海洋情報旬報 2015年1月21日~31日

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1月21日「海洋国家、インドネシアへのウィドド大統領の課題―RSIS専門家論評」(People’s Daily Online, January 21, 2015)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のリサーチ・アナリスト、Emirza Adi Syailendraは、1月21日付のPeople’s Daily Onlineに、“Jokowi’s Visions of Indonesia as the Global Maritime Nexus: Facing Challenges from the Pacific and Indian Oceans”と題する長文の論説を寄稿し、ウィドド大統領が目指す、海洋国家、インドネシアへの課題について、要旨以下のように述べている。

(1) インドネシアは、1万8,108の島で構成される、総面積190万4,569平方キロに及ぶ世界最大の群島国家であり、その3分の2は膨大な天然資源を持つ水域である。インドネシアは世界で2番目に長い海岸線を持ち、全世界の海岸線の14%を占める。また、その地理的位置は、インド洋と太平洋の中間に位置し、インド洋に出入りする3つの主要なチョーク・ポイント、マラッカ海峡、スンダ海峡及びロンボク海峡を抱える。これらのシーレーンは世界的に極めて重要であり、マ・シ海峡では、世界の原油輸送の半分、貨物輸送の3分の1、そして2,500隻のLNG/LPGタンカーが通峡している。ウィドド大統領は、インドネシアを「世界の海洋の中枢 (“global maritime nexus”)」として戦略的に位置づけ、太平洋とインド洋の連結を強化しようとしている。この構想に対しては、国内外において少なくとも2つの主要な課題がある。国内的には、準備態勢の構築が最大の課題であろう。これには2つの側面があり、1つは犯罪行為から海洋を護る能力であり、もう1つは国際社会に対して海洋を開放するための国民の心構えである。海洋「高速道路」プロジェクトは、確かに商品とサービスの速くて安全な流通を促進する。しかし、インフラ不足以外に、このプロジェクトは犯罪行為も誘発し、そのため海洋の安全保障機能を強化する必要にも迫られる。世界的な海洋の連結点になるという構想のためには、インドネシアは、国内と国外の物流ルートを連結するシステムの構築を必要とする。商品の国際的な流通とサービスの増加によって、インドネシアは自由競争を強いられ、そのために国内産業の貿易競争力を高める戦略を必要としよう。海洋インフラ整備のために、ウィドド大統領は、今後5年間でインドネシアの主要な島に24カ所の新港を建設する計画で、60兆ルピアの予算を割り当てた。海洋インフラの開発は、ビジョンを実現する上で不可欠である。

(2) インドネシアは、インド洋と太平洋でも課題にも直面している。太平洋では、インドネシアは、南シナ海の領有権問題が地域全体の安定に大きな衝撃を及ぼす武力紛争にエスカレートすることを懸念している。このため、インドネシアは、領有権主張国間で何らかの規則や法的拘束力を持つ行動規範 (COC) の実現を目指して外交努力を強化している。また、2つの大国、米中間の平和的な関係も、インドネシアのビジョン実現のための重要な前提条件である。米中関係の悪化は、地域全体に大きな影響を及ぼす。同様に、主要大国がインド洋に益々関心を高めていることから、インド洋における政治的影響力と資源を巡る抗争は、もう1つの挑戦となっている。アメリカにとって、インド洋は、中東における国益を護る上で重要である。中国にとって、インド洋はエネルギー需要を支える重要な輸送路である。次の経済大国としてのインドの台頭も、インド洋を新たな大国間の抗争の場としている。太平洋とインド洋における弱体な海洋安全保障体制も、改善されるべき重要な課題である。

(3) こうした課題を克服して、インドネシアが「世界の海洋の中枢」を占めるためには、チョーク・ポイントである、マラッカ海峡、スンダ海峡及びロンボク海峡における確実な安全を提供するとともに、太平洋とインド洋における規範作りとその制度化を進めていく、インドネシアの能力に大きく依存している。特にチョーク・ポイントの安全確保のために、インドネシアは、インド洋を見通すニアス島(スマトラ島北部沖合)に海軍基地を建設するなど、海洋能力を強化しようとしている。規範作りについては、インドネシアは、持続可能な漁業資源と鉱物資源の活用、及び域内における大国との防衛協力の促進などを含む、広範な協力プラットフォームを持つ1本の傘の下に地域の主要国を糾合するための、包括的なアプローチを促進しようとしている。現在、インドネシアが進めようとしている規範作りの目標は「インド・太平洋友好協力条約 (Indo-Pacific Treaty of Friendships and Cooperation: TFC)」であり、これは、インドネシアが2015年に「環インド洋地域協力連合 (IORA)」の議長を務めている間に促進されるであろう。TFCは、ASEANの「東南アジア友好協力条約 (TAC)」の精神と一致するもので、より高い視点からアジア太平洋レベルでの地域安全保障を安定させることを目指している。TFCは、域内の相互不信を解消し、域内の紛争に対処する場合の行動規範 (COC) を確立し、そして変化に対応できる地域的強靱性を構築することを目的としている。インドネシアが域内の全ての国を糾合して、規範を作り、太平洋・インド洋におけるその制度化に成功すれば、海洋力を含む多くの面で、インドネシアの地位を押し上げることになろう。IORAの2015年の議長ポストが、インドネシアにとってそのために良い機会を提供することになろう。太平洋とインド洋はますます相互連結性を強めており、その中枢に位置するインドネシアは、リスクと好機の両方に直面している。インドネシアは、豊かな外交経験を持ち、一方で他国との深刻な敵対関係に直面していないことから、域内で平和を促進するに当たって、大きな裁量の余地を持っている。しかしながら、ウィドド大統領が自らのビジョンを実現していくためには、インドネシアの国内政治情勢への目配りと国際的な野望とのバランスを積極的に見出していくことが必要である。

