海洋情報旬報 2015年1月1日~10日

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1月1日「台湾海軍、新年祝賀演習実施、新型ステルス・コルベット参加」(The China Post, January 2, 2015)

台湾海軍は1月1日、台湾東部沖で新年祝賀演習実施し、メディアに公開した。この演習には、2014年12月に就役したばかりの、誘導ミサイル搭載の初の国産ステルス・コルベットがお目見えした。この新型コルベットは、排水量500トン、双胴型の「沱江」で、最大速度38ノット、航続距離2,000カイリである。嚴明国防部長は2014年12月の就役式典で、「沱江」を「アジアで最速、最強の戦闘艦」と評した。

記事参照:
ROC naval drill welcomes 2015 with stealth vessel
Photo: The stealth missile corvette Tuo Chiang brakes the waves during its first public appearance off a naval drill.

1月5日「2015年のASEAN議長国、マレーシアと南シナ海問題―ベトナム人研究者論評」(RSIS Commentaries, January 5, 2015)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) に在籍するベトナム人研究者、Nguyen Huu Tucは、1月5日付の RSIS Commentariesに、“Malaysia and the South China Sea: Will KL Abandon its Hedging Policy?”と題する論説を寄稿し、マレーシアは南シナ海問題で中国に対する「ASEANの共通の立場」に全面的にコミットしているが、一部の他のASEAN加盟国と同様に、これが中国との良好な関係に影響を及ぼさないことを望んでおり、今後ともそうであろうと見、2015年のASEAN議長国、マレーシアと南シナ海問題の行方について、要旨以下のように論じている。

(1) マレーシアは2015年のASEAN議長国である。2015年の最優先課題の1つは、南シナ海領有権紛争に対処することであろう。クアラルンプールは、領有権主張国6カ国の内の1国でもある。しかしながら、問題は、如何にしてマレーシアがこの領有権紛争の打開を図ることができるかである。何故なら、マレーシアは、北京との良好な関係維持に高い優先度を置いているからである。例えナジブ首相が、マレーシアは領有権紛争に対処し、地域の平和と安全に影響を及ぼす問題の解決を図るために、斡旋努力を進めると強調したとしても、筆者 (Nguyen Huu Tuc) は、クアラルンプールが南シナ海領有権紛争に対処するに当たって、(北京との)リスク回避のヘッジ政策を放棄することはないであろうと見ている。従って、法的拘束力を持つ行動規範 (COC) の締結を含め、南シナ海問題の解決の見込みは、近い将来に亘って不明確であろう。

(2) 台湾と他のASEAN加盟3カ国、ベトナム、フィリピン及びブルネイに加えて、マレーシアも、サバ州沿岸から約250キロ南方にある、Louisa Reef (中国名:南通礁)から、マレーシアとフィリピンの中間にある、Investigator Shoal(中国名:楡亜暗沙)まで、240キロ近くに亘る弧に沿って、南沙諸島にある7つの島嶼を占拠している重要な領有権主張国である。メディアの報道によれば、中国は、南シナ海のマレーシアの管轄海域の一角で軍事プレゼンスを増強している。中国海軍の艦隊は2014年1月、中国とベトナムが領有権を主張する西沙諸島海域での哨戒活動を行った後、中国とマレーシアが領有権を主張するマレーシアのサバ州沿岸沖約80キロに位置する暗沙、James Shoal(中国名:曾母暗沙)にまで進出した。そしてその後、艦隊は、北京が管轄権を主張する海域を越えてインド洋に進出し、インドネシア南部の海域でインドネシア海軍艦艇と中国海軍艦隊が初めての演習を実施した。更に、中国は2014年3月、海兵隊部隊とホバークラフトを含む、両用任務部隊をJames Shoal近くの海域に展開して軍事演習を実施し、専門家の注目を集めた。この演習の間、北京が干潮時にも海面下にあるこの完全な暗沙に対する主権主張の如何なる根拠を有していないにもかかわらず、中国海軍艦艇の乗組員は中国の主権を擁護することを誓う式典を実施した。

