海洋情報旬報 2015年4月11日~20日

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4月11日「中国による南シナ海の埋め立て作業、脅威ではない―中国人専門家論評」(The Diplomat, April 11, 2015)

マカオ大学准教授、Dingding Chenは、4月11日付のWeb 誌、The Diplomatに、“Relax, China’s Island-Building in the South China Sea Is No Threat”と題する論説を寄稿し、南シナ海で中国が進めている岩礁や環礁の埋め立て作業について、他国が懸念するような意図はないとして、要旨以下のように述べている。

(1) 最近の多くの報道によれば、中国が進めている南シナ海の岩礁や環礁における埋め立ては、他のアジア諸国の懸念や不安を高めている。アメリカやアジア諸国が抱いている不安は、埋め立てが完了すれば、南シナ海における中国の軍事的プレゼンスが大幅に強化され、南シナ海全域の支配を目指す中国の試みが大きく前進することになるかもしれないということである。中国が4月9日に行った説明によれば、このような埋め立てによって、中国の国家主権の保護、海洋科学調査の進展、及びその他の国際公共財の保護など、多くの利益がもたらされるということである。より重要なのは、中国が現在進めていることは、例えばベトナムがかつて行った埋め立てと何ら変わることがないということである。もちろん、現在中国が進めている埋め立ては、その作業速度や規模といった点で異なってはいるが、それは、中国が作業を進めるための資材、マンパワーそして技術力を有しているからに過ぎない。もし他国が中国と同じような能力を持っていれば、これらの他国でも現在の中国と同じような作業を行うことができよう。従って、この意味で、埋め立て作業だけに注目した国外からの批判は、的はずれである。

(2) もっとも、中国の埋め立て作業の狙い、特にその軍事目的や軍事的用途に対する懸念については、納得できる。埋め立てられている岩礁や環礁について、中国が軍事的な意図を全く持っていないと主張することは不誠実であろう。実際、中国は既に、これらの埋め立て島嶼が将来、国家主権を護るために使用される可能性があることを認めている。他国から攻撃された場合、国家主権を護るために軍事力を行使することには何ら問題がない。そうであるならば、他国は中国を批判することはできない。本当に重要な問題は、こうした埋め立て作業が、中国によるアジアの隣国やアメリカに対する攻撃的意図を表しているのかということである。要するに、これらの埋め立て島嶼を活用して、中国は将来的に、ベトナムやフィリピンが現在、実効支配している島嶼や環礁を強奪するために軍事力を行使することになるのであろうかということである。これらの疑念に答えるためには、中国の埋め立て作業を、中国の総合的な外交政策や大戦略から切り離すのではなく、より広い視点から考察する必要がある。結局、埋め立て作業は、中国の国際問題に対する総合的アプローチのほんの一部分に過ぎないのであり、他国のアナリストのように、「木を見て森を見ず」になってはならないのである。

(3) 中国は、他国に対する攻撃的意図を持っているのであろうか。主として2つの理由から、答えは「ノー」である。

a.1つは、19世紀ならいざしらず、現在、中国が他の小国を征服するなどということは愚かだし馬鹿げているということである。国家が貿易や投資といった、より安全で効果的な方法によって国力の増進を図っている、今日のグローバル化した世界において、戦争に訴えることで得られる利益は大幅に減少している。アメリカが良い例である。過去14年間、アメリカは、イラクとアフガニスタンにおいて、2つの犠牲の多い不必要な戦争を戦ったが、それらの戦争から得られた戦略的利益は限られたものであった。アメリカが他の台頭するパワーに比して相対的に衰退しているのは、主としてこのためである。世界唯一の超大国でさえ戦争によって利益を得られない時代に、未だ台頭するパワーに過ぎない中国が軍事的冒険を冒すであろうか。

b.2つ目の理由は、中国の国内問題である。中国は、目覚ましい発展を遂げてはいるが、依然として巨大な発展途上国である。アメリカの中国専門家、David Shambaughは、将来的な中国の崩壊という誤った予測を示しているものの、中国が今後20年から30年に亘って直面する多くの深刻な問題を指摘している。2050年の時点でも、中国は世界で最も発展した国家にはなっていないと結論付けることは難しくない。近年、中国の外交政策が以前よりも高圧的なってきているのは事実だが、あらゆる兆候から見て、中国の指導者が、限定的な外交的勝利のために、国内の経済発展を阻害するようなリスクを冒すことはないと言える。

