海洋情報旬報 2014年7月1日~10日

Contents

7月1日「南シナ海における中国の10段線地図の含意―米専門家論評」(The Diplomat, July 1, 2014)

米誌、The National Interest の編集主幹、Harry J. Kazianisは、7月1日付のWeb誌、The Diplomatに、“China’s 10 Red Lines in the South China Sea”と題する論説を寄稿し、中国が6月末に公表した新しい地図は北京による南シナ海における主権主張の一環であり、アメリカは現状を徐々に変更していくという中国の戦略を理解すべきであると指摘し、要旨以下のように論じている。

(1) 最新地図の公表によって、中国は、西太平洋における「地図戦 (“mapware”)」を宣言した。これはベトナムの沿岸沖における石油掘削リグ設置よりはるかに狡猾であり、北京は、南シナ海の支配権を確立し、国内外で南シナ海における(中国支配の)現状認識ゲーム (the perception game) に勝利するための、中国の真の戦略を徐々に進展させることを狙っている。要するに、北京は、この新しい地図において、南シナ海における係争海域のほとんど全を中国の主権が及ぶ領土領域であると主張しているのである(新地図では、インドとの国境係争領域についても中国領としている)。中国の新たな戦略は明白である。それは、自らその海域における哨戒活動を実施し、そこにおける天然資源の権利を主張し、探査し、そしてその海域を支配していることを示す地図を公表することによって、あたかもその海域に対する主権者であるかのように振る舞うのである。そうすることで、中国の行動に対応できない他の領有権主張国を徐々に時間をかけて打ち負かしていくのである。

(2) そのような戦略、筆者が「地図戦」と呼ぶ戦略を駆使することは、中国にとって目新しいことではないかもしれない。中国は2012年に南シナ海を含んだ新しい地図付きパスポートを発行して、物議を醸したことがある。しかし、今回の地図の公表は、少し趣を異にしているようである。今回公表された地図は、あの悪名高き「9段線」とは異なっていることに気づく。「段線」が10本になっているのである。ここ数カ月間における中国の益々高圧的になってきている南シナ海と東シナ海における行動から見て、この(「10段線」で囲まれる)拡張された領域は、中国の言う「核心利益」を構成するものと考えられる。台湾の東側海域からはるかインドネシアの沖合までを「10段線」で囲み、北京は、この「レッドライン」の内側を、「立ち入り禁止区域 (a no-go zone)」と宣言しているようなものである。

(3) 中国は、南シナ海に10本のレッドラインを宣言したわけで、この主権主張を護るために、あらゆる手段をもって闘うであろう。中国は、アジアのこの海域における支配権を行使するために、武力行使を除くあらゆる手段を活用するであろう。北京は、自国の強大化しつつある軍事力に他国が対応することが次第に困難になってきていることを認識しており、万が一武力紛争が生起した場合には、あらゆるアクセス阻止戦力を用いて、他国の海軍力を苦しめるであろう。中国は、2、3年前まで夢物語と思われた、自ら宣言した目的の達成に向かって着実に前進している。

(4) アメリカが明らかにイラクやウクライナの問題に手を焼いている間でも、ワシントンは、アジアで起きている出来事に注意を払っていなければならない。5兆ドル超の海上貿易が行き交う、Robert D. Kaplanが「アジアの大鍋 (Asia’s Cauldron)」と呼んだ南シナ海は、すべての国が自由に航行できる海洋コモンズであり続けるかどうかのテストケースとなっている。もし中国が徐々に現状を変更し、南シナ海を中国主権下に取り込むようなことになれば、極めて危険な前例となろう。今や、地図は、この遠大な戦いにおける武器となっている。ワシントンは、このことを十分心に留めておく必要がある。北京は、このことを十分心得ている。

記事参照:
China’s 10 Red Lines in the South China Sea
備考:Harry J. Kazianisの中国新地図公表に関する論評については、旬報6月21日-30日号も併せ参照されたし。

7月1日「南シナ海で求められる米の戦略―ベトナム人の視点から」(RSIS Commentaries, July 1, 2014)

ベトナム国立大講師、Truong-Minh VuとオランダのVU University Amsterdamの院生、Nghiem Anh Thaoは連名で、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の7月1日付け RSIS Commentariesに、“Changing Power, Changing Interests: Freedom of Navigation in South China Sea”と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

(1) アメリカが公表する公式文書(そして準政府機関の文書も)によれば、南シナ海の領有権紛争に対するアメリカの国益と基本的立場は、以下の4点に集約できる。即ち、地域の平和、繁栄及び安全の促進、重複する領有権主権に対する中立の堅持、航行の自由の維持、そして国際法規に準拠した紛争の平和的解決の慫慂である。しかしながら、中国の高圧的な政策展開によって、アメリカは、南シナ海における国益を再検討する以外に選択肢のない状況に追い込まれた。

(2) この再検討のプロセスにおいて、アメリカは、相互に矛盾する3つの優先的政策を指向せざるを得ない。第1に、アメリカは、航行の自由を維持するとともに、領有権問題に対して中立を堅持することが必要である。しかしながら、2012年以来の中国の益々高圧的な行動は、これらの2つの政策が相互に連関していることを示している。例えば、石油掘削リグは、パラセル諸島及び周辺海域に対する中国の事実上の主権を宣言するための、「動く領土」として活用されている。Triton島を占拠し、これを国連海洋法条約 (UNCLOS) 第121条による「島」と主張することで、中国は、海洋における領有権主張を拡大する新しい方法を生み出した。

第2に、アメリカは、域内の同盟国を護るべきだが(そしてそのことは域内における戦後の同盟体制を強化することだが)、一方で米中戦略的パートナーシップに対して(特に武力紛争の生起を抑制することで)悪影響を及ぼすべきではない。2012年のスカボロー礁におけるフィリピンとの衝突事案が示唆しているように、これら2つの政策は、中国が「養光韜晦」政策を維持した場合に達成可能である。しかし、最近の中国の行動から見て、この概念は、部分的にあるいは全面的に放棄された。

第3に、アメリカは、アジア太平洋地域で覇権を維持しようとしているが、同時に国防費の削減と経済回復による国内経済問題にも対処しなければならない。従って、アメリカは、ハード・パワーへの極度の依存や大幅な国防支出の要求ではなく、外交と国際法といった他の手段に頼る政策を必要としている。

(3) 2011年以降、南シナ海におけるアメリカの戦略は、以下の5つの異なったチャンネルを通じて展開されてきた。第1に、多国間のフォーラムを通じて、中国の高圧的な態度に反対し、あるいは対応を仄めかしさえすること。第2に、国際法規に準拠した紛争の平和的解決を関係当事国に慫慂すること (ここでは、行動規範 (COC) の制定を支持し、UNCLOSの準用を慫慂)。第3に、海軍の防衛力の強化のために戦闘艦艇と軍事施設を提供することで域内の同盟国を支援すること。第4に、アメリカの同盟国と潜在的なパートナーとの協力を支援すること。第5に、(南シナ海だけでなく、東シナ海でも)中国の拡張政策の代価を中国に知らしめること。

