海洋情報旬報 2014年6月21日~30日

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6月21日「中国の石油掘削リグ、南シナ海での稼働状況」(Taipei Times, June 21, 2014)

台湾紙、Taipei Timesが6月21日付けで中国海事局 (MSA) のWebサイトに掲載された情報として報じるところによれば、中国は現在、ベトナムとの紛争の火種となった石油掘削リグ、HYSY981以外に、更に4基の掘削リグを南シナ海で稼働させている。それによれば、掘削リグ、Nanhai No. 2とNo. 5は広東省と台湾が占拠する東沙諸島の間の海域にあり、No. 4は更に中国本土沿岸に近い海域にある。台湾は、東沙諸島周辺海域にEEZを主張しているが、掘削リグの設置にはコメントしていない。そして4基目のNanhai No. 9は6月20日に、ベトナムのEEZのすぐ外側の海南島に近い海域に曳航された。その最終的な位置は、北緯17度14分1秒、東経109度31分という。これらの掘削リグは、中国海洋石油総公司 (CNOOC) の子会社、中海油田服務 (COSL) が運用しており、3基が深海掘削用、1基が浅海用のジャッキアップ・リグである。

記事参照:
Beijing sends four oil rigs to disputed South China Sea

6月25日「インド、アンダマン・ニコバル諸島北東端の島に沿岸警備隊レーダー基地建設へ」(South Asia Analysis Group, June 25, 2014)

インド海軍のR.S.Vasan退役准将は、インドの新政権がアンダマン・ニコバル諸島北東端のナルコンダム島における沿岸警備隊レーダー基地の建設を最終的に承認したとのインド国内紙の報道を受けて、6月25日付けのSouth Asia Analysis Groupのレポートで、その戦略的意義などについて、要旨以下のように述べている。

(1) ナルコンダム島 (Narcondam) は、アンダマン・ニコバル諸島では2番目に高い海抜約712メートルの休火山島で、面積は6.8平方キロである。ミャンマーが同島に対する領有権を主張していたが、ミャンマーとの海洋境界の画定に伴い、現在はインド領となっている。 レーダー基地建設は沿岸域の安全保障と監視措置の一環として、何年も前から計画されていたが、環境問題から頓挫していた。基地までの取り付け道路の整備、要員10人の居住区及びディーゼル発電設備の建設が島の生態系に影響を及ぼすと考えられてきた。前政権は計画を承認しなかったが、新政権は全ての計画を見直し、国家安全保障上避けることのできない計画について早期着工を決定した。沿岸警備隊と海軍は、沖合の島嶼部を含む、全沿岸域に沿ってレーダー基地網を建設することによって、沿岸域の安全保障を強化するため協同している。2008年11月のムンバイにおけるテロ攻撃の教訓から、沿岸域の安全確保のために様々な方策が採られるようになり、7,516キロに及ぶ全沿岸域に沿ってレーダー網を設置することもその1つである。

(2) 沿岸警備隊は、The Maritime Zones of India (MZI) Act of 1976 によって、密漁、密輸及び海洋汚染を防止するためにインドのEEZを哨戒監視するとともに、捜索救難任務を遂行している。沿岸警備隊は、国家の監視能力を強化するために、沿岸域の適切な地点に監視用レーダー設置の任務を付与された。ナルコンダム島は、戦略的要衝であるアンダマン・ニコバル諸島とその周辺海域を監視下に置くために、重要な地点である。過去には、アンダマン海とその周辺海域は、周辺の他の国の漁船による違法操業が行われ、海洋汚染物質や有毒物資が投棄されてきた。同諸島の島々は、インドにとって戦略的に重要である。同諸島は東南アジアへの海路に繋がる国際貿易・通商の出入り口であるマラッカ海峡に近い。沿岸警備隊は、同諸島に多くの基地や拠点を置いている。マラッカ海峡を通過する貨物量は中国のものが最も多い。最近の推定によれば、マラッカ海峡を通航する船舶は、年間6万隻以上に達している。従って、アンダマン・ニコバル諸島は、マラッカ海峡やその他の東南アジアの海峡に近接した前哨基地としての地理的利点を持っており、これらのチョークポイントに不穏な動きがあれば、迅速な情報や警報を発信することができる。

