海洋情報旬報 2014年10月21日~31日

Contents

10月23日「永興島での滑走路延伸、将来的な南シナ海へのADIZ設定の布石か―米専門家論評」(China Brief, October 23, 2014)

アメリカの中国軍事問題専門家であるPeter Woodは、米シンクタンク、The Jamestown Foundationの10月23日付のChina Briefに、“China’s ‘Eternal Prosperity’: Is Island Expansion a Precursor to South China Sea ADIZ ?”と題する論評を寄稿し、最近中国が永興島 (Woody Island) の滑走路を延伸したり施設を建造したりしているのは、同島への戦闘機や巡視船の配備を意図したものであり、これは将来的な南シナ海へのADIZ設定を見越した動きであると見、要旨以下のように論じている。

(1) 軍用滑走路の延伸と呉勝利中国海軍司令員の視察によって、南シナ海の真ん中に位置する小島が、世界各国のマスメディアから注目を浴びている。中国では永興島と呼ばれるWoody Islandは、中国の南シナ海戦略において重要な役割を担っている。同島は、中国が南シナ海で実効支配する最大の島嶼であり、しかも滑走路や付帯施設の建設に十分な地積を有する数少ない島嶼であることから、中国軍の拠点として機能している。Woody Islandには、現在、海南島にある重要施設の陵水空軍基地と同規模の滑走路が整備されている。中国は、南シナ海における自国の領有権主張を一層強化するため、恐らくJ-11(殲撃11)戦闘機かそれ以上の大型軍用機の配備に備えるべく、滑走路の拡張を行っていると見られる。2013年11月に尖閣諸島を巡って日本との対立がエスカレートした時のように、こうした空軍力は将来的に、中国が領有権紛争のエスカレーションを決断した時には、南シナ海における防空識別圏 (ADIZ) 設定を裏付けることになろう。

(2) Woody Islandの大きさ以上に重要なのがその位置であり、同島は、8月19日に米海軍のP-8哨戒機が重武装した中国軍のJ-11BH戦闘機に異常接近された空域から、南に100カイリしか離れていない。また、2013年12月にUSS Cowpensが中国海軍の艦艇と異常接近したのも、同島から100カイリしか離れていない海域であった。更に、中国軍機のパイロットが死亡し、また米軍海軍機も海南島に緊急着陸を余儀なくされた、2001年のEP-3電子偵察機衝突事件も、同島近くの上空で発生している。Woody Islandの滑走路は現在、400メートルほど延伸されているが、これは米軍の南シナ海における監視・偵察活動を抑止したり、将来的なADIZの設定に備えたりといった、増大する同島の役割に対応するためである。この滑走路の延伸によって、様々な戦闘機や爆撃機の離発着が可能となり、またYJ-8(鷹撃-8)対艦ミサイルのような大型兵器やより多くの燃料を搭載することも可能になる。少数の戦闘機が常駐するようになれば、米軍の監視・偵察活動に対する迅速な要撃が可能になるであろう。中国の軍用機の大半は現在、何の問題もなく同島の滑走路の使用が可能であり、軍編成上そして戦略的な観点から、海軍航空隊のJH-7(殲轟-7)戦闘爆撃機(第9航空師団)と2機のJ-11BH(現在はJ-15(殲撃-15)と呼称)戦闘機(第8海軍航空師団)が、対艦任務と広域哨戒に最も適していると見られる。Woody Islandの滑走路の延伸は、係争海域における北京の領有権主張を強めるため、中国軍機の長距離広域哨戒を可能にするものである。同様に、中国が現在建造している大型の巡視船は、領有権を争う係争海域での長期間の航行を可能にし、また、南沙諸島のFiery Cross Reef(永暑礁)などで実施している人工島造成プロジェクトは、南シナ海における中国占拠島嶼への中国軍の常駐を可能にするであろう。要するに、中国は、領有権主張の正統性を確保するために、島嶼、周辺海域そして上空に「(中国が)存在している」ことを誇示しようとしているのである。

(3) 南シナ海におけるADIZを実効あらしめるためには、不法侵入した航空機を即座に探知し、要撃できる能力如何にかかっている。J-11戦闘機がWoody Islandに配備されれば、同機は9段線によって囲まれた領域の全てをカバーすることができる。前進拠点としてのWoody Islandは、中国軍機にとって、海南島や広東省から飛来する場合に比べ、より広範囲な飛行空域と迅速な対応を可能にする。哨戒空域を中国本土や海南島からより外洋方面へと拡大することによって、南シナ海におけるADIZ設定はより現実味を帯びることになるし、また中国軍機の活動はより挑発的になるであろう。