(4) こうしたアプローチは、アメリカの利益に完全に役立っているようには思えない。そのため、もっと積極的な政策が必要である。アメリカが南シナ海で法に基づく秩序を確立したいと望むなら、まず、アメリカ自身がUNCLOSへの加盟を最優先しなければならない。この点について、オバマ大統領は、5月28日の陸軍士官学校卒業式でのスピーチで、「米軍首脳がUNCLOSへの加盟を国家安全保障上で重要だと主張しているにもかかわらず、議会上院による加盟拒否が明確な状況下では、我々は、南シナ海における諸問題の解決を慫慂できない」と述べた。UNCLOSは、南シナ海問題解決の法的根拠となるだけでなく、アメリカの道義的信頼性を高めるとともに、アメリカの「戦略兵器」にもなろう。更に、アメリカは、現在中国との領有権紛争の当事国である、日本、ベトナム及びフィリピンを含む、司法同盟 (a juridical alliance) の形成を支援する必要がある。2012年に当時の日本の外相が米紙で、尖閣問題を国際司法裁判所に提訴する可能性に言及したことがあるが、このことは、領有権紛争の解決において、「規則と法を優先する」という新たな方向性を示したものである。

(5) 軍事協力面では、アメリカは、海洋監視能力の強化や情報交換といった手段によって、域内各国を支援できる。従って、アメリカが域内の同盟国、特に日本とフィリピンを支援するに当たって、中国との直接の対決を避けようとするならば、軍事協力を促進する戦略は有用かもしれない。中国は、アメリカを、相互に矛盾する国益の追求という、厳しいゲームに巻き込んだ。しかしながら、こうした異常な状況では、かえって大砲と暴力よりも規則と法を重視する手段の信憑性が大幅に高まるかもしれない。アメリカは、国際法に準拠した「ゲームの法則」を形成することによって、アメリカ(とその同盟国)の国家安全保障と国益が脅かされた場合には、アメリカの軍事介入に対する合意が形成されるのである。

記事参照:
Changing Power, Changing Interests: Freedom of Navigation in South China Sea
RSIS Commentaries, July 1, 2014

7月1日「南シナ海のジェームズ礁、マレーシアが議論の余地なき主権者―マレーシア人の視点から」(RSIS Commentaries, July 1, 2014)

マレーシア国防大学戦略研究部講師、BA Hamzaは、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の7月1日付け RSIS Commentariesに、“China’s James Shoal Claim: Malaysia the Undisputed Owner”と題する論説を寄稿し、ジェームズ礁はマレーシアの大陸棚にあり、マレーシアが議論の余地なき主権者であるとして、マレーシア人の視点から要旨以下のように主張している。

(1) ジェームズ礁(James Shoal、中国名:曾母暗礁)は南シナ海の水面下、22メートル(66フィート)にある暗礁で、これまで域内でも、また地政学的にも国際法上からも注目を集めることはなかった。ところが、マレーシアの人々は、中国海軍の艦艇がこの暗礁の周辺で領有権を確認する式典を挙行した(注:2014年1月26日)ことに、驚かされた。中国は、自国の大陸棚の一部でも、EEZ内にも位置していない、如何なる暗礁に対しても領有権を主張できない。ジェームズ礁は、海南島から1,000カイリ以上離れており、中国のEEZ内でも、大陸棚の一部でもない。

(2) もし中国海軍の指揮官が、当該沿岸国の大陸棚の一部にある暗礁に関する国際法の知識を知っておれば、問題は平穏裏に解決されていたであろう。「島」とは異なり、岩礁や「低潮高地 (Low-tide Elevation: LET)」(満潮時には水面下に没し、干潮時には水面上に現れる岩礁や浅瀬をいう)は、国際法上いかなる海洋境界も形成することができない。「島」は、領海、大陸棚及びEEZを有することができる。一方、「低潮高地」は、それらが位置する海域の沿岸国に属する。低潮高地は、当該沿岸国の12カイリの領海内にある場合にのみ、当該国の低潮基線を引くことができる。国際法は、大陸棚を、沿岸国の大陸の自然な延長として200カイリ(最大350カイリまで延伸可能)までと規定している。中国本土から引こうが、あるいは中国が占拠する南シナ海のどの島から引こうが、中国の大陸棚はジェームズ礁にまで達しない。同様に、ジェームズ礁は、ベトナム、フィリピンあるいは台湾の大陸棚の延伸外縁部にも含まれない。ベトナムとマレーシアは2009年5月、国連大陸棚限界委員会 (CLCS) に大陸棚外縁部の延伸について合同申請を行った。これによって、ベトナムは、ジェームズ礁がベトナムの延伸大陸棚外縁部に含まれないことを認めた。ジェームズ礁は、フィリピンが1971年以来占拠している南沙諸島のPagasa島(中国名:中業島)500カイリの位置にある。また、ジェームズ礁は、台湾が1956年以来占拠している太平島(Itu Aba島)から400カイリ以上離れている。更に、2009年のブルネイとの外交書簡で、ジェームズ礁はブルネイのEEZの外にあり、マレーシアに属することが確認された。マレーシアとインドネシアは1969年に、大陸棚に関する条約に調印し、ジェームズ礁がマレーシアのサラワク州ダトゥ岬沖のマレーシア側に位置することを確認した。

(3) ジェームズ礁は、サラワク州の最も近い基点、Batuan Likauから63カイリ沖合のマレーシアの大陸棚にあり、EEZ内に位置している。この暗礁はマレーシアに近い位置にあるが、マレーシアのジェームズ礁に対する領有権は、地理的隣接性のみならず、慣習国際法にも依拠している。ジェームズ礁に対する中国の主張は中国が引いた9段線の境界内にあるというもので、9段線は南シナ海の90%近くを取り込み、台湾に加えて、他の5国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン及びベトナム)の海洋境界とも重複する。一部の専門家は、9段線が引かれた1947~1948年の時点で、中国は暗礁であるジェームズ礁の存在さえ知らなかった、と指摘している。要するに、中国は、当該海域で海洋調査を行った最初の国でもなければ、中国がジェームズ礁を発見し、管理してきたという如何なる証拠もない。ジェームズ礁を発見したのは英国で、多くの調査によって19世紀初頭に、その近くの2つの暗礁も発見した。ジェームズ礁は1870年代に英国の海図に初めて記載された。中国は、9段線を公表した1947~1948年(一部の文書では1912年)に曾母暗礁と改名した。UNCLOSと1958年の大陸棚に関するジュネーブ条約(マレーシアと中国は両方の条約を批准している)では、「大陸棚に対する沿岸国の権利は、実効的なもしくは名目上の先占または明示的な宣言に依存するものではない」(大陸棚条約第2条第3項)と規定している。言いかえれば、マレーシアは、自国の大陸棚上に位置する暗礁を領有するために、UNCLOSに基づいて改めて何からの措置をとらなければならないということはないのである。

(4) マレーシアは、ジェームズ礁及びその周辺のパーソンズ礁 (Parson’s Shoal) とリディー礁 (Lydie Shoal) を含む、大陸棚に対する管轄権を有効に行使してきた。近くのラコニア礁 (Laconia Shoal) 周辺海域では、現在マレーシアの炭化水素資源の相当部分が産出されているが、これらの海域全域で天然ガスと石油資源の探査が行われた。マレーシア政府当局のこれらの海域における活動は、パーソンズ礁周辺海域におけるブイの設置と維持整備を含む、広範囲に及ぶ平和的で継続的なものであり、しかも透明性の高いものである。また、海軍艦艇とマレーシア海洋法令執行庁の巡視船による、日々の哨戒活動が実施されている。更に、埋蔵炭化水素資源の探査と生産などの経済活動が持続的に行われている。国際法の下では、長期間にわたる平和的で連続的な活動は、主権者としての権利確立に等しいと見なされる。この原理は、大陸棚上の島嶼、岩及び低潮高地、そして暗礁を巡る領有権紛争で、所有権を決定する上で極めて重要である。国際司法裁判所と国際仲裁裁判所は、多くのケースでこの原理を適用している。要するに、マレーシア政府当局の活動は、マレーシアがジェームズ礁の真の所有者であることを実証するのに十分なものである。

