Foundation, May 11, 2016
By: Elsa Kania, Kenneth Allen
Elsa Kania is currently a senior at Harvard College and works part-time as a research assistant at the Belfer Center for Science and International Affairs.
Kenneth W. Allen is a Senior China Analyst at Defense Group Inc. (DGI). He is a retired U.S. Air Force officer, whose extensive service abroad includes a tour in China as the Assistant Air Attaché. He has written numerous articles on Chinese military affairs.

2. VIETNAM'S ISLAND BUILDING: DOUBLE-STANDARD OR DROP IN THE BUCKET?
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, May 14, 2016

3. The three ways we get China and its neighbors wrong
Commentary Magazine.com, May 16, 2016
Dan Blumenthal, Dan Blumenthal is the director of Asian Studies at the American Enterprise Institute, where he focuses on East Asian security issues and Sino-American relations.

4. Extending American Power: Strategies to Expand U.S. Engagement in a Competitive World Order
CNAS Report, May 16, 2016

5. RUSSIA'S ASIA PIVOT: ENGAGING THE RUSSIAN FAR EAST, CHINA AND SOUTHEAST ASIA
RSIS Working Paper, May 17, 2016
Bhavna Dave, Senior Lecturer in Central Asian Politics in the Department of Politics and International Studies at SOAS, University of London where she also holds the position of Chair of the Centre of Contemporary Central Asia and the Caucasus

6. Seeing Strait: The Future of the U.S.-Taiwan Strategic Relationship
CNAS Report, May 18, 2016
Harry Krejsa, a Research Associate with the Asia-Pacific Security Program at CNAS. Mr. Krejsa formerly worked as a policy analyst for the Congressional Joint Economic Committee and as a researcher with the Center for the Study of Chinese Military Affairs at National Defense University.

7. Pentagon Report And Chinese Nuclear Forces
The Federation of American Scientists May 18, 2016
Hans M. Kristensen, the director of the Nuclear Information Project at the Federation of American Scientists

8. SUSTAINING THE REBALANCE IN SOUTHEAST ASIA
Challenges and Opportunities Facing the Next Administration
CNAS Report, May 20, 2016
Patrick M. Cronin, Dr. Patrick M. Cronin is a Senior Advisor and Senior Director of the Asia Pacific Security Program at the Center for a New American Security.


編集・抄訳:上野英詞
抄訳:秋元一峰・倉持一・高翔・関根大助・向和歌奈・山内敏秀・吉川祐子
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