(3) 益々高圧的になってくる中国の行動に対処するため、マレーシアはここ数カ月、ブルネイ、フィリピン及びベトナムを含む、南シナ海における領有権主張国と共に、領有権問題に対する共同のアプローチを目指して調整努力を推し進めてきた。更に、マレーシアは、自衛能力の強化措置も発表した。マレーシアは、自国周辺海域における哨戒活動を強化することに加えて、今後マレーシアの港湾への米海軍艦艇のより多くの寄港を認めるとともに、海兵隊を創設し、James Shoalから96キロ離れたサラワク州のビントゥルに海軍基地を建設することを明らかにしている。しかしながら、マレーシアは、領有権問題に対しては比較的目立たない政策をとってきた。クアラルンプールは、中比関係や中越関係のように、中国との関係を緊張させ、対立の危険を冒すことによって、中国との伝統的に穏やかな関係を危険に晒す意志はないようである。中国とマレーシアの関係は、両国が地理的に離れていることに加えて、相互の強い経済的な結びつがあることから、マレーシアが領有権を主張する海域を含む、南シナ海での益々高圧的な中国の行動とは関係なく、維持されてきている。両国は、相互に重要な貿易相手国であるだけでなく、長年に亘って友好関係を維持してきた。マレーシアは、ASEAN諸国の中では最初に中国との関係を正常化した。両国の2013年の貿易総額は620億米ドルに達しており、中国は5年連続でマレーシア最大の貿易相手国であった。エネルギー供給面でも両国の関係は深く、マレーシアは、中国に対する第3位のLNG供給国である。

(4) マレーシアだけでなく、多くのASEAN諸国にとって、特に中国との関係において、国益と域内全体の利益との間でバランスをとることは、困難な課題である。2012年にカンボジアで開催されたASEAN外相会議が南シナ海の領有権問題に対する意見の相違から失敗に終わったことは、まだ記憶に新しいところである。マレーシアが領有権を主張する島嶼や環礁に対して中国が領有権を振りかざしてこれらを奪取しようとしない限り、ナジブ政権は、ベトナムやフィリピンがとっているようなより対決的なアプローチを見習うようなことはないであろう。少なくともマレーシアがASEAN議長国を努めるこの1年間は、中国は、この重要な東南アジアのパートナー国をジレンマに陥れないようにするために、南シナ海の領有権紛争に対するその高圧的な主張を抑制するのが賢明であろう。2011年のシンガポールでの「シャングリラ・ダイアローグ」で、ナジブ首相はその基調演説で、南シナ海問題で中国と交渉するに当たっては、マレーシアは「ASEANの共通の立場に全面的にコミット」し続けるが、「同時に、そのことが我々の2国間関係に影響を及ぼさないようにすることも決心している」と明言している。従って、中国の意図に対する疑念や他の域内の関係当事国の願望にもかかわらず、マレーシアは、ASEAN議長国を努めるこの1年間、リスク回避のヘッジ政策を放棄することはないであろう。

記事参照:
Malaysia and the South China Sea: Will KL Abandon its Hedging Policy?
RSIS Commentaries, January 5, 2014

1月5日「カナダ北西航路、主権問題よりインフラ整備を―カナダ専門家論評」(The Globe & Mail.com, January 5, 2015)

カナダのThe Canadian Defence & Foreign Affairs Institute客員研究員で、St. Jerome’s University准教授のP. Whitney Lackenbauerは、1月5日付のカナダ紙、The Globe & Mail(電子版)に、“More ships in the Northwest Passage will boost our Arctic claim”と題する論説を寄稿し、カナダは北西航路を航行する船舶の増加に備えてインフラ整備に力を入れるべきとして、要旨以下のように述べている。

(1) デンマークの船社所有のばら積み船、MV Nordic Orion が2013年10月に、商業船舶として初めて北西航路を航行した。この航行によって、これまで航行不能と見られてきた北西航路は、すぐにも運航可能な海上ルートになるように思われた。こうした見通しは、航行船舶の増加がカナダの主権にどのような影響をもたらすことになるかという長年の懸念を蘇らせることになった。北西航路が航行可能になれば、他国や他国の海運会社は、この航路を(国際航路ではなく)内水とするカナダの立場に、挑戦することになるのであろうか。メディアの刺激的な報道とは異なって、北西航路の現実はさほど劇的なものではない。2014年の航行可能時期の海氷は厚く、全ての商業運航は取り消しになった。海氷状況が 年々、更には日々変化するために、カナダの北極海域の航路は、定期的な運航には依然困難かつ危険である。国際海運はタイトなスケジュールで動いており、船舶の航行速度と航路の正確な予測が不可能であれば、運航スケジュールを維持することが困難となる。