(4) 従って、最近の中国の埋め立て作業を分析するに当たっては、中国の全般的な外交政策目標が何かに留意しておく必要がある。中国の外交政策は、依然として平和的台頭、平和的発展、そして「中国の夢」の実現を重視している。この大きなデザインを無視し、幾つかの小さな島嶼だけを取り上げることは、中国の脅威を煽り、しばしば無用な諍いの原因を作るだけである。埋め立て作業に関する中国の最近の説明は、中国の指導者がその危険性を認識しているという好ましい証である。他国もこれを歓迎すべきであろう。

記事参照:
Relax, China’s Island-Building in the South China Sea Is No Threat

4月12日「中国原潜、インド洋展開の背景―インド人専門家」(The Diplomat, April 12, 2015)

インドのシンクタンク、The Observer Research Foundationの上席研究員であるP K Ghoshは、4月12日付のWeb誌、The Diplomatに、“Chinese Nuclear Subs in the Indian Ocean”と題する論説を寄稿し、海賊対処行動の一環として中国が攻撃型原潜をインド洋に展開させたことについて、要旨以下のように述べている。

(1) 中国は、2014年12月13日から2015年2月14日までソマリア沖での海賊対処に派遣した第18次隊に、2隻の戦闘艦と1隻の補給艦に加えて、潜水艦―恐らくType 093「商」級攻撃型原潜 (SSN) 1隻を随伴させた。ソマリアの海賊対処にSSNは相応しいプラットフォームではなく、SSNのインド洋展開はインド海軍の疑念を高めた。中国は、主にアデン湾において、2008年から「戦争以外の軍事行動 (MOOTW)」の一環として、単独で海賊対処行動を展開してきた。しかしながら、第18次隊へのSSNの随伴は、極めて特徴ある動きであり、中国の真意に疑念を抱かせることになった。インド海軍は政府に対して、海中深度を計測し、海図作成のための海底地形調査能力を持つ海洋調査船を同伴させていたことから、中国がインド洋西部海域の海洋調査を行った可能性があると説明してきた。しかしながら、インド海軍は、中国のSSNをインドの管轄海域で探知できなかったことを渋々認めた。

(2) 今回の中国のSSNのインド洋展開について、その背景として以下の諸点が論じられている。

a.第1に、海賊対処という善意の口実で、中国が積極的に戦闘艦を派遣しているのは、遠海域、より重要なことはインドの戦略的な裏庭、インド洋における長期間の活動能力の錬成に大きな狙いがあることはよく知られたことである。同時に、中国は、海賊対処活動の過程で、日本やインドといった潜在的敵対国の海軍と共同し、それらの能力を評価することができた。

b.第2に、潜水艦の展開は、特に中国海軍部隊のインド洋進出の戦略的意味について際限のない議論を続けてきた、インドの安全保障論壇に対する戦略的メッセージであるということである。明らかに、中国海軍は、自国の沿岸から数千カイリも離れた遠海域に戦力を投射し、持続的に活動する能力を有している。

c.第3に、中国の潜水艦、特に新型の「商」級や「晋」級といったSSNは、旧型より技術的に遙かに優れており、従って、これらのSSNの展開は大きな示威行為となるということである。結果的に、中国は、兵力投射能力や遠海域における「外洋海軍」能力を誇示するとともに、ハイテク・プラットフォームを建造する能力をも誇示することになった。

d.第4に、インド洋における頻繁な活動を通じて、中国は、インド洋の海洋環境に習熟し、更なる潜水艦の展開が可能になるということである。

f.最後に、域内の他の諸国の海軍は、財政負担や海賊事案の激減などを理由に、海賊対処活動への関与を減らそうとしているのに対して、中国は、その関与を維持するばかりでなく、時に増強すらしていることである。このことを説明する最も納得のいく理由は、海賊対処活動への派遣を通じて、その水上戦闘艦や潜水艦そして乗組員を、この海域に「慣熟させる」ということであろう。従って、危機において、ベンガル湾とアラビア海が、インド艦隊をチョークポイントやインドの港湾沖で待ち伏せている可能性のある中国の潜水艦に対する、頻繁な探索が必要な海域になるかもしれないということは、的はずれな憶測ではない。

