海洋情報旬報 2015年2月1日~10日

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2月2日「米印両国の戦略ビジョン―インド人専門家論評」(RSIS Commentaries, February 2, 2015)

インドのThe Observer Research FoundationのDarshana M. Baruah特別研究員は、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS)の2月2日付のRSIS Commentariesに、“India-US Joint Strategic Vision: A New Regional Role for Delhi?”と題する論説を寄稿し、インドは従前の非同盟の方針を転換し、アメリカと協力して地域の安全保障のためにより大きな役割を果たしていくであろうとして、要旨以下のように述べている。

(1) 1月のオバマ米大統領の訪印は、米印関係にとって重要な出来事であった。その成果の最たるものは、The India-US Joint Strategic Vision for the Asia-Pacific and Indian Ocean Regionと呼ばれる文書である。米印2国間関係が進展している中で特に興味深いことは、この友好関係の強化が、アジア太平洋・インド洋地域を視野に入れていることである。インドは常に地域安全保障の保証者としての役割を演ずることに熱心であったが、同時にニューデリーは何時も、中国ファクターを意識していた。しかしながら、モディ政権は、インド・太平洋地域において出現しつつある新たな安全保障アーキテクチャの中で、インドはより積極的な役割を果たす用意があるとの新たなビジョンを打ち出している。

(2) 海洋安全保障は、これまでもニューデリーにとっての優先課題であったが、モディ政権は、この問題に対して新たな方向性を示している。南シナ海における紛争はインドによる東南アジアとの戦略的かつ経済的関わりの強化を促しているが、一方でインド洋における中国の増大するプレゼンスは、ニューデリーの戦略的影響圏に対する直接的な脅威となっている。南シナ海とインド洋におけるパワーポリティックスの相互作用を認識することで、インドの“Look East Policy” は、東南アジアにおけるインドのプレゼンス強化の土台となる“Act East Policy” に変質してきた。インドの南シナ海領有権問題に関する関心は、アメリカの利益と共通する論拠を見出した。モディ首相が南シナ海における平和と安定を維持する必要があると直接言及したことで、ニューデリーは、「航行の自由」という一般的なレトリックから一歩踏み込んだ。こうした懸念の共有は、2014年9月のモディ首相の訪米と2015年1月のオバマ大統領の訪印に反映された。インドの政界には、アジア太平洋・インド洋地域の安全保障問題に関して、ワシントンと密接に協力していこうとする意思が見られる。オバマ大統領の訪印中に発表された前記文書は、そうした意思の現れである。この戦略ビジョンの発表は、この地域においてより一層主導的役割を果たすために必要なインドの熱意、そして厳格な「非同盟」原則から一定の距離を置くというインドの意思を反映している。

(3) このビジョンは、地域安全保障のための経済的統合や結合の重要性を強調している。中国を名指してはいないが、この文書は、この地域の平和と安全保障に影響を及ぼしている、南シナ海における一方的で高圧的な行動を問題視している。この文書の重要点の1つは、今や米印両国は、インド・太平洋地域における集団安全保障の必要性を促進するために、多国間パートナーシップの必要性が高まっているとこを理解していることである。更に、この戦略ビジョンには、以下の3つの注目点がある。

a.1つ目は、中国の海洋シルクロード (Maritime Silk Road: MSR) 構想は、北京がインド洋における存在感を高める足掛かりになっているという点で、ニューデリーにとって大きな懸念材料になっているということである。MSRの詳細や意図は未だ明らかになっていないが、それは、地域間の結合やインフラ建設を促進するものと受け止められている。アジア太平洋地域とインド洋地域を網羅する、こうしたプロジェクトの戦略的意味合いは、ニューデリーとワシントンにとって大きなものである。恐らく、中国のプロジェクトへの対抗を意図したものと見られるが、戦略ビジョンは、「エネルギー資源の移転促進に加えて、自由貿易の奨励、及び人的交流の強化を含め、南アジア、東南アジア及び中央アジア地域の結びつけるような形で」地域的経済統合を支援する必要性に言及している。

