海洋情報旬報 2015年3月21日~31日

Contents

3月21日「北極海経由の海運と中国への期待―北極海専門家論評」(The Maritime Executive.com, March 21, 2015)

アイスランドのEykon Energy and Vodafone IcelandのHeidar Gudjonsson会長と、上海のThe China-Nordic Arctic Research Center事務局長で中国のThe Polar Research Institute of Chinaの客員研究員のEgill Thor Nielssonは、米誌、The Maritime Executive(電子版)に3月21日付で寄稿した、“China Can Play Key Role in Arctic Shipping”と題する論説で、北極海経由の海運の発展に、アジア、特に中国が重要な役割を果たすことができるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 北極海経由の航路は大西洋と太平洋における世界最大の経済圏を繋ぐ航路で、北方航路 (NSR) 経由では、上海とヨーロッパ間の距離が、スエズ経由の従来の航路に比して、最大40%短縮できる。この10年間にロシア沿岸域に沿ったNSRを完航した船舶は、2010年の4隻から2013年には71隻でピークに達したが、2014年には31隻に減少した。この減少は、海氷の融解状況、船舶保険会社の懐疑的な姿勢そしてグローバル経済の不振が原因と一般的には受け取られている。運航船社とその他の利害関係者が北極海経由の海運の発展に更なる意欲を示すことが期待されており、この点で、アジアは重要な役割を果たすことができる。

(2) 中国最大手の船社、中国遠洋運輸集団公司 (COSCO) は2013年に、多目的船、MV Yong Sheng(1万4,357GT)で大連からNSR経由でロッテルダムに1万6,740トンの一般貨物(鉄鋼と大型器材)を輸送した。これが最初のコンテナ輸送となった。アジアと北アメリカ間及びアジアと北ヨーロッパ間の世界で最も重要な通商航路に一石を投じたことで、中国は北極海経由の輸送に対する関心を高めた。中国の当時の温家宝首相が2012年4月にアイスランドを公式訪問した時、アイスランドと中国両政府は、北極協力に関する枠組み覚書に調印し、以後、両国は、この合意に基づいて北極問題に関する強固な2国間協力を発展させてきている。同時に調印された海洋と極地の科学技術分野に関する覚書に基づいて、2012年8月には、アイスランドの招待による中国の唯一の砕氷船、RV Xuelong(「雪龍」)の同国訪問が実現した。これはRV Xuelongの北極圏国への初めての公式訪問となり、中国国旗を掲げた船が北極海を横断した最初の事例となり、同時に往路にNSRを経由し、帰路に北極海中央航路 (CAR) を通航した最初の事例ともなった。中国の5回目の国家的な北極調査遠征であった、このRV Xuelongの航海は、東アジアと北ヨーロッパ間の最短航路として、CARの将来的可能性を示した。COSCOとアイスランドの運航船社、Eimskipは2014年1月、北極海航路に関する今後の協力について合意に達した。しかしながら、同時に調印された、北大西洋における国際的な冷凍船輸送に関する協力協定の方が、現在ではより重要性を高めている。2014年7月には、アイスランドは中国との自由貿易協定を批准したヨーロッパ最初の国となり、それに先立つ2013年には、相互貿易と直接投資を更に促進するために、中国人民銀行とアイスランド中央銀行は3年満期の5億7,000万ドル相当の相互通貨交換協定を更新した。

(3) 北半球の大西洋の中央に位置するアイスランドの地理的位置は、東アジアからヨーロッパに向かう理想的な北の出入口になっている。同様に、ギリシャのピレウス港がCOSCOのヨーロッパへの南の出入口となっている。ピレウス港は、COSCOが2008年末に利用し始めて以来、コンテナ輸送分野で地中海第3位の規模となり、2009年の45万TEUから2014年には総計370万TEU近いコンテナ貨物を取り扱うまでに拡大した。同港に対するCOSCOの投資は間もなく5億ユーロ(5億3,000万ドル)に達すると見られ、同港は今後数年内に、年間取扱量が620万TEUに達すると見られ、ヨーロッパ5大港の1つとなろう。2013年の統計では、世界で最も取扱量の多いトップ10の港湾の内、9つまでがアジアにあり、複合的なハブ港として発展している。一方、ヨーロッパの主要港である、ハンブルグ、ロッテルダム及びアントワープは、今後の北極海航路に対応できる可能性を持っている。アイスランドは、まずNSR経由で、次に北西航路 (NWP) 経由、そして最終的にはCAR経由の国際的な海運ネットワークにおいて、将来的なハブ港として発展することができよう。アイスランドはNSR経由の主たる最終目的港ではないが、アイスランドの不凍港は、CAR経由にとって最適のハブ港で、ヨーロッパと北アメリカ行きNSR経由貨物と、ヨーロッパ行きのNWP経由貨物をネットワーク化することができよう。

