海洋情報旬報 2016年1月1日~10日

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1月4日「インド・太平洋地域における『公共財としての海洋』構想―インド人専門家論評」(The National Maritime Foundation, January 4, 2016)

インドのシンクタンクThe National Maritime Foundation(NMF)理事長、Dr. Gurpreet S. Khuranaは、1月4日付のNMFのWeb上に、Common Public Good at Sea: Evolving Architecture in the Indo-Pacific Regionと題する長文の論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

(1) 「公共財としての海洋('Common Public Good(s) at Sea': CPGS)」という概念は、主としてインド・太平洋地域におけるアジアからアフリカ東岸に至る海域における安全と安全保障という文脈で捉えられてきた。世界経済の重心が東方に移るにつれ、海洋を主体とするこの地域の特性が重要性を増し、それに伴って、海洋領域における安全保障と安定が重視されるようになってきた。本稿は、概念としてのCPGSを理解し、インド・太平洋地域の情勢の中でそれを検証し、この地域に出現しつつあるCGPSアーキテクチャーを考察するものである。

(2) 「公共財('public good(s)')」なる用語は経済学で馴染みのものだが、著名な経済学者、Paul Samuelsonが1954年の論文で、「『公共財』とは、ある個人が一定の財を消費しても、それが他の人々の同じ財の消費を妨げない、全て人が共通に享受できる財」と定義している。従って「公共財」は、非排除的な集合財である。海洋領域でいえば、「灯台」が「公共財」の最も良い例で、どの船も港と安全な水域に導かれる。人間が多種多様な活動を行う世界の海洋の大部分は、どの一国の法律にも規制されない「国際的な中間領域('international medium')」である。このような中間的水域は、外国の沿岸域や沖合での偶発的な事案の際に人道的任務を遂行する海洋部隊に対して、国境を越えたアクセスを可能にしている。海洋部隊は、公海あるいは外国の沿岸域を問わず、こうした人道的任務を遂行する一方で、これら部隊の当該自国にとって「外交政策の手段」として価値ある機能を果たしていることに注目する必要がある。従って、現代的文脈から、CPGSを定義すれば、「当該自国の外交政策上の目的を果たすとともに、海洋という世界的な共通財における秩序と法的規範を促進するという当該自国の国際的コミットメントを果たすために、海洋部隊によって実施される手段」といえるかもしれない。しかしながら、海洋は、地球上で最も無秩序で危険な領域となっている。こうした海洋領域における状況を識別し、安全を確保し、そして活動を定常化することは、海軍大国に属する部隊を含め、海洋部隊にとって侮り難い課題である。

(3) 地理的に見れば、インド・太平洋地域は、海洋が支配的な地勢である。こうした地理は歴史を越えて「不変」だが、いわゆる「アジアの台頭」と、それに伴う域内での海洋経済活動は、域内各国と域外の利害関係国にCPGS概念を強く意識させることになった。伝統的に、あるいは冷戦後から比較的最近まで、世界的な、そして特にインド・太平洋地域におけるCPGSは、時にアメリカの「同盟国とパートナー諸国」の海軍力によって支援された、アメリカの海軍力によって提供されてきた。しかしながら、長期的に見れば、インド・太平洋地域がCPGSの提供を単一の国家(あるいは「一枚岩的な」西側諸国)に依存することは、域内諸国にとっても、またアメリカを含む世界的な利害関係国にとっても好ましくないかもしれない。域内国にとっても、また域外の利害関係国にとっても好ましい、変化の兆しが見られる。