(2) 70年近い探査と海図作成にも関わらず、カナダの北極海域の航路は依然、危険で海図のない海域が多い。現在まで、この海域において現代的な基準に合致した海図作成が完了しているのは、全体の12%に過ぎない。クルーズ客船、MV Clipper Adventure が2010年8月に、ヌナヴト準州のコパーマインに近いコロネーション湾で座礁した事案は、この航路の欠陥を如実に物語っている。このような現状は、高い保険料、限られた航法支援施設そして災難救助や船舶修理インフラの完全な欠如とともに、カナダの北極海域における定期的な船舶の運航を困難にしている。今後、商業運航が行われるとしても、それらは、政府支援による海氷面の間隙を縫ったニッチな航海になると見られ、一般がイメージするような商業運航の急増には至らないであろう。北極海域の商業運航の将来は、カナダの北極海域の内側と外側を航行する、主に資源輸送船、補給船及びクルーズ客船によるカナダを出入港地とする船舶運航が主体となるであろう。こうした船舶の航行は、カナダの主権を侵害するというよりはむしろ確認するものになろう。

(3) カナダは、北西航路を歴史的な内水航路と見なし、この航路に関心を持つ外国企業に対して、これを受け入れるよう求める法的な立場をとっている。こうした認識を外国政府に認めさせるのは困難であったが、カナダの北極海域で活動する外国の民間企業に認めさせるのはより容易であろう。結局、カナダにおけるビジネスに関心を持つ如何なる企業も、カナダの主権に挑戦し、国民や政治的な反発を招くリスクを敢えて冒すことはしないであろう。 主権という観点から北極海域における船舶運航の政治的な波及効果を懸念するよりも、カナダ政府は、より安全な航路を開発し、維持するという実用的な要請を重視することがよりカナダの利益に資するのである。水路測量の実施や海洋インフラの構築、そして捜索救助能力の強化など、着手すべき課題が多くある。カナダの北極海域における船舶航行の将来動向を見れば、重視すべき優先課題は、防衛や主権問題ではなく、航行の安全確保にある。北西航路が新たな国際航路として浮上するとは考え難いが、カナダは、自国を出入港地とする船舶の通航量の増大に備えておかなければならない。海洋インフラへの新たな投資や船舶航行監視能力の強化などは、北極海域における船舶航行に内在する危険性の多くを軽減するために必要なものである。北極海域における船舶航行は、適切に管理されれば、カナダの北部開発のための強力な力となろう。

記事参照:
More ships in the Northwest Passage will boost our Arctic claim

1月6日「インド・太平洋地域における日印米の提携と水陸両用能力の開発―米専門家論評」(Banyan Analytics Brief, January 6, 2015)

米海兵隊退役大佐で、日本戦略研究フォーラム (JFSS) の上席研究員、Grant Newshamは、1月6日付のWeb誌、Banyan Analytics Briefに、“Developing a Maritime Security Coalition Architecture for the Indo-Pacific”と題する論説を寄稿し、インド・太平洋地域における「海洋安全保障提携アーキテクチャ」の構築とそれを支えるための水陸両用能力の必要性について、要旨以下のように述べている。

(1) インド・太平洋地域における「海洋安全保障提携アーキテクチャ (Maritime security coalition architecture: MSCA)」は、5年前には非常に有望視される構想だった。現在では、環境条件が大きく変化し、アメリカ、日本及びインドの3本柱によるMSCAが、正式な協定には至っていないが、実現可能視されている。これら3カ国は、地域全体をカバーするMSCAを支えるに必要な国力、資源、地理的条件そして共通利益を有している。中国は間接的に、MSCAの枠組みの一部である。アメリカとその友好国は60年以上もの間、この地域にMSCAを維持してきた。新たなMSCAは、その改訂版に過ぎない。隣接する環境が変われば、それに応じて変わらなければならない。

(2) インド・太平洋地域には、広大な海と多くの島々が存在している。それらの海域や沿岸域での活動では、陸海空軍の能力が補完的に必要となる。陸海空軍による相互作用を促すこの地域の地理的特性としては、沖縄から南方に延びる南西諸島がある。この列島線のある特定の島に対艦巡航ミサイルを配備すれば、海洋の安全保障環境に直接的な影響を与えることになろう。同じような効果は、インドネシアとフィリピンにおける海峡や群島にも期待できる。水陸両用戦能力は、能力を強化し、適切に運用されれば、MSCAに実質的な力を付与することができる。水上戦闘艦、潜水艦及び空母は、直接的な戦闘行為において必要不可欠な戦力である。しかしながら、水陸両用戦艦と兵力も同様に重要であり、特に、平時においてはより重要である。水陸両用戦部隊は、活動時間が長く、多様な任務を遂行できることから、より多くの場所で影響力を与えることができるし、またより多くのプレゼンスを誇示することができる。ここ数年、インド・太平洋地域において水陸両用戦能力への関心が高まっている。日本、オーストラリア、マレーシア及びニュージーランドは、積極的に水陸両用戦能力を開発している。また、韓国、フィリピン、インドネシア、台湾、タイ、ベトナム、モルジブ及び中国は、既に海兵隊部隊を持っている。インドも水陸両用戦能力を持ってはいるが、不十分である。