記事参照:
Jokowi’s Visions of Indonesia as the Global Maritime Nexus: Facing Challenges from the Pacific and Indian Oceans

1月22日「対潜戦探知能力の進化―米シンクタンク報告書」(The Christian Science Monitor, January 22, 2015)

米シンクタンク、The Center for Strategic and Budgetary Assessments (CSBA) が1月22日に公表した報告書*によれば、潜水艦探知技術の進化により、潜水艦を探知し易くなり、今日の潜水艦は、脆弱性が高まる危険に直面している。潜航深度に優れた潜水艦はここ何十年にも亘って米軍の攻撃、防御両面において重要な役割を果たしてきたが、その有効性は探知されないで任務を遂行する能力にかかっていた。このため、米軍は、潜水艦の、特にVirginia級SSNの静粛性を強化することに多大の投資をしてきた。しかしながら、コンピューター処理能力の飛躍的な進展は、こうした努力を無にしつつある。例えば、この数十年、音ではなく、波動によって潜水艦を探知する技術は良く知られてきたが、報告書によれば、「最近まで、静粛性の高い潜水艦が起こす水中の変化を探知するに必要な詳細なモデルを処理するにはコンピューター処理能力があまりに遅すぎた。今日では、コンピューター処理能力は詳細な海洋モデルをリアルタイムで処理でき、こうした探知技術が実用可能になった。また機器の小型化によって、海底にも設置が可能となり、有人潜水艦にとって沿岸域は非常に危険な海域となった。」報告書は、こうした新しい技術を積極的に取り入れなければ、アメリカの安全保障にとって重大な脅威になる、と警告している。

記事参照:
The hunt for Red October gets easier. How submarine warfare is changing
備考*:Full Report: The Emerging Era in Undersea Warfare

1月22日「北極圏における優位確保―ロシアの軍事計画」(Value Walk.com, January 22, 2015)

米ニュース・サイト、Value Walk.comは1月22日付で、ロシアの北極圏における軍事計画について、要旨以下のように述べている。

(1) 北極圏に対するモスクワの戦略思考は天然資源と純粋な地政学的要因に駆り立てられてはいるが、ロシアは、幾つかの理由から北極圏に関心を持っている。北極圏には、世界の未発見の天然ガス資源の30%、石油資源の13%が埋蔵されていると推定されており、モスクワは、これらの資源が自国の経済発展に不可欠な外国投資を誘引する切り札になると期待している。ヨーロッパと東アジアを結ぶ北方航路は、ロシア北部のインフラ開発のためのもう1つの経済的機会を提供している。しかしながら、こうした経済的機会は、他の北極圏諸国にとっても同様に魅力的であり、北極圏を政治的な抗争の場にする可能性がある。北極圏に対する他国の関心表明は、軍事的圧力の行使を含む、あらゆる可能な手段を使って、北極圏における中心的な国家としての役割を果たす決意をロシアに促すことになった。

(2) 北極圏の軍事化は、ロシア軍の2015年及びそれ以降における重要目標となるであろう。ロシア国防省によれば、北極圏における旧ソ連時代の軍事基地の再開は、NATOが北極圏に対する関心を新たにしていることに対応するものである。ノヴァゼムリア島における飛行場は、最新のS400防空システムに加え、次世代戦闘機を収容するために改装されている。北方艦隊の1部は、北極海での活動に最適な位置にある、同島に配備されることになろう。ロシア海軍の3分の2を占める北方艦隊は、原子力砕氷船を運用する、世界で唯一の海軍である。更に、モスクワは、ムルマンスク地区とヤマル・ネネツ自治区に配備される、2個自動車化狙撃旅団からなる、兵力6,000人規模の北極圏担当部隊の新編を発表した。また、フランツヨーゼフランド、ウランゲリ島及びケープ・シュミットへのレーダー及び地上誘導システムの配置が計画されている。連邦保安局は、ロシア北部の国境警備兵の数を増やすことを計画している。