(4) インド・太平洋地域に出現しつつあるCPGSアーキテクチャー

a.第1層

アメリカにとって、インド・太平洋地域へのCPGSの提供は、2010年代に入って、「アジアにおける再均衡化」という国家戦略概念と相まって、以前よりも一層重視されている。アメリカはこの地域のCPGSを「定常的」に提供してきたし、また今後当分の間、CPGSの提供において「主役」であり続けるかもしれないが、より長期に亘って、安全保障の「唯一」の提供者であり続けることはなさそうである。インド・太平洋地域では、この地域全域で地政学的、経済的そして軍事的関与を増大しつつある、新たな大国や中級国家が出現しているからである。地政学的かつ軍事戦略的な理由から、中国は、CPGSの主たる提供者の座を巡って、アメリカと競合しそうである。しかしながら、2012年の中国の防衛白書のタイトル、「中国軍の多様な運用」に見られるように、中国がCPGSを「戦争以外の軍事作戦(MOOTW)」として異なった解釈をしていることは留意しておくべきである。

b.第2層

米中間の競合が間もなくこの地域のCPGS構造の第1層となるかもしれないが、その他の中級国家はそれを補い、第2層を形成しそうである。これには、オーストラリア、インドそして日本が含まれる。これら中級国家は、アメリカとの同盟関係やパートナーシップから多大の恩恵を被ってきたが、米中間の抗争に巻き込まれることに対するヘッジとして、協調へと向かうと見られる。第2層は、欧州連合(EU)によっても補完されるであろう。EUは既に、海賊対処部隊(EUNAVFOR)によるOperation Atalantaを通じて、インド洋におけるCPGSを定常的に提供してきた。

c.第3層

他の中級国家やその他の関係国も、いずれインド・太平洋地域におけるCPGS提供者の列に加わるために連携すると見られ、これがこの地域のCPGSアーキテクチャーの第3層を形成することになろう。潜在的中級国家としては、インドネシアとイランが含まれる。インド・太平洋地域のCPGSに潜在的に貢献できると見られるその他の国としては、南アフリカ、パキスタン及び湾岸協力会議(GCC)加盟国がある。これら諸国は、高い技能を持った専門的な海洋戦力を持っており、この地域のCPGSに貢献することができる。

(5) インド・太平洋地域のためのCPGSアーキテクチャーは、「非排除的な海洋安全保障アプローチ」によるべきである。長期的に見れば、特定の選ばれた域内国と域外国による地域安全保障と安定のためのアーキテクチャーは、この地域と世界的な安全保障にとって望ましいものではない。CPGSに対する努力は、インド・太平洋地域が全体として集団的に取り組む必要があり、それにはインド洋沿岸諸国と西太平洋諸国が含まれなければならない。インド・太平洋の地域の「全て」の国がCPGSのために「余力」を確保することを期待するのはあまりに野心的で非現実的であるかもしれないが、例え小国でも自国沿岸域を警備し、捜索救難(SAR)の責任を果たすに十分な能力を備えるようになれば、この地域の集団的CPGS努力に相応の貢献をすることができるであろう。多国間機構と大国及び中級国家の努力は、これら小国のこうした「能力構築」に向けられる必要がある。

記事参照:
Common Public Good at Sea: Evolving Architecture in the Indo-Pacific Region

1月4日「インド、ベトナムに衛星追跡センター開設へ」(The Economic Times, January 4, 2016)

インド紙、The Economic Times(電子版)は1月4日付で、インドは、ベトナム南部のホーチミン市に、Data Reception and Tracking and Telemetry Stationを開設し、インド宇宙研究機構(The Indian Space Research Organisation: ISRO)は間もなく同ステーションの運用を開始する、と報じた。ベトナムの施設は、インドネシアにある別の既存の施設にリンクされる。インドはまた、ブルネイにも衛星追跡ステーションを設置している。インドにとってベトナムの施設は、南シナ海における動向を監視する上で、重要な戦略的アセットとなろう。

記事参照:
New base: Satellite monitoring station in Vietnam to give India room in South China Sea region

1月5日「南シナ海における『航行の自由』作戦について、米国防長官書簡」(The Diplomat, January 5, 2016)