b.2つ目は、航行の自由の問題が、特に北京とワシントンとの間における係争問題だということである。中国は、EEZの通過の自由を認めているが、外国の海軍艦船による軍事活動には異を唱えている。この中国の主張を国際社会が受け入れることになれば、世界各国の海軍は、中国のEEZ内での活動について中国の許可を求めなければならなくなろう。ニューデリーが“Act East Policy” を進めていることから、インドにとっても商業船舶と軍艦艇の航行の自由は優先課題となった。このことは、米印共同声明と戦略ビジョンに見られる、共通の懸念事項である。戦略ビジョンの文書では、「地域の繁栄は安全保障に依拠している」として、両国は「域内全体を通じて、特に南シナ海においては、海洋の安全を護り、航行の自由と上空飛行の自由を確保することが重要であることを確認した」と述べている。

c.3つ目は、米印両国が、出現しつつある新たな地域安全保障アーキテクチャを促進させる最良の方法は集団安全保障であると認識していると見られることである。インドはこれまで3カ国間や多国間安全保障体制に加入することに慎重であったが、今やニューデリーは、そのようなイニシアチブに積極的である。

(4) このような協力体制の必要性を強調しながら、同文書は、今後5年間で、米印両国は、「地域の対話を促進し、地域の第3国を含めた3カ国間協議の実現に努力し、地域的統合を促進し、地域の対話フォーラムを強化し、新たな多国間対話の機会を追求し、そして米印両国が地域全体の永続的な平和と繁栄を促進する域内の能力構築に貢献できる分野を追求する」と述べている。この戦略ビジョンは、インドがアジア太平洋・インド洋地域において新たな役割を果たすためのガイドラインとなる。インドは、今以上に地域の責任を負担し、主導的役割を担うことが求められる。インド・太平洋地域の主要国間の協力関係は、この地域の新たな地域安全保障アーキテクチャを強固なものにするであろう。変化するパワーの力学や、インドが有する地域的、国際的な戦略利益を考えれば、モディ政権は、地域の安全保障に対するより積極的な役割を果たすことに自信を持っており、その用意があるようである。

記事参照:
India-US Joint Strategic Vision: A New Regional Role for Delhi?

2月2日「インド洋における『情勢識別能力』、その現状と課題」(Institute of Peace and Conflict Studies, February 2, 2015)

ニューデリーのThe National Maritime Foundation (NMF) のVijay Sakhuja所長は、インド洋における「情勢識別能力 (Maritime Domain Awareness: MDA)」の現状と課題について、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) インド洋には、これまで3つの広域CISRネットワークが構築されており、いずれもテロや海賊などの非国家アクターの脅威に対応するものである。これらのネットワークは、「船舶自動識別装置 (AIS)」、「船舶長距離識別追跡 (LRIT)」システム、人工衛星、及び海洋における船舶の動向をリアルタイムで追跡する沿岸域の光学システムやレーダーなどから多様な情報を受け取る。

a.1つは、シンガポール海軍が主導して2009年にチャンギ海軍基地のThe Changi Command and Control Centre (CC2C) に設置された、The Information Fusion Centre (IFC)である。IFCは、域内28カ国の約45の関係諸機関とリンクされており、シンガポール海軍要員と12カ国からの30人の連絡官で運用されている。

b.2つ目は、インド海軍が主導して設置した、ニューデリー近郊のグルガオンにあるThe Information Management and Analysis Centre (IMAC) で、国内の沿岸レーダー・ステーションとその他の海洋システムと連結されており、インドの関係諸機関に海洋における不審な動向についての情報を配信している。IMACは、2014年11月に運用が開始された、The National Command Control Communication Intelligence (NC3I) ネットワークの一部を構成する。

c.3つ目は、東・南西アフリカ/インド洋 (ESA-IO) 地域における能力構築を目的とした、EU主導のThe Piracy, Maritime Awareness and Risks (PMAR)で、域内各国のMDAと海賊対処能力の強化を狙いとしている。PMARは、モンバサのKenya Maritime Authority (KMA)とセイシェルのThe Anti-Piracy Unit of the Indian Ocean Commission (IOC) の統制下にある、The Regional Maritime Rescue Coordination Centre (RMRCC) に対して、西インド洋とアデン湾の海洋情勢の画像をリアルタイムで提供する。PMARは、15カ月間で対象海域を変えるプロジェクトで、今回のインド洋対象期間は2014年7月から2015年10月までである。

(2) これらのネットワークの存在にもかかわらず、インド洋全域のMDAを強化するためには、少なくとも3つの課題がある。1つは、IFCとIMACは、インド洋の全ての国に対して共有の海洋情勢を提供する機構や技術を持っていない。また、他の地域の同様なネットワークとのリンクもない。2つ目は、PMARは、恒久的ネットワークではなく、15カ月間の対象期間が終了すれば、他の地域に移動する。3つ目は、AISのデータが操作されやすいことから、船舶の動向に関する他のデータを得る必要があることである。

