海洋情報旬報 2014年9月11日~20日

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911日「南シナ海におけるエネルギー獲得競争―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, September 11, 2014)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のEuan Graham 上席研究員は、9月11日付の RSIS Commentariesに、“Energy Competition in the South China Sea: A Front-burner Issue?”と題する論説を寄稿し、南シナ海におけるエネルギー獲得競争について、要旨以下のように述べている。

(1) 中国がベトナムとの係争海域に設置した石油掘削リグを巡る最近の中越対立は、南シナ海におけるエネルギー開発に再び焦点を当てることになった。エネルギー開発は、中国の南シナ海政策においてどの程度重要なのか。また、南シナ海の海底炭化水素資源を巡る競争は、中国とその他の領有権主張国との緊張関係をどの程度悪化させているのか。先般の中国国営、中国海洋石油総公司 (CNOOC) の掘削リグ設置に当たっては、政治的及び戦略的な動機が、エネルギー面での考慮より優先されていたことはほぼ間違いない。とはいえ、近年の中国の全般的な南シナ海政策において、海底エネルギー資源の開発要請は大きなウェートを占めてきた。

(2) 中国は今や世界最大の石油輸入国であり、中東やアフリカでの政治情勢に左右されるリスクが増えている。中国は、地形的にシェール層に恵まれていない国と見られ、従って、「近海」におけるエネルギー資源の確保は、魅力的な選択肢と見なされている。過去5年間の中国内部のエネルギー政策論議において、南シナ海における石油と天然ガス資源の探査、開発が大きな比重を占めてきた。そのため、深海掘削リグ、地震探査船及び支援航空機の取得を含む、中国の国営エネルギー企業体の能力が大幅に強化され、これらの資材は現在使用可能になっている。商船隊、港湾インフラそして海軍の拡充とともに、海洋エネルギー開発部門は、中国指導部が追求する包括的な「海洋パワー」におけるもう1つの重要な柱と見なすことができる。まず、CNOOCは2009年に、20年に及ぶ深海開発プロジェクトに300億ドルを投資する計画を発表した。第2の深海掘削プラットホームは2016年に完成の予定で、特に南シナ海で運用するように設計されている。CNOOCと中国の他の国営エネルギー企業にとって、この深海掘削プラットホームは、南シナ海での探査、生産活動を格段に強化することになろう。中国の深海掘削リグの基数が増加するにつれ、これら掘削リグの南シナ海南部での探査、生産活動が増えると見られるが、そうした遠海での活動に対する後方支援と掘削リグの防衛は中国にとって大きな課題となろう。このことは、何故、この種の掘削リグの最初の設置海域が海南島に比較的近い、西沙諸島であったかを説明してくれる。外洋における中国の探査、生産能力は、係争海域にまで進出する高価な掘削リグや関連設備を保護する任務を担う、中国の海洋法令執行能力の拡充と統合に伴って進展してきた。このことは、ベトナムとの係争海域におけるCNOOCの掘削リグの設置を巡るその後の展開が如実に示している。