(4) 運輸は国際ビジネスの基盤であり、そして船舶輸送が最も経済的な形態である。しかし、国際的な海運ネットワークにおける課題は、競合する航路を開拓するよりも、むしろそれぞれの航路を如何に効率的に連接していくかということであろう。北極海における海運は、既存の大陸間海運ネットワークに新しい連接を提供するはずである。北極海を経由する大陸間の船舶輸送は非常に小さな規模で始まったが、それが商業的に活用できるようになるまでには、現在のデータから見て、今後数十年を要するであろう。法律、環境、経済、社会、政治及び技術面における多くの不確実性は、北極海経由の海運の将来的課題である。更に、インフラ整備も必要である。今後、一貫した国際的なイニシアティブによって、北極海経由の海運は次第に有利なビジネスになっていくであろう。この面で、アジアの運航船社は、変化への起爆剤になり得る。ピレウス港の例が示しているように、アジアの船社が海運ネットワークを北アメリカとヨーロッパの新しいハブ港に拡大することは有益であろう。しかしながら、問題は、北極海経由の輸送航路を国際的な海運ネットワークに連接するために必要な時間と資源を、誰が負担するのかということである。

記事参照:
China Can Play Key Role in Arctic Shipping
Map: Arctic Shipping Routes

3月23日「東シナ海で求められる危機管理メカニズム―米専門家論評」(SNAPSHOT, Foreign Affairs.com, March 23, 2015)

米インディアナ大学のP. Liff准教授(退役海軍提督)と海軍大学の Andrew S. Erickson准教授は、3月23日付のSNAPSHOTに、“Crowding the Waters: The Need for Crisis Management in the East China Sea”と題する論説を寄稿し、東シナ海における危機管理メカニズムの必要性について、要旨以下のように論じている。

(1) 2012年9月以来、東シナ海の尖閣諸島(中国名:釣魚群島)を巡る北京と東京の間の事実上の紛争はこれまでになく不安定化してきている。中国は周辺海空域でこれまで以上の軍事的あるいは準軍事的行動をとっており、日本は1958年に記録を取り始めて以来、どの時期よりも多い空自戦闘機の緊急発進を行っている。中国の朱成虎少将は2014年頃に、「ほんのわずかな不注意が世界第2位と第3位の経済大国間の意図しない紛争に火を付けることになろう」と警告していた。日中間の軍事衝突は破滅的な結果を招くであろうし、ほぼ間違いなくアメリカを巻き込むことになろう。2014年11月の日中首脳会談以降、両国の政治的関係は雪解けに向かい始めたが、東シナ海のより重要な問題は一向に改善される気配がない。両国とも紛争は望んでいないが、益々混み合ってきた海空域の不安定な現実の中で、誤算や事故が大きな危機に発展するリスクは非常に高くなっている。

(2) 日中両国は7年間に及ぶ交渉を続けてきたが、2国間の危機管理メカニズムの構築に合意できていない。日中両国が低レベルの衝突が全面的な危機に発展することを阻止できるかどうかは、疑問である。単発の遭遇事案が軍事紛争に発展する可能性は低いが、遭遇事案の激増は全体のリスクを著しく高める。日中両国は、小さな島嶼を巡って戦争することを望んでいないであろう。両国政府は2007年に、東シナ海を「平和、協力、友好の海」にすることを約束した。2012年9月の対立激化以前には、両国の高級レベルの海上協議や海上通信メカニズムに関する2国間対話が実施されていた。2015年1月には、新たな協議が行われ、海空における意図しない衝突を回避するためのホットラインの設置について協議された。しかし、未だ、効果的な危機管理メカニズムの実現に向けてのタイムテーブルができていない。尖閣諸島を取り巻く海空域の現実は揮発性が高く、遭遇事案のエスカレートを阻止する措置に関する早急なそして実質的な協議が求められている。両国間の外交的協調と政治的思惑を排除した連絡メカニズムが不可欠であり、早急に必要とされている。

