海洋情報旬報 2015年7月11日~20日

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7月11日「ジブチ、インド洋における中国初の拠点に―米海大エリクソン論評」(China Sign Post.com, July 11, 2015)

米海軍大学のAndrew Erickson准教授は、7月11日付の自身のブログに、“Djibouti Likely to Become China’s First Indian Ocean Outpost”と題する長文の論説を掲載し、中国がジブチに海外における初の拠点を準備しつつあるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 最近の報道によれば、中国はジブチに長期的な海軍のプレゼンスを維持するための外交的、法的基盤を準備しつつあると見られ、中国自身もこうした報道を否定していない。中国の施設はジブチ北部海岸のオボックになると見られ(Map参照)、この施設への永続的なアクセスは、中国がインド洋北西部地域や、北アフリカ、東アフリカ及び中央アフリカに進出する上で、得難い拠点となろう。中国海軍が2008年12月からソマリア沖の海賊対処活動を始めて以来、これまで50回以上もジブチに寄港しているといわれる。海賊対処部隊の派遣を正当化してきたソマリア海賊の脅威が激減している状況下でも、中国は、海軍の前方展開を維持しようとしている。

(2) では、何故、ジブチなのか。以下は、中国から見た、幾つかの重要な要素である。

a.第1に地理である。ジブチは、アデン湾にアクセスするための比類なき位置にあり、そして世界のエネルギー海上輸送の動脈である、バブエル・マンダブ海峡を跨ぐ戦略的位置にある。この動脈は、世界で4番目に輸送量の多いエネルギー輸送の海上チョーク・ポイントである。

b.第2に、ジブチは、中国がこの地域で有する主要な海洋や陸上の権益が集中する地域の近くで、最も安全で政治的に安定した場所である。ジブチは既に、フランス、アメリカそして日本から数千人の要員を受け入れている。

c.第3に、ジブチには、中国海軍の現役、あるいは近い将来の就役が見込まれるあらゆる戦闘艦を係留できる施設と水深がある。ジブチの現在の港湾は、喫水18メートルまでの艦船が係留可能である。これは、空母の入港にも十分な水深である。

d.第4に、ジブチは、インド洋における補給支援網を構築する上で、良く知られた中国の戦略思考に適合している。中国海軍の研究員、Jin Aimingは、インド洋地域におけるより恒久的なアクセス拠点を構築するに当たって、海軍が候補地を検討するための有益な基準を提示している。Jinは、候補地を3段階に区分している。第1階層は、商業利用に加えて、燃料や物資の補給拠点で、主な候補地にはジブチのオボックやオマーンのサラーラが含まれている。第2階層は、海軍艦艇や航空機への補給、及び乗組員の休養のための予め定められた計画を支援できる拠点である。この面での候補地として、セイシェルのビクトリア港が挙げられている。中国は2012年3月、海賊対処活動を支援するためセイシェルにプレゼンス拠点を置く計画を発表している。最も高いレベルが第3階層で、米軍のいう「基地 (“base”)」の要件を全て満たさないが、少なくとも「根拠地 (“place”)」というものに近いものである。Jingは、より包括的な補給、乗組員の休養、部隊の再編、あるいは大規模な補修や武器の修理も可能な、長期的な2国間協定を想定している。域内では、カラチが大規模な艦船修理施設を持っており、有力な候補地である。

(3) 中国は、インド洋地域におけるプレゼンスを強化すると見られるが、実際にはどのような形になるのであろうか。中国のインド洋地域へのアクセスを予想するためには(そしてJinの見解を検証するために)、中国海軍が今日までインド洋地域で実際にどのような行動をとってきたかを帰納的に観察することが重要である。これまでの行動を見れば、ジブチのオボックとオマーンのサラーラが「第1階層」の支援拠点候補としては断然、先頭を走っている。両港とも拠点となるに相応しい、主要基準を満たしている。しかし、ジブチの方が、インド洋地域において中国海軍をより公式に支援する上で、優位に立っているようである。ジブチの数少ない候補地の中でも、オボックは、中国が探し求めている僻地にあって、拡張の余地がある、恐らく最高の候補地である。現在、オボックは、本質的に小さな漁村だが、中国主導のインフラ投資によって優れた軍事支援施設になるであろう。上空からの映像を見れば、南から港に入る天然の水深の深い水道が存在する。迅速な浚渫で、水深の深い港にするのは中国企業の得意とするところである。日本やアメリカもジブチを利用しており、従って、中国は相対的に「排他的」な拠点を必要としており、オボックは、相対的に孤立した場所にあり、しかも長い滑走路を持つ飛行場を設営できる余積がある。滑走路が設営されれば、多くの戦略的利点を持つことになろう。

