海洋情報旬報 2014年8月11日~20日

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8月11日「行動規範進展見込みなし、ARF」(The Diplomat, August 11, 2014)

Web誌、The DiplomatのClint Richards共同編集長は、8月11日付の同誌に、“Code of Conduct for South China Sea Unlikely, Yet ASEAN Made Progress”と題する論評を発表し、要旨以下のように述べている。

(1) ミャンマーの首都ネピドーで開催されたASEAN地域フォーラム (ARF) では、南シナ海における法的拘束力を持つ「行動規範 (COC)」について実質的な進展は見られなかったが、5月末のシンガポールでのシャングリラ・ダイアローグで見られたような、激しい非難合戦はなかった。シャングリラ・ダイアローグと違って、ARFでは、中国は、特にアメリカや日本からも、またベトナムやフィリピンからも南シナ海における侵略者として名指しされることはなかった。

(2) ASEANが中国と対決する意志を持っているかどうかは分からないが、南シナ海における2014年の北京の行動を見れば、ASEANは、中国をこの地域の主たる不安定化要因として容易に指弾できたはずであった。しかしながら、ベトナムとの係争海域からの中国の石油掘削リグの撤収を含む、最近の緊張緩和は、ある程度状況を改善したかもしれない。ASEAN外相会議の共同声明は、「南シナ海における緊張を高めている最近の動向に深刻な憂慮」を表明したが、中国を名指ししなかった。実際、「深刻な」という文言は、ベトナムの要請により最終草案に後から付け加えられたものである。共同声明は、 南シナ海におけるCOCの「早期締結のための実質的な交渉」を求める一方で、中国についてはASEANが「真剣な協議」を求める当事国として言及するに止まった。COCはASEAN加盟国の多くにとって主たる関心事であるが、中国は、南シナ海の大部分に対して領有権を主張していることから、COC協議が大幅に進展することに消極的であった。しかしながら、インドネシアのマルティ・ナタレガワ外相は、「中国側は、COCの早期締結の必要性について言及した。このことは、中国側がつい最近までCOCについて言及する気さえなかったことから見れば、対照的である」と語った。

(3) ARFは、依然としてベトナム、フィリピンそして中国の間で係争中の南シナ海における領有権問題を解決できなかった。中国は9段線に基づく領有権主張を放棄したわけではないし、南シナ海の他の当事国もまた領有権主張を断念したわけでもない。COCについて協議することは緊張緩和に役立つが、短期間で、あるいは中期間で、協議が進展する見込みはほとんどない。

記事参照:
Code of Conduct for South China Sea Unlikely, Yet ASEAN Made Progress

812日「中国の南シナ海の哨戒活動の実態比紙報道」(The Philippine Star, August 12, 2014)

フィリピン紙、The Philippine Star(電子版)は、8月12日付で、中国の西フィリピン海(南シナ海)の係争海域における哨戒活動の実態について、要旨以下のように報じている。

(1) フィリピン沿岸警備隊は5月に、Half Moon Shoal(半月礁)で11人の中国漁民をウミガメ密猟で逮捕したが、北京は、この海域から撤退する様子がなく、中国漁民を保護するために、哨戒活動を強化している。フィリピンではHasa-Hasa Shoalと称されるパラワン島に近いこの砂州周辺は豊かな漁場で、この海域に出漁するパラワン島の漁民の話によれば、この砂州周辺に出漁すると、何時もウミガメを捕る中国漁民を保護する中国海警局の巡視船が哨戒しているという。2012年6月には、この砂州周辺で、1隻の中国海軍の誘導ミサイルフリゲートが視認されている。パラワン島の漁民の話によれば、Hasa-Hasa Shoal周辺海域で見かける中国海警局の巡視船は全て、Mischief Reefから来ているという。Mischief Reefは、フィリピンの管轄海域にあるが、1994年以来、事実上中国の支配下にある。中国は、当初この環礁を中国漁民の避難所として占拠したが、その後海軍施設を建設し、現在では中国南海艦隊の前方拠点となっている。中国の巡視船は、Ayungin Shoal(Second Thomas Shoal、仁愛礁)でも見られる。この砂州には、着底させたフィリピン海軍の揚陸艦、BRP Sierra Madreに海兵隊分遣隊が派遣されている。

(2) パラワン島の漁民は、Hasa-Hasa Shoal周辺海域やその他の漁場における中国の哨戒活動を恐れてはいない。ただ、彼らが懸念しているのは、中国巡視船の嫌がらせから自国漁民を護るためのフィリピン政府の保護がないことである。彼らは、「我々は、中国巡視船が中国漁民を保護しているように、フィリピン政府が我々を保護できることを切に希望している」と語っている。彼らによれば、中国の漁民はHasa-Hasa Shoal周辺海域で漁をしているわけではなく、ウミガメやその他の希少な海洋生物を捕獲している。これらの海洋生物は中国では高値で買い取られることから、漁をするよりはるかに実入りが良いからである。

記事参照:
Chinese patrols expanded in shoal

812日「エクソン・モービル、カラ海で試掘開始」(MarineLink.com, August 12, 2014)