記事参照:
Indian Ocean: Exploring Maritime Domain Awareness

2月2日「新設海洋安全保障委員会、未だ機能せず―インドネシア」(The Jakarta Post, February 3, 2015)

インドネシアでは、2014年12月13日に、「海洋安全保障調整委員会 (The Maritime Security Coordinating Board <Bakorkamla>)」を解消し、より多くのスタッフと巡視船に加えて、より強力な役割と機能を持つ、海洋安全保障委員会 (The Maritime Security Board <Bakamla>) を新設した。Bakamlaは、2014年の海洋問題に関する法律に基づいて、国家の海洋部門の多くの機関を連携させる調整機関として設置された。しかしながら、海洋関連法規が重複存在することに加えて、Bakamlaは現在、十分な人員と巡視船を持っていない。Bakamlaは、3隻の巡視船しか持っておらず、人員についてはBakorkamlaの5倍、2,000人を雇用する計画である。Bakamlaの管理部長、Achdar大佐によれば、巡視船については、Bakamlaの所要を満たすに必要な30隻を整備する計画である。これらの巡視船は、国産されるという。

Bakamlaの運用部長、Lukito准将が2月2日に明らかにしたところによれば、インドネシア水域において効果的な海洋法令の執行を行うためには、依然、海軍、水上警察、税関、移民局、海洋問題漁業省、外務省及び運輸省などを含む、他の12の海洋関係諸機関との協調作業が必要で、これらの調整作業がBakamlaの業務遂行の障害となっているという。しかしながら、同准将は、ウィドド大統領が海洋問題に関する法規制を強化する大統領決定を発出したことから、こうした欠陥はやがて解消されるであろう、と見ている。

記事参照:
Bakamla trapped in overlapping agencies

2月3日「洋上武器庫船、公海における海賊対処の実態」(The Wall Street Journal, February 3, 2015)

米紙、The Wall Street Journalは2月3日付で、オマーン湾における海賊対処のための洋上武器庫について、実際に民間警備会社の洋上武器庫船に同乗し、その実態について要旨以下のように報じている。

(1) MV MNG Resolutionは船齢30年の元石油プラットフォーム補給船で、現在は、英民間警備会社、MNG Maritime Ltd.が運航する海賊対処のための洋上武器庫で、警備要員が居住する船である。オマーン湾には、この種の洋上武器庫船が少なくとも6隻は所在している。洋上武器庫船は、公海における海賊の活動への対応と各国における武器所持規制との妥協の産物である。ソマリア沖の海賊活動海域を航行する船舶は自船の積荷と乗組員を護るために武装要員の添乗を希望するが、ほとんどの国は武器を携行した民間武装要員が自国の港に入港することを禁じている。そのため、MV MNG Resolutionのような洋上武器庫船は、民間警備会社の武器を洋上で保管しながら待機し、要請があれば、武器と武装要員を高速ボートで護衛を要請する船舶に送り届ける方法をとっている。1回のチャージ料金は通常1,500~5,000ドルで、時に特別料金も請求するという。

(2) 海運業界はかつて、武装要員の添乗を危険すぎると見なしていた。しかしながら、数年前にソマリアの海賊活動が活発化したことから、考えが変わった。今では、オマーン湾に加えて、紅海とスリランカ沖から、洋上武器庫船が武器と武装要員を護衛船舶に送り届けている。英民間警備会社、Sovereign Globalは、ジブチ沖の洋上武器庫船に200人の武装要員を待機させることができる。MV Mahanuwaraは船齢40年の元石油プラットフォーム補給船だが、スリランカのガル港沖合で、多数の武器と所要の弾薬を保管することができる。洋上武器庫船の出現は、一方で懸念も生んだ。何隻の洋上武器庫船が存在し、誰が運航しているかについて、公式な記録は一切ない。また、公海においてこの種の船を監督する機関もない。民間警備会社に関する国際基準も、洋上武器庫船には言及していない。理論的には、この種の船は当該旗国の監督下にあるが、この業界の一部は常に、該船が洋上武器庫船であると明らかにしてはいない。批判的な専門家は、洋上武器庫船自体が海賊やテロリストの標的になる可能性があると指摘している。インドは、IMOに対して、業界を規制するガイドラインを作成するよう、要請している。インドでは、2013年10月に、米民間警備会社、AdvanFort International Inc.が運航する洋上武器庫船、MV Seaman Guard Ohioがインド領海に漂流し、インド当局に該船が拿捕され、乗組員と乗船者が拘束された。該船は、35丁の強襲ライフルと5,680発の弾薬を積んでいた。

