海洋情報旬報 2014年6月1日~10日

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6月2日「ベトナム向けキロ級潜水艦6番艦、ロシアで起工」(Naval Technology.com, June 2, 2014)

ロシアのサンクトペテルブルグのAdmiralty造船所で6月2日、ベトナム向けのKilo級潜水艦の6番艦の起工式が行われた。ベトナムがロシアから総額20億米ドルで6隻の同級潜水艦を購入する契約で、これが最後の6隻目となる。ベトナムには既に2隻が引き渡されており、3隻目が現在、海上公試中で、4隻目が3月に進水し、最後の2隻が建造中である。ロシア海軍筋によれば、3隻目は2014年中にベトナムに引き渡され、残りの3隻は2015年~2016年に引き渡されることになっている。このKilo改級潜水艦は、ステルス技術が取り入れられており、浅海域での対水上艦と対潜任務の遂行が可能である。速度20ノットで、400カイリの航続距離、45日間の作戦活動が可能で、乗組員は52人である。

記事参照:
Work begins on Vietnam’s sixth Kilo-class submarine

6月4日「中国の石油掘削リグの設置、エネルギー戦略から見た中国の意図」(China Brief, June 4, 2014)

カナダのThe Asian Institute at the University of TorontoのJames Manicom研究員は、6月4日付けのWeb誌、China Briefに、“The Energy Context behind China’s Drilling Rig in the South China Sea”と題する論説を寄稿し、中国がベトナム近海に石油掘削リグ、Haiyang Shiyou 981を設置した理由を、中国のエネルギー戦略から分析し、要旨以下のように述べている。

(1) 今回の掘削リグの設置は、南シナ海における領有権を主張する国が一方的に資源開発に踏み出した初めての事例である。今回の掘削リグの設置は、突然の決断ではなく、深海での掘削技術を開発し、実施する、数年にわたる努力の成果である。中国は、Haiyang Shiyou 981の設置が可能になった時点で、それを設置したのである。これは、係争海域における中国の資源開発能力を誇示するとともに、ベトナムやその他の領有権主張国と開発事業を進めている国際企業に二の足を踏ませるという、2つの究極的な狙いに即した行動である。しかしながら、深海掘削技術の大幅な進展にもかかわらず、中国は依然として、沿岸から遠く離れた海域で天然ガスを生産する能力を持っていない。従って、今回の行動は、エネルギー資源への考慮とともに、戦略的な考慮に大きく動機付けられていることを示唆している。

(2) 中国は、沖合における掘削技術に相当の投資を行ってきた。国営の中国海洋石油総公司 (CNOOC) は、南シナ海の深海に重点を置き、沖合での生産能力の飛躍的な増加を図っている。CNOOCの全額出資子会社、中海油田服務 (COSL) は2013年に、その資本の62%を新しい掘削リグを取得するために投資した。COSLは、1,500メートルの深海で掘削可能な半潜没型リグを2基建造している。それらの2倍以上の掘削能力を持つHaiyang Shiyou 981は、SOCLの保有掘削リグの中で最も強力な掘削リグである。中国船舶工業集団公司 (CSSC) によって建造されたこの掘削リグを、COSLは2012年5月に9億米ドルで購入した。Haiyang Shiyou 981は、最初は珠海河口デルタで運用された。掘削能力の改善を図るCOSLへの投資は、深海石油生産を2020年までに日量10億バレルとすることを目標とするCNOOC の戦略の産物である。

(3) CNOOCにとって、南シナ海で深海掘削探査は、将来戦略にとって不可欠である。渤海湾でのガス田開発はピークに達しつつあり、東シナ海での油田開発は日本との海上境界画定問題のために凍結されている。南シナ海における天然ガスの生産は、中国のエネルギー安全保障の目標を3つの側面から実現することになる。第1に、石炭から他の炭化水素資源に移行することでエネルギー供給源の多様化を図る。第2に、国内生産によって、最近ロシアと結んだ天然ガス取引に加えて、天然ガス供給源の多様化につながる。そして第3に、アメリカが統制下にあるシーレーンを経由する天然ガス輸入に対する中国の不安を軽減する効果がある。深海掘削能力の強化、CNOOCの利益、そして北京にとっての南シナ海の政治的重要性に鑑み、中国の狙いは、南シナ海の中国の管轄海域でのあらゆる経済活動を北京の条件下で実施することにある。ベトナムが領有権を主張する海域に掘削リグを設置することで、中国は現在、国際的な石油会社が海洋探査を行っている隣接海域での緊張をエスカレートさせている。ベトナムは高度な深海掘削技術を持っておらず、ベトナムで操業する外国企業の政治的なリスクを高めることによって、北京は、自らは係争海域で一方的に探査活動を行いながら、ベトナムの資源探査を妨害することができる。中国はまた、フィリピンが2011年に公開入札を決めたReed Bank周辺海域のSC 72鉱区に対しても、外国の石油会社が入札に参加することに警告を発した。中国の船舶は、当該海域におけるForum Energy社の探査活動を妨害した。

(4) 中国の沖合資源開発には、現実的な制約が存在する。中国は依然、遠海での商業的な石油・天然ガス生産能力には大きな制約要因を抱えている。今回のHaiyang Shiyou 981が有望な資源の探査に成功しても、そこでの発見を商業化できるためには、生産された石油・天然ガスを市場まで輸送する能力にかかっている。沿岸までに距離が遠ければ遠いほど、コストが嵩み、また深海にパイプラインを設置する技術的困難もある。最も近くにある中国の天然ガス・パイプライン網は海南島にあるが、深海からこれにアクセスする費用は極めて高いものになろう。最も現実性のある市場はベトナムだが、ベトナムは、自国のものと見なす資源を中国から買うことを嫌がるであろう。

(5) 西側の分析者は、中国が持つ能力の重要性に着目すべきである。中国は今や、係争海域における資源開発能力を大幅に強化している。しかも、前述のような現実的な制約とCNOOCが直面する膨大なコストにもかかわらず、北京は、エネルギー安全保障のためにこのような保険料を支払う用意があるということである。掘削リグ設置のタイミングを巡る戦略的な説明は、より単純な真実を隠している。それは、今回の設置が南シナ海における中国の資源開発計画の一環であったということである。中国に対する強い国際的な批判を理由に、北京がタイミングの判断を誤ったと結論付けることは、北京の南シナ海戦略が地域や国際社会の世論を考慮するという前提からの発想である。逆に、中国の指導者たちは、中国が領有権を主張する海域における資源開発を北京の認可とルールで行うことを保証する、益々増強されつつある海洋能力を梃子に、国際的な非難は比較的少ないコストに過ぎないと判断している可能性がある。

記事参照:
The Energy Context behind China’s Drilling Rig in the South China Sea

6月4日「ロシア、北極海での捜索救難に原子力砕氷船使用を計画」(RIA Novosti, June 4, 2014)