ロシアメディアの報道によれば、石油掘削リグ、West Alphaは8月12日、カラ海のUniversitetskaya-1油田で試掘を開始した。この試掘は、米石油最大手、エクソン・モービルとロシア国営石油会社、ロスネフチとの共同事業で、プーチン大統領はビデオメッセージで、この試掘は北極海の有望な油田開発の重要な1歩であると強調した。ロスネフチのセチン会長によれば、カラ海の油田は、サウジアラビアの埋蔵量に匹敵する有望油田という。カラ海での試掘は、冬期に入る前の今後2カ月以内に完了しなければならない。

記事参照:
Kara Sea Platform ‘West Alpha’ Starts Drilling
Photo: West Alpha

812日「東南アジアの『弱小海軍』、地域安定への大きな貢献」(RSIS Commentaries, August 12, 2014)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の客員研究員、Koh Swee Lean Collinは、8月12日付 RSIS Commentariesに、“’ Smaller Small Navies’ of Southeast Asia: Greater Regional Resilience?”と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

(1) ハワイで行なわれた2014年の「環太平洋多国間海軍演習 (RIMPAC)」は中国の初めての参加で注目を集めたが、ブルネイ海軍の初参加もASEANにとって画期的であった。ブルネイの外洋哨戒艦、KD DarussalamとKDB Darulamanの2艦は、太平洋ミサイル射場施設で対艦巡航ミサイルの発射を成功させ、その戦闘能力を初めて実証した。RIMPAC 2014は、特にブルネイ、ミャンマーそしてフィリピンといった、東南アジアの「弱小海軍 (smaller small navies)」の参加が1つの特徴であった。インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ及びベトナムの域内「ビッグ5」の「小海軍 (small navies)」と違って、これらの比較的未知の「弱小海軍」は、小規模だが、彼らの能力と国際的な存在感を高める上で、RIMPAC参加は少なからぬ重要性を持っていた。全体として、これはASEANにとって好ましい前兆である。

(2) 「ビッグ5」の新しい戦闘艦艇や潜水艦の取得は注目を集めているが、「弱小海軍」の控え目な能力構築努力は、野心的な近代化計画で多くの注意を集めるフィリピン海軍を除いて、あまり注意を引くことがなかった。ブルネイ海軍は、目立たないが着実に能力を強化してきた。ブルネイ海軍は2009年以降、従来の小型沿岸哨戒艇と高速ミサイル攻撃艇を、より大型で強力なドイツ製の外洋哨戒艦に更新した。能力構築計画があまり注目を集めなかったもう1つの「弱小海軍」はミャンマー海軍である。ミャンマーの造船所は近年、中国の技術協力を受けているといわれるが、ステルス型外形の哨戒艇とミサイル搭載フリゲートを建造し、就役させた。2014年7月のHIS Jane の報道によれば、ミャンマー海軍は、インドネシアの造船会社、PT PALから、同社の建造でインドネシア海軍が現在運用中の満載排水量、1万1,000トンのMakassar級ドック型強襲揚陸艦 (LPD) を含む、少数の艦艇を購入するために「予備協議」中であるという。取引が成功すれば、ミャンマー海軍は、インドネシア、マレーシア、シンガポール及びタイに続いて、これまでの自然災害・人道支援 (HA/DR) で威力を発揮してきたLPDタイプの大型両用艦を運用する、5番目のASEAN海軍になるであろう。

(3) 「弱小海軍」は、これまで限られた戦力投射能力しか持たず、沿岸域での行動に限られていた。しかし、より長射程で長い航続距離を持つプラットホームの導入によって、「弱小海軍」は、遠海域での大規模な多国間演習や訓練に参加することが可能になった。その好例は、2003年にインドが主催した初めての多国間演習、Exercise Milanへのミャンマー海軍の参加であった。ミャンマー海軍は、LPD購入を進めれば、域内のHA/DR(人道支援/災害救助)任務やその他の緊急対処への参加が増えるかもしれない。一方、ブルネイ海軍のKDB Darulamanは、RIMPAC参加に先立って、2013年10月のオーストラリアでのThe ASEAN Defence Ministers Meeting-Plus Maritime Security Field Training Exerciseに参加することで、その歴史上初めての大規模な国際的演習への参加を実現させた。フィリピン海軍は、特にアメリカから取得した哨戒フリゲートによって哨戒能力を強化したが、インドネシアからのMakassar級LPD取得計画も報じられている。 ブルネイ海軍と同様に、フィリピン海軍も将来的に、RIMPACのような大規模な多国間演習に艦艇を派遣するようになろう。

(4) ASEANが自前でHA/DRに迅速に対応できるようになるためには、集団的な能力構築努力が必須の要件である。シンガポールのチャンギ基地のThe Changi Command and Control Centre内にHA/DR対処センターを設置するという提案は、他のASEAN加盟国の賛同を得ており、域内の能力構築努力の重要な措置である。東南アジアの「弱小海軍」の能力構築努力は、「ビッグ5」と比較して控え目で小規模だが、包括的な安全保障におけるASEAN加盟国間の責任分担に向けての実質的な前進となろう。包括的な安全保障におけるASEAN加盟国間の責任分担は、2009年に公表されたThe ASEAN Political-Security Blueprint における目標の1つである。「弱小海軍」の漸進的な能力構築は、既に成果を実証しつつある。例えば、2013年11月のスーパー台風、Haiyanがフィリピンを襲った時、ブルネイ海軍は、フィリピンにおけるHA/DR任務に外洋哨戒艦、KDB Darussalamを派遣した。大型の両用揚陸艦を運用するASEAN海軍の「クラブ」に、フィリピンが加入し、将来的にミャンマーも加入すれば、域内に緊急事態が生起した場合、域内各国による統合利用が可能な域内のアセットが一層強化されることになろう。