(3) 明らかに、インドは、インド近海やインド洋において活動できる能力を持った、中国という新たな海洋パワーと接することになった。インドは、この差し迫った潜在的脅威を無視している。

記事参照:
Chinese Nuclear Subs in the Indian Ocean

4月14日「米『新海洋戦略』論評―インド人専門家」(PacNet, Pacific Forum CSIS, April 14, 2015)

インドのThe Institute for Defence Studies and Analyses (IDSA) のAbhijit Singh 研究員は、米シンクタンク、Pacific Forum の4月14日付のPacNet に、“The new US maritime strategy – implications for ‘maritime Asia’”と題する論説を寄稿し、アメリカの海洋軍種(海軍、海兵隊及び沿岸警備隊)が3月初めに公表した、新海洋戦略、A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower: Forward, Engaged, Ready(以下、CS-21Rと表記)*について、インド人の視点から、要旨以下のように論評している。

(1) CS-21Rは2007年版の改定版で、現在の海洋環境により適合するように改訂されたものである。CS-21Rの際立った特徴は、中国を、主たる挑戦課題として明確に認識していることである。2007年版と異なり、CS-21Rは、中国の海洋における拡張主義的行動と領有権主張を、この地域の不安定の要因になっていると明快に記述している。しかし、グローバルな行動のための必須の戦略として、「全領域へのアクセス」を強調しているが、中国の接近阻止・領域拒否 (A2/AD) による挑戦には直接言及していない。

(2) CS-21Rでは、エネルギー安全保障への関与を明確にしている。世界経済は中東と中央アジアから石油と天然ガスの中断のない供給に全面的に依存しているため、米海軍は、重要な戦域における前方展開を維持することで、原油の流れを保障する上で重要な役割を引き続き果たしていくであろう。しかしながら、前方展開戦力の強化は、予算問題などから、海軍戦力の将来動向が漠然としているために、裏付けがない。CS-21Rによれば、米海軍の現在の提出予算案では、ほぼ300隻態勢で、その内、120隻が2020年までに前方配備されることになっている。これは、現在の戦力レベルからは僅かな増強で、海軍が重要な海域で前方展開戦力を維持できるかどうか、疑問が残る。

(3) アジアの視点から興味深いのは、「再均衡化」戦略が対象とする統合された地域として、「インド・アジア・太平洋」という表現が導入されていることである。CS-21Rは、海軍艦艇と航空機のほぼ60%をこの地域に配備するという新しい方針に言及しているが、西太平洋とそれより広いインド洋に同等の戦力を配分するということではない。日本、グアム、シンガポール及びオーストラリアにおける戦力が増強されることで、米海軍の運用面における重点が引き続き太平洋戦域にあることは明白である。戦力の大部分を太平洋に前方展開させながら、アメリカがユーラシア大陸周辺地域の安全保障を如何に提供していくかは、明らかではない。

(4) CS-21Rは、特に伝統的な海軍力が人道支援や災害救助 (HADR) のような非戦闘任務にも活用ができるとして、海軍力投射の「スマートパワー」のとしての側面に言及しており、注目される。また、米沿岸警備隊 (USCG) の役割を海洋安全保障の領域にまで拡大していることも、注目される。海洋管理のためのパートナー諸国の能力構築におけるUSCGの重要な貢献を強調して、CS-21Rは、USCGを西半球における海洋安全保障を担う主務機関としている。USCGの役割強化から、中国との紛争時にUSCGが東太平洋における通常海洋作戦を支援する可能性も考えられる。

(5) 予算問題を別にすれば、CS-21Rで唯一注目されるグレーエリアは、中国に関わるものである。中国海軍はその規模を拡大しており、間もなくアジア太平洋地域で最大の戦力になるであろう。そして中国海軍は間もなく、領域拒否戦略から、(厄介なことに太平洋だけでなく、インド洋においても)領域支配的な戦略に移行していくかもしれない。このことは、アメリカが中国の近海域において中国のA2/AD戦略に対抗しなければならないことに加えて、遠海域でも中国海軍を打破する用意がなければならないことを意味する。しかしながら、この地域における既存の米海軍力のレベルでは、米海軍が制海能力と強力な戦闘能力をともに持つ可能性はなさそうである。

