海洋情報旬報 2015年2月21日~28日

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2月24日「北極圏におけるロシアの軍事力増強、ノルウェーの恐怖―米誌、NWルポ」(NewsWeek.com, Befruary 24, 2015)

米誌、News Weekは2月24日付で、“What Is Russia Up To in the Arctic?”と題する長文のルポ記事を掲載し、要旨以下のように述べている。

(1) ノルウェーのオスロから南に車で2時間、Mågerø防空監視基地は、標識がない田舎道の突き当たりの山の中にある。幅の狭いトンネルの突き当たりにある、コンピュータとレーダー・モニタ画面で満たされた洞穴のような部屋で、情報専門家はノルウェーの空域を監視している。最近、何時ものありふれた午後、ロシアの核弾頭搭載可能なロシアのTu-95Bear爆撃機がモニター右上端にホタルの点滅のように浮かび上がった。対空監視員は電話を取り、ノルウェー北岸のBodø基地に通報し、その後直ちに、2機のF-16戦闘機が侵入者を目視確認のために離陸していった。ロシアの爆撃機がノルウェーの北極空域の外縁で旋回飛行を実施していることが判明した。しかし、1月28日に現れた、給油機と最新のMig-31戦闘機に護衛された2機のTu-95爆撃機については、英紙、Sunday Expressによれば、その内1機は、無線の傍受から「核弾頭」を搭載していたと見られる。そして、ノルウェー紙、Barents Observerによれば、2014年秋にノルウェーの北方空域を飛んでいたロシアのTu-22超音速爆撃機は、巡航ミサイルを発射位置に装着している写真を撮られた。同様の例は多くある。偶然の大惨事の可能性に加えて、ロシアの軍用機は一般的に飛行計画もなしに離陸して、自機のトランスポンダーを切って混雑する民間航空路を巡航し、NATO軍パイロットだけでなく民間航空会社も怒らせている。Mågerø防空監視基地司令、Halvorsen大佐は、レーダー上で点滅するロシアのTu-95のアイコンを指しながら、「我々は、長年このような活動状況を見たことがなかった」、「最近は任務も以前より複雑になっている」と語り、最近では、Mig 戦闘機、給油機及び哨戒機に護衛された爆撃機群の規模がより大きくなり、その数も増えていると指摘した。

(2) ロシアのプーチン大統領が2007年に戦略爆撃機による国際空域での飛行再開を命じて以来、ノルウェー周辺空域でのスクランブル回数は毎年劇的に増加している。プーチン大統領は、2014年末に発表した軍事ドクトリンに、初めて北極圏におけるロシアの権益擁護のための準備指示を追加した。それによれば、2個の北極旅団の新編が計画され、フィンランド国境から30マイル足らずの位置にある、ソ連時代の軍事基地、Alakurttiが再開された。更に、軍の建設要員は、北極海の島々にある冷戦時代の基地網を修復し始めた。北方艦隊水上戦闘艦群のコンドラトフ司令官は、「我々の主要な目的は、北極圏における環境条件とそこにおける兵器と機材の適合性の調査と評価である」と語っている。