記事参照:
“Smaller Small Navies” of Southeast Asia: Greater Regional Resilience?
RSIS Commentaries, August 12, 2014

8月12日「アジアにおける新たな常態、中国のプレゼンスの増大-米専門家論評」(The Wall Street Journal, August 12, 2014)

米シンクタンク、AEIの常勤研究員、Michael Auslinは、8月 12 日付の米紙、The Wall Street Journalに“The New Normal in Asia”と題する論評を発表し、要旨以下のように述べている。

(1) イラクやウクライナで起こっている大規模な混乱に比べれば、東アジアは比較的平穏に見える。しかし、アジアの見せかけの安定の下には、パワー・ポリティックスの憂慮すべき傾向が底流している。最近の出来事を見れば、中国は、係争海域において自らの領有権主張を強引に推し進めており、そのやり方に他国は益々対応し難くなってきている。同時に、アメリカのアジア地域における影響力も、次第に弱まってきている兆候が見られる。東南アジア諸国間で懸念が高まっているにもかかわらず、中国の域内での影響力は増している。先のミャンマーでのASEAN地域フォーラム (ARF) では、中国とその他の参加国は、「如何なる国も海洋において挑発的な行為を行なわない」とするアメリカの提案を拒否した。ケリー米国務長官は、フィリピンを除くほとんどの参加国から、自らの提案への支持を取り付けることができなかった。一方、中国の王毅外交部長は、拘束力のない「行動宣言 (DOC)」のみが海洋紛争のガイドラインであるべきだ、と主張した。また、ほぼ同時期に日本政府が尖閣諸島周辺における中国の危険な行動を批判した最新版の「防衛白書」を発表した数日後、中国は、海警局の巡視船を日本が実効支配する尖閣諸島周辺沖に派遣した。

(2) もし日本が強硬な言辞で中国の更なる高圧的な行動を抑止しようと考えているのであれば、それは間違いである。北京は今後も、日本の決意を試そうとするであろう。日本は、中国をアジア地域の和を乱す元凶であると公に名指しすることを躊躇してきたが、そのような時代はもはや過ぎ去った。その代わり、安倍首相は、中国の軍事的増強に不安を抱くアジア諸国に対して、安全保障パートナーとしての日本を売り込んできた。日本は、ベトナムに対する6隻の中古巡視船の売却と、フィリピンに対する10隻の巡視船の供与を発表した。また、日本とオーストラリアは、今後、共同で潜水艦技術の開発に取り組むことを発表した。日本とインドとの協力関係の強化も、両国首脳にとって優先すべき事項となっている。しかしながら、このような新たな戦略的関係は、北京に対して、領有権紛争や域内を不安定化させている軍備増強を再考させるまでには至っていない。それどころか、実際には、周辺国の強固な対応は、北京に、軍事力近代化計画を正当化させる口実となっている。

(3) 東アジアは、全ての関係国が自らの立場を強固にすることで、非常に不安定な状況にある。中国の大きさや強さが、他のどの一国に対しても中国を支配的なアクターとしている。新たな政治的な提携関係は中国の挑発的行為に対抗し得るだけの相互安全保障体制になっているとは到底言えないし、また各国も中国と敵対することを望んでいない。このような板挟み状態の中で、アジア諸国は、北京の行動にただ単に対応しているに過ぎない。更に厄介なのは、中国がアメリカを外交的に孤立させようとしていることである。王毅外交部長は、アメリカを部外者扱いして、外部からの如何なる干渉をも排除して、紛争解決のために協調するよう、「アジア諸国」に呼びかけている。このような戦術は、ワシントンがアジアで信頼できるアクターと見なされている限り、上手くいかないであろう。しかしながら、紛争海域で生じる出来事に対するワシントンの影響力が低下すればする程、アジア各国政府が北京と直接交渉しなければならないとの決断に迫られる可能性が高まろう。日本の新たな積極的行動も、域内全域における北京の高圧的姿勢に対する直接的な対抗手段とはなっていない。

(4) むしろ、日米両国政府は、アジアにおける政治的バランスの緩やかな再編を期待している。日米両国は、中国が孤立感を深めれば、その行動が穏やかなものになる可能性に賭けているようである。北京を孤立させる日米の最初の試みは、予期した成果を上げなかった。更なる圧力をかければ成功するかといえば、それは疑問である。むしろ、中国は、更に窮地に追い込まれたと感じて、一層手に負えない国になってしまうかもしれない。こうした状況は、将来のアジアのパワー・ポリティックスを暗示しているようである。小国同士は更に協力関係を強化することになろうが、それは中国の着実な侵出に対する直接的な対抗手段にはほとんどならないであろう。北京が現在の行動を押し進め続ける限り、アジアの安全保障のバランスは、中国優位に徐々に再編されていくであろう。例えば、北京が発表した南シナ海の島嶼における灯台建設を強制的に阻止するといった、軍事能力を備えた域内諸国による危険を冒す覚悟の協調的圧力 (a risky and concerted push) だけが、北京に対して自らの行動を変えなければならないとのシグナルを送ることができよう。そのような可能性がほとんど展望し得ないことを考えれば、将来的には、アジアにおける新しい常態は、かつて紛争海域であった海域における中国のプレゼンスの増大ということになろう。

