海洋情報旬報 2014年11月21日~30日

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1121日「EU、ソマリア海賊対処活動を2年間延長」(The Maritime Executive.com, November 21, 2014)

EU閣僚理事会は11月21日、ソマリア海賊対処活動、Operation Atalantaを2016年12月まで2年間延長することを決定した。Operation Atalantaの主目的は、ソマリアへの人道支援物資を運ぶ世界食糧計画の輸送船の護衛とソマリア沖の海賊活動の抑止と制圧だが、ソマリア沖での漁業活動の監視にも貢献している。2008年の活動開始以来、海賊活動の制圧は大きな成果を上げてきたが、海賊の脅威は依然残っており、海賊ビジネスモデルにも多大の損害を与えたが、完全に破壊されたわけではないと見られている。このため、EU理事会は、Operation Atalantaに対して、現在の戦力の範囲内で、「アフリカの角」地域におけるEU特別代表に対する支援を含む、ソマリアへのEUの包括的なアプローチに対する広範な支援、及びソマリアにおける海賊活動の根本原因除去のための国際的取り組みに対する支援など、新たな副次的任務を付与した。Operation Atalanta を遂行するEU艦隊、EUNAVFORの2年間の費用は1,470万ユーロと見積もられている。

記事参照:
EU Counter-Piracy Operation Extended

1121日「『軍隊化』する中国海警局―米海大専門家論評」(The Diplomat, November 21, 2014)

米海軍大学、The China Maritime Studies Institute (CMSI) のRyan D. Martinson研究統括官は、11月21日付のWeb誌、The Diplomatに、“The Militarization of China’s Coast Guard”と題する論説を寄稿し、中国海警局が文民機関というよりも、軍事組織化しているとして、要旨以下のように論じている。

(1) 中国海警局 (“China Coast Guard”) の新造巡視船が定期的に就役してくるために、中国海警局が完全な意味での組織体として未だ完成していないということを忘れがちである。4つの海上法執行機関の機能を再編された国家海洋局の下に統合するという2013年3月の法律は、行動計画というよりも公約であった。必要な幾多の困難な意思決定が手付かずであり、多くの細部事項が具現化されなければならない。その責任の多くは、初代海警局長の孟宏偉と国家海洋局長兼海警局政治委員の劉賜貴にかかっている。国務院は4カ月後の2013年7月に、海洋局再編計画の改訂版を発表した。改訂版は、2つの組織の機構計画の概要を示したものだが、海警局の3つの分局(北海、東海、南海)の定数を1万6,296人と正確に記している以外は、非常に不明確なものである。

(2) 最も大きな未解決の疑問は、中国海警局とはどのような種類の組織になるのかということである。海警局を創設するために4つの部局が統合された。これら部局は、全く異なる組織に属し、それぞれの構成人員は異なる組織文化を有し、そして異なる任務を遂行するよう訓練されてきた。海監総隊と漁政総隊は行政機関であり、その要員の多くは正規雇用と契約人員からなる文官である。彼らの法的権限は民事上の処罰に限られている。旧海上公安巡邏大隊であった辺防海警総隊は、人民武装警察の一部門である辺防部隊の海上部隊である。これらは「準軍隊」である。これらは、軍隊のように見え、そのように行動している。実際、軍隊の階級を持ち、「現役」と呼ばれており、その上に警察権も有している。第4の組織は、密輸などを取り締まる海関総署緝私局である。

(3) 新しい中国海警局は、文官が主要ポストを占める行政機構となるのか。中国海洋局内部の状況がその可能性を示唆している。あるいは、捜査し、拘束し、懲罰を与える権限を有する軍事組織になるのか。公安部の幹部である孟宏偉が局長に任命されたことから、このような見方にも説得力がある。この疑問に対する答えは、単なる疑問の解明に止まらない重要な意味を持つ。中国は、海洋法令執行部隊を、シーパワーの構成要素の1つとして、実際、第2海軍のように活動させている。これらの部隊は、中国が主張する管轄海域を哨戒し、管理することによって、島嶼と海洋境界の画定を巡る紛争において中国の立場を擁護し、増進している。今日まで、「権益擁護(中文:維権)」任務は、軍人や警察官ではなく、ほぼ完全に文官によって実施されてきた。こうした態勢の変化は、他の紛争当事国に極めて現実的な影響を及ぼすことになる。