(4) 更に、Woody Islandでは海軍施設も増設されている。ここ数年間で、より大型の艦船が接岸できるように拡張された同島の埠頭は、ベトナムと領有権を争う海域に対する哨戒のために、中国海警の新たな巡視船を配備できるようにするためであろう。もう1つ重要なことは、同島が晋級弾道ミサイル原潜 (SSBN) が配備されている海南島三亜の海軍基地から近く、対潜水艦戦 (ASW) の面からも拠点になるということである。整備されつつある中国の潜水艦による核抑止力は、海南島の南方の深海部分までどれだけ自由に移動し隠れることができるか、あるいは少なくとも相手国に探知されずに他の海域まで移動できるかどうかにかかっている。Woody Islandの位置は、米軍が三亜に配備されている中国の潜水艦の動向を監視している監視対象海域の南方にあり、同島に配備された航空機は、中国の潜水艦の動向を探る米軍の偵察機などに対して、より効果的に監視、要撃することが可能となる。

(5) こうしたWoody Islandにおける施設の拡充と並行して、北京は、同島における施設拡充の意図を隠蔽するために、そして中国の軍事拠点というよりも中国の領土であることを公式にアピールするために、民間の研究者を同島に居住させている。この点で、Woody Islandは、同島を巻き込むような如何なる衝突事案も、中国領土に対する直接的な攻撃と同義であると主張できるような、巧妙な「トリップワイヤ」になっている。中国がWoody Islandの施設拡充に力を入れているのは、中国にとって同島が有する戦略的価値を反映するものであり、実効支配する海域を沿岸域からより外洋へと拡張していこうとする北京の長期的な意図の表れでもある。滑走路の延伸という中国の決定は、より大型でより能力の高い航空機を配備するという必然性からきており、より影響力を強め、将来的には南シナ海にADIZを設定したいとする北京の意向の表れである。

記事参照:
China’s ‘Eternal Prosperity’: Is Island Expansion a Precursor to South China Sea ADIZ?
画像:2014年10月3日の永興島

10月23日「『日米防衛協力のための指針』の改訂―豪専門家論評」(The Strategist, October 23, 2014)

豪ASPIの上席研究員、Benjamin Schreerは、10月23日付のThe Strategistに、“Revising the guidelines for US–Japan defence cooperation: a ‘global’ alliance?”と題する論評を寄稿し、先般発表された「日米防衛協力のための指針の見直しに関する中間報告」について、要旨以下のように述べている。

(1) 日米両政府は10月8日、「日米防衛協力のための指針の見直しに関する中間報告 (The Interim Report on the Revision of the Guidelines for US-Japan Defense Cooperation)」を発表した。この改訂は1997年以降初めてのことであり、アジア太平洋地域のパワーバランスの変化を反映したものとなっている。この地域の国々は、日米同盟が現実的にも概念的にも変化していることにかなり注目している。これらの国々には、地域レベルや世界レベルの両面において、長い間、日本の安全保障や防衛政策にとって、より「アクティブ」なサポート役となってきたオーストラリア政府も含まれている。

(2) この中間報告では、日米同盟が、日本に対する(例えば、中国や北朝鮮からの)大規模な侵略からの領土防衛といった領域から、その対象が拡張されていくという展望が示されている。それは、「パートナーシップの拡大に向けた戦略的ビジョン」や、「東アジア地域やそれ以外の地域における持続的かつ積極的な貢献活動に向けた、国際的な協力関係のプラットフォームとなる同盟関係の構築の必要性」といった考えが基盤となっている。中間報告は、将来的な防衛協力のあり方について、①切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米共同の対応、②日米同盟のグローバルな性質、③地域の他のパートナーとの協力、といった点に焦点を当てるべきだと強調している。更に、興味深いことに、中間報告では、地理的な協力関係という観点を広げるという認識を背景として、1997年のガイドラインの土台となった「日本を取り巻く環境」といった点には触れられていない。中間報告は、「切れ目のない対応」が求められる事態について、「日本の平和と安全に影響を及ぼす状況、地域の及びグローバルな安定を脅かす状況、又は同盟の対応を必要とする可能性があるその他状況」に言及している。これは換言すれば、少なくとも理論上は、日本は、例えば艦載弾道ミサイル防衛網による支援など、敵対的環境にある米軍部隊に対する保護を求められるかもしれないということを意味する。また、同中間報告は、「地域あるいは国際的な平和と安全保障」の増加への配慮に言及しており、当該協力の対象分野は、①平和維持活動、②国際的な人道支援・災害救援、③海洋安全保障、④能力構築、⑤情報収集、警戒監視及び偵察、⑥後方支援、⑦非戦闘員を退避させるための活動などが挙げられているが、これらに限定されないとされている。