記事参照:
The New Normal in Asia

813日「南シナ海における行動規範の可能性と限界―ベトナム人専門家論評」(RSIS Commentaries, August 13, 2014)

ベトナムのUniversity of Social Sciences and Humanities講師、Truong-Minh Vuと同大研究員のNguyen The Phuongは連名で、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の8月13日付 RSIS Commentariesに、“South China Sea: Promise and Problems of COC”と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

(1) 米ユタ州立大准教授で、RSIS訪問研究員のKai Heは、6月2日付のRSIS Commentariesに寄稿した、“A Tale of Three Fears: Why China Does Not Want to Be No 1”と題する論説で、南シナ海における「行動規範 (COC)」に署名することは中国が世界リーダーになるための第1歩となるかもしれないと指摘した。我々は、中国が新しいリーダーとしてルールや規範を通じて近隣小国との関係を維持管理するために、法的拘束力を持つCOCが必要である、と考える。しかしながら、我々は、それが中国の「自制心を持った台頭するパワー (a “self-restraining rising power”)」としての実際の公約になるかどうかについては懐疑的である。

(2) 米プリンストン大のJohn Ikenberry教授によれば、国際制度を受け入れ、国際法を遵守するという覇権パワー (a dominant power) の決定は、その動機がパワーの維持にある。パワーの優越に依拠する覇権パワーは、国際制度を「パワーの投資 (“power investment”)」と見なし、そのパワーが相対的に衰退に向かっている時でも、自らの利益を確保するルールや規範を作ろうとする。利益の確保や紛争解決のためにハードパワーを使うのは、コストが極めて高いものになる。他方、弱小国家は、国際制度を通じて、大国が武力行使の結果として、あるいは何らかの恩恵の見返りとして設定した諸原則を受け入れようとする。

(3) しかしながら、覇権パワーと国際規範の関係は常に複雑で多層的であった。覇権パワーは、自らの国内法によって、国際法を手段化したり、脱退したり、そして修正したりすることができる。言い換えれば、覇権パワーにとって、国際法は、自らの短期的あるいは長期的目標を満たすための「工具 (a “power tool”)」に過ぎない。中国は2009年以来、増大するパワーを使うか、それとも国際法を順応する模範国となるかの、選択のジレンマに直面してきた。中国は、台頭するパワーとして、現状に対応するというより、むしろその増大する能力を如何に活用し、国境を超えてその国益を拡大するかという問題に直面している。従って、少なくとも以下の3つの理由から、COCを巡る現在の交渉は、「パワーの投資」というよりは、むしろ「工具」として活用されるであろう。

a.第1に、1998年から現在に至るCOC交渉の過程を通じて、中国は、COCについてASEANとは完全に見解を異にしてきたことである。ASEANとって、COCに署名することは、海洋における係争問題を交渉によって解決するという前例となり、大きな政治的利益となろう。一方、中国は、この地域において自らのパワーを規制するような如何なる条約に参加する意図がないことを明らかにしてきたし、そしてCOCを「信頼醸成手段」の象徴と見なしてきた。

b.第2に、中国のパワーは着実に強化されていることである。北京は、自らのパワーが減退しているとか、あるいはその戦略が上手くいかなくなっていると自覚しない限り、自ら進んで自制する必要性を感じていない。中国は、ネピドーでのARFで、ASEANの立場に合わせて、COCの早期締結の必要性を表明した。中国は、COC交渉を「時間稼ぎの手段」として利用することで、国際法に準拠した紛争解決への正しい方向に進んでいるとの幻想を育んでいる。

c.第3に、COCは、実体としてよりも、それ以上に装飾として機能することになろうということである。

(4) ASEANは、加盟国間の分裂のために、中国をほとんど拘束しない、法的拘束力の弱いCOCを受け入れるべきか。COCの交渉課程で露出されてきたASEAN加盟国間の分裂は、中国に利用されてきただけであった。法的拘束力の強いCOCは、中国指導部を、ルールや規範に基づく南シナ海問題の解決に向かわせる足掛かりとなり得るか。我々は、これには2つの条件が満たされる必要があると見ている。第1に、ハードパワーに頼る政策の追求は、中国との抗争や対立の方向にアメリカを一層引き込む可能性があり、従って限界があるということを、中国指導部が理解する必要があるということである。そして第2に、中国はそのために、「韜光養晦」政策のバージョン2を打ち出し、それを通じて、ルールや規範に準拠して隣国との紛争を解決する方法を模索しなければならない。中国はより強力な国家との対決は依然として回避している反面、南シナ海をめぐる紛争ではパワーの非対称性が明らかである。従って、中国とASEANとの関係を規制するCOCは、一時的な解決策と見なされるべきである。アメリカや日本、更にはインドなど、南シナ海における権益を持つ全ての国家が参画する拡大版COC、あるいは地域全体を対象とする海洋協定といったものが、領有権紛争を管理するとともに、責任ある大国としての中国の台頭を導く、現実的な「パワーの投資」となり得るのである。