(3) 中国は、アンダマン・ニコバル諸島における如何なる動向も懸念を持って見ている。インドは、本土からだけでなく東西の沖合島嶼部の前哨基地からあらゆる活動を監視できる位置にあるため、インド洋地域における地理的環境はインドにとって大きな優位となっている。アンダマン・ニコバル諸島は、マラッカ海峡や域内のその他のチョークポイントを通ってインド洋に出入りする全ての船舶の動きを監視できる位置にある。同島はまた、ココ島の近傍にある。ココ島はミャンマーから中国に貸し出され、以来何十年にもわたって中国の通信傍受施設が存在するとされてきたが、インド軍将校の間では疑問視されてきた。ココ島には、本土から遠隔の島を結ぶために建設された滑走路がある。従って、1つの可能性として、例え中国の恒久的な監視・傍受施設がなくても、インドのミサイル開発・宇宙開発に伴ってインド東海岸での活動が活発化すれば、必要に応じて通信傍受機材を空輸することはできる。

(4) 近年、中国は、インドが海で接する隣国への関与を強めてきている。西側の一部の専門家は、この中国の動きを、「真珠数珠繋ぎ戦略 (the ‘string of pearls’ strategy)」という用語や、あるいはインドの喉頸を絞める動きと見ている。本稿の筆者(R.S.Vasan退役准将)は、こうした用語やインド洋における中国のプレゼンスの狙いについて、支持していない。中国もインドも、海上交通路によるエネルギー製品の巨大な輸入国である。中国は、海上交通路への貿易依存の高まりを受けて、海上交通路とチョークポイントの安全確保を講じ始めた。 ハンバントータ(スリランカ)、グワダル(パキスタン)、バングラデシュ、ミャンマー、及びモルディブへの経済的投資は、アジアの小国への経済的関与を強化するとともに、将来必要とされる時に戦略的優位を確保するための経済的梃子として利用するためである。純粋に解釈すれば、このことは将来、中国海軍艦隊が中国の国益のために中国の支援と経済援助によって建設された域内の深水港に寄港するという選択肢を確保したということになる。インド洋における戦略的な力学計算において考慮されるべきは、この可能性である。

(5) ナルコンダム島への沿岸警備隊レーダー基地の建設は、ココ島周辺海域における不審な中国の活動を監視下に置くという点からも重要である。設置されるCG沿岸警備レーダーのような監視機材は、北アンダマン海やココ諸島周辺海域における中国海軍の活動の監視を可能にするとともに、密漁、麻薬あるいは武器の密輸、そして海域の安全と国益にとって有害なものを抑止するために、アンダマン・ニコバル諸島に設置されるC4ISR(指揮・統制・通信・情報・監視偵察)システムに極めて重要な情報を送信することになろう。

記事参照:
India: Importance of Setting up of Radar Station at Narcondam
Attach Files:
Map & Photo.docx

625日「西沙諸島の主権に対する中国の立場―中国専門家の見解」(RSIS Commentaries, June 25, 2014)

中国南海研究院海洋経済研究所のLi Jianwei(李建伟)所長は、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の 6月25日付けRSIS Commentariesに、“China, Vietnam and the Paracels: Time for a Way Out?”と題する論説を発表し、中越両国はこれまでの紛争を上手く管理してきたが、今回のHYSY981石油掘削リグを巡る長引く紛争は両国関係に有害であり、紛争管理のための外交的英知が求められているとして、要旨以下のように述べている。

(1) 中国外交部は6月8日、HYSY981掘削リグに関わる問題についての立場を明確にするために、声明と5つの関連文書を発表した(旬報2014年6月1日-10日参照)。掘削作業は中国企業による通常の開発プロセスの継続であり、中国の主権と管轄権の完全な範囲内における行為である。西沙諸島の主権に関しては、同諸島を発見し、開発し、利用し、そして管轄権を行使してきたのは、中国が最初である。北宋(960年〜1126年)時代までに、中国政府は既に、西沙諸島に対する管轄権を確立していたし、その周辺海域を哨戒するために海軍部隊を派遣していた。1909年には、清朝の広東管区海軍司令官、Li Zhunが率いる軍事査察団が西沙諸島に派遣され、永興島で国旗を掲げて中国の主権を再確認した。中華民国政府は1911年、海南島雅郡の管轄下に西沙諸島とその近海を置くことを決定した。第2次世界大戦中、西沙諸島は日本に占領されていた。戦後、一連の国際文書に従って、中国政府は1946年11月、西沙諸島に高官と軍艦を送り、島々を受け入れるための儀式を行い、移譲を記念するために記念碑を建てた。中国の管轄権は、1949年に成立した中華人民共和国に引き継がれ、中国政府は1959年、西沙、中沙及び南沙諸島を管轄する行政事務所を設置した。