(3) プーチン大統領の最終的な狙いについては、誰にも分からない。ノルウェーは北極圏におけるクリミアの再現の恐れを騒ぎ立ててはいないが、75年前のナチによる侵入の記憶を忘れてはいない。ノルウェー軍は、Mågerøとノルウェー南端から北端のロシア国境沿いに沿って展開する20カ所余りの軍事基地で、最悪の事態に備えている。しかし、「最悪の事態」は謎である。現在、アンカレッジのThe Institute of the Northの上席研究員で、長年国防省で文官の情報専門官を勤めた、Keith Stinebaugh は、「私は、ロシアが最近非常に活動的になってきたことに同意する。しかし、『侵略的 (“aggressive”)』というのは言い過ぎかもしれない」と語っている。カナダのバンクーバーに拠点を置くSimons財団の北極安全保障問題担当上席研究員、Ernie Regehrは、最近の財団の報告書で、一連の動きについて、モスクワにとって金の浪費であると指摘し、「戦闘機と爆撃機の象徴的な飛行は、これらの武器が使用できることを敵に思い出させることを狙いとしている。しかし、少し理性的に考えれば、これらの武器は、ロシアがNATOに対して、あるいはNATOがロシアに対してともに使用できないことは自明のことである。これらの武器がいずれかの側に利益をもたらすような状況は全くない。いずれの側も、武器を使うことなど望んでいない」と述べている。38年間国防省で勤務した、前出のStinebaughは、ロシアの北極圏における軍事力増強にはもっと単純な理由、つまり金かもしれないとして、「アメリカがこれまで『世界的なテロとの戦い』や、また現在では『サイバー』プロジェクトで予算を獲得しているように、今日のロシア軍内であるプロジェクトが予算を獲得する1つの方法が『北極』というキーワードを付けることかもしれない」と指摘している。それでも、ほとんどノルウェー人は、彼らの玄関口にいる「ロシアの熊」の恐ろしさを完全に払拭することができない。ノルウェーの主要紙、Aftenpostenの編集者、Reidun Samuelsenは、「それは、我々の心から決して離れない」と語った。

記事参照:
What Is Russia Up To in the Arctic?

2月24日「海賊対処活動などにおける中国海軍との協力拡大、米海軍大佐提言」(War on Rocks.com, February 24, 2015)

米海軍現役大佐で、シンクタンク、Blookingsの派遣研究員を務める、Robert Hein大佐は、リアリストの視点から外交・安保問題を議論するWeb上のプラットフォームに、2月24日付で“Sailing with Dragons: The Case for Increased Cooperation with the PLA(N)”と題する論説を寄稿し、2度の駆逐艦艦長としての現場体験を踏まえ、アジアの海賊多発海域における合同海賊対処活動など、中国海軍との協力の在り方について、要旨以下のように述べている。

(1) 海洋におけるルールは何故必要か。中国の経済力の発展に伴って地域に対する野心が大きくなるにつれて、中国海軍がその能力と行動圏の拡大を目指していくことは当然の成り行きである。しかし、こうした動きは同時に、中国が隣国やアメリカに対して海軍力を悪用する可能性も生む。台頭する大国として、海洋におけるパワーを動員し、影響力を拡大しようとする中国の試みは、海洋における危険な遭遇の機会を増すことになろう。この15年間で、海洋における危険な遭遇として注目されたのは以下の事案であった。

a.2001年4月:中国戦闘機が米海軍のEP-3偵察機に接近、衝突。

b.2009年3月:中国のトロール漁船が、米海軍調査船、USS Impecable に25フィート以内に接近。

c.2013年11月:中国船が米海軍巡洋艦の前を横切り、巡洋艦は衝突回避行動を余儀なくさせられた。

d.2014年3月:英BBC記者は、2隻の中国海警局巡視船が係争環礁におけるフィリピン軍拠点に向かうフィリピンの補給船を妨害するのを目撃。

e.2014年8月:中国沿岸から100カイリ以上離れた上空で、中国戦闘機が米海軍のP-8哨戒機の100フィート以内に異常接近。

(2) 米海軍は、中国との間で海上における事故を防止するために努力してきた。2014年4月に青島で開かれた第14回西太平洋海軍シンポジウムで、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (Conduct for Unplanned Encounters at Sea: CUES)」が調印された。CUESによって、艦艇乗組員がより適切に意図を伝えることができるようになった。また、艦艇が公海上で遭遇した場合、事態をエスカレートさせないようにするための一連の共通の手順が定められた。米海軍の努力はこうした協定の実現に限られていない。アメリカと台頭するパワーとしての中国との間に内在する固有の緊張と、中国がグローバル・コモンズの安全を維持する責任を分担することへの期待との間で、均衡を図ることが望ましい。こうした均衡を達成するとともに、海洋における安全確保への中国の積極的な役割を促すため、米海軍は、2014年の環太平洋共同訓練 (RIMPAC) への招待など、中国海軍との行動機会を拡大している。米海軍の中国との関係改善への最近の努力として、駆逐艦、USS Sterettがアデン湾で中国海軍艦艇との海賊対処訓練を実施した。