(4) 中国の政策決定者は単一の属性を持つ組織として統合された海洋法令執行機関の創設を望んでいたようであるが、現在のところ、そのようなそのような組織は存在しない。中国海警局は現在、4「龍」全てからの人員と部隊からなるパッチワークのような機構になっている。中国の定期刊行物が何時も報じるところによれば、中国魚政総隊、辺防海警総隊、海関総署緝私局そして海監総隊の第一線部隊は、しばしば中国海警局への統合を表象するために船体や救命具の塗装の塗り替えなどを施しただけで、統合前に遂行していた任務を遂行しているという。より高位のレベルにおいても、ある程度の統合が進められているが、統合以前のカラーの制服が未だ着用されており、統合前の機関が混合しているままであることを示している。確実なことは、各機関間の調整が大幅に改善されたことである。

(5) 中国海警局は11月に、組織の将来方向を窺わせるWebサイトを立ち上げた。それによれば、海警局は、2015年から700人の大卒男女を雇用する。選考基準は極めて厳しく、党員か共産主義青年団のメンバーで、海洋工学、医療、法律、心理学そして外国語(英語、日本語、ベトナム語、マレー語及び朝鮮語)などの知識が求められる。採用されれば、1年間の訓練コースを経て、海警局の士官に任官することになろう。結局、将来の中国海警局は軍事組織となろう。そのほとんどの構成員は、人民武装警察のような規律、組成及び訓練を受けた要員で占められることになろう。Webサイトによれば、これら若い士官は、中国が管轄権を主張する300万平方キロの海域の如何なる場所においても、海警局が果たすべき全ての任務において活動することになろう。5年間の勤務期間中に、彼らは、北京の海洋局にある中国海警局司令部、中国の沿海部の省、自治区あるいは天津、上海両直轄市にある11個の海警総隊の1つまたはそれ以上、あるいは3つある海警分局の1つで勤務することになる。彼らは、麻薬の密輸を阻止し、市民の争議が暴動に発展するのを阻止し、漁業規制を執行し、中国沿岸から数百カイリ離れた係争海域を行動する外国船と対峙し、そして拘束することもあろう。彼らは、こうした任務のほとんどを武装公船のブリッジから行うことになろう。

(6) 中国は、洋上の公船に武装警察官を配置する最初の国ではない。しかしながら、見逃してはいけないことは、中国の海洋法令執行機関の軍事化が、近隣諸国との安定した関係を損ねても、海洋における「権益擁護」を強化する政策を推し進めようとする国家戦略の一環だということである。2014年の初めの頃、前海監総隊副総隊長(党委書記)で、現中国海警副局長の孫書賢は、中国海警総隊を軍組織にすることは外国の「中国脅威論」に新たな材料を提供することになり賢明ではない、と警告していた。

記事参照:
The Militarization of China’s Coast Guard

11月23日「中国、永暑礁で大規模埋め立て工事」(The New York Times, November 23, 2014)

米紙、The New York Times(電子版)は11月23日付で、中国が南シナ海の永暑礁 (Fiery Cross Reef) で進めている大規模な埋め立て工事について、要旨以下のように報じている。

(1) 中国本土から500カイリ離れた小さな岩礁、永暑礁 (Fiery Cross Reef) で、中国は大規模な埋め立て工事を進めており、完成すれば、軍用機の発着が可能になると報じられている。IHS Jane が11月20日に公表した新しい衛星画像では、南沙諸島の永暑礁で長さ約9,850フィート、幅985フィートの新しい人工島の建設が見られた。IHS Janeによれば、新しい島には滑走路やエプロンを建設することができると見られ、また、軍艦を接岸させるに十分な港も建設しているという。IHS Jane は、中国がサンゴ礁や砂州を埋め立てて、哨戒機の展開拠点として、また海軍艦船の補給ステーションとして利用可能な少なくとも3つ人工島を建設している、と指摘している。IHS Janeは、永暑礁における埋め立てが最大規模であり、ベトナムやフィリピンなど領有権主張国を威嚇する狙いがある、と見ている。