(3) MSCAを有効なアーキテクチャとする1つの可能性は、地域全体で活動し、共同作戦のために定期的に連携する、アメリカ、日本及びインドの「海兵遠征部隊 (Marine Expeditionary Unit: MEU)」的な戦力である(米軍では、3隻の両用戦艦に約2,000人の海兵隊員と艦載機で編成されている)。米海軍と海兵隊はこの何十年間、MEUとして運用されてきた。第31MEUは、沖縄を拠点に域内全域で活動している。2個目のMEUも検討されている。自衛隊はこの2年間、アドホック的にMEUに加わっているが、2013年には2度の水陸両用上陸演習が実施されたDawn Blitz演習に参加した。その数カ月後には、フィリピンの台風被害に対する救援活動のため、アドホック的なMEUを派遣した。計画によれば、陸上自衛隊には、2018年までに3,000人規模の水陸機動団が新たに編成される予定である。中国や韓国からの反対意見以外、アジア地域では、日本の水陸両用戦能力の開発は問題視されていない。インドは、MEUに必要な幾つかのアセットを持ってはいるが、より多くの、そしてより新しい水陸両用戦艦艇を調達する必要がある。MEUを開発するためには、インド軍の全体を変革させる必要がなく、各軍種から少しの兵力を水陸両用戦部隊に割り当れば済む。日本の水陸両用戦能力の開発は、このアプローチを上手く活用している。水陸両用作戦や演習は、単独あるいは複数の軍種による演習、あるいは多国間の演習とも質的に異なるものである。それらは陸海空軍の主要な打撃力を全て「切れ目なく」動員するものであり、この地域の軍事力に最も欠けているものである。米軍でさえ、その能力向上に常に苦闘しているものである。

(4) 日本、インド及びアメリカがMSCAを構築できれば、その他の国、例えば、オーストラリアや、ベトナム、韓国及びシンガポールといった、航行の自由の維持に最大の関心を持つ国は、これに参加することになるかもしれない。MSCAは、ある程度の想像力と巧みな手腕で実現可能である。その主たる目的、即ち、インド・太平洋地域の「コモンズ」へのアクセスを維持することは、米印両国が共有する数少ない国益の1つである。

記事参照:
Developing a Maritime Security Coalition Architecture for the Indo-Pacific

1月6日「北極圏を巡る抗争の実態―米誌論評」(Newsweek.com, January 6, 2015)

米誌、Newsweek(電子版)は、1月6日付の“Putin Makes His First Move in Race to Control the Arctic”と題する記事で、最近の北極圏の動向について、要旨以下のように述べている。

(1) ロシアの探検家が2007年に北極点の海底に国旗を打ち込んでから、北極海での抗争の幕が開いたが、これまでは北極海沿岸諸国間の協力が優先されてきた。「しかしながら、今や、主としてロシアの行動によって、北極海を巡る抗争はヒートアップしている。ウクライナが現下のロシアの最優先の軍事的課題であることを考えれば、最近の北極圏にけるロシアの軍事力強化の動きはあまり重大ではないかもしれないが、北極圏での行動はプーチンの遊びではない。北極圏は、ロシアが強い立場にあると考えている隣接地域である」と、旧ソ連国防省の元研究官で、現オスロのThe Peace Research InstituteのPavel Baev教授は注意喚起している。(なお、2014年12月に運用が開始された、ロシアの北極司令部は、本誌のインタビュー要請に応じてくれなかった。)The Norwegian Institute for Defence StudiesのKatarzyna Zysk准教授は、「北極圏では、ロシアは議論の余地なくナンバーワンである。しかしながら、ノルウェーも、特に高緯度地帯が経済と防衛政策の上で重要な位置付けにあることから、北極圏における役割強化に熱心である。デンマークとカナダも積極的で、更にアメリカも関心を高めている。特に現在のNATOとの緊張関係から、これら諸国の動向に対して、ロシアは神経を尖らせている」と指摘している。