アメリカは2015年10月27日、中国が南沙諸島に人工島を造成して以来、初めての「航行の自由(Freedom of Navigation: FON)」作戦を実施した。米海軍イージス駆逐艦、USS Lassenは、中国が造成した人工島、Subi Reef(渚碧礁)の周辺12カイリ以内の海域を航行した。このFON作戦に関して、マケイン米議会上院軍事委員長は11月9日付のカーター国防長官宛書簡で、内容について詳細な説明を求めていた*。これに対してカーター長官は12月21日付の書簡で回答した**。Web誌、The Diplomatの編集者Ankit Pandaは、1月5日付のThe Diplomatに、"Everything You Wanted to Know About the USS Lassen's FONOP in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、この中でPandaは、カーター書簡の内容を説明するとともに、要旨以下のように論評している。

(1) カーター国防長官は、LassenによるFON作戦の詳細を56日ぶりに明らかにした。The U.S. Naval Instituteが入手し、Webサイト、USNI Newsが1月5日に明らかにした、12月21日付のカーター書簡は、まずFON作戦の内容について、以下のように述べている。

2015年10月27日、USS Lassen (DDG-82)は、中国、台湾、ベトナム及びフィリピンが領有権を主張する南沙諸島の5つの海洋地勢、即ち、Subi Reef(渚碧礁)、Northeast Cay(北子島、抄訳者注:フィリピン占拠、以下同じ)、Southwest Cay(南子島、ベトナム占拠)、South Reef(奈羅礁、同)、及びSandy Cay(鉄線礁、どの国も実効支配していない)の12カイリ内を通過することによって、南シナ海での作戦を実行した。この航行に当たって、どの領有権主張当事国にも事前通知をしておらず、FON作戦の通常の手順と国際法に従って実施した。

(2) この説明は、USS LassenがSubi Reef(渚碧礁)周辺12カイリ以内を無害通航の形で通航することによって軽率にも中国の領有権主張を支持したとの批判を封じるものである。無害通航こそが、FON作戦なのである。この場合、USS Lassenが中国に事前通告をしなかったことが重要である。また、カーター書簡によって、USS Lassenがその他の海洋地勢周辺海域をも通航したことが確認された。カーター書簡によれば、Northeast Cay(北子島)、Southwest Cay(南子島)、South Reef(奈羅礁)、及びSandy Cay(鉄線礁)の周辺海域である。

このリストにSandy Cay(鉄線礁)が含まれていることは、Subi Reef(渚碧礁)周辺での無害通航によるFON作戦が何故、南沙諸島における中国の過剰な権利主張に対するアメリカの異議申し立てを損なうことにならないかを説明した、CSISのBonnie Glaserと米海軍大学のPeter Duttonの有益で洞察力に満ちた論説の正しさを立証するものである。(この論説については、海洋情報旬報2015年11月1日-11月10日号参照)

Subi Reef(渚碧礁)は、中国が人工島に造成する前は「低潮高地」であり、従って、それ自体で独自の領海を生成しない。しかしながら、カーター書簡で言及されているように、領海を有する他の地勢―この場合は、Sandy Cay(鉄線礁)が該当すると見られる―の12カイリ以内に「低潮高地」であるSubi Reef(渚碧礁)が位置していれば、Sandy Cay(鉄線礁)の領海を決める基線として用いることができる。

(3) カーター書簡は、南シナ海における海洋権限主張に対するアメリカの全般的な政策について改めて言及し、以下のように述べている。

アメリカは、南沙諸島のそれぞれの海洋地勢に対するどの国の主権主張にも、与しない。従って、FON作戦は、これらの地勢に対するいずれの国の主権主張にも対抗するものではない。それはFON作戦の目的でも役割でもない。FON作戦は、領海内通航に事前許可を求める一部の国の政策を含め、領有権主張国による当該領有地勢周辺海域における「航行の自由」の権利を規制しようとする試みに対抗するものである。このような規制は、国連海洋法条約に反映された、国際法の下において全ての国に認められた権利と自由に反するものである。故に、FON作戦は、国際法で認められる場所であれば何処ででも、アメリカは上空飛行、航行及び作戦行動を今後とも実施していくことを誇示したものである。