(2) 中国は、世界で通航量の最も多い貿易ルートである南シナ海のほぼ90%に対する領有権を主張している。これは「9段線」に基づく主張であるが、周辺諸国は、南沙諸島や永暑礁を含め、中国の「9段線」を認めていない。ワシントンの戦略国際問題研究所の上級顧問、Bonnie S. Glaserは、永暑礁での滑走路建設計画を、中国が将来的に設定すると見られる南シナ海での防空識別圏 (ADIZ) を監視するためと見、滑走路の建設が南シナ海におけるADIZに対する監視能力を強化することになろう、と指摘している。中国は2013年11月に、尖閣諸島の上空を含めた東シナ海において一方的な ADIZの設定を発表した。以来、西側の専門家は中国が南シナ海においてもADIZを設定するかどうかを議論してきたが、ほとんどの専門家は、中国が近い将来に同様の措置をとることはないであろうと予想していた。しかし彼らは、中国が本土から遠く離れた南シナ海における ADIZを海、空軍が監視する時に備えて、監視施設や支援設備を建設できるように、島嶼や珊瑚礁を埋め立てていることに注目している。

(3) 南沙諸島における中国の埋め立て工事を中止させる狙いから、オバマ政権は2014年初め、南シナ海における全ての領有権主張国に対して係争中の島嶼における建築工事を凍結するよう提案したが、中国はこれを拒否した。Glaserは、永暑礁での埋め立て工事を、アメリカの凍結提案に対する中国の反発の好例である、と指摘している。南沙諸島は16万平方マイルに広がる海域に数百の珊瑚礁、岩礁、砂州と小さな島嶼が散在しており、中国よりはむしろフィリピン、ベトナムあるいはマレーシアに近い海域である。米MITのM. Taylor Fravel准教授は、南シナ海に領有権を主張する国の内、ブルネイと中国だけが占拠島嶼に滑走路を持っていない*、と指摘している。新しい衛星画像が捉えた永暑礁の埋め立て工事から、中国がここに滑走路を建設すれば、フィリピンが占拠する島嶼 (Pagasa Island) のプロペラ機しか運用できない滑走路よりも、より大型の航空機を運用することが可能になろう、とFravelは見ている。IHS Jane は、永暑礁に滑走路が建設されるのは疑問の余地がなく、「滑走路が完成すれば、中国は、他の領有権主張国を威嚇し、あるいは少なくとも紛争が交渉によって解決される場合でも、遙かに強い立場から交渉に臨めることができるからである」と指摘している。

記事参照:
China Said to Turn Reef Into Airstrip in Disputed Water
Photo: Airbus Defence and Space imagery dated 14 November 2014 shows Chinese land reclamation operations under way at Fiery Cross Reef in the South China Sea. Multiple operating dredgers provide the ability to generate terrain rapidly. Operating from a harbour area, dredgers deliver sediment via a network of piping.
備考*:台湾は太平島 (Itu Aba island) に、フィリピンはPagasa island(中業島)に、マレーシアはSwallow Reef (弾丸礁)に、ベトナムはSouthwest Cay(南子島)にそれぞれ滑走路を持っている。

11月24日「モディ首相のフィジー訪問、インドの南太平洋戦略―インド人専門家論評」(RSIS Commentaries, November 24, 2014)

インドのThe Observer Research Foundation主幹研究員で、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の連携教授、C. Raja Mohan, C. Raja Mohanは、11月24日付の RSIS Commentariesに、“PM Modi in Fiji: India’s Strategic Foray in the South Pacific”と題する論説を寄稿し、インドのモディ首相のフィジー訪問を南太平洋に対するインドの戦略アプローチの始まりと見、要旨以下のように論じている。