記事参照:
South China Sea: Promise and Problems of COC
RSIS Commentaries, August 13, 2014

815日「南シナ海における中国の領有権主張、歴史的根拠あり―中国人専門家主張」(RSIS Commentaries, August 15, 2014)

中国の厦門大学の李徳霞 (Li Dexia) 准教授とシンガポール在住の海洋問題研究家、Tan Keng Tatは、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の8月15 日付の RSIS Commentaries に、“South China Sea Disputes: China Has Evidence of Historical Claims”と題する論説を寄稿し、米人ジャーナリスト、Bill Haytonの7月3日付のRSIS Commentariesの、“The Paracels: Historical Evidence Must be Examined”と題する論説に反論している。(抄訳者注:Haytonの論説は海洋情報旬報2014年7月1日-10日号参照。この論説は、李徳霞准教授が6 月20 日付のRSIS Commentaries に寄稿した、“Xisha (Paracel) Islands: Why China’s Sovereignty is ‘Indisputable’”と題する論説(海洋情報季報第6号3.外交・国際関係「トピック」参照)について反論したものである。従って、今回の李徳霞准教授の論説は再反論ということになる。)

李徳霞准教授とTan Keng Tat,は、この再反論で、要旨以下のように述べている。

(1) 中国の領有権主張は、元と明の時代の航海記録に加えて、数世紀に亘る検証可能な歴史的な記録、長期間の占有、諸条約、そして国際法と慣習法に基づいたものである。中国は1292年から1433年の間、世界に冠たる海洋国家であった。北宋時代に遡って検証可能な証拠を提示するためには、2頁のコメンタリーではなく、研究論文が必要になる。南沙諸島と黄岩島(スカボロー礁)の領有権主張を裏付けるために、フィリピンは4,000頁を超える資料を法廷に提出した。特定できる「海域」や「島嶼」に言及した歴史的記録がないというHaytonの主張は、根拠のないものである。

(2) 現在の西沙諸島に関する最古の中国の文献の1つは、13世紀のChu Fan Chi(『諸蕃志』)である。本書は1911年、Chau Ju-kua: His work on the Chinese and Arab Trade in the 12th and 13th Centuries というタイトルで、Friedrich HirthとW.W. Rockhillによって英訳された。この本で、福建省の税関検査官であったChau Ju-kua(趙汝适)は、「海南島の東にはChien-li chang-shaとWan-li shih-chuangがある」と書いており、訳者らはこれらが西沙諸島を意味すると解した。元の皇帝(クビライ)は1292年、ジャワ島(シンガサリ王国)のクルタナガラ王を攻めるために1,000隻の船隊からなる遠征軍を送ったが、この航海では「Ch’i-chou yang(西沙諸島)」と「Wan-li shi-tang(南沙諸島)」を通過したと記録されている。明時代の中国は1405年から1433年の間、世界で唯一の海洋国家であり、鄭和は、317隻の艦隊を率いて、「Wan-sheng shih tang(西沙諸島)」と「Shih-shing Shi-tang(南沙諸島)」を経由して、チャンパ(ベトナムの一部)、マラッカ、インドそして最後に東アフリカにまで航海した。1730年のChen Lun-Chiung(陳倫炯)の著書、Notes on land across the sea(『海國聞見録』)では、西沙諸島と南沙諸島の地理的な位置が記述されている。彼の‘General map of four seas’では、西沙諸島が「Ch’i-chou yang」、南沙諸島が「Shih-tang」とそれぞれ記述されている。また、中国の記録では、西沙諸島の西側にある9つの島嶼に言及して、西沙諸島を「Chi-chou yang shan」と命名している。清朝時代では、西沙諸島という名称が一般的になった。当時、ヨーロッパ人もこの海域を航行できなかったとすれば、ベトナム漁民が1405年にどうして250カイリも離れた西沙諸島まで出漁できたであろうか。西沙諸島は、1838年に ‘The Complete Map of the Unified Dai Nam’(「大南一統全圖」)に初めて記録されているのである。

(3) 「西沙 (Xisha) はWest Sandの中国語訳と思われる」とのHaytonの主張は、全く根拠がない。西沙は「西側の海岸 (Western Beach)」を意味する。1909年まで西沙諸島に関する中国の記録がないというHaytonの主張は誤りである。1887年の中国とトンキン(北ベトナム)との間の境界画定協定では、西沙諸島を含む境界の東側の全ての島嶼が中国に所属すると規定されている。1902年には、中国語で書かれた石碑が西沙諸島に設置された。1907年には艦隊が再び西沙諸島を訪問し、晋卿島 ((Drummond Island) に中国語の石碑を設置した。2人の学者、Hungdah ChiuとChoon-ho Parkは1975年に、The Ocean Development and Law Journalに、「ベトナムが領有権を主張し始めた1802年に先立つ数百年前から、中国が西沙諸島を発見し、支配してきたことは疑いない」と書いている。