(4) カーター書簡は大いに評価できるが、USS LassenのFON作戦から56日間も黙しているべきではなかった。米海軍のFON作戦プログラムは完全な透明性を求められるものではないが、中国による過剰な海洋権限主張に異議を唱えるために、アメリカが南シナ海で行っていることを明確にしておくことは、ワシントンにとって重要であり、必要不可欠な利益であるからである。

記事参照:
Everything You Wanted to Know About the USS Lassen's FONOP in the South China Sea
備考*:Document: Letter from Sen. John McCain to SECDEF Carter on U.S. South China Sea Freedom of Navigation Operation
備考**:Document: SECDEF Carter Letter to McCain On South China Sea Freedom of Navigation Operation

1月6日「米アジア政策の再考―宥和と戦争の間における3つの選択肢」(The Diplomat, January 6, 2016)

米シンクタンク、The Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies (DKI APCSS)の准教授、Dr. Van Jacksonは、1月6日付のWeb誌、The Diplomatに、"Rethinking US Asia Policy: 3 Options Between Appeasement and War"と題する論説を寄稿し、アメリカのアジア政策に関して、宥和と戦争を避けるために3つの選択肢があるとして、要旨以下のように述べている。

(1) アメリカのアジア政策の統一したテーマは、安定した、リベラルな地域秩序の維持であった。しかし、現在この地域に見られる多くの傾向―即ち、域内近隣諸国間の信頼関係の低下、軍事力近代化競争の拡大、領土ナショナリズムの高揚、そして偶発的な紛争のリスクを高めるようなやり方で中国が周辺諸国に自国の主張を強要し続けていること―は、アジアにおけるアメリカの長期的利益を脅かしているにもかかわらず、現在のアメリカの政策は、こうした傾向に何の対応もしていない。では、何ができるのか。今日、一方における戦争遂行態勢と他方における見返りのない宥和、それらのいずれをも回避する選択肢を追求する時間的余裕はまだある。

(2) 宥和も戦争も回避し、将来の状況をより良い形にするための第1の選択肢は、中国の潜在的な敵対国の軍事力を大幅に強化することである。最も蓋然性の高い中国との紛争シナリオは、アメリカの同盟国あるいはパートナー諸国を通して生起する紛争である。こうした紛争シナリオを説得力あるものにしている背景要因の1つは、中国とその潜在的な相手国との軍事能力における極端な非対称性である。もし域内の軍事力バランスにおいて中国が圧倒的優位になれば、アメリカの同盟国とパートナー諸国は、中国から威圧された場合、中国と争う意志をなくするかもしれない。域内の同盟国とパートナー諸国の軍事力を強化することは、これら諸国が自衛能力を強化し、北京による高圧的な行動を思い止まらせる、全般的な抑止能力を強化することになる。域内の同盟国とパートナー諸国にとって、中国との軍事的均衡そのものを達成することは目標ではなく(それは不可能であり、恐らく望ましくない)、むしろ合理的で十分な自衛努力を促進することにある。

(3) 第2の選択肢は、アジアの安全保障環境を可能な限り運用上透明性のあるものにすることである。戦略的透明性、即ち、他国の意図に関する信頼性は、国際関係において克服不可能な問題である。そうであっても、アジアでは、運用レベルにおけるより高い透明性の確保が可能であり、また必要である。誰が何時、何を行っているかについての状況認識は、責任ある(そして時に集団の)意思決定の基盤となる。侵略の事実を否認できる「薄いベール」被せた、南シナ海における中国の「グレイゾーン」的な威嚇的行為は、状況認識の曖昧さを利用したもので、そうした行為に反対する域内のコンセンサスの形成を難しくしている。域内の透明性の強化は、海上でのアクシデントや誤算の可能性を減らし、また中国が小国に対して(2012年のScarborough Shoal(黄岩島)での事案のように)威圧的な既成事実を突き付けることを難しくする。透明性の強化はまた、域内で事案が生起した時、侵略した側と防衛する側の識別を容易にし、このことは、侵略的行動を思い止まらせるとともに、小国が結束して侵略者を非難する(あるいはバランスをとる)可能性を高めることで、地域的安定を強化することになる。従って、アメリカは、アジアのパートナー諸国に対して、海洋状況認識能力の構築支援を重視することになるかもしれない。アメリカだけが状況認識能力を保有していても、透明性の強化は限られているからである。