(3) 日中間のどのような軍事衝突であれ、そのコストは甚大なものとなり、両国とも戦争を望んでいない。どのような遭遇事案であれ、それが結果として軍事紛争に発展する可能性は低いが、この地域における航空機や艦船の頻繁な航行量から見て、もし両国による迅速かつ効果的な危機管理がなければ、軍事衝突に発展するかもしれない可能性が高まっている。 東シナ海の荒れ模様の海空域では、願望は戦略ではない。誰もが望まない戦争を決して勃発させないような、安全装置が今、必要とされているのである。

記事参照:
Crowding the Waters: The Need for Crisis Management in the East China Sea

3月25日「中国の『海洋シルクロード』構想の課題―米専門家論評」(The Foreign Policy Institute, Johns Hopkins, SAIS, March 25, 2015)

米Johns Hopkins university Foreign Policy InstituteのWilliam Yale研究員は、同研究所 (FPI) の3月25日付、SAISに、“China’s Maritime Silk Road Gamble”と題する論説を寄稿し、中国にとって「海洋シルクロード」構想の最大の難題は、インフラを建設することや、貿易協定を締結することよりも、域内各国を中国の価値観や外交政策目標に同調する方向に結集させることができるかどうかであり、それができなければ、この構想も実現できなくなるかもしれないとし、要旨以下のように論じている。

(1) 習近平国家主席が2013年10月にインドネシア議会において海上シルクロード構想を発表して以来、その後のあらゆる動向は、「21世紀海洋シルクロード」(以下、MSR)構想が、中国の多くの外交政策と同様に、外交的、経済的そして戦略的目標を目指す多面的なものであることを示している。何よりもまず、MSR構想は、南シナ海における中国の高圧的な領有権主張によって脅かされた近隣諸国を宥めることを狙いとしている。奇妙なことに、中国は、東南アジアの近隣諸国との緊張を激化させながら、同時にこれら諸国を宥める挙に出ているのである。これは、(中台関係や、中断したり再開したりするアメリカとの軍事関係に見るような)瀬戸際政策と外交的和解を交互に繰り返す、中国の通常のパターンとは対照的である。中国の指導者や国営メディアは、MSR構想について、「政治的思惑を抜きにした平和的な経済発展」という理想主義的な主張を繰り返しているが、中国は、南シナ海における環礁や無人の島嶼を、人民解放軍が使用可能な滑走路を持つ人工島に変えることで、南シナ海において広大な海洋領域に対する一方的な領有権主張を強固にする努力を休むことなく続けてきているのである。

(2) その一方で、MSR構想はまた、中国と暗黙的な友好関係にある、マレーシア、カンボジア、スリランカそしてパキスタンといった諸国との関係強化も狙いとしている。これら諸国との関係強化は、主としてインフラ整備や貿易協定といった経済的なインセンティブを通じて達成されよう。この意味で、MSR構想は、「シルクロード経済ベルト」(以下、SREB)構想と表裏一体(「一帯一路」構想と称される)をなすものであるばかりでなく、一部の専門家が「真珠数珠繋ぎ (a “String of Pearls”)」政策と呼ぶ、中国のこれまでの海洋インフラ投資を含む、歴史的な連続性に繋がるものでもある。従って、もし中国が今後、進めるインフラ整備プロジェクトがどのようなものかを知りたければ、中国が過去に投資してきたインフラ整備プロジェクト、即ち、石油・天然ガス輸送とリンクした、ミャンマーのシットウェ港、スリランカのハンバントータやコロンボのポートシティー計画、そしてパキスタンのグワダル港でのプロジェクトを見れば良い。実際、中国とマレーシアは既に、マラッカでの共同港湾開発プロジェクトを発表している。一方、中国は、東南アジアや南アジアのほとんどの国々にとって最大の貿易相手国になっているが、スリランカなどとは新たに自由貿易協定を締結しつつある。