(3) よりグローバルな日米同盟の登場はあり得るのだろうか。日米同盟の真のグローバル化、あるいは地域におけるより積極的な行動には、幾つかの障害が立ちはだかっている。日本の防衛政策としての「武力行使の新たな3要件」は、依然、集団的自衛権行使に当たって、自衛隊の行動に大きな足枷となっている。アジア地域あるいはその他の地域での不測の事態に際して、日本がアメリカ支援を決心した場合、恐らく、実際の戦闘地域の範囲外における後方支援や掃海作業といった任務に厳しく制限されることになろう。依然として、日本の防衛政策は、基本的には専守防衛である。日本の海上自衛隊の増強は、シーレーン防衛や対潜水艦戦、そして数多くの島嶼防衛のための基本的な戦力投射能力の強化など、必要な能力に的を絞った強化策である。日本の安全保障改革には、まだまだ面倒なプロセスが残っている。更に日本側には、この中間報告が同盟のグローバル化を強調しているのに対して、中国については何も触れられていないという点に、明らかな不満がある。「指針」の最終版がどのようなものになるか注目されるが、いずれにしても、それは、日米同盟や日本の防衛政策における革命的ではないにしても、漸進的な変化を示すものになることは確かであろう。

記事参照:
Revising the guidelines for US–Japan defence cooperation: a ‘global’ alliance?

1023日「北極海の海氷融解がもたらすもの―米専門家論評」(Phys.org, October 23, 2014)

科学記事専門のWebサイト、Phys.orgに、10月23日付で米Tufts UniversityのTaylor Mcneil教授が、“Melting ice cap opening shipping lanes and creating conflict among nations”と題する論説を寄稿し、北極海の海氷の融解がもたらす諸問題について、要旨以下のように述べている。

(1) 北極海の海氷の融解は、北極海経由の航路を啓開し、埋蔵資源に対するアクセスを可能にし、またエコツーリズムの可能性を高めている。しかしながら、反面、こうした状況は、北極グマやその他の動植物の地上と海の生息地を侵食するとともに、この地域の先住民の生活を脅かしている。北極圏国は、単に緯度によって定義されるだけではなく、7月の当該国の北辺領土の平均温度が華氏50度(摂氏10度)以下の国が北極圏国とされる。この定義に当てはまる国は、以下の8カ国―カナダ、デンマーク(グリーンランドとフェロー諸島)、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン及びアメリカである。アメリカはアラスカ州によって北極圏国になっているが、米フレッチャー法律外交大学院のクロッカー・スノー (Crocker Snow) は、「大部分のアメリカ人はそれを知らず、議会議員の多くもそれを知らない」と指摘し、北極圏における慎重な計画と協調的活動がない限り、北極圏はその自然の美よりも、恐るべき資源競争と環境災害のために対立抗争の場として知られるようになる可能性があると強調している。

(2) 北極圏における協力強化の場の1つは北極評議会である。評議会は、コンセンサス方式で運営され、最近成立した協力協定には、捜索・救難協力と漁業権に関するものである。しかしながら、北極評議会には執行能力がない。米アラスカ大学のダリー・ドロー (Dalee Dorough) は「評議会での対話、議論そして協定が、国際レベルから国家レベルそして地域レベルにまで浸透させなければ、これらは全く無意味となろう。私の見解では、評議会で強化されるべきはこの点である」と指摘している。アラスカのイヌイットで、国連先住民族常設フォーラム議長もあるドローは、北極圏全体の先住民の権利についても、彼らの代表には北極評議会における常任参加者の地位が認められており、彼らには評議会における交渉と決定に関して完全な発言権を持っているが、各国の現場で起こることは当該加盟国の政治情勢に依存しており、それは彼らの意向と大きく異なっている、と主張している。ドローによれば、カナダは2005年に画期的なLabrador-Inuit Land Claim Agreementを調印して、広大な土地と海に関するイヌイット族の権利と自治権を認めたが、カナダに比べて、ロシアでは先住民の基本的な権利が基本的に認められておらず、ロシア政府は土地あるいは資源に対する先住民の権利を認めていない。