(2) 問題は、ある国の軍事的措置に対して、その抗争相手国も対応するということである。ノルウェーは、ロシアの最も近い隣国で、NATOの最初の北極軍事作戦センターが設置されており、自国軍部隊と装備を北方地域に移動させた。ノルウェーのソールベルグ首相は最近、ジェット戦闘機をイスラム国と戦うために派遣しないで本国に留めているのは、北極圏に対する安全保障上の懸念のためである、と語った。ノルウェーは2014年12月に、北極海域を哨戒する最先端の艦艇を就役させた。もし第2次冷戦が勃発するとすれば、その最前線は、バルト海沿岸諸国でなく、ノルウェーとロシアの間の北極海ということになろう。デンマーク国防大学学長で、代表的な北極専門家の1人である、Nils Wang海軍少将は、「北極圏のヨーロッパ側におけるロシアの軍事行動は、デンマークと他の北極圏諸国を懸念させている。再開されたロシアの軍事基地は沿岸警備隊的機能も有しているが、ロシアは、軍事基地の再開を通じて、必要な場合には北極圏での自国の権益を擁護するとの強いメッセージを、世界と自国民に発信している」と述べている。北極圏の大国を目指すカナダと同様、デンマークも、北極司令部を新設している。

(3) 北極圏の3分の1は陸地である。3分の1が海氷で覆われた公海で、残りの3分の1が大陸棚の浅海域である。国連海洋法条約は北極海沿岸5カ国にEEZを認めたので、天然資源の豊富な大陸棚は各国がその境界画定を求めて競い合うことになった。最近、ロシアのドンスコイ天然資源相は、1.2平方キロに及ぶ炭化水素資源の豊富な大陸棚がロシアに属しているとし、ロシアは2015年春にも、大陸棚の外縁延長を国連大陸棚限界委員会 (CLCS) に申請すると発表した(ロシアは2001年にCLCSに提出した申請書が証拠不十分で拒否された)。カナダは2014年に、170万平方キロに及ぶ北極海の大陸棚に対する管轄権を主張して、CLCSに同様の申請を行った。 そして、デンマークは2014年12月上旬に、北極点を含む海域に対する管轄権を主張して、CLCSに同様の申請を行った。国際エネルギー機関 (IEA) によれば、2010~2035年における世界的なエネルギー需要が35%増大すると予測されており、北極圏における資源探査は価値がある。前出のZysk准教授は、「今現在、世界的なエネルギー価格は低く、従って北極圏におけるエネルギー探査への投資は十分な利益が見込めない。しかしながら、ロシアに関する限り、北極圏における天然資源に対する関心を持ち続けるであろう。ロシア人は、将来のエネルギー資源確保のためには、北極圏に開発の重点を移さなければならないと考えている。そして、ロシアの北極圏における軍事プレゼンスは、同国の経済的利益を護っている。要するに、ロシア人は、『我々は、ここにいる』と主張しているのである」と語っている。

(4) 地球温暖化にもかかわらず、地球最北の地は依然酷寒の地である。プーチン大統領が北極司令部の設置を発表した2014年12月、再開された軍事基地のある北極海のコテリヌイ島の温度計は摂氏マイナス30度を記録した。前出のBaev教授は、「北極圏にあるロシア軍の既存の軍事基地は、旧ソ連方式で建設されており、そこで生活するには適さない。冬季の間は、彼らと連絡をとることすら難しい。ロシア北極圏に対するNATOの脅威は取るに足りない。実際、今現在、母なる自然以外、誰もロシア軍部隊を脅すものはない」と指摘している。問題は北極圏には本当の敵がいないことである。北極海の海氷が溶解し始めるにつれ、周辺諸国は、不確かな見返りのために対立を求めて犠牲を払うより、炭化水素資源の開発や海運などの面で、むしろ協力し合うようになるであろう。北極地政学の専門家で、ケベックのLaval大学のFrédéric Lasserre教授は、北極が自国民向けのギャラリーになっているとして、「ロシアは、自国民に、自国が依然大国であることを見せ付けている。一方、カナダ政府は、北極圏におけるカナダの力を誇示し、主権を主張するために、脅威認識を演出している。それは、選挙での票目当ての演出でしかない」と決め付けている。

記事参照:
Putin Makes His First Move in Race to Control the Arctic

1月7日「カムサマックス型ばら積み貨物船、建造200隻達成―常石造船」(MarineLog.com, January 8, 2015, 常石造船HP、1月8日)

常石造船(広島県福山市)は1月7日、同社が独自に開発した8万2,000トン型ばら積み貨物船「カムサマックスバルカー (Kamsarmax bulker)」の通算200隻目、MV Ultra Lionを常石集団(舟山)造船有限公司(中国浙江省舟山市)で竣工した。1隻目の竣工は2005年2月で、ほぼ9年11カ月で200隻に達した。常石造船によれば、「カムサマックスバルカー」は、パナマ運河を通航できる「パナマックスバルカー」の載貨重量を、パナマ運河を通航可能な最大幅を維持しながら、船長を225メートルから229メートルに延長することで、7万6,000トン級から8万2,000トンに増加させ、輸送効率を高めた船型である。「カムサマックス」とは、アフリカ西岸のギニア共和国にあるボーキサイトの主要積出港、カムサ港に入港可能な最大船長229メートルを有していることから命名された。

