海洋安全保障情報旬報 2016年3月11日~20日・3月21日~31日合併号

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3月11日「インド海軍国際観艦式、その戦略的意味―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, March 11, 2016)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のGeoffrey Till訪問研究員は、3月11日付のRSIS Commentariesに、"Riding Two Horses At Once: Wither The Indian Navy?"と題する論説を寄稿し、インドのヴィシャカパトナム沖で最近行われた国際観艦式が発信するメッセージについて、要旨以下のように述べている。

(1) インドは2016年2月に、インド東海岸のヴィシャカパトナム沖で国際観艦式を実施した。50カ国からの代表が出席し、艦艇は、フランスの多目的フリゲートFS Provence、中国の2隻の江凱級多目的フリゲート、日本の「まつゆき」級誘導ミサイル護衛艦、イランの軽フリゲートIS Alvand、アメリカのTiconderoga級巡洋艦USS Antietam、及び英国の Type 45防空駆逐艦HMS Defenderなど、21カ国の海軍艦艇を含む、70隻以上が参加した。今回の観艦式は、The Indian 'Bridges of Friendship' International Fleet Review of 2001の拡大版として企画され、United through Oceansが主題であった。式典を通じて、各国海軍同士の連帯感、そして海賊対処やテロ対処などの共通の脅威に対する協力の必要が強調された。

(2) 今回の観艦式では、各国海軍同士の連帯感の誇示以外に、政治的、戦略的メッセージを発信する狙いがあったことは疑いない。即ち、それは、インド海軍が最近数年間の困難な状況から立ち直りつつあるということである。海軍の当初の取得計画は、予算不足もあって大幅に遅れた。その結果、例えば潜水艦部隊の縮小や海軍用ヘリの大幅不足といった、艦隊の主力戦力の重大な欠陥が表面化していた。観艦式は、困難な時期が克服されつつあることを誇示するものであった。観艦式にはインド海軍の最近の原潜INS Arihantは参加しなかったが、誘導ミサイル駆逐艦INS Kolkataや対潜フリゲートINS Kamortaなどの最新戦闘艦の参加が、それを裏付けるものであった。モディ首相は 'Make in India' を重視してきたが、参加艦艇の大部分が最新型で、しかも国産であった。海軍外交の展開においては、今後の建艦計画も重要な意味を持つ。インド海軍は、潜水艦建造計画を含め、現在40隻以上の艦艇をインド国内の造船所で建造中であり、これは世界で最も野心的な建艦計画の1つである。この中には、新たに2隻の空母建造が含まれており、最初の空母は世界最古の現役空母INS Viraatに替わるもので、6万5,000級の2番艦は、アメリカとの提携で最新の電磁気航空機発射システム (EMALS) を備えた原子力推進空母となる。観艦式が発展中のヴィシャカパトナムで行われたことも重要であった。1968年以降、西部艦隊の母港で、原子力艦が停泊できる唯一の港でもある。同港は、東に面しており、インドの 'Look (Act) East' 外交にとって重要な基地である。

(3) 明らかにインドは、ルールに従うのではなく、ルールを創る国になりたいと願っている。この面で、インド海軍にとって重要な課題の1つは、中国に対してインドの海軍力を十分に意識させると同時に、インド洋地域の他の海軍小国に対して、インド海軍の強化がこれら諸国にとって脅威とならないこと保証することである。インド海軍は、新しいドクトリン、Ensuring Secure Seas: Indian Maritime Security Strategyを公表した。この戦略は、インド海軍の達成すべき将来展望を示したものであり、少なくとも今回の観艦式から判断すれば、それを実現する合理的な可能性がある。しかしながら、将来的なインド海軍力の強化が、インド太平洋における他の海洋利害関係国によって受け入れられるかどうかは、未だ定かではない。

記事参照:
Riding Two Horses At Once: Wither The Indian Navy?

3月16日「中国の北極圏政策―カナダ専門家論評」(East Asia Forum, March 16, 2016)

カナダの研究者、Adam P. MacDonaldは、Web誌East Asia Forumに3月16日付で、"Is China's Arctic strategy really that chilling?"と題する論説を寄稿し、中国の北極圏政策について、要旨以下のように論じている。

(1) 非北極圏諸国による北極圏への関与の正当化するに当たって、中国は、全ての域外国家の中で最も声高である。また北京は、自国を、この地域で正当な役割を果たす「北極近傍国家 (a 'Near Arctic State')」と位置付けている。もっとも、中国は、自国のより広範な外交政策戦略の中での北極圏の重要度が未だ低いレベルにあるため、公式な北極圏政策が策定されるに至っていない。しかし、北極圏は中国にとって長期的な関心領域であり、中国の指導者たちは戦略の策定を始めた。北京が北極圏との関係を次第に強化し始めるにつれ、中国が「長期的なゲームを演じつつある」との見方が強まっている。中国は、最終的には北極圏諸国の優先的役割やこれら諸国の主権的権利に挑戦するために、北極圏のガバナンスに関する諸取り決めにおける地歩の確立を目指して、利害関係国としての正当性を強調するよう努めている。北極圏の海上交通路と資源へのアクセスを確保するという中国の望みは、政治的、経済的活動を通じて明らかになってきている。しかし、一部の専門家は、北極圏への軍事力の展開を含めて、将来的に中国の活動が一層大胆なものになるかもしれない、と見ている。しかしながら、こうした見方は、時期尚早である。公式政策はないが、北京の北極圏への関与政策は、3つの路線―科学調査、2国間経済関係、及び地域ガバナンスへの参加からなる。中国の北極圏への関与は、気候と環境調査を促進するために、多くの北極圏諸国とのパートナーシップ構築を目指した科学的調査プロジェクトに端を発し、現在でもこれが最も重視されている。