(4) Haytonは、自分の主張を強調するために、李徳霞博士によって引用された歴史的な証拠を無視している。即ち、1つは、1956年6月15日、ベトナム民主共和国の外務次官が、中国側に対して「ベトナムが有するデータによれば、西沙諸島および南沙諸島は、歴史的に中国の一部である」と指摘したこと。そして、ベトナム外務省アジア局の局長代理が「歴史的に判断すれば、それらの島々は、既に宋の時代には中国の一部であった」と付言したこと。もう1つは、1958年9月4日に、中国が領海に関する声明を発表し、西沙諸島や南沙諸島が中国の領土に含まれることを宣言したこと。そして、その10日後、ベトナム民主共和国のファン・バン・ドン首相が口上書を周恩来総理に送付し、「ベトナム民主共和国政府は、中華人民共和国政府が1958年9月4日に発出した領海に関する声明の内容を確認し、それを支持する」と述べていること。

(5) 李徳霞博士は、「1945年の日本の降伏後は、カイロ宣言やポツダム宣言によって、西沙諸島は中国に返還された」と述べている。Haytonは、いずれの宣言でも南沙諸島や西沙諸島についての言及がないことを理由に、これを「不正確」としている。しかし、カイロ宣言には、「日本が暴力と強欲によって獲得した全ての地域から駆逐されよう」と明記されている。1946年から1956年の間、1951年のサンフランシスコ講和会議を除けば、フランスとベトナム共和国はこれらの島嶼に対する中国の主権に異議を唱えなかった。

(6) Haytonはまた、「中国、ベトナムそしてフィリピンはいずれも、あたかも西沙諸島や南沙諸島を1つのグループであるかのように、それら諸島の島嶼群に対する領有権を主張している」と述べているが、それは間違っている。南沙諸島の一部島嶼に対するフィリピンの領有権主張は1971年になって出てきたものだが、以前の植民地支配者であったスペインとアメリカはこれら島嶼のどれも割譲したことはなかった。フィリピンは、西沙諸島に対する領有権を主張していない。またベトナムも、東沙諸島や中沙諸島に対しては領有権を主張していない。 Haytonが引用している、ノルウェーの専門家、Stein Tonnesson博士は、ロンドンの公文書館の記録に基づいて、「イギリスが西沙諸島を中国領土と見なしていた」ことを明らかにした。オーストラリア海軍の退役准将、Sam Batemanは、「1958年に北ベトナムが西沙諸島に対する中国の主権を承認していること、そして1958年から1975年までの間、ベトナムが本件について全く抗議していないこと、この2つの事実によって、ベトナムの現在の西沙諸島に対する領有権主張は大きく弱められている」と指摘している(海洋情報季報第6号3.外交・国際関係参照)。

記事参照:
South China Sea Disputes: China Has Evidence of Historical Claims
RSIS Commentaries, August 15, 2014

817日「無人機と有人機、空母で同時運用試験米海軍」(Los Angeles Times, August 18, 2014)

米海軍は8月17日、大西洋上の空母、USS Theodore Roosevelt (CVN 71) から、艦載機、F/A-18 Hornetと共に、X-47B無人機の同時運用試験を実施した。海軍の艦載無人機計画担当官は、「この試験によって、通常の飛行任務を遂行する有人機と共に、X-47B無人機が空母から発着艦し、飛行任務を遂行できることが実証された。これは、将来の空母航空団にとって画期的な出来事である」と強調した。空軍とCIAが運用する戦闘用の無人機は、数千マイルも離れた場所からパイロットによって遠隔操縦される。一方、海軍の無人機は、コンピューターによってほぼ完全に戦闘任務を遂行できるように設計されている。Predatorやその他のプロペラ推進の無人機と異なり、X-47Bは、ステルス機で、ジェット推進である。ノースロップ・グラマン社の製造で、B-2ステルス爆撃機のミニ版のような外形で、ウイングスパンが62フィート、飛行高度は4万フィート以上に達し、航続距離は2,400マイル以上で、最高速度は亜音速に達する。ペイロードは4,500ポンドだが、海軍は兵器と搭載する計画はないとしている。8月17日の運用試験では、F/A-18 Hornetと同じように、カタパルトで発艦し、アレスティング・ギアを使って着艦した。X-47Bの海軍でのニックネームは”Salty Dog 502″ で、海軍のパイロットは最長10時間の戦闘飛行任務が可能だが、X-47Bはその3倍の時間飛行可能である。

記事参照:
Navy conducts first series of drone and manned fighter jet operations
Photo: The Navy’s unmanned X-47B, left, readies for launch as an F/A-18 Hornet conducts flight operations aboard the aircraft carrier Theodore Roosevelt.

