海洋情報旬報 2015年10月1日~10日

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10月1日「中国、初の国産空母建造か、衛星画像公表」(gCaptain.com, Reuters, October 1, 2015)

IHS Jane's Defense Weeklyは10月1日、中国が大連の造船施設で建造中の大型船舶の衛星画像3枚を公開した。画像の撮影日は2015年5月1日、6月3日及び9月22日である。IHS Jane'sは、「上部機構や艦載機のフライトデッキが確認されるまで、空母の船体とは断定できないが、建造のペースが遅いことや全体の構造から、商用船舶ではなく、軍用艦の可能性が高い」としている。IHS Jane'sによれば、新型の両用強襲艦かヘリ空母の可能性も排除できないという。

記事参照:
Satellite Images May Show China's First Domestically Built Aircraft Carrier
Satellite imagery released by IHS Jane's on October 1, 2015 showing the building of China's first aircraft carrier at a Dalian shipyard in northern China.

10月1日「南シナ海における中国の行動に米は対応すべし―米専門家論評」(National Maritime Foundation, August 3, 2015)

元欧州連合軍最高司令官(NATO軍最高司令官)で、現在、米タフツ大学フレッチャースクール学長のJames Stavridis(退役海軍大将)は、10月1日付の米誌、Foreign Policy(電子版)に、"China's 3,000-Acre Aircraft Carriers Could Change the Balance of Power in the Pacific"と題する論説を寄稿し、南シナ海における中国の行動に対して、アメリカは今こそ行動すべきであるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 1972年にニクソン米大統領が初めて訪中した時、彼が訪れた「万里の長城」は本物のGreat Wallであった。それから半世紀近く経た現在、中国が築いた新たな万里の長城を、ハリス米太平洋軍司令官が「砂で築いた万里の長城 (a "Great Wall Of Sand")」と呼んだ。しかし、この新たな長城はそれほど巨大なものではない。この壁は、石やレンガ、木材の代わりに、南シナ海において中国が歴史的権利を主張する海域全体を取り囲むように造成されている人工島によって構成されている。中国が海洋主権を主張する海域はいわゆる「9段線」で囲まれており、ベトナムやフィリピンなどが正当な領有権主張海域を含め、南シナ海の広大な海域を占めている。

(2) この中国の行動にとって重要な舞台である、戦略地政学者のロバート・カプランが「アジアの沸騰した大鍋 (Asia's "cauldron")」と呼ぶ南シナ海は、まさに現在、沸騰状態にある。南シナ海問題は、領有権問題だけでなく、世界経済のスムーズな運営にとっても重要である。年間5兆ドルを超える物流が、人民解放軍海軍の監視下の南シナ海を通航している。人工島を造成するという中国の挑戦的な行動は、国際法やその他の規範に反して強行されている。中国の挑発行為に対しては、多くの国際法学者が不当であると指摘している。中国が行っている人工島造成は驚異的である。現在も造成は続いているが、これまで中国は、外洋上に約3,000エーカー近い土地を新たに造成した。米海軍の原子力空母では、70機の戦闘機やヘリなどの運用をわずか5エーカーほどの甲板上で行っている。これらの人工島は数百隻の不沈空母に匹敵するものになり得るだろうか。そして米中両国の軍事バランスを変化させるものなのか。更に、軍事的、地政学的問題に加え、重大な生態系破壊も進行している。マイアミ大学の専門家であるJohn McManusは、中国の人工島に関して「人類の歴史上最も早く、サンゴ礁の永久的な損失が進んでいる」と指摘している。

(3) これらに加えて習近平政権の足を引っ張っているのが深刻な国内問題である。独裁政権下では、為政者に批判が向けられるようになれば、その批判の目を逸らさせるために対外的に何らかの強行策に転じるという傾向がある。それがナショナリズムを生む。これが現在の中国の姿である。アメリカにとって何がベストのアプローチ方法なのか。

a.まず、中国の挑発にかかわらず、アメリカは、中国とのオープンな対話を維持し、米中間の不用意な衝突の可能性を減少させる必要がある。米中関係には、経済問題、アフガニスタンからイランにかけての地政学的協力、地球環境問題などが存在しており、南シナ海問題はその内の1つに過ぎない。

b.第2に、アメリカは、アジア地域における既存の同盟国やパートナー諸国との関係を強化し、協同していく必要がある。歴史的理由から、特に日本や韓国に対してはこういった点が重要である。アメリカは、両国との合同軍事演習や、トラック・ツーの交流などを積極的に推進することで、これまで以上に良好な関係を築くことができるであろう。TTP(環太平洋戦略的経済連携協定)も大きな要素となり得る。強力な経済協力ネットワークを構築することは、アメリカの同盟国やパートナー諸国同士の関係を進化させることに繋がる。ベトナムとの密接な関係は、同国への武器輸出禁止の一部解禁を含め良い傾向を示している。