(1) インドのモディ首相が11月19日から2日間フィジーを訪問したが、この訪問は、南太平洋を巡る大国間の地政学的な抗争にインドを巻き込むことになろう。インド首相の最後のフィジー訪問は1981年であったが、それ以来、フィジーとその周辺情勢には多くの変化があった。1980年代後半以降にフィジーで起きた政治的混乱と、契約労働者として19世紀後半からフィジーに来たインド人移民と原住民との間の紛争激化の中で、インドは、フィジーにおける影響力を失うことになった。モディ首相の訪問は、ここ数年間進められてきたフィジーとの建設的な関係構築の一環として実現した。フィジーでは、8年前のクーデターで権力を掌握したバイニマラマ国軍司令官が2014年3月に退役し、9月の総選挙で、インド人コミュニティを含む少数民族の支援を得て勝利した。フィジーの民主主義回復を背景に実現した訪問で、モディ首相は、両国間の関係改善を促進する措置として、開発パートナーシップの拡大、航空路線の拡充やフィジー国民の訪問ビザ発給基準の緩和などを発表した。

(2) 南太平洋は長い間、大国間の抗争とはかけ離れた地域であったが、今や太平洋で展開されている大国間抗争の戦域として浮上している。就中、ここ数年の中国の急速な台頭と、それに伴う域内の島嶼国家に対する大々的な支援攻勢は、他の大国を困惑させてきた。当初、南太平洋地域は、島嶼国家による中国と台湾との外交関係樹立を巡る争いの場であったが、今や新たな戦略的価値を持つ地域となっている。広大なEEZを持つ太平洋の島々は、重要なシーレーンを跨ぐ数百万平方キロの海洋空間を占めている。幾つかの島嶼は、軍事力投影のための理想的な立地にある。また、太平洋の島々は、通信情報の収集や宇宙空間の活動をモニターする上で、格好の位置にある。中国にとって、太平洋における戦略的影響力の拡大を図り、この地域におけるアメリカの軍事的優位を制約し、沿岸域の天然資源へのアクセスを確保するために、太平洋の島嶼国家は優先度の高い存在となってきた。実際に、モディ首相のフィジー訪問直後には、中国の習近平主席の訪問があり、中国とフィジーの関係強化が謳われた。中国はこの数年間、軍民両面での広範な援助プログラム、そして海軍部隊の頻繁な派遣や海洋インフラの拡充などを通じて、南太平洋地域における存在感を高めてきた。南太平洋における中国の戦略的関心は、域内島嶼国家にとって国際関係の選択肢を広げる機会となっており、またオーストラリアとニュージーランドからの政治的圧力に抵抗する手段ともなっている。 フィジーは、意識的に「北方重視 (“look north”)」方針を明確にし、中国カードを十分に活用している。

(3) 中国が南太平洋での存在感を高めるに従って、アメリカは、冷戦後、無視してきたこの地域に対する姿勢を変えた。アメリカが2012年に「アジアへの軸足移動」政策を明らかにした数カ月後に、当時のクリントン国務長官は、太平洋諸島フォーラムの年次会合に出席した。インド洋・太平洋地域に対する影響力を巡って中国と競り合う日本も、この地域との連携を強化している。冷戦終結後、この地域でフリーハンドを持っていたオーストラリアとニュージーランドも現在、それぞれこの地域に対する政策を見直している。モディ首相がフィジーを離れて48時間も過ぎない間に、バイニマラマ首相は中国の習近平主席を招いた。フィジーと他の島嶼国家は、この地域におけるインドの強いプレゼンスを熱望しているが、経済支援を期待するには、インドが中国に敵わないということを熟知している。しかしながら、南太平洋の島嶼国家は、中国の援助に過剰に依存することも警戒している。インドのプレゼンスは南太平洋の地域バランスの将来を見通す上で重要であり、域内の島嶼国家にとって、より多くの経済的、政治的な選択肢を提供するものである。モディ首相は、フィジーでの一連の会談を通じて、インドの経済援助プログラムの増額と、フィジーとの防衛協力の強化を約束して、インドが南太平洋との歴史的な連携を強化し、戦略的パートナーシップを築いていく用意があることを強調した。

記事参照:
PM Modi in Fiji: India’s Strategic Foray in the South Pacific
RSIS Commentaries, November 24, 2014

1125日「シンガポール、南シナ海問題の『公正な仲裁者』となり得るか―RSIS論評」(RSIS Commentaries, November 25, 2014)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のDaniel Wei Boon Chua 研究員は、11月25日付の RSIS Commentariesに、“The South China Sea Disputes: Singapore as an “Honest Broker”?”と題する論説を寄稿し、南シナ海の領有権問題について、シンガポールは中国と東南アジア諸国間における「公正な仲裁者」になるとの意思表示をしたが、シンガポールがそうした役割を果たすことができるか、またそうすべきか、ということについて、要旨以下のように論じている。