(2) 中国の資源獲得政策において中央アジア、中東及びアフリカは優先的地域ではあるが、北極圏諸国、特に北欧諸国は、中国との積極的な資源開発プロジェクトを発展させつつある。北極圏に投資する中国の能力と意志は、成果を上げるには数十年を要すると予想されるにもかかわらず、北京にとって北極圏の利害関係国として関与する動機付けの最も重要な要素になっていると見られる。中国はまた、地域ガバナンスの諸取り決めに参入することに熱心で、正当な、だが脅威にはならない利害関係国として受け入れられることを求めている。中国は2013年には、他のアジア諸国とともに北極評議会に常任オブザーバーとして受け入れられた。中国(とその他の申請国)が受け入れを求められた主要な条件の1つは、「ヌーク基準 (The NuuK Criteria)」であった。この基準には、北極圏の諸問題に対する北極圏諸国の優先的役割と責任、及び北極圏諸国の主権と主権的権利の承認、そして北極圏の諸問題を管理する法的枠組として国連海洋法条約を受け入れること、などが含まれる。この基準の受け入れは、北極圏におけるより活動的な中国のプレゼンスに伴う懸念を和らげることになろう。

(3) 中国の北極圏における活動は、こうした基準に従って行われている。海洋管轄権を巡る問題については北京と北極圏諸国との間に見解の違いがあるが、現在までのところ中国の活動がより高圧的になってきているという兆候はほとんどない。結局のところ、北極圏に対する中国の関心は、エネルギーと資源の供給先を多様化し、妨害のないアクセスと商業通商のための貿易ルートを確保し、そしてグローバルおよび地域のガバナンスにおいてより積極的に行動するという、中国のより広範な外交政策の目標と一致している。中国にとって、このことは、増大する大国としての利益、地位そして役割とも一致する。未だ公式な北極圏政策を持たない、北京の北極圏に対する意図は不透明ではあるが、台頭する大国としての中国の北極圏における行動を巡っては、アラーミングなレトリックの論議が多い。こうした論議は、北極圏における中国の意図の分析を曇らせるだけである。

記事参照:
Is China's Arctic strategy really that chilling?

3月17日「南シナ海への米空母打撃の展開―中国人専門家論評」(China US Focus.com, March 17, 2016)

中国南京大南海研究協同創新中心研究員、劉海洋は、Web誌、China US Focusに3月17日付で、"Implications of U.S. Carrier Strike Group Deployment in South China Sea"と題する論説を寄稿し、米空母打撃群の南シナ海への展開について、中国人専門家の視点から要旨以下のように論じている。

(1) 米海軍の発表によれば、USS John C. Stennis空母打撃群は3月1日から6日まで、南シナ海で通常の作戦行動を行った。但し、空母打撃群を構成するどの戦闘艦も、中国の占有海洋地勢の周辺12カイリ以内を航行する、いわゆる航行の自由作戦を実施しなかったという。とはいえ、空母打撃群の展開は、アジア太平洋地域に強い警戒心を生み、その狙いや、域内の平和と安定に及ぼすインパクトについて懸念を残した。

a.まず関心を引くのは、米軍事力の展開が異常ともいえるメディア報道を伴っていることである。ほとんど広報しなかった過去の任務と違って、米海軍の報道官、匿名の軍当局者そして軍事専門家などは、作戦の前後に大量の情報を発信した。注意深く企図されたメディア報道は、この地域におけるアメリカの軍事プレゼンスに対する認識を高めることを狙って、アメリカはこの「作戦」が喧伝されることを望んでいたことを示している。

b.もう1つの問題は、作戦実施の時期である。米軍が南シナ海における中国占有の海洋地勢周辺海域に艦艇や航空機を派遣して以来、この地域の緊張が高まっている。アメリカが主張するように、「中国は、その過剰な海洋権限主張を護るために、南シナ海を軍事化しつつある」と見られるような状況下で、空母打撃群の展開による力の誇示はこの地域の緊張を高めるであろう。中国の国内政治の課題設定を決める重要な2つの会議(第12期全国人民政治協商会議第4回全体会議と第12期全国人民代表会議第4回全体会議)が、終了したばかりの時期であった。このような重要な時期に、空母打撃群を展開させることは、政治的な挑発的行為と見られる。アメリカは通常の作戦行動であると強調するが、それは説得力のあるものではない。