(3) 北極海の海氷の融解は、そこに埋蔵されていると見られる天然資源開発競争をもたらすかもしれない。前出のスノーは、天然資源のほぼ95%に対して、北極評議会加盟8カ国が既に権利を主張している、と語る。こうした権利主張は、当該沿岸国に200カイリまでのEEZを認める国連海洋法条約 (UNCLOS) の規定に基づいている。(他の北極圏諸国はUNCLOSに加盟していないアメリカにも条約上の権利を適用することを認めている。)フレッチャー法律外交大学院学部長で元欧州連合軍最高司令官のジェームズ・スタヴリディス (James Stavridis) 退役海軍大将は、北極圏に存在すると見られる膨大な炭化水素資源の開発に関して2つの可能性を挙げ、「現在進められている国際的協調によって資源開発が注意深く管理されるならば、資源開発は上手くいくであろう。しかしながら、管理が杜撰であれば、資源開発は非常に脆弱な生態系を破壊することになろう」と指摘している。石油と天然ガス開発の可能性が高ければ、石油流出と環境災害の危険性も高い。スノーは、「北極海で重大な石油流出事故が発生すれば、どうなるか分からない。冬期は一日中暗く、極寒での世界である。誰もが抱く本当の恐怖は、石油流出を封じ込めることがほとんど不可能だということである」と指摘している。油が水の中にある時は表面に浮かぶが、多孔性の氷では中に透過して、水の中のように簡単に集めて回収することができない。そして、問題は石油流出事故だけではない。鉱物資源開発と観光旅行の増加も、北極圏の脆弱な環境に打撃を与えることになる。夏期に大型船が貨物を運搬するルートとしての北極海を利用することも、その経済的利益は明白である。しかし、スタヴリディスは、「我々が輸送ルートとして北極海を利用するのであれば、我々は慎重にそれらのルートを管理する必要がある」と主張する。結局は、北極圏に居住する先住民とその他の400万の人々が開発発展の代価を払うことになろう。前出のドローは、「これは、北極圏の全ても先住民に降りかかることになろう。開発発展は、持続可能なものでなければならないが、すべての人に公正でなければならない」と主張している。

(4) 北極圏諸国8カ国の内、ロシアを除いて、7カ国は民主主義国家で、ほとんどがNATO加盟国である。冷戦期間中、アメリカとソ連の潜水艦は北極海の海氷の下で日常的に危険なゲームを演じていた。前出のスタヴリディス退役海軍大将は、「北極圏は、米海軍とソ連軍との主要な戦闘ゾーンであった」と語っている。もちろん、確証はないが、現在の状況はより平和的である。スタヴリディスは、ロシアとNATOの間には常に若干の緊張があるが、それは対処可能であると1年前に語っていたが、ウクライナで進行中の危機によって、両者の軋轢は明らかに増大している。スタヴリディスは、「我々は、北極圏に関して冷戦に逆戻りしないことを望んでいる。私の考えでは、ウクライナでのロシアの振る舞いに反対し非難していたとしても、他の地域においてロシアと協力できる暫定協定を必要としている」と語った。安全保障問題については、北極圏諸国の対応が異なる。スタヴリディスによれば、カナダは常に「ハイ・ノース、ロウ・テンション」と言い、ノルウェーは「北極圏はNATO同盟の北限であり、我々はNATO軍が関与することを望む」と言う。アメリカの立場はこの2つの主張の間にある。確かに、NATOの北限は北極圏にあり、アメリカはNATOにおいてリーダーシップを果たす役割がある。しかしながら、北極圏に関わるどんな問題に関しても、スタヴリディスは、「アメリカは国際機構を通じて対応すべきで、単独では行動しないようにすることが肝要である。それは間違った方法である」と指摘している。

記事参照:
Melting ice cap opening shipping lanes and creating conflict among nations

1024日「国連、ソマリア周辺海域での密輸疑惑船舶への立入検査承認」(Reuters, October 24, 2014)