(4) 中国は、海賊対処活動のための前方展開部隊が極めて有用であることに気付いた。海賊対処部隊は、海賊対処に加え、リビアやイエメンから中国市民を救出し、シリアの廃棄化学兵器の海上輸送の護衛を支援した。また、海賊対処部隊は、中国の存在を誇示し、影響力を行使する大きな機会となったし、多くの将兵に現実の作戦経験を積ませることもできた。悲しいかな、中国にとって海軍部隊を前方展開する事由としてソマリア海賊を利用できた時期は終わろうとしている。従って、北京は、部隊を撤収するか、あるいはこの地域における恒久的な軍事プレゼンスの維持をより公然と求めていくかを決定しなければならない。今のところ、中国の全般的な海洋における目標やそれに向けての進展ぶりから見て、全ての兆候は後者であることを示している。中国海軍が今日までインド洋地域において実施した作戦経験から見て、前方展開部隊は安定した正式なアクセス拠点を必要としている。エネルギー安全保障という中国の核心的国益を護るためにも、中国海軍は、長期的な費用対効果に優れたインド洋地域へのプレゼンスを必要としている。インド洋地域におけるアクセス拠点網を構築することは、中国海軍の遠距離作戦やより広範な海軍の戦略的意図に資することになろう。オボックを含むアクセス拠点の能力は、恐らく限定的なものに留まるであろうが、中国は、アメリカのような海軍戦闘を支援する能力のある海外基地網を建設しようとしているのではない。しかしながら、恒久的なアクセス拠点の確保は、それらが持つ特定の能力よりもはるかに重要である。より恒久的なアクセス拠点を追求するという中国の決定、そしてそれを受け入れるホスト国の決定は、中国の外交、軍事政策にとって記念碑的な飛躍となろう。従って、ジブチは、中国の対外安全保障政策における潜在的に重要な、象徴的かつ本質的な転換の触媒役を果たすことになろう。

記事参照:
Djibouti Likely to Become China’s First Indian Ocean Outpost
Map: Djibouti’s Strategic Position in the Indian Ocean Region (The black circle in this map shows the territory lying within a 2,500 km radius of Djibouti—a conservative estimate of the rough distance a Shaanxi Y-8 class maritime patrol aircraft would be able to cover without aerial refueling.)

7月12日「ロシア、北方航路通航量の大幅拡大を計画」(The Moscow Times.com, July 12, 2015)

7月12日付のThe Moscow Times(電子版)は、ロシアの北方航路の将来計画について、要旨以下のように報じている。

(1) 北方航路 (NSR) をスエズ運河経由ルートに匹敵する航路にするという、ロシアで久しく論議されてきた計画が始動した。ロシアのメドベージェフ首相は6月、2030年までにNSRの通航貨物量を現在の20倍、年間8,000万トンにするという計画に署名した。NSRに関するメドベージェフ計画の詳細は公表されていないが、政府筋によれば、この計画は、航行水路調査、港湾の建設、海洋装備やシステムの開発を促進することになろう。海運専門家によれば、ロシア政府が改めてNSRへの関心を高めた理由は、北極沿岸警備隊の整備が強化されたことと密接に関連している。ロシアは2013年にNSRの増大する通航量を見込んで、NSR管理庁を創設したが、通航量の増大は実現しなかった。2014年のNSR完航船舶はわずか41隻で、そのほとんどがロシア籍船であった。これは2013年のNSR完航船舶数、71隻(この年もほとんどロシア籍船)に比して、大幅減となった。一方、スエズ運河の通行船舶は1日平均49隻であるが、距離的には、NSRの方がロッテルダム・上海間で約2,000キロ短い。燃料費は輸送コストにおいて重要な要素だが、低迷する石油価格がNSR の経済的利点を吹き飛ばした。

(2) 北極沿岸警備隊を増強する計画は2011年から始まっており、この年、沿岸警備隊と国境警備隊を管轄する、ロシア連邦保安庁 (FSB) が6隻の外洋型巡視船建造計画の1番船の建造を発注した。この外洋型巡視船の排水量は2,700トンで小型だが、北極海仕様になっている。1番船、”Polyarnaya Zvezda”(北極星)は完成しており、サンクトペテルブルグ近くで就役に向けての最終海上公試段階にある。他に2隻が建造中で、2019年までに就役する計画である。モスクワのThe Center for the Analysis of Strategies and Technologies (CAST) の専門家によれば、排水量6,000~7,000トン級のより大型の巡視船の建造も計画されているという。沿岸警備隊はまた、北極海沿岸域のインフラ整備も進めており、10カ所の沿岸警備隊ステーションを建設中である。これらのステーションは、海難時における捜索救難作戦発動のハブとなる。

記事参照:
Russia Makes Bid for Arctic Shipping Lane Even as Oil Prices Slip

7月13日「フィリピン、南沙諸島の占拠環礁の座礁船修復」(The Maritime Executive.com, Reuters, July 13 and 15, 2015)