(3) 中国の珠江デルタ周辺と海南島沖合の石油・天然ガス田を含め、南シナ海がエネルギー資源の豊富な海域であることは疑いない。しかしながら、海底地質構造は、南シナ海の沿岸域周辺、特に南シナ海の南半分の沿岸域に炭化水素鉱床が集中していることを示している。このことは、経済的にマレーシア、ブルネイ、インドネシア、ベトナム及びフィリピンにとって有利な環境である。2010年のアメリカによる地質調査は、南シナ海には石油110億バレルと天然ガス145兆立方フィートの未開発エネルギー資源があると見積もっている。中国による埋蔵資源量の見積はもっと大きいが、確証がない。南シナ海の深海域はメタンハイドレートが豊富だが、これらの鉱床からの天然ガス抽出は将来の事業となることは間違いない。南シナ海のかなりの海域が未調査だが、エネルギー業界の専門家は、南沙諸島及び西沙諸島とそれぞれの周辺海域におけるエネルギー資源埋蔵の可能性を疑問視している。このことは、中国の探査、生産活動を南シナ海の南部海域に指向させる誘因となるかもしれない。そして、南部海域での中国の探査、生産活動は、不確かな根拠に基づく中国の「9段線」主張と重複する東南アジアの沿岸諸国のEEZ内で、新たな紛争を引き起こすことになろう。マレーシア、ブルネイ及びインドネシアは何十年も南シナ海の南部海域でエネルギーを生産しており、そして新たにベトナムとフィリピンが参入している。ベトナムは、自国のEEZ内におけるエネルギー開発を加速させ、Nam Con Son及びCuu Long堆積盆地における大規模な油田の発見によって、今や石油輸出国となっている。但し、石油精製品は依然、輸入に頼っている。フィリピンは、Malampayaガス田から天然ガスを抽出しており、また新たにReed Bankでも天然ガス田を発見している。マレーシアのPetronasは石油産業の上流・下流部門で世界的な企業であるが、東南アジアの多くの石油生産国は外国企業との合弁事業に依存している。中国のエネルギー産業も、グローバルな営利活動を展開しており、東南アジア企業への投資による利益を目論んでいる。しかしながら、当面は、政治的、戦略的要請から、「近海」における活動が優先されそうである。ベトナムは、海洋における領有権主張の国際的認知を暗黙の狙いとして、ロシア、インド、マレーシア、アメリカ及び欧州のエネルギー企業に開発鉱区を認可し、外国企業との多様な合弁事業を展開してきた。ベトナムは最近、インドの国営企業、ONGC-OVLに南シナ海の5つの開発鉱区を新たに認可した。

(4) こうしたベトナムやフィリピンによるエネルギー探査、生産活動の活発化は中国の「焦り」を呼び、中国は2009年以降、共同開発を止め、係争海域を含む海洋での単独の探査、生産活動へと大きく政策転換することになった。このことは、ベトナムやフィリピンのEEZ内での開発鉱区における外国企業による探査活動に対する妨害事案を引き起こしている。ベトナムとフィリピンは、海洋における紛争事案や中国艦船のプレゼンスが南シナ海南部で増大しており、少なくともその一部が石油・天然ガス埋蔵海域周辺であることを懸念している。

記事参照:
Energy Competition in the South China Sea: A Front-burner Issue?
RSIS Commentaries, September 11, 2014

911日「アジア、新たな軍備拡張競争へ」(AP, September 11, 2014)

AP通信は9月11日付で、アジア諸国に見られる軍事力増強の動きについて、要旨以下のように報じている。

(1) アジア諸国は現在、世界の武器輸入の半分強を占めており、域内で最大の輸入国である中国は過去10年間で、年間軍事予算を4倍増とした。スウェーデンのSIPRIによれば、中国の軍事支出は、アメリカの6,650億ドルに比べれば3分の1だが、東アジアと南アジアの全24カ国の軍事支出を合わせた額に近い。米シンクタンク、Stratforの主席地政学アナリスト、Robert D. Kaplanは、中国の狙いは太平洋地域において支配的パワーであるアメリカを排除することにあるとし、「もし中国が周辺海域において自由に行動でき、より強力な制海能力を発揮できるようになれば、中国は、完成された海軍力を備えることになろう」と指摘している。中国海軍で最も注目されるのは潜水艦戦力で、2020年までにはその保有隻数は78隻となり、アメリカと同数になると見られる。中国の大部分の潜水艦は海南島の巨大な洞窟基地に配備されており、そこから南シナ海に直接展開することが可能である。

(2) こうした中国の動向は、他のアジア諸国の潜水艦購入熱に拍車をかけた。ベトナムは2014年に、ロシアに発注していた6隻の潜水艦の内、3番艦と中国の潜水艦を捜索、攻撃可能な海上哨戒機を受領した。ロシアは、アジア諸国に対する武器輸出でトップの座を占めており、アメリカ、次いでオランダなどの欧州諸国がこれに続いている。ベトナムの軍事支出は、この5年間で83%増となっており、政府支出の8%を占めるまでになっている。日本も潜水艦戦力をより最新の潜水艦に更新しつつあり、韓国はより大型の攻撃型潜水艦を取得しつつあり、そしてインドは6隻の新型潜水艦を建造する計画である。SIPRIの上席研究員、Siemon Wezemanは、「潜水艦は、より強大な敵に対抗できる戦力であり、隠密裡に行動することで、より強大な敵による、地域あるいは海域の支配を拒否することができる」と指摘している。他方、ベトナムや日本に比べ、フィリピンは立ち後れている。フィリピンは、南沙諸島における中国の行動に対抗し得ないでいたが、20年ぶりの米軍の同国への再展開を歓迎した。加えて、フィリピンは、海上哨戒機、爆撃機、その他の装備への支出を加速させる計画である。インドも、中国とパキスタンとの間で領土紛争を抱えており、多くの戦車や戦闘機を購入し、世界最大の武器輸入国となっている。