(2) 現在、アメリカは、「アジアへの軸足移動」政策の一環として、戦闘艦艇や航空機の60%をアジア太平洋地域に展開させる途上にある。そしてより重要なことは、南シナ海において中国が占有する海洋地勢の周辺海域への最近の米海軍戦闘艦の侵入行為に見るように、その行動が次第により挑発的で敵対的になってきていることである。中国がどう対応するかは、アメリカの意図と行動に大きく左右されよう。もしアメリカが南シナ海において過大な軍事プレゼンスの強化を推し進めようとすれば、この地域の緊張を高める根源的な要因となろう。アメリカが南シナ海を「カリブ海化 ("Caribbeanizing")」しようとする兆候が強まっていることは、南シナ海における中国の占有海洋地勢における防衛施設建設の必要性と緊急性を高めている。一方、もし米軍艦艇や航空機が国際法を遵守して行動するのであれば、航海の自由作戦の実施は、国連海洋法条約 (UNCLOS) の下で全ての国に保証されている。しかしながら、UNCLOSには、他国の領海を通航する軍艦の「無害通航」を含む諸活動について明確な規定がない。40カ国以上の国の国内法は、外国軍艦に対して、領海に進入する前の事前通告か、あるいは事前許可を求めている。もしアメリカが域内の海洋紛争に介入する口実として「航海の自由」を利用しようとするのであれば、それは根拠なき行為といわざるを得ない。

記事参照:
Implications of U.S. Carrier Strike Group Deployment in South China Sea

3月17日「仲裁裁判の行方、フィリピンの提訴理由に見る問題点―米専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, March 17, 2016)

米シンクタンク、The Institute for China-America Studiesの上席研究員、Sourabh Guptaは、Pacific Forum (CSIS) の3月17日付のPacNet に、"Philippines v. China arbitration: be careful what you wish for"と題する興味深い論説を寄稿し、フィリピンが提訴した仲裁手続きの判決が2016年半ばにも予想される中、フィリピンの提訴理由に見る問題点を指摘し、要旨以下のように述べている。

(1) フィリピンが南シナ海における中国の海洋権限主張に関して国連海洋法条約 (UNCLOS) に基づいて設置される常設仲裁裁判所に提訴した、仲裁裁判の判決は2016年半ばにも示されると見られる。フィリピンの提訴理由は、本質的に2つの相互補完的な論点に依拠している。

a.1つは、南シナ海には「岩」以外に「島」といえる海洋地勢が存在せず、従って、「岩」が有する12カイリの領海を越えて海洋権限を主張し得る如何なる海洋地勢も存在しないということである。故に、12カイリを越えた海域における、中国による低潮高地への人工島の造成や、漁業権、石油・天然ガス開発権そして海洋管轄権の行使は、違法である。

b.もう1つは、中国は、「歴史的権利」という言い分で、200カイリさえも越えた「9段線」によって囲まれた海域における、漁業資源や海底資源に対する排他的な権利や管轄権を行使しているということである。領海を越えるこうした海洋権限の主張は、UNCLOSで規定されたEEZレジームを逸脱するもので、国際法上如何なる根拠も持たない。

(2) 第1の論点に対する明白な反論は、領有権を主張する南シナ海の1つあるいはそれ以上の低潮高地をUNCLOS第121条1項と2項に従って「島」であると主張することであろう。そうすることで、北京は、これら(「島」と主張する)海洋地勢周辺200カイリ(あるいはそれより短い場合でもフィリピン群島水域の領海外縁まで)以内の海域において諸活動を実施し、限定的な管轄権を行使する権利を有する。実際的な見地からすれば、マニラの主張が有効であるためには、マニラは、(台湾が占拠する)Itu Aba(太平島)という、フィリピンのパラワン島沿岸からほぼ200カイリの位置にある南沙諸島最大の「島」が「岩」であることを議論の余地なく証明しなければならない。仲裁裁判所は海洋地勢の境界を画定する法的権限を有していないが故に、Itu Aba(太平島)が「岩」以外のものであると裁定することは、12カイリを越えて海洋権限主張が重複するこの海域の境界が2国間交渉によって画定されるまでは、南沙諸島海域とその海底資源に対する中国の限定的な管轄権の行使を法的に有効なものとするであろう。

(3) 第2の論点に対する反論は、(南シナ海の各領有権主張国沿岸基点から)200カイリの外縁と「9段線」との間の重複海域に対しては、中国は海底資源に対する管轄権も、あるいは如何なる種類の排他的な権限も行使できない、ということであろう。この重複海域では、中国は、UNCLOSによってマニラに認められた排他的な権利や管轄権とは競合しない、より低次の現地の慣行に基づく、排他的ではない「歴史的漁業権」を行使できるだけということになる。もしマニラの主張が有効であるためには、この重複海域に関して、①外国漁船の入域拒否を明確な証拠として、北京は排他的に漁業権や管轄権を行使していること、②他の沿岸国の石油・天然ガス開発プロジェクトに対する妨害を明確な証拠として、北京は海底資源に対する管轄権を主張していること、③北京の「歴史的漁業権」の排他的な行使は文書に基づいた、あるいはUNCLOSに基づく合法的なものではないこと、マニラは証明しなければならない。

(4) この重複海域に対する北京の主張を、海洋及び海底の生物資源と非生物資源に対する排他的な管轄権として間違って性格付けることによって、フィリピンは、この重複海域における漁業、あるいは他の沿岸国の石油・天然ガス開発プロジェクトに対する物理的妨害を、当該重複海域における中国の排他的な権利行使の明快な事例として提示できなくなった。フィリピンは、確証性に欠けるが、文書による証拠として、中国の民間研究者や弁護士によるこれまでの私的な著述物とともに、地理的領域が「9段線」と一致する、中国地方政府の漁業に関する海洋監視規則を取り上げている。しかし、この監視規則は、当該重複海域における歴史的な漁場への中国漁民の正当な非排他的なアクセス権の行使を、外国の海洋法令執行機関が阻止できないように規制することができるものである。一方、中国の法律の専門家の私的な著述物は、優れた業績ではあっても、国家的慣習と同義とは見なされない。