c.第3に、国際法の基本原則は、南シナ海における中国の行動とは相容れない。アメリカは、このことを、国連、G7、ASEANといった国際的な場で強調する必要がある。南シナ海に関する国際法的判断は明確であり、国家は「歴史的権利」を主張することはできず、他国が国際海域と見なしている海域を自己のものにはできない。アメリカは、グローバルな海洋強国として、反論の機会を逃してはならない。そして、率直に言えば、アメリカはこういった対話の場における発言力を強めるためにも、国連海洋法条約 (UNCLOS) に加盟する必要がある。

d.最後に、アメリカは「航行の自由作戦」を通じて、国際法規範上伝統的に認められた権利を行使すべきである。これは、中国が主権を主張している海域の上空を飛行したり、米艦船を中国が自国領海だと主張している人工島の12カイリ以内を航行させたりすることを意味する。アメリカは、公海や公空の航行や飛行の自由に対する不当な要求に対抗してきた長い歴史を有している。今こそ、南シナ海で行動を起こす時である。

(4) こういった戦略的な処方箋は、それ自体で南シナ海問題を解決することはできないであろう。また、米海軍艦船や航空機を中国が主権を主張する海域や空域を通過させるだけでは、解決にはならない。南シナ海における中国の主張を押し戻すためには、中国の行動と米中関係というより広い文脈の中で、中国の国際法違反行為に対処するためのより包括的な戦略が求められる。要するに、東アジアにおける多くのパートナー諸国や友好国と協同した、アメリカのリーダーシップが要求されるのである。中国の本物の「万里の長城」は少なくとも夷狄の侵入を部分的には防ぐことができた。しかし、「砂で築いた万里の長城」はそうはならないであろう。

記事参照:
China's 3,000-Acre Aircraft Carriers Could Change the Balance of Power in the Pacific

10月2日「アメリカは南シナ海でより厳しい姿勢を取るべき―米誌論評」(Foreign Policy.com, October 2, 2015)

米誌、Foreign Policyの国家安全保障担当記者、Dan De LuceとPaul McLearyは、10月2日付の同誌電子版に、"In South China Sea, a Tougher U.S. Stance"と題する長文の論説を寄稿し、アメリカは南シナ海でより厳しい対応を取るべきとして、要旨以下のように述べている。

(1) アメリカと東南アジアのパートナー諸国は、南沙諸島における中国の大規模な埋め立て活動に対して益々危機感を募らせている。米国防省によれば、中国は、この2年足らずの間に、7カ所で3,000エーカー以上の土地を造成した、前進拠点を構築した。この海域への米海軍の哨戒活動の強化は、北京の行動に対抗するために、アメリカによる外交的、軍事的支援を求めてきた、この地域の中国の近隣諸国から歓迎されるであろう。アメリカは、この地域における中国と他の領有権主張国との領有権紛争に対しては、いずれの側にも与しないことを強調してきた。しかし、アメリカは、中国による他国に対する威嚇や、係争中のサンゴ礁や岩に軍事拠点を設置する試みに対しては懸念を表明してきた。

(2) ワシントンは、グローバル経済の基礎となる国際的な規範やルールが南シナ海紛争で危機に瀕している、と考えている。ハリス米太平洋軍司令官は9月の上院軍事委での証言で、「もしある国が自国の利益のために国際的な規範やルールを選別的に無視するなら、他の国も間違いなくそれに追随し、そのために国際的な法秩序が崩壊し、太平洋地域全体の安定や繁栄が損なわれるであろう」と述べた。中国は、南沙諸島の自国占拠の地勢に3本の滑走路を建設し、レーダと通信装置を設置し、また浚渫によって大型軍艦を収容できる深水港を建設した。米政府当局者は、中国の建設作業は人工島による軍事ネットワークの構築にあると見、これがより小さな近隣諸国に対して北京の領土的野心に屈するよう強要するために使われることを恐れている。このようなシナリオにおいては、東シナ海において2年前に宣言したように、中国が南シナ海において防空識別圏 (ADIZ) を宣言する可能性がある。シンクタンク、The Center for a New American Security (CNAS) の上級研究員、Mira Rapp-Hooperは、「中国が現在南沙諸島で構築している全ての施設と滑走路は、南シナ海におけるADIZ設定を予期させる」と語った。ADIZが設定されれば、北京は、この空域に入る全ての航空機に対して、飛行ルートを提出し、中国軍からの指示に従うことを要求する可能性がある。