(3) 中国のインフラ投資は、中国のエネルギー安全保障を強化するとともに、中国と近隣諸国との間の貿易を増大させることを主たる狙いとしているが、現在、アジアインフラ投資銀行 (AIIB) の設立や、海洋シルクロード銀行や海洋シルクロード基金といった、より特定目的化された投資機関の創設によって、今後大きく発展しようとしている。AIIBは、中国の500億ドルの資金(今後1,000億ドル規模へ増資計画)拠出によって華々しくスタートしたが、残りの2つの基金、即ち、海洋シルクロード銀行は資本金400億ドル規模、海洋シルクロード基金は1,000億人民元規模の投資が計画されているが、まだ立ち上がっていない。

(4) 最後に、中国の権威筋は未だ言及していないが、MSR構想と特に中国の海洋インフラへの投資は、中国海軍のインド洋とそれ以遠へのより頻繁な展開を可能にすることを暗黙の狙いとしている。中国海軍は、東南アジアから南アジアに至るシーレーン (SLOC) に沿って信頼できる補給拠点網を必要としている。海軍艦艇は、燃料、食料そして武器弾薬の安定供給がなければ、遠洋における行動ができないからである。しかしながら、予測し得る将来、中国はこの面では極めて不利な状況にある。何故なら、米海軍や同盟諸国の海軍は、これらの海域に対する戦力投射において戦力的にも、能力的にも優位にあるからである。中国海軍の現有能力から見て、中国の兵站補給能力は、平時であれば何とかなるが、緊張が高まった環境下では、特にアメリカがマラッカ海峡やロンボク海峡といった主要なチョークポイントを封鎖した場合、全く役に立たないであろう。それ故に、中国海軍が能力強化のために最初に取り組むべき課題は、マレーシア、スリランカそしてパキスタンにおける前述のようなインフラ整備プロジェクトによって、主要な友好国に信頼できる兵站補給のためのインフラ網を構築することである。しかし、もし中国が戦争を始めた場合、中国とこれら友好国と見なされる国との関係が有事にも維持されるほど強固ではないことから、これらの兵站補給拠点網も脆弱なものであろう。従って、中国海軍にとって最も効果的な行動は、平時においてプレゼンスを誇示するとともに、自国沿岸域から遠洋にも行動できることを示威することである。

(5) MSRとSREBの「一帯一路」構想は、多面的特徴を持ったもので、ここの側面に分解することは困難である。しかしながら、中国にとって最大の難題は、インフラを建設することや、貿易協定を締結することではない。これらも、簡単なことではないが、域内の多くの国から強い反発を受けることのない、基本的には有益なものである。中国にとってより困難な目標は、中国の投資や貿易を通じて、中国の価値観や外交政策目標に同調する方向に、更に言えば、アメリカなどの(中国の)競合国を犠牲にして中国に乗り換えるように、域内諸国を結集させていくことである。中国にとって、この種の(中国への)バンドワゴン現象を引き起こすことは難しいであろう。そうであるとすれば、MSR構想は、砂のように洗い流されてしまうかもしれない。

記事参照:
The Foreign Policy Institute, Johns Hopkins, SAIS, March 25, 2015

3月25日「インドネシアの対中政策、香港紙論評」(South China Morning Post, March 25, 2015)

香港紙、South China Morning Post(電子版)は3月25日付で、インドネシアのウィドド大統領とのインタビューを含め、インドネシアの対中政策について、要旨以下のように論じている。

(1) インドネシアのウィドド大統領は、2国間貿易、投資及びインフラ整備について、中国との2国間関係を深化させていくことを考えている、と述べた。ウィドド大統領は、両国の国営企業や民間企業にとって実現可能なプロジェクトとして、インドネシア国内における有料道路、鉄道、発電所及び港湾の整備などを挙げ、「我々としては、特にインフラ整備や製造業の発展を重視していく」と述べた。中国は、域内の他の諸国では最大の投資国の1つであるが、インドネシアに対する直接投資は活発ではなく、オランダ、モーリシャスそして台湾に続く第13位である。ウィドド大統領はこの点に関し、2つの障壁を指摘した。1つは事業認可に当たっての官僚機構の形式主義的煩雑さであり、もう1つは大規模プロジェクトにとって必要な用地の取得問題である。このため、大統領は、官僚主義的弊害を打破するために認可窓口を1つにしたり、用地買収を容易にするための新たな規則を制定したりしている。