(3) こうした軍事装備の購入が注目を集めているが、現在までのところ、領有権紛争海域や操業海域に展開するのは、各国の沿岸警備隊巡視船が中心となっている。日本は、2013年にはフィリピンとの間で10隻、2014年6月にはベトナムとの間で6隻の巡視船供与にそれぞれ合意している。ベトナムはまた、この5年間で沿岸警備隊戦力を68隻にまで自力でほぼ倍増した。日本は現在、389隻の巡視船を保有しており、この2年間、尖閣防衛に巡視船を投入している。SIPRIの軍事支出プログラム主任、Sam Perlo-Freemanは、「全ての国があからさまな軍事的対決を回避しようとして、紛争海域における対応を、準軍事組織による対応に抑制している。関係国は、紛争海域において、事態をより危険なレベルにエスカレートさせることなく、ある種の武装力のプレゼンスを確立しようと試みている」と指摘している。しかしながら、日本は、エスカレーションの可能性に備えつつあるように見られる。安倍内閣は、7月に憲法解釈を変更した。9月初めは、日本とインドは、防衛技術を共有し、合同演習を実施することに合意した。シンガポールのRSISの軍事専門家、Bernard Loo Fook Wengは、「中国がより好戦的になるとすれば、それは中国が自分に有利な風が吹いていると見た時である。そうなれば、域内の安全保障環境はより暴力的な状況になるかもしれない」と見ている。

記事参照:
Asia arms up to counter growing Chinese might

913日「ロシア海軍、北極海で演習航海―ロシアメディア同行取材」(RT.com, September 13, 2014)

ロシアのRT.com(ロシアの英語メディア)は9月13日付で、ロシア海軍の北極海演習航海に同行取材した記者がその模様を要旨以下のように報じている。

(1) ロシアの北洋艦隊は、北極圏における一連の厳しい演習を実施し、限界までその能力をテストしつつある。RTの通信員は、対潜駆逐艦、Admiral Levchenkoに乗艦し、同行取材した。2隻の揚陸艦、Georgiy PobedonosetsKondopoga、支援艦艇として給油艦、Sergey Osipov、救難タグ、Pamir、及び揚陸貨物船、Aleksandr Pushkinを含む、6隻の艦船が、2隻の原子力砕氷船、Yamal50 Let Pobedyに先導されて酷寒のカラ海を航行している。砕氷船は海氷状態の悪化に備えたものである。記者が乗艦した対潜駆逐艦、Admiral Levchenkoは、補給資材と新兵をムルマンスク州セヴェロモルスクからノヴォシビルスク諸島のコチェリヌイ島へ輸送している。同島の古い軍事基地は、ほぼ30年前に放棄されたが、ロシアの北極圏における軍事力建設の一環として2013年に再開された。

(2) 記者は、戦闘状況を想定して艦隊がどのように対応するのかを視察するために乗艦した。Admiral Levchenkoの幹部によれば、艦隊は戦闘状況を想定し、演習しながら航行している。それによれば、Admiral Levchenkoに搭載されている2機のヘリの内、1機が「敵」潜水艦を探知し、艦隊は脅威排除のために2発の爆雷、RBU 6000を発射した。

(3) ロシア軍は、2012年にノヴォシビルスク諸島で上陸演習を行った。2013年には、北洋艦隊旗艦の誘導ミサイル原子力巡洋艦、Pyotr Velikyに率いられた艦隊が、永久凍土層にある飛行場、Tempを修復するために、ノヴォシビルスク諸島に資材を揚陸した。この航海では、基地再建に従事する兵員のために、野営キャンプに代えて近代的な兵舎も建設した。北洋艦隊のコロリョフ司令官によれば、今回の艦隊派遣の主たる目的は、「2014年からノヴォシビルスク諸島で恒久的な軍務遂行に従事している北洋艦隊の戦術群に対する、人員、装備及び資材を供給することである。」