(3) 最近の本格的な軍事演習、Vostok 2014 は、ソ連崩壊以来の最大の軍事演習で、北極圏に対するロシアの意図を露わにするものであった。北極圏でのこの演習では、ロシアの陸、海、空軍部隊が、Pantsir-S(防空システム)とIskander-M(戦域弾道ミサイル)などを展開して、戦闘訓練を行った。このような演習は必然的に、北極圏がアメリカとNATOの関心領域であった、冷戦時代を思い起こさせる。更に、ロシアの北方艦隊は、隷下の独立海兵歩兵旅団が2015年を通じて北極圏で集中訓練を実施すると発表した。クレムリンは、2020年までに北極圏におけるロシアの政治的、経済的利益を防衛するために、強力な統合軍部隊を配備することを、繰り返し表明してきた。2015年初めの北極圏におけるロシア軍部隊は、約56機の軍用機と122機のヘリコプターを保有していると推定される。ロシアのショイグ国防相は、2015年末までに北極圏で14カ所の飛行場が運用開始になり、2019年までに50機の改良型MiG-31BM Foxhound 要撃機の1部が北極圏の上空の防衛任務を遂行することになろう、と語った。ロシアの深刻な国内経済状態にもかかわらず、国防省は他の省庁とは対照的に大幅な予算削減を免れており、反対に、クレムリンは、国防予算を20%増額した。ロシアは2014年末、北方艦隊の既存の指揮系統とは別に、統合戦略コマンドを新設した。これによって、ロシア北極圏の島々に対する軍部隊のアクセスが容易になり、中国からノルウェーに至る北方航路の監視と管理が強化される。また、北極圏における他国の軍事活動も監視し、必要なら阻止することもできる。2014年12月にプーチン大統領が署名した新軍事ドクトリンでは、北極圏がロシアの影響力圏にある領域として初めて公式にリストアップされた。このことは、ロシア海洋ドクトリンにも適用され、黒海へ進出とともに、北極海における優位の確保が2つの主要な地政学的要請とされている。

(4) 北極圏におけるロシアの軍事計画はアグレッシブに見えるが、クレムリンの軍事当局者は、ロシアが西欧列強との武力衝突を求めているわけではないと説明している。モスクワは、NATO条約第5条が個々の加盟国が攻撃された場合、同盟による集団的対応を規定していることを認識している。それにもかかわらず、北極圏におけるロシアの軍事プレゼンスの増強は、近隣諸国、特にノルウェーの懸念を高めている。北極圏におけるロシアの軍事力増強によって、オスロは、北極圏、特にバレンツ海海域におけるモスクワの役割と意図に対する再評価を強いられた。オスロの最近の対応は、その戦略的な認識がロシアを潜在的な脅威と見なす方向に大きく変化したことを示している。ノルウェーは北極圏におけるNATOの役割を主導するリーダーであり、北極線(北緯66度33分)以北において恒久的な軍事司令部を持っている世界で唯一の国である。ノルウェーの軍事力整備の主眼は、北極圏の安全保障にある。ノルウェーは、北極圏における防衛能力の整備に力を入れてきたが、その規模と能力の点ではロシアに劣る。このため、ノルウェーの軍民当局者は、北極圏においてNATOがより大きな役割を果すことを期待している。ノルウェーは、冷戦時代と冷戦後を通じて、ロシア(ソ連)との国境近くで軍事演習を実施しなかったが、最近、2015年3月にロシアとノルウェーの国境地帯であるフィンマルク地方で大規模な軍事演習を実施する意向を明らかにした。モスクワでは、北極圏におけるロシアの軍事力強化に対する直接的な対応として、ノルウェーの対ロシア政策に大きな変化が起きているとの認識が高まっている。

(5) この半世紀間、北極圏は、米ソ抗争の場であり、武力紛争に発展したかもしれない多くの事案が発生した。冷戦後の世界でも、北極圏は再び、紛争地域になり得る可能性がある。大国は長い間北極圏において抗争してきたし、今では中国やインドなどの国が北極圏に対する関心を表明している。クレムリンは、国内外の問題に直面しているが、北極圏への関与に固執している。このため、ロシアの近隣諸国は、バレンツ海などの地域における自国の軍事プレゼンスを見直したり、北極圏における係争地域に対する自国の領有権主張を見直したりすることを余儀なくされている。クレムリンは、獲物を得るには言葉よりも行動がより効果的であり、従って、北極圏における豊かで未確定の領域を制するには力によって裏付けられなければならないことを知っている。

記事参照:
Russia’s Plans for Arctic Supremacy
Map: Territorial claims in the Arctic

1月23日「国産新型弾薬給油補給艦、就役―台湾海軍」(Taipei Times, January 24, 2015)

台湾海軍の国産新型弾薬給油補給艦、「盤石」(AOE 532) は1月23日、高雄で就役した。同艦は、有事における海軍艦艇への燃料、弾薬及びその他の補給物資の輸送に従事する。平時には、主として物資の輸送、海難救助及び人道支援任務に使用される。同艦はまた、最新の病院機能を持ち、手術室、歯科治療室、4つの病室を備え、最新の医療機器を搭載している。この機能は、台湾軍将兵の治療のみならず、国際的な災害救助や人道的支援にも役立てられる。同艦は2011年の起工で、建造費は約1億3,010万米ドルで、諸元は全長196メートル、全幅25.2メートル、載貨最大排水量1万8,143トン、乗員165人、航続距離8,000カイリ、最大速度22ノットである。兵装は、Phalanx近接対空システム、20ミリGatling砲、及び短射程Sea Chaparal艦対空ミサイルを搭載し、一定レベルの自艦防御能力を持つ。

