海洋情報旬報 2016年1月11日~20日

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1月11日「尖閣諸島周辺海域に出現した中国の武装公船、その意味―米海大専門家論評」(The Diplomat, January 11, 2016)

米海軍大学研究員、Ryan D. Martinsonは、1月11日付のWeb誌、The Diplomatに、"Deciphering China's Armed Intrusion Near the Senkaku Islands"と題する論説を寄稿し、2015年12月26日に尖閣諸島海域に現れた中国海警局の武装公船の戦略的意味について、要旨以下のように述べている。

(1) 2015年12月26日に尖閣諸島周辺海域に中国海警局の武装公船が現れた。この武装公船、「海警31239 (CCG31239)」*は、元々海軍戦闘艦として建造されたもので、艦齢は20年を超えるが、2015年夏、同型艦2隻とともに中国海警局に移管され、上海総隊に配属された。中国の海洋法令執行機関は、多くの旧海軍艦艇を保有している。実際、その一部は既に尖閣諸島周辺海域に現れているが、これらの旧海軍艦艇はこれまで全て曳船、潜水艦救難艦あるいは砕氷船などの補助艦艇であった。しかし、「海警31239」は旧フリゲートであった。(抄訳者注:「海警31239」は元「江衛Ⅰ型 (035H2G)」ミサイル・フリゲートで、基準排水量2,250トン、速力27ノット。海警局移管時に100mm砲、対艦ミサイル、対空ミサイル、対潜ロケットは撤去されたが、艦橋前部の左右及びヘリコプター格納庫上部の左右に装備された37mm連装機関砲は存置された。)従って、中国海警局の基準からすれば、「海警31239」は非常に高速であるだけでなく、軍艦として戦時における砲撃やミサイル攻撃からも生き残ることができるように設計され、海軍の基準に基づいて建造されている。中国海警局公船は、新造段階から同じような残存性の基準に適合することを求められてはいない。従って、「海警31239」は、尖閣諸島周辺海域で生起するかもしれない如何なるチキンゲームにおいても優位に立てる性能を持っている。更に、「海警31239」は、高度なセンサーや通信機器を装備していることは確実で、これらは他の海警局公船が通常装備している民需レベルの機器よりも優れている。従って、「海警31239」は、その哨戒海域における海洋情勢識別能力を高めることになろう。

(2) しかし、「海警31239」に関して、注目すべきは同船の乗組員かもしれない。同船は中国海警局の特別の職員によって運航されている。実際、彼らは中国海警局生え抜きの職員である。2013年半ばに中国海警局が創設される前は多くの異なる海洋法令執行機関があり、それらの中で近隣諸国が重視していた機関は中国漁政と中国海監であった。尖閣諸島周辺海域、Scarborough Shoal(黄岩島)周辺海域、そして南沙諸島海域に定期的に巡視船を派遣していたのは、中国漁政と中国海監だけであった。中国漁政と中国海監はともに文民機関で、特に中国海監は中国の海洋の最前線で最も活動的であった。中国海監の職員は制服を着用し、小火器の訓練を受けており、一部は軍出身者である。中国海監は2008年、海洋における「権益擁護」ために3個の部隊を編成した。この部隊は、外国船舶との折衝に当たるため、係争海域に派遣される巡視船に乗り組んでいる。彼らは外国語を話し、ある程度の国際法知識を持っており、自らを中国の海洋紛争における尖兵と見なしている。第3の組織、辺防海警は全く異なる組織である。辺防海警は、人民武装警察の一部である辺防部隊の海上組織であり、中国の「武装力量」の一部であり、解放軍と同じ階級制度を持っていた。中国海監や中国漁政とは異なり、辺防海警(あるいは「旧」中国海警)は、犯罪者を逮捕し、告発する権限を有していた。しかし、辺防海警の部隊が尖閣諸島周辺海域に進出してくることは決してなかった。中国は2013年、上記3つの組織を含む4つの組織を統合して、「新」中国海警を創設した。しかしながら、今日、統合に向けての現実の進展は極めて遅々としており、共通の制服も未だに定められておらず、任務分担もほとんど旧機関の分担が引き継がれている。旧中国漁政と中国海監の巡視船は4桁の船番号を使用し、外洋における「海洋権益擁護」のための哨戒を続けている。「旧」中国海警(辺防海警)は5桁の船番号を使用し、ほとんどこれまで通りの任務を続けている。