ロシア緊急事態省の公式レポートによれば、緊急事態省は、北極海における大規模な捜索救難任務に、運輸省と連携して、初めて国営原子力公社、Rosatom所属の原子力砕氷船の使用を計画している。現在、ロシアの原子力砕氷船隊は、原子炉2基を備えた7万5,000馬力の原子力砕氷船4隻(RossiyaSovetskiy SoyuzYamal及び50 Let Pobedy)、原子炉1基の4万馬力の原子力砕氷船2隻(Taymyr及びVaygach)である。緊急事態省によれば、ロシア北極海域では年間100回以上の自然災害、人的災害による緊急事態が発生している。人的災害による災害事案の回数、特に輸送事故 (30%) と技術的原因による爆発事故や火災 (24%) が増えている。ロシアは、Murmansk、Vorkuta、Norilsk及びAnadyrの空港を拠点に、航空機14機(固定翼12機、ヘリ2機)から編成される航空グループを北極海沿岸域に配備する計画である。緊急事態省は2015年までに、北極圏の10カ所(Dudinka、Murmansk、Naryan-Mar、Arkhangelsk、Nadym、Vorkuta、Tiksi、Pevek、Provideniya及びAnadyr)に緊急救急センターを設置する計画である。緊急センターは、北極圏のどの地域で起こる災害にも迅速に対応できるように、常時待機態勢で運用される。現在既に、3カ所(Dudinka、Naryan-Mar及びArkhangelsk)のセンターが運用されている。

記事参照:
Russia to Use Nuclear Fleet in Arctic Rescue Missions

6月4日「NATO、海賊対処作戦を2016年末まで延長」(gCapatin, June 4, 2014)

NATOは6月初め、「アフリカの角」周辺海域でのソマリアの海賊対処作戦、Operation Ocean Shieldを2016年末まで延長することを決定した。2012年5月以降、ソマリアの海賊による船舶のハイジャック事案は発生していないが、海賊はこの海域における船舶の航行にとって依然、脅威となっている。Operation Ocean Shieldには、現在、スペイン、イタリア及びトルコの海軍戦闘艦が参加しており、北はアラビア海、南はセーシェル、西はアデン湾そして東はモルディブまで、西ヨーロッパをほぼ同じ広さの200万平方カイリに及ぶ海域を哨戒している。

記事参照:
NATO Extends Somali Counter-Piracy Ops Through 2016

6月4日「インドネシアとフィリピン間の海洋境界画定交渉合意の教訓」(RSIS Commentaries, June 4, 2014)

インドネシアの駐ベルギー大使で、国連海洋法条約 (UNCLOS) 第20次会議議長を努めた、Arif Havas Oegroseno大使は、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の6月4日付け RSIS Commentariesに、“How Indonesia and the Philippines Solved Their Maritime Dispute”と題する論説を寄稿した。フィリピンとインドネシアは5月18日に、ミンダナオ・セレベス海における重複するEEZの境界画定について合意した。Oegroseno大使は、この交渉に関わった経験から、20年に及ぶこの交渉から得られた教訓について、要旨以下のように述べている。

(1) ミンダナオ・セレベス海における重複するEEZの境界画定を巡るフィリピンとインドネシアの交渉は1994年6月に始まったが、2003年まで停滞していた。筆者(Oegroseno大使)は2003年12月、インドネシア代表に任命され、フィリピンとの間で10年近く休眠状態にあった交渉を再開した。以後、2010年に大使としてブリュッセルに赴任するまで、筆者は交渉を担当し、後任者によってついに両国間交渉は合意に達し、2014年5月23日、マニラで正式に協定調印が実現した。海洋境界画定を巡る交渉は、忍耐と固い決意が求められる。それは長い道のりであった。

(2) インドネシアとフィリピンは共に世界で最も大きな群島国家であり、群島国家の法的原則画定の先導者として、そして国連海洋法条約 (UNCLOS) の加盟国として、両国の交渉は特に重要であった。しかし、フィリピンには、米西戦争の講和条約である1898年のパリ条約に基づく、「矩形ライン (the rectangular line)」(抄訳者注:ボルネオ島のマレーシア北端部分を除いて、フィリピン群島を縦型の矩形で囲むライン)に関わる歴史的問題があり、フィリピンと隣国との境界が不明確なまま残されていた。インドネシアは、両国が共に加盟するUNCLOSに適合しないとして、パリ条約の「矩形ライン」を論点とした。両国にとって、この問題は難しい課題であった。フィリピンは最終的に立場を変え、UNCLOSに従うことになった。これによって、交渉の合意が可能になった。

(3) フィリピンとインドネシアの海洋境界画定交渉が行われている間、筆者は、2007年のThe Coral Triangle Initiative (CTI) に関する会議にも参加した。CTIには、インドネシア、マレーシア、フィリピン、パプアニューギニア、東ティモール及びソロモン諸島が参加した(抄訳者注:CTIは、これら6カ国に囲まれた海域における豊かなサンゴ、海洋生物の多様性、海洋環境及び海洋資源を護るための多国間協力機構)。2007年当時、これら6カ国中、インドネシア、フィリピン及び東ティモールには明確な海洋境界がなかった。それにもかかわらず、この会議では、事務局の設置に合意し、豊富な海洋資源が直面する緊急の脅威に対応するための協力が実現した。また、地球上で最も通航船舶の多い、マラッカ・シンガポール海峡では、インドネシア、マレーシア及びシンガポールは、海洋境界という目先の問題を超えて、より大きな利益のために協力している。

(4) 2国間の海洋境界画定を巡るインドネシアとフィリピンの交渉は、2つの重要な教訓を与えてくれる。
第1に、好むと好まざるとに関わらず、海洋境界画定のための現在最も普遍的な法律は、UNCLOSであるということである。このことは、例え115年前の歴史的記録を前にしても、変わらない事実である。一世紀前の条約に基づく「矩形ライン」もUNCLOSに従わざるを得なかったことを考えると、1940年代半ばになって作成されたばかりの「9段線」地図よりも、UNCLOSを優先することは、それほど問題にならないはずである。フィリピンがインドネシアとの交渉で持ち出してきたパリ条約の「矩形ライン」と、中国が現在、南シナ海での領有権主張の根拠としている「9段線」との間には違いがあるが、1つの類似性が見られる。即ち、双方の主張は、国際法に基づかない一方的な領有権主張ということである。インドネシアとフィリピン間の海洋境界の画定は、海洋境界を巡る紛争では、一方的な地図による領有権主張よりも最終的には国際法が優位することを示した先例である。

第2に、紛争当事国は、海上境界線のない広大な海域におけるより大きな利益のために、域内各国が如何に協力できるかをまず考える必要があるというということである。CTIにおけるより大きな利益は海洋環境の保護であり、マラッカ・シンガポール海峡におけるそれは海峡の安全であった。これらは、海洋境界が画定されない状態にも関わらず、沿岸諸国によって推進され、護られている国際公共財である。こうした事例は、東南アジアにおける具体的で優れた慣行であり、東南アジアが持つ国際法尊重精神の明確な表れである。

(5) 従って、南シナ海における領有権主張を巡る最近の緊張激化は、この地域の規範ではない。東南アジアが示してきた慣行から見れば、このような状態は異常であり、修正されなければならない。南シナ海の全ての紛争当事国、就中、国連安保理常任理事国である中国は、世界の平和と安定を構築するための道徳的、政治的そして法的な責任を果たすべきであり、他国と平和裏に協働できるはずである、と筆者は確信している。アジアは領有権紛争のエスカレーション防止と管理において世界をリードし得るが、これは、狭い自国中心の視野を超越した、地域の安定と安全というより大きな共通の利益や公共財を重視することによって、初めて達成できるのである。