(1) ミャンマーで11月に開催されたASEAN首脳会議で、シンガポールのシャンムガム外相は、南シナ海の領有権問題について、シンガポールは領有権紛争の当事国ではないので、「公正な仲裁者 (an “honest broker”)」となり得ると述べた。果たして、シンガポールが公正な仲裁者であることが可能か、またそのような役割を果たすことがシンガポールの国益に資することになるか。シンガポールは、南シナ海で領有権を主張していないが、地域の安定には強い関心を持っている。シンガポールは、その経済が貿易に大きく依存していることから、全ての国際的な航路における航行の自由に対する侵害には極めて敏感である。従って、シンガポールに隣接する海域である南シナ海の安定は、シンガポールの経済的利益にとって死活的に重要である。

(2) では、シンガポールは、「公正な仲裁者」であることが可能か。小国ながら、シンガポールは、ASEANの共同体としての意見の形成に大きな役割を果たしている。ASEAN内部の意見対立は、共同体を分裂させる可能性がある。更に、シンガポールは、中国との緊密な外交関係を発展させてきており、領有権紛争が平和的な解決を実現できなければ、思わぬ影響を受けることになろう。シンガポールは特定の紛争当事国に与しているわけではなく、各当事国に問題を平和的に解決するよう訴えている。シャンムガム外相は、「シンガポールの視点からすれば、どの島嶼をどの国が領有しているかは問題ではないが、係争海域で相互に対峙する艦艇が発砲し、実際の戦闘に発展するようなことがないように、紛争を平和的に解決することを強く望んでいる」と語っている。もちろん、外相は公正な仲裁者としての役割について詳細に言及しなかったが、外相の発言は、南シナ海の紛争当事国に受け入れられているわけではない。

(3) シンガポールが仲介者としての資質を備えているかどうかにかかわらず、仲裁者としての成否は関係当事国がどう評価し、期待するかにかかっている。中国とASEANの領有権主張国がシンガポールを真の中立の調停者として見るかどうかについては不明である。シンガポールは南シナ海問題の当事国ではないが、この地域におけるシンガポールの利害はその中立性に疑問を投げ掛ける。南シナ海の安定と航行の自由に対して最も影響力を持つ紛争当事国は、シンガポールの態度を左右し得る潜在力を持つ。しかも、シンガポールのような小国では、調停結果がより強力な当事国にとって不利なものとなった場合、その国が調停プロセスを行き詰らせないようにするには、その能力に限界がある。その上、南シナ海問題で公正な仲裁者の役割を演ずることは、シンガポールの国益に反することになるかもしれない。第1に、一方の当事国に有利な調停結果は、シンガポールの中立性に疑念を生じさせることになろう。第2に、ASEAN加盟国が関わる紛争に対して仲裁役を務めることは、内政不干渉というASEANの原則を試練に晒すことになる。結局、仲裁役を務めることは、紛争当事国の国民と他のASEAN加盟国が仲裁プロセスをどのように解釈するかによって、成否が決まる試みとなろう。

(4) シンガポールは、50年近い域内と世界での活発な外交活動を通じて、しばしば「体重を上回る強力なパンチ (“punch above its weight”)」を繰り出すことで知られてきた。シンガポールは、自国の死活的な国益を護るために、必要な時にはあえて危険を冒し、そして率直な批評と巧みな外交を通してその存在感を高めてきた。南シナ海が完全な紛争海域になるのを傍観していれば、シンガポールの経済発展と外交関係は深刻な打撃を受けるであろう。紛争事態になれば、ASEANの団結力も、大いなる試練に晒されよう。シンガポールは、南シナ海問題の単独の「公正な仲裁者」でなければならないということはない。南シナ海に利害関係をあまり持たない、あるいは全く持たないアジア以外の国も、仲裁役に相応しいであろう。それ故に、シンガポールが「公正な仲裁者」になろうという、シャンムガム外相の発言は、シンガポールの一方的な考えであり、物欲しげで尊大であるとして、払いのけられるべきではない。それは、全ての東南アジア諸国に裨益する地域の安定に向けた、シンガポールの実際的かつ継続的献身を反映するために必要な措置である。