フィリピン海軍は、南沙諸島のSecond Thomas Shoal(仁愛礁)に座礁させた、BRP Sierra Madreの艦体と甲板を修復中である。同艦は米海軍が第2次大戦中に建造した、全長100メートルの戦車揚陸艦で、フィリピンは、パラワン島南西105カイリ(195キロ)のフィリピンのEEZ内にあるSecond Thomas Shoalの領有権主張を誇示するために、1999年以来同環礁に座礁させ、少数のフィリピン軍要員が居住している。海軍は2014年末以来、中国海警局の巡視船の妨害を躱して、木製漁船や小型艇を使ってセメント、鋼材、ケーブルそして溶接装備などを運び込んでいる。修復作業に詳しい、フィリピン軍将官によれば、修復作業はゆっくりとした進展だが、2015年末までには完了するという。艦体と甲板が補強され、エアコンも取り付けられ、将兵の居住環境が改善されるという。2014年初めから、フィリピン軍による同艦に居住する将兵への再補給は中国海警局の大型巡視船にしばしば妨害され、キャットアンドマウスゲーム的様相を呈しており、補給物資を積んだ小型船艇は大型巡視船が進入できない浅い水域を利用して再補給している。同環礁の西側に、中国が埋め立て工事を進める、Mischief Reefがある。

中国外交部報道官は7月15日、フィリピン軍によるBRP Sierra Madreの修復作業に強く抗議した。

記事参照:
Philippines Reinforcing Old Navy Ship on Spratlys
Photo: BRP Sierra Madre on the Second Thomas Shoal, known as the Ren’ai Reef, in the South China Sea

【関連記事】「フィリピン、2016年からスービック基地施設利用再開」(Reuters, July 15, 2015)

フィリピン当局者が7月15日に明らかにしたところによれば、フィリピンは2016年初めから、かつてのスービック米海軍施設に戦闘機と2隻のフリゲートを配備する。スービック湾はルソン島西部の南シナ海に面した深水港で、かつては世界最大の米海軍基地であったが、1992年に米軍との基地協定が廃棄された。国防省のPatino次官によれば、フィピン軍は5月に、Subic Bay市当局との間で、更新可能な15年間のリース契約で、施設の一部を使用する協定に調印した。米海軍艦艇は2000年以来、フィリピン軍との演習時に停泊するために、あるいは修理や補給のために同港の商業施設を利用するために、同港にしばしば寄港してきた。同港の基地施設が再開されれば、2014年4月の米比軍事協力に基づいて米海軍はより頻繁にアクセスできることになろう。23年ぶりの基地再開によって、フィリピン空海軍は、南シナ海の係争海域における中国の動きに対して効果的に対応できるであろう。スービックは2012年4月以来、中国が占拠するScarborough Shoal(黄岩島)まで東方わずか123カイリ(1980キロ)の距離であり、韓国から購入する2機のFA-50軽攻撃戦闘機2機がスービックに配備されれば、数分間の飛行距離である。

記事参照:
Philippines to station warplanes, frigates at former U.S. base facing disputed sea

7月15日「ハーグの仲裁裁判に対する台湾の対応―台湾人の視点から」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, July 15, 2015)

台湾の中央研究院欧美研究所の宋燕輝研究員は、米シンクタンクCSISのAsia Maritime Transparency Initiativeの7月15日付のウェブサイトに、“What Makes an Island? Land Reclamation and the South China Sea Arbitration”と題する論文を寄稿し、ハーグでの仲裁裁判に関する台湾の対応、特に台湾が実効支配する太平島に関して、フィリピンがその口上書で島ではなく岩と主張していることに対して、要旨以下のように述べている。

(1) 在オランダ中国大使館は2014年12月8日、南シナ海の仲裁裁判に関する登記所である常設仲裁裁判所 (The Permanent Court of Arbitration: PCA) に口上書を提出した。PCAは、12月7日付の中国政府の口上書、「フィリピン政府によって提起された、南シナ海の管轄権問題の仲裁申し立てに対する中国政府の立場に関する文書 (Position Paper of the Government of the People’s Republic of China on the Matter of Jurisdiction in the South China Sea Arbitration Initiated by the Republic of the Philippines)」*とその英語版を国連海洋法条約 (UNCLOS) 附属書Ⅶに基づいて設置された仲裁裁判所の5人のメンバーに提出した。

(2) 中国政府の口上書は、仲裁裁判所には本件に対する管轄権がないと主張し、その事由として、以下の諸点を指摘している。

a.仲裁裁判所に提訴された問題の本質は、南シナ海の幾つかの地勢に対する領土主権であり、UNCLOSの対象外であり、従って、条約の解釈や適用に関わる問題ではない。

b.中国とフィリピンは、2国間の政府機関の協議や南シナ海に関する2002年の行動宣言に基づき、交渉を通じて関係紛争を解決することに同意している。フィリピンは、一方的に仲裁裁判を始めることによって、国際法の下における義務を怠っている。

c.更に、仲裁裁判の主題がUNCLOSの解釈や適用に関わるものと仮定したとしても、この問題は2国間の海洋境界画定問題の不可分の一部であり、従って、中国がUNCLOSに従って2006年8月に提出した、領有権主張に関する問題を(UNCLOS第298条に基づく)第三者による調停から除外する2006年宣言に該当する問題である。