記事参照:
China’s James Shoal Claim: Malaysia the Undisputed Owner
RSIS Commentaries, July 1, 2014

7月1日「日本の集団的自衛権行使容認、アジア全体の利益に―米専門家論評」(U.S. News and World Report, July 1, 2014)

米シンクタンク、The Carnegie Endowment for International Peace のJames L. Schoffシニア・アソシエイト(国防省の東アジア政策前上席アドバイザー)は、7月1日付けの米誌、U.S. News and World Reportに、“A Collective Win for Asia”と題する論説を寄稿し、日本の集団的自衛権行使容認はアジア全体の利益に繋がるとして、要旨以下のように論じている。

(1) 日本の新しい防衛構想は、適切なタイミングでの適切な措置である。日本の集団的自衛権の行使容認を巡っては、混乱と幾つかの誇張された論議があった。しかし客観的に見れば、日本の決定は、日本の安全保障を強化するとともに、日米同盟関係の一層の進化をもたらす、穏健で正当なステップである。この決定における唯一の敗者は、より強化される同盟連合に直面することになる、北朝鮮かもしれない。短期的には日本の役割が今後どのように変化するかは不確実だが、長期的に見れば、日本の決定は、地域の安全保障構造をより安定的なものにするはずである。今後、同盟国と域内各国に対して、詳細を明らかにし、この機会を最大限に活用するための外交努力が求められる。日本の政策は、閣議決定を法制化していく過程で、1992年のPKO協力法のように、日本が地域の平和と安定に貢献できるように、自国民や他国が許容できる形で実質的な変化が時間を掛けて進むであろう。

(2) 日本は長い間、国家の固有の権利として集団的自衛権を有するものの、戦争を放棄し紛争の解決手段としての武力行使を禁じた憲法によって、その権利の行使はできないという見解を堅持してきた。しかし、近年のアジアにおける安全保障環境の変化によって、日本のより積極的なアプローチが求められるようになった。北朝鮮の核弾頭ミサイルの開発、中国の軍事力増強、そしてアメリカの国防予算の削減は、日本が安全保障を見直す契機となった。日本は、この地域の安全保障を維持するためにより大きい役割を担うことが求められるようになった。集団的自衛権行使の要件として、集団的自衛権と日本独自の自国防衛とが明確に関連づけられており、従って中東における日本の軍事行動は正当化が難しいが、日本自身もミサイルの目標となっている、北朝鮮の脅威に集団的に対応することは別である。いずれの事案でも立法化が必要だが、日本はまもなく、朝鮮半島で紛争が生起した場合、米軍に対してより直接的な兵站支援と防御的な支援を提供することができるようになろう。こうした支援には、米艦護衛や、より広範な兵站補給や偵察支援が含まれるかもしれない。こうした理由から、韓国は、日本の新しい政策を歓迎すべきである。しかも、日本政府は、韓国政府の承認なしに韓国周辺での活動に従事しないことを明言しているのである。また、今回の閣議決定によって、日本は、国連の平和維持活動により包括的な形で貢献できるようになろう。

(3) 運が良ければ、日本は、集団的自衛権を行使することはないかもしれないが、この政策は価値がある。短期的な利点としては、日米間でより緊密な計画立案と訓練面での協力が可能になり、より統合された運用態勢で多様な任務で協同することができるようになろう。しかも、域内の全てにとって利益となる地域的安定を支えるために、日本が更なる責任を共有することになる、と評価することが重要である。結局、安全保障とは、日本が単独で受け取ったり、支払ったりするものではなく、域内全体の集団的な努力を通じて共同で達成するものなのである。日本が新しい政策を完全に確立するまでは、数カ月間の立法過程が必要であり、その過程においては透明性と継続的なコミュニケーションが重要である。日本は、集団的自衛権の行使容認を、アメリカとの緊密な協力と域内諸国との協議を通じて、責任を持って効果的に活用できる方策を追求していかなければならない。日本政府はまた、国内での理解と同意を得るための努力も必要である。日本の新しい安全保障への貢献を世界が尊重し、それを当然のことと思うようになった時、日本国民は、自国の防衛政策の変更が正しかったと実感することになろう。

記事参照:
A Collective Win for Asia

73日「プラスチックごみによる海洋生態系への被害、年130億ドル国連環境計画報告書」(The Hindu, July 3, 2014)

国連環境計画 (The United Nations Environment Programme: UNEP) がこのほど公表した報告書によれば、プラスチックごみは、海洋生態系に毎年130億ドルの被害を与えているという。ナイロビで開催されたUNEPの会議で会見した海洋科学者によれば、毎年1,000~2,000トンのプラスチックごみが海洋に投棄され、サンゴ礁を覆い、日常的に海洋生物に絡みつき、更に5ミリ以下のマイクロプラスチックとなったごみは、海鳥からムール貝までのあらゆる生物に摂取され、食物連鎖に有害物質をもたらしている。また、マイクロプラスチックは“plastispheres”(プラスチック圏)を形成し、危険な細菌を含む微生物が繁殖する温床となり、水銀などの重金属を吸収して海洋遠くに運んでいる。同報告書は、販売製品にプラスチックが含まれる、玩具、運動器具、家庭用耐久財、食品、飲料及び薬剤関係などの企業に対して、プラスチック使用を監視し、結果を公表し、資源効率とリサイクルを促進するよう慫慂している。

記事参照:
Plastic waste costs $13 billion worth of damages a year to marine ecosystems
Full report:“VALUING Plastic: The Business Case for Measuring, Managing and Disclosing Plastic Use in the Consumer Goods Industry”

7月3日「中国海軍のRIMPAC初参加、米国にとっての意義―エリクソン論評」(The National Interest, July 3, 2014)

米海軍大学のAndrew S. Erickson准教授は、ハーバード大学の院生、Austin M. Strangeとともに、米誌、The National Interestの7月3日付けブログに、“China’s RIMPAC Debut: What’s in It for America?”と題する長文の論説を寄稿し、中国海軍の環太平洋合同演習 (RIMPAC) 2014への初参加がアメリカにとって如何なる意義があるかということについて、要旨以下のように論じている。