(3) 以上の事実を踏まえた上で、「海警31239」の特性を見れば、この武装公船は、「旧」中国海警部隊に所属していたものであり、従って、「官兵(軍の将兵を表す中国語)」が運航する公船が初めて尖閣諸島周辺海域の哨戒を実施したということになる。「官兵」による尖閣諸島周辺海域の哨戒活動とは、どのようなものか。残念なことに、中国のメディアは12月26日の事案について独自の報道を行っていないが、我々はその他の場面で最近の「官兵」の行動を容易に追跡できる。例えば、12月には、「旧」中国海警の巡視船は、福建省沖合で石油の密輸取り締まりを実施した。中国中央電視台が報じたこの時の巡視船の行動は、彼らの組織文化が軍隊そのもので、中国海洋局の他の部門とは大きく異なっていることを示している。外国の公船と対峙した時の中国海警局「官兵」の行動の別の先例として、2014年の南シナ海の係争海域における石油掘削リグ981の防衛が思い浮かぶかもしれない。この時、海警局「官兵」は、リグに近づこうとするベトナムの巡視船に対して強引な対応ぶりを示した。もちろん、こうした対応ぶりが将来の東シナ海での遭遇事案における対応を暗示しているかどうかは、定かではない。海警局「官兵」が日本の海上保安庁の職員とプロ同士としての意思疎通を図ろうとするであろうか。彼ら独特の組織文化が、海上での彼らの行動にどう影響を及ぼすであろうか。彼らは、力を誇示したいと考えるだろうか。あるいは警察権限を行使しようとするだけであろうか。これらの問題は、海上保安庁の現場の指揮官達の頭に重くのしかかってくるかもしれない。日本の政治家にとっても、これら問題に加えて、考えるべきその他の問題もある。就中、軍人によって運航され白く塗装したフリゲートを尖閣諸島周辺海域に展開させることで、北京はどのようなメッセージを発信しようとしているのかということである。砲艦、「海警31239」は砲艦そのものであるが、何らかのメッセージ発信を意図せずに砲艦を派遣することは滅多にないからである。

記事参照:
Deciphering China's Armed Intrusion Near the Senkaku Islands
備考*:画像「海警31239 (CCG31239)」

1月12日「中国の累次の5カ年計画に見る『海洋への転換』政策の特徴―米海大専門家論評」(China Brief, The Jamestown Foundation, January 12, 2016)

米海軍大学・中国海洋研究所研究主幹、Ryan D. Martinsonは、1月12日付のWeb誌、China Briefに、"The 13th Five- Year Plan: A New Chapter in China's Maritime Transformation"と題する論説を寄稿し、中国の累次の5カ年計画に見る「海洋への転換」政策を踏まえて、新たに始まる5カ年計画に見る特徴について、要旨以下のように論じている。

(1) 過去30年間で、中国の戦略は大きく変化した。この間、中国は、ユーラシア大陸に深く根を下ろした軍事的、政治的、経済的そして文化的ルーツを持つ大陸国家から、世界の主要な海洋国家の一員へと大きく転換した。「海洋への転換 ("maritime transformation")」とは、通常、当該国家の大戦略の中で海洋の重要性が顕著に高くなってくることと解される。如何なる側面から見ても、中国における「海洋への転換」は既に完了しているといえる。今日の中国は、世界最大の貿易国家となり、世界最大の商船隊と漁船団を保有し、世界最大の造船大国となり、海洋科学技術に巨額の資金を投資し、そして世界最大の海警部隊と侮り難い外洋海軍を擁している。しかしながら、中国の政策立案者は、中国の戦略転換が完了には程遠いと考えている。

