海洋情報旬報 2014年7月11日~20日

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7月14日「台湾・太平島の埠頭建設、計画より早く完了見込み」(Taipei Times, July 14, 2014)

消息筋によれば、台湾が南シナ海最大の島、太平島に建設している埠頭は、2014年後半の予定より早く完了の見込みという。それによれば、埠頭建設に必要な11個の潜函(ケーソン)の建造が予定より早く進展しているためである。その結果、総重量3万トンの潜函が予定より7カ月早い11月に、建設資材を運ぶ船とともに、海軍のフリゲートに護衛されて太平島に運ばれる。埠頭建設が完了すれば、3,000トン級のフリゲートと海岸巡防署の巡視船の接岸が可能になる。交通部によれば、320メートルの埠頭に加えて、210メートルの取り付け道路、航法システムやその他の設備が設置される。現在、大型船は沖合で錨泊し、小型船による荷揚げ作業を余儀なくされており、水深14メートルに浚渫された埠頭が完成すればこの問題が解決される。また、現在、1,300メートルの滑走路の改修作業も実施されている。

記事参照:
Itu Aba pier construction ahead of schedule: source

715日「アメリカは対越武器禁輸を解除すべし米専門家論評」(The Wall Street Journal, July 15, 2014)

米シンクタンク、The Center for a New American Security (CNAS) のRichard Fontaine 所長とPatrick M. Cronin上級顧問は、7月15日付けの米紙、The Wall Street Journalに、“The Case for U.S. Arms Sales to Vietnam”と題する論評を寄稿し、アメリカはベトナムに対する殺傷兵器の禁輸措置を解除すべきであるとして、要旨以下のように論じている。

(1) アメリカは、太平洋地域における中国の威嚇的行動に対抗するとともに、開放的で、法に基づく地域システムを促進することに関心を有している。アメリカは、如何にして効果的かつ計算された方法で、中国の威嚇的な行動に対抗すべきか。1つの答えは、ベトナムとの関係強化である。米越両国はこれまで合同演習や戦略対話を通じて軍事関係の正常化を図る措置をとってきたが、アメリカは、ベトナムの自衛能力を強化するために新たな措置をとるべきである。最も重要な措置は、ベトナムに対する殺傷兵器の禁輸措置を解除することである。

(2) アメリカの対越軍事援助の規模と種類は、ベトナムの人権状況の目に見える改善と結び付けられるべきである。また軍事援助は、海洋における状況識別システム、フリゲートやその他の艦船、そして対艦攻撃兵器といった、外部からの威嚇行為を抑止するために最も有効な防衛的性格の兵器に限定されるべきである。現在の対越禁輸が行政命令と関連づけられているので、オバマ大統領は、行政命令によって解禁できる。しかし、現在、対越解禁法案を審議している議会の強い支援が得られるならば、それを追求すべきであろう。

(3) 武器売却の解禁は、中国の圧力に対抗するベトナムの抑止力を強化するのみならず、米海軍艦艇のベトナムの港湾への寄港を含む、米越関係の完全な正常化に向けての長い道のりにおける必然的な一歩となろう。アメリカによる防衛兵器の供与とベトナムの人権状況の目に見える改善とをリンクさせることが重要である。国務省はベトナムにおける労働権や宗教の自由といった分野での状況を報告しているが、政治的権利や市民の自由といった分野では依然、深刻な問題がある。例えば、特定の武器システムの供与を、政治犯の釈放や政治活動を罰する法令の改正と結び付けることを考慮すべきである。

(4) 中国は、南シナ海での領有権主張を既成事実化するため、あらゆる手段を講じるであろう。アメリカは、中国の悪行に代価を支払わせるために、より力強い外交的アプローチを追求しなければならない。そうした外交的アプローチの1つが、中国との領有権紛争を抱えている国の中で、自国の利益を護る決意を示している数少ない国であるベトナムとの協力関係の強化である。ベトナム戦争から40 年、冷戦時代の敵国は、中国の台頭による戦略環境の変化によって、今やパートナーになりつつある。米越両国は中国との生産的関係を求めているが、同時に中国の高圧的な主張に対抗するために、自衛能力が重要であることを理解している。今こそ、アメリカがベトナムの自助努力を助ける秋である。

記事参照:
The Case for U.S. Arms Sales to Vietnam

7月16日「タンカー積荷抜き取り事案―南シナ海」(VOA News, July 16, ReCAAP ISC, Report for July 2014)