(1) RIMPAC 2014は、ハワイ沖で2年毎に米海軍が主催する世界で最も大規模な国際海軍演習で、2014年は6月26日から8月1日まで実施される。2014年演習には、22カ国から水上戦闘艦49隻、潜水艦6隻、200機以上の航空機、人員2万5,000人以上が参加した。初参加の中国からは、人員1,100人、戦闘艦4隻、ヘリコプター2機、特戦分隊、潜水分隊及び医療分隊が参加した。中国にとってRIMPAC参加のメリットは、第1に、ハワイ沖での中国海軍のパフォーマンスは、世界有数の海軍という国内外の評判を裏付けることになろう。第2に、RIMPAC参加は、中国が世界の先進的な海軍の技能、装備、人員、戦術及び運用手順について学ぶ有益な機会となろう。中国が計画している将来の空母打撃群にとって不可欠の構成戦力であるフリゲートや駆逐艦といった水上戦闘艦は、外洋での運用経験を積む必要がある。RIMPACでは、伝統的に空母からの離着艦訓練が行われており、中国にとって学ぶ価値があることは間違いない。第3に、ソマリアでの海賊対処作戦の今後が不確実であることを考えると、RIMPACへの参加は、中国海軍が東アジア以外の海域に展開する絶好の口実となる。最後に、RIMPACは、中国海軍にとって協調性と海軍力の先進性を示す「遠海」での最新の機会であり、島嶼や海洋を巡る「近海」での高圧的行動に対する批判を一時的にかわす機会ともなった。

(2) では、アメリカは、どのような思惑からRIMPACに中国を招待したのか。第1に、中国が直接的、間接的方法で秘密情報を盗む意思と能力を持っていることを考えれば、中国のスパイ活動に対するアメリカの安全保障上の懸念は理解できる。しかしながら、中国が以前(1998年)にもRIMPACを偵察していたこと、そして2014年の中国の参加が主としてあまり高度でない訓練やイベントに限定されたことから、こうした懸念はそれほど深刻ではないであろう。RIMPACにおいて中国海軍が参加する訓練のほとんどは、これまでの米中の海洋関係で前例のないものではないし、また訓練の多くは主として非伝統的な脅威対処行動シナリオに基づくものである。当然ながら、空母の運用など多くの演習から中国を排除しているが、関係する米軍人は中国が秘密事項にアクセスしないよう最大限の注意をしなければならない。

第2に、RIMPACへの招待を受諾するか否かに関係なく、中国は、あらゆる情報を収集してきたし、これからもするであろう。例えば、ロックリア米太平洋軍司令官は2013年4月に上院軍事委員会で、「中国の海洋情報収集活動は2012年に増加した。この年、初めてインド洋、グアムとハワイ沖のアメリカのEEZ内で情報収集活動を行った」と証言している。軍事目的の情報収集任務には、中国海軍で最も能力の高い艦艇が投入されている。もし中国海軍がハワイ沖のEEZ内に高性能の情報収集船を妨害されることなく展開できるのであれば、情報収集専用ではない戦闘艦を厳しい監視で限定された協調的演習に招待したからといって、アメリカが情報上のルビコン河を渡ったことになるのであろうか。

第3に、中国もそうだが、米海軍は、中国海軍の参加によって直接的なメリットを得ている。これには、現在の中国海軍の強点と弱点に対する観察とともに、6週間にわたる中国海軍将兵との交流によって得られる成果が含まれる。中国海軍は、最新の水上戦闘艦を参加させたが、そのほとんどが既にアデン湾での海賊対処に派遣された艦であった。長期にわたる総合的なRIMPACにおける訓練は、これまでの合同訓練以上に中国海軍の将兵と装備を白日の下にさらけ出すことになった。

第4に、中国海軍の参加は、多くの中国人が中国封じ込め戦略の偽装と見なす、アメリカのアジア太平洋地域における再均衡化についてのネガティブな認識に対する、小さいが目に見える相殺効果となっている。これは、RIMPACのような協調的枠組みを通じて東アジアで悪化する評判を埋め合わせたいという中国の願望に、つけ込んだものである。更に、アメリカがRIMPACの主催国として、中国と領有権を巡って対立する日本やフィリピンとの海軍間の意思疎通の場を提供するという効果もある。中国の参加は、アメリカの信頼性を傷つけるものではない。中国の参加に対しては東シナ海と南シナ海での高圧的な姿勢から批判はあるものの、RIMPACは、地域に特化した演習ではない。過去もそうであったように、アメリカは2014年の演習に5大陸の海軍を招待している。中国の参加は、アメリカの海洋に対する姿勢が世界的であることを、そして米中の軍事関係が東シナ海や南シナ海での対立といった地域の特定の問題に左右されるものでないことを示している。

第5に、そして最も重要なことは、中国の参加は、中国が責任あるグローバルな海洋アクターになるよう慫慂するという、アメリカの長年にわたる努力に裨益するものである。中国に対する招待と、2012年以来の益々高圧的になる中国の姿勢にもかかわらず、アメリカが招待をキャンセルしなかったことは、象徴的な重要性を持つ。アメリカは、東アジアにおける緊張激化にもかかわらず、世界的な海洋のガバナンスにおいて中国がその力に見合った役割を果たすことを期待している。しかしながら、中国は、大国への願望にもかかわらず、世界の大国としての役割と責任を未だ受け入れるに至っていない「受け身の国」に留まっている。アデン湾の経験で示されたように、中国を既存の海洋ガバナンスのメカニズムに統合することによって、世界的なガバナンスにより積極的に参加するよう促すことは現実的である。アメリカは賢明にも、地球規模の海上交通路の安全を確保するとともに、自然災害、海賊、テロあるいはその他の海洋犯罪と戦うために、世界の2大海軍とそのパートナー諸国の海軍間の実務的な協力を排除すべきでないことを認識している。RIMPAC 2014は、米海軍のリーダー達が、不可避的な緊張関係にあっても、対抗相手国の国際的安全保障への貢献を狙いとする実務的な関与を排除しないという、暗黙の「競争的共存 (“competitive coexistence”)」戦略を追求していることを示唆している。

(3) アメリカは賢明にも、だが油断することなく、中国のRIMPAC参加を歓迎した。アメリカは、東シナ海と南シナ海における中国の高圧的姿勢に反対する一方で、中国が海洋における公共財を提供するよう慫慂することによって、引き続き公海において中国と競争的共存を進めて行くべきであろう。幸いなことに、RIMPACへの中国の招待は今のところ2014年が最後ではないようである。RIMPAC 2014において「得したのは誰か」ということに固執するのは、短絡的であろう。RIMPAC 2014は、広範で発展しつつある米中関係における海洋での1つのイベントに過ぎない。アメリカの対中国そして国際的安全保障における政策目標は、2年毎の演習よりもはるかに大きく重大なものである。中国に対して世界の海洋安全保障に一層の貢献を求めるアメリカやその他の諸国の願望は、多少の軋轢があっても、高まる潮流となっている。

記事参照:
China’s RIMPAC Debut: What’s in It for America?