(2) 中国の5カ年計画は、短中期の国家の経済的、社会的発展の指針を示す戦略文書である。従って、この文書は、中国の「大戦略 ("grand strategy")」、即ち、中国の政策決定者が実現を望む国家目標とそれを如何に実現していくかを示したもので、中国の指導層が中国の国家開発において海洋が果たす役割をどのように考えているかを知る優れた資料である。5カ年計画は党の指示で作成され、全国人民代表大会で承認され、各年度の「綱要」が公表される。「海洋への転換」が始まった1980年代半ば以降、今日まで、6次の5カ年計画が発表された。この間、中国の政策立案者は、海洋を、富の源泉であり、中国と外部世界を結び付けるものと見なしてきた。

(3) 中国の「海洋への転換」に質的な変化が見られるようになったのは、第12次5カ年計画(2011-2015年)であった。中国の政策立案者は、海洋を富の源泉とする認識を引き継ぎながらも、海洋を資産という観点から公然と見なすようになった。この見方は、中国の「海洋権益」を護る必要性に初めて言及した部分に反映さている。また、この計画では、海洋を開発、管理する能力の強化とともに、海洋を「控制 ("control")」できる能力も求めている。このため、この計画は、海洋法令執行能力の大幅な強化を求めている。この第12次5カ年計画の期間中に、中国の海洋領有権紛争に対する戦略がより高圧的なものになってきたのは決して偶然ではない。また、「海洋への転換」が目指す方向性について中国の政策立案者が初めて公式に言及したのも、この第12次5カ年計画においてであった。中国は「陸海兼備 (a "land-sea hybrid")」国家だが、第12次5カ年計画では、「陸海統籌 ("land-sea coordination")」概念が導入された。この概念は経済哲学で、国家開発の決定に当たっては、陸と海を有機的な全体を構成するものとして考えるべきだとする。この概念は、富の源泉としての海洋環境の保護を意味するとともに、中国の海洋権益に対する脅威にも言及した地政学的概念でもある。第12次5カ年計画は、中国の「海洋への転換」にとって重要な意味を持つ2つの利益、即ち、シーレーンと海外における権益とを確認した。この5カ年計画で、中国の政策立案者は初めて、「海上輸送路の安全保障を確保する」必要性に言及するとともに、中国の「海外における権益」を護ることを国家の義務と位置付けたのである。これらに関しては、同時期に国家海洋局から出された、「中国海洋事業発展第12次5カ年計画」で詳細に言及されている。

(4) 中国共産党は2015年11月、「第13次5カ年計画の制定に関する建議」(以下、「建議」)を発表した。この文書は、2016年3月に全国人民代表大会で採択される「第13次5か年計画」の本文より簡潔だが、中国の政策立案者が新たな段階における国家の「海洋への転換」をどのように推進していくかを判断する上で重要な資料である。「建議」は、「陸海統籌」概念を継続的に推進していくことを求めている。更に「建議」は、中国の「海洋への転換」の目的が「海洋強国」になることであることを認めている。「海洋強国」の建設は第18回人民代表大会で初めて宣言された目標だが、その実現のためには、中国は、海洋経済の発展、海洋資源の開発、海洋環境の保護、そして海洋権益の保護を推進しなければならない。また「建議」は、中国の海洋活動における一層の地理的拡大を求めており、中国は「拓展藍色経済空間」すると述べている。国家海洋局の専門家は、その傘下の「中国海洋報」の2015年11月26日付記事で、このことは中国が「全世界の海洋空間を十分に利用する」ことを意味しており、新しい海洋空間の開発は国家の発展にとって「新たな原動力」になろうと述べている。更に「建議」は、「海洋強国」戦略にはないが、中国の「海洋への転換」に重要な意義を持つ概念に言及している。その1つは「海上シルクルード」構想であり、もう1つは、第12次5カ年計画で初めて言及された、中国の海外権益を保護するという目標である。「建議」は、「海外利益保護体系」を構築することを求めており、これには恐らく海外軍事施設の建設が含まれていると見られる。この2つの目標は海洋に関連するものだが、その実現には必然的に、中国が固有の権利を持っていない外国領土が関わってくる。従って、これらの目標が追求されるにつれ、中国の「海洋強国」戦略は国家の拡大する権益に適ったものに進化することが期待できるかもしれない。