記事参照:
How Indonesia and the Philippines Solved Their Maritime Dispute

6月5日「尖閣諸島への日米安保条約適用、オバマ宣言の危険性―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, June 5, 2014)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のEvan Resnick 准教授は、6月5日付けのRSIS Commentariesに、“Dubious Deterrence in the East China Sea”と題する論説を発表し、オバマ米大統領が4月後半の訪日で、日米安保条約が尖閣諸島に適用されると宣言したが、不幸なことに、北京に対するオバマ大統領のこの抑止戦略は、もし日中いずれかが尖閣諸島を巡って戦闘行為に走れば、アメリカに悪夢の選択を突きつけることになるとして、要旨以下のように述べている。

(1) オバマ大統領の訪日で特筆すべきは、日米安保条約が「尖閣諸島を含む日本の施政権下にある全ての領域に適用される」と宣言したことである。厳密に言えば、この宣言はアメリカの政策の変化を示すものではないが、オバマ大統領は、尖閣諸島に対するアメリカの公式の立場を宣言した最初の現職大統領となっただけでなく、それを東京で日本のタカ派の安倍首相とともに共同記者会見の場で宣言したのである。オバマ大統領の宣言は、中国が抑止すべき明白な脅威であることを、中国の指導者に伝えることになった。国際関係論の研究者によれば、抑止とは、A国がB国に対して圧倒的な軍事的報復を加える力とそれを実行する決意があることを理解させることで、B国の攻撃を抑止することができるのである。しかしながら、オバマ政権は東シナ海において中国の侵略行為を抑止するのに十分な軍事能力を保有してはいるが、報復の脅威を相手に理解させる明快な決意が欠けており、抑止の信憑性が弱められている。

(2) 一般的に、自国に対する攻撃抑止(「直接抑止」)を決意することは容易い。しかしながら、同盟国に対する攻撃抑止(「拡大抑止」)を決意することは非常に困難である。今、目前にあるケース、尖閣諸島の場合は、特に(報復決意を促す根拠が)薄弱な拡大抑止の事例である。何故なら、この事例は、オバマ政権が、日本本土そのものに対する中国の攻撃を抑止しようとしているのではないからである。むしろ、この事例は、無人の小さい島が対象であり、しかもこの島の主権をアメリカの抑止対象国(中国)も強く主張しており、その上、アメリカにとって有形無形に何の価値もない島に対する、中国の攻撃を抑止しようとしているからである。更に、事態を複雑にしているのは、この島とその周辺海底における石油と天然ガス資源がアメリカにとっては些細な問題だが、それらは、日中双方の指導者にとって、また双方の国民にとって、戦略的、経済的そして象徴的価値を持っていることである。対照的に、日本本土に対する長年にわたるアメリカの防衛コミットメントも拡大抑止の1つであるが、これは極めて信憑性の高いものである。人口の多い日本本土はアメリカにとって戦略地政学的にも経済的にも重要であり、日本本土に駐留する5万人近い在日米軍の存在が、米軍の本格的介入の導線として、アメリカのコミットメントの信憑性を高めている。

(3) オバマ大統領の東京宣言は「レッドライン(超えてはならない一線)」を明示しない警告であり、それによってもたらされる最も可能性の高い成り行きは、中国をして危機をエスカレートさせる気にさせ、一方で、日本をして尖閣諸島を巡る非妥協的な立場を固執する気にさせることであろう。最近の尖閣諸島周辺上空における中国戦闘機と日本の哨戒機との異常接近事案が鮮明に印象づけているように、日中双方は、今や東シナ海の海上と上空で常態化した瀬戸際行為の相互作用を繰り返すことになろう。

(4) もしいずれかの側がこの微妙な均衡状態を破り、実際に戦火を交えるようなことになれば、オバマ政権は、「ホブソンの選択(えり好みのできない選択)」に直面することになろう。オバマ政権は関与しないことを選択することもできるが、それは、同盟国、日本を裏切ることになり、域内における安全保障コミットメントの信憑性を損なうことになろう。あるいは、オバマ政権は、アメリカの国益にとって周辺的な価値しかない問題を巡って、核を保有する敵対国との悲惨な結果を招きかねない戦争に突入するかである。アメリカにとって望ましい選択肢は、東シナ海における如何なる海上での戦闘にもアメリカは絶対に関与しないということをオバマ大統領から安倍首相に内々に通告するとともに、ケリー国務長官が暗礁に乗り上げた尖閣諸島問題を打開するために日中2国間協議の仲介を申し入れることであろう。アメリカによる仲介の申し出は、ワシントンがこの問題を深刻に受け止めているが、尖閣諸島の領有権がいずれの側にあるかについては純然たる中立的立場に立っていることを、北京に伝えることになろう。

記事参照:
Dubious Deterrence in the East China Sea

6月5日「域内で存在感を高める日本―オースリン論評」(The Wall Street Journal, June 5, 2014)

米シンクタンク、AEIのオースリン (Michael Auslin) 日本研究部長は、6月5日付けの米紙、The Wall Street Journalに、“Japan Steps Up as Regional Counterweight”と題する論説を発表し、日本は今やアジアにおいて中国のカウンターウェイトとしての役割を果たしつつあるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 日本は長年、世界における自国の立ち位置の定義付けに苦慮してきた。この20年に及ぶ経済的停滞の間、中国が世界第2位の経済大国として台頭し、アジアに非自由主義の覇権国という妖怪が出現した。今や、安倍首相は、「地域における北京のカウンターウェイトとしての役割 (the role of regional counterweight to Beijing)」を引き受けている。もし安倍首相が成功すれば、アジアは、主権国家からなるより正常な地域になるかもしれない。もし失敗すれば、緊張を激化させ、武力紛争さえ惹起させかねない。それは、リスクを伴うが、変革をもたらし得る賭けである。安倍首相は、5月末のシンガポールでのアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)において、そのビジョンを明らかにし、海洋における領有権紛争を巡って大国(中国、抄訳者注:名指しはせず)による威圧に直面している東南アジア諸国に対して、日本の「最大限の支持」を約束し、アジアにおける平和と安定を維持するために、日本は「これまでにも増した、積極的な役割を果たす覚悟があります」と言明した*。

(2) 安倍首相の政策の第1の柱は日印関係の再活性化である。安倍首相の1月の訪印時、東京とニューデリーは2国間海軍合同演習の実施に合意し、インドは、Malabar海軍合同演習に、アメリカ及びオーストラリアと共に、日本を招待した。日印間の経済関係の発展を望む、インドのモディ新首相は、この協力関係の再活性化を歓迎した。しかし、その真の要因は戦略的なものである。日印協力は、両国にとって中国の側面で強力なパートナーを得ることになるからである。両国は共に、公海における航行の自由を国益としており、それぞれの領土の一部に対する中国の意図に懸念を抱いている。第2の柱は、中国との領有権紛争に巻き込まれている東南アジア諸国を支援することである。東京はフィリピンに10隻の巡視船を提供し、ベトナムは日本製の巡視船が建造され次第、受領することになっている。安倍首相はまた、2013年にASEAN加盟10カ国全てを訪問し、更に、オーストラリア、アメリカ及び日本の間での協力関係を強化しようとしている。