国連安全保障理事会は10月24日、ソマリア周辺海域で武器と木炭を密輸している疑いのある船舶に対する立入検査を承認した。この決議 (2182) の採択に当たっては、ロシアとヨルダンが棄権した。決議は、立入検査を実施するに当たって、「必要なあらゆる手段」をとることを認めている。安保理は1992年に、ソマリア内戦当事者への武器流入を遮断するために武器禁輸を決定し、更に2012年2月にはソマリアからの木炭の輸出を禁止した。英国連大使によれば、木炭輸出は、ソマリア支配を目指す、ソマリアのアルカイダ系の戦闘グループ、アルシャバブの資金源で、命綱になっている。ソマリア/エリトリア監視グループ (The Somalia-Eritrea Monitoring Group) によれば、過去1年間の木炭密輸は少なくとも2億5,000万ドル相当にのぼり、その3分の1がアルシャバブ関係による密輸という。また、2013年から2014年5月までの間、ソマリア南部のキスマヨ港とブラヴァ港からの木炭密輸船は161隻に達しており、その目的地は主にアラブ首長国連邦、オマーン及びクエートであり、これら船舶の60%がインド船籍かまたはインド人船主の所有といわれる。

記事参照:
U.N. authorizes ship inspections near Somalia for arms, charcoal

10月25日「中国空母「遼寧」の事故、異例ではない―ホームズ論評」(The Diplomat, October 25, 2014)

米海大のJames R. Holmes教授は、10月25日付のWeb 誌、The Diplomat に、“Relax, China’s Aircraft Carrier Is Fine”と題する論説を寄稿し、中国の空母「遼寧」が最近の公試中に少なくとも1回、エンジントラブルが発生したとの報道について、要旨以下のように述べている。{「遼寧」の事故については、旬報10月11日~20日号、10月19日「中国空母『遼寧』、最近の公試中にエンジントラブル発生か」(Medium.com, October 19, 2014) 参照}

(1) 中国空母「遼寧」の事故については、非常に誇張されている。装備機器の故障は、海軍の歴史において前例のない後退を意味するのであろうか。そんなことはあり得ない。全ての海軍は、装備機器の故障を経験しており、それを修理してきたし、今後も故障を経験するであろう。恐らく、中国の最初の空母は、中国の第1世代の艦載機搭乗員、飛行甲板の要員(備考:空母から航空機を発着艦させるために飛行甲板では誘導係、カタパルト及びアレスティング・ワイヤ係、弾薬係、燃料係、航空機移動係、防火隊、着艦誘導係など多くの役割を負った乗組員が勤務)、及び艦載航空機部隊の指揮官を訓練するために、様々な場面で訓練艦として運用することを意図したものと見られる。従って、「遼寧」は、艦内における機器のマイナーなトラブルに関係なく、引き続き訓練艦として運用されるであろう。

(2) 実際、もし機器の故障がないということが海洋における能力の基準だとすれば、大海原を航行する船舶はいなくなるであろう。軍艦は、例えば海水や塩気を含んだ空気といった、金属にとって好ましくない環境下で運用される、可燃性の、あるいは爆発性の各種物質や人間を収容した金属の箱のようなものである。このような環境下で、火災、浸水、機器の故障、あるいは様々な事故について身の毛のよだつような経験を持たない船乗りは稀である。マーフィーの法則は海上における機関術科の鉄則であり、船乗りが大書しているものである。事故が起こった時には、損傷部を修復し、学ぶべき教訓は何であれ学び、次の任務に向かうのである。

(3) 旧ソ連海軍の空母、Varyagは、中国が購入し、中国の工員が再就役工事を行う前は廃船同然であった。Varyagは、未完成の船体で、ソ連の崩壊で腐食するまま放置されていた。未完成の船体が海上での運航や戦闘に適するはずがない。旧ソ連が建造した艦艇は、技術的問題に悩まされてきた。ソ連海軍は、終に信頼できる海洋技術を習得することはなかった。ソ連の船乗りが走らせてきたおんぼろ艦艇から判断すれば、最良の資材を使用することは高い優先順位ではなかった。中国の工員達がどんなに専門的な再就役工事を施しても、恐らくこうした負の部分が残っていよう。

(4) 中国海軍は、事故の公表に気が進まない。海軍は独裁政権に奉仕しており、独裁政権は弱点を公にしたがらない。中国の指導者は、「遼寧」を海洋国家への命運を担う存在と位置づけて、大いに喧伝してきた。こうした喧伝は、人民大衆の期待を煽った。確かに、「遼寧」の艦内での事故は多分、海軍航空隊の栄光に対する北京の期待を萎ませるかもしれない。しかしながら、こうした事故はありふれた種類のものである。中国の船乗り達は、他の国の海軍の乗員がそうであるように、こうした事故を乗り越えていくであろう。