(5) フィリピンは、Scarborough Shoal(黄岩島)の領海における自国民の伝統的な漁業権を回復するための論理を展開するに当たって、中国の「9段線」の法的根拠を「歴史的権利」の(外縁)ラインと見なしている。北京と同様に、マニラも、海洋空間には歴史に根付いた現地の慣行に基づく伝統的な権利が存在すると主張している。北京もマニラも、これらの権利を、一般的な国際法の枠内に位置付けるために、UNCLOSを無視している。更に、北京と同様に、マニラは、こうした私的な伝統的権利は他国の管轄海域においても非排他的に行使することができると主張している。しかしながら、北京とは違って、マニラは、他国の管轄海域におけるこうした歴史的権利の適用は当該国の領海に対しては適用されないと主張している。しかし、最後の点に関しては、判例は明らかに別の判断を示している。「二国間協定や現地の慣行に基づいて国家が保有し得る歴史的権利」は、「UNCLOSの下で規定される海域によって限定されない。」領海に対しては規制されるとの主張とは反対に、こうした「歴史的権利」は、他の沿岸国の領海とEEZにおいても「実際上」行使できるし、更に他の沿岸国はこうした権利に対して妥当な配慮を払う義務がある。従って、中国の漁民がこうした「歴史的権利」を「9段線」内の重複海域―この海域はフィリピンのEEZの一部でもある―において非排他的に行使する限り、こうした歴史的権利とその行使、そして「9段線」は、南シナ海の政治的景観の永続的特徴であり続けよう。

(6) Itu Aba(太平島)は「岩」以外の何物でもないというフィリピンの主張も、法的申し立てと予想される判決との間で同様の不一致をもたらす。マニラは、「島」と「岩」とを区別するためには、UNCLOS第121条3項の規定を額面通り適用することを認めている。しかし、実際的な見地からすれば、この規定は、当該海洋地勢が「人間の居住を維持でき」、「岩」ではないことを実証するためには、真水の存在(と、ある程度の食糧と避難スペース)が十分な判断基準となることを意味しよう。そして更には、この規定は、住民の「安定した共同体」を維持することができる、適切な量の真水と耕作地が必要である、またこうした居住地は軍事目的だけのためではない、というように判断基準が拡大されていく。それでも、Itu Aba(太平島)は、こうした判断基準のほとんどを満たしている。ここには、1日当たり65トンの真水を汲み出す4本の井戸があり、その内1本は飲料水を供給でき、加えて、多様な地元産の野菜や果物があり、更に基本的なインフラや行政サービスも整備されている。

(7) 国際司法裁判所も常設仲裁裁判所も、特定の海洋地勢が「島」か「岩」かの判断に当たってUNCLOS第121条3項を適用した判例はなく、常に問題解決を進められる方法を模索してきた。フィリピン対中国という政治的に重要な裁判において、しかも検証はできないが、論拠の均衡 (the balance of evidence) が(裁判に参加していない)大国に有利になっている裁判において、UNCLOS第121条3項を適用することは、前例を破る極めて大胆な判決ということになろう。しかし、フィリピンは、この仲裁手続きから何も得られないというわけではない。マニラの海洋権限と海洋の自由に対する北京の違反行為に関する申立書が、南シナ海北部のScarborough Shoal(黄岩島)の領海とEEZに限定したものであったとしたら、マニラは、限定的ながらも確かな勝利を得られたであろう。結局のところ、2012年の中国によるScarborough Shoal(黄岩島)の占拠は、申立書の提出を促す直近の挑発行為となったからである。マニラは、南シナ海南部の南沙諸島をも提訴理由に含めるという戦略の拡大によって、身の程知らずの行為に及ぶことになったかもしれない。この誤った判断の結果は、小さなものではないかもしれない。判決が注目される。

記事参照:
Philippines v. China arbitration: be careful what you wish for

3月18日「フィリピン国内5カ所の空軍基地を米軍拠点に、米比両国合意」(The Diplomat, March 19, 2016)

Web誌、The Diplomatの共同編集長、Prashanth Parameswaranは、3月19日付けのThe Diplomatに、"A Big Deal? US, Philippines Agree First 'Bases' Under New Defense Pact"と題する論説を寄稿し、米比両国が3月18日、2014年4月に調印した軍事協力協定に基づいて、フィリピン国内5カ所の空軍基地を米軍拠点にすることに合意したことについて、要旨以下のように述べている。

(1) 米比両国は3月18日、ワシントンでの戦略対話で、フィリピン国内の5カ所の空軍基地を米軍拠点とすることで合意した。米比両国は2014年4月に、新たな軍事協力協定、The Enhanced Defense Cooperation Agreement (EDCA) に調印し、フィリピン国内基地へのローテーションによるアクセスに合意していた。2016年1月には、フィリピン最高裁がEDCAを合憲との判断を示していた。今回合意された5カ所の空軍基地は、①Antonio Bautista Air Base、②Basa Air Base、③Fort Magsaysay、④Lumbia Air Base、⑤Mactan-Benito Ebuen Air Baseである。