(4) ロシアの北極圏における軍事プレゼンスの再建は、周辺各国、特に カナダの警戒心を高めている。カナダのブレア外相は、ロシアの北極海における軍事演習を批判し、ロシアの脅威に対抗して、「カナダ政府は、北極圏におけるカナダの主権を行使し、護っていく」と言明した。ロシアのラブロフ外相はこれに対して「ナンセンス」と断じ、プーチン大統領は、ロシアは北極における利益を護る決意だが、それは国際法を遵守して行われるとし、「多くの国が北極圏における我々の努力を警戒し、恐れている。しかし、我々は国際法の枠組みの中で行動しているだけで、これまでもそうしてきたように、将来もそうしていくつもりである」と言明している。

記事参照:
Ice voyage challenge: RT joins Russian Navy fleet in Arctic base build-up mission

【関連記事】「北極圏におけるロシアの軍事プレゼンスの強化、その背景」(Russia Beyond the Headlines, September 18, 2014)

ロシアの軍事専門家、Viktor Litovkinは、9月18日付のロシアのWeb紙、Russia Beyond the Headlinesで、北極圏におけるロシアの軍事基地の再建は増大しつつある国家安全保障の脅威に対する対応であるとともに、北極圏におけるロシアの経済的利益を護ることを狙いとしているとして、要旨以下のように述べている。

(1) チュクチ海にあるウランゲリ島と近くのロシア本土のシュミット岬で、9月初めからユニークな軍事施設の建設が始まった。軍人と建設業者は、および請負業者は、Polar Starと名付けられた施設で、建設作業を続けながら、北極圏における空海軍の活動と北方航路における状況をモニターする。同じような基地施設は、ノヴォシビルスク諸島のコチェリヌイ島にも建設されている(上記記事参照)。

(2) 北極圏におけるロシア軍の存在は、地政学的に非常に重要であり、また経済的及び軍事政治的基盤となるものである。ロシアのロゴジン副首相は2013年12月、「北極圏を巡る深刻な抗争が始まった」と宣言し、それが単に仮想の世界に留まらないことを指摘した。炭化水素資源が豊富な北極圏の国際法的な地位は、未だ確定されていない。そしてその豊富な資源の存在故に、北極海沿岸諸国のアメリカ、カナダ、ロシア、デンマーク、アイスランド及びノルウェーの間で、北極海の境界画定を巡って紛争が存在する。また、北極海に領有権を主張していない非沿岸国、例えばフィンランド、中国、日本、韓国、ブラジル及びインドも北極圏の資源に関心を示している。ロシアは、北極海において200カイリのEEZを護る必要があり、そのための1つの措置としてロシア軍を駐留させている。

(3) 地球温暖化、北極海の海氷の融解、そして(北方航路による)アジア諸国の港からヨーロッパへの航路の劇的な短縮は、石油資源開発の可能性とともに、半ば忘れられていた北極圏への関心を高めることになった。ロシアのプーチン大統領は最近、北極圏における軍事インフラの再建と緊急事態省のインフラの整備を発表し、このような措置は、北極圏における軍事対決に備えるためでなく、何よりも北方航路を航行する船舶の安全を確保する責任がロシアにあるからである、と強調した。

(4) しかし、他にも非常に深刻な軍事戦略的な状況が存在する。アメリカ、NATO及びロシアとの間の関係が緊張している現在の国際関係にあって、アメリカはロシアとの国境付近にミサイル防衛システムと軍事基地を配置しており、アメリカの艦船は定期的に黒海やバルト海を通行していることから、ロシアの安全保障問題は益々切迫したものになっている。何の対応策も講じなければ、アメリカとNATOの艦船はやがて北極海に進出し、ウラルとシベリアに展開するロシアの戦略ミサイルシステムを脅かす可能性がある。例えば、カナダは既に、ロシアの北極地域に隣接する北極点海域に対する無人機による飛行任務を実施し始めた。北極海におけるカナダと他国軍との軍事演習も増加しつつある。北極海沿岸諸国は、自国の軍事力の増強し、北極海を巡る諸問題に対処する準備を進めている。従って、ロシアは、このような事態に対処するために、チュクチ海のウランゲリ島、ノヴォシビルスク諸島のコチェリヌイ島、そしてフランツヨーゼフ諸島の軍事基地の建設に動き出したのである。1990年代初めに放棄された、Tiksi、Vorkuta、Anadyr及びCape Schmidtの飛行場の改修と近代化も同じ目的からである。ロシアは、北極点周辺を「平和の海域」と宣言し、北極海の資源開発のために他国との互恵的協力を呼びかけている。しかし、ロシアは、北極圏における自国の管轄圏に対する権利を強調することにも注力しているのである。