(3) 現在、海賊多発海域はソマリア沖より西アフリカのギニア湾で、また東南アジアでは小型タンカーの積荷油が抜き取られる、いわゆる「サイフォニング事案」が多発しているが、これらの海域では洋上武器庫船はいない。理由の1つは、これらの海域は陸上に近く、その大部分が当該各国の管轄海域になっているからである。従って現在のところ、洋上武器庫船ビジネスはソマリア沖だけであるが、このビジネスは、海運業界が海賊に襲撃され、乗組員を人質に取られ、そして身代金を要求されることに恐怖を抱いている間だけ、成り立つものである。

記事参照:
Floating Arsenal Battle Pirates on High Seas
Map: Locations of armory ships and major shipping routes
See also video

2月4日「トーマス米第7艦隊司令官の『海自による南シナ海での哨戒実施』提案に対する中国の反応」(China Brief, February 4, 2015)

トーマス米第7艦隊司令官が1月29日にロイターとの会見で、「将来的に、海上自衛隊が南シナ海で哨戒活動を行うことは理に適っている。率直に言って、南シナ海では中国の漁船、海警の巡視船(そして海軍艦艇)が近隣諸国を圧倒している」と語った (Reuters, January 29, 2015)。

米シンクタンク、The Jamestown Foundation のNathan Beauchamp-Mustafaga は、編集長を務める同シンクタンクのWeb誌、2月3日付のChina Briefに、“U.S. Suggestion For Japanese Patrols in South China Sea Prompts ADIZ Threat”と題する論説を寄稿し、このトーマス提案に対する中国の反応ぶりについて、要旨以下のように述べている。

(1) トーマス提案は、中国政府による激しい反論を引き出し、南シナ海における防空識別圏 (ADIZ) に関する中国メディアの議論に再点火した。国営の『人民日報』よりも国家主義的な傘下の『環球時報』は1月31日付の社説で、この提案に応じて日本が南シナ海の哨戒に乗り出すなら、中国は、南シナ海にADIZを宣言するとともに、南シナ海における埋め立て工事を加速することを以て対抗し、更には、日米同盟に対する対抗手段として北東アジアにおいてロシアとの軍事協力を強化することもできる、と主張した。1月30日付の新華社の記事は、日本の哨戒活動は中国との緊張を高めるであろうと述べ、その上で、日本が8,000キロの航続距離を持つ最新の哨戒機 (P-1) を就航させたばかりであり、日本が南シナ海で哨戒活動を実施する軍事能力を持っていることを指摘した。中国外交部報道官は1月30日、「域外国は、域内各国の平和と安定を維持する努力を尊重すべきで、他国の不信を招いたり、緊張を高めたりすることを自制すべきである」と述べた。復旦大学の著名な国際関係専門家、沈订立教授は2月2日付の『人民日報海外版』で、日本による哨戒活動に対するアメリカの要請が「より多くの国を南シナ海領有権紛争に巻き込ませることによって、南シナ海を混乱に陥れようとするペンタゴン(米国防省)の意向を反映する」ものであるとし、この提案を、「アメリカは一石で複数の鳥を撃とうとしている。中国に対する国際的圧力を強化し、脅威レベルを高め、他の領有権主張国に対して、彼らが中国との交渉を避けるためにアメリカを当てにすることができるというシグナルを送っている」と論じた。一方、フェニックス・テレビに出た台湾の専門家は、日本の「死活的な生命線」が南シナ海海域を通っているので、日本は南シナ海に「安全保障上の重大な関心」を持っており、従って、南シナ海における日本の軍事活動は「ニュースにはならない」と述べた。更に、この専門家は、「日本が哨戒活動を行うかどうかは定かではないが、行われるとしても実現までには時間がかかるであろう。何故なら、空中で緊急事態が生じた場合の適切な対処メカニズム、例えばフィリピンに着陸する権利などを整える必要があるからである」と付言した。