(3) 海賊対処訓練は、CUESのような運用手順を具現化することを通じて、海上艦艇の行動についての世界的な基準を確立する上で重要な措置である。2国間の訓練は中国との実際の共同行動の実施であり、海賊対処訓練はこのような共同行動の実施に理想的である。中国は既に2008年からソマリア沖での海賊対処活動を実施している。国際海事局 (IMB) の報告書によれば、ソマリア沖での海賊事案は2010年の139件から2014年の3件に激減している。他方、東南アジアの同時期の発生件数は70件から141件に倍増している。世界で最も海上交通量の多い海域を含む、中国の裏庭での海賊事案の増加によって、アメリカは、南シナ海にまで海賊対処活動を拡大しなければならないであろう。この海域での海賊対処活動は、単独行動ではなく、むしろ中国海軍やその他の域内各国と共同で実施すべきである。ここでは、ソマリア沖での海賊封じ込めに成功している、30カ国が参加する多国間パートナーシップ部隊、第151任務部隊がモデルとなろう。従って、南シナ海における多国間部隊には、マレーシア、ベトナム、シンガポール及びインドネシアといった諸国を含み、任務部隊の指揮官は6カ月毎に交代する方式が可能であろう。

(4) 中国と実際に海賊対処活動を実施することは様々な面から有益である。第1に、世界で最も急速に海賊多発海域となっている海域で、強力な海賊対処部隊ができることになる。第2に、アメリカは、中国及びその近隣諸国とのより良好は軍事関係を構築することができる。そして最後に、経験を積んだ海軍力が世界でどのように行動しているかを、直接中国国民に示すことができる。結局、世界的な行動基準を実効化する上で、中国海軍がより大きな役割を果たすことに抵抗することは難しいであろう。中国海軍内の強硬派は、アメリカとの協力は域内におけるアメリカのプレゼンスを正当化することになると主張して、協力に抵抗すると見られる。しかし、世界的な通商と域内の安全によって得られるより大きな利益はこうした懸念を上回っており、従って、アメリカの敵対的なイメージも緩和するであろう。

(5) 中国やASEAN諸国との合同海賊対処活動を実施するに当たって、他にも課題がないわけではないが、これらの課題を軽減する方法はある。既に米海軍と中国海軍は、RIMPACなどにおいてASEAN諸国と共に行動できることを示してきた。この地域における海賊は、チョークポイントと南シナ海のインドネシアとマレーシアの間の海域を主たる活動海域としており、従って、領有権紛争の係争海域を避けて有志連合部隊の海賊対処活動が可能である。海賊対処活動への協力の拡大は、海賊活動という域内の共通の敵に対して域内各国の協力関係を構築する実現可能な方策であり、オーストラリアや日本のような地域の他の国への協力拡大の余地がある。沿岸戦闘艦や統合高速輸送船などの最新の高速艦船を活用して、海賊対処活動に従事するアジアにおける米海軍の存在は、大規模な前方展開を伴うことなく、大きな戦略的な利益をもたらすであろう。我々には、まだまだできることがある。

記事参照:
Sailing with Dragons: The Case for Increased Cooperation with the PLA(N)

2月25日「ウクライナへの西側の武器供与、ロシアの対抗措置は中国を南シナ海の覇者にする危険―米専門家論評」(The National Interest, February 25, 2015)