記事参照:
Moscow takes first steps to securing control of Russia’s Arctic zone

9月13日「気候変動、北極評議会の役割」(Huffington Post, September 13, 2014)

ノルウェーの駐カナダ大使、Mona Elisabeth Brotherは9月13日、米Web紙、Huffington Postに、“What Can the Arctic Governments Do About Climate Change?”と題する論説を寄稿し、気候変動における北極評議会の役割を強調して、要旨以下のように述べている。

(1) 北極圏は、気候変動が最も早くかつ容易に観察できる場所の1つである。北極圏は人口が非常に少ない地域であるため、太平洋の島嶼国家と同様に、北極圏の住民は他地域の発展のために大きな犠牲を強いられることになる。しかしながら、太平洋の島嶼国家と違って、北極圏諸国は、大規模な工業国家でもあることから、CO2排出量削減努力において他の工業国家と責任を共有している。実際、世界のCO2排出量の25%は、北極圏諸国に由来する。従って、北極圏諸国が協力すれば、CO2排出量削減努力に大きく貢献できる。もちろん、北極評議会加盟国だけの努力では十分でない。北極評議会の常任オブザーバー諸国のCO2排出量を含めた場合、世界のCO2排出量の80%に達する。従って、常任オブザーバー諸国を含む、北極評議会の全ての関係国は、北極圏とそこの住民の持続可能な未来のために、北極圏の好ましい管理とガバナンスにコミットすべきである。

(2) 北極評議会は、政府レベルでの政治的協力を目指す唯一の北極フォーラムである。北極評議会は、北極圏諸国間の知識の共有とネットワークを構築するための重要な舞台となっている。北極圏外の主要な利害関係諸国を常任オブザーバーとすることで、北極評議会は、北極圏の気候について重要な情報交換が可能になった。ノルウェーのスバールバル諸島での研究活動は、世界最北の研究ステーションとなり、国内および国際的な極地研究のためのユニークなプラットホームとなった。地球規模の気候変動を理解するために、北極圏を知る必要がある。我々の継続的な課題は、地域、国家及び国際的なレベルで行動することである。北極圏利害関係諸国間の学際的で分野横断的なコラボレーションは、気候変動に取り組むために不可欠である。我々は、北極圏についての知識のギャップを埋めることを優先しなければならない。

(3) 北極評議会自体は拘束力を持つ気象協定を目指しているわけではないが、その政治的声明は明快である。北極評議会の声明は、地球的規模でのCO2排出量の削減、そして地球気温の上昇を摂氏2度までに制限することを目的とする国際的合意の構築の重要性を強調するものである。それぞれのタスクフォースやワーキンググループの作業を通じて、北極評議会は、単に北極圏の気候変動についての知識を広めるだけでなく、具体的な解決に向けての行動を勧告している。1例として、2013年のキルナでの閣僚会議では、黒色炭素 (black carbon) とメタンに関するタスクフォース (TFBCM) が設立された。TFBCMの任務は、黒色炭素とメタンの排出削減を実現するための取り組みを開発することである。我々が今、地球のために行動しなければ、北極圏は、訪れる未来を予見させる良い指標である。北極圏での努力はまた、地球温暖化が加速する他の地域にも貢献できるであろう。

記事参照:
What Can the Arctic Governments Do About Climate Change?