マレーシア籍船の精製品タンカー、MT Oriental Glory (2,954DWT) は7月16日深夜、シンガポールからマレーシアのサバ州サンダカンに向けて航行中、拳銃と長刀で武装した25人の海賊に乗り込まれ、インドネシア領ビンタン島北東約44.5カイリの海域に錨泊させられ、1,600 metric ton の燃料油を抜き取られた (siphoning)、乗組員の現金や持ち物が盗まれ、該船のエンジンや航法・通信システムなどが破壊された。15人の乗組員の内、3人が負傷したと伝えられる。抜き取り事案は、7月に入って2件目である。

記事参照:
Malaysian Tanker Hijacked on South China Sea
ReCAAP ISC, Report for July 2014
Photo: MT Oriental Glory

7月16日「中国、石油掘削リグをベトナム沖から移動」(The Wall Street Journal, July 16, and Philstar.com, July 17, 2014)

中国は7月16日、石油掘削リグ、Haiyang Shiyou 981をベトナム沖から移動させたと発表した。掘削リグは5月2日にベトナム沖に設置して以来、中国による南シナ海における領有権主張を徐々に拡充していく中国の戦略の一環と見られ、中越両国の対立を高めていた。中国外交部によれば、リグの移動は台風シーズンの到来と探査活動の終了のためという。当初、北京は、台風シーズンの到来を理由に8月15日に掘削リグを移動させる、としていた。外交部報道官は、探査活動によって石油・天然ガス資源が発見され、次の活動を始める前に、集積データが分析されている、と語っている。ベトナムの漁業資源監視局の副局長によれば、中国は7月15日夜から掘削リグと護衛艦艇を移動させ始め、16日朝までに当初位置から40カイリ北東に移動し、海南島に向かって移動しているという。同副局長によれば、ベトナム沿岸警備隊と漁業監視隊の30隻の監視船も母港に引き上げている。

ベトナム政府国境委員会のトラン・コン・トラク元委員長は、ベトナムは引き続き警戒していくとし、「中国の南シナ海政策は侵略的で、掘削リグの撤退は単なる戦術に過ぎない」と述べた。ベトナムの外務省報道官は、「ベトナムは、主権防衛を固く決意しており、国連海洋法条約 (UNCLOS) の規定によってベトナム水域とされる海域に、再び掘削リグを入れないように要求する」と強調した。オーストラリアのThe University of New South Walesのカール・セイヤー名誉教授は、「(掘削リグの撤去による)緊張緩和と中越間の会話の開始は、現在の政治力学を変えることになろう」と指摘している。セイヤーによれば、中越間のこのような動きは、中国の南シナ海における領有権主張をASEAN地域フォーラムなどの場に持ち込もうとするアメリカの努力を阻害することになろうという。

記事参照:
China Moves Oil Rig From Contested Waters
China ends drilling operations in disputed sea

【関連記事1「中国の石油掘削リグの撤退、何時でも戻れる口実を留保―米専門家論評」(The Diplomat, July 16, 2014)

Web誌、The DiplomatのClint Richards共同編集長は、7月16日付けの同誌上に、“China’s Rig Departure Proves Nothing”と題する論説を発表し、今回中国が当初予定を前倒して石油掘削リグを現場海域から撤収させたことで、中国は、アジア地域からの圧力に耐え得る能力を証明し、いずれ自らの判断で再び掘削リグを設置する可能性があるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 中国外交部報道官は7月16日、ベトナムと係争中の西沙諸島海域に5月2日に設置した石油掘削リグ、HYSY981が撤退し始めたと発表した。この突然の撤退劇は、幾つかの理由において意義深く、また注目に値するものである。当初予定を1カ月前倒して掘削リグを海南島へ移動させるという判断は、幾つかの疑念を生む。CNPC(中国石油天然気集団公司)は当初、掘削リグを8月15日まで現場海域で稼働させると発表していたが、7月15日になって、探査と掘削両作業が終了した旨を発表した。CNPCの幹部は、「予備的な調査によれば、掘削リグ設置海域は石油掘削に必要な基本的条件と可能性を満たしてはいるが、データなどの精査が済んでいないので試掘を実施できない」と述べている。試掘開始前にデータの精査が必要だということは、中国は何時でも現場海域に掘削リグを再設置する口実を留保しているということになる。