(3) 大々的に喧伝されてきたアメリカの「再均衡化戦略」は、この数年間、中国をして南シナ海でより融和的な姿勢を取らせるには至らなかった。現在、オバマ政権内部やこの地域のアメリカの同盟諸国には、アメリカの立場を強調する行動を取る時が来たとの感触がある。RANDのアジア太平洋政策センター副所長、Scott Haroldは、「南シナ海における浚渫や人工島造成を止めるよう、中国を説得あるいは強要するための、都合の良い選択肢がないことは明らかである」と指摘している。しかしながら、人工島周辺で艦艇と航空機を運用することは、中国の法的要求あるいはそれを主張する高圧的手段を認めないというワシントンの姿勢を誇示することになろう。敵対勢力や同盟国による海洋権限の「過剰」な要求と見なされるものに異議を唱えるため、アメリカは、この数十年にわたって、世界中で「航行の自由」のための哨戒活動を実施してきた。

(4) 米海軍艦艇はまた、中国の漁船団からの挑戦にも直面している。北京は、これら漁船団を、海洋法令執行活動の間隙を縫うローテク戦術として活用している。漁船団は、海上民兵として編成されれば、本土から数百カイリ離れた海域で一種の哨戒ラインを構成し、本土から遠隔の係争海域における中国海軍の目と耳として利用される。漁船団は、近年の幾つかの事案で重要な役割を果たした。例えば、2012年には、数十隻の漁船が、中国、フィリピン及び台湾が領有権を争う南シナ海のScarborough Shoal(黄岩島)を巡る対峙に加わった。また、2009年には、中国のトロール船団が、数日間にわたり米海軍の音響測定艦、USNS Impeccable を追跡し、妨害活動を行った。嫌がらせを行った。漁船団は、海上民兵として効果的に任務を遂行するため、中国の地方政府や軍隊と連携を保ち、公海を航行する外国船舶を追跡し、妨害するために、迅速に動員、展開させることができる。米海軍大学のエリクソン准教授は、この民兵組織について、民間人が操船しているが、中国軍に代わって任務を遂行しているかもしれない漁船に対して、如何に軍艦が対応するかという、重要な課題の1つとなっている、と指摘している。

記事参照:
In South China Sea, a Tougher U.S. Stance

10月5日「北極圏で加熱する米ロの軍備競争―ロイター報道」(gCaptain.com, Reuters, October 5, 2015)

10月5日付のReutersは、"Russia and United States Square Off Over Arctic"と題する記事で、北極圏で加熱する米ロの軍備競争について、要旨以下のように報じている。

(1) アメリカとロシアは、北極圏の隣国で、地政学的なライバルである。益々多くのロシアとアメリカの軍事力が北極圏と北極海の海面下に展開しつつある。しかしワシントンとモスクワは、全く違う方法で北極圏における軍事力の増強を図っている。クレムリンは、北極海の海上では優位にあるが、アメリカは海面下を支配している。米ロとも北極圏向け地上部隊を錬成しているが、アメリカはハイテクのステルス戦闘機で構成する北方攻撃部隊を編成しつつある。こうした異なるアプローチは、数十年前からの双方の軍事政策と優先順位の違いを反映した結果である。ワシントンは北極圏以外でも運用可能な潜水艦と軍用機を重視してきたが、モスクワは、その広大な北極圏沿岸域で活動する砕氷船に投資してきた。オバマ大統領の9月のアラスカ州訪問中、ホワイトハウスは、高性能の砕氷船の予算を要求すると発表した。アメリカはこの数十年、砕氷船を軽視してきたために、沿岸警備隊が保有している砕氷船は3隻で、他に米企業が2隻所有しているだけである。しかし、数隻の砕氷船を新造しても、ワシントンは、北極海で不可欠のこの分野では、モスクワにはるかに及ばないであろう。ロシアは22隻の砕氷船を所有し、ロシア企業が特殊船を19隻所有している。更にモスクワは、11隻の砕氷船を建造中もしくは計画中である。公平に見て、ロシアの北極海沿岸線は、アメリカのそれよりも何百カイリも長い。ロシアの砕氷船は、日常的な平時の活動では、広範囲に拡散している。しかし、有時には、クレムリンは、砕氷船を速かに集中させ、米国防省が艦船を動員できるよりはるかに早く速く、ロシアの軍艦のために航路を啓開することができよう。