記事参照:
Navy debuts logistical support ship ‘Panshih’
Photo: The Panshih on sea trials (Taiwanese Ministry of National Defense)

1月23日「南シナ海における海洋防衛能力の強化―フィリピン、マレーシア及びベトナム」(The Diplomat, January 23, 2015)

オーストラリアの東南アジア安全保障問題専門家、Carl Thayerは、1月23日付のWeb誌、The Diplomatに、“The Philippines, Malaysia, and Vietnam Race to South China Sea Defense Modernization”と題する論説を寄稿し、フィリピン、マレーシア及びベトナムの南シナ海における海洋防衛能力整備状況について、要旨以下のように述べている。

(1) フィリピン

フィリピン海軍装備部長は12月17日、総額900億ペソの軍近代化15カ年計画の一部、390億ペソ(8億8,500万ドル)が3隻の高速誘導ミサイル艇、2隻の誘導ミサイル・ステルス・フリゲート、及び2機の対潜ヘリの購入に充てられると発表した。また、フィリピンは将来、3隻の潜水艦購入を計画している。同部長によれば、フランス、韓国及びスペインがフリゲートの見積書を提出している。台湾、インド、スペイン、フランス及び韓国の造船所が3隻の多用途誘導ミサイル攻撃艇の建造見積書を提出している。フィリピンは12月22日、2機のAgustaWestland製AW109 Power哨戒ヘリを入手した。同機は、洋上において小型艦からの運用が可能で、洋上監視、捜索救難、経済水域の防護、海洋安全保障などの各種の海軍の任務を遂行することができる。AgustaWestland社は、2機の対潜ヘリの単独の入札社で、ステルス・フリゲートから運用可能なAW159 Wildcatヘリの売却を提示している。フィリピンは2015年1月9日、2機の中古のC-130 Hercules輸送機の購入について米海軍と購入契約を締結した。これによってフィリピンは即応態勢のC-130を計5機保有することになる。同機は2016年に引き渡される予定で、これらの輸送機は領域防衛及び人道支援作戦のためのフィリピン軍の部隊展開能力を強化することになろう。

(2) マレーシア

ナジブ首相は2014年10月、2015年度国防予算を対前年度比10%増の54億ドルに増額すると発表した。同時に、防衛装備調達及び研究予算も同6%増となり、10億ドル余となった。この増額予算には、Mig-29戦闘機などの旧式化しつつある主要装備の更新経費は含まれていない。増額予算は、2つの安全保障上の脅威に対応するためのものである。1つは、フィリピン南部からの安全保障上の脅威とジェームズ礁周辺海域に対する中国の主張に対する対応である。例えば、これらの予算は、ラブアン島(マレーシアのサバ州沖合にある連邦直轄領)に19機の軽戦闘機を再配置するために使用されることになろう。海軍司令官によれば、海軍は、第11次マレーシア計画(2016年~2020年)において28億6,000万ドルの予算を要求している。これが承認されれば、8隻の誘導ミサイル・コルベット、6機の対潜ヘリ、及び小型艦艇の取得と艦艇搭載の旧式化した魚雷とミサイル・システムの更新に使用されることになる。

(3) ベトナム

a.ベトナムは2014年12月から2015年1月にかけて、海軍艦艇の友好親善訪問、防衛対話、そしてロシア、英国及びアメリカに加え、域内の4カ国との間での高官レベルの相互訪問を含む、集中的な防衛外交を展開した。そしてベトナムは、ロシア、インド及びアメリカとの間で、実質的な防衛協力関係を促進してきた。

b.ロシアとの間では、12月4日、ベトナムが購入する6隻のKilo級潜水艦の3番艦、HQ 183 Hai Phongのベトナムへの引き渡しに関する合意書に調印した。4番艦、HQ 185 Da Nangはロシアで海上公試中であり、5番艦、HQ 186 Khanh Hoaは12月20日に進水、6番艦、HQ 187 Ba Ria-Vung Tauは2014年5月末に建造を開始し、2016年に引き渡される予定である。ベトナムの駐ロ大使は、「アメリカが11月に、ベトナムに対する武器弾薬の売却禁止の一部を撤廃したが、ロシアは依然、防衛装備部門における我々の主要なパートナーである」と語った。

c.インドとの間では、両国関係が2007年に戦略的パートナーシップに引き上げられて以来、両国の高官の相互訪問を含む、防衛協力が促進されている。両国は、ASEAN、ARF及びASEAN国防相会議プラスなどの多国間会議において、地域の戦略的安全保障問題について協力を継続することで合意している。1月に訪印したベトナムの国防次官は、インド紙、The Economic Timesとの会見で、「防衛協力のもう1つの分野は、防衛装備工業における協力である。造船、兵器システムの近代化及びハイテク防衛システムの研究と装備化について、協力できる可能性がある。協力の新たな分野としては、ハイテク情報技術における協力がある」と語っている。同次官によれば、インドの融資で国防省通信大学に設立された、The Center for Information Technology and English Language の第1期工事が完了し、両国は、このセンターを中部ベトナムにおける主要なソフトウェアのハブ拠点にするための第2期工事を2015年第2四半期中に始めることで合意した。