米誌、The National Interestの元編集主幹で、The Center for the National Interestの客員研究員、Harry J. Kazianisは、米誌、The National Interest(電子版)の2月25日付ブログに、“Russia Could Make China King of the South China Sea”と題する長文の論説を寄稿し、ウクライナに対して西側が軍事支援を行えば、ロシアの対抗策は中国を南シナ海の覇者にする危険があるとして、要旨以下のように論じている。

(1) ロシアは南シナ海における中国の夢の実現に容易く手を貸すことができるが故に、アメリカは、ウクライナへの武器供与を再考すべきである。ロバート・カプランは南シナ海を「アジアの煮えたぎる大釜 (“Asia’s Cauldron”) 」と巧く表現したが、もし西側がウクライナに武器供与を始めれば、南シナ海は再び沸騰することになるかもしれない。そのスイッチを入れる真の仕掛け人は他でもないロシアのプーチン大統領である。数千マイルも離れたウクライナでの出来事は、大量のロシアの技術や兵器の流入を梃子に、中国が南シナ海の覇者 (“master and commander”) に納まるプロセスの始まりとなるかもしれない。しかし、ロシアの支援のお陰で中国がどのようにして南シナ海の覇者になることができるかを見る前に、最近の南シナ海における出来事を検討しておく必要がある。中国が南シナ海における大規模な埋め立て工事によって現状変更を続けていることから、アジア太平洋地域における緊張が高まっている。多くの専門家は、この埋め立てによって、滑走路、港湾及びレーダー施設を、更には対艦ミサイル部隊さえも配備できる大規模な人工島が造成されている、と見ている。中国の動機は明白で、北京は、これらの人工島を主権主張の論拠とすることで、南シナ海の主権者 (sovereign master) になろうとしているようである。従って、これらの人工島は、中国の評判の悪い「9段線(あるいは10段線)」で囲まれた海域が北京に属するということを、実体化することになろう。

(2) 中国は最近数年間、その軍事力整備の重点を、技術的に進んだ敵対勢力(米国と/あるいは日本を想定)が中国に隣接する地域(台湾と/あるいは東シナ海・南シナ海)において生起する各種紛争に介入することを拒否する能力の強化に置いてきた。今後数年間、こうした能力は、技術革新によって一層進化し、改善されるであろう。中国が有する長射程で命中精度の高い巡航ミサイルなどの技術的優位に加えて、南シナ海における埋め立てによる中国の新たな拠点は、アジア太平洋地域における重要地区への確実なアクセス確保に全力を傾注しているアメリカとその同盟国の計画立案者にとって、悪夢以外の何物でもない。中国は、もし第1列島線に至る地域で、そして将来的には第2列島線に至る地域で紛争が生起した場合、アメリカや日本、あるいはその他の同盟国が多大の損害を強いられるような戦略環境を徐々に形成しつつある。西側の多くの軍事専門家はこれをA2/ADと称する。中国軍は、陸、海、空、サイバー及び宇宙といったあらゆる戦闘領域において、アメリカや同盟国の軍事力における弱点とされる部分を突く、一連のユニークな兵器システムの開発を強力に進めてきた。この能力は既に十分強力だが、北京は次世代A2/AD能力の開発に力を入れている。この数年間、中国は、第5世代戦闘機、そしてより高精度の対艦ミサイルや長射程の巡航ミサイルなどの開発を進めてきた。そのような兵器システムは、どの国も簡単には開発できないものである。もし北京が既にそのような軍事技術を持っている可能性のあるパートナーと協力関係を結ぶ意志があるとしたら、それによって、中国は、自国で国内生産するよりも数年速い高度なA2/AD兵器システムの配備に向けて大きく飛躍できるであろう。ウクライナ危機のリベンジを狙うロシアは、こうした支援を提供できるであろう。