(6) アメリカとその同盟国が中国とのパワーゲームを展開する戦域として、南シナ海以上の場所はない。ワシントンはその限界を認識しており、それが「エアー・シー・バトル (ASB)」構想が最近、「アクセスと機動のための統合構想 (The “Joint Concept for Access and Maneuver”)」と改定された理由で、恐らく中国との対決色を薄めようとするものである。実際、米海軍は、中国のA2/AD複合戦力に対抗するというレトリックを和らげてきただけでなく、中国海軍とのより緊密な関係を築いてきた。従って、新しい海洋戦略、CS-21Rが、信頼できる海洋プレーヤーを目指す北京の努力に言及していることは当然であり、それらの事例として、ソマリアの海賊対処への中国の参加、中国海軍のHADR任務、多国籍の海軍演習への参加、そしてアジアの海洋における疑念の拡大を抑制するための「不期遭遇事態における行動規範 (CUES)」の署名を挙げている。

(7) アジアのアナリストにとって、CS-21Rから多くを学ぶことができる。アジア太平洋で顕在化している海洋における抗争の特徴描写は適切で、他国海軍にとって啓蒙的な教訓を含んでいる。2007版は論議のある主題を用心深く扱っていたが、CS-21Rで中国の高圧的行動を脅威と認識する戦略を明確に打ち出した、ワシントンの意志が斬新である。実際、アメリカが中国を脅威と明確に名指ししたことから、他のアジア太平洋諸国は、彼ら自身の海洋戦略の見直しで、これに追随するよう慫慂されるかもしれない。

(8) CS-21Rで打ち出された目標遂行に当たって、インド海軍は、主要パートナーになりそうである。インド海軍との高いレベルでの協力に向けて、米海軍はより多くのことを求めて来るであろう。これまで、インドは、インド海軍と米海軍との協力関係を、グローバルな勢力均衡に関連づけようとするアメリカの努力をはぐらかしてきた。しかしながら、インドは今後、インド洋での安全保障上の任務をより多く分担するばかりでなく、より広範なインド太平洋地域における中国の行動の自由を規制するためにアメリカのパートナーとなることを、益々期待されていくことになろう。新しい海洋戦略のメッセージは明白である。即ち、今や「負担の分担 (“load-sharing”)」ということは、米海軍の協同行動構想に命を吹き込むイデオロギーであり、それは安全保障における伝統的及び非伝統的任務のいずれにも適用されるのである。しかし、それは、アメリカがグローバルコモンズにおける海洋安全保障の至高の存在ではもはやないことを正直に認めていることを示している。

記事参照:
The new US maritime strategy – implications for “maritime Asia”
備考*:A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower: Forward, Engaged, Ready
(本報告書は英語版の他に日本語、中国語版、アラビア語版、スペイン語版、韓国語版、フランス語版があり、以下は日本語版のURL)
http://www.navy.mil/local/maritime/CS21R-Japanese.pdf

4月14日「中国、西沙諸島の『永興島』で滑走路延長」(The Diplomat, April 14, 2015)

4月14日付のWeb誌、The Diplomatに、アジア太平洋地域情勢を専門とするフリーランス、Victor Robert Leeが寄稿した記事によれば、中国による南シナ海の南沙諸島の7カ所の岩礁や環礁における埋め立て工事とは異なり、余り注目されていないが、中国は、ベトナム沿岸400キロの西沙諸島の2つの島嶼でも滑走路の延長や埋め立てを行っている。3月17日の衛星画像によれば、中国は、1956年以来占拠している西沙諸島宣徳群島のWoody Island(中国名「永興島」)で、滑走路の延長工事と付属施設の建設を行っている。この5カ月間で、既存の長さ2,400メートルの滑走路が長さ2,920メートルのコンクリート舗装の滑走路になり、更に新しいタクシーウェーが建設され、エプロン部分が拡張され、大型の付属施設が建設中である。また、同島では埋め立て工事も行われている。

永興島から南西に80キロの位置にある、永楽群島のDuncan Island(中国は1974年にベトナムから奪取、中国名「深航島」)でも埋め立て工事を行っており、2014年4月以来、面積がほぼ50%増大している。同島には、駐留部隊の宿舎、4基のレーダードーム、コンクリート製造プラント、そして最近浚渫によって拡張された港がある。埋め立て部分には、コンクリート防壁が構築されている。中国が占拠している近くのDrummond Island(中国名「晋卿島」)でも、新たな建屋が建設されている。