記事参照:
The 13th Five-Year Plan: A New Chapter in China's Maritime Transformation

1月14日「南シナ海における中国の人工島造成の背景―豪専門家論評」(The Strategist, January 14, 2016)

オーストラリア国立大学戦略・防衛研究センターのRon Huisken招聘准教授は、1月14日付の同センター機関誌、The Strategistに、"Musing on the South China Sea"と題する論説を寄稿し、中国の人工島造成に関する中共中央の思惑に関して、要旨以下のように述べている。

(1) 中国が南シナ海の南沙諸島で造成した7つの人工島は、この海域における中国の排他的な権利主張のシンボルであることは間違いないが、その一方で、1つの疑問を提起した。それは、「南シナ海で疑問の余地のない成果を確保するために、言い換えれば、南シナ海の大部分の海域における中国の『歴史的』主張に対する反対勢力を圧倒するために、中共中央が何時、(人工島の造成という)『衝撃・畏怖 (a shock and awe)』活動が必要だと考えたのか」ということである。

(2) 南シナ海の海洋地勢は、主に北部の西沙諸島と南東部の南沙諸島に集中しているが、そもそもこれまで近隣諸国の住民にとって少しも魅力的なものではなかった。実際、海洋地勢の大半は、常に海面下にあるか、あるいは満潮時には水没してしまう。中国は、概ね紀元前200年から紀元200年頃までの漢王朝時代に、これらの海洋地勢を初めて発見し、以来、南シナ海に対する所有権を何世紀にも亘って保持してきた、と主張している。言い換えれば、中国は、これら海洋地勢(及び/あるいはそれら地勢に固有の領海)に対する中国の所有権は他の沿岸諸国のそれよりもはるかに年季が入っている、ということを確信しているわけである。このような古代からの中国の主張を裏付けるような証拠は既に何も残ってはいないが、現在の視点から見ても、こうした中国の主張は不自然に映る。歳月は寛容なものではない。中国の主張は、2千年前にそうであった以上に、今日では不自然であるか、あるいは理解できないものに見える。今日、中国の主張は、1930年代後半に当時の国民党政権によって流布された、「9段線」地図で示されている。「9段線」で囲まれた海域は南シナ海のほぼ90%を占め、国連海洋法条約によって認められた他の沿岸諸国のEEZの大部分を取り込んでいる。現代の法的用語から見て、南シナ海の海洋地勢の法的性格は曖昧なものだが、それ以上に、南シナ海沿岸諸国の中で最も地理的に離れた位置にある国による南シナ海に対する帝国主義的態度の妥当性には異論がある。

(3) それにもかかわらず、中国は、甘言と威圧を交互に繰り返しながら、自国の主張を受け入れさせるためのキャンペーンを漸進的に強化してきた。北京は、冷戦の終結によって「地域の」問題により関心が高まったこともあって、南シナ海に対する政策策定におけるコストとリスクを評価する十分な時間があった。中国の時間をかけた政策検討が、政策実行の常套手段、即ちアメとムチ―そのいずれも力と効果を高めてきている―によって受け入れ可能なリスクと時間で中国の目的に対する反対を圧倒することができるであろうとの結論に至ったと、我々は推測することができる。しかしながら、タイムリーに費用対効果の高い成果が得られるという政治的自信を揺るがす何かが起こったと見られる。従って、望ましい成果を得るためには現状を突き動かす何かが必要だと、中共中央は思い込んだのかもしれない。中共中央は、事態を動かすために、人工島造成という劇的な行動に魅せられた。この計画は完全な秘密裏に実行された。中共中央は、人工島造成計画が自国の心理的、政治的そして軍事的目的を達成するためには小さ過ぎても、また大き過ぎてもダメだが、対抗措置を防ぐためには如何に迅速に進めるかが肝要であると判断した、と推測できる。また、どの海洋地勢を人工島に作り変えるかということも、検討されたであろう。これに関しては、特定の海洋地勢を人工島に作り替える技術的可能性、将来的な経済的便益、他国が占拠する海洋地勢の位置に起因する軍事的考慮、そして中国が主張する「9段線」内のあらゆる海洋権限や特権といった観点から判断されたであろう。