記事参照:
The South China Sea Disputes: Singapore as an “Honest Broker”?
RSIS Commentaries, November 25, 2014

11月25日「中国の東シナ海防空識別圏設定から1年―米国際法専門家論評」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, November 25, 2014)

米コロンビア大学ロースクールのMatthew C. Waxman教授は、シンクタンク、戦略国際問題研究所 (CSIS) の11月25日付、Asia Maritime Transparency Initiative (AMTI) に、“China’s ADIZ at One Year: International Legal Issues”と題する論説を寄稿し、中国が2013年11月に東シナ海に防空識別圏 (ADIZ) を一方的に設定してから1年を迎えた現状を、国際法専門家の視点から要旨以下のように論じている。

(1) 中国が東シナ海の広域を覆う防空識別圏 (ADIZ) 設定を突然宣言してから1年になる。ADIZ設定から1周年を迎えたことを契機に、東シナ海のADIZの国際的な合法性とそれに適用可能な国際法規について言及しておきたい。一般的に、中国のADIZの設定はそれ自体、国際法上違法ではない。しかしながら、中国が東シナ海のADIZ設定で求めた要件は、他国による最近の慣行よりも非常に広範なもので、中国は、国際法に違反する特別な措置でADIZを実効あらしめることができるとしている。国際法はADIZについて未だ多くを規定していないので、中国、アメリカ、日本及びその他の国の間で実施されている慣行が、アジアの将来のADIZのための重要な基準になるであろう。

(2) ADIZの法的性格や制約に関する国際法規については、通常、航空機は飛行計画を提出し、飛行空域を管制する当該国の航空管制官に位置情報を報告することが求められているが、一部確立された規則が適用されているものの、詳細な規則は明確にはなっていない。通常、アメリカ、日本そして韓国を含む20数カ国は、一般的に領空または空路への侵入といった敵対的な行為から防衛するために、何らかの形でADIZを設定している。これらのADIZが当該自国の領空に隣接して設定されている限り、ADIZは論議の対象になることはない。しかしながら、ADIZを当該国の一方的な規制に基づいて国際的慣行に反して管制することは、ADIZに関する明確で広く認められた国際的規則とは言い難い。ADIZの設定自体が禁止されているわけではないが、ADIZが国際法規に違反するような方法で運用される可能性があるからである。中国は自国のADIZ空域を飛行しているが領空(あるいは他国との係争空域)には未だ進入していない航空機に対して特別な識別要請を強いているが、これは典型的なADIZの要件を超えている。しかも、これは、民間航空機に対してだけでなく、通常、他国によって規制されない(軍用機を含む)の公用航空機にも適用されるとしている。特に、中国のADIZに関する国際法上の懸念は、もし中国が自国の領空でない空域を自由に通過するのを妨げるような形でADIZを管制するならば、それが公海の上空飛行の自由を侵害することになるという点である。慣習国際法と(中国も加盟する)国連海洋法条約 (UNCLOS) 第87条は、上空飛行の自由を保証している。ADIZ設定を発表した際に、管轄する中国国防部は、指示に従わない場合、中国軍が「防御的緊急処置措置」と採ると宣言した。このような攻撃的な声明は、中国空軍が他国の公海上空飛行権に干渉するのではとの懸念を引き起こした。特に、係争海域の上空や他国のADIZと重複している空域において、中国のADIZ管制方法は事故あるいは不慮のエスカレーションによる危機を引き起こす懸念がある。また、「防御的緊急処置措置」についての攻撃的な声明を通じて、ADIZ空域に常続的な軍事プレゼンスを維持し、そこに一定の強制的な要件を設定することで、中国は、ADIZ空域の下にある他国との係争領域に対する支配を、時間をかけてより強化しようと意図しているのかもしれない。上空で既成事実を確立することで、下にある係争領域に対する交渉上の立場を強化することになるかもしれないが、上空を支配することで下にある係争領域に対する権利を生み出す国際法上の根拠は全くない。