(3) ロシアは兵器と技術で如何にして中国を支援できるか

a.想定シナリオ:西側はウクライナに軍事支援を供与することを決断した。ロシアは、それに対抗するが、ヨーロッパに限定しないことを決心した。プーチン大統領は、世界地図を広げ、ロシアがアメリカに対抗する上でどの場所が有効かを検討する。そして彼の目は、潜在的なパートナー(中国)との結び付きを強めるばかりでなく、アメリカの「軸足移動戦略」に対して現実的なダメージを与えられる場所、つまり南シナ海に釘付けになった。

b.空域におけるA2/AD;ロシアのSU-35戦闘機の登場:中国は空域におけるアクセス拒否能力強化を目指しており、ロシアからのSU-35戦闘機の購入が噂されているが、西側のウクライナへの軍事支援は同機の購入を現実のものとするであろう。SU-35戦闘機は、中国空軍の現有のSU-27戦闘機やJ-11戦闘機よりも戦闘行動半径が広く、東シナ海や南シナ海へのより長時間の展開が可能になり、東シナ海の防空識別圏 (ADIZ) における哨戒活動の実効性を高めたり、南シナ海へのADIZ設定の可能性を高めたりすることになろう。SU-35戦闘機は、東アジアに配備されている多くの戦闘機(F-22戦闘機や、今後配備されるF-35戦闘機を除く)よりも優れており、中国国産の第5世代ステルス戦闘機が登場するまでの時間的な間隙を埋める存在となる。もし中国がこの戦闘機に性能を向上させた対艦ミサイルを搭載し、南シナ海のジョンソン南礁(赤瓜礁)やフェアリークロス礁(永暑礁)に新たに開設した飛行場に配備すれば、アメリカとその同盟軍を安全な場所まで押し戻す新たな接近拒否兵器の登場となろう。

c.海中におけるA2/AD;潜水艦とソナー:中国は、公海において、ここでもロシアの協力によって新たな潜水艦購入が可能になれば、海中における能力強化を図ることができよう。中国にとって新たな潜水艦技術の導入は、より強力な潜水艦配備を進める上で、更には北京がこれらの潜水艦から新技術を取得できることから、極めて重要である。こうした潜水艦技術には、ロシアのAIP(非大気依存)エンジンと高い静粛性技術が含まれるであろうし、また最新の対艦兵器も売却されるかもしれない。また、中国は、伝統的な弱点である対潜戦 (ASW) 能力の強化にも関心を持っている。中国のA2/AD環境下における想定戦域へのアメリカのアクセスは潜水艦のステルス性に大きく依存しており、ASW分野での中ロ協力は、中国のA2/AD計画を大きく強化することになろう。

(4) ロシアは中国支援を再考する必要があるかもしれない:SU-27戦闘機売却の経験

ウクライナ危機は確かに中ロ軍事技術協力促進の強力な触媒として作用するかもしれないが、過去には、このような技術移転によってロシアが大きな代償を支払う羽目になったことがある。ロシアは、中国が長年に亘って兵器売却を求めてきた真意について、振り返って見ることが賢明であろう。1991年末の旧ソ連の崩壊によって、ロシアの軍需産業は生き残りに必死だった。ロシアには、中国の軍事技術の飛躍的な向上を手助けするような兵器類があふれていた。モスクワは1991年に、北京に対して、約10億ドルで24機の第4世代のSU-27戦闘機を売却した。更に中国は1995年には、新たに24機のSU-27戦闘機をロシアから購入し、1996年から引き渡しが開始された。中国は1996年に、SU-27戦闘機の200機程度のライセンス生産契約に対して約25億ドルを支払った。この契約では、ロシアから輸入した航空機器、レーダー及びエンジンを含む、中国版SU-27戦闘機は第三国に輸出できないことになっていた。ロシアは、中国がSU-27戦闘機を将来的には第三国に売却するのではないかとの懸念を持っていた。ロシアにとって残念なことに、結局、この契約は災いの元となった。100機程度のライセンス生産の後、中国は2004年にこの契約を破棄した。そしてその3年後、中国は新たな戦闘機、J-11を開発したが、この戦闘機は外観がSU-27にそっくりなコピーであった。中国は、SU-27のコピーであることを否定し、大部分が国産部品を使い、独自に開発した優れた航空機器やレーダーを搭載していると説明した。