818日「20148月時点の世界のコンテナ船、5千隻余」(gCaptain.com, Reuters, August 18, 2014)

デンマークのDrewry Maritime Researchが8月18日に明らかにしたところによれば、2014年8月時点における世界のコンテナ船の隻数は5,088隻で、積載能力は1,780万TEUであった。ボルチック国際海運協議会 (BIMCO) によれば、この能力は過去5年間で倍増している。Drewry Maritime Researchのレポートによれば、2014年3月までの1年間で、192隻のコンテナ船(平均積載量2,600TEU)が解撤された。一方、2014年には、約230隻の新造船が配船されるが、2015年は約180隻に減少すると推測されている。世界最大手のデンマークのMaersk Lineは大型船の投入で輸送コストの削減を図っており、積載量1万8,270TEUの超大型コンテナ船20隻を韓国の大宇造船海洋に発注しており、既に10隻を受領している。残りの10隻は、2014年後半から2015年にかけて配船され、アジアと北ヨーロッパの航路に投入されることになっている。

記事参照:
Global Number of Container Ships Hits Peak – Drewry

8月18日「『大戦』は時代遅れか、米中関係への含意―豪専門家論評」(The National Interest, August 18, 2014)

オーストラリアのAustralian Strategic Policy Institute (ASPI) の研究員、Rod Lyonは、米誌、The National Interest の7 月3 日付ブログに、“What China and America Are Wondering: Is “Major War” Obsolete?”と題する論説を寄稿し、核保有国同士の戦争もあり得ないわけではないとして、米中関係を視野に入れて、要旨以下のように論じている。

(1) 2014年は第1次世界大戦勃発から100年目である。1990年代後半に英誌、Survivalで、「大戦 (major war)」が時代遅れになったか否かという問題が論じられた。寄稿者の1人、John Muellerは、既に時代遅れとなっている奴隷制度や決闘と同様に、「大戦」はもはや時代遅れになったと論じた。一方で、他の論者は、「時代遅れ」の定義について論じたり、「大戦」の定義を論じたりする者もいた。Michael Mandelbaumは、恐らく「大戦」は現代では好ましくない戦略オプションにすぎない、何故なら、コストが法外なものになる反面、成功の対価があまりに少ないからである、と論じている。

(2) 戦争が時代遅れになったのかという問題が主に形容詞の “major” という言葉によって区別されるということは、非常に興味深い。「野蛮な小さな戦争 (nasty little war)」、特に遠隔地におけるそれが時代遅れだとは誰も主張しない。Muellerは、こうした争いを「戦争」と呼ばず、「機会主義的略奪行為 (“opportunistic predation”)」と見なしている。しかし、9.11は、この問題を巡る議論に衝撃を与えた。1990年代の野蛮な小さな戦争は、もはや遠隔地の出来事ではなくなった。アルカイダやその支持者、そして彼らが引き起こす全てのテロ行為に対する戦争に、超大国が立ち上がり、戦争へと動き出したのである。ワシントンは、「世界的規模の対テロ戦争 (The Global War on Terror)」という強迫観念に取り憑かれ、これまでにない程の長期間、戦うことになった。ワシントンの行動は、少なくとも「大国は依然として戦争を引き起こすのか」という1つの問題に答えを出した。その答えは、イエスである。

(3) しかし現在までのところ、「大戦」が時代遅れになったか否かという問題はまだ決着が着いていない。もし「大戦」を「熱戦(実際の武力行使を伴う戦争)」と考えるのであれば、1945年から答えは出ていない。一方、もし「大戦」を「(大国同士が実際に干戈を交えるかどうかに関係なく)冷戦をも含むもの」と考えるのであれば、1991年から答えが出ていない。過去数十年の学術的研究は、大国同士の戦争は普遍的ではないことを示唆している。Jack Levyは、1945年から1975年の間の国際関係における戦争を調べ、彼が「世界戦争 (“world wars”)」と定義する戦争がわずか9例であり、そのほとんど全てに大国が関与していたことを明らかにした。Levyは、大国が関与したより普遍的な「諸国間戦争 (“interstate wars”)」が113例あったことも明らかにしている。筆者 (Rod Lyon) は、これらの数字について2つの点を指摘しておきたい。第1点は、もし「世界戦争」が稀なものであるとすれば、何故1945年(熱戦)以来、あるいは1991年(冷戦)以来、「大戦」がなかったのかという理由についての特別な説明は必要がないということである。2つ目は、「大戦」の定義が依然、論議の対象であるということである。

(4) 学問的な議論は別にして、最も懸念される事態について考えてみたい。即ち、アメリカと中国という大国同士の戦争が起こり得るのかということである。この疑問には、①起こり得る (possible)、② 起こる (yes)、③ 起こるかもしれない (likely)、④ 起きない (no)、との回答がある。大国間、特に核保有国同士では、一方が他方に対して軽々に戦争を仕掛けることはない。しかし、時として戦争は起こるし、それらは偶発的なものではない。大国間の戦争は、国際秩序を巡って生起している。Raymond Aronが指摘しているように、こうした戦争は、国家としての生死に関わる戦いである。そして、大国同士が干戈を交える主たる理由は、戦争に訴えないことが悪い選択肢のように見えることである。しかも、稀な事例である大国間の戦争を含め、戦争への道筋は、通常兵器の保有国(非核保有国)のみに残されているわけでもない。核保有国同士の戦争は、例えそれが高度に政治的にコントロールされ、そして紛争目的が限定されていることについての相互理解の下に戦う、エスカレーション・ラダーの下方段階での戦争であっても、生起し得ると想定しておかなければならない。当然ながら、双方が通常戦争と核戦争との間の一線に対して理解を共有するとともに、両国の間に危機管理メカニズムが機能していれば良いが、どちらも要件も存在しない状況もあり得る。要するに、どの要件も戦争の生起を阻止するわけではないが、紛争のエスカレーション防止という点で意味がある。実際、「大戦」が起こりそうだからこそ、そのような戦争の終結点に大きな関心がある。無制限のエスカレーションは、良い結末になることはあり得ないのである。

記事参照:
What China and America Are Wondering: Is “Major War” Obsolete?