(3) 安倍首相はまた、日本の安全保障政策を大幅に見直そうとしている。集団的自衛権行使に関する長年に亘る禁止を終わらせ、最も重要なこととしてアメリカとより緊密に協働できるようにする計画を明らかにした。安倍首相は、北朝鮮のような国家から米海軍艦船や兵員が攻撃を受けた時に日本がこれを護ることができて、初めてワシントンとの同盟が有効となり得る、と強調している。海外での軍事活動の拡大に対する世論の反対は安倍首相が目指す日本を「普通の国」にするに当たっての最大の障害となるかもしれないが、安倍首相は、北朝鮮の喫緊の脅威、そして緊急ではないが日本の国益にとって遥かに深刻な中国の脅威について理解を得られれば、世論が同調してくれることに賭けている。安倍首相は、日本が行うことは全て国際法を支持するためであると強調しているが、もちろん、その言外の意味するところは中国が国際法や規範を損ねているということである。対照的に、例えば、安倍首相がシャングリラ・ダイヤローグで指摘したように、インドネシアとフィリピンは平和裏に、両国間のEEZの境界画定に合意した。こうした「名指しと辱め (“naming and shaming”)」の使い分けは、中国が域内で孤立し始めることを分からせる目論見である。北京は、最近、尖閣諸島周辺上空で中国軍の戦闘機の日本の哨戒機に危険な接近を試みたように、しばしば安倍首相の主張を助けるようなことをしている。

(4) 安倍首相のアジア再形成の試みは始まったばかりであり、その成否は国内の経済計画がどの程度成功するかに大きくかかっている。経済的に停滞気味の日本は、軍事力を拡大するための、あるいは地域において中国に代わる信頼性のある政治的存在になるための、リソースを持っていない。しかし、日本経済がその地政学的野心に対応して成長できれば、また、北京が超大国の影響力の空白を埋めようとするのを阻止するためにアメリカがこの地域への関与を続ければ、アジアは中国の覇権に代わる選択肢を手にするかもしれない。中国を怒らせるリスクは既に明らかになっているが、この10年で最もダイナミックな日本の指導者は、もはや日本を歴史の傍観者にしておくつもりはないと決意している。

記事参照:
Japan Steps Up as Regional Counterweight
備考*:第13回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)安倍内閣総理大臣の基調講演

6月5日「日中間の不測の軍事衝突回避のために必要な措置―米専門家論評」(The National Interest, June 5, 2014)

米ホノルルのアジア太平洋安全保障研究センターのJeffrey W. Hornung准教授は、米誌、The National Interest(電子版)に、6月5日付けで、“The East China Sea Boils: China and Japan’s Dangerous Dance”と題する論説を発表している。筆者は、論説の前段で、① 5月24日に生起した日中軍用機の異常接近事案とその後の両国の相互非難合戦を憂慮し、こうした状況は危険な結果を招きかねない、② 2001年の中国軍戦闘機が海南島沖合上空で米海軍哨戒機と衝突した事案では、中国のパイロットが死亡し、米海軍機の乗組員が中国に抑留され、問題の最終的解決までに熟練した外交が必要であったが、これは米中間の出来事であった、③ 中国共産党は歴史的なライバルである日本に対して弱さを見せたくないし、また領有権主張でも譲歩する気を持っていないことから、日中間で2001年と同じ事案が発生すれば、この東シナ海版の事案を上手く解決させられると想像するのは難しい、④ 一方で中国のナショナリズムと日本に対する歴史的怨念、他方で対中強硬路線をとる日本のリーダーの存在といった状況が相まって、どのような規模の誤算も制御不能の事態にエスカレートする危険性がある、と指摘した上で、日中間の不測の軍事衝突を回避するための措置について、要旨以下のように述べている。

(1) 日中間の不測の事態が制御不能の事態にエスカレートする危険性があるが故に、北京と東京は、目を覚まし、事態を管理するために行動する必要がある。まず、日中両国軍の間で明確な航行規則を確立し、それによって不測の事態の可能性を減少させるために、両国は、事故が起きた場合の相互の対応を定め、紛争へのエスカレート防止するための海上における事故対処に関する協定に調印すべきである。同時に、両国は、双方の軍の間のよりよい意思疎通を図るためのホットラインとして、海洋における通信メカニズムを構築すべきである。日本とロシアの間の協定*は、貴重な先例として役立つであろう。

(2) このような相互の通信メカニズムの構築が困難である場合、次善の代案は、多国間取り決めである。最近の西太平洋海軍シンポジウムで、日中を含む参加国は、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (The Code for Unplanned Encounters at Sea: CUES) 」**を採択した。CUESは、法的拘束力を持たないが、船舶と航空機が海上で予期しない遭遇にあった時、双方がとるべき安全措置、基本的な通信及び回避行動などの標準的手続きを定めたものである。日中両国はその具体策を検討すべきである。

(3) 日中間の関係は冷えているが、行動すべき理由がある。両国とも、軍関係者間の戦術上のエラーが紛争に発展するのを望んでいない。日本の軍備が中国周辺諸国の中で最も強力であり、また日本が中国の侵略に対抗するためにASEAN 諸国を団結させようとしている。このことは、中国に対して抵抗することを可能にする安全保障上の重要な変化を画している。従って、北京は、これまで以上に東京との紛争を管理しようとするインセンティブを高めていると見られる。何故なら、北京は実質的に、徐々に団結を強める周辺諸国との2正面の戦いを強いられることになるからである。しかし、結局のところ、東シナ海の不安定な状況を管理するためには、日中両国が努力しなければならない。もし両国がその努力に失敗すれば、今後、再びシャングリラ・ダイヤローグで見られたような日中間の一層激しい非難合戦や、東シナ海上空での挑発行為の頻発など、状況はこれまで以上に悪化するであろう。

記事参照:
The East China Sea Boils: China and Japan’s Dangerous Dance
備考*:日露海上事故防止協定は、自衛隊の艦艇及び航空機とロシア連邦軍の艦艇及び航空機との間の事故の防止を図り、安全を確保することを目的として、1993年10月のエリツィン大統領(当時)の訪日の際に署名された。この協定の規定に従って、年次会合が開催されている。
備考**:「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (The Code for Unplanned Encounters at Sea: CUES)」については、海洋情報旬報4月21日-30日号参照。

6月5日「米国防省、中国の軍事力の動向に関する2014年版報告書公表」(U.S. Department of Defense, June 5, 2014)

米国防省は6月5日、中国の軍事力の動向に関する2014年版報告書、Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People’s republic of China 2014 を公表した。以下、海軍戦力と弾道ミサイル戦力の動向についての記述を紹介する。

1.海軍戦力の動向

(1) 現在の中国海軍の戦力組成には、約77隻の主要水上戦闘艦、60隻以上の潜水艦、55隻の中型・大型揚陸艦、及び85隻前後のミサイル搭載小型戦闘艦艇が含まれる。中国海軍は、その作戦展開海域を太平洋とインド洋に引き続き延伸している。