(2) 石油掘削リグを巡る論議で、ベトナムの当時のファン・バン・ドン首相が1958年に中国の当時の周恩来首相宛に送った外交文書が再び問題となった。同文書においてドン首相は、「ベトナム民主共和国政府は1958年9月4日に行われた、中国の領海に関する中華人民共和国政府の宣言を認め、それを支持する」と述べ、「ベトナム民主共和国はこの決定を尊重する」と明記した。 ここでいう「決定」とは1958年9月4日に発表された中国の宣言で、「中華人民共和国の領海の幅は12カイリである」とし、「この規定は、西沙諸島を含む中華人民共和国のすべての領海に適用される」と記述されている。ベトナム側がドン首相の外交文書の重要性を最小限に抑えようと努力し、この文書が西沙諸島におけるベトナムの主権の主張を弱めるものではないことを説明したい気持ちは理解できる。しかし、ドン首相が1977年に中国の当時の李先念副首相との会談で同文書を自ら説明したという事実は、ドン首相の文書を撤回したいとするベトナムの現在の努力を弱めるものである。ドン首相は会談で、「周恩来首相宛の私の文書をどのように理解しているか」と尋ね、「当時の歴史的な文脈、即ち、我々が何よりも米帝国主義との戦い優先しなければならない戦争に時代であった、という文脈で理解しなければならない」と述べている。ドン首相は南沙諸島や西沙諸島の主権に対する自身の声明がもたらす影響を認識し、中国に歴史的文脈から同問題を理解するように要請したのは明らかである。しかしながら、この主張は、国際法の原則、「禁反言 (estoppel)」(過去の言行と矛盾する主張を禁ずる法原則)に反している。特定の紛争において、一方がある時点で紛争地域に対する相手国の主権を暗黙に了解したり承認したりした場合、こうした承認や了解は法的効力を持つことになる。その結果、相手国の主権を了解したり承認したりした当事国は、当該領土に対する相手国の主権を否定することはできないし、相手の権利を尊重しなければならない。しかも、ファン・バン・ドンがベトナムの統一から1986年まで統一ベトナムの首相を務めたという事実は、この問題をめぐるベトナムの主張を一層弱めるものである。

(3) ベトナムのThe International Law Faculty of the Diplomatic Academy of Vietnamの副学部長、Nguyen Thi Lan Anhは、6月 9日付けRSIS Commentariesに、“The Paracels : Forty Years On”と題する論説を発表している(旬報2014年6月1日-10日参照)。筆者 (Nguyen Thi Lan Anh) は、海洋境界画定の成功事例として、2000年に締結された中国とベトナムの間のトンキン湾における境界画定を取り上げている。Anh博士は、トンキン湾で適用された原則がベトナムの海岸と西沙諸島の間における海域にも適用されるべきだと主張する。確かにトンキン湾の事例は、両国の交渉担当者が国連海洋法条約 (UNCLOS) を含む国際法の原則に従い、両国が受け入れることができる衡平な解決に到達した。トンキン湾の海洋境界は中国にとって初めての海洋境界画定であり、中国とベトナムとの間で画定された初めての海洋境界でもある。これは、南シナ海の他の海域における将来の交渉にも影響を及ぼすことになろう。中国は、西沙諸島とベトナム本土沿岸との海域の画定が未定であり、両国ともUNCLOSに基づいてEEZや大陸棚を主張​​する権利を保持していることを認識している。しかしながら、中国は、掘削リグが設置されている西沙諸島のTriton Island(中国名:中建島)周辺海域が海洋境界画定に適用される如何なる原則から見ても、ベトナムのEEZや大陸棚含まれない見解を堅持している。距離と位置は重要でなない。両国が直接交渉すべきであるとの提案は、建設的で肯定的である。中国は、ベトナムの海岸線と西沙諸島の間の海域における海洋境界画定に関して、ベトナムとの直接交渉を受け入れるであろう。衡平な解決へ到達することは、両国関係の強化と深化に貢献する。これはまた、南シナ海における平和と安定にも重要な貢献となるであろう。