(2) 今回の合意は、米比両国の安全保障利益を促進することになろう。ワシントンにとって、これら基地へのアクセスが可能になることで、アジア太平洋地域への「再均衡化」戦略を進める上で、これまで以上に多くの部隊、艦船及び航空機のより頻繁なローテーション展開が可能になる。フィリピンにとって、アジアで最弱の軍備を強化する上で、アメリカからのより多くの能力構築支援が得られるであろう。

(3) 今回合意された5カ所の空軍基地の内、Antonio Bautista Air Baseは、フィリピンと中国を含む、6カ国の領有権主張が重複する南シナ海中央部の南沙諸島に近い、パラワン島のプエルトプリンセサにある。また、Mactan-Benito Ebuen Air Baseはセブ沖のマクタン島にあり、2013年11月の台風被害救援の支援センターになった基地である。Basa Air BaseとFort Magsaysayは中国の艦船が居座って実効支配しているScarborough Shoal(黄岩島)を睨む、ルソン島にある。Lumbia Air Baseはミンダナオ島に所在する。なお、これら基地へのアクセスには、米比両国による施設の建設から防衛装備の事前集積までの活動も含まれている。

記事参照:
A Big Deal? US, Philippines Agree First 'Bases' Under New Defense Pact

3月21日「南シナ海における中国の軍事化を阻止するために―米専門家論評」(Foreign Affairs.com, March 21, 2016)

米シンクタンク、The Center for a New American Security上級研究員、Mira Rapp-Hooperは、Foreign AffairsのWebサイトに3月21日付で、"China's Short-Term Victory In the South China Sea And Its Long-Term Problem"と題する長文の論説を寄稿し、南シナ海を取り巻く政治バランスはアメリカに有利であるが、軍事バランスはそうとはいえず、アメリカとパートナー諸国はそのギャップを埋める必要があるとして、要旨以下のように述べている。

(1) ワシントンは、南シナ海戦略において、軍事態勢の強化を怠っているわけではないが、自国の利益のために域内の支援を最大限に結集することを狙いとして、この地域における政治バランスの維持を重視してきた。一方で、北京は、戦術的な軍事バランスを重視し、アメリカが対中連携態勢を構築し得るよりも迅速に人工島を造成してきた。その結果、政治バランスは全体として明らかにワシントンに有利だが、軍事バランスはそうではない。

(2) 均衡をとること、即ちバランシングは、国際システムにおける自然な傾向と見なされる。南シナ海に対するアメリカの戦略は、一種のバランシングと見なされる。アメリカは、南シナ海において、領有権主張国ではないが、航行の自由、上空通過の自由及び法の支配を含む、明確な利益を有している。言い換えれば、アメリカは、アジアにおける国際秩序を支える基本的な規範を護ることを望んでいる。従って、ワシントンの方策は、中国の南シナ海における高圧的な行動に対する域内のバランシングパワーを動員するための精力的な取り組みであった。アメリカの政治的な投資は、数年前には想像もできなかったであろう、確かな外交的成果を生み出した。ASEANは、最近の声明で、中国の人工島造成と、それがこの地域における航行の自由及び上空通過の自由を脅かしていることに、深刻な懸念を表明した。ごく最近まで、ASEANは、中国を疎外しかねない言葉使いには気が進まなかったであろう。ASEAN加盟国の多くが中国との密接な経済関係、更には政治的関係さえも維持しているにもかかわらず、ASEAN加盟の南シナ海領有権主張国は、新しい滑走路での飛行テストや兵器システムの配置を非難することで、個々に中国に立ち向かい始めた。東南アジア諸国は、かつてないほどワシントンと密接な関係を持つようになり、北京の長期的な意図を益々恐れるようになっている。ワシントンの戦略は、外交分野に限られていない。より緊密な政治関係を通じて、アメリカは、南シナ海周辺の安全保障態勢を強化してきた。こうしたワシントンの対中連携態勢の構築戦略における政治的及び安全保障要素は、持続的な管理を必要とする長期的な取り組みである。

(3) ワシントンは長期的な多国間政治戦略に注力しているが、一方、中国は、南シナ海の軍事バランスにおける短期的な一方的変更を目指してきた。北京は、南シナ海でわずか18カ月間に3,000エーカーに及ぶ土地を造成し、猛烈な速さで3本の新しい滑走路を舗装した。そして現在では、中国は、人工島に軍事施設や軍民両用設備を構築している。ここ数年間、中国の南シナ海戦略は、「グレーゾーン」における「サラミスライシング ("salami slicing")」といわれるものに頼ってきた。北京は、アメリカによる介入を招く紛争生起の敷居を越えないレベルに南シナ海における活動を制御しながら、機会主義的かつ漸進主義的に自国の利益を押し進めてきた。まず、南シナ海における北京のアプローチは、機会主義的である。北京は、本格的な紛争を引き起こす可能性が低い戦術を採用し、本格的な抵抗を受ける可能性が低い時と場所でこうした戦術を実行した。従って、中国は、南シナ海における現状変更を主導し、南シナ海において次の措置を講じる時期を選び、アメリカとパートナー諸国はこれに対応を強いられることになる。その活動のテンポもまた、中国に有利である。アメリカの長期的な外交的あるいは安全保障努力とは違って、北京の高圧的行動は一気呵成である。これらの特徴は、南シナ海の中国の行動に全て表れている。「サラミスライシング」は、北京に大きな成果をもたらした。この戦術は外交的かつ国際世論において中国に相応の代価を強いるが、中国は、こうした代価は長期的な成果によって相殺できると計算しているように思われる。しかしながら、最近の出来事から見て、中国は、「グレーゾーン」を踏み越えた。専門家は、中国が、大規模の紛争が発生した場合、沿岸域への外国軍の侵入あるいはそこでの作戦遂行を阻止することを狙いとした、接近阻止/領域拒否 (A2/AD) 能力を開発していることを、長らく懸念してきた。A2/ADのためには、中国は、域内を監視する精巧なレーダーシステムと、外部勢力を寄せ付けない地対空ミサイルや対艦巡航ミサイルを必要としよう。最近の永興島へのミサイル配備を見れば、ワシントンとパートナー諸国は、前進拠点としての人工島に対する中国の意図について、もはやじっくりと考えている場合ではない。