d.アメリカとの間では、駐越米大使は12月24日、現地紙、Tuoi Treとの会見で、「対ベトナム武器禁輸の一部が解除された今、アメリカはどのような兵器をベトナムに売却する用意があるのか」との質問に答えて、「海洋安全保障の分野において、最大限の協力の可能性がある。戦略的挑戦に対応するためにどのような兵器が最適かを決定するのは、ベトナム政府である」とし、どのような兵器が最適かであるかについてベトナム政府が下した決定を尊重すると語った。米太平洋陸軍司令官は1月19日、訪越し、ベトナム人民軍参謀次長と会談した。両者は、2011年の2国間防衛協力に関する覚書の進捗状況を検討し、人道支援、捜索救難、軍事医学、及び国連平和維持活動の経験の共有を含む、優先協力分野を決めた。

(4) 過去2カ月間のマレーシア、フィリピン及びベトナムの動向を見れば、これら3国はいずれも海軍の近代化を優先していることを示している。マレーシアは、新しい軍事技術、プラットフォームそして兵器体系の導入で域内各国に遅れを取らないように、旧式化したプラットフォームや兵器体系の更新に努めている。フィリピンは、より低いレベルから出発しており、領域防衛、特に海洋領域における能力を取得しようとしている。ベトナムの軍近代化計画は1990年代半ばに始まっており、6隻の先進的なKilo級潜水艦を取得するところまで進展してきている。ベトナムはまた、政治的、外交的梃子を強化するため、近隣諸国と主要大国との間で強固な防衛協力計画を促進している。

記事参照:
The Philippines, Malaysia, and Vietnam Race to South China Sea Defense Modernization

1月23日「中国の南シナ海での挑発行為、2015年も続く―マレーシア専門家論評」(MIMA’S ONLINE COMMENTARY ON MARITIME ISSUES, January 23, 2015)

マレーシアのMaritime Institute of Malaysia (MIMA) のSumathy Permal主任研究員は、1月25日付のMIMAのWeb誌、MIMA’S ONLINE COMMENTARY ON MARITIME ISSUESに、“South China Sea Manoeuvrings: More of the same in 2015?”と題する論説を発表し、中国が2014年に南シナ海で行った活動が、2015年にも、これまで通り、あるいはそれ以上に継続されることになるとし、要旨以下のように述べている。

(1) 2014年に南シナ海で起こった一連の出来事は、南シナ海における関係各国の抗争を一増増幅させるものであった。例えば、2014年1月には、中国海軍がジェームズ礁(マレーシア名:Beting Serupai、中国名:曾母暗沙)周辺海域で哨戒活動を行ったことが報じられ、マレーシアと中国との間の海洋問題にとって大きな転換点となった。Beting Serupaiは、南沙諸島の最南端にあり、サラワク州のビントゥルから80キロの位置にあり、マレーシアのEEZの範囲内である。中国との貿易関係や戦略的パートナーシップは極めて重要だが、マレーシアは、自国が占拠する南沙諸島の島嶼に対する主権侵害行為への対応の仕方を再考する必要があるかもしれない。そして、ベトナム及びフィリピンとの間で領有権を争う海域における中国の行動や演習は、これまで以上に挑発的であった。中国は、ジョンソン南礁(中国名:赤瓜礁)、カルテロン礁(華陽礁)、ヒューズ礁(東門礁)、ガベン礁(南薫礁)、及びエルダド礁(安達礁)を含む南沙諸島において、軍事建造物を拡充するため埋め立て工事を実施してきた。これらの埋め立て工事は南シナ海を取り囲む中国の要塞化戦略を補完するもので、中国は、埋め立て工事が当該島嶼における作業環境や居住環境の改善を目的としていることを明らかにした。域内諸国や域外の国は、この埋め立て工事を、中国による南シナ海の戦略的なシーレーン支配の試みと見、警戒心を高めている。

(2) 中国海軍は、南シナ海の公海において、国際法や国際慣習に触れない範囲内と中国自身が主張する訓練や演習を日常的に実施している。中国軍の海洋における訓練には、指揮所の設置、海洋機動、海洋権益の保護、即応性のある支援態勢、そして政治活動といった多様な要素が含まれている。これらは、「戦い、勝利すること」を狙いとした、南海艦隊による一連の実戦想定訓練の一部である。このような中国軍の訓練は、マレーシアを含む領有権主張国が今後の中国軍の訓練、演習に一層警戒すべきことを教えている。また、南シナ海における中国軍の活動分析の結果は、2013年以降にあるパターンを示している。例えば、中国海軍は、2014年1月末にBeting Serupai周辺海域で主権擁護の宣誓式を行ったが、3月にも同様の宣誓式を行ったと主張している。2つの宣誓式は、中国の旧正月の前後に実施されており、恐らく、軍に対する国内の支持を高める狙いからと見られる。これは、自らの活動を正当化することを狙いとした中国の心理戦戦略の一環と解釈できるが、南シナ海における他の紛争当事国に疑念を生じさせた。中国は、支配の実効性を高める行為の1つと判断しているのかも知れない。