記事参照:
South China Sea: China Is Building on the Paracels As Well
Map: Woody Island and Duncan Island
Photo: Woody Island and Duncan Island
Photo: Duncan Island

4月15日「中国ソマリア沖派遣艦隊、第20次までの各種データ」(Center for International Maritime Security (CIMSEC), April 15, 2015)

米海軍兵学校講師で海軍問題の専門家、Claude Berubeは、シンクタンク、Center for International Maritime Security (CIMSEC) のHP上に、“China’s Anti-Piracy Flotillas: By the Numbers”と題する記事を掲載し、各種のオープンソースから、中国がソマリア沖での海賊対処のために派遣した第20次までの派遣艦隊について、艦種別内訳と所属艦隊別内訳を分析している。中国は、2009年1月に第1次艦隊を派遣して以来、ほぼ年3回のペースで艦隊を派遣し、4月3日に第20次艦隊が出航した。各種データは、以下の記事参照からアクセス可能。

記事参照:
China’s Anti-Piracy Flotillas: By the Numbers

4月16日「中国、南沙諸島の『永暑礁』に滑走路建設」(Jane’s Defense Weekly, April 16, 2015)

4月16日付のJane’s Defense Weeklyによれば、中国が南沙諸島の7カ所の岩礁や環礁で埋め立て工事を行っているが、その内、南沙諸島西方にあるFiery Cross Reef(中国名「永暑礁」)に初めて滑走路の建設を始めたことが衛星画像から判明した。3月23日の衛星画像によれば、2014年後半から埋め立てが始まった永暑礁の北東側に、幅53メートルの滑走路が整備されつつあり、長さ503メートルまで舗装されていることが判明した。更に、幅20メートルのエプロン部分も約400メートル舗装されている。永暑礁は埋め立て工事で長さ約3,000メートルの滑走路を建設できる地積があり、これは長さ約2,700~4,000メートルの中国本土の空軍基地の滑走路の規格に十分適合するものである。更に永暑礁では、南西側が浚渫されており、内壁をコンクリートブロックで固めた港が建設されており、入港船舶を波浪から護るための外壁も延長されている。一方、3月5日までの衛星画像によれば、南沙諸島北方のSubi Reef(中国名「渚碧礁」)でも、少なくとも9隻の浚渫船が浚渫しており、3,000メートル級の滑走路を建設するに十分な地積が造成されそうである。渚碧礁は、フィリピンが占拠し、民間人も居住しているThitu/Pagasa Island(中国名「中業島」)からわずか25キロの距離にある。

記事参照:
China’s first runway in Spratlys under construction
Photo: Airbus Defence and Space imagery shows changes to Fiery Cross Reef observed between February and March 2015. Noteworthy is the beginning of airfield installation in March, and the relocation of some dredging activity out of the harbour.

4月15日「ロシア、バレンツ海でのSSBN哨戒活動強化」(Alaska Dispatch News, April 15, 2015)

ロシアのチルコフ海軍司令官が4月15日に明らかにしたところによれば、ロシアは2014年1月から2015年3月までの間、北極海におけるSSBN(潜水艦発射弾頭ミサイル搭載原潜)の哨戒活動を2013年に比してほぼ50%強化した。それによれば、北方艦隊のSSBNが常時1隻、バレンツ海を哨戒しており、他に2隻が警戒待機態勢にある。ロシアは現在、15隻のSSBNを保有しており、内、10隻が即応態勢にある。更にこの内、2隻から3隻が北方艦隊と太平洋艦隊から哨戒活動に展開できる。北方艦隊は、コラ半島のガジェヴォ海軍基地に、旧式のDelta-IV 級と新型のBorei級SSBNを配備している。

記事参照:
Arctic, Barents submarine patrols up 50 percent over last year

4月16日「鉄道建設が中国の新シルクロードの根幹である―米専門家論評」(China Brief, The Jamestown Foundation, April 16, 2015)

Web誌、China Briefの編集長、Nathan Beauchamp-Mustafagaは、4月16日付の同誌に、“Rolling Out the New Silk Road: Railroads Undergird Beijing’s Strategy”と題する論説を寄稿し、中国の新シルクロードを支える重要な要素は鉄道網であり、沿線国と協力して鉄道網を整備することで経済の中心をアジアへと移行させようとしているなどとして、要旨以下のように述べている。