(3) 台湾は、南シナ海における領有権主張と海洋境界画定問題の当事国として、仲裁裁判の動向を注視している。台湾はハーグでの審理を傍聴する代表団の派遣を熱望していたが、台湾の要望は、センシティブな政治的、主権的問題の故に、仲裁裁判所によって拒否された。中比両国政府がそれぞれの政治的配慮から、特に「1つの中国」政策の堅持という両国政府の方針から、仲裁裁判所に対して台湾の要請を受け入れないように助言したことは、大いにあり得ることである。台湾の馬英九総統は、7月7日に台北で開催された対日戦勝利70周年記念を祝う国際会議で、台湾政府は南シナ海における(台湾が実効支配する)太平島の主権を国際法に則って「断固として護る」と言明した。更に、馬総統は、「将来、台湾政府は平和目的による太平島の開発を継続し、同島を南沙諸島における人道支援、環境保護そして科学研究のためのハブにする」と述べた。馬総統は太平島が国際法の下における島の定義に合致することを強調し、太平島の島としての法的地位を拒否する他国による如何なる試みも、同島の法的性格を損ねることはないであろう、と強調した。馬総統のこの発言は、明らかにハーグで進行中の仲裁裁判手続きを視野に入れたもので、特に台湾は、フィリピンが仲裁裁判で太平島をUNCLOS第121条の規定に基づいて島ではなく岩と主張していることに懸念を抱いている。

(4) 台湾外交部は7月7日、仲裁裁判が太平島の法的性格に対する否定的な結果となる可能性について台湾の懸念を表明するために、南シナ海に関する8項目の声明を発表した。同声明の第3項は、太平島がUNCLOS第121条に基づく「島」としての「議論の余地のない資格を有している」と強調している。更に、台湾政府が「この事実を断固擁護する」と強調している。台湾該外交部は、「この事実を否定しようとする他国による如何なる主張も、また太平島の法的性格とUNCLOSに基づいて同島が有する諸権利を損なうことはないであろう」と強調している。同声明第8項は、「太平島、あるいは南シナ海の他の如何なる島嶼とその周辺海域に関する、台湾の参加と同意なしで成立した如何なる協定や取極めも、台湾に対する法的拘束力を持たず、台湾政府によって承認されることもない」と主張している。

(5) 太平島は、1946年12月から台湾政府が領有権を主張し、1956年以降、台湾軍要員が駐留している。台北は、太平島は、フィリピンが仲裁裁判所への口上書で述べているように岩ではなく、UNCLOSの定義に基づく島であり、従って200カイリのEEZと大陸棚の権利を有しているということを、仲裁裁判所の調停委員が理解することを希望している。南シナ海の中国によるU字ライン、即ち「9段線」に関する限り、台湾は未だ、国際法に基づく法的性格を明確にする用意がなく、従って、前記の7月7日の外交部声明においても言及しなかった。国際社会と仲裁裁判所に、太平島が1956年以降台湾の実効支配の下にあり、かつUNCLOS第121条に規定する岩でなく島であることを誇示するために、馬英九総統は2015年末までに太平島を訪問することになろう。更に、その際、馬総統が5月26日に台北で提唱した、「南シナ海平和イニシアティブ (The South China Sea Peace Initiative: (SCSPI)」を推進するためのロードマップを発表する可能性もある。中国の「9段線」主張と歴史的権原主張がUNCLOSに違反するものであるとする、仲裁裁判におけるフィリピンの基本的な主張に関する限り、台湾は、引き延ばし戦略をとることになろう。馬英九総統が2016年に退任するまでに、台湾がU字ラインの法的性格を明確にすることはないであろう。

記事参照:
Taiwan’s Response to the Philippines-PRC South China Sea Arbitration
備考*:Position Paper of the Government of the People’s Republic of China on the Matter of Jurisdiction in the South China Sea Arbitration Initiated by the Republic of the Philippines, Ministry of Foreign Affairs of the People’s Republic of China, December 7, 2014

7月15日「『人工島』を巡る法的諸問題」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, July 15, 2015)

米Harvard Law Schoolで南シナ海の領有権問題を法的側面から研究する、Christopher Mirasolaは、米シンクタンクCSISのAsia Maritime Transparency Initiativeの7月15日付のウェブサイトに、“What Makes an Island? Land Reclamation and the South China Sea Arbitration”と題する論説を寄稿し、南シナ海における中国の埋め立てによる「人工島」を巡る法的諸問題について、要旨以下のように述べている。