(2) 中国海軍初の空母、「遼寧」は2013年、大連を離れ、北海艦隊司令部のある、青島に移った。少なくとも、当面青島地区の修理、補給施設が整った深水港の海軍基地を母港とすると見られるが、将来的には、特に空母搭載航空団編成後は、海南島三亜の海軍基地に配備される可能性がある。「遼寧」は2013年を通して各種訓練を実施したが、空母航空団の搭載は2015年以降になると見られる。艦載機、J-15はロシアのSu-33の艦載機型だが、2012年11月26日に「遼寧」から最初の発着艦を実施した。2013年9月までには、最大搭載重量での発着艦が実施された。J-15の戦闘行動半径は1,200キロだが、「遼寧」の飛行甲板がスキージャンプ型のため、空母から作戦する場合は、行動半径と搭載兵装が制約されるであろう。2013年11月には、「遼寧」は初めて南シナ海に展開し、海南島近海で、水上艦との訓練を実施した。今後、3年から4年かけて、艦載機を含む、空母打撃群としての訓練が続けられることになろう。中国は、2013年に初めて国産空母の建造計画を認めており、今後10年以内に複数の空母を建造すると見られる。最初の国産空母は、今後10年間の前半の時期に運用可能になると見られる。

(3) 中国海軍は、潜水艦戦力の近代化に優先的に取り組んでいる。弾頭ミサイル搭載原潜、「晋 (Type 094) 」級SSBNの建造が継続されており、現在3隻が実戦配備されており、今後10年間に新世代のSSBN (Type 096) が建造されるまでに、最大5隻の「晋」級SSBNが配備される可能性がある。「晋」級SSBNは、新型のJL-2 SLBMを搭載する。その推定射程は7,400キロである。これによって、中国は初めて海中発射の核抑止力を備えることになり、「晋」級SSBNが2014年中にも最初の核抑止哨戒活動任務に就く可能性がある。中国はまた攻撃型原潜 (SSN) 戦力も増強している。2隻の「商 (Type 093) 」級SSNは既に実戦配備されており、旧式の「漢 (Type 091) 」級を代替する4隻の「商」級SSNの改良型を建造中である。今後10年間で、中国は、巡航ミサイル搭載原潜、Type 095 SSGNを建造すると見られ、潜水艦発射の対地攻撃能力を持つことになろう。最終的に、Type 095は、魚雷と対艦巡航ミサイル (ASCM) を搭載して、伝統的な対艦攻撃任務を果たすことになろう。中国の潜水艦戦力の主力は依然、通常型のSSで、1990年代と2000年代初めにロシアから取得した、Kilo級12隻(内、8隻はSS-N-27 ASCM搭載)に加えて、13隻の「宋 (Type 039) 」級、12隻の「元 (Type 039A) 」級を保有している。「元」級の兵装は「宋」級と同じだが、AIP(非大気依存推進)システムを装備している可能性があり、最大20隻の建造が計画されると見られる。

(4) 中国海軍は2008年以降、誘導ミサイル駆逐艦 (DDG)、同フリゲート (FFG) を含む、水上戦闘艦の増強に力を入れている。2013年には、新世代のDDGを含む、幾つかの艦種の建造が進められた。「旅洋Ⅱ (Type 052C) 」級は3隻が建造中か海上公試中であり、2015年までに総隻数は6隻になると見られる。「旅洋III (Type 052D) 」級の1番艦は2014年中に配備されると見られ、ASCM、LACM(対地攻撃巡航ミサイル)、SAM及び対潜ミサイルを発射可能な中国海軍初の多目的垂直ミサイル発射システム装備艦となる。旧式の「旅大」級駆逐艦を代替するために、これらのDDGは十数隻建造される計画である。「江凱Ⅱ (Type 054A) 」級FFGの建造が続いており、現在15隻が実戦配備され、更に5隻あるいはそれ以上が建造段階にある。これらのDDGとFFGは中国海軍の海域防空能力を大幅に強化し、沿岸基地戦闘機の覆域を超えた「遠海」での作戦行動能力を強化している。

(5) 中国は、特に東シナ海と南シナ海における沿岸戦闘能力を強化するために、「江島 (Type 056) 」級コルベット (FFL) を建造し、2013年に9隻が実勢配備された。更に、20隻から30隻建造されるかもしれない。この艦は、60隻配備されている双胴型高速ミサイル艇、「紅稗 (Type 022) 」級とともに、YJ-83 ASCMを搭載可能で、沿岸戦闘能力を強化する。

2.弾道ミサイル戦力の動向

中国は、2013年11月までに短距離弾道ミサイル (SRBM) を1,000基以上保有するとともに、台湾以遠の域内の目標をも攻撃可能な通常弾頭の中距離弾道ミサイル (MRBM) の配備を継続している。また、CSS-5 Mod 5 (DF-21D) 通常弾頭対艦弾道ミサイルを限定基数配備しつつあり、今後増えていくと見られる。DF-21Dは射程1,500キロを超え、西太平洋における米空母を含む、大型戦闘艦に対する攻撃能力を有する。第2砲兵部隊は、サイロ配備と車載移動式のICBMの増強を続けている。近年、道路移動式、固体燃料のCSS-10 Mod 2 (DF-31A) ICBMが配備されており、このミサイルは射程1万1,200キロを超え、米本土の多くの目標が攻撃可能である。中国はまた、Dong Feng-41 (DF-41) として知られる新型の道路移動式ICBMを開発中である。このミサイルは、複数個別誘導弾頭 (MIRV) を搭載すると見られる。

記事参照:
Full report is available at following URL;
http://www.defense.gov/pubs/2014_DoD_China_Report.pdf

6月6日「ソマリアの海賊、3年半ぶりにハイジャック船の乗組員解放」(ABC.net, Reuters, June 8, 2014)

アラブ首長国連邦からケニアに向けて航行中、ソマリア沿岸1,500キロの海域で2010年11月26日にソマリア海賊にハイジャックされた、マレーシア籍船のコンテナ船、MV Albedoの乗組員の一部、11人が、6月6日に3年7カ月ぶりに解放された。解放されたのは、バングラディッシュ人6人、スリランカ人3人、イラン人とインド人各1人である。該船の当初の乗組員23人中、4人は2013年7月7日に該船がソマリア沖で沈没した際に死亡した。1人は乗っ取り直後に海賊に射殺あるいは病死したと見られている。パキスタン人乗組員7人は、2012年にパキスタン人により集められた身代金が支払われた際に解放されていた。

国連は、現在も38人がソマリア海賊に拘束されていると見ている。

記事参照:
Somali pirates free 11 crew of Malaysian-owned cargo vessel MV Albedo

6月7日「南シナ海で中国が自ら招いた失敗―比専門家論評」(The National Interest, June 7, 2014)

比Ateneo De Manila UniversityのRichard Javad Heydarian講師は、6月7日付けの米誌、The National Interest(電子版)に、“China’s Self-Made Disaster in the South China Sea”と題する論説を発表し、中国の南シナ海における高圧的姿勢は、かえって領有権問題を国際化し、アメリカ、オーストラリア、日本、インドを含む地域諸国の結束を高めており、こうした流れは「中国が自ら招いた失敗」であるとして、要旨以下のように論じている。