記事参照:
Relax, China’s Aircraft Carrier Is Fine

10月27日「米海軍、新型『機動揚陸プラットフォーム』運用テスト」(gCaptain.com, October 27, 2014)

米海軍はこのほど、軍事海上輸送コマンド (Military Sealift Command: MSC) の新型、「機動揚陸プラットフォーム (Mobile Landing Platform)」の1番艦、USNS Montford Point (MLP-1) の運用テストを、カリフォルニア州キャンプペンドルトン沖で実施した。USNS Montford Point (MLP-1) は3隻建造予定の新型MLPの1番艦で、人道的支援から主として沿岸インフラのない海岸における伝統的な軍事任務に至る広範な軍事作戦において、洋上から沿岸域に柔軟な兵站補給支援を実施することを意図した、機動揚陸プラットフォームである。同艦は、10月17日から20日までキャンプペンドルトン沖で実施された、海上事前集積船隊 (Maritime Prepositioning Force: MPF) の演習、Pacific Horizon 2015で、MSCのUSNS Dahl (T-AKR 312)、USNS Dewayne T. Williams (T-AK 3009) と共に、配備前の運用テストを実施した。この演習では、参加艦船は、演習に参加した第3艦隊第3遠征打撃群と第1海兵遠征旅団に対して洋上から沿岸までの兵站補給支援を実施するとともに、艦船から艦船への装備の移送も実施した。USNS Montford Point (MLP-1) はまた、ホバークラフト、Landing Craft Air Cushion (LCAC) の同艦からの発進、収容能力をテストした。MLPは、米海軍の“Sea Basing” 構想の中核をなす艦船で、Alaska級原油タンカーをベースにしたものである。主要要目は、全長239.3メートル、全幅50メートル、満載排水量7万8,000トン、速度15ノット、航続距離9,500カイリで、乗員は34人である。現在、USNS Montford Point (MLP 1)、USNS John Glenn (MLP 2) までが進水しており、3番艦、USNS Lewis B. Puller (MLP 3) は建造中である。

記事参照:
Military Sealift Command Shows Off New Seabasing Capabilities
Photos & video: http://gcaptain.com/military-sealift-commands-shows-new-seabasing-capabilities/

10月29日「国際法上の視点から見る、南シナ海における中国の埋め立て工事―シンガポール大准教授」(RSIS Commentaries, October 29, 2014)

シンガポール国立大法学部国際法センターのRobert Beckman所長(准教授)は、S.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の10月29日付 RSIS Commentariesに、“Large-Scale Reclamation Projects in the South China Sea: China and International Law”と題する論説を寄稿し、中国による南シナ海の占拠環礁における大規模な埋め立て工事はこれら環礁に対する中国の主権主張を強めることにならず、またこれら環礁の国際法上における法的性格を変えることもできないとして、要旨以下のように論じている。

(1) 国際メディアは、中国が南沙諸島の幾つかの環礁で大規模な埋め立て工事を行っていると報じている。中国とASEAN間の2002年の「行動宣言 (DOC)」は、係争海域において事態を複雑化させたり、エスカレートさせたりする行為の自制を求めている。占拠環礁における各種の工事はDOCに違反しているが、中国、マレーシア、フィリピン及びベトナムは全て、自国占拠環礁でかかる工事を行っている。今回、注目されたのは、中国が実施している埋め立て工事の規模が大きいことである。例えば、中国は、Fiery Cross Reef(永暑礁)を2平方キロにまで拡張していると報じられている。これは重大な現状変更で、完成すれば、南沙諸島で13番目に大きい島嶼となる。

(2) 中国は南沙諸島の7つの環礁を占拠し、管理しているが、これら環礁の法的地位は、フィリピンが提訴した国際仲裁裁判における争点である。中国はこの裁判に応じていないが、審理は進んでいる。この裁判では、フィリピンは、7つの内、3つが満潮時でも水面上にある水に囲まれた自然に形成された陸地であるとして、国連海洋法条約 (UNCLOS) の島の定義に合致していることを認めている。そうであるとすれば、それらに対する主権と周辺海域における管轄権を主張できることになる。しかしながら、中国が占拠しているこれら3つの環礁の上にある島は非常に小さく、植生がほとんどない。従って、フィリピンは、それらを、「人間の居住、または独自の経済的生活を維持することのできない岩」と定義すべきである、と主張している。そうであるとすれば、これらは12カイリの領海を主張できるが、EEZや大陸棚を主張できない。中国が占拠している残り4つの環礁について、フィリピンは、満潮時には水面下に沈むことから、UNCLOSの島の定義に当たらない、と主張している。従って、これらは、主権主張の対象にもならないし、また如何なる独自の海洋管轄権も有しない。