(4) ワシントンの取り組みは、法に基づく地域秩序に対する域内諸国の支持を結集することに成功したが、このことは、この地域における長期的な米軍のプレゼンスの維持を可能にしよう。しかしながら、こうした取り組みは、南シナ海における中国による短期的な軍事バランスの変更を阻止できなかった。アメリカとそのパートナー諸国は、中国有利の趨勢を阻止しようとするなら、政治バランスと軍事バランスとのギャップを縮めることに注力しなければならない。このためには、強まる政治的コンセンサスを、アメリカ主導で南シナ海における短期的な多国間行動に変えていく必要がある。

a.第1に、短期的な軍事バランスに関しては、ワシントンは、パートナー諸国とともに、中国の更なる侵略行為に対する協調的対応行動を準備しなければならない。

b.第2に、アメリカは、中国の継続的な高圧的行動に対して、南シナ海問題以外の領域で代価を強要すべきかどうか、再考する必要があるかもしれない。ワシントンは、代価を強要するために、米中関係の他の側面を犠牲にする必要があることを益々痛感するようになるかもしれない。

c.第3に、ワシントンは、南シナ海における軍事バランスを維持するために、自らの戦略を拡大しなければならない。アメリカは、南シナ海における過剰な海洋主張に異議を唱えるために、この海域における航行の自由作戦を重視してきた。こうした作戦は定期的に実行されるべきだが、もし中国が前進拠点として人工島の軍事化を継続するなら、ワシントンとパートナー諸国は、こうした活動を監視しており、武力行使には対応する用意があることを、北京に気付かせる必要があろう。

d.第4に、ワシントンは、南シナ海における中国の軍事化は最終的にアメリカの戦略の変更を迫る可能性があることを、北京に知らしめるべきである。アメリカは、フィリピンやベトナムに対して自国の前進拠点の軍事化を慫慂すべきではないが、中国の継続的な軍事化はパートナー諸国に自制を求めるアメリカの影響力を低下させているということを、北京に伝えることができる。

(5) これらいずれの措置も好ましいものではない。これらの措置が中国の迅速な行動を阻止できる保証はないし、またより強硬な措置は、必ず米中関係を新たな危険に曝すことになろう。しかしながら、中国の行動を傍観すれば、危険な兵器によって支援された、西沙諸島と南沙諸島の海空域に対する中国の効果的な支配をもたらすことになろう。

記事参照:
China's Short-Term Victory In the South China Sea And Its Long-Term Problem

3月28日「中国の永興島への対空ミサイル配備の政治的、戦略的意味―米専門家論評」(China Brief, The Jamestown Foundation, March 28, 2016)

米シンクタンク、RANDの上級研究員、Timothy Heathは、Web誌、China Briefに、3月28日付で、"Beijing Ups the Ante in South China Sea Dispute with HQ-9 Deployment"と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

(1) 中国が最近西沙諸島のWoody Island(永興島)にHQ-9対空ミサイルを配備したことは、南シナ海における中国の態勢強化のための最新の措置である。軍事的には、西沙諸島へのHQ-9対空ミサイルの配備は、永興島周辺空域に対する中国の制空能力を強化する。平時における最も直接的な戦術的効果は、西沙諸島周辺を飛行する米海軍のP-3やP-8哨戒機など、米軍の監視偵察機の安全を脅かすことである。中国は以前から、米軍の監視偵察飛行に抗議し、米軍機を阻止するため戦闘機を出撃させてきた。HQ-9やS-300などの対空ミサイルを沿岸域や、西沙諸島などの係争中の島礁に配備することは、中国が米軍の監視偵察飛行を不快に思っていることを示す、威嚇的な手段となる。また、西沙諸島に対空ミサイルを平時に配備することは、南沙諸島における中国占拠の海洋地勢の軍事化の前例となる。中国は今後、南沙諸島の係争中の海洋地勢に兵器や、艦艇、航空機などのプラットフォームを徐々に導入しながら、西沙諸島に展開する兵器システムの規模を拡大していくと見られる。中国は、こうした軍事化の拡大を正当化するために、アメリカや域内の他の国々による、幾多の軍事活動を論うかもしれない。しかし、中国による軍事化の真の効果は、対立する係争国に対する中国の軍事的優位の着実な強化であり、同時に海洋地勢に対する中国の支配を阻止しようとするアメリカやその他の国に対して、介入の代価をつり上げることであろう。