記事参照:
China, Vietnam and the Paracels: Time for a Way Out?
RSIS Commentaries, June 25, 2014

6月25日「中国、南シナ海を取り込む新地図発行」(Reuters, June 25, 2014)

中国国営メディアの6月25日付け報道によれば、中国は、南シナ海における領有権主張において重要な役割を果たす、新たな公式地図を公表した。この地図は、南シナ海で係争中の海域や島嶼、環礁などを明確に自国領であると見せかける表示となっている。中国政府が以前に発行した地図でも、南シナ海の大半が自国領であるとしていたが、その表示方法は通常、一枚の地図に収まるように、その他の領土を地図の片隅の小さな別枠に記載していた。しかし、今回の新しい地図は別枠がなく、一枚の地図で、中国の大陸と、南シナ海のマレーシア、ベトナム及びフィリピンの海岸線のすぐ近くを通る、中国が自ら海洋境界と規定する領域が示されている。「人民日報」(電子版)は、「中国のこれまでの地図では、南シナ海の島嶼は別枠に記載されており、読者は、一見しただけでは中国の地図の全体像を把握することが難しかった」と述べている。また同記事は、これまでの古い地図では、南シナ海の島嶼が、中国領土の不可分の一部というよりも付属地のような扱いになっていたが、新しい地図では、これら全ては中国領であることが「一目で分かる」と付言している。また、地図の出版社社員は、「この縦長の中国地図は、我々が領有する海洋権益や中国領土の不可分性の維持について、人民の理解を促進するための重要な手段である」と述べている。

中国外交部報道官は、この新しい地図に発行について、あまり深い詮索をすべきではないとし、「発行の目的は中国人民のためであり、その意図についてあまり憶測すべきではない」、「南シナ海における中国の立場は一貫しており、極めて明確で、我々の立場には何ら変化がない」と強調した。

記事参照:
New Chinese map gives greater play to South China Sea claims
New China Official Map

【関連記事1「フィリピン、中国の新地図を批判」(Rappler.com, June 25, 2014)

フィリピンの若手ジャーナリスト、Paterno Esmaquel II は6月25日、social news networkのRappler.comで、“Philippines hits China over ‘10-dash line’ map”と題する論説を発表し、要旨以下のように述べている。

(1) フィリピンは6月25日、北京の南シナ海に対する領有権主張を「10段線」を境界線として拡張的に盛り込んだ新地図を発行したことについて、中国を批判した。この地図は、これまで一般的だった、フィリピンが西フィリピン海として領有権を主張する海域も含む、事実上、南シナ海のほとんどに領有権を主張した「9段線」よりも範囲が広がっている。フィリピン外務省報道官は、新地図に対して、「明らかに国際法、特に国連海洋法条約 (UNCLOS) に違反した、中国の不当な領有権の拡大主張である」と指摘した。更に、「南シナ海に緊張激化をもたらす要因は、こうした野心に満ちた拡張主義である」と強調した。大統領府報道官は、新地図の発行は「地域の安定に寄与しない」と述べた。

(2) フィリピンは、今回の「10段線地図」について、中国に対する新たな対抗手段を検討している。大統領府報道官は、「東南アジア諸国は、あらゆる機会を捉えて、中国の9段線に基づく領有権主張に対する反対意見を国連で表明してきた」とし、「我々は、どの国も中国の9段線主張を認めていないことに着目すべきだ。従って、新地図を出版しても、中国が主張する領域が中国のものになるわけではない」と指摘している。フィリピンは既に、中国の9段線主張に対して常設仲裁裁判所への歴史的な提訴を行った。この提訴において、フィリピンは、中国の9段線は海洋に関する憲法とも言えるUNCLOSを否定するもの、と主張している。UNCLOSは、沿岸国の基線から200カイリまでをEEZとして定めており、沿岸国に対してこの海域での海洋資源の排他的な利用権限を認めている。しかし、中国の9段線は、フィリピンのEEZを侵食している。