(5) ワシントンでは、ロシアのウクライナへの行動に代価を強要する方法を巡って議論が高まっているが、西側がウクライナに軍事支援を行った場合、モスクワは、これに対抗する複数の手段を有している。モスクワは、上に見たように、中国に対して兵器や軍事技術を提供することで、南シナ海情勢を悪化させることもできれば、例えば、イランと核交渉をしたり、あるいは北朝鮮、ベネズエラ及びその他の西側と対立する諸国に友好的姿勢を示したりすることで、西側にとって様々な困難な状況を作為することもできる。そしてもちろんロシアは、ウクライナの分離独立派に対して西側の供与兵器に対抗出来るだけの兵器を与えることで、ウクライナ情勢の敷居を劇的に高めることもできる。ロシアはもはや超大国ではないかもしれないが、世界中において、アメリカやその同盟国に対して大混乱を引き起こせるだけの力を有している。このようなロシアの動きは、モスクワに対する西側の対抗処置を引き起こし、いずれの国の利益にもならない新たな冷戦構造の形成に繋がる、危険でダイナミックな作用、反作用の連関を引き起こすことになろう。これこそが、ウクライナにおける危機に対する政治的な解決策を見つけるために不可欠な認識である。

記事参照:
Russia Could Make China King of the South China Sea

2月25日「中国、潜水艦隻数で米を凌駕」(Reuters, February 25, 2015)

米海軍の能力・資源担当作戦副部長、ムロイ中将は2月25日、議会下院軍事委員会での証言で、中国は一部の技術的に優れた潜水艦を建造しており、今やディーゼル推進型と原子力推進型を合わせれば(隻数については言及しなかった)、米海軍の潜水艦の隻数(71隻)を凌駕している、と証言した。ムロイ副部長によれば、中国は潜水艦の運用面でも行動範囲と行動日数を拡大しつつあり、例えば、中国は最近3隻の潜水艦をインド洋に展開させたが、その行動日数は95日間に及んだ。ムロイ副部長はまた、アメリカは中国が核弾道ミサイルを搭載した原子力潜水艦を運用しているとは見ていないが、核弾道ミサイルを製造し、実験していることは承知している、と語った。

記事参照:
China submarines outnumber U.S. fleet: U.S. admiral

2月26日「北方航路の将来性、シンガポールの視点から」(The Straits Times.com, February 26, 2015)

シンガポールのシンクタンク、The Institute of Southeast Asian Studiesの上席研究員、Ian Storeyは、2月26日付のシンガポール紙、The Straits Timesに、“Russia’s Arctic shipping ambitions go off course”と題する論説を寄稿し、シンガポールは世界の主要海運ハブとして、将来の海洋貿易パターン、就中、北極海の北方航路の実用化がもたらす影響に深い関心を示しているとして、要旨以下のように述べている。

(1) シンガポールは世界の主要海運ハブとして、北極海の航路、特にロシアの北方航路 (NSR) の実用化に深い関心を示している。NSRは、シベリア沿岸域を経由してヨーロッパとアジアを結ぶ最短ルートである。一部のアナリストによれば、NSRは将来的には、欧亜 間海運のシンガポール離れを引き起こすという。しかしながら、2014年のNSRにおける商業輸送量の急激な減少は、シンガポールの懸念を和らげるものであった。NSRは、バレンツ海から太平洋まで、全行程4,828キロに及ぶ航路である。気候変動に起因する急速な海氷の融解により夏季の航行可能日数が増加しており、NSRを利用すれば、ヨーロッパとアジアの間の行程は30~40%短縮できる。このスターリン時代の貿易ルートの復活は、広大な北極地域の経済発展を基に超大国の地位回復を狙う、プーチン大統領の野心の重要な要素となっている。