916 日「南シナ海における中国の石油・ガス田探査活動の真意―米専門家論評」(The Diplomat, September 16, 2014)

Web 誌、The Diplomatの共同編集長、Shannon Tiezziは、9月16 日付の同誌に、“China Discovers Gas Field in the South China Sea”と題する論説を寄稿し、中国が南シナ海で進める探査活動は、中国の南シナ海における主張を強める意味もあるし、また実際にエネルギー資源を発見することもできるという一石二鳥の戦略であるとして、要旨以下のように論じている。

(1) 新華社通信の報道によれば、中国海洋石油総公司 (CNOOC) は、南シナ海で初めてとなる深海におけるガス田の発見に成功した。この発見はCNOOCの石油掘削リグ、HYSY 981によるものだが、この掘削リグは、ベトナムが自国のEEZと主張する海域に設置されたことから大きな騒動となった。新華社通信の報道によれば、この新たに発見されたガス田 (Lingshui 17-2) は、海南島の南方150キロの海域にあとされるが、この位置だと南シナ海の紛争海域にはないということになる。平均水深1,500メートルの深海にあるこのガス田は、「超深海(ultra-deepwater)ガス田」に分類される。このガス田から天然ガスの採掘に成功すれば、CNOOCの深海底からの採掘能力に疑問を持つ者にとってはかなりの驚きであろう。CNOOCの幹部は、「中国は、南シナ海のあらゆる海域を掘削できるだけの技術力を有している」と語っている。CNOOCは、Lingshui 17-2ガス田の予想埋蔵量について、日産5,650万立方フィートの天然ガス採掘が可能であり、石油換算だと日産約9,400バレルに相当すると見積もっている。CNOOCによれば、ガス田は非常に大規模な可能性があり、総埋蔵量は少なくとも300億立方メートルと見込まれるという。現在、このガス田は、埋蔵量を確認するために、更なる試掘が必要とされている。

(2) CNOOCによれば、今回のLingshui 17-2ガス田の発見はほんの始まりに過ぎず、南シナ海全域における今後の探査活動の端緒と見なしている。そうだとすれば、長期的には、先の中越間の外交的緊張が繰り返される可能性がある。CNOOCが南シナ海における更なる探査活動に乗り気である証拠として、米紙、The Wall Street Journalは、「中国沿岸域での前例のない規模の石油・ガス開発鉱区に対する入札」にCNOOCが外国企業を招請したことを指摘している。CNOOCは、この入札について、2013年の25カ所を上回る33カ所の石油・ガス開発鉱区を対象とする、と発表した。これまで、これらの開発鉱区における探査、生産には高いコストを要すると見込まれることから、外国企業は、ほとんど関心を示してこなかった。今回の入札対象鉱区の増大は、最近のベトナムとインドによる南シナ海での石油・ガス共同生産合意に関係がある、と見られる。中国は、インドの参画を、中国の主権を侵害するものと警告している。

(3) いずれにしても、中国は、深海での掘削活動に意欲的である。中国最初の深海石油掘削リグであるHYSY 981に加えて、CNOOCは、同規模の掘削リグを他にもう3基発注している。The Wall Street Journalによれば、2基目のHYSY 982は、2016年までに完成する見込みである。中国の深海掘削活動に対する急速な関心の増大は、① 南シナ海における領有権主張の擁護、② 輸入エネルギーへの依存度を下げる、という中国の2つの重要な戦略的要請に依るものである。深海の埋蔵石油・ガス田の探査活動は、中国が南シナ海の紛争海域を完全にコントロールしているという示威活動にもなり、また中国が渇望しているエネルギー資源の発見そして採掘、生産にも繋がるのである。

記事参照:
China Discovers Gas Field in the South China Sea

917日「中国提唱の海洋シルクロード、ASEAN諸国が関心」(The Diplomat, September 17, 2014)

Web 誌、The Diplomatの共同編集長、Shannon Tiezziは、9月17 日付の同誌に、“China Pushes ‘Maritime Silk Road’ in South, Southeast Asia”と題する論説を寄稿し、中国の海洋シルクロードの構想には、同国との経済協力関係を期待するASEAN諸国の多くが賛意を示しているとして、要旨以下のように論じている。