(3) 中国の近隣諸国は、中国による新たな行動が海洋紛争を効果的に管理するためには逆効果となる可能性があるため、最近の行動には警戒感を高めている。中国は、2015年においても基本的にはこれまで通りであろうが、しかしながら、最近の行動パターンが示すところでは、中国周辺の紛争当事国はこれまで以上に、中国からの挑発的な行動に見舞われる可能性があるということである。中国がこうした行動を続ければ、南シナ海行動規範 (COC) の実現が一層困難になるかもしれない。COCの早期実現への努力を含め、ASEAN・中国関係と南シナ海問題は、最優先課題である。全ての領有権主張国は、係争海域における非友好的な活動を繰り返すべきではない。

記事参照:
South China Sea Manoeuvrings: More of the same in 2015?

1月26日「インド洋におけるプレゼンス維持のための中国海軍の巧妙な仕掛け―インド人専門家論評」(PacNet, Pacific Forum CSIS, January 26, 2015)

インドのThe Institute for Defence Studies and Analyses (IDSA) のAbhijit Singh 研究員は、米シンクタンク、Pacific Forum の1月26日付のPacNet に、“A ‘PLA-N’ for Chinese maritime bases in the Indian Ocean”と題する論説を寄稿し、2014年9月と11月に中国海軍の潜水艦がスリランカのコロンボ港に2回入港してから、インドの専門家の間には、インド洋における中国の恒久的な軍事プレゼンスに対する懸念が蘇ったとして、要旨以下のように述べている。

(1) インド洋地域 (IOR) における中国の海洋進出は、新しい事象ではない。北京はしばしば、インド洋における戦略的足跡の拡大を試みてきた。北京は、海賊対処活動と海軍演習のための戦力展開頻度を増大させるとともに、海洋インフラ整備プロジェクトへの投資を増大させることによって、IORにおける海洋プレイヤーとして、中国のイメージを高めてきた。とはいえ、現在までのところ、中国は、IORに海軍基地を建設する計画は持っていなかったように思われる。しかしながら、インド洋における最近の中国海軍の頻繁な演習の実施は、中国海軍戦略の先取りとの噂を高めている。一連の海軍戦闘艦の展開―最初は2万トンの両用揚陸艦、「長白山」を随伴、2度目は原潜を含む―は、北京がインド洋における優位確保を視野に入れている証拠である。こうしたことから、インド洋における中国の海軍基地建設問題は、もはや軽く扱うべき戦略上の偶発的な出来事ではない。

(2) こうした中国の戦略的意図を暴露するような最初の出来事は、2014年9月の中国潜水艦のコロンボ港への寄港であった。コロンボ港訪問の地政学的な意味については多くの議論があったが、重要な作戦上の細部については見逃されてしまった。例えば、中国の潜水艦が、海軍艦艇が停泊するように指定されている、コロンボのThe Sri Lanka Port Authority (SLPA) が管理運営する埠頭には停泊せず、中国企業の招商局国際が管理運営する深水施設であるコロンボ港南コンテナターミナル (CSCT) に停泊したことは、注目に値する。CSCTは潜水艦の停泊にも適しているが、そこはスリランカが管理する港湾の中の「中国の飛び地 (a “Chinese enclave”)」とも言うべき場所である。CSCTへの中国潜水艦の停泊は運営管理協定の違反であったが、スリランカ当局はそれを咎めなかった。中国潜水艦の停泊にはCSCTの深水施設が必要だったとするSLPA議長の説明は説得力がないように思われる。何故なら、ディーゼル電気推進の明級潜水艦の浅い喫水を考えれば、SLPA施設の何処でも停泊できたであろう。

(3) このことは、中国の投資資金によって建設されたスリランカの港湾に対して、中国海軍艦艇が入港の特権を認められている、とのインドの疑念を裏付けている。コロンボ港は、中国が排他的な施設を持つスリランカ唯一の港ではない。中国はまた、ハンバントータ港でも港湾管理運営権を持っており、報道によれば、スリランカは、借款条件の緩和と引き換えに、中国の国有企業に対して4本の埠頭の運営権を許諾することに同意しているという。明らかに、コロンボは公開入札を経ることなく港湾運営権を中国に譲り渡したわけで、このことは海運業界を驚かせた。同様に、モルディブでは、The Ihavandhippolhu Integrated Development Project (iHavan) は、中国からの借款と援助資金に依存しているといわれる。この借款は、何らかの形で一方的な債務放棄をしない限り、モルディブがデフォルトに陥ることがほとんど確実な程の高い利率で供与された。しかし、これは北京が期待するところであるのは確かで、債務条件を緩和するのと引き換えに、海洋プロジェクトの管理運営権を得るという、常套手段の1つである。このことは、中国の海洋シルクロード計画の背後にある動機についても、疑念を生じさせる。北京は、海洋シルクロード計画がインドを包囲することを狙いとした既存の「真珠数珠繋ぎ (“string of pearls”)」戦略の看板の掛け替えであることを否定している。しかし、400億ドルもの金額を投資する計画実施に当たって、中国が将来的な戦略的見返りなしで、膨大な資金を要するプロジェクトを引き受けることなどということはありそうもない。