(2) しかし、アメリカの北極戦略は、ロシアの戦略におけるよりも水上戦闘艦への依存は少ない。その代わり、米軍は、北極圏での影響力発揮のために、潜水艦に依存してきた。米海軍Seawolf 攻撃型原潜 (SSN) の艦長は、「長期間、海氷面下で潜航できる潜水艦は、北極圏で運用する最高のプラットフォームである」と語っている。米海軍は、北極海の海氷面を割り、その下で航行できる装備を持つ、41隻のSSNを運用している。ロシアの砕氷能力がある攻撃型潜水艦は25隻である。アメリカのSSNは、ロシアの潜水艦よりも頻繁に展開しているようである。経済的困難から、クレムリンは、海軍力整備の資金調達に苦労してきた。一方、米海軍は、訓練と科学調査任務を目的に、2年毎にSSNを2隻一組で北極海に派遣している。北極海への展開作戦では、ワシントン州に拠点を置くSeawolf SSNは、ベーリング海峡を通峡して、北極海の海氷面下を航行し、極点を通過して太平洋から大西洋に航行し、そして戻ってくるのである。米海軍は、Seawolfと他に2隻の同級艦を、特に北極海での活動向けとしている。これらの潜水艦は、緊急時に潜水艦が海氷面を割って浮上するための海氷探査のソナーと装備を搭載している。

(3) 米ロは地表では伯仲している。米陸軍は、アラスカ州に3個戦闘旅団を配備しており、各旅団の兵力は約3,000人である。1個旅団は空挺部隊で、2個目はストライカー装甲車両部隊、そして3個目は偵察部隊である。空挺部隊は、定期的に北極海の海氷面にパラシュート降下訓練を実施している。2015年2月に実施された演習、Spartan Pegasus では、アラスカ州に拠点を置く2機のC-17、2機のC-130各輸送機が、華氏-20度前後の大気温の中で北極圏北部の演習場に180人の空挺部隊と2台の車両及び装備を投下した。陸軍によれば、「この演習の目的は、凍結した地形で機動力を発揮できるかどうかを確認することであった。これは、陸軍の最北部隊としてのアラスカ陸軍における不可欠の能力である」と強調している。陸軍の装甲車、ストライカーは機動力が制約されている。米空軍は、8機の4-発エンジン貨物輸送機C-17をアラスカに配備しており、1両約25トンのストライカーを数両輸送できるが、空軍は北極圏の滑走路に着陸することはほとんどない。しかし、カナダ空軍のC-17は、華氏-60度の大気温の中で極北の村で離着陸を実施した。理論的には、米空軍は、アラスカ配備のストライカー部隊を北極圏の戦場に輸送することができるはずである。C-17は、パラシュートによってストライカーを降下させることもできるが、実施したテスト時のみであった。

(4) ロシア陸軍の北極司令部は、アメリカよりも小規模で、装甲車を装備した2個旅団を持つだけである。しかし、司令部隷下以外の戦闘部隊は、定期的に訓練のため、特に空挺部隊と彼らを輸送する輸送機が北極圏に展開している。2015年3月に実施された北極圏での演習では、200機以上の航空機に加えて、8万人の陸軍、海軍、空軍の兵士が参加したといわれる。演習の公式写真からは、雪中に啓開された離着陸場に、An-72輸送機と白い外套を着た歩兵部隊を見ることができる。この演習で、ロシアは、北極圏上空域を哨戒飛行できることを証明した。しかしながら、米空軍は、北極圏では優位を維持している。C-17とC-130各輸送機に加えて、米空軍は、アラスカ州にE-3レーダ搭載機と3個戦闘飛行隊を配備している。これら飛行隊の内、2個は各20機のハイテクF-22ステルス戦闘機で構成され、他の1個は18機のやや旧式のF-16戦闘機で構成されている。今後数年以内に、新型F-35ステルス戦闘機を装備する飛行隊が最大2個増強され、アラスカ州フェアバンクス近郊のEielson空軍基地でF-16戦闘飛行隊に合流する。空軍は2015年2月に、ステルス戦闘機が北極圏の気象の中で機能することを実証するために、F-35の極寒試験を行った。

(5) いわば文字の通りの「冷たい戦い」の中で、米軍が海氷面の下と上空で優位を維持する一方で、ロシア軍は北極海の海面における優位を維持し続けるであろう。この間、米ロ両国は、何千人もの地上部隊を北極圏での軍事行動に備えて訓練しており、「冷戦」は北極圏の氷が解けるほど加熱しているといえよう。

記事参照:
Russia and United States Square Off Over Arctic

【補遺】旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. CSIS Report
Maritime Fulcrum: A New U.S. Opportunity to Engage Indonesia

2. US: Russia Building 'Arc Of Steel' From Arctic To Med
Navy Times.com, October 6, 2015

3. Chinese Strategy and Military Modernization in 2015: A Comparative Analysis (626p)
CSIS, October 10, 2015
By Anthony H. Cordesman and Steven Colley

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・関根大助・山内敏秀・吉川祐子