(2) 中国の「海洋シルクロード」(以下、MSR)構想については、ウィドド大統領は、「今に至るまで、我々はMSR構想の詳細を知らない。しかし、もしMSR構想における協調がインドネシア国民の利益になるものであれば、そしてそれがインドネシアの国益にも、中国の国益にも資するものであるならば、OKだ」と語った。MSR構想は、習近平主席の2013年の東南アジア諸国歴訪中のインドネシアで初めて打ち出されたもので、域内各国とのより緊密な海洋と経済面での結び付きを求めたことで、アメリカの「アジアへの軸足移動」政策への対抗策と広く受け止められた。ウィドド大統領は就任以来、インドネシアは世界最大の群島国家として、今後、海洋資源を開発するとともに、海上防衛能力を強化していくと言明してきた。ウィドド大統領は会見で、MSR構想が自らの海洋政策と競合するものか、あるいは補完するものかについて、MSR構想についての「詳細な情報がない」ためとして、言及しなかった。一方、スクマ (Rizal Sukma) 大統領外交顧問は本紙 (South China Morning Post) に対して、インドネシアは習近平主席の構想を経済的、外交的結び付きを目指すものと理解しているとした上で、「それは覇権主義を目指すものであってはならない。中国が経済的、外交的結び付きを目指すという枠組を逸脱しない限り、我々は協調することができる」と述べた。本紙は、既に両国の当局者が裏面で、相互協力の確たる証として港湾整備や有料道路整備などに繋がるように、ウィドド大統領の海洋ドクトリンと中国のMSR構想を如何に相互補完させるかについて、議論し始めたことを把握している。

(3) ウィドド大統領は、インドネシアは南シナ海の領有権紛争の解決を目指して、「誠実な仲介者」として役割を果たす用意がある、と語った。大統領は、「我々は、アジア太平洋地域において平和と安定を求めている。つまりそれは、インドネシアが誠実な仲介者として建設的な役割を果たすということである」とした上で、インドネシアは行動規範 (Code of Conduct: COC) を「全ての関係当事国が受け入れらもの」したいと述べ、更に、「我々は、南シナ海問題によって、ASEANと中国との関係が損なわれることのないようにしたいと考えている」、「何故なら、COCの早期実現を目指すためには、ASEANと中国との協力の枠組みが不可欠だからである」と強調した。インドネシアは紛争当事国ではない。しかし、中国の領有権主張の根拠となっている、南シナ海の90%を取り込む「9段線」地図は、資源豊かなインドネシアが領有するナトゥナ諸島の周辺海域と重複している。ASEANは、一部の加盟国が南シナ海における中国の埋め立て工事に対する懸念が高めているが、COCの早期締結を目指している。ウィドド大統領は、COCが早期に締結されれば、特に信頼醸成措置、海難事故対処や危機管理のメカニズムを構築できる、と指摘している。

(4) 一方で、インドネシアは、中国の「9段線」主張に対しては、自国の立場を明確にしている。この主張は2009年に国連大陸棚限界委員会 (CLCS) に提出された中国の文書で示されたが、インドネシアは、「9段線」について国際法に根拠を持たないと主張してきた。最近、米海軍第7艦隊のトーマス司令官は、ASEAN諸国は合同で南シナ海の哨戒活動を行うことができると示唆し、第7艦隊はこうした活動を支援するであろうと語った。前出のスクマ外交顧問は、インドネシアは、アメリカ、中国そしてインドも参加するASEAN海洋フォーラム拡大会合(EAMF) において、南シナ海に関する新たな施策について論議することになろう、と述べた。更に、同顧問は、「我々は域内における米軍のプレゼンスを歓迎するが、我々はアメリカとの共同による南シナ海の哨戒活動を必要としているわけではない」とし、「我々はまず、ASEANの枠組みの中で考えていきたい」と語った。

記事参照:
Indonesia to throw open doors to Chinese investment; seeks details on maritime Silk road

3月25日「北極圏におけるロシアの野望」(World Policy Blog, March 25, 2015)

米シンクタンク、The World Policy Institute発行のWorld Policy Journalの副編集長、Sophie des Beauvaisは、同誌のブログに、“Russia’s Ambitions in the Arctic”と題する論説を寄稿し、ロシアの北極における野望について、要旨以下のように述べている。