(2) 事前警告も大々的な発表もなく中国が予定より早く掘削リグを撤去したことは、論理的には、中国がベトナムとの緊張緩和を望むとともに、南シナ海の90% を自国の管轄海域とする益々高圧的な領有権主張に対する、国際社会からの圧力に屈したという推測に辿り着くことになろう。確かにもっともな理由かもしれないが、中国はいずれ自らの判断で掘削リグを再設置する口実を留保しているのである。早期撤退の公式な理由は明らかにされていないが、新華社は、「台風シーズンが始まっているので、試掘作業を直ちに始めることができないであろう」と報じている。石油掘削作業に詳しい業界関係者は、ロイター通信の取材に対して、「早期撤退は、掘削リグを他の現場に回すためではないか」と述べている。

(3) この時期に掘削リグを撤退させることで、中国が西沙諸島に対する領有権主張を事実上撤回するに等しい決断したのは奇妙なことである。中国の南シナ海における9段線主張は、ベトナムとフィリピンに域内諸国との安全保障協力を促す触媒として作用してきた。日本は、域内で中国の最大のライバルだが、この機会を利用して両国に巡視船を供与するとともに、安全保障関係を強化した。中国は5月末のシンガポールでのシャングリラ・ダイアローグでもやり玉に挙げられ、アメリカや日本は、(名指しはしなかったが)力による現状変更の試みを、現在、最も重要な問題であると非難した。

(4) 中国は一歩後退したように見えるかもしれないが、これは長いゲームになりそうである。中国は、自らの領有権主張について全く譲歩する気はないばかりか、(少なくとも、自国よりはるかに弱いベトナム)に対して自らの意思を押し付けることができ、しかも域内諸国の非難や日常的な対決をも厭わず、自国の目的を達成させることできることを誇示して見せた。中国は、今回の経緯を成功例として、大幅に譲歩することなく、海洋境界についての自らの解釈を押し付けることができると考えるようになろう。中国の指導者は、今後自らが望む時と場所において、今回のような問題を引き起こすことができると考えるようになり、当分の間、域内の安全保障は安定化することはないであろう。

記事参照:
China’s Rig Departure Proves Nothing

【関連記事2「中国の石油掘削リグ撤去、何故、今―米専門家論評」(The Diplomat, July 17, 2014)

Web誌、The Diplomatの共同編集長、Shannon Tiezziは、7月17日付けの同誌上に、“So China Moved Its Oil Rig. What Now?”と題する論評を発表し、中国がこの時点で石油掘削リグを撤収させたことについて、要旨以下のように述べている。

(1) 中国は、何故、今、石油掘削リグを撤収させたのであろうか。掘削リグは、ベトナムが自国のEEZの一部と主張する海域に設置され、中越両国の関係に大きな亀裂を生じさせた。中国外交部によれば、掘削リグは海南島付近での新たなプロジェクトに参加するため移動している。この移動は、当初中国が掘削リグを8月半ばまで現場海域で稼働させる予定であることから、大きな驚きを持って受け止められた。当然ながら、この撤収は、何故、今との憶測を生んだ。中国のエネルギー事情に詳しい専門家は、ロイター通信に対して、「単に、ここ2カ月の良好な天候のお陰で、当初の予定よりも早く作業が完了しただけ」と述べた。また、別のアナリストは、「北京は、台風シーズンを、ベトナムとの外交上の摩擦を取り払う口実に利用した」と指摘した。The New York Timesの報道によれば、ベトナム軍のリ・マ・ロウン少将は、「ベトナムの『強力な反発』が、北京に早期撤収を決意させた」と主張している。確かに、撤収のタイミングは、幾分奇妙である。掘削リグの設置はオバマ米大統領のアジア歴訪の直後であったことから、多くのアナリストは、「中国は、ベトナムにではなくアメリカにシグナルを送っているのだ」と見ていた。掘削リグは、中国海軍の南シナ海での大規模な演習から1週間も経たずに撤収され、北京で行なわれた米中戦略経済対話でも「トップ・アジェンダ」であったと報じられた。北京は、掘削リグの設置以来2カ月に及ぶ非難の嵐にも何ら影響されなかったことから、米中戦略経済対話が撤収への大きな転換点となったと考えるのは適切ではないであろう。