(1) 2014年12月、Yu Xin Ou Railway(渝新欧鉄道)の列車が中国浙江省の義烏から8,000マイル離れたスペインのマドリッドに到着したことは、北京の「新シルクロード」戦略において重要な役割を果たす中国の鉄道ネットワークが、ユーラシア大陸を横断して急速に拡充されていることを示した。もっとも、義烏-マドリードの間の鉄道は、異なる3つのゲージで建設されており、それぞれの切り替え箇所で車両を切り替える必要があった。中国国内の鉄道インフラ開発は、「一帯一路」構想(「21世紀海洋シルクロード (MSR)」と「シルクロード経済ベルト (SREB)」)沿線諸国と中国との物理的な連結を可能にすることから注目されている。蘭州-ウルムチ、広州-南寧そして貴陽-南寧という3本の新たな鉄道路線が2014年12月に開通した時、新華社通信は、「これらの鉄道路線の開通は、中国の鉄道網を3,000キロ延伸するだけでなく、『一帯一路』構想という大動脈の血流を促進するものである」と報じた。蘭州-ウルムチ線は、「ユーラシアの後背地にあり、中国が建設中のSREBの核心地域を通って」おり、そして新疆ウイグル自治区を中央アジアやヨーロッパと結び付けるとともに、中国の西部開発や工業化を支援することになろう。

(2) 中国は、自国の鉄道技術を、「新シルクロード」戦略のアウトリーチの一環として、特にロシアとの間でより大きな経済協力に向けての梃子としてきた。王毅外交部長は2015年の全人代で、SREBを含む、ロシアとのウイン・ウインの2国間関係と「鉄道建設における協力促進」に言及した。人民日報は、「モスクワ-北京間のユーラシア高速鉄道網を建設することは、両国関係の核心部分における2国間協力の進むべき方向であり」、そしてこうした2国間協力は「極東地域への新たなる物流ハブとなる」モスクワ-カザン間の高速鉄道網の建設にも適用される、と報じた。中国メディアは、こうした鉄道網の建設協力を通じて、将来的に中国の東北地方が遼寧省、吉林省そして黒龍江省を横断する鉄道を通じてロシア極東地方と結び付けられることになろう、と報じた。「新シルクロード」戦略と中国の鉄道技術との密接な連関は、中国企業がトルコのイスタンブール-アンカラ間の新鉄道を建設していることにも表れている。人民日報の報道によれば、トルコ当局者は「新シルクロード」戦略への支持を公式に表明し、「中国によって進められている『一帯一路』戦略は、トルコ東部における4路線の鉄道建設計画と符合するものである」と語った。

(3) 中国による鉄道網の延伸が持つ軍事的影響については、ほぼ中国領土内に限られると見られる。中国国内の鉄道網は部隊や移動式ミサイルの国内移動を容易にし、そして軍事戦略上、ある程度鉄道利用を想定していることも確かであろう。しかしながら、戦時においては、他国が中国国境沿いの鉄道を容易に爆撃できることから、鉄道網の沿線諸国からの協力を得られた場合にのみ、鉄道網は有効な移動手段となろう。鉄道網に関する人民解放軍の関心は、最近の軍事専門紙に掲載された人民解放軍の専門家の記事から窺える。人民解放軍の専門家は、ロシアがクリミア戦争や日露戦争で敗れたのは「鉄道網構築の遅れ」による、と指摘している。更に、この専門家は、中国のような広大な陸地領土において、鉄道網は、兵力展開にとって「迅速かつ効果的」な手段となり得る、と述べている。国外への部隊展開のために必要な協力は、2007年に実現した。この年、人民解放軍は、鉄道を利用してロシアに部隊を輸送した後、上海協力機構 (SCO) 主催の“Peace Mission 2007”演習に参加した。2010年の演習でも、鉄道を利用して部隊を輸送した。2014年の演習では、中国が鉄道で輸送されてきた外国部隊を受け入れた。