(3) 中国は、南シナ海における領有権主権の根拠として古地図を持ち出すこともあった。フィリピン最高裁の首席陪席判事、Antonio Carpioは、中国に反対する根拠として中国の古地図を取り上げている*。同判事は講演で、「中国の古地図を960年代まで遡っても、西フィリピン海のスプラトリー諸島やスカボロー礁が、中国の領土とされていたことは『一度もない』。中国人によって作成された地図か、外国人によって作成された地図かを問わず、スプラトリー諸島やスカボロー礁を中国領土の一部として表記した古地図は、一枚もないのである。要するに、これら中国の古地図では、中国の最南端の領土は常に海南島であった」と指摘している。

記事参照:
Philippines hits China over ‘10-dash line’ map
備考*:Top Philippine judge uses Chinese maps vs China

【関連記事2「南シナ海を取り込む中国新地図、グローバルコモンズへの挑戦―米専門家論評」(China Policy Institute Blog, June 25, 2014)

米誌、The National Interest の編集主幹、Harry J. Kazianisは、客員主任研究員を務める英China Policy Institute of The University of Nottinghamの6月 25日付けブログで、“For China: Make Maps, not War in the South China Sea”と題する論説を発表し、中国は南シナ海の大半を自国領海とする新しい地図を発行したが、これは現状変更とその既成事実化を図ったものであり、フィリピンを始めとする南シナ海問題当事国は一致団結して国際法廷で争うことも重要な戦略の1つであるなどと指摘し、要旨以下のように述べている。

(1) 米シンクタンク、STRATFORのアナリスト、Robert D. Kaplanがかつて“Asia’s Cauldron”(アジアの大鍋)と呼んだ南シナ海で、北京は、自らの立場を強化する新たな手段を見出したようである。各種報道によれば、中国は、「係争海域における中国の主権主張を誇示する最新の措置として、陸上と海洋を共に重視し、広大な南シナ海を取り込んだ、初めての事実上の公式地図ともいえる中国地図を発行した」のである。中国の地図はこれまでにも様々な主権主張に活用されてきた(数年前の中国のパスポートに記載された地図が思い起こされる)が、今回の地図は新たな工夫が施されている。香港紙、The South China Sea Morning Postの記事によれば、これまでの中国の公式地図は「広大な陸地に焦点を当てた横長の地図であり、南シナ海の領海や島嶼については、地図の片隅に設けられた別枠の中で小さく取り上げられるのが特徴であった。」今回発売が開始された新しい地図では、「南シナ海の島嶼や領有権を主張している海域が中国本土と同縮尺で表示されており、その結果、一枚の地図に本土と南シナ海が同じ縮尺で表示されているのが特徴である。」更に、同紙の同記事は、「この地図で突出している」南シナ海の表示に着目して、「南シナ海が9段線によって取り囲まれている。中国は、9段線で囲まれた内側の島嶼やその周辺海域は全て中国の主権に含まれると主張している」と指摘し、しかも、この地図では、(台湾の東側に)もう1つ段線が引かれ、「10段線」になっている、と注記している。

(2) 中国にとってこのような戦略は、過去のやり方と軌を一にするもので、陸海の現状を徐々に変更するだけでなく、重複する領有権主張に対する認識 (perception) を変えていこうとするものである。あたかもある地域に主権を有しているかのように振る舞うことは、そうした自ら(中国)の認識を確定させるための長期的な戦略である。石油掘削リグを他国のEEZ内に移動させ、自らの主権主張を補強するために定期的に非軍事の海洋法令執行機関を派遣し(「小さな棍棒外交 (“small-stick diplomacy”)」という)、また、外国漁船の操業を規制し、そして今回新しい地図を発行したことは、南シナ海に対する中国の戦略的計画とは何であるかを明確にしている。中国人は、占有することが法的効果の9割を占めると考えている。従って、中国から見て、公然たる占有は戦争を引き起こしかねない。そこで、地図、石油掘削リグ、非軍事の海洋法令執行機関そして規制など、紛争を引き起こす可能性の低い多様な領域で既成事実を積み上げることによって、中国は、ある場所の占有に向けて漸進しようとしているのである。これは、精々、the perception gameといえるものかもしれない。そうだとすれば、アジア太平洋諸国、そしてより広義にインド-太平洋諸国は、中国のこのような動向を懸念すべきであろうか。そしてアメリカはどうか。