(3) これら環礁における中国の最近の埋め立て工事については、国際法上、以下の3つの問題点が指摘できる。

a.こうした埋め立て工事は、国際法上、中国の南シナ海に対する領有権主張を強めることになるか。答えはノーである。ベトナム、フィリピン及び台湾も、中国が占拠している島嶼や環礁に対して、主権を主張している。主権主張を巡って係争がある場合、当該島嶼や環礁を占拠している国は、埋め立て工事や建造物の構築によって自国の主権主張を強化することはできない。

b.中国は、水面下にある環礁を、独自の海洋管轄権を持つ、人間が居住でき、または独自の経済的生活を維持することのできる島に、埋め立て工事によって変えることができるか。ここでも、答えはノーである。何故なら、「島」とは、満潮時でも水面上にある水に囲まれた「自然に形成された」陸地と定義されているからである。埋め立て工事によって満潮時でも水面上にある陸地であれば、それは「人工島」である。UNCLOSでは、人工島は、12カイリの領海も、如何なる独自の海洋管轄権も有しない。従って、満潮時に水面下にある陸地における埋め立て工事は、当該陸地の法的地位を変えることにはならない。

c.中国は、「人間の居住、または独自の経済的生活を維持することのできない岩」を、独自のEEZと大陸棚を有する島に、埋め立て工事によって変えることができるか。これに対する明確な答えはない。しかしながら、島とは満潮時でも水面上にある水に囲まれた「自然に形成された陸地」と定義されていることから、岩を独自のEEZと大陸棚を有する島に変えるために、人工的手段を行使することは認められないと結論づけるのが妥当であろう。

(4) もう1つの問題は、UNCLOSや国際法が、中国の占拠環礁における埋め立て工事に対して、何らかの制約を課すことができないのかどうかである。1つの問題は、中国の埋め立て工事が海洋環境の保護と維持義務を規定したUNCLOSに違反しないかどうかである。もしある国が、自国の管轄または管理下にある領域において、他国の海洋環境に重大な悪影響を及ぼしかねない活動を計画しているとすれば、当該国は、これら他国と「共同する義務」を有する。また、当該国は、環境影響評価を実施するとともに、影響が及ぶ可能性のある国と評価結果を共有しなければならない。この場合、中国が埋め立て工事を実施している環礁の内、3つの環礁がフィリピンのEEZ内あるいはそのすぐ外側にあることから、影響を受ける可能性のある国はフィリピンである。ベトナムもまた、中国が占拠している環礁に非常に近いことから、影響を受ける可能性のある国である。更に、問題の環礁が領有権と海洋管轄権を争う係争海域の真ん中にあることから、中国は、国際法上、問題の環礁や島嶼に関する現状を恒久的に変更することになる、一方的な措置をとらないよう自制しなければならない。このことは、中国の埋め立て工事が国際仲裁裁判の進行中に行われていることを考えれば、特に重要である。

記事参照:
Large-Scale Reclamation Projects in the South China Sea: China and International Law
RSIS Commentaries, October 29, 2014

10月31日「2013年の北方航路、東向けに偏重―北極研究所報告書」(The Maritime Executive.com, November 1, 2014)

(1) アジアへの輸送ルートとして、北方航路 (NSR) は、今世紀半ば頃までにスエズ運河経由ルートのような伝統的な航路に匹敵し、そしてそれを補完する航路となるであろうとの期待が高まっている。果たして、こうした期待が現実のものとなるか。米北極研究所 (The Arctic Institute) の創立者兼所長、Malte Humpertが10月31日に公表した報告書は、2013年のNSRの運航シーズンのデータから運航パターンを分析している。同報告書は、スエズ運河とパナマ運河経由のルートと比較し、NSRの違いを指摘するとともに、NSRの将来の潜在的可能性について、以下のように指摘している。「NSRは依然、限られた隻数の船舶が通航するニッチな輸送ルートである。主としてロシアからの北極圏の炭化水素資源の輸出、そしてNSRによるそれらの輸送は、今後数年間に成長が期待できる。しかしながら、これは西向けから東向けへの一方的な輸送パターンであるため、NSRが今後真の輸送ルートとして確立されるかどうかは定かでない。NSRを北の輸送ルートとして確立するというプーチン大統領の期待は、市場の不況、変化する海氷状態そしてロシアの運航可能な砕氷船の不足などによって、順調には進まないかもしれない。」