(4) 人工島造成が実施される少し前、あるいはほとんど同時の可能性もあるが、中共中央でより戦略的に思考できる者は、中国が自らの主張に余りにも拘泥し過ぎており、失敗が許されない程、その主張に政治的資産を賭け過ぎたことを後悔したかもしれない。今日、南シナ海における中国の活動の直接的かつ真の力点が南シナ海を事実上「所有する」ことにあったことは明らかになってきているが、中国は自らの拡張主義的主張を押し進め、それに賭ける以外に選択肢がないところまで来ており、後戻りするには既に手遅れである。人工島の造成は、地域の政治的そして安全保障上の見通しを暗くしている。南シナ海の問題は基本的には周辺的なものであり、域内政府間の問題であることから、紛争もいずれ鎮静化するであろう、というのがつい最近までの専門家の多数意見であった。今では、振り子は逆方向に振れており、専門家は、自分たちが判断ミスを犯したと考え、南シナ海が21世紀の世界の中心軸となるかもしれない、と考え始めている。いずれにしても、域内の政治指導者にとって、この問題を解決する適切な方向性を見出し、その方向に向けて政策を展開していくことが喫緊の課題となってきている。

記事参照:
Musing on the South China Sea

1月15日「尖閣諸島を巡る日中間のウォーゲーム―米誌報道」(Foreign Policy, January 15, 2016)

米誌Foreign Policy(電子版)は1月15日付で、"How FP Stumbled Into a War With China -- and Lost"と題する、Dan De LuceとKeith Johnsonの両記者による記事を掲載し、RAND研究所で専門家から指導を受けた、尖閣諸島を巡る日中間のウォーゲームについて、要旨以下のように述べている。

(1) ウォーゲーム・タイムライン

a.1日目:日本の国粋主義者が尖閣諸島に日本国旗を立てる。北京は海軍艦艇を派遣し、中国海兵隊が日本の活動家を拘束。

b.2日目:日本は艦艇と戦闘機を尖閣諸島に派遣。東京はアメリカに日米同盟の履行を要請。アメリカは日本本土防衛への支援を表明し、日本沿岸域に潜水艦を派遣。

c.3日目:軍事衝突発生後、中国海軍が日本の護衛艦2隻を撃沈、米潜水艦も中国の駆逐艦2隻を攻撃、撃沈。双方の死者数百人。

d.4日目:中国はカリフォルニアの送電システムにサイバー攻撃、ロサンゼルスとサンフランシスコが大停電、ナスダックのシステムが操作されて金融パニック発生。自衛隊は中国のミサイル攻撃で深刻な打撃を受ける。

e.5日目:中国は日本の海上自衛隊戦力の20%を掃討、日本の経済中枢に狙いを定める。アメリカは、日本からの中国艦艇に対する攻撃依頼を拒否し、代わりに自衛隊の撤退を支援。中国は勝利を宣言。

(2) Foreign Policyは、RAND研究所のウォーゲーム専門家、David Shlapakに、東シナ海の紛争のシミュレーションを、Foreign Policyの記者であるDan De LuceとKeith Johnsonに指導するよう依頼した。このウォーゲームについて、Shlapakは、尖閣諸島を巡る日中紛争に加わることはアメリカにとって大いに困難であり、魅力的な成果を得られない、「この戦闘に参加することが、最も重要な戦略的失敗である」という。このゲームを通じて、我々が学んだことは、以下の諸点である。

a.2000年以上前、古代アテナイ人がペロポネソス戦争を通じて学んだように、同盟は危険なものになり得る。

b.日本との相互防衛条約に多くの軍事資源を投入することは難しい。例え攻撃する側も多大の犠牲を被るとしても、日本の艦艇、航空機そして本土の島々は全て脆弱である。特に、中国の膨大で破壊的なミサイル戦力を見れば、ミサイル防衛は、不可能ではないとしても、極めて困難である。