(4) 第3の選択肢は、第1の選択肢の派生型で、接近阻止戦略を支援するための特定の同盟国やパートナー諸国の能力構築である。この選択肢は、いわゆる「ヘッジ」戦略と狙いは同じだが、それとは別で、小国が、局地的な衝突で優位に立つことを可能にする方法である。中国は理論的にはエスカレーションの主導権を維持できるかもしれないが、実際の紛争は理論的なものではなく、局地的な作戦においてその目的を迅速に達成する小国の能力は、形勢を逆転するよりも、むしろ中国に(抵抗する)既成事実を突き付けることによって、中国の「グレイゾーン」的行動の狙いを狂わせる。接近阻止能力を構築することは容易ではない。アメリカは、特定の同盟国やパートナー諸国に対して、海洋状況認識能力の強化、ミサイル防衛そして水上哨戒/戦闘艦艇といった、接近阻止能力の構築に必要な装備を提供することができる。しかし、これだけでは不十分で、沈底機雷やその敷設ドクトリン、潜水艦、巡航ミサイル、様々な航続距離と積載量能力を持つ無人機システムも同様に不可欠である。そして、アメリカがこれらの能力を供与するためには、ベトナムなどのような国に対する、対外武器売却と資金供与に関する政治的、法的規制を緩和することが必要である。最も重要なのは、現在、ほとんどのタイプのミサイルと無人機の移転を規制している、「ミサイル技術管理レジーム(MTCR)」の改編が必要だということである。

(5) これらの選択肢は、この地域に見られる傾向を変更しない遠回しな妥協案であって、穏健であり過ぎ、不適切である、と見る向きもあろう。また、他の人々は、これらの選択肢を危険すぎると見なすかもしれない。しかしながら、どの選択肢もリスクとのトレードオフで、3つの選択肢は、この地域における抗争と不安定な傾向に対応する中間的(そして間接的)な方法を示したものである。

記事参照:
Rethinking US Asia Policy: 3 Options Between Appeasement and War

1月7日「ベトナム、キロ級潜水艦の運用開始」(The Sydney Morning Herald.com, January 7, 2016)

豪紙、The Sydney Morning Herald(電子版)は1月7日付で、ベトナムがロシアから購入した最新のKilo級潜水艦の運用を開始したとして、要旨以下のように報じている。

(1) ベトナム当局筋によれば、ベトナムのKilo級潜水艦の1番艦が南シナ海での哨戒活動を始めた。2017年までに、6隻のKilo級潜水艦がカムラン湾の深水港に配備される。ベトナムはまた、イスラエルから早期警戒監視レーダー、ロシアから最新のS-300地対空ミサイルをそれぞれ購入し、防空能力を強化している。

(2) オーストラリアのベトナム、南シナ海問題専門家、Carlyle Thayerは、6隻のKilo級潜水艦が運用されるようになれば、対艦及び対地攻撃巡航ミサイルとともに、北東部の中越国境から中部のダナン周辺までのベトナム沿岸から200~300カイリ以内の海域での作戦行動は中国に取って極めて危険なものになろう、と指摘している。一方で、Thayerは、南沙諸島の3,000メートルの滑走路を備えた人工島、Fiery Cross Reef(永暑礁)に、中国が対潜哨戒機を常駐させるようになれば、隠密裏に潜水艦を展開させるベトナムの能力は危険に曝されることになろう、と見ている。

記事参照:
South China Sea dispute: Vietnamese subs deployed as deterrent to China

1月7日「中国の次期国産空母―豪退役海軍中将論評」(The Interpreter, January 7, 2016)

オーストラリア海軍退役中将、James Goldrickは、シンクタンク、Lowy InstituteのWeb誌、The Interpreter1月7日付で、"Why China's Next Aircraft Carrier Will Be Based on Soviet Blueprints"と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