8月19日「中国戦闘機、米軍機に異常接近飛行」(The New York Times, August 22, 2014)

米国防省が8月22日に公表したところによれば、中国の戦闘機、J-11が8月19日に中国沖合の国際空域を飛行中の米海軍哨戒機、P-8 Poseidonから30フィート以内の「極めて近接した、極めて危険な」飛行を行った。それによれば、中国の戦闘機がP-8 Poseidonの下に近接し、次いで両機の翼端の間が30フィート以下の距離で哨戒機と並行して飛行し、最後に中国の戦闘機は連続横転を行い、搭載武器を米海軍哨戒機のパイロットに見せつけた。国防省報道官は、中国戦闘機の飛行を攻撃的な行動と指摘し、「我々は、中国機の危険で未熟な近接飛行について強い懸念を表明してきた。このような行動は搭乗員の安全と安全に対するリスクであり、国際法に反する」と強調した。このような中国機の行動は、東シナ海や南シナ海における日本やアメリカの同盟国に対する北京の高圧的な行動によって既に高まっている米中間の緊張を一層高めるものである。2001年4月に中国の戦闘機が海南島沖合の空域で米海軍哨戒機と衝突した事案を想起すれば、今回の異常接近は非常に危険であった。2001年4月の事案では、当時のブレア米太平洋軍司令官は、「遊園地で小型電気自動車をぶつけ合うようなことを空中で行うのは異常である」と非難した。軍事分析家は、中国戦闘機の異常接近の理由について、中国は東シナ海や南シナ海において近隣諸国と係争中の島嶼を巡って緊張関係にあるため、近海及びその上空に対する支配力を誇示したいと考えている、と指摘している。国防省報道官は、公表が3日遅れになったことについて、「我々は、情報を整理し、実際に何が起こったのかの概要を理解する必要があった」と述べた。

記事参照:
Pentagon Says Chinese Fighter Jet Confronted American Navy Plane
Photo: A Chinese J-11 fighter jet is seen flying near a U.S. Navy P-8 Poseidon about 215 km (135 miles) east of China’s Hainan Island in this U.S. Department of Defense handout photo taken August 19, 2014

【関連記事】「中国、米国の非難に反論」(The New York Times, August 23, 2014)

中国政府は8月23日、人民解放軍の戦闘機が国際空域において米海軍哨戒機に危険なまでに接近したとする米国防省の主張を否定し、中国沿岸近くでの頻繁な偵察活動は事故の危険があると警告した。国防部報道官は、「中国のパイロットの行動はプロフェッショナルなものであり、米軍機とは安全な距離を維持していた」とし、「中国に対するアメリカの非難は事実無根である。大規模で、頻繁に、中国に接近して行われるアメリカの偵察行動が中米間の海上及び航空の安全を危険にさらし、事故の潜在的な要因になっている」と非難した。国防部によれば、中国海軍の戦闘機が、海南島の東約137カイリの南シナ海上空で偵察飛行を行っている2機の米軍機、P-8 PoseidonとP-3 Orion を確認のため発進した。

記事参照:
China Denies Confrontation With U.S. Surveillance Plane

820日「ロシア、北極海の地球物理学調査実施」(MarineLink.com, August 20, 2014)

ロシアのメディア、Arctic-infoが8月20日付で報じるところによれば、ロシアはこのほど、「北極2014高緯度探検 (The Arctic-2014 high-latitude expedition)」計画の一環として、原子力砕氷船、Akademik FedorovYamalによる北極点周辺海域における地球物理学調査を実施した。両原子力砕氷船は、北極点周辺海域を航行し、この間、多重音響深度測量、重力調査、磁気測定及び地震探査を実施した。今回の調査の目的は、200カイリのEEZの外側のロシア大陸棚における潜在的な炭化水素資源の評価であった。またこれに加えて、国連大陸棚限界委員会 (CLCS) に対するロシアの大陸棚外縁限界の延伸申請の根拠資料となる、メンデレーエフ海嶺とロモノソフ海嶺のユーラシア大陸との繋がりを確認するためのデータ収集も、目的の1つであった。調査責任者は、今回の調査はこれまでほぼ不可能だった大量の科学機器を搭載した船によるもので、これが今回成功した要因である、と語っている。国際法では、北極点とその周辺海域はいずれの国にも属さない。カナダ、デンマーク、ノルウェー、ロシア及びアメリカは、沿岸から200カイリをそれぞれのEEZとしている。ロシアがメンデレーエフ海嶺とロモノソフ海嶺をロシア大陸棚の延伸部と証明することができれば、チュクチ~ムルマンスク~北極点周辺海域を結ぶ120万平方キロの三角形の海域における炭化水素資源の採掘する排他的権利を獲得できることになろう。

記事参照:
Russia Conducts High North Geophysical Surveys

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子