(3) ASEAN諸国にとって、そして中国の「9段線」あるいは「10段線」に関わる沿岸諸国にとって、何をすべきなのかという課題は極めて明確である。これら諸国は、可能なあらゆる方法で中国に対抗しなければならない。1つの可能な戦略は、フィリピンが行ったように、専門家が「法律戦 (“lawfare”)」と呼ぶ手段に打って出ることである。マニラは、法的効果や国際法を利用して中国を辱めることである種の妥協を引き出すことを企図し、常設仲裁裁判所に提訴した。もう1つの戦略は、この動きを次のレベルに引き上げることである。即ち、南シナ海のそれぞれの海域において中国と領有権を争う全ての国家が、中国の南シナ海における領有権主張に対する判断を求めて、「集団で」国際裁判所に提訴することである。これは集団訴訟と呼ばれるやり方で、中国の領有権主張に抗している国家にとって、戦争以外の方法で、中国の海洋進出を押し戻すことのできる唯一の方法かもしれない。「法律戦」は、こうした目標を達成する最良の方法かもしれない。

(4) ワシントンにとっても、課題は明確である。北京は、南シナ海を1つの地図に取り込んだ今回のケースのように、現状を変更しようとしているのである。アメリカが中国の領有権主張に対して明確な公式態度を示さない間に、ワシントンは、北京の既成事実化に対抗するために大きなコストを負うことになった。5兆ドル相当の海上貨物が「アジアの大鍋」を通航しているが、南シナ海の90%に対する北京の領有権主張は、南シナ海の航行の恩恵を受けている全ての国にとって直接的な脅威となっている。海洋は国家の所有物ではなく、全ての国の自由な利用が認められているグローバルコモンズの1つであるという、ほとんど普遍的とも言える概念を、もし北京がひっくり返すとしたら、それは危険な前例となるであろう。北京が二度と(東シナ海で見せたような)前例となる行為をしない、あるいは世界の他の地域の国々が(北極海におけるロシアのように)自らに有利なように振る舞うことをしないと、誰が言い切れるだろうか。グローバルコモンズに価値を見出す全ての国は、北京の最新の挑戦に対して利害関係を共有している。非常に重要なものを切り崩すような地図や行為は許されるべきでない。

記事参照:
For China: Make Maps, not War in the South China Sea

6月27日「RIMPAC 2014、新たな参加国と不参加国」(CIMSEC, June 27, 2014)

米のCenter for International Maritime Security (CIMSEC) のリサーチアナリスト、Paul Pryceは、6月27日の“RIMPAC 2014 – The Ins and Outs”と題する論説で、RIMPAC 2014 について、要旨以下のように述べている。

(1) 隔年開催の2014年環太平洋海軍演習 (RIMPAC 2014) は、6月26日からハワイ近海において始まり、8月1日まで行われる。RIMPACは、米海軍が主催し、太平洋沿岸各国の海軍が参加して1971年から実施されているが、RIMPAC 2014は、アジア太平洋地域の軍事戦略において前例のないインパクトのある演習となった。特筆すべきは、中国が初めて参加したことである。2014年初め、アメリカはRIMPAC 2014に中国を招待することを計画していたが、シンガポールで5月31日から6月1日にかけて開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)の雰囲気から、中国の参加はかなり危ぶまれていた。シンガポールでの過熱した論議の1週間後に、中国は正式に招待を受け入れ、関係者を驚かせた。中国海軍の4隻の戦闘艦が演習に参加した。

(2) 東南アジアのブルネイも今回初めて参加した。ブルネイ王国海軍は、特に近隣のシンガポール海軍に比較して小規模な戦力ではあるが、2隻の外洋哨戒艦で参加した。これら2隻はブルネイの最新の就役艦で、RIMPACへの参加は、大規模な洋上戦闘行動演習においてこれらの艦の能力を検証する機会となる。ブルネイの参加によってASEAN加盟国の参加が増え、10カ国中、6カ国となった。