(1) 中国は、新しい空母を建造中であることをついに公式に認めた。この空母は中国で建造される最初の空母であり、海軍にとっては2隻目の空母となる。中国海軍は、恐らく4個から最大6個の空母戦闘群の整備を目指す、本格的な空母計画に乗り出したと見られる(中国の専門家は、効果的な空母戦闘能力を実現するためには、少なくとも3個群が必要と公に言及してきた)。ロシアの旧空母を再就役させた「遼寧」(「空母16」)は、その信頼性が未だ確認されていないが、この計画のスタートとなった。

(2) 「遼寧」によって得られた経験は、既に建造段階にある次期空母に生かされるであろう。しかしながら、新しい空母に関連する課題は、建造そのものではなく、設計にある。建造中の最初の空母は、多くの点で旧ソ連が設計した「遼寧」のコピーとなるであろうが、驚くことではない。もし適切な時期に次期空母を就役させるのであれば、これは中国が取り得る現実的な方針である。中国は、ウクライナの業者から「遼寧」の詳細に関する膨大な資料を入手した。中国は今、前世紀において全ての主要国海軍の建艦計画に付きまとったのと同じ問題に直面しており、これらの膨大な資料は、中国の現在の建造計画の元手になるに違いない。直面している問題とは、工業化時代において海軍の拡張における最大の制約要因は予算でも軍縮条約でもなく、海軍の設計者の構想を造船所の工員が作業できるように区画毎の詳細図に書き写す専門的技能者が不足しているということである(実際、このことは、オーストラリア海軍の新型防空駆逐艦の建造で直面した主たる問題点であった)。この問題の困難さは、「遼寧」に関する何トンもの資料が示している。

(3) 中国海軍は、合法あるいは非合法の手段を通じて海外からの多様な技術移転を追求してきているが、多くの異なる新しい潜水艦、巡洋艦、駆逐艦、フリゲート、両用戦艦そして小型艦艇を導入する場合、造船所は、一度に非常に多くの十分な専門技能を備えた自前の設計スタッフを募集し、訓練しなければならない。特に、核及び通常推進の潜水艦戦力に関する所要は、海軍全体そして国家指導部にとって、空母戦力に関する所要よりも高い優先順位が付与されなければならない。このような理由から、新しい国産空母(中国メディアの呼称では「空母17」)は、旧ソ連が作成した「遼寧」のオリジナル設計図面からの派生型になることはほぼ間違いないであろう。新国産空母の建造は、大連造船所に空母建造の経験を積ませ、またそれによって後に続くと見られる空母(「空母18」)の設計を検討する機会を与えることにもなろう。「空母18」に対する要望が野心的であればあるほど、設計段階は長くなろう。例えば、海軍がより能力の高い空母搭載航空部隊を望めば、航空機を発艦させるためのカタパルトが必要になろう。米海軍が次期空母、USS Gerald Ford用に開発している電磁カタパルトと同じような電磁式航空機発艦システム(EMALS)に中国が関心を持っていることを示す幾つかの証拠がある。しかし、中国海軍は、電磁カタパルト開発の道を選択するのか、あるいは代替案として内燃式カタパルト航空機発艦システム(ICCALS)を採用するのか、更には既に実績はあるが複雑な蒸気カタパルトを選択するのか、いずれにしてもそれに伴うリスクに直面する。従って、現在建造中の空母以降、建造ペースが加速されたとしても、国産2番艦、「空母18」の就役は2025年以前にはなさそうである。

(4) 空母の実戦力は、搭載航空部隊に依存している。今のところ、中国海軍の艦載用固定翼機は、攻撃能力が限られた戦闘機のみである。特に「遼寧」の運用に関する公表された全ての中国のビデオは、「遼寧」から運用されている艦載機が殲-15 (J-15)戦闘機のみであることを示している。陸上基地航空部隊から独立した、真にオールラウンドな中国海軍航空部隊になるためには、早期警戒機と対潜戦(ASW)機が電子戦環境下で運用できる攻撃機とともに必要である。また、海軍は、ヘリコプターにもっと関心を向ける必要がある。ヘリコプターは、空母部隊の一部として対潜戦と対水上戦を支援するとともに、同一任務を他の水上戦闘艦からも遂行できるのである。こうした早期警戒機などを新しい空母に搭載するために大幅な改修が必要になるかどうか、中国海軍にとってその実現には少なくとも今後10年の時間を要しよう。