記事参照:
Tsuneishi Shipbuilding delivers 200th Kamsarmax bulker
常石造船HP
http://www.tsuneishi.co.jp/news/release/2015/01/2061/
Photo: MV Ultra Lion

1月9日「地政学者、N. スパイクマンの予見、その今日的意義―米専門家論評」(The Diplomat, January 9, 2015)

米Wilkes Universityの特任教授、Francis P. Sempaは、1月9日付のWeb誌、The Diplomatに、“Nicholas Spykman and the Struggle for the Asiatic Mediterranean”と題する論説を寄稿し、アメリカの地政学の大家、スパイクマンの70年以上も前の著作に見る中国関連記述の今日的意義について、要旨以下のように述べている。

(1) 第2 次世界大戦中、米イエール大学教授、ニコラス・スパイクマン(Nicholas Spykman) は、アメリカの安全保障の基礎となるグローバルな地政学的要素を取り扱った2冊の著作を出版し、彼が「アジアのリムランド(the “Asian Rimland”)」と呼ぶ地域の制覇を巡る米中両国の抗争を予見した。最初の著作は1942年に出版された、America’s Strategy in World Politics: The United States and the Balance of Powerで、地政学とパワーポリティクスにおけるアメリカの立ち位置などを詳述した、500頁にも及ぶ大著である。スパイクマンによれば、全ての国際政治はパワーを巡る闘争で、従って、「生存競争と同様に、相対的なパワーポジションの強化こそが、内政・外交の両面における主要な国家目標となる。」スパイクマンは、西半球、“Transatlantic”と“Transpacific”、そして「旧世界」対「新世界」の視点から、アメリカのパワーポジションを分析し、アメリカの安全保障がヨーロッパと極東における好ましいパワーバランスに依拠している、と結論づけた。スパイクマンの2冊目の著書で、遺作となったのが1944年に出版された、The Geography of the Peaceである。スパイクマンは同書で地政学地図を描いているが、この地図は、ユーラシア大陸の「ハートランド(マッキンダーの言う、ユーラシア大陸の北部と中央部の中心地帯)」と「リムランド(ハートランドの外縁に三日月型に存在する、西ヨーロッパ、中東、南西アジア及び極東)」、そして「北米」を含む、世界の地政学的パワーセンターを示している。スパイクマンは、これらの重要な地域におけるパワーポテンシャルを評価した上で、「リムランドを支配するものがユーラシアを制し、ユーラシアを支配するものが世界の運命を制する」と主張した。

(2) スパイクマンの著作が発表された時期は日本がアメリカの敵国で、中国がアメリカの同盟国であったが、彼は、戦後の世界においてはアメリカにとって日本と中国との立ち位置が逆になるであろうとして、戦後の根本的な地政学的要素を予見していた。スパイクマンは1942年に、「中国は、『アジアの地中海 (the “Asiatic Mediterranean”)』の沿岸地帯の大部分を支配する大陸国家になろう」と書いた。彼は、「アジアの地中海」を、日本海、東シナ海そして南シナ海など中海で構成される極めて重要な海域としている。「アジアの地中海」は、太平洋への、そしてインド洋と太平洋を結ぶシーレーンへの中国のアクセスを左右する。スパイクマンは、マラッカ海峡とパナマ運河について、当該地域における戦略的かつ商業上の通路であり、チョークポイントでもあるとして、それらの地政学的な類似性を指摘している。

(3) スパイクマンは、「中国が近代化し、活性化し、そして軍事化すれば、日本だけでなく、『アジアの地中海』における西欧列強の立場にとっても脅威となろう」と述べ、中国の海空軍力がやがて「アジアの地中海」を支配することになろう、と警鐘を鳴らした。正に、このことは、日中間の、そして中国と域内諸国間との緊張を高めている今日の安全保障上の脅威であり、アメリカが現在進めているアジアへの軸足移動政策の原動力となっているのである。それ故に、スパイクマンは、太平洋において日米両国の兵士が戦っている最中に、極東におけるパワーバランスを回復し維持するために、戦後における日米同盟の実現を勧告したのである。1944年の著作、The Geography of the Peaceにおいて、スパイクマンは、戦後に中国が極東における支配的なパワーとなると断言し、中国がこの地域で圧倒的なパワーを確立しようとする試みを阻止するために、「アジアの地中海」への戦力投射の拠点として、日本、フィリピンあるいはその他の国に基地を設けることを、アメリカの指導者に勧告した。スパイクマンは、「アメリカは、アジアにおけるパワーの相関が、戦時においても平時においても、アメリカにとって永遠の関心事であるということを、常に認識しておかなければならない」と強調した。