(1) オバマ米大統領の4月末の東アジア諸国歴訪直後に、中国は、ベトナムのEEZの奥深くに、中国海洋石油総公司 (CNOOC) の最新の石油掘削リグ、HYSY981を設置した。ハノイは、この挑発行為に憤慨し、30 隻余の船舶を同海域に派遣し、中国の政府公船と対峙した。双方の船舶同士の衝突が起こるのに時間は掛からなかった。この時点で、南シナ海の領土問題を両国間の平和的話し合いで解決するという、メカニズムは崩壊した。北京のハノイに対するこの侵略的な行為によって、中国が領有権問題について高圧的な自己主張を強める新たな時代が始まった、とする専門家が出て来たのも不思議ではない。中国が非妥協的な姿勢を強めていることに対抗して、フィリピン、ベトナムなどの東南アジアの領有権主張国は、真の戦略的パートナーシップの構築に向かいつつある。領有権問題の当事国でない諸国も、中国の行動が地域の安定や航行の自由に及ぼす影響への懸念から、必要な努力を強化している。ASEAN もパニックを隠しきれず、首脳会談で、「深刻な懸念」を表明した。他方、南シナ海が全ての主要な域内諸国のエネルギー安全保障と通商上の利益にとって極めて重要なことから、日本は、オーストラリア、インド及び韓国などと共に、シーレーンの安定化への関与を深めようとしている。結局、北京が頑なに純然たる2国間問題であると主張してきた、南シナ海の領有権問題は、中国の高圧的な姿勢によって一層国際問題化してしまったのである。

(2) 中国が占拠する西沙諸島のTriton島の17カイリ南の海域に掘削リグ、HYSY981を設置した動機について、中国は、商業的理由によるもので、前回行った探査の続きと主張している。しかし、国連海洋法条約 (UNCLOS) の規定の通常の解釈に従えば、この海域の炭化水素資源に主権的権利を有するのはベトナムである。従って、中国は、ベトナムのEEZ の権利を侵害していることになる。しかしながら、UNCLOS についての中国独自の解釈によれば、この海域は、中国が占拠するTriton島由来のEEZ 内にあり、中国に主権的権利があるという。このような法解釈によって、中国は、悪名高い「9段線」ドクトリン (its notorious “nine-dash-line” doctrine) を間接的に正当化しようとしている。このドクトリンは、中国が南シナ海のほぼ全域に「固有 (“inherent”)」かつ「論争の余地のない  (“indisputable”)」主権を有すると主張する基本的論拠となっている。しかしながら、中国は、自らの大まかな領有権主張の弱点を意識して、自らの領有権主張や法的解釈について戦略的曖昧性を抜け目なく維持しているため、領有権紛争は一層複雑化している。特に、「9段線」自体、その正確な座標とそれに基づく中国の領有権主張の性格が極めて曖昧である。中国は、南シナ海の全ての島嶼に対する領有権を主張しているのか、それとも、その周辺海域全体に権利を主張しているのか。中国が地域の合意や国際法に違反すると見られる挑発行動に出る時には何時も、中国は、自らの行動を正当化するため、多くの法的説明に頼る傾向がある。そのため、領有権を主張する一部の東南アジア諸国は、自国の領有権主張、そして結果的に中国の領有権主張をも、国連の下での第三者の仲裁に委ねることにより、紛争の国際化を進めてきた。

(3) 最近のベトナムに対する行動を通じて、中国は、一石数鳥の効果を狙った。一方で、中国は、特にオバマ大統領が最近のマニラ訪問で海洋紛争の平和的でルールに基づいた解決を呼びかけたことを公然と無視し、南シナ海における自国の領有権主張を堅持する姿勢を再確認した。中国国内でのナショナリズムの高揚、また近年の人民解放軍内のタカ派の影響力の拡大に配慮して、北京の指導者は、西太平洋において領有権紛争が進行している中で、オバマ大統領が同盟国への軍事的支持を表明したことに対応する必要があった。また中国メディアの商業化が進み、領有権紛争が極めてセンセーショナルに報じられるようになった。その上、中国は、ワシントンとマニラが新たな防衛協定を締結した直後でもあったことから、国際水域における航行の自由の擁護や同盟国支援についてのアメリカの決意を試そうとした。南シナ海の領有権問題を巡って紛争が生起した場合、ワシントンがフィリピン救援に駆け付けてくるかどうかについて、オバマ政権がかなり曖昧な態度をとってきたことから、北京は、明らかに限界に挑むという誘惑にかられた。どの大国とも条約上の同盟関係を持たないベトナムを標的にすることによって、中国は、アメリカやこの地域の他の主要国から自動的な軍事的対応に直面するリスクを冒すことなく、大きな賭けに出ることができた。更に、ここ数カ月間のウイグル族の反乱の危険なエスカレーションから、気を逸らす効果もあった。

(4) 既存の多国間枠組、特にASEANの限界を認識した一部の東南アジア諸国は、特定の問題について意見を共有する少数の国家が結束する少数国間主義 (minilateralism) を選択している。最近終了した世界経済フォーラム東アジア会議出席の際に、ベトナムとフィリピンの指導者は、特に南シナ海における紛争について戦略的協力を強化することに合意した。ベトナムは中国に対する複数の仲裁申し立てを行うことを検討中と伝えられており、フィリピンは広範な法的助言を提供している。両国はまた、双方の沿岸警備隊と海軍間の相互運用性の強化と情報交換を推進するために、両国の海洋戦力間のより一層の協力関係の強化を検討している。両国は、外交力を強化するため、ASEANやその他の多国間機構における発言や見解を定期的に調整することにしている。更に、両国は、中国の領有権主張がより強硬になってきたことを警戒するマレーシアとインドネシアとの間で、外交面での関与と戦略的協力が強化されるようになったことに勇気づけられている。フィリピンとインドネシアは最近、海洋境界画定協定に合意したが、これは、両国関係深化のシンボリックな成果であるとともに、海洋紛争の平和的解決に対する両国のコミットメントの表明でもある。

(5) 東南アジアの領有権主張国、特にフィリピンとベトナムの間の協力関係の深化は、太平洋地域における広範な同盟ネットワークの一環を形成する。ワシントンが域内の同盟国に対して、地域の安定のためにより多くの責任を果たすよう慫慂している中で、日本は、フィリピンとベトナムにとって益々重要なパートナーとして浮上してきた。日本の平和主義憲法にも拘らず、安倍政権は、武器輸出についての自主規制を緩和し、軍事予算を増額し、集団的自衛権行使を容認して、中国に対するカウンターウェイトとしての信頼性を高めることで、地域においてより大きな役割を果たそうとしている。インドも、モディ新首相の下で、日本を重要な戦略的パートナーとしつつ、地域の問題についてより積極的な役割を果たしていくと見られる。他方、オーストラリアは、国際水域における航行の自由の確保に重点を置きつつ、アメリカとの軍事的相互運用能力を着実に高めてきている。全般的に、中国の高圧的な領有権主張は、自国の安全保障及び経済的利益のために、中国によるシーレーンの支配を阻止し、国際水域における航行の自由を維持することを望む、有志国家間の柔軟な地域ネットワークの形成を促すことになりそうである。

記事参照:
China’s Self-Made Disaster in the South China Sea

6月8日「油田掘削リグ、HYSY 981を巡るベトナムの挑発と中国の立場-中国外交部」(Ministry of Foreign Affairs, The People’s Republic of China, June 8, 2014)

中国外交部は6月8日、“The Operation of the HYSY 981 Drilling Rig: Vietnam’s Provocation and China’s Position”と題する文書を外交部ウェブサイトに掲載した。