(4)「新シルクロード」戦略の地政学的意義から見て、鉄道網は中心的な役割を果たしている。台湾の研究者、Shi Qipingは2014年12月に香港のテレビで、鉄道網は中国の「反封じ込め (“counter-containment”)」戦略を支えるものであるとして、ユーラシア大陸を横断する鉄道網を構築することで、中国は経済の中心軸をアジアへと移すことができ、一方「アメリカは、最初はアメリカが中国を包囲しようとしていたのに、今や中国によって包囲されつつある、ということに突然気付かされることになろう」と述べている。新華社は2015年4月に、SREBはアメリカの中国包囲網を突破することを意図しているが、中国はMSRによって、「第1列島線を突破して、太平洋に東進することができ」、「南シナ海の南端までコントロールでき」、そして「マラッカ海峡を通過して南シナ海からインド洋へと進出できる」と述べ、Shi Qipingの発言よりも明快である。「新シルクロード」戦略について軍事的側面からしばしばコメントを寄せている、人民解放軍国防大学の紀明貴少将は、東南アジアにおける日本の影響力を抑える手段として、タイとの鉄道建設協力を提唱している。また、中国とロシアは、中央アジアでの鉄道建設に当たって、いずれの国のゲージで建設するかを巡って抗争しているといわれるが、中国からの融資で建設される鉄道は中国のゲージで建設されると見られる。

(6)シルクロード経済ベルトは主に中央アジアからヨーロッパへと向かって推進されているが、海上シルクロード(MSR)も、そのネットワークの一部として、中国南西部の広州から沿岸域を結ぶ新路線の鉄道網を利用している。MSRは、昆明からベトナム、ビルマ、カンボジア、ラオス、タイ、マレーシアを横切ってシンガポールへと向かう鉄道も含んでいる。シルクロード経済ベルトに沿った新シルクロードに国有の鉄道企業を結びつけていくという国家主導型のアプローチを反映して、ある新聞メディアは、ASEANのすべての国が鉄道を欲している一方で財政上の問題を抱えているが、中国の400億ドル規模のシルクロード基金にはこの問題を解決する意図があり、これによってアジア諸国との関係性の強化を図ることができると指摘している。2000年代半ばより、中国政府は鉄道技術の輸出に熱心であったが、新シルクロードは、CNRやCSRの海外進出を促進するという素晴らしいフレームワークを提供し、中国の将来的な経済成長をもたらす物理的インフラ整備を、沿線国、特により貧しい隣国とともに構築していくチャレンジでもある。

記事参照:
Rolling Out the New Silk Road: Railroads Undergird Beijing’s Strategy

4月16日「中国の『海上シルクロード』構想、その軍事的、戦略的狙い―インド人専門家論評」(National Maritime Foundation, April 16, 2015)

インドのシンクタンク、National Maritime Foundation (NMF) の理事長、Gurpreet S Khuranaは4月16日、NMFのWeb上に、“China’s ‘Maritime Silk Road’: Beyond ‘Economics’”と題する論説を掲載し、中国の「海上シルクロード」構想は単なる経済的狙いを超えた、軍事、戦略的目標を内包しているとして、要旨以下のように述べている。

(1) 漢時代の「シルクロード」に由来する「海上シルクロード(Maritime Silk Road: MSR)」構想は、中国の外交政策の主たる原動力となっている。MSR構想は、中国の経済的目標を達成するためだけではなく、インド・太平洋地域における中国の国家目標を実現するための効果的な「偽装」として「経済」を利用するものでもある。本稿では、MSR構想が(純粋に)「経済」だけの領域からより広範な(経済プラス)地政学的領域にまでどのように拡大されてきたかを検討するため、中国のこの地域における大戦略の目標からMSR構想を分析していく。

(2) MSR構想は、中国がその影響力を「周辺」(インド・太平洋地域)に、そして可能ならそれ以遠にまでに伝播させていく上で役立つ。中国のような「非現状維持国家」にとって、最も重要な課題は、国際機構や地域的フォーラムにおける、MSR構想のパートナーからの支持(発言)である。中国にとって、このような支持は、好ましいグローバルな秩序を構築し、海洋と陸上における領有権主張を実現するために必要である。同時に、中国にとって、この地域における西側、特にアメリカの影響力に「取って代わる」ことも必要である。中国の地域的影響力は、製造業が求める天然資源や原料資材に対するアクセスを確保する上でも、必要である。北京が「貿易は国旗に従う (‘flag follows trade’)」という格言を強く信じ、経済成長維持のために「重商主義的」アプローチをとっていることは、よく知られている。