(2) 南シナ海における紛争の場合、HQ-9対空ミサイルや同種のシステムを西沙諸島、海南島、本土南西海岸そして恐らく南沙諸島に配備することは、これら空域に対する中国の制空能力を強化することになろう。Type 052C(旅洋Ⅱ級ミサイル駆逐艦)やType 052D(旅洋Ⅲ級ミサイル駆逐艦)にHQ-9対空ミサイルを搭載すれば、防空域を拡大し、敵航空機に対する大きな脅威となろう。より大規模な紛争生起の場合、西沙諸島や南沙諸島、あるいはその他の島嶼に配備された装備は、敵の攻撃に対して非常に脆弱であることは事実である。例えば、南沙諸島の海洋地勢は、ベトナムが配備する射程600カイリのP-800ミサイルなどの、地上配備型巡航ミサイルの覆域内にある。また、遠隔の海洋地勢の限られた地積は、HQ-9対空ミサイルの移動能力を無用なものにしている。しかし、これらの海洋地勢に配備されたミサイルを攻撃することは、中国が自国領と見なす海洋地勢に対する攻撃となり、その攻撃自体が事態をエスカレートさせる危険を孕んでいる。

(3) 永興島へのHQ-9対空ミサイルの配備自体は、南シナ海の空域に対する中国の制空能力を漸進的に増強するだけである。その射程は海南島には届かず、広大な南シナ海の空域の一部分をカバーしているだけである。ミサイルによる最も直接的な脅威は、その射程内を飛行する航空機、主として米軍の監視偵察機に対するものである。中国は長年に亘って、こうした監視偵察飛行の合法性を認めていないが、挑発的行為に及ばない監視偵察機を撃墜するようなことはしないであろう。しかしながら、南シナ海において米軍部隊を巻き込む軍事対峙を伴う危機が生起した場合、中国がその決意を示すために敢えてリスクを冒そうとすれば、危険は大きい。米軍指揮官は、アメリカの決意を示し、情報を収集することの重要性と、対空ミサイルの射程内を飛行することによる危険性とを、比較秤量しなければならない。有事でなくても、重要な政治的、戦略的意味がある。対空ミサイルの配備は、アメリカやその同盟国からの非難にもかかわらず、南シナ海での成果を確実なものにするという中国の決意を示すものである。北京は、南シナ海の中国が占有する海洋地勢での構築物の構築や軍事化の「停止」を求める、アメリカの要求を断固として拒否してきた。同じように、中国は、どれだけ多くアジア諸国が憤っても、死活的に重要な海洋空間の支配を追求するという北京の決意を阻止できないということを誇示しようとしていると見られる。合同哨戒や仲裁裁判所による仲裁過程の支援といった国際的圧力の構築を目指す、アメリカの努力は中国の行動に対する正しい対応である。しかしながら、北京を思い止まらせるに十分な国際的圧力の適正レベルを見極めることは、極めて困難である。

記事参照:
Beijing Ups the Ante in South China Sea Dispute with HQ-9 Deployment

3月31日「米、中国の行動を阻止し得るより効果的な南シナ海戦略を打ち出す時―米専門家論評」(Asia Times.com, March 31, 2016)

米シンクタンク、The Center for the National Interestの上級研究員、Harry J. Kazianisは、3月31日付のWeb誌、Asia Timesに、"Time for a new US South China Sea strategy"と題する論説を寄稿し、アメリカは中国の行動を阻止し得るより効果的な南シナ海戦略を打ち出すべき時であるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 最近の南シナ海における中国の動向から見て、中国の台頭が平和的で、北京がアジア太平洋地域、より広くはインド太平洋地域の諸国の中で「責任ある利害関係国」となることを目指した、アメリカの目標は失敗した。北京は、南シナ海の人工島に滑走路や構築物を建造することで、域内全体の緊張を高めていることなど意に介していない。では、アメリカが次に打つべき手は何か。南シナ海を「北京湖 ("Lake Beijing")」に変えることを目指す中国の止むことのない侵出を阻止する方策があるのか。中国の台頭を導こうとするワシントンの政策と、中国が現状に挑戦しないという期待は実を結ばなかった。巧妙な威嚇的方法を通じて現状を変更しようとする北京の試みを阻止するために、今や、ワシントンはできることは全て行わなければならない。

(2) 私は、南シナ海における中国の威嚇的行動を阻止するために、以下のようなアプローチを提案する。

a.明快なメッセージの継続的な発信:政府全体を通じて、アメリカのアジアにおける主たる地政学的目標と意図について明快なメッセージ、例えば次のようなメッセージを発信する。「アジア太平洋地域、より広くはインド太平洋におけるパートナー諸国や同盟国と共有する、アメリカの最も重要な目標は、如何なる国も一方的に他国を威嚇したり、威嚇的手段によって自らの意志に従わせようとしたりしない、あるいは近海や大洋を自らの領域にしたり、自らの目的を実現するため敵対行為に訴えたりしない、平和で繁栄した現状を維持することである。」