7月3日「西沙諸島の領有に関する歴史的証拠の精査―米人ジャーナリスト論評」(RSIS Commentaries, July 3, 2914

米人ジャーナリスト、Bill Hayton は、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の7月3日付けのRSIS Commentariesに、“The Paracels: Historical Evidence Must be Examined”と題する論説を寄稿している。Hayton は、この論説で、中国厦門大学の李徳霞 (Li Dexia) 准教授が、6 月20 日付RSIS Commentaries に寄稿した、“Xisha (Paracel) Islands: Why China’s Sovereignty is ‘Indisputable’”と題する論説(海洋情報季報第6号外交・国際関係「トピック」参照)について、検証可能な証拠が欠けているとして、要旨以下のように述べている。(Hayton は9月に、Yale University Pressから、The South China Sea: the struggle for power in Asiaを刊行予定。)

(1) 李徳霞准教授の論説は、西沙諸島に対する中国の歴史的な主張を支持する有益なものであった。李は2003年の論文で、「9段線」地図についての中国の見解を初めて英語で論じている。しかし、李の6 月20 日付RSIS Commentaries に寄稿した、“Xisha (Paracel) Islands: Why China’s Sovereignty is ‘Indisputable’”と題する論説は、検証可能な証拠が欠けている。

(2) 李は、中国の多くの歴史的文書を論拠に、少なくとも北宋時代(960~1127年)から、中国が西沙諸島と南沙諸島において効果的に主権と管轄権を行使してきた、と述べている。南シナ海に対する中国の歴史的な主張を支持する論者は、南シナ海やそこにおける島嶼が明記された文書に言及することがある。しかしながら、管見の限り、これらの文書ではいずれも、特定の島嶼を識別することができない。これら文書の島嶼が西沙諸島か南沙諸島にあるのか、それとも中国本土沿岸から数カイリ内にある数百の島々の1つなのかを簡単に見分ける方法はない。李は、これらの歴史的文書の中で、正確な記述を特定できるのか。これらの文書の中で、西沙諸島と南沙諸島の名前が識別できる文書は存在するのか。筆者 (Hayton) の調査では、1909年以前に発行された如何なる中国の公式文書でも、西沙諸島と南沙諸島の名前を使ったものは見つからなかった。フランスの研究者、Francois-Xavier Bonnetが明らかにしたように、1897年発行された広東省の地図は、海南島の以南の海域を示していない。

(3) 状況が変わったのは1909年で、日本の企業が香港と台湾の間にある東沙諸島からグアノ(糞化石)を採取し始めたことが明らかになって、中国のナショナリズムが高揚したためである。これを受けて、当時の広東省知事、Zhang Yen Junは、西沙諸島への遠征隊を派遣した。遠征隊は、海南島近海で好天を待って2週間待機した後、1909年6月6日に西沙諸島へ出発し、翌日帰ってきた。現在、この遠征は、西沙諸島に対する中国の主権主張の論拠となっている。遠征隊に船を提供した当時の現地の船社のフランス人オーナー、P.A. Lapicqueは20年後に出版した著書で、こんな短時間の遠征で西沙諸島に関する15枚もの詳細な地図が作成されたことに疑義を呈している。広東省当局が既存のヨーロッパ製の地図をコピーして各島嶼に中国名を付けただけ、というのが真相に近いように思われる。西沙諸島の名前の由来からも、その可能性が窺われる。恐らくこれは、Paracel Islandsの1つ、West Sandの中国語訳と思われる。李はまた、1945年の日本の降伏後、カイロ宣言とポツダム宣言によって西沙諸島が中国に返還されたと述べているが、それは不正確である。何故なら、いずれの宣言でも、南沙諸島や西沙諸島についての言及がないからである。これは、フランスがこれら諸島をフランス領と認めさせるためにロビー活動を行い、そのため連合国は、これら諸島の将来の主権について如何なるコミットメントも示さなかったからである。

(4) 李はまた、西沙諸島の歴史における重要なエピソードを見逃している。ノルウェーの専門家、Stein Tonnessonが明らかにしているように、第2次世界大戦後、中国の国民党政府軍とフランス軍がそれぞれ西沙諸島の別々の島嶼を占領した。国民党政府軍は1947年1月に、Amphitrite Group(宣徳群島)のWoody Island(永興島)に先に到着した。フランスは、数週間後にWoody Islandを先取されたことに気付き、Crescent Group(永楽群島)のPattle Islandに自国軍を展開した。フランス軍そして後にはベトナム軍は、1974年1月に中国の侵攻によって追い出されるまで、Pattle Islandを実効支配していた。中国国民党軍が1950年5月4日にWoody Islandを放棄した後、1955年あるいは1956年までは、人民解放軍による占拠は行われなかった。1974年の中国軍によるCrescent GroupとPattle Islandの占拠作戦は数カ月前から計画されていたもので、中越両国の漁民同士の諍いの結果ではないことを証明する十分な証拠がある。

(5) 南シナ海における緊張が続いているが、問題を解決するためには、全ての当事国がオープンで真摯な話し合いに持つ用意がなければならない。古い歴史的文書を論拠とする漠然とした主張では不十分である。全ての当事国は、自国の根拠文書を第3者の検証に委ねなければならない。現時点では、中国、ベトナムそしてフィリピンはいずれも、あたかも西沙諸島や南沙諸島を1つのグループであるかのように、それら諸島の島嶼群に対する領有権を主張している。もしそれぞれの当事国が、これら諸島の島嶼群ではなく、個々の島嶼に対する領有権を示す具体的な証拠を提示できるなら、大規模な島嶼群ではなく、個別に個々の島嶼の領有権を判断することが可能になる。それが、領有権紛争の解決に糸口を付ける1つの方策かもしれない。

記事参照:
The Paracels: Historical Evidence Must be Examined
RSIS Commentaries, July 3, 2914

74日「中国版『モンロー・ドクトリン』論議、再考」(RSIS Commentaries, July 4, 2014)

米ユタ州立大のKai He准教授とHuiyun Feng准教授は、共に訪問研究員を勤める、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の7月4日付け RSIS Commentariesに、“Rethinking China’s Monroe Doctrine”と題する論説を連名で寄稿している。中国系と見られる筆者らは、① アジアの安全保障を巡る最近の論議で「モンロー・ドクトリン」が話題になっており、特に一部の専門家は、中国がアジアを制覇し、「アメリカを追い出す」ために中国版「モンロー・ドクトリン」を追求するであろうと警告している、② しかしながら、中国版「モンロー・ドクトリン」論は間違いであるように思われるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 何故、中国版「モンロー・ドクトリン」論は正しくないか。

第1に、中国はアジアを制覇する能力を有していない。中国の軍事支出は依然、アメリカのそれの3分の1以下である。ソフトパワーについても、一部で中国モデルを賞賛する向きもあるが、世界で中国文化や政治的価値が受け入れられるにはほど遠い状況にある。要するに、中国は、パワーのあらゆる次元でアメリカに追いつくには、相当な時間がかかるということである。例え中国がアメリカに追いつく日が来たとしても、グローバル化と経済の相互依存関係を考えれば、中国はアジアをリードしたり、支配したりすることはできない。アメリカは、他国や国際機関と協同することを学んできた、中国もそうすべきである。

第2に、中国は決して、この地域を支配しようとしていない。習近平国家主席は、「中国の夢」を語っているのであって、「アジアの夢」ではない。中国の指導者は、アヘン戦争以来の「100年余の屈辱」についてしばしば言及するが、中華帝国の「朝貢体制」について語ることはない。如何なる中国の指導者も、中国中心秩序の再興を望んでいない。

中国がその経済発展を背景に強力になってきていることは否定しないが、強い中国は、必然的に侵略的になったり、支配的になったりするわけではない。

(2) 中国が「モンロー・ドクトリン」を目指していないとすれば、では、現在の東アジアにおける外交的軋轢や領有権紛争をどう説明するのか。ここでは、2つの説明が可能である。

第1に、中国は現在、世界政治における大国として如何に行動すべきか、という大戦略を模索中である。中国の指導者は、その近代史において前例のないパワーを持ったことで、この新たに獲得した能力を如何に活用すべきか、あるいは乱用すべきでないかを学ぶ必要がある。つまり、中国の指導者にとって、現在は学習過程なのである。中国は複雑な政治システムの国であり、海洋における行動に見られるような賢明とは言えない政策決定は、少なくとも官僚機構内の政策調整の困難さによってある程度説明が可能である。大国、特に責任ある大国になることは容易ではない。中国政府は、言葉ではなく、実際の行動で、「平和的台頭」を示す必要がある。