(4) ナミビアで2014年11月に、インド太平洋地域とアフリカ西海岸における中国の海軍基地計画の存在が報道されて以来、北京は火消しに努めてきた。中国政府報道官は、この報道が、2013年2月に中国国営メディアで報道された、インド洋に海外基地を建設し、中国のエネルギー輸送路を防衛することを中国海軍に勧告した論評から、勝手に流用しているものだと主張した。しかし、この論評には若干の真実が含まれている。このオリジナルの論評が、IORにおける18カ所の中国の「海外戦略支援基地施設 (“Overseas Strategic Support Bases”)」建設の青写真の概略を示しているだけでなく、こうした施設を3つの特定のカテゴリーに分類していることである。即ち、平時の燃料と物資の補給基地(ジブチ、アデン及びサラーラ)、軍艦の停泊、固定翼哨戒機及び海軍スタッフの陸上での休養などのためのある程度恒久的な補給基地(セイシェル)、そして補給、休養と戦闘艦艇搭載兵器の本格的な補修のための機能センター(パキスタンのグワダル)、の3つのカテゴリーである。この論評は、将来の基地の種類や機能を記述した上で、こうした施設を取得するための方法論にまで言及している。それによれば、パキスタンの「機能センター」と他のIOR諸国の施設については中長期的な覚書を取り交わし、一方で、セイシェルで計画しているような、恒久的な補給基地へのアクセスについては、短期あるいは中期の覚書に署名することによって取得できるというのである。

(5) 最も注目されるのは、中国がIOR諸国の施設を両用目的で利用できる可能性である。低レベルの兵站補給能力を持つ商業施設は両用施設であり、両用施設は重要な海域に海洋プレゼンスを確立するリスクのない方法である。北京は2013年にグワダルの施設に関心を示したといわれており、中国がIORにおける低レベルの軍事プレゼンスを維持しようとしているとの憶測を裏付けた。最近米国防大学の報告書が指摘しているように、中国のような大国は、有事における軍事作戦を支援するために商業港をグレードアップしたり、秘密裏に弾薬備蓄やその他の港湾インフラ建設のための隠れ蓑として商業港を利用したりする能力を持っている。従って、北京が有事に両用施設を軍事化する権利を持つような覚書を検討していることは十分考えられることである。中国がセイシェルに求めていると見られるのは、こうした両用施設である。2011年に、セイシェルが中国に海賊対処のためにアデン湾と西インド洋に展開する中国海軍艦艇のための海軍根拠地を建設するよう提案した、と報じられた。北京は、この報道を直ちに否定したが、中国がIORにおいてより恒久的な軍事プレゼンスを望んでいるという恐怖を煽ることになる、海外補給基地取得の可能性については、これを排除しなかった。

(6) 中国が引き起こしたインド洋の穏やかな安全保障環境への波紋は、IOR諸国に対して、中国の支持と安全保障取り決めの必要性を承服させる試みであるように思われる。長期に亘る持続的な作戦行動を可能にするインド洋における確実な兵站補給、燃料補給、補修及び休養施設網は、中国海軍にとって極めて重要である。インド洋における持続的な「海洋プレゼンス」は、北京がこの地域において戦略的に優位に立つためには不可欠である。海洋安全保障任務のために中国海軍がこの地域の施設を利用できる状態にあることは、地域安全保障上の主導権をインドから奪うことになりかねない。IORにおける中国海軍のプレゼンスは、インド洋における真の安全保障提供者としてのインド海軍の優越に対する挑戦であるばかりでなく、この地域におけるインドの戦略的な影響力をも侵食するものとなろう。伝統的な「海軍基地」を持たない中国海軍のIORにおけるプレゼンスは、北京による戦略的に巧妙な仕掛けといえ、ニューデリーを途方に暮れさせかねないものである。

記事参照:
A ‘PLA-N’ for Chinese maritime bases in the Indian Ocean

1月29日「ベトナム海軍、3隻目のKilo級潜水艦受領」(Tuoi Tre news, January 29, 2015)

ベトナム海軍は1月29日、3隻目のKilo (Varshavyanka) 級潜水艦を受領した。2014年12月15日に重量物運搬船、MV Rolldock Starに積載されてサンクトペテルブルグを出港し、1月29日にカムラン湾軍港に到着した。3番艦、HQ-184 Hai Phongは、全長73.8メートル、全幅9.9メートル、排水量3,000~3,950トン、航続距離6,000~7,500カイリである。ベトナムがロシアから購入する全6隻のKilo級潜水艦の内、残りのHQ-185 Da Nang とHQ-186 Khanh Hoaは2015年中に引き渡される予定で、最後のHQ-187 Ba Ria-Vung Tau は2016年初めに引き渡される予定となっている。