(2) 報告書によれば、2013年のNSRの運航シーズンは、ロシア船籍のMV Varzugaが1万3,658トンのディーゼル油を積んでノヴァヤゼムリャ北端のジェラーニヤ岬から出航した、6月28日から始まった。以後、154日間で、49隻の船舶が計135万トンの貨物を輸送した。更に22隻は、総計50万7,000トンのバラスト水だけの空船状態でNSRを航行した。2013年の運航シーズンは11月28日、ロシア船籍のMV Bukhta Slavyankaがベーリング海峡のデジニョーフ岬に達して終了した。ロシアのNSR情報局は、2013年に通航した71隻のリストを公表しているが、このリストをより詳細に見れば、NSRの全航路を完全に航行したのは41隻のみで、別の23隻はNSR内のロシアの港から出航または到着しており、NSRの全ルートを航行していない。更に7隻は全行程がNSR内のみであった。全航路を航海した41隻の中でも、貨物を積載していたのは30隻だけであり、その輸送量は119万トンであった。2013年のNSR経由の貨物輸送で最大のシェアを占めていたのは、ディーゼル、燃料油、ナフサなどの石油精製品であった。31隻が全貨物輸送量の67%に相当する 91万1,000トンの石油精製品を運んだ。鉄鉱石は2013年の全輸送貨物の15%、20万3,000トンであった。また、一般貨物の輸送量は7.4%、石炭の輸送は5.5%であった。LNGについては、2013年の輸送量は全体の5%で、MT Arctic Aurora がノルウェーのハンメルフェストから千葉まで6万6,868トンを輸送した1回だけであった。

(3) 報告書によれば、2013年の輸送パターンは2つの異なったピークがあった。東向けの輸送では、7月と8月の最初の2カ月間の輸送は地元コミュニティーの需要に応えるための石油精製品や鉄鉱石が大半を占めた。セーヴェルナヤゼムリャ近海と東シベリア海の海氷状態は9月前半まで厳しい状況であったことから、9月後半からの第2のピークが出現するまで、この間の輸送量は減少した。西向けの航行は東向けより2週間遅れ、7月15日頃から始まった。輸送活動の最初のピークは7月15日と8月15日の間であった。この間に航行した船舶のほぼ全てがバラスト水だけの空船で、9月下旬から10月にかけての2つ目のピーク時には、石油精製品、一般貨物及び石炭が輸送された。航行した71隻中、大半の54隻は、ロシア国内の港を出港し、全輸送量の52%、70万5,000トンを輸送した。出港地がロシアに偏っており、多様化されていないのが特徴である。従って、NSRは、ヨーロッパ諸国やアジア諸国による国際的な輸送ルートというよりは、ロシアの国内航路として、そしてロシアからの輸出ルートとして利用されているのが現状である。地域物流の中心的な港は西のムルマンスクとアルハンゲリスク、中央のオビ湾、そして東のペヴェクである。71隻の全航行船舶の内、43隻はロシア国内の港の間を航行した。

(4) 報告書によれば、NSRの航行パターンは、東向けと西向けとの間には大きな相違がある。2013年には、東向けに航行した40隻の船舶は貨物89万5,000トンとバラスト水6,000トンを輸送した。これとは対照的に、西向けに航行した31隻は、貨物46万トンとバラスト水50万トンを輸送した。NSRは、東向けの航行に偏っている。主として天然資源などの貨物はアジア市場向けに輸送されたが、西向けの貨物輸送は限られた量に過ぎない。こうした物流のアンバランスは、空船状態で航行する船舶が多くなることから、収益性を低減させる。スエズ運河やパナマ運河経由ルートとは対照的に、NSRは、主に一方通行の輸送ルートになっているのが特徴である。ヨーロッパやアジアへの貨物輸送を終えた船舶が、積載貨物の有無にかかわらずNSRを経由して帰港する事例はほとんどなかった。NSRは依然、限られた隻数の船舶が通航するニッチな輸送ルートである。主としてロシアからの北極圏の炭化水素資源の輸出とNSRを経由するそれらの輸送は、今後数年間に成長が期待できる。しかしながら、西向けから東向けへの一方的な航行では、NSRを国際的な輸送ルートとして確立することは難しい。

記事参照:
Northern Sea Route Traffic Mostly One Direction
Full Report: Arctic Shipping: An Analysis of the 2013 Northern Sea Route Season

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子