(1) 中国が南シナ海で造成した人工島は島といえるのか。フィリピンの答えは「ノー」である。フィリピンは、ハーグの仲裁裁判所における陳述書で、中国の「9段線」を無効とし、中国が占拠している8つの地勢を島ではないと判定することを求めた。これら8つの地勢の内、7つの地勢で中国が継続的に埋め立てを行っている。国連海洋法条約 (UNCLOS) と国際法廷による過去の判決では、埋め立てによる土地造成はハーグの仲裁裁判所の判決に影響しないことを示している。何故なら、① 人工島は自然に形成された島に与えられる法的性格を持たない、そして、② 土地造成が、中国・フィリピン紛争が国際法律用語でいう「明確化 (“crystallized”)」した、いわゆる「基準日 (“critical date”)」以降に行われたからである(これについては後述)。

(2) 中国による土地造成は、南沙諸島の7つの係争中の地勢―ミスチーフ礁(美済礁)、ガベン礁(南薫礁)、スビ礁(渚碧礁)、ジョンソン南礁(赤瓜礁)、カルテロン礁(華陽礁)、ファイアリー・クロス礁(永暑礁)、ヒューズ礁(東門礁)―を劇的に変形させた。例えば、スビ礁は1995年には完全な「低潮高地」であったが、現在では満潮時でも3.9平方キロの地積が海面上に造成されている。UNCLOSが特定の地勢の地理的特徴に基づいた異なった法的性格を認めているため、一目で分かるこうした地勢の変更は、中国とフィリピンの両国にとって大きな意味を持ち得る。特に、南沙諸島を巡る紛争は以下の3つのタイプの地勢が関わっている。

a.低潮高地:干潮時にのみ、地勢が海面上に姿を現す。領海の外側に存在するかかる地勢はそれ自体の領海を有しない。

b.岩:恒久的に海面上にある地勢だが、人間の居住又は独自の経済的生活を持続することはできない。岩はそれ自体の領海と接続水域を有するが、EEZと大陸棚を有しない。

c.島:人間の居住又は独自の経済的生活を維持することができる恒久的に海面上にある地勢で、それ自体の領海、接続水域、EEZ及び大陸棚を有する。

埋め立て以前の、ジョンソン南礁(赤瓜礁)、カルテロン礁(華陽礁)及びファイアリー・クロス礁(永暑礁)は岩であり、その他はせいぜい「低潮高地」に過ぎなかった。埋め立てによる土地造成後では、これら地勢は、島ではないとしても、岩と見なされることになろう。そこで、重要な問題は、これらの地勢の法的性格は、埋め立て前の実態か、それとも埋め立て後の実態かの、いずれの実態に基づいて決めるかということになる。

(3) UNCLOSによれば、島は、「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。」フィリピンにとって、自らの主張を正当化するためには、埋め立て地は「自然に形成された陸地」と見なすべきではないことを証明しなければならない。条約法に関するウィーン条約は、用語の「通常の意味に従い」解釈することを求めている(第31条1)。UNCLOS第60条は、沿岸国は「人工島・・・の周囲に適当な安全水域を設定する」ことができるが、「人工島、施設及び構築物は、島の地位を有しない」と規定している。UNCLOSは「人工島」を明確に定義していないが、第60条が人工島、施設及び構築物を区別しているという事実から類推できる。施設と構築物には通常、非自然的な材料(石油掘削リグのコンクリートや鋼材のようなもの)によって組み立てられた物体が含まれる。「人工島」を別の用語として使うことによって、UNCLOSでは、これを、自然物(すなわち砂)と人工物体(すなわち鋼材)からなる、異なるタイプの造成地と見なしている。もし人工島が自然物だけで作られた造成地であるとしても、UNCLOSでいう島とは見なされないであろう。従って、「自然に形成された」というのは、島が形成される過程を示すというのが妥当な解釈である。この解釈は、UNCLOSの交渉過程から確認することができる。当初、人工的に形成された島も自然島と同じように扱われるべきだとする、一部の専門家もいたが、1958年までに、彼らの考えはほとんど論破された。実際、アメリカは交渉課程で、人工島に対するほとんどの海洋権原を排除するために、最終的にUNCLOS草案に、「陸地」の前に「自然に形成された」との文言を特に付け加えた。それ以来、専門家は、人工的に形成された島に、海洋権原を付与すべきでないことに同意してきた。