(1) 海洋シルクロード (The Maritime Silk Road: MSR) は、スリランカやモルディブによって支持されているが、南シナ海の緊張を高めることになるかもしれない。習近平国家主席は、上海協力機構 (SCO) サミット出席のためタジキスタンを訪問した後、モルディブとスリランカを訪問した。MSRへの協力取り付けが、両国訪問の最大の目的であった。インド洋の島嶼国家として、モルディブとスリランカは、ともに中国のイニシアティブにとって欠かせない存在であり、また両国とも長大な海上貿易ルートの中継地となることで利益を得られる。両国の指導者ともMSRへの参加に熱心であったが、実際、スリランカは既にMSR構想に取り込まれている。同国は、中国から10億4,000万ドルの資金供与を受け、シンガポールやドバイといった島国に対抗する、「コロンボ港湾都市 (Colombo Port City)」を建設することになっている。モルディブのアウドッラ・ヤーミン大統領もMSR構想に賛成であり、「モルディブは、中国のMSR建設の誠実なパートナーである」と語っている。習近平の滞在中、中国とモルディブは、今後中国がモルディブの国際空港の拡充と国際空港から首都マレに渡る橋の建設することで合意した。大統領は、その橋を両国の友好関係を象徴する「China Bridge」とすることを提案した。このように、インド洋国家はMSR構想に関心を示している。今のところ何も具体的な動きはないが、インドでさえ興味を示している(関連記事参照)。しかしながら、皮肉なことに、MSRは、インドにとって身近で、厄介な悩みの種になるかもしれない。

(2) 当初、MSR構想は、東南アジア諸国との関係の中から生まれてきたものである。習近平は2013年10月、MSR構想をインドネシア国会でのスピーチで表明した。東南アジアは、実質的にMSRの中国国外での最初の中継地点になることが想定され、そのために、MSR構想の成功には東南アジア諸国の協力が必要不可欠である。しかしながら、南シナ海における緊張の激化は、中国と東南アジア諸国との海洋に関する協力関係を困難なものにしている。習近平が南アジアを訪問した時と同時期に、中国の南寧で開催されたChina-ASEAN ExpoではMSR構想が展示されていた。実際、2014年のChina-ASEAN Expoのテーマは、「共同で21世紀の海洋シルクロードを建設しよう」であったし、中国の張高麗副首相はExpoで、「ASEAN諸国はMSRの重要な一部である」と強調した。同副首相は、「中国とASEANは、2015年を『中国・ASEAN海洋協力年』にすることを検討中である」と述べたが、これは、中国が2015年には海洋協力に対する外交攻勢を展開していくことを意味する。

(3) 興味深いことに、張高麗副首相は安全保障分野での海洋協力の強化には言及したものの、貿易については何も語らなかった。新華社通信によれば、張副首相は、「海洋法令執行機関同士の交流や協力の可能性を模索することを希望している」と述べた。域内の多くの国家が南シナ海における自国の領有権主張を護るために沿岸警備隊やその他の準軍事機関の公船を投入していることから、域内の海洋法令執行機関同士の交流や協力は、海洋における緊張を緩和する上で効果的な措置となるであろう。中国との海洋協力の強化は、ベトナムやフィリピンなどにとっては魅力的ではないかもしれないが、他のASEAN諸国は既にMSR構想に関心を示している。例えば、カンボジアは、MSRを地域全体の利益になるとして歓迎している。China-ASEAN Expoに参加した同国の閣僚は帰国後、「中国とASEANは経済協力を最重要課題としており、特に、貿易、投資、観光といった分野における経済協力を強化するためにも、MSRの建設は必要不可欠である」と述べている。

記事参照:
China Pushes ‘Maritime Silk Road’ in South, Southeast Asia

【関連記事】「中国提唱の海洋シルクロード、インドにとって重要な機会となるか―インド人専門家論評」(The Institute of Peace and Conflict Studies, September 1, 2014)

インドのシンクタンク、National Maritime Foundationの理事長、Vijay Sakhujaは9 月1 日、 “Maritime Silk Road: Can India Leverage It?”と題する論説を、インドのThe Institute of Peace and Conflict StudiesのHPに寄稿し、中国の提唱する海洋シルクロードが持続的な経済成長というインドの最重要政策課題にとって重要な機会を提供するかもしれないとして、要旨以下のように論じている。

(1) 中国の習近平国家主席は、モルディブやスリランカに対して、自らが提唱する中国の海洋シルクロード (The Maritime Silk Road: MSR) への参加を呼びかけており、両国とも参加への前向きな態度を表明してきた。中国は、数カ月前のインド副大統領の訪中時にも、インドの参加を呼び掛けた。しかしながら、スリランカやモルディブとは異なり、MSR構想は、インドの戦略コミュニティを混乱させている。インドの多くの論調は、MSRは中国がインド洋における海軍力展開の「足がかり」を得るためであり、この地域に対する中国の影響力の漸進を図る企てに他ならない、と結論づけている。中国が、中国海軍のインド洋における行動のための基地・施設になると見られる、また「インド包囲網」の形成とも見られる、パキスタン(グワダル港)、スリランカ(ハンバントータ港)そしてモルディブといった友好国における海洋インフラ建設を進めていることを考えれば、こうした論調は当然のことである。