この文書は、「西沙諸島(英語名:Paracel Islands)は中国固有の領土であり、いかなる係争も存在しない。ベトナム側は武装船を含む多数の船舶を出動させ、中国の石油掘削リグ、HYSY 981の作業に対して不法で強力な妨害を行い、国内の反中デモを黙認した。中国は、ベトナム側の挑発的行動に対して高度の自制を保ってきた。中国は、ベトナム側に、両国関係と南シナ海の平和・安定という大局に立って、緊張を緩和し、静かな海を早急に取り戻すよう忠告する」と強調した上で、要旨次のように述べている。

1. 石油掘削リグ、HYSY 981の稼働状況

2014年5月2日に中国企業所属の石油掘削リグ、HYSY 981が、中国の西沙諸島の接続水域内で、石油・天然ガス資源探査のため掘削活動を行った。既に第1段階の作業は完了し、第2段階の作業も5月27日に開始されている。これらの作業海域は、中国の西沙諸島の中建島(英語名:Triton Island)と西沙諸島の領海基線から共に17カイリ、ベトナム本土沿岸からはおおよそ133カイリ~156カイリの距離にある。また、中国企業は過去10年間、地震探査、試掘調査を含め当該海域での探査活動を継続してきている。今回のHYSY 981の掘削作業は、通常の探査プロセスの延長線上にあり、完全に中国の主権と管轄権の範囲内の問題である。

2. ベトナム側の妨害

中国側の作業開始後、ベトナム側は直ちに武装船を含む多数の船舶を出動させ、中国側の作業に対して不法で強力な妨害を行い、現場で護衛・安全・防衛任務を遂行中の中国政府公船に衝突したうえ、潜水士など水中特殊工作員を当該海域に派遣し、漁網、浮遊物などの障害物を大量に設置した。6月7日午後5時までに現場のベトナム側船舶は最多で63隻に上り、中国側警戒区への侵入や中国公船への衝突は延べ1,416回に上る。ベトナム側のこうした行為は、中国側の主権、主権的権利及び管轄権に対する重大な侵害であり、HYSY 981の安全を深刻に脅かし、国連憲章や1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)、更には1988年の「海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」や「大陸棚に所在する固定プラットフォームの安全に対する不法な行為の防止に関する議定書」を含む、国際法の深刻な違反であり、当該海域の航行の自由と安全を破壊し、地域の平和と安定を損なった。

また、ベトナム側は、海上で中国側企業の正常な作業に対して不法で強力な妨害を行うのと同時に、国内の反中デモも黙認した。5月中旬、ベトナムの不法者数千人が中国を含む各国の企業に対して暴行・破壊・略奪・放火を行い、現地在留の中国国民4人を残酷に殺害し、300人余りを負傷させ、莫大な物的被害をももたらした。

3. 西沙諸島は中国の領土の一部

(1) 西沙諸島は中国固有の領土であり、いかなる係争も存在しない。西沙諸島は、中国が最初に発見し、開発し、利用し、そして支配してきた。中国は、既に北宋時代(960-1126)には同諸島への主権を確立し、周辺海域のパトロールのために海軍部隊を派遣している。1909年には、清朝のLi Zhun司令官が広東の海軍部隊を率いて西沙諸島の軍事調査を行い、その際に、永興島(英語名:Woody Island)に国旗を掲揚している。1911年には、中華民国政府が、海南島の管轄下に西沙諸島とその周辺海域を置くことを決定し公表している。第2 次世界大戦中、日本が西沙諸島に攻撃を加えて占領した。1945年の日本の降伏後は、一連の国際取極めに従って、中国政府は、1946年11月に西沙諸島の主権継承式典を挙行するために政府高官を乗せた軍艦を派遣し、また主権継承を記念する石碑を建立し、以後、部隊を駐留させてきた。かくして、西沙諸島の主権は、中国政府へと戻ったのである。1959年には、中国政府は、西沙諸島、東沙諸島及び南沙諸島を管轄する事務機構を設立し、1974年1月には、中国軍民が、西沙諸島の珊瑚島(英語名:Shanhu Island)と広金島(英語名:Ganquan Island)から南ベトナムの侵略部隊を追い出し、中国領土と主権を護った。更に、中国政府は、1992年に「中華人民共和国領海および接続水域法(領海法)」を施行した上で、1996年に西沙諸島の領海基線などを公表するなど、西沙諸島戦域に対する主権と領海の範囲を再確認した。2012年には、中国政府は、西沙諸島の永興島に三沙市を設立した。

(2) 1974年まで、ベトナムの歴代政権は、西沙諸島に対する中国の主権に何ら異議を唱えたことはなかった。ベトナムは古来より、西沙諸島が中国の領土の一部であることを公式に認識していた。この立場は、ベトナム政府の声明や外交文書においても、また、新聞・雑誌、地図あるいは教科書にも反映されていた。1956年に、当時の北ベトナム外務次官が、駐北ベトナム中国代理大使との会談で、「ベトナム側の記録によれば、西沙諸島と南沙諸島は、歴史的に中国の一部である」と言明した。また、会談に同席していた北ベトナム外務省アジア局長代理も、「ベトナム側の記録によれば、歴史的に見て、これら諸島は宋の時代には既に中国の一部であった」と指摘した。1954年9月4日に、中国政府は、自国の領海幅を12カイリとすることを宣言し、その中で「この規定は、西沙諸島…を含む、中華人民共和国の全ての領土に適用される」と明記された。そして9月6日には、ベトナム労働党中央委員会機関紙、NHAN DANは、中国の領海に関するこの宣言の全文を第1面に掲載している。1958年9月14日には、北ベトナムのファン・バン・ドン首相は、中国の周恩来総理に口上書を送達し、同書で「ベトナム民主共和国政府は、1958年9月4日に発出された中華人民共和国の領海に関する宣言を確認し、これを支持する」、「ベトナム民主共和国はこの決定を尊重する」と言明している。また、1965年5月9日には、ベトナム民主共和国政府は、米政府がベトナムにおける米軍の「戦闘区域」を指定したことに対する声明の中で、「ジョンソン米大統領は、ベトナム全域、ベトナム沿岸からほぼ100カイリの周辺海域、及び西沙諸島における中華人民共和国の領海の一部を、米軍の『戦闘区域』に指定した。」と述べている。

1975年5月にベトナム首相府調査・地理局によって出版された、The World Atlasでは、「西沙諸島」と中国名で記されている。更に、ベトナム教育出版社が1974年に発行した9年生用の地理の教科書には「中華人民共和国」と題する項目があり、そこでは、「南沙諸島及び西沙諸島から、海南島、台湾、澎湖諸島、舟山諸島へと弓型に連なる島々が、中国本土を護る万里の長城を構成している」との記述がある。

しかしながら、ベトナム政府は現在、これまでの自らの言明に背き、中国の西沙諸島に対して領有権を主張している。これは、国際法の原則、「禁反言 (estoppel)」と国際関係の基本的な規範に対する重大な違反である。

記事参照:
The Operation of the HYSY 981 Drilling Rig: Vietnam’s Provocation and China’s Position
備考:上記記事の末尾には、参考資料として、上記抄訳3項の(1)と(2)で言及した声明、文書等の当該資料のURLが掲載されている。

6月9日「パラセル諸島の主権を巡る40年抗争、主権はベトナムにあり―ベトナム人国際法学者の主張」(RSIS Commentaries, June 9, 2014)