(3) 一方で、ロシアが不参加となった。ロシアは、前回の2012年に初めて参加した。このときは3隻の戦闘艦が参加し、旗艦の駆逐艦、PFS PanteleyevはNATO軍によるアデン湾での海賊対処作戦、Operation Ocean Shieldにも参加している。しかしながら、ウクライナ問題を巡るロシアとの緊張が高まったことで、RIMPAC 2014には招待されなかった。ロシアは2014年5月に中国との間で東シナ海において大規模な海軍演習を実施したが、これを別にして、ロシアはクリミア危機以来、太平洋地域での軍事問題では孤立している。ベトナムに潜水艦とその他の艦艇を提供している以外に、ロシアは、東南アジア諸国との安全保障上の関係を構築する機会をほとんど持っておらず、プーチン大統領による東への「軸足移動」も行き詰まっている。このことは、ロシアが持ち得たかもしれないこの地域に対する「ソフトパワー」による影響力の大幅な減退を示唆しており、域内のどの国の政府もプーチン大統領を信頼したり、関わったりすることに躊躇している。

記事参照:
RIMPAC 2014 – The Ins and Outs

627日「ロシア海軍、2050年までに約30隻の掃海艇取得」(RIA Novosti, June 27, 2014)

ロシアのボリソフ国防次官は6月27日、サンクトペテルブルグのSredne-Nevsky造船所で行われた、掃海艇建造プロジェクトの1番艦、Alexander Obukhovの進水式典で、プーチン大統領が5月に承認した建艦計画に従って、ロシア海軍は2050年までに約30隻の掃海艇を取得する、と語った。Alexander Obukhovは、排水量890トン、全長61メートル、全幅10メートル、最大速度16.5ノット、乗員44人である。Alexander Obukhovは、北洋艦隊に配属される。

記事参照:
Thirty Minesweepers to Join Russian Navy by 2050
Photo: Ceremony to introduce the mine countermeasures vessel Alexander Obukhov in St. Petersburg

6月30日「タイ湾での石油生産、促進―シンガポールの石油開発会社」(RIGZONE, KrisEnergy Ltd., Press Release, June 30, 2014)

シンガポールの石油産業上流部門、KrisEnergy Ltd.は6月30日、タイ湾での石油開発鉱区、G10/48のWassana油田開発への最終投資を承認した、と発表した。生産開始は、2015年下半期からと予測されている。同油田の開発計画は、移動式生産設備(MOPU、ジャッキアップ・リグを利用した石油・ガス生産用プラットホーム)1基と12~14本の開発井、及び浮体式貯蔵積出設備 (FSO) からなる。これらは、水深65メートルまでの海域での開発生産に適した設備で、日量2万バレルまでの処理能力を持つ。KrisEnergy Ltd.は、G10/48鉱区に100%の権利を持っている。この鉱区は、Pattani Basinの南部を占める面積、4,696平方キロで、最大水深は60メートルである。この鉱区には、既に発見され、それぞれ異なった開発、評価段階にある3つの油田、Wassana、Niramai及びMayuraがある。Wassana油田は、日量、最大1万バレルに達すると見込まれている。

記事参照:
KrisEnergy Proceeds With Wassana Oil Field Development in Gulf of Thailand
Map: KrisEnergy’s Gulf of Thailand assets

630日「海上でのコンテナ消失個数―WSC推測」(gCaptain, June 30, 2014)

世界海運評議会 (The World Shipping Council: WSC) は2011年に、世界のコンテナ船の90%を運航する加盟船社に対して、海上での消失コンテナ個数について、2008年から2010年までの3年間について調査したが、2014年に再び、2011年から2013年までについて調査した。それによれば、WSCは、2008年から2013年までの6年間に、年平均546個のコンテナが海上で失われたと推測している。これに沈没や座礁などの重大事故による消失個数を加えれば、6年間で年平均1,679個となる。WSCは、2011年の調査結果に基づいて、2008年から2010年までの3年間の年平均消失個数を約350個と推測しており、これに重大事故による消失を加えれば、3年間の年平均消失個数は約675個となる。WSCは、2014年の調査結果に基づいて、2011年から2013年までの3年間の年平均消失個数を約733個と推測しており、これに重大事故による消失を加えれば、3年間の年平均消失個数は約2,683個となる。WSCによれば、これは2件の重大事故、即ち、2013年6月にインド洋でMV MOL Comfort*が破断・沈没し、積載していた4,293個のコンテナが失われた事故、2012年10月にニュージーランド沖でMV Rena**が座礁し、約900個のコンテナが失われた事故によるものである。

記事参照:
How Many Shipping Containers Are Really Lost At Sea?
See also: Survey Results for Containers Lost At Sea – 2014 Update
備考*:MOL Comfort海難事故情報
備考**:MV Rena Grounding

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子