記事参照:
Third Russian-built Kilo-class submarine arrives in Vietnam

1月29日「豪、輸送艇2隻をフィリピンに供与」(Rappler.com, January 29, 2014)

オーストラリアのアンドリュー国防相は1月29日、最近退役した輸送艇 (LCH) 2隻をフィリピンに供与すると発表した。供与されるのは、2014年11月に退役した、HMAS Tarakan とHMAS Brunei の2隻で、既に新たな航法システムの搭載などを含む、改修作業が始まっており、5月には引き渡しが可能になると見られる。2隻のLCHは、全長44.5メートル、速度10~13ノットで、最大180トンの貨物を搭載可能である。オーストラリア国防省によれば、LCHは多用途艇で、大型艦から海岸に貨物、人員及び装備を運搬でき、吃水が2メートルと浅く、人道支援・災害救助 (HADR) において威力を発揮する。オーストラリアは、2012年に退役した、同級艇、HMAS Wewak、HMAS Betano及びHMAS Balikpapanの3隻をフィリピン政府が購入する計画であることを明らかにしている。

記事参照:
Australia’s gift to PH Navy: 2 supply ships

1月31日「中国の南シナ海における「9段線」主張―米専門家論評」(The Diplomat, January 31, 2015)

ニューヨークのシンクタンク、EastWest InstituteのGreg Austin専門研究員は、1月31日付のWeb誌、The Diplomatに、“China’s Lawful Position on the South China Sea”と題する論説を寄稿し、中国がUNCLOSの枠組を超えて南シナ海で海洋管轄権を拡大する歴史的権原を有していると主張することはほとんど不可能だが、中国は、自国南端の海南島を基点に南シナ海で幾つかの権利を有しているとして、要旨以下のように述べている。

(1) 中国が南シナ海で主張する「9段線」に関して、米国務省は2014年12月、“China: Maritime Claims in the South China Sea” と題する報告書*を公表した。これに対して、中国南海研究院の2名の助理研究員、Ye QiangとJiang Zongqiangは、最近発表した論説**において、中国は国際慣習法や国連海洋法条約 (UNCLOS) で認められる以上の権利を求めているわけではないとして、中国政府は「それぞれの特定の権利を行使するかどうか、そしてその権利の範囲や行使の態様について慎重に検討している。中国が未だに『段線』内における権利の内容を明確にしていない理由である」と述べている。この論説は、いくつかの理由から注目される。1つは、この論説には、中国高官の考えに精通している専門家の意見が100パーセント反映されていることである。2つ目は、この論説が、「9段線」に関する論考で多くの専門家が引用する、南海研究院の呉士存院長のこれまでの立場と矛盾していると思われることである。呉院長は2014年1月、Global Timesにおいて、「中国当局は、法的な観点から『9段線』を定義していない」と述べている。

(2) 本稿の筆者 (Greg Austin) が1998年に出版した著書、China’s Ocean Frontierで言及したように、中国は、「9段線」の解釈について明確にしないことで損をしている。しかし、同時に筆者は本書で、「南シナ海の非公式な海洋境界線を示した1947年に出版された地図は、1945年にアメリカが行ったような、以前から受け入れられてきた領海の範囲を越えて、経済的目的のために海洋管轄範囲を拡張するという、他国の動きに対する対抗措置として、南シナ海における中国の伝統的あるいは歴史的な権利を維持するための努力の一環であった」と指摘した。更に、筆者は、「それと同様に重要な動機となったのは、日本の敗戦と南シナ海からの撤退を受けて、『U字線(「9段線」)』内の島嶼に対する中国の主権主張を確認することであった」と述べた。

(3) UNCLOSの発効や国際司法裁判所等による歴史的権原概念の明確化、そして各国における関係国内法の制定によって、UNCLOSが規定するEEZあるいは大陸棚という2つの制度を超えて、中国が南シナ海における海洋管轄権を拡大する歴史的権原を有していると主張(あるいは証明)することは、ほとんど不可能であろう。しかしながら、中国は、自国南端に海南島という明確な領土を持っており、それを基点にした西沙諸島に対する有効な領有権主張、そして少なくとも南沙諸島の一部島嶼に対する同様の主張に基づいて、南シナ海における権利を保有している(前記、筆者の著書参照)。中国に対して「9段線」主張の法的意味の明確化を求める国は、中国が既に南シナ海において幾つかの権利を保有していることを理解し、認識する必要がある。

記事参照:
China’s Lawful Position on the South China Sea
備考*:CHINA MARITIME CLAIMS IN THE SOUTH CHINA SEA, Office of Ocean and Polar Affairs, Bureau of Oceans and International Environmental and Scientific Affairs, U.S. Department of State, December 5, 2014
備考**:旬報2015年1月11日-20日号参照。

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子