c.中国の軍事力の進歩は、あらゆる側面でこの種のウォーゲームを完全に変質させた。10年前には、日本は、尖閣諸島に対する如何なる挑戦も、自力で撃退できたであろう。しかし現在では、中国は、近代的な海軍、無数の弾道ミサイルと巡航ミサイル、効果的な空軍、そして益々高性能になりつつある無人機を保有している。

d.アメリカの巨大空母は頭痛の種である。それらは、特に中国の対艦ミサイルによる長距離攻撃に対して、かつてない程脆弱になっている。逆に、アメリカのステルス攻撃型原潜は運用上極めて有用であるが、事態を戦略レベルにまでエスカレートさせかねない。ウォーゲームで目撃したように、リスクを伴わないで懲罰的攻撃が可能な原潜の能力は、アメリカを中国との戦争状態に引き込んだ。

e.このウォーゲームにおける日、中、米3カ国は全てナショナリズム感情が極めて強く、潜在的に致命的になり得る。ナショナリズムが紛争の火付け役となり、その後の連続したエスカレーションを煽り、そして危機がエスカレートするにつれ、関係各国の可能な対応の選択肢を大幅に制約した。

(3) 以上のような理由から、前出のShlapakが結論として示唆するところに従えば、住民を支援することにならない、尖閣諸島のような無人の場所における危機管理の最善の方法は単に無視することであるかもしれない。

記事参照:
How FP Stumbled Into a War With China -- and Lost

1月18日「インド、アンダマン・ニコバル諸島に海洋哨戒機展開」(The Times of India.com, January 19, 2016)

インド紙、The Times of India(電子版)は1月19日付で、要旨以下のように報じている。

(1) インド国防省筋が1月18日に明らかにしたところによれば、インド洋への中国海軍の原潜と通常型潜水艦の定期的な出現を睨んで、インドは、アンダマン・ニコバル諸島の前進基地に最新の長距離海洋哨戒機と無人機の展開を開始した。それによれば、海軍の2機のP-8I Poseidon海洋哨戒機がアンダマン・ニコバル諸島の前進基地への2週間に亘る初めての展開を完了し、今後、空軍のイスラエル製、Searcher-II無人偵察機とともに、定期的に派遣されることになる。

(2) インドはアメリカから8機のP-8I Poseidonを購入することになっており、現在4機がタミルナドゥ州アラコナムのINS Rajali海軍航空基地に配備されている。P-8Iは、最高時速907キロ、航続距離1,200カイリ以上で、インド洋における情報収集と脅威対処を主任務としており、Harpoon Block-II対艦ミサイル、MK-54軽魚雷、ロケット及び深深度機雷を装備し、敵潜水艦や水上戦闘艦を無力化できる。P-8Iは、南アンダマン島ポートブレアのINS Utkrosh海軍航空基地からも、インド洋全域をカバーできる。

(3) インド初にして唯一の戦域コマンド、Andaman & Nicobar Command (ANC) は、その作戦運用上の所要が高まっており、またモディ政権がその整備を最優先課題としているにもかかわらず、依然整備が進んでいない。インド洋における中国海軍の戦略的動向に対処する拠点として効果的な機能を果たすとともに、マラッカ海峡に至るシーレーンの安全を確保するためには、配備戦力を充実やインフラ整備を加速する必要がある。前出の国防省筋によれば、ANCには、最終的に師団レベルの戦力(約1万5,000人)、1個戦闘飛行隊及び数隻の主要戦闘艦が配備されることになっているが、現在の配備戦力は、1個歩兵旅団(3,000人)、小艦艇20隻、及び数機のMi-8ヘリとDornier-228哨戒機のみである。

記事参照:
To fight China's Andaman and Nicobar forays, India deploys submarine hunters

1月20日「中米関係の現実―中国人専門家の見方」(China US Focus.com, January 20, 2016)

中国現代国際関係研究院前院長、崔立如は、Webサイト、China US Focusに1月20日付で、"China's Foreign Policy Shift Mirrors New Realities"と題する長文の論説を寄稿し、中国人専門家の視点から、中米関係の現実について、要旨以下のように述べている。