(3) 中国は、域内諸国への武器輸出を増やしている。2010年から2014年の間、中国は、ドイツ、フランス及び英国を凌駕し、世界3位の(世界の武器輸出の5%を占める)武器輸出国となった。しかし、(27% を占める)2位のロシアとは大きな差がある。MSR構想は、中国の防衛産業が潜在的に大規模な域内武器市場に参画する上で役立つであろう。かくして、MSR構想は、安全保障分野における域内諸国の中国へ依存を高めることで、「経済」領域から北京の「国家戦略」目標の領域にまで拡大されていく。更に、インド洋沿岸諸国が使用する中国製の兵器は、海外における中国兵器の技術的支援や整備支援を通じて、インド洋における海軍部隊の持続的な展開を実現する上で、中国に大きな軍事戦略的配当をもたらすことになろう。最近、中国はアジアの近隣諸国に対して、軍事力の誇示を含め、益々高圧的になってきたが、MSR構想は、こうした政治的、軍事的高圧姿勢による悪影響を緩和することになるかもしれない。更に、MSR構想とアジア諸国の中国に対する高い経済依存を梃子に、中国は、対立のエスカレーションを押さえ、これら諸国に中国の意志を強要できるようになるかもしれない。また、MSR構想は、西側の言う、「真珠数珠繋ぎ (‘String of Pearls’)」論批判を躱す上で有効な手段になるかもしれない。MSR構想を公表する前には、中国は、インド・太平洋地域における港湾建設プロジェクトが戦略的な狙いではなく商業的な目的であることを、世界に納得させるために苦慮してきたが、中国の言い分を信じる者はほとんどいなかった。MSR構想は、彼らに対して、中国が「何時も話してきた」ことが「真実」であることを理解させる最善の方法である。同時に、MSR構想は、(海賊対処のような)平時任務や一時的な偶発事態に派遣される中国海軍部隊への補給支援のために、インド洋沿岸諸国の海洋施設を利用する選択肢を中国に与えることにもなろう(これは、アメリカの概念、「『基地』ではなく『場所』(the US concept of ‘places’, not ‘bases’)」に近い)。

(4) MSR構想は、東アジアにおける中国封じ込めを狙うアメリカの「再均衡化」戦略に対する対応と見ることができるかもしれない。地政学的レベルにおいて、アメリカの封じ込めには、経済的、外交的要素が含まれる。経済的要素は、環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) などのアメリカ主導のブロックの創設から中国を排除することである。外交的要素は、日本などの域内の同盟国と、インドや他のインド洋沿岸諸国などの「パートナー」との政治的、外交的連携によって中国を孤立させることである。同時に、アメリカの「再均衡化」戦略には、実質的な軍事的、戦略的要素も含まれている。アメリカの戦略は、西太平洋における軍事プレゼンスの強化と「国際公共財におけるアクセスと機動のための統合構想 (Joint Concept for Access and Maneuver in the Global Commons: JAM-GC)」を通じて、中国に対する軍事的、戦略的な封じ込めを追求している。MSR構想は、アメリカの「再均衡化」戦略に対する「戦略的な目眩まし (a ‘strategic distraction’)」と見ることができるかもしれない。MSR構想を通じて、中国は、インド洋沿岸域における海軍力投射を目指すことができ、それによって中国の裏庭におけるアメリカの軍事的、戦略的「圧力」を軽減することができるかもしれない。現在のMSR構想の説明では、「海洋安全保障」の要素が省かれているが、こうした目標に向けて、「安全保障」は、中国にとって、インド洋沿岸域における海軍力のプレゼンスを強化するために必要な口実となり得る。しかしながら、留意すべきは、北京にとって、インド洋沿岸域への海軍力のアクセスのためには、東南アジアの海洋におけるチョークポイントのほとんどを抑える地理的位置にある、インドネシアの支援が不可欠であるということである。中国海軍が2014年2月に、インドネシアのスンダ海峡とロンボク海峡を通過し、オーストラリア沖で前例のない、また外部に公表しない演習を行った事実を思い起こす。従って、MSR構想にとって、インドネシアの支持の重要性を強調することは、過大評価には当たらない。

記事参照:
China’s ‘Maritime Silk Road’: Beyond ‘Economics’

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・関根大助・山内敏秀・吉川祐子