第2に、中国の高圧的姿勢は、中国と外部世界との「駆け引き」の一環かもしれない (part of the “bargaining process” between China and the outside world) ということである。当然ながら、中国は、台頭するパワーとして、外部世界、特にアメリカとの間で新たな地位や関係を追求するために、取引を必要とするであろう。現在の中国とその他の国との2国間関係における軋轢は、両者が落としどころを探り合う、通常の「駆け引き」と言えるかもしれない。

(3) アメリカは、同盟国に対するコミットメントを誇示するとともに、アジアにおける中国の意図を試すために、「アジアへの軸足移動」、「再均衡化」政策を推し進めている。中国は、領有権紛争における自らの意思を誇示するために、東シナ海と南シナ海における新たな現状 (a new status quo) の確立を目指してきた。双方は、自らの利益を最大限に実現しようとしている。しかしながら、全ての当事国は、交渉におけるアートとは対立する利害の平衡を求めることであり、外交とは戦争を回避することであることを銘記する必要がある。

記事参照:Rethinking China’s Monroe Doctrine
RSIS Commentaries, July 4, 2014

7月5日「中国とベトナムの軍事力に関するQ.&A.-米海軍大学准教授」(The New York Times, July 5, 2014)

米海軍大学中国海事研究所のLyle J. Goldstein准教授は、7月 5日付けの米紙、The New York Times で中国とベトナムの軍事力に関するQ&Aに応じている。Goldstein准教授は、中国語とロシア語に堪能で、中国とベトナムの軍事力に精通している。Goldstein准教授は2001年に米海軍大学に加わり、2006年の中国海事研究所の設立に携わり、2011年まで同研究所の初代所長を務めた。同研究所は、中国海軍の急速な拡大に対応するため米海軍が創設した。以下は、Q&Aの要旨である。

Q:ベトナムは、中国から、そしてアメリカからも一定の距離をおきたいように見えるが、軍事分野においてそれを最後まで貫き通すことは可能か。

A:ベトナムは、伝統的に強力な軍事力を誇る国家である。確かに、現在のハノイの外交政策や軍事戦略は、ベトナムの“giant killer”としての近代史から大きな影響を受けている。ベトナムは、1950年代にフランスの植民地支配から脱すると、1965年から1973年にかけてアメリカと戦い、1979年には、中国との間で国境を巡り、短期間ではあるが犠牲者を出した中越戦争を戦った。この戦いの歴史を通じて、ベトナムの外交政策は独立指向を培ってきたし、防衛に多額の軍事予算を投入することにつながった。その過程で、ロシアが重要なパートナーとなった。東南アジアの他の国々(例えばフィリピン)とは異なり、ベトナムは防衛を疎かにすることはなかった。中国に対抗するために最も有望なベトナムの戦略は、紛争を解決するための外交手段を追求しつつも、戦争抑止に十分な戦力を持つことである。

Q:中国は、ベトナムの軍事力を脅威に感じているか。中国は、1979年のベトナムとの戦争の悪夢を未だに持っているのであろうか。軍事大国となった中国は、現在、ベトナムの軍事的能力をどう捉えているのか。

A:中国は、ベトナムの軍事力について非常に高い関心を持って注視している。北京もハノイも、軍の近代化を加速するために、ロシア製の兵器(潜水艦、駆逐艦、フリゲートや航空機)を導入してきた。このことは、中国がベトナムの軍事力について十分な情報を得ていることを意味する。実際、皮肉なことだが、中国が日本やアメリカとの間で想定される武力紛争に当たって展開すると見られる兵器や戦術は、ベトナムも中国に対して展開できるものなのである。一方、中国はまた、ロシアからの兵器輸入が、訓練や整備面で支障が出る可能性があることから、必ずしも理想的な状況ではないことを理解している。最近、インドで発生した潜水艦(ロシアから輸入したKilo級ディーゼル潜水艦)事故は、そのリスクの大きさを示している。この点、ベトナムは、中国ほどロシア製兵器に依存しておらず、自前の軍事能力に頼っている。1979年の中越紛争に関する調査、研究は中国ではあまり大きな関心事ではないが、中国は、ベトナムの軍事力について十分な脅威を感じているように思われる。それにもかかわらず、中国の軍事専門家は、ベトナムの軍事戦略の様々な弱点を指摘している。特に、ベトナムが力を入れている潜水艦について、中国の軍事専門家は、ベトナムには潜水艦のような最新兵器を使いこなす運用経験が全くないと指摘している。また、彼らは、ベトナムの軍事能力のもう1つの弱点として、偵察能力、目標探知能力そして戦闘管制能力を挙げている。1988年3月14日に南沙諸島において中国の小艦隊が小規模だが激しい戦闘でベトナムの戦闘艦2隻を撃沈した出来事を、中国軍部内では「3.14モデル」と称し、中国はベトナムとの如何なる武力衝突でも勝てるとの思い込みがあるように思われる。

Q:ベトナムは6隻のKilo級潜水艦をロシアから購入した。何故、Kilo級を選らんだのか。ベトナムは、十分な乗組員の訓練ができるのか。Kilo級潜水艦はベトナムの所要に合っているのか。

A:多くの海軍専門家は、近代海軍にとって潜水艦が主力戦力であると見なしている。水上戦闘艦が長距離攻撃兵器や精密誘導弾の登場で益々脆弱になってきているが、潜水艦は、対潜戦の本来的な困難性の故に、依然残存性の高い戦力である。潜水艦は単艦で運用できるが、単艦でも魚雷や対艦巡航ミサイル (ASCM) によって相手に致命的打撃を与えることができる。ロシアのKilo級ディーゼル潜水艦は、インドや中国を含めた世界中に輸出されている、評判の良い潜水艦である。この潜水艦は、その静粛性能だけでなく、長射程、超音速終末機動の潜水艦発射対艦巡航ミサイル、Klub-Sなどの搭載兵装からも、米海軍部内では、侮り難い戦力を見られている。実際、Kilo級潜水艦は、ベトナムの防衛力を大幅に強化している。しかも、海軍の専門家はこれまで、中国は特に対潜能力が弱点であると見なしてきた。従って、ハノイは中国軍事力の弱点を突いたと言える。しかしながら、中国海軍はここ数年、この弱点に気付き、例えばこの2年間で、新型で高性能の小型フリゲートを多数配備するなど、対潜能力の強化に努めてきている。潜水艦を購入するに当たって重要なのは、乗組員の訓練と整備である。最新の射撃統制システムは、未熟な乗組員でも正確な射撃が可能なシステムであることは事実である。しかしながら、潜水艦は現代兵器の中でも特に複雑なものであり、真に信頼できる能力の高い戦力になるまでは、数年ではなく、十数年の時間を必要としよう。