(4) しかしながら、中国の埋め立てが始まったのはいわゆる「基準日」の後であることから、仲裁裁判所はこうした解釈的な疑問を審議する必要すらないかもしれない。「基準日」とは、2つの当事国間(この場合、中国とフィリピン)で「紛争が明確化」した日のことである。例えば、カリブ海の島嶼を巡る、ニカラグアとコロンビアとの紛争では、「基準日」は両国が当該島嶼の主権を主張する口上書を交換した日となった。法廷では一般的に、この日より以前に存在した紛争の実態を審議するだけである。ハーグの仲裁裁判所が南沙諸島の紛争の基準日を確定できるのか、もしそうなら何を以てそうするのかは明確ではない。フィリピンがこれらの地勢に対する領土主権を主張しているわけではないことから、日付を指定することはできないかもしれない(フィリピンは2013年1月22日に仲裁裁判所に中国を提訴した)。しかしながら、仲裁裁判官が基準日を使用するとすれば、3つの選択肢がある。即ち、1947年(当時の中国国民党政府が初めて「9段線」を承認した時)、1970年代の何時か(この海域の地勢をフィリピンが初めて占拠した、と中国が主張した時)、そして2011年4月14日(「9段線」に対して抗議するフィリピンの口上書に対して、中国が応答した時)である。前記のニカラグア・コロンビア紛争を前例とすれば、3番目の日付が最も妥当だが、それぞれの日付の利点については多くの論議が予想される。しかしながら、中国が埋め立てを始めた18カ月前よりは、3つの選択肢はいずれも、それ以前の日付である。従って、対象地勢の現在の地理的特徴は、問題にはならないであろう。フィリピンの提出資料が公開されていないため、どのような論点が取り上げられているかは不明だが、3,000頁を超える説明資料が提出されているため、UNCLOSの解釈と「基準日」を含めて、予想される全ての論点が取り上げられていると考えて間違いないであろう。いずれにしても、UNCLOSの正攻法的解釈が優先されるべきである。土地造成によって環礁を島に変えることはできないし、それらに海洋権限を付与すべきでもない。

記事参照:
What Makes an Island? Land Reclamation and the South China Sea Arbitration

7月15日「ハーグにおけるフィリピンの法律戦―フィリピン人専門家論評」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, July 15, 2015)

フィリピンDe La Salle UniversityのRichard Javad Heydarian准教授は、米シンクタンク、CSISのAsia Maritime Transparency Initiativeの7月15日付のウェブサイトに、“The Battle of The Hague: Philippines v. China in the South China Sea”と題する論説を寄稿し、オランダのハーグにおけるフィリピンの中国に対する法律戦は重大な岐路に直面しているとして、要旨以下のように述べている。

(1) フィリピンが中国に対する仲裁裁判を求めてから2年以上になるが、国連海洋法条約(UNCLOS) に基づく仲裁裁判所が南シナ海の領有権紛争に対して管轄権を行使する権限を有していることを証明するという重大な課題に直面している。この管轄権問題をクリアしない限り、南シナ海における中国の行動に変更を強いる有効な国際的法的レジームを構築するには至らないであろう。このことは、世界で最も重要な海上交通路における紛争の平和的な解決だけでなく、国家間紛争の仲裁者としての国際司法機関の信頼性が問われているのである。

(2) フィリピンは、中国との領有権紛争を巡って、UNCLOS第287条及び付属書Ⅶに基づいて仲裁裁判を求めた唯一の国である。フィリピンは、少なくとも5つの主要な論点を提起している。何よりも、フィリピンは、古地図に基づいた、南シナ海に対する中国の「歴史的権利」主張を疑問視している。この主張は、中国の悪名高い「9段線」主張の根拠をなしている。フィリピンはまた、仲裁裁判に対して、UNCLOS第121条(島の制度)に基づいて、南シナ海における紛争対象地勢の法的性格を明確にすることを要求している。北京は、これら地勢のほとんどを島と規定し、200カイリのEEZと大陸棚を有すると主張している。それに対してフィリピンは、これら地勢を、最大限12カイリの領海を主張できる岩か、あるいは「低潮高地」と見なしている。南沙諸島は中国の最南端沿岸(海南島)から670カイリも離れており、フィリピンは、中国とのEEZにおけるいかなる重複も否定している。更に、フィリピンは、2012年半ばのスカボロー礁に対する中国の強制的な実行支配に対する仲裁裁判を求めている。中国は、フィリピン漁民の操業を妨害するために、準軍事機関による哨戒活動とEEZ内における軍事力の展開を継続しており、そしてこの海域での、特にリードバンクにおけるフィリピンの資源開発を妨害している。フィリピンはまた、中国の大規模な埋め立てによる土地造成活動と、南シナ海全域における海洋開発や漁業資源の容赦ない収奪による海洋環境への破壊的な影響も懸念している。

(3) 一方、中国の主要な対抗戦略は、手続きの技術的な問題を提起し、法的課題を妨害することである。この方針は、中国が2014年12月に公表した、「ポジション・ペーパー」*にも記述されている。UNCLOSに基づく仲裁裁判所は、主権に関連する問題を管轄する権限を持たない。中国は、特に領有権主張に関する問題を(UNCLOS第298条に基づく)第三者による調停から除外する2006年宣言を繰り返し主張している。中国はまた、東南アジア諸国が2国間交渉などの代替メカニズムを排除していないと見ており、フィリピンが性急に第三者による仲裁を求めたことを非難している。