(3) 中国のこうした動向がもたらす最大の危険は、領有権紛争に大きな影響を与えるということではない。最も危険なのは、係争相手国に隣接する空域での中国軍の空中哨戒活動の拡大が、海上での中国海軍の行動のように、容易にエスカレートしかねない、事故、挑発行為あるいは誤算や誤解を引き起こしかねないということである。 そのため、海上での活動と同様に、空域での活動に関して、実行可能な航行規則と危機における意思疎通メカニズムを確立することが重要な課題となっている。法的拘束力のない行動規範でも、東シナ海のADIZがもたらす危険性を軽減するのに役立つであろう。こうした規範は、他の空域にも適用できるモデルとなろう。ADIZに関する詳細で拘束力のある国際法規がない現状では、特に南シナ海のような領有権紛争空域に中国や他の国々が新たなADIZを設定する場合に、モデルとして適用できるであろう。

記事参照:
China’s ADIZ at One Year: International Legal Issues

11月30日「中国の国産空母建造を巡る種々の憶測―中国紙報道」(Global Times, November 30, 2014)

中国の人民日報傘下の英字紙、Global Times(電子版)は2014年11月30日付で、中国が2012年に就役させた空母「遼寧」に加えて、新たに国産空母の建造を計画している徴候があるとして、中国の国産空母計画について、建造隻数、原子力推進か通常型か、発着艦の方式などを巡る憶測について、要旨以下のように報じている。

(1) 中国がウクライナから購入した空母を「遼寧」として就役させて以来、専門家の間で、中国の国産空母の建造を巡って憶測が高まっていた。中国当局は、これまで国産空母の建造について公式に認めたことはないが、建造を否定することもしていない。国防部報道官は8月の会見で、「遼寧」が中国初の空母であるが、「今後、増えることは確かである」とし、中国は国防の所要に基づいて空母計画を検討すると述べた。軍事専門家は、基本的な空母空任務部隊を1個編成するためには、少なくとも3隻の空母を必要とすると指摘している。人民解放軍軍事アカデミーの研究員によれば、少なくとも3隻の空母があれば、1隻が常時展開し、2隻目が訓練用に、そして3隻目が再補給や補修に回すことが可能になる。また、中国は東シナ海、南シナ海及び北方海域でそれぞれ1隻、計3隻の空母を配備しなければならないという見方もある。要するに、「遼寧」が日々の訓練のために使用される一方で、これら3つの海域に各1個の空母任務部隊を展開させる必要があるというものである。2014年2月のロシアのメディアに載った記事では、中国は「遼寧」を含め、4隻の空母を保有する計画であるとしている。カナダに拠点を置く中国軍事情報誌、Kanwa Defence Reviewは、中国が最初の国産空母を建造するのに6年を要するが、少なくとも同時に2隻建造する能力があると見ている。現在では、中国は少なくとも2隻の国産空母を建造するというのが大方の見方である。2014年6月6日から8日まで広東省で開催された海運展示会で、多数の航空機を搭載し、カタパルト・システムを備えた空母モデルが展示されたことから、それが中国の国産空母のモデルかもしれないという憶測を呼んだ。このモデルは少なくとも中国海軍の野心の表れと見られ、国産空母を建造するという野心は疑いの余地がない。

(2) 空母は、そのサイズによって3つのタイプに類別される。超大型空母は最大のクラスで、通常、排水量が6万トン以上で、米海軍のNimitz級原子力空母がこのクラスである。排水量が3万~4万トンの空母は標準型空母で、軽空母は通常、3万トン未満である。中国軍事専門家は、中国最初の国産空母は「遼寧」級の標準型になるかもしれないと見ている。中国海軍の専門家、尹卓は、超大型空母は高価に過ぎ、技術的にも中国にとって複雑であるため対象外だ、と述べている。もう1つの憶測は、新しい空母が原子力推進になるかどうかである。米海軍の空母は全て原子力推進だが、技術的な複雑さと安全性に対する懸念は原子力空母の大きな短所である。フランスは1994年5月に排水量3万8,000トンの原子力空母、Charles De Gaulleを就役させたが、機関室の乗組員は原子炉の不具合ために年間許容量の5倍の放射線を浴びたといわれる。そして、このことが現在計画されているフランスの空母、PA2 が原子力推進でない大きな理由の1つとされる。また、ロシア海軍の唯一の使用可能な空母、Admiral Kuznetsovは、在来型推進である。軍事専門家は、中国最初の国産空母は原子力推進ではなさそうだと見ている。中国は核兵器を開発したが、原子力推進の利用は潜水艦に限定されている。現在中国の水上戦闘艦は全て原子力推進ではない。中国のメディアによれば、最近開発された大型ガスタービン・エンジンを搭載した中型在来型空母になるという。しかし、このことは将来にわたって空母に原子力推進が使われないということではなく、軍事専門家は、2隻目の国産空母に原子力推進が使われるかもしれないと予測している。