Q:もし中越間で軍事衝突が生起した場合、どちらが勝つか。

A:想定し得るほとんどあらゆるシナリオで、中国の方が優勢であろう。ベトナムは、中国海軍や空軍に対して一定の損害を強いることができるのは間違いない。しかし、アメリカや日本を巻き込む様々な紛争シナリオに備えて、中国軍は、十分な装備と訓練を行ってきた。潜水艦、水上戦闘艦及び高速攻撃艇では、中国が量的に圧倒的有利であり、多少の損害を強いられても、中国が優勢であろう。もっとも、ハノイにとって有利な軍事的側面も幾つか存在する。例えば、中国は空中給油の面で弱点があり、特に中国本土の空軍基地から距離的に離れた南シナ海では、ベトナムも制空権を争って十分戦うことができよう。更に、絶望的な戦況になった時に、ハノイは、陸上戦力では中国の陸上戦力と対等以上の可能性もあることから、海上での衝突を大規模な陸上国境での戦闘にエスカレートさせることも考えられる。しかしながら、これは、特に首都ハノイが地理的に中国との国境に近いことから、危険な賭けとなろう。しかも、中国も、こうしたエスカレーションに対抗する能力を持ったおり、例えば、ベトナムの空軍基地や海軍基地に対して空爆やミサイル攻撃を行うことができる。一般的に、軍事衝突の結果を予想することは極めて難しい。1982年のフォークランド紛争以降、本格的な現代的海戦が生起していない。従って、私のこのような短い分析も慎重に扱われるべきである。

Q:アメリカのベトナムに対する武器輸出入禁止措置が解除された場合、アメリカはベトナムに武器を売却すべきか。

A:私見では、アメリカはベトナムへの武器売却に慎重でなければならない。何故なら、武器売却は一定の象徴的な抑止効果を持ち得るが、こうした利点は、中越両国間の緊張関係を一層高めるという潜在的危険性によって、いとも簡単に帳消しになってしまうであろう。アメリカのベトナムへの武器売却は、北京から見て、ワシントンによる「中国包囲網」強化の一環として受け止められよう。このように、ベトナムへの武器売却は、中越間の緊張を一層高めることになると見られるだけでなく、既に緊張感が生じている米中関係にとっても有害なものとなり得る。長年に亘って武器売却や合同訓練を実施してきた、条約上の同盟国である日本やフィリピンとは違って、ベトナムとの武器売却は、「ゼロからのスタート」とになる。例えば、海洋哨戒用の艦艇など、幾つかのプラットフォームは、ベトナム軍にとって有益かもしれない。しかしながら、ハノイは、既に導入済みの大量のロシア製兵器と、米国製の兵器とのシステム統合という極めて困難な課題に直面することになろう。これは、ハノイにとって大いなる技術的挑戦である。

記事参照:
Q. and A.: Lyle Goldstein on China and the Vietnamese Military

7月7日「ステルス性能と海洋拒否能力の強化、東アジア諸国の潜水艦近代化競争」(RSIS Commentaries, July 7, 2014)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のMichael Raska研究員は、7月7日付け RSIS Commentariesに、“Toward Stealth and Sea Denial: Submarine Modernization in East Asia”と題する論説を寄稿し、東アジア諸国の「軍備競争」に見る重要な側面として、新型のディーゼル電気推進潜水艦の導入を取り上げ、要旨以下のように述べている。

(1) 中国海軍の多層的な接近阻止・領域拒否 (A2/AD) 戦略における重要な特徴は、原子力推進と在来型の両方で新型の潜水艦を漸増させていることである。中国は現在、6つの異なる級からなる45隻の潜水艦を保有している。宋級 (Type 039) と元級 (Type 041) を含む、2つの級の国産ディーゼル潜水艦、そして商級 (Type 093) 攻撃型原潜 (SSN) と晋級 (Type 094) 弾道ミサイル原潜 (SSBN)、及び後継のType 095 SSNと唐級 (Type 096) SSBNを含む、4つの級の原子力潜水艦である。中国は2004年以来、12隻の元級 (Type 041) を建造したと見られる。この潜水艦は、より高い周波数のソナー、新型の兵器システム、静粛性の強化、そしてAIP(非大気依存推進)システムの装備によって、次第に改良されてきている。中国海軍は、元級潜水艦を最大20隻程度取得すると見られる。中国は1990年代半ば以降、ロシアから12隻のKilo級潜水艦を取得しており、更に少なくとも4隻の第4世代潜水艦、Amur (Lada) 級、あるいは恐らく第5世代のKalina級の購入について交渉中といわれる。両級はともにAIPシステムを採用している。

(2) 北東アジアでは、日本と韓国が、新型潜水艦の調達を重視している。韓国は2013年9月に、AIPと最新の戦闘管理システムを備えた、1,800トンの「孫元一」級(ドイツのType 214型)潜水艦4番艦を進水させた。韓国は現在、9隻のType 209 「張保皐」級と4隻の「孫元一」級潜水艦からなる、13隻の潜水艦を保有している。一方、日本の海上自衛隊は2013年10月に、最新の潜水艦、「こくりゅう」を進水させた。「こくりゅう」は、2009年に最初に就役した、10隻建造予定の「そうりゅう」級の6番艦である。「そうりゅう」級潜水艦は、その搭載するスターリングAIP推進システムとハープーン対艦ミサイルを含め、日本の16隻の在来型潜水艦では最新型である。

(3) 東南アジア諸国では、潜水艦の調達価格が比較的高く、また整備も難しいことから、これまで保有隻数は多くなかった。しかしながら、最近では、高性能の沿岸型ディーゼル推進潜水艦が導入されつつある。最近、ベトナムは、ロシアに発注した種々の偵察、哨戒、対潜戦及び対水上艦戦任務用に設計された6隻のKilo級 (Project 636) ディーゼル電気推進潜水艦の内、2隻を2013年から2014年にかけて受領した。インドネシア、マレーシア及びシンガポールは、それぞれ自国の潜水艦隊の増強あるいは改良を計画している。マレーシアは2007年から2009年にかけて、エクゾセ水中発射対艦ミサイルを装備するフランスで建造された、2隻のScorpene級潜水艦を公式に受領した。2隻の潜水艦はサバ州のコタキナバル海軍基地に配属されるが、この配備は南シナ海におけるマレーシアの主権防衛がこれら潜水艦の主たる任務であることを示している。一方、インドネシアは、潜水艦戦力を「最小限の保有すべき不可欠の戦力」における重要構成要素と位置づけ、2024年までに少なくとも6隻態勢、理想的には12隻態勢に増強する野心的な計画を進めるとともに、「外洋」海軍としての発展を目指すと宣言した。インドネシア海軍は2012年に、韓国の大宇造船海洋で建造される3隻のType 209/1400ディーゼル電気推進潜水艦を、11億米ドルで購入する契約を公表した。シンガポールは2013年11月に、現有のArcher級潜水艦を増強するとともに、2020年までに老朽化するスウェーデン製Challenger級を代替するため、ドイツのThyssen Krupp造船との間で、2隻の新型Type 218SG潜水艦を建造する契約を結んだ。