(4) 従って、フィリピンにとっての課題は、代替メカニズムが無力であり、仲裁裁判が正当なアプローチであるということを証明することである。これは容易ではないであろう。法律専門家の間では、フィリピンが管轄権の問題を完全に克服できるかどうかを巡って、意見が分かれている。もしフィリピンがこの点を克服できれば、UNCLOSが中国の海洋における拡張主義的行動を抑制する有効なツールであるかどうかを慎重に見極めようとしている、ベトナムなどの国から、今後、中国は、同じような提訴に直面させられることになろう。域内の貿易とエネルギー資源の輸送ルートとしての南シナ海の重要性を考えれば、ほとんど全ての国が、航行と上空通過の自由を犠牲にする、この海域の一国支配を阻止することに関心を持っている。であるが故に、仲裁裁判所が「歴史的な権利、あるいは歴史的な海」という概念と、それに基づく「9段線」主張の明確化を中国に求めることが極めて重要なのである。驚くべきことに、北京は未だに、南シナ海におけるその領有権主張を支える、正確な根拠や法的正当化を明確にしていないのである。

(5) フィリピンは全ての領有権主張国が国際的な法的レジームに従うよう真剣に取り組んでいるが、中国との2国間交渉は戦略的に不可避である。仲裁裁判所が管轄権を断念する場合は、UNCLOS附属書Vに基づいて「調停委員会」を設置し、南シナ海における領有権主張の性格とその有効性に関して第三者の助言を求めるという、別のオプションもある。例えフィリピンが管轄権のハードルを乗り越えたとしても、依然として中国と2国間交渉が必要となろう。結局のところ、仲裁裁判所は、中国に対する如何なる不利な判決をも執行するメカニズムを持っていない。フィリピンと中国は、益々緊張を高めている南沙諸島における偶発的な衝突とその軍事的エスカレーションを回避するために、少なくとも信頼醸成措置を確立するための対話を継続していくことが肝要である。アキノ政権は、ハーグでの公聴会を妨害し、拒否することに全力を尽くしているように思われる、強大な隣国との絶対に必要な2国間対話を犠牲にして、本質的に不確実な法律戦を余りに重視し過ぎてきたのかもしれない。

記事参照:
The Battle of The Hague: Philippines v. China in the South China Sea
備考*:Position Paper of the Government of the People’s Republic of China on the Matter of Jurisdiction in the South China Sea Arbitration Initiated by the Republic of the Philippines, Ministry of Foreign Affairs of the People’s Republic of China, December 7, 2014

7月16日「米ロ等、北極海禁漁協定調印」(Climate Central, Reuters, July 16, 2015)

アメリカ、ロシア及びその他の北極圏諸国は7月16日、北極点周辺の解氷海域から漁船団を締め出す協定に調印した。オスロで行われた協定調印には、カナダ、ノルウェー及びデンマークも参加した。ウクライナを巡る緊張のため、協定調印は1年以上遅れた。北極海中央部の解氷海域は地中海とほぼ同じ面積で、現在のところ商業漁業が行われていない。バルトン米国務省海洋・漁業担当次官補代理によれば、この協定は、問題発生を先行的に阻止するためのものである。北極圏諸国は、中国、ベトナム、韓国及び他の全てのEU諸国などの漁業大国もこの協定に参加することを望んでいる。この協定は、北極海の海洋資源調査も規定している。

記事参照:
Russia, U.S. Sign Fishing Ban in Arctic as Sea Ice Melts

7月20日「南シナ海への中国のADIZ設定の危険性―米専門家論評」(The Diplomat, July 20, 2015)

米国際弁護士、Roncevert Almondは、7月20日付のWeb誌、The Diplomatに、“Mandate of Heaven: An ADIZ in the South China Sea”と題する論説を寄稿し、中国が「9段線」を囲むように防空識別圏 (ADIZ) を設定した場合の危険性について、要旨以下のように述べている。(なお、Almondは、ADIZに関する法的諸問題について、米議会の米中経済安全保障諮問委員会 (U.S.-China Economic and Security Review Commission) でも証言している。)

(1) 米議会調査局 (U.S. Congressional Research Service) の報告書によれば、国連海洋法条約 (UNCLOS) 加盟の167カ国の内、12カイリ領海以遠のEEZにおける他国の軍事活動を規制できる、あるいは禁止できると主張する加盟国は27カ国であり、中国がこれに含まれる。これに対して、アメリカはこれまで、EEZを規定し、慣習国際法を反映するUNCLOSはEEZ内における経済的活動に関する主権的権利のみを成文化したもので、公海の自由、特に航行と上空飛行の自由を認めている、との立場に立ってきた。