(3) 艦載機の発艦と着艦のために使われるシステムは、空母の核となる技術の1つである。米海軍の空母で使われているカタパルト・システムは、その優れたパワーと柔軟性で知られているが、高価で、技術的に複雑である。中国の「遼寧」は、より安価なスキージャンプ・システムを使用しているが、航空機のサイズ、ペイロードと燃料積載量に制約がある。中国のある軍事専門家は、国産空母が「遼寧」の設計を基本とするならば、恐らくスキージャンプ・システムを採用するであろうと見ている。しかし一方で、中国が将来の空母に使用するカタパルト技術を既に取得したとの報道もある。

(4) 「遼寧」の空母戦闘群の構成も憶測を呼んだ。空母戦闘群は一般的に空母と多数の護衛艦艇から構成されていて、それを群と定義している。米海軍の航空作戦では、空母戦闘群は通常、1隻の空母、2隻の誘導ミサイル巡洋艦、2隻の駆逐艦、1隻のフリゲート、2隻の攻撃型原潜そして補給艦から構成される。「遼寧」は、6カ月間の整備の後、10月27日に母港の青島に戻ったが、その際の中国CCTVのテレビ報道は「遼寧」戦闘群のイメージを窺わせるもので、「遼寧」は少なくとも8隻の水上戦闘艦と潜水艦の編成で航行していた。「遼寧」が戦闘群編成で姿を現したのはこれが初めてであったが、軍事専門家は、その編成は将来変化するであろうと見ている。中国は、2013年12月に「遼寧」が南シナ海に向けて青島の母港を出港した時、最初の空母任務部隊を編成した。その時の編成は、2隻の誘導ミサイル駆逐艦、2隻の誘導ミサイル・フリゲート護衛艦そして補給艦で構成されていた。1年も経たない内に、「遼寧」の護衛艦艇群の規模は5隻から8隻に増大した。現在の1個戦闘群だけでは、中国の将来の所要を満たす上で十分ではない。中国は、「遼寧」と共に訓練させるために、多くの旅洋2型(052D型)駆逐艦と舟山級(054A型)フリゲートを建造しており、将来空母が就役すれば、護衛部隊はすぐに編成することができよう。

(5) 中国の空母運用の地理的範囲について、軍事専門家は、南シナ海を理想的な海域と見ている。南シナ海を巡る領有権紛争の激化は、中国にとって海洋権益擁護のための空母を必要とすることになろう。中国海軍が南シナ海における展開戦力を強化しているとの報道は、既に多く見られる。例えば、2014年3月に新型の旅洋2型誘導ミサイル駆逐艦の1番艦「昆明」が就役し、南海艦隊に配属され、同艦隊の3隻目の誘導ミサイル駆逐艦となった。2013年には総計17隻の新しい軍艦が就役し、その多くが南海艦隊に配属された。中国当局は中国の空母が特定の目標を意図して建造されることはないと主張しているが、軍事専門家は、中国海軍は中国の海洋権益擁護のためにインド洋にアクセスできるように、いわゆる「第1列島線」を突破する必要がある、と指摘している。いずれにしても、「遼寧」によって得られる中国海軍の経験は、中国の将来の国産空母建造にとって大きな意味を持つ。軍事専門家は、一度国産空母を完成させ、強力な空母戦闘群として就役させることができれば、中国の軍事インフラは急速のその基盤を成熟させていくことになろう、と見ている。

記事参照:
Heeding defense needs, China’s aircraft carrier ambitions appear to move closer to reality

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子