(2) しかしながら、海洋インフラの整備という視点から、MSRの有効性を検討することは有益であろう。中国は、その長大な沿岸域を活用する海洋経済体制を構築している。中国の沿岸から200キロ以内の地域は総人口の40%、全市町村の5%、そしてGDPの70%を占め、海外直接投資や輸出製品の84%近くが200キロ以内で産出されている。要するに、中国の沿岸域は中国経済の発展と国力増進に大きく貢献するとともにし、輸出志向型経済に大きな役割を果たしているのである。今日、中国は、造船、港湾、運送、沖合資源開発、内陸水路、そして海洋娯楽・観光といった分野において世界でも上位を占めており、また、国際的な海運企業において働く要員を大量に供給している国家であることも忘れてはならない。

(3) 特に中国の造船能力は眼を見張るものがあり、しかも豊富で安価な労働力と優れた工学的技術によって裏付けられている。国際的な商業港のトップ10の内、7港は中国に所在しており、中国の船社が運用する船舶は6,472隻で、8,357隻の日本に次いで第2位である。同様に、中国は、2012年の調査で世界第3位の観光大国としてランクインした。沿岸域では、マリーナやウォータースポーツができる施設などが整備されているし、三亜、青島、厦門といった都市では、ヨットや高級ボート産業が成長してきている。これらの成長は、ここ数十年間で確立されたものであり、中国を世界有数の、そして日本や韓国を追い抜きアジア最大の海洋大国へと押し上げたのである。中国は、これらの成長よって得た能力を駆使し、海洋シルクロードに好意的な友好国に対して、海洋開発による経済成長が可能となり、また、食料・エネルギー安全保障にも寄与する魅力的な投資機会を提供できるとして、海洋インフラの開発を申し出ている。

(4) 中国とインドの海洋戦略には変化が現れ始めている。中国は国力増進のために海洋を利用してきたが、インドは、海洋が持つ潜在力を戦略的に評価することが必要である。インドは、海洋インフラや沖合資源の開発を行い、また、持続可能なペースでそれを利用するために、大きな政策転換が必要である。インドは、原潜を有する現代型の三次元海軍建設を追求しているが、多面的な海洋経済活動の活性化には新たな注力が必要である。インドには、海洋インフラや、沖合の海洋生物、鉱物・炭化水素資源を開発する技術がない。これらはいずれも、持続的な経済成長を確保するという政府の最重要政策課題のためには必要不可欠である。従って、インドにとって、MSRについては、機会というプリズムを通して理解することが賢明であろう。

記事参照:
Maritime Silk Road: Through a New Periscope

919日「カナダの砕氷ばら積み船、北西航路経由で中国に向け出港」(Nunatsiaq Online, September 22, 2014)

カナダのモントリオール所在の船社、Fednav Ltd.所有の砕氷ばら積み船、MV Nunavik(3万1,700トン)は9月19日、ケベック州ディセプション湾に近い、中国企業傘下のThe Nunavik Nickel Mineのニッケル精鉱、2万3,000トンを積載して、ディセプション湾から北西航路経由で中国遼寧省営口市の港に向けて出港した。航海日数は20日間で、航海距離は約5,000カイリ(9,400キロ)である。Fednavによれば、パナマ運河経由より航海距離は40%短縮され、温室効果ガスを1,300トン超削減できる。MV Nunavikは、Polar Class 4の砕氷能力を持ち、薄い初年氷の海域では通年航行が可能で、貨物を積載し、砕氷船の先導なしで北西航路の全行程を航行する初の商船となる。該船は、北西航路を航行中、沿岸域から運航船社、Fednavとその子会社、Enfotecの氷海航行の専門家チームの支援を受ける。該船は、Enfotecの氷海航行システム、IcenavTMを搭載しており、リアルタイムの衛星画像を含む海氷情報を定期的に受信する。

記事参照:
MV Nunavik: from Quebec to China via the Northwest Passage
Photo: MV Nunavik

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子