b.「法律戦」を強化する:アメリカは、中国の威嚇的行動に対して多国間の声を1つに糾合できるように、アジア全域の友好国と協力しなければならない。これは簡単なことではないが、そうすることによって、中国と領有権主張を巡って対立する全ての当事国は、国際法廷においてフィリピンを支援したり、これら当事国自身が提訴したりすることができよう。関係当事国による統一した規模の大きい提訴は、より強力な活動となることは確かであろう。ワシントンがこのような大規模な多国間の法律戦活動に与することはないであろうが、ワシントンは、判決によって南シナ海の支配を目指す中国の行動に対して世論がより一層反感を抱く前に、紛争解決を北京に促すために、報道や外交活動を通じてこれら諸国に強力な支援を提供することができよう。

c.北京に恥辱を与える:人工島造成によって北京が如何に迅速に南シナ海の現状変更を推し進めているかを世界に報じた2015年のCNNの映像は、中国に恥辱を与えることが、中国の現状への挑戦を阻止するための効果的な計画の一部となり得ることを示した。このアプローチを更に一歩進めて、例えば、中国が南シナ海の哨戒に利用可能な新しい滑走路を建設すれば、その画像やビデオを即座にメディアに配信すべきである。あるいはまた、北京が新しい人工島に戦闘機やミサイルを配備すれば、世界の主要なメディアができるだけ早く画像やビデオを放映すべきである。更に、南シナ海で航行の自由作戦を遂行中の米海軍戦闘艦が中国から妨害行為を受けた場合は、この出来事をビデオに撮り、直ちに「ユーチューブ」にアップロードすべきである。例えこうした妨害行為を受けなくても、ワシントンは、北京とは対照的な透明性の高いアプローチを世界に示すために、全ての航行の自由作戦に関するビデオなどのアメリカの平和的な意図を世界に示す多くの証拠を提供すべきである。中国に恥辱を与えるこうしたアプローチは、中国に対して常に個々の行為に対する弁明を強いることになり、言論戦において中国を守勢に立たせることになろう。

d.アメリカ型の接近阻止/領域拒否 (A2/AD):多くの防衛専門家が指摘してきたように、中国は、接近阻止戦略を駆使できる唯一のアクターではない。ワシントンは、南シナ海の他の領有権主張国が最新の対艦兵器を開発したり、購入したりすることを支援できるであろう。日本にとっての1つの非常に現実的な可能性は、12式地対艦誘導弾システムを、フィリピンや台湾、あるいは興味があるならインドネシアにも売却することであろう。このシステムは限定的な能力で、最新型とはいえないが、射程を延伸することはできる。更に、中国の新しい人工島を拠点にした基地やそこに配備された兵器システムを迅速に破壊するために、新たな対艦あるいは対地攻撃アセットを第三国から購入するか、あるいは共同で開発することもできよう。

e.「グリーンピース」戦略:中国が、南シナ海で前進拠点を構築するために、サンゴ礁や岩礁などを大規模に破壊しつつあることから、世界中の環境保護団体に詳細な情報を提供すべきである。彼らは、南シナ海における北京の環境破壊行為に大きな関心を持っているはずである。

f.そして、もし北京の関心を引くことを真に望むなら:中国が南シナ海において日毎緊張を高め続けるなら、ワシントンにとって、その外交政策思考を大きく調整すべき時かもしれない。1つの考えとしては、例えば、台湾防衛の強化といった、明快なメッセージを打ち出すことである。もし台湾が通常推進潜水艦、あるいはF-16改や新型のF-35戦闘機の購入によって軍事力の強化を望むならば、ワシントンは、これらを真剣に検討すべきである。アメリカは、ベトナムやフィリピンに対しても、大型の武器売買契約を提案することもできよう。軍事ベースの戦略とは別に、ワシントンは、中国の、特にチベットや新疆ウイグル自治区での人権侵害を非難することもできよう。

(3) 以上のようなアイデアは、ワシントンが取り得るアプローチの一例であり、創造的で非対称的な戦略が北京にその行動を改めさせ得ることを示している。何時もいわれることだが、問題は、アメリカが中国の威嚇的行動に挑戦するだけの十分な意志力を持っているかということである。我々が1つのことだけは知っている―アジアが、そして実際には世界が、我々を注視しているということである。

記事参照:
Time for a new US South China Sea strategy

【補遺】旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. As India Collaborates With Japan on Islands, It Looks to Check China
The New York Times, March 11, 2016

2. A Framework for U.S. Policy toward China
The Brookings Institution, March 2016
Jeffrey Bader, Brookings senior fellow affiliated with the John L. Thornton China Center.

3. The Chinese Military: Overview and Issues for Congress
Congressional Research Service, March 24, 2016
By Ian E. Rinehart, Analyst in Asian Affairs

4. China Naval Modernization: Implications for U.S. Navy Capabilities--Background and Issues for Congress
Congressional Research Service, March 31, 2016
By Ronald O'Rourke, Specialist in Naval Affairs

5. Testimony before the U.S.-China Economic and Security Review Commission on "China and the U.S. Rebalance to Asia"
Center for a New American Security, March 31, 2016
Dr. Mira Rapp-Hooper, Senior Fellow, Asia-Pacific Security Program Center for a New American Security


編集・抄訳:上野英詞
抄訳:秋元一峰・飯田俊明・倉持一・高翔・関根大助・山内敏秀・吉川祐子