(1) ロシアの遠征隊は2007年8月2日、北極点の海底にロシアの国旗を打ち込んだ。北極圏の3分の1がロシア領で、ロシア経済に大きな比重を占めるエネルギー資源の宝庫である。北極海の海氷の融解で新たな機会が生まれ、非北極圏諸国の北極圏への関心が高まったことによって、ロシアは、北極圏に対する政策を大幅に強化してきた。ロシア政府は2008年9月、「2020年までとそれ以降の期間における北極圏に対するロシア連邦の国家政策の原則」を制定した。これによれば、北極圏におけるロシアの国益は以下の4つである。第1に戦略的な資源基地として北極圏内の自国領域の活用、第2により広域の北極圏地域を平和、協力地帯として維持、第3に北極圏固有の生態系の保存、そして第4に北極圏における戦略的な輸送ルートとしての北方航路の活用である。ロシアは、北極圏を、主に海上輸送ルートと、石油及び天然ガス資源から得られる収益源として重視している。現在の見積では、北極圏資源のからの収益は、ロシアのGDPの10~15%、そして全輸出額の20~25%を占めている。

(2) 北極海の海氷の融解によるアイスフリーへの展望は、新しい輸送ルートを巡る主権に関する論議を再燃させている。北極海の中心部は公海に分類され、従ってどの国の管轄権も及ばない。しかしながら、北極海沿岸諸国、ロシアに加え、カナダ、デンマーク、ノルウェー及びアメリカは、自国の管轄権を北極点にまで延伸し得ると主張している。実際、国連海洋法条約 (UNCLOS) は、一定の海域における資源について、沿岸国の主権的権利を認めている。沿岸国は、海岸線から200カイリまでをEEZとする権利を認められ、しかも当該国の大陸棚が200カイリのEEZを越えて延伸している科学的根拠を示すことができれば、管轄権の延伸が認められている。UNCLOS第77条は、「沿岸国は、大陸棚を探査し及びその天然資源を開発するため、大陸棚に対して主権的権利を行使する」と規定している。しかしながら、主張が重複する場合には、2010年にノルウェーとロシアが40年に及ぶ海洋境界画定紛争を解決したように、関係当事国は解決策を図る責務がある。デンマークは2014年12月15日、大陸棚の外縁限界について、北極海にまで延伸する約34万7,500平方マイルに及ぶ海域についての延伸申請書を、国連大陸棚限界委員会 (CLCS) に提出した。デンマークの申請には、北極点が含まれている。ロシアのドンスコイ天然資源相は翌12月16日に、「我々は、国防省と外務省そしてロシア科学アカデミーと協働で、CLCSに提出する申請書を作成中である」と述べた。ロシアは北極点を超えて延びるロモノソフ海嶺がロシアの大陸棚の延長であるとの科学的根拠を収集してきたと主張していることから、ロシアの申請書には、北極点が含まれると見られる。2000年12月20日に提出されたロシアの最初の申請書は、科学的根拠不十分を理由に却下された。

(3) ロシアの北極政策は多元的で、戦略的側面のみを論じることはできないが、ロシアは、北極圏における戦略的、商業的な権益を護るために軍事計画を立案してきた。ロシアは、北極圏におけるロシアの国境と権益を護るために、北極圏のロシア領に軍事施設のネットワークを整備しつつある。新設された戦略コマンドは、北方艦隊に司令部を置き、2014年12月1日に運用を開始した。同年12月末には、プーチン大統領は、ロシアは北極圏を軍事化するつもりはないが、ロシア領域における防衛能力を確実にするために必要な措置をとっていると述べた。数週間後、北方艦隊の広報官は、「艦隊の海兵部隊は、北極圏での軍事活動のための特別訓練を2015年に実施する」と発表した。最近の米民間情報会社、STRATFORのレポートは、「北極評議会加盟8カ国の内、5カ国がNATO加盟国である事実は、対抗勢力が結託しているとのロシアの疑念を高めている。一方で、北極圏におけるモスクワの長期的野心は、他の北極海沿岸国諸国を神経過敏にしている」と指摘している。北極海沿岸諸国間の武力紛争の脅威は極めて低いが、北極圏自体は戦略的重要性を増しており、どの国であれ、沿岸諸国の軍事化は警戒の目で見られることになろう。

記事参照:
Russia’s Ambitions in the Arctic
Map: Russia Fortifying bases in Arctic Region
Map: Arctic territorial claims

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子