(2) モスクワは、NSR利用船舶に通航料を課しており、NSRを世界貿易の主要輸送路になると想定している。近年のNSRを利用する通航量の急激な増大は、モスクワの期待を裏付けてくれた。2013年には71隻の船舶がNSRを通航したが、これは2012年の46隻、2010年のわずか4隻に比して大きな変化であった。楽観的なアナリストは、北極海は地球温暖化によって年4カ月間アイスフリーの海となり、従って海運ルートとして飛躍的な成長が見込めると予測していた。しかしながら、2014年、こうしたバラ色の予測は再考を迫られた。ロシアが発行した600件以上の通航ビザのうち、NSRを通航したのはわずかに53隻の船舶に過ぎなかった。あるレポートによれば、NSRの輸送量は約27万9,400トンで、2013年に比して80%も減少した。ソ連時代のピークであった1987年の710万トンに比べると、これは程遠い輸送量である。しかも最も驚くべきことに、ヨーロッパの港からアジアまで全行程を完航した船舶は1隻もなく、全てがロシアの港湾間での航行であった。

(3) 2014年の商業輸送量が前年に比して激減したのは、2つの要因によって説明できる。第1に、ロシアは西側の経済制裁によって投資資金の確保が困難になったことに加えて、原油価額の急落によって北極海の資源開発の費用が益々高騰した。その結果、NSRでの商品輸送の必要性も低減したのである。 第2に、北極海の海氷の融解が夏季の航行を可能にしているが、海氷は常に存在している。2014年には、NSR沿いの危険な流氷が船舶の航行に深刻な危機をもたらしたため、ヨーロッパとアジア間を結ぶ幾つかの航行計画が取り消しになった。北極海経由の海運に対する過剰な期待を警戒していた冷静なアナリストにとって、2014年の輸送量の激減は、少なくとも短中期的なNSRの有効性に対する彼らの疑念を裏付けることになった。

(4) NSR沿いの老朽化した旧ソ連時代のインフラを改修し、航行支援設備、気象予報そして捜索救難サービスを国際基準まで引き上げるには大規模な資金調達が必要になる。原油価格と通貨の両方の下落に起因する経済状況悪化の中で、モスクワはそのような資金を持っていない。そのため、ロシアはアジアの投資家に注目しているが、現在のところ、アジアで最も緊密なパートナーである中国さえ、NSRに対する熱意を失ったかに見える。むしろ、中国は、数十億ドル規模の21世紀海上シルクロード構想を積極的に推進しており、東南アジアの既存航路におけるインフラの整備や強化を計画している。NSRは地理的な制約のため、世界最大級のコンテナ船の航行が不可能であり、その上、過酷で予測不可能な気象状況は海運会社の利益を左右する航行日程の作成を難しくしている。スエズ運河からマラッカ海峡経由のルートとは違って、NSRは、途上の港で荷物を積み卸しできる機会がほとんどないため、輸送利益は更に減少する。しかも、海運会社は、ロシアの砕氷船によるエスコート費用や海氷域の航行に適応するための訓練と乗務員の確保といった追加費用も勘案しなければならない。こうしたことは全て、長い航路を利用した場合よりも、航行所要時間の短いNSRの方がかえってコンテナ1個当たりの所要コストが高くなる可能性があることを示している。

(5) NSRの運命が転機を迎える余地はまだある。科学者たちは、暫定的ではあるが2015年夏季には、北極海での気温上昇と高気圧による速やかな海氷の融解を予測している。その場合、NSRの輸送量は2013年の記録を超えるかもしれない。しかしながら、気象条件はまだまだ予測不可能な要素があり、NSRの長期的な将来性は、依然として北極圏のエネルギー資源の商業的開発の可能性とそれに対する外国資本の投資如何にかかっている。要するに、NSRが既存の貿易ルートに匹敵するようになるまでには、今後何十年もかかるかもしれないということである。

記事参照:
Russia’s Arctic shipping ambitions go off course

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子