記事参照:
Why China's Next Aircraft Carrier Will Be Based on Soviet Blueprints

1月8日「アメリカが追求すべき2016年の北極圏における重点政策―米専門家論評」(The Heritage, January 8, 2016)

米シンクタンク、ヘリテージ財団のLuke Coffey、Daniel Kochis、Brian Slatteryは連名で、1月8日付の同財団機関誌、The Heritageに、"Top Five U.S. Policy Priorities for the Arctic in 2016"と題する論説を寄稿し、2016年はアメリカにとって北極評議会議長国として最後の年であり、アメリカは、北極圏における指導的役割を最大限に発揮するために、以下の5つの問題を2016年の北極圏政策の重点項目として追求すべきであるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 北極評議会議長国としての役割

アメリカは2014年4月、カナダから北極評議会議長国の任を引き継いだ。アメリカは議長国として、北極圏に関する政策課題を明確化させる良い機会であったが、現在までのところ、その成果は限定的である。北極評議会議長国は必ずしも強い力を発揮できるわけではないが、議長国は北極評議会に対して議題を設定する権限を有している。アメリカは、議長国として、現実的かつ達成可能な目標を設定することに努力すべきである。そのためにも、アメリカは、北極圏における経済的自由を促進し、北極圏や北極評議会に対する米国民の関心を高め、全てのアラスカ住民の所要を満たすよう努力し、北極圏の海洋境界画定問題の平和的な解決に努力し、のオブザーバー国申請を阻止し、そして北極圏における捜索救難(SAR)や災害対処の能力を強化していくべきである。そしてアメリカは、2017年初頭に議長国を引き継ぐフィンランドと密接に協力すべきである。そうすることで、アメリカが議長国であった期間に開始されたプログラムや計画の継続性が担保されることになる。

(2) 北極圏の安全保障と2016年NATOワルシャワ首脳会談

次回のNATO首脳会談は、2016年7月にポーランドのワルシャワで開催される。NATOがこれまでほとんど無視してきた地域の1つが、北極圏である。NATOは、加盟国の北極圏領土を含めた、加盟国の領土保全を目的に設立された集団的安全保障機構である。カナダ、デンマーク、アイスランド、ノルウェー及びアメリカの5つのNATO加盟国は、北極圏の国々である。更に、フィンランドとスウェーデンの2つの同盟国も、北極圏に領土を有している。NATOは、北極圏における役割に関して何の合意もできていない。NATOの「2010年戦略構想(2010 Strategic Concept)」には、北極圏の安全保障問題は含まれていない。今こそ、NATOは、北極圏における安全保障上の課題に対処するために、フィンランドとスウェーデンとも協力して、包括的な北極政策を策定すべき時である。アメリカは、ワルシャワ首脳会談を、NATOの北極圏における課題を確認し、北極圏の安全保障問題に対する共通政策に同意する機会とすべきである。

(3) 北極圏の経済的自由

北極圏の経済的自由は、アメリカの北極政策における最も重要な原則の1つである。北極圏における海運、観光、資源開発といった分野は、今後成長が見込まれる。北極圏には、豊富な地下資源、野生動物、魚類、その他の天然資源が存在している。アラスカ州ノースロープに居住する1万人を含む北極圏で生活する人々にとって、生活水準を向上させる最善の道は、経済的自由を促進する政策を追求することである。アメリカは、北極圏の経済成長を遅らせたり無視したりするのではなく、北極圏に居住する人々の生活を良くするためにも、そして北極圏の責任ある開発を奨励する手段としても、透明性の向上や自由市場を通じて経済的自由を促進しなくてはならない。