(1) 中米関係は、2つの経済大国間の関係である。現在、中米関係に幾つかの変化が見られる。最大の変化は、中国が今やアメリカの主要な戦略的競争相手として台頭してきたということである。その結果、中米関係における中核的問題は、中国が世界でアメリカの支配的地位に挑戦するかもしれないという、アメリカにおける増大する懸念である。 今日、アメリカは戦略的に後退している。冷戦後の10年間、アメリカは唯一の超大国として世界に君臨し、手を広げ過ぎた。オバマ政権の基本的戦略は収縮することであった。多くのアメリカ人は、世界におけるアメリカの優位とリーダーシップを引き続き望んではいるが、過度の関与は国力を薄く拡散してしまい、結局、関与していた2つの戦争から撤退し、アジア太平洋重視に転換を余儀なくされた。オバマ政権が就任以来進めてきた、「アジアにおける再均衡化」戦略は一般的には中国を標的としていると見られ、アメリカは、中国を封じ込めようとしていると非難されている。しかしながら、中米間の戦略的力学の変化を考えれば、「再均衡化」は、実際には中国の発展、台頭そして拡大に対するアメリカの対応である。従って、「再均衡化」とは、古いバランスが壊れ、アメリカが新しいバランスを確立するために再調整しなければならないということを意味している。そしてその目的は、アジア太平洋におけるアメリカの主導的役割を維持することである。

(2) 大国外交は、現実を反映するものである。中国は、今や世界第2位の経済規模を持つ、世界大国である。中米間の厳しい抗争は、1つには中国の増大する強さによるものである。他方で、中米関係は長い間、経済関係が主体で、政治や安全保障面での相互関係が(経済面と)同じペースで調整されることはなかった。このことが、両国間の緊張を高めてきた。最近、米ジョンズ・ホプキンス大学のDavid Lampton教授は、中米関係が協調主導の関係から抗争主導の関係に転換するかもしれない、「境界 (the "tipping point")」について言及している。「境界」にはまだ達していないが、近づいていることは確かである。Lampton教授はこれを非常に危険な状況であるとしているが、彼の見解は、中米関係の新たな現状を反映した典型的なものであるといえる。中米関係は、長年に亘って浮き沈みがあり、時には危機にさえ直面してきたが、中米関係の全般的な方向性を変える程の深刻な危険はなかった。しかしながら現在、人々はそのような変化を懸念し始めている。益々多くのアメリカ人を含む専門家は、「トゥキュディデスの罠」(覇権戦争不可避論)について語っている。中米関係が必然的に対立の方向に進むであろうとの懸念が高まっている。これは、過去40年間、目にしなかった現象である。そしてこのことは、中国が中米間の新しい大国関係を提案した所以でもある。その狙いは、非対立関係である。一部の専門家は、中米関係を、既存の大国とそれに挑戦する新興の大国との競争と定義している。 例えそれが真実だとしても、対立は回避不可能ではない。時間の経過とともに、大国関係も変化するからである。「トゥキュディデスの罠」という歴史の経験は有益な示唆だが、それは中米関係の将来を指し示すものではない。

(3) アメリカ人は、新しい大国関係という概念に対して、あまり乗り気でないのは明らかだが、彼らも非対立という考え方には同調している。アメリカの最大の懸念は、中国がアメリカのリーダーシップに挑戦しており、そして何時か恐らくアジアにおいてアメリカに取って代わるかもしれない、ということである。このような懸念を払拭するのは難しい。例えば、中米間の火種の1つに、南シナ海問題がある。この問題を巡る両国間の対立は、自国の主権と海洋権益を護るという中国の決意と、アジア太平洋において確立された権益を擁護するというアメリカの決意との対立である。これは、新しい時代の中米間の中核的な対立である。結局、本質的な部分において、アジア太平洋における支配的立場を維持するというアメリカの決意は不変である。このことは、南シナ海問題が短期間では解決できないことを意味しており、我々は長期的抗争への覚悟が必要である。従って、中米間のリスクの抑制と危機管理メカニズムの開発は極めて重要で、このことは、中米関係におけるコンセンサスでなければならず、また軍事関係における最優先課題でなければならない。