(4) 70年以上も前にスパイクマンが予見したように、今日、「アジアの地中海」は、アメリカ、中国、日本、そしてアジア地域のより小さな国々の地政学的な抗争の場となっている。この抗争の主眼は、エネルギー資源や経済的影響力の確保、重要なシーレーンの支配、島嶼などの領域支配、そしてアジア太平洋地域におけるパワーバランスである。The Geography of the Peaceの結びで、スパイクマンは、彼が生きた時代の、そして将来のアメリカの指導者が共有すべき、1つの重要な助言を書いている。アジア太平洋地域やその他の地域におけるアメリカの安全保障上の利益は、国際機関や世界共同体などによっては、保護もされなければ、維持もされないであろう。それ故に、スパイクマンは、「我々は、何よりも自国の国力に依拠し続けるべきである」、「何故なら、我々が知っているように、大国がパワーについて考えることを疎かにすれば、それは最終的には破滅や占領に繋がるからである。易きに流れた全ての帝国は没落した」と書いたのである。

記事参照:
Nicholas Spykman and the Struggle for the Asiatic Mediterranean

1月9日「『経略海洋』:習近平の新たな戦略概念―米海大専門家論評」(China Brief, The Jamestown Foundation, January 9, 2015)

米海軍大学の研究統括官、Ryan Martinsonは、1月9日付のWeb誌、China Briefに、“Jinglue Haiyang: The Naval Implications of Xi Jinping’s New Strategic Concept”と題する論説を寄稿し、最近の中国の指導者の発言や文献に良く出てくる、「経略海洋」なる用語について、要旨以下のように論じている。

(1) 東アジアの周辺海域における中国の海洋進出の論議において、これまでほとんど無視されてきた1つの概念は、「経略海洋」というものである。この概念は最近、中国の海洋強国戦略の1つの局面を意味する概念として、中共中央によって承認されたものである。「経略」は、「管理する」あるいは「運営する」という意味の文字と「戦略」あるいは「策略」を意味する言葉とが合成された動詞である。この概念は特に海軍関係の出版物に定期的に引用され、しばしば習近平主席の戦略的思考の要石として認識されている。「経略海洋」は国家戦略の範疇に含まれるものである。この概念は主として、海洋支配における国益と安全保障に対する高次元の、かつ包括的な管理を行うために、政治的、軍事的、技術的及び外交的手段を動員すること意味するとともに、海洋の開発と利用を促進し、海洋の包括的な管理を強化し、そしてあらゆる側面において祖国の海洋権益を擁護するために強制的な手段を動員することをも意味する。

(2) 「経絡海洋」という概念は権威ある出版物にしばしば登場してきたが、2013年4月に公布された「国家“十二五”海洋科学与技術発展規則綱要」には、「経略海洋」という用語はない。また、2013年4月の国防白書、「中国武装力量的多様化運用」にも、「経略海洋」はない。しかし、その3カ月後に突然、変化が起きた。中共中央政治局は2013年7月30日に、中国を海洋強国に変革させる問題について、第8回集合学習を行った。この学習会において、習近平主席は一連の講話を行った。公式メディアの要約では、最初のパラグラフは、「我々は、海洋に関心を持ち、海洋を理解し、そして海洋を経略するとともに、海洋強国となるための中国の努力を促進するために継続的に一層努力しなければならない」というものであった。公式メディアの要約は簡潔だが、我々は、「経略海洋」なる概念が今や中国の海洋強国戦略における不可分の要件である、と指摘することができる。この概念は、海洋に関心を持ち、海洋を理解するためにとられるあらゆる行動を網羅するものである。第18回党大会で示された、海洋権益の保護、環境保全、海洋資源開発能力の強化、そして海洋経済の発展といった、中国の海洋強国戦略の主たる要素は、「経略海洋」の概念に完全に合致している。4文字からなるこの概念は、中国の目的の本質を表象している。

(3) 明らかに「経略海洋」は、海洋支配に責任を有する全ての官公庁にとって、密接な関わりを持つ概念である。中国海軍にとってどのような意味を持つかをより良く理解するために、海軍がこの概念をどのように解釈し、運用しているかを検証することが有用である。下表は2010年以降、「経略」という言葉が『人民海軍』紙で使用された頻度を示している。