(2) 台頭する国家にとって1つの試金石は、自らの戦術的な行動と戦略的目的を正当化するために、国際法規を自国に有利なようにねじ曲げられる能力である。慣習国際法は、その段階的な進化と(国家の行動や多数意見に見られる)「バンドワゴン的性向」から見て、こうしたアプローチを許容している。これに対して、現状維持勢力は、制度化された条約レジームに一層、依存するようになる。南シナ海問題に関して、中国は、剣と盾の如く、慣習を巧みに使い分け、一方、アメリカや太平洋の同盟諸国は、UNCLOSなどの法に定められた条件や手続きに依拠しようとしている。この熱を帯びた法律戦は、フィリピン政府が2013年1月22日に、南シナ海におけるフィリピンの海洋管轄権を巡る中国との紛争について、UNCLOSの規定に従い仲裁裁判に訴えたことから、ハーグにある常設仲裁裁判所に場を移した。これに対して中国は、2014年12月7日に「ポジション・ペーパー」*を公表し、UNCLOSの解釈または適用といった問題を超えた主権問題は仲裁手続の適用外だと主張している。中国のこういった主張は、仲裁手続を停止させるものではない。この間、中国は、南シナ海の南沙諸島で埋立て活動を行った。複数の国との領有権争いの対象であり、南シナ海の主要シーレーンや航空路に位置する、中国の実効支配地勢における埋立て活動による土地造成は、2,000エーカー(809ヘクタール)にも及ぶ。UNCLOS第60条は人工島や施設及び構造物は島の地位を有せず、従って領海やその他の海洋諸権利を持たないと規定しているにもかかわらず、こうした土地造成が継続されている。前出の中国の「ポジション・ペーパー」は、「南シナ海における中国の活動は、2,000年以上も前からのことである」と、慣習に基づいて反論している。

(3) また、北京は最近になって、南シナ海への防空識別圏 (ADIZ) の設定によって空域に新たなる現実を作為することを仄めかした。ADIZの範囲によっては、中国のADIZは、既存の国際空域管制エリア(例えば、マニラ飛行情報区 (FIR) やホーチミンFIR)と重複したり、領有権紛争地勢や海洋領域にまで延伸されたり、更には中国が実効支配している地勢をカバーしたりする可能性がある。アメリカは、滑走路の建設を含む中国による埋立て活動の目的の1つが中国の南シナ海における持続的な航空作戦能力(中国大陸沿岸から遠く離れたADIZを実効的に運用するためには不可欠の能力)の強化にある、と確信している。ADIZの設定は、南シナ海における中国の新たな活動として考慮しなければならないであろう。一部の少数意見は別にして、ADIZは、現在の慣習国際法の下では、領空の拡大を意味せず、新たな領有権主張の手段でもない。また、その法的根拠はUNCLOSの海洋管轄権からは派生しない。ADIZは、領土や領空に隣接してそれを超えた空域に設定され、国家安全保障のために航空機を識別し、追跡し、管制するための空域である。ADIZは、慣習国際法と国連憲章第51条に基づく固有の自衛権にその法的根拠を持つ。従って、ADIZの地理的範囲とその運用は、必然性と適切性の原則に見合ったものでなければならない。国際空域やEEZに関連づけた漠然とした安全保障空域の設定は、これらの原則に合致せず、また上空通過の自由といった国際法の他の諸原則にも合致しない。

(4) 中国は、前例を無視して、南シナ海に新たな「強制的管制空域 (Mandate of Heaven)」を設定することで、ADIZに関する慣習国際法を変更しようと目論んでいるのかもしれない。南シナ海におけるADIZ設定宣言は、南シナ海のほぼ全域に対する中国の「議論の余地のない主権」と「(それに伴う)諸権利や管轄権」主張を実効化することに繋がりかねない。例えば、最も極端なシナリオとして考えられるのは、ADIZが北京の「9段線」地図を完全に取り囲むように設定された場合で、その空域は中国本土の約22%に相当し、南シナ海の大半の空域をカバーすることになろう。北京は、「9段線」主張を維持するために、あるいは少なくともそれと矛盾しないようにするために、「9段線」地図とADIZとを無理やり結び付けようとするかもしれない。中国が「9段線」地図を取り囲む形で南シナ海にADIZを設定し、中国の「議論の余地のない主権」主張と一致させた場合、ADIZ内の空域は、領空のように管制され、防衛されることになろう。そうなれば、「9段線」地図に起因する戦略的な曖昧さは消え去り、係争相手国に対する行動の自由を持つことになろう。

(5) アメリカやASEAN諸国は、航行の自由と上空通過の自由を実践していくことで、これに対応していくことになろう。北京は、南シナ海に設定された中国のADIZを横切るフィリピンの民間航空機や米海軍機の飛行を妨害したり、撃墜したりするであろうか。中国の「領空」を通過することになる外国航空会社は、中国への上空通過料の支払いを強要されるであろうか。もし中国が他国の民間機や軍用機に対して強制行動をとらなかった場合、そのことは、ADIZが中国の主権が及ぶ領空ではないことを意味することになるのであろうか。いずれにしても、南シナ海における主権を強調するためにADIZを利用することは、既存の慣習国際法から大きく逸脱することになるだけでなく、台頭する大国にとって危険なギャンブルともなろう。

記事参照:
Mandate of Heaven: An ADIZ in the South China Sea
備考*:Position Paper of the Government of the People’s Republic of China on the Matter of Jurisdiction in the South China Sea Arbitration Initiated by the Republic of the Philippines, Ministry of Foreign Affairs of the People’s Republic of China, December 7, 2014

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・関根大助・山内敏秀・吉川祐子