(4) この10年以上の期間、東アジアにおける潜水艦は、対潜戦から、近接護衛、情報・監視・偵察 (ISR)、特殊部隊支援及び領海防衛を支援する補完的な抑止防衛任務といった、部隊防衛任務にまで、その運用任務領域が拡大している。同時に、潜水艦発射対艦、対地巡航ミサイル、及び対潜センサーと対潜兵装の導入は、AIP推進システムとともに、目標識別・攻撃サイクルを短縮し、探知され難いステルス性能を向上させることで、潜水艦戦力の柔軟性、機動性、航続距離、攻撃範囲及び攻撃破壊能力が大幅に改善されている。東アジアや東南アジアにおけるより小規模で防衛的な性格の海軍において、こうした潜水艦は、戦力投射による制海能力を高めるというよりは、敵対勢力の海洋利用を阻止する、「海洋拒否」能力の強化に役立っている。従って、特にAIPシステム装備の潜水艦は、域内においてその価値が益々高まっていくと見られる戦略的アセットであろう。しかしながら、戦力アセットとしての真価は、各国の経験、乗員の訓練及び技量に左右されよう。

記事参照:
Toward Stealth and Sea Denial: Submarine Modernization in East Asia
RSIS Commentaries, July 7, 2014

【関連記事】「タイ海軍、潜水艦部隊創設」(Bangkok Post, July 8, 2014)

タイ海軍は7月7日、サタヒップ海軍基地で潜水艦部隊を正式に発足させた。同部隊は、潜水艦運用に関する知識習得を目的とした、潜水艦指揮要員の訓練センターも兼ねる。センターは、ドイツ製の潜水艦訓練シミュレーターを備え、ソナー・システムの運用方法などの訓練を行う。このシミュレーターは、海軍の艦隊訓練コマンドが運用する対潜戦シミュレーターとも連結されている。海軍は現在、潜水艦技術取得のために18人の士官をドイツに派遣するとともに、韓国のディーゼル潜水艦国際訓練コースに10人の士官を派遣している。潜水艦部隊司令官によれば、海軍は、潜水艦を実際に取得するまで、各国の訓練コースに毎年30人の要員を派遣する計画である。

記事参照:
Navy launches submarine squadron

77日「ニカラグア、運河計画承認」(gCaptain, Reuters, July 8, 2014)

ニカラグアの政府当局者、海運業界及び学識経験者からなる委員会は7月7日、パナマ運河に匹敵する、運河計画を承認した。総事業費は400億米ドルで、太平洋側のBrito河口からニカラグア湖を経由してカリブ海側のPunto Gorda河口に抜ける全長278キロの運河である。全長は77キロのパナマ運河の3倍以上になる。この運河は、香港のThe HK Nicaragua Canal Development Investment Co Ltd (HKND Group) の提案になるものである。提案されているルートは、中米最大の湖、ニカラグア湖を経由するもので、全幅230~520メートル、水深27.6メートルの運河となる。ルートは、環境問題や社会的影響などから一部変更される可能性もあるが、環境調査は2014年末までには完了する。計画では、2019年に建設が完了し、2020年から運用開始を見込んでいる。

記事参照:
Nicaragua Approves $40 Billion Canal Route
See also: HKND Group HP
Map: Rough sketch of the route from The Brito River to Punta Gorda via Lake Nicaragua

77日「常設仲裁裁判所、ベンガル湾のインド・バングラデシュ海洋境界に判決」(The Maritime Executive, Reuters, July 8, 2014)

オランダのハーグにある常設仲裁裁判所 (The Permanent Court of Arbitration: The Tribunal) は7月7日、ベンガル湾のインドとバングラデシュの30年以上に及ぶ海洋境界紛争に対する判決を下した。判決によれば、ベンガル湾の2万5,000平方キロ以上に及ぶ係争海域の内、5分の4近い海域がバングラデシュの管轄海域として認められた。両国を拘束するこの判決によって、バングラデシュは、この海域の石油、天然ガス資源を開発する道が拓けた。バングラデシュのアリ外相は翌8日、「この判決は、バングラデシュとインド両国の友好の勝利であり、両国にとってウイン・ウインの判決である」と語った。インドもこの判決を歓迎しており、対外問題担当相は声明で、「海洋境界の画定は、長年にわたる懸案事項が解決したことで、両国間の相互理解と善隣友好を一層促進するであろう。この判決によって、ベンガル湾のこの海域での資源開発が促進されることになろう」と述べた。

記事参照:
Bangladesh Wins in Maritime Dispute with India
See also: Press Release, dated July 7, 2014 and Award, dated July 7, 2014

78日「商船三井、砕氷LNGタンカー3隻建造、ロシア・ヤマルLNGプロジェクト向け輸送に参画」(商船三井HP、平成2679日、gCaptain, July 10, 2014)

7月9日付けの商船三井HPによれば、同社は、中国海運集団総公司 (China Shipping Group Company) との合弁で設立した船社を通じて、ロシアのヤマルLNGプロジェクト向け輸送に参画する。同船社は7月8日、韓国の大宇造船海洋との間で、砕氷LNGタンカー3隻の造船契約を締結した。新造LNGタンカーは、全長299メートル、積載能力17万2,000立米で、最大氷厚2.1メートルの氷海を単独での砕氷航行が可能である。砕氷LNGタンカーは、ロシアのヤマル半島サベッタ (Sabetta) 港のヤマルLNGプラントから、アジアと欧州市場にLNGを輸送する。また夏季には、該船は北方航路経由で東アジア向けに運航される。

記事参照:
商船三井HP
MOL Confirms Order for Icebreaking LNG Carriers to Ply Arctic Shipping Route
LNGタンカー・イメージ図:http://gcaptain.com/wp-content/uploads/2014/07/140709b.jpg
輸送ルート:http://gcaptain.com/wp-content/uploads/2014/07/140709a.jpg

710日「ロシア空軍、北極圏での飛行を強化」(RIA Novosti, July 10, 2014)

ロシア極東軍管区の報道官が7月10日に明らかにしたところによれば、ロシア空軍アムール地区の戦略爆撃機、Tu-95MSの乗員の飛行時間は、2014年に前年比3倍増となった。戦略爆撃機の飛行は、最大航続距離で北極海域を哨戒する飛行計画に従って実施されており、この間、偵察、空中給油及び訓練を行う。報道官は、「2014年初めから、各種の自然環境下で、北方地区の飛行場での離発着の実施を特別に重視してきた」と語った。全ての飛行は、他国の領空を侵犯することなく、空域使用の国際法規に従って実施されている。

記事参照:
Russian Air Force Boosts Presence in Arctic

7月10日「米上院本会議、アジアにおける領有権紛争の平和的解決を求める決議案を採択」(The U.S. Senate Foreign Relations Committee, Press Release, July 11, 2014)

米上院本会議は7月10日、アジア太平洋地域における航行の自由や領有権紛争の平和的解決などを盛り込んだ決議案を採択した。この決議案は、メネンデス上院外交委員長(民主党)を始め、外交委員会の超党派の5人の議員が共同提出したものである。

決議は、中国が設定した「防空識別圏 (ADIZ)」を、国際空域における航行の自由に反するとして、その履行の自制を求めるとともに、アメリカがとるべき政策として、 (1) 尖閣諸島が日本の施政下にあり、日米安全保障条約の適用対象であることを含め、アジア太平洋地域の同盟国とパートナー諸国に対するコミットメントを再確認する、(2) 全ての国にとっての航行の自由、海洋使用の正当な権利を害する主張に反対する、(3) 全ての当事国に対して、紛争海域における不法な占拠や不法な管轄権の主張など、情勢の悪化をもたらす如何なる行動も自制するよう求める、などの諸点を挙げている。

記事参照:
Bipartisan Maritime Security Resolution for the Asia-Pacific Region Approved by U.S. Senate
Note: See Senate Resolution 412

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子