2010年以降、『人民海軍』紙における「経略」出現頻度

20102011201220132014
記事数0051321*

注:*は11月、12月分を含まない。

この表から、以下の諸点が指摘できる。
① 「経略」なる用語の初出は2012年10月である。
② 以来、この用語は39回使われており、年を経る毎に次第に多くなってきている。
③ この用語は専らというわけではないがほとんどの場合、東アジアの近海における海軍の戦略的機能に言及している。
④ 南シナ海は、「経略」に関連して特に名指しで言及されている唯一の海域である。
⑤ この用語は、しばしば「海洋の権益の保護」という語句と対になって使用されている。

(4) この用語が2012年後半から定期的に現れてきているということは、習近平主席がこれを政策として公式化する前から、この用語が海軍部内で普及していたことを示唆している。蒋偉烈南海艦隊司令員(当時、現人民解放軍海軍副司令員)は、2012年11月13日付の『人民海軍』に掲載された第18回党大会での演説で、海軍の将来の発展方向として4つの分野を示した。その第3の分野について、蒋偉烈中将は、「我々は、南シナ海における『経略』に関して一層の努力が必要である。南海艦隊は、南シナ海における重要な戦略戦力であり、重要な海上交通路の安全を確保するとともに、国家の主権と海洋権益を効果的に擁護している。我々は、南シナ海の『経略』に関する理論的研究を一層強化し、南シナ海全体に対する戦略的制海能力を強化する必要がある」と述べている。「経略」なる用語の使用は、習近平主席の考えを海軍部内に徹底させるキャンペーンに伴って、2014年第1四半期から頻繁になった。3月19日に、16人の海軍上級幹部が習近平主席の考えに敬意を表した論説を発表した。特に注目されるのは張兆垠南海艦隊副司令員の論説で、張兆垠中将は、「習近平主席は、両次にわたる南海艦隊訪問において、南シナ海の権利の擁護を強調した。その際、主席は、海軍は国家安全保障と発展戦略の視点からこの問題を考える必要があり、南シナ海の『経略』という重大な問題について期待に応える必要があると指摘した」と述べている。張兆垠中将は、海軍はこのために、近年とみに重要性を増している南シナ海に対する「行政的管理(『管控』)」を担当する海洋法令執行機関との協調関係を改善しなければならない、と指摘している。この視点から、海軍は、中国の海洋権益擁護戦略の主体となる海洋法令執行機関に対して、作戦上の支援を提供することになる。海軍は2014年8月に日清戦争120周年記念の研究会を開催したが、その席で呉勝利海軍司令員は、「国際社会の戦略的状況の大きな変化、増大する複雑で厳しい海洋における脅威に直面して、我々は、経略海洋、海洋権益の擁護そして海軍建設に関する習近平主席の重要な考えを完全に実行しなければならない」と強調している。これは海軍のトップであり、中共中央軍事委員会委員でもある呉勝利司令員の発言であることから、「経略海洋」が平時の海軍戦略の中心的概念であることを示している。

(5) 中国指導部は「経略海洋」という考えについて語っているが、公的に利用できる政府の資料では、この概念についての満足のいく定義、あるいはどのように追求していくかといったことについては、詳らかではない。この概念が、経済的目的のための海洋開発、海洋環境の保全、海洋境界の防衛、そして国土に対する経海脅威からの防衛のための、平時における包括的な戦略であるということは、理解できる。要するに、この概念は、中国の「海洋強国戦略」における運用概念ということになる。海軍の機関紙を子細に見れば、この概念は、国防戦略遂行の文脈から見れば、平時における海洋支配を目指す調整された政策の追求ということを意味している。このことは、管轄海域や主権を主張している海域における、命令あるいは「管控」の積極的な強要を意味する。こうした強要は、海軍の支援を受けて、海洋法令執行機関によって遂行される。前出の習近平主席の講話以降、海洋に関する多くの新たな措置がとられてきた。実証的な証拠なしに因果関係を断定するのは時期尚早だが、少なくとも、例えば、最近の南シナ海における埋め立て工事―これは係争海域における海軍のプレゼンス増大に繋がる―や、2014年5月の石油掘削リグ、HYSY981を護る中国海警局の巡視船に対する海軍の支援など、これまで検討してきた「経略海洋」の範疇に属する措置である、ということは言えよう。従って、政府資料やその他の権威ある文書に「経略海洋」なる用語が見られるということは、少なくとも習近平政権の残りの期間においては、これを追求していく価値があると言える。

記事参照:
Jinglue Haiyang: The Naval Implications of Xi Jinping’s New Strategic Concept

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子