(2) 中国が掘削リグを撤収させたより適切な理由としては、特に撤収させることで得られる潜在的利益と比べて、設置し続けることから得られる利益がほとんどないと計算したからではないか。戦術的見地から判断すれば、掘削リグは当初目的をほとんど達成したのであろう。中国は、西沙諸島近海で、石油掘削リグを護衛するために必要な海軍力の展開を含め、石油掘削作業を実施する能力を保有していることを誇示できた。2カ月間の掘削作業によって、中国にとって、もはやこれ以上継続しても得られるものはほとんど残されていない。掘削作業の結果として石油と天然ガスの存在を確認したという発表を行ったことで、中国は、何時でもこの海域に掘削リグを再配置することができるであろう。中国外交部報道官が定例記者会見で述べたとおり、CNPC(中国石油天然気集団公司)は、今後データを精査し、「次の段階の作業計画」を提示することになろう。

(3) この間、中国は、ベトナムとの関係改善を図る意欲を示した。両国の関係改善はベトナム国内で反中感情が湧き上がった後であり困難ではあるが、掘削リグが現場海域に設置されたままであれば、なおさら不可能であったであろう。掘削リグの現場海域で両国艦船の日常的な衝突がなくなれば、ハノイと北京は、徐々に他の分野から関係改善を始めることができる。同じことは米中関係にも言える。

(4) 他方、北京にとって懸念材料の1つは、撤収決定に対する国内の不満感情である。既に、中国のネット、「微博」では、今回の決定に対して厳しい非難が見られる。ロイター通信によれば、多くの投稿者は「中国はアメリカの圧力に屈して掘削リグを撤収させた」と非難している。それ故、中国外交部が「今回の掘削リグの撤収は、いかなる外部要因とも関係がない」と主張したことは、海外向けだけでなく国内向けでもあったのである。習近平国家主席は、西欧から受けた過去の屈辱を晴らすことを主眼とする、「中国の夢」の実現を目指している。そのため、習近平は、外交政策における弱気な態度に対する批判には極度に敏感であり、西側諸国の要求に屈したなどと見られることがあってはならないのである。北京にとって重要なことは、領土問題には決して妥協しないということを証明することなのである。従って、掘削リグの問題は収束したかもしれないが、我々は近い将来、南シナ海の別の海域で、習近平の決意の表れとしての中国の新たな行動に直面することになろう。

記事参照:
So China Moved Its Oil Rig. What Now?

7月16日「中国の『サラミ・スライシング』戦術阻止のために米国防省は何をすべきか―米専門家論評」(The Diplomat, July 16, 2014)

Web誌、The Diplomatの編集主幹、Zachary Keckは、7月16日付けの同誌上に、“Shaming Won’t Stop China’s Salami Slicing”と題する論評を掲載し、アメリカは中国の「サラミ・スライシング(salami-slicing)」戦術を阻止すべきだが、不幸にもその方法が分かっていないとして、要旨以下のように論じている。

(1) ワシントンが中国の接近阻止・領域拒否 (A2/AD) 戦略に目を奪われ、対抗手段としてAirSea Battle (ASB) 構想を策定している間に、北京は、「サラミ・スライシング」戦術によって、東シナ海と南シナ海の現状を少しずつ切り崩してきた。米国防省は現在まで、「サラミ・スライシング」戦術を問題ではないかのように振る舞い、ASB構想を遂行する戦力の形成に力を入れてきた。 中国の巧妙な侵略政策を阻止することは、米国防省にとって現在最も必要なことである。

(2) しかしながら、中国の「サラミ・スライシング」戦術に対抗するに当たって、少なくとも2つの問題がある。

第1に、中国が「サラミ・スライシング」戦術によってその政策目標を達成することができる限り、中国は、台湾そして尖閣諸島や沖縄に対する直接侵略といった、より高度な軍事行動に移ることはなさそうだということである。中国は長年に亘って、平和的台頭を公約してきた。従って、戦争に訴えることなく政策目標を達成することができる限り、平和的台頭を疑う理由は少しもないということになる。

第2に、中国の「サラミ・スライシング」戦術に対抗するために、国防省は、明らかに不適切な戦力を構築しようとしていることである。国防省は、ASB構想を遂行するために、質を重視し、量を犠牲にしている。ASB構想は、非常に能力が高く、技術的に最先端の戦力だが、量的には小さな戦力である。この戦力は、ASB構想を首尾良く遂行できるかもしれないが、中国の「サラミ・スライシング」戦術に対抗するには不適切な戦力であることは確かである。中国の「サラミ・スライシング」戦術に対抗するためには、東シナ海と南シナ海の広大な海域を常時哨戒するためのより大きな戦力を必要とする。しかも、中国が「サラミ・スライシング」戦術を遂行するために全般的に政府公船に依拠しているので、常時哨戒に必要な戦力は、技術的に最先端の戦力である必要はないのである。