記事参照:
China's Foreign Policy Shift Mirrors New Realities

1月20日「スリランカ、インド洋の海洋安全保障拠点に」(Sunday Times online, January 20, 2016)

スリランカのSunday Times(電子版)は、1月20日付の記事で、スリランカがインド洋における戦略的に有利な位置を生かし、インド洋における海洋安全保障の拠点になりつつあるとして、要旨以下のように報じている。

(1) 地域内外の各国海軍が海洋安全保障を確立するためのパートナーシップを構築するためにスリランカへの関心を高めており、スリランカは、インド洋における海洋安全保障の拠点になりつつある。スリランカ自体も、インド洋におけるその戦略的な位置を生かすとともに、国際的な海洋安全保障活動に参加するために、外洋海軍を整備する意図を示してきた。

(2) 主要海軍国の艦艇によるコロンボ港への寄港頻度が高まっているのは不思議ではない。2014年の中国海軍原潜の寄港にはインドが異議を唱えたが、2016年1月中旬には中国海軍フリゲート「柳州」と「三亜」、補給艦「青海湖」の3隻がコロンボ港に寄港し、スリランカ海軍と航行演習を実施した。その後、インド海軍空母、INS Vikramadityaもコロンボ港に寄港する。インドは、既にスリランカ海軍と緊密な関係にあり、海軍演習、SLINEXを定期的に実施している。インドはまた、スリランカを、セイシェルとモーリシャスとの海洋安全保障ネットワークに加えており、2015年8月にはスリランカ海軍で2006年以来運用されてきた外洋哨戒艦 (OPV)、Varahaを正式に譲り渡した。2015年4月には、海上自衛隊の護衛艦、「いかずち」と「むらさめ」がコロンボ港に寄港した。スリランカで1月13日に開催された海洋安全保障対話で、日本の菅沼大使は、インド洋の海上交通路の要衝に位置するスリランカに注目して、スリランカは日本にとって主たる関心事である国際的海運の安全保障を高める上で重要である、と強調した。スリランカは、2017年に日本から2隻のOPVを受領することになっている。

記事参照:
Lanka on way to becoming Indian Ocean naval hub

【補遺】旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. Defense of Taiwan Post-2016 Elections: Legacy and New Challenges of Military Transformation
China Brief, The Jamestown Foundation, January 12, 2016
By: Yen-fan Liao, Michal Thim;
Liao Yen-Fan is a Taipei-based analyst for the Cyber Security firm Team T5, specializing in cyber security, air power and the Taiwanese military.
Michal Thim is a Research Fellow at the Prague-based think-tank Association for International Affairs, a member of CIMSEC, and an Asia-Pacific Desk Contributing Analyst for Wikistrat, currently working toward postgraduate research degree in the Taiwan Studies Program at the China Policy Institute (CPI), University of Nottingham.

2. Beijing steps up building in South China Sea despite US resistance (Satellite images of Subi Reef and Mischief Reef)
Financial Times.com, January 15, 2016

3. Satellite Imagery Shows Ecocide in the South China Sea
The Diplomat, January 15, 2016
By Victor Robert Lee

4. AIRSTRIPS NEAR COMPLETION (Satellite images of Subi Reef and Mischief Reef)
AMTI, CSIS, January 15, 2016

5. Biofuels will power Navy's next deployment
Sandiego Union Tribune.com, January 16, 2016

6. How scientists plan to clean up plastic waste threatening marine life
Independent, January 19, 2016

7. Asia-Pacific Rebalance 2025
CSIS, January 19, 2016
By Michael J. Green, Kathleen H. Hicks, Mark F. Cancian, John Schaus, Zack Cooper
Full Report (290p)

8. CNAS Report
The Presence Problem: Naval Presence and National Strategy
Center for a New American Security, January 2016
Dr. Jerry Hendrix, Senior Fellow and Director of the Defense Strategies and Assessments Program
Commander Benjamin Armstrong, US Navy, Laughton Naval History Unit, Department of War Studies, Kings College, London


編集・抄訳:上野英詞
抄訳:秋元一峰・飯田俊明・倉持一・関根大助・山内敏秀・吉川祐子