(4) 北極圏におけるアメリカの領海

北極圏におけるアメリカの経済的利益は今後増大して行くであろう。しかしながら、北極圏のアラスカの住民は、予測不可能な海氷状況、厳しい気象環境、不十分なインフラなど、北極圏特有の問題に直面している。こうした問題と、今後増大すると見られる北極圏の物流を考えれば、北極圏における適切なプレゼンスを維持し、政策を遂行するアメリカの能力は、益々不可欠になるであろう。2010年以来、アメリカ沿岸警備隊は、北極圏での任務遂行のため、3隻の中型砕氷船と3隻の大型砕氷船が必要であると主張してきた。しかし現在、それぞれ各1隻しか運用されていない。現在アメリカが保有する唯一の大型砕氷船、USCGS Polar Starは、船齢が40年を超え、今後も運用維持するためには数年以内に大規模な改修が必要だが、いずれにせよ、2020年前後には退役が予定されている。新たな大型砕氷船の建造については、ここ数年間議論されているが、約10億ドルの費用がかかることや建造期間が10年以上かかることもあり、話は進んでいない。米議会は、海外の砕氷船の購入を含めた、砕氷能力の再構築に関する全てのオプションプランを検討する必要がある。そして議会は、無人機システムへのさらなる投資を通じて、沿岸警備隊の北極圏における「海洋の状況識別(MDA)」能力の強化を支援することも必要である。

(5) 北極圏におけるロシアの軍事化

ロシアのプーチン大統領は、モスクワにとって北極圏が重要な地域であることを強調してきた。最新のロシアの海軍ドクトリンは、北極圏を最優先事項にしている。ロシア海軍の3分の2を占める北方艦隊には、1個海兵旅団相当戦力が増強されることになっており、同部隊はノルウェーの国境から9マイルも離れていないムルマンスク州のペチェンガ近郊に駐留する。2014年12月には、北極圏におけるロシア軍全体の活動を調整するために、北極司令部が新設された。北極圏全域において、飛行場や海軍基地などを含めた、旧ソ連時代の軍事施設が再開されつつある。ロシアは、北極圏で使用する特別仕様の1.7トンのドローン(無人機)を開発している。この無人偵察機は2017年にも運用を開始すると見られ、その航続距離は2,485マイルで、ロシア沿岸域から北極点までを2往復できるに十分な距離である。アメリカは、北極圏における主権を護るために、十分な監視と適切な軍事能力の強化を怠ってはならない。北極圏の自国領内の何処にでも自由に軍事能力を展開できるのがロシアの強みだが、モスクワは最近、(ウクライナで見せたように)目的達成のため自国国境を越えて軍事力を行使する意志を明示していることから、北極圏への軍事的展開は他国に対して警戒心を抱かせるものとなっている。北極圏だけを例外視する理由が全くないからである。

(6) 今後を展望すれば、現在の政策決定や投資が今後の北極圏における課題にアメリカがどう対応していくかを左右する。他国が北極圏における国益防衛のためにその資源や資産を投資していることから、アメリカもこれら諸国の後塵を拝する訳にはいかない。北極圏は経済的、地政学的に益々重要になってきており、従って、アメリカには手を拱いている時間的余裕はない。

記事参照:
Top Five U.S. Policy Priorities for the Arctic in 2016

【補遺】旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. A Design for Maintaining Maritime Superiority
ADM John M. Richardson, CNO, U.S. Navy, January 2016

2. Friends, Foes, and Future Directions: U.S. Partnerships in a Turbulent World
The RAND Corporation, January 5, 2016
By Hans Binnendijk

3. Navy Force Structure and Shipbuilding Plans: Background and Issues for Congress
Congressional Research Service, January 8, 2016
Ronald O'Rourke, Specialist in Naval Affairs

4. Roundtable: Non-claimant Perspectives on the South China Sea Disputes
The National Bureau of Asian Research, January, 2016


編集・抄訳:上野英詞
抄訳:秋元一峰・飯田俊明・倉持一・関根大助・山内敏秀・吉川祐子