(3) 英紙、The Financial Timesの最近の報道によれば、米国防省も、こうした現実を直視し、中国の「サラミ・スライシング」戦術に対抗する方法を検討し始めたようである。同紙は、「米軍に求められる課題は、特定の紛争をより大規模な軍事対決にエスカレートさせることなく、こうした中国の小刻みな侵食行為を抑止する戦術を見出すことである」と指摘している。一方で、同紙は、「国防省は、この海域における中国を海洋活動の画像やビデオを公表する意図を持って、哨戒監視機をこの海域で広範に活用しようとするかもしれない。一部の米政府当局者は、中国の政府公船がベトナムやフィリピンの漁民を妨害する画像が公表されれば、中国がこうした行為を止めるかもしれないと思っている」と報じている。米政府当局者は、間違いなく誤解している。アメリカは、人権問題などで中国のイメージ低下に努めてきたが、ほとんど成功していない。人権問題などの低レベルの問題で中国に痛痒を感じさせることができないのであれば、東シナ海と南シナ海における「核心利益」を放棄させるほど、中国を「恥じ入らせる (shamed)」ことなどほとんどあり得ない。更に、中国が主権を主張する領域に対する領有権を護るために活動している中国公船の映像を流されても、中国は痛痒を感じることはないであろう。 実際、これらのビデオは、中国国内では極めて人気が高い。加えて、南シナ海の衝突映像にはかなり曖昧なところがあって、アメリカとその同盟国が公表した映像に対して、北京は、中国の船がぶつかっていく映像だけを流す、「偏見に満ちたもの」と非難し、中国の方が他国の攻撃に対応しただけと主張することもできよう。このことは、掘削リグを巡る中越両国の公船が対峙した現場で実際に起きたことである。米国防省が中国の「サラミ・スライシング」戦術に対抗するために一層の努力をしなければならないと理解していることは評価できるが、より良い対抗策を引き続き模索し続けなければならないであろう。

記事参照:
Shaming Won’t Stop China’s Salami Slicing

7月18日「NASA、北極海の海氷調査に偵察機使用」(NewsMiner.com, July 18, 2014)

米航空宇宙局 (NASA) 所属の航空機、ER-2は、夏期の間、アラスカと北極海上空で48時間の偵察飛行を実施している。パイロットは、ほぼ宇宙の闇に近い2万メートル上空を飛ぶER-2から地球の湾曲を見ることができ、この高度からあらゆる気象現象を観察する。

ER-2は、元々U-2偵察機を非軍事用に改造したものである。U-2偵察機は最終的には100機足らず製造された。U-2偵察機は、冷戦期のソ連の軍事施設を撮影するために、1955年にCIAが導入したものである。NASAは、1971年に空軍から2機のU-2偵察機を受け取った。もっとも、NASAとU-2偵察機の関わりは、1960年にU-2偵察機がソ連によって撃墜された時にまで遡る。当時のアイゼンハワー米大統領とフルシチョフ・ソ連首相の間でこの問題を巡って交渉を行った際、アメリカは、偵察任務飛行中であった U-2機をNASAの気象監視機であると主張し、この主張を後付けるために、アメリカ政府がU-2機にNASAのロゴを塗装し、その写真を公開したことがあった。

アラスカ州フェアバンクスに駐機するER-2は、高高度からの画像撮影に使用されている、NASAが運用する2機の中の1機である。機体には、レーザー高度計、Multiple Altimeter Beam Experimental Lidar (MABEL) が搭載されている。MABELは、地表に向かってレーザービームを照射し、地図を作成するためのレーダーシステムである。NASAのチームは、MABELを利用して北極海の海氷にレーザービームを照射し、海氷の相対的な構成を調査することができる。NASAの担当者によれば、ER-2は、高高度から大気圏の92〜93%を観察できるため人工衛星に類似したデータを提供でき、ER-2の運用価値は高いという。人工衛星、ICESAT-2は、今後数年間で起こる予想される極点周辺の氷河や海氷の変化を測定する。

記事参照:
NASA uses converted spy plane to check out Arctic icepack

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子