ベトナムのThe International Law Faculty of the Diplomatic Academy of Vietnamの副学部長、Nguyen Thi Lan Anhは、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の 6月 9日付けRSIS Commentariesに、“The Paracels : Forty Years On”と題する論説を発表し、ベトナム人国際法学者としての視点から、ベトナムは1975年の南北ベトナム統一以来、間断なくパラセル諸島(中国名:西沙諸島)の主権を維持しており、今回の中国による石油掘削リグの設置は不当であり国際法にも違反していると指摘し、要旨以下のように述べている。

(1) パラセル諸島近くの南シナ海で対立が激化して1カ月が経つが、40年前の1974年1月には、同諸島近海は中国と南ベトナムとの戦場だった。中国は、南ベトナムから同諸島の支配権を奪取した際、南ベトナム戦闘艦1隻を撃沈し、4隻に損害を与え、53人のベトナム人を殺害し、16人を負傷させた。この戦闘の結果、中国は初めて、パラセル諸島の支配権を完全に奪取した。

(2) パラセル諸島に対するベトナムの主権主張は、それまでどの国にも属していなかったパラセル諸島とスプラトリー諸島(中国名:南沙諸島)を、少なくとも17世紀頃から、グエン王朝がこれら諸島を占拠したことに基づいている。西欧列強による植民地支配の拡大の流れの中で、パラセル諸島に対する主権は、当時のベトナムの宗主国であったフランスによって継続的に行使されてきた。その後、1954年のジュネーブ協定によって、同諸島の主権は、フランスから南ベトナムに移ったが、その後、1975年の南北ベトナムの統一によって誕生したベトナム社会主義共和国に継承された。ベトナムは、中国がパラセル諸島で推し進める活動に抗議することによって、パラセル諸島に対する自らの主権を主張してきた。

(3) ベトナムのパラセル諸島に対する主権主張は確固たる法的根拠に基づいているが、中国は、「議論の余地のない」主権を有していると主張している。中国は、同諸島に主権争いが存在することを認めず、ベトナムとの2国間協議も拒否している。また、中国は、この主権問題を国際的な司法の場に持ち込むことも拒否している。パラセル諸島を争いのホットスポットに変えた、中国による石油掘削リグ「海洋石油981 (HD-981) 」の設置先は、パラセル諸島に近いベトナムのEEZや大陸棚に深く食い込んだ場所である。一見すると、この石油掘削リグを巡る議論は、誰がパラセル諸島に対する主権を有しているかという問題に見えるかもしれないが、この問題を詳しく検証すると、これは国連海洋法条約 (UNCLOS)に関わる紛争であることが理解できる。

(4) HD-981が設置されているパラセル諸島のTriton Island(中国名:中建島)は、人間が居住または経済活動が行えない、砂とサンゴ礁で出来た1.6平方キロの環礁で、従って、1982年のUNCLOS の規定に従えば、12カイリの領海以上の広がりを持たない「岩礁」に過ぎない。例えパラセル諸島の一部の島嶼がEEZや大陸棚を有しているとしても、次の2つの理由から、中国の石油掘削リグの位置は「係争海域」にあるといえる。第1に、ベトナムと中国が共にパラセル諸島に対する主権を主張していることから、パラセル諸島に由来するEEZは係争海域であるということになるからである。第2に、中国の石油掘削リグが、パラセル諸島を基線として中国が主張するEEZ内にあり、同時にベトナム本土を基線とするベトナムのEEZと大陸棚にあることから、両国の主張が重複する海域にあるからである。従って、中国とベトナムがこの海域の海洋境界線の画定に合意するまでは、石油掘削リグの設置場所は係争海域なのである。海洋の境界線画定に関する慣習に従えば、パラセル諸島のTriton Islandやその他の島嶼は、境界線の画定に際して、それらが持つ効果の低減 (“reduced effect”) が考慮されるべきである。何故なら、これら小さな島嶼の海岸線の長さは、ベトナム本土の海岸線よりもはるかに短いからである。中国とベトナムは、過去の海洋境界線の画定に関する交渉では、この慣習に従った。トンキン湾の最北部の海洋境界画定に当たって、両国は、トンキン湾にあるベトナムのBach Long Vi島が2.33平方キロの面積と常住人口を有するのにも関わらず、この島の効果(抄訳者注:本来持つ領海、EEZ幅)を、わずか25%とすることに合意した。いずれにせよ、パラセル諸島周辺海域には合意によって画定された海洋境界線が存在しないため、この中国の石油掘削リグの位置がベトナムの海岸線よりもパラセル諸島に近いという議論は意味がない。中国の設置したリグは、中国が排他的な権利を行使できない「係争海域」に位置しているのである。

(5) ベトナムのEEZ内に所在する天然資源に対する中国の主張の根拠は、パラセル諸島由来のEEZに対する主張にあるのではない。中国は、南シナ海に引いた「9段線」内の全ての天然資源に対する権利や管轄権を主張しているのである。「9段線」地図は根拠となる公文書もなければ、国際法に基づく如何なる法的根拠もないが、中国は、この地図を、同線に囲まれた海域の全ての天然資源―例えそれらが他国のEEZ内であっても―に対する権利を主張するために使用している。石油や天然ガスが埋蔵されている可能性が高いベトナム沿岸沖の海域は、中国がUNCLOSに基づいて管轄権を主張できるとする海域よりも外側に位置している。であるが故に、中国は、その主張の根拠を「9段線」地図に置いているのである。そのため、中国は、UNCLOSを無視し、南シナ海の最大85%を囲い込む「9段線」地図に基づく主張を展開することに決めたのである。

(6) HD-981の設置場所が係争海域にあるということは、非常に重要である。UNCLOSの規定では、中越両国がこの係争海域の境界画定に合意するまでは、両国は、実際的な性質を有する暫定的な取極めを締結するために努力する法的義務がある。また、UNCLOSは、両国が、最終的な合意への到達を危うくしたり、妨げたりする一方的な行動をとることを禁じている。国際司法裁判所は、両国の主権主張が重複する海域において、当事国の一方が掘削などによる天然資源の開発に乗り出すことは、恒久的な現状変更になり、最終的な境界画定交渉を危うくし、あるいは妨げることになることから、不法であるとの判断を示している。「南シナ海における行動規範 (COC) 」を巡るASEANの議論の中で、中国は一貫して、1992年の「南シナ海 における関係諸国行動宣言 (DOC) 」の完全かつ効果的な履行を主張してきた。しかしながら、今回の中国の一方的な行動は、当事国が紛争を複雑化させたり、エスカレートさせたりすることを自制するという、DOCの規定に対する明確な違反である。国際法に違反した近隣諸国に対する暴力的な行為は、国際社会における責任ある大国の振る舞いではないということを、中国が速やかに自覚することを望んで止まない。

記事参照:
The Paracels: Forty Years On

6月10日「パナマ運河新閘門、2016年1月から運用可能に」(gCaptain, Reuters, June 11, 2014)

パナマ運河庁長官が6月10日に語ったところによれば、パナマ運河の新閘門が2016年1月から運用が可能になる。それによれば、現在工事は75~76%完了しているが、未だ幾つか重要な工事が残っている。運河拡張工事は当初、2014年末までに完了する予定であったが、建設コストの超過などで何度か延期されてきた。

記事参照:
Panama Canal Chief Says New Locks Working by January 2016

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子