(2) 2013年11月に東シナ海において日本のADIZと一部重複する形でADIZを設定して以来、北京が第2のADIZを設定しようとしているとの噂を中国政府が何度も否定してきたが、日本が哨戒活動を始めた場合の報復措置として南シナ海にADIZを設定するという『環球時報』の脅迫は、この言明に反している。例えば、中国外交部は2014年12月に、「ADIZを設定するべきかどうかを決めることは国の主権の範囲内であるが、一方であらゆる要素を考慮しなければならない。現在では、南シナ海の平和と安定は保証されている」と述べ、ADIZ設定の必要のないことを示唆していた。『環球時報』の社説は、中国政府が南シナ海における日本の哨戒活動を認めないとする官の意向を反映したシグナルかもしれないが、『人民日報』で言及されなかったこと、そして『人民日報海外版』での前出の沈订立の論説がADIZ問題に言及しなかったことは、中国政府が南シナ海におけるADIZ設定を未だ決心するに至っていないことを示唆しているように見られる。むしろ、このことは、中国政府が南シナ海におけるADIZに依然関心を持っており、最終的にはADIZを設定することになるが、日本の哨戒活動のような挑発行為を、北京が認識した時、そのタイミングを捉えてADIZ設定を宣言するための、ADIZ設定を正当化する口実として用いようとしていることを示唆しているようである。

記事参照:
U.S. Suggestion For Japanese Patrols in South China Sea Prompts ADIZ Threat

2月5日「縮小する米海軍、目に見えない危機の実態と対策―米人ジャーナリスト論評」(POLITICO Magazine.com, February 5, 2015)

外交政策・安全保障問題を専門とする米人ジャーナリスト、Robert C. O’Brienは、米Web誌、POLITICO Magazine.comに2月5日付で、“The Navy’s Hidden Crisis”と題する論説を寄稿し、中国海軍の増勢とは対照的に、米海軍艦艇数が低減しつつあることに危機感を募らせ、要旨以下のように述べている。

(1) 最近の3回の米大統領選挙に関与した筆者 (O’Brien) の経験から、2016年の大統領選挙において、国家安全保障問題に関して有権者を取り込む最短の道は米海軍の戦力について議論することである。アメリカの有権者は、我々が世界の紛争地帯で戦うために海兵隊や空母艦載機を投入できる艦艇を持たなければ、アメリカは海洋の安全と利益を護ることができないこと承知しているからである。ここが論議の出発点で、今日、米海軍は危機に瀕しており、現有艦艇284隻は第1次大戦以来の最小規模である。しかも予算の削減に伴って、更に減少し続けることになろう。2016年の民主、共和両党の大統領選挙候補者はこの問題に対する処方箋を提示しなければならない。一方で、中国海軍は、2020年までに戦闘艦艇の総数において米海軍を凌駕すると見られ、しかも中国海軍はほとんど南シナ海に集中しているのに対し、米海軍は世界中に展開している。ロシアもまた、潜水艦と駆逐艦に焦点を当てた海軍近代化に取り組んでおり、北極海、太平洋及び黒海において海軍基地を拡張、あるいは建設しつつある。ロシアも中国ともに、米海軍が自国の沿岸域に接近するのを抑止することを狙いとした非対称的な近接阻止/領域拒否 (A2/AD) に重点的に投資している。従って、米海軍が縮小されればされるほど、世界の海はより危険になる。

(2) 海軍長官の議会報告 (Report to Congress on the Annual Long-Range Plan for Construction of Naval Vessels for FY2015) は、2012年の国防省の戦力組成分析に基づいて、艦艇数306隻を要求している。この数字は明らかに低すぎる上に、最近の予算の傾向からはとうてい達成できるものではない。実際、最近の予算の傾向から見れば、海軍艦艇数は240隻から250隻に縮小するであろう。そうなれば、アメリカは最早、今日のような世界の海軍大国ではあり得ないであろう。いかなる時であれ、海軍が洋上に展開できるのは全体の3分の1だけであることに留意しておくべきである。艦艇は修理が必要であり、乗組員には訓練と休養が必要である。オバマ政権は西太平洋には常時67隻の艦艇の展開が必要であるとしているが、もし海軍が300隻の艦艇数で、西太平洋における所要を満たそうとすれば、世界の他の海域での任務遂行に常時展開できる艦艇数はわずか33隻ということになる。2014年のQDR(4年毎の国防計画の見直し報告書)を検討した超党派の国防諮問委員会は、323隻から346隻の艦艇数を勧告しており、しかも中国の海軍力の増強と挑発的な行動が続けば(そうならないという兆候は全くない)、海軍は更に多くの艦艇数を必要とするであろう、と警告している。ロシアのクリミア侵攻と占領、中国の南シナ海と東シナ海における動向などから見て、2012年の国防省の戦力組成分析は時代後れであり、306隻という艦艇数は明らかに少な過ぎ、また上記の国防諮問委員会の323隻から346隻という艦艇数も、上限というより下限とすべき数字である。

(3) しかしながら、現在の海軍の計画では、艦艇数が306隻に達することはないであろうし、また2022年までに316隻を超えることもないであろう。それでも、次期政権と議会が献身的で責任ある行動をとれば、米艦隊に取り返しのつかないダメージを与えつつある趨勢を覆すことができるかもしれない。

a.第1に、まず、空母11隻態勢は維持されなければならないし、議会は予算を配分しなければならない。排水量10万トンを超え、航空機85機以上を搭載し、5,000人以上の乗組員と搭乗員が乗り組む原子力空母を洋上に展開できる海軍は、米海軍以外に世界にはない。この故に、危機に際して米大統領が「空母は何処にいる」とまず質問するのである。空母艦載機は、戦争地域やその近傍に、あるいはしばしば移り気な同盟国内に地上基地を必要としない。アメリカによる西太平洋への空母展開を阻止するためにA2/AD戦略を開発してきた中国自身が空母5隻の艦隊建設を目指しているのも、これが理由である。

b.第2に、議会は、必要時に海軍の戦力となる防錆保管艦艇や除籍目前の艦艇をスクラップにしたり、売却したりすることを、次期政権発足まで直ちに禁止すべきである。現在、10隻のOliver Hazzard Perry級フリゲート、13隻のLos Angeles級SSN、及び1隻の強襲揚陸艦が除籍され、5年以内にスクラップあるいは売却される予定である。更に、3隻のDenver級ドック型揚陸艦が、迅速に両用戦能力を提供できるように防錆保管されている。これら27隻の艦艇は比較的旧式だが、新造艦艇の増強が実現するまでの間、戦力不足を埋め合わせることができよう。これら27隻の艦艇と現在の建造計画が継続されれば、2017年までに保有隻数は306隻に達し、2019年には326隻を超える可能性がある。海軍は最近、「攻撃兵器の分散配備 (distributed lethality)」構想を発表したが、これは艦艇搭載兵器の追加や改良によって、全ての艦艇が戦闘できるようにしようとするもので、特にこれら旧式艦艇に適した構想である。例えば、強襲揚陸艦、Peleliu の艦齢が10年延長されたが、これによって、不測の事態における海兵隊の投入に活用できる。更に、同艦の広い飛行甲板や格納甲板は、VSTOLやVTOL、あるいは回転翼型の無人機、Fire ScoutなどのUAVの試験や運用にも使用できる。当然ながら、こうした措置による艦艇数の増加は一時的なもので、艦齢が延長されても、10年から15年以上も運用されることにはならないであろう。しかしながら、こうした措置によって稼ぎ出された時間を活用して、海軍は、今世紀の残りの期間にグローバル・コモンズを護るために必要な新しい艦艇を建造することができよう。

c.第3に、長期に亘って326隻あるいはそれ以上の艦艇を維持するためには、建艦ペースを加速しなければならない。最新艦艇の建造には長期のリードタイムが必要であり、早急に行動することが求められる。Virginia級SSNやArleigh Burke級駆逐艦は、建造に約4年かかる。両艦種は2カ所の異なる造船所で建造されており、海軍の現行計画では、今後何年かの間、各造船所で年1隻ずつ建造されることになっている。幸いなことに、両艦種については、各造船所は年2隻の建造ペースを維持するに十分な能力を持っている。Virginia級SSNはA2/AD環境下における最良の対抗策であり、イージス戦闘システムを搭載するArleigh Burke級駆逐艦は非対称的な作戦環境下において空母と両用戦部隊を防護でき、打撃力も提供できる。

(4) 1945年以後に生まれた人々にとって、グローバル・コモンズである海洋が通商のために開かれていない、あるいは航行の自由が危険に晒されているといった世界を想像することは困難であろう。長年に亘って世界の海洋における「アメリカによる平和 (the Pax Americana)」という恩恵をアメリカと国際社会にもたらしたのは、強大な米海軍であった。もしアメリカが自国艦隊の減退を直ちに逆転させなければ、自由な通商そして航行の自由は深刻な危機に直面することになろう。同時にアメリカの安全保障も危機に晒されることになろう。米海軍を支援することは、2016年の大統領選挙のどの候補者にとっても勝利のメッセージとなろう。

記事参照:
The Navy’s Hidden Crisis

2月6日「中国企業、台湾の太平島の港湾建設を支援」(Reuters, February 6, 2015)

台湾は現在、南シナ海で台湾が占拠する太平島において、約1億米ドルの費用をかけて港湾などのインフラ整備を行っている。工事を担当する台湾交通部国道新設工程局の陳議標局長が2月6日に明らかにしたところによれば、中国国営の上海振华重工の重量物運搬船が大型潜函(ケーソン)を太平島に輸送した。それによれば、重量物運搬船は1月24日、11個の潜函を積載して太平島に到着し、28日に島を離れた。海岸巡防署の幹部によれば、巡視船1隻が太平島まで該船をエスコートし、更に2隻の台湾船が随行した。陳議標局長によれば、台湾にはこの種の重量物を運搬できる船がなかった。上海振华重工の幹部は、契約の詳細は承知していないとしながら、台湾からこの種のビジネスを受け入れるのは問題がない、と語った。中国企業が台湾との契約を受け入れたということは、北京が太平島でのインフラ整備をほとんど問題視していないことを示唆している。一方で、陳議標局長は、立法院の一部議員は国防上の観点から大陸企業の船を使用することに懸念を示した、と語った。港湾は、2015年後半にも完成する予定である。

記事参照:
Taiwan turns to Chinese shipper for help with port in disputed waters

2月10日「インドネシアの不法操業漁船撃沈政策、ウィドド大統領の真意」(RSIS Commentaries, February 10, 2015)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のJonathan Chen客員研究員とEmirza Syailendra調査分析員は、2月10日付の RSIS Commentariesに、“Jokowi’s Vessel Sinking Policy: A Question of Propriety”と題する論説を寄稿し、インドネシア水域内における不法操業漁船撃沈政策が外国からの強い反発と論議を呼んでいるが、ウィドド大統領の真意について要旨以下のように述べている。

(1) インドネシア政府は2014年12月に3隻のベトナム漁船(空船)を撃沈し、不法操業に対する「ショック療法」としたが、前任のユドヨノ大統領の自由放任主義的な態度とはあまりに対照的で、その大胆さと過酷な対処を巡って活発な議論を巻き起こした。ウィドド政権の行為に対する適法性と妥当性が疑問視されているが、インドネシア政府は、漁業に関する法律第69条に基づき、インドネシア水域内で不法操業を行った外国漁船に対して焼却あるいは爆破する権限を行使したわけである。「インドネシア漁業管理水域」と呼ばれる水域は、インドネシア水域(内海と領海の両方)だけでなく、インドネシアのEEZも含まれる。不法侵入船を爆破する最近の行動は、インドネシア国内法の履行権限内であった。最近の示威的な漁船撃沈政策は、インドネシア群島水域の広大な管轄海域における違法操業に対する抑止力となっている。

(2) ウィドド大統領の政策を動かす主要な要素は、スカルノ時代のTrisakti原則に対する独自の解釈である。この原則は、あからさまに民族主義的なものではないが、国家的なプライドや名誉に特別の関心を払うよう求めており、このことは必然的に主権問題に関わってくる。そしてこの原則は、ウィドド大統領のサンスクリット語の誓約、「栄光は海にあり (“Jalesveva Jayamahe” )」と「世界の海洋における要 ( a ‘global maritime fulcrum’)」構想の具体化に繋がる。従って、長年に亘って不法侵入や違法操業が見逃されてきたが、今後は、管轄海域における厳格な法令執行に取って変えられなければならないということである。「違法、無報告、無規制 (illegal, unreported or unregulated: IUU) 」船舶に対する爆破は域内の他の国も行っている通常の慣行だが、爆破行為を喧伝するというウィドド政権の決定は、この絶えることのない災難と戦う政府の真剣な意志を声高に宣言するものである。

記事参照:
Jokowi’s Vessel